朋也「ワグナリアって……」(815)

【諸注意】


・CLANNAD×WORKING!

・ちょっと亀更新

・ルート形式か、一本のみかは未定

・原作に基本従ってキャラ設定したい(←重要なので変なところや矛盾点は指摘お願いします;)

・朋也は光坂高校に通っているが、近くにあった『あの』ファミレスがワグナリアという設定です。

・ゆっくりしていってね!









                  「この、仕事は好きですか?」










朋也「……それじゃ、行ってきます」


「……」


誰の返答も無い挨拶をして、自分でも古めかしいと思える家を出る。
誰もいないわけじゃない。ただ、絆や信頼なんて無いそこには、温かみのある言葉なんてものは存在しない。



何でわざわざ学校へ向かうのか。
行ったところで何の目的もないのに。
好きな時にサボり、好きな時に寝て、好きな時にどこかへ行く。


友達なんていらないし、高校に入ってから欲しいと思ったこともない。
学校に入ってから同じクラスの人間と話した数なんて、ほとんど数えられる程度。


俺は、つまらない人間だ。それは認める。
ただ、面白い人間になるなんて気慨もない。


朋也「……」


普通は通学路として、特別な情を抱いてもいいはずの通学路。
いつもいつも歩いているこの駅前の道も、


高校の住み込み寮へと通じているこの分かれ道も


学校の校門へと続く、邪魔ったるい坂道にも


俺は何の思いも抱いてはいなかった。




―――――――――――――――

春原「おっはよーう!岡崎ィ!」


教室に入った瞬間、騒々しい声が耳に入る。
煩わしいが無視しても面倒なことになりそうなので一応聞いておいてやる。


朋也「今日は何でそんな上機嫌なんだよ……」


春原「何?聞きたい?聞きたい?」


朋也「じゃあいいや」


春原「そこは聞くところでしょっ!?」


どっちなんだよ……。
俺は正直な気持ちを答えたのだが。


朋也「……はいはい、でどうしたんだ?」


春原「はっはっは……。なんとね?今日は!!朝のラジオで、『ボンバヘッ!!』がピックアップされたのさ!!」


朋也「……で?」


春原「『で?』じゃなくてさっ!!ようやく周囲の流行が僕に追いついて来たってことが、証明されたのさっ!!
誰も『ボンバヘッ!!』の良さに気付かないこの世の中に僕はほとほと呆れかけていた所だったのさ」


朋也「そいつは良かったな」


昨日、コイツの家に行った時にラジオのチャンネルを『誰が聴くのか駄曲特集』チャンネルにしておいたことを教えたらどんな顔をするのだろう。
俺はそんなことを考えながら席につき腕の中に頭を埋める。


春原「なんだなんだ?岡崎!僕と一緒に悦びの『ボンバヘッ!!』祭りをしていかないのかよ?」


朋也「んなこと俺が何でやらないといけないんだよ……」


春原「ま、いいや!とりあえず委員長にでも自慢……じゃなくて、『ボンバヘッ!!』の宣伝をしてこないとねっ!」


朋也「…………」


「ブームに乗り遅れちゃったら可哀想だからね~」という、今日この学校で最も可哀想な頭をしているバカの発言を最後に、
俺は意識を閉じた。



――――――――――――――――――

朋也「……」


目を覚ますと、既に昼時だった。


朋也「……~っ」


ちょっと寝過ぎたか。身体のそこかしこが凝り固まって、伸びをしたら鈍い音が耳に響いた。


朋也「……」


隣の席を見る。
いるはずのバカがいない。……恐らく、今日は自主早退でもしたのだろう。


朋也「……少し、腹減ったな……」


流石に小腹が空いてしまったので、購買に何かあまりものでも探りに行くことにする。





【購買】


「毎度あり~!」


適当なサンドイッチと目に入ったイチゴ牛乳を買って購買を出る。
相変わらず昼を用意していない学生たちでごった返しているこの場所は、
ある意味俺のようなやつは全く無縁でありたい場所とも言える。


朋也「(さて、と……。どこで食べるかな)」




少し買うのに手間取ってしまったために、昼休みも残り10分を切っていた。
時間を守らなければいけないなんて制約もない。
俺は中庭でゆっくりと食べることにした。
まぁ、そんなものがあったとしても守らないが。




「……と~も~や~!!!!!」


廊下を歩いて向かっていると、背後から気圧してくるような声。


朋也「……何か?」


杏「『何か?』じゃない!!アンタ!!あのバカ春原といっつも一緒にいるわよね!?
……どこにいるか知らない!?」


朋也「知らないけど」


杏「……隠しても、碌なことにならないわよ……?」


朋也「何で俺が春原を匿うんだよ……」


杏「……そっか、確かに」


藤林杏(ふじばやし きょう)。
俺とは別のクラスの人間だが、学級委員もやっている。
何かと俺や春原に絡んでくる、この学校では珍しい人種だ。


杏「それはそうと、どこへ行くつもりよ。もうすぐ授業も始まるわよ?」


朋也「……俺はパス」


杏「パスって……。そんなしりとりじゃないんだから……」


杏「まっ、サボるなら退学にならない程度にしなさいよ?……後、あの金髪見つけたら私に報告するように!」


騒がしい風が過ぎ去っていくように、杏は元来た道を戻って行った。
アイツが春原を探す理由なんて、大体見当がつくものだが。


朋也「……」


誰もいない廊下を、一人で歩く。途中、誰かとすれ違っても。
俺には決して目をあわせない。話も、しない。



―――――――――

【放課後】


朋也「……ん」


再び眠りから覚めたら、既に時は夕刻を回っていた。

昼飯を食べた後、結局中途半端な時間になってしまったので5限をサボり、
6限は気分で出た。
結果からして、また寝てしまったのだが。


椋「あっ、え、っと、その……」


朋也「……?」


どもった声が聞こえたので振り向くと、うちのクラス委員長が傍らに立っていた。


朋也「どうかしたのか?」


椋「うぅっ!……ど、どうかしたってわけじゃないんだけど!……えと、そのぉ……」


朋也「……」


名前は藤林 椋(ふじばやし りょう)。
気づくかもしれないが、先の女子生徒の妹。
性格は全く正反対のもので、大人しい。
確か、クラスでもそこまで目立つ方では無く、隅の方で大人しく過ごすタイプだ。


椋「こ、これ……」


朋也「……あ、プリントか」


なんて律義なのか。
ホームルームで配られるプリントなんて、どうせ俺は誰にも見せず自分でも見ずに捨てるものであるのに。
……まぁそれは俺の都合だが、それでも寝ている奴の為にわざわざ立ち呆けまでして渡すなんて。


朋也「……サンキュ。でも、お前暇なんだな」


椋「そ、そういうわけじゃ……!それじゃ、それだけ、だから――!」


思い切り慌てながら、クラスを出て行ったしまった。
何がしたかったのか、俺にはまったく理解ができなかった。


―――――――――――――――――

~朝~



【ワグナリア】


杏子「やっぱり八千代の作るパフェは美味いぞ」ナデナデ


八千代「いやん♪八千代さんの為ならいつでも私作っちゃいますよ~!」


小鳥遊「こらそこっ!こんだけ忙しい時に仕事もせずに何やってるんですか!!」ビシッ


杏子「ん?だって私仕事できないし」


小鳥遊「そろそろ店長という自覚もちゃんと持って下さい!」


杏子「……」


杏子「……店長だぞーっ!偉いぞーっ!……見たいな感じか?」


小鳥遊「……(話が通じないよこの人っ!)」


ぽぷら「か、かたなしく~ん!14番さんお願い~!」


小鳥遊「……はい!今行きます!」タタッ


八千代「小鳥遊くんもあそこまで怒らなくてもいいのに……。
だって、杏子さんはいるだけで……」ポッ


佐藤「伊波!これ10番机に」


まひる「ひぃっ!」ブルブル


佐藤「……チッ。轟、これ頼む」


八千代「は~い♪ただいま~」


八千代「それでは杏子さん?いってきますね!」


杏子「ん、頑張って来い」フリフリ


まひる「うぅぅ……」ブルブル


佐藤「…………伊波、お前」


佐藤「小鳥遊のおかげでちょっとずつ慣れてきたんじゃないのか……」ハァ


まひる「だ、だってまだ……近づいたらなぐ――」






相馬「……ん?」バッタリ


まひる「……!」


相馬「……ありゃ?(――これ、ヤバ――)」


まひる「……い、いやあああああああああ!」バキィ


相馬「へぶぅ!?」ドサッ


まひる「ご、ごめんなさ~い!!」ズザザッ


小鳥遊「ほら!伊波さん、遊んでないで食器引いてください!」


まひる「あ、遊んでなんて無いんだから!!わかったわよ!」ダッ


相馬「……最近、殴られて、無かったのに……」ピクピク


佐藤「……はぁ」ボリボリ







杏子「……」ポリポリ


杏子「(……ふぅむ)」



―――――――――――――

~閉店時~


ぽぷら「今日もたっくさんお客様が来たね~……。私ちょっと疲れちゃったよ」ハァ


まひる「たしかに、最近混んで来たような気がするね……(男性のお客様も多くなってきたんだよ……)」


小鳥遊「ちょっと、このメンツのみじゃキツくなってきたかもしれませんね……」


八千代「そうねぇ……。確かに、ここの地域って最近、かなり発展してきてるみたいだからね……。
たしか、病院の裏の丘みたいなところも住宅地になるのよね?」


山田「…山田、街の雰囲気が変わってしまうのは少し寂しいです」


相馬「それは確かに言えてるねー。とは言っても山田さんは来たばっかりだよね?」


山田「……細かいことばっかり言ってても成長しませんよお兄さん」


佐藤「……まぁ、総じて言うと、人員の補充は必須というわけだな」


八千代「で、でもそれを決めるのは……」チラッ


杏子「……ん?」


小鳥遊「(一番考えてなさそうな人だ……)」ズーン


ぽぷら「か、かたなしくん!?どうしたの?どうしてそんながっかりしてるの!?」


佐藤「……はぁ」


相馬「(ありゃりゃ……。これは人員のことは考えてなさそうだねぇ……)」


杏子「……するか」


小鳥遊・相馬「…………え?」


杏子「……そろそろ、新しいバイト、加えるか」


小鳥遊・相馬「……!!」


まひる「ほ、本当ですか?!」


ぽぷら「それは、すっごく助かるよ!」キラキラ


佐藤「……まじかよ」


八千代「あらあら佐藤くん?これで杏子さんが仕事の現場のことも考えてるってわかったでしょ?」


佐藤「……」


小鳥遊「で、でもどうして急に……」


杏子「……?」


八千代「だから小鳥遊くん、杏子さんはね、本当は――」











杏子「いや、単純にこのメンバーの顔だけ見てるのに飽きてきたから」





一同「……」ピシッ


――――――――――――――――――――

【帰路】


ぽぷら「……はぁ……」


ぽぷら「飽きちゃったとか、ちょっとひどいなぁ杏子さんも」


ぽぷら「で、でも!新しい人が来るのって、ワクワクするなぁ」


ぽぷら「小鳥遊くんや葵ちゃんみたいな良い子たちが来てくれると良いなぁ」




「――!!」



ぽぷら「……?」


ぽぷら「向こう側から、声?」



「――!――ッ!!」


ぽぷら「……」チラッ


ぽぷら「……時間は、だいじょぶ」


ぽぷら「…………行ってみよっ!」タタッ



――――――――――――――――

【公園】


いくら辺鄙な街とは言え、夜にうろつくのは良くない。


「っおらぁ!」


目の前で握り拳を作って俺に向かってくる男を見ていると、素直にそう思う。


朋也「……っふ」バキッ


「……っがぁ!……てめぇええ!!」


春原の寮室で漫画を読んだ後のことだった。
いつもなら誰もいないはずの公園に、子供がいた。

あんまり関わりたくないような面した、オマケ付きで。



「し……っねぇ!!」ドガッ


朋也「……っぎ」


ガードしたものの、受けた二の腕がビリビリと軋む。
こんな奴とは知り合いでもなんでも無いのだが、見た目通り相当喧嘩慣れしているようだ。


朋也「……くそ」


俺だって喧嘩は初めてってわけではないが、かといって慣れているわけでも一際強いわけでもない。
できるだけ、長期戦を避けたかった。




「だ、大丈夫ですか?」


動揺を隠しきれないといった顔をしながら、俺の身を按じてくる。


朋也「大丈夫に、見えたら……それはお前の目は相当節穴ってことだ」ダッ


「うぅ……」


「……よそ見すんじゃねぇ!」バキッ


朋也「っがぁ!」ズザー


相手の右フックが思い切り鳩尾に入る。
過呼吸になってしまったのかと思うレベルに、肺が酸素を欲しがったヒクヒクと疼くのがわかる。


「大体、お前なんでソイツ庇うんだよ?何だ?妹か?」


朋也「……っふ、ふぅ」


朋也「……何でも無い、ただの赤の他人だよ」


「はぁ?それならすっこんでろ!!ソイツは俺のラジカセぶっ壊しやがったんだよ!!」


「うぅ……ごめんなさい!だって、あんな暗い中、地面に置いてあって、見えなくて……」


朋也「……だってさ。故意じゃないから許してやれよ」


「……」ブチ


「……許せるわけ、ねぇだろぉが!!」ドッ


朋也「……ぐっ……!」


「きゃ……!」


これは、誰が見ても劣勢だ。
かたや運動も大してしていない学生で、
かたや夜な夜な徘徊して喧嘩慣れした人間。


朋也「(何でわざわざわってはいっちまったんだか……)」


後悔の念は絶えない。

「うらぁ!!」


朋也「っう!」


また腹に一発頂いてしまった。
ちょっとこれはすぐに立てそうにない、一撃。


「あっ!!」


傍で子供が叫んだ。


朋也「っがはぁっ!!」


その瞬間、顔に鈍い痛みが走る。
痛みの余波を感じる間もなく、相手はマウントを取って俺の顔を右へ左へ。
容赦ないな、こりゃ……。


「っらぁ!!お前は!!カッコつけて!!!それでも!!死んで、ろ!!」バキ バキッ


朋也「ぐ、が、がぁ!」


「や、やめてください!!私が、私がちゃんと弁償しますから!!」


……おいおい。ここでそんなこと言われちゃ、俺が何のためにこんなになってんのか、わかんないだろ……。
っていうか、子供に、払う金なんて……。


「はぁ!?お前は後だよ!!今はこのヒーロ―気取りに、痛い目、会わせねぇ、ときがすまねぇ!!」ドガッ


朋也「――っ!!」ガッ


「!?」


相手が油断した隙に後頭部を蹴りあげる。
マウントは離脱するが、それでも


「……まだ殴られたりないかぁ!!!」


――まだまだ、俺の劣勢は変わらない。



――――――――――――――――――

――ズン♪ズン♪






ぽぷら「……わぁ」


「ひゃはは!!アイツらまだか!この新型ラジオで早く騒ぎてぇのによぉ!」


ぽぷら「……こんな夜に、公園で音楽聴いてる……」


ぽぷら「……変な人だなぁ」


「まだまだ音が小せぇなぁ?」


ぽぷら「!!」


ぽぷら「(ま、また音量を上げたよ……?近所の人、迷惑じゃないかな?)」


「ひゃっはぁ!!」


ぽぷら「(でも、あの人、全然気にしてないよ……)」


ぽぷら「(……だ、誰か、いないのかな?)


ぽぷら「……」フリフリ


ぽぷら「わ、私が。私が注意しにいかないと!」タッタッタ


「~♪」


ぽぷら「……近所迷惑だし、きっと、言えばわかって、くれるよね?」スタスタ


バキッ


ザザザ……ザザ……ザ……ザザザザー……


ぽぷら「……え?」


ぽぷら「…………あ(ラジオ、踏んじゃった……)」

「あぁ"!?」


ぽぷら「……っ!」ビクッ


「何だ!?誰だテメェ!!ガキィ!!」


ぽぷら「え、えと、ご、ごめんなさい!!」


「謝るだけで済むわけねぇだろ!!……あぁああああ!!壊れてやがる!!」


「買ったばかりなんだぞ!?テメェどうすんだよ!?」


ぽぷら「え、ええと……」ビクビク


「黙ってんじゃねぇぞごらあ!!!!!」


ぽぷら「……う、うぁ」


「……」ブチッ


「……とりあえず、一発ぶん殴ってから、決めてやるよ!!!」ブン


ぽぷら「……!!(や、やだよ!だ、誰か、助け――)」







「……っと!!」バキッ


「っがぁ!!……てぇなぁ!!!誰だオラ!!」






ぽぷら「……」


ぽぷら「……へ?」


ぽぷら「(…………誰……?)」


―――――――――――――――

朋也「……はぁっ、はっ」


「なんだぁ?ひょろいなテメェはぁ!もう息あがってんのかぁ!?」


当たり前だ。
こっちは走ることすら珍しいような生活を送っているのに。


「そんなんじゃ、すぐにのしちまうぞ……オラァッ!」


朋也「……っ!」サッ


ぽぷら「……え、あ、あの、私が弁償すれば済むなら、それで、大丈夫ですから、えと……」


朋也「……。ここまで来たら、俺だってプライドもあるんでね」


ぽぷら「で、でも殴ったりしたらダメだよ!」


朋也「……相手がやってくるんだから仕方ないだろ」


「っら!」


朋也「――っと!」ガバッ


ぽぷら「きゃっ!」


朋也「…………。とりあえず、お前は帰れ。俺が何とかしとくから」


ぽぷら「そ、そんなこと言っても!!」


「ほらほらぁ!!お前がこねぇならこっちからいくぞゴラァ!!」ダダッ


朋也「……じゃあな」ダッ


ぽぷら「……っ(わ、私が悪いのに……そんなの……)」


「……おら!おらあ!」バキィ


朋也「……!」


ぽぷら「……」ビクッ


ぽぷら「(こ、怖い……!怖い……!)」タタッ


朋也「……」チラッ


朋也「(……ようやく行ったか……)」


公園の出口に向かった走る後姿をみて、少し安心する。


朋也「(それにしても変な子供だったな……)」


「!!こらガキィ!!勝手に行くんじゃ――!!」


朋也「――よっと」バキッ


「――!?」グラッ


朋也「いつまでも殴られてばかりじゃあ癪に障るんでね」


「……いいぜぇ……。……やっぱりあのガキより、お前を殺す!!!」



―――――――――――――

「……っが、……ふ……」バタッ


朋也「はぁ、はぁ、はっ……」


ようやく相手が倒れる。
……俺の脚も、既に震えが止まらないわけだが。


朋也「……はぁ」ドサッ


不思議と、すっきりとした気持ちだった。
清々しいというか。
日頃の鬱憤をため込んでた分、それを発散したってことなのだろうか。


朋也「(……でも)」


朋也「(……虚しいな、これ)」


意識を失って倒れている人間を見ながら、そう思った。

することもなく、こんな気まぐれで喧嘩をして。


俺に何か得るものがあるのか。


得るのは後まで引きずる怪我、疲労感、報酬はほんのちょっとの達成感。


……それだけだ。

朋也「……」


朋也「(あの子供、無事に帰れたのか……?)」


少し子供のことが気がかりだったが、特に追いかけるなどする気もおきない。
そもそもアイツと関わりたくて来たわけでもなし。
……ただ、俺は目の前に手ごろな喧嘩相手がいたから、ってだけで引き寄せられただけなのかもしれない。


朋也「……」


朋也「(……帰る、か)」スクッ


いつまでも座っていたら俺が職務質問されかねない。
時間も『丁度頃会い』だ。








「――うぉら!!!!!!」



そう思った時。
俺の後頭部は思い切り震えた。


朋也「――ッ!!!」


何が起きたのかはわからない。
ただぐるんぐるんと世界が回っている。
自分の脈拍が極度に高まっているのを感じる。額から滴ってくるようなこそばゆいこの感覚は、
後頭部から血が流れているということなのか。


「……が、……な……のかあ?」


朋也「……」


もう目の前に現れた男たちが何を自分に投げかけているのかも判断できない。
今まで見ていた夜の視界よりも、もっと暗い闇の中に引きずり込まれていく感覚を噛みしめながら、
俺は意識を失った。



―――――――――――――――

>>10,

行った×
行って○です。
椋の行動描写の部分です。


>>11
八千代さん×
杏子さん○です。


誤字脱字ミス多くてすいません!!

猫組はでるのかね?

朋也「……」


朋也「……ん……」


「わおっ!!」


朋也「……?ん……こ、ここ、は……?」


やらたと薄暗くて息のし辛い場所が目に映る。
目が覚めてこんな場所と言うのは、とてつもなく嫌な気分になる。


朋也「(っていうか……。そういえば俺って、何か殴られて……)」


不思議に思って頭をさすると、丁寧……とは言えないまでも、傷口を覆うための包帯が巻かれている。
正直、じくじくとした痛みは拭うことはできないが、ありがたい。

「……は、初めまして。おはようございますです、はい」


朋也「……」


そして、一つ。新たなる疑問が出てくる。
嫌でも目に入ってこようとする、この子供……。


朋也「(……誰だ)」


「あ、あの――!」


「あ、頭大丈夫ですか!!」


朋也「……?お前、誰だ」


「頭!大丈夫ですか!!」


肩までかかる程度のセミロングのこれまた子供のような顔をした奴が、俺の隣にいる。
さっきまではゴツい男と一緒にいたはずなのに、どうしてなのだろう。


朋也「いや、あまり大丈夫じゃない」


「あ、頭悪いんですか!!それはきっと元からですよお兄さん!」


朋也「……あ"?」


「!」ズザザザ


朋也「……?」


「お、お兄さん、怖い……」


しまった……。春原のような会話をしていたから思わずいつも通りの反応をしてしまった。
……とりあえず、ここはコイツの家(かはわからないが)なのだから、一応聞いておかなければならないことはいくつかある。

それを話す前から驚かせてしまってどうする。

朋也「悪い。まだ頭打ったところが痛むからボーっとしてるんだ。……で、聞きたいことがあるんだが、いいか?」


「山田、親切なので大丈夫です!怖いお兄さんのサポートもしっかりします!」


朋也「(……怖いは余計だ)山田っていうのか、お前?」


山田「いえ、私はお前でもなければ、山田でもありません!」


朋也「……はぁ?でもお前、今さっき自分のこと『山田』って……」


山田「はい、山田は今ここでだけは山田なのです。だからお兄さんは心おきなく私のことを
『葵ちゃん』って呼んでくださって結構です」


朋也「……はぁ?」


何の脈絡もない会話。
偽名なのかそれともおふざけなのか。大方後者であろうが、そんなものに付き合っていられる時間はないし、性分でもない。


朋也「……まぁ、分かった。『葵』。質問一つ目だ」


山田「はい!一つと言わず何個でも!」


朋也「……ここ、どこだ?」


山田「ここは私の家です」


朋也「……お前の?」


山田「はい」


朋也「親御さんは?」


山田「いません。私一人です」


朋也「ふざけてるのか?」ピクピク


山田「……!」ビクッ


朋也「い、今のは怒った訳じゃないからな……?(……めんどうくせえ……)」

年下なんてものに期待してはいけないってことはわかっているのだが……。
ここまで茶かされると流石に腹が立ってくる。


朋也「(こんな子供が独り暮らしなわけ……)」


「うんしょ、うんしょ……葵ちゃーん?大丈夫~?」ガチャ


朋也「!?」


急に目の前のフローリングが開き、梯子のようなものが下へ伸びた。
単なる箱だと思っていた白い塊は、どうやら折りたたんであった梯子だったようだ。


「……んしょ。葵ちゃ――」


「!!」


朋也「あ、お前……」


これは驚いた。
勝手に見ず知らずの誰かに拾われたもんだと思い込んでいたが、それは見当違いだったのか?


ぽぷら「き、気が付いたんだね!!良かったよー!!」


そう言って近づいてくるさっきの子供。
ポニーテールで結んでいる髪はやけにゆったりしている気がする。
そして……


朋也「(おかしな部分だけ成長しすぎだろ……)」


ぽぷら「本当に良かったよ~……」タユン

朋也「……それはいいから。……ここはどこだ?」


ぽぷら「へ?ここはワグナリアだよ!」


朋也「ワグナリア……?」


あの、通学路の途中にあるファミレスか……。
ウェイターの服装がかなりすごいって春原がアホ面晒していた記憶がある。


朋也「でも、どうして俺がファミレスに?」


ぽぷら「あのね!貴方が倒れている所を音尾さんが助けてくれたんだよ!」


朋也「お父さん?どこに父親がいるんだ?」


山田「お父さんじゃなくて音尾さんですよ」


ぽぷら「ほぇ?音尾さんでしょ?」


山田「いや、このお兄さんは音尾さんのことをお父さんだと言ったんです。
私にとっては音尾さんはお父さんですが種島さんにとっては違うと言いたかったのです」


ぽぷら「……うーん?」


山田「…………山田もわからなくなってきたので、もういいです……」


ぽぷら「それならよし!」


朋也「何が良し何だ……」

朋也「それはそうと、えーと……」


ぽぷら「私は種島ぽぷらだよ!」


朋也「種島か。……種島、そのオトオサンっていう人は、今どこにいるんだ?」


ぽぷら「えっとね、もう旅に出ちゃった」


朋也「旅!?」ガビーン


ぽぷら「うん。音尾さん、いつも旅に出ちゃうの」


朋也「(何なんだ……こいつら)」


俺とこの子供たちでは生きる世界がある意味で違うのではと思う。
そもそも、本当のことを言っているのかすら定かではないし……。
先行き不安過ぎる。俺はどうなるのだ……。


ぽぷら「私もお兄さんの名前、聞いていいかな?」


朋也「……ん?あぁ……。岡崎、朋也」


ぽぷら「おかざき、ともや君?いい名前だね~!」ニコッ


朋也「……お世辞はいいから。とりあえず、ありがとな。包帯とか介抱。
オトオサンとやらにもよろしく言っておいてくれ」スッ


ぽぷら「え?どこ行くの?」


朋也「……帰る。もう何時かわからねえし」


ぽぷら「だ、ダメだよ!すごい怪我してたんだから!!」


朋也「……大丈夫だ……って」ズキッ


朋也「……ぐっ」ドサッ


ぽぷた「ほ、ほらぁ!やっぱり今日はここでゆっくりしていった方がいいから!」アタフタ


山田「痛そうですねお兄さん……」ツンツン


朋也「っつ!」ビクッ


山田「!?や、山田わざとじゃないです!!ごめんなさいです!」


朋也「……はぁ。……それじゃ、俺も動けないし。ちょっと今日はお世話になる」


ぽぷら「……!そ、そうだよ!私も今日は看病するよ!」

朋也「……は?」


ぽぷら「私のせいで怪我したのに私だけ帰るなんてできないよ!」


山田「私も一人よりは話し相手がいた方がいいのでいてくれると嬉しいです」


朋也「……いや、え?お前ら兄弟じゃないの?」


山田「……?お兄さん本当に頭悪くなっちゃったですか?」


朋也「……」ポカッ


山田「痛いです!暴力反対宣言です!」


ぽぷら「私と葵ちゃんは全然兄弟じゃないよっ!兄弟だったらとっても嬉しいんだけど!」


山田「私も種島さんと兄弟がいいです!(……そうすればこの大きさに私も……)」


ぽぷら「嬉しい~!ありがと~!」


山田「えへへなのです」


朋也「で、でもオトオサンって……」


ぽぷら「?音尾さんは音尾さんって名前のバイト先のオーナーさんだよ!
音楽の音って書いて、尻尾のぽ!」


朋也「(何て紛らわしい……って)」


朋也「お前、バイトってことは、高校生、なのか……!?」


ぽぷら「……あ~……私のこと、ちっちゃい子供って思ってた!?」プクー


朋也「いや、今も思ってるけど……」


ぽぷら「もーう!私ちっちゃくないよ!!子供じゃないよ!!」


山田「私も子供ではないですよ!どっちかというとグラマラスな大人の女性です!」フリフリ


朋也「お前は黙れ」ポカッ


山田「痛いです!そんなに殴ったら山田、背が縮んじゃいます!!」


朋也「大丈夫だそれ以上小さくはならない」


山田「むかー!人権損害です!岡崎さん、通報します!」


朋也「……しっかしお前ら、本当……に、バイト……」グラッ


朋也「(あ、れ……目が、回って……やべ、ひん、けつ……)」フラフラ


朋也「……」バタッ


ぽぷら「……ええええ!!」ビク


ぽぷら「血、血が足りないんだね!!私、何か買ってくるよ!」


山田「山田も暇なので行きますっ!」


ぽぷら「うん!一緒に行こう!夜だから気をつけようね!」


山田「はい!山田が種島さんを守るのです!」


ぽぷら「うー!違うよー!私が守るのー!」


山田「違います!私です!」


「――――っ!」


「――っ!」


―――――――

―――――

―――

>>27

もちろん!!

……といいたいところですが東田さんと宮越さんを出すと中々人間関係が……。
出せそうであれば猫組も出します!できそうでなければすいません……。


ってことで今日の更新分終わりです!
読んで下さっている皆様ありがとうです。私、頑張るよっ!


キャーリサ「明日も、大好きな彼と」

というSSも書いているので禁書原作ファンの方がいたらぜひぜひ!ってことで宣伝はいらない!おやすみなさいませっ!

変人度を比べると両作ともどっちもどっちだなw
CLANNAD側はみんな地雷持ちだから相馬さんどうすんだろ

面白そうでございますね

>>27
さすがに相馬さんもシャレにならない様な地雷は踏まないだろ
…多分

人生()ですか

すげぇ微妙じゃね?

>>38
確かに……。相馬さんは相馬さんらしく進んでいくと思いますw

>>39
ありがとうございます!頑張ります!

>>40
自分を危険にさらしてしまうような地雷は避けるのでは……笑

>>41
微妙ですかぁ……。精進します。とりあえず春原大好きです

猫組ってなぁに?

あと、>>1乙です。


文学少女っぽく言うと、CLANNADはミントアイスで、WARKINGのホットミルクココアの様ね。


CLANNADは一口食べると、凍るような冷たさと透き通るような香りが口一杯に広がるの!

確かに主人公、朋也には氷のような冷たい過去があって、それが彼にとって苦痛でもあり日常だった。

でもね? その冷たさを少しずつ溶かしていくと、ほのかな甘みとミントの香りがその冷たさを忘れさせてくれるのよ!

それはまるで朋也と同じ、学校で居場所がない女の子、渚そのもの。

渚はその暖かい心で少しずつ朋也の心の氷を溶かして、砂糖の甘みを与えてくれる。

その優しい甘みと朋也のミントのようなクールさが絶妙にマッチしてて、これがまた美味しいの!!

確かに冷たくてクールな味だけど、全部食べ切れたら、何故か胸の底は暖かい……。

それがCLANNADという作品よ!


WARKINGはホットミルクココアの様ね。寒い日に凍えた手で飲むのってこんな感じなのかしらね。

主人公 小鳥遊とその先輩、ぽぷらの会話がとても微笑ましいのよ! まるで寒い体をココアで温めるようにね。

それに小鳥遊に恋する乙女、まひるはとっても可愛いの!!。

でも彼女は男性恐怖症。大好きな小鳥遊に会う度に彼の事を殴り飛ばしちゃう。 それをどうにかしようと奮闘している姿もクスクスと笑えてくるの!。

店長の杏子はいつもサボってばっかりで、慕ってくれる八千代にいつもパフェをつ暮らせて、小鳥遊に怒られてばっかり。

彼女が言うには店内での恋愛ごとは禁止。

でもややこしい関係がすでに出来上がっていたの。

小鳥遊はぽぷらを小っちゃくて可愛いと愛でてて、それを小鳥遊が好きなまひるが見ている。 その事実に気付いているぽぷらは応援するけど効果なし。

一方、杏子命の八千代を、実は店一クールな料理人、佐藤は好きで、同じ料理人の相馬はそれでからかってたりするの。

いつもいつも笑えて、心温まる作品よ!




それが一緒にミックス。

という事はミントアイスとホットミルクココアの合体。

…………。



内容、間違ってたらゴメン。 大体……こんな感じだよね?

え? なんでこんなことしたかって?

ほら…ファミレスだし……料理だし……。

長い
キモい
3行

CLANNADの女性陣ってまひる以上にバイオレンスな奴多いよな
杏とか智代とか美佐枝さんにいつも殴られたり蹴られたりしてる春原マジウラヤマシス

>>43

このコメントに秀逸さを本心で感じてしまった私は異端なのでしょうか……?
>>43さんの作品への愛がわかりますねっ!ありがとうございます!確かに温かい作品と冷たい作品という比喩は合っていますね!

猫組というのはもう一つのWORKING!の部隊ですよ!ワグナリアではないどこかのファミレス出の物語です!
ちなみにアニメ化しているのは犬組です!

そして謝る>>43さんに不覚にも萌えてしまった私が一番キモい。

>>44
全然キモくはないですよ!
CLANNAD=冷たい
WORKING=温かい
それをMIXさせたら……?ですね!

>>48

すっごいわかりますwwでもラグビー部にも殴られないといけないと考えるとちょっと……w


ってことで、少しだけ投下します。



山田「岡崎さん、岡崎さん。起きてください」


朋也「……」


朋也「……朝、か……」


身体を揺さぶられ、起きるとそこはまた天井の低い部屋の中。
ほこりっぽさと光に当てられて目に映るその現物で、少し気分が悪くなる。


山田「今度こそちゃんと挨拶をします!おはようございます!」


朋也「……あぁ」


ぽぷら「……ふへへぇ……」


朋也「!」ビクッ


山田「種島さん、さっきまで起きてたんですけど、寝ちゃったです。はい」


朋也「……そうか」


山田「帰るんですか?」


朋也「いつまでもここにいるわけにはいかないしな。
血も止まったみたいだし、俺がここに居る意味はない」


山田「種島さん、種島さん。岡崎さん帰るみたいですよ」


ぽぷら「……うーにゅ、……あと、……起きるまで……」

山田「そ、それ革新的かつ斬新的過ぎて山田突っ込めません!」ガビーン


朋也「……じゃあな」ガチャ


種島が起きてくるまで待つなんてことはしない。
俺は開きっぱなしの扉から梯子に足をかける。


朋也「……」


山田「あ、岡崎さん!」ヒョコ


朋也「……ん?」


山田「靴は裏口ですから、そこから出て行ってくださいね!」


山田「正入口から出られると朝の清掃の時間が増えてしまいます!」


朋也「……」


何だその理由は……。


朋也「……はいはい」


山田「はいっ!は一回で十分ですよ!それと、岡崎さんはそれ以上頭を打って悪くなっちゃダメですから気をつけてくださいね」


朋也「……やっぱり、表の入り口を踏み荒らしていくことにする」


山田「そ、それはいけません!山田の仕事が増えてしまいます!」ガビーン


朋也「知らん」


更衣室と書いてある扉を通り過ぎ、靴の置いてある裏口へと向かう。
道がわかる理由は簡単で、ゴミ捨て場までの案内が壁に貼ってあったからだ。


朋也「(……そういえば、音尾……だったか。そいつはどこ行ったんだ?


朋也「(…………本当に旅に……?)」


んなわけないか。


欠伸をしながら外に出ると、朝日が目に入ってくる。
早朝だからか、車の通りはまだ無いがちらほらと歩行者の姿は出てきているようだ。


朋也「…………」


コンクリートで舗装された道を上がっていくのは、これで何度目なのだろうか。
そんな答えも出ない考えしか、頭には浮かんでこなかった。


―――――――――――――――――――

春原「……」ブツブツ


家に帰る気にもならなかったので、直接春原の寮に来ることにした。
相変わらず汚い部屋だったが屋外でうろつくよりは幾分かはましだった。


春原「君、今何か失礼なこと考えなかった!?」


朋也「……いや?」


春原「……全く……。何で朝っぱらからこの僕が……」ボソボソ


春原「っていうか、岡崎。お前その頭どうしたんだよ」


朋也「……頭?」


春原「思い切り包帯巻いてるじゃん。……喧嘩か?」


朋也「……。まぁ、そんなところか」


春原「……ふふん」


朋也「気持ち悪っ」


春原「かなり傷つきますよそれ単品は!?」


朋也「本当のことだからさ」


春原「……。ま、まぁ。お前も現役ってことだねぇ」

朋也「……?」


春原「お前が喧嘩した所を見るの久々だったというかさ。
最近お前付き合い悪かったじゃん」


朋也「……」


そういえば、最近これといって何かをしたという記憶もなかった。
することがないのだから、仕方のないことだけど。


春原「それでも……」


朋也「……?」


春原「……何でお前の制服を早朝にたたき起された僕が洗ってアイロンまでかけなきゃいけないんですかねぇ!?」


朋也「だから、やってくれたら今日の昼飯奢るって言ってるだろ」


春原「それでも最初から僕に頼むの可笑しいでしょ!?水道を貸してくれとかならわかるけどね!?」


朋也「……」


小言は無視して、適当に放置してある雑誌を手に取る。
散乱している雑誌をランダムに取って読むことは、ある意味俺の日課にすらなってきていた。

朋也「……っ(……これ)」


朋也「……なぁ」


春原「何だよ。もう一着何て言っても絶対にやらないぞ」ゴシゴシ


朋也「お前、バイトするのか?」


春原「はぁ?何だよ草むらから棒に……」


きっと藪という字を読めなかったからそれらしい言葉に置き直したのだろう。
春原にしては上出来だと思う。でもバカには変わりないが。


朋也「いや、こんなモン持ってるから」


いちいち訂正すのも面倒臭かったので無視することにする。

それはテレビでもコマーシャルをやっている有名なアルバイト求人雑誌だった。
駅や本屋などに置いてあるフリーペーパーで、誰でももらって帰ることができる。


春原「……その本の発刊日、見てみろよ」


朋也「……?」


呆れたような顔で見てきたので少し癪だったが、
裏表紙の右下にある発刊日を確認する。

朋也「……去年の、7月?」


春原「そうさ。去年は時間も余ってたからね。バイトでもして小金を稼ごうとしていたんだよ」


朋也「今も十分暇だろ」


春原「今はそれなりに学校にいってるからそうでもないんだよ」


朋也「学校ではいつも『暇すぎて溶けそうだから塩かけてくれ』って言ってくるじゃないか」


春原「何でそんな助長するようなことを僕が言うんだよ!?っていうか僕はナメクジじゃないぞ!?」


朋也「……それにしてもお前がバイトか……」


春原「いや、だからもう考えてないって。学生の大切な時間をちっぽけなお金を稼ぐために使うなんてバカげてるしね」


朋也「学校サボってゲーセンに行ってる時点で、全く有意義に使えてないだろ」


春原「……さぁて、何のことやら」


朋也「そういえば、今日は新装開店するはずのパチンコ屋があったな」


春原「本当かよ!!?早速行ってみよう!!」


まぁこいつの言っている学生生活なんて所詮この程度なのだろう。
鼻息を荒くして目の前で洗濯をしている春原を果たして学生生活を謳歌している人間と言えるのかは疑問だが。


朋也「……なあ」


春原「あん?」


朋也「これは昨日俺の夢に出てきたお前のことなんだけど。恐らく正夢になるのだろうが……。
もしお前がラグビー部のやつのヘルメット壊したらどうする?」


春原「そんな嫌な未来予想図描かないでくれますかねぇ!?」


朋也「まぁ落ち着けって。それほど俺はお前のことを心配しているってなんだよ」


春原「……そ、そうなのか?」


主に頭の心配だけどな。


春原「……そうだな。僕だったら謝り通すね。……でも、アイツらは性根が腐ってるからその程度じゃ許してくれないだろうし……」


春原「きっとちょっとでもアルバイトして、弁償って感じだろうな。……学校じゃ嫌でも顔合わせちゃうしね~」


朋也「……」




――私が、弁償するから!!



朋也「(……そういえば…………。結局、どこに行ったかはわからなかった)」


朋也「(…………。)」


朋也「(………………アルバイト、か)」


――――――――――――――――

【学校】


春原「……ふぁぁ」


朋也「どうした登校早々ナメクジみたいな顔をして」


春原「いやアンタが朝からたたき起してくれたからこんななんだけどねぇ!?」


朋也「そう怒るなって」


春原「……ったく……。僕は寝るから昼休みまで絶対に起こすなよ」


朋也「おう」


誰も好き好んでお前を起こすまい。



春原「……ぐぅ」


寝る速度は恐らく一生かけてもコイツに叶わないな。


朋也「……」


いつもなら俺も同じく顔を埋めて寝ているところなのだが、
今日はなぜか全く眠くは無かった。


朋也「……はぁ」


朋也「……ん?」


教室を見回すと、同じクラスの奴と目があってしまう。



「……っ!」


そして、思い切り目をそらされる。

いつも通りだ、と思われているのだろう。
頭に包帯をして。昨日何をやらかしたんだ、と。


朋也「……」


……分かっている。この教室、この学校に俺らみたいな奴の居場所なんて設けられてはいないってことなんて。


朋也「っ」


春原「んがっ!?」


考えると余計にこの場所が窮屈になってくる。
幸せそうな顔で寝ている春原の椅子を小突いてから、俺は教室を後にした。


―――――――――――――――――

杏「あ、朋也。おはよう」


椋「……お、おはようございます、岡崎、君」


廊下に出て早々、委員長兄弟か。
どうやら今日はツイていないらしい。


朋也「……春原なら教室に居るぞ」


杏「あ、アンタ挨拶くらい返しなさいよ……。アイツはもういいの。昨日の内に4個くらいタンコブ作らせたから」


それは聞いただけでとても痛そうだ。


朋也「っで、どうしてあいつのこと探してたんだ?」


杏「……あのバカ、椋に変な宗教みたいな曲を聴かせてきたのよ!本当に危ない奴!」


予想通りだった!


椋「あ、あの……別に、悪くはない曲だと、思ったんだけど……その……趣味に合わなかったというか……」


杏「……椋、そういうのはハッキリと『気持ち悪かったから聞きたくもなかったのに無理やり聞かされた』って言っていいのよ」


椋「そ、そんなんじゃ……うぅ……」



杏「……っていうか、アンタ……またサボるわけ?」


椋「!」


朋也「いや。他の教室の授業を見学して来る」


杏「…………授業中に教室外にいることをサボるっていうのよ……」


朋也「そうなのか」




杏「それじゃ朋也!サボってばっかりいないでちゃんと出ること!椋を困らせたら承知しないからね!?」


椋「お、お姉ちゃん!大丈夫だよ、私は」カァァ


藤林はいつも困っているように見える。
その一言が頭に浮かんだが、頭の中にしまっておくことにした。





――――――――――――――――――――――

春原と岡崎の絡みが面白い

面白いわ期待
とっとと続き書きやがれください

>>1


山田と風子ってなんか似てるよね

23時45分くらいから少しだけUPします。

書いてるの女の子?ちんこ挿入していい?

【ワグナリア】


夕方:



ぽぷら「…………」


ぽぷら「……はぁ」


八千代「ぽぷらちゃ~ん?こっちのあっちのお皿下げてもらってもい~い?」


ぽぷら「……はい~」フラフラ






まひる「(種島さん……)」


小鳥遊「……今日の先輩、元気がないですね」


まひる「っひぃ!」バキッ


小鳥遊「んぐっ!?」


まひる「ご、ごめんなさい!!急に話しかけてくるからぁ……」ササッ


小鳥遊「……げほ。ま、まぁ今のは僕にも非がありますし。よしとしましょう」


まひる「……」ホッ

小鳥遊「それにしても……」


ぽぷら「……はぁ」カチャカチャ


小鳥遊「気落ちしている先輩も、可愛いなぁ」キラキラ


まひる「そ、そこじゃないでしょ!どうして、いつも元気なのに……心配だよ」


小鳥遊「それはわかっていますよ。……でも、今日は目立った失敗なんてないし。
昨日の今日であそこまで変わりますかね」


まひる「そこなんだよね。さっき、更衣室で私が話しかけた時も何か上の空だったし……」


小鳥遊「つまり、今日のアルバイトが始まる前には、あのテンションだった、と」


まひる「っ。確かに、そうなるね」


小鳥遊「……気づいてなかったんですか……」


まひる「うっ」


小鳥遊「全く、鈍いというかなんというか……」


まひる「う、うるさいっ!小鳥遊くんに言われたくないもん!」」


小鳥遊「僕に言われたくないって、僕は最初から先輩が変だなって可愛いなって気付いてましたし!


まひる「そ、そこじゃないよ!……もういい!」スタスタ


小鳥遊「あ、ちょっと……!」

小鳥遊「……」


小鳥遊「(……全く、女性陣の考えていることは分からない)」


山田「はっはっはー!」ヌッ


小鳥遊「おわぁっ!?」


山田「おはようございます、小鳥遊さん。私も長い長い眠りから覚めましたよ。
だからあまり元気ないです。心配してください」


小鳥遊「理由が意味わからん。大体、休憩から上がっただけろ」


山田「……寝起きって元気なくなるじゃないですか?」


小鳥遊「……だからって心配はしないぞ。お前は元気だし」


山田「なっ!?山田は心配するに値しないということですか!?侵害です!」


小鳥遊「そういう意味でもないっ!」


山田「……心配してくれたら、小鳥遊さんにちょっと耳よりな種島さん情報を提供しようと思いましたのに」


小鳥遊「……先輩の、耳よりな情報?」


山田「はいっ!でも小鳥遊さんには教えてあげません!」スタスタ

小鳥遊「――待て」グイッ


山田「ぐぇっ」


小鳥遊「……そこまで言われたら知らないわけにはいかないだろう」


山田「……ひゅ~♪」


小鳥遊「できていない口笛はやめろ」


山田「それでは小鳥遊さん。等価交換です。私の心配をするのですっ」


小鳥遊「まだそれかっ!」ガビーン


山田「今はまさに情報化社会なのです!情報にもお金や対価を設ける時代ですっ!」


相馬「なになにー?何か面白そうな話してるねー」


山田「あ、お兄さん」


小鳥遊「相馬さん。……山田が何か知っているみたいなんですが中々口を割らなくて」


相馬「そうなの?」


山田「はい。でも、小鳥遊さんは私の逆鱗に触れたのです」


相馬「あちゃー。それはダメだよ小鳥遊くーん。女の子には優しくしてあげないとー」

山田「お、お兄さん……!」ジーン


小鳥遊「相馬さん!?山田の心配ですか!?」


山田「わ、私心配されてるんですか!嬉しいです!」


相馬「……。……それでね、山田さーん、ちょっと話があるんだけど……」


山田「はいっ!なんです――」


相馬「――っ」ボソッ


山田「はぅっ!?」ガビーン


山田「お、教えますからそれだけは内緒にしてくださいです!」アセアセ


相馬「……えー?俺は何も言おうとなんてしないよー?だけど焦ると自分でも何を言っているのかわからない時があるってだけでー」


相馬「でも、教えてくれるって言うなら教えてもらっちゃおうかなー?」


山田「はいっ!はいっ!教えます!教えさせてくださいっ!」


小鳥遊「……(相馬さん……)」






――――――――――――――

相馬「なるほどね~。その岡崎さんと言う人にちゃんとお礼を言えなかったからあんなに落ち込んでる……ってことなのかい?」


山田「は、はい。起きてからずっとあの調子で……。一旦家に帰る時もふらふらで心配だったです」


小鳥遊「(……先輩、落ち込む理由も子供らしくてかわいいなぁ)」


相馬「それなら、改めてお礼を言えるような態勢を整えてあげれば良いのかな」


山田「っ!で、できるのですか!」


相馬「一応、この街のことは色々知ってるしねぇ~。ただ、この街の人じゃなかった時はもうどうしようもないんだけど……」


小鳥遊「ちょ、ちょっと待って下さい!探すったってどうやって?!仕事だって私生活だってありますし……。不確定要素が多すぎやしませんか?!」


相馬「まぁまぁ小鳥遊くん、こんなおもし……可哀想なこと、協力してあげないと」


小鳥遊「今本音漏れてましたよ!?」


山田「あっ!そういえば!岡崎さん黄色っぽい制服着てました!ワグナリナのエプロンみたいな色をした制服でした!」


小鳥遊「……うーん……。そうは言われても……学校の制服なんてわからないしなぁ……」

相馬「……そうだねぇ。一筋縄では……」チラッ


相馬「……(……あ)」


相馬さん「……(これは面白い展開になってきたね~)」


相馬「山田さん、一ついいかな~?」


山田「……はい、何でしょう?」ブルブル


相馬「はは、安心してよー。僕が大切な同僚のことを脅かすなんてありえないじゃないかー」


山田「は、はい……」ブルブル


小鳥遊「……(いや、それしかあり得ないと思いますよ)」


山田「と、ところで、何でしょうか?」


相馬「あ、そうだったそうだった。ちょっと聞きたいんだけど」


相馬「…………山田さんの言う、黄色い制服って……あれのことかな?」









山田「え……?」

―――――――――――――――

【ワグナリア 座席】



「……っ」


図書館で借りたご本を、時間内に読み切れなかった時はゆったりとコーヒーを飲みながら
読む。


「それって、とっても、とっても幸せなの……」


ただ、一之瀬ことみって図書カードに書くのは、画数が多くて少し面倒くさいから、
たまにたまにのお楽しみ。


ことみ「……んー」


ことみ「……おいしいのっ」


普通のファミリーレストランっていうのは、私はあまり行かないからわからないけど。
ここのレストランのコーヒーは、いつも美味しい気がするの。
だからいつもお弁当をしっかり作ることみちゃんみたいな出不精でも、お金を出してこの店に来てしまう。


ことみ「(それじゃあ、どれから読もうかな……♪)」


『哲学者とオオカミ』『反貧困』『Lord of the Files』……。
今日手に取った本にはとっても面白そうな本がたくさんあった。
いつもは適当に目に入ったものを読む私だけど、今日は少し悩んでしまう。


ことみ「……んー」


でも、悩むって言う経験をあまりしたことがない私は、いざとなると決断できない。
いざ読もうとすると、決めたと思って取ろうとしても、他のタイトルが気になって手を引っ込める。その繰り返しだ。

小鳥遊「失礼いたします、お客様」


眉をひそめて私が悩んでいると、蝶ネクタイをしたウェイターのお兄さんがお話をかけてきた。
そうだ、この人に選んでもらおう。


小鳥遊「お客様、そち――」


ことみ「この中の本では、どれがいいと思いますか?」


小鳥遊「!?」


眼をきょろきょろと泳がせてタイトルを眺めるお兄さん。
ふふふ……ことみちゃんも悩んでしまったものだし、きっとお兄さんも悩むと思っていたの。


小鳥遊「……えと、それでは、これ」


ことみ「『哲学者とオオカミ』!……ありがとうなの」


きちんとお礼を言ってから、本に目を映す。
少し他のご本たちも名残り惜しい気がするけど、もうとりとめがないからこれを読むことにする。


小鳥遊「え、えとお客様……」


ことみ「……」


私はまえがきからしっかりと読む方だったので、最初のページも入念に眺める。
ご本を書いた人の考えがわかる、とっても素敵な時間なの。

小鳥遊「お客様……よろしいでしょうか?」


ことみ「……ん?」


もういなくなったと思っていたお兄さんが、私に話しかけてくる。
あ、そうか。お兄さんも何か用事があったのかな。


ことみ「どうしたの?」


小鳥遊「読書中にすいません。……お客様に少し聞きたいことがありまして」


ことみ「聞きたいこと?」


小鳥遊「お客様のその制服、どこの高校か聞いていいでしょうか?」


ことみ「……?」


お兄さんは、私に高校を聞いて来た。
なぜか少し挙動不審な感じで、ちょっと怖い。


ことみ「私は、光坂……高校です」


小鳥遊「光坂高校……。あの、すぐそこにある高校ですか?」


ことみ「……はい」


どうして私の高校の場所を聞くのだろう。
私、何か悪いことしちゃったから報告されるのかな。
そう思うとだんだん怖くなってきて、思わずお兄さんの顔を見つめてしまった。

小鳥遊「は、はい?(何で泣きそうなんだろうか……)」


ことみ「お兄さん、ことみを……いぢめる?」


小鳥遊「…………はい?」


ことみ「…………いぢめる?」


小鳥遊「い、いじめませんよ!」


ことみ「本当?」


小鳥遊「本当ですよ!?いじめる理由なんてありませんよ。たいせつなお客様なんですから!」


ことみ「……それなら良かったの」パァ


きっと、何か用事があるんだろう。
私はお兄さんの言葉を聞いて安心したから、そう結論付けることにした。

小鳥遊「えっと……。それでは、お客様、最後に聴きたいのですが……よろしいでしょうか?」


ことみ「だ、大丈夫ですっ」


何か言いづらそうな表情をしてくるお兄さんに、私もぐっと緊張を映されて言葉が上ずった。


小鳥遊「……『岡崎』様という方を御存知でしょうか?」


ことみ「……」


ことみ「(……誰だろう?)」


岡崎、岡崎、岡崎、おーざっく……は確かポテトチップスのお名前なの。
自分の頭の中を探ってみたけど、その名前には聞き覚えはなかった。


ことみ「知らないの……。ごめんなさい」


小鳥遊「い、いえいえ!謝ることは無いんです!ただ聴いてみたかっただけでして……はは……」


ことみ「そうなの。それならよかった」


小鳥遊「それじゃあ、ありがとうございました。本当に失礼いたしました。ごゆっくり、くつろいでいってください」


ことみ「はい、ありがとうなの♪」


お兄さんは私を気遣う言葉をかけた後、ちょっと急ぎ足でバックヤードの方に向かって歩いて行った。
どうしたのだろう。そう思ったけど、私にはご本を読むって言う大事な大事な用事があったから、
気にしないことにした。


ことみ「(ようやく、……読めるの)」


この本を開くと、どんな世界が待っていて、どんな風景を頭に投影してくれるのだろうか。
そんなワクワクドキドキとした高揚感が、私の精神を支配するまで、ものの5秒とかからなかった。



―――――――――――――――

小鳥遊「……はぁ」トボトボ


相馬「お疲れ様ー小鳥遊くん」


山田「どうでしたか、どうでしたかっ?」ワクワク


小鳥遊「お客様にいきなりこんなこと聞くなんて……やたらと背中に冷や汗をかきましたよ…………」


山田「それは山田にジャンケンで負けた小鳥遊さんがいけないのです。
まぁ山田はジャンケンの申し子と呼ばれるくらいの腕前があるので誰にも負けないのですが」フフン


相馬「んー、僕が行っても良かったのにねー。二人が『なぜか』僕はジャンケン参加させてくれないからさー」キラキラ


山田「……」ジト


小鳥遊「……」ジト

相馬「……それはそうとして、どうだったのかな?情報は聞き出せた?」


小鳥遊「……えぇ。あの制服は坂を登ったところにある光坂高校の制服らしいです。でも、『岡崎』という名前には聞き覚えは無いそうです」


相馬「そっかー。喧嘩に参戦する位だから不良だと思ったんだけどねぇ……。
不良は学校でも有名になるもんだからねー」


小鳥遊「(この人は相手が不良であろうとなんだろうと強そうだけど……)」


山田「光坂高校ですか……」


小鳥遊「……?どうした山田。何か思いついたのか?」


山田「……いえ、何もないです。でも、近くでよかったですね」


相馬「そうだね。見つけるのもそこまで難しそうではないかもね」


小鳥遊「でもあのお客様は女性でしたし、もうしかしたら違う学校の制服かも……」


相馬「そんなネガティブな考えはダメだよー小鳥遊くん。
種島さんの為なんだから、がんばらなくっちゃー」

山田「そうですよ!大切などうりょーの為ですよ!小鳥遊さん!」


小鳥遊「……。相馬さんはともかくとして、山田、お前はそんなにやる気何だ?」


山田「…………山田が起こせなかったせいで、種島さんが元気ないのは、
山田、嫌です。だから、お願いします。小鳥遊さん、手伝ってください」


小鳥遊「……」


山田「……」ジーッ


小鳥遊「……」


相馬「……?」ニコニコ


小鳥遊「…………はぁ」








小鳥遊「……そうですね、それじゃあできるだけのことはしてみますか」


山田「……!」パァァ


相馬「そうこなくっちゃあ、小鳥遊くん」


小鳥遊「あくまで、先輩の為ですし、時間がある時だけですよ?」


山田「ありがとうございます!小鳥遊さん!お礼に今度ジャンケンで勝たせてあげますね!」


小鳥遊「それは別にいいから」


―――――――――――――――――――

【遊歩道】


朋也「……」


学校では結局何もすることもなく、例え終わっても夜遅くまで何をするでもなく無碍に時間を潰す。
それでも、やりたいことなんて無いし、何か目的揉みつけることができない。

そんな生活に、俺も少し疲れてきている。


朋也「(……自業自得なんだけど、な)」


今日は春原は何処かへ行く用事があるようで、寮に勝手にたむろするワケにも行かなかった。
かといって一人でどこかへ行くかと言われると、どこへも行かない。
この街をひたすら歩き、何を考えるでもなく座って呆ける。


朋也「……」


だが。
家には、絶対に夜まで帰らない。
寝静まるまで。これは確実な事項で、覆ることは、無い。


朋也「(……十時過ぎ、か)」


頭の包帯を煩わしく感じながら時計を見ると、時刻はすでに10時を回っていた。
風営法では高校生でどこかにいると退去させられる時間だ。

俺がそんな法律を知っているのも、俺自身がその法律にお世話になったからというところが皮肉なところだ。

「ふ~っ……」


途中、昨日とはまた違う公園にたどり着いた。
病院の傍にある、ちょっと街から離れた公園だ。

昼の時間帯であれば、そこは散歩する入院患者たちでいっぱいらしいのだが
ところが、今の時間帯は夜で、夜中と言ってもいい具合だ。だから、誰もいないはずなのだ。


朋也「……?」


そのはずだったのだが、誰かが背もたれの無い少しくたびれたベンチに座って、煙草を吸っていた。


朋也「(……不良、か?)」


少し遠めからでも良くわかる金髪に、長い髪の毛。
格好は黒ストールに白いシャツで、七分のジーンズを着こなしていた。


朋也「……」


とりあえず、俺もこの公園で時間を潰そうと思っていたので、その予定に変更はない。
俺もその男の座るべンチの隣にある、比較的新しいベンチに座る。


「……?」


向こうも俺に気が付いたようで、煙草を地面に落とし、靴で踏みつぶした。
ずざざ、という砂利を磨るような音が聞こえるのが少し小気味良い。

「お前、高校生か?」


朋也「……!」


立ち上がった男は何を考えたのか、俺に話しかけてきた。
昨日の二の舞はさすがに避けたかったので、ある程度軽く受け流すことにする。


朋也「そうだけど」


「そうか、それなら帰れ。もう夜も遅い。親御さんも心配しているだろう」


朋也「……は?」


思わず口から短音が漏れた。
絡まれるのかと思ったら、まさか親みたいなことを吹かれるとは。


朋也「アンタには、関係無いだろ」


「……」


何故か、俺はむきになっていた。
俺にとって、『親』という単語はまさしく負のイメージであり、それを知りもしない人間に軽々しく言われることは
何故かとても腹正しかったからだ。


「……もう一度言うぞ?帰れ」


朋也「何なんだよ、アンタ」


ピリッとしたせち辛い空気が、男との間に流れる。
居心地が悪い。何で昨日今日とこんなことになっているのか。俺はつくづくツイていない自分の境遇を恨む。

「……いいから、来い」


朋也「……っちょっと、何すんだよ」


腕を引っ張って何処かへ連れて行かれそうになったので、思わず振りほどく。
男ははじかれた自分の腕を不思議そうに見てから、俺に向き直る。


「……結構力あるんだな、お前」


朋也「……(……?)」


何を言っているのか、よく意味がわからなかった。
暗がりでよくわからなかったが、男が少し微笑んだことが雰囲気から見て取れた。


「……とりあえず。こんな所で夜を過ごすもんじゃない。最近は物騒なことも多いらしいんでな」


朋也「……どうでもいいだろ、そんなの」


「……若いな」


朋也「……は?」


「…………いーや、何でも」


朋也「……」


男は踵を返し、どこかへ歩いていく。
どこへ向かっているのか、先を見てみるとそこには5人乗りの自家用車が見えた。
車の種類は詳しい方ではなかったが、それは俺でも知っているほど有名で、道路を見れば50台に一台は見れるタイプのものだ。

「……おい」


朋也「……っ」


「お前、今、暇か?」


朋也「……!?」


車の一歩手前で振り向くと、男は俺にそう投げかけた。
口には新たに火をつけたばかりの煙草が赤く燃えて煙を排出している。


「……時間はあるのか、と聞いているんだが」


朋也「……別に、用事はない」


時間なんて、腐るほどある。
そのあり余った時間のせいで、最近は妙に不幸な目に合っているわけだが――


「そうか。それなら丁度いい」


「……ドライブにでも付きあってくれ」


朋也「……」


朋也「…………は?」



――それでも

――それでも、今日の不遇は、いつもとは一味違ったニュアンスのものらしい。

―――――――――――――――

【車の中】


朋也「……」


「……ふぅー」


隣で、充満する煙草の煙が、物凄く鬱陶しかった。


「おっと、すまない」


そういって男は煙草の火を消して助手席側の窓を開く。
全自動で開いてくれるのか、と無駄なことに注意がいった。


「……で、お前は高校何年生だ」


何で俺は車に乗ったのか。
理由は簡単で、時間が有り余っていたから。
時間が潰せれば、俺は何でも良かった。

見ず知らずの人間の車に乗るなんて、多少の危険も感じた。
しかし、それより俺の『暇』という憂さを晴らすことの方が重要だった。


朋也「……3年だよ」


興味がないということが誰にでも見てとれるように言った。
すると男は「そうか」と一言だけ言って再び煙草を付ける。
動作は手慣れたものがあって、結構なヘビースモーカーだと勝手に位置づけた。


「……ふう」


「……で、名前は?」


一服してから、またもや質問を切り出された。
内心何なんだと思いながら、俺は応えることにする。

朋也「……岡崎。そっちは」


「…………岡崎か。俺は佐藤 潤。よろしく」


ようやく男の名前を知った気がした。
名前を言ったあと、佐藤は俺に飲み物で飲むか、と尋ねてきたがそれは断った。


佐藤「お前、光坂の生徒だろ?」


朋也「……あぁ、そうだよ。それが何か?」


佐藤「まぁ、そう怒るな。あそこは偏差値が高い進学校だって聞いていたんだが……。
お前みたいなのもいるんだな」


朋也「……そりゃ、いるだろ。どこにでも」


佐藤「はっ、違いない」


佐藤は何故か笑っていた。
さっきから、コイツがどこのポイントで笑っているのかがさっぱりだ。


佐藤「で、お前は毎日のようにこんな徘徊してんのか」


朋也「……そうだよ」


佐藤「若いのに高校生活楽しまねえと損だろう」


朋也「アンタだってこんな夜に病院の公園で煙草吸ってんだろ」


口から出る言葉が妙に辛辣なことには俺も気づく。
しかし、佐藤は気が障ることもなく、平常な声で俺に切り返してきた。

佐藤「俺はバイト上がりなんでね。働いた後の一服はやめられないさ」


朋也「だったらバイト先でしていけばいいだろ」


佐藤「職場は誰も吸わないからな。一応休憩所もあるんだが、吸うのが俺一人だから肩が狭くてしょうがない」


朋也「……へぇ」


佐藤「高校はつまらないのか?」


朋也「……俺にとっては、ね。楽しんでるやつらもいるんじゃないか」


わざと曖昧な返事をした。
自分が楽しめないこの生活を楽しんでいる人間が他に居るなんて、認めたくないと言う無駄な子供のような気持ちが働いた。


佐藤「俺のバイト先にもいるぞ。アホみたいな高校生が三人ほどな」


朋也「……アホ?」


佐藤「あぁ。変態にチビ、そして暴力女。三人衆だな、今改めて考えると」


車は橋を渡って、見慣れた風景を眼前に映し出す。
風を受けながら、その風景を見るのは少し気持ち良いものがある。


朋也「……三人目は俺みたいな人間じゃないのか?」


佐藤「そいつは違うんだな。女だし」


朋也「お、女!?」


この近辺でそんな不良女子生徒がいるなんて聞いたことは……無い。

佐藤「まぁ、そいつは不良ってわけじゃなくて。少し事情があって暴力を振るうんだ。
……だから、一部の人間はそいつには絶対に近づかないね。俺も含めて」


朋也「……アンタも?(事情のある暴力って……)」


佐藤「面倒くさいことには関わりたくない性分なんでね」


煙草をとんとんと灰皿に叩きながら、佐藤はそういった。
ハンドル捌きには慣れた手つきが見て取れた。


佐藤「結構お前、喧嘩慣れてるだろ。普通の奴にはないところに力がついてるからな。
それに、その頭。比較的新しい」


朋也「……それはどうかね。これは昨日つけた傷だけどな」


佐藤「ははっ、隠すなよ。俺も久々にお前みたいなやつに会えて少し上機嫌なんだ」


朋也「アンタみたいな、人……?」


佐藤「あぁ」


朋也「……」


佐藤「そう嫌そうな顔するなよ」


朋也「……嬉しがることでも無いだろ」


佐藤「そうだな」


一旦離れた街の情景は、どんどん近付いてくる。
気付いた時には、毎日のように俺があるいている道にたどり着いていた。

佐藤「さて、時間も頃合いだ」


朋也「……?時間?」


佐藤「……時計を見てみろ」


朋也「……?」


朋也「…………あっ」


佐藤「……もう十二時過ぎてんだよ」


朋也「……(気付かなかった……)」


佐藤「良かったら、家の近くまで送るが。どうだ?」


朋也「……いや、ここでいい」


考えてしまう提案だったが、それでも初めて会った人間にそこまで世話になるのは気が引けた。


佐藤「……そうか」


佐藤「なぁ」


朋也「……何だよ」


佐藤「いい時間つぶしになっただろう?」


朋也「……!」


いつの間にか、俺が時間を潰そうとしていたことがバレていた。
余裕を持って笑顔を見せる佐藤とは対称に、思わずぎょっとした顔をしてしまう。

佐藤「言ったろ?……『俺とお前は似てる』ってな」


朋也「……」


佐藤「それじゃ、流石に夜も遅い。絶対にすぐに帰れよ」


朋也「……アンタもうるせえな」


佐藤「ふっ、そう言うな」


この妙な自信に満ちたような顔が、さっきから何回か見えた。
これが、大人ということなのだろうか。


佐藤「さっきも言ったが……。お前みたいなやつとこの街で会えるとは思わなかったよ」


佐藤「久々に楽しませてもらった。ありがとう」


朋也「……」


佐藤「……ははっ、最後位、何か言えよ。……じゃあな」


降りた俺に対して片手を振りながら、車は走り去って行った。
目の前の角をすぐに曲がり、エンジン音もすぐに聞こえなくなった。


朋也「……」


朋也「……はぁ」


朋也「…………(何なんだよ……)」


全てを見透かされたようで、何か腹に煮えたぎったものが残る。
発散したい鬱憤を、どこに出せばいいのかわからない。
そんな子供のような気持ちを、またも抱きながら俺は帰路についた。



――――――――――――――

>>59->>63

ありがとうございますっ。嬉しいです!ぜひこんな駄文ですが楽しんで言ってくれると嬉しいです。

>>64

確かに……wでも山田と杏の中の人……げふんげふんっ。


>>69

内緒ですwただのCLANNAD信者ですよw
そしてそんなものはしまってください。


さて、今日はここまでです。ちょっとずつの進行ですいません。
時間のある方は、ぜひ暇つぶしにでも見て言ってくださると嬉しいです。

それでは、おやすみなさい。

杏は春原のこと陽平って呼ぶぞww
あと椋は敬語だな

あと

佐藤「あぁ。変態にチビ、そして暴力女。三人衆だな、今改めて考えると」


車は橋を渡って、見慣れた風景を眼前に映し出す。
風を受けながら、その風景を見るのは少し気持ち良いものがある。


朋也「……三人目は俺みたいな人間じゃないのか?」


佐藤「そいつは違うんだな。女だし」


朋也「お、女!?」

ここ暴力女って言ってるのに女で驚くっておかしくないかwwww

それだけですww面白く読ませてもらってるので頑張ってくだしぃ



>>107

ご指摘ありがとうございますっ。
その点、実は今朝読み返してたら気付きました……。
何で朋也君、そこで驚いてんねん!?と……。
よろしければ脳内補完でただ女と聞こえなかったという展開にしておいてください……。


あと陽平って呼んでましたっけ!ありがとうございす!盲点でした!


皆さん読んでくださって、乙もくださって、本当にありがとうございます!
今日は更新できませんが、頑張ります―!

【学校】


春原「……はぁ……」


朋也「どうしたナメクジ」



学校に来て早々、浮かない顔をする春原にねぎらいの言葉をくれてやる。




春原「ひらきくち一番でそれはないでしょ!?せめて『みたいな』とかつけてくれますか!?」


語彙力と漢字能力は小学生と同等レベルのようだ。


朋也「朝から元気なやつだな」


何気なく席に着くと、春原は何故か恨めしそうな顔で俺を見ていた。


朋也「何だよ」


春原「……」


春原「……はぁ。お前は呑気そうで羨ましいよ」


朋也「そうか?お前の顔ほど呑気を表している人間なんてそうはいないと思うぞ。それは俺どころか、この世の誰も勝てないほどだ」


春原「この世の誰も……!?」


朋也「ああ、そうだ。恐らくお前は呑気な顔選手権では断トツの一位を獲得できるだろう」


春原「……へへっ、そうかな?」



コイツにはどんな見下した言葉でも褒め言葉になるに違いない。

春原「……まぁ、褒めてくれているところ悪いんだけど……。僕はちょっと作戦を考えなくてはならないから、お前に付き合っている暇はないんだ」


朋也「……作戦?」


春原「おっと、これ以上は例えお前にも言えないなぁ。本当はお前にも手伝って欲しいんだけどさ。
……まぁ、いずれ暇ができたらどっか付き合ってあげるから我慢してくれよ」


朋也「一生そんな暇は作らなくて良いんだぞ?っていうか一生休むな」


春原「何でだよ?!」


朋也「いや、俺はお前と何処かへ行きたいと思ったことないから」


春原「僕は、お前の中でせいぜい顔見知りレベルってことなんですか!?」


朋也「……」


杏「おっはよーう!!」


朋也「おっと」


春原「……へ?」


いや、それも危うい所だ。
そう言おうとしたところで、背後から物凄い寒気を感じたので首を捻る。


春原「ぶべべっ!?」


一秒も立たない内に、俺の頬は空気に撫でられた。
通過したのは日本で最も分厚い書物、広辞苑。
それが今、春原の額にジャストヒットし、当人は悶絶している。
やはり、コイツにはどんな表情よりこれがしっくりくる。


春原「~~ッ!!……くぉら!!朝からそんなものを頭に当てられる僕の身にもなれよ!!」


杏「何よー毎日毎日眠そうな顔してるから私が目覚め良くしてあげようとしてるんでしょうが!」


そんな心遣いはいらない。

春原「大体お前はなんでこんなところにいるんだよ!?別のクラスだろ!?」


杏「あっ、そうだったそうだった。椋と話すことがあるんだった~」


春原「お前ら姉妹だろ!?話すことがあるなら家で話せ!お前に会う度に僕の生傷が増えるんだから!」


杏「うるっさいわね!アンタに言われる筋合いはないわよ!それに今回のことは学校に来てから分かったことなのよ!」


椋「……お、お姉ちゃん?どうかしたの?」


おずおずと話しかけてきたのはタロットカードを手に持った妹の方だ。
恐らくクラスメートの占いをしている最中にこちらに気付いて来たのだろう。
藤林の占いは良く当たると評判で、よく休憩時間にやっているのを見たことがある。


杏「あっ!椋!丁度良かった~!」


椋「……?」


杏「私ってさ、前回の生徒会長と友達だったじゃない?」


椋「え、あ、うん。そうだったね」


杏「その人がね、次の世代の生徒会で必要な書類を今日中に届けないといけなかったみたいなんだけどね、
風邪で学校に来れないみたいなの」


椋「え……それは心配だね」


杏「まぁまぁそれはきっと大丈夫なんだけど!」


大丈夫かどうかはお前が決めることじゃないだろう。


杏「その書類ね、学校に置いてあるから机から出して持って行ってくれって言われちゃってさー」


椋「……?」

杏「私さ、何かこう……固い雰囲気のところに入るといーっってるのよ。だから、これ椋に届けてもらえないかなーって」


春原「はん、小学生みたいな人間なんだな」


杏「ふんっ!」


春原「うべぇっ!」


朋也「おっと」


春原「んぐっ!?」


杏のローキックに足を滑らせた春原が俺の方に倒れてきたからとりあえず殴っておく。
教室が少し騒然となるが、いつものことなので放っておく。


春原「お前はどっちの味方なんですかねぇ!?」


朋也「少なくとも、お前の味方ではないことは確かだな」


春原「ひどすぎやしませんか!?」


杏「……で、どうかな?頼めない?」


椋「……え?う、ううん。別に私は良いんだけど……」


杏「ほんとっ!?ありがとう!!今度、お弁当作ってあげるからね!」


椋「そ、そんな子供みたいな……」カァァ


杏「だって椋、アナタの作るお弁当って……」


椋「!!お、お姉ちゃんそれ以上は!!」


杏「はははは、大丈夫大丈夫!焦げてるソーセージも私は好きだから!」


椋「うぁぁ……」カァァ


杏「ほらほら、そんなに遠慮しないで!私たちは姉妹なんだからっ!」


椋「うぅ……。遠慮してるわけじゃないよぅ……」


朋也「……」



―――――――――――――――――

【中庭】


既に俺や春原は完全な部外者なようだったので、その場から離れることにした。
春原は結局、終始『どうしよう……』と夢見事のように呟きながら席に座り、三秒後には就寝していた。


朋也「……」


朋也「(俺にも兄弟がいたら、か)」


考えたこともないことを想像する。
小学校、中学校と一緒に上がって、趣味も似たようなものになって。

あんな風にお互いの欠点を補えるような仲になっていたのだろうか。


朋也「(……)」


朋也「(……それは無いな)」


朋也「……ん?」


「…………」


下らない妄想に結論付けた所で我に返ると、目の前の桜の木に誰かが佇んでいることに気付いた。
顔が見えないので詳しくはわからないが、どうやら女子らしい。


朋也「(……授業始まってるぞ)」


そう思ったが、サボっている俺が言っても説得力なんて無に等しい。
気にせず通り過ぎることにする。


「……」


朋也「…………ん?」


丁度真後ろを歩いている所で、ソイツは俺に気付いた。
長髪でカチューシャに眼鏡をした、あまり目立たなそうな女子だ。

朋也「……」


それでも別に何かあると言うわけでもない。
特に話しかけるでもなく俺はただただ足を動かす。


「……ちょっと」


安易に通り過ぎようとするほど、災難は回ってくるものなのだろうか。
何故か後ろから声をかけられる。


朋也「(……無視するか)」


一瞬そう考えたが


「お前だ、そこのお前。男子生徒」


断定的に俺を呼ばれては完全無視を決め込むのは無理そうだった。
仕方なく振り向くと、目の前にソイツはいた。


「……授業中だぞ?何をやっているんだ」


朋也「……いや、それはお前もだろ」


「私は今日は書類を書かなければならないのでな。
特別に一時限目の授業は無しになっている。
……お前は、そういう手続きを踏んでいるのか?」


言い返すために俺が用意していた理論は、簡単に覆されてしまった。

「……あ」


いつの間にか俺の腕を掴んでいる。
しかも結構な力で、多少の力では振りほどけない。


お前、岡崎朋也、だな?」


朋也「……!だったらなんだよ」


「いや、何だって言うことはないんだけど。……先生からお前のことはある程度聞いているよ」


朋也「……そうか。それなら俺がどういう人間かわかるだろ。放せ」


ろくでもない噂を広めているのは、決して生徒だけではないのだ。
気にいらない生徒のことを良く話す教師なんていない。


「……?何を言っているんだ?放すわけないだろう」


朋也「……放せって言っているんだが」


「……」


「なら、お前がこの手を放させればいいだろう?」


正気とは思えない発言だ。
俺のことを知っているのであれば、その噂の正否がどうであれ、ある一定の方向性の人間だと言うことが分かるはずなのだが。


朋也「……」


「……どうした?やるなら早くするんだ。時間はいつまでも待ってくれるわけではないんだぞ?」


朋也「(……本気かよ……)」


どうしても手を離そうとしないこの女の目を見ると、どうやらあちらも負けん気なようだ。

朋也「(……仕方ない)」


朋也「分かったよ。教室に戻ればいいんだろ」


「そうしてもらえると私はありがたいのだが」


朋也「……はいはい」


終わりのないイタチごっこをする気はない。


「……」


朋也「……何だ。俺は戻るから手を放せ。それじゃあどうしようもないだろう」


「……あ、あぁ」


俺が踵を返すのを見るとソイツは信じられないものを見た様な顔で俺を見る。
手を放した腕裾の部分には跡が残っている


朋也「……(握力……?)」


完全に授業をサボるという気力すら奪われたので、教室に帰って寝ることにする。


「……私はっ」


朋也「……?」


「私は、坂上 智代だ。二年の」


朋也「……何言ってんだお前」


智代「お前が思ったより普通な人間で、安心した。……ありがとう」


朋也「……」


朋也「……お礼なんて言われる筋合いないだろ」


俺に向けられる笑顔の意味は何なのか。
分かるわけがないだろう。俺には、ずっと。
……そんな気がした。

――――――――――――――――――

【ワグナリア】


「はぁ~部活疲れたな~」

「もう今日は俺ガッツリ行く!ハンバーグ食うぜー!」

「おっ、いいね~!」


まひる「……」ソォ


まひる「っ!」ビクッ


まひる「……うぅ、何で今日はこんなに男性のお客様が多いの……」


小鳥遊「いや、これが普通ぐらいなのでは……?」


まひる「違うもん!!普段はもっと少ないよっ!」


小鳥遊「まぁ確かにワグナリアは女性のお客様の方が多い気がしますけど……。
そんなに大差無いと思うんですが」


まひる「あるの!女の子じゃない人がいるってことだけでもう大差あるの!」


小鳥遊「言ってること無茶苦茶ですよ……」

まひる「う、うるさいよ!」バッ


小鳥遊「え、ちょ、ちょっと―――!?」









ぽぷら「……はぁ」






小鳥遊「!?」


まひる「!?」


ぽぷら「……あっ、かたなし君、伊波ちゃん、おはよう……」










小鳥遊「あ、先輩。おはようございます」


まひる「種島さんっ。お、おはよう……」


小鳥遊「先輩、顔色悪くないですか?休んだ方がよくないですか」


ぽぷら「……ううん。大丈夫だよ。……それじゃあ私10番のお皿、下げてくるね……」トボトボ


小鳥遊「……あ、先輩」


まひる「……種島さん……」


小鳥遊「……これは早急に手を打たないとだめですね……(下を向いて歩く先輩も可愛いけど……)」


まひる「……そうだね」

まひる「ん?」チラッ


まひる「!」ダダダッ


小鳥遊「ええ!?」


佐藤「……俺が来た瞬間にそれはないだろ」


まひる「だだだだって、私これ以上近づくと……我慢できないからぁぁ」ガクガク


佐藤「ったく……」


小鳥遊「佐藤さんって確か……。今日は非番でしたよね?どうかしましたか?」


佐藤「いや、シフトを見に来ただけだったんだがな。
そこで会ったあのチビッ子がやたらと元気がなかったからちょっと来てみた」


小鳥遊「……先輩ですか」


まひる「……」


佐藤「……何かあったのか?」


小鳥遊「……」チラッ


まひる「……っ」コクッ


佐藤「……?」


小鳥遊「……じ、実は――」



――――――――――――――

小鳥遊「って言う訳で、お礼を言えず終いだったってことが先輩にとってショックだったらしいんです」


佐藤「……」


佐藤「……はぁ」


佐藤「……ガキかあいつは」


小鳥遊「その純粋さが可愛いんですよ」ポワー


まひる「……」ジトッ


佐藤「……お前……」


小鳥遊「……何ですかその目は……。まぁ、そういう成り行きで、僕と山田と相馬さんで手分けして探してみようってことにはなったんです」


まひる「わ、私も協力するよ!!」


小鳥遊「……探しているのは、男性ですよ?」


まひる「っ!!わ、私だって、私だって!!だ、だだだだだだだ、だいじょ……」


小鳥遊「……」


まひる「……ぶない……」

小鳥遊「でしょう?無理しなくてもいいんですよ。元より善意によるものですし強制ではないんですよ」


まひる「で、でも私だって協力したい!!種島さんには、その、いつも助けてもらってるもん!!」


小鳥遊「そうは言いましても――」


まひる「う~……っ」ウルウル


小鳥遊「……はぁ」


小鳥遊「それなら今先輩にできるだけ付き添ってあげたらどうですか?」


まひる「……っ」


小鳥遊「それが伊波さんにしか出来ない協力だと思いますけど」


まひる「……!」


まひる「わ、分かった!私、種島さんのところ行ってくる!」タタッ


小鳥遊「(……強情だなぁ)」


佐藤「……せわしねぇやつだな」


小鳥遊「全くです」

佐藤「……なぁ」


小鳥遊「はい?」


佐藤「その種島を助けたって奴の名前、分かってるのか?情報が無いと探しようがないと思うんだが……」


小鳥遊「あ、はい。山田から聞いた情報なので正確かどうかはわかりませんが」


佐藤「……確か、『岡崎』という方だそうですよ」


佐藤「……?(岡崎……?)」


岡崎『……岡崎。そっちは』


佐藤「……!」


小鳥遊「下の名前は……なんだったかな……」


佐藤「……(……)」


小鳥遊「……?佐藤さん、どうしました?」


佐藤「……ちょっと出てくる。お前はもう行け。勤務中だろ」


小鳥遊「え?あぁ、はい。お疲れ様です」


佐藤「……」バタン


小鳥遊「……(あんなに急いでどうしたんだろう)」


八千代「小鳥遊くーん、提供お願い~!」


小鳥遊「あ、はい!」


小鳥遊「(……さ、今は仕事仕事!!)」



――――――――――――――――――

本日分は投下終了……ですかね。前回、微妙な所でやめてしまってすいません。

早めに続きを投下出来ればと思います。ぜひもうしばらくお付き合いください。

乙です

一応誤字訂正>>124
>>佐藤「……確か、『岡崎』という方だそうですよ」
>>小鳥遊「……確か、『岡崎』という方だそうですよ」

既出かもしれんが兄弟じゃなくて姉妹だと思われる箇所がいくつか

皆様、ありがとうございますっ!

>>127,>>134

うぉあ……ミス大変申し訳ない……!


とりあえず完結したら補完修正の後、VIPにUPしようと思っているのでその時に完全版をお届けしたいなぁって言う将来展望です……。
かといってミスって良いわけでもないので以後気をつけます……。また気になる所がありましたらぜひ報告していただけると嬉しいです。本当にありがとうございます!

CLANNADスレご馳走様です!

ワーキング見てないがなかなかに面白い。
続きが気になるのう。

しかし何となく春原に違和感を覚える……。
まぁ、あの二人の会話を再現するのは難しいから、
別に原作通りにする必要はないけど。

【学生寮】


美佐枝「しっかしあんたも暇人なんだね……。部活で忙しい寮生よりよく見てる気がするよ」


朋也「……そう思うなら、そうなんじゃないのか」


学校が終わる。
また退屈な時間が始まりを告げる。
ただ、いつもと違うことは春原が夕刻を過ぎても寮に戻っていないことだった。


朋也「(……そういや、パチンコにでも行ったのか?……あれは嘘なんだけどな)」


思惑を巡らせていると、思った通り、答えは2,3択で終わっていしまう。
春原がいかに単純な人間であるかを再認識できた。


美佐枝「まっ、春原を待つんならそれでもいいけど……。もうそろそろ帰宅しなきゃだめだよ?学生なんだから」


朋也「……」


美佐枝「……はぁ。返事ぐらいちゃんとなさいな。お前は学生だろう?」

朋也「……」


美佐枝「……それじゃ、私は買い物があるから」


朋也「気をつけて」


美佐枝「そこで返事するのかアンタ!?」


朝から寮生の服の洗濯、寮の掃除、事務処理……。そしてラグビー部や春原などバカたちの相手。
俺だったら3秒と持たないだろう。
俺から見たら、この人はあくせくと働き過ぎな気がしなくもない。そこまで良い給料をもらっているとも思えないのだが。


美佐枝「まぁ、いいか……。っと、早く行かないとスーパーが閉まっちゃうね」


朋也「……そんなに入用なのか?」


美佐枝「世話のかかるペットがいるんでね、食材は常に欠かせないんだよ。食べ物にうるさくて叶わないよ」


そんな愚痴のような言葉をこぼしているが、何故だか俺には楽しそうに見える。


朋也「……?美佐枝さん、寮の奴らの飯も作ってるのか?」


美佐枝「まっさか!そこまでしてたら流石の私もしんどいよ!ペットはペット、そのまんまさ」


朋也「……へぇ」


美佐枝「そういうことだから、岡崎。アンタも春原が好きなのもわかるけど、大概にして帰りなさいよ?……んじゃねっ」


朋也「……」


春原を好きというのは、死んでも勘弁してもらいたいものだ。



朋也「……(……それより)」


この寮はペット可能なのか?というより、むしろ自分の事よりペットの飯を心配しているように聞こえたが……。
寮生も管理人も、まともと言えるような人はいなさそうだった。


―――――――――――――――

【本屋】


書店員「いらっしゃいませー」


朋也「……」


自分から本屋に来るのは、かなり久しぶりだった。
以前はスポーツ雑誌を買いによく来ていたものだが……
高校に入ってから特に購入したい本等は無くなったため、来る頻度は次第に減っていった。


朋也「……!」


一瞬、いつものように読んでいた雑誌が目に入る。


朋也「……(ちっ……)」


だが、俺はそちらを注視することはしなかった。
もう、そんな物を読む必要なんて無いからだ。


朋也「……」


そこから奥まで歩みを進め、適当に置いてある本を取る。


朋也「(……)」


封がされていないその本は、青々とした表紙に気泡がプリントされた小説だった。

内容は、ドラッグや酒に溺れた若者たちの現実を描くというストーリーで、簡素なジュブナイル小説の様なものだった。

朋也「(……やることがあるだけ、いいんじゃないのか)」


自分がしでかしてきた事に後悔する主人公を見て、俺はそんなことを考えていた。
ただ、所詮は小説。現実はこうご都合主義にはいかない。

後悔するのは決まって期待してしまうからだ。
だったら、何事にも期待なんてするものじゃない。


朋也「(下らねえ……)」


中盤まで読んでから、本を煩雑な棚に戻すし時計を見る。


朋也「(……まだ、8時か)」


今日は時間が長く感じる。することがないと、毎度のことだ。
せめて春原のところで何事も考えず漫画でも読みふけっている方が、時の流れが早い。


朋也「……」


なんとなく店を見回す。
あくせくと棚に本を陳列していく店員に、並んでいる客を待たせまいと気を使いながらレジを打つ店員。


俺のように時間があるのであれば、春原のように小金を稼ごうと考えるのがやはり普通なのだろう。


朋也「(……)」

朋也「……」


その時、種島の言った言葉が頭の中で鮮明に再生された。

あいつだって、山田だって働いている。
俺がこうして、時間を何の意味もない行動に費やしている時間も、
あいつらは働いて、自分の金を、自分で稼いでいる。



――春原「いや、だからもう考えてないって。学生の大切な時間をちっぽけなお金を稼ぐために使うなんてバカげてるしね」


朋也「……」


春原の言っているような学生生活っていうのは、きっと人によって違う価値観があって、
それに基づいて行動しているんだろう。

俺や春原がやっていることは、そんなものとはあまりにもかけ離れている。


朋也「(……働く、か……)」


なぜだか、その言葉が俺の身に沁みた様な気がした。

――――――――――――――――――――――

【帰り道・ぽぷら】


ぽぷら「……はぁ」


最近、溜息ばかりが出てくる。
学校で勉強してても、お仕事してても。
思い出すだけで、憂鬱な気分になる。


――まひる『種島さん!元気出してね!』


そう言って理由を聞くこともなく、落ち込む私を励ましてくれているまひるちゃんに対しても、私はそんな態度なんだ。
すっごくひどい人だ、私。


ぽぷら「……あ」


しばらく歩くと公園が見えてきた。
シーソーとか、ブランコとか、そういう遊び道具も一杯ある楽しい公園だ。


ぽぷら「……」


なのに、私はあそこで人の物を壊して、しかも自分だけ逃げてきた。


ぽぷら「(……岡崎くん、痛かったんだろうな)」


そんな私を助けてくれた岡崎くんにちゃんとお礼を言えなかった。
絶対に言わなきゃいけないのに。私って、思えば思うほど最低だ。



ぽぷら「(……)」


何んとも無しに、私の足は自然と公園へ向かっていた。
黄色くて少し錆びてる入口の鉄柱をくぐると、もうそこは白い砂地の公園で。
普段通り、静かな落ち着く公園だ。


ぽぷら「……」


あれから、岡崎くんとは会えていない。
それも当り前だ。私の学校の制服とは違ったし、何より岡崎くんがこの周辺に住んでいるとも限らないし。


ぽぷら「(……でも)」


今思うと、何でそこで諦めていたんだろう。
お礼を言いたいのなら、探せばいいんじゃないのかな。
例えここら辺の人じゃなかったとしても、制服だったし、遠い所の人じゃない。


ぽぷら「(あ、でも修学旅行とかだったりしたら……)」


ちょっぴり不安な考えが浮かんできたけど、それは捨てることにする。
だって、修学旅行には時期が少し早すぎるし、何よりそんなことを考えていてはいつまでたってもはじまらないから。


ぽぷら「……よしっ!」


ちょっとだけ大きな声での一言。
誰もいない公園で、私しかいないんだけど。
でも、不思議と湧きあがってくるのは恥ずかしさとかじゃなくて、清々しさだった。


ぽぷら「(明日から、ちょっとずつ岡崎くん探索大作戦を始めるよっ!)」



ぽぴら「っ!?」


よーしっ!

改めて、手を振り上げてそう言おうとした時だった。私は背後から気配を感じた。
一瞬で、あの時の恐怖が蘇る。


ぽぷら「……」


後ろを振り向くのが怖かった。
少しずつ近づいてくる足音なのに、何故だか無限に反響しているエコーを聴いているような感覚がした。


「……」


足音は、私の真後ろで止まった。
私の呼吸も、なぜかそこで『ひゅっ』という乾いた音を立てて止まってしまう。


「……おい」


音程の低い、男の人の声がした。
背筋がきゅっと強張って、思わず肩がふるえてしまう。


ぽぷら「……!!」


心臓の音が、スピーカーから流れているみたいにはっきりと聞こえる。
とき、とき、とき、とき。なんだか早い。


「……何やってんだよ、お前は」


ぽぷら「……え?」


乾いた空気を裂くような音と共に、私の方に誰かの手が乗った。
その時。それだけのことで。
つい1分前に決めた作戦と、私の臆病な心は消えてなくってしまったのだった。


―――――――――――――――

【帰り道・朋也】


朋也「(10時過ぎ、か)」


結局、適当な本を手にとって読むという作業をこなしていると、閉店の時間になってしまい追い出されてしまった。
春もまだ初めとは言え、流石に少し肌寒さを感じる。


朋也「(……遠回りしていけば、12時ぐらいに丁度家に着くかな……)」


そう思って、俺はわざと高校の方へ向かった。
家とは真逆の方向だったが、違和感はなかった。


朋也「……」


途中、閉店作業をしている街の小さな電化製品店が目に映った。
外に出している携帯電話のサンプルを店の中に入れている所だった。


朋也「(携帯……)」


最近、よく目にするようになった。
クラスの奴らも結構持っているのを見たことがある。
メールとか、電話とか。そういうものが、電波のト追っている場所であればどこからでもできる……らしい。

らしい、という曖昧な言い方なのも、俺が携帯電話の機能を生で見たことがないからという事に他ならない。



朋也「(かといって、欲しいとも思わないがな)」


連絡する人間なんて数えるくらいしかいないし、しかもそれも極稀だ。
電話なんぞ、春原の家にあるものを使えば十分事足りる。


そう思って歩いていると、いつぞやの公園が目に入った。


朋也「(……)」


小さい頃はよく遊んだこの公園。
しかし、今は殴られまくったという凄惨な記憶しか浮かんでこない。


朋也「……?」


真横を通ろうとした時、公園の中から声が聞こえた。
時計が邪魔して見えないが、あれは女の声だ。


朋也「……」


朋也「……まさか、な」


一瞬あの子供のような女のことが目に浮かんだ。
種島だ。確か、名前は ぽぷら。


朋也「んなわけないか……」


流石にアイツも高校生(らしい)し、同じ轍を二度踏まないだろう。
そう思って、歩きながら公園を見ていると、可視角度が変わってくる。
時計を支える鉄製のポールがだんだんと目の端に寄って行き、最終的に見えてきたのは――


朋也「…………バカかあいつは」


手を真上に振り上げて意気込んでいる、想像通りのチビッ子だったのだ。



―――――――――――――――――


【公園】


ぽぷら「ひ、ひどいよ岡崎くんっ!私は本当に驚いたんだよ!?」


朋也「知るかよ……」


そして、俺は何故だか怒られている。
3分ほど同じような会話を繰り広げているが、種島はまだまだご立腹だ。


ぽぷら「全く!話しかける時はちゃんとした準備をしなきゃだねっ!」


朋也「……で、お前は何してたんだよ」


ぽぷら「……あっ」


このままでは先に進みそうもなかったので、無理にでも話を割いて聞くことにする。


ぽぷら「えと、今日もバイトの帰りなんだけど……」


朋也「『今日も』ってことは……この前の時もそうだったのか」


ぽぷら「そ、それはそうだよっ!岡崎くんは何だと思ったのさ!」


朋也「……夜に一人で公園で遊んでる子供」


ぽぷら「ち、違うよ!私は子供じゃないよ!」


朋也「……」


ぽぷら「ちっちゃくないのっ!」


頭に視線を映しただけだったのだが、何を考えていたのかバレてしまったらしい。

朋也「……まぁ、とりあえず。またこの前みたいなやつらに絡まれたらそれこそバカみたいだろ。早く帰れよ」


遠回りした分、時間も時間だ。
本来なら送っていくべきなのだろうが、俺にそんなことをする親切心はない。


ぽぷら「……ちょっと待って!」


朋也「!」


……今日はよく制服を掴まれる日だ。


朋也「何だよ……」


どうせ、泊めてやったのになんで勝手に帰るんだ、といった叱責だろう。
考えるだけで聞く気が失せてくる。


ぽぷら「あ、あのねっ!」


何をそんなに意気込む必要があるんだ……。



ぽぷら「この前は、本当にありがとうございますっ!」


朋也「……」


朋也「…………は?」


ぽぷら「えへへっ。ほんとはこれから探して、お礼を言おうと思ってたんだけどね?岡崎君の方から来てくれたから!」


いや、来たのは偶然なんだが。
そう言おうと思ったが、この会話の流れでは明らかに藪蛇だったのでやめておく。



朋也「って言うか……お前、これで俺に会わなかったら探そうとしてたって、何を考えてるんだ……」


ぽぷら「へ?何をって……。助けてもらったんだからお礼を言うのは当たり前だよ~?」


朋也「いや、そうじゃなくて……」


ダメだ……コイツと話していると自分がアホみたいになってくる。


ぽぷら「……あっ、そうだ!……えっと、確か、ここら辺に……」


朋也「?」


ぽぷら「……あった!あと、これ!」


朋也「…………これは?」


ぽぷら「ワグナリアのね、コーヒー無料券だよっ!
前に音尾さんから余ったものをもらったんだけど、私ってコーヒー飲まないんだっ」


朋也「……『飲めない』じゃなくてか」


ぽぷら「む~っ!たまには飲むよっ!子供じゃないからねっ!」


コーヒーを飲むか飲まないかの談義の前に。
なんでこいつはこんなにしたり顔なのだろうか。


ぽぷら「岡崎くんはレストランとか行かないの?友達とかとさっ!」


朋也「……」


ファミリーレストランなんて滅多なことでは行かない。
春原に奢らせる時か、逆に俺が春原に奢る時か……その位だ。
友達と行っているってことになるのであれば、その例は除外することになるのだが。



ぽぷら「……あ~~っ!!」


朋也「!?」


ぽぷら「わわっ、もうこんな時間だ!私、まだ明日の宿題やってないよ!」


朋也「(……ほんとに子供みたいなやつだな)」


ぽぷら「それじゃ、岡崎くん!今日は会えてよかったよ!」


そう言って、種島は走り出す。
俺の家とは逆の駅の方向だ。確かにこの時間だったら終電ギリギリといったところか。


ぽぷら「……絶対にワグナリアに来てね!絶対だよ!」


俺にそう言いながら、おぼつかない足取りで走って行った種島は、すぐに姿が見えなくなった。


朋也「……」


それから、俺も歩き出す。
皮靴で砂利を削り歩く音が、やたら鮮明に耳へ入ってくる。


朋也「……(……無料券)」


何気なく眼を下に移すと、淡いオレンジ色の紙が視界に入ってくる。
綺麗に印字された注意事項やその他のキャンペーンの告知などが、所狭しと並んでいる。


朋也「……はぁ」


朋也「(……これの使用期限、もう過ぎてるんだが)」


チケットを握りつぶしてそれを放る。


朋也「(……まぁ、例え期限内でも行く気はないがな)」


自然と出る欠伸を手で押さえながら、俺はその場を後にした。



―――――――――――――――――

【早朝 ワグナリア】


佐藤「……」ウトウト


佐藤「(アイツ……結局昨日は公園に来なかったな……)」


佐藤「(律義に公園で待ってるなんてことしちまったのは……失敗だったか)」


小鳥遊「おはようございますっ!……あれ?佐藤さん。早いですね」


佐藤「……あぁ」


小鳥遊「……そして露骨に眠そうですね……」


佐藤「…………あぁ」


八千代「おはよ~ございま~すっ。あ、佐藤君に小鳥遊君、おはよう」ニコ


小鳥遊「あ、おはようございます」


佐藤「……よっ」

八千代「あれ?佐藤君、目にクマがあるよ?大丈夫?」ススッ


佐藤「っ!!」ビクッ


八千代「……あっ、ご、ごめんね!?嫌だったよね!?ごめん……」


佐藤「……別に嫌だったわけじゃねえよ。ただ今日は体調もあんまりよくないんでな。余り近づくな」


八千代「そ、そうだったの!それなら後で精の付くもの買ってくるね!」パァァ


佐藤「別にいらねぇし気にするな」


八千代「ダメよ~!だって佐藤君と私は一番仲の良い『友達』なんだからっ!遠慮しないで!」


佐藤「……っ」ガーン


八千代「それじゃあ、私は着替えてくわね!」ヒラヒラ


佐藤「……」


佐藤「……はぁ」


小鳥遊「……」


小鳥遊「(……いつも通りだなぁ)」

佐藤「……『岡崎』って名前なんだろ?」


小鳥遊「っ!」


佐藤「あのチビっ子の恩人っつーのは」


小鳥遊「あ、はい。そうですよ」


佐藤「……偶然、俺が最近知り合った奴に同姓同名の奴がいてな」


小鳥遊「……え?」


佐藤「そいつかもしれない。探してみる」


小鳥遊「ほ、本当ですか!?何の手がかりもなかったので、それは凄く助かりますよ!」


佐藤「まぁソイツじゃない可能性もあるっちゃあるが……」


小鳥遊「そ、そうですけど!きっとその『岡崎』という人が探している『岡崎』ですよ!
そうそう多くいる名字ってわけでもありませんし!」


佐藤「……(……)」


小鳥遊「な、何ですかその信じられないような物を見るような目は……」アセ


佐藤「……いや、なんでもねえよ」


佐藤「(コイツ、本当に種島のこと心配してたんだな)」


小鳥遊「そ、それじゃあ僕も着替えてきますね!」


佐藤「ああ。行って来い行って来い」


小鳥遊「佐藤さんは着替えないんですか?もうオープンまでそんなに時間はありませんけど……」


佐藤「……俺はもう一服してから行く」


小鳥遊「はい、わかりました!それではお先に更衣室お借りしますね」バタン


佐藤「……」スッ


佐藤「…………」ジュボッ


佐藤「……ふぅ(……光坂の生徒だっつってたしな……不本意だが、今度非番の日にでも待ってれば……)」


佐藤「……(……俺もあのチビっ子のことを心配……してるのか?)」


佐藤「……はぁ(何で俺がそんなことに……)」





佐藤「……」グシャグシャ


佐藤「(……それじゃ、俺もそろそろ着替えに――――)」










ぽぷら「おっはようございまーす!!」バン


佐藤「……」


ぽぷら「あ、佐藤さんおはよ~っ!今日もいい天気だね~!私、今日もお仕事頑張るよ!」


佐藤「……」


ぽぷら「……あれ?どうしたの?」


佐藤「……~ッ!!!!」グイ


ぽぷら「……へ?」


佐藤「……」グシャッ


ぽぷら「あぁ~っ!髪がくしゃくしゃになるから引っ張らないで!」


佐藤「……」ワシャワシャ


佐藤「……もう、お前なぞ知らん」グシャグシャ


ぽぷら「な、なんで!?放してよ~っ!」


佐藤「……(……)」


ぽぷら「ふ、ふぇぇ~っ!!た、小鳥遊くん助けてぇ~っ!!」アセアセ


―――――――――――――――

ってことで、今日の更新分は終了となります。
杏、椋、ことみを取り合っていらっしゃるようですが……。

杏と春原は私が欲しいですw

そして、本当に読んでくださってありがとうございます!少しでも早く更新できるよう、頑張りますっ!

>>136

ぬぬぬ……!春原大好きなのだけれども……。しかし私もまだちょっと違和感があったので、的確に指摘していただいて確信しました。ありがとうございます!
もうちょっとでも本家春原に似せられるように精進します!それと乙ありがとうですっ!


oh...sorry.

朝、昼、夕だけだと思っていました……。夜食もなのか……!?

って思ったらそこの描写がない……!sorry!!ご飯は作ってます!

訂正個所が増える一方だ……。やっぱり推敲しないと……本当にごめんなさいっ!

>>1乙、それと便座カバー
更新楽しみに待ってるよ、それと便座カバー

>>1
春原はのしつけて進呈しようじゃないか

だがしかし杏は俺の嫁だから無理な話だな

CLANNADクロススレで名作と言えば、けいおんとのクロスがすぐに思いつく。
他スレだが、アレは原作の雰囲気そのまんまって感じだった。

このスレにも期待しちゃうぞ☆
主にぽぷらタンとの絡み的な意味で。
岡崎が好きな俺は、彼が主人公しているだけで満足だが。

ういとつきあうんだっけ?
それは竜二のやつだったか?

>>169
読んでみたいからタイトルkwsk

>>172
朋也「軽音部? うんたん?」
>>170は憂「クラナドは人生」かな?
後者もいいが、前者はなかなかに力作だったよ。
読んでないのは勿体無い。

>>1さん、別のSSのことで盛り上がって悪かった。
CLANNADのクロスSSは貴重なんだ。
このスレ、凄く支援させて貰う。

クラナドのSSっていったらやっぱみんなあのSS思い出すんだな
もちろんこのSSも応援してるぜ


皆さん、読んでくださってありがとうございますっ。

>>165
ありがとうございます!早め早めを意識して投下しますね!それと便座カバー

>>166
なんだと……杏は全二次作品一の美女だと自負しているのに……!……戦争だ。

>>178
応援ありがとうございます。飛び上がるほど嬉しいです。これからもぜひ読んでいって下さい!


>>175さん、とても嬉しいです!更新も早くないですが、お暇な時にでもぜひ見ていってくださいっ。

実は私も唯「けいおん部?うんたん?」のやつは見ました!最初から最後までとても面白いし、勘当したのを覚えてますw
自分の中ではかなり高ランクなSSです!と、いうよりこのSSもちょっとだけあのSSの影響受けてたりしますw
知ってる方いらっしゃるかなー?位に思っていたのですがこんなにたくさん同志いたんですねっ!
なぜかテンションがあがりましたw


よーしっ!ってことで書き溜めてきます!誤字脱字は極力なくすように努力しますね!

……ぽぴらって……orz

>>179

書き溜めたらそのまま投下するんじゃなくて、一度チェックすることをオススメする
それだけでも誤字脱字はだいぶ減るし、読み直して気になった表現とかも直せる

教えてもらったSSを両方読んできたが、春原との掛け合いが再現度高すぎたwwww
2つのSSに共通して、CLANNAD側は殆ど岡崎と春原だけだったから登場人物少なかったな
ここはCLANNAD勢も出るみたいだから登場人物も多いだろうけど頑張ってほしい

>>180

ありがとうございます。そうすることにしてみます。

再現度が高いですよねあれは……確か作るのに三ヶ月用したとかなんとか聞きましたが凄まじい……。
地の文たっぷり使ってますが、私はSSっていうのは読みやすさがウリであり、だからこそ小説などよりも片手間感覚で見れると思ってるいるのであまり地の文はないんですよね。
ちゃんとあった方が読みやすかったりしますか?
今はメインパートとクラナド勢のみに軽くいれてる感じなのですが……。

掛け合いについてはクラナドから離れた時期が長過ぎたというのもありますね……読み返してきます!

って私は聞いてもいない持論をなに流暢に語ってるんだぁぁぁ!
下げてないしっ……他の板の方すいません……!
少しのお酒が招いた大きな事故なので皆さん気にしないでください……。
大変失礼しました。

おい、更新されていないじゃないか。

10/28に>>1だけ消えたんじゃないのか?


三周目入りましたぁ~!!

【昼時前 ワグナリア】


ぽぷら「ふっふふ~ん♪」


八千代「ぽぷらちゃ~ん、手が空いてるならちょっと手伝ってもらってもいいかしら~?」


ぽぷら「あっ、は~い!今行きまーす!」



小鳥遊「……」


小鳥遊「……確かに元気になってますね……というより、以前のように戻ってくれたって感じなんでしょうか」


佐藤「……」


相馬「これは不思議だね~。案外、種島さんって忘れっぽかったり?」


小鳥遊「そんな子供っぽい先輩も可愛いなぁ……」ポワーン


佐藤「……(……こいつ)」

相馬「まぁでも、種島さんが元通りになってよかったよね佐藤君?」


佐藤「……俺に振るな」


相馬「そんなこと言わないで~。だって佐藤君この前、元気がないから車にでも乗せてやるかって言って早上がりなのにわざわざ待って――」


佐藤「……」ゲシゲシ


相馬「い、痛いっ!!案外スリッパの先って固いんだよ佐藤君!!」


ぽぷら「何話してるの~?」ススッ


小鳥遊「あ、せ、先輩!?何でもないですよ!」アセアセ


ぽぷら「ん~?かたなし君の慌てっぷりが逆に怪しいよ?」ジーッ


小鳥遊「そ、そんなことないですって!」アセアセ

相馬「(他の人の時は勘が良いんだよねぇ種島さんって)」


ぽぷら「あっ、もしかして……。悩み事!?それだったら先輩の私に相談してみなさい!」エッヘン


佐藤「……子供のお悩み相談は仕事外でやってくれ」


ぽぷら「あーっ!私は子供じゃないよっ!かたなし君よりも一つ上だよっ!」


佐藤「はいはい、黙ってこの海藻サラダを運んでこい」


ぽぷら「むぅ~っ……!納得いかないけど行ってくるよ……!」


佐藤「早く行って来い」シッシ


小鳥遊「(先輩の扱い上手いなぁ……)」


相馬「……好きな子ほどちょっかいだすものだよねぇ……」ボソッ


佐藤「……」バチン


相馬「ナチュラルなビンタは滅茶苦茶痛いよ!?」


小鳥遊「(何にせよ、いつもの雰囲気に戻って何より……)」


まひる「おはよーございま――きゃあああっっ!!!」バキィ


相馬「んごふっ!?」ドゴッ


小鳥遊「……」


小鳥遊「……じゃないですね」

――――――――――――――――
【四時 ワグナリア前】



ぽぷら「それじゃあお先に失礼します!」


小鳥遊「お疲れ様です、先輩」


まひる「種島さん、またね」


ぽぷら「うん、ばいばーい!」フリフリ


ぽぷら「ふふ~ん♪」


ぽぷら「……ふっふーん♪」


ぽぷら「……ん~」


ぽぷら「……早上がりなのはいいんだけど、今から家に戻っても何もすることないなぁ……」


ぽぷら「!(そういえばこの前のお礼にまひるちゃんとお買いもの行く約束しようと思ってたんだ)」


ぽぷら「(後でメールしないとねっ)」


ぽぷら「……あ」


ぽぷら「(そういえば、岡崎くんの連絡先、聞いてなかったなぁ……)」


ぽぷら「(……ん~っと……)」


ぽぷら「…………うん!」



―――――――――――――

【学校 食堂】


朋也「……ふぁ」


今日は朝からずっと頭が重く、眠気が取れない。
そのせいか欠伸の一回一回で眠りに落ちそうになる。


朋也「(……この混みようだと、空くまで列に入れそうにないな……)」


普段、学校にいたかと思える程の学生の数が、パン売り場に集結している。
一分一秒の違いでその日の昼食のレベルが変わるのはざらなことだった。


春原「うへぇ。あの人数は、見るだけで嫌になるね」


朋也「おぉ。ようやくお前の顔を毎日見る俺の気持ちがわかったか」


春原「まるで僕が歩くだけで迷惑をかけてる奴に言わないでくれますか!?」


朋也「……?」


春原「お願いですからそこで不思議そうな顔をするのもやめてください……」


一人で怒ったり泣いたり、実に忙しい奴だった。



―――――――――――――――

【放課後 教室】


春原「いやぁ、やっぱり真面目に勉強すると時間が経つのは早いね!」


朋也「お前ずっとノートに落書きしていただけだろ」


春原「ふふん。それが僕にとって将来を分けるほどの重要な勉強となるのさ」


将来何になるつもりなのだろうか。


春原「それでさ岡崎。今日お前暇だろ?」


朋也「暇だけど……。何だよ急に」

春原「僕がしばらくの間お前の相手を出来ていなかったから寂しかっただろ?僕も今日は暇だし遊ぼうぜ」


朋也「……あ」


春原「え?」


春原「ひぎゃあ!!」


春原「ぐぉぉ……!!な、何をするんだよ!?」


朋也「寝呆けてるから目を覚まさせてやろうと思って」


春原「だからって目潰しは真面目に危ないですからね!?」


朋也「そうなのか」


春原にしてはまともな意見を返してきた事に少し関心してしまった。


春原「…………で、今日はどうすんの?」


朋也「……」


朋也「……まぁ、たまにはいいだろ」


春原「そうこなくっちゃね!」


そういえばしばらくの間、遊びという遊びをしていない気がする。
そう思うと、不思議と春原の誘いも悪いようには思わなかった。


――――――――――――――――――

【放課後 校庭】


春ともなると日が暮れるのが遅い。
下校時間の四時過ぎとなっても、まだまだ快晴で、目に入ってくる日の光が眩しい。


「っらー!そっち行ったぞ―!早く取って来い!」


運動部の方も気合十分と行った様子で声を張り上げて活動に精を出している。
しかし、そこまで広くない校庭は野球部やサッカー部と言ったメジャーな部活が陣取ってしまっているため、その他の屋外活動の部活動が窮屈そうだ。


春原「全く、せっかくかったるい学校の授業が終わったなのに何で学校に残ってるんだろうねえ」


至極つまらなさそうな声で春原は誰にともなくそう呟いた。


朋也「……そうだな」


適当に相槌を打つが、俺は春原の顔を見なかった。

春原は元々部活に入っていた。詳しい理由はわからないが、高校で完全にグレてしまう前までは
ばりばりにスポーツをやっていた……らしい。

らしい、と言うのも、俺も完璧にコイツを熟知しているわけではないということの表れだ。


朋也「(……春原に付いて知りたいとも思わないけどな)」

春原「それでさっ!今日はどこへ行こうか!ゲーセン?隣町?」


朋也「俺は別に何でも」


春原「それならたまにはハメを外して裏通りの……。……ぐへへ」






「岡崎くん!」






朋也「っ!?」


毎朝必ず通る校舎の門。授業に中には鉄柵で閉め切って、部外者を通さない壁となっている。
その鉄柵は普通の学生でも視界を阻まれない程度の高さに作っているはずだったのだが。


ぽぷら「おーいっ!こっちだよ~!」


おもちゃを与えた子供の時の様な顔をしたあいつ用の設定にはなっていないらしい。


――――――――――――――

【放課後 坂】


ぽぷら「私、光坂に友達がいるから制服のこと知ってたんだーっ!」


朋也「……へえ」


最初に会った時は制服とかに目がいかなかったんだけどね、と種島は付けたした。

あの状況で制服がどうのと考えられる奴もそうはいないだろう。


春原「……なぁ」


学校を出てからしばらく種島の話に付き合っていると、春原が俺の方に手を置き小声で話しかけてきた。


朋也「いたのか」


春原「『いたのか』じゃないでしょ?!これから誰と出かける約束してたんですか貴方は!?」


朋也「……そんな音量で叫んだら、小声で話してた意味ないだろ」


春原「……あ」


ぽぷら「んん~っ?」


春原「……。……ふ、ふへへ……」


覗き込むようにこちらを見ている種島に、春原は誰でもわかる思い切りの作り笑顔を向けて会釈をすると、
再び俺に視線を向けた。

春原「……どういうことだよ岡崎!?あの子誰!?っていうか何歳!?」


朋也「……知らん」


春原「そんなわけないだろ?向こうはお前の名前知ってたし」


朋也「……」


以前のことを春原に話してはいなかった。
理由は簡単で、コイツに言うとそれを種に茶化してきそうだったし、
事をもっと面倒な方向へと持って行きそうだったからだ。


朋也「(余計な所にだけ勘が良い奴だ……)」


春原「…………まぁ、何にしても」


大きなため息の後、春原はそう切り出す。


春原「僕はここでお暇を頂くとするよ」


お前を雇った覚えはない。

朋也「……って、何言ってんだお前」


春原「いいっていいって。僕たちの仲じゃないか。今度僕の分の学食、また奢ってくれればそれでチャラにするさ」


朋也「……おい、決定的な勘違いしてるぞ」


春原「恥ずかしがるなって!……後でどうなったか教えろよ?それじゃ!」


朋也「お、おいっ!」


気持ち悪い笑顔を俺に向けながら親指を立てる春原。
やたらと満足げな表情なところが余計に腹が立つ。


ぽぷら「……岡崎くん?」


朋也「っ!」


ぽぷら「えっと……友達の人、帰っちゃったの?私、邪魔しちゃったかな?」


朋也「……友達じゃないし、別に迷惑でもねえよ」


ぽぷら「そ、そうなの?」


朋也「(そんな落ち込んだ顔をされたら、否定しないわけにはいかないだろ……)」

ぽぷら「あっ。そうだっ!今日はね、岡崎くんの連絡先が教えてほしくって会いに来たんだ!」


朋也「連絡先……?」


ぽぷら「うんっ!携帯電話のメールアドレスとか、電話番号とか、交換したいんだけど……いいかな?」


朋也「……悪いが、俺は携帯電話を持っていないからそれは無理だな」


ぽぷら「ええ!?そうなの!?」


朋也「そんなに驚くことでもないだろ」


一歩後ずさりされると、どう反応していいのかわからなくなる。


ぽぷら「あわわわわっ……。ご、ごめんね!それなら家の電話とか教えてもらってもいいかな?
あっ、これは迷惑じゃなかったらでいいんだけどね?」


朋也「……。っつーか、俺と連絡先何か交換してどうするんだよ」


ぽぷら「へ?」


朋也「俺なんかそこらにいるチンピラと同じだよ。また前と同じような目に会いたくないだろ?」

ぽぷら「そ、それはいやだけど……岡崎くんは良い人だから大丈夫だよ!」


朋也「……何を根拠にそんなこと言ってるんだ?」


ぽぷら「私を助けてくれたよ?」


何の屈託もない目。
俺のことを少しも疑ったりしていない。そんな顔だ。


朋也「……あれは偶然だろ」


ぽぷら「偶然でも、私はすっごい嬉しかったから!」


朋也「……」


ぽぷら「それに、私が岡崎くんと仲良くなりたいって思ってるだけだから、だいじょぶだよっ!」


朋也「……仲良く?」


ぽぷら「……あ」


ぽぷら「あっ、そ、その。別にその、違うからねっ!そういうことじゃないよっ?」


朋也「(一人で何を慌ててるんだコイツは……)」


ぽぷら「……そ、そういうわけで!岡崎くんがいいなら連絡先教えてほしいんだ!」


朋也「……」


ぽぷら「…………岡崎くんが良かったらだけど……」



――――――――――――――――――

【夜中 朋也宅】



朋也「……はい」


ぽぷら「はいっ!岡崎さんのお宅ですか?私は……」


朋也「……種島だろ」


ぽぷら「あっ、岡崎くん!良かったー!夜遅くなのにごめんね?」


結局、教えてしまった。俺はどうも、押しに弱いらしい。
深夜にしか掛けてこないという条件付きだったが。


ぽぷら「えへへ、合ってるかどうかの確認の電話です!」


朋也「それはよかったな」


親父は一度寝たらほとんど起きてこない。
毎日毎日酒を浴びるように飲んでから気を失う様に眠りにつくからだ。

だから、夜は安心できた。

朋也「……で、用件はそれだけか?」


ぽぷら「あ、ちょっと待って!」


朋也「まだ何か?」


種島は壮大な勘違いをしていた。ある意味、春原以上の。
それは俺にとっても、種島にとっても、良くはない勘違いだった。


ぽぷら「その……。今度の日曜日とか空いてるかな?」


朋也「……特に用事はない」


俺に予定がある日自体珍しい。
あったとしても、春原とぶらつくか、それくらいだ。


ぽぷら「そ、そ、それじゃあ!その……。私の買い物に、付き合ってもらってもいいかな?」


朋也「買い物?」


ぽぷら「うん!隣町までちょっと行くんだけどね、一緒に来てもらえたら嬉しいなって!」


朋也「それなら俺より女友達と言った方が良いと思うんだが……」


ぽぷら「ううん!えーっと……。重い荷物とか持つかもしれないから、えっと……」

朋也「……」


ぽぷら「……うぅ」


朋也「何時からだ?」


ぽぷら「……え?」


朋也「行くなら朝か昼からか、どっちかだろ?時間とか決めなくていいのかよ」


ぽぷら「っ!それなら、12時に駅前でいいかな?」


朋也「問題はない」


ぽぷら「ありがとう!楽しみにしてるよっ!」


朋也「……それじゃ、時間も時間だし。俺はもう寝る」


ぽぷら「あ、うん!こんな夜にありがとね!」


朋也「(……俺がどんな人間なのかわかったら、勝手に離れていくだろ)」

ぽぷら「それじゃあ、岡崎くん、お――」


朋也「……!」


『おやすみ』
最後に種島がそう挨拶したが、俺は返さず、すぐに受話器を戻した。


「……朋也くん?」


朋也「……」


床が軋む音と、扉が開く音。
その二つの音と共に、低い声が俺に向けられた。


直幸「いやはや、今日は少し乾燥しているね。喉がカラカラに乾いてしまったよ」


朋也「(……)」


直幸「友達かい?」


朋也「……誰でもいいだろ」


声が勝手に出ているような感覚。
ある特定の人間に対しては、そうなるように決まっているような。
そんな錯覚が俺を苛ました。


直幸「でも、こんな夜遅くまで起きていると、身体を壊してしまうよ?夜更かしも、そこまでに――」


朋也「っ!!」


最後まで聞きたくなかった。
気付いたら目の前の壁を叩いていた。

その時に見せた顔はどう反応したらいいのか分から無い、と言ったような困った顔で。


朋也「……そんなこと、アンタに言われる筋合いなんて無い」


直幸「……」


静まり返った空間に居たくなかった。
俺はそれ以上何もいうことなく、部屋へと戻る。


直幸「……」


後ろから再び声をかけられることは、なかった。
それが、残念なのか、安心したのか。俺には、わからない。

――――――――――――――――

本日の更新分は以上です。


>>187

一週間も遅れてしまい、本当に失礼しました……。
実は今まで学祭期間中でして、時間がありませんでした……。


これからも少々忙しい日が続きますので時間がかかるかもしれませんが、ぜひ更新した日は楽しんで読んでいってもらえると嬉しいですっ!


>>192

そんなに読んだら粗がすっごく目立ってしまう//
ってのは冗談でありがとうございますっ!素直にうれしいです!


読んでくださっている方々ありがとうございます!
できるだけ早めに更新できるように、私、頑張るよっ!

それではおやすみなさいですっ!

うわぁぁ……。すいませんです。
詳しい話は知らない=理由はある程度知ってるけどどう言われたかなど知らない。
って言う意味だったのです……。

私はいつもいつも独りよがりな描写で読んでくださっている方々を困惑させてしまっていますね……!反省します。ごめんなさい。

指摘ありがとうございます!

うわぁぁ……。すいませんです。
詳しい話は知らない=理由はある程度知ってるけどどう言われたかなど知らない。
って言う意味だったのです……。

私はいつもいつも独りよがりな描写で読んでくださっている方々を困惑させてしまっていますね……!反省します。ごめんなさい。

指摘ありがとうございます!

更新が滞っていて本当に申し訳ございません……。

ちょっとプライベートの方がごたごたしていてなかなかPCに向けない状態です……。

それでも少しずつ書き溜めて言っているので、近々今まで位の更新ができそうです。

待たせてしまっている分、なるべく多くの更新をしたいと思います。よろしくお願いします……。

あと少しです……。あと少しでUPできます……!っていうか頑張って日曜日までにアップしたい……!もう少々お待ちを!本当にお待たせしてすいません……!

とうっ
今、完璧ちんこ、天井に触れたぜ。
でも、本気は出してないよ。本気出したら、制服破けちゃうからね。

さてもう少しだけ待とうか

>>235>>234さん

何とお詫びをすればいいのか……。本当に申し訳ございません。

ただ、一つ言わせてくださいっ!

もう書き溜めはあるんです!投下するだけなんです!!

……なのに投下する時間すらない最近です。
時間を見つけて即座に投下します。ぬぉぉ……何とかしないと……

――

【駅前広場】


朋也「(遅い……)」


週末、駅前は閑散としていた。
人通りはほとんど無く、商店街に並ぶ数店がこっそりと商いを行っている程度だ。

昼時であるのに、駅のホームに出入りする人もまばらである。


朋也「はぁ……」


そして、種島が俺に指定してきた時間が過ぎて、30分が経つ時間でもある。


朋也「(寝坊でもしたのか?)」


他に疑う選択肢があまり出てこなかったので、そう断定することにする。


朋也「(……たく)」


飲んでいた缶コーヒーも空になった。
ひんやりと冷えた感覚が手に伝わって、時間がたっていることを改めて自覚させられる。

朋也「(……捨ててくるか)」




「だ~れだ!」


周囲を見ても来る気配はなかったので、とりあえず捨てに行こうとした時、



朋也「……お前、ここで何をやってるんだ?」


山田「山田、『ははは~、こいつぅ~!』というような愛のある反応がほしかったのに!岡崎さんは女心を分かっていません!」


急に出てきて何を言っているんだコイツは。


朋也「そんなことより、何でお前がここにいる」


山田「女心を『そんなもの』呼ばわりはひどいですっ!」ガビーン


話が進みそうな気配はない。

「ご、ごめんね山田さん、遅れちゃ――」


山田「おぉっ!伊波さん、おはようございます!」


「――って……」


朋也「(誰だこいつ……)」


勝手に肩を落としている山田への対応に困っていると、今度は駅から知らない女が走ってくる。
ショートの茶髪で、動物柄のヘアピンを付けた同年代くらいの女子だ。


まひる「や、山田さん……えっと……、その人が、その……」


山田「はいっ!今日荷物持ちを担当してくださる岡崎さんですっ!」


まひる「……こ、こんにちは。今日は、よ、よ、よろしくお願いします」


深々と頭を下げられるが、何故かその距離感は10m以上離れていた。
そこまで警戒されるような人間と言われているのか。


朋也「(……というより)」


今の状況が中々把握しきれない。
種島が来るはずなのだが、なぜコイツらが?

朋也「……山田、ちょっと聞いていいか?」


山田「はい?何でしょう?」


山田「あっ、ちなみに今日の朝ご飯はしっかりワカメの味噌汁とご飯を食べてきましたっ!」


全く聞いていない。


朋也「今日って、種島が――」


「ごめんなさ~いっ!!」


山田に尋ねようとした時、再び駅の方から声が聞こえた。
今度は、聞いたことのある声で、昨日受話器越しに聴いたはずの声。


ぽぷら「わ、私ったら昨日眠れなくて!!」


ふわふわとした若草色と白色のワンピースを着た種島が急ぎ足でこちらに向かってくる。


朋也「(誰もいないからって叫びながら走って来るなよ……)」



まひる「た、種島さん、そんな急いで来たら転んじゃうよっ!」


ぽぷら「だいじょーぶだよー!」


所々寝癖ではねた髪をふわふわと浮かしながら走ってくる種島の足は、何かとても危なっかしさがある。


ぽぷら「はぁ、はぁ……っ。ほんっとにごめんなさいぃ……うわわっ!」


足をふらふらとさせながら近くまで歩いてこようとする種島の足が段差に突っかかった。


まひる「あ、危ない――っ!」


朋也「(お前もだろ)」


種島を支えようとした伊波とかいう女も危なかったので、俺が後ろから肩を支える。


朋也「(……何だこれ)」


傍から見たら子供を支える姉、そして男という微妙な光景だ。
肩を支える手から柔らかな感覚を受けながら、そう思った。

朋也「予想通り過ぎるんだよ、お前は」


ぽぷら「え、えへへ……」


恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる種島。
どうやら怪我はないようだ。


ぽぷら「あっ、伊波ちゃん、ありがと……って、岡崎くん!!!」


まひる「……」


ぽぷら「は、早く岡崎くん、伊波ちゃんから離れて!!」


山田「お、岡崎さんの方が危ないですっ!」


血相を変えて二人が俺にそう言ってくる。
何のことか全くわからないが、ただ事ではないと悟る。


朋也「……?……何言って――ぐぶっ!?」


まひる「い、いやああああああああああああああああ!!男ぉぉおおおおおおっっ!!!」


その瞬間、俺の視界に真っ青な空が広がった。


――

【電車内】


ぽぷら「岡崎くん、どこか痛いところある?」


岡崎「……別に」


まひる「えぇっと……」


何が起こったのか、最初は理解できなかったが。
どうやら俺はアッパーをもろに食らったらしい。


山田「まぁ、岡崎さんもこれで一つ利口になったということですね」


岡崎「絶対に何も変わってはいない」


種島が持っていた絆創膏を顎に貼る。
電車の窓に映る自分の姿はとても滑稽に見えた。

まひる「お、岡崎さん?ごめんなさい……」


冷や汗をかきながら謝るにしては少々距離を置き過ぎだ。


ぽぷら「伊波ちゃんは悪気はないんだよっ!ただね、少し男の子が苦手なだけでね!」


朋也「気にしてないから、別にいい」


まひる「うぅ……」


これ以上、伊波に気を遣わせるのも悪いと思ったので、とりあえずは置いておくことにした。


山田「流石岡崎さんですっ!怪我し慣れてるからこそ言える発言です!」


朋也「そんなものに慣れた覚えもない」

山田にいつまでも付き合っていてもらちがあかなかったので、無理やり話を切り替える。


ぽぷら「あ、うん!今日はもうすぐお店でイベントがあるから、それに必要な道具を買いに行きたいんだよ!」


朋也「イベント?ファミレスでそんな大がかりなことをするのか?」


山田「ふふふ……岡崎さん、ワグナリアをそんじょそこらのファミリーレストランと思って侮ってはいけませんよ!」


まひる「や、山田さん!そんな挑発的なこと言ったらだめだよ!」


ぽぷら「ううん、うちのお店だけがやるイベントなんだけどね?春のさくら祭りっていうんだよ!」


朋也「桜……」


そう言えば、いつも通る坂道は春になると満開の桜が咲いていた。
そこには学生だけでなく、近隣の人間たちも見に来ていた気がする。

ぽぷら「そうそう!岡崎くんの通ってる光坂高校に向かう坂道に、桜咲いてるよね?
その桜ってこの近くでは有名なんだよっ!」


山田「だから、その桜を盛り上げようってことでやるみたいですよ!」


ぽぷら「や、葵ちゃん!それ私が言おうとしてたの~!」


山田「いいところを取っていくのが主人公ですっ」


ぽぷら「も~っ!!」


まひる「そ、それじゃあ着いたみたいだから、その……」


ぽぷら「あ、そうだね!ごめんね伊波ちゃん!それじゃあ行こーう!」


まひる「う、うん……」


山田「岡崎さん!今日は荷物持ちをよろしくお願いしますよっ!」


朋也「はいはい……」


馴れ慣れしく肩を叩いてくる山田を無視して、変わっていく外の風景を眺めていた。

――

【ショッピングモール】


電車で数十分程度でつく隣町の栄え方は、光坂高校周辺とは目に見えて違う。
流石は休日なのか、稼ぎ時とあってショッピングモールにも多くの客がいるようだった。


山田「うわーっ!人が沢山いますねー!」


朋也「これだけでかいショッピングモールに人がいなかったら逆に怪しいだろ」


山田「それより、山田は将来このくらい大きな家に住みたいです!」


恐らく世界で一番金を持っている人間でも難しいだろう。


まひる「お、男の人が、そこらじゅうに、え、ええと……う、うぁぁ……」


ぽぷら「い、伊波ちゃん大丈夫っ!?伊波ちゃんは予定通り、女の子向けの飾りを見てきて大丈夫だからねっ!」


まひる「う、うん……。ごめんね、私だけ楽してるみたいになっちゃって……」


ぽぷら「そんなことないよっ!伊波ちゃんが一緒に来てくれるだけで嬉しいよっ!」


まひる「た、種島さん……」

ぽぷら「だから、気にしないでね!後でちゃんと一緒にお買いものしよーねっ!」


まひる「う、うん!ありがとうっ!」


ここに来るまでに聞いた話なのだが。
どうやら伊波は大の男嫌いとのことだ。


ぽぷら「それじゃあ、こっちの買い物が終わったら連絡するねっ!」


山田「伊波さん、一人でいいですか?良かったら山田もお伴しますよっ!」


まひる「ううん!大丈夫っ。山田さんは種島さんのお手伝いしてあげて!……お、岡崎さん、またあとで!」


朋也「……あぁ」


朋也「(相変わらず物凄い距離感だな……)」


本人はどうやら直そうと努力してはいるようだが、中々そう簡単にいかないらしい。
いつもは唯一耐性のあるバイト先の小鳥遊という男が世話をしているようだが今日は家族の用事で来れないそうだ。

朋也「(まぁ、そんなことは俺には関係ないことなんだが……。また殴られたくは……ないな)」


どうやら俺が呼ばれたのも、その代役としてということらしい。


山田「種島さん種島さん、私たちはこれからどうしますか」


ぽぷら「うーんとねー、……最初は飾りつけに必要な折り紙とか文房具を買いに行きましょー!」


殴られた顎をさすりながら、そんなことを考えていると。
どうやら最初に何をするか決まったようだった。


ぽぷら「岡崎くん、それでいいかな?」


朋也「俺のことは気にしなくていい。どうせ荷物持ちだしな」


ぽぷら「に、荷物持ちって言ってもね、岡崎くんにもどういう風に飾り付けたら良いかとか聞きたかったから誘ったんだよ!」


必死に取り繕おうとする種島。
別に俺は何も気にしてはいないんだが。


山田「そうですよっ!ただ岡崎さんにこの後ソフトクリームを奢ってもらうために呼んだとか、そういうわけじゃないですよ!」


朋也「絶対にアイスなんて奢らない」


山田「そ、そんな!何で私の計画がバレたんですか!」


朋也「……」


女版春原が誕生した瞬間だった。

【雑貨店】


ぽぷら「窓に貼る時って、セロテープだよね?」


山田「でも、確か大きなポスターを貼る予定もありましたよね?大きなテープも買っておいた方が良いんじゃないですか?」


ぽぷら「あっ、それもそうだねっ!」


ショッピングモールにある大手の文房具店に入ると、早速俺は灰色の買い物籠を持たされる。


山田「あっ、種島さんっ!この手帳可愛くないですかっ!」


ぽぷら「ほんとだーっ!動物柄ってやっぱり可愛いね~っ!」


他愛もない会話を交えながら、少しずつ商品を籠に入れていく光景を、俺はただ黙って見ている。
最初は軽かった籠も、段々と重量を上げて存在感を無視できなくなって来る。

山田「あっ、このペン、山田は丁度欲しかったんです!」


山田「種島さん種島さん、私、一人でこれを買ってきてもいいでしょうか」


ぽぷら「うん、もちろんだよ~っ!」


朋也「(おいおい……)」


正直な話、後にしろと言いたかったが、それはやめておいた。


山田「本当ですかっ!それじゃあ行ってきます!」


山田「岡崎さん、しっかりと荷物持ちやってくださいねっ!」


嬉々としてレジへ向かおうとした山田は突然ピタッと止まり、俺にそう通告してきた。


朋也「籠持って立ってるだけなのに、サボるわけないだろ……」


山田「それもそうですねっ」


小さく頷いてから、山田は少し奥の方にあるカウンターの方へ歩いて行った。

ぽぷら「……岡崎くん」


それを見送ったかと思うと、種島が名前を読んでくる。


朋也「ん?」


ぽぷら「ごめんね、私の用事に、岡崎くんも付き合せちゃって……」


朋也「……」


眉を下げて俺にそう言ってくる種島。
俺がそこまで詳しく聴かなかったことで、しかも特に用事もなく暇だったから、暇つぶし程度に考えていただけ。


朋也「……俺は何もすることがなかったから別にいいんだよ。気にするな」


朋也「(別に期待していたとか、そういうことはなかったが……)」


最初は、最初は二人でどこかに行くと思っていた。
だが今考えてみると、ほとんど面識のない男と、しかも俺なんかと二人で何処かへ行くというのは全くもって可笑しいことだ。

ぽぷら「う、うん」


少し怖じ気づきながら頷くと、種島に再び笑顔が戻る。
何だか、いつもアホみたいに笑っているこいつが違う表情だと、俺もやり辛くなる。


ぽぷら「……あっ、そうだ!荷物持ちも大変でしょ?私でよかったら半分持つよ!」


朋也「いや、別にいい」


ぽぷら「ううん!それでもきっと疲れてきちゃうから!私も持つよ!交代で持とうよっ!」


朋也「面倒だからそんなことはしなくていい。お前は買い物に集中しろ」


ぽぷら「う~っ……。でも、それじゃあ岡崎くんに悪いよ!」


朋也「俺が悪いと思っていないから悪くない」


ぽぷら「う~っ……」


朋也「荷物係として呼んだのにそこを気にしてどうするんだよ」

ぽぷら「そうだっ!それじゃあ私が籠を半分持つよ!」


朋也「半分持つ……?」


ぽぷら「うんっ!持ち手を片方貸して!」


朋也「……?」


ぽぷら「はいっ!これで問題ないよっ!」


ぽぷら「それじゃあお買いもの続けよっか!」


朋也「……」


ぽぷら「岡崎くん?」


朋也「問題大ありだろっ!」


ぽぷら「えぇ~……」


朋也「これじゃあ横一列に並ばないといけないだろ!」


ぽぷら「このお店は通路が広いから良かったね~」


朋也「(そういう問題じゃないだろうが……)」


山田とは別の意味で、こいつもアホな奴だった。


――

まだ書き溜めはあるのですが、時間も時間ですのできょうはこの程度にしておきます。

お待たせして申し訳ございませんでした……。


もうしばらく、私の妄想を見てやってください……!それでは、今日は失礼します。良い夢を。

PCをMACにしたので報告&実験&クッキー作成っ!W

ノートPCなので隙間時間に投下できるようになるはず……!W

【木工具店】

ぽぷら「ふわぁ~……。木の良い匂いがするよ~」


朋也「(……良い匂い?)」


シンナーの香りや鉄の匂いの混じったこの臭いに、俺はそうは評価できない。


山田「岡崎さん、岡崎さん」


朋也「ん?」


山田「これを両手で持ってください」


俺の服の裾を持ちながら、山田は木材の光沢付けに使う薬剤を俺に手渡してくる。
水に溶かして使う粉末タイプのようで、ずっしりとした重みを片手に感じる。


山田「それで、もう片方の手にはこれです」


朋也「……ティッシュ?」


そのまま待っててください、と残し、山田は向かいの商品棚の陰に入ってしまった。


朋也「……?」


山田「あぁっ!ともちゃん!何をやっているのですか!」


朋也「……は?」


そして、小走りになってこちらへ来たかと思うとわけのわからないことを話しだす。


山田「薬はやめなさいってあれほど言ったのに……!私はともちゃんをそんな風に育てた覚えは……!」


朋也「……」


山田「でも、大丈夫。私はともちゃんを見捨てたりしませんから……っ!」


朋也「はぁ……」


山田「あ~!商品を棚に戻さないでください!」


朋也「何をやっているんだお前は」


山田「悲劇のお母さんごっこです!」


朋也「……」


予想の斜め上を行く返答だった!


山田「山田はいつも子供役なのでたまには親の気分も味わってみたかったのです!」


目からほんのりと涙が浮かんでいるのは、どうやら目薬を細工して来た結果らしい。


朋也「わけのわからないことをするな」


山田「山田にはわけがわかりますよ!」


このままでは、嫌でも注目を浴びてしまう。
物足りなさそうな顔をする山田を無理矢理引きはがし、商品を元に戻す。


山田「あーっ!まだ、終わってませんよ!」


朋也「……種島、買い物はいいのか?」


ぽぷら「うぇっ?」


後ろで俺の服の裾を握って訴えてくる山田は無視しておくことにする。


ぽぷら「えっとね、一応頼まれたものは見つけたんだけどね?……ちょっと……」


朋也「?」


何か歯切れの悪い区切り方をする種島の目線は、一つの方向に固まっている。
チタン製の商品棚に置かれた無骨な商品の列の向こうだ。

朋也「……。お前のバイト先の店長は、相当鬼の様な人間なのだろうな」


ぽぷら「そ、そんなことはないんだよっ!」


置かれていたのは、おおよそ70cm程度に切り分けられた長方形の木材だった。
犬小屋を造るのに最適と、大きく銘打ってある。


朋也「どう考えても女子3人に行かせる買い物じゃないな……」


山田「だから岡崎さんを呼んだのですよ!」


朋也「バイト先に他の男はいないのか?」


山田「小鳥遊さんの他に、あと二人と音尾さんがいます!」


相変わらず、『オトオさん』の名前が出てくるが、誰かは分からない。
そして何でその二人とオトオさんを分けて言ったのかも分からない。


朋也「……ん?待てよ?お前ら今日俺を誘ったのって男手が足りないからじゃないのか?」


山田「それは種島さんが岡ざ––」


ぽぷら「わ~っ!わ~っ!!っあ、葵ちゃん、ほら、ほら!あ、あ、あそこにたこ焼きがあるよ!」


山田「っ!!山田、たこ焼き大好物ですっ!!!」


山田が俺の名前を言ったのかと思ったが、途中で耳まで真っ赤にした種島がそれを遮る。


朋也「(……そこまで暑いか?)」

山田「岡崎さん岡崎さん!山田、たこ焼き大好物なんですっ!」


朋也「それは今さっき聞いたぞ」


山田「山田、実はたこ焼きを赤ん坊の頃に食べて以来なんです……」


赤ん坊の頃に食べた味を覚えているのだろうか。


朋也「……奢らないぞ」


山田「はっ!山田、また心の声を聞き取られてしまいましたっ!」


誰がどう見ても丸わかりだった。


山田「岡崎さん、プライベートの侵害ですっ!ひどいですっ!罰として奢ってください!」


朋也「結局奢ってほしいだけなのかお前は」


ぽぷら「そ、そういえば私もお昼ご飯食べてないしっ!私が買ってくるから皆で食べようよっ!」


ぶんぶんと腕を振り回してくる山田の頭を掴んで止めていると、種島が慌ててそう切り出してくる。


朋也「……」


俺と目を合わせようとはしない種島は、やはりまだ頬に赤みを帯びていた。
買い物を始めて2時間弱だが、少し疲れてしまったのだろうか。


朋也「……ったく」


朋也「(……やっぱり、慣れない面倒は見るもんじゃないな)」


早足で先に行ってしまった種島を追いかけながら、素直にそう思った。

––

【フードコート】


山田「ふぃ~……結構歩きましたね。山田、少し疲れちゃいました」


まひる「大変な買い物ばっかり任せちゃってごめんね?帰りはちゃんと私が持つからねっ」


山田「いえ!可愛い物が沢山あったので、つい買いこんじゃっただけですっ!」ジャラ


まひる「(それって個人的な買い物なんじゃ……)」


ぽぷら「お待たせ~っ。飲み物買ってきたから皆でいただこ~っ」トン


山田「うわぁ~っ!種島さん、神様ですかっ!」チュー


ぽぷら「あははっ、それは大げさだよ~」

ぽぷら「はい、伊波ちゃんの分!苺でよかったかな?」


まひる「あ……、ありがとう種島さんっ。ごめんね?店員の人が女の人だったら私も行ったんだけど……」


ぽぷら「いーえーっ!もーまんたいだよっ!」ニコッ


山田「伊波さん、少し元気ないですね。疲れちゃいましたか?」


まひる「う、ううん。私たちは休んでるのに、岡崎さんに買い物に行かせちゃってもいいのかなって思って……」シュン


山田「重い物だから一人で行くって言ってくれたのは岡崎さんですからっ!」


まひる「そ、そうなのかな……」


山田「そうですよ!私たちはたこ焼きを食べながら優しく岡崎さんを迎え入れましょう!そうですよね?種島さん!」


ぽぷら「ふぇっ?あ、そ、そうだね!」ソワソワ


伊波「(……種島さん、何かソワソワしてない?)」ヒソヒソ


山田「(……?そうですか?)」チュー

まひる「(……まさかとは思うけど、山田さん……。何かあったりした?)」ヒソヒソ


山田「(岡崎さんにたこ焼き買ってもらいました!)」パクッ


まひる「(そ、それだけじゃないでしょ?)」


山田「(……んーと……。あっ、さっき岡崎さんに何で岡崎さんのことを買い物に誘ったのかって聞かれました!
それに答えようとした時に種島さんがたこ焼き屋さんを見つけたんですっ!)」


まひる「(どう考えてもそれだよっ!!)」ずーん


山田「(?)」


ぽぷら「お、お手洗いっっ!」


まひる「!?」


ぽぷら「え、えっと!ちょっと私、お手洗い行ってくるね!すぐ戻るから!」


まひる「あっ!ちょ、ちょっと!種島さん!……行っちゃった」


山田「種島さん、トイレ行きたかったんですね」ひょいっ ぱくっ


まひる「多分、それは違うよ……」

––

>>284


『伊波「(……種島さん、何かソワソワしてない?)」ヒソヒソ 』

ではなく、

『まひる「(……種島さん、何かソワソワしてない?)」ヒソヒソ 』


です……。誤字失礼しました。

【木工具店】


朋也「ここまで買うと、流石に重いな……」


種島に疲れの色が見えたので、フードコートの中にあるたこ焼き屋に先に行かせることにした。
どの道、ここで買う物は種島たちに持たせるには重すぎる物ばかりだったし、丁度良かった。


朋也「それにしても、こんなものを何に使うんだか……」


木材に、文房具。そして伊波が向かった女子用のアンティーク専門店。
『サクラ祭り』を行うと言っていたが、これらの何を行うのかさっぱりわからない。


朋也「(まぁ、バイトなんてしたことない俺には分からないだけかもしれないが……)」


ぽぷら「お、岡崎くんっ!」


朋也「!」


会計を済ませ、レジ袋に物を詰め終わる。
その時に、後ろから種島の声が響いて来た。


朋也「何だ?買う物は買ったから戻る所だったんだが……」


ぽぷら「はぁ、はぁ……。あ、ありゃ?終わっちゃった?えへ、えへへ……」

息が上がっている上、やたらと言葉がたどたどしい。


朋也「……疲れたのなら待ってれば良かったろうに」


ぽぷら「ま、まだ疲れたわけじゃないよ!いつも友達と買い物にくる時も、もっと買い物するしっ!」


朋也「そ、そうか」


さっきから何を慌てているのか。


朋也「伊波と山田を待たせてるんだろ?さっさと行くぞ」


ぽぷら「あ、わ、私が持つよ!」


朋也「……お前は何の為に先に行かせたか分かってないな……」


ぽぷら「う、うぅ……」


さっきから一体何が起きたというのか、種島の言動に落ち着きが無いように見えた。


朋也「……もういいから、早く行くぞ」


まだこいつの事を知ってからそんなに時間はたっていない。
だが、何となくどんな性格をしているのか分かった気がする。

不良に絡まれた時もそうだったが、後先考えずに何かをしてしまう様な奴なんだと思う。
だから、ただ我慢して言わないだけだ。本当は、きっと疲れているのだろう。


ぽぷら「あ……っ」


朋也「……どうした?」


ぽぷら「え、えと……お、思い出した!!私はまだ買い物あるから!」


朋也「メモにはこれ以上の物は書いてなかったぞ?」


ぽぷら「さささ、さっきメールがあって、追加があったんだよ!」


朋也「……おい、お前さっきから変だぞ」


ぽぷら「へ、変じゃないよ!!それじゃあ私は行くから岡崎くんは先に伊波ちゃん達と休んでてね!!」


全て言い終えない内に反転すると、種島はエスカレーターの方へ走っていく。
長いポニーテールがふわふわと揺れて


ぽぷら「ぅぇっぷ」


種島がコケると共に床の方に沈む。


ぽぷら「……っ!……大丈夫だからねっ!」


ぱたぱたとワンピースの膝部の汚れを払ってから俺の方に振り向き、そうジェスチャーを送ると再び走り出す。
あっという間に人ごみに紛れて見えなくなった。


朋也「……」


本当に面倒ごとに首を突っ込んだもんだ。
我ながら、呆れてしまう。

––

【フードコート】


山田「おひゃざきひゃんにひゃねひまひゃん、おひょいでふねぇ」ぱくぱく


まひる「あ、葵ちゃん、飲み物飲みながら喋っちゃだめだよ!」アセアセ


山田「ぷはっ!それより岡崎さんがお金を出してくれたたこ焼き、早く食べましょう!」


まひる「や、山田さんっ……。岡崎さんの分も残しておかないと駄目なんじゃないかな……?」オロオロ


山田「いいえっ!きっと岡崎さんは食いしん坊ですから戻って来たらあっという間に無くなっちゃいますよ!」グッ


朋也「……どんな憶測だ」ゴン


山田「~っ!」ジンジン


まひる「ひっ!」ビクッ


朋也「……荷物はとりあえずここに置かせてもらうぞ」


山田「岡崎さんっ!後ろから急にげんこつなんて痛いですっ!それは痛いに決まってます!」


朋也「俺はお前の前でそんなに食い散らかした覚えは無い」


山田「もう私決めました!岡崎さんは小鳥遊さんと同様に私のお兄さんになる権利はあげませんっ!」


朋也「そんなものいらん」


まひる「……(山田さん、たくましい……)」

山田「あれ?そういえば種島さんは?」


まひる「あ、本当だ……。……お、岡崎さん。種島さんを見ませんでしたか?」


朋也「……何か追加で買って来いという連絡が来たから一人で行くんだと」


まひる「……っ!?」


山田「へ?種島さんはお手洗いに行くと言っていたのですが、何で岡崎さんが?……はっ!まさか、岡崎さん、のぞ––」


岡崎「……」ゴン


山田「~~~っ!!」ジンジン


まひる「……っ」


朋也「……どうかしたか?」


まひる「え、えっと……。多分、なんですけど……」


まひる「……本当は、小鳥遊君に頼まれてた物だから、種島さんに連絡が行くはずがない……と思うんですけど」


朋也「……は?」


––


【ゲームセンター】


ぽぷら「……あ~も~……っ」


本当は、買い物なんて無いのに……。岡崎くんに嘘をついちゃった。


ぽぷら「……はぁ」


小鳥遊くんが家族の用事で来れなくなった。
残念そうにしてた伊波ちゃんの為に、別の日にしようと思ったんだけど。

なんでか、岡崎くんの顔が浮かんだから誘ってみちゃった。


ぽぷら「(私、最低だなぁ……)」


迷惑そうにしてたし、本当は小鳥遊くんが頼まれてたお使いだったのに。
無理言って私たちが行くなんて言っちゃって。結局岡崎くんに頼りっ放しだし。


ぽぷら「ぁ~~……」


思わず恥ずかしくなって逃げて来ちゃったけど……。岡崎くんも怒ってるよね……。


ぽぷら「……あれっ?」


ここって、ゲームセンターだ。
音がする方にふらふら入っちゃった。

ぽぷら「わぁ……」


すぐに目に映ったのはUFOキャッチャーコーナーだった。
すっごい可愛い熊のお人形やお菓子のお人形が沢山ある。


ぽぷら「(可愛いなっ……)」


ついガラスに手を付けて中を見る。
それから慌ててハンカチで跡を拭く。その繰り返し。


ぽぷら「(……あっ)」


順々にガラスの中を覗いていって、奥の奥にさしかかった時。
古くて小さなUFOキャッチャーが目に入った。


ぽぷら「(昔のやつなのかな……?)」


少しくすんでしまった白い筐体。
他のものより背も小さくて、……自分で言うのは嫌だけど、身長も私くらい。




ぽぷら「……?」


中に入っていたのは、他の景品とは違った、丸くて、黒いお目めが二つ付いた人形のついたキーホルダー。
ガラスに貼られた『現品限り』っていうポップに書いてある通り、もう残りは一つだった。


ぽぷら「だんご大家族……?」


そういえば、こんな名前の番組が昔やってた気がする。
私も、よく見てた番組だった。


ぽぷら「……」


ぼーっと見てるとちゃりん、とお金の音がした。
それと同時に、音楽が始まる。

ぽぷら「お、岡崎くん……?」


朋也「……」


岡崎くんが、目の前にいた。
何でか分からなかったけど、邪魔しちゃ駄目だって思って押し黙る。


ぽぷら「……!」


奥にあったと思った最後のキーホルダーは、上手くアームに引っかからない。
ころん、と少し前の方に転がっただけだった。


朋也「ちっ……」


それから、また岡崎くんはお金を入れる。
音楽が始まる。


ぽぷら「……え、えっと」


朋也「黙ってろ」


ぽぷら「っ」


何回かやった後、小銭が無くなったみたいで、両替機へ足を運ぶ岡崎くん。
それから、またお金を入れる。


ぽぷら「や、やった……!」


10回くらいやった時。
ちょっとずつちょっとずつ前に出て来たキーホルダーは、ようやく取り出し口に落ちてくる。
私も、思わず声が漏れた。


朋也「……はぁ」


ため息をつきながらそれを取った後、岡崎くんは私の方を向いて沈黙する。


ぽぷら「あっ……」


そういえば、私はずっと皆を待たせてたんだ。
何をやってるんだろう。どう考えても私がここにいる事に理由なんてない。


ぽぷら「ご、ごめんね!岡崎くん!あの––」


朋也「……小さくて見えなかったぞ」


ぽぷら「へ?」


慌てて私が謝ろうとしたら、岡崎くんはそう言った。
私は今、どんな顔をしているんだろう。きっと目を見開いて、よくわからない表情をしているんだろうと思う。


朋也「伊波達も探してる」


私が返事をする前に、岡崎くんはそう付け加えて、キーホルダーを差し出してくる。


ぽぷら「え……?」


朋也「これを俺が使うと思うか?」


ぽぷら「え?えっと……?」


朋也「……はぁ。……暇つぶしにやったら取れた。だが俺は使わない。それじゃあこれは捨てるしか無いんだが」


ぽぷら「ひ、暇つぶしって……。って、捨てるのは駄目だよ!可愛いよっ!」


朋也「そうは言っても、俺は使わないんだが……」


ぽぷら「……!」


朋也「……」


ぽぷら「え、えっと……。そ、それなら。私がもらっても……いい?」


朋也「……どうせ捨てる物だ」


ぶっきらぼうにそう言って、岡崎くんは私の手の上にキーホルダーを置いた。

朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……さっきは悪かったな」


ぽぷら「……え?」


踵を返した岡崎くんに着いて行こうとした時、岡崎くんは言った。


朋也「わざわざ手伝いに来たのに邪見にしたみたいだったからな」


ぽぷら「そ、そんなことはないよ!私は別に怒ってなんか無いよ!むしろ私が……!」


朋也「…………ならいい」


ぽぷら「え、え?歩くのが早いよ!岡崎くん!?」


呟くようにそう言った後、岡崎くんはすたすたと歩いていってしまう。


ぽぷら「……」


黄緑色の、小さな人形付きキーホルダーを見る。
ふにふにとした感触で、『だんご大家族』って書かれているラベルもまだ付いている。


ぽぷら「……えへへへっ」


その時、なんで笑いがこみ上げて来たのか分からなかったけど、


すっごく嬉しい気持ちになったことは、分かった。


––

【電車内】



山田「ぶふっ」


朋也「……笑うな」


外では日が沈んでいく中、俺は電車内で山田に嘲笑されている。


山田「いくらなんでも、これは面白いです……ぷくっ」


帰り際に山田に言われて入ってしまったのが間違いだった。

剥がせばシールになるという写真……、名前はプリクラとか言うみたいだが、そんなことはどうでもいい。


ぽぷら「お、岡崎くん……、目が上向いてるね……」


朋也「……カメラがどこにあるのかなんて知るわけないだろ」


山田「こ、これなんて岡崎さん、白目剥いてますよ!あは、あははっ!」


伊波「山田さん、笑い過ぎだよ……ぷっ」

朋也「……」


伊波「ひっ!ご、ごめんなさいぃ!」


伊波と俺の立ち位置は完全に真反対で、機会の端と端だ。
大々的に映っているのは主に山田で、結局金を出したのも俺だった。


ぽぷら「へへ……」


朋也「そこまで面白いか……」


ぽぷら「へっ?あ、う、ううんっ!違うよっ!面白くて笑ったんじゃなくてねっ!」


朋也「……?」


ぽぷら「えと、……思い出を残す、記念ができたから、嬉しくって!」


朋也「(……荷物持ちをして、殴られて写真を撮るってどんな思い出だよ)」


本心でそう思う。


ぽぷら「お、岡崎くん?」


朋也「何だよ……まだ笑うのか?」


ぽぷら「ううん!だから、そうじゃなくて!このキーホルダーありがとね?」


ぽぷら「私、ずっと大事にするから。絶対にだよっ!えへへっ」


朋也「……勝手にしろ」


俺が項垂れているこの車内には、他の客は見えない。
聞こえてくるのは車両が線路を走る定期的な音と、山田たちの話す声だけだ。


朋也「(……もう6時半か)」


窓からさしてくる赤い夕焼けが電車の床に映えている。
流れて行くように、ついさっきまで見えていたはずの景色が消えていく。


朋也「(……結構、疲れたな)」


特に時間が経つのを意識せずに一日を過ごせたのは何日ぶりか。
俺には思いだすことは出来なかった。


――

何十日も前に書いた書き溜めを大きく書き換えて投下していた為、1レスにかかる時間が多くなってしまいすいません……。
しかし、久々に多くの投下ができたので凄い嬉しいです!

誤字脱字などあったら本当にごめんなさい……。
そして今更ながら、WORKING!二期をまだ見ていなくてすいません……。

こんな感じの話でしたが、いかがでしたでしょうか?
そろそろ物語も走り出そうとしています。まだ走り出しかよって感じですよね……汗
全部終わったらきちんと誤字脱字を抜いて、変な箇所も訂正して、再投下しなければ!そう切に思ってますwww


暇つぶしにでも、まだまだ続く私の妄想に御付き合い頂けたらと思います。

それでは、なるべく早く書き溜めてから再び投下したいと思います!
読んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました!

【廊下】


春原「ふんふん~ふんっ♪」


朋也「……」


春原「ふっふふ~ん♪ふっふ~……ボンバヘッ!」


朋也「…………」


春原「いや~今日は気分がいいね!何だか自然と鼻歌が出ちゃうよ!」


朋也「………………」


春原「岡崎、さっきから元気ないじゃん。どーかしたの?」


朋也「あぁ、お前いたのか」


春原「朝からいたよ!!っていうかさっきから語りかけてるだろ!?」


朋也「悪いな、もう俺は子供じゃないから高周波の音は聞き取れないんだ」


春原「そこら辺にいる鳥と同じ扱いしないでくれよ!!」


朋也「おい……。廊下では静かにしておけ。迷惑だ」


春原「それもこれもアンタのせいなんですけどねぇっ!?」

春原「ったく……。せっかく一段落していい気分だったのに……」


杏「アンタたちって、いつも廊下で騒いでるけど、それって趣味なわけ……?」


春原「で、出た!!」


杏「何よ人を化け物みたいに。何にもしないっての」


朋也「俺は何もしてない。いつもそこの春原とかいう男につきまとわれて困っていた所だ」


杏「あらそうなの。それなら私が委員長特権を使ってぶっ飛ばしてもいいわけ?」


朋也「よろしく頼む」


春原「お前らと付き合ってたら命がいくつ足りそうにないよ!」

杏「っで、陽平。何でそんな笑顔なわけ?」


春原「おぉっ!ふふ……いつ聞かれるのか、ちょっと不安だったけど、ようやく聞いてくれたね」


朋也「鏡を見たらいつでも笑顔になれそうな顔をしているけどな」


春原「結構傷つくよ!……たく。話の出はなの挫く奴だなぁ」


杏「一応言っておくけど、『出ばな』、ね」


春原「……」

春原「……」


杏「(…………ちょっと言い過ぎたかしらね……)」


朋也「(……黙っていてくれた方が俺としてはありがたい)」


杏「(それもそうね)」


春原「そこは励ましてよ!!!」


杏「あっ、元気になった」


本当に感情の起伏の激しい奴だ。


朋也「独り言のようにブツブツと呟いてくれるのなら聞いてやるぞ」


春原「普通に会話しながら聞いてくれよ?!…………全く……もう仕方ないから話してあげるよ。実はね––」


「だ、だから私はそういうのはいいって……。ごめんね、他の子をあたって!」


「あ……っ」


丁度差し掛かった二年生の教室の方から、何かを口論するような声が響いて来た。
どうやら、女子同士が何かもめているようだ。

朋也「……ん?」


通り過ぎ様に横目で見ると、どこかで見た事の有るような顔が映る。
銀髪にカチューシャをし、背も一般的な女子よりは高そうに見えるそいつは––


春原「あれが坂上かぁ……」


朋也「あ……」


そうだ。俺が授業をさぼろうとした時、引き止めて来た奴の名前。
たしか、坂上 智代だったか。


杏「何?アンタ知ってるの?」


春原「知ってるも何も……。結構有名じゃん。何か二年に転校して来た変な女だって」


朋也「変な女?」


春原「何か熱血というか、生真面目というか……。そんな感じで、他とは少し違う奴みたいだよ」





杏「ふーん……。珍しいわね~、今時男でもそんな奴いないのに」


春原「そういえばいづれ見に行こうと思ってたんだよ。ちょうど良かった」


杏「陽平、まさかアンタ何かするつもりじゃないでしょうね……?」


春原「なぁ~に、今のうちにね、教えておいてあげるだけだよ」


朋也「お前が教えられる事と言ったら、ラグビー部からの逃げ方だけだろ」


春原「ちげぇよ!!……ふぅ。僕が言いたいのは、この学校のトップ層が誰なのかってことさ」


そんな層は最初から存在しないと思うが、少なくともお前は入ってない。


杏「ちょ、何を分けの分からない事を言ってるのよアンタ……」


春原「はは、まあ見てなって。僕の威厳ってものを後輩たちに知らしめるチャンスだしね!」


そう言いながら手をひらひらと振り、どこぞの酔っぱらいのような歩き方をして坂上に近づいていく。


春原「やいやい!ちょっとそこのお前!」


智代「……」


時代錯誤の絡み方で、春原は坂上に話しかける。
周囲の二年生たちも、少しずつ春原に視線を集めさせているようだった。


杏「切り出し方が完全におっちゃんなんだけど……」


朋也「……」


春原「お前、坂上だな?最近名前をよく聞くけど、一体何をやってるんだ?」


智代「……」


恐らく自分ではイカツい顔だと思っているのだろうが、周りから見たら眉を上げ唇をすぼめた変顔にしか見えない様な表情で、
坂上に向かって凄む春原。
これだけでもはや同じ学年の人間だとは、絶対に思われたくはない。


智代「……お前は、三年の春原か……?」


春原「っ!」


朋也「!」


そういえば、坂上は初対面だった俺の名前を知っていた。
どうやら、この学校の不良と呼ばれる存在は大方知っているようだ。


春原「……はん!予習は済んでるようだな!」


何の予習だ。


春原「知ってるのなら話は早いな!少しお前もこの学校での暮らしぶりを考え––」


智代「すまない、私は今あまり腹の虫の居所がよくないんだ」


春原「うっ……」


研ぎ澄まされた大きな瞳で、春原に一睨みを利かせる。
その吸い込まれそうな目に春原はたじろいでいた。
「なっさけな……」そう呟く杏の声が俺の耳に入ってくる。


智代「話なら今度また聞く。……今はどこかへ言ってくれないか。頼む」


そう言い終えると、坂上はくるりと翻り、教室の中へ入っていこうとする。
どうやらもう休み時間も終わりに近いようだ。


春原「お、おい!まだ話は……!」


周囲にアホ面を晒していた春原はようやく我に返ったようだ。

春原「ふぐぉっぅん」


朋也「!?」


そして、坂上の肩に春原が手を置こうとした時だった。


軽く坂上が腰を撓らせ、触れられかけた肩とは逆の腕で、春原の顔面に一発をくれてやったのだ。
面白いように春原の身体は宙を舞い、廊下の壁に叩き付けられる。


智代「……。他の学年の生徒は、教室に入っては行けない」


智代「……!」


朋也「……」


そう言って肩を払う坂上と、一瞬目が合う。
しかし、何をするでも無く坂上は教室に入っていった。


杏「アイツは本当に何をしたいのよ……」


朋也「……さぁ」


不幸中の幸いか、この学校の生徒は授業の開始時間には敏感で、春原に注目していた生徒達は
春原の情けない姿を見る前にほとんど教室に入っていた事だ。


春原「……な、何が起きたのか、さっぱりだったよ……」


春原「で、でも言うべき事は言ったし、もうきっと目立ったりはしないよ……。多分」


真っ赤に腫らした頬を摩りながらそう言う春原は、本当に情けなかった。


––

最近は1月に1回というレベルになっていたので反省して、また更新してみました!

これからはなるべく週1……いや、2!……いや、できれば3!!!

更新したいと思います!
あくまで希望的観測っていうのが残念なところですが……汗

それでは、またなるべく早めに更新に参ります!では、おやすみなさい!良い夢を!

【坂道】


春原「よっ!岡崎!」


朋也「……」


春原「そんな露骨に嫌そうな顔するなよ……」


朋也「お前、昼休みからどこ行ってたんだ?」


春原「そりゃ保健……じゃ、じゃなくてフケてただけさ!授業に出てもどうせ聞いてないしね!」


朋也「まぁ、あんだけ吹っ飛んでたもんな。スーパーマンばりに」


春原「は、はんっ!勘違いするなよ!?オーバーリアクションが過ぎただけ!ちょっと勢い良く飛びすぎたってだけさ!」


どこぞのハリウッドスターでもあんなアクションはこなせないだろう。


春原「まぁまぁ、そんな事より今日どっか寄ってこうぜ!ゲーセンとか、そこら辺にさ!」


朋也「ゲーセン以外に行く気ないだろ」



春原「せっかくいい気分だったのにそれを妨害されたから、憂さを晴らしに行かないと僕の気が済まないんだよ」


朋也「誰がどう見てもお前から絡みに行ってただろ……」


春原「そ、それは––!」


朋也「…………はぁ」


あれだ、それだと言い訳を並べ立てる春原。
もう慣れたものだが、やはりうるさいものはうるさい。


朋也「……」


学校の校門から道路へと向かう坂道を歩く。
新学期も始まったばかりの春先だ、桜はまだまだ葉桜になる気配を見せていない。


朋也「(桜祭り、か……)」


二週間開けての更新が2レスだけって………。

週一の更新って、週に1レスだけ更新するって意味だったのか?

面白いから頑張って欲しい
文句言われても打ち切らないでくだしあ

まぁなかなか書き込めない事情もありそうだし
何より面白いから俺は気長に待つ。

大学生なら試験あってるだろ今

もう一旦落とせば?それで最後まで書き溜めてからもう一回立てなよ

>>325

ほんっとうに申し訳有りませんでした……。

>>326->>328

本当にありがとうございます……。嬉しすぎてニヤニヤしてしまいましたww
春休みに入ったら週2、3回更新とか大見得切ってたのにできてないアホな>>1なのに本当にありがとうです……。

>>329

その通りでかなり追われてましたww
そして、終わってから更新できるかと思いきや……

>>330

それも考えましたが、このスレを消してしまうと、書ききれなくなりそうで…w
単なる自分勝手なジンクスですが……。
申し訳ないです。


ってことで、今までちょっとだけ海外にいて、投下はできない状態でした。
そして、本当に口だけの更新予告になってしまい、申し訳有りませんでした。
この物語は確実に終わらせます。多分2スレ目ちょっとくらいまで続く予定です。今しばしの御付き合い、よろしく御願いします。


それでは、とりあえず投下します。


桜を見ると、種島の言葉が浮かんでくる。
木材やら何やらと買い込んでいるようだったが、一体何を始めようとしてるのだろうか。


春原「――だから、早く行こーぜ!……って岡崎、聞いてんの?」


朋也「聞く気は無い」


春原「それを直接言うのは無視よりひどいからね?!」


朋也「そんだけ元気があれば大丈夫だ。じゃあな」


春原「え?!あ、お、おいっ!岡崎ーっ!」


ゲームセンターなんぞ、さらさら行く気にはならない。
かといって、どこかで騒ぐ気にもなれない。


朋也「……」


外は気持ちの良いくらいの快晴で、桜が風に乗って散る中で。
俺は一体、何をしてるのだろうか。

―–

【病院前 公園】


朋也「(あ……)」


佐藤「……」


夜に近い時間になった頃。
行く場所も無く、かといって金も無いので、公園まで足を運ぶ。


佐藤「……ふぅ。……」


空を見上げながら一人で煙草を吸う金髪の男が、一人公園のベンチで佇んでいる。
テレビでよく見る様な真っ白なコックの制服に身を包んでいるので、夜になり視界が悪ってくる時間でもかなり目立っていた。


朋也「(……佐藤だっけか)」


第一印象は、『変な男』。
全てを見透かしているようで、あまり好きにはなれない。


朋也「……」


佐藤「……?おっ」


朋也「……ちっ」


気付かれる前に、早々に去ろうとしたが。
どうやら、ぎりぎりで目に入ってしまったようだ。

佐藤「よっ」


朋也「……」


吸っていた煙草を携帯灰皿に入れて近づいてくる。
以前はあまり見ていなかったのでよくわからなかったが、かなり若い。
俺とさほど年齢差は無いように見える。


佐藤「……挨拶くらい返せるようになれよ?」


以前誰かに同じ事を言われた気もする。
しかし、コイツに挨拶する気は無い。


佐藤「……」


空気から俺の意志を感じ取ったのか、
不服そうに顔をしかめながら、佐藤はもう一本の煙草を口にくわえ、火をつける。


佐藤「……ふぅ」


朋也「……」


佐藤「……っで。こんな時間に何してんだ?」


朋也「それは、アンタもだろ」


佐藤「ははっ、口を開いたかと思えばそれか」


朋也「……そんな格好で公園にいる人間に言われたくない言葉だったんでね」


佐藤「これは手厳しいな」


白い煙を口から出しながら、佐藤は微笑んだ。




佐藤「以前言ったろ?バイトやってるって。今はその休憩中なのさ」


朋也「休憩中なのに、何でこんな所に?」


佐藤「俺は今日オープンから居るからな。夜飯を食べる時間も含めて、一時間近い休憩時間がある」


朋也「……」


前も言ったが、喫煙者の肩身は、まだまだ狭いんだよ。
そう言うと、佐藤は再び煙草を口に含んでいきを吸い込んだ。


佐藤「まぁ、その気になれば外で吸うという手もあるんだがな。じろじろと人間に通行人に見られながら吸うなんてことはしたくないんでね」


朋也「……へぇ」


佐藤「それにここって、昼と朝以外に来る奴はほとんどいない。その割に、街の全体を見渡せる丘の近くにある」


佐藤「だから、ゆっくり煙草を吸うなら、ここが最適でな。俺の中で穴場スポットなんだ」


朋也「(……病院裏の公園を喫煙スポットにされてもな…………)」


佐藤「……ふっー…………」


佐藤「それで、お前はどうなんだ?」


朋也「どうもこうも、用事なんて無い」


佐藤「くはっ、ただ暇してるだけじゃないか」



佐藤「お前も変わらないな。相変わらずそうやってぶらついてるのか?」


朋也「別にいいだろ、どうでも」


佐藤「あぁ、癇に障ったか?悪い悪い」


朋也「……ちっ」


佐藤「そう怒るなって」


朋也「……」


やはり俺の考えている事を分かっている様な気がする。
気分的に良いものじゃない。


佐藤「おいおい、もう行くのか?」


朋也「これ以上アンタと話す事も無いんでね」


佐藤「……本当に、相変わらずなんだな」


朋也「…………そう簡単に変わってたまるか」


思わず言葉が冷たくなる。
『相変わらず』なんて言葉、ほとんど会った事の無い人間には言われたくなかった。



佐藤「しっかし、今日はこっちの都合で店が忙しくてな……休憩は一時間って言っても、もうすぐ戻らないと行けないんだよな」


朋也「……混雑してるのか?」


佐藤「まぁ、それなりにな。今日は客の入りじゃなくて、店長のシフトミスのせいで1日中人数が少ないんだよ」


佐藤「平日だし、急に学生の奴らを呼び寄せる事もできなかったからな。困ったもんだ」


朋也「……」


佐藤「お前みたいな奴だったら、俺たちも安心して呼べるんだけどな」


朋也「……じゃ」


佐藤「おいおい、そう焦るなって。時間はあるんだろ?」


朋也「自分の時間をどう使おうと、俺の勝手だろ」


佐藤「まぁ、そう焦るなっ…………って…………?」


朋也「……?」


一瞬、眼を見開いて呆けていたかと思えば、
口にくわえていた煙草を即座に携帯灰皿に突っ込んでから、再び口を開いた。


佐藤「ま、待て。お前、今日これから時間あるんだよな?」


朋也「だから、さっきから言ってるだろ。でもそんなこと別に関係な――」


佐藤「……」


朋也「……」


佐藤「…………」


朋也「…………なんだよ」


口元に手を当てながら、まるで何かを審査するかの様な眼で俺を見る。


佐藤「…………よし、できるな」


朋也「……は?」


佐藤「………………」


朋也「……何も無いなら、行くぞ」


ぶつぶつと何かを呟いている佐藤だが、何を言っているのかさっぱり分からない。


朋也「……」


だからといって俺が待つ理由もない。
そう思い、再び佐藤に背中を向け――。


佐藤「――ト」


朋也「……?」
















佐藤「岡崎。……お前、アルバイトしてみる気はないか?」


――

【ワグナリア】




佐藤「それじゃ、これに着替えて出て来てくれ。ロッカーは空いてるのを好きに使っていい」


俺が頷くと、佐藤は扉を閉めた。

更衣室と行って案内された場所は、しっかりと整理整頓がなされた男用とは思えない外観の部屋だった。


朋也「(……潔癖性の奴でもいるのか?)」


それを疑う程に小綺麗な部屋に、少し驚く。
男用更衣室なんて、どこも学校の運動部レベルだと思っていた。


朋也「(それにしても……)」


お試しで構わない、という条件の元つれて来られたのは、ファミリーレストラン『ワグナリア』。
もう自分から出向くことは無いと思っていた、あの店だ。


朋也「(ここで、種島たちは働いてるんだよな……)」


裏口から入っても聞こえてくる、客の声。
早朝時とは全く打って変わってる。

種島たちと佐藤の職場が同じであるという事にも驚きだが、この違いもかなりのものだ。


朋也「(まぁ、早朝と客入り時の違いが無かったら、すぐに潰れるか)」


学校の制服とは違う位置につくボタンに少し手間取りながら、なんとか渡された制服を着る。
普段着とも制服とも違う空気感と、軽くのしかかってくるような重さが、違和感を感じさせた。


佐藤「おっ、様になってるじゃないか」


耳に響く軋音をたてながらロッカーを閉め、更衣室を出る。
更衣室の電灯とは違い、全体に明かりがついているので若干眩しい。


朋也「これで合っているのかは分からないが……」


佐藤「制服っつっても普通の服と変わらない。それが正しい着こなし方だ」


朋也「……それより、本当に俺はここにいても大丈夫なのか?」


佐藤「ん?……はは」


朋也「何でそこで笑うんだよ……」


佐藤「……お前でも、緊張するんだな」


朋也「どういう意味だ」


佐藤「見ず知らずの人間の車に乗っちまうくらいの奴だからな。あまりそういう神経通ってないのかと思ってたよ」


朋也「あれはアンタから誘って来たんだろ……」


佐藤「まぁ、そうとも言うが」


佐藤「とりあえず、今日は生憎オーナーも店長もいないが、恐らく閉店後には店長の方が来るはずだからな。
あんま緊張すんな」


朋也「いや……そう言う意味じゃなくて……」


朋也「面接もしてない、どこの馬の骨ともわからない俺をスタッフ専用の場所に入れていいのかってことなんだが……」


佐藤「俺が知ってるから、一応ここら辺の馬の骨とは知れてる。……だろ?」


朋也「……」


佐藤「どうした?行くぞ」


朋也「…………ふん」


やっぱり、コイツとは話し辛い。


【廊下】


麻耶「あっ。佐藤さん。お疲れ様です……って、あれ?」


佐藤「あぁ、お疲れ。客の入りは?」


麻耶「そ、それはいつも通りですけど……。その……、後ろの方は……?」


朋也「…………」


佐藤「あぁ、ピンチヒッターで来てもらった」


麻耶「ぴ、ぴんちひったぁ?」


佐藤「人手が足りないって、以前お前も言ってただろ?アレも控えてるって」


佐藤「それに、今日はおかしいレベルに人がいないしな。やってくれるってんだから、ありがたく好意に甘えたわけだ」


好意なんて持ってない。


麻耶「そ、それは言いましたけど!て、店長や音尾さんには許可は取ったんですか!?」


佐藤「いや、いないから取ってない」


麻耶「え、えぇえ!?」


佐藤「何をそんなに驚いてるんだ?」


麻耶「驚きますよ!!店の人の許可無しに人をバックに招き入れるなんて、……そそそ、そんなの、普通じゃないですっ!」


当然の反応だろう。今ここにいる俺が何で居るのかわからない。



八千代「麻耶ちゃ~ん、3番卓のお客様にオーダーをお願い~」


麻耶「は、はいっ!……と、とにかく!えと……」


朋也「……」


麻耶「…………よ、よろしく御願いします!じゃっ!」


朋也「あ、あぁ……」


俺の返事を聞く間もなく、走って去って行く。


朋也「(すんなり受け入れるアイツも普通じゃない気がするがな……)」


佐藤「あいつは松本。お前と同じくらいの年齢だったはずだ。性格は……まぁ、ああいう奴だな」


朋也「……」


朋也「……ん?」


佐藤「どうかしたのか?」


朋也「……この前、高校生は3人って言ってなかったか?」


佐藤「あぁ、『アホみたいな』高校生は三人だ。まともなのは別で数える」


俺はコイツの中で『まとも』に含まれているのか。
少し気になったが、あえて聞くまでもないことだった。

【厨房】



朋也「!」


佐藤に促されるままに進み、着いた先は様々な匂いが立ち込める厨房。
ぐつぐつと音を立てて煮立つ鍋、光沢を放つ銀色の冷蔵庫など、俺の見たこともない物も沢山置いてあった。


佐藤「轟。悪い、待たせた」


八千代「は~い!……その子は?」


佐藤「臨時で連れて来たバイトだ。名前は岡崎」


八千代「あらっ!それは助かるわね~っ!」


朋也「(この人は、はなから何の疑問も持たないんだな……)」


エプロンだけ羽織った女性が、ひょっこりと身体を曲げて、佐藤の後ろにいる俺に笑顔を向けてくる。
長い金髪なところ以外は、顔立ちも端正で何より人当たりの良さそうな笑顔を見せる人だった。


が。


朋也「……なぁ、あれって」


佐藤「……………聞くな」


不可解なものを腰に下げている点については、どうしようも無く気になる所があったが、佐藤にはそう制された。


佐藤「轟はそのまま松本とフロアに入っててくれ。厨房は俺とこいつでなんとかする」


朋也「(何とかって……)」


何か結構な期待を寄せられているようで、不安が募る。
やはり無理にでも拒否をすればよかったか……。


八千代「はーい!でも新人さん……だよね?お仕事のやり方はわかるの?よかったら最初は私が教えようか?」


朋也「そ――」


佐藤「一度覚えたら後は同じ事の連続だ。俺がぱっぱと教えてしまうさ」


そうしてくれるとありがたい、と答えたかったのだが。
再び、佐藤に言葉を制される。何故か先ほどよりも強い力で制された気がするのは勘違いなのか。


八千代「そっか!それじゃあ岡崎……くんでいいのかな?私は轟 八千代っていうの!よろしくねっ!」


カチャカチャと腰に下げた物騒な物に音を立てながら、轟と呼ばれた女性は走ってフロアの方へ向って行く。
見送る暇もなく、佐藤は切り出した。


佐藤「さぁ、俺たちも休んでる暇はないぞ」


佐藤「お前はそこの具材を洗って、目の前に置いてある紙に書いてある通りに切り出してくれ。時間はかかってもいい。ただ丁寧にやるということは心掛けろ」


ステンレス製のテーブルに置かれた野菜を指差しながら、佐藤は指示する。


佐藤「あくまで、客に提供するものだからな。金を払って食べに来てるのに、変な形の物が出て来たら嫌だろう?」


朋也「……あ、あぁ。それで、終わったらどうするんだ?」


佐藤「終わったら、今度は俺がしている作業を手伝ってもらう。まぁ、それは終わり次第説明して行くから、早速作業に入ってくれ」


朋也「……?なぁ、アンタの作業って――」


佐藤「……待て」


突然、目の前が肌色に染まる。
佐藤の人差し指が、俺の額寸前のところで止まり、俺の言葉を止めたのだ。


佐藤「……職場では『アンタ』とかは無しだ」


朋也「……!?」


佐藤「別に、普段はどうでもいい。そんな些細な事」


佐藤「……だがな」


佐藤「職場では、礼儀っていうものがある。それは、仕事する者の間に、確立してる確かなもんだ」


佐藤「学校でも、職員室に入る時には『失礼します』とか言うだろ?今は知らんが。まぁ、それと同じ様なもんだな」


佐藤「……とりあえず、名前で呼び合うこと。何か用事がある時は明確に聞くこと。間違っても適当に仕事をやらないこと」


佐藤「言うのが遅れて済まなかったが、これだけは守ってもらう」


朋也「……っ」


思わず、息を呑んだ。
礼儀なんて言葉を、まともに意識した覚えなんて、いつのことだったか覚えていない。あったかどうかすら、分からない。



佐藤「まっ、職場では、メリハリと区別をしっかりと付けてもらう。ってことだな」


佐藤「開講記念日かなんか知らんが、なぜか今入ってる松本とか、他の学生だって。変な奴らだが、そこは守ってる。芯にしてる」


佐藤「押しつけがましくて悪い。だが、お願いだ」

佐藤の雰囲気はいつものこちらの調子を崩す様な柔らかな物腰ではない。
了承するまで、いつまでも俺を捉え続けるかのような目線を向けられる。


朋也「……」


八千代「佐藤く~ん!4番卓のお客様、追加でハンバーグステーキね~!」


思わず、俺は頷いていた。
何か、強い気持ちが佐藤の後ろに見えたようで、思わず首を縦に振っていた。

それと同時に時間が動き出したとも錯覚させてくるタイミングで、轟と呼ばれた女性が厨房に顔を乗り出した。


佐藤「……よし、それじゃあ今日はラストまで。短い時間だが、よろしく頼む」


そう言って、佐藤は俺に背を向けてキッチンの方へそそくさと走って行く。


朋也「……」


ホールを見ると、松本があくせくと皿を片づけたりレジに当たったりと、止まる暇も無く働いている。
佐藤は佐藤で、もうこちらに目を向けることも無く鍋を振るっている。


朋也「……(………………くそっ)」


不安しか抱けないような状況の中で、人生初のアルバイトが始まった。

――

【休憩所】


朋也「……はぁ」


自然とため息が出た。
椅子に座ったのが何日かぶりの様に感じる。


朋也「……んくっ」


たかたが4、5時間だ。
外を適当にぶらついたり、学校の下らない授業を寝て過ごせば、あっという間に過ぎてしまう様な、小さな時間。

そんな時間を、『働いて』過ごすというのは、こうも疲れるのだろうか。


いつも飲むコーヒーが、いつもの何倍も美味く感じるのは、何故なんだ。


佐藤「はは、お疲れだな」


ぱたぱたと足音を立てながら、佐藤が更衣室から出て来た。
その顔は、多少の疲労感は見えど、俺のように憔悴は仕切っては居ない。


佐藤「結構、早いじゃないか」


朋也「……は?」


佐藤「仕事を覚えること、だ。俺が初めてバイトした時なんて、パニクって何にも考えられなくなったもんだがな」


朋也「野菜を切って、物をどかすだけの作業に覚えが早いもクソもあるのか……?」


佐藤「それが、実のところはあるもんなんだ」


朋也「……」


そう言って子供の様な笑顔を見せる佐藤は、さっきとはまた違う、『いつもの』あの佐藤だ。


朋也「(それより……)」


会った時、佐藤は言っていた。
『オープンから』


朋也「(10数時間、この作業……?)」


背筋が寒くなる。
想像するだけで悪寒がする。この短時間の労働による俺の疲労感は、それほど半端じゃないものだ。


八千代「お疲れ様~」


麻耶「お、お疲れ様です……」


佐藤「おう、お疲れ」


朋也「……」


佐藤に少し感心していると、二人が更衣室からゆっくりと出て来る。
二人も佐藤と同様、表情に無理の色は見えない。


朋也「(……俺って、相当貧弱なのか…………?)」




アルバイトなんて、単純労働だ。
ただ指示されるままに動いていれば時間が来て、金がもらえる。

そういう、小遣い稼ぎのような物に思っていた。


だが、実際は全く違う。

小遣い稼ぎで伴う疲労を裕に越している。


朋也「……」


一気に自身が無くなってくる。


八千代「岡崎くん、今日はありがとうっ!今日はオープンからは4人いたんだけど、途中で一人抜けちゃってね、大変だったの」


麻耶「まぁ、店長はいたとしてもやることは、『食べる・ゴネる・指示する』のどれかですしね……」


朋也「(佐藤が抜けてる時、二人かよ……)」


店長のシフトミスというのは、バイトにとって死活問題なのだという事が分かった。


八千代「杏子さんはいるだけでいいのよ~♪」


麻耶「普通じゃないですよ、それ……」


佐藤「……轟。やっぱり、仕事中にパフェを作るのはやめろ。休憩の時間がずれかねない」


八千代「え~……。そ、それなら私の休憩を減らすからっ!それならいいでしょ?」


麻耶「そこまでして尽くしたいんですか……?」


八千代「だって、杏子さんが喜んでくれるんだもんっ♪」


麻耶「……ふ、普通じゃない…………」


佐藤「……はー…………」


朋也「…………」


朋也「(……眠い)」


目の前で繰り広げられる謎の雑談が耳を通り過ぎる。

ただ、眠気の方に意識がいって、ほとんど意識して聞き取る事ができない。



杏子「戻ったぞ~」


麻耶「あ、店長。お疲れさまです」


八千代「杏子さんっ~!おかえりなさい!まだ夜の外は寒いでしょ?早く中へ!コート持ちますね!」


店長と呼ばれるショートカットの女が、コートを羽織っていそいそと中へ入ってくる。
年齢は20代ぐらいの人間で、それなりに貫禄が有るように思える。


杏子「八千代~、それはいいから、できるだけ早く温かい飲み物出してくれ~……」


ただ、それは休憩所の机に頭を預けるまで持っていた『貫禄』に過ぎなかった。


朋也「(ガキかよ……)」


八千代「は、はいっ!スープがいいですか?それともコーヒー?お茶?」


杏子「身体が温まるものなら何でも構わないから早く頼む~」


八千代「は~い、了解しました~っ♪」


麻耶「店長、机ずれちゃいますよ!」


杏子「うーあー……」


朋也「……店長って、あれが?」


佐藤「……そう。店長の白藤だ」


朋也「……マジかよ」



帰って来てからの会話ぶりからは想像がつかなかった。
店長というのは店の物を何でも食べていい特権を持つのか。


杏子「ふぃ~、疲れた疲れた」


麻耶「二度目ですが、お疲れさまです」


杏子「おーう」


麻耶「そういえば、今日の会議で年度の予算が決まるって言ってましたよね?」


杏子「おーう」


麻耶「……今回の会議でウチの店、予算は取れたんですか?」


杏子「いんや、私は音尾の後ろでずっとお菓子食べてたからわからん」


麻耶「お菓子って何ですか!?」


杏子「いや、他の店舗のやつらが見繕って来たものをちょろっ……とな」


麻耶「ちょろっとじゃないですよ!」


杏子「まぁまぁ、ちゃんと意見も出したぞ『金寄越せ』ってな」


麻耶「何しに行ったんですか!?」


杏子「お菓子を食べに――」


麻耶「それ以上普通じゃ無さ過ぎる事、言わないでください!」


八千代「麻耶ちゃ~ん、ごめんね~。ちょっと手伝ってもらっていいかしら~?
在庫チェック表がどこにも無くって~」


麻耶「え、あ、は、はい!確か、そこの棚の上に……」


朋也「(……大丈夫なのかこいつ)」


休憩室は、あっという間に三人だけの空間になる。
コートを脱いだその姿から、他とは一線を隔した店長らしい姿をしている事が分かる。
分かるのだが、どうにも話からは仕事のできる人間には見えなかった。


佐藤「今、大丈夫か?」


杏子「なんだ?」


佐藤「実は見込みの有る新入りを連れて来たんで、確認を取っておきたくてな」


杏子「新入り?」


佐藤「あぁ。そこの光が丘高校って学校があるだろ?」


杏子「…………」


杏子「知らんな」


朋也「(店長なら、店の周りの施設くらい把握しておくもんじゃないのか……)」


佐藤「……まぁいい」


佐藤「…………高校生で、バックをやっていけそうな新入りがいるんだ」


杏子「おぉ。今まではほとんど相馬とお前にやってもらってたからそれは助かるな」


佐藤「あぁ。それで、その新人ってのが……ほら、立て」


朋也「……お、おい。別に俺は継続して働くなんて一言も––」


佐藤「気に入らなかったらすぐにやめて構わないさ。とりあえず、入社面接ってことで」


どうも上手い事やりくるめられている気がしてならないが、佐藤に促されるままに立ち上がる。
すると白藤と呼ばれた店長の女は、じっくりと眺めるように俺を見回してきた。


朋也「(さっきの佐藤と同じだな……)」


どうにも、観察されるのには慣れていない。

しかしきっと、仕事を任せる人間というのはある一定以上の信頼のおける人間じゃないと駄目なのだろう。
だから、ある程度真面目に見ておかないといけない。そう勝手に解釈する。


杏子「……」


朋也「(だから俺なんか、普通に落とされるだろ……)」


杏子「……ふむ」


朋也「?」


それから、店長は顎に手を当てて一回だけ頷いた。
それが何を意味してるのかは全く分からない。


杏子「……お前、名前は?」


朋也「……岡崎、朋也」


杏子「家は?」


朋也「駅の近く」


杏子「……ほぉ」


杏子「そいで、年齢は?」


朋也「高3の17」


杏子「働いた経験は?」


朋也「一回も……」


杏子「へぇ」


杏子「それじゃ、最後」








杏子「岡崎。お前、ここで働きたいのか?」


理由でもない、処遇を聞くわけでもない。単純なYes,Noを問う質問が最後だった。


朋也「…………」


確かにアルバイトを続ける事に、意味が無いとは思わない。
高校を出たら一人暮らしをする予定だし、何より、今のままでいるよりずっと時間を有効活用できるはずだったから。


朋也「…………」


だが。


伊波と山田、そして種島。

あいつらもここで働いている。


杏子「……」


白藤は、無表情で座り俺の返事を待つ。
どっしりと構えるその風格で、何故か店長らしいという雰囲気を出してるように思える。

朋也「…………分からない」


杏子「……」


朋也「正直な話、まだ急すぎて分からない。それが答えだ」


杏子「…………はぁ」


朋也「……」


店長は何かを考え込む。


朋也「(……まぁ、落ちるだろ)」


しかし考えた結果、帰ってくる返答にも、確信があった。
そもそも何かをやるにあたって、一番必要なやる気のなさそうな人間を雇うわけが――


杏子「合格」


朋也「……」


朋也「…………は?」


杏子「それじゃ、次ぎ来る時に履歴書と今月のシフト表持って来い」


朋也「いや、あの」


杏子「面倒くさいんだが、それは私がやらなきゃ行けないことらしいんでな」


佐藤「『らしい』じゃないな」


杏子「そうなのか」


八千代「―–杏子さ~ん!サンドイッチも作っちゃいました~!できたのでこちらへどうぞ~!」


杏子「おーう。すぐ行く」


杏子「じゃっ」


佐藤「……そう言うわけだ。これからよろしくな」


佐藤は煙草を片手に俺の肩を叩く。
その表情はなぜか薄ら笑っている。


朋也「何なんだあいつは……」


佐藤「さっきも言ったろ。この店の店長だよ」


朋也「……」


佐藤「何を考えてるのか分からん人間だが、別にいても害はないから心配するな」


むしろ心配しかない。
アルバイトは真面目に決めなければならないのかと勝手に憶測していたが
この店では全くそんな事は考えてないのか。



佐藤「まぁ、なんだ。あまり形式なんて気にすんな。


佐藤が何の根拠もへったくれも無い事を言ってくる。


佐藤「……この店では小学生が働くことだってある位、非常識な所だからな」


朋也「……は?」


佐藤「事情はそれなりにあるんだが。かなり重宝するぞ。給料もいらないしな」


朋也「……いや、待て。さっきから、何を言って–―」


佐藤「くくっ、種島の事じゃないぞ?」


朋也「!?」


確かに今、一瞬あいつの顔が浮かんだが……。
と、いうより何で佐藤が種島が俺と顔見知りなことを知っている……?


佐藤「まぁ何となくだがお前らの関係は知ってるつもりだからな」


朋也「し、知ってるも何も、別にただ顔見知りなだけなんだが……」


佐藤「ま、そうだろうな。……というか、お前。明日も学校だろ?」


朋也「……あ」


このまま家に帰って翌日の昼過ぎまで熟睡を決めたい所だったのだが、
まだ今日は月曜日で、平日は四日間もあるのだ。



佐藤「今日は早く帰って、寝た方が良いじゃないか?あっ、これ被雇用者向けの保険書類な」


近くの机の引き出しから引っ張りだして来た茶封筒を渡される。
紙と紙の擦れる音から、それなりに分厚い用紙が入っている事がうかがえた。


佐藤「次に来る時はそれと履歴書を持って来てあの店長に渡せ。履歴書は……まぁ本屋で売ってるからそれは自分で買ってくれ」


朋也「……」


佐藤「それじゃ、今日はお疲れ。あ、給料は月末締めの翌月払いだからな?入るんだったら、今日の分もそれに含める感じで。それじゃあ、お疲れ」


朋也「お、おい……」


ばたん、という音を立て裏口の扉は閉まる。
緑色の床の上、パイプ椅子のしかれた休憩室にいるのは、俺一人となった。


朋也「……」


壁に貼られたシフト表が眼に入る。
佐藤、相馬、小鳥遊など、色々な名前が並んでいた。
もちろん、そこには種島たちの名前も記してある。


朋也「!?」


だが、その一番下に問題があった。


『岡崎 朋也』


自分の名前が黒いマジックペンで追加されている。


朋也「(これ、もうしかしたら……)」



恐らく、佐藤は最初から―–




朋也「(……もう絶対アイツは信じない)」



閉店したはずの店のホールから聞こえてくる賑やかな声を聞きながら、俺はそう決意した。

――

こんな感じで、更新終了です。

ようやく序章が終了に入りかけているという感じで、まだまだ続きそうなのですが、よろしければ御付き合いください。

麻耶ちゃんって可愛いですよねぇ……さいっこうに。

更新はなるべく早めにしたいと思ってますが、あまり張り切りすぎるとまた前回のように口だけになってしまいそうですのでやめておきます。
とりあえず早めに誤字脱字無しをモチーフにやっていきますww

それでは、本当に失礼しました。
妄想ワールド前回の話で申し訳有りませんが、御暇な方、読んでくれるという奇特(?)な方、ぜひ御付き合いください。

それでは、おやすみなさい。良い夢を。


【夕刻 ワグナリア】


ガチャ



ぽぷら「あっ、葵ちゃん、伊波ちゃん!こんにちは~!」


山田「おはようございます~!」


まひる「種島さんっ。おはよう」


ぽぷら「二人とも、今日シフトなんだっけ?」


まひる「うん!」


ぽぷら「そっかー!そういえば私まだ今日のシフト見てないかったや」エヘヘ


山田「奇遇ですね!私もです!」


まひる「そう言えば、私も結構時間危なかったし見てないな……」


ぽぷら「えへへ、皆仲間だね~っ」

ぽぷら「さ~っ、今日も頑張ろうね~っ!」ヌギヌギ


山田「居候の身なのに昨日は丸一日お休みをもらっちゃったので、今日はがっつり働きますです」


まひる「二人とも、何かすっごいやる気だね」


山田「……実は山田、本当は今日、朝からオールのシフトでしたっ!」


まひる「えぇっ!?それなら何で私の後に更衣室に入って来たの?!」


山田「えっへん。昨日夜更かしをしてしまって、うっかり寝坊をしてしまったので夕方からのシフトに華麗に変更しましたっ!」


まひる「それってアリなの……?」


山田「今日は人が一杯いるみたでしたので、大丈夫でした」


まひる「え?今日は平日だし、そんなシフト入れる必要あるのかな?」


山田「山田も何でか分かりませんが、とってもラッキーなのは確かですっ!」ビシッ


まひる「あはは……」


ぽぷら「でも、そんなにたくさん人がいるなら今日も楽しくお仕事ができそうだね~っ」ワクワク


まひる「ここのシフトって、あまり人もいないし曜日によってメンバーが固まることが多いから、人数が多いってあまりないもんね」


ぽぷら「そうだねっ!沢山居るならいつもより楽しくお仕事できそうだねっ!」キコミキコミ


山田「それなら、山田は必要ありませんか?今日も休めますかね?」


まひる「山田さん!?」ガビーン


山田「何か最近、仕事の疲れがたまってまして、持病が……」ゴホッゴホッ


まひる「(あからさまな嘘だよ……)」ズーン


ぽぷら「葵ちゃん、そんな事言わないでっ!今日はきっと楽しいから一緒に頑張ろーっ!」オーッ


山田「え、あ、はい」


まひる「あれ?種島さん……」


ぽぷら「ん?」バタン


まひる「そのキーホルダー、懐かしいね。確か、『だんご大家族』だっけ?」


ぽぷら「あ、伊波ちゃんも覚えてるんだ!そうだよ~っ!」

まひる「歌も一時期、流行ったもんね」


ぽぷら「なかよしだ~んご~って、よく歌ってたの覚えてるよ~」


山田「私もその歌知ってます!」


ぽぷら「ほんとっ?とっても可愛い歌だよね!」


まひる「でも、私たちが子供の頃の物だったし、グッズとかもあまり見なかったけど……」


ぽぷら「えっ?あっ」


まひる「それ、どこで――」


ぽぷら「あーっ!えーっと!!わ、私シフト表見てくるね!誰が居るか確認しないとっ!」タタッ


まひる「えっ?えっと、種島さ――」


ぽぷら「そそ、それじゃあ、先に休憩室で待ってるね~!」ガチャ



バタン



山田「……」


まひる「……」


山田「種島さん、何か隠してますね」


まひる「そ、そうだね……」



ぽぷら「ふ、ふええぇ~~~~~~~~~~~っ!?」ドタタッ









まひる・山田「!?」


まひる「種島さん、どうかしたの!?」ガチャッ


山田「天井が崩れましたか!?今日の仕事、全員お休みになりますか!?」


まひる「や、山田さん何言ってるの!?」ガビーン


ぽぷら「はわ、はわああああああぁぁ……」プルプル


まひる「……?(シフト表…………?)」


まひる「っ!」


山田「あ!」


ぽぷら「ななな、何でシフト表にお、お、おおっ……」













山田「岡崎さんの名前が書いてあるのですかっ!?」


ぽぷら「岡崎くんの名前が書いてあるの?!」






まひる「(そこ、山田さんが被せて言っちゃうんだ……)」ズーン


【ワグナリア 裏口前】


小鳥遊「(……)」コツコツ


小鳥遊「(……平日なのに、シフト応援に来いなんてどうしたんだろ…………)」


小鳥遊「(店長の事だから、何かしらのミスをやっちゃったんだろうなぁ……)」ハァ


小鳥遊「……」チラッ


小鳥遊「(…………だからって、遅刻して迷惑かけるわけにも行かないし、早く行って着替えないと……!)」タタッ


相馬「あ、おっはよ。小鳥遊くん」ヒソヒソ


小鳥遊「あれ?相馬さん。おはようございます」


相馬「いい所に来たね~」ヒソヒソ


小鳥遊「いい所、ですか?(……何で小声なんだろう)」


相馬「あれ、あれ見てよ」


小鳥遊「ん……?はっ!」ガビーン





「……はぁ」


小鳥遊「え、えと……あれは?」ヒソヒソ


相馬「さぁ。僕も今来たんだけどね、着いたら彼が見えてさ」


相馬「ちょっとおもし……っじゃなくて、不審に思ったからここで見てるって所なんだよね~」


小鳥遊「見た事が無い人ですが……、どなたかの知り合いやご家族では?」


相馬「そうかもしれないね~。小鳥遊くん家のなずなちゃんの件とかもあるし」


小鳥遊「それじゃ、ちょっと声を――」グッ


相馬「ちょっと待って」


小鳥遊「……なんですか?(そういえば、この人が大人しくしてる場合……)」


相馬「あれは、きっと『ヤンキー』ってやつじゃないかな」ニヤニヤ


小鳥遊「(……何かあるんだよなあ)」


相馬「あの格好を見てよ。少しぼさぼさな頭、ちょっと首に見える青あざ、そして気崩した制服」


小鳥遊「まぁ、確かに普通の人ってわけでもなさそうですが……。見た目で決めつけては駄目ですよ……」ハァ


相馬「いや~、それは分かってるんだけどね?何かありそうじゃない?」


小鳥遊「何かって……なんですか?」


相馬「それは僕にもわからないけどさ~、さっきからずっと入り口の前で立ち止まってるんだよ~?」


小鳥遊「……どなたかを待ってる、ってことは…………」


相馬「それなら待ち合わせとかしてるだろうけど、誰も現れないんだよね」


小鳥遊「……。あまり考えたくはありませんが、店長の舎弟とか、そう言う事は……?」


相馬「ほら、最近そういうの来てなかったし、何より来るなら顔見知ってる真柴くんたちが来るんじゃないかな~?少なくとも同伴でさ」


小鳥遊「……。……一理ありますね」


相馬「でしょ?……ってことは、つまり別の誰かってことだよ。うん」


小鳥遊「楽しそうですね」


相馬「……。そう見える~?」キラキラ


小鳥遊「……(こういうネタにはすぐ首を突っ込むんだから……)」ハァ


小鳥遊「それで、どうしたいんですか?」


相馬「あっ、そうだったね!」


小鳥遊「何かをするにしても、声をかけてみない事には進まないと思うんですけど……」


小鳥遊「……っていうか、僕たちこれからシフトインですし!このままじゃ目の前にいるのに遅刻しちゃいますよ!」


相馬「まぁまぁ、そう焦らないで。……いい?作戦はこうだよ。まず――」ゴニョゴニョ


小鳥遊「……」


小鳥遊「…………そういうことは、自分でやってください」


相馬「そう言わないでよ~。僕にこんな事できるわけ無いでしょ~?」ニコニコ


小鳥遊「僕もできませんよっ!」

相馬「ほら~、そうこうしてる内に時間も無いよ~?」


小鳥遊「……それなら、もう僕は先に行きます」スタスタ


相馬「…………もし、彼が暴漢だったとして」ボソッ


小鳥遊「……」ピクッ


相馬「小鳥遊くんが行った事により、中に入ってしまって……」


小鳥遊「…………」


相馬「中にいた伊波ちゃんとかに襲いかかったらと思うと……」


小鳥遊「………………」


相馬「いや~、僕は不安だな~」チラッ


小鳥遊「……………………」


相馬「だけど僕はできないからな~どうしようかな~?」チラチラッ


小鳥遊「…………あーっ!!もう!!分かりました!分かりましたよ!!!やればいいんでしょう、やれば!」


相馬「…………」


相馬「……そうこなくっちゃー」ニコニコ


ーー

春原の誕生日なので記念更新してみました。

モティーフは完全に黒歴史です……。

私の語彙って、間違っていたんですね…………。

うわあああああ…………………。

それでは、おやすみなさいませ……。

【新しいバイト】

律子「なぁ、まひる。バイト先に新しいバイトが入ったんだって?」

桃香「一体どんな人なの~?」

まひる「え、何で知ってるの?」

桃香「細かいことは気にしな~い」

律子「それで、どんな人なの?」

まひる「え、えーっと、少しぼさぼさな頭、ちょっと首に見える青あざ、そして制服を少し着崩してるような人かな・・・?」

律子「またまともそうじゃなさそうな人が入ったな・・・」(心の声)

桃香「まひるの周りには変わった男の人が寄ってくるね~」(心の声)

律子「まひる、男運悪い?」(心の声)

桃香「心配。だけど言わないでおくね~。面白そうだからじゃないよ。友達だからだよ~」(心の声)


という電波を受信した

【小学生?】

ぽぷら「岡崎くんおっはよー。今日も一日頑張ろうね」

岡崎「あ、ああ」

岡崎「・・・」

小鳥遊「どうかしました?」

岡崎「なあ?一つ聞いていいか?」

小鳥遊「はい?」

岡崎「何でここ小学生が働いてるんだ?」

ぽぷら「小学生じゃないよっ!?」


という電波も受信した

受信してもここに書くなバーロー
書きたいなら別スレたてろ

>>397
すまん。受信したついでに送信したくなってな
お詫びに小咄を一つプレゼントするよ

【春原と伊波】

春原「岡崎ー!バイト始めたって聞いたから遊びに来てやったぞ!」

岡崎「土に還れ」

春原「いきなり酷い言いようですね、あんた!」

杏「こら、店の中であまり騒がないの!」

岡崎「お前らも来てたのか・・・」

藤林「すいません・・・」

春原「なあなあ岡崎」

岡崎「何だよ・・・」

春原「知り合いから聞いたんだけどさ、ここって可愛い子多いらしいじゃん。紹介しろよ」

杏「」ドゴッ

春原「あふん!」

杏「ごめんねー。今すぐこいつ帰すから」

岡崎「・・・・・・そういや、一人いい子がいるぞ」

春原「マジで!?」

杏「ちょ、いいの?あんた?」コソッ

岡崎「いいから任せとけ」コソッ

春原「で、どの子だよ?」

岡崎「あそこのオレンジ色の髪をした子だ」

春原「うおお!可愛いじゃん!」

岡崎「ああ。しかも優しくて気配りができる、いい子だ」

春原「おお!最高じゃん!」

岡崎「しかも今彼氏がいなくて、春原みたいのがタイプらしい」

春原「きゃほー!そこのお嬢さーん!」

まひる「きゃあああああああああ!男ーーーー!」ドガアン!

春原「ごはぁあ!」

岡崎「ただし、男性恐怖症だ」

春原「それ先に言ってくれませんかね・・・・・・」ピクピク




すまんすまん。もう垂れ流さないからそう怒るなって

ス、凄い……。私の思いつかない様なネタを受信していらっしゃる……。羨ましいです……。
ですが、書かれるのでしたらぜひご自分のスレを建ててみては、と思います。
ここで書かれても特にきにはしませんが、どうせ受信したのでしたら自分専用のスレを作って、見てもらった方が気持ちいいですよ!
CLANNADスレ、私も見たいですし……www


とりあえず、12日にはアップできそうですので報告上げです。
報告上げの理由はまた一月近く明かしてしまったので、黒歴史による逃亡を疑われないため……です……。
あぁ、まだ思い出しても顔が熱くなるww

それでは、他のSS作家さん、読者様、失礼しました。

【ワグナリア 裏口前】


朋也「……」


朋也「…………」


朋也「………………」


朋也「(……やっぱりやめようか)」


履歴書と印鑑の保管場所は、うろ覚えだったがなんとか見つかった。
飲んだくれの親父には任せられず、ずっと前に俺がしまっていたから。


朋也「(……)」


かれこれ10分程度は扉の前で立ち尽くしてる。
とりあえず指定された物を用意して来てみたものの、何となく入ろうという気が起きなかった。


朋也「(大人しく春原の所でも行くか……)」


よくよく考えてみると、俺が流されるままに佐藤に従わなければならないのか。


朋也「(……そう言えば、学校には来てなかったな)


確かに興味が無いわけではないが、誰かの言いなりになってやるのは虫が好かない。


朋也「(どうせ寮でふて寝でもしてるんだろ)」


「……ゃ、やややや、ややいやいやい…………」


朋也「……」


春原を蹴り起こして、あいつの部屋でゆっくりしよう。
そう思い立った所だったのだが、


小鳥遊「……ど、どこみてるんでっ……どこみてるんでぃ……?」


朋也「……誰だお前」


小鳥遊「っ!!え、えーっと……、あー……」


踵を返した先にいたのは、髪を無理矢理後ろに束ねた、珍妙な男だった。


小鳥遊「だ、誰って、そ、それ、そりゃあ……」


相馬「この辺りを取り仕切ってる、小鳥遊さんですよ~」


小鳥遊「んなっ!?」


朋也「しきる……?」


小鳥遊「な、なにを?!」


相馬「……そうなんですよ~。この人こんなナリしてますけど、人は見かけに寄らないと言うか……」


笑いをこらえる様なそぶりをしながら出て来た青い髪の男は、どうでもいい説明を連ね始める。


相馬「……ってなわけなんですけど、このレストランを狙うのはやめてほしんいんですよ~」


相馬「ねっ?小鳥遊さん?」


小鳥遊「お、……お、お、おうっ!(もう、どうにでもなれ……)」


朋也「?…………狙う?」


相馬「このレストランで一暴れしても、何にも良い事はありませんし……。よかったら、別の場所で……」


朋也「……何言ってんだ、アンタら」


小鳥遊「な、何って言われても、そ、その……」チラッ


相馬「……えーと、一応聞きたいんですが~」


相馬「……実は、別にこのレストランに何の用もなかったり?」


朋也「……何の用も無くなった」


そう言うのが正しいだろう。


小鳥遊「……っ」ガビーン


相馬「え、えーっと、そっかー、そうですよねー!あはは!やだなぁ、もう、早とちりしちゃって~」


朋也「……」ギロッ



相馬「(……)」


小鳥遊「(そ、相馬さん!?この人、やっぱり普通の人だったじゃないですか!)」


相馬「(……間違えちゃった☆)」キラッ


小鳥遊「(それじゃ済みませんって!!)」アセアセ


相馬「そ、それじゃあ僕は中に用があるので先に行かせてもらいますよ~!」


相馬「小鳥遊さん、ありがとうございました~!後はごゆっくり~」ササッ


小鳥遊「なっ!?え?!」ガビーン


相馬「(逃げるが勝ち、だよ小鳥遊くん!)」


小鳥遊「(そ、そんな!それは無いですよ!!)」


朋也「(何なんだ一体……)」

相馬「それじゃ、ちょっと扉の前失礼しますよ!」


朋也「……」ヒョイ


相馬「(この扉の中に入ってしまえばこっちのもんだからね~)」


ガチャッ


まひる「…………」キョトン


相馬「………………」ピシッ


まひる「……っぃ…………」


相馬「(……あ、あれぇ~…………?――)」





まひる「お、男おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!いやああああああああああぁぁぁっ!!!」バキッ




【ワグナリア 休憩室】


山田「おぉ~……。結構腫れてますね~……」ツンツン


相馬「や、山田さん、触るのはやめてもらっていいかなぁ……?」ヒリヒリ


まひる「ご、ごめんなさいいぃぃ……」シュン


相馬「あ、あっはは、い、いいんだよ、大丈夫……(じゃない……)」ピクピク


ぽぷら「……」


佐藤「もうすぐ日も暮れるって言うのに元気だな、お前ら……」ハァ


まひる「だ、だって、外が騒がしかったから見に行こうとしたら、丁度目の前に居て……」


山田「相馬さんの今日の運勢はきっとビリだったんですよ」


麻耶「(運が悪いと殴られるバイト先って……)」


佐藤「……しかし、客がいないからってホールに誰もいなくて大丈夫なのか?」


八千代「テーブルには呼び出しボタンも置いてあるし大丈夫よ~。時間が空いたら集合しておくよーにって杏子さんの指示だし、ちゃんと集まらないとっ!」


佐藤「……とは言え、当の本人が遅刻してるけどな」


八千代「昨日の会議でよっぽど疲れたのよ、きっと!許してあげて?ね?」


佐藤「……っ。…………別に怒ってるわけじゃないが……」プイッ


佐藤「……そう言えば小鳥遊はどうした?」


麻耶「さっき頭につけたワックスが嫌だから落としてくるって、お手洗いに入って行きましたけど……」


佐藤「そうか……ん?」


ぽぷら「……」


佐藤「……」


ぽぷら「……」


佐藤「……」クシャクシャ


ぽぷら「…………」


佐藤「……」グイグイ


ぽぷら「………………」


佐藤「……(……面白い)」キラーン


小鳥遊「お待たせしました……」パタパタ


まひる「た、小鳥遊くん」


山田「もうワックスは取れたんですか?」


小鳥遊「いや、中々しぶとくて髪がゴワゴワだよ……。だけど、これ以上待たせるわけにもいかないから」


山田「……」サワサワ


小鳥遊「……?」


山田「カサカサです!」サワサワ


小鳥遊「改めて言わんでよろしいっ!」


杏子「おーす」カチャ


麻耶「あっ、店長。おはようございます」


八千代「杏子さ~ん!お疲れさまです~っ」


杏子「……ふぃ~」ストン


まひる「(来て早々に座るんだ……)」


杏子「で、……来たって話だったが」


佐藤「あぁ、アイツなら――」







ガチャ




ぽぷら「!」


佐藤「今着替え終わったみたいだ」


朋也「……」


見つかってしまったのだから、成り行きに従うしかなかった。
一日ぶりにみた休憩室は、昨日より人が多いからかとても狭く感じた。


朋也「……段ボールに入ってたのを適当に着てしまったが……、これでいいのか?」


佐藤「あぁ、無問題だ」


佐藤「新品在庫で合う奴があるか分からなかったから、とりあえず着てもらったが。それなら大丈夫だな」


ぽぷら「……」


持っている物が持っている物である上、駆けつけて来た佐藤に姿を見られてしまったはもはや逃げられない。
流されるままに昨日着用した物より新しい、皺が無く少し固い制服を着る。


更衣室を出るとそこには俺と同じ制服を着たメンバーが集まっており、休憩室は更に窮屈な物に感じた。


杏子「おっす岡崎。案外早いな。優等生かお前」


朋也「……」


杏子「まっ、そんなわけで。正式には全員じゃないっぽいが、ここにいる奴らがお前の先輩だから」


麻耶「ぽいって……」ズーン


杏子「分からんことがあったらコイツらに聞けよー。間違っても私に聞くな。分からんから」


『肩書きは飾り』という言葉がこの人並みに似合う人間はいないだろう。


杏子「そいじゃ、書類は受け取っておく。音尾がいないからな」


朋也「……」


何の気無しに歩いて来たと思ったら、俺が持つ書類を取って再び椅子に戻る。
その動きはどこぞの事務員とでも言うにふさわしいものだ。


杏子「んじゃ、解散ー。仕事に戻れー」


山田「はい、はいはい、はい!」


杏子「……どうかしたか?」


山田「山田、まだ岡崎さんの自己紹介聞いてません!」


朋也「(余計な事を……)」


杏子「お前、名前知ってるから十分だろ」


山田「はっ!?そう言えば山田知ってました!盲点です!」


麻耶「いやいやいや、店長。流石に名前だけってのも寂しくないですか?」


杏子「……」


杏子「…………だってさ」


そこで俺にふるのか。


朋也「…………」


朋也「……光坂高校の岡崎 朋也。………………よろしく」


八千代「は~い、岡崎くん、よろしくね~」


小鳥遊「岡崎さん、よろしくお願いします」


まひる「お、岡崎くん、よろしくね」


麻耶「……よろしくお願いします」


佐藤「おう、よろしく」


相馬「岡崎くん、よろしくね~!何か分からない事が合ったら何でも聞いてよ!」シュッ


小鳥遊「(いきなり元気になったな……)」


ぽぷら「……」


岡崎「……?」


杏子「ほんじゃ、折角だから今日は全員シフトってことで。岡崎もそれでいいな。変更すんの面倒くさいし」


朋也「……あぁ」


終始無言だった種島は、集中していない感じで、呆けている。
髪型もくしゃくしゃで、まとまりのない適当なポニーテールだ。


ピンポーン


八千代「あっ、お客様!」


麻耶「今フロアって誰もいませんよね!?」


小鳥遊「と、とりあえず早く行きましょう!」


ぽぷら「……」トボトボ


朋也「……なぁ――」


佐藤「岡崎」


朋也「っ」


佐藤「今日もキッチンに入ってもらうが、それでいいか?」


ぽぷら「……」


朋也「……」


佐藤「……ん?どうした?やっぱりホールにするか?」


朋也「……いや、別に何でもない」


それを気にする間もなく。
無言で俺が頷くと、それがアルバイト二日目の開始の合図となった。


【ワグナリア 休憩室】


まひる「それじゃあ、お先に失礼します。……お、岡崎くん、これから、よろしくね?」


小鳥遊「岡崎さん、これから色々と迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」ペコッ


まひる「ちょ、ちょっと!迷惑って、誰が――」


バタン


朋也「……(……マジックハンドとは、考えたな)」


閉店時間を過ぎ、閉め作業を終えると皆そそくさと帰って行った。
理由はもちろん今日が平日であり、明日も学校や他の用事があるからだろう。


朋也「……」


動くのもけだるい。
はっきり言って、指一本ぴくりともさせたくない。


佐藤『今日は空いてるな』


ぽつりと佐藤が呟いた冗談にしても笑えない一言が、俺の焦燥感をより駆ってきた。


朋也「(これがバイト……か)」


杏子「岡崎」


肘をついて机にもたれていると、背後から店長の声が入って来た。
見るとチョコレートを口に含みながら、何かの紙を手に持っている。


杏子「これ」


朋也「……これは?」


杏子「お前に書いてもらった今月の予定見てシフト組んだんだ。私じゃなくて音尾が」


朋也「……おい」


杏子「ん?」


朋也「休みがほとんどないんだが」


杏子「まあ人材不足ってやつだな。金も稼げるし、暇な日なんだから構わんだろ」


それはそうだが。
どうしてもこの『バイト』という作業はとてつもない疲労感を伴う為、先が思いやられるのだ。


杏子「まあ来月以降は別にシフト表を出してもらうから。今月はその臨時でかんべん」


朋也「……」


杏子「そんじゃ、私は先に帰るが……。戸締まりは八千代に任せてあるから、アイツよりは早く出るんだぞ」


せわしなく口を動かしながら、店長は去って行った。


朋也「……」


朋也「…………それじゃ、帰るか」


このままうなだれていても仕方ない。
早いうちに帰ってベッドに倒れ込むのが正解だ。


「……あ、朋也くん」


朋也「……」


ぽぷら「……もう、帰るんだよね?」


朋也「他にする事は無いしな」


ぽぷら「……え、あ、はは。そ、そうだね!」


朋也「……?」


ぽぷら「……えっとね、そ、それじゃあ。私も一緒にいいかな?」



【帰り道】


ぽぷら「……」


朋也「……」


種島とは、バイト中ほとんど一言も喋らなかった。
俺としては、話す余裕も時間もなかったが。

それでも、最初に感じた違和感はどうやら本物のようだ。


朋也「(こいつがこんな大人しかったことはないからな……)」


今、この帰りがけにすら、互いに口を開かない。
俺はそんなに気の利く人間ではないし、効かせ方も知らない。

だから、この場は種島が切り出さない限り、絶対に無音の空間だった。


ぽぷら「岡崎くん、あのね……」


朋也「……ん?」


駅まで徒歩であと5分といったところか。
分岐道に差し掛かった所で、俯いていた種島が俺の方を向いて口を開いた。


ぽぷら「今日、『よろしく』って言えなくってごめんね……」


朋也「……は?」


ぽぷら「え、えとね、驚いちゃって。その……。岡崎くんがワグナリアで働くなんて思ってなくて」


朋也「……いない方が良かったか?」


ぽぷら「ううん!!そういうことじゃなくて!!……えっとね」


何て言ったらいいか分からないや、と種島は呟くが、俺の方が分からない。


ぽぷら「……なんか、私のせいかなぁって思っちゃって」


白い吐息と共に、そんな一言が飛び出して来た。


星がよく見える月夜で、人通りの少ない道路。
電柱一本の光が目の前50mを等間隔で照らす道で、種島は立ち止まる。



朋也「……何の事だ?」


ぽぷら「…………私、最初はすっごく嬉しかったんだ。岡崎くんがワグナリアに来てくれた!って、浮かれてた」


ぽぷら「……けどね、よく考えてみたらね」


ぽぷら「岡崎くん、バイトなんて興味なさそうだったのに、こんなに急に入るなんて、何かしっくりこなくて……」


ぽぷら「だから、私のせいで、無理に来ちゃったのかなって思っちゃって」


ぽぷら「……ごめんなさいっ!!」


朋也「……」


ぽぷら「わ、わたし何て謝ったらいいのか分からないけど……。でも、でも、謝りたいの。いっぱい迷惑かけちゃったし」


ぽぷら「岡崎くんが、私のせいで無理にワグナリアに来ちゃったとかだったりしたら、すっごく申し訳ない気持ちになっちゃって……」


後ろで結ばれた長い髪は、お辞儀と共に風に流れる。
肩を小刻みに震わせて、頭を上げない種島からは、何か強い意志を感じた。


朋也「……なぁ」


ぽぷら「……」


朋也「なぁ」


ぽぷら「……は、ひゃい!!!」


種島の肩を軽く叩くと、飛び跳ねる様な反応を見せてくるのがちょっと面白い。


朋也「……携帯」


ぽぷら「…………」


ぽぷら「………………」


ぽぷら「……………………へ?」


朋也「携帯電話だ。……欲しいと思ってたんだ。だから応募した。たまたま募集してたのがあのレストランだったってだけだ」


朋也「お前のせいじゃない」


ぽぷら「……そ、そうなの…………?」


朋也「……あぁ、そうだ」


ぽぷら「本当に、ほんとにほんと?」


朋也「あぁ」


ぽぷら「本当の本当の本当に?」


朋也「……しつこいぞ」


ぽぷら「…………」


朋也「……?」


ぽぷら「良かった~……」


朋也「っ!お、おい」


足から身体を支えるはずの芯が抜けた様に、種島はその場に崩れ落ちる。
いくら夜とはいえ、こんな道ばたで座り込まれると周りの目を気にしてしまう。


ぽぷら「え、えへへ……。私ね、さっきからずっとその事ばっかり考えちゃって……。なんか力が抜けちゃったみたい」


朋也「……」


人に対して何かをしてしまったとして。
こんなになるまで思い詰める事が出来る程に純粋な人間は、そうはいない。


ぽぷら「……あは、あはは…………」


ぽぷら「……本当に、本当によかったよ。私、岡崎くんに嫌われちゃうかと思って、ずっと……」


朋也「……別に、お前がやれって言ったからやった事なんて一つもない。だから、それにお前が負い目を感じる必要なんてない」


ぽぷら「……う、うんっ。……え、えへへ」


朋也「……とりあえず、立ち上がっとけ。汚いぞ」


ぽぷら「あっ、そっ、そうだね……――あれ?」


朋也「……どうした?」


ぽぷら「こ、腰が抜けちゃったみたいで、立てないや……」


朋也「……子供かお前は」


ぽぷら「こ、子供じゃないよっ!大人だもん!!」


正確には俺も種島も大人ではない。


ぽぷら「お、岡崎くんは先に行って大丈夫だよ!ほら!明日も学校あるだろうし、私もすぐ直ると思うから!」


朋也「……」


種島はわざとらしく腕を振り上げてそう鼓舞しているが、
こんな夜中の道ばたで、人通りもほとんどない様な場所に一人にするには、あまりに不用心過ぎる気がした。


朋也「……(……まったく)」


朋也「……ほら」


ぽぷら「……?」


朋也「こっから駅ぐらいまではおぶってやる。……早くしろ」


ぽぷら「お、おぶる!?い、いいよ!わ、私そんな子供じゃないもん!」


朋也「そんな事言ってられる時間でもないだろ。大体、こんな寒い中残って風邪引くなんてことになったらそれこそ俺は迷惑だ」


ぽぷら「う、うぅ……」


朋也「早くしろ」


何かを独り言の様に呟きながら種島はしぶしぶと俺の背中に身を預けてくる。
体重自体は軽いもので、ほとんど重さなどは感じなかった。


朋也「(……ただ…………)」


ぽぷら「お、岡崎くん。だいじょぶだよ」


朋也「……よし、行くか」


雑念は振りほどく。

種島がしっかりと俺の首に腕を回した事を確認してから、立ち上がり足を動かし始める。


ぽぷら「結局、迷惑かけちゃった……。ごめんなさい……」


朋也「……そうやってすぐに謝るな。面倒なんだよ」


ぽぷら「うぅ……」


朋也「……」


ぽぷら「……」


駅が見える位の所まで、無言で歩く。
駅前の通りは昼時とは違う、静寂した雰囲気を醸し出していたが、その脇では飲み屋が小さな明かりを灯して営業していた。


ぽぷら「……えへへ」


朋也「何だ急に……」


ぽぷら「……何か、こうやって後ろに乗ってるとね、子供の頃思い出すなぁ」


朋也「今も……」


ぽぷら「子供じゃないのっ!」


また先読みされてしまった。


ぽぷら「お父さんの背中もね、岡崎くんみたいに温かくて、大きかった」


朋也「……」


俺にも、記憶はある。
種島が言っている子供の頃より、もっと小さい時の話だが。

俺も親父に凄く懐いていたんだと思う。


ぽぷら「懐かしいなぁ……」


口調から、見えなくても種島の表情がなんとなくわかった。


朋也「……着いたぞ」



ぽぷら「えぇ!?も、もう!?――はっ」


朋也「……」


ぽぷら「も、もうって言うのはね、その、えと、もういいよーって事だよ!全然『もう着いちゃったの』みたいな意味じゃないよ!」


朋也「…………はいはい」


朋也「立てるか?」


ぽぷら「……あ、うん!だいじょぶ!ありがとう!」


駅前でわめく種島の話を流していると、何かを引きずる様な金切り音がどんどん近づいてくるのが分かった。
どうやら、電車が来たらしい。


ぽぷら「あ、あの電車だ」


朋也「もう腰抜かすなよ」


ぽぷら「普段は腰抜かしたりしないもん!」


朋也「はいはい……」


ぽぷら「…………え、あ、あの!岡崎くん!」


朋也「……まだ何かあるのか」


ぽぷら「……あのね、携帯。携帯をね、岡崎くんが買ったらさ」


ぽぷら「…………私が、一番最初にアドレス、教えてもらっても、いい?」


朋也「……はぁ?」


ぽぷら「え、あ、あの、何かあるんだったら別にいいんだけど!!えと、あはは……」


朋也「……あぁ、分かったよ」


ぽぷら「ほ、ほんと!?約束だよっ!」


朋也「……ほら、電車。行っちまうぞ」


ぽぷら「あっ、本当だ!」


ぽぷら「……それじゃあ、岡崎くん。おやすみなさい。今日はありがとう!さっきの約束、覚えておいてね!」


朋也「あぁ」


ぽぷら「……これから、よろしくお願いします!」


満面の笑みで深々とお辞儀をすると、種島は走ってホームの中へ入って行った。
中から最終列車のアナウンスが流れている所から、あれが終電だったのだろう。


朋也「(終電逃してたらどうしてたんだ……)」



ぽぷら『…………私が、一番最初にアドレス、教えてもらっても、いいかな?』


気の効く言葉なんて、やはりそう簡単には出て来ない。
結局、全く考えてもいなかった言葉が、つい口に出た。


朋也「……」


嘘は、つくのは簡単だが、信じ込まれると後が面倒だ。


朋也「(……本当に、買ってみるか)」


嘘から出た真、というわけではないが。
使い道も大してない俺にとっては、いい目標かもしれない。


朋也「(…………ふぁぁ)」


それにしても、上瞼と下瞼が今にもくっつきそうな程、眠い。


朋也「(明日は久々に、ふけるか……)」


止まらない欠伸を手で抑えながら、俺も暗くなった駅を後にした。

ほんっとうにごめんなさい!!!!!!でした……。

少しばたばたしていて投下が遅れてしまいました。
もう以後は投下予告なんてやっぱりしません、反省しました。

本当にすいませんでした……。

それでは、こんな感じの話でした!これからはワグナリアとCLANNAD完全にミックスしたお話しになります。
是非是非お暇な時間にでも覗いて下さると嬉しいですっ!

では、また早めに来ます!



【半月後 ワグナリア】


ピンポーン




朋也「はい、行きます」


バイトを始めて、二週間が経った。


朋也「……お待たせしました」


「あっ、あぁオーダーなんだけど」


朋也「……ご注文をどうぞ」


「そっ、それじゃあハンバーグステーキとライス一つに、えーと……」


朋也「……かしこまりました」


ほとんどの日がキッチンでの業務だったが、
拙いながらも接客やオーダー取りまで、フロアでの業務も大体覚えることができた。


佐藤「……あん?一人でハンバーグステーキ10個も頼んでnnnoka
?」


……ただ、このハンディというものを扱うのだけは、どうしても慣れない。



【帰り道】


ぽぷら「だからね、私も伊波ちゃんも、かたなしくんにいっつも勉強教えてもらってるんだ~っ!」


朋也「へぇ」


シフトの被ったときは、種島と同じ道で帰る。


佐藤『ここでは種島以外、駅方面に行く奴がいなかったんだよ』


佐藤『夜道は危険だから、たまに俺が送ってやってたんだがな。


佐藤「たしか、お前の家も駅方面だったろ。せっかくだから送ってやれよ』


煙草の煙を吹かしながら呟いた、佐藤の一言が原因だ。


ぽぷら「あっ、岡崎くんはテストの準備とかしてるの?私、今期は結構危ないんだよ……」


最初は『送ってもらうなんて子供みたいだ』と拒否していた種島だったが、いつの間にかそれが当たり前の様になっていた。


朋也「高校に入ってからほとんどした事が無い」


ぽぷら「えぇっ!?だ、だってそれじゃあ赤点とか……」


朋也「ギリギリ進級できるくらいでやる。それに、俺よりもダントツで下の奴が居るから俺はあまり目立たない」


ぽぷら「そ、そうなんだ」


春原と言う名の万年ワーストがいる限り、俺がブービーより下に来る事は無いからな。


ぽぷら「そっ、そういえば、もうすぐお給料日だねっ!」


朋也「給料日……?」


ぽぷら「岡崎くんにとっては初めてだよねっ?初めての時、私もすっごくドキドキしたな~……」


朋也「あ……」


25日締め、1日払い。
給与体勢の説明を佐藤に以前聞いた時、そう言っていた。


ぽぷら「岡崎くん、たくさん仕事入ってたし!」


朋也「入れられた、だけどな」


ぽぷら「たはは……、うちの店、あまり人数いないから……。ごめんね?」


朋也「……別に謝られる筋合いもないが」


ほとんど笑顔も見せない、愛想も無い。
終始仏頂面の俺が、接客業で本当に助けになってるのか微妙なところだから。


ぽぷら「それでね!」


朋也「?」


急に種島が深呼吸をし始める。
両手を大きく振って、何かの儀式のような動きだ。


朋也「体操なら朝に公園でやってくれ」


ぽぷら「ち、違うよ!市民体操じゃないもんっ!」


朋也「そうなのか」


ぽぷら「そ、そうじゃなくてね、えと……」


朋也「えと、携帯電話、買いに行くんだよね?」


朋也「……」


そういえばそういう事になっていた。
最近の忙しさですっかり頭から離れてしまっていたが……。


ぽぷら「で、でね!もし、岡崎くんが今月買いに行くんだったら、さ」


ぽぷら「私も、買いに行くの一緒に行っちゃ…………駄目かな……?」


朋也「……」


ぽぷら「ほ、ほら!岡崎くん、携帯とか見た事あまり無いって言ってたから、
この前買お買い物に付き合ってもらったお礼も兼ねて!」


ぽぷら「……あ、やっぱり迷惑、だったり…………?」


朋也「……5月5日」


ぽぷら「え……?」


朋也「その日なら学校も無いから、ゆっくり買いに行ける。お前が暇なら、別に――」


ぽぷら「行くよ!!!」


朋也「!?」


ぽぷら「うん、分かった!5月5日ね!」


携帯を取り出し、ぽちぽちと何かを打ち込む。
スケジュール帳に書き込んでいるのか。


ぽぷら「はいっ、登録完了だよっ!」


ぽぷら「えへへっ。岡崎くんの役に立てる様に、私、がんばるよ!」


朋也「…………」


朋也「……なぁ」


ぽぷら「ん~?」


朋也「……お前、人からバカって言われるだろ」


ぽぷら「えぇっ!?何で!?」


朋也「……。あれ終電じゃないのか」


ぽぷら「わわっ!?ほ、ほんとだ!!」


朋也「じゃあな」


ぽぷら「う、うん!また明日ね!」


俺みたいなのに構って、何が楽しいんだろうか。
恩を着る必要は無いと言ってるのに、いつまでもそれを気にしてる。


朋也「……ったく」


一回も返した事のない手を、毎度の様に振ってくる。


無駄におせっかいで、馬鹿正直。

リトルバスターズアニメ化記念で興奮しまくりなので更新です!


ちょっと今から予定があるので帰って来たらもっと投下します!!


でゎっ!



>>455の佐藤のセリフ変換されてない
>>458のぽぷらのセリフと思われるものが朋也のセリフになってる

リトバスアニメ化はビジュアルアーツ社長がノーコメントで通してるけどな

ttp://blog.esuteru.com/lite/archives/6033271.html
ttp://blog.esuteru.com/lite/archives/6031464.html



ここでする話じゃないがリトバスはアニメ化して欲しくなかったり


【翌日 学校】


朋也「……はぁ」


春原「おいーっす岡崎!今日はいい天気だね!」


朋也「一生寝てろ」


春原「会って早々ひどすぎません!?」


連勤に次ぐ連勤が過ぎているのか。
学校に来るだけでも、とてつもなくだるさを感じる。


朋也「朝から大声出すなよ……」


春原「今日はとても寝覚めが良かったのさ!やっぱり早寝早起きは大事だね!」


朋也「どうせゲームでぼろ負けたからふて寝しただけだろ」


春原「……」




春原「そ、それよりさ、今日こそ空いてるだろ~?ゲーセンに行こうぜ、ゲーセン!」


いつになってもレパートリーはゲームセンターのみらしい。


朋也「悪いが行けそうにないな」


春原「……。最近付き合い悪いじゃん、どうかした?」


朋也「お前の頭ならいつでもどうかしてるが」


春原「とてつもなく失礼な発言してるの気付いてます!?」


朋也「色々あんだよ、色々」


春原「ふーん。色々、ねぇ……」


春原「まっ、いいさ。僕は僕で、最近よさげな暇つぶしを見つけたからね!」


朋也「鏡を見ればどこぞの喜劇よりも面白いもんが見れるしな」


春原「僕の顔は福笑いじゃないぞ!?」


「……朝から元気な奴らだな」


朋也「?」


春原「!?」


智代「……」


春原「う、うわぁ!?」


朋也「……ここは3年の教室だぞ」


智代「そんな事は分かっている」


春原「な、なななななな何の用だよ!?」


智代「別に……お前達に用があるわけではない。ただ目に余ったからな」


春原「ならさっさとどっか行けよ!」


智代「……」


春原「ひぃ!」


とてつもなく威厳の無い先輩である。


智代「……」


智代「……もうすぐHRだ。あんまり騒いで先生に迷惑をかけるなよ」


朋也「……関係ないね」


春原「そ、そうだそうだ!」


智代「……」


春原「…………ふぁぁ、き、昨日は夜更かししたから眠いなー、あはは」


智代「……まぁ、確かに関係はないな」


椋「あ、あの……坂上さん?」


智代「!」


椋「ご、ごめんなさい、少し遅刻しちゃって……」


智代「いえ、私も今この教室に着いたところだったので」


椋「そ、そっか、それならいいんです、けど……」


智代「それでは、ここでは何ですので廊下にでも」


椋「は、はぁ……」


椋「……!」


椋「……お、おはようっ」


委員長は小さく会釈すると、坂上の後ろにおろおろとしながら着いて行く。
どうやら坂上が来たのは、委員長に用事があるからだったようだ。


朋也「……おい」


春原「……」


朋也「もう行ったぞ」


春原「!」


腕を組んでぷるぷると方を震わせる春原に一声かけると、勢いよく顔を上げる。


春原「ふ、ふん!あー、眠かったんだけど急に目が覚めちゃったよ!あーあ、朝から台無しだよ全く!」


朋也「……今日は寝覚めが良かったんじゃないのか?」


春原「……」


春原「…………ぐぅ」


朋也「……」


なんとなく、だが。
この男は、きっと社会人になってもこの調子なんだろうと思う。


【ワグナリア】


八千代「あ、岡崎くん。おはよ~っ」


朋也「お疲れさまです」


ぽぷら「岡崎くん、おはよっ!」


小鳥遊「岡崎さん。おはようございます」


相馬「岡崎くん、おはよう!」


佐藤「うっす」


朋也「……おはよう」


着替えてからホールに立つと、毎度のように交わされる、『おはよう』という言葉。
時間的には全く合っていなかったとしても、必ず『おはよう』だ。

最初は違和感だらけだったが、周りが使っているのを見るうちに耳が慣れてしまった。


朋也「……今日、俺はどっちに入ればいいんだ?」


佐藤「そうだな……。今日は俺も相馬もいるし、客数も多くないからホールの方に入ってやってくれ」


朋也「了解」






佐藤「……あいつもだんだん自分で行動できるようになってきたな」


八千代「岡崎くんが来てくれてからどっちも入れる子が出来たから助かっちゃうわね~♪」


佐藤「……それでも、まだまだ半人前だけどな」


相馬「あれ~?佐藤くん、この前は岡崎くんの事褒めてたよね?って、あぁそっか!佐藤くんは妬いて――」


八千代「え?」クルッ


佐藤「……何でも無い」ゴキッ


相馬「ごぼっ!?」


八千代「そ、そう……」


佐藤「あぁ」


相馬「すり鉢で殴るのは流石にヤバいよ佐藤くん!?」


佐藤「……生きてるから大丈夫だろ」


相馬「何で生死の境を最低ラインにしてるの!?」


ぽぷら「よーしっ!岡崎くん!」


朋也「何だ」


ぽぷら「今日も一緒にがんばろーっ!」イェーイ


朋也「小鳥遊、この種類の皿ってどこに予備があるんだ?」


小鳥遊「あぁ、それはあっちの棚に入ってる段ボールの中にありましたよ」


ぽぷら「あからさまな無視っ!?」ガーン


自分の肩と同じくらいの高さのハイタッチをしたくはない。


ピンポーン


八千代「ぽぷらちゃん、私レジの方に行かないといけないから、オーダーお願いしていいかしら~?」


ぽぷら「あ、はーいっ!」

え?投下終わり?


小鳥遊「元気に動き回る先輩、可愛いなぁ~……」ポワーン


朋也「まるで子供みたいだけどな」ガチャガチャ


小鳥遊「そこがいいんですよ~……。小さくて、目は大きくて、人形みたいだぁ。愛らしい……」


朋也「(前から思ってたが、大丈夫かコイツ……)」


相馬「そうそう、種島さんは元気なのが一番だよね~」ヌッ


小鳥遊「うわっ!?……相馬さん、いきなり現れないで下さい!」


相馬「いや~、今日は平和だね~。毎日がこれくらいだったら喜んでアルバイトに来るのにね~」


小鳥遊「それじゃあお店が持たないと思いますよ……」


相馬「まっ、この街の大きさ的にめちゃくちゃ混む事はないし、普段ぐらいなら別に大丈夫だけどね」


小鳥遊「って言っても、大きな開拓があるみたいじゃないですか。お客様の入りは、もっと増えるんじゃないですかね」フキフキ


相馬「そうは言ってもまだまだ先だし、その時に僕たちがいるかわからないしね~」


小鳥遊「まぁ、それは言えてますが……」


朋也「…………っ」ガチャッ


相馬「岡崎くんは真面目に働くね~。助かるよ~」


朋也「……」カチャカチャ


相馬「そういえば、最初に見た時は勘違いしちゃってごめんね~」


小鳥遊「!」


相馬「あの時は遅刻しそうでね、急いでてさ~あはは」


小鳥遊「(……正確には『面白がって』たんですけどね)」


朋也「……別に。気にしてないんで」



相馬「そっか!それならよかった!」


朋也「はぁ」


相馬「ところでさ~、岡崎くん。岡崎くんがここに来てから半月経つしさ~」


相馬「親睦を深めるって意味で、色々聞きたい事があるんだけど、いいかい?」


小鳥遊「(嫌な予感がするなぁ……)」


朋也「……作業しながらでよければ」


小鳥遊「あ、手伝いますよ!」


朋也「頼む」


相馬「作業しながらで全然構わないよ~!」


小鳥遊「(手伝う気はないのですか……)」ハァ


相馬「そうだね~、まずは……種島さんとの出会いを聞きたいかな~」


小鳥遊「!?」


朋也「……どうしてですか?」


相馬「いや~、お互い店に入る前から知ってたみたいだし~、何かあるのかな~って思ったりしてさ~」


朋也「…………」


朋也「……別に。ただ前に会った事があっただけなんで」


相馬「……」キュピーン


小鳥遊「(『これは何かある!』と踏んだ顔だな……)」




ピンポーン




小鳥遊「あ、僕が行きますね」タタッ



相馬「いってらっしゃーい」ヒラヒラ


朋也「……」カチャカチャ


相馬「……それならさ、岡崎くんは彼女とかいたりするかい?」


朋也「……」ピクッ


朋也「……いや」


相馬「(……これは面白そうな展開になってきたね~)」





ぽぷら「え、え、えっと、お客様、困りますっ」





朋也「!」


相馬「!」






ぽぷら「あぅっ。…………だから!私はその……」





相馬「……何かあったみたいだね~」


朋也「(……)」


相馬「岡崎くん、種島さんの事を見に行ってあげてもらってもいいかな~?」


朋也「……俺がですか?」


相馬「うん、何か困ってるみたいだし、男が行ってあげた方がいいんじゃないかな?」


朋也「……俺はまだ別棚の整理があるんで」


相馬「そっか~……。実はさ、最近は種島さん元気なんだけど、今月の初めはすっごく落ち込んでてさ~」


朋也「……」


相馬「……誰かにお礼を言いそびれちゃったって事しか教えてもらってなかったんだけど、
ずっと元気が無かったんだよね~」


相馬「それが結局どうなったのか分からず終いだし、少し心配だなぁ~……」チラッ


朋也「……」


相馬「こういう時は男が行った方がいいと思うだけど、僕は生憎キッチンで行けないし、小鳥遊くんはいないし……」


相馬「あー、ただのクレームだったならいいけど、もし難癖つけられてるんだったら心配だなぁ」チラッ


朋也「……はぁ」ガチャッ


朋也「…………分かりました。行ってきます。ここの皿、ちょっと見てて下さい」


相馬「りょうか~い。いってらっしゃ~い!」ヒラヒラ


相馬「(……扱いやすい!)」キュピーン

>>464

あ、ご指摘ありがとうございます!確かになってますね……。確認足らずですいません……。次回以降もっと気をつけます!
twitterなるもので皆が言っていたのですが、それだけでちゃんと情報の確認してませんでした……。不快にしてしまったようでしたらすいません……。
こちらも気をつけます汗


>>469

確かに、リトルバスターズは1つの作品のはずなのになんか独占欲的なのがわいて、なんか、こう……アニメだけ見て「わー萌えー」みたいに言われるのは、なんかやですね……。

>>479

すいません、またちょっとだけ出かけてました;;


色々言って下さる方、本当にありがとうございます!
こんなアホで稚拙で馬鹿な話を見て頂いて感激してます……!
妄想でよろしければ、これからも暇なときにぽちぽち見て頂けたら嬉しいです。

それでは、また早めに来ますね!!

キャラも活き活きし始めていいNE

後、前から気になっていたけど、
自分で自分を卑下しちゃ駄目だぜ?

>>1が自分の話はつまらないと言ってしまったらそれを楽しみに待ってる人はつまらない作品が好きな奴みたいになるじゃないか

楽しみに待ってる俺みたいなのもいるんだから、自信を持って書いて欲しいのだぜ

へこへこするのはミスした時や指摘された時にすればいいのさ


ぽぷら「だ、だから、私は……っ!」


慌てふためいてる種島の声が聞こえる。
ここは店の中だからか、音量はかなり抑えめにしてるようだ。


朋也「(で、何が起きてん……)」


「いいから。こんな遅くまでお店にいたら、親御さんが心配するぞ」


朋也「(……だ)」


種島がいたのは店の奥で、角を少し曲がった所にある末席だ。
相手がどんな風貌をしているのか、まだ見えてはいなかったが。
ふと耳に入ったその一言で、どういう勘違いを受けているのか即座に理解できた。


朋也「(……俺が行く必要あるのか)」


アイツは今まで何度となく経験してきただろう。
それなら、あえて俺が行く事も無い。

……と思ったが、


ぽぷら「え、えと、だから私は高校生で……」


「そんな嘘をついても駄目だ。 どうしても、と言うならそれなら証拠を見せてみるがいい」


ぽぷら「っ!そ、それなら大丈夫……って、あぁ!? 学生証は定期入れの中……っ!」ガビーン


「ほら、そんなものは無いだろ。 ……駅までなら私が送るから」


ぽぷら「う~っ、だから本当に私はここのスタッフで――」


朋也「…………すいません」

「……?」


種島1人では話がつけられそうにないので、やはり行かなくてはならなそうだ。


朋也「……うちのスタッフが何か粗相をしましたか」


自分でも分かる棒読み具合。

『接客マニュアル クレーム編』

店長から適当に放る様に渡された冊子を流して見ていた時に書いてあった。
『まずは、いかなる場合もお客様の話を聞く事』


朋也「……」


それを律儀に覚えている俺は、自分で思っているよりまともな思考をしているのかもしれない。


「……」


「……お前、岡崎、か?」


朋也「!?」


智代「……これは驚いたな」


朋也「……」


銀髪にカチューシャ、ぱちっと着こなした制服には皺や粗など一筋もない。
目の前にいたのは、そんな風貌の顔見知りだった。


智代「まさかお前がアルバイトをしているなんてな。 どこぞをふらついてるものだと思ってたが」


半月前までだったらあながち間違っていない予測だ。


ぽぷら「……? …………ほぇ?」


状況を把握できていないといった表情を浮かべ、交互に俺と坂上の顔を見比べる種島を置いて、話は続く。


朋也「……誰に迷惑をかけてるわけでもないだろ」


智代「もちろん。 私だって非難してるわけじゃない。 純粋に驚いているだけさ」


くすくすと笑いながら俺の姿を見てくる。
そういえば高校の人間にバイトでの格好を見られたのは初めてだが、いかんせん決まりが悪いものだ。


朋也「……とりあえず。 お前ら、一体何が起きてたんだ?」


智代「あぁ、そうだ。 『うちのスタッフ』と言っていたが……。 ……この店では中学生を雇っているのか?」


ぽぷら「なっ!?だ、だから私は中学生じゃぁ……!」


朋也「まぁ、俺も最初は疑った」


ぽぷら「へ?」


朋也「誰でも、最初は小学生だと思う。 ……が、こいつは確かに高校生みたいなんだ」


ぽぷら「岡崎くん!?」


智代「そ、そうだったのか……。 つい外見で判断をしてしまって……」


ぽぷら「……」


智代「申し訳ない。お詫びと言っては何だが……」


ぽぷら「…………?」


智代「さっき買ったキャンディだ。よかったら食べてくれ」


ぽぷら「……」プルプル


智代「おや? どうかしたのか? 1つじゃ不満だったか? ……悪いが、生憎1つしか買ってなくてな……」


ぽぷら「……」


ぽぷら「……私はそんなに子供じゃありませんっ!」


智代「……行ってしまった」


あれだけ自然にバカにされれば誰だって頭に来るだろう。


朋也「(……天然でズカズカ来る奴だな、こいつは)」


智代「……まぁ、彼女には後でお前からも謝っておいてくれ」


朋也「そんな面倒な役は断る」


智代「それは困る。 私だってこれから通うことになる場所にわだかまりを残したくない」


朋也「お前がどう困ろうと俺には関係ないだろ……」


朋也「……」


朋也「……通う?」


智代「あぁ。 少し学校の方で色々あってな。 ゆっくり考えられる場所を探していたんだ」


智代「ここなら学校の図書室と違って時間制限は無いし、ドリンクバーという割かし得なセットもあるみたいだからな」


俺としてはそっちの方が困る。


朋也「……開店時間は定まってるからな」


智代「もちろん、そこまで長居をするつもりはないさ。 さっき彼女と話しはしていたが、私だって学生である身だしな。 ……家族には心配はかけられないさ」


智代「さぁ。 今日はこのまま居座るというわけにもし難いからな。 帰らせてもらうよ」


朋也「俺に言う必要がないだろ」


智代「……一応言っておくが、私は客だぞ」


朋也「……」


完全に頭から抜けていた。


智代「……まぁいいさ。 それじゃ、これからよろしく頼むよ。――『店員さん』」


朋也「……その呼び方はやめろ」


ある意味、うちの学校で一番嫌な奴に見つかってしまったのかもしれない。


【ワグナリア レジ】




「店員さん、お名前は?!」


八千代「と、轟です……」


春原「ぼ、僕は春原陽平って言います!以後知っておいてください!」


八千代「は、はぁ……」


春原「あはは、ずっと前からこの店には来てみたいと思ってたんですよぉ! あは、あはは、あはははは」






朋也「……」


智代「……」


春原「…………は?」


店員のネームプレートを判別する力など到底持たない人間が、そこにはいた。


春原「お、岡崎に、……坂上!?」


八千代「あら?岡崎くん、知り合いの方?」


朋也「……覚えは無いですね」


春原「同じ高校で同じクラスですけど!?」


朋也「『良さげな暇つぶし』って言ってたな……。 まさか……」


春原「えっへん!ここはドリンクバーさえ頼めば居放題、騒ぎ放題だからね!ゲームを持ち込んで居座るという画期的な暇つぶしさ!」


カラオケと履違えてるのではないだろうか。


春原「だけどね、前から言ってるけど最近ちょっとゴタゴタしててさ、来れなかったんだよね」


春原「……っつか、僕の事より! 岡崎、ここでバイトしてたのかよ。 教えてくれれば遊びに……」


朋也「……会計は420円になります」


智代「1000円札で頼む」


春原「頼むから人の話を聞いてください……」


智代「さぁ、お前も学生だろう。帰るぞ」


春原「はぁ!?ちょ、何を勝手な事言ってんだよ!?まだ僕は来たばっかりで飲み物一杯すら飲んでないんだぞ!?」


智代「こんな時間に来るのが悪い」


朋也「そうだ春原。 いつでもどこでもお前が悪い」


春原「アンタはいつでもどこでも非常ですね!?」


八千代「あ、あの……。 店内での騒動は他のお客様への迷惑になりますので」


朋也「あ、すいません。すぐに帰らせますんで」


春原「い、いや。 僕はまだ……」


智代「……」ギロッ


春原「……じゃないです」


朋也「……ドリンクバー単品で420円をよこせ」


春原「せめて敬語を使いましょうね!?」


智代「さぁ、会計も済ませただろう。 早く行くぞ」


春原「……うぅ。 何で僕は自由に行動する事さえ許されないんだ」


朋也「そういう星の元に生まれたんだ」


春原「そうなんだ……。 きっと僕は世界一不幸で純粋な少年に違いない」


八千代「あ、お客様っ!」


春原「?」


八千代「またのご来店、お待ちしております♪」ペコッ


春原「はいいぃぃぃぃぃぃい! また来ますっ!!!!!!」ビシッ


智代「うるさい」バキッ


春原「あふぅんっ」


智代「それでは」


八千代「ありがとうございました~♪」ヒラヒラ


八千代「……」ヒラヒラ


朋也「……」


八千代「岡崎くんのお友達には、賑やかな子が一杯いるのね~」


朋也「……騒がしい、ってだけですよ」




ガッシャーン




小鳥遊「ああああ!!先輩!何でそんな高い所にあるお皿を自分で取ろうとするんですか!?」


ぽぷら「だ、だって私はもう子供じゃないし……」


小鳥遊「いきなりそんな決まりきった事を言ってどうしたんですか!?先輩はちっちゃくて可愛い……」


ぽぷら「ちっちゃくないもんっ!!」アゥー


相馬「あちゃー、それって確か珍しく店長が発注したお皿だったよね~?」


小鳥遊「なんですとっ!?」ガビーン







八千代「あらあら、あっちも少し賑やかみたいね~」ニコニコ


朋也「…………騒がしいだけですって」


【学校】


何ともない普通な朝。
春先にぴったりな雲1つない朝。


朋也「どうした、今日は朝から素敵な顔だな」


そして、青あざだらけな春原の顔。


春原「あの女、絶対に男だって……。あのパワーどこから来るんだよ……」


朋也「……坂上、どうしたんだ?」


春原「ひょえええ!?」


朋也「冗談だ」


春原「やっぱりアンタ、悪戯のタチが悪いよ!」



春原「で、いつからやってるわけ?あそこで」


朋也「半月くらいだな」


春原「っていうか何で坂上がいたわけ?」


朋也「……よく来る客みたいだな、あいつも」


春原「おいおい、マジかよ……。 せっかく僕の憩いの場になりかけていたのに……」


朋也「お前の憩いの場はラグビー部の部室だろ」


春原「それは地獄だよ!」


春原「まぁ、お前がいれば無料で飲み放題ってことだよね!? それなら坂上が居ても多少の我慢はできるよ!」


朋也「来ても良いが、春原は物価が2倍だぞ」


春原「何で僕だけなんだよ!?」


朋也「俺がお前の顔を見たくないからだ」


春原「相当ひどい言い草だよねぇっ!?」


杏「なになに~? 朋也、バイト始めたわけ?」


朋也「盗み聞きするな」


杏「偶然よ偶然! しっかし朋也がアルバイトなんてどういう心変わり?」


朋也「春原の顔が見たくなくてな」


春原「まだそれ言いますか!?」


杏「それはわかるわぁ~。 私も一切視界に入れたくないもん」


春原「アナタも乗っからないでね!?」



杏「んでんで!どこでやってるわけ!?」


春原「駅向かう下り坂の途中にあるファミレスだよ。 ワグワグアだっけ?」


昨日今日で訪れた場所の名前を忘れる程度の記憶力らしい。


朋也「何でお前が答えるんだ」


杏「あ、あそこね! 私も2年の時よく行ってたな~。 最近は受験前だから行かなくなったけど」


春原「今だってそんなに勉強してないふごっ!?」


杏「でも、朋也が働いてるんだったら気分転換に行ってみようかしらね」


朋也「来なくていい」


杏「はっはー、そう照れないの! まっ、そのうち椋でも連れて行くから楽しみにしてなさい!」


春原「」ピクピク


アルバイトをやってる事は、隠す程の大事でもない。
だが、なんとなく知られるのは遠慮しておきたかった奴らに、知られてしまったようだ。



[5月5日 A.M.10:00]

【駅前】


ぽぷら「おはよ~っ!」


朋也「おう」


春の陽気というのは、いつまで継続するのだろうか。
ほんのりと身体の芯から暖まっていくような日差しの下、駅前で俺と種島は合流した。


ぽぷら「今日は岡崎くんの為にたくさんお手伝いするからね!」


そう意気込む種島は、どことなくいつもよりもテンションが高めだ。


朋也「……期待しておくよ」


ぽぷら「任せてよっ!」


朋也「肩たたき券でもくれるんだろ?」


ぽぷら「私そんな子供じゃないよっ!」プー


【携帯ショップ】


店員さん「オススメはこちらですね~。スライド式となっておりまして~」


ぽぷら「ほぇ~……っ。便利なんですね~っ」


朋也「……」


目を輝かせている種島。
隣りには全く店員の説明を理解できずにいる俺。

その差は顔を見れば一目瞭然だと思う。



ぽぷら「岡崎くん!こっちの赤い携帯、すっごく便利みたいだよ!」


朋也「まず操作の仕方が分からないんだが」


ぽぷら「あっ、そ、そうだったね!えっとね、ここはこうやってね?」ポチポチ


【定食屋】


ぽぷら「えっと、こうやって、携帯同士を近づけて……」


メールの打ち方、カメラの撮り方にその見方、
そして赤外線とやらを使った、連絡先の交換の仕方。


ぽぷら「はいっ!交換したよっ!」


朋也「それだけでいいのか」


ぽぷら「うんっ! ばっちりだよ! 一応、岡崎くんの方にも行ってるか確認してみてねっ」


目を追うように動かさないと追いつけないぐらいの説明を受けた後、買ったのは種島が終止押して来た赤い携帯電話だ。


朋也「……すまん、もう一度連絡先の見方を教えてくれ」


ぽぷら「いいよ~っ!えっとね、そこの斜め上のボタンを押すとね……」


種島の持っている携帯の色違いらしい。
どうやら種島も最近買い替えたばかりだったみたいで、これが一番新しい機種とのこと。


朋也「お前、よくそんなに早く文字打てるな……」


ぽぷら「そうかな~? でもね、伊波ちゃんの方がもっと早く打てるんだよ!」


想像がつかない。指の動きが見切れない早さよりも上なんてものは存在するのか。


ぽぷら「岡崎くんも慣れればすぐできちゃうよ!」


朋也「そうだといいがな……」


店員さん「お待たせしました、A定食になります!」


ぽぷら「ありがとうございます~っ! おいしそ~っ」


店員さん「こちらはB定食ですね~。 ごゆっくりどうぞ~!」


朋也「……それじゃ、食べるか」


ぽぷら「うんっ! いただきますっ」


ぽぷら「お、岡崎くんのもすっごく美味しそうだね……」


朋也「……一切れ食べるか?」


ぽぷら「え?!い、いいよ!これだけでも十分だしっ」


朋也「一切れくらい大丈夫だろ」


ぽぷら「……あ、ありがとうっ」


あんなに物欲しげな目でまじまじと見られたらあげない方が酷い風に見られかねない。


ぽぷら「ん~っ、おいひぃっ」


俺が置いたカツを早速口に含むと、口一杯に噛み締める。
ソースもレモンもかかっていないとつっこむのは無粋だろうか。


ぽぷら「お返しに私のお刺身の方もあげるねっ!」


朋也「いや、別に俺は」


ぽぷら「私ももらったからお相子っ!」



ぽぷら「はいっ!」


そう言って、一番大きく切られたまぐろの赤みを箸で取り、俺の目の前へ持ってくる。


朋也「……」


ぽぷら「ほら、早くしないと湿気っちゃうよ!」


朋也「……皿に置いてくれればいいんだが」


ぽぷら「探り箸はいけないことだから、これ以上マナー違反はしちゃだめなの!」


今時そんな箸のマナーを守る高校生がいるのも珍しい。


ぽぷら「はい、あーんっ」


何の屈託も無い笑顔で俺の方を向く種島。
変な意識などは全くないだろうと、すぐに分かる。


朋也「(その方が逆にやりにくいんだが……)」


朋也「(………………引く気はない、か……)」


朋也「……」






「あ~!!!じれったいです!!!!」



ぽぷら「え!?」


朋也「!」


中学生くらいの女の子。それが第一印象だった。
急にテーブルの横に来たかと思うと、


「お兄さん!彼女さんがせっかく差し出してるんですから早く口にしてあげてください!」


「それにお刺身から醤油が垂れてしまった涙箸になってしまいます!」


「それにそれにっ…………」


「……はっ!?」


朋也「……」


ぽぷら「……え、えっとその、私、彼女、じゃ…………」


「………………」


「…………ご、ごめんなさい!」


「店員さん、お勘定はこちらへ置いておきますね!」


「そ、それじゃあ失礼しましたっ!」


店員さん「ありがとうございました~っ!」


綺麗なお辞儀で勝手に話を締めると、その子は店の外へ出て行った。
俺と種島は全く何の反応も出来ない。



ぽぷら「……」


朋也「……」


ぽぷら「……岡崎くん」


朋也「……ん?」


ぽぷら「……びっくりしてお刺身落としちゃった」


朋也「……」


ぽぷら「そ、それ食べたら駄目だよ!汚いしっ」


朋也「……3秒ルールだ」


ぽぷら「……っぷ。 あははっ、 何それっ」


ぽぷら「……それじゃ、冷めちゃう前に、食べよっか!」


朋也「……そうだな」


かなり微妙な空気で食べた昼食だったが、それなりに美味しかった気がする。

気がするだけかもしれないが。

>>489

ありがとうございます!!そうですね、私が自分の書いてるもの貶してたらそれこそ読んで下さってる方に失礼ですね!
本当に失礼しました!もうしません!



急いで書いて、急いで更新してしまったので誤字脱字、変な部分があるかもしれません。よろしくお願いします……。

それでは、できれば一週間に一回は更新したいなあっていう希望的観測を残しつつ、去りますね!
感想などくださってる方々、本当にありがとうございます!
また更新したら、お暇な時に是非読んでみて下さい!


それと勝手に宣伝です……w

CLANNADスレが新しくたったみたいです!

なんとあの仁科さんがヒロイン……なのかな?汗

朋也「ヴァイオリンの音色……?珍しいな……」

上記のSSの>>1様、勝手に宣伝してしまってごめんなさい。迷惑だったら言って下さいね。

それでは!


【映画館】



ぽぷら「うわ~っ!」


 感嘆の声を漏らしたのは、映画館の自動扉が開いた瞬間だった。

 真っ赤な絨毯が敷き詰められた様なフロアに、どことなく西欧の雰囲気を匂わせる電灯。
 漆黒色で染められたカウンターには、チケットを買う人が溢れており、同色の制服を着たスタッフが
その客の対応に追われている。


朋也「(映画館なんて久々だな……)」


ぽぷら「映画館って入るだけでワクワクするよっ。 大きくて、ポップコーンの良い匂いもして!」


朋也「おやつは500円までだぞ」


ぽぷら「遠足じゃないもん!!」プクー


ぽぷら「それよりも、岡崎くんっ! それより早く並んじゃお!」


朋也「はしゃぎ過ぎだ」


朋也「……」


[数時間前]

【食堂】


朋也『……』


ぽぷら『……』


どことなく気まずい雰囲気の中食事をした後、どうするか決めあぐねていた。
俺としてはこのまま解散でも、どこかへ行くにしてもどちらでもよかった。


朋也『……』


ぽぷら『……うーんと……。 …………あっ、そうだ!』


何かを思い出したみたいで、種島はそう呟くと鞄の中をがさごそとあさり始める。

あさると言っても、その小さな白地の鞄は大の男なら手のひらを入れるだけで全ての中身が手に取れる程度の大きさだったが。


ぽぷら『うーん、と……。 あっ、あった!』


朋也『……? チケット?』


ぽぷら『うん! 隣街にある映画館の無料券です! 1枚2名様まで有効っ!』フンス


【映画館】


ぽぷら「今ね、たっくさん面白そうな映画がやってるから見に行きたいと思ってたんだ~っ!」


別段、断る理由も無い。
むしろ映画なんて最後に見たのは思い出せないくらい前なので、若干楽しみでもあった。


「次のお客様どうぞ~」


ぽぷら「はい!」


しばらく列に並んだ後、スタッフからの声に意気揚々と答える。
俺はその後についていくのだが、親子に見られていないか不安が募る。


「こんにちは。 ……えっと、小学生と高校生のお客様でよろしいですか?」


朋也「はい」


ぽぷら「よくないよっ!」ガビーン


朋也「そうなのか」


ぽぷら「も~っ! ふ、二人とも高校生です!」プンスカ


「そ、それは失礼いたしました。 ……それではどちらの映画をご鑑賞なされますか?」


ぽぷら「え~っと、えっと。 ……岡崎くんは何が良い?」


朋也「(……こいつは選ばずに並んでいたのか)」


朋也「……」


朋也「……俺が決めていいのか?」


ぽぷら「うん! 私は映画なら何でも楽しめるよ!」


朋也「本当だな?」


ぽぷら「もちろんですっ!」フンス


朋也「それじゃ、これで」


ぽぷら「えへへ♪ 楽しみだな~」


「はい。 そちらでしたら3Dですのでお1人様につき1600円頂きます」


朋也「……種島、チケットはあるか?」


ぽぷら「あ、は~い!」


「それでは、拝見させて頂きます」


「……。 …………。 …………大変申し訳有りません。 こちらのチケットは、期限が明日から、となっておりまして。
本日は期限外となっております」


ぽぷら「ええ!?」


チケットの期限に気が回らないのは、こいつの特徴なのか。


朋也「……それなら、これで」


「はい、5000円頂きます。 ……お会計はご一緒でよろしいですか?」


ぽぷら「あっ、えっとべつべ――」


朋也「一緒で」


ぽぷら「ふぇっ!?」



ぽぷら「お、岡崎くん!? お金は払うよ!」


朋也「いや。 どのみち今日は付き合ってもらってるわけだからな。 気にするな」


ぽぷら「で、でも結構高かったし……。 私が期限を間違えちゃったし……」


朋也「……お前が前くれたコーヒー無料券も期限切れてたからな。 いつものことだろ」


ぽぷら「うぇぇ!? そ、そうだったの!?」ガーン


朋也「そういうことだ。 いつもの事なんだから、そんなに気負うな」


ぽぷら「そんな『いつものこと』はいやだよぉ……」ズーン 


こいつの何でもかんでも気にしすぎる性格にも慣れてきてるみたいだ。

すいません、トリップ?を間違えてました;;




【館内 上映会場】


ぽぷら「…………ねぇねぇ、岡崎くん」


朋也「ん」


ぽぷら「……何かね、ちょっとだけ聞きたい事があるんだけどね」


朋也「トイレならさっき入り口の前にあったぞ」


ぽぷら「そ、そうじゃなくて……その…………」


ぽぷら「……これってホラー映画じゃないの…………?」


朋也「らしいな」


ぽぷら「うぇぇ……」ガーン


朋也「俺もあまり考えずに選んだからな」


ぽぷら「ほ、ほらーって、その……幽霊とかオバケとか、だよね……?」


朋也「そうなんじゃないか? 俺もよくわからんが」


ぽぷら「うぅ~っ……」


【上映会場】


朋也「どうした。 映画映画とあれだけ喚いてたじゃないか」


ぽぷら「そ、それはそうなんだけどね、あはは……」


朋也「……まさかとは思うが、怖いのか」


ぽぷら「そ、そんなことないもんっ! 怖くなんか無いよ!!」


朋也「ほー……」


ぽぷら「そうだよねっ! せせせ、せっかくの映画だし、楽しまないとっ!」



「大変お待たせいたしました。 ただいまより、●○の上映を行います」



朋也「……始まるみたいだぞ」


ぽぷら「っ! そ、それじゃあ私、ちょっとお手洗いに……」



「なお、これ以降のご退席、ご退場は他のお客様のご迷惑になりますので、ご遠慮ください」



朋也「だぞうだ」


ぽぷら「あぅぅ……た、楽しみだね…………」


朋也「……」


どう見ても頬が引きつっている。
少しずつ暗くなっている会場で最後に見えた種島の顔には、笑顔なんてものは全くなかった。



「い、いる。 ……う、後ろ、後ろ!!!」


「え? 何言ってんだお前。 ……ぎゃああああ!!」


朋也「……」


他映画の広告も大概に、本編が始まって40分程度。

内容はありきたりなものだ。
3人家族の引っ越して来た新居は、幽霊屋敷だった。


「と、扉! か、鍵を閉めるんだ!!」


そこで繰り広げられる幽霊からの逃亡劇……。


朋也「……」


朋也「……。 …………はぁ」


全く面白くない。
何が、とは言い難いが、決まった展開、予想のできる結果。
見ていて何にも惹かれるものがない。



朋也「(……他の奴らもほとんどちゃんと見てないしな)」


時々画面の明るさの関係で見える他の観客に浮かんでいる表情も、退屈そのものだ。


「く、くそ……! なんなんだよアイツらは!」


映画の中の役者は真面目にやっているのだろうが、
端から見たらその真摯さは全く伝わって来ない内容なのだ。


「う、うわあああ! く、来るなあ!! 来るんじゃねえぇぇ!」



朋也「(……これじゃあ流石に子供でも驚きは――)」


二度目の欠伸が出掛った時、服の肘裾が引っ張られたのを感じた。
決して強い力ではなく、小さな力で、どちらかというとつままれた言った方が近いぐらいだ。

朋也「(……?)」


ぽぷら「………………」


そんな事を出来るのは1人しかいるはずもなく。
――種島だ。


ぽぷら「…………っ、っっ!」


映画のシーンが移り変わるたび、手に込められる力が強くなる。
時折見えるその顔には、じんわりと涙を浮かんでいた。


朋也「(……)」


ぽぷら「……っん、っぁ」


必死に声を抑えようと片手で口を抑えてはいるが、吐息と共に少し漏れている。


朋也「……」


朋也「……はぁ」


俺の服が伸びるのが先か、それとも種島が我慢できずに飛び出すのが先か。
目の前に映る退屈な映画の上映時間は、残り1時間半。


【映画館 ホール】


ぽぷら「たたたた、たの、たのしか、楽しかったね……っ!」ガクガク


朋也「声が上ずってるぞ」


ぽぷら「ほぇ!? そ、それは気のせいだよ! 気のせい!」


朋也「実は俺、この映画気に入ったんだ。 もう一回見てもいいか?」


ぽぷら「絶対にやだ!!!!」


朋也「……冗談だ」


【街路】


ぽぷら「そういえばさ、岡崎くん。 『桜祭り』って覚えてるかな?」


朋也「……そういえば」


そんな名前のものがあった。
そもそも、俺があのワグナリアの連中と関わったのもそれが原因か。


ぽぷら「それがね、来週から始まるんだけど。 ……岡崎くんは来週のシフトどうなってる?」


朋也「……。 答える前に、1つ聞きたいんだが」


ぽぷら「うんっ、どうかしたの?」


朋也「桜の季節はとっくに過ぎてる」


ぽぷら「……たはは、実はね、杏子さんが納品日を間違えちゃったから時期がずれ込んじゃったんだよね……」ズーン


朋也「納品日?」


ぽぷら「うんっ。 私も詳しくは知らないんだけど、お店の売り上げとか、今お店にあるお皿の数とかを調べて本部に送る事なんだって!」


朋也「それはまた面倒くさそうだな」


ぽぷら「うん、すっごく大変みたいなんだけど……。 実は、音尾さんもその時いなかったから、杏子さんもすっかり忘れちゃってたみたいで、遅れちゃったんだ」


朋也「店長……だよな」


ぽぷら「ほ、他の事で忙しかったんだよ!! …………多分」


随分と信用のない店長である。



ぽぷら「でねでね! それでも、なんとかやりくりして! 来週、ようやくスタートできるんだ! だから、お店を盛り上げる為にたくさんのスタッフさんに入ってほしくって!」


朋也「そもそも『桜祭り』で何をするのか、詳細を全く聞いてないんだが」


むしろ、昨日まで働いていたのにそのワードを1言も聞いていない。


ぽぷら「あっ、そうだったね!」


ぽぷら「今の予定ではね、期間中のお会計の時に、桜のマークをしたポイントカードをお客様に渡して、それが溜まったら特別なセットをプレゼントするんだ! とっても可愛いんだよっ!!」


ぽぷら「あとは、特別メニューがあったり、内装を桜満開にしたりって、とにかく、楽しい事がたくさんあるんだよっ!」


朋也「……。 桜の期間が過ぎてるのに、大々的にそれを押し出すのか……?」


ぽぷら「ちょっと過ぎちゃっただけだよっ! きっと皆もまだまだ余韻が残ってるもんっ!」


余韻で桜を楽しめたら風流もへったくれもないと思う。




朋也「というか、そんなに大きなイベントなのに、まだ準備をしていない様な気がするのは、また気のせいか?」


ぽぷら「うっ……」


朋也「なんでたじろぐ……」


ぽぷら「……てへへっ。 じ、実はね、その事についてもお話したくて聞いてみたんだ」


朋也「どういうことだ?」


ぽぷら「それが……。 準備する時間ってね、ほとんどなくてね。 だけど、これ以上期間が伸びたら桜と全く関係なくなっちゃうから、できなくなっちゃうみたいなんだ」


今でもかなり関係ない時期だ。


朋也「それで?」


ぽぷら「だ、だからね? お客様が居ない時間帯に、少しずつ準備をして行くしか無いんだけど、その……」


朋也「……つまり、泊まり込みで深夜作業を手伝え、と」


ぽぷら「!! ど、どうしてわかったの!?」


朋也「この流れからそれしか無いだろ……」


ぽぷら「そ、そうだよね……あ、で、でももし無理だったら!」


朋也「……やるよ」


ぽぷら「!」



朋也「買い出しから手伝ったんだ。 最後までやり切りたいだろ」


正直かなり忘れていたがな。


ぽぷら「ほんとに!? あ、ありがとう!! 本当に助かるよ!」


朋也「……」


嬉々とした表情を見せながら、俺の手を握る。
服越しでは分からなかった温かさや柔らかさが、真に伝わってきた。


朋也「お前は本当に大げさな奴だな……」


ぽぷら「えへっ。 よーしっ! それじゃあ、明日から2人で頑張ろうね!!」


朋也「……」


朋也「…………は?」



ぽぷら「明日からずっと泊まり込みで作業だよっ! 伊波ちゃんと小鳥遊くんは家族に反対されちゃって駄目みたいで、相馬さんと佐藤さんと八千代さんもね、用事があるって……」


ぽぷら「麻耶ちゃんにも頼んだんだけど学校が有るから厳しいみたいだし、葵ちゃんは難しいし……。 杏子さんは……ちょっと……えーと……」


言葉を濁しているが、言わなくても分かる。


ぽぷら「……ほんとは、私もね、お父さんとお母さんに頼み込むのにはずっと苦労してたんだぁ~……。 でも、せっかく準備までしたんだし、最後までやりたくって……」


ぽぷら「てへへっ、実は少し諦めてたんだけど、岡崎くんが手伝ってくれるなら百人力だね!」


朋也「気が変わった。 やっぱり今回は見送ろう」


ぽぷら「えぇっ!?」ガビーン


朋也「2人は無理だ。 相当厳しい」


あの広いフロアの内装を変更する作業。
どう考えても2人でやった所で終わるわけが無い。


ぽぷら「ひ、ひどいよ! 1度やるって言ったのに~!」ポカポカ


朋也「無理だ。 それはいくらなんでも無理」


ぽぷら「無理じゃないよ~っ! 頑張ろうよ!」


朋也「どう考えてもがんばりの範疇を超えるレベルでやらなきゃいけないだろ!」


ぽぷら「う~っ……それは~…………」


「あのー……」


朋也「そもそも、何でもっと早く準備しなかったんだ……」


ぽぷら「だって、納品が終わったのは一昨日だったから、できることがわかったのはそれからだったし……」


「すいません……」


朋也「……とにかく、1週間泊まり込みでやっても間に合う気がしないから駄目だ」


ぽぷら「やってみないと分からないよ~っ!」


朋也「やらずとも分かる。 種島の身長が明日3cm伸びる様なものだ」


ぽぷら「んなっ!? もうしかしたら伸びるかもしれないもんっ!! 私の身長はもっとも~っと伸びるからねっ!」


朋也「……残念ながら、それは夢物語だ」


ぽぷら「うぅ~っ!!そんなことないもんっ~!」


「あのぉ~!!」


朋也「……!」


ぽぷら「!」


「ちょっと道をお尋ねしたいのですが……。 って、あっ!」


朋也「……さっきの」


ぽぷら「こ、こんばんはっ」


「こ、こんばんはっ。 ……えと、さっきはすいません…………」


日が傾き、人の通りもまばらになってきた駅に向かう街路樹。
そこで話に割って入って来たのは、昼間の中学生くらいの女子だった。


朋也「……」


ぽぷら「ううん、気にしてないから大丈夫だよっ!」ニコ


「そ、そうですか……?」


ぽぷら「うんっ! だからそっちも気にしないでねっ!」


「ありがとうございますっ。 ……お優しい方で安心しました」


ぽぷら「そ、そんなことないですよっ」アセアセ


「それで、話を変えて申し訳ないのですが……。 道を聞いてもいいですか? お恥ずかしいお話なんですが、道に迷ってしまっていて……」


ぽぷら「うん! どこが知りたいの?」


「は、はい。 えっと、この辺に光坂高校っていう高校の学生寮があると思うんですけど……」


朋也「!」


ぽぷら「あっ、それならこっちの岡崎くんがね、光坂高校の生徒さんだよ!」


「そ、そうだったんですか! ……ふふっ、あの時聞いてたら早かったのかもしれませんね」


ぽぷら「そうだね~っ。 岡崎くん、学生寮の場所はわかるかな?」


朋也「……分かるには分かるが…………」


「よかったぁっ! それじゃあ道順を教えてもらっても構いませんかね?」


朋也「それは構わない。 ただ……」


「……? …………ただ?」


朋也「…………ここは、その隣町だぞ」


ぽぷら「……あっ」


「……えっ」


[夜]

【光坂高校学生寮】


他愛もない話をしながら電車に乗り込み、学生寮まで寄り道をしながら歩いて行くと、辺りは既に暗くなっていた。
坂から見える下の家々には明かりが灯り、街全体に夜を知らせている。


「現地まで送ってもらっちゃって、ほんっとうにすいません……!!」


ぽぷら「全然構わないよっ! 色んなお話聞けて楽しかったしっ!」


「そ、そうですか……? で、でもお二人ともデート中だったんですよね?」


ぽぷら「そ、それは……」チラッ


朋也「いや、ただ携帯を買う時に付き合ってもらってただけだ。 ついでに飯食ったりしたってだけだしな」


「そ、そうなんですか……?」


朋也「あぁ」


ぽぷら「……」


朋也「そうだよな、種島?」


ぽぷら「……。 ふんだっ!」プイッ


朋也「!?」


いきなり不機嫌になられてしまった。

朋也「(なんなんだ一体……)」ハァ


「ぷっ、くすくす……。 お二人とも、面白い方なんですね」


朋也「……?」


「あっ、す、すいません!笑っちゃったりしたら、失礼ですよね! ……そ、それじゃあこれ以上邪魔しちゃ悪いし、私は行きますね」


朋也「だから、別にそんなのでは……」


ぽぷら「……うんっ! また会えたらいいねっ!」


朋也「(…………。 …………人の話を……)」


「はいっ。 ……それでは、失礼しました!」


ぽぷら「あっ、ちょ、ちょっと待って!」


「……? どうかしましたか?」


ぽぷら「その、まだお名前聞いてなかったから! 私は種島 ぽぷら! よろしくねっ!」


朋也「……岡崎だ」


「そ、そうでした! 何から何まですいませんっ!」アセアセ


外見とはミスマッチなほど丁寧な口調で謝りながら、
階段を昇る足を止めてこちらを振り向く。


「………………私の名前は、 ――」


小さく結んだツインテールを風に揺らしながら小さく方を上げて深呼吸すると、彼女は大きな声で言い放った。











「――春原。 春原 芽衣です!」


[翌日 夜]

【ワグナリア】


朋也「お疲れさまです」


八千代「お疲れさまでした~」


麻耶「お疲れさまでした」


佐藤「おう、お疲れ」


土日祝日は、平日よりも客数が若干減る。
家族連れや、ガテン系の人間達が平日よりも少ないからだ。


朋也「……」


だから、それに比例して疲労度も薄くなる。


朋也「……はぁ………」


あくまで気休め程度に、だが。



朋也「(普通は平日の方が暇だと思うんだがな……)」


そこまで都会じゃない分、休日の方が人の出入りが少ないのだ。


朋也「(火の元は、よし。 ……鍵も、かかってるな)」


最終的な店の閉め作業は手慣れている八千代さんか佐藤が行うのがいつものこと。
だが、


ぽぷら「よ~しっ! いっちょやってやりますか!」


俺と種島は飾り付けで残る為、これからしばらくの間は閉め作業全てを担当する事になった。


朋也「ところで」


ぽぷら「ん~?」


朋也「山田はここに住んでるんだよな? 何でアイツは手伝わないんだ?」


ぽぷら「んっとね、葵ちゃんはそもそも誘ってなかったり……」


朋也「誘ってない……?」


ぽぷら「葵ちゃんはまだ16歳だし、そんなに無理はさせたくないんだ」


朋也「(16歳にも見えないがな)」


ぽぷら「なるほど。 だから、葵ちゃんは頼もうとしてる人には含まれてないんだ」


朋也「つまり俺には無理させても良いということだな」


ぽぷら「そっ、そういうわけじゃないよ! 岡崎くんならやってくれると思って!」ワタワタ


朋也「くくっ、冗談を真に受けるなって」ポスッ


ぽぷら「っ!?」カァァ


朋也「? どうした?」


ぽぷら「な、何でも無い! そ、それじゃあ早速はじめよー!」アタフタ


朋也「……?」



ぽぷら「岡崎くん、この型紙にそって桜模様を切ってもらっていいかな?」


朋也「了解」


店を閉じて作業を開始してから早くも2時間が過ぎた。
床には切った後の紙のゴミや原型を止めていない物体で散乱している。


朋也「こんな感じでいいのか?」


ぽぷら「えーと……。 うん! ばっちりです! その調子でお願いします!」ビシッ


朋也「おう」


ぽぷら「それなら私はこっちの準備をしないとっ! ……よいしょっ」ゴトン


朋也「……それは何だ」


ぽぷら「豆電球だよ!店の外装に飾り付けるんだ!」


朋也「……今日中に?」


ぽぷら「うんっ!」


朋也「本当に始発まで寝ないつもりなのか?」


ぽぷら「それまでには何とか終わらせてちょっぴり寝たいです!」


朋也「……おやすみ」


ぽぷら「岡崎くんもやるんだよ!?」



ぽぷら「そう言えばさ」


朋也「ん」


ぽぷら「芽衣ちゃんって、岡崎くんのお友達の妹さんだったんだよね?」


朋也「正確には、『顔見知りの友達』だな」


ぽぷら「そ、そっか。 でも、偶然ってすごいね! 岡崎くんはとっても強運の持ち主なんだねっ!」


朋也「学生寮の目の前の食堂で飯食っといて隣町で会うんだもんな」


ぽぷら「あはは……」


朋也「……」


春原 芽衣。
あれだけしっかりとした性格をしているのに、あんな奴の妹とは。


朋也「(……まぁ、『最高の反面教師』ではあるかな)」



バタン 


ぽぷら「!?」


朋也「!?」


目が重たくなり、休憩を取ろうかと考えていたところで、何かの物音が店中に響いた。


ぽぷら「え? え? えと、……戸締まりの確認はした、よね?」


朋也「……あぁ。 さっきは完全に閉まってた」


ぽぷら「……葵ちゃんは非番だったし、今日は見てないから上でゆっくりしてるんだろうし……」


朋也「(……)」


ぽぷら「……お、岡崎くん……」


朋也「……俺が見てくる。お前はここを動くな」


ぽぷら「え? わ、私も行くよっ……?」


朋也「いざとなったら、俺1人の方が都合がいい。 ……お前は俺に何かあったらすぐ逃げろ」


ぽぷら「…………。 う、うん……。 気をつけてね」


朋也「あぁ」


【ワグナリア ホール】


朋也「(真っ暗だな……)」


自動ドアや窓から入る電灯の明かりだけが、店内を照らしていた。
一部を除き全て暗黒に浸っている空間は、いつものように過ごしている場所と同じだと言うのは少し信じ難い。


朋也「……誰だ」


「!?」


入り口に側に見えた黒い人影は、俺の声に方を震わせた。
どうやら人数は1人。 身体つきも小さめだ。


朋也「……一体何が目的かは知らないが、泥棒目的なら今すぐかえ――」



「ばぁっ!!!!」


朋也「!?!?」



しまった。足を掴まれた。

相手は2人いて、既に入り口よりも先に進んでいたのか……!?


朋也「……くっ」パチッ


咄嗟に電気をつける。
相手にこちらを襲おうと言う気がなければ姿を見ない様にしようと思ったが、そうはいかないみたいだ。


「!?」


どうやら突然付いた明かりに相手も戸惑っているようだ。
俺も俺で、暗闇に慣れかけていた目に唐突な明かりで目がくらんでしまった。


朋也「(っ。 あ、相手はどんな……)」


「ま、眩しいっ!!」


朋也「!?」


山田「……いきなり電気つけたらま、眩しいですよ! こんな夜中に明かりをつけたら近所迷惑ですっ!!」


朋也「…………」


山田「……」


朋也「……」


山田「……は、はろーじゃなくて、ぐっどいぶにんっです!」ビシッ


朋也「」ゴチンッ



山田「~~っ!! い、痛いです! 痛すぎます!! 本当にたんこぶできますよ!?」


朋也「泥棒まがいのことをするな」


山田「ど、泥棒!? 山田は明かりをちょっぴりつけにこちらに来ただけですよ!」


朋也「……じゃあなんで足を掴む」


山田「だって足音が聞こえたから驚かせようと思って……」


小学生レベルの知恵だ。


朋也「……ったく。 こんな夜までお前は何を……」チラッ


芽衣「……お、岡崎さん?」


朋也「……してんだ」



種島の言う通り。

俺はある意味で強運の持ち主なのかもしれない。


【ワグナリア 休憩室】


山田「きょ、今日はオフだったので山田、1人で優雅にショッピングしてたんです!」


山田「それで今日、雑貨を買いに行って気に入ったものをレジまで持って行ったのですが……」


山田「なぜか山田のお財布からはお金はなくなり、私の手元にはレシートの束と満腹感だけが残っていて……」


朋也「どう考えても買い食いし過ぎだな」


山田「レジの前で途方に暮れていたところで、神の一声を芽衣さんから頂きました!」


芽衣「わ、私はどうしたんですか?って聞いただけだよ」アタフタ


山田「でも、あそこでお金を貸して頂けなければ、山田はきっと島送りでした! 本当に感謝してます! しかも岡崎さんたちの知り合いだったなんて凄いです! これはきっと運命です!」


芽衣「そ、そんな大げさな……」


ぽぷら「芽衣ちゃんは優しいんだねっ!」


芽衣「い、いえ。 そう言うわけではないですよぅ」アセアセ


朋也「……で、なんでこんな夜まで?」


山田「それは……、そのぉ……」モジモジ


芽衣「それは私のせいなんですっ! 夜までお買い物してたら、終電逃しちゃってて……」


朋也「(……ん?)」


芽衣「それで、葵ちゃんに相談したら今日泊めてくれるって言われたので、最後まで渋ってたら、こんな時間に……」


朋也「芽衣ちゃんは、春原の所に泊まれば良かったんじゃないのか?」


芽衣「そ、それが……お兄ちゃんには、帰れって追い返されちゃいまして……」


朋也「……?」


芽衣「本当はお兄ちゃんがしっかり高校生活を送ってるのか、心配になって見に来たんですけど……。
 そんな心配するなって怒られちゃいました」


朋也「(この子の心配は正しい)」



山田「芽衣さんはお兄さん思いなんですねっ!」


芽衣「あはは。 ま、まぁ。そういうわけで本当はもうちょっと居て、この近辺を見て回りたかったんですが……。 泊まる所が無いので今日、帰ろうとしてたんです」


芽衣「その前にお土産でも買って行こうと思ってお店に行ったら、葵ちゃんがレジの前で服のポケットをごそごそと漁っていたので心配になって声をかけて……」


ぽぷら「ポケットを漁る?」


山田「ポケットの中にもうしかしたらお金がちらほらと入っているかもしれないと思いましてっ!」フンス


朋也「整理しとけ」



山田「まぁ、そういうわけなので山田たちはもう寝ます!」


芽衣「あ、葵ちゃん、本当に良いの? ここってお店だよね? 迷惑じゃないの……?」オズオズ


山田「大丈夫ですっ! ここの方々は皆さん優しいのできっと許してくれます!」


ぽぷら「うんっ! もし何かあったら私からも頼むから! 安心してねっ!」


朋也「こんな夜に追い出したらそれこそ非情だろ……」


芽衣「そ、それじゃあお言葉に甘えて……。 失礼しました!」


山田「はいっ!この梯子を上って屋根裏に行けば我が家です!」ガチャッ


芽衣「す、すごい造りなんだね……」


山田「えっへん! 褒めて頂けると山田も鼻が高いです!」


別にお前の家ではない。


山田「それではお先に寝させて頂きますねっ! おやすみなさいですっ!」ビシッ


芽衣「岡崎さん、種島さん。 夜まで働いたらお身体に障りますよ。 なるべく早めに切り上げてくださいね」


朋也「あぁ。 ありがとう」


ぽぷら「うんっ! もう少し頑張ったら休むよ! ありがとねっ!」


芽衣「それじゃあ、お先に失礼します。 おやすみなさい」ペコリ


ぽぷら「……芽衣ちゃん、いい子だね~」


朋也「お前より大人に見えるな」


ぽぷら「むぅっ……。 私も芽衣ちゃんみたいに大人っぽい喋り方をすれば良いのかな……」


朋也「お前はお前らしく子供っぽくていいと思うがな」


ぽぷら「普段もそんなに子供らしくないもん!」プンスカ


朋也「はいはい。 ……それじゃ俺たちも明日学校なんだから早めに仕事終わらすぞ」


ぽぷら「! そ、そうだねっ! それじゃあ今から頑張ろーっ!!」



[翌日]

【学校】


朋也「ふぁぁ……」


春原「なんだよ岡崎。 さっきから眠そうじゃん」


朋也「あんま寝てないからな……」


春原「ふーん……。 お前でもゲームし過ぎることがあるんだな」


こいつの中で夜更かし=ゲームの等式がなりたっているようだ。


朋也「…………」


朋也「……なぁ」


春原「ん?」


朋也「お前って、人間だっけ?」


春原「なんだよその質問!?」


朋也「同じ血が繋がっててもこうも違うと、作りから疑いたくなるんだ」


春原「……? どういうこと?」


朋也「芽衣ちゃんのことだよ」


春原「ぶっ!!!!」


春原「お、お前!? え?!」


朋也「なんだ、俺がお前のところまで送ったって聞いてなかったのか」


春原「だ、だから芽衣は寮まで……。 せっかく僕が食堂の住所を教えてかく乱したのに!」


最低な兄貴だった!


春原「あいつは昔からうるさいんだよ……。 僕の事について色々言ってくるしさぁ……」


春原「でも、もう昨日家に帰したからねっ! これで心置きなく学校をさぼれるよ!」


朋也「(……サボる前提かよ)」


春原「そういやお前今日はどうすんの?」


朋也「今日もバイトだな」


春原「よっしゃ! それじゃあ僕も時間を見つけて行くかな」


朋也「お前は時間見つけ放題だろ」


春原「ちっちっち。 あのねぇ、僕はそんな暇じゃないんだよ」


朋也「何かしてるのか?」


春原「……。 そ、それは機密事項だね!」


お前はどこかに所属してるのか。



【ワグナリア】



朋也「……おはようございます」


八千代「あ、岡崎くん~。 おはよ~」


相馬「おはよー」


ぽぷら「おはよう~!」


芽衣「おはようございます、岡崎さん」ペコリ


山田「おはようございます!」


朋也「……」


朋也「……芽衣ちゃん?」


ピンポーン


芽衣「あ、私行きますねっ」


八千代「はーい、お願いね~」




朋也「何で芽衣ちゃんが……?」


八千代「今日は朝からずっと手伝ってもらってるのよ~。 すごく仕事も早いし、助かっちゃう♪」


ぽぷら「わ、私も来たら働いてたからびっくりしちゃったよ」


山田「芽衣さんは何でもできちゃいます! さっきキッチンのお仕事もしてました!」


朋也「(かなり要領のいい子なんだな)」


杏子「うーす」


朋也「店長、おはようございます」


杏子「おう」


朋也「……で、ちょっといいですか」


杏子「あん?」


朋也「芽衣ちゃんは……?」


杏子「ああ、しばらく店に居させてくれっていうからOKしたら働きだした」


朋也「おいおい……」


これでも成人した大人になれている事にちょっとしたした安堵感を覚える。


杏子「私は別にどうでもよかったんだが、あいつが何かしたいっていうからな」


杏子「なんで暇な日に店に出てもらう事にした」


八千代「さすが杏子さん~っ♪ 仕事のできる子の目利きができるのねっ」


杏子「……。 おうっ」


絶対に適当だった!

小鳥遊くんの一人称のミス、すいませんでした……。指摘ありがとうございます!


今回更新分はこれにて終了ですっ!
毎回30レスを目標に書き溜めたら投下してるのですが、やっぱり60くらい貯めてからの方が良いんですかね……。


とりあえず、最初の方トリップ?をミスってしまい申し訳有りませんでした……。
話は変わりますが、麻枝さんの殺伐ラジオ最高でしたね……!にやにやして聞いてました!笑

それでは、今回は以前書かせて頂いた仁科さんルートのSSがインバリアント様に載っていたことを祝福して終わりたいと思います!
では!


ピンポーン













春原「やぁ、来たよ!」


朋也「……お帰りくださいませ。 お客様」


春原「お客に言う最初の言葉はそれじゃないよね!?」


朋也「ほんとに暇人なんだな」


春原「まぁそう言うなって。 何も僕だってお前の顔だけ見に来たってワケじゃないしね」


朋也「?」


春原「も~! 分かってんだろ!? 轟さんだよ! と・ど・ろ・き・さ・ん!」ムフフ


春原「あんな美人が働いてるって知ってたらもっと早くから通ってたのに……! 人生8割くらいを損したよ絶対!」


随分と薄っぺらい人生だな。


朋也「(……欲望の塊の様な男だ)」


春原「そこでさ~、お前、轟さんの下の名前知ってるよな? 教えてくれよ!」


朋也「……どうして?」


春原「そりゃあ下の名前で呼んだ方が親しみが湧くだろ! 僕はどんな人に対してもフレンドリーに行きたいのさ!フレンドルィーにね!」


朋也「(ほとんど話した事のないやつを下の名前で呼ぶ方が失礼だと思うがな……)」


春原「で、どうなの? 流石に同じ場所で働いてるんだから知らないなんて事は無いよね!?」


朋也「そうは言ってもだな、こじんじょ……」


春原「あん?」


朋也「…………あぁ、知ってるぞ」


春原「おぉっ! さっすが! なら早速教えてくれよ!」


朋也「構わないが……。 1つだけ条件がある」


春原「はぁ? 条件?」


朋也「あぁ。 名前を教えてやる代わりに、この店の隠しメニューを注文してほしいんだ」


春原「うえぇっ!? そんなのあるのかよ!!?  


朋也「あぁ。 この店の開店当初からある秘密のメニューらしいんだが……」


春原「なんだよそれ……!面白そうじゃん! それならむしろ僕が率先して頼んでみたいくらいだよ!」


朋也「そうか、それは良かった。 しかし……」


春原「そのタメは一体……」ゴクリ


朋也「このメニューは本当に極秘のVIPしか頼めなくてな。 一般人では予測もつかないような暗号を言わなくてはならないんだ」 


春原「なーんだ、そんなことか!」


春原「僕を誰だと思ってるんだい? そんなことは任せろっ! 暗記は得意分野さ!」


朋也「それは助かる。 実は俺も1度も見た事なくてな、見てみたかったんだよ」


春原「お易い御用さ! ……あ、でも幾らだよ。 いくらなんでも高くちゃ無理だぞ……」


朋也「大丈夫だ。 このメニューには金は一切かからないんだ」


春原「な、なんだって!? そんな魔法の様なメニューが……!?」


朋也「あぁ。 それじゃ、今から教えるぞ……?」


春原「お、おう……」ゴクリ




…………………

…………

……


ピンポーン





八千代「は~い!」カチャカチャ


春原「ふっ……。 こんにちは!」


八千代「あっ、この前の。 こんにちは~」


春原「春原 陽平です。 次からは陽平くん、って呼んでください……」


八千代「は~い。 かしこまりましたっ。 それで、今回はどうしたのかな? 陽平くん?」


春原「注文したいんです!」


八千代「は~い。 それじゃ何が欲しいのか教えてください~」


春原「はい! ――っ」








春原「便所カバー定食1つ!」




八千代「……」


八千代「え、えぇっと……え?」


春原「僕、知ってるんですよ! ここに秘密のメニューがあるって! ……怪しいもんじゃないんで、お願いします!」ヒソヒソ


八千代「う、うーんと……。 も、もう1度言ってもらっていいかな?」


春原「はい! 何度でも! 便所カバー定食1つお願いしますよ!」


八千代「べ、べんじょかばぁ……?」


春原「はいっ!」


八千代「え、えぇっと、あの、申し訳ないんだけどね、うちのお店のメニューには、その定食はないんだ……。 それにね、私の名前、ちが――」


春原「またまたぁ! 隠したって無駄ですよ! 隠しメニューがあることは知ってるんですから!」


八千代「え、えぇ~~!?」


春原「さぁ、隠しメニューを、僕の元へ!!」


八千代「そ、そんなこと言われても……」オロオロ






「おにいちゃん……」


春原「へ?」クルッ


芽衣「変な事叫んでお店の人困らせちゃ駄目だよ……」


春原「め、芽衣!? な、お、お前もう帰ったんじゃ!?」


芽衣「岡崎さんたちのご厚意で、昨日は居候させてもらってたんだけど……」


春原「んなっ!? 岡崎はそんなこと1言も……」


芽衣「……決めた!」


春原「……!?」


芽衣「私はやっぱり、お兄ちゃんがちゃんとやってるって本心でお母さんやお父さんに報告する為に、残らないとね」


春原「はぁ!?」


芽衣「八千代さん、いいですか? もうちょっと居候させてもらっても」


春原「やちよ……?」


八千代「え? えぇ~。 うちはすっごく助かるし、大歓迎よ~」


芽衣「と、いう事なので。 ……よろしくね、お兄ちゃん」ニコッ


春原「……これどうなってるんですかね」


【ワグナリア キッチン前】


ぽぷら「なにかホールが騒がしいような……」


朋也「気のせいだろ」


ぽぷら「そうかなぁ……?」


朋也「そうだ」


ぽぷら「で、でも何か『べんじょかばー』とか聞こえたよ……?」


朋也「便所カバー好きな客でも居るんだろ」


ぽぷら「す、春原くんの声だったよ?」


朋也「そうか、なら放っておいた方がいい」カチャカチャ


ぽぷら「そ、そっか……?」


[深夜]

【ワグナリア】


朋也「種島。 これそっちの端っこ切ってくれ」


ぽぷら「はい!」チョキ


芽衣「岡崎さん、ぽぷらさん。 こっちの飾りはどこに貼ったらいいですか?」


ぽぷら「あっ、それはね。 まだ完成してないからそっちのテーブルの所に置いてもらってもいいかな?」


芽衣「はーい!」


山田「……ぐぅ」


朋也「」パコン


山田「はぅぁ!?」


山田「……お、岡崎さん! 不意打ちは反則です!」ヒリヒリ


朋也「寝てるからだろ」



芽衣「種島さん、これはどうしたらいいですか?」


ぽぷら「こっちと一緒にくっつけちゃうから、それ全部持って来てくれると助かるな~!」


芽衣「はーい!」パタパタ


朋也「芽衣ちゃん、いいのか? こんな深夜まで……。 普段はもっと早く寝てるんだろ?」


芽衣「あっ、はい! そうですけど、このくらいへっちゃらですよ! 泊めて頂いてるんですし、少しくらい手伝わさせてくださいっ!」


朋也「そうは言ってもな……」


山田「ふ、ふぁ~……! 山田、疲れちゃいましたー。 いつももっと早く寝てるからですかねー?」チラッ チラッ


朋也「今日だって朝からずっと働いてたんだろ?」


芽衣「ま、まぁ一応、そうですけど、ちゃんと休憩も頂いてましたし!」


山田「あー、もう12時過ぎちゃいましたー。 眠いですねー」チラッ チラッ


朋也「お前は今日も一日フリーだっただな?」ジロッ


山田「うっ……」


ぽぷら「岡崎くーん、ちょっとこの店舗外用のポップが貼れるか、外に見て来てもらってもいい~?」


朋也「了解。 それじゃ、芽衣ちゃん。 疲れたらすぐに休んでいいからな」


芽衣「はいっ。 ありがとうございます」


山田「(扱いの違いが露骨です……)」ズーン


山田「や、山田はちょっとだけ顔を洗いに行ってきます……」フラフラ


芽衣「(……葵ちゃん、ちょっと可哀想な気もするなぁ)」タハハ…


ぽぷら「芽衣ちゃーん!私たちはこの台紙を一緒に切ろ~っ!」


芽衣「あっ、はい!」タタッ


ぽぷら「えへへ、それじゃ隣りどうぞ~」がさがさ


芽衣「あ、ありがとうございます!」ヒョコッ


ぽぷら「い~え~♪」



ぽぷら「~♪」チョキチョキ


芽衣「……」チョキチョキ


ぽぷら「~~♪」チョキチョキ


芽衣「………………」チョキチョキ


芽衣「…………あの~、ぽぷらさん」チョキチョキ


ぽぷら「ん~?♪」チョキチョキ


芽衣「ぽぷらさんって、岡崎さんのことが好きなんですよね?」チョキチョキ


ぽぷら「~~♪♪」チョキチョキ


ぽぷら「…………♪」チョキ


ぽぷら「…………へ?」ピタッ


芽衣「……岡崎さんのこと、好きですよね?」


ぽぷら「……………………………………………………………………」


ぽぷら「ふぇぇえええええ!??!!?!?!」ジャキ


芽衣「(あ、型から外れた)」



ぽぷら「な、え、えええ!?!?!?!?」ボンッ


芽衣「ふふ、頬が真っ赤ですよっ」クスッ


ぽぷら「あ、あぅぅぅうぅ……」カァァ


芽衣「……それで、どうなんですか?」ズイッ


ぽぷら「ド、どう、って言われても、え、ええええええええええと……」ガクガク


芽衣「……?」


ぽぷら「その、別に、わ、私はその……そ、そんなこと言われたの初めてで……その……」シドロモドロ


芽衣「(少なからず他の人も気付いてると思ったんだけどなぁ……)」



芽衣「それじゃあ、岡崎さんのこと嫌いですか?」


ぽぷら「! き、嫌いじゃないよ! それは絶対にないよっ!」アセアセ


芽衣「ふふっ。 ……えっと、それなら岡崎さんの好きなところはありますか?」


ぽぷら「好きな、ところ……?」


芽衣「はいっ。 ぽぷらさんが岡崎さんのここがいいって思うところ、教えてほしいです」


ぽぷら「……ほ、ほんとにね? 好きとか、好きじゃない、とか…………は分からないんだけどね?」


ぽぷら「…………『たまに』、すごい優しいところとかかな、やっぱり……」


芽衣「……『たまに』を強調してますね……」チョキチョキ


ぽぷら「だ、だってね! いっつも私の事子供扱いしてからかってくるんだよっ!」


ぽぷら「私はこんなにも立派に育って高校生になったのに……っ」フンス


タユン


芽衣「あ、あはは……」

ぽぷら「でもね、私のことすごく気を遣ってくれる時もあって。 すごく助けられてるなって思うんだ。 岡崎くんには」


芽衣「……」


ぽぷら「でもでも!! やっぱり私は大人なんだから子供扱いはやめてほしいんだっ!」


芽衣「(大人ってわけでもないのでは……)」


芽衣「……」


芽衣「……私は、それは岡崎さんなりのスキンシップなんだと思いますよ」


ぽぷら「……すきんしっぷ?」


芽衣「はいっ。 あまり知らない私が言うのもなんなんですけど……。 ほら、岡崎さんって、あまり笑わないじゃないですか。 そう言う人が冗談を言い合える相手って、相当心を許してないと出来ないと思うんです」


ぽぷら「……うーん。 そうかなぁ。 私はただからかわれてるだけな気がするんだけどなぁ……」


芽衣「男の子って、あまのじゃくになってちゃうんじゃないですかね。 素直に気持ちを伝えられない時があるもんなんですよ、きっと」クスクス


ぽぷら「ほぇー……そうなのかなぁ……」


芽衣「……」クスッ


ぽぷら「芽衣ちゃん……?」


芽衣「あっ、す、すいません! ちょっと、私のお兄ちゃんと似てるなって思ってしまって……」


ぽぷら「春原くんと?」


芽衣「はいっ。 ……私のお兄ちゃんも、今はあんな感じですけど。 昔は、いじめられた私をよく助けてくれてたんです」


ぽぷら「へ~! かっこいいね!」


芽衣「『芽衣をいじめるやつは僕が許さないぞ!』っていきりたってくれてました……」


芽衣「ですけど、たまにはやられちゃうこともあって。 ひどい擦り傷とか負って、すっごく痛そうなのに、口では『痛くない! ツバ付けとけばなおる!』って言い張るんですよ」クスクス


芽衣「あの時のお兄ちゃん、格好良かったんですよ……」


ぽぷら「……」


ぽぷら「……芽衣ちゃんは、お兄ちゃんのことすっごく大切にしてるんだねっ」ナデナデ


芽衣「!? あっ、す、すいません!! 私ったら関係ない話をぶつぶつ言っちゃって……っ」カァァ


ぽぷら「芽衣ちゃんもお顔が真っ赤だよっ~♪」クスクス


芽衣「う……。 ……私ったら、人のこと言えませんね……」ハァ


ぽぷら「くすっ。 これでお相子だね」クスクス


芽衣「……はいっ! お相子ですね!」クスクス


芽衣「あ、ぽぷらさん」


ぽぷら「うん?」


芽衣「……私、岡崎さんとぽぷらさんのこと、応援しますから!」スクッ


ぽぷら「お、応援?」


芽衣「お二人が無事くっつけるよう、微力ながら、協力させてもらいます!」


ぽぷら「ふぇぇ!? い、いいよぉ! だからね、私は岡崎くんのことが好きだ、とか、よく分からないし……。 だ、だいじょうぶだから!」


芽衣「何言ってるんですか! ぽぷらさんは可愛いんですから自信持ってください! 男の人は追ってかないとすぐどこかへ言っちゃいますよ!」


ぽぷら「か、可愛くなんてないよぉ……」






朋也「……こんな夜に何を騒いでるんだ」


ぽぷら「うひゃああっ!」ビクッ


朋也「……そんなに驚くことか?」


ぽぷら「う、ううん! ど、どうだった? あれで合ってたかな?」


朋也「あぁ。 ぴったりだったから全部貼付けて来た」


芽衣「岡崎さん、お疲れさまです」ニッコリ


朋也「おうっ。 ……って、芽衣ちゃん、まだ起きてたのか?」


芽衣「はいっ。 ……でも、そうですね。 今日はもう遅くなってしまいましたし、お先にお休みさせて頂いて良いですか?」


朋也「もちろんだ」


芽衣「それじゃあ、葵ちゃんと一緒に先に寝ますね! おやすみなさいですっ!」ペコリ


朋也「おう、おやすみ」


芽衣「……ぽぷらさん」


ぽぷら「……ふぇ?」


芽衣「頑張ってアピールしてくださいね!」ヒソッ


ぽぷら「!!!」カァァ


芽衣「それじゃあおやすみなさい~」タッタッタ


ぽぷら「(芽衣ちゃん、行かないでぇぇ~……)」


朋也「……種島?」


ぽぷら「うぇ!? な、なに!?」


朋也「この次はどうする? どの作業もこのまま続けても中途半端に終わりそうな物ばかりだが」


ぽぷら「そ、そうだね、え、えええーと……!」アタフタ


朋也「(……なんだ? ……まさか)」


朋也「……」


ぽぷら「え、ええと、ええっと、これでもなくて、あれでもなくて……」アセアセ


朋也「種島」ピタッ


ぽぷら「ひゃっ!」ビクゥッ


朋也「……熱はない……か」


ぽぷら「な、なななな、なにを……!?」ガクガク


朋也「いや、ちょっと疲れでも溜まったのかと」


朋也「子供もはしゃぎ疲れる時があるもんだからな」


ぽぷら「も~っ! 私は子供じゃないってば――」




――芽衣『男の子って、たまにあまのじゃくになって、素直に気持ちを伝えられない時があるもんなんですよ、きっと』


ぽぷら「……っ」


ぽぷら「……えへへ」


朋也「な、なんだ急に……」ビクッ


ぽぷら「ううん!何でもないよっ! ……そうだね、それじゃあ私たちも今日はこれくらいにして、片付けよっか!」


朋也「あ、あぁ……?」


ぽぷら「~♪」


朋也「(一体なんなんだ……)」ハァ







芽衣「岡崎さん! ぽぷらさん!」


朋也「?」


ぽぷら「?」


芽衣「そ、それが……、葵ちゃんが洗面台で寝たまま起きてくれないんです……」


ぽぷら「……」


朋也「…………」


朋也「床の片付けの前に、あいつの片付けから、だな……」ハァ




……………………

…………

……

こんな感じで今日の更新です!


ところで、皆さん今の感じで見易いですかね……?
他の作者様のSSなどを読んでると、私のって少し見にくいかなって感じまして。

別段思う所が無ければスルーしちゃってください!もし何かありましたらいつでもお待ちしてます。


それでは!

~芽衣と山田~




[翌日 深夜]


【ワグナリア キッチン付近】


芽衣「えーっと……、どこに仕舞っておけばいいんだろ……」キョロキョロ


芽衣「(こまったなぁ……。 岡崎さんとぽぷらさんは外の装飾をしに行ってるし……)」


芽衣「……あっ! そっか! 葵ちゃんに聞けばいいんだ!」ポン


芽衣「(葵ちゃんは……いた!)」


芽衣「葵ちゃ~ん! これ、どこに置いておけば――」







山田「!?」ムシャムシャ


芽衣「……」


芽衣「な、何してるの……?」


山田「や、山田はちょーっとお仕事を……!!」アタフタ


芽衣「……」


山田「こ、この事は岡崎さんにだけは言わないで下さいぃぃ……」オヨヨ

~ぽぷらと山田~


山田「(つ、疲れました……眠気ゲージがマックスです……)」


山田「(こ、こうなったら……!)」


山田「……や、山田、向こうの段ボール取って来ます~……」ウトウト


ぽぷら「……葵ちゃん、だいじょぶ? 疲れてない?」


山田「すこぶる眠いです……(きた!!)」クラクラ


ぽぷら「じゃあ先に寝てても大丈夫だよっ!! あとは私がやっておくからっ」


山田「お、お言葉に甘えてもいいですか!」キラキラ


ぽぷら「うんっ! あんまり無理しちゃ駄目だよ!」


山田「(やりました!! やっぱり岡崎さんと違って種島さんは優しい方だったんです!)」


ぽぷら「はい、それじゃお水とポッキー!」


山田「え?」


ぽぷら「夜までやってもらったし、お礼だよっ!」キラキラ


山田「え、えっと、山田は別に……」


ぽぷら「葵ちゃんが寝ちゃった分はしっかり私がやっておくから、安心して寝てね!」


山田「……」チラッ



シゴトドッサリ


ぽぷら「?♪」


山田「……山田、やっぱりもうちょっとやります」






~朋也と山田~


山田「……やっぱりあの時寝ておけば良かったです……」ゲッソリ


朋也「……」スタスタ


山田「あ、岡崎さん。 お疲れさまです」


朋也「……なぁ、お前って本当に山田って名字なのか」


山田「うっ……!? な、何ですかその質問は」ガクガク


朋也「いや、大した話ではないんだけどな……。 俺の知り合いでお前と性格が酷似してるやつがいるんだよ」


山田「(ほっ……) そ、それは人違いですよ。 山田は、あくまで山田なのですっ!」


朋也「ま、そりゃそうか」


山田「いきなりそんな事を聞くなんてどうしたんですか? 深夜だからってまさかむゆうびょ――」


朋也「『盗み食い』」


山田「!??!??!!」ビックーン


朋也「そんなことをする奴も、俺の知り合いには1人しかいなかったんでな……。 思わず勘違いしちまった」


山田「ななななな、何の事か、山田はさっぱりですよ。 はは、はははは」


朋也「……エプロンにハムついてるぞ」


山田「え!? そ、そんな!? さっき確認を……!」ハッ


朋也「……」


山田「…………。 や、山田はお先にねま――」





ゴツン

[翌日 昼]


【学校】


春原「なぁ、岡崎」


朋也「あん?」


春原「め、芽衣はどうだ?」


朋也「どうだ……って?」


春原「いや、だから、その……ほら、迷惑をかけていないかってことだよ! 芽衣は僕とは正反対でおっちょこちょいだからね!」


朋也「はっはっは、それは面白いボケだな!」


春原「一寸たりともボケてませんけどね!!」


朋也「心配なら見に来ればいいだろ」


春原「うっ……。 そ、そんなこと言っても僕は色々多忙なんでね……」


朋也「これから通う、みたいなことを言ってたのにか?」


春原「よ、予定は狂う為にあるものなんだよ!!!」


朋也「……」


素直じゃないやつだ。

すいません……!書き溜めてたのですが昨日は寝落ちしてしまい、そして今日は明日朝早いので寝ないといけないのです……汗
時間を見つけて近日中に投下しますね!



~相馬と芽衣~

【ワグナリア】



相馬「やほ、芽衣ちゃん!」ヒョコッ


芽衣「相馬さん、今日もよろしくお願いしますっ」ペコッ


相馬「いや~、芽衣ちゃんは行儀がいいね~。 仕事もよくできるし、大人顔負けだよ~」


芽衣「そ、そんなことないですよ」アセアセ


相馬「(……でも、キミにもきっと何か苦手な事もあるはずだよね……)」


相馬「(それとなく聞き出してみよーかなー?)」ニヤリ


相馬「そういえば中学生だったよね? 苦手な教科とかあるの?」


芽衣「う~ん……」


相馬「あぁ、苦手とか曖昧な感じだと答えにくいよね! 成績とかはどうなの?」


芽衣「あ、えっと……その~……」


相馬「(しめた!!)」キュピーン


相馬「恥ずかしがらなくてもいいよ~! 評定1の1つや2つ、全然気にする様な事じゃないよ~」


芽衣「……いや、あの、私、5しか取ったこと無くて……」


相馬「はい……?」


芽衣「なんか自慢っぽくなっちゃうのは嫌なので、言い辛かったんですけど……」ショボン


相馬「……ぇ、い、いやいやいや! 聞いたのは僕だし! へ、へぇ~すごいなぁ! 超優等生なんだね~!」


相馬「(り、リアル秀才じゃないか……!)」


相馬「(だけどここで諦めるわけにもいかないよね!)」


相馬「それじゃあ得意じゃない運動はあるかな?」


芽衣「(あくまでネガティブな方なんだ……)」タハハ


芽衣「う~んと……得意じゃない、というか……憧れてるスポーツなら……ありますね」


相馬「おっ! それはなんだい?」


芽衣「……兄がやってる、サッカーです」


相馬「サッカー? お兄さんがやってるの?」


芽衣「はいっ! すっごい上手いんですよ!チームでもリーダーシップを持って動いてて……とっても格好いいんです!!」ヒシッ


相馬「……そ、そうなんだ! そ、それはすごいなぁ!」


芽衣「……あっ、す、すいません……! 私ったら、なんか興奮しちゃって……」


相馬「(あれぇ? この子って、もしかしたら伊波さんタイプぅ?)」


~八千代と芽衣~


[休憩室]


八千代「あ、芽衣ちゃん!」カチャカチャ


芽衣「八千代さん、お疲れさまです~」


八千代「ふふ、おつかれさま~っ」カチャカチャ


芽衣「……? 私、何か可笑しいところがありますか?」アタフタ


八千代「あ、ううん! そうじゃなくて! 本当にそれらしいな、と思って」カチャカチャ


芽衣「……それらしい、ですか?」キョトン


八千代「大人っぽいなーって! 芽衣ちゃんは、お仕事もできるし、礼儀も正しいし、凄く助かっちゃってるからね!」カチャカチャ


芽衣「私なんかがお世話になっていますし、当たり前のことですよ~」アセアセ


八千代「ううん、誰にでも出来る事じゃないのよ? すごくいい環境で育って来たんだな、って思うもの」カチャカチャ


芽衣「そ、そうですかね……」


八千代「そうそうっ。 だから、これ!」カチャカチャ


芽衣「パフェ……ですか? 提供品ですかね?」


八千代「当たりですっ。 私から芽衣ちゃんへ!」カチャカチャ


芽衣「えぇえっ?! こ、これってお店のものですじゃないですか! 毎日三食も美味しいご飯をごちそうになってますし!」フリフリ


八千代「そんな遠慮しないのっ! たまには、ね?」カチャカチャ


芽衣「は、はい……。 ありがとうございますっ!」


八千代「ふふふ、それじゃ私は杏子さんにも渡してくるわね!」カチャカチャ


芽衣「わかりましたー!」


八千代「ごゆっくり~♪」カチャカチャ


芽衣「…………」パクッ


芽衣「……えへへ、おいしいっ」










相馬「(ちょっと……。 脇に差してる物に一回も触れないの……?)」ガビーン


~小鳥遊と芽衣~


[休憩室]


芽衣「小鳥遊さん……ちょっといいですか?」オソルオソル


小鳥遊「ん? 芽衣ちゃん、どうかした?」


芽衣「えっと……そのぉ……」モジモジ


小鳥遊「……」キュン



ぽぷら「芽衣ちゃ~ん! かたなしく~ん!」タッタッタ


芽衣「ぽ、ぽぷらさん!」


ぽぷら「かたなしくんと一緒に何してるの~?」


芽衣「え、えっと……これ……」スッ


小鳥遊「……なになに? これはウチのオペーレーションファイルですね」


ぽぷら「物のしまい方とか書いてある本だよね? 芽衣ちゃんこれがどうかしたの?」


芽衣「……よ、読めなくて……」


ぽぷら「?」


芽衣「か、漢字で読めないのがあったから、教えてほしくて……」モジモジ


小鳥遊「……」ズキューン


芽衣「で、でも……この歳でそんなこと聞くの、少し恥ずかしくて、その……」


ぽぷら「よーしっ! この私に任せなさい!」ドンッ


芽衣「え、いいんですか?」


ぽぷら「もっちろんだよー! 見せてー!」


芽衣「あ、はいっ。 ここなんですけど……」


ぽぷら「うんっ! どれどれ~? ……………………………」


芽衣「……」


小鳥遊「……」


ぽぷら「かだなしぐん~私も読めないよぉぉぉ~」グスッ


小鳥遊「……」


小鳥遊「(2人とも小さくて可愛い!!!!!)」ズキューン


~佐藤と芽衣~


[洗い場]



佐藤「……」ジュー


芽衣「……」カタカタ


佐藤「……」タンタンッ


芽衣「……」カタカタ


佐藤「……」スッ


佐藤「……」キョロキョロ


芽衣「……」


佐藤「……」ハァ


佐藤「……伊波、これ3番卓へ頼む」


まひる「ひっ! ……は、はい!」タッタッタ


佐藤「……」


芽衣「……佐藤さんってお優しいんですね」


佐藤「あん? 急になんだ」


芽衣「今、伊波さん以外の人がいないか探してから、頼みましたよね?」


佐藤「俺も殴られたくはないからな」


芽衣「……ふふっ」


佐藤「……なんだその笑いは」


芽衣「いや、別に何でも無いです♪」


佐藤「……」イラッ


芽衣「~♪」カチャカチャ


佐藤「……」キュッ


佐藤「……」フキフキ


芽衣「(えーと、これが終わったら次は……)」


佐藤「……」ワシャッ


芽衣「ぅぇっ!?」ビクッ


佐藤「(変なところで種島に似やがって……)」クシャクシャ


芽衣「わっ、わっ!? くしゃくしゃにするのやめてくださいっ!」ビェェ


ぽぷら「ん? ……あ~っ! 佐藤さん! 芽衣ちゃんをいじめたら駄目だよ~!」


佐藤「うるさい」モシャッ


ぽぷら「わぁぁ」ワタワタ


小鳥遊「……あ」


佐藤「……」ワシャワシャ


芽衣「さ、佐藤さんやめてください~っ」ビェェ


ぽぷら「や、やめてよ~っ」ビェェ


小鳥遊「……」


小鳥遊「(……なんて愛くるしい2人なんだ!!)」

更新すると言ったら更新できないジンクスですね。

スレたてて一年がもう間近だ……。それまでにはなんとか完結を……!


見てて下さっている方がたをお待たせしてしまっていて、本当に申し訳ないです……。
やり切らないと……!


それでは、失礼しました!


【ワグナリア】


ぽぷら「……岡崎くん」


朋也「……ん」


ぽぷら「や、やったね……」


朋也「…………あぁ」


 鳥の鳴き声がする。
 もう外は明るい。 目の前の坂には車も走ってる。


ぽぷら「はは……。 でも、あんまり実感ないなぁ」


朋也「まだ準備しただけだからな……」


ぽぷら「間に合うとは思わなかったよ……」


朋也「俺は最初からそう言ったろ……」


ぽぷら「へへ……。 でも、できたでしょ?」


朋也「……そうだな」


 『桜祭り』の当日。
 その早朝に、下処理を含めた全ての準備が終わった。



芽衣「……」


山田「……」


朋也「2人揃って廊下で寝るのか……」


ぽぷら「2人とも、結局毎日手伝ってくれたしね……。 感謝しなきゃ」


朋也「……そうだな」


 もちろんこの2人だけじゃなくて、八千代さんや小鳥遊たちもほとんど終電ギリギリまで準備を手伝う等、かなり貢献してくれた。
 俺と種島だけでは、絶対に間に合わなかっただろう。


朋也「……とりあえず、後は掃除して、こいつらも上に運んでやるか……」スクッ


ぽぷら「あ、掃除は私がやるから岡崎くんは2人をお願いできるかな」


朋也「……おう」






[10数分後]



朋也「(……おぶって上がるってのは、楽じゃないな)」


 眠い目をこすりながら体力仕事をすると、どうしても足下がふらつく。
 芽衣ちゃんはまだしも、山田を運ぶ時は何度落としてしまおうと思ったことか。


朋也「(…………それは流石にひどいか)」


ぽぷら「あっ、岡崎くん! 終わった?」


朋也「あぁ。 とりあえず2人とも布団にくるんどいた」


ぽぷら「あはは……。 お疲れさまっ! 疲れたでしょ?」コトッ


朋也「コーヒー? ……いいのか?」


ぽぷら「うんっ。 ちょっとくらい大丈夫だよっ!」


朋也「なるほど、全責任は種島が負う、と」


ぽぷら「えぇっ!? そ、それは……」


朋也「冗談だ」


 


 山田につまみ食いを注意した俺がコーヒーを飲むのも気が引けるが、
 飲まないと瞬きしただけで落ちてしまいそうだから、もうそんな野暮なことは考えない。


朋也「……」ゴクッ


朋也「……ふーっ。 美味いな、やっぱり」


 おっさん臭いかもしれないが、朝の一杯はやっぱり格別だ。
 例え寝てなくても目が冴えて行くこの感覚が、昔は好きだった。


ぽぷら「……」チビッ


ぽぷら「……う、う”ん……お、おいしい……」


朋也「……無理すんな」


ぽぷら「…………。 ……うぇぇ~っ……。 やっぱりコーヒーは苦手だなぁ~……」


朋也「……。 そうだな、ちょっと待ってろ」


ぽぷら「う、うん?」




――





朋也「待たせた」


ぽぷら「岡崎くん? どこ行ってたの?」


朋也「ほら」


ぽぷら「へ? ……こ、コーンポタージュ?」


朋也「お前にはこっちの方がお似合いだ」


ぽぷら「……で、でも、これってお店のものじゃ……」


朋也「これで同罪」


ぽぷら「!」


朋也「……だろ?」


ぽぷら「……うん!」



朋也「あとは、早番の奴らに任せれば良いんだよな」


ぽぷら「うん。 私たちは学校もあるし、オープンからは入れないよね」


朋也「……残念だなぁ、とか言うんじゃないだろうな」


ぽぷら「うっ……」


朋也「……準備したんだから、どうせならってことなら、まぁなくもないか」


ぽぷら「そうそう、それだよ!」


朋也「……」


ぽぷら「……」


ぽぷら「……何かあっという間だったねー」


朋也「……俺はそうでもない」


ぽぷら「えぇっ?!」


朋也「結構しんどかった」




ぽぷら「そ、そっか……。 ご、ごめ――」シュン


朋也「でも」


ぽぷら「?」


朋也「退屈じゃ無かった分、俺はそっちの方がいい」


ぽぷら「っ!」


朋也「……金も入るしな、相当」


ぽぷら「……えへへ、そうだねっ」クスッ


朋也「何笑ってんだ」ワシャワシャ


ぽぷら「わ~っ! や、やめてよ~っ!」アセアセ


朋也「……ったく」


ぽぷら「うぅ~……」



ぽぷら「……。 多分今寝たら起きれないだろうなー」


朋也「……だろうな」


 確実に夜までは起きないだろう。



ぽぷら「……へへ、そしたらアルバイトも学校もさぼりになっちゃうね」


朋也「……。 こんだけやったんだ。 別に一回くらい構わないだろ」


ぽぷら「駄目だよーっ。 両方ともさぼったりしたら!」


朋也「…………。 お前、言ってること矛盾してないか?」


ぽぷら「あはは、そうかもしれない……」



ぽぷら「……ねぇ、岡崎くん」


朋也「ん」


ぽぷら「私、岡崎くんと会えて良かったなぁって思うよ」


朋也「……なんだ、いきなり」


ぽぷら「……ううん、なんとなく、そう思っただけ」コテッ


 パサッという乾いた音と一緒に、肩に小さな重みを感じる。


朋也「……おい」


ぽぷら「えへっ。 ……ちょっとだけ。 駄目かな?」


朋也「……。 …………勝手にしろ」


ぽぷら「……………うんっ」



 



ぽぷら「……岡崎くんの肩、おっきくて温かいね」


朋也「男なんて誰でもこんなもんだ」


ぽぷら「ううん、違うよ。 ……岡崎くんの肩だから、いいんだよ」


朋也「……。 わけがわからないぞ」


ぽぷら「でも本当だもん」


朋也「……はいはい」



ぽぷら「……朝だねぇ」


朋也「そうだな」


ぽぷら「学校、行かなきゃだね」


朋也「あぁ」


ぽぷら「今日もお仕事頑張らないとだねぇ」


朋也「あぁ」


ぽぷら「……なんか、ずっとこのままでいたいなぁ」


朋也「……」


ぽぷら「……。 ……」




朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……?」





ぽぷら「……」スヤスヤ







朋也「……」


朋也「……このバカ」


 悪くない。
 他人に肩を預けて、『退屈な時間』を過ごすのも。


 よく分からないが、…………そう感じた。





深夜投下になってしまい申し訳ないです。

いやーふと思い立って
最初から読み返してみたんですが、誤字脱字分け分からん表現のオンパレードだったんでこれは書き直し必須だなぁ……。


とりあえず、こんな感じです。


では!皆さんよい夢を!

無気力に過ごしていた朋也は、つまらない毎日に辟易していた朋也。



偶然通りかかった公園で、不良に絡まれて狼狽えている種島を助ける。



怪我をして気を失った朋也を種島はワグナリアへ運び介抱するが、翌日ろくに挨拶もせずにそこを去る。



ちゃんとしたお礼も言えずに落ち込む種島。 ここで佐藤は偶然にも朋也と出会う。



佐藤の気遣いむなしく、結局意図せずとも朋也と種島は出会う。



朋也、ワグナリアで開かれると言う『桜祭り』の買い出しに付き合う。



佐藤の厚意(?)により、ひょんなことから朋也がワグナリアの助っ人に。 そのまま雇用してもらうことになる。



その後、アルバイトと学校の両立生活を続ける朋也。



種島に誘われ携帯を買う。 その帰りに春原の妹、芽衣と出会う。



山田が原因でワグナリアにやってきた芽衣が、しばらくの間ワグナリアにお世話になる事に。



寝不足になりながら、桜祭りを開催する準備を行う朋也と種島。



他のメンバーの助けもありながら、なんとか準備完了。(←今ココ!)




一年間もの間でたまにしか書き込んでいなかったので、お話の内容も忘れてしまったかもしれないので一応まとめてみました。



よろしくお願いします!

【学校】

[昼]


朋也「……ふぁ」


準備が終わり、俺の肩でよだれを垂らす種島をはたき起こした後、俺はそのまま学校に向かった。
帰ったら確実に寝過ごすのが目に見えていたからだ。


春原「お前、最近学校に来てから寝てばっかりだな」


やけに重い頭を上げると、春原が肩肘をつきながら無愛想に言った。
やけにざわついていると思ったが、どうやら登校後そのまま熟睡し、昼休みまでノンストップで寝ていたようだ。


朋也「それも今日で終わりだよ……くぁ」


春原「今日で終わり? 何で?」


朋也「バイトの方で徹夜続きだったからその分学校で寝てただけだよ……」


春原「ふ~ん……」



朋也「何だよその踏みつぶされたカエルみたいな顔は」


春原「どんな顔だよ!? ……いやねぇ、バイトとはいえ、お前が社会貢献してるなんて、なんか不思議なもんだね」


朋也「妹ですらやっているのにできてないアホ兄貴だもんな」


春原「うるさいよ! そうそう、芽衣はどうなんだよ、最近顔見ないし……」


朋也「……さぁ?」


春原「さぁっ?ってなんだよ! いつも一緒に働いてるんだろ!?」


朋也「……気になるんなら自分で見にくればいいだろ」


春原「ぐっ! ……へ、へん! 別に気になってなんかねーし!! そんなことよりボンバヘッ!を聴いてる方が重要だね!」


朋也「……勝手にしろ」

【ワグナリア】


[夕刻]


小鳥遊「伊波さん! 会計お願いします! ……お待たせしました~! ご注文をどうぞ!」


伊波「う、うん!」


八千代「お待たせしました~! ハンバーグステーキで~す」


麻耶「ありがとうございました~! またのご来店を! ……いらっしゃいませー! 何名様でしょうか?」


ぽぷら「喫煙席ですか? それとも禁煙席でしょうか~?」






佐藤「こんなんが朝からずっとだぞ……」ゲッソリ


朋也「見るだけで嫌になるな」


街でもある程度有名な『桜』をモチーフとしたキャンペーンで、なおかつ行き交いの多い立地条件にあるファミレス。
この集客数は当然のことだった。

佐藤「まぁ、店にとっちゃあ嬉しい悲鳴ってやつだが……。 轟や俺はほとんど休み無しの状況だ」


佐藤「……今日だけならまだしも、キャンペーン期間中ずっとは正直しんどいかもしれないな……」


朋也「……それは朝からいるメンバーが少ないから、ってことか?」


佐藤「そうだな……。 一応、相馬のやつにはさっき事情を説明して明日から一週間フルで入れる事にしたが……」


一言で伏すにはかなり残酷だった!


朋也「……なら俺が来る」


佐藤「……はぁ? こっちとしちゃ助かるが……。 お前学校があんだろ。 無茶すんな」


朋也「どのみち行っても寝てるだけだ。 出席だってカウントされてるかわからないし……。 それなら俺は出勤する」


佐藤「……どうなってもしらねぇぞ?」


朋也「元より誰のせいにするまでもないんでね……」


佐藤「……くはっ、それじゃお言葉に甘えることにするか……。 頼んだぜ、サンキュな」


朋也「……あ、この事は」


佐藤「『種島には内緒』」


朋也「!」


佐藤「当たりだろ? ……わかってるよ、そのくらいの空気は読むさ」


佐藤「明日からよろしくな」


朋也「……ちっ」


どうしてこいつはこうも俺の考えを見透かしてるのか。
いつにしても、決して快くは受け取れない変な感覚だ。

投下したい!! 投下したい!!
書きたい!!書きたい!!

4レス!!4レス!!!クズ!!!30レスはしたいのに!!!くそーーー!!
おやすみです!!!


―――


小鳥遊「お待たせいたしました!」



ピンポーン



小鳥遊「10番卓追加オーダーお願いしますー!」


八千代「しょ、少々お待ちください~!」


まひる「お、男の人がいっぱい~……」グルングルン


ぽぷら「い、伊波ちゃん大丈夫!?」ガシッ


麻耶「これ、普通じゃない混み具合ですよ~!」ドタドタ







佐藤「ったく……! 岡崎、キッチンは俺1人でなんとかするからホールに回ってくれ」


朋也「了解」




朋也「お待たせいたしました……」


「ちょっとー! 待ちくたびれたわよ店員さん! ……て、朋也じゃん!」


朋也「……なんだ、お前か」


杏「失礼な言い草ねー! ここではあくまでもお客様よ、お・きゃ・く・さ・ま!」


朋也「どっかのアホと同じ返しだな」


杏「はぁ? どっかのアホってだれ…………、……って陽平しかいないわね」


朋也「ご名答」


杏「知能レベルがあいつと同じだなんて憤慨だわ……」


椋「お、お姉ちゃん、春原くんに失礼だよっ」アセアセ



朋也「……で、ご注文は?」


杏「あ、そうそう! ドリンクバー2つと、この桜ポテト1つお願いね!」


朋也「了解」


杏「……」


朋也「なんだ……」


杏「前にちょろっと聞いた気はしたけど、……アンタ似合わないわね~黄色いエプロン……ぷっ」


朋也「笑うな」


椋「お、岡崎くん、黄色、似合ってるよ?」


目を泳がしながら言っても説得力のかけらもない。


朋也「……似合わないのはわかってるからいいんだよ、気にすんな」


椋「あ、あぅぅ……」


杏「ちょっと店員さん、私の大切な妹をいじめないでください~!」ガシッ


椋「お、お姉ちゃん、恥ずかしいよ~!」アセアセ


朋也「はいはい……」



ぽぷら「わ、わ、わわわっぷ!」ポスッ


朋也「……! ……種島、落ち着け。 商品ぶちまけたら大惨事だぞ」


ぽぷら「ご、ごめんなさい……。 あちこちで呼ばれちゃっててんやわんやで……」


杏「えっ、ちょ、ちょっと朋也!? その子――」


ぽぷら「私は高校生ですっ!」フンス


まるで次に出てくる台詞を予測済みかのような反応だ。
……十中八九、予想できるだろうが。


杏「え? あ、あぁ、そ、そうなの……私はてっきり……」


朋也「それ以上口に出してやるな……」


ぽぷら「う~っ……」ウルウル


杏「その方がよさそうね……」



椋「高校1年生の方ですか?」


ぽぷら「私は2年生ですっ!」


杏「1個下なんだ……」


朋也「まぁ小学生に見られても仕方がない」


ぽぷら「むぅっ! ちょっとそれどういうことなの!」


朋也「そういうことだ」


杏「お客の前で喧嘩しないでよ……」


朋也「発端はお前だがな」


杏「不可抗力でしょ」


朋也「まぁそうだが」


ぽぷら「同意しないで!」



杏「そうそう、紹介が遅れちゃったけど私は朋也と同じ学校の藤林 杏っていうんだ! よろしくね!」


椋「い、妹の藤林 椋です……」ペコッ


ぽぷら「わ、私は種島 ぽぷらって言います! 岡崎くんにはすっごくお世話になってます!」ペコッ


朋也「(どういう状況で自己紹介し合ってるんだ……)」


杏「ふ~ん……。 朋也がお世話ねぇ……」


椋「……」


朋也「なんだその目は……。 ……というか、もう行くぞ。 お前らだけに構ってる時間はないんだ」スタスタ


杏「あーあー、随分な言い草だこと……って行っちゃった」


椋「忙しそうだもんね」


ぽぷら「そ、それじゃ私も行きますね! 何かあったら言ってください!」


杏「あっ、ちょっと待って!」


ぽぷら「はい?」


杏「ぽぷらちゃん……だっけ? いきなり下の名前で呼んじゃうけど」


ぽぷら「全然構わないですっ」


杏「ありがとっ! ……えっとー、もしかしたら、なんだけどさ」


杏「……あなた、朋也にホの字だったり?」


椋「!?」


ぽぷら「……へ? ……えええ!? そ、そんなこと!?!? そんなこと……」


杏「……だよね~! いや~、そんなわけないかー! あのアホ朋也がこんな可愛い子から好かれるわけないもんね!」


ぽぷら「……」



ピンポーン


杏「あ、呼ばれてるわね。 呼び止めちゃってごめんね!」


ぽぷら「い、いえ! ……そ、それじゃあ失礼しましたっ!」ペコリ



椋「……どうしたの急に……?」


杏「ん~? 別に~?」


椋「いくらなんでも初対面の人に聞くのはどうかと思う……」


杏「たはは、失敬失敬! ちょっと気になっちゃったもんだからさー!」


杏「女の勘ってやつに、ビビッと来たんだけど……。 こりゃ、動向を追わないといけないわね……」


椋「お、お姉ちゃん……(受験勉強はいいのかなぁ……)」



――

【ワグナリア】


芽衣「今日はお疲れさまでした」コトッ


ぽぷら「ほぇ? め、芽衣ちゃん! 体調は大丈夫なの?」アセアセ


芽衣「はいっ! 元々別に悪くなんて無かったですし……。 皆さんのご厚意に甘えて、今日は休ませて頂きましたが……」


ぽぷら「よかった~……! ずっと手伝わせちゃってたから心配だったんだ~」


芽衣「ふふっ、身体の丈夫さだけが取り柄ですから!」


ぽぷら「芽衣ちゃんは頭も良いし運動もできるから取り柄はもっと一杯あると思うよ!」


芽衣「そんなことないですよっ! 普通に授業聞いて、ちょっとだけ復習してるだけですし!」


ぽぷら「(それって相当凄い事なんじゃ……)」



ぽぷら「……はぁ~……。 私、芽衣ちゃんみたいに何でも出来る子になりたいな~」


芽衣「あ、改まって言われるとどう返事していいか分からないですよぅ」アセアセ


ぽぷら「あっ! ご、ごめんね! 困らせるつもりは無かったんだ!」


ぽぷら「ただ、最近、なんとなく自分だめだめだーって思っちゃって……」


芽衣「何かあったんですか?」


ぽぷら「……芽衣ちゃん、本当のことを言ってね? …………私って、わかりやすい?」


芽衣「へ? え、えっと……それは、どういう?」


ぽぷら「思ってる事とか、考えてる事とか……」


芽衣「はい」


ぽぷら「即答なのっ!?」ガビーン



芽衣「だってぽぷらさん、すぐ顔に出るじゃないですか」クスクス


ぽぷら「え~? そうかな~? 私って、そんなにぽーかーふぇいすできてない?」


芽衣「はい、全く」


ぽぷら「そこも正直に言うんだね……」


芽衣「ふぇ!? ご、ごめんなさい! 私ったらつい……」


ぽぷら「ううん! だいじょぶだよ! そこも芽衣ちゃんの凄い所だよね! 嘘もなくて、正直な所!」


芽衣「だから、褒められてもどうやって反応したら良いのか分からないですよぅ……」シュン


ぽぷら「喜べばいいんだよ! 人に褒められるって良い事なんだから!」


芽衣「は、はいっ」


ぽぷら「……」


ぽぷら「……私は、最近嘘ばっかり」




芽衣「嘘、ですか?」


ぽぷら「……」コクッ


芽衣「例えば、どんな嘘ですか?」


ぽぷら「……それが、分からないんだよね」ニヘラ


芽衣「…………へ?」


ぽぷら「何かね、すっごい嫌な感覚があるんだ。 心のどこかに」


芽衣「嫌な感覚……ですか」


ぽぷら「うん。 って言っても、自分でも何の事か、分からないんだけどね……」


芽衣「……」


ぽぷら「って、ごめんね! 変な話しちゃって! 私の方がお姉さんなのにみっともないね!」


芽衣「そ、そんなことは……」




ガチャッ



朋也「うーっす。 お疲れ」


ぽぷら「岡崎くん! お疲れさま!」


芽衣「お疲れさまです、岡崎さん」


朋也「今日はもう皆帰ってるし行くぞ。 芽衣ちゃん、鍵の閉めお願いしていいか?」


芽衣「はい! それくらいは私に任せて下さい!」


朋也「ありがとう。 じゃ、行くぞ種島」


ぽぷら「うんっ。 芽衣ちゃん、ありがとね! おやすみなさい!」




バタン



芽衣「……」


芽衣「その嘘が……」


芽衣「その嘘が……、どんな嘘なのか。 きっと、ワグナリアのほとんどの人が見当つくと思います。 ぽぷらさん……」


――

>>660

の「伊波」は「まひる」に脳内訂正お願いします……汗
誤字ばっかりですいません。

多分話は加速します!8月中にほとんど終えられるくらいにしたいです。 それから、10月ごろに改めてスレ立て。。。みたいな形が希望的観測ですw

それでは!

【ワグナリア】

[翌日]


春原「……」ソォ


朋也「何やってんだ」


春原「うほぁ!?」


朋也「驚くのはこっちの方だろ」


春原「や、ややややぁ岡崎! 奇遇だなぁ!」


朋也「木陰から小一時間もファミレスを覗き込んでる奴がいう台詞ではないな」


春原「何の事かさっぱりだね! 僕は今偶然ここを通りかかっただけさ!」


朋也「……」



春原「おぉっと! もうこんな時間じゃないか! そ、それじゃ僕はこの辺で! じゃ!」





朋也「……行ったか」


芽衣「岡崎さーん」タッタッタ


朋也「おう。 どうした?」


芽衣「いえ、休憩入ろうと思ったら外に岡崎さんが見えたので。 何かありましたか?」


朋也「……。 実はな、客に変な奴が外をうろついてるって言われたから見に来たんだ」


芽衣「え!? ふ、不審者ですか?! 通報しないと!」アセアセ


朋也「ちょっと待て。 別に誰もいなかったから大丈夫だ。 俺たちが見つけてからでも通報は遅くはないだろ」


芽衣「あっ、はっ、はっ、はっ、はい! そ、そうですね!」アセアセ


危うく実の兄弟を無実の罪でブタ箱行きにさせてしまうところだった。


芽衣「どんな人かって報告は受けてますか?」


朋也「ん? あぁ、客いわく『金髪でいかにもアホそうな顔をしている高校生くらいの男』だとさ」


芽衣「金髪で……高校生くらい……ですか」


朋也「どうかしたか?」


芽衣「ん、いえ! 何でもありません! それでは長居は無用ですよ! 戻りましょ!」


朋也「……。 おう」




それからの二週間は、目紛しい速度で過ぎていった。


途中で材料を切らし、店を昼時過ぎには閉めるといったハプニングや、
シフトに入れる人間がいなくて、八千代さんと俺の2人で全行程を回す日があったり。

寝て、起きて、客に向き合って、働いて。
そんな日々が、過ぎて行った。




客層はほとんどが町民や観光客で占めていたが、近隣というよりもむしろ通学路ということもあり、光坂の生徒も目立っていた。
藤林姉妹やひたすら本を読む光坂の生徒、そして来店しては小言を零して帰って行く『年下の』坂上、果ては幸村まで。

学校にいるより、話すことが多かったんじゃないかと思う。

店長の舎弟とかいうやつらが入って来たりしたときは流石に驚いたが、あの店長ならまだまだ隠し球があるのだろうという結論に達すると、
あまり気にならなくなった。


『桜が無い期間なのに、こうやって沢山の客が来店しているというのはすごいことだな。
やっぱり桜というのはこの街にとって、とても重要なものなんだな』


坂上が言ったそんな言葉には、少なからず同感した。


目障りだと思っていた。 マイナスなイメージしかなかった桜に対して、
いつの間にか俺の考え方は変わっていた。



――――。




朋也「種島が……倒れた?」


『ワグナリア 桜祭り』。
祭りと言っても店内を装飾し関連の料理やセットを用意するただのフェアなのだが、
沢山の街人が来店する結果となったワグナリアのキャンペーンだ。

大好評の下、それは期間終了となり、スタッフ全員が泊まり込みで清掃や片付けをする大掛かりな装飾変更を経て、
桜祭りは大団円を迎えた。


その翌日の話だった。


朋也「……倒れたって?」


小鳥遊『はい、僕もまだ連絡が来たばっかりで詳しい事は分からないんですが……。 
 どうやら学校で授業を受けている最中に倒れているのを友達の方が発見した、ということらしいです』


朋也「容態は?」


小鳥遊『それも、わかりません。 とりあえず早退したって所までは聞いたんですけど。 先輩からは大丈夫ってメールが直接来たんで、重病ではないと思うんですけど……』


朋也「……。 待て、連絡来たのっていつ頃のことかわかるか?」


小鳥遊『時間ですか? えっと……今から5時間くらい前ですかね。 午前中でしたよ』

>>687


ミスです!





朋也「種島が……倒れた?」


『ワグナリア 桜祭り』。
祭りと言っても店内を装飾し関連の料理やセットを用意するただのフェアなのだが、
沢山の街人が来店する結果となったワグナリアのキャンペーンだ。

大好評の下、それは期間終了となり、スタッフ全員が泊まり込みで清掃や片付けをする大掛かりな装飾変更を経て、
桜祭りは大団円を迎えた。


その翌日の話だった。


朋也「……倒れたって?」


小鳥遊『はい、僕も詳しい事は分からないんですが……。 
 どうやら学校で授業を受けている最中に倒れているのを友達の方が発見した、ということらしいです』


朋也「容態は?」


小鳥遊『それも、わかりません。 とりあえず早退したって所までは聞いたんですけど。 先輩からは大丈夫ってメールが直接来たんで、重病ではないと思うんですけど……』


朋也「……。 待て、連絡来たのっていつ頃のことかわかるか?」


小鳥遊『時間ですか? えっと……今から5時間くらい前ですかね。 午前中でしたよ』



朋也「……」


小鳥遊『それで、岡崎さんたちはどうしてるのかって思って連絡してみたんですけど……って、あれ? 聞こえてますか?』


朋也「あぁ、すまん。 聞こえてる」


小鳥遊「あ、すいません。 それじゃ、僕は他の人にもどうするか聞いてみますね」


朋也「了解」ブツッ




朋也「……」


朋也「…………」



―――


――――――


【種島宅】


ぽぷら「けほっ」


ぽぷら「けほっ、けほっ」


ぽぷら「う~……咳、止まらないなぁ……けほっ」


ぽぷら「お薬、飲まないとな……」ガサゴソ


ぽぷら「……粉薬…………」


ぽぷら「……うぅ」


ぽぷら「わ、私だって大人だもん! 粉薬だって飲めるよ!」


ぽぷら「……そ、そうだお水、お水がないと……」トテトテ


【玄関】


ぽぷら「……」トテトテ


ぽぷら「…………誰もいないのって、寂しいなぁ」


ぽぷら「……ここのところずっとワグナリアにつきっきりだったし」


ぽぷら「…………はぁ。 お外も雨かぁ……」


ぽぷら「体育、お休みかぁ……」


ぽぷら「……」





ぽぷら「……」


ぽぷら「あっ、そうだ、お水お水……」トテトテ



ガタッ




ぽぷら「!?」


ぽぷら「お、お外……?」


ガタガタッ


ぽぷら「ひっ……。 だ、誰か来たのかな?」


ぽぷら「……。 ……あ、開けないと、だめかな」


ぽぷら「だめ、だよね……?」


【種島宅前】



ぽぷら「……」ソォ ガチャッ


ぽぷら「……誰も、いない?」


ぽぷら「…………気のせいだったのかな?」


ぽぷら「……」スッ


ガシッ


ぽぷら「ひゃぁっ!」ビクッ


ぽぷら「え?え!? えっと……!」


「おい……」


ぽぷら「……へ?」


朋也「……さみぃ」


ぽぷら「お、岡崎くん!?」

【種島宅 居間】



朋也「……すまん、タオルまで」


ぽぷら「う、ううん! いいよ! はい、コーヒー!」トン


朋也「……」


ぽぷら「……? どうしたの?」


朋也「いや、飲めないのに淹れてことはできるんだな」


ぽぷら「お父さんのとか、私もたまに淹れてあげるんだ! これでも上手って褒められてるんだよっ!」エッヘン


朋也「それはすごいな」


ぽぷら「……何で棒読みなの」


朋也「……別に」




ぽぷら「……また子供扱いしたでしょ~っ」ブスー


朋也「してない」


ぽぷら「ほんとに~?」


朋也「本当だ」


ぽぷら「それなら良かった!」


存外にチョロかった!


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……あの」


ぽぷら「……あっ! そういえば、お茶菓子がなかったね! ごめんね気が利かなくって! えっと、確か……」


朋也「お、おい……」


ぽぷら「ちょっと待ってね~? 確かこの辺に――あれ――」ヨロッ


朋也「!」






まだ夕刻過ぎだというのに、外は深夜のように真っ暗だ。

ぽたり、ぽたりと不定期に落ちる茶色の液体は、フローリングを着実に濡らしていく。
それが、俺自身が零したコーヒーだと気付くのはずっと後のことだ。


ぽぷら「はっ、はっ、あぅ……」


朋也「……た、種島!?」


ぽぷら「お、お薬……」


朋也「……薬!? どこだ!?」


ぽぷら「わ、私の、部屋……。 すぐそこの……」


―――


ぽぷら「ごめんね……? お水まで用意してもらって……」


朋也「……元々病人なのはお前だろ」


ぽぷら「でも、岡崎くんはお客様なのに……」


朋也「職業病かっての。 ……俺のことはいい。自分のことを気にしろ」


ぽぷら「あ、はは……。 それって難しいよぉ……」


朋也「……」



やたらと丸々としたデザインの電球に、どこで買ったのかと尋ねたくなる様なぬいぐるみの数。
そして、壁に貼られた写真。

いかにも、な女子の部屋。


文化の違いから来るある種の戸惑いの様なものが、俺を襲っていた。


ぽぷら「……そ、そんなにじろじろ見られたら、恥ずかしいよ」


朋也「わ、悪い……」


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「(案外、気まずいな……)」


ぽぷら「……ごめんね? 私の部屋、マンガとかないから、男の子はつまらないよね?」


朋也「……マンガ読むためにきたわけじゃない」


ぽぷら「で、でも……」


朋也「……でもじゃない。 とりあえず、お前は休んどけ。 俺はもう行くから」


ぽぷら「も、もう!?!」


朋也「もうって……。 俺はそもそも何の許可もなしに押し掛けて来ただけだろ」


ぽぷら「……」


朋也「……大丈夫そうなら、良かった。 早く寝とけ。 ……じゃあな」スッ


ぽぷら「……! ま、待って!」ガシッ


朋也「なんだ……」


ぽぷら「岡崎くんの時間があるなら……。 あるんだったら、ちょっとだけでいいから、お話しない?」


朋也「お話って、お前な……」


ぽぷら「病人だけど、元気だもん! それに、岡崎くんせっかく来てくれたのに……」


朋也「だから、俺は――」


ぽぷら「……1人は、嫌なの……。 お願い……」ギュ


朋也「……」





朋也「……わかったから、手放せ。 暑い」


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……」


ぽぷら「……そ、そういえばさ、岡崎くん、よくうちの場所わかったね。 誰から聞いたの?」


朋也「……以前、お前送るときに駅言ってたろ」


ぽぷら「……へ?それって、最寄り駅のこと?」


朋也「……そこからは走るだけだ」


ぽぷら「……えぇっ!? わざわざ探してくれたの!?」


朋也「……」


ぽぷら「……聞いてくれたら良かったのに……」



朋也「……俺には、そもそも連絡しなかっただろ」


ぽぷら「……あ。 えへへ……、すっかり忘れちゃってたよ。 ごめんね」


朋也「小鳥遊達には連絡するのに、俺には無いのか?」


ぽぷら「っ……。 かたなしくんから、聞いたんだ……」


朋也「……」


ぽぷら「岡崎くんには言わないで、って。 言ったのになぁ……」ボソッ


朋也「……なんだ?」


ぽぷら「ううん、なんでもない」


朋也「……どうして、俺には連絡しなかったんだ?」


ぽぷら「……そ、それよりね、桜祭りの売り上げの話,聞いた? 総額はなんとね――」


朋也「――種島?」


ぽぷら「……っ」


ぽぷら「……あ、あと伊波ちゃんね、桜祭りの期間中、男の人のお会計もしてたんだよ! 忙し過ぎて忘れちゃってたのかな!」


朋也「……種島」


ぽぷら「……それにね、麻耶ちゃんも注文取るときに『お注文をどうぞ』って言ってたんだよ! いっつも冷静なのに、すごい面白かったよ」


朋也「…………」



ぽぷら「佐藤さん一杯一杯だったのに、私にまかない作ってくれたんだ~。 すっごい美味しかったなぁ」


朋也「…………種島……」


ぽぷら「……いやなの!」


朋也「っ」


ぽぷら「やめてよ! そんな話したくない! 楽しいお話がしたいんだよ?!」


ぽぷら「岡崎くんも、楽しかったお話とか、いっぱい、いっぱいあったでしょ!? お話ししようよ! お話……たくさん……」


朋也「……」


ぽぷら「……」


ぽぷら「……。 ……ごめんね、私、最低だよね」


朋也「……いや」


ぽぷら「……ううん、いいんだよ。 自分からお話したいって言っておいて、岡崎くんの質問に答えないって、おかしいよね」




ぽぷら「……お医者さんがね」


朋也「……」


ぽぷら「お医者さんが、今回のこれは疲れからくる発熱って、言ってた」


ぽぷら「ほら、勉強し過ぎて暑くなる知恵熱ってあるよね? あれみたいなものなんだって」


ぽぷら「……最近、ちゃんとしたところで寝てなかったし、それが祟ったのかなって思ったんだ」


ぽぷら「でもね?」

ぽぷら「お医者さんは言ったんだ」


ぽぷら「身体的な疲労だけじゃないって」


朋也「……」


ぽぷら「……精神的な疲労も、重なって起きたのが、今回のことなんだって」


ぽぷら「私、生まれて初めて病院のベッドで寝たんだよ。 少しだけだけど」


ぽぷら「すっごくふかふかだった。寝心地もいいし」


ぽぷら「それでね、そこで考えてみたんだ。 精神的疲労ってなんなんだろって」


朋也「……」


ぽぷら「…………」



ぽぷら「本とかで読んだ事があったんだ。 『人からどう見られるか考えたり、それで悩む事って、すっごくストレスになるんだ』って」


ぽぷら「……」


ぽぷら「あ、あはは。 まどろっこしいね。 ……」


ぽぷら「言っちゃうとね、私、最近ずっと岡崎くんのコトばかり考えちゃってるんだ」


朋也「!」


ぽぷら「どうしたら岡崎くんは、私のこと褒めてくれるか、とか。 笑ってくれるか、とか。 一緒にお話ししてくれるか、とか」


ぽぷら「……いや、だよね、そんなの勝手にさ、考えてられてるのなんて」


朋也「……」


ぽぷら「……岡崎くんに、『面倒くさい』とか思われたくなくて……」


ぽぷら「……私、こんな子供みたいな性格だから、いっつも、ひぐっ、いっつも岡崎くんに迷惑かけてばかりだから、えっ、だか、らぁ……」


ぽぷら「岡崎くんに倒れたこと知られたら、私から岡崎くん、が、ぇっ、離れてっちゃう気がして……」


ぽぷら「ごめんなさい……うぇぇ……ごめんなさい……」



ぽぷら「私、嫌な、ぇっ、女の子だよね、ふ、ご、ごめんね、ごめんね……」


ぽぷら「自分が嫌だよぉ……っ、変に繕ったり、無理に、がんばったり、ぃ、それで、逆に迷惑ばっかり、かけて」


朋也「……」


ぽぷら「ごめん、ね? 勝手に、泣いたり、笑ったり、ばっかみたい……、だよ、ね……」


朋也「いや……」


朋也「…………バカみたいじゃなくて、バカなんだな、お前は」グイッ




ぽぷら「ふわ、ふわわぁああ、か、髪、ただでさえくしゃくしゃなん、だか、ら、ぐしゃぐしゃにしないでよぉ」オロオロ


朋也「うるさい」


ぽぷら「うぇぇぇ……や、やめてよぉ……」


朋也「……はぁ」ギュ


ぽぷら「……へ?」


朋也「……落ち着け」ギュ


ぽぷら「……岡崎、くん…………?」


朋也「……買い物行った時に言ったろ。 お前のこと、迷惑に思ったりしてないって」


ぽぷら「え、えっと、だ、だって……」


朋也「……だって?」


ぽぷら「……うぅ」シュン


朋也「……ごめんな」


ぽぷら「え?」


朋也「お前が気にしてんのなんて、俺は全然気付いてなかった」


ぽぷら「そ、それは私が勝手に、思ってるだけだから……」


朋也「……親父との喧嘩が原因で、俺は全力でバスケができないんだ」


ぽぷら「……!」


朋也「一番やりたかったことができなくなって、何をする気力も失せて、高校生活はどん詰まりだった」


朋也「下らん授業を受けて、親父がいない時間までぶらついて、帰って寝る。 それの繰り返し」


朋也「……そんなつまらない時間が変わって行ったのは、お前に会ってからなんだよ」


ぽぷら「ふぇ……、ひっ」


朋也「……最初は確かにどっかのバカとの喧嘩からだったから、馬鹿のお人好しとしか思ってなかったが」


朋也「俺に、そんな時間をくれたお前を邪険に扱うことなんて、あるわけない、だろ?」




朋也「アホばっかりやる山田や、伊波にぶん殴られたりとか、小鳥遊の変態行為だとか、わけわからんことも多々あるが……」


朋也「そんなことでも俺にとってはバスケをしていた時と同じくらい楽しいと思える時間なんだよ」


朋也「……あんまり俺も感情を出すのが得意じゃないから、お前に変な不信感を与えていたかもしれないが……」


朋也「これでも感謝はしてんだよ。 ……ありがとう」


ぽぷら「うぇ、うぇ、うわぁ、うわぁぁん、おか、岡崎くん、岡崎くん!!」ギュ


朋也「……泣くのは勝手だが鼻水をつけるなよ?」


ぽぷら「ふぇ、ひぐ、うぇ、うわああああん――」


――――



―――






ぽぷら「……あのね、岡崎くん」


朋也「……ん」


ぽぷら「……もう1つね、お願いと言うか、言いたい事があるんだ」


朋也「なんだよ、まだあるのか……」


ぽぷら「……。 ……うん。 すっごい大切なことが、1つ」


朋也「……言ってみろ」


ぽぷら「……。 気付いたのは、今さっきなんだけど」


ぽぷら「……。 ……私ね、私は、私は――」











朋也「種島、俺と付き合わないか」




ぽぷら「……私、岡崎くんのことが――! ……え」


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……」


ぽぷら「……え」


朋也「……何だ」


ぽぷら「……えええええええぇぇぇぇぇぇぇっっ!?」


朋也「病人っていうのは泣いたり笑ったり叫んだりするもんなのか……?」


ぽぷら「だ、だだだ、だって……! い、今なんて……!?」


朋也「……。 俺と付き合って下さいって言ったんだよ」


ぽぷら「ひゃぁぁっっ! は、え、ああ、え?」


朋也「……顔、真っ赤だぞ」


ぽぷら「……だ、だって、だってだってだってぇ!! もぉ! なんなのぉ!!」ポカポカ


朋也「お、おいおい……(普通に痛い……)」


ぽぷら「お、おかしいよ!! 今のはおかしいの!!」



朋也「はぁ?」


ぽぷら「だ、だって! 岡崎くんが、私のこと、その、す、すすす、好きだ、なん、て……」ボシュー


朋也「なんて?」


ぽぷら「あ、ありえないよ! ありえないもん!」


朋也「迷惑か?」


ぽぷら「迷惑なんかじゃないよっ! だって私は岡崎くんが!! ――っ!」


朋也「……」


朋也「……俺が?」


ぽぷら「……うぅぅぅぅうぅぅううううううう!!! ずるいよ!! ずるい!!」


朋也「……ったく」スッ


ぽぷら「ずるいよー! いきなりだったし! 不意打ちだったもん! それに、それに――








――んっ」




朋也「……ぷはっ」


ぽぷら「……」


朋也「……」


ぽぷら「……」


朋也「……何か言ってくれないと、俺も初めてだったんだが……」


ぽぷら「……。 ……岡崎くん、と、私、が?」


朋也「……あぁ」


ぽぷら「き、キス、したの?」


朋也「……あぁ」


ぽぷら「…………、ずるいよぉぉぉぉおおお……」


朋也「……で、答えは」


ぽぷら「……。 ずるい」


朋也「……俺はそう言う男だ」


ぽぷら「…………ずるいよ、岡崎く……朋也くんは」


朋也「!」


ぽぷら「これは、仕返しだから。 風邪、移してやるんだから…………



――っ」












子供っぽくて、いっつも負い目ばかり感じてる。
それなのに、どこか頑固で、気配りもできてる。

俺の彼女は、俺が初めて好きになったのは、そういうやつだ。



本当は、もっとじっくりいちゃいちゃさせつつのーって言うのが行きたかった!!!

ただ、ちょっと都合で海外の方へ行かないと行けないので、10月まで恐らく更新できなくなりそうなので一気に更新しました!

後は蛇足というか、書きたかったシナリオを書いて、終わりへと向かいます。
正直な話、もっともっと詳しく合間の話を書く予定でしたが、やっぱり待たせ過ぎだし、そんなの待ってる人はいないということで、書いちゃいました。

必ず、このお話は誤字脱字とかなくして矛盾をなくした完全版をUPします。

完結したら、HTML化してしまいますが、完全版としてUPされるそちらも、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。

それでは!

 皆様お久しぶりです! とりあえず遅くなりましたが帰還しました……。
 実は朋也とぽぷらの間にはもっといろいろあったんですが、とりあえずこのスレを完結させようとしていたのではしょってしまいました。

 完結スレでは必ずそこもUPしますのでよろしくです!
 とりあえず今日は報告だけ、近々更新しますのでよろしくお願いします。

sageれてない……。
他のSS作家様、失礼しました……;;

【ワグナリア】


ぽぷら「うーぁー!! や、やめてよー!!」


佐藤「黙れ」ワシャワシャ


相馬「はは、やっぱり2人は仲良しだねぇ」ニヤニヤ


佐藤「……」バキッ


相馬「……ひ、肘打ちはキツいよ、佐藤く……ん」ガクッ


朋也「(……仕事してくれ)」


数日が経った。
種島の風邪は治り、店の忙しさも落ち着いてきている。

夏休みまでの期間は、平和な時期が続くらしい。


ぽぷら「朋也くん~、たすけてぇ~」ビェー


朋也「……」プイッ


ぽぷら「!? む、無視しないでぇぇ!」


――――――

【帰り道】


ぽぷら「……」ブスー


朋也「面白い顔だな」


ぽぷら「う~! 朋也くんのせいで髪がぼさぼさになっちゃったんだからぁ~!」


朋也「俺のせいじゃないだろ」


ぽぷら「普通は助けるもん!」


朋也「へぇ」


ぽぷら「も~……。 朋也くん、いじわるだよ……」


朋也「嫌いになったのか?」


ぽぷら「……そういうとこも、いじわる」ギュ


温かい。
種島の体温が手に伝わってくる。
手のひらごしに伝わってくる柔らかな感覚は、女子特有なのか、とも思う。



ぽぷら「ふぅ~、あったかいね」


朋也「一応、生きてるしな」


ぽぷら「一応って何!?」


朋也「……わからん」


ぽぷら「適当に喋り過ぎだよっ」


朋也「ちんちくりん相手だからな」


ぽぷら「え? ちんちくりんって?」


朋也「さぁ」


ぽぷら「……! ……あ~、また私のことバカにした~!」


朋也「冗談だよ、冗談」


ぽぷら「もぅ……。 ひどいなぁ、朋也くんは」



朋也「悪いな、そういう性格なんだよ」


ぽぷら「……別に悪くないよ。 朋也くんは、朋也くんだもん」


朋也「なんだそれ」


ぽぷら「えへへっ、わかんないっ」


朋也「……お前も適当に喋ってるじゃないか」


ぽぷら「……あ。 そーいえばそうだねっ!」ハッ


朋也「ぷっ」


ぽぷら「あはっ」


女子と2人で帰り道で笑い合う。
数ヶ月前までの俺だったら考えられないことだ。


朋也「ほら」


ぽぷら「ありがと」


朋也「コーヒーの方うまいぞ」


ぽぷら「絶対にや!」


朋也「頑なだな……」


ぽぷら「紅茶の方が甘くておいしいもん」パキッ


ぽぷら「んっ、んっ……。 ぷは、あったかーい!」


朋也「もし温かくなかったら自動販売機の詐欺だからな」


ぽぷら「ほら、朋也くんも!」


朋也「いや、俺は」


ぽぷら「んっ!」ズイッ


朋也「……。 ……っ」ゴクッ


ぽぷら「どう?」


朋也「……不味くない」


ぽぷら「そこはおいしいって正直に言うの!」



ぽぷら「……えへへ~」ニヤニヤ


朋也「」プニッ


ぽぷら「?!」


朋也「何笑ってんだ……」プニプニ


ぽぷら「ひゃ、ひゃめひぇひょ~」ワタワタ


朋也「まったく」パッ


ぽぷら「ほっぺた痛い……」


朋也「変な笑みを浮かべるからだ」


ぽぷら「だ、だって……その」


ぽぷら「間接キスだなぁ、って思って……」


朋也「……はぁ」


ぽぷら「あーっ! 何でため息つくのー!」


朋也「何から何まで小学生みたいな奴だな」


ぽぷら「ぶぅ~。 何それ~! ……?」


朋也「……」


ぽぷら「どしたの? 朋也くん。 顔抑えちゃって」ヒョコッ


朋也「こっちに来るな」


ぽぷら「……はは~ん、さては朋也くん、顔が赤くなってるね~?」


女子は、何故かこういう時だけ勘が鋭い。
種島は特に。


朋也「うるさい」


ぽぷら「はっはっはー。 朋也くん、ウブですね~」


朋也「……」


佐藤の気持ちがわかった気がする。
このしたり顔は確かにけしかけたくなる。


朋也「……ったく」


ぽぷら「……あれ? 怒った?」


朋也「……」


ぽぷら「あ、あわわ……。 ご、ごめんなさい~」


朋也「別に怒ってねぇよ……」


ぽぷら「何か声が怒ってるよ……」


朋也「怒ってないっての」ピシッ


ぽぷら「あうっ」



朋也「それじゃ、今日も遅くなったしこの辺にしとくか」


ぽぷら「う、うん! ……えっと、じゃあ、そのぉ……最後に……」


ぽぷら「んー!」


朋也「何だ? デコピンしてほしいのか」


ぽぷら「ち、違うよぉ!! さ、最後にその……」


ぽぷら「………………き、キスしたいな、なんて……」


朋也「……」


朋也「……そうだな、それじゃあもう一回目を瞑れ」


ぽぷら「っ!」パァァ


ぽぷら「んっ!」



ぽぷら「……」


ぽぷら「…………あれ?」


ぽぷら「……朋也くんは? ……!」ブー!ブー!


ぽぷら「……」パカッ



From:朋也くん
Sub:

『気をつけて帰れよ』





ぽぷら「や、やっぱり怒ってるじゃん~!」ガビーン


【学校】


春原「なぁなぁ、お前にさ、この前パン奢ったよな?」


朋也「いつのことだ」


春原「あの恩を今僕に返す気にはならない?」


朋也「おう」バキッ


春原「へぶっ!? 何すんだ!」


朋也「仇を返せって言ったのはお前だろ」


春原「あまのじゃく過ぎるだろ!!」


春原「八千代さんを僕に紹介してよ!」


朋也「……はぁ?」


春原「芽衣のやつがお前んとこで働いてるだろ? それでさ、最近よくうちの寮まで来るんだよ」


朋也「あぁ、そういえば店閉めた後よく……」


春原「深夜に小言を言いに来られる僕の身にもなってみろよ……」


朋也「あぁ……。 深夜に泥水より汚い者を見なきゃいけないなんて芽衣ちゃんが可哀相だな」


春原「お前僕のことそんな風に思ってたの!?」


朋也「……で、それとこれと、何が関係あるんだ?」


春原「ん? あ、あぁ。 芽衣のやつさ、よく言うんだよ。 『しっかりした人がお兄ちゃんの側についててくれればいいんだけど……』ってね」


朋也「しっかりした人、ねぇ」


春原「そこで! 思いついたのは八千代さんってわけ!! ほら、八千代さん人が良さそうだし、働き者だろ? まさに『しっかり者』だよ!」


春原にしては答えは間違っていない。


春原「それに、やっぱり可愛いしね!!」


やっぱり邪な考えだった!


朋也「……まぁ、紹介するくらいなら」


春原「え? マジ?! やーりぃ!」


朋也「紹介するだけだぞ。 いきなり彼女になる、とか飛躍した考えを持つなよ?」


春原「……」


春原「……それなんだけど。 そこは相談があってさ」


朋也「……?」


数日後



【ワグナリア】


[深夜]


朋也「お疲れ」


芽衣「あ、岡崎さん。 お疲れさまです」ペコリ


朋也「最近頑張ってるな。 ……あんまり無理するなよ?」


芽衣「はいっ! 無理してなんてないですけど……。 ありがとうございます!」


佐藤「それじゃ、お先」カチャ


芽衣「あ、お疲れさまです~!」


朋也「……そろそろか」


芽衣「……ふぇ?」



カチャッ




春原「よっ」


朋也「……」


芽衣「えぇっ!? お兄ちゃん!? な、何でここに!?」


春原「……いやぁ、お前に黙ってたことがあったから、その報告にね」


芽衣「……報告?」


「どうも~」


芽衣「……!」


八千代「うふ、皆お疲れさま~」


芽衣「や、八千代さん? 今日は非番なんじゃ……」


八千代「うん~。 本当は、そうなんだけど……今日は、ね?」チラッ


春原「あぁ~! そうなんだよ! 実はね! この度、僕はと……じゃなくて、八千代さんと付き合うことになったから!」


芽衣「……」


芽衣「…………えぇぇええええ!?」


朋也「……はぁ」


芽衣「え?え? お、岡崎さん? これ夢ですか?」


朋也「……悪夢だったらどんなにいいことか」


八千代「ごめんね~、言ってあげられなくて。 中々言い出し辛くて~」


芽衣「えっと……ほんとに?」


春原「お、おお! もちろんだとも!! ……ですよね?」


八千代「はいっ。 もちろんですとも~」


芽衣「……」


芽衣「そ、……そっかぁ」


春原「はっはっは! ま、これで芽衣も安心して帰れるだろ?」


芽衣「……そうだね!」



八千代「(……)」


春原「……そ、そうだとも! これで安心してお前は家に――」


芽衣「……って言うと思いましたか?」


春原「……へ?」


芽衣「幾ら私でも信用できませんよ。 何にも接点のなかったお兄ちゃんと八千代さんがいきなり付き合うだなんて」


朋也「(そりゃそうだよな)」


春原「うぐっ」


芽衣「…………でも」


芽衣「いきなり嘘だって断定するのも、いけませんよね」


春原「……?」


芽衣「1回でいいです。 今度お2人でデートしてください」


芽衣「……私は、ちょっとだけ覗かせてもらいますから。 それで信用するかしないかは、決めます」


春原「で、デートだとぉ!?」


春原「そ、そんなこと、いきなり……!」


八千代「……そうねー、陽平さん、それじゃ今度一緒に遊びにいきましょうか~」ヒシッ


春原「!?」


八千代「……」コクッ


春原「……! ……は、はい! そうしましょうか~!!! でへ、でへへへ(お、おっぱいが――)」




バキンッ




春原「ひぃっ!?」ビクッ


芽衣「い、今の何の音……!?」


朋也「……犬が壁にでもぶつかったんだろ」


芽衣「い、犬ですか……!?」












佐藤「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

お久しぶりです。
前回は途中で落ちてしまって申し訳ございません。
1年経っちゃいましたねぇ……汗

本当は一ヶ月以内には完成する筈だったのに……。
全ては私の計画性のなさのせいですね汗


更新は書き溜め→更新→書き溜めでいきますので、今日みたいなペースで一気にどばっと行きたいと思います。


そして、いきなりアホな報告なのですが次の水曜よりカンボジアにしばらく行く事になってしまいました。
申し訳ございません。。。向こうのネット環境がどうかはわかりませんが、とりあえず更新できなかったとしても書き溜めだけはして来ようと思います。


それでは、長々と失礼しました。
クラナドスレ、私がいない間に結構たってるようなのでじっくり拝見しにいかなくては……ジュルリ


その後

【自販機前】


朋也「……」


春原「……」


佐藤「……で、」


佐藤「あれは本当に『フリ』なんだろうな?」ギロッ


春原「は、はいぃ! もちろんですとも!」


朋也「……」


春原「(ちょ、ちょっと何なのこの人!? めっちゃ怖いんですけど!?)」ヒソヒソ


朋也「(……まぁ、色々あるんだよ)」


春原「(色々って何だよ!?)」ガビーン


春原「と、とりあえず。 僕は妹を返さないと安穏な生活が送れないんですよ。 だから、八千代さんに協力してもらって……」


佐藤「……」ジュボ


佐藤「…………ふぅ。 ……なるほどな。 なるほど、わかった」


春原「そ、そうですか」ホッ


佐藤「ただ……」ガチッ


春原「!?」ビクッ


佐藤「本当に轟に頼んだのはそれだけ、か?」ギュゥゥ


春原「ひぃいいい!? いだ、いだだだだ! 肩がもげる!!」


春原「もちろんそうです、そうですって!!」バタバタ


朋也「(捕まった猫みたいだな)」


佐藤「……はあ」パッ


春原「はぁ……はぁ」ゼーハー


佐藤「芽衣を安心させる為に、彼女になったフリか。 たしかに俺も少し気にかけてたところだ」


朋也「アンタが? 芽衣ちゃんを?」


佐藤「何だよ。 流石に俺だって中学生が白昼堂々と働いてたら違和感くらい持つさ」


佐藤「……ただ、あの仕事ぶりと礼儀正しさには中学生らしさなんて一切ないけどな」


朋也「たしかに……」


春原「そうかぁ? ただのガキんちょだろ」


お前に言われたら全てがおしまいである。


【通学路】


[翌日]


朋也「あぁ。 ……俺にもよくわからんが、そういうことになった。 だから、とりあえず今は演技を頼む」


ぽぷら『うんっ! わかった! 私も2人が付き合ってることを知ってるふりをしてればいいんだよね?』


朋也「あぁ。 ……悪いな、こんな馬鹿なことに付き合わせて」


ぽぷら『そんなことないよ! でも、春原くん偉いね! 芽衣ちゃんのこと、考えてあげてのことだもんね!』


朋也「本音はどーだか……」


ぽぷら『こら~、そこは信じてあげないと!』


朋也「何でだよ」


ぽぷら『親友でしょ!』


朋也「……ははは、面白い冗談だな」


ぽぷら『えぇ!?』


【学校】


智代「岡崎」


朋也「ん」


智代「藤村さんがどこにいるかわかるか?」


朋也「さぁ」


智代「考えもせずに言うやつがあるか……」


朋也「知らないものは知らない」


智代「……はぁ。 お前に聞いた私がいけなかった」


朋也「そういうことだ」


智代「…………桜祭り、良かったよ」


朋也「!」


智代「私も桜が好きだから。 ……正確には、一部の桜だが。 ……それでも、あのレストランの桜祭りには心が躍ったよ。 ありがとう」


朋也「……俺に礼を言うことじゃないだろ」


智代「私としては店員さんにお礼を言ったまでだ」


朋也「ふーん……」


智代「とことん素っ気ないやつだな……。 ……あ」


椋「……」テクテク


智代「それじゃあ私はこれで。 ……おーい、藤村さん!」


朋也「……」


[昼休み]


春原「そろそろ生徒会選挙かー」


朋也「お前には無縁のイベントだろ」


というか学校の行事のほとんどがこいつには縁遠い。


春原「へへ、そうかな」


朋也「これが褒め言葉に聞こえるだなんて本当に幸せ者だな、お前は」


春原「よせやい、褒めても何も出ないぞ」


朋也「……」


春原「僕はただ、坂上が誰を推薦者に上げるのかと思ってね」


朋也「……坂上?」


春原「あれ? 知らねーの? あいつ生徒会長に立候補するんだってさ」


朋也「何でお前がそんなことを……」


春原「ほら、最近アイツ3年の教室に来てるだろ? あれ、推薦者を探しに来てるんだって」


朋也「……推薦者」


春原「推薦者を立てないと選挙に出れないとか、面倒くさいよなー。 よくやるよ本当に」


春原「まっ、3年の所に来ても僕を見たら一目散に逃げていくし、生徒会長の器なんて到底ないと思うけどね」


朋也「(それは無視されているだけだ)」


朋也「……ところで、お前、八千代さんのことはどうなってるんだ」


春原「へ、どうって?」


朋也「演技とは言え、2人で出かけるからにはそれなりに準備が必要だろ」


春原「……あ、あああああ!それね! うん、もちろん準備してるさ! あは、あははははは」


朋也「お前……」


春原「な、何だよ。 大丈夫だって! 僕の手にかかれば、女の子を落とすプランなんてちょちょいのちょいだって!」


朋也「もし変なことでもしたら佐藤が黙っていないだろうがな」


春原「……」ブルッ


朋也「……せいぜい頑張れ」


春原「……な、なぁ岡崎? お前の良心が少しでも残ってるなら……。 ぜひ僕の手伝いを……」


朋也「断る」


春原「その返答は予想ついてましたよぉ……」シクシク…


【ワグナリア】

[休憩時間]


山田「ねぇねぇ、岡崎さん」


朋也「?」


山田「春原さんって、どーいう人なんですか」


朋也「何だいきなり」


山田「芽衣ちゃんのお兄様だから、きっと素敵な方なんでしょう……」キラキラ


朋也「一言で表すなら、お前みたいな奴だよ」


山田「人間的な魅力が溢れてる方なんですね!!」


春原の本来の妹はコイツなんじゃないか。


山田「あのぉ、それで。 芽衣ちゃん、帰っちゃうんですか?」


朋也「……知ってるのか」


山田「佐藤さんに聞きました。 ……山田、芽衣ちゃんがいなくなるの、寂しいです」


朋也「……」


山田「……しょうがないことは分かってるんですけど」


朋也「お前でも、そんな顔するんだな」


山田「な! 山田、心外です! 山田は元々感情表現豊かな女の子です!」


朋也「……芽衣ちゃんが帰るまで、そんな顔してていいのか?」


山田「……!」


朋也「芽衣ちゃんは学校を休んでこっち来てるんだよ。 いつまでもこっちにいるわけにはいかない」


朋也「お前が本当に友達だと思ってるなら、芽衣ちゃんの前でそんな顔するな。 アホみたいな顔をしてろ」



山田「……はい。 ……でも、最後のは余計です! 聡明な私の顔をばかにしていました!」


朋也「はいはい……。 ……ほら、そろそろ休憩上がりだろお前」


山田「はぅ!? あ、ほ、本当です! また小鳥遊さんたちに怒られるのはいやです! それでは、お先に行きます!」


朋也「(やれやれ……)」


山田「……あ、岡崎さん」ヒョコ


朋也「まだ何かあるのか」


山田「ありがとうございました!」


朋也「!」


佐藤「そろそろ上がりだろー。 早く戻って来い」


山田「あ、はい! すぐ行きます! それでは、山田はここで!」シュビッ


朋也「(……)」

あー。
生存報告です…。

研究やら、就活やらで、更新全く出来てないですね。
遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
4月からはきっと……!
とりあえず、報告でした。
書き溜めはありますので暇を見つけて50レス分くらいは投下します。
お待たせしてしまい申し訳ございません。


【帰路】



ぽぷら「い~~ひゃ~~い~~よ~~」パタパタ


朋也「痛いようにやってるんだから当然だろ」パッ


ぽぷら「う~……。 ほっぺがじんじんするよ……」


朋也「お前が変なこと言うからだ」


ぽぷら「朋也くんは優しいねって言っただけじゃん!」


朋也「それが変なことと言うんだ」


ぽぷら「本当のことだもん!」


朋也「そうか」スッ


ぽぷら「!?」ババッ


朋也「(……面白い)」


ぽぷら「私で遊ばないでよ!」


朋也「そんなつもりはなかった(最初は)」


ぽぷら「……う~……。 芽衣ちゃんと春原くんのために色んなことやってあげてるから言っただけなのにぃ……」


朋也「芽衣ちゃんのため、だけだ」


ぽぷら「素直じゃないなぁ……」


朋也「……」スッ


ぽぷら「!」ババッ

朋也「お前の方はどうなんだ」


ぽぷら「ほえ? 何が?」


朋也「体調だよ。 病み上がりなのに結構シフト入ってるだろ」


ぽぷら「それなら平気だよっ! 私ったら強い子だからね!」


朋也「 無理して働いてまた倒れたら面倒なことになるんだよ」


ぽぷら「平気だってば!! こんなにピンピンしてるよ!」ピョンピョン


朋也「……どーだか」


ぽぷら「……むー、どうやったら信じてくれるのさー」


朋也「さぁ」


ぽぷら「いっつもいっつも『さぁ』ってとぼけるのはダメ!」


朋也「じゃあどうしたらいいんだ……」


ぽぷら「こっちが言いたいよ……。 ……もう、ほら!おでこ触ってみてよ! 熱なんて全くないんだから!」


朋也「あぁ」ピトッ


ぽぷら「!?」




ぽぷら「お、おでことおでこじゃなくても……。 手で……、その……」


朋也「……じっとしてろ。 分からなくなる」


ぽぷら「あう……(と、朋也くんの顔が近いぃ……)」


朋也「……」


ぽぷら「……うぅ(……! で、でもこれはチャンスかも!)」


朋也「…………」


ぽぷら「(……えいっ!)」スッ


朋也「……」」パッ


ぽぷら「!?」スカッ


朋也「から元気じゃないならいい。 行こうぜ」


ぽぷら「……」ワナワナ


朋也「……どうした?」


ぽぷら「……。 もう知らない! 朋也くんのばかっ!」ツカツカ


朋也「……?」


【ワグナリア】


小鳥遊「芽衣ちゃんがいなくなってしまうなんて……」ズーン


小鳥遊「あんなに可愛かったのに……」


朋也「(気色わる……)」


ぽぷら「まぁまぁ、かたなしくん! 一生会えなくなるわけじゃないんだよ~!」


小鳥遊「せ、先輩……」


相馬「そうだよ小鳥遊くん。 ここはパーっと送り出してあげないとー」ニコニコ


佐藤「嬉しそうだな」

小鳥遊「そういえば。 春原さんと八千代さんとのデートのことなんですが」


佐藤「デートの『ふり』な?」ギロッ


相馬「ぷっ」クスクス


佐藤「」バキッ


相馬「んご!?」


朋也「(顎に入ったな……)」


小鳥遊「恋人を演じるって、具体的にいつ何ですか?」


小鳥遊「八千代さん、結構シフトに入っていた気がしますけど……。
平日は春原さん?も学校でしょうし」


朋也「(平日休日の概念があいつにあるのかは疑問だがな)」


杏子「おー。 それに関しては心配するな」


小鳥遊「店長?」


ぽぷら「杏子さんだ~! 久しぶりだね~!」


杏子「おー。 しち面倒くせぇ会議が終わったぞ。 祝え」


朋也「相変わらず適当だな」


相馬「ま、まぁそれがいい所でもあるからね……」ヒリヒリ


杏子「あーそうそう。 八千代のことなら心配すんな。 どんな日でも極力都合つけてやるよ」


小鳥遊「いいんですか? 仮にも繁盛してますし、1人抜けたら相当厳しいんじゃ……」


相馬「(『仮にも』って言っちゃったよ)」


杏子「芽衣のやつには色々やってもらったからなぁ」


朋也「(一応、感謝の念とかはあるのか……)」


杏子「……そんなことより、甘いものが食べたい。 くれ」


佐藤「自分で作れ。 それと店の材料を使うな」


杏子「無理」


朋也「(あくまで、『念』だけだろうが……)」



八千代「あ、杏子さん!!」ヒョコッ


杏子「おーおー。 戻ったぞ。 甘いものくれ」


八千代「はい!! ただいま~♪」


小鳥遊「……今日非番ですよね?」


八千代「ん~? なぜか杏子さんに会える気がしたから来ちゃったの~」


佐藤「お前は甘やかし過ぎだ」


八千代「私が好きでやってることだからいいのよ~」


杏子「うむ、そういうことだ」


朋也「アンタが言うなよ」


【朋也宅】



朋也「……」


空気が重い。
いつでもこの家はこうだ。
種島と出会う前も、今も。


直幸「おや……。 朋也くんじゃないか。 今日のアルバイトかな」


朋也「あぁ」


直幸「お疲れさま。 えぇと……。 パスタを買って来たけど、食べるかい?」


朋也「いい。 俺はいつも食べて帰るって言ってるだろ」


直幸「そうだったね……。 それじゃあ」


よその家の人間が来たかのような。
他人行儀で、適当な返答。


朋也「(……変わらない)」


一生変わらない。
俺とあの人は、これからずっと。死ぬまで変わらない。


【公園】


ぽぷら「えへへ、見てみて! ブランコがあるよ!」


朋也「どこにでもあるだろ」


ぽぷら「普通のブランコじゃないんだよっ! チャイルドシートみたいになってるゴージャスなやつだよ!」


朋也「はいはい、お子様は遊んでくればいい」


ぽぷら「なっ!? い、言っただけだよ!! 別に乗りたくなんかないもん!!」


朋也「はいはい」


ぽぷら「ぶ~……! いじわるだなー、もう!」



朋也「……で、他の奴らは?」


ぽぷら「んーと……。 もうそろそろ来ると思うんだけど」


佐藤「うぃっす」


ぽぷら「うわぁっ!?」ビクッ


朋也「うっす」


佐藤「待たせた」


ぽぷら「び、びっくりした……」


相馬「おまたせ~」


ぽぷら「待ってないよ~!」



相馬「いやー。 佐藤くんが行きたくないって駄々こねるから遅くなっちゃったよ~」


佐藤「……」


朋也「行きたくない?」


相馬「いやぁ、ね? 『少しでもアイツと別の男がいるのがイヤなんだ』って――」メキャッ


ぽぷら「!?」


朋也「(2mは飛んだな)」


佐藤「何でもない。 アイツが腹を下してたから待っててやったんだ」


ぽぷら「そ、そうなんだ……」

時間も時間ですので、今日はココまで。
お待たせしてすいません。もう見てくれる方はいなくなってるかもしれませんが、必ず完結させます。
そして、完全版もやります!

とりあえず、就活終わるまでは平にご容赦を…。それでは!おやすみなさいませ!

あと、藤林と言う名字を間違えてしまい申し訳ございませんでした!



佐藤「……それで、轟たちは?」


朋也「15分後が待ち合わせ時刻だと」


相馬「いってててて……。 め、芽衣ちゃんはどうしたんだい?」ジンジン


ぽぷら「それがね、連絡が取れないの……」


佐藤「なんだと?」


ぽぷら「うん……。 さっきから電話してるんだけどね」


佐藤「……なるほど」



相馬「まぁ、きっと寝てるんだよ~。 昨日も遅くまで働いてたみたいだしさ」


相馬「芽衣ちゃんの分まで、僕たちが見極めてあげようね!」ビシッ


朋也「(アンタは見たいだけだろ)」









ぽぷら「あ、誰か来たみたいだよ!」


相馬「皆隠れて! ほらほら!」


佐藤「うざい、触るな」


朋也「やめろ」


相馬「ひどくない!? と、とりあえず隠れようよ!!」


佐藤・朋也「ったく……」


相馬「(怖いんだけどこの人たち……)」


ぽぷら「あはは……」




朋也「……あいつは」


ぽぷら「春原くんだね」


佐藤「あいつ……。 どっかで見たことあるな」


相馬「え、そうなの? 何でなんで? 恋のライバルだから?」


佐藤「死ね」バキッ


相馬「へぶ!? さ、最近容赦なさ過ぎるよ!?」


佐藤「しかるべきことをしてるだけだ」


ぽぷら「ふ、2人とも、静かにー!」



朋也「何だあの格好は」


佐藤「タキシード……?」


朋也「(何を考えてるんだあいつ)」


相馬「ぷ、くく……。 今の時代にあんなの着る子もいるんだね」クスクス


ぽぷら「笑ったら失礼だよー……。 っくす」


知人はおろか、知らない人間からも陰で笑われるとは愚かな人間である。



春原『……』キョロキョロ


春原『……』ソワソワ




朋也「挙動不審過ぎる」


ぽぷら「落ち着かないね」


相馬「面白い子だねえ」


佐藤「……」


ぽぷら「あ、八千代さんだ!」


朋也「!」


佐藤「……!」





八千代「おはようございます、春原くん。 待たせちゃった?」ペコッ


春原「ど、どどどどどどどどうも!! お暑いですね!!!!」


八千代「……あはっ、そうね!もうすぐ夏だもんね!」


春原「だは、だははははははは! そうですね!!」





ぽぷら「何で春原くん、敬語なの?」


朋也「俺が知るかよ……」




春原「そ、それじゃあ、そそそそ、その、行きましゅか!」


八千代「あ、はい~! それじゃ――」



「おはよーございまーす!」



春原「!?」


八千代「あら?」


春原「こ、この声は……」




芽衣「お兄ちゃん、八千代さん、おはようございます!」ペコッ



春原「だはぁっ」ガクッ


八千代「あら、芽衣ちゃん~。 おはよう~」






春原「め、めめめ芽衣!! お前どうしてここに!」


芽衣「……バレないように見てようと思ったんですけど。 やっぱり、私も同行します!」


春原「同行します!って、お前なぁ」


芽衣「お兄ちゃんに八千代さんを任せるのは不安だもん! 何をするか分からないし!」


春原「それにしたって同行って……」


八千代「すの……じゃなくて~。 陽平くん? 私は大丈夫よ?」


春原「はひぃぃぃぃぃぃい!!! とどろ……じゃなくて、八千代さんがそういうのならぁぁ」デレデレ


八千代「芽衣ちゃん、今日はよろしくね?」


芽衣「……はい」








佐藤「」ビキビキッ


相馬「(今おちょくるのはヤバい。 今はヤバい)」




春原「それじゃ、早速行きますか」


八千代「は~い」


春原「(どこ行こうかな……)」


芽衣「お兄ちゃん、もうすぐお昼の時間だよ」


春原「うぐっ!? ……そ、そんなことわかってらい!」


春原「八千代さん、僕行きつけのお店があるんですけど、ぜひ行きませんか?」


八千代「えぇ、ぜひ行ってみたいわ~」ニコニコ


春原「はい!! それじゃあまずは、そちらに行きましょう!」


芽衣「(……お兄ちゃんの行きつけぇ?)」








朋也「あ、移動するみたいだぞ」


ぽぷら「そういえばもう、お昼だもんね」


佐藤「……追うぞ」


相馬「(……笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ)」プクク



【食堂前】



春原「ここです!」バン


八千代「おぉ~」


芽衣「(……お兄ちゃん、確かに行きつけだろうけど、デートで……)」


春原「ここのカツ丼は絶品でして!! あ、もちろんサバの味噌煮定食もおいしいですよ!!」


芽衣「お、お兄ちゃん、いくらなんでもここは――」


春原「……あれ」ガチャガチャ


芽衣「?」


春原「……きょ、今日は臨時休業だって……?」


八千代「あら、それなら仕方ないわね~」


芽衣「……」ホッ


芽衣「……お兄ちゃん、一応聞くけど、他にお店とか知ってるの?」


春原「?! も、ももももちろんだとも!!! ほ、他にはね、えーと……、あぁ~と……」


八千代「……そうだ! 陽平くん、1つ提案があるんだけど~」


芽衣「!」


春原「……へ?」




【ワグナリア】


春原「まだ、開店してますけど……。 僕が裏入っていいんスか?」


芽衣「(お兄ちゃん、言葉遣い……!)」


八千代「大丈夫よ~。 春原くん、いつもカツ丼とかばかりじゃ栄養のバランス崩れちゃうし……。 私が栄養のあるもの作ってあげるね!」


芽衣「(ちょ、ちょっと八千代さん!!)」


八千代「(大丈夫よ~、食材費はしっかり置いておくし~)」


芽衣「(そ、そういう問題ですかぁ……?)」


八千代「(そうそう♪ それじゃ、芽衣ちゃんも折角の休みなんだから座ってて!)」


芽衣「(……も~……。 いい人すぎるよぉ……)」


春原「……な、なぁ。 芽衣。」


芽衣「ん?」


春原「……何か、ずっと見られてる気がするんだが」


芽衣「……え?」チラッ






山田「……」ヌッ





芽衣「(葵ちゃん!?)」


春原「……中学生かな? 入り込んじゃってるけどいいの?」


芽衣「あ、あぁ、うん、えぇと……」


春原「ここは、僕が追い出して来ようか?」


芽衣「え!? い、いい! いいから!」


春原「そ、そうか? でも――」


芽衣「あ~お腹空いたね~! 八千代さん、何作ってくれるんだろうね!!」


春原「……?」






山田「……」ジー


山田「(……芽衣ちゃんの、お兄さんですか…………)」




八千代「お待たせ~」パタパタ


春原「おおおお!!!」


芽衣「八千代さん、こんなに作っちゃって……」


八千代「うふふ、ちょっと気合いはいり過ぎちゃったかな?」


春原「(ぼ、僕のため!?)」ドキッ


八千代「さ! 覚めないうちにどんどん食べてね!」


春原「い、いっただきま~す! あぐ、んぐんぐ……。 …………う、うまい!! 何だこの味は!!!」


芽衣「ちょ、ちょっと騒がないでよ~」カァァ


芽衣「(美味しいけど~……)」


八千代「うふふっ。 そう言ってもらえると嬉しいな。 陽平くん、いっぱい食べてね?」


春原「は、はぃぃぃぃぃぃいいいい!!」ドッキーン


芽衣「(も~……。 お兄ちゃんったら……)」パクッ


芽衣「……」モグモグ


芽衣「……おいしっ」ボソッ




春原「げふっ……。 いや~、美味しかったです!」


芽衣「ごちそうさまです」


八千代「お粗末様です♪」


春原「いや~、まさかこんなところで八千代さんの手料理が食べれるなんてなぁ~」


八千代「手料理だなんて……。 有り合わせのものだったのよ?」


八千代「でも、お口にあったようなら良かった!」


芽衣「(うぅ……いい人過ぎる)」


春原「そ、それじゃあ早速でかけましょう!!」ガタッ


八千代「あ、ちょっと待ってね。 後片付けしてくるから!」


春原「そ、そっか。 待ってます!」


芽衣「(……はぁ。 「待ってます!」って……)」


芽衣「あっ、私も手伝います~」パタパタ






【ワグナリア前】


朋也「なぁ、俺たちはもういいんじゃないか」


ぽぷら「え~!? 気になるよ~!」


佐藤「……」


相馬「そうそう! こんな面白……重大なことないよ! しっかり見届けないと」


朋也「……はぁ」


佐藤「なぁ、岡崎」


朋也「ん?」


佐藤「あの春原とか言う男。 ……本当に誰とも付き合ってないのか」


朋也「オレが知ってる限りでは」


佐藤「……そうか」


相馬「(相当心配してるね~……くくっ)」


佐藤「」ギロッ


相馬「!? な、なに!?」


佐藤「……別に」


ぽぷら「あ、出て来たみたいだよ! 隠れて隠れて!」




【ゲームセンター】


芽衣「お兄ちゃん……」


春原「あん?」


芽衣「ほんっとにココがオススメの場所なの!? 考えて来たの!?」


春原「もっちろん! 見ろよこの煌びやかな光!」


芽衣「そりゃそうだよ!! ゲームセンターだもん!」


八千代「まぁまぁ……。 私も、よく杏子さんと行くし。 楽しいよね、ゲームセンター!」


春原「そうなんですよ!! 芽衣はまだお子様だからわからないのさ! 早速入りましょう!」


八千代「は~い♪」


芽衣「……お兄ちゃん…………」





【クレーンゲーム】


春原「くぉの!! ここを……右に……!」


春原「あぁああああ!! 何で取れないんだよこれ! パワーなってないんじゃないの!?」


八千代「まぁまぁ、陽平くん。 ゆっくり遊ぼ?」ナデナデ


春原「は、はひぃぃいいい……」デレデレ









佐藤「……」ポトッ


相馬「佐藤くん、何か落ちたよ……って」


相馬「(2つ折りになった10円玉!?)」


佐藤「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ


相馬「(うわぁ~……)」



【レーシングゲーム】


春原「右ぃ!! 左ぃぃ!! アクセルぅぅ!!! あ、これブレーキだった!!!」


芽衣「お、お兄ちゃん! 他にも遊んでる人いるんだから、静かに!」


春原「こういうのは騒いでなんぼなんだよ!!」


八千代「~♪」ガチャガチャ


春原「え!? 八千代さん1位!?」


八千代「こういうのは得意なの~♪ よくやってるからかしら」


春原「あは、あはは……」


芽衣「……」








ぽぷら「私もあれやりたいなぁ」


朋也「……子ども」ボソッ


ぽぷら「!?」カチン


朋也「……」




【音楽ゲーム】


八千代「えーっと、これはどうやって遊べばいいのかしら?」


春原「リズムに合わせて、ボタンを押すだけですよ!」


春原「ほらほらぁ! こうやって、こう!!」


八千代「え、えーっと……」アタフタ


芽衣「お兄ちゃん! 八千代さん初めてなんだから気を遣ってよ!」


春原「うるさいなぁ、このくらい大丈夫だよ! ね、八千代さん?」


八千代「え、えぇ。 大丈夫よ。 芽衣ちゃん、ありがとね?」


春原「昔から芽衣は口うるさいんですよ~。 あはは」


芽衣「……」ギュッ








朋也「(……芽衣ちゃん)」


佐藤「……」


【広場】


八千代「もう夕日が出てるのね~」


春原「いや~、すっかり夢中になっちゃってすいません」


八千代「いえいえ、大丈夫よ!」


芽衣「(1人で格闘ゲーム始めて、2時間も3時間も待たせるなんて……)」


八千代「陽平くん、ゲームが大好きなのね!」


春原「いや~、最近ずっとやってますから! 慣れっこなんですよ!」


芽衣「(……?)」


芽衣「お、お兄ちゃん、それどういう――」


春原「あ!! そういえば、あそこに美味しいソフトクリーム屋があるんですよ! 僕買ってきますね!!」


芽衣「……あ」


八千代「元気な子ね~」


芽衣「……もう」



>>799


訂正版です。
八千代さんが春原のことを「春原」と呼んでいました。正しくは「陽平」です。申し訳ございません。



【ワグナリア】


春原「まだ、開店してますけど……。 僕が裏入っていいんスか?」


芽衣「(お兄ちゃん、言葉遣い……!)」


八千代「大丈夫よ~。 陽平くん、いつもカツ丼とかばかりじゃ栄養のバランス崩れちゃうし……。 私が栄養のあるもの作ってあげるね!」


芽衣「(ちょ、ちょっと八千代さん!!)」


八千代「(大丈夫よ~、食材費はしっかり置いておくし~)」


芽衣「(そ、そういう問題ですかぁ……?)」


八千代「(そうそう♪ それじゃ、芽衣ちゃんも折角の休みなんだから座ってて!)」


芽衣「(……も~……。 いい人すぎるよぉ……)」


春原「……な、なぁ。 芽衣。」


芽衣「ん?」


春原「……何か、ずっと見られてる気がするんだが」


芽衣「……え?」チラッ






山田「……」ヌッ



【ベンチ】


八千代「あら、ほんとに美味しい! 陽平くん、ありがとうっ」ニコッ


春原「おひょひょひょ!! そ、そんなぁ~」


八千代「ふふっ」


芽衣「……」ペロッ


芽衣「(……八千代さんも、人がいいなぁ)」


芽衣「(……お兄ちゃん、さっきのって……)」


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