卓「……」このみ「たまにはふたりで」(160)
猿落ちでブツ切りになってしまったのでもう一度最初からやります
後、アドバイス通りスレタイも少し変更しました
■小鞠とふたりで
卓「……」フキフキ
卓「……」
卓「ウン」サッパリ
ペタペタペタ
ガラッ
「わひゃああああああああああああああっ!?」
卓「!?」
「なんみょーほうれんそー! なんみょーほうれんそー!!」
卓「……」
「うー・・・」ブルブル
「・・・って、あれ? お兄ちゃん?」
卓「ウン」
小鞠「……な、なんだぁ。 脅かさないでよね、もう」
卓「……」
小鞠「お風呂さっぱりした? 夏海ならもう先に寝ちゃ」
『その時突然、バンバンバン!バンバンバン!! 窓を叩く音が!!』
小鞠「にゃあああああああああっ!?」
『しかも、どう聞いても一人や二人じゃない。 何十人もが一斉に窓を叩いているのだ!!』
小鞠「うそぉおおおおおおおおおっ!?」
『そもそも、その部屋は三階。 外側から叩くことなど不可能なのに!!』
小鞠「ひぃいいいいいいいいいっ!!」
『Aさんは怯えながらもカーテンを思い切り開いた!!』
小鞠「何でっ!?」
『そこに・・・あったんですよ、尋常じゃない量の手形がっ!!』
小鞠「ぎゃあああああああああっ!!」
卓「……」
小鞠「あばばばばば…」ブルブル
卓「……」
卓「……」ヨシヨシ
――数分後
小鞠「…あ、ありがとう。 お兄ちゃん」
卓「ウン」
小鞠「……」
卓「……」
小鞠「……」
小鞠「その、さ」
卓「?」
小鞠「これ、観てたの」スッ
――本当にあった都市伝説100
小鞠「たまにはホラーもいいかと思って借りてみたんだけど・・・」
小鞠「こ、こういうのって卑怯だよね。 急に大きな音出したり、写真アップにしたりさ」
卓「……」ウーン
小鞠「あっ! べ、べべ別に怖いってわけじゃないんだよ?」
小鞠「ただその・・・、そう! びっくりしちゃうじゃない!?」
小鞠「あんなタイミングであんな演出されたら、誰だってびっくりするって!」
小鞠「それに確か、『大人も大絶叫!』って書いてあったし!」
小鞠「だから…うん、しょうがないしょうがない」
卓「……」
小鞠「……ふぅ、大分落ち着いてきた」
小鞠「お兄ちゃんは先に寝てていいよ。 ・・・わ、私はこれを観ちゃわないといけないから」
卓「……」
卓「……」ヨイショ
小鞠「お兄ちゃん?」
卓「……」
小鞠「……もしかして、お兄ちゃんも観たいの?」
卓「ウン」
小鞠「ほんとっ?」パァッ
小鞠「ま、まあ、観たいっていうならしょうがな………あっ、いや」
卓「?」
小鞠「……」
小鞠「……もしかしてさ、」
小鞠「お兄ちゃん、私が一人だと怖がって観られないとか思ってる?」
卓「……………」フルフル
小鞠「やっぱり! ごまかしてもダメ、お兄ちゃんが嘘付く時は溜めが長いのウチ知ってるん!」
卓「!?」
小鞠「もー! お兄ちゃんまで子供扱いしてー!! やーだー!!」ジタバタ
卓「……」
卓「――」
小鞠「ううぅ…。 ・・・えっ? 何?」
小鞠「久しぶりに私と観たいだけ? テレビならよく一緒に見てんじゃん」
卓「――」
小鞠「テレビとDVDは別? そうかなぁ…」
卓「――」
小鞠「んー・・・」
小鞠「まあ、そこまで言うなら信じてあげる。一緒に観よっか」
小鞠「そうだよ。子供じゃあるまいし、別に意地になることでもないもんね。うんうん」
卓「……」
小鞠「……うっ、後一時間近くあるのかぁ・・・」
卓「……」
小鞠「あっ…いや、まだ一時間近くあるなんてお得だよねーあはは」
『その、満面の笑みを浮かべた男は、ずっと後をつけてくるんです』
『もしも出会ってしまっても、振り向いてはいけない。 急いで走り去らねばなりません』
『追いつかれたら最後・・・』
『ウォォオオオオオオオッ!!』デーン !
小鞠「にゃあああああああああっ!!」
卓「……」
小鞠「ま、また急にやったん…。 何で脅かそうとするん…?」ブルブル
小鞠「うぅ…、廊下渡りにくくなったん…」
卓「……」
小鞠「えっ? ・・・後ろを向いてるのに何で笑顔なのか分かるんだろう?」
卓「ウン」
小鞠「それは……えっと……、あれ?」
卓「……」
小鞠「……」
小鞠「・・・よ、余計怖くなったじゃん! お兄ちゃんのバカー!!」
卓「!?」
『真夜中にハイヒールを何度も鳴らす音がしたので外に出て文句を言うと』
『首が90度に折れ曲がった赤い女が振り向き、こちらにゆっくり近付いてきました』
『でもゆっくりなのは最初だけ、段々段々早くなっていきます』
『コツ………コツ……コツ…コツ…コツコツコツコツコツコツコッコッコッコッコッ!』
小鞠「わぁあああああああああああっ!!」ガバッ !
卓「!?」
小鞠「急にアップにするのはやめて、って言ってるのにー!!」ギュー!!
卓「……」
卓「……」ウーン
卓「!」
ツンツン
小鞠「うー、・・・なに?」
『この都市伝説は通称「ジュリアナさん」と呼ばれ――、』
小鞠「じゅ、ジュリアナさん…?」
卓「ウン」
小鞠「……」
小鞠「…なんか名前は怖くないね」
卓「ウン」
小鞠「むしろ、ちょっと面白い?」
卓「ウン」
小鞠「……あはは」
小鞠「――って! ご、ごめん。 急に抱きついたりして」バッ
卓「……」フルフル
卓「……」
小鞠「……」
小鞠「――はぁ」
小鞠「やっぱ、私って子供っぽいのかな」
卓「?」
小鞠「『こーいうの』苦手だし、音楽もオシャレも恋愛もよく分かんないし」
小鞠「・・・背もちっちゃいままだし」
小鞠「それで、夏海やこのみちゃんにもからかわれるしさ」
小鞠「自分では頑張ってるつもりでも、あんまり変わった実感もないし」
小鞠「……」
小鞠「どーすれば大人っぽくなれるのかなぁ…」
卓「……」
小鞠「あっ、ごめんね? お兄ちゃんあんまり喋らないから話しやすくて…」
卓「」フルフル
小鞠「そう? ならいいけど…」
卓「……」
小鞠「……」
卓「……」
卓「―――」
小鞠「大人になっても苦手な物くらいあるから平気?」
卓「ウン」
小鞠「……そりゃ、そうだろうけどさ」
小鞠「でも、やっぱ何でも出来たほうがカッコいいじゃん」
小鞠「苦手な物でもちゃんと食べたほうが体には良いし」
小鞠「だから…、えーと…えーと……」
卓「……」
小鞠「と、とにかく私は大人っぽくなりたいの!」
卓「……」
卓「――、」
小鞠「そのままでいい、とか言わないでね。 これでも真剣なんだから」
卓「」フルフル
小鞠「? 違うの?」
卓「―――」
小鞠「……目標があるのはいいことだけど、初めから何でも出来る人なんていないし」
小鞠「私のなりたい『大人』も色々積み重ねて成長した結果なわけで」
小鞠「人間そんなすぐには変われないから、気を張るとむしろ遠回りになる?」
卓「ウン」
小鞠「……へー」
小鞠「それって、お兄ちゃんの体験談?」
卓「――」
小鞠「私よりは年上だからって、お兄ちゃんと私一個しか違わないじゃん」
卓「……」
小鞠「……ふふっ」
小鞠「なんかさ、さっきのお兄ちゃん、久しぶりに『お兄ちゃん』って感じだった」
卓「……?」
小鞠「えへへ」
卓「??」
小鞠「話、聞いてくれてありがとね」
小鞠「こういうこと話せる人っていないし…、嬉しかった」
小鞠「また何かあったら、聞いてくれる?」
卓「ウン」
小鞠「ありがと、お兄ちゃん」ニコッ
小鞠「・・・じゃあ、の、残りを観ますか…」
卓「ウン」
小鞠「……」
卓「……」
小鞠「……」モジモジ
小鞠「……あ、あのさ!」
卓「?」
小鞠「そのぅ…」
小鞠「・・・ちょっ、ちょっとだけ、くっついてても・・・いいかな?」
小鞠「観終えたいって気持ちはあるんだけど…、やっぱりちょっと怖いから」
卓「……」
卓「―――」
小鞠「たまになら、いいの?」
卓「ウン」
小鞠「・・・そっか、うん」
小鞠「じゃあ、ちょっとだけ」
ギュッ
小鞠「えへへ、あったかい」
小鞠「……」
小鞠「たまに甘えるくらいなら、子供っぽくはならないよね」
卓「ウン」
――数十分後
『―――こうして、100個の謎は全て語られた』
『・・・しかし、安心するのはまだ早い』
『これらの都市伝説は、今! ・・・貴方の後ろで起きているかも知れないのだ』
『グゥオオオオオオオオオオオ・・・!』ギャーン !
♪デーレーレレー デーレーレレー デーレーレーレーレー↓レー↑
卓「……」フゥ
卓「……」
小鞠「……」
小鞠「……クゥ」
卓「?」
小鞠「スゥ…スゥ…」
卓「……」
小鞠「んぅ……むにゃむにゃ」
卓「……」
卓「……」ヨイショット
小鞠「zZZ…」ヒョイ
ペタペタペタ
ガラッ
――小鞠の部屋
小鞠「……zZZ」
小鞠「……zZZ」
小鞠「ん・・・」
小鞠「ふわぁ~…」
小鞠「……」
小鞠「んぅ?」
小鞠(……ここ、私の部屋?)
小鞠(いつの間に寝ちゃったんだろう)
小鞠(確か、お兄ちゃんといっしょに怖いDVD観てて)
小鞠(途中でお兄ちゃんが相談に乗ってくれて…)
小鞠(その後、また続きを…)
小鞠(……)
小鞠「……お兄ちゃんが運んでくれたのかな?」
小鞠(多分、そうなんだろうな)
小鞠「……」
小鞠(なんか、さみしいな)
小鞠(記憶が途切れてるせいで、さっきまであった温もりがないのと)
小鞠(・・・部屋が真っ暗なせいか、いつもより――)
ギーッチョ ギーッ ギーッ
ジージジジージージー
小鞠「……」
ガタガタッ !
小鞠「!?」ビクッ
小鞠「……」
小鞠(・・・た、たまにならいいって言ってたし)
小鞠(苦手な物は苦手だし……)
小鞠(……)
小鞠(――あ、明日から頑張るん!)
ガラッ
ダダダダッ スパーン !
アレ、ネエチャンナンデウチノヘヤニ…
■蛍とふたりで
蛍「ぺチー? どこー?」
シーン
蛍「あーあ、まさかリードの紐が切れちゃうなんてなぁ…」
蛍「体が小さいから細いのでも平気かと思ってたけど、」
蛍「今度は見た目悪くても丈夫なのにしよう」
ガサガサ
蛍「……この辺りにはいないのかな」
蛍「もう、最近ほんとやんちゃなんだから」
蛍「しかも、わざわざヤブの中に入っちゃうし」
蛍「日が暮れる前に見つかるといいけど…」
ザクザクザク
蛍「ぺチー? 出ておいでー?」
ガサガサ
蛍「ぺーチー?」
ワサワサ
蛍「おーい」
蛍「……いないなぁ、どうしよう」
蛍「このまま奥に行くと、私まで迷子になっちゃいそうだし」
蛍「一旦、戻った方が良いのかなぁ…」
蛍(……あっ、迷子といえば)
蛍(前に迷子になった時、ぺチが急にどこかへ駆けだして)
蛍(ヤブの向こうに出たら、丁度そこに――)
ガササッ
蛍「! ぺチっ!?」バッ
卓「……」
蛍「・・・あれ? 卓センパイ?」
蛍「こんな所でどうしたんですか?」
卓「……」ゴソゴソ
スッ
蛍「…笹の葉、ですか?」
蛍「これを取りにわざわざ?」
卓「ウン」
蛍(こんなにたくさんどうするんだろう? やっぱ変わった人だなぁ…)
蛍「そういえばセンパイ、うちの犬見かけませんでしたか?」
蛍「リードの紐が切れて、このヤブに入って行っちゃったんですけど…」
卓「」フルフル
蛍「うーん、そうですか…」
蛍「ふぅ、早く見つけないとなぁ」
卓「――」
蛍「えっ? 一緒に探してくれるんですか?」
卓「ウン」
蛍「でも、用事があるんじゃ…」
卓「……」
蛍「もう十分取れたから平気? ・・・うーん」
蛍「……」
蛍「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
卓「」コクッ
蛍「ありがとうございます、センパイ」ニコッ
蛍「ぺチー?」
蛍「出ておいでー」
卓「……」
卓「 蛍「ペーチー? 早く帰ろうよー」
卓「……」
蛍「…あれ? どうかしました?」
卓「」フルフル
蛍「そうですか?」
――しばらくして
蛍「見つからないなぁ…、どうしよう」
卓「……」
卓「……」ガサガサ
蛍「すみませんセンパイ、長々と付き合わせてしまって」
卓「」フルフル
卓「……」ガサガサ
蛍(黙々と探してくれてるけど…、なんだか悪いなぁ)
蛍(休日にこんなことさせちゃって、後で何かお礼しないと)
蛍(……)
蛍(そういえば、休みの日に男の子と一緒にいるって向こうじゃなかったなぁ)
蛍「……」チラッ
卓「……」ガサガサ
蛍(特に緊張とかしないけど・・・小鞠センパイのお兄さんだからかな?)
卓「……」キョロキョロ
蛍「……」
蛍(せっかくだし、何か話した方がいいのかな…?)
蛍(……)
蛍(でも、何を話そう?)
蛍(考えてみれば私、卓センパイの事って全然知らないんだなぁ…)
蛍(挨拶はするけどお喋りしたことはないし、側にいても気付かない事が…)
蛍(……いけないいけない。 それはちょっと失礼だよね)
蛍(でも、話題というと…)
卓「……」ワサワサ
蛍「そういえばセンパイ」
卓「?」
蛍「その笹の葉って、何に使うんですか? たくさんありますけど」
卓「――」
蛍「えっ? 川に流すんですか?」
卓「」コクッ
蛍「……?」
卓「……」
卓「――」
蛍「笹の葉を舟にして流すと願い事が叶う?」
卓「――」
蛍「へえ、七夕の笹って短冊を吊るす以外にも使うんですね」
卓「ウン」
蛍「……でも、これ全部流すんですか? それに七夕はもう過ぎちゃいましたけど…」
卓「――」
蛍「笹舟を流して願いが叶うのは、それに乗った神様からのお礼で…」
蛍「日本には神様がたくさんいるから、」
蛍「時期が外れてても、たくさん流せば一人くらい叶えてくれると思った?」
卓「ウン」
蛍「……」
蛍「くすっ」
卓「?」
蛍「あっ、ごめんなさい」
蛍「センパイが意外と子供っぽかったのがおかしくて、つい」
蛍「…ふふっ」
卓「……」
蛍「でも、そんなに叶えたいお願い事って何なんですか?」
蛍「何か悩みごとがあるようには見えませんけど…」
卓「……」
卓「――」
蛍「単に願い事がたくさんあるから、たくさん流すだけ?」
蛍「暇潰しにもなって一石二鳥?」
卓「ウン」
蛍「…くすくすっ、センパイって面白い人だったんですね」
卓「……?」
蛍「ふふっ」
ガサッ !
ぺチ「わふっ」
蛍「――あっ! ぺチ!?」
蛍「もう、どこ行ってたの? 心配したんだよ?」
ぺチ「わんっ!」
蛍「・・・でも、よかったぁ。 今からなら明るいうちに帰れるね」
蛍「卓センパイ、一緒に探してくれてありがとうございました」ペコッ
卓「ウン」
蛍「ほらっ、帰るよぺチー。おいでー」
ぺチ「わんっ!」
タッタッタッタッ
ガブッ
卓「!?」
蛍「えっ、またっ!?」
ぺチ「がるるる! がふっ!」
卓「――!」
蛍「・・・ペ、ぺチー!!」
卓「……」ボロ
蛍「う、うちの子がすみません…」
ぺチ「ぐるるる・・・」
蛍「こらっ、唸らない!」
ぺチ「…キューン」
蛍「もう、前もそうだったけど、どうして卓センパイに噛み付くの?」
卓「……」
卓「――」
蛍「えっ? 小鞠センパイの臭いが付いてるから?」
卓「ウン」
蛍「どうしてそう思うんですか?」
卓「――」
蛍「見てればなんとなく分かるって、…そういうもんですかね」
卓「ウン」
蛍「……んー」ジー
ぺチ「くぅん?」
蛍「……」
蛍「……」
蛍「『お腹空いたよー』、かな?」
卓「……」
蛍「あれ? 違いました?」
卓「……」
ヒョイ
蛍「えっ? わわっ、なんですか?」
ペラッ
卓「――」
蛍「『ご主人、髪に葉っぱが付いてるぞい』?」
卓「ウン」
蛍「ぺチが、そう言ったんですか?」
卓「」コクッ
蛍「……」
蛍「…ふっ、ふふ!」
蛍「あははは!」
卓「!?」
蛍「な、なんですかそれ? ぞ、ぞいって!」
蛍「こ、こんな可愛いのに『ぞい』って。 ぷふっ!」
蛍「全然似合わないじゃないですかー! あはははっ!」
卓「……」
蛍「はーはー、・・・ご、ごめんなさい。 大笑いしちゃって」
蛍「……ふぅー」
蛍「……」
蛍「でも、本当にそう言ってたんですか?」
卓「ウン」
蛍「ぞいって?」
卓「」コクッ
蛍「・・・ふっ、ふふっ」プルプル
蛍「も、もう! あんまり笑わせないでくださいよー」
卓「?」
蛍「あー、おかしっ。 家でもこんな感じなんですか?」
卓「……」ウーン
卓「――」
蛍「自分じゃよく分からない…、まあそうですよね」
蛍「でも、いいなぁ。 私一人っ子だから、兄弟って憧れなんですよ」
蛍「卓センパイがお兄ちゃん」
蛍「夏海センパイがお姉ちゃんで」
蛍「こ、小鞠センパイが妹だったら・・・はぁ、毎日幸せだろうなぁ」
蛍「あっ、お姉ちゃんでも問題ないですよ! どちらでも可愛いですから!」
卓「……」
卓「」フム
卓「――」
蛍「えっ? ・・・試しにお兄ちゃんって呼んでみるか?」
卓「ウン」
蛍「い、いいですよー。 なんか恥ずかしいですし…」
卓「――?」
蛍「別に遠慮してる訳ではなくてですね…?」
卓「……」
卓「――!」ハッ
蛍「へっ!?」
蛍「・・・い、いや、センパイに『お姉ちゃん』は求めてませんよ…」
卓「?」
蛍(うーん…、どうしようかなぁ)
蛍(気を使ってくれてるのは分かるんだけど…)
蛍(……)
蛍「……分かりました」
卓「?」
蛍「せっかくなので、一回だけ呼ばせてもらいますね」
卓「……」
蛍「……」
蛍「・・・ぉ、」
蛍「……おにい、ちゃん?」
卓「ウン」
蛍「……」
蛍「な、なんか疲れますね。 これ」
蛍「お兄さん、は普通に言えるのにな。 何でだろ?」
卓「――?」
蛍「別に無理しなくても呼びやすい方で構わない?」
蛍「……それも、そうですよね。 何でこだわってたのかな」
蛍「じゃあ、――お兄さん?」
卓「ウン」
蛍「ああ、これなら自然で良いですね」ニコッ
卓「……」
卓「」フッ
蛍(あっ、そういう風に笑うんだ)
ガブゥ !!
卓「!?」
蛍「あっ、また! ぺチー!!」
蛍「それでは、私はここで」
卓「ウン」
蛍「今日は本当にありがとうございました」
蛍「私一人だと、また迷子になっていたかもしれませんし…」
蛍「それに、色々話せて楽しかったです」
蛍「やっぱり、話してみないと分からないことってありますよね」
蛍「お兄さんの事が少し知れて、嬉しかったです」ニコッ
蛍「……あと、すみませんでした。 二回も噛ませてしまって・・・」
ぺチ「ぐるるる・・・」
蛍「……噛み癖がつかないと良いんですけど」
卓「」コクコクッ
蛍「帰ろっか」
ぺチ「わんっ!」
蛍(今日はいつもより疲れたなぁ…)
蛍(でも、センパイ…お兄さんとも少し仲良くなれたし)
蛍(色々話せて良かった)
蛍(今度は、小鞠センパイの昔話とか聞いてみたいな)
蛍(……また、散歩中に会ったりするかな?)
蛍(……)
蛍(ちょっと、楽しみ)
■れんげとふたりで
夏海「ほらほらっ、隠れた隠れたー」
夏海「ウチが全員見つけられたら、一人一個ずつなんか奢ってもらうかんね」
小鞠「えー? 何よそれー?」
蛍「その、見つからなかったらどうなるんですか?」
夏海「へっ? ウチが負けるわけないじゃん」
小鞠「どこから湧いてくるんだその自信は…」
夏海「まあ、もし見つからなかったら全員にう○い棒奢ってあげるよ」
小鞠「しょぼっ!?」
れんげ「…なっつん、せこいん」
夏海「なんで不評かなー。 おいしいじゃん、○まい棒」
小鞠「いや、確かにおいしいけどさ」
夏海「ふふん、何味でもいいんだよ?」
小鞠「どれでも値段変わらんでしょ…」
夏海「…あっ! 早く隠れてよ、話してたら休み時間無くなっちゃうじゃん!」
れんげ「気付くの遅いん、もう勝負は始まってるんよ」
夏海「確信犯っ!?」
トットコ トットコ
れんげ(ふーむ・・・)
れんげ(多分、なっつんの性格ならここには来ないと思うん)
れんげ「ここにしーましょー」
卓「……」
れんげ「おおう、先客がいましたか」
れんげ「兄にぃはこんなところで何してるん?」
卓「」スッ
れんげ「…『萌え○え!四文字熟語』? 漫画なん?」
卓「」フルフル
れんげ「ほうほう、イラスト付きで楽しく学べる感じなんな」
卓「ウン」
れんげ「……」
れんげ「兄にぃ」
れんげ「ウチは休み時間にまで勉強しなくてもいいと思うん」
れんげ「別に、なっつんや姉ねぇくらいだらんとしろとは言わないん。メリハリの話なん」
卓「……」
れんげ「たまには兄にぃも一緒に遊ぶん。 今、皆でかくれんぼしてるん」
卓「……」
卓「」フルフル
れんげ「? どうかしたん?」
卓「――」
れんげ「見てるだけでもそれなりに楽しいから、気にせず遊んでいいよ?」
卓「」コクッ
れんげ「むむ、それほんとなん?」
卓「ウン」
れんげ「……」
れんげ「でも、皆と遊ぶのが嫌いわけじゃないんな?」
卓「……」
卓「」コクッ
れんげ「今日はウチ、兄にぃとも遊びたい気分になりました」
れんげ「というわけで、あーそびーましょー」
卓「」フルフル
れんげ「……」
卓「……」
れんげ「何でそんな嫌がるん? ただ遊ぶだけなん」
卓「……」
れんげ「はっ! もしかして、ウチ嫌われてるん…?」
卓「」フルフル
れんげ「じゃあ、お疲れなん?」
卓「」フルフル
れんげ「んーとー、音楽性の違いってやつなん?」
卓「」フルフル
れんげ「じゃあ、何でなん?」
卓「……」
卓「――」
れんげ「えっ?」
れんげ「やっぱり、女の子は女の子同士で遊んだ方が楽しいと思う?」
卓「」コクッ
れんげ「……」
卓「?」
れんげ「兄にぃは、結構お馬鹿さんなんな」ハァ
れんげ「そんなこと誰も気にしないん。 一緒に遊んでくれた方が皆喜ぶん」
れんげ「皆で遊べば、思い出が出来るん」
れんげ「思い出は、言い合える人数が多いほど楽しくなれるものなんよ?」
卓「……」
れんげ「・・・それに、」
卓「?」
れんげ「ウチは、学校で兄にぃと遊べるの・・・今年しかないのん」
れんげ「こういう機会は大事にした方がいいって、姉ねぇも言ってたん」
れんげ「だから…ウチ、もったいない事はしたくないん」
卓「……」
卓「」ペラッ
れんげ「・・・やっぱ、本の方が楽しいん?」
ペラッ ペラッ
卓「……」
卓「」スッ
れんげ「…? 読めってことなん?」
卓「」コクッ
れんげ「えーと・・・、『かいしんてんい』」
れんげ「かこのあやまちを、くいあらため、かいしんすること」
卓「……」
れんげ「兄にぃ、分かってくれたん?」
卓「ウン」
れんげ「ウチと遊んでくれるん?」
卓「ウン」
れんげ「…それは良かったんな。 じゃあ、早速」
夏海「れんちょん、れんちょーん。 れんちょんはどこかなー?」
れんげ「!」
夏海「ふっふっふ。 姉ちゃんとほたるんはもう見つけちゃったぜー」
夏海「後はれんちょんただ一人だー! なーに奢ってもらおっかなー?」
れんげ(こっちには来ないと思ったのに…。 なっつん中々やるんな)
れんげ(……兄にぃ、静かにしてるんな)
卓「」コクッ
ガサッ
れんげ「!?」
具「……」ヒョコッ
れんげ(具! 何で学校まで来てるん!?)
夏海「あれ? なーんか今音がしたような…」
ザッザッ
れんげ(おぅ…、万事休すなん…)
卓「……」
ポンポン
れんげ(? 兄にぃ?)
卓「……」ボソボソ
れんげ(自分に任せろ…と?)
卓「」コクッ
れんげ(……)
れんげ(それじゃ、お願いしますん)
夏海「さーさ、れんちょん出ておいでー」ニヤニヤ
夏海「奢るのうま○棒でもいいからさー」
ガサッ
夏海「うおぅ!? マジで出てくんのかよ!」
卓「……」
夏海「・・・って、あれ? 兄ちゃん?」
卓「ウン」
夏海「こんな所で何してんのさ」
卓「」スッ
夏海「本?」
卓「……」
夏海「…おおう、学校にまで持って来てたんか」
夏海「兄ちゃんさー、ウチや姉ちゃんは慣れてるからいいけど」
夏海「ほたるんやれんちょんはまだ耐性ないと思うから、見られないようにしなよ?」
卓「ウン」
夏海「――って、そうだ! れんちょん!!」
夏海「ねえ兄ちゃん、れんちょん見なかった?」
卓「」フルフル
夏海「マジかよー! また時間無駄にしちゃったじゃん!」
卓「……」
夏海「あわわ…後何分だ? 急がないとウチのうまい○がー!」
ダダダッ!
卓「……」
卓「」クルッ
れんげ「ばっちりですのん」ヒョコ
れんげ「なっつんは兄にぃの言う事なら信じるからちょろいんなー」
れんげ「将来がちょっと心配ではあるん」
卓「……」コクッ
れんげ「兄にぃ」
れんげ「今回は無理だったけど、次は一緒に遊ぶんな?」
卓「ウン」
ハイシュウリョー! ナツミ、ヤクソクマモッテヨネー?
チクショー!!
れんげ「とりあえず、帰りに駄菓子屋寄ってくーん」
れんげ「もちろん、兄にぃもなんな?」
■一穂とふたりで
ミーンミンミンミン
ジィイイイイイイイイ!
一穂「いやぁ、悪いね兄ちゃん。 この暑いのに手伝い頼んじゃって」
卓「……」フルフル
一穂「そう言ってくれると助かるよ」
一穂「父ちゃんが腰やらなければ人手足りてたんだけどねぇ」
一穂「こればっかりは機械に頼れないからさ」
一穂「全自動かぼちゃ収穫機、誰か作ってくんないかなぁ…」
卓「……」
一穂「おっと、いけない。 口より手を動かさんとね」
一穂「終わったらスイカにお駄賃も出るから、はりきっていきましょー」
ヂョキン ヂョキン
一穂「兄ちゃんはもう慣れてると思うけど」
一穂「茎が切れにくいからって力むと怪我するから、気ぃ付けてね」
卓「ウン」
一穂「よいしょっ」ズシッ
一穂「ほいしょっ」ズンッ
一穂「どっこいさ」ドズン
一穂「・・・こーいう単純作業が一番後で腰にくるんだよなぁ」
卓「」サッサッサッ
一穂「やっぱ男手がいると違うねー」
ヂョキン ヂョキン
卓「……」
一穂「……」
一穂「そういやさぁ、」
卓「?」
一穂「兄ちゃん、最近よく動くようになったね」
卓「……?」
一穂「なんてーの? 少しだけやんちゃになった? ・・・んー、上手く言えんなー」
一穂「心境の変化でもあったんかい」
卓「……」
卓「ウン」
一穂「そっか。 そりゃあ良いことだ」
一穂「今年で兄ちゃんも卒業かぁ。 早いもんだね」
一穂「どう? 学校、楽しかった?」
卓「ウン」
一穂「なら良かった」
一穂「いやぁ、ウチって自分からみても良い先生とは言えなかったからさ」
一穂「一度聞いてみたかったんよ」
卓「……?」
一穂「んー? いやいや、ウチだって感傷に浸る時くらいあるんよ?」
一穂「ウチの受け持ちで卒業生になったのってさ」
一穂「今のとこ、ひかげだけだからね」
一穂「兄ちゃんを入れても二人」
一穂「・・・こーいうの、まだ慣れてないんよ」
卓「……」
一穂「でも、楽しかったか。 そっかそっか」
一穂「わざわざ放任主義にして正解だったんかね」
卓「?」
一穂「ほら、あれだよ」
一穂「あえて放置する事で、生徒の自主性を育てるっていうね?」
卓「……」
一穂「……いや、冗談だよ。 そんな目で見ないでください」
ヂョキン ヂョキン
卓「……」
一穂「……」
一穂「あんまり、先生らしい事出来なくてごめんね」
卓「……」
一穂「・・・あーあ」
一穂「やっぱ、たくさん生徒持ってないと、一人前とは言えないんかなー」
卓「……」
卓「」フルフル
一穂「今のままで満足してるって? ……優しいねぇ、兄ちゃんは」
一穂「皆が満足してるなら、このままでもいいやって思うんだけどさ」
一穂「でも、もう少し何か出来ないか? とも思うんよ」
一穂「施設がないなりに、もっとやりようがあるんじゃないか、とかさ」
一穂「・・・まっ、考えるだけで何もしてないんだから意味ないけどね」
ヂョキン ドサッ ヂョキン ドサッ
卓「……」
卓「――」
一穂「……多少だらけてても、生徒のためになる事をちゃんと考えられてるなら」
一穂「自分で気付いてないだけで、もう何かしてあげられてると思うって?」
卓「ウン」
一穂「…ははっ、買いかぶり過ぎだよ。兄ちゃん」
一穂「それじゃあ、まるで先生みたいじゃない」
卓「――?」
一穂「・・・あはは!」
一穂「そうだった。 ウチ、先生だったね」
卓「ウン」
一穂「いやぁ、まさか生徒に教えられるとは。 分からないもんだわ」
一穂「ありがとね、兄ちゃん」
卓「……」
一穂「……」
一穂「学校が変わってもさ、」
卓「?」
一穂「君の周りのモノ、全部が全部変わるわけじゃないから」
一穂「君の居場所も、なくなったりはしないから」
一穂「そこは忘れないで欲しいな」
卓「……」
一穂「ふふっ、先生っぽいかね。 今の」
卓「ウン」
一穂「そっか。 …ちょっと照れるね、こういうの」
一穂「さーてと、そろそろ切り上げ時だね」
一穂「冷たい麦茶にスイカと洒落込みますか」
■ひかげとふたりで
ザッコン! ザッコン!
ひかげ「ふぁ~あぁ・・・、なにやってんの姉ちゃん」
一穂「やっと起きてきたよこの子は。 夏休みだからって寝過ぎ」
ひかげ「それ姉ちゃんにだけは言われたくねーわ」
ひかげ「で? 何切ってたん?」
一穂「良い感じに冷えたスイカだよ」
ひかげ「マジ? 丁度小腹空いてたところなんだ、ラッキー♪」
一穂「なんもしてない子にはあげないよー」
ひかげ「えー、なんだよそれー?」
一穂「じゃあ、このスイカと麦茶を居間に運んでくれたらいいよ」
ひかげ「うーい」
スーッ
ひかげ「あれ? 越谷兄じゃん」
卓「」コクッ
ひかげ「珍しいな、一人で家に来てるなんて」
ひかげ「大抵、夏海や小鞠と一緒だよな?」
卓「――」
ひかげ「かぼちゃの収穫の手伝い? ……ああ、そういやそんな時期か」
ひかげ「ご苦労さん、これスイカと麦茶な」
卓「ウン」
シャクシャク
シャクシャク
ズズー
ひかげ「……ふぅ」
ひかげ(間が持たねぇ…)
ひかげ(考えてみれば、卓と二人きりでいるっていつ以来だろ)
ひかげ(小学生くらいまでは夏海たちと一緒に遊んでた記憶があるけど…)
ひかげ(元々、こいつが誰かと会話してるとこってあんま見たことないし)
ひかげ(知らぬ間に側にいるって感じだしなぁ…)チラッ
卓「……」
ひかげ(・・・しっかし、でかくなったなぁこいつ)
ひかげ(やっぱ、この時期の男って成長早いのかね)
ジー…
卓「?」
ひかげ(――っと、いかんいかん。 ガン見してしまった)フイッ
ひかげ「……」
ひかげ(ってか、姉ちゃんは何やってんだ? 随分来るのが遅――)クルッ
一穂「」ニヤニヤ
ひかげ「」
ひかげ「いるんなら入ってこいやーっ!!」ガー!!
一穂「いやー、青春ですなぁ」
ひかげ「何がだよ! わけわかんねーよ!!」
一穂「お邪魔みたいなんで、向こうで泡麦茶飲んでくるわ」アハハー
ひかげ「聞けよ! そして行くなよ!?」
ひかげ「結局行っちまうし」
ひかげ「ったく、何がしたいんだか…」
卓「……?」
ひかげ「なんでもねー。 そのままスイカ頬張ってていいよ」
卓「ウン」
シャクシャク
シャクシャク
卓「……」
ひかげ「……」
ひかげ(このくそ暑いのに何やってんだろなぁ、私は)
ひかげ(さっさと食べて、また寝ちゃおうか?)
ひかげ(・・・でも、客を一人にするのもなんかなぁ)
ひかげ(……)
ひかげ(たまには、こうしてぼうっと過ごすのもいいか)
ミーンミンミンミン
ジィイイイイイイィイ
ひかげ「……」
卓「……」
卓「――」
ひかげ「……えっ? なに?」
卓「――」
ひかげ「高校がどんな感じかって?」
卓「ウン」
ひかげ「……」
卓「?」
ひかげ「…なんか、卓から話しかけてくるのって珍しいな」
ひかげ「ってか、初めてじゃね? 幼馴染だけど覚えがねーもん」
卓「……」
ひかげ「あっ、ごめんごめん。 脱線したか」
ひかげ「で…えーと、高校がどんな感じか、だっけ?」
卓「ウン」
ひかげ「どんな感じって言われてもなぁ…、私もまだ一年だし」
ひかげ「ってか、卓は地元の高校じゃないの? 東京の話とか参考になる?」
卓「……」
卓「――」
ひかげ「へっ? まだどうするか決めてない?」
卓「ウン」
ひかげ「……意外だなぁ、てっきり地元一択だと思ってたのに」
ひかげ「もしかして、卓も密かに都会に憧れたりしちゃってたん?」
卓「――」
ひかげ「は? ・・・アニメ? グッズ?」
卓「ウン」
ひかげ「あー・・・、そういやお前そういうの好きだったな」
ひかげ「……えっ? まさか、それだけで迷ってんの?」
卓「」フルフル
ひかげ「ああ、良かった…。 一瞬ハッ倒そうかと思ったわ」
卓「……」
ひかげ「でも、それなら私の話でも参考になるか」
卓「ウン」
ひかげ「しかたないなー…、じゃあ、お姉さんが都会の学校の話をしてやろうかね」
ひかげ「まあ、ここと違って人一杯だわな――」
ひかげ「だから1クラスじゃなくていくつも――」
ひかげ「学食は無いけど購買でパンが――」
ひかげ「私の同居人は毎日弁当作ってんだけど――」
ひかげ「人形の話題だけは振っちゃ駄目――」
ひかげ「もう一人の同居人は世間知らずでさ――」
――数十分後
ひかげ「……でさあ、そいつがまた私のプリンを」
卓「ウン」
ひかげ「それで、これがその時買った髪留めなんだけど…」
ひかげ「・・・あれ? もしかして、また脱線してた?」
卓「――」
ひかげ「面白かったから別に良い? …そう?」
ひかげ「でも、卓って意外と聞き上手だよね」
ひかげ「向こうの話題って、最近はれんげもスルーするからさぁ」
ひかげ「たくさん話せて、なんかスッキリしたわ」
卓「……」
ひかげ「話聞かせるはずが、話聞いて貰っちゃって悪いね」
卓「」フルフル
ひかげ「・・・そう言ってくれるのはありがたいけどさ、正直あれで参考になったん?」
ひかげ「途中から全然関係ない話題ばっかになってたけど…」
卓「……」
卓「――」
ひかげ「……私の楽しそうな顔から大体分かった?」
卓「ウン」
ひかげ「なんだそりゃ、エスパーじゃあるまいし」
卓「……」
ひかげ「ま、まあ、お前が良いんならいいけど…」
ひかげ「……」
ひかげ「でもさ、あんまり迷い過ぎるのも考え物だと思うよ」
卓「?」
ひかげ「進路も大事だけどさ、あそこで皆と過ごせるのは今だけなわけで」
ひかげ「どっちも頑張ってこなそう、って頑張っても疲れるじゃん?」
ひかげ「だからさ、難しく考えないで」
ひかげ「自分がどうしたいかを思って、一番最初に浮かんだものを選べばいい」
ひかげ「こういうのは、決める時はスパッ!と決めちゃった方が気持ち良いんだよね」
ひかげ「私の時も、そうだったから」
卓「……」
ひかげ「もうちょいわがままになっても、素直になってもいいんだよ」
ひかげ「大丈夫」
ひかげ「普段が普段なんだから、そのくらいで帳尻が合うって」
卓「……」
ひかげ「……」
ひかげ「・・・な、何無言で見つめてんだよ」ササッ
ひかげ「こういう時はなんかリアクションしろよな、…恥ずいんだから」
卓「……」
ひかげ「……」
ひかげ「まあ・・・、あれだ!」
卓「?」
ひかげ「うだうだすんなよ!」
卓「……」
卓「ウン」
ひかげ「・・・あー、慣れないことしたら喉乾いたわ」スッ
ひかげ「麦茶淹れてくるけど、おかわり要る?」
卓「ウン」
ひかげ「あいよー」
ひかげ「あっ、そうそう」
卓「?」
ひかげ「今度また、向こうの話とか聞いてくれないかな」
ひかげ「お前みたいに茶化さずに聞いてくれる奴って他にいないからさ…」
卓「ウン」
ひかげ「うん、ありがと」
ひかげ「・・・でも、あれだね」
ひかげ「なんだかんだ卓も、都会が気になってるってことだよね?」
ひかげ「私の影響で東京行きが決定したらどうすっかなー」フフッ
ガラッ
ひかげ「……」
一穂「……」
ひかげ「……」
ひかげ「一応聞くけど、何やってたん?」
一穂「聞き耳立ててたん」
ひかげ「いつから?」
一穂「部屋出てすぐ。 ビール片手に襖に張り付いて――」
ひかげ「そすんさぁああぁああああああああああっ!!」ドゴォオ!!
■楓とふたりで
楓「おう、いらっしゃい」
卓「……」
楓「今日は一人か?」
卓「」コクッ
楓「あー、じゃあアレか。 ちょっと待ってな」
ゴソゴソ
楓「ほれ、こないだ出た新作」コトッ
卓「ウンウン」
楓「・・・しっかし、何が良いんだそれ?」
卓「?」
楓「いや、買ってくれる分にはありがたいんだけどさ」
楓「わざわざ取り寄せてまで欲しがるもんかね」
楓「食玩なんてどれも一緒じゃねえの?」
卓「――」
楓「最近のは小さくても出来が良いから参考になる?」
卓「ウン」
楓「ふーん、そうなのか…」
楓「ってか、何の参考だよ」
卓「……」
卓「」スッ
楓「ん? 一個だけでいいのか?」
卓「――」
楓「今度、夏海と一緒にゲーム機買うから節約してる…?」
卓「ウン」
楓「越谷家は相変わらず仲良いんだな」
楓「なら、仕方ねえ。 残りは向こうにしまっとくか」ゴソッ
卓「――」
楓「後でちゃんと全部買うからって? 別にそんな心配してねえよ」
楓「というか、注文したのはお前なんだから買ってもらわないと困る」
楓「卓は高校入ったらバイトすんのか?」
卓「」フルフル
楓「そうか。 まあ、帰りのバスの時間とかで長居出来ないしな」
楓「私もあの頃は結構無理したわぁ。 真っ暗な中をチャリこいだっけ…」
卓「……」
楓「あ? そういうわけじゃない?」
卓「ウン」
楓「他に理由があんのか?」
卓「――」
楓「都会の高校に行くかもしれないから、その時になってみないと分からない?」
卓「」コクッ
楓「へえ、お前が都会行きを考えてたとはな」
楓「正直かなり意外だわ」
卓「……」
楓「ああ、別に馬鹿にしてるわけじゃねえよ?」
楓「私としては売上が減るから、地元を受けてくれた方がありがたいけど」
楓「なんかやりたい事があんなら、それもありだと思う」
卓「……」
楓「・・・まあ、ひかげみたいに単に都会に行きたいだけって奴もいるけどよ」
楓「あいつはあいつなりに考えたんだろうし、実際に行動に移せたのはすげぇと思う」
卓「ウン」
楓「あっ。 今の、あいつには内緒な? にやけ面が想像できるわ」
卓「」コクッ
楓「ところで、行くかもって事はどっちにするかまだ迷ってんのか?」
卓「」コクッ
楓「なにで悩んでんだ? お前成績は悪くなかったよな?」
卓「……」
卓「――」
楓「ああ、なるほど。 お前シスコンだもんな」
卓「……」
楓「でも、妹二人はともかく・・・何であいつが心配なんだ?」
楓「お前が行きたいってんなら、むしろ笑って応援してくれそうなもんだけどな」
卓「」フルフル
楓「そういうことじゃない? じゃあ、何なんだよ」
卓「……」
楓「……」
楓「まっ、事情があんなら深くは聞かねえよ」
楓「じゃあ、妹の方に話戻すけど…」
楓「ぶっちゃけ大丈夫じゃねえの?」
卓「……」
楓「小鞠はあれで聞きわけ良いし、面倒見もいいから他の奴らを任せられる」
楓「夏海も少しはごねるだろうけど、お前が決めた事なら文句はねえだろ。多分」
卓「……」
楓「気にし過ぎなんだよ」
楓「お前一人いなくなったって、どうにかなるような奴らじゃねえ」
卓「……」
楓「・・・あー、いや、お前があいつらにとってどうでもいいとかってんじゃなくてな?」
楓「なんつったらいいかなぁ…」
楓「……」
楓「例えばさ、」
卓「?」
楓「例えば、私が駄菓子屋をやめたとするだろ?」
卓「――」
楓「ははっ、もしもの話だよ」
楓「……でも、ありえないわけでもない」
楓「小さい頃はこの店を早く私のものにしたい、とか考えてたけどさ」
楓「いざ継いでみると結構大変で、稼ぎは少ねえし」
楓「実質、私の趣味でやってるようなもんだからな」
卓「……」
楓「それが面倒になって、私が店を畳んだとする」
卓「ウン」
楓「それでもきっと、私は『駄菓子屋』なんだと思うよ。 お前らにとっては」
卓「……」
楓「なんだかんだ、変わらないものってあると思うんだ」
楓「実際、向こうに行ったひかげだって、そんな変わってないだろ?」
卓「」コクッ
楓「たとえ、ここが駄菓子屋でなくなっても、私とお前が赤の他人になるわけじゃない」
楓「そういう繋がりって、直接金になるわけじゃないけど…」
楓「いいもんだよ、うん」
楓「たまにカレーとか貰えるしな」
卓「……」
楓「最終的にどうするかはお前が決めることだけどさ」
楓「ここも、あいつらも、少し離れたくらいでどうにかなるもんじゃねえから」
楓「だから、まあ・・・信じろ」
卓「……」
卓「ウン」
楓「それじゃあな」
卓「」コクッ
楓「次はあいつらも連れて来いよ。 じゃねえと潰れちまうからな」フフッ
卓「ウン」
タッタッタッ
楓「ちょっと待ちな」
卓「?」
楓「これ、もう一つやるよ」
卓「……」
楓「いつも贔屓にして貰ってるしな」
楓「その代わり、残りはちゃんと買えよ?」
■夏海とふたりで
夏海「……」ゴロゴロ
卓「……」
夏海「暇だねぇ」ゴロゴロ
卓「ウン」
夏海「兄ちゃん、なんか面白いことやってよ」
卓「……」
スッ
スー…
夏海「いや、親指が取れたーとかはいいから」
卓「……」
夏海「なんだかなぁ」
夏海「兄ちゃんが向こうでやってけるか、ウチは心配だよ」
夏海「持ちネタの一つくらいないとさ、無口はモテないよ?」
卓「……」
卓「」ウーン
夏海「・・・よしっ!」
夏海「どうせ暇だし、夏海ちゃんが兄ちゃんのレベル上げに協力してあげよう」ニヤッ
夏海「ほたるんから借りたファッション雑誌にさ、」
夏海「『今時の女の子が男性に求めているもの』、ってのがあったんだよ」
夏海「兄ちゃんには今からそれらを鍛えて貰います」
卓「」コクッ
夏海「じゃあ、早速一つ目ー・・・『顔が良いこと』」ペラッ
夏海「これは生まれつきだから鍛えようがないかなぁ」
夏海「……ふむ」チラッ
卓「……」
夏海「悪くはないと思うんだよね。 眼鏡好きってのも世の中にはいるみたいだし」
卓「……」
夏海「……」
夏海「あ、あんまりじっと見んなよぉ…」フイッ
卓「?」
夏海「えと、気を取り直して二つ目行くよ」ペラッ
夏海「『頭が良いこと』・・・これも大丈夫か。 兄ちゃん頭良いもんね」
卓「ウン」
夏海「自画自賛かよ。 まあ、謙虚過ぎるよりかはいいけど」
夏海「さくさく行くよー、『力があること』」ペラッ
夏海「おっ? これはいいんじゃない?」
夏海「兄ちゃん、久しぶりに腕相撲しようぜー」
卓「」コクッ
夏海「へへっ、兄ちゃん少しは強くなったかなー?」
卓「……」
ギュッ
夏海「そんじゃ行くよー、レディー・・・」
夏海「――ゴオッ!」グッ
卓「……」
夏海「おっ、なかなかやるじゃん!」
夏海「でも負けないかんねっ!!」ググッ
卓「……」
夏海「ふぬぬぬ・・・!」プルプル
卓「……」
トンッ
夏海「おっしゃあ! 夏海ちゃんの勝ちー!!」
卓「ウン」
夏海「ははっ、駄目だよ兄ちゃん。 女の子に負けるようじゃさー」
夏海「ほたるんなんか小五なのにウチより強いんだから」
夏海「少しは鍛えるようにしないと、舐められちゃうよ?」
卓「」コクッ
夏海「うんうん、やっと改善できそうな項目が出来たね」
夏海「この調子で色々粗を探そう!」
卓「ウン」
夏海「さて次は…、『金』!」ペラッ
夏海「……身も蓋もねえな」
卓「……」
夏海「つーかさ、奢ってもらえるのは確かに嬉しいよ?」
夏海「でも、奢ってもらってばっかだとなんか・・・気まずくならない?」
夏海「恋人ってお互いがお互いを…ってものだと思うし」
夏海「相手に求めてるだけだと、いけないと思うんだよね」
卓「……」
夏海「ん? どうかした、兄ちゃん」
卓「――」
夏海「・・・う、ウチだって乙女のはしくれだもん。 色々考えるさ」
卓「……」
夏海「と、とりあえず次ね。 『ファッションセンスがある』」
夏海「んー・・・、男の服ってよく分かんないなぁ」
夏海「ウチはダサいと感じたことはないけど、他の人はどうなんだろう?」
卓「」ウーン
夏海「まあ、そこは考えても仕方ないよね」
夏海「じゃあ、どうするかなー・・・。 うーん」
夏海「……」
夏海「こうしよう! 逆にダサい服を着てみるってのはどうかな?」
卓「?」
夏海「前にテレビでダサいって言われてた服装をあえて着てみるんだよ」
夏海「それを兄ちゃんが着て、ウチがダサいと感じたら普段の服装はイケてるってこと」
夏海「どう? やってみる?」
卓「ウン」
夏海「分かった。 えーと、確か・・・」
夏海「バンダナ巻いてチェックのシャツをズボンに収めてリュックを背負い穴空きグローブを――」
――数分後
夏海「……」
卓「……」
夏海「……」
夏海(似合いすぎて反応に困るな…)
夏海(あれ? でも、これ似合っちゃ駄目なんじゃなかったっけ?)
夏海(ダサい服装が普通に見えるってことは、普段のもダサいってこと?)
夏海(いやいや、ウチの目に狂いがあるわけないし)
夏海(・・・まさか、ウチがファッションセンスないの?)
夏海(となると、今着てるこの服も実はダサかったり…)
夏海(いやいやいやいや、男と女の服は違うっしょ)
夏海(でも、よく考えると男女で明らかに違うのってスカートくらいなんだよなぁ)
夏海(じゃあ、やっぱり服に違いはなくてウチのセンスが・・・)
夏海(あー、何言ってんだか分からなくなってきた…)
夏海「うーん・・・」
卓「?」
夏海「……」
夏海「あー、もう! やめやめ!!」
夏海「ダサいかとかモテるかとか、一々考えんのめんどーだわ」
夏海「自分が気に入ってるんならそれでいいし、大勢に好かれなくったっていいよね」
夏海「分かる人には分かるもんだよ、うん」
卓「……」
夏海「ほらっ、兄ちゃんもそれ脱いできな」
卓「」コクッ
夏海「いつもの格好の、いつもの兄ちゃんでいいよね」
夏海「派手さはなくても、自己主張出来てるから」
夏海「やりたいにようにするのが一番だよ」
夏海「あー、無駄な事考えて頭痛くなってきたわ。 昼寝しよ」
卓「……」
卓「」クイクイ
夏海「えっ? ・・・後ろ、向いてみろって?」
卓「ウン」
夏海「別にいいけど…、変な事しないでよー?」
卓「……」
シュルッ
夏海(……? 髪を解いて何か結んでる?)
夏海「兄ちゃん、変なことすんなって言ったじゃん」ムスッ
卓「――」
夏海「出来たって、…ん?」
ヒラヒラ
夏海「何これ、リボン?」
卓「……」
夏海「ああ、さっきのバンダナね。 何でウチに?」
卓「――」
夏海「心配してくれたお礼…? ってことは、プレゼント?」
卓「ウン」
夏海「いや、その、くれるっていうんなら貰っとくけどさ」
夏海「……」
夏海「ウチは、こういうひらひらしたのとかって似合わないと思うよ。 バンダナだけど」
卓「――」
夏海「似合ってる…? ほんと?」
卓「ウン」
夏海「そっか、兄ちゃんが言うなら間違いないね」
夏海「……」イジイジ
夏海「兄ちゃん」
卓「?」
夏海「今のは良かったと思う。 ありがとね、んじゃ!」タタタッ
卓「……」
――次の日
夏海「ふわぁ~、・・・はよー」
小鞠「ああ、おはよう夏海」
小鞠「……?」
夏海「ん? どうかした?」
小鞠「珍しいね、夏海がリボン結んでるなんて」
夏海「ああ、これね」
クルッ
ヒラヒラ
夏海「たまには良いと思ってね。 ほらっ、ウチって乙女ですから」フフン
小鞠「朝っぱらから何言ってんのさ、もう」
夏海「……もしかして、似合ってない?」
小鞠「うん? いや、可愛いと思うけど?」
夏海「・・・そっか」
夏海「だよねー! やっぱ夏海ちゃんって可愛いよねー!」
小鞠「あんた、まだ寝ボケてんの?」
夏海「あははは! んなわけないじゃん、絶好調だよ!!」
小鞠「…やっぱ、変」
ガラッ
小鞠「あっ、おはようお兄ちゃん」
卓「ウン」
ヒラリ
夏海「おはよう、兄ちゃん」ニコッ
■このみとふたりで
このみ「おじゃましまーす」ガラッ
タッタッタッ
このみ「来たよー、眼鏡君」
卓「ウン」
このみ「なっちゃん達は?」
卓「……」
このみ「ふーん、そうなんだ」
卓「」スクッ
このみ「あっ、お茶淹れてくれるの? ありがとー」
このみ「」ズズ…
このみ「はぁ、おいしい」
このみ「眼鏡君のお茶はいつもおいしいよねー。 毎日飲みたいくらいだよ」
卓「……」
このみ「でも毎日だと飽きちゃうかもね。 たまにくらいでいいのかな?」アハハ
卓「ウン」
このみ「ふふっ。 眼鏡君、どちらかというとコーヒー派だもんね」
このみ「……」ズズ…
卓「……」
このみ「……」ホッ
卓「……」
このみ「……」
卓「……」
このみ「やっぱ、いいなぁ。 こういうの」
卓「?」
このみ「お互い何か話さなくてもさ、」
このみ「特に気兼ねすることもなく、むしろ居心地が良いって思える時間」
このみ「私、こういうの好き」
卓「……」
このみ「お婆ちゃんっぽいとか思った?」
卓「」フルフル
このみ「ふふっ、冗談だよ」
このみ「…でも、ほんとに落ち着く」
このみ「もうすぐ終わりだなんて、残念だな」ボソッ
卓「……?」
このみ「それにしても、眼鏡君から電話がかかってくるなんて思わなかったよ」
このみ「しかも、私に会いたいなんて。 初めてじゃない? こんなこと」
卓「……」
このみ「……」
このみ「・・・もしかして私、告白とかされちゃう?」
卓「」フルフル
このみ「あっ、そうなんだ。 ちょっとドキドキしちゃった」
このみ「じゃあ、何か相談事とか?」
卓「……ウン」
このみ「へー…、今日は初めてづくしだね」
このみ「いいよ、なんでも言って。 お姉さんが聞いてあげようじゃないの」フフッ
このみ「それでどうしたの? そういえば、都会の高校に行くって聞いたけどそれ関係?」
このみ「眼鏡君はなんだかんだ、どこでもやっていけそうな気がするけどなー」
卓「」フルフル
このみ「えっ? そうじゃない?」
このみ「じゃあ、なんだろ。 なっちゃん達が寂しがらないかとか?」
卓「……」
このみ「そっちはもう解決した? んー…、じゃあ…」
このみ「こーさん。 答えは何?」
卓「――」
このみ「……えっ?」
このみ「私が何に悩んでるのか、気になる…?」
卓「ウン」
このみ「……」
卓「……」
このみ「もう、何を心配してるのかなこの子は」
このみ「私に悩みごとなんてないよ。 何にもない」
このみ「ほらっ、元気元気!」ムンッ
このみ「……」
卓「……」
このみ「……」
卓「……」
このみ「……」
卓「……」
このみ「眼鏡君はさ、」
卓「?」
このみ「将来の夢とか、何か考えてるの?」
卓「」フルフル
このみ「そっか」
このみ「私も今年受験だし、考えなくちゃとは思ってるんだけどね」
このみ「どうも未来のことを考えるのって苦手でさ」
卓「……」
このみ「楓ちゃんは始めから駄菓子屋を継ぐって考えてたし、」
このみ「一穂さんも先生って夢があったから努力した」
このみ「ひかげちゃんも…、まあそうしたいって事を実現させた」
このみ「……私は、そういうの特になくて」
このみ「普通に高校に行って、そのまま大学に行って、就職して、結婚して、そんなもんだと思ってたけど」
このみ「たまに考えちゃうんだよね」
このみ「それって、私の欲しいものと違うんじゃないかな…って」
卓「……」
このみ「私がこんな事考えてるの、意外?」
卓「」フルフル
このみ「……そっか、眼鏡君にはお見通しだったか」
このみ「そうです、私も普通の女の子なのです」エヘン
卓「……」
このみ「ふふっ」
このみ「私達が歳をとって、色々なことを知って、段々変わっていってしまうとしても」
このみ「ここから見える景色は、きっとこれからも変わらないんだろうな」
卓「」コクッ
このみ「うん、そうだよね」ニコッ
このみ「私さ、小学生まで、あの学校でずっと勉強出来ると思ってたんだ」
このみ「皆一緒で、ずっと一緒で、そのまま大人になって…って」
このみ「そんなわけないのにね」
このみ「でも、一穂さんが大学に通うために都会へ行っちゃうって知った時、分かったの」
このみ「ずっと一緒なんて、無理なんだよね」
このみ「離れちゃう時は、離れちゃうんだよね…」
卓「……」
このみ「でも、それは仕方ない事なんだと思ってうじうじしてるより、」
このみ「今を思い切り楽しもうって思った」
このみ「別れの時なんて忘れるくらい、楽しもうって」
このみ「だから、私頑張ったよ?」
このみ「頑張ったから、楽しかった。 皆も楽しそうだった」
このみ「…それでも、やっぱり怖かった」
このみ「誰かいなくなるのが怖かったの」
このみ「ひかげちゃんが向こうに行くのも、本当は嫌だった」
このみ「でも、私のワガママで引き止められるわけないし…」
卓「……」
このみ「ううん、高校がつまらないわけじゃないんだよ」
このみ「あそこにだって、友達はいるもの」
このみ「……」
このみ「でもね、たまに胸が苦しくなったの」
このみ「前はその理由が分からなかったけど、今なら分かる」
このみ「寂しかったんだ」
このみ「慣れ親しんだ分校を卒業しちゃった事が」
このみ「大学へ通うために、ここからもっと離れなきゃならない事が」
このみ「自分からここを、皆から遠ざかろうとしている感じがして…」
このみ「楽しいのに、寂しいの」
このみ「変わっちゃうのが、悲しいの」
このみ「楓ちゃんとまた高校で一緒になれた時は嬉しかった」
このみ「でも、すぐにいなくなっちゃって、・・・前より寂しくなった」
このみ「皆より少し早く生まれたってだけなのにね」
このみ「私だけ、皆と時間がずれていくっていうかさ」
このみ「どんどん距離が離れていく気がして」
このみ「なんだか、すごく怖かった」
このみ「私が向こうに行くのに、逆に置いて行かれちゃうみたいで…」
卓「……」
このみ「ごめんね、こんなこと長々聞かせちゃって」
このみ「・・・ほんと、面倒臭いよね。 私」
卓「……」
『たまに甘えるくらいなら、子供っぽくはならないよね』
『やっぱり、話してみないと分からないことってありますよね』
『こういう機会は大事にした方がいいって、姉ねぇも言ってたん』
『君の周りのモノ、全部が全部変わるわけじゃないから』
『もうちょいわがままになっても、素直になってもいいんだよ』
『ここも、あいつらも、少し離れたくらいでどうにかなるもんじゃねえから』
『やりたいにようにするのが一番だよ』
卓「……」
卓「……」
卓「―――」
このみ「――えっ?」
このみ「私と、一緒の大学に行く?」
卓「ウン」
このみ「……」
卓「……」
このみ「・・・駄目だよ、眼鏡君。 変な気遣いしないの」
卓「……」
このみ「ごめんね、眼鏡君優しいから」
このみ「こういう話をすればどうなるのか、少し考えれば分かるはずなのにね」
このみ「今日の私、おかしいみたい」
卓「」フルフル
このみ「……」
このみ「気を使わないで、眼鏡君」
このみ「おかしいの、今日だけだから」
このみ「今日が終われば、またいつもの私だから」
このみ「……だから、そんな顔しないで?」
このみ「私達の『いつも』に、そういうのはいらないよ」
卓「」フルフル
このみ「眼鏡君…」
卓「」フルフル
このみ「……」
卓「……」
このみ「確かにそれなら、少しの間だけど一緒に通えるけど…」
このみ「自分の将来なんだから、もっとよく考えないと駄目だよ」
このみ「だって、三年だよ?」
このみ「その間に眼鏡君にやりたいことや、もっと大切な人が出来たりしたら」
このみ「そんな約束、重荷にしかならないじゃない」
このみ「逆に、私が『そういう風』になったら、眼鏡君のこと無視しちゃうかもよ?」
卓「……」
このみ「叶ったとしても一緒に通えるのはたった一年……ううん、もっと少ないかもしれない」
このみ「それだけのために、君の未来を縛り付けたくないよ」
このみ「眼鏡君はやろうと思えば何だって出来るんだから」
このみ「私に拘る必要なんてないんだよ?」
卓「……」
卓「――」
このみ「私に同じことをしてもらったから、そのお返し…?」
卓「ウン」
このみ「何の事? ……分かんないよ」
卓「――」
このみ「いつも誰かが一人にならないように気を配ってくれた、って」
このみ「違うよ。 あれは、自分のためにしてた事で、恩を感じる必要なんて・・・」
卓「――」
このみ「……それでも、嬉しかったから?」
卓「」コクッ
このみ「私のおかげで、楽しかったから?」
卓「」コクッ
このみ「だから、恩返しなの?」
卓「ウン」
このみ「……」
このみ「・・・やっぱり、駄目。 一時の思いで決めるような事じゃない」
このみ「そんなことで、……眼鏡君の人生、狂わせたくないよ」
卓「」フルフル
このみ「自分のしたい事をするだけだから、って」
このみ「この・・・バカッ!!」
このみ「どうして分かってくれないの? 眼鏡君の分からず屋!」
このみ「私は! ・・・私は、」
このみ「眼鏡君には普通に幸せになって欲しいの! わざわざ道を外れなくていいの!!」
このみ「そんなことされても嬉しくない。 眼鏡君の自己満足だよ!」
このみ「恩返しなんていらない! 約束もしなくていい!!」
このみ「だから…、お願いだから、もっと自分を大切にしてよ…」
卓「……」フルフル
このみ「……どうして? 私はいいって言ってるのに」
このみ「どうして、諦めてくれないの?」
卓「……」
卓「――」
このみ「私を、一人にしたくないから…?」
卓「――」
このみ「あの温かい場所をくれたのは私だから、」
このみ「この温かい気持ちをくれたのは私だから、」
このみ「ずっと、心から笑顔でいてほしい…?」
卓「ウン」
このみ「……」
このみ「何よ、それ」グスッ
このみ「買い、かぶり…だよ」
このみ「私、ほんとに…大した、こと……してないじゃん」
このみ「そんな風に、…思われる、ほどのこと…してないじゃん」
このみ「喋るの…苦手なくせに、なに…頑張ってんのよ…」
卓「……」
このみ「無理なんて…、して、ないよ」グスッ
卓「……」
卓「――」
このみ「・・・えっ?」
卓「……」
このみ「たまには、…甘えてもいい?」
卓「ウン」
このみ「・・・でも、私は、」
卓「」スッ
卓「」ヨシヨシ
このみ「…う、」
このみ「うぅ…ヒック……」
このみ「うわああああああああああああん!!」
卓「ウンウン」
――数分後
コトッ
このみ「あ、ありがとう・・・」
卓「ウン」
このみ「……」ズズ…
卓「……」
このみ「……」ホッ
卓「……」
このみ「……ごめんね、眼鏡君。 酷い事言ったり、見苦しいとこ見せたりして」
卓「……」フルフル
このみ「……」
このみ「私、よく考えたらさ」
このみ「誰かに相談したり、悩みを打ち明けたりしたことなかった」
卓「……」
このみ「お姉さん代わりになろう、って思ってたからかな」
このみ「誰かを頼ろうって気持ちになれなかったのかも」
このみ「・・・疎外感を感じるのも当然だよね。 自分から壁を作ってたんだから」
このみ「情けないなぁ、私」
このみ「もっと早く誰かを頼ってたら、こんな面倒な性格にはならなかったのかな?」
卓「――」
このみ「今からでも遅くない? ……そうかなぁ」
このみ「だって私達、来年から向こうに行っちゃうんだよ?」
このみ「もう、直せないと思うよ」
卓「……」
このみ「? 直さなくてもいい?」
卓「ウン」
このみ「でも、それじゃ・・・」
卓「――」
このみ「・・・例え離れたとしても、側にいる?」
卓「」コクッ
卓「――」
このみ「心配しなくても、皆ここにいる」
このみ「皆、私達の帰りを待ってくれている」
このみ「だから、不安にならなくていい」
このみ「想いは、側にいる…」
卓「ウン」
このみ「……どうして、そう言い切れるの?」
卓「……」
卓「」ニコッ
このみ「皆、私の事が好きだから…?」
このみ「好きだから、一緒に居たいって思う?」
卓「……」
このみ「・・・眼鏡君、も?」
卓「」コクッ
卓「―――」
このみ「だから、私と一緒に居たいの?」
卓「ウン」
このみ「……」
卓「……」
このみ「そ、そういうこと……あんまり言っちゃ駄目だよ」
このみ「誤解、されちゃうよ?」
このみ「寄り掛かられて、重いよ?」
このみ「・・・甘えちゃうよ?」
卓「――」
このみ「くっついてるなら、きっと心もあったかい、か」
このみ「……」
このみ「なんだか、素敵だね。 そういうの」
このみ「……」
卓「……」
このみ「本当に、」
卓「?」
このみ「……来て、くれるの?」
卓「ウン」
このみ「…そっか」
このみ「じゃあ、約束」
卓「ウン」
このみ「…少しだけ期待して、待ってるね?」
――玄関
このみ「あーあ、眼鏡君に励まされちゃった」フフッ
このみ「可愛い弟くらいにしか思ってなかったのに…もう男の子だったんだね、君は」
卓「」コクッ
このみ「ふふっ」
このみ「そろそろお暇するね、結構長い間話し込んじゃったし」
卓「ウン」
このみ「じゃあね! 眼鏡く……んー、いや」
卓「……?」
このみ「……」
卓「……」
このみ「・・・す、」
卓「?」
このみ「すぐ……」
このみ「……」
このみ「…やっぱ、まだいいや」
卓「?」
このみ「今日はありがとね、眼鏡君」
このみ「少しだけ、スッキリした」
卓「ウン」
このみ「また、お茶飲みながら色々話そうね」
このみ「あれだけかっこいい事言ったんだから、ちゃんと構ってよ?」
卓「ウン」
このみ「あっ、それと」
卓「?」
このみ「たまにはふたりで、ね?」ニコッ
■卓とみんなで
卓「……」
卓「……」ペラッ
卓「……」
卓「……」ペラッ
卓「……」
卓「……」ペラッ
『うわわわ! 跳ねたー!!』
『お、落ち着いてくださいセンパイ!』
『このニュルニュルは流石のウチでも扱いきれません』
『おーい、兄ちゃーん! この魚どうにかしてよー!?』
卓「……」
卓「……」
卓「」パタン
タッタッタッ
『なんだ、いるんじゃん。 とっとと捌いちゃってよ、お腹空いたー』
『何一つ手伝ってないお前に喰わせるもんはねーよ』
『なにおー!?』
『まあまあ。 ひかげちゃん、これなら生でも食べられるよ?』
『青い野菜じゃねえか! せめてタレくれよ!!』
シャシャシャシャッ
ブスッ
ジュー…
『おおう、流れるような手際・・・さすが兄ちゃん』
『夏海も少しは料理とか勉強したらどうなの?』
『自分を棚に上げてよく言えますなぁ、こまちゃんは』
『こまちゃん言うなっ!』
『いやー、焼いてくれた肉食べながら飲む泡麦茶は最高だねー』
『『もう食べてるっ!?』』
『ちょっ、私は生ピーマン食ったってのに酷え!』
『マジで食ったのか…。 許してやるから、お前も肉食えよ』
『はいはい、皆取り皿持ってー。 割り箸ない人いるー?』
『ほらっ、れんちょん割り箸』
『ウチ、一度このトングとかいうので食べてみたかったから要らないん』
『あっ、センパイの私が取ってあげますね』
『いや、自分で取れるけど…せっかくだからお願いしようかな』
卓「……」ジュー…
『お兄ちゃん、もういいから一緒に食べよう?』
『そうなのん、いただきますは皆でするものなん』
『もう食べ始めちゃってるウチはどうすればいいん?』モグモグ
『姉ねぇもちゃんと言うん。 食べ物には感謝しなくちゃいけないん』
『ほーらっ。 こっちおいで、眼鏡君』
卓「……」
卓「ウン」
『それでは、両手を合わせて…』
『いただきますっ!!』
この日常は変わっていく
でも、変わらない
たとえ遠く離れたとしても
この場所を作る人々が、いつでも思い出させてくれるから
この場所が作る景色が、いつでも迎えてくれるから
気の向いた時に帰ってみよう
きっと、のんびりとした日々が待っている――
おわり
今度は通しでやれて満足です
ありがとうございました
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