レヴィ「ヨルムンガンド?」(180)

――○月×日、海上

ココ「はぁ~。やっぱ気が乗らな~い」

レーム「どーしたココ。今日はやけに溜息が多いな」

ココ「ん~? 今回の仕事よ。やっぱどー考えても釈然としないのよねぇ」

バルメ「ココはマフィア相手の仕事が大嫌いでしたよね。私が独断で抜けていた時も大変だったと聞きましたよ」

ココ「う~ん。あれはあの後がちょいと面倒だったってだけよ」

キャスパー『取引先はあの有名なコーサ・ノストラ。向こうに着いたら約束の日時にコンテナ丸ごと引き渡してくれればそれでいい。マフィアだが金はきっちり支払ってくれる連中だ。それは僕が保証するよ』

ココ「君と出会った頃を思い出すな。ウゴ。」

ウゴ「コーサ・ノストラはよく知ってますよ。国じゃ最大勢力だった。っていうか、お嬢。よく今回の仕事を引き受けましたね」

キャスパー『頼むよ、ココ。一生のお願いだからさ』

ココ「う~ん。嫌ではあったんだけど、あのキャスパー兄さんが〝一生のお願い〟だなんて言ったの初めてだったから。それがちょっと気になっててね」

ルツ「まさか、重い病気を申告されて余命幾許もない状態とか!?」

ココ「ははっ、まさか。殺しても死にそうにないあの兄さんに限ってそれはあり得ないっしょ。まっ、どうあれ考えても仕方ないけどね」

ワイリ「でも、ココさんが気乗りしないというのもわかりますよ。今回は何より場所がヤバ過ぎる」

レーム「俺たちがスムーズに動けば難なく終わるでしょ。サクサク終わらせて速やかに離脱。まっ、何かあったらそれはそれでってね」

マオ「そろそろ陸が見えてきますよ、ココさん」

ココ「さァて。一仕事行くとするか諸君! 魅惑の魔都、ロアナプラへ!」

全員「ウェ~イ」

トージョ「……あの、ヨナくん知らない? また授業に出てないんだけど」

――ラグーン商会事務所

ロック「なんかさ、近頃街が騒がしくないか?」

ベニー「なんだいロック。藪から棒に」

ロック「さっき街に買い物に行ったんだけど、なんかギスギスしてるって言うかさ」

ダッチ「そいつは俺も感じてたぜロック。街が妙に殺気立ってやがる。良くねえ空気だ。まるで今日明日にでもひと嵐来そうな雰囲気だったぜ」

ベニー「そいつは剣呑だなぁ」

ドゴォォォン!!

ベニー「――って、言ってる側から! なに今の爆発音!」

レヴィ「やばいやばいやばいやばいぞ! みんな!」

ロック「どうしたレヴィ!」

レヴィ「どうしたもこうしたもねえ! 三合会とコーサ・ノストラの連中がカチ合ってンだよ!」

ベニー「こんな真昼間にかい!?」

レヴィ「とにかくメチャクチャだぜイタ公の奴ら。RPGやらベレッタの新型。終いにゃ装甲車まで持ち出しやがってよ。おかげで三合会事務所の周りはあっという間にキリングフィールドだ」

ダッチ「おいおい冗談じゃねぇぞ。一切合財巻き込んで戦争でもおっ始めようってか、チクショウ」

ロック「それで、張さんは無事なのか!?」

張「今ンとこ、なんとかな」

張「まあ、話は今トゥーハンドが大方話した通りだ。いや参ったよ。ケツをローストされかけたのはこれで二度目だが、やっぱり慣れんな」

ダッチ「今回は何やらかしたんだい? 張さん」

張「よしてくれダッチ。俺たちはイタ公たちに何もしちゃいねぇよ。向こうが勝手にコッチに銃口向けてエレクトしてきたのさ。逆にこっちが理由を聞きたいね」

レヴィ「しっかしまー、よくあの中を無事でここまで来れたな、旦那」

張「まったく勘弁して欲しいよ。ああも四方八方から鉛の雨が降ってきちゃ命がいくつあっても足りないよなぁ。命は拾ったが、おかげで銃倉(こいつ)はカラだ」

カシャンカシャン

レヴィ「あの鉄火場をその得物だけでここまで散歩してきたのかよ!」

張「武器は良いモンを揃えたらしいが、扱う輩がポンコツじゃあ犬も殺せんよ。いや、準備運動ナシでいきなりドンパチは流石にしんどかったがな。俺ももう歳かねぇ」

張「まっ、お前たちには迷惑はかけねえよ。タバコを一服したら出て行くよ」

レヴィ「旦那にゃこの前の借りがあるからな。今度はあたしがそこまで送ってくぜ」

ジャキッ

張「恩に着るよ。トゥーハンド」

ロック「……」

ダッチ「良くねえ顔だな。ロック。お前がそういう顔すると決まってロクなことにならねえ」

ロック「心配ないさダッチ。ただ……考えていた」

ダッチ「ほう? そいつは神妙な面を下げてテキサスタワーばりの銃乱射パーティーへ繰り出す算段か?」

ロック「いったいイタリアンマフィアたちはいつの間にこれだけの武装を揃えたのか」

張「良い疑問だ。ロック」

ダッチ「よしてくれ張さん。またメイドの時みたいにおかしくなっちまう」

張「まあ聞けよダッチ。実は俺も誰かに話したくてここに寄ったようなもんだ。連中が前々からうちの縄張りでちょっかい出していたのは知っていた」

張「だが、別段驚異でも何でもなかったから今まで見逃してやっていた。だが、今回ので俺は自分の〝寛容さ〟を反省したよ。それですぐさま部下に情報を集めさせたんだが、そこでおもしろいことがわかった」

張「暴力教会のヨランダ婆に確認を取ったんだが、連中からの武器の注文は記録には無いそうだ。加えて、連中の本部からの支援物資や貨物の受け渡しも裏のリストにはなかった」

ロック「それって……まさか!」

張「ああ、そのまさかだ。この街で俺の許可なく連中に武器を売り捌いた輩がいる」

張「連中に武器を捌いたマヌケ共の大凡の目星は着いた。昔の商売柄、お前も顔は知ってるだろうよ」

パサッ

ロック「!? HCLI社アジア部門担当キャスパー・ヘクマティアル」


張「今回はそいつの妹が直接イタ公どもと取引をしたらしいんだが、誰が当事者かはもうこの際どうでもいい。俺はな、ロック。商売柄鉛玉を喰らうのは許せるがテメェの面に唾を吐きかけられるのだけは我慢できねぇんだ」

ロック「馬鹿げてる! 相手はあのHCLI社ですよ!? あなたほどの人間なら彼らの組織がどれだけ強大で凶悪かをよく知っているはずだ!」

張「それでもだ。ここはロアナプラで、俺が三合会の張維新である以上、そいつは変わらない。何があってもだ」

張「そこでダッチ。ここからはビジネスの話なんだが、今からきっかり三十分後に三合会本部から増援がやってくる」

ダッチ「ああ、わかってるよ張さん。俺が頭痛薬を飲んでるうちにとっとと武器と弾薬を持ってってくれ」

張「話がわかるやつは大好きだ。それと、武装ついでにトゥーハンドも貸して欲しいんだが」

ダッチ「女をダンスに誘うのに男の許可はいらねえさ。エスコートさせてもらえるかどうかは本人に直接聞いてみたらどうだい?」

レヴィ「もちろんオーライさ旦那! あたしがどれだけ腕を上げたか大いに見てもらおうじゃないか。テメェも着いて来いよロック!」

張「決まりだな。そんじゃ、イタ公どもと乱チキパーティーセッティング野郎どもにこの街の流儀を脳天に直接叩き込んでやろうじゃないか」

――ロアナプラ。とあるレストラン。

ココ「いんやー、思ってたよりすんなり取引が済んで良かったよかった。みんな、今日はじゃんじゃん食べてちょうだい!」

ルツ「お嬢! 酒もありッスか?」

ココ「駄目に決まってるでしょ! 今昼間よ。バーガーとスプライトにしときなさい!」

レーム「お前らは何飲むよ。ちなみに俺はバドワイザー」

トージョ「ここはやっぱハイネケンでしょ」

マオ「あ、ギネスもいいですね」

ルツ「ヨナ坊はまだガキだからジュースにしとけよ」

ココ「お前らこそジュースにしとけよっ! つか、人の話を聞いてなかったのか!?」

ドミニク(ああ。最悪だ)

ドミニク(アレクサンドリアでの一件後、この街に流れ着いて自分の店を設け、ようやく商売も軌道に乗りかけていたというのに、まさかここで奴らに出会うなんて……)

リリアーヌ「ウシュシュシュシュ! 見て見てボス・ドミニク! ウゴがいるよウゴ! ウゴウゴ~」

ドミニク「リリアーヌ。ここでは店長と呼びなさいとあれほど言ってるでしょう。いや、それはこの際良いとして何よりも良くないのはこの状況。嗚呼、眩暈がする……」

ドミニク(油断している今の隙に殺ってしまうか。いや無理だ。あの時は夜襲で一人ずつ殺る算段だったが失敗した。あの時不在だった二人まで揃っているとなると、もう勝率云々の話じゃない。死に損確定じゃないですか)

???「さっきから呼んでるのになんで誰も注文取りに来ないか。お客さんほっとくの良くないね」

ドミニク「ちっ、こんなときに……。リリアーヌ。奴らに悟られないようにあそこの三人組の注文を取って来なさい」

リリアーヌ「ほいほーい! ただいまお伺いしまーす!」

ドミニク(声がでかい……)

シェンホア「やっと来たよ。あと一分でも遅れてたらそのちっこい頭を皿に乗せて犬の餌にしてやるとこだったですだよ」

ロットン「シェンホア。可憐な少女に向かってその言葉使いは良くない。例え神が許しても、この俺が許さん」

ソーヤー「マた出タ……ロットンの……悪イ癖……」

グレゴワール「随分個性的なお客様ですね」

ドミニク「……我々も人のこと言えませんが、同感です」

ドミニク(そうだ。奴らを利用したら……)

リリアーヌ「注文取って来たよー。えーっとね。ペスカトーレとジャンバラヤと――」

ドミニク「リリアーヌ。良い所に戻って来ました。ちょっと店の裏からゴキブリの死骸を数匹取ってきてください」

リリアーヌ「いいけど、何に使うの?」

ドミニク「いいですか? ゴキブリの死骸を取ってきたらグレゴが作ったこのスープに入れてあの三人組にお出しして差し上げてください」

ドミニク「その際、『あちらのテーブルからです』と付け加えてください」

グレゴワール「せっかく三日かけて仕込んだスープなのに……」

ピリリリリッ

シェンホア「あいやー。この時間に電話鳴る珍しいね。あいあーい。いったい誰かー?」

レヴィ『よォ、シェンホア! 仕事だ仕事! 最高の儲け話だぞ!』

シェンホア「……お前の言う儲け話は〝くたびれ儲け〟の間違いないか?」

レヴィ『今回のヤマはでけぇんだって。スポンサーはお前の得意先、三合会だ』

シェンホア「……詳しく話す宜し」

ソーヤー「……ダ、だレカラ?」

シェンホア「あのアバズレからお仕事の電話よ。少し席外すますから先に食べててよいよ」

リリアーヌ「ボス! ボス・ドミニクぅ!」

ドミニク「どうしましたリリアーヌ。って、まだそれ持って行ってなかったのですか」

リリアーヌ「それが、なんていうか、さっきの中国系の女の人が電話しに外に行って、戻ってきたら既に殺る気まんまんなんだよね」

ドミニク「柳葉刀……。つか、どっからあんなもん持って来たんですか」

ロットン「どうしたシェンホア。物騒なものを持ち出して」

シェンホア「ご飯、もう来てるか?」

ソーヤー「イイえ。まだヨ……」

シェンホア「オゥ。それは好都合ね。朝飯前。否、昼飯前のお仕事よ。二人とも準備する宜し」

ロットン「女がいるのが気が乗らん」

シェンホア「ノーよ。クライアントはトライアドよ。お得意様大事にしない良くないね」

ソーヤー「早ク終わラせテ……ゴはん……」
ドゥルン! ドゥルン! ドドドドド!

ロットン「……致仕方なし、か」
チャキッ!

ドミニク「チ、チェーンソー……。奴らこの店ごと解体する気ですか」フラッ

リリアーヌ「ああっ、しっかりしてボス・ドミニク!」

レーム「なあ、お前ら気付いてる?」

トージョ「いや、気付いてるも何も……」

ルツ「中華ブレードとチェーンソーとモーゼル二挺構えたグラサン優男が殺気垂れ流しでこっちにやって来てるよな」

レーム「どうするね? ココ」

ココ「どーするもこうするも、「食事ご一緒しませんか?」って雰囲気じゃないでしょ」

バルメ「危ない! ココ!」

ギャキーン!

シェンホア「オゥ! 私の得物を小さなナイフで防ぐなんて。あちらさん、中々やりますだよ。ソーヤー!」

ソーヤー「任セテ……」

ギュィィィイイン!!

ココ「全員迎撃開始! 相手は三人だが油断するな! いつぞやのドミニク一味のようにイロモノの殺し屋だ!」

ドミニク「……耳が痛いですが、これは好機」

リリアーヌ「ウシュシュシュシュ! もしかしてぇ、もしかしちゃう?」

ドミニク「あの三人組に加勢します。二人とも準備してください」

ヨナ「ココ! 厨房から別の連中が撃ってきた!」

ココ「んがー!? 噂をすれば湧いて出たァー!!」

グレゴワール「……」
ジャキンジャキン!

ソーヤー「……」
ギャリギャリギャリ!

ルツ「高枝切りバサミと電ノコって。日曜大工ならどっか別んとこでやってくれってんだ!」
バン! バン!

レーム「気ぃつけろよ。そのデカイの防弾着込んでるぞ。そっちの女の子は知らんがね」

バルメ「あの中国人は私が相手します! ウゴはココを外へ!」

ウゴ「了解! さあ、お嬢。こっちだ!」

バルメ「中国人の二刀流を見るとどうしても古傷が疼きますね……」

シェンホア「? 戦いの最中に余計なこと考える良くないよ?」
ブンッ! ガキン!

バルメ「ちぃッ!」

シェンホア「オゥ! また防ぐとはなかなかやりますだね。クサレアマ」

バルメ(くっ……頬を掠ったか)

ココ「バルメ!」

ウゴ「お嬢。皆は大丈夫だから早くここから退避を!」

ロットン「そこの男。その穢れた手を放せ」

ウゴ「ちッ! そこをどけ!」
チャキッ!

ロットン「その純白の女神は貴様のような野獣めいた男が振れるにはあまりにも気高く、そして美しい。このロットン・ザ・ウィザード。美を守るためにこの銃を振るおう」

ウゴ「」

ルツ「おいおい、お前んとこのアイツ大丈夫か? 真昼間からキマり過ぎだろ」

ソーヤー「……アレは……いつモあんな感ジ」

シェンホア「可哀相な子よ。かまわずそっとしといてあげる一番ね」

ココ「……やばいツボった。アレすっげぇ飼いたい」

ルツ、ウゴ、バルメ、シェンホア「ええっ!?」

ドミニク(ヘクマティアル一行をここまで追い詰めたのは良いのですが、私の店がどんどん悲惨なことになっている……。俺はひょっとしたら、とんでもない選択をしてしまったのではないだろうか……)

リリアーヌ「ボス! ボス・ドミニク! ねぇってば!」

ドミニク「耳元でやかましく騒がなくても聞こえていますよ。何ですか」

リリアーヌ「さっきから気になってるんだけど、二人ばっかし足りなくない?」

ドミニク(アールくんが最初からいなかったのは気になってましたが、さっきまでいたはずのワイリとマオの二人もいないのはどういうことだ? 死体が転がっていないとすると……)

ドミニク「リリアーヌ。グレゴ。もうマズイどころの騒ぎじゃなくなりました。今すぐ撤退です」

リリアーヌ「撤退って、ここ私たちの店じゃん! どこ行くの!?」

ドミニク「ここ以外ならどこでもいいです! とにかく外へ! 店と心中したくないなら急ぎなさい!」

ココ「やあ、ドミニク」

ドミニク「くっ、ココ・ヘクマティアル!」

ココ「ホントに食堂を開いていたんだな。素敵な店じゃないか。外観も内装もセンスが良い。スタッフはアレだが、食事も美味そうだった。だからこそ私は非常に残念でならない」

ワイリ『ココさん。設置は完了しました。いつでもOKですよ』

マオ『こっちもスタンばってます。皆さんが出た後、奴らが出たらバッチリ狙い撃ちしてみせます』

ココ「フーフフ。よろしい! 全員、てったーい!」

レーム「ふーっ、んじゃ、さっさと行きますか」

ルツ「おいクソガキ。いつぞやのケツの礼はこいつでチャラにしてやるよ」

バルメ「もう少し遊んでいたかったですが、そろそろお暇します。生きていたらまたどこかで」

シェンホア「あっ、待つですだよ金ヅル! まだ勝負は――」

ココ「私からのオゴリだ。殺し屋諸君。心ゆくまで堪能してくれたまえ!」

ドカァァァァン!!

おなか空いた! ちょっとごはん食べてくる!

――暴力教会。礼拝堂

エダ「あんだってぇ! もいっぺん言ってみな!」

ショコラーデ『いや、だからココさんたちがそちらロアナプラへ行ったと。あ、あれ? マズかったっすか?』

エダ「マズかったに決まってるだろ! ようやく状況が飲み込めたよ。なんで三合会の張とレヴィたちがラチャダ通りを得物ぶらさげてパレードしてたのかを」

ショコラーデ『で、でもココちゃんたちの分隊も強いッスよ。マフィアなんかには負けないッス!』

エダ「イカレてんのかタコ! 誰が勝った負けたの話をしてんだよボケナス!」

ショコラーデ『ひ~ん! スケアクロウさ~ん、やっぱ電話かわってくださいよ~』

スケアクロウ『はあ!? 嫌だよテメェでなんとかしろ! 俺、あの女ニガテなんだよ!』

ショコラーデ『でもでもっ、完全に怒ってるんスよ~!』

スケアクロウ『なら、俺がかわっても同じだろうが!』

エダ「聞こえてんだよさっきから! そういう会話は受話器と声をおさえて言いな! つーか、さっさとまともに会話の出来るやつを出せ!」

スケアクロウ『い、いよう。イディス。久しぶ――』

エダ「本庁以外じゃシスターと呼べって言ってんだろバカタレ!」

スケアクロウ『だぁぁぁああ! 相変わらず超メンドクセェ!』

スケアクロウ『――っと、ここまでがキャスパーとコーサ・ノストラの取引の経緯だ』

エダ「状況はわかったが、相当マズイことになったぞ。絶妙なバランスで均衡を保っていたこの街の天秤が、HCLIのせいで今大きく傾いた。ヘクマティアルが敵に回したのは
この街の番犬だ。あいつらは自分の縄張りを荒らす輩を決して容赦しない。隙あらばCIA(あたしら)をファックしようって連中だ。ヘタすりゃ例のアンダー・シャフト計画も大きく狂うぞ。ブックマンは何っつってるよ?」

スケアクロウ『とにかく事態の収拾に努めろってよ』

エダ「おいおいおい、それにあたしも入ってんのかよ!? あたしゃ嫌だぜ? そんな危険で一銭の得にもならねぇ汚れ仕事するくれーなら、チアの恰好で賛美歌歌ったほうがナンボかマシだっつーの」

スケアクロウ『つべこべ抜かしても始まらねぇだろうが。俺たちも迷惑してんだよ。急にブックマンから電話があったかと思ったら、大至急そっちに行って現場の指示を仰げって言われてよ』

エダ「ジーザス……。あのファットマン。お荷物付きで面倒事を完全にこっちに投げやがった。今度会ったらケツにダイエットコークブチ込んでオフィスでブートキャンプ踊らせてやる」

スケアクロウ「俺たちはすぐにでもそっちへ向かうが、何かいるもんあるか?」

エダ「ねーよ、何も。せいぜい覚悟と聖書でもバッグに詰めときな。いや、ちょいと待った。あんたら、今どの辺にいるのさ?」

スケアクロウ「中南米あたりだが?」

エダ「ふぅ~ん。そうかいそうかい。そりゃ好都合。そいじゃあさァ。一つだけ頼まれてくんなぁい?」

スケアクロウ『なんだよ、気味の悪ィ声だしやがって。コーヒーでも買ってこいっつーのかよ』

エダ「いんや。犬には犬をってな。連れてきて欲しい奴がいるんだよ。いや、絶対に連れて来い。そいつがこの騒動を収める鍵だ」

スケアクロウ『て、てンめ。まさか!? フザけんなコラ! 命がいくつあっても足りねェぞ!』

エダ「ごちゃごちゃうるせーんだよタマ無し野郎。とにかく拉致ってでも連れてこい。こっちはしっかり神サマに祈っといてやっからよ」

スケアクロウ『お、おいっ! ちょっと待――』

ピッ!

エダ「……まっ、神はベガス行ったっきりまだ帰って来てないんだがね」

レーム「おーおー。相変わらず見事だねえ」

ヨナ「建物が内側に巻き込まれて、ジェンガみたいに崩れちゃった」

ワイリ「ココさんの指示通り、周りの建物に被爆させず店を全壊させました」

ココ「ナイスだワイリ! いい仕事だったよ~」

ルツ「さっきの奴らは生き埋めかなぁ」

トージョ「さあね。もし生き埋めだったら死んでないだけ御の字だろ」

ヨナ「ワイリやばい」

ココ「ほらほら、さっさと行くよ。こんな物騒な街じゃまともにお昼も食べられない。次はヨーロッパに戻って――」

張「レストランだったら良いとこ紹介してやろうか? 可愛い武器商人さん」

ココ「……ちっ、次から次へと。噂通りロクな街じゃないなここは」

ココ「兄さんにまんまとやられたわ。〝一生のお願い〟だなんて言っておいて、要はこいつらと揉めたくなかったから私たちに地雷を踏ませたのね」

トージョ「張維新。中国系マフィア三合会幹部のご登場とは」

ヨナ「でも相手は三人だよ? 数じゃこっちが勝ってる」

バルメ「ヨナくん。あなたも兵士なら覚えておきなさい。確かに戦闘とは人数や武装の優劣で勝敗は大いに左右されますが、そこにほんの僅かな油断や驕りがあってはその差を一気に縮められてしまう」

レーム「バルメの言うとおりだぞ、ヨナ君。少人数で乗り込んで来る場合はどこかに伏兵を忍ばせているか。もしくはとんでもなく腕に自信があるかのどちらかさ」

ココ「そのまたあるいはその両方とかね。とにかく、合図するまで全員待機。いいわね?」

ココ「あの有名な香港三合会の大幹部。張さんですよね? お会いできて光栄です」

張「妙な世辞は結構だ。ミス・ヘクマティアル。さて、ハラペコのところ悪いが少々時間をいただくよ。なあに、すぐ済むさ」

ココ「ビジネスのお話ならいくらでも。ですが、あいにく我々は鉛を食する趣味はありません」

レヴィ「ヘイ。口の聞き方に気をつけなホワイトねーちゃん。つまんねーゴタクひり出すその口に無理矢理でも詰め込んでやろうか? ああ?」

ジャキ!

ココ「頭と育ちの悪さが全身から滲み出てるぞバカ女。排気ガス並の口の悪さはまだ許せたが、ベレッタ92(そいつ)を抜いた以上もはや是非もない」

三合会構成員「張大兄! 俺たちも加勢しますぜ!」

ヨナ「あ、やっぱり手下がいた」

ルツ「くっそ! やっぱこーいう展開かよっ!」

レーム「はいはい、ボヤいてないでさっさと各員戦闘配備。速やかに敵さんを殲滅撃退してー」

バルメ「ココは私から離れないでください!」

――コーサ・ノストラ。タイ支部事務所。

スケアクロウ「胸糞悪ィぜ。クソっ!」

ショコラーデ「ス、スケアクロウさぁ~ん。皆さん死んでるんですか?」

スケアクロウ「ああ。見事に全員仏さんだ。噂にゃ聞いていたが〝あいつ〟はマジでイカれてやがる。檻を開けてまだ五分も経ってねえんだぞ。傘下組とはいえマフィアの事務所一つ壊滅させやがった」

エダ「いよーう。お二人さん。思ってたより随分早かったじゃないのさ」

スケアクロウ「てめぇ、イディス! 今更何しに来やがった!」

エダ「シスターがわざわざ来てやってんだよ。んで、そこに大量の死体がある。棺桶はちょいと待ってな。後でホームセンター寄っからよ」

ショコラーデ「ハーレー乗りつけるシスターってのも珍しいっすけどね」

エダ「よー、それより〝犬〟はちゃんとあっちへ向かっただろうな?」

スケアクロウ「イディス! てめぇ、一体何考えてやがる! 俺らにあんな危険なことさせやがって!」

エダ「吠えんなよヒヨッコ。つーか、お前らの仕事はもう終わったからさ。命あるうちにサッサと帰んな」

スケアクロウ「ざけんなコラ!」

エダ「着いて来たきゃ止めね―けどよ。拾った命は大事にした方がいいぜ。シスターの言うことは素直に聞いとくんだね!」

エダ(さて。リバイアサンとヨルムンガンド。どちらが世界を喰らうのやら)
ブロロロロ…!

゙ン! ドン!

張「いや、しっかし。参ったな。連中噂通りなかなかやるじゃないか」

レヴィ「ちぃッ! あたしが肩に一発貰ってなけりゃ。あの連中ただもんじゃねぇぞ!」

レーム「ルツの一発が女ガンマンの右肩に着弾。雑魚も片付いたら徐々に包囲網を狭めて。焦るなよ。じっくり行け」

レヴィ「クソッタレ! おいロック! 止血がしてえ。そのネクタイよこしな!」

ロック「……なあ、レヴィ」

レヴィ「おいロック! なに呆けてンだよ!」

ロック「俺は悪夢を見ているのか?」

レヴィ「ああッ!? なにブルってんだよ! しっかりしろ! 今にあたしらが活路を――」

ロック「そうじゃないんだレヴィ! あれを見ろ! あそこからやって来るのは……!!」

???「聖者の為にほどこしを、死者の為には花束を」

ロベルタ「正義の為に剣を持ち、悪漢どもには死の制裁を。しかして我ら聖者の列に加わらん。サンタマリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を!」

レヴィ「うげぇ!! ななな、なんでメイドがァ!?」

張「フゥー。やっと来たか。約束の時間を三分も過ぎてるぜCIAの旦那」

マオ『ココさん! ココさん!』

ココ「おお、マオ。っていうか、君はさっきからずっと大砲のとこで待機してたのか?」

マオ『ええ。ここぞって時にお役に立とうかと思いまして。って、それよりも一人、怪しい奴がこちらへ近づいて来ています』

ココ「どんな奴だ?」

マオ「それが黒い髪の女――」

ロベルタ「……フシュウゥゥゥ!!」

マオ『んな!?』

ココ「どうしたマオ!?」

マオ『や、奴が全速力でこちらへ! 全員耳を塞いで! 砲撃します!』
ドゴォォォォオン!

あ、やっべ。そういや姉御忘れてた……。

ルツ「うひょー。いきなりブッ放つなんて聞いてねーぞ」

トージョ「ぶっほっ。爆炎で何も見えねえ。つーか、さっきの無線でのマオの慌てっぷりは尋常じゃなかったな」

ココ「マオ! やったのか!? 応答しろ!」

レヴィ「……そんなので殺れたら苦労しねーんだよ」

マオ『逃げてくださいココさん!!』

ココ「はっ!?」

ロベルタ「ハアアアアアアアアア!!!!」

ガキィィィン!
バルメ「大丈夫ですか!? ココ!」

ココ「バルメ!」

ロベルタ「さあ、お逃げなさい白兎ちゃん。もっと。もっと。モットモットモットモット!!」

バルメ「しぃッ!!」」
ヒュッ!

ロベルタ「ガウルルル!!」
バキィィン!

バルメ「そんなっ!?」

ルツ「姐さんのナイフを噛み砕いたァ!?」

>>12でメイドの時みたいにおかしくって言ってるからロベルタに腕と指はないはずだが保守

>>90
まあ、ロベルタいたら面白いかなって。ただそれだけ。
あとすまんが、もう書き溜ないんだ。

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4115948.jpg

>>93
それ見たよ。レヴィがココから化粧品買っちゃうやつだよね。

どなたか引き継いでいただける方がいましたらよろしくお願いします。
そろそろ寝ようかと思っている次第でして

新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 10分以内
02:00-04:00 20分以内
04:00-09:00 40分以内
09:00-16:00 15分以内
16:00-19:00 10分以内
19:00-00:00 5分以内

新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
04:00-09:00 45分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

うおっ、まだ残ってたのか! 

ココ「レーム! あいつは一体なんなんだ!?」

レーム「ありゃキューバの亡霊だ。コロンビア革命軍の殺戮マシーン。別名〝フローレンシアの猟犬〟死んだと聞いていたが、まさか生きていたとはな」

ロベルタ「キツネもデルタフォースも同じこと。貴様らの罪はその血で購え!!」

ワイリ「くっ! 弾が全く当たらない!」
ドン! ドン!

レーム「戦闘能力はチェキータと同格。いや、それ以上の化け物だ。ヴァン・ヘルシングでも呼んできて欲しいぜ」
ドン! ドン!

ロベルタ「あはははははっ!! つーかーまー……えっ?」

ヨナ「ココには指一本触れさせない」
チャキッ!

ロベルタ「…………」

トージョ「おい、どーなっちまってんだ」

ルツ「あのターミねーちゃんがヨナ坊の前でピクリとも動かなくなっちまったぞ」

レヴィ「あーあ、あんのメイド。やっぱあん時の後遺症が抜けきってねぇでやんの」

ロック「あの少年兵にガルシア君を重ねているのか」

ココ「ヨナ! 危険だからそのまま戻って!」

ヨナ「大丈夫。一発で決めるから」
チャキッ!

ロベルタ「……さま……?」

ファビオラ「婦長様から銃を下ろせ!」
ブン! バキッ!

ヨナ「!?」

ロック「ファビオラ!?」

ルツ「今度は何だよ。メイドの恰好したチビっ子がヨナ坊の銃を蹴りで弾き落としやがった」

ファビオラ「何なんですか、これは……。ヘンなガラの悪そうな男とバカそうな女の二人組に連れ去られた婦長様を追って来てみれば」

ファビオラ「あの日以来、婦長様は精神的にも不安定で。それでもっ! 近頃は発作も落ち着いて幸せにやっていたんだ! それをまたこんな吐き溜めのような場所に連れてきて婦長様を悪鬼に貶める!」

ロベルタ「まあ、ファビオラじゃありませんか。お庭の水やりは済みましたか? それと当主様が新聞を――」

ファビオラ「もういいんです婦長様! さあ……帰りましょう。私たちのラブレス家へ」

トージョ「なんか、感動的な再開シーンになってるんだけど」

ルツ「いいじゃねぇかこの際。あのターミねーちゃんが暴れてくれなければなんでもいいんだよ。さあ、お嬢んトコ行こうぜ」
クルッ

ロベルタ「……」
チャキッ! ドン!

ルツ「いってぇ! なんで俺ケツ撃たれたの今!?」

ダッチ「ふーっ。なんとかグラウンド・ゼロは免れたか」

ロック「ダッチ!」

ダッチ「よう、二人とも危ないところだったな。お疲れのところ悪いが、別枠で仕事が入った」

ピリリリリッ!

ココ「っ! こんな時に誰よ! はい、もしもし!」

キャスパー『やあ、ココ』

ココ「……私が今、何を言いたいかお分かりですか? 兄さん」

キャスパー『怒らないでくれよココ。せっかくの美人が台無しだよ?』

ココ「せっかくの美人が危うく挽肉になりかけたのよ!? この騒ぎ。どう責任取るつもりですか!」

キャスパー『大丈夫だって。ちゃあんと救援を要請しておいたから。帰りの足も用意してある』

張「おいおい。こいつは一体どうなって……」

チャキン!

バラライカ「ハアイ、ベイヴ。随分男前になったわねえ」

張「バ、バラライカ。遊撃隊(ヴィソトニキ)なんて連れてピクニックかい?」

バラライカ「そうよ。鉛の雨も止んだみたいだし、あなたもピクニックへお誘いにね。道中聞きたいことがあるわ。ご足労願えます?」
ニコッ

張「やれやれ。君の笑顔は鉄火場よりも恐ろしい」

ココ「……」

レヴィ「てめぇ、白蛇女! あたしの射程圏内に出てくるなんてジョートーじゃねぇか!」
ジャキッ!

ダッチ「よさねぇか、レヴィ。荷物に傷を付けるな」

レヴィ「お、おいダッチ! んじゃあ、仕事ってのは」

ココ「ラグーン商会のダッチさんですね?」

ダッチ「話はあんたの兄貴から聞いたらしいな。着いて来な。アンタらをこの戦場から安全な場所へ運んでやる」

――暴力教会。礼拝堂

レヴィ「んで、その高飛車な女がまたサイアクな奴でよォ」

ヨダ「はーん。あたしが葬儀の準備でてんてこ舞いだった時に大通りじゃそんなおもしれぇことになってたのか」

レヴィ「笑いごとじゃねーよ! ったく、こちとらでっけぇ風穴こさえて大出血。冗談じゃねぇよ」

ヨダ「そんなこたぁイイんだよどーでも。んで、どうだったんだよ? 花のヨーロッパ旅行は」

レヴィ「シケたとこだったぜ向こうは。街中どこも妙に気取っててよ。ナンパ男の額に銃を突きつけりゃスグおまわりが飛んできやがってよ」

ヨダ「だーれがそんなこと聞いてんだよ。んで、どうだった? ジャップのは小せえっつーが、奴さんのはどうだったよ?」

レヴィ「は、はあ!? てめエダ! なんでそんな話になってんだよ!?」

ヨダ「だーってよぉ、風穴こさえて血が出たっつったら、そういうことだろうよ」

レヴィ「肩の話だよ肩! 包帯(これ)見りゃわかるだろ!」

エダ「つーか、マジな話。どうなんだよ奴さんとは?」

レヴィ「あー……い、いや、それは……その……」

ロック「おーい、レヴィ。仕事だよ。ダッチが呼んでるぞ」

レヴィ「てんめぇロック! そこを動くな! ぶっ殺してやる!」

ロック「なんで!?」

終わり

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