『おにいちゃん!』 僕「……妹?」 (75)

……冷たい。暗い。
目が覚めたとき、最初に感じたのはそれだった。

寝ていたか。
体を起こす。
空気が湿っているのに気付いた。
ひんやりとした土の香りもする。

……体の後ろが痛い。どこに寝ていたんだろう。
地面に手を当てる。
……しっとり。それでいてやわらかく、少しざらつきがある。
たぶん、土の感触。

辺りを見回す。
……暗くてよく見えない。けど、見えないわけではない。少ないけど光源はあるかな。

見える限り壁?で遮られているから。閉じた空間かもしれない。

僕「ここはどこだろう……」

僕は暗い部屋にいた。

―――――
――――

部屋と聞くと人工的な立方体を思い浮かべると思うけど、ここは違う。
この部屋は球体だった。

あの後、暗闇に目が慣れてくるにつれわかったことだ。

球体と言っても不完全なもので、傾斜が緩やかな楕円状で形としては横にしたレモンの果実に近いだろう。
大きさはあいつが乗っていたワンボックスカーを一回り大きくしたくらいで、天井は近い。でも頭にぶつかるほど低くはない。
不自然な形をしているから、たぶんここは作られた空間。高さについては部屋を作った存在に感謝するべきかな。
いや、部屋を作った存在がいるのなら、それは僕をここに閉じ込めた存在と同一の可能性が高い。恨みこそすれど感謝はおかしいか。

光源だけど、上に30cmほどの穴が見えていて、そこから入ってくる月の光だった。

30cmといっても目視での大きさだから実際の大きさは違うと思う。かなり上かそれとも案外近いのか、わからない。

穴の開き方は、先ほどのレモン形の部屋の説明で、2つあるでっぱりの片方がレモンより斜め上のほうに位置し、それが斜め上に伸び続け「地上」に貫通し穴になっている感じ。


ああ、そうだ。

この部屋だけど、床はもちろん壁面と天井も軽く固められた土で、この場での最も強い匂い。土の香り。それに湿った空気。


たぶん、ここは地下だ。

まずいな。

地下ということは、自然に水や食料を得るのは難しいと思う。

それに一緒にいた―――はまだ小学生になったばかりだ。体力がもたな……。あれ、―――って何だっけ?


……まあいいか、この部屋の壁面は固められてはいるけど、幸い頑張れば素手でも崩せるくらいの強度だ。

穴が斜め上に位置しているのもあり、素手で掘るのは痛いし嫌だけど程よい大きさの石があればなんとか脱出できるかもしれない。

石が見つからなくても身につけていたベルトのバックルを使えばいいし。

……そういえば持ち物の確認を忘れていた。服は着ている。普段よく着ている組み合わせだ。ベルト着き。愛用しているショルダーバックはないか。ポケットには充電の切れた携帯と、―――が好きなイチゴのお菓子が、いくつか。

ついでに体調。特に怪我はしていない。強いて言えば、地面に寝ていたせいで背中や後頭部が痛いくらいだ。

あと、寝てる間にぶつけたのか首の後ろにも違和感がある。かゆい。

だがそれだけ。手足は万全だし、脱出するのに問題はないだろう。


自分の状態の把握もできたことだし、周囲に何か役立つものがないか確認しよう。

―――――
――――

結論から言うと、脱出に役立つようなものはなかった。

石はサイズの小さいものしか見つからず、土を掘るのに適していない。

他にも木の枝や何かしらの人工物など探したが見つからなかった。バックルで掘るしかないようだ。


だが、壁や天井から木の根が少しづつ突き出しているのがわかった。引っ張ってちぎれば食べられるかもしれない。でも毒があるかもしれないから、試すのは最終手段にしておく。

他にもよくわからない虫やミミズ、果実も見つけた。かなり大きいやつだ。これも食べられるかもしれないが後にしておこう。

虫は足をもぎ、ミミズは頭をちぎっておく。果実は日が経っているいるのか、微かな腐敗臭がしていた。

幸いムカデやヘビ、ネズミやモグラはいなかった。別に嫌いではなかった筈だが、何故か今は思い浮かべるだけで気持ち悪い。見つけたらすぐに殺さないと。


最後に見つけたのは、奥の壁面に楕円にくぼんだ箇所があって、その奥に隠されるようにしていた。


妹だった。

どうして忘れていたんだろう。僕には妹がいたんだ!

お兄ちゃんは大事な妹を守らなきゃいけない!

すぐに探さなきゃいけなかったのに。僕はお兄ちゃん失格だ。

でもだからっていじけていられない。これからは妹をちゃんと守っていかないと。

妹はまだ眠っていた。かわいい。

眠ると言っても地面じゃなくて、くぼみにくっついているゆりかごの中でだ。

ゆりかごは細長い楕円形で、僕がギリギリ手で抱えられる程の大きさ。(そう、―――のランドセルより少し大きい位)まるで薄めのミルク寒天みたいに半透明に透き通っていて、濡れてるせいかぬるりとした光沢がある。うなじが痒い。

暗い闇の中で、微かにぼうっと光って見える白いゆりかごを見ていると。不思議に心が落ち着く。

指先で少し触るとぷりぷりしていて、中にいる妹はとても気持ちよさそうだった。

僕「早く起きないかな……」

僕「……」

僕「いや、それだと寝顔が見れないか」

僕「……」

僕「……」

しばらく妹の寝顔を堪能しているとお腹が空いてきた。何か食べようか。

正直、一番おいしそうなのは果実だ。熟れたとも腐敗しているともとれる臭いを発していて、それが食欲をそそる。
大きさは妹のゆりかご以上だから量は十分にあった。でも一つしかないし、一口でも口をつけたらそこから一気に腐るだろう。妹にはなるべく新鮮なものを食べさせたかった。

これは妹のためにとっておくことにする。

僕「……」

僕はミミズを食べることにした。

木の根はしばらく腐らないだろうし、足をもいだ虫も同様だ。だが、ちぎったミミズはすぐ腐るだろう。早く食べてしまったほうがいい。

さっき頭をちぎったとき、ミミズは肉が張り詰めてびちびち跳ねていたが、今は肉も萎え弱弱しく地を這いずるばかりだ。
そのミミズを指先で摘まむ。ミミズは既に抵抗する力もないようで、少しだけ首を振ったのみ。
僕は上を向いて口を開け、ミミズをのどの奥に落とした。そのまま溜めておいた唾液と一緒に丸呑みにする。

久しぶりに口にしたミミズは、昔と同じ、土の味がした。

その後、僕は3匹分のミミズを食べた。

ミミズが好きな訳ではない。むしろ嫌いだ。あの時から二度と口にするつもりはなかった。
それでも食べたのは固い殻のついた虫よりは食べやすかったからだし、ミミズ自体もそう不潔な生き物ではないからだ。比較的ね。

何より、もう―――にあんな思いはさせたくなかったから、だからこれは僕の役目なんだ。
うん?―――ってなんだよ。僕が守るのは妹だ。僕には妹しかいない。
首が痒い。

僕「……ふぁ……眠い」

結局今日は大したことはできなかった。
少しでも体力を温存するために寝ることにする。

そうだ。最後に妹の寝顔をもう一度見ておこう。

「……」

僕「おやすみ……妹……」

「……」

やっぱり寝ている妹はかわいい。

半透明で、細いけど柔らかそうな頬。繊細な凹凸が美しい背中。白く瑞々しい肌。優しい曲線を描くお尻。何もかもが愛おしい。

僕「…………」

僕は寝顔を堪能した後、ゆりかごのすぐ近くの壁にもたれかかり、眠った。

―――――
――――

僕が目を覚ましたとき、ちょうど妹も目覚めるところだった。

身じろぎする妹の動きに合わせてゆりかごが震える。

妹はゆっくりと、だが力強く動いていた。ここから出たい、という意志を感じ取れる。

だが、これは僕が手伝ってはいけない。わかるのだ。何故かは知らないけど。

「……」グネグネ

僕「……がんばって!」

「……!」グネグネ

心の中で言っていた言葉を、思わず口に出してしまう。

僕の言葉が届いたかはわからないが、それを機に妹の動きが激しくなる。

そのまま格闘を続けて30秒程だろうか、ぶしゃ。と音がして、ついに妹の黒い歯が膜を突き破った。

ゆりかごは破れた部分を中心に半分ほどが裂け、中からゼリー状の液体がでろぉと溢れ出す。
びちゃ、ともぶちゃ、とも聞こえる音を立てゼリーがくぼみに溜まっていく。

その中に妹はいた。

目覚めたのだ。


僕「…………っ!」

目覚めたばかりの妹に、僕は見惚れていた。

既に夜は明けたようで、部屋は先ほどより少しは明るい。
部屋の中にあるその光が、くぼみに横たわる妹の身体をてらてらと光らせて。

その病的なまでに白い柔肌を、食べ物が収まるとは思えないほどに小さな口を、口の奥にうっすらと見える黒い歯を、一見すると無に等しいが確かにある体の凹凸を、透けて見える内臓までもを。

薄暗い部屋の中、微かな朝日で照らされるさまはどこか背徳的で、でもそれ以上に生命の美しさに溢れていて、僕を静かに、しかしどうしようもなく熱く興奮させた。

10分か5分か、いや5秒にも満たなかったかもしれない。
でも、それは僕にとってものすごく長く感じられた瞬間だった。

ふと我に返ると、妹は震えながら身体を起こそうとしていて。
同時に妹から言葉にならない何か、切迫した不足感のようなものが流れてくる。

それを受けて自分の役割を思い出した僕は、部屋の隅へ小走りに向かう。


僕「…………っと!」


置いてあった一抱えもある果実を両手に抱き妹の元へ戻り、そのまま降ろした。


食事だ。

僕は食事の準備を始めた。
妹は腹を空かせているだろうが、少し待って貰わねばならない。

果実は奇妙な、およそ植物とはかけ離れた外見をしている。
綺麗に、無駄なく食べるには少し下ごしらえが必要だった。

まずは、外皮が変化したものだろうか。
身を覆う色彩鮮やかな皮を剥ごうとするが、なかなか剥げない。

しかし生物学的な役割上食べられないのはおかしいから、方法はあるはずだ。
構造をよく見ると、これは剥ぐよりそれぞれのパーツを別の方向に引っ張るのがいいのに気付いた。

それがわかれば簡単なもので、僕は皮を次々剥いでいく。
皮は大小に加え形にもバリエーションがあり、色は桃色や水色とか。赤と白のストライプ模様もある。

見方によっては毒々しい色だ。
だがなぜだろう、僕は果実に毒がないのがわかっていた。

―――――
――――

全ての皮を剥いだ。妹が待っている。


僕「もうすぐだからね、妹」

「……」


最後の仕上げとして、妹が食べ始める部分を作らなきゃいけない。

果実の一番おいしそうな部分、先端に位置し突き出たこぶになっているところ。
僕はそこに嵌っている2つの栓を見つめた。

栓の片方に指を差し込み、引き抜く。

ここだけは植物らしく、栓には紐状の繊維が繋がっていた。
力を入れて引っ張ると繊維はぶちっ。と音を立てて切れた。少量の果汁が飛び散る。

果実に孔が開いた。

生臭い果汁と微量の酸っぱい腐臭の入り混じった香りが漂い始め、妹は食事を察したのか嬉しそうに震える。


僕「ご飯ができたよ」


栓を置くと球状のそれはころころ転がったが、濡れた繊維が地面にへばり付き、止まった。

妹は触覚と嗅覚が発達しているが、視覚がない。

その為、食事もある程度は僕が助けなければならない。


僕「はい、食べていいよ」


僕は果実を手に持ち、あまり傷めないように気をつけながら妹の口元まで引きずる。

妹はくぼみから頭を出すと、躊躇なく孔に口先を挿し込み食事を始めた。

「……ずっちゅずっちゅ」

僕「おいしいかい?」

「ずっちゅ……じゅるるる」

「じゅるじゅ…る……くちゃくちゃ」

僕「おいしいみたいだね。よかった」

「じゅるっじゅるる…る……じゅる」

「じゅ…くちゅ…ぐっちゅぐっちゅ」

「ずりゅっちゅるっ…ちゅ………じゅるるっ」

僕「……」


妹からは食事にありつけた歓喜、満たされていく充足感、しかしまだ足りないと叫ぶような空腹感が伝わってくる

食事に夢中のようなので、僕は邪魔しないようしばらく話しかけないことにした。


べっ別に無視されたのが悲しかったとかじゃないんだからねっ!

―――――
――――

僕「……」ガシガシ


妹の食事はしばらく終わりそうにない。

僕はその間、壁面にバックルで足場を掘り、脱出の準備をしていた。

だが、天井に近づくにつれ壁面は内側に歪曲し、ついには体が落ちそうな程曲がっている。
まだ体力の残っている今なら、四肢に力を入れて踏ん張れば登っていけるかもしれない。

だが、まだ目覚めて間もない妹は登れないだろう。一か八か、僕が背負って登るという選択肢もあるが、それは危険すぎる。
足場といっても土壁に小さな穴を開けるだけだ。僕一人の体重を支えるのにも不安なのに、妹の体重も加えるとなるとおそらく支えきれない。
試しに挑戦するにしても、僕だけなら失敗して落ちてもいいが、妹が落ちたら取り返しがつかない。まだ小さいのだ。

他の方法を探さなくては。

僕はしばらく唸っていたが、気づくと部屋が静かになっていた。

食事が終わったのだろうか。
妹の元へ向かう。

くぼみの傍には一通り食べ終えた果実が置いてあり、濃厚な鉄に似た香りが強くなる

果実から抜いた栓も嵌めたままだった栓も消え、こぶに開いた孔は2つに増えていて。
覗き込むと、こぶの中身は空っぽだった。

内側には妹の唾液だろうか、赤の混じる透明な液体が塗り付けられ、果実の白い内面をぬらぬらと光らせていた。

どうやら妹はこぶに詰まっていた果肉と果汁、おまけに2つの栓も残さず食べ、
それでも足りなかったのか果実の内側を隈なく嘗め回したようだった。

食べ疲れたのだろう。

妹はくぼみの中、赤い果汁の混じるゼリーの海に全身を浸し、気怠るげに横たわっていた。


透けて見える内蔵には、咀嚼され液状になったものがはち切れんばかりに詰め込まれていて。


深紅の果汁に暗赤色の果肉。

混沌と混ざり合うなかに桃色のぷりぷりした果肉が見え隠れし、

その全てが妹の呼吸に合わせうねるように撹拌されていく。


かつて穢れなく透き通っていた青白い肌は、果実から溢れ出た血潮で汚されており、

純粋だった妹がこの世の摂理に染まったしまったことを示していた。

僕「……」

眠っているからか煙のように曖昧な妹の意識、
そこから深い充足感と満足感のようなものを感じ、僕も満足する。

僕「あれ?」

入りきらなかったのか、ゼリーの中からお尻だけ突き出している。かわいい。

「……」

僕「頭隠して尻隠さずって、こういうことを言うのかな」

「……」

「……」

「……」モゾ

知らないうちに気を張り詰めていたのだろうか。
妹が眠りについてすぐ、僕の意識が重くなってきた。

まだ起きてから半日も経っていない。なるべく食事や脱出の手段を考えたかったし、妹を無防備なままにしては危険だと思った僕は眠気に負けまいとする。

しかし、それは暗闇の人攫いのように音もなく忍び寄り、無力な僕を馬車に押し込め無意識の霧に消えていった。


僕「……」

―――――――――――――
――――――――
―――――
――

赤いものが揺れている……なんだろう?…………
………………赤い……四角…………

…………ランドセル……?


妹「おにいちゃん!」


妹の声が聞こえる……


妹「おにいちゃん!」

妹「はやく!」フリフリ

僕「………」

妹「おにいちゃんってば!」クルッ


僕「……えっ?」


妹が僕の目を覗きこんでいた。

妹「はやくおしえて!」

妹「かわいいよね?」

妹「ランドセル!」


赤いランドセルを背負っている。

そうだ。

僕が探してきたランドセルだ。

お下がりのを頼んで譲ってもらった。

妹「かわいいでしょ!」

僕「うん」

僕「とってもかわいいよ」

僕「似合ってる」

妹「ほんとう?」

僕「ほんとうだよ」

妹「やった!!」ガチャンガチャン


飛び跳ねて喜ぶ。

大げさだ。

妹「もっとみて!」クルッ

妹「かわいい?」

僕「うん。かわいいよ」

妹「ほんとう?」

僕「ほんとうだよ」

妹「うそじゃない?」

僕「うそじゃないよ」

妹「やった!」ガチャンガチャン


テンション高いなー。

妹「じゃあねー?」

僕「うん?」

妹「……」

僕「どうしたの?」

妹「……あのね?」

妹「いもうとね?」


妹「プリキュアになれる?」

僕「……」

僕「うん」

僕「なれるよ」

僕「大きくなったらね」


妹「…やった!!」ガチャンガチャン

妹はプリキュアが好きだった。

僕も好きだった。妹が好きだったからだ。

それだけじゃない。

やさしい世界が、好きだったんだ。

―――――――――――――
――――――――
―――――
――


『………!』

『……ちゃん!』

『おにいちゃん!』

僕「……」

『おきて!おにいちゃん!』

僕「……ぁ…」

僕「……妹?」

『おはよう!おにいちゃん!』

僕「……おはよう」

僕「 妹 」


妹の声で目を覚ました。

昨日は一言も喋らなかったけど今日は大丈夫なようだ。

妹が話せるようになって、嬉しい。

『おにいちゃん!』

『いっしょにごはん』

『たべよ?』

僕「そうだね」

僕「ご飯を食べようか」

妹はくぼみの中にいる。

身体を横にしたまま、細く白い頭を僕に向けていて。

小さな口から黒い歯を出し入れしてご飯を催促する。

かわいい。つい頬が緩んでしまう。

僕は果実を確認する。

先端のこぶは中身が空っぽだが、本体にはまだ沢山果肉が詰まっている。

果実から生えている枝をむしり、妹には本体にできる断面から食べさせることにした。その方が食べやすいだろう。

枝は4つあり、太く長めと細く短めのものが2本づつ。細い方が助かるので後者の枝を選ぶ。

僕「……」グイッグイッ

僕「……」ググッ!

僕「……」ボキ

僕「……」

僕「……」グニャグニャ

細い枝をむしるだけなのだが、うまくいかない。

枝の外皮は非常に柔らかく一見むしるのは容易だが、中の芯のようなものが硬かった。力を入れると折れたが。

あとは柔らかい外皮だが、手で裂くのは大変そうなので口でする。

僕「……」カプッグイグイ

僕「……」ブチッ

僕「……」ドロリ

枝の根元から外皮を噛み千切ると、中から生臭い香りと共に果汁が溢れてくる。口元が赤く汚れた。

裂けた場所からは繊維状になっている桃色の果肉と、その表面にへばり付いているジェル状の白いものが見える。

僕「……」ブチブチ

指で裂けた箇所を掴み、広げる。

その度に果汁がこぼれ、僕と地面を汚していく。

芯だろうか、果肉の奥には白い硬質のようなものが何本か見えた。

砕けていたそれは、少しずれるたびにパキパキと軽い音を立てた。

枝が果実から完全に離れた。

僕は果汁を垂れ流す枝を置き、少し果実を持ちあげる。

枝が取れても果実は重い。
安定させるには片手を下に差し込み、もう片手を添えなければならない。

間違えて妹を下敷きにしては大変だからね。

僕は、抱えたそれで果汁で服を赤く染めながら、妹に向き直る。

そして、十分な量が出たのか、果汁の勢いが減りつつある断面を向け、差し出した。


『ありがとう!おにいちゃん!』

『いただきます!』

「……ぐじゅ、じゅる」

「じゅるっ…る…るるるっ」

我慢していたのか、妹は勢いよく断面に口先を挿しこみ、食事を始めた。

喉の奥で果実を咀嚼し、飲み込んでいく。

その動きに合わせ妹の体全体が脈動し、食事の喜びに震えているように見えた。

先ほどの食事を消化しきらず残っている袋状の器官に、食べている赤が流れ込んでいく。

それに合わせて中身もシェイクされ、まるで妹の中に赤い生き物が鼓動しているようだ。

「くちゅくちゅ……っ…じゅるっ」

『とってもおいしいよ!おにいちゃん!』

「じゅっ……ぶじゅるるっ」モゾゾ

「ぐちゅぐちゅ……ちゅっちゅるるっ……ちゅっ」

『とってもおいしいよ!おにいちゃん!』

「ずちゅ…る…るるるるっぶしゅっ…」

僕「おいしいか」

僕「よかった」

「ずりゅりゅっ……ちゅっちゅるっるっ」ズルル

僕「妹に喜んでもらえて、嬉しいよ」

僕「お腹一杯食べような」

『とってもおいしいよ!おにいちゃん!』

「ぶちゅるっ……くちゅちゅるっ……」

妹は果実に夢中だ。

既に断面周辺の果肉を食べつくしていたが、奥にもっと果肉が残っている。

しかし、僕が手伝う必要はない。

こういう時、妹の小さく細い頭は便利で、そんなに大きくない断面にするりと体を挿しこみ食している。

やがて体全体を果実の中に滑り込ませ、中身を食べつくすだろう。

僕「……」クキュゥー


お腹が空いた。

僕もご飯を食べようか。

さっきは千切った枝を食べるつもりだったが、妹の食べっぷりを見て気が変わった。

枝も妹の分にして、僕は木の根と昆虫を食べよう。



保守してくれた方、ごめんなさい。ここまでです。
プロットは組んであるので、後日絶対に完成させて投下します。

あと、その前に一度推古します。地の文って減らした方がいいですか?

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