亦野誠子「哩賽」 (96)

ちょうど昼前のこと、自宅でくつろいでいた亦野誠子の所に一匹の狸が訪ねてきました。

哩「邪魔するばい」

誠子「ん?お客さんかな?」

誠子「なんだ?声はするけど姿は見えない」

誠子「さては、また宮永先輩のいたずらかな?」

哩「ここばい」

誠子「うわ!何だ狸か、何の用だ?」

哩「恩返しにきたと」


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誠子「恩返し?あぁお前きのう釣り堀で溺れてたのを助けた狸か!」

哩「そや」

誠子「私も色々な魚を釣ってきたけど、まさか釣り堀で狸が釣れるなんてねぇ……」

哩「ばってん、そのせつはお世話になったとよ」

誠子「はぁ、で、そのことの恩返しに……」

哩「あぁ、昨日そのことを新道寺の狸専用SNS『マイッター』に書き込んだら、『すばらです、その方は人間にしておくのは
  もったいないほど出来た方ですね、いっそ狸にしてみれば?』ってリツイートが返って来たと」

誠子「狸の世界にそんなものがあるのか……」

哩「ぜひに恩返しをせねばと思ってきたと」

哩「助けてもらって恩を返さんば、人間にも劣ると」

誠子「さっきから人間の評価がすこぶる低いなぁ……」

哩「気にすることなか」

誠子「はぁ……」

哩「それより、何でも言ってくれて構わんと」

誠子「何でもするってもなぁ……人間の子供ならお使いを頼むなり、掃除をしてもらうなり出来るけど……」

誠子「狸だしなぁ……お使いに出しても相手にされないだろうし、モップにしたって毛が散ってよけい手間がかかるし……」

哩「さあ、何でも言ってくれ」

誠子「釣り餌用のミミズでも取ってきてもらおうかなぁ……いや、昨日買い足したばっかだしなぁ……」

誠子「う~む、困るなぁ」

誠子「そうだ!お前何か化けられないか?」

哩「化ける?あぁ化けるのなら得意ばい」

誠子「ほぅ、例えばどんなのに化けられるんだい?」

哩「ついこないだはお菓子に化けたばい」

誠子「ほうほう」

哩「お菓子に化けて道ばたに転がってると時々食い意地のはった馬鹿が釣れるばい」

哩「こないだなんて、赤くとんがった変な髪型した女が『あれ?こんなところにお菓子が落ちてる……』って言って拾おうと  したから、その手を思いっきり噛み付いてやったばい」

哩「そしたらそいつ『お、お菓子が噛み付いた!てるてる食べられちゃう!』なんて言って一目散に逃げて行ったばい」

誠子「……なにやってんだあの人……」

哩「ん?知り合いか?」

誠子「いや、全然知らない人だ……」

哩「他にも色々化けられるばい」

誠子「ほぅ……ならサイコロにも化けられるのか?」

哩「サイコロ?あぁそれなら得意ばい」

誠子「よし!それなら化けてみてくれ!」

哩「それ!」ぽん!

そういうと、たちどころに狸の姿は消え、そこには大きなサイコロが現れました。

誠子「あぁ、それじゃあ大きすぎるもっと小さく!」

哩「なんや、わがままやの」ぽん!

誠子「もっと、もっと小さく!あぁそれじゃあ小さすぎ!アリより小さいサイコロなんて聞いたことないぞ」

哩「まったく、注文が多いばい」

哩「それ!これでいいか?」ぽん!

誠子「おお!上出来上出来!」

誠子「いまからな仲間のところに博打を打ちに行くからなそれに使おうと思う」

哩「ほう、イカサマしようってわけやな」

誠子「そう、私がうまくやるからお前は言われた通りの数字を出してくれたらいいからな」

哩「わかったばい」

こうして誠子と哩は博打仲間のところへに遊びに行きました。
着いてみると真っ昼間から博打で盛り上がっている様子、これはチャンスと誠子は鷺森灼に声をかけました。

灼「う~ん、今日は誰がやっても胴つぶれしちゃうな……」

フナQ「なんや、今日は厄日やな」

怜「なんか、体の調子が悪くなってきたわ……」こほっこほっ

誠子「お~い!私もまぜてくれないか?」

哩「わかったばい」

こうして誠子と哩は博打仲間のところへに遊びに行きました。
着いてみると真っ昼間から博打で盛り上がっている様子、これはチャンスと誠子は鷺森灼に声をかけました。

灼「う~ん、今日は誰がやっても胴つぶれしちゃうな……」

フナQ「なんや、今日は厄日やな」

怜「なんか、体の調子が悪くなってきたわ……」こほっこほっ

誠子「お~い!私もまぜてくれないか?」

フナQ「お!誠子か、残念やけど今日はもうお開きや」

誠子「そんなことを言わずにさ、頼むよ」

灼「まぁいいけど……」

フナQ「しゃあないな」

誠子「よし!今日は私に胴を取らせてくれないか?」

怜「胴を取らせるといっても……」こほっ

灼「お金は持ってきてるの?」

誠子「ほら有り金全部用意してきてるんだ!」

灼「ふ~ん面白そ……」

誠子「だろ?」

灼「勘違いしないで、お金の問題じゃない亦野さんから有り金全部奪うのが面白そうだと言ってる……」

誠子「む!」

誠子(相変わらずむかつく奴だな……まぁせいぜいたっぷり儲けさせてもらうよ)

怜「ほな、始めるで!」

誠子「ちょっと待ってくれ」

フナQ「どうしたん?」

誠子「そのサイコロ、さっきから胴つぶれが起きて縁起が悪いだろ?」
 
誠子「だから、私が持ってきたこのサイコロを使ってもいいか?」

サイコロ「………」

怜「まぁええよ」

灼「じっ……」

誠子「ちょっと待ってくれ」

フナQ「どうしたん?」

誠子「そのサイコロ、さっきから胴つぶれが起きて縁起が悪いだろ?」
 
誠子「だから、私が持ってきたこのサイコロを使ってもいいか?」

サイコロ「………」

怜「まぁええよ」

灼「じっ……」

誠子「な、なんだ?なにかおかしなところがあるか?」

灼「そのサイコロ触ってもいい?」

誠子「なんだ、疑ってるのか?ほれ!」

サイコロ「………」

灼「なんだか妙に生暖か……」さわさわ…

誠子「そ、それは肌身離さず持ってきたからかな」あせあせ

サイコロ「ぴくっ!……」

灼「!?今なにか動いた!」

誠子「き、気のせいだよ」ダラダラ

灼(もしかして、イカサマ?)

灼「………」ハンマーすちゃ…

誠子「おいおい何する気だよ…」

灼「えい!」ガシャーン!!

誠子「うわわ!!私のサイコロが!!」

灼「あれ?何も無い……」

誠子「うぅ、私のサイコロが……」シクシク

灼「ごめ…あとで弁償する…」

フナQ「しゃーないから元のサイコロでやりましょ」

誠子(よし!上手くいったな……)

誠子(さっき壊されたのはあらかじめ用意してた別のサイコロ、保温機や釣り糸で細工をして怪しく見せただけだ)

誠子(そして今フナQが手に持ってるのこそ私の用意した哩賽!)

フナQ「ほれ、誠子これやで」

誠子「ああ、ありがとう」

怜「ほな、改めて始めるで!」こほっ

こうして誠子の策が上手く行き、元のサイコロと哩賽をすり替えることができました。

誠子「よし!この丼でサイコロをまわして……」

誠子「えい!さぁ!張ってくれ!」

灼「私は6と3に…」

フナQ「じゃあ5に張るで」

怜「うちは4と2や」こほっ

誠子「なんだ?1は誰も張らないのか?」

フナQ「1はさっきから一回もでてへんのよ」

誠子「これは助かるなぁ……」

灼「なに?助かるって?」

誠子「い、いやあこっちの話……よし!一だぞ!」

そう言って誠子が丼からサイコロを出すと、見事に1の目が出てきました。

フナQ「うわわ、本日初の1の目が出たわ」

誠子「いや~儲かっちゃったな~」

灼「くっ……煩わし…」

フナQ「あかんな……」

怜「取られてもうたわ」こほっ

誠子「はは、勝負は時の運、こういう時もあるんだなぁ」

フナQ「ええから次や!」

誠子「さて!勝負!」どん!

フナQ「くっ今度は取り返すで!1と3や」

灼「よし私も1と4に」

怜「うちは5と6にしとこか…」こほっ

誠子「今度は2か……よし2だ!2!」

サイコロ「………」ころっ

誠子「お!2だ!いや~まいったなぁ」

灼「くやし……」わなわな

怜「………」こほっこほっ

フナQ「じっ……」

誠子「よし、続けて行くぞ!」

灼「くっ………2と3!」

フナQ「今度こそ…4と6!」

怜「3と1や………」こほっ

誠子「5は誰も張らないのか?よし次は……」

灼「ちょっと待った!」

誠子「ど、どうしたんだ?」

灼「さっきから、誠子が言った目ばかり出て面白くな…」

灼「その1とか2とか、言うのやめて…」

誠子「そ、そんなぁ言わないと調子が……」

灼「ぎろっ」

誠子「わ、わかったよ、数字を言わなきゃいいんだろ?」

誠子「そ、そうだ!天神様だ!天神様頼むよ!」

サイコロ「………」ころっ

灼「な……!5が出た……」

誠子「へへ、悪いねぇ~」

哩賽(言われた通りこっそり忍ばせておいたサイコロと入れ替わったばい)

誠子(上手くいったぞ哩、フナQ)

誠子(2回も続けて叫んだ通りの目を出せばさすがに怪しまれる……)

フナQ(やから、私は誠子と事前に取り分半分の約束でイカサマの打ち合わせをしてたんや)

フナQ(3回目でフナQ特性シゴロ賽と入れ替える…!)

誠子(そう…この4と5と6の目しか出ないシゴロ賽と哩賽を組み合わせて…!)

フナQ(怜と灼から根金際しゃぶりつくしたるで…!)

誠子(さ、またシゴロ賽と哩賽を入れ替えて……)

誠子「よし!最後のひと勝負だ!」

灼「くそっ!次は4と5!」

フナQ「そんじゃあ1にでもかけるか」

怜「わたしはここで大勝負にでるわ」どん!

フナQ「お!そんなにええんか?悪いなぁ」

怜「?なにが悪いんや?」

フナQ「い、いやぁ別に……」あせあせ

怜「よし……6や6に有り金全部賭けるで!」こほっこほっ

誠子「よし!勝負!」こん!

そういうと誠子はサイコロの入った丼を小突いて合図を出しました。

哩賽(お!合図か1やな……)

哩賽「!?」ビビクン!

哩賽「な、なんや…突然体に衝撃が走って…//」びくっ…

誠子「それ!」

なんと誠子が丼を取ればそこには妙に色っぽくなったサイコロが6の目を出して果てていました。

フナQ「あわわ!」

誠子「そんな…!こんな理不尽が…!」わなわな

怜「やったわぁ、最後の最後で大勝ちやで」

灼「くっ…煩わし…!煩わし…!」ぶるぶる

誠子「くう、最後の最後で儲けた分全部取られた!」

フナQ「ウチの有り金が……」

こうして博打で大負けしたフナQと誠子、灼はとぼとぼと帰って行きました。

丼「………」

怜「もうええで!」

丼?「ふぅ~疲れたばい」

姫子「いやあ、助けてもらったお礼ができてよかったと」ぽん!

怜「まさか、あの時助けた狸の姫子が恩返しにきてくれるなんてなぁ」

姫子「私がサイコロを回す丼に化ける」

姫子「そして怜が一回咳をしたらなにもせん、2回で6の目を出るようサイコロに細工する……」

怜「せや、ここぞという時に6に大金賭けたら儲かるって寸法や」

姫子「ほんまうまくいったばい」

怜「あぁ、『狸を使ったイカサマ』なんて誰も思いつへんやろうしな」

カン!

短いのをば一席

衣「鶴賀のさんま」

ここは長野のさるお屋敷、ここにはある龍門淵のお嬢様とその従姉が住んでおりました。
さて、お嬢様である龍門渕透華の従姉、天江衣は麻雀は得意でしたが、なにぶん箱入り娘だったため、少々常識知らずな所がありました。

衣「純!このハンバーグ大層美味であるぞ」

純「あぁ、タネからこだわって作ったからな」

衣「たね?それにこだわれば滅法素敵なハンバーグが出来るのか?」

純「あぁ、それだけじゃないけどな、『タネ』は大事だぜ」

衣「なるほど、ならば衣が良きものを知ってるぞ」

純「どうするんだ?」

衣「今とってくる、待ってて」

純「どうするんだ、あいつ?」

「キャーー!!何しますの、衣!?」

純「なんだ?なんだ?」

衣「とってきたぞ、それ」どさー

渕の字間違えた

純「うわわ、それ透華の使ってるパッドじゃねえか」

衣「ふふん♪衣は物知りだからな、タネがなんなのか知っておるぞ」

衣「一が言っておったぞ、マジックのように無いものをあると見せかけたりするときに使う仕掛けのようものがタネだと」

衣「つまり、このパッドは胸の無い透華があるようにみせるための『タネ』なのだ」

また、ある日のこと……

「ふんふん♪俺はおもちのある女~♫ 鹿児島通いの絶壁症~♪ おもちはしびれて感電死~♪」るんるん♪

「やっぱりおもちは霞さんのに限りますのだ」るんるん♪

衣「ほぅ……」

衣「おい、ハギヨシ」

ハギヨシ「は!どうなされましたか?」

衣「今日のおやつだがな……」

ハギヨシ「本日のおやつは、お餅を用意してまいりました」

ハギヨシ「はて、今日の餅米は北海道産の最高級の物を使っておりますが……」

衣「なんだ、あのハギヨシでさえ分からぬのか、闕望したな」

ハギヨシ「申し訳ございません、出来れば私めにご教授お伺いしたいのですが」

衣「おもちは『カスミ産』に決まっておるであろう!」

こんな具合に、時々常識外れな突飛なことを言い出すので周りのメイドや執事は困り果ててしまいました。

そんなある日のこと、透華と衣達はお供のメイドを連れてピクニックに出かけました。

衣「おーい、はじめ!智紀!純!あの樹の下まで競争しよう!!」

一「ふ~ん、いいね」

衣「遠慮は要らぬぞ、本気で参れ」

純「よし!ウォーミングアップには丁度良いな」

智紀「しんどい……」

衣「それでは透華、合図を頼む」

透華「わかりましたわ、それではいきますわよ」

一(衣には悪いけど本気で走らせてもらおうと♫)

純(へへん、ギア上げていこうかな)

透華「よ~い、どん!」

衣「それ!」てくてく

一(まぁ衣は相手にならないかな……ん?)チョンチョン
 
透華(はじめ、わかってますわよね?)ヒソヒソ

一(え~そんな~)

純(わりぃな、この勝負いただき……)チョンチョン

透華(純も、もし衣を抜かしたら……)ヒソヒソ

純(はいはい、わかってますよお嬢様……)

衣「えっほ!えっほ!」てくてく

一「うわーころもはやいなー」とぼとぼ

純「こりゃーおいつけねー」とことこ

衣「それ!うわーい!衣が一番乗りだ!」

透華「やりましたわね!衣!」

一「うわーすごいー」

純「やれやれ、本当疲れたな」

智紀「なんにも言われなかった……」

衣「…」ぐ~う

衣「うぅ、お腹が減ったぞ……」

透華「それじゃ、お昼にしましょう」

一「ボクもうお腹ぺこぺこだよ」

智紀「私はネトゲさえあれば2、3日食べなくても平気……」

透華「そんなの智紀だけですわ……」

純「よし、それじゃあお昼にしようぜ」

そうして井上純がちょうど木陰の所へ、シートとお弁当を広げました。
そんな時、なにやら言い争う二人がやってきました。

初美「何がおもちだ馬鹿め!一生一人でほざくですよー」ヤイヤイ

玄「まだまだやっぱり煎餅なのだ、全然全く解ってないですのだ。
  なんて言ったらわかるのかなぁ」ヤイヤイ

玄「どんなに霞っぱいが素晴らしいかを!!」クワッ!

透華「な、なんの騒ぎですの」

一「なんだか穏やかじゃないね」

初美「うるせぇーぼけドラ おもち魔人 アホチャー!」

玄「ちゃんと着やがれこの痴女巫女!」

初美「お前こそ、とっとと帰ってメシでも食べて、姉のおもちでも吸ってろですよー」

玄「そいつは名案!気がつかなかった、早速帰ってやってみようと!」

玄「おねーちゃんのおもちで夜通しフィーバ!その後綺麗に食べちゃおう(性的な意味で)」

透華「あぁ~うるさいですわ!!」

一通り言い争うと二人は帰っていきました。

透華「な、なんなんですの……あの二人は……」

純「ずいぶん暴れて行ったな、せっかく良い場所なのにむちゃくちゃだ」

智紀「お弁当が二人のせいでぐちゃぐちゃ……」

一「あれ?衣は?」

透華「!?衣!衣どこですの!?衣!!」

純「さっきの騒ぎではぐれちゃったんだ」

透華「一!純!智紀!手分けして探しますわよ!」

一「うん!まだ遠くにいってないと思うから、とにかくこの辺から探そう!」

透華「衣!衣!何処行きましたの!」うわ~ん!

一方、ここは鶴賀のとある小民家
ここには貧乏な夫婦が仲睦まじく暮らしておりました。

蒲原「わはは、ごめんな佳織。私が売れないお笑い芸人なんかやってるばっかりに……」

佳織「いいの、私は夢を追いかける智美ちゃんがすきだから……」

蒲原「わはは……そんなこといったって、芸人としての給料は雀の涙……」

蒲原「生活費は佳織のパートのお給料と、私の母が不正受給してる生活保護のおこぼれだけだぞ……」

佳織「うん、本当に少ないけど二人でなんとかやりくりして頑張ろ……」

蒲原「わはは、それもそうだな……」

佳織「そうだよ!」

蒲原「よし!それじゃあちょっくら営業に行ってくるぞ」

衣「うぅ、あの二人の迫力に気圧されて透華達とはぐれてしまったぞ……」

衣「………」ぐぅ~う

衣「うわ~ん!透華!おなか空いたよ~!」

蒲原「わはは、久しぶりにパチンコで大勝ちしたぞ、やっぱりCR咲-saki-は最高だな~」

蒲原「勝ったお金で七輪と墨とさんまを買ったぞ、きっと佳織も喜ぶな」

衣「うわ~ん!透華!」びぇ~ん!

蒲原「ん?なんだ?子供が泣いてるぞ」

衣「こどもではない!衣だ!」

蒲原「うわ!なんだお前!」

衣「お前ではない!衣だ!」

衣「一体ここはどこなのだ?」

蒲原「わはは、ここは鶴賀のとある市内だぞ」

衣「………」ぐぅ~う

蒲原「わはは、お腹空いてるのか?」

衣「うぅ……恥ずかしながら……」

蒲原「よし!それじゃウチにこい、さんまごちそうしてやるからな」

衣「さんま?麻雀は食べられないぞ?」

蒲原「わはは、そのさんまじゃないぞ、まぁいいやとにかくうちへレッツゴーだ」

こうして衣はこの夫婦の家へ御呼ばれすることになりました。

佳織「またこんなもの買ってきて……」

蒲原「七輪で焼くさんまもなかなかおつなもんだぞ」

佳織「どうせまたお母さんの生活保護費でパチンコ打ってきたんでしょ……」

蒲原「わはは、人が生活保護費で何しようが勝手だぞ」

佳織「まぁいいか、それじゃあご飯の用意するね」

衣「わくわく」♫

そうして、衣の前にはかけた皿にのった黒こげのさんまが出てきました。
魚料理と言えばムニエルやフライにしたものしか、見たこともない衣にとって、それは大層不可思議なものでした。

衣「どうやって食すのだ?」つんつん

蒲原「こうやって箸をつかってだな……」

衣「ほぅこうやって、ぱく!美味だ!滅法美味だ!」

佳織「それはよかったね」ニコニコ

衣「旨い!旨い!」もぐもぐ

佳織「そんなに美味しかったのなら私のも食べる?」

衣「いいのか?」

佳織「うん、私はもう十分だし、衣ちゃんお腹空いてるんでしょ?いっぱい食べなよ」

衣「わーい、ありがとう」もぐもぐ

蒲原「わはは、私のも食べかけでよかったら食うか?」

衣「智美まで、いいのか?」

蒲原「あぁ、こんなに喜んでもらえるなんて、さんまも本望だな」

衣「わーい、ありがとう」むしゃむしゃ

こうしてとうとう衣はさんま三尾を平らげてしまいました。

衣「うむ、満足だ」

蒲原「それはよかった、それじゃああんまり暗くならないうちにお母さんの元へお帰り」

衣「もう!だから衣をこどもあつかいするな!」

佳織「あれ?もしかして衣ちゃんのお友達じゃ……」

衣「およ?本当だ、おーい!透華!はじめ!」

蒲原「わはは、よかったな」

衣「お!そうだ、御馳走になった礼をしなくてはな」

佳織「お礼なんていいよ」

衣「大層世話になったからな、これでどうだ?」

蒲原「ひぃふぅみぃ…わは、さんま三尾が3万円に化けたぞ」

佳織「こ、こんなにもらえないよ!」

衣「いいや、とっておけ、なにせ衣の命の恩人だからな」

衣「それではそろそろ衣は透華のもとへ向かうとしよう、二人とも世話になったな」

佳織「うん、またおいでね」

蒲原「また、さんま食べたくなったらいつでもくるんだぞ」

衣「うん、バイバイ」ふりふり

こうして無事、衣は透華達と合流することが出来ました。
しかし、衣は鶴賀のあの家で食べたさんまの味が忘れられませんでした。

それから数日後の衣の誕生日……

透華・一・純・智紀「ころたんイェイ~」

衣「わー」

透華「衣おめでとう!何かほしいものはありませんか?」

衣「う~ん、そうだな~」

衣「衣と一緒に麻雀を打っても壊れない人も無理だし……」

純「なんでも言っていいんだぜ」

智紀「新しいパソコンとか、課金アイテムとか……」

衣「そうだ!さんま!さんまが食べたい!」

一「さんま?なんでそんな物……」

衣「いいから、さんま!」

純「まぁそんなものならいくらでも用意出来るけど……」

透華「ハギヨシ!すぐに銚子港の魚市場まで行って一番上等なさんまを買ってきなさい!」

ハギヨシ「は!」しゅ!

衣「わくわく」♫

そうしてハギヨシが買ってきたさんまを純が調理することになりました。

純「さんまなんて適当に七輪で焼いたらいいだけだろ」

透華「ちょっと!純!こんな脂っこいもの衣には食べさせられませんわ!」

純「へいへい、蒸し焼きにして油をちゃんと落としますよ……」

純「あぁ~ぐずぐずになっちまった……」

透華「ちょうど良かったじゃありませんか、小骨を抜いて衣の好きなハンバーグにしなさい」

純「ハンバーグか……それにしてもこれじゃ、ただのくず殻じゃねぇか」

衣「どきどき」♪

透華「衣!さんまが出来ましたわよ」

衣「わーい!さんまだ!」

しかし、出てきたそれは衣があの時食べたさんまとはだいぶ違ってました。

衣「およ?これ本当にさんまか?」

透華「えぇ、ハギヨシに言って最高級のものを用意させましたわ」

衣「うむ、確かにさんまの匂いはするな」

衣「いただきます!ぱく!」もぐもぐ

純「どうだ?味のほうは?」

衣「うえ!まずい!なんだこれは!」

透華「そ、そんなはずは」おろおろ

衣「一体どこで採れたさんまなのだ……」

透華「どこって銚子で採れた新鮮な……」

衣「ははん!解ったぞ、透華はお嬢様だからさんまはどこのが一番か知らないんだな?」

衣「さんまはやっぱり鶴賀が一番だ!!」

カン!

尭深「豆腐…煮えやしたぜ……。」菫「……あぁ。」

尭深「豆腐は木綿を使う……。」

尭深「ぐつぐつに煮ても崩れくく、食いでもあるからな……。」

尭深「次にボールに冷水を張り、そこへ豆腐をあけて30分……。」

尭深「こうすることで、豆腐の舌触りが良くなる……。」

尭深「次に水が豊に入った土鍋を用意し、そこへハサミで切り目を入れた昆布を2、3枚しずませ、煮立たせる……。」

尭深「十分に煮立ったら、火を止め新しい昆布を2枚と先ほどの豆腐を入れる……。」

尭深「五分ほどでちょうどいいくらいだ、豆腐の自然の甘さが際立つ……。」

尭深「次は薬味だ、出来るだけ多くの薬味が入っていた方が風味があってよい……。」

尭深「しょうが、ゆずの皮、山椒、ネギ、ふきのとうと……鰹節なんかも香りがよくていい……。」

尭深「最後につけダレだ、これはといた生卵に醤油、みりんを加え、白みがかるまで湯煎する……。」

尭深「このつけダレは、卵のコクと醤油があわさってなかなかに旨い……。」

尭深「ささ、部長、”あったかい”うちにどうぞ……。」

菫「あぁ………。」

菫「あったかいか………うぅ……。」

菫「うわ~ん!!宥~!!」びえ~ん

尭深「wwwwwwwwwwww」

誠子「尭深……傷口に塩素擦り込むような真似はヤメロ!」

ここは白糸台、今日はいつものメンバーが菫を囲んで何やら催しているようです。
と、そこへいつもにもまして元気な大星淡がやってきました。

            『ちりとてちん』

バタン!

淡「教えてス~ミ~レ~♪未来はな~に~色~♫」るんるん

淡「てめぇの血の色だよ!!」ドゴー!!

菫「おぶぇあ!!」ドゴー!!

誠子「大星か……。」

尭深「淡ちゃんおはよ……。」お茶ズズー

淡「おっは~♫セイコー、タカミー♪」るんるん

菫「あ・わ・い……!!」ゴゴゴゴ!!!

淡「ギャース!!!」バシコーン!!

菫「くそっ……人が落ち込んでるのをいいことに……。」

淡「きゅ~……。」しゅ~

尭深「………」ずず~

誠子「………」

淡「酷いよスミレ、こういうのパワハラっていうんだよ!」

菫「煩わしい!お前から先にコークスクリューを決めてきたんだろ!」

淡「もう、こんなバイオレンス女はほっといてさ、あわあわなんだかお腹減った」

誠子「そうか、よし、尭深用意してくれ」

尭深「………」コクッ

誠子「ささ、どうぞ……」

淡「なにこれ?炊き込みご飯?」

誠子「深川飯というやつだ、アサリを茹でた汁と醤油、味醂でご飯を炊き、アサリをまぶしてある」

淡「いただきまーす!」

淡「ぱくぱくむしゃむしゃ……ンマーイ!」

淡「なにこれ?アサリの風味が良く出てておいしー」

誠子「江戸っ子のファーストフードみたいなもんだがな、なかなか美味しいだろ?」

尭深「お味噌汁の用意も出来た……」

淡「なになに?今度はどんなもの食べさせてくれるの?」

誠子「尭深の実家から送られてきたかぶを使った味噌汁だ」

淡「なにそれ?おいしそー」

誠子「かぶをぐずぐずになるまで煮込んだんだ、なにより良いかぶを使わなきゃ美味しくないからな」

淡「いただきまーす!もぐもぐごくごくおいしー!」

淡「かぶがとても甘くておいしーよ!」

尭深「それは良かった……」

淡「タカミーの実家で採れた野菜はサイコーだね!」

淡「セイコーの料理の腕もいいね!」

誠子「ありがとう、そんなに喜んでもらえて私も尭深も嬉しいよ」

誠子「次は私が釣ってきた小アジを使った料理だ」

淡「なになに?」

誠子「小アジを細かく刻んだものに醤油、味醂、味噌とショウガ、ふきのとう、ネギで味付けしたアジのなめろうだ」

誠子「新鮮だから美味しいぞ」

淡「わーい!いただきまーす!」

淡「がつがつもぐもぐ……ン・マ・イ!!」

淡「薬味の風味とアジが合わさってものすごく美味い!」

尭深「ネギとふきのとうはウチから送られてきたもの……」

淡「もうサイコーだよ!!お腹いっぱーい!」

誠子「それは良かった……」

菫「ぐつぐつ……うひひ……」むしゃむしゃ……

淡「およ?鍋もあんの?」

誠子「あぁ、湯豆腐を食べてたんだ……尭深、豆腐は残ってるか?」

尭深「弘世先輩が全部食べちゃったみたい……」

菫「ティヒヒ……あったかーい……」もぐもぐ……

淡「なにそれ、スミレずっこい!」

尭深「たしか、戸棚の中に……あった」

誠子「うわわ、もう腐ってるじゃないか」

淡「うわ!なんか変な物が生えてる!」

誠子「これはもう捨てよう、ちょっと庭にでも埋めてくる……」

菫「ちょっと待て!」

誠子「な、なんですか……?」

菫「貸せ!これを、とろとろプリンの空瓶に入れて、砂糖で味付けして……うひひ……」

菫「これを元が解らなくなるまでまーぜまーぜ……むふふふ……」

菫「出来た!菫特性、豆腐デザートの完成!」

誠子「あわわ、まさかそんなもの食べて自[ピーーー]るきじゃ!?」

淡「うわわ、一回振られたくらいで諦めちゃだめだよ!」

尭深「ここで死なれたらお茶がまずくなる……別のところへ行って……」ずずー

菫「ちがーう!!これをあの馬鹿に食わせるんだ!」

誠子「あの馬鹿?宮永先輩のことですか?」

菫「あぁ、私がふられたのもなんもかんもあの馬鹿が悪い……」

回想

菫「あぁ、宥さんあなたは天使だ……」

照「ほほう、あの菫が恋を……」

照「よし!ならこのてるてるがアドバイスしてあげる」

菫「お前がか?大丈夫か?『お菓子に噛み付かれた』とか訳の分からないこと言って泣いて帰ってきたのに……」

照「もうあの頃の私じゃない……」

菫「いや、ついさっきの事なんだが……」

照「それにしても宥って人そんなにいい人なの?」

菫「あぁ、妹に迷惑は掛けられないと一人ラーメンの屋台を引くとても素晴らしい人だ……」

照「ふぅ~ん、まぁこの百戦錬磨のてるてるに掛かればどんな無謀な恋も成就する」

菫「本当か?」

照「まずはこの紫色の水着を着る……次に右手を腰に左手を頭に当てて……」

照「そのままのポーズで決め台詞『君のハートにシャープシュートー☆』これで相手はイチコロ」

菫「ほ、本当に大丈夫か……?」

照「大丈夫……てるてる嘘つかない……」

菫「よ、よし……やってやるぞ!」

照「その意気……」くすくす…

回想終わり

菫「こうして私はふられてしまった、あまつさえ変質者と間違えられ通報までされてしまったのだ……」

誠子「………」

尭深「………シャープシュートー(笑)うぷ」

淡「………」

菫「とにかく、これを食べさせてあの馬鹿に復讐だ!!もちろんお前達にも協力してもらうぞ!」

誠子「はぁ」

そうこうしてるうちに宮永照がやってきました。

バタン!

照「あ~さやけ~の光の中に立つ影は~テル~マン~♪」

照「今だ!コークスクリューを使え!」ドゴー!

菫「おぶえあ!!」ドゴー!

照「ふんふむ、みんな何やってんの?」

誠子「………」

尭深「………」

淡「………」

菫「いてて……やぁ!照じゃないか!はは、酷いなぁいきなりコークスクリューなんて」

照「めんごめんご、菫ふられたくせに元気じゃないか」

菫「イラッ……」

菫「いやいや、まぁ過去の事はもう忘れることにするよ、まだチャンスはあるかもしれないしな」

照「菫、前向き……」

菫「それよりお前に食べてもらいたいお菓子があるんだが……」

照「お菓子……」ピキーン!

誠子「えぇ、私たちじゃ食べ方が解らないので、ここはお菓子を食べさせたら右に出るものは居ないと言われる宮永先輩に食してもらおうと思いまして」

尭深「こくこく……」

淡「テルーのお菓子食いは天下一だからね」

照「ふふん♪まぁそれほどでも♪」

菫「じゃあさっそく、これなんだが……」

菫の手から出されたものは白みがかってながら少し黄ばんでおり、刺すような匂いを漂わせてました。

照「うぷ!なんなのこれ?」

菫「これか?これはな『ちりとてちん』という珍しいお菓子だ」ニコニコ

照「これを食べるのか……」

菫「ニコニコ」

誠子「じっ………」

尭深「じっ………」

淡「じっ………」

照「くっ!じ、じゃあ食べるぞ」

菫「早く食べてみせてくれ」ニコニコ

照「う、うぷ!た、食べるぞ!」

照「うげ……」

菫「どうした?まさか食べ方がわからないなんて……」

照「そ、そんなことない!」

照「こういうのは一気呵成に食べるのに限るんだ」

照「えい!」

こうしてとうとう『ちりとてちん』を一気に食べてしまいました。
やはり、しょせんは腐った豆腐、口をおさえ吐きたいのを我慢しなんとか胃に流し込みました。

照「う、ご、ごちそうさま」

菫「どうだった味のほうは?」ニコニコ

照「豆腐に酢を掛けたよな味だったかな……うえ……」

カン!

これから長編に取掛かるので落語シリーズは一旦終わりです……

それでは……

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