八幡「奉仕部を辞めることにするわ」(87)

部室

ガラガラ

八幡「うーっす」

結衣「あっ、ヒッキー!やっはろー」

雪乃「今日は遅いのね」

八幡「少しレポートに手間取っただけだ。あー、疲れた」

雪乃「全然疲れてそうに見えないわね」

結衣「確かレポートって……あれ、読書感想文じゃん!」

八幡「たんまり8ページ書いてきたからな。読書感想文としてこれほどのモンは中々無いぜ」

結衣「平塚先生が怒りそうな……」

八幡「あ……そうだ雪ノ下と由比ヶ浜に土産があったの忘れてた」

つ「MAXコーヒー」

結衣「ヒッキー、ありがと……」カァァ

雪乃「あ、ありがとう」カァァ

結衣「……!?」

八幡「まあスカラシップで金が浮きまくってるからたまにはな」

ピンポンパンポーン

平塚『比企谷八幡君、大至急職員室に来てください』

結衣「やっぱり……」

八幡「しゃあねぇ、少し行ってくるか……」

ピシャ

結衣「……あのさ、ゆきのん。聞きたいことがあるんだけど……」

雪乃「何かしら?」

結衣「ゆきのんはヒッキーのこと好きなの?」

雪乃「……!」

雪乃「そうね、奉仕部の部員なら……」

結衣「違うの!そうじゃないの!!ゆきのんはヒッキーのことをその……恋愛的な意味で……」

雪乃「……」

結衣「そっか、やっぱりそうなんだね……。……こんな時、本当にどうすればいいんだろうな……」

雪乃「由比ヶ浜さん、私は!……私は……」

結衣「……」

雪乃「……」



八幡「……」

ガラッ

八幡「……」

結衣「あ……ヒッキー早かったんだね。てっきり下校時間まで怒られるかと……」

雪乃「……もう少し時間がかかるものだと思っていたのだけれど、一体どんな手を使ったのかしら」

八幡「……お前らさ、いい加減にしとけよ」

結衣「えっ……」

八幡「いつもいつも罵倒やら暴言やら人を傷つけてトラウマ抉ってばかりいてさ、お前ら楽しい?」

雪乃「な、何を言って……」

八幡「俺は楽しくなかったね。いつもいつも我慢してきた。先生が入部しろと言ったからそれを続けてきた……だが、もう我慢の限界だ……」

八幡「俺、奉仕部を辞めることにするわ」

結衣「そ、そんな……待って、ヒッキー……」ポロポロ

八幡「最後にこれだけは言っておく……俺はお前達が……嫌いだ」

ピシャ

結衣「な、なんで……どうして……」ポロポロ

雪乃「……」

校門

八幡「……」スタスタ

平塚「待て、比企谷」

八幡「……なんすか」

平塚「奉仕部で何があった?比企谷を呼びに来たら中に誰もいなかった。まだ放課後になってから時間は短いのにも関わらずだ」

八幡「別に、何も無いですよ……」

平塚「嘘をつ……」

八幡「ああ、そうだ。俺、もう奉仕部辞めるんで、じゃあ」タッタッタッタッ

平塚「待て!比企谷!!」
平塚「……一体、何があったと言うんだ……比企谷」

翌日・教室

八幡「……」ウツブセー

結衣「……」

戸部「……でよー、マジでそん時の隼人くんかっこよかったんだわー!マジリスペクトってやつ?」

三浦「ちょっと!何で昨日あーし誘わないし!?」

戸部「だってよ~優美子そん時カラオケ行くって言ってたじゃん?」

三浦「それでも誘うのが常識ってモンじゃないの。ね、結衣?……ちょっと結衣!?」

結衣「えっ!?あっ……うん、そうだね……」

海老名「結衣、大丈夫?どこか具合が悪いの?」

結衣「だ、大丈夫だから!心配しないで!……ね?」

葉山「……」

放課後・校門

チャラララーン~♪チャチャチャチャチャチャチャラララーン~♪

八幡(……メールか?一体誰が)ピッ

比企谷、今すぐ学校の屋上にまで来てほしい

八幡(覚えの無いアドレスだな。一体誰が……)

八幡(屋上の鍵が壊れている事は確か女子の間で有名……だったよな。なら、相手は女子か?俺を呼び出して一体何を……相模の一件で噂が広まっている分特定が難しいな……)

八幡(取り合えず、行ってみるか)

屋上

ガチャ

八幡「……」

「来てくれたか……ヒキタニ君」

八幡「……そういや、女子以外にも屋上の件を知っている奴がいたな。どうして俺を呼び出した……葉山」

葉山「……昨日、彼女を見かけてね。酷くやつれていた。何があったのか聞いてみても何でもないの一点張りだ」

八幡「……」

葉山「そして今日の結衣の不自然な様子。放課後入ってすぐに奉仕部部室に行けば誰もいない。行く途中でも誰も見かけなかったよ。俺が知る限りでは文化祭以外では奉仕部は、ほぼ毎日活動していたはずだったが」

八幡「とっとと要点を話せ。長ったらしい前置きはいらん」

葉山「それは済まなかった。それじゃあ聞かせてもらうとするよ。奉仕部で何をした、比企谷……」

八幡「お前にその事は関係あるのか」

葉山「少なくとも大切な友人が悲しい顔をしていればその原因が気にならない訳がない」

八幡「ハッ……大切な友人……ねぇ」

葉山「何がおかしい……」

八幡「葉山、お前さぁ本当に友人の事気にかけてんのか?俺にはその大切な友人を隠れ蓑にして、本当はその彼女とやらが気になっているようにしかみえないんだがな」ニヤリ

葉山「!!…………もう一度聞く。何をした」

八幡「……奉仕部を辞めた。それだけだ」

葉山「自分に泥を塗りたくって周囲を傷つけてか?随分と無様だな、比企谷……流石孤独なだけあるな」

八幡「俺には自分の思い通りに動けないお前の方が無様に見えるんだがな」

葉山「君は動いたあげく状況を悪化させているようにしか見えないな」

八幡「これはリセットだ。元あった状態に戻してるだけだ」

葉山「リセット……だと」

八幡「ああ、そうだ。これでもう二度と争いは起きなくなる。実に平和的な解決法じゃな……ガッ……」

ズドン!!

葉山「いい加減にしろよ……比企谷……」

八幡「……ヘへ……学校の人気者(ヒーロー)が暴力沙汰起こすのかよ……」

葉山「比企谷、お前の言うことは間違っている。何もかもが……」

八幡「俺は常に最善の手を打っているだけだ」

葉山「最善の手だと……ふざけるな!君のやっていることはただの現実逃避だ!」

八幡「現実から逃げて何が悪いんだよ……誰かを選べば誰かが犠牲になるのなんてお前も知っているはずだろうが!!」

葉山「比企谷……お前……」

八幡「……いい加減に離せよッ!!」ドカッ

葉山「グハッ……!……それでも彼女達を……自分自身を傷つけていい理由にはならないだろ!!」バキィ

八幡「ガッ……!……クソォ!!」ブン

ドカッバキッズンッグシャッ

数十分後

八幡「ハァ……ハァ……流石リア充の考えることは違うな……目立たない腹を中心に殴るとはな……」ボロッ

葉山「ゼェ……ゼェ……君こそ足回りを随分とやってくれたな……」ボロッ

八幡「……お前の言っていたように俺の方法が間違っているんなら……俺は一体どうすればいいんだよ……」

葉山「それは俺には分からない……」

八幡「ふざけるなよお前……」

葉山「だが君はそれが例えどんなに誤ったものでも解を出すことが出来た。今まで……いや、今でも俺が成し得なかったことだ……」

八幡「……」

葉山「俺は正直言って悔しかった。何故君はそこまで自分を犠牲に出来るのか。何故君は俺に出来なかった事が出来るのか……堪らなく悔しかった」

八幡「俺にはお前みたいな奴は欲しいもんは今まで手に入っているモンだと思ってたがな……」

葉山「……恵まれているように見える者は君の言うように何でも手に入る訳ではないさ。誰だって手に入れられないものがあるし、苦悩だってある」

葉山「そして比企谷、君にもそれが当てはまる。だが君は僕達が持っているものは手に入れられない」

八幡「喧嘩売ってんのか……」

葉山「……君はもう分かっているんじゃないのか。自分が何を持っていてそして……自分が何をすべきなのか」

八幡「……」

葉山「一応喧嘩を吹っ掛けた事は謝るよ。済まなかった」

八幡「一応って、お前謝る気無いだろ。……クソ、喧嘩なんて距離の近い奴同士でやる俺には縁の無いものだと思ってたんだがな……」スタスタ

八幡「……手間を掛けさせて済まなかった……その、ありがとう……」

バタン

葉山(喧嘩……か。俺だっていつも周りばかり気にしているような奴が自分から吹っ掛けるとは思わなかったさ……)

葉山(頑張れよ、比企谷)

八幡(まだ……二人はまだ校内にいるはずだ……)タッタッタッタッ

八幡(だが今の俺じゃどこにいるのか分からない二人を校内にいる内に引き合わせるのは難しい……)

八幡(ただ一つの手を除けば。虫が良すぎるかもしれないが……)

職員室

コンコンガチャ

八幡「失礼……します。ゼェ……ゼェ……平塚先生は……いますか……」

平塚「比企谷!?どうしたんだその傷は!」ガタッ

八幡「ひ、平塚先生……昨日はすみませんでした……」

平塚「いきなり頭を下げてどうした?それと昨日の事はもういい……」

八幡「……勝手なのを承知でお願いがあります」

奉仕部部室

雪乃「……」

結衣「……」

ガラッ

平塚「来てくれたか二人とも」

雪乃「平塚先生、一体何の用でしょうか?いきなり校内放送を使って呼び掛ける程大事な用なのですか?」

平塚「ああ。奉仕部の存続に深く関わる大事なことだ」

雪乃「……」

平塚「その為にもある人物から話がある。入ってきたまえ」

ガラッ

八幡「……」

雪乃・結衣「……!!」

結衣「ヒッキー……」

平塚「後は彼に任せるよ。私は仕事に戻る」

平塚「比企谷、もう自分から……傷つく必要は無いからな……」ボソッ

ピシャ

八幡「……」

雪乃「……何の用かしら?あなたは……私達のことが……嫌いだったのでしょう」

八幡「ああ、確かに嫌な時は沢山あったな。割とイケメンなのに目の事を執拗に言われたりとか、トラウマを無造作に掘り返されたりとかマジで傷ついたさ」

雪乃「……」

八幡「だが俺は嘘をついた。嫌な部分も確かにあった……だがそれが辞めた理由じゃない。んなモン昔から散々言われまくったからな」

結衣「それじゃあ、やっぱり……」

八幡「ああ。俺は昨日あの時、お前達の話を聞いた」

雪乃「……!」

八幡「正直夢みたいな話だったさ。学校でも一二を争う美女二人が俺に好意を向けてくれてることが明確になったんだからな。問題は……それを二人が気付いてしまったことだ」

結衣「……」

八幡「……そして、俺がそこから逃げ続けてきた事だ」

結衣「……!」

八幡「俺は今まで逃げ続けてきた。そして今度は全てを捨ててまで逃げようとした。結果、俺は雪ノ下と由比ヶ浜を傷つけた……」

雪乃「……」

結衣「……」

八幡「だが俺はもう逃げない、逃げたくない。この奉仕部での時間を失いたくない。だから俺はここで……雪ノ下と由比ヶ浜に解を出す」

雪乃・結衣「……!!」

結衣「ヒッキーそれって……」

雪乃「あなたは……私達の内の誰かを……」

八幡「ああ、そうだ。それが俺自身が編み出した俺の為の俺の答えだ」

八幡「俺は雪ノ下も由比ヶ浜も受け入れることはできない。そして奉仕部を辞める」

雪乃・結衣「!!」

結衣「なんで……ヒッキー奉仕部での時間を失いたくないって……」

八幡「もし俺があのまま全てをうやむやにしてしまえば、俺達が過ごした時間は完全に無駄になる。俺はここで明確な答えを出したかった」

八幡「何よりお前達が俺のせいで争う必要は全く……」

パーン!

八幡「……ッ!」

雪乃「思い上がるのも大概にしなさい、比企谷君」

八幡「雪ノ下……」

雪乃「確かに私は戸惑ったわ。私が初めて好意を向けた相手は私の友人が好きな人だった。私は私の好意を通すことで由比ヶ浜さんに拒絶されてしまうことが怖かった……」

結衣「ゆきのん……」

雪乃「確かにあなたの言う通りだわ。逃げていれば私達の過ごしてきた時間は無駄になる。だから私は全力であなたに好意を通す。でも勘違いしないでほしいの」

雪乃「私はあなたの為に争うつもりは毛頭無いわ。何故なら私は、全て自分の為に行動したいと……そう決めたから」

結衣「それなら私もヒッキーに言わせてもらうよ」

八幡「由比ヶ浜……」

結衣「私も最初はどうすればいいか分からなかった。ゆきのんと争うのが嫌だった。だけど今は違う。私はゆきのんに……ヒッキーに真っ向から立ち向かいたい!」

八幡「!!」

結衣「そしてゆきのんを拒絶なんて絶対にしない。そりゃあ、たまには怒ったり憎んだりゆがみ合ったり傷ついたり嫌いになったりすることもあると思うけど……」

結衣「でもそれを全部含めてゆきのんと付き合っていくというか……受け入れるというか……」

雪乃「由比ヶ浜さん……」

結衣「だからヒッキーがそれを気にするのは間違っているんだよ!」

雪乃「由比ヶ浜さん、正しくはゆがみ合うではなくていがみ合うよ」

結衣「あれ、そなの?」

八幡「……」ボーゼン

雪乃「……これで分かったでしょう、だからあなたの退部願は却下」

八幡「どうしてそうなる」

結衣「ヒッキーはアプローチしてもなんかゴチャゴチャさせてうやむやにしちゃうから」

雪乃「だから私達が比企谷君が遠くに行かないようにしっかり手綱を手にしておかなければならないのよ」

八幡「大昔の地球自転説並に話がブッ飛んでないかそれ……」

雪乃「あなたにはこれが丁度いいのよ」

結衣「もう二度と繋がりを断ち切るようなことは言わせないんだからね!ヒッキーが何度離れても私達は何度でも近づいていくから!」

八幡「それなんてストーカー……」

結衣「ストーカーじゃないしっ!」


平塚「なんだ、やれば出来るじゃないか……あの子達は……」


結衣「これから皆でサイゼ行かない?」

八幡「金ねぇよ……」

雪乃「あなたにはスカラシップが……」

翌日・廊下

八幡「お……」

葉山「あ……」

八幡「……傷、大丈夫か?」

葉山「大したことは無いさ。ヒキタニ君こそどうだい?」

八幡「おかげさまで」

葉山「そうか……良かった」

葉山「……こんな事を言うのもアレだが、やはり俺は君を受け入れられそうにない」

八幡「別に無理矢理受け入れる必要は無いだろ。金子みすずの詩でもそう言ってるだろ」

葉山「みんな違ってみんないい……か。確かにそうかもしれないな」

八幡「個性がそれぞれあるのにそれを無理矢理単一化させる必要は皆無だからな」

葉山「君の社会への適応力も相変わらずだな……」

八幡「生憎これが俺のアイデンティティーでね」

葉山「ハァ……それじゃあまた明日、学校で」スタスタ

八幡「おう、じゃあな」スタスタ

青春とは嘘である。どのような結果にも良くも悪くも何かしらの理由を付けてそれらが青春の一ページであるかのように自らをだまくらかしている
青春とは悪である。青春の名の下に自覚無く自分勝手に行動し周りに迷惑をかけまくる。そしてそれらが蔓延している
なら俺の場合はどうか?答えは簡単だ。青春とは夢である。誰もが思い描く限られた時間。そしてその誰もが知らず知らずの内に青春を謳歌している。その誰もの中に俺が入っているのは明白だ
そして夢であるからこそ人は無計画に思ったことをやれるしうなされもする。そして夢である以上、必ずいつかは目が覚める。なら目が覚めるまで、この青春を謳歌しようじゃないか。そして目が覚めた後、俺はこう思い返すであろう……

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

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