篠原礼「大人のおつきあい」 (87)



モバマスお姉さんシリーズです。前回までのお話を読むと、より楽しめます。

前回

和久井留美「デイドリーム」




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—三年前・とあるクラブにて—



客「礼ちゃん今度デートしてよ!美味しいイタ飯屋見つけたんだ〜☆」デヘヘ

礼(24歳)「いいわね。今日いっぱい注文してくれたら考えちゃうかも〜♪」

客「よ〜し!それじゃ早速ボトル行ってみようか〜!」

ホステス「「「キャ〜ッ!! ステキ〜ッ!! 」」」

礼「は〜い、ボトル入りました〜♪」




ボーイ「かしこまりました。礼さんちょっと……」クイクイ

礼「ごめんなさい、ちょっと外すわね」スクッ

客「すぐに戻ってきてよ〜!」ヒラヒラ





—カウンター裏—



支配人「悪いね礼ちゃん、急に呼び出して」

礼「別にいいけど、何かあったの?」

支配人「5番テーブルには行った?」

礼「確か綺麗なお姉さんが一人で飲んでたわよね。まだ行ってないけど……」




支配人「ああ。そのお姉さんだが、どうやらここ最近都内の飲み屋を荒らしまわっている
    要注意人物らしい。さっき組合から連絡網が回って来たんだが、その人物の特徴
    とよく似ているんだよ」ヒソヒソ

礼「どれどれ。身長160後半、年齢20代半ばから後半くらい、ややウェーブがかかった
  黒のロングヘアで、スタイル抜群垂れ目がちの美人と。間違いなさそうね」チラ

支配人「今は静かだけど、先週ホストクラブでホストを全員酔い潰したらしい。おかげで
    その店は営業停止に追い込まれたとか」

礼「とんだウワバミね。それで私はどうすればいいの?」




支配人「触らぬ神になんとやらって言うけどこのまま放っておくわけにはいかないし、
    悪いけど礼ちゃんちょっと様子を見て来てくれないかな。並のホステスじゃ
    敵わないだろうから頼むよ」

礼「そんなに期待されても困るんだけど。もしかしたら捕まっちゃうかもしれないから、
  他のテーブルのフォローは頼んだわよ」スタスタ





礼(社交ダンスのダンサーになる夢を諦めて4年。東京で老舗クラブの人気ホステスと
  して自信がついてきた頃、私は一人の女性客に出会った。初めて会った時は確か、
  絡まれたらどうやって切り抜けようかしらとか考えていたと思うわ)

礼(でもまさか、その出会いがアイドルになるきっかけになるなんてね。20代半ばに
  差し掛かって、若い子に混じって歌ったり踊ったりするなんて思わなかったわ。
  昔はオジサンやオバサンに混じって踊っていたのにね)

礼(これはそんな私とそのお客さん—————トップアイドルになりそこねた高橋礼子と、
  彼女のプロデューサーの昔話。あ、今は礼子さんだけのプロデューサーじゃないわね。
  私のプロデューサーでもあり、そして大事なパートナーなんだから—————)





***



礼「いらっしゃいませ。楽しんでますか?」ニッコリ

礼子(28歳)「私は一人でやってるから平気よ。他のテーブルに行ってあげたら?」グビ

礼「まあそう言わずに。それにそろそろ話し相手が欲しくなってきた頃じゃないですか?」

礼子「へえ、なかなか良い目してるじゃない。先週大暴れして怒られたから、今日は
   大人しくするつもりだったんだけど。じゃあ付き合ってもらおうかしら」ニヤリ




礼「お手柔らかにお願いしますね。申し遅れました、ホステスの礼です。本日はご来店
  ありがとうございます」サッ→名刺

礼子「奇遇ね、私も礼ちゃんの字で礼子っていうのよ。今日はよろしくね」ニコ

礼「はい、これからもご贔屓にしてくださいね」ニコ



礼(要注意人物って聞いていたからどんな人かと思えば、意外と普通の人ね。でもこの人
  どこかで見た気がするんだけど、どこだったかしら……?)





———



礼子「24なの?私より4つも若いじゃない。てっきり同じくらいだと思ってたわ」

礼「昔社交ダンスをやってましたから、実年齢より上に見られるんですよ。礼子さんは
  お若いですね。とても28には見えませんよ」

礼子「お世辞でも嬉しいわ。私も職業柄美容に気を遣っているからね。もう一線から
   身を引いたんだけど、ずっと続けていたから習慣になってるのよ」グビ

礼(職業柄?女優かモデルっぽいけど、でもちょっと雰囲気が違うような……)




礼子「ふふ、礼ちゃんはなかなか賢いホステスさんね。ここで無遠慮に私の仕事を聞いて
   きたら、ボトル5本は飲ませてあげようと思ってたんだけど」ニヤリ

礼「お客様のプライバシーに関わる質問はこちらからしないのがルールですから。
  最近はホストもホステスも躾のなってないコが多いですけどね」ニコ

礼子「ホントそうよね。まあ別に聞かれて困る事でもないけど。礼ちゃんのお察しの通り、
   私は芸能人よ。今は休業してるから無職みたいなものだけどね」グビ

礼「そうでしたか。初めて会った時から礼子さんをどこかで見た気がしてたんですけど、
  雑誌かテレビだったのかもしれませんね。どうして気付かなかったのかしら」




礼子「無理もないわ。私が活動していたのは10年近く前よ。それに実質的な活動期間も
   3年くらいだったしね」グビ

礼(礼子さんには申し訳ないけど全く知らなかったわ。それに活動期間は短すぎるし、
  休業期間は長すぎる。何かワケありみたいね)

礼「まだお休みするのは早くないですか?礼子さんキレイだし、その美貌を披露しない
  のは勿体無いですよ」

礼子「嬉しい事言ってくれるじゃない。礼ちゃんの方こそホステスをしてるのが勿体無い
   と思うけど。ウチの事務所で良かったら紹介してあげるわよ?」




礼「魅力的なお誘いですけどご遠慮させてもらいます。それにホステスも楽しいですよ?
  礼子さんみたいな素敵なお客さんとお話も出来ますしね」ニコ

礼子「それは残念ね。気が変わったらいつでも言いなさい。私も業界長いから無駄に顔が
   広くなっちゃったし、最近じゃ『キング』なんて呼ばれてるのよ?女だったら普通
   クィーンだと思うけど、おかしくない?」グビ

礼(お似合いじゃない。礼子さん美人だけど威圧感があるし、女帝って感じよね)クス




礼子「今お似合いだと思ったでしょ?イエローカードよ礼ちゃん」ジロ

礼「ふふ、すみません。でも礼子さんもそのあだ名を気に入ってるんじゃないですか?
  全然嫌がっているようには見えませんよ」クスクス

礼子「弱く見られるよりはいいけどね。でも私はキングにはなれないのよ。今も、そして
   これからもずっとね……」フウ…



礼(礼子さん……?)








客「あ〜〜〜〜っ!! 高橋礼子だ!! なつかしいな〜〜〜〜っ!! 」ヒョコ



礼「え?」ギョッ

客「礼ちゃんが全然戻って来ないから迎えに来ちゃったよ〜〜〜〜!! そしたらあの
  『不屈のアイドル』高橋礼子がいるし、びっくりしちゃったよ〜〜〜〜〜!!」ヒック

礼子「……」ピキ



礼(アイドル?礼子さんってアイドルだったの?いえ、今はそんな事より礼子さんの
  テンションが一気にダウンしてるのが問題だわ。よく分からないけど、とりあえず
  この場を切り抜けないと……!! )




礼「ごめんなさ〜い、すぐにそっちのテーブルに行くから待っててもらえないかしら?
  ボーイさん、そちらのお客さんに肩貸してあげて」チラ

客「い〜じゃん、もう少ししゃべらせてよ〜!でも礼子ちゃんもツイてなかったね〜。
  あの伝説のアイドル『日高舞』とデビューが重ならなければね〜♪」ヒック

礼子「そうね……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



礼(日高舞?聞いたことのある名前ね……じゃなくて!礼子さんものすごく怒ってる!
  このままじゃお店が潰されちゃうわ……)アタフタ


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http://i.imgur.com/KvuzBRI.jpg
篠原礼(27)

http://i.imgur.com/25DAJmN.jpg
http://i.imgur.com/qKEeyJp.jpg
高橋礼子(31)




客「今なら日高舞も引退したし、礼子ちゃんの天下じゃないか!あ、それとも今日は
  この店の面接?礼子ちゃんがホステスになったら毎日通っちゃうよ!」デヘヘ



礼子「」ブチッ

礼「も、もう酔っぱらっちゃって!れ、礼子さんも落ち着いて!このお客さんいつも
  エッチな冗談ばかり言うんだから本気にしちゃダメですよ〜……」ア、アハハ…




礼子「残念だわ……このお店雰囲気良かったし、お酒も美味しかったのにね……」ユラリ…

礼「あ、ありがとうございます…… でもどうして過去形なの……?」ダラダラ

支配人「お客様、そろそろよろしいですか?どうぞ席にお戻りください」グイグイ

礼子「いいわよ。その人私のファンみたいだし、特別にホステスやってあげるわ。席に
   戻るなら私がそっちに行ってあげるわよ」スクッ




客「ホントっ!? やったっ!! 今日はガンガン飲んじゃうよ—————っ!! 」ウッヒョー!!



礼子「じゃあこの店にあるお酒全部飲んでもらおうかしら。ボトル一本残さず朝まで
   注いであげるわ」ギロリ



客「え……? や、やだなあ礼子ちゃん、そんなに飲んだら死んじゃうって……」ビクッ

礼子「大丈夫よ、私も一緒に飲んであげるから。それにアイドルの私にお酌してもらえる
   なんて幸せよ?本当に天国に昇っちゃうくらいに……」ニヤリ




客「じょ、冗談だよね……?」サアア…

礼「れ、礼子さん、冷静になりましょう……?」オロオロ

礼子「支払いはカードでいいかしら?とりあえずこの店で一番高いお酒を全部持って
   来てもらいましょうか」サッ→ブラックカード

客「ひ、ひいい……!! 」ガタガタ



礼(完全に目が据わってる…… これは私達ホステスやスタッフも道連れ決定ね……
  生きてここから出られるかしら……?)ゾク



礼子「さぁ楽しみましょうか。夜は長いわよ。私に酔わせてあげる……」ニヤリ





P「やめろっての。自分のファンを虐めるアイドルがどこにいるんだよ」チョップ



礼子「……なによ、今日はやけに早いじゃない」ギロ



礼(え、誰この人……?)




P「先週みたいな騒ぎを起こされたらたまらんから近くを探してたんだよ。今の注文は
  キャンセルでお願いします。支配人もまさか本気にしていないですよね?」ニコ

支配人「え、ええもちろん!いや〜、さすが芸能人の方は芝居がお上手ですね!ついつい
    圧倒されてしまいましたよ!」ハハハ…

礼「そ、そうですね!私も信じちゃいました!さすが礼子さん!」ア、アハハ…

P「すみません、こいつ酒癖悪くてよく絡むんですよ」アハハ




礼子「……興醒めしたわ。私はもう帰るから後は頼んだわよ」スタスタ

P「寄り道せずにまっすぐ帰れよ。明日のスケジュールは分かってるな?」

礼子「うるさい!! 」バタンッ!!





 シーン



P「すみません、ウチの礼子がご迷惑をおかけしまして。私彼女のプロデューサーのPと
  申します。ここは私が払いますので領収書切ってもらえますか?」サッ→名刺

礼「プロデューサー……さん?」キョトン

支配人「計算に時間がかかりますので少々お待ち頂いてよろしいですか?」

P「またアイツこんなに飲んで…… すみません、明日改めて伺いますのでツケといて
  もらっていいですか?あのまま帰すとまたどこかで暴れるかもしれませんから、
  家まで送ってきます」ペコリ






礼「構いませんよ。こちらこそ今日は礼子さんの気分を害するような事をしてしまって、
  本当に申し訳ありませんでした」ペコリ

P「いえいえ!謝らないで下さい。アイツが勝手に拗ねてるだけですから。それじゃ詳しい
  話はまた明日という事で。失礼します」ダッシュ!!








 バタン



支配人・礼・ボーイ「「「た、たすかったあ〜……」」」ヘナヘナヘナ…



礼「ごめんなさい勝手にツケにしちゃって」

支配人「いや、あの兄ちゃん誠実そうだし大丈夫だろ。それに店を潰されるリスクに
    比べれば、これくらいどうって事ないさ」フゥ

ボーイ「凄い迫力でしたね高橋礼子。思わずブルっちまいましたよ……」ホッ

礼「もう、だからフォロー頼むわよって言ったのに。そこのお客さん運んでくれない?
  せっかく常連になってくれたのにもう来てくれないかもしれないけど……」

客「」ブクブクブクブク…




支配人「でもプロデューサーってのはスゴイんだな。天下のアイドル様でも自分の面倒を
    みてくれるプロデューサーには敵わないんだなあ」シミジミ



礼「そうかしら?礼子さんの性格ならそんな事はないと思うけど。あの二人はアイドルと
  プロデューサーというよりはむしろ—————」





***



—翌日—



P「昨日はすみませんでした。これつまらないものですけど……」サッ→ハトサブレ

礼「お詫びなんていいのに。心配しなくても昨日の事は黙っててあげるわよ」ウィンク☆

P「本来なら本人がここに来て謝罪するのが礼儀ですが、生憎都合がつかなくて。礼子には
  事務所からよく言っておきますので。それでは俺はこれで……」ペコペコ




礼「ちょっと待って。せっかく来たんだし飲んでいかない?」

P「え?でも今日はそういう目的で来たわけでは……」

礼「カタい事言わないの。それに礼子さんのプロデューサーさんだったら面白いお話が
  聞けそうだわ♪」ニッコリ





———



礼「Pさんは礼子さんと付き合いが長いのかしら?昨日の二人のやりとりを見ていると、
  随分お互いの事をよく知っているように見えたけど」ジロ

P「アイツのプロデューサーになって6年ですからね。でも俺の言う事は全然聞かないし、
  困ったものです」ハハハ



礼「6年?12年の間違いじゃないの?高橋礼子ファンクラブ会員No.00001さん♪」ニヤリ



P「ど、どうしてそれを……!? 」ギクッ




礼「うふふ、アイドルに詳しい芸能記者のお客さんに教えてもらったのよ。高橋礼子には
  デビュー前からずっと支えている熱心なファンがいるって。世間には秘密だけど、
  そのファンは今彼女のプロデューサーをしているとか♪」ニヤニヤ

P「まさかそこまで知られていたとは…… 絶対に秘密でお願いしますね。もし世間に
  バレたら、俺もアイツもこの業界にいられなくなるんで……」ヒソヒソ

礼「もちろん。でもPさんは礼子さんのファンにしては醒めてるわね。プロデューサーに
  なって、アイドルじゃない現実の礼子さんに幻滅しちゃったのかしら?」




P「違いますよ。アイツの事ならアイドルになる前から知ってます。なんせ生まれた病院
  から育った団地から通っていた学校まで全部一緒ですからね。親同士も仲が良いし、
  あいつとは兄妹みたいなものですよ。それでファンクラブにも入らされたんです」

礼「す、凄く付き合いが長いのね…… 20年以上じゃない……」タラリ

P「子供の頃からずっと振り回されて、気が付けばアイツのプロデューサーになって
  いました。とは言っても俺が担当についた時は既に礼子はアイドルをやる気を
  なくしていたので、今は他のアイドルのプロデュースばかりしてますけど」グビ







礼「それは昨日礼子さんが怒った事と関係があるのかしら?確か『日高舞』の名前が出た
  時に、急に機嫌が悪くなったんだけど」



P「礼子の前ではその名前は禁句なんですよ。日高舞は礼子にとって倒すべき相手であり、
  そして永遠に倒すことが出来なくなってしまったアイドルですから—————」





***



P「礼子がアイドルを目指し始めたのは13歳の時でした。街でスカウトされたのが
  きっかけで、本人も絶対トップアイドルになってやるって意気込んでましたよ。
  素質があったのか、デビュー前のオーディションから注目されていました」

礼「礼子さん美人ですものね。歌もダンスも上手そう」

P「昔から負けず嫌いでしたからね。おまけに用意周到で勝つ為の努力は惜しまないから、
  俺もライバルのデータ収集やオーディション対策をよく手伝わされましたよ。思えば
  その頃から、俺はアイツのプロデュースをしていたのかもしれません」フゥ

礼「まるで夫婦みたいね。男と女が逆だけど」クスクス




P「そんなんじゃないですって。それから礼子は本格的にアイドル活動をする為に、地元の
  神奈川から東京の高校に進学しました。大手の芸能事務所に所属も決まって、後は
  高校生になってからのデビューを待つだけでした」

礼「でも日高舞の登場で、そうはならなかったのね」

P「はい。あの衝撃は今もはっきり覚えています。あれは中学3年の春休みでした。家で
  のんびりテレビの歌番組を観ていたら、突然現れた13歳の女の子がとんでもない歌を
  歌ったんです。俺はその場からしばらく動けませんでしたよ」

礼「私の地元は田舎だったから知らなかったけど、日高舞はそんなに凄かったの?」




P「デビューしてから引退するまでの3年間、圧倒的な力でトップを走り続けましたね。
  礼子も急遽デビューを早めたくらいですし。でも全く歯が立ちませんでした」

礼「名前だけなら今でもたまに聞くわね。引退して10年以上経つのに、日高舞の影響力は
  今でも続いているのね」

P「他のアイドルが日高舞との対決を避ける中、礼子は最後まで真っ向勝負を挑み続け
  ました。力の差がありすぎて対決という構図も描けませんでしたが。そして日高舞の
  突然の引退と同時に、礼子もアイドルとして燃え尽きてしまいました」


  

礼「だから礼子さん3年しか活動してないのね。もっと器用に立ち回る人だと思っていた
  けど、意外と熱血の体育会系なのかしら?」

P「馬鹿ではないんですけど、自分より強い相手には挑まないと気が済まないみたいです。
  どこの戦闘民族だってツッコミたくなりますよ」フフッ

礼「なんだか礼子さんらしいわね。それでPさんはどうしてこの業界に?」





P「俺は東京の大学に進学したんですけど、礼子の両親から様子を見に行ってやって
  くれないかって頼まれたんです。それで事務のバイトという形で、礼子の事務所で
  働き始めたのがきっかけですね」

礼「ふふ、やっぱり夫婦みたいね。Pさんも礼子さんの事が心配だったのね」クスクス

P「たまたま礼子の事務所と俺の大学が近かっただけですよ。でも俺が行った時には既に
  礼子は抜け殻になっていて、仕事もせずにふらふらと芸能人のパーティーに遊び歩く
  ようになっていました。レッスンだけは続けていましたけど」

礼「よく事務所も許してくれたわね。あら?でも名刺の事務所とその事務所の名前が違う
  わね。やっぱりダメだったの?」




P「俺が大学を卒業した時に、礼子は新設されたばかりのよその小さな事務所に移籍させ
  られたんです。当時の事務所がトップアイドルにしてやれなかった罪悪感からか、
  クビにはされませんでした」

礼「それでPさんも後を追いかけて、礼子さんのプロデューサーになったのね」

P「別に追いかけたわけじゃありませんでしたけどね。でも礼子を通じてアイドル業界に
  関わって、俺もこの仕事に興味を持っていたので自然な流れでプロデューサーに
  なりました。礼子の事務所になったのは……たまたまですよ」グビ



礼(そんなはずないでしょ。礼子さんの親も事務所も、みんなPさんに礼子さんを託した
  のよ。礼子さんがレッスンを続けているのもきっとPさんの為で……こんなに素敵な
  パートナーがいるなんて、礼子さんにちょっと嫉妬しちゃうわ)クス




P「この話をすると絶対に変な勘違いをされるから、普段はあまりしないんですけどね。
  礼子も顔を真っ赤にして怒るし、他言無用でお願いしますよ?」ジロ

礼「どうしようかしら?恥ずかし…いえ、怒ってる礼子さんも見てみたいわ♪」ニヤニヤ



P「勘弁して下さいよ。俺も油断したな。まさか『あの』篠原礼さんにこんな所で会える
  とは思ってなかったから、つい口が滑ってしまったのかもしれません……」ハア





礼「え?私Pさんに苗字まで教えたかしら……?」ピク



P「今度は俺のターンですね。あなたが思っているほどあなたの事を知っている人間は
  少なくないですよ。元社交ダンス日本代表選抜メンバーの篠原礼さん————」ギラリ



前編はここまで。Pと礼子さんの昔話が多いけど、あくまで主役は礼さんですから!
礼さんの活躍は後編で!続きは明日の夜に投下します。今回ちょっと長いので。
では。





***



礼「……さすが業界の人ね。気付かれるとは思わなかったわ」

P「気付いたのは礼子ですけどね。あいつが礼さんの事をどこかで見た事があると言った
  から、社交ダンス関連でちょっと調べたんですよ。まさか日本代表の方だったとは
  思いませんでしたが」

礼「ちょっと違うわね。正しくは選抜メンバー候補よ。日本は競技人口も多くないし、
  そんなに大した事は無いわよ」




P「ご謙遜を。海外のジュニア大会ではご活躍されていたそうじゃないですか。当時の
  メンバーの中でも有力候補だったし、礼さんが代表でも不思議ではなかったでしょう」

礼「随分調べたのね。過去を詮索するのは嫌われるわよ?」ジロ

P「これでおあいこですよ。ですが最後にひとつだけ。どうして礼さんは社交ダンスを
  辞めたのですか?礼さんなら一度くらい代表から漏れても、またチャンスはいくら
  でもあったでしょうに。ホステスをしているのは勿体無いと思いますよ」




礼「礼子さんにも同じ事を言われたわ。でもいいのよ、社交ダンスを辞めた事は後悔して
  ないから。今のホステスの自分にも満足しているしね」ニコ

P「そうですか。すみません失礼な事を聞いてしまって。職業柄か魅力的な女性を見ると
  どうしてもステージに立たせてみたいという衝動に駆られてしまいまして。礼さん
  みたいな素敵な人なら尚更ですね」

礼「ふふ、お上手なのね。でもPさんには私より先にステージに導いてあげないと
  いけない人がいるでしょう。昨日ウチに来た礼子さんは寂しそうだったわよ?」

P「アイツがですか?今朝も元気にケンカしましたよ。ここにも一緒に謝りに行くぞって
  言っておいたのにすっぽかしやがるし、明日もケンカになりそうです」ハア





礼「お互いの事を知りすぎているから上手く行かないのかしらね。礼子さんもPさんも、
  こんなに想い合ってるのに……」ブツブツ



P「……何やら不穏な言葉が聞こえた気がしますが、俺達はそんな関係じゃないですよ?
  もしそうならこんなに苦労してませんって」




礼「はいはい。P君はどうやら大人の女の扱い方がよく分かってないみたいね。お姉さんが
  まずはあなたをレッスンして大人にしてあげなくちゃいけないかもね♪」ニヤニヤ

P「お姉さんって。俺の方が年上なんですが……」

礼「男はいつまでたっても子供よ。大人の女の魅力、P君はちゃんとわかってる?さっき
  から私の胸ばかり見てるけど、それだけじゃないのよ?」ジロ

P「礼さんをプロデュースするとしたらどんな衣装を着せようかイメージをしていただけ
  です決してその93のGカップを触りたいという邪な気持ちを抱いていません」キリッ




礼「見ていたことは否定しないのね。しかもサイズ当たってるし。うふふ、でも正直な人
  お姉さん嫌いじゃないわよ。触ってみる……?」ジリジリ



P「れ、礼さん……? 近いです、近いですって……」アタフタ





 むにゅううううううううん……



礼「ねぇP君。このままずっと礼子さんと子供みたいにケンカばかりしているつもり?
  それより礼子さんと、もう一度トップアイドルを目指してみたいと思わない?」ムニュ

P「そ、それは思いますけど…… あ、当たってます!当たってますって!」モジモジ

礼「そんなにカタくならないで、もっと自分に素直になればいいのよ。そしたらきっと
  礼子さんもP君に心を開いてくれると思うわ……」ムギュウウウウ




P「も、もうガチガチというか素直になるとヤバいというか…… じゃなくて!具体的に
  どうすればいいんでしょうか?アイツ俺の言う事は全然聞かないし……」モジモジ



礼「うふふ、なぞなぞよ。P君は礼子さんにナニをすればいいでしょう?大人のオトコと
  オンナならヤる事は決まってるじゃない♪P君がテクに自信がないなら、お姉さんが
  練習相手になってあ・げ・る・♥」チュッ



P「—————」プチン





 ドガシャーン!! パリーン ガチャーン…



ボーイ「どうしましたか礼さん!? 」バタバタ

礼「ごめんなさ〜い♪酔い潰れて倒れちゃったわ。氷枕持って来てくれる?」オホホ♪



P「」プシュー……




ボーイ「またお客さんをからかったんでしょう?礼さんは冗談のつもりかもしれません
    けど、いつか本気にしたお客さんに襲われますよ?」ヤレヤレ



礼「今回は私の方が本気だったかも。P君がショートしてくれて助かったわ……」ボソッ



ボーイ「え?何か言いましたか?」

礼「なんでもないわ。それじゃ他のお客さんの相手をしてくるから、ここの後片付け
  よろしく。P君が起きたら教えてね♪」スタスタ





***



—それから二週間後—



支配人「いらっしゃいませ。お久しぶりでございますね高橋様。そのお召し物もよく
    似合っておりますよ」ニコニコ



礼子「……礼はいるかしら?」ムスッ



支配人「はい。すぐにお呼びしますからテーブルでお待ちください」ニコニコ





礼子「その笑顔気に入らないわね。あんたもグルなの?」ギロッ



支配人「はて?何の事でしょうか。詳しい話は彼女に聞いてください」ニコニコ





———



礼「こんばんは。あら、礼子さんそのドレスとっても素敵ね。パーティー帰りかしら?」

礼子「ええ、誰かさんのおかげで楽しいパーティーになったわ。あ・り・が・と!! 」ギロッ

礼「どういたしまして♪ 何か飲みます?」

礼子「結構よ。もう飲んできたし。今日はあんたに話があって来たの」ムスッ

礼「いいわよ。なんでも聞いて頂戴」ニコニコ





———



礼子「最近アイツの様子がおかしいのは気になっていたのよ。どこか疲れた感じで、
   たまにあんたの香水の匂いがする事もあったし。最初はあんたに骨抜きにされて
   ここに通い詰めてるのかと思ったけど、でもそんな様子でもないし」



礼「礼子さんからP君を奪おうなんて、そんな命知らずな事しないわよ。確かにここ毎晩、
  夜遅くまで私達は一緒にいたけどね」オホホ♪




礼子「勘違いしているみたいだから言っておくけど、あいつと私はただの仕事仲間で、
   それ以上でもそれ以下でもないわよ?たまたま幼馴染で、たまたま同じ事務所で、
   たまたまアイドルとプロデューサーをやってるだけだから」ギロ



礼「P君も同じ事を言ってたわ。ご馳走様♪」ニヤニヤ




礼子「……今日のあんたはえらく失礼ね。私としたことが、どうやらあんたを見誤って
   いたみたい。まさかこんな大それた事をするなんて思わなかったわ」フンッ

礼「それでP君はしっかりリードしてくれたかしら?大人の女の魅力と扱い方を、私が
  手とり足とり腰とりレッスンしてあげたけど、礼子さんは満足したの?」ニコニコ



礼子「どうしてくれるのよ。あんたのせいであいつと顔合わせ辛くなったじゃない。
   あいつも変になっちゃったし、本当に余計な事してくれたわね—————」ハア





***



—少し前・某都内パーティー会場にて—



 〜♪ 〜♪ ワイワイ ガヤガヤ



若社長「礼子さん、貴女は今夜もお美しい。一体どこまで僕の心を弄ぶんだ……」ウットリ

実業家「引っ込んでろ小僧。礼子、今日こそ返事を聞かせてくれるよね?」サッ→指輪

有名俳優「礼子ちゃん、パーティーなんて抜け出して俺と素敵な夜を過ごそうよ☆」キラン

礼子「はいはい今度ね。今夜はダンスパーティーでしょ?あんた達もナンパなんて
   してないで、私以外の女の子と踊ってきなさいよ」プイ



礼子(毎回毎回鬱陶しいわね。しかもコイツら恰好ばかりでダンスはド下手くそだし、
   エスコートどころかまともにリードも出来ないからイラつくのよね)フゥ





タキシードP「じゃあお前は俺と一緒に踊ってもらおうかっ!! 」ババーン!!



礼子「………………は?なんであんたがここにいるの?」キョトン





白馬の王子様P「聞こえなかったのか礼子。さぁ行くぞ、もうすぐ曲が始まる」グイ



若社長「ちょ、ちょっと待てよ!誰だお前!」グワッ

実業家「社交界では見ない顔だな。どこから忍び込んだ貧乏人?」ジロ

有名俳優「礼子ちゃんはお前が気安く触れていいような女じゃないんだぞ!」プンプン





姫の護衛騎士P「俺は礼子のプロデューサーだ。お前らこそ俺の礼子にコナをかけるとは
        どういうつもりだオイ。確かに俺は貧乏人だが、命を懸けても礼子を
        守るくらいの覚悟は出来てるぞ」ギロッ!!



若社長・実業家・有名俳優「「「ぐぬぬ…………」」」ギリギリ





黙って俺について来いP「行くか礼子。今夜は俺が特別にレッスンつけてやるよ」キラン☆



礼子「え、ええ…………」ポカーン





———



礼子「あんたダンスなんて出来るの?初耳だけど……?」スッ…

P「ワルツだけマスターした。ん?どうしたそんなに離れて。それじゃ踊れないぞ。
  もっとしっかりくっつけよ」グイッ

礼子「ひゃあっ!? 」ダキッ






P「ワルツは初めてか?てっきりパーティーで踊り慣れてると思っていたが」キョトン

礼子「お、踊れるわよっ!! 踊れるけど……っ!! 」ギュウウ…

P「なら問題ないな。じゃあ俺のリードにしっかり合わせろよ!」ニッコリ



礼子(おかしい、絶対おかしいわ。頭でも打ったのかしらコイツ……?)ドキドキ






———



 〜♪ 〜♪



 <オイ、スゴイナアノペア… <アレレイコサンジャナイカ? <アイテノオトコハダレダ? <バクハツシロ…



礼子(正直不安しかなかったけど、めちゃくちゃ上手いじゃないコイツ。私の間合いも
   呼吸も完璧に把握していて、リードも絶妙で私のダンスが映えるように計算して
   動いてるし。なんだかいつもより注目されているわ……)カアア




P「なあ礼子」

礼子「な、何かしら……?」ビクッ

P「お前意外と小さかったんだな。昔は俺より背が高かったのに、今はすっぽり俺の
  腕の中に収まるから驚いたよ」

礼子「いつの話をしているのよ。あんたこそ、いつの間に私より大きくなったのよ?
   もう昔みたいに投げ飛ばしたりは出来ないわね」フフッ




P「それに綺麗になった。パーティーに出てるお前を見るのは初めてだが、息をするのも
  忘れて見蕩れてしまったよ。変な話だよな、事務所で毎日顔を合わせているのに」

礼子「なっ!? なに歯の浮くような事言ってるのよ!! あんた熱でもあるの!? 」カアア



礼子(私もタキシード姿のあんたを見て、ちょっといいかもって思っちゃったけど……)




P「お前もいつの間にか大人の女になっていたんだな。ずっと兄妹みたいに見ていて、
  その関係を引きずりながら俺はお前のプロデュースをしていたが、よく考えれば
  失礼で軽率だったのかもしれん。今まですまなかったな」

礼子「それはお互い様よ。私だって……」ボソッ



礼子(Pが私を異性として見ていない事は昔から分かっていた。私がトップアイドルに
   なればその見方は変わるかもしれないと思っていたけど、それは叶わなかった。
   結局私とコイツは昔のまま。それでも私の近くにいてくれれば良かった)




P「俺はこれからプロデューサーとして、アイドルのお前への接し方も考えようと思う。
  今日みたいにお前のプライベートに干渉する事も今後は控えるつもりだ。お前も
  とっくに一人前の社会人だし、俺がいちいち口を出すのもおかしいよな」

礼子「そうね……それが普通よね……」



礼子(何をがっかりしてるのよ私は。そんなの当たり前の事じゃない。コイツは他にも
   沢山の子のプロデュースもしているし、いつまでも活動を再開する気が無い私を
   ずっと構ってばかりいられないわよね……)シュン





P「だから改めて言います。高橋礼子さん、俺と一緒にトップアイドルを目指しましょう。
  俺があなたを必ずトップへ導きますよ!」ニコッ



礼子「…………へ?」キョトン




P「いや、今思い返せば俺はお前だけちゃんとスカウトしてないし、プロデュースも承諾
  してもらってないんだよな。昔からの付き合いで今までなあなあでやっていたが、
  やっぱりこういう事はきちんと言わないといけないと思ってな」ポリポリ

礼子「ほ、本当に私でいいの……?私はトップアイドルになれなかったのよ?それにもう
   10年もステージから遠ざかっているし……」

P「お前が日高舞と対決していた3年間は知らん。俺はその時お前のプロデューサーじゃ
  なかったしな。あの時のお前のプロデューサーより俺の方が優秀だとは言わないが、
  しかし俺はお前の事なら世界中の誰よりもよく知ってるつもりだぞ」





礼子「確かにあんたとは付き合いが長いけど……」



P「だろ?今日だってぶっつけ本番でここまで完璧に踊れたんだ。この業界で俺達より
  息が合ってるコンビはいないさ。それにお前だってずっとレッスンは続けていたし、
  今だってこの会場で一番綺麗だ。何も問題ないさ!」ガシッ





礼子「一人で勝手に盛り上がらないでよ。でもあんたをこの世界に引き込んだのは私だし、
   あんたの気が済むまで付き合ってあげるわ。私は簡単なアイドルじゃないから、
   気合を入れてプロデュースしなさいよ?」ニヤリ



P「知ってるよ。俺もお前をトップアイドルにするまでビシバシプロデュースするから、
  途中で逃げるなよ?もう絶対に離さないからな—————」ギュッ





***



礼「ご馳走様でした。それでP君はどうしたの?」

礼子「踊り終わった後で自分が噴飯もののセリフを言った事に気付いたみたいで、顔を
   真っ赤にして何か叫びながら飛び出して行ったわよ。あいつは昔からそういう事に
   鈍いんだから。離さないって言ったそばからまったく……」ハア

礼「そのあたりもしっかり教えたはずなんだけどね。やっぱり文字通り私が一肌脱いで、
  ベッドの上で教えてあげた方が良かったかしら♪」プルン←93-Gカップ

礼子「それはこんなクラブじゃなくて別の店のサービスよ。もし明日アイツが事務所に
   来なかったらアンタのせいだからね?」イラッ←91-Eカップ




礼「ふふ、冗談よ。でもあんなに礼子さんの事を気にかけてくれる人そういないわよ?
  だからもっと大事にしてあげなさいな。それじゃ私は仕事があるから」スクッ



礼子「待ちなさい。話は終わってないわよ」



礼「あら?まだ何か?」ピタ





礼子「結局あんたは何がしたかったのよ。私にもう一度アイドルをさせたかったの?
   それともアイツを助けたかったの?」



礼「どうかしらね。ただ何となく、すれ違っているペアを見たくなかったのよ。私は
  長年組んでいたパートナーとペアを解消したのがきっかけでダンスを辞めたから。
  やっぱりペア同士は仲良しなのが理想じゃない?」クスクス

礼子「納得出来ない回答ね。本音はどうなの?」ギロ




礼「さすが礼子さん。本当は仕事もプライベートも礼子さんに縛られているP君を解放
  してあげたかったの。礼子さんには仕事仲間になってもらって、プライベートでは
  私のパートナーになってもらう計画よ♪」ニヤリ



礼子「あんたもPに惚れたの?全く、『あの女』といいあんたといい、どうしてあんな
   冴えない男を選ぶのかしら。あんたのレベルなら、もっと稼ぎも将来性もある男を
   つかまえる事だって出来るでしょうに……」ハァ…




礼「それは礼子さんが一番よく知ってるでしょ?いいじゃない、好きな男がモテモテ
  だなんて。自分だけしか相手にしないような男じゃつまらないでしょ?」クスクス



礼子「……アイツは私のものよ。手を出したら承知しないからね?」ギロリ



礼「ええ、あなたの『プロデューサー』ね。でも『P君』は私にメロメロよ?ダンスの
  レッスン中も、ずっと私の谷間に釘付けだったしね」オホホ♪


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