郁乃「だんご」恭子「さん」漫「きょーだい」(165)

郁乃「はい、ワンツ~ワンツ~」グイグイグイグイ

漫「ワンツーワンツー」グイグイグイグイ

恭子「…ふああ……なんや…さわがしいなあ……」ウトウト

郁乃「はいボディボディボディボディ」シュッシュッシュッシュッ

漫「ボデ、ボデ、ボデ、ボデ…」シュッ、シュ、シュ、シュ…

恭子「……何しとるんですか、朝っぱらから」

郁乃「ビリーズブートキャップやで~」フッフッフッフッ

恭子「また懐かしいものを…」

郁乃「ふふ~靖子がくれたんや~もう要らんから、って」

恭子「またもらってきたんですか?はあ…」

漫「はあっ…はあっ…あかん、ギブ……」パタッ

郁乃「あ~漫ちゃんあかんよ~、戦場にギブはないんやで~」シュタッシュタッシュタッシュタッ

漫「そんなん…言うても…もう無理や…ごめん郁乃ねえちゃん…」ハーハー

郁乃「も~…しゃーないな、恭子ちゃん代わる?」

恭子「遠慮しときますわ」

わたしのお父さんはやさしい人で、生涯に3回結婚をした。

1人目は未亡人で、子連れ。この子どもが郁乃さん。

最初の奥さんが病気で死んで、また別の人と結婚した。2人目。

これが、わたしのお母さん。

お母さんもやさしい人だったそうだけれど、わたしは知らない。お母さんはわたしを生んで死んだから。

そして3人目、漫ちゃんのお母さんと結婚する。

この人はほかの二人と比べたら長生きで、わたしにとってはこの人がお母さんみたいなものだった。郁乃さんもわたしも、漫ちゃんも、分け隔てなく愛してくれた。

ちゃんと、憶えている。

けれど、そんな3人目の奥さんも7年前、お父さんとふたり、旅行にいった先で交通事故に遭って死んだ。

お父さんは事故の後も何日か生きていたけれど、結局家には帰れずに病院で息を引き取った。

死ぬ間際、お父さんは郁乃さんに言った。

「苦労をかけるな、ごめんな」

それからは、大人になりかけだった郁乃さんが、わたしたちの保護者代わり。

わたしは、授業参観に郁乃さんが来るのが、なんでかすこし嫌だった。

郁乃「ふ~、いい汗かいた~」

恭子「トースト焼きましたけど」

郁乃「わあ、ありがと~」

恭子「……あ」

郁乃「ん?」

恭子「それ、わたしの服やないですか」

郁乃「え?ああ、ほんまや、道理で…」

恭子「……道理で、なんですか」

郁乃「あ、ん~……なんや引き締められて、よかったで?」

恭子「…」ジトー

郁乃「あ、あはは」

恭子「…パン食べたら脱いでくださいね」

郁乃「は~い」

漫「……ん、ええ匂い」パチッ

恭子「なんや、寝とったんか」

漫「パン、焼いてくれたん?」

恭子「うん」

漫「ありがとう、恭子ねえちゃん」

恭子「汗ふいてから食べ」

郁乃「バターある~?」

恭子「はい 漫ちゃんは?ジャム?」

漫「うん、いちごの」

郁乃「これ食べたら出かける準備せんとなあ」

恭子「はい、ジャム」コトン

恭子「どっか行くんですか?」

郁乃「うん、ちょっと人と会う約束してん」

恭子「へえ」

郁乃「ん~?さみしい?わたしおらんと、さみしい~?」

恭子「あーさみしいなー、でもさみしさ乗り越えて、強くなって」

恭子「テスト勉強でもしときますわ」

漫「て、てすと…」

恭子「なに震えとんねん、まだ1週間以上あるで?」

漫「せやけど、分かるようになる気がせえへんのやもん、さんかくかんすう…」

恭子「なら諦め」

漫「冷たっ!助けてやあ…」

郁乃「教えたったらええやーん」

恭子「わたしも自分の勉強で手いっぱいやって 郁乃さんが教えたったらええでしょう、理系やったんやから」

郁乃「わたしは自分ができるだけで、教えるのは下手っぴいやもん」

漫「うんうん、郁乃ねえちゃんが教えてくれても結局わからんねん 教わってる間だけわかった気がするだけで」

恭子「タチ悪いな」

漫「前回はそれで追試くらって…」

郁乃「あはは、「わかる!わかるで!今ならなにが来ても解けるわ!」っちゅーて家出てったのにな~」

恭子「顔真っ青にして帰ってきたなあ」

漫「ショックやったんやって…うちの一晩の苦労はなんやったんや、って」

恭子「一晩で苦労とか言うとるからあかんねん」

漫「苦労は掛けた時間とかやないんやって、気持ちの問題なんやって!」

恭子「はいはい」

郁乃「まあ手が空いたら教えたりよ~?」

恭子「…まあ、空いたら」

漫「ほんま!?おおきに!」

恭子「まずは自分でちゃんとやらんと、見たらんで…?」

漫「まっかせて!やるでー!」パクパク

恭子「…」パク

郁乃「あはは~ガンバ~」パク

恭子「…? なんや、今日ちょっとご機嫌やないですか?」

郁乃「うん?」

漫「たしかに、いつにも増してニコニコしとるね」

郁乃「ふふ~そーう?」

漫「…? ……あ!もしかして人と会うって、デートなん?」

恭子「!」

郁乃「…ふふふ~」

漫「え、そうなん!?やっぱそうなん!?」

郁乃「さあ…どうやろね、恭子ちゃん?」

恭子「…なんでわたしに振るんですか」

漫「恭子ねえちゃん、なんか知っとんの!?」

恭子「知らんって」

郁乃「ふふ、ごちそうさま~」

漫「え、え、郁乃ねえちゃんってば!ほんまにデートなん!?」

郁乃「うーんとね~…」

漫「うん、うん!」

郁乃「ひ・み・つ~」

漫「ええー!」

恭子「…」

郁乃「それじゃ、ちゃんとお勉強するんやで~?」


――――…………

――恭子の部屋

恭子「…」カリカリ

恭子「…」カリカリ

恭子「…」

恭子「ちょっと休憩しよかな」ノビー

恭子「…」

恭子「コーヒーでも飲も」スクッ

恭子(…漫ちゃんはちゃんとやっとるかな)

ガチャ



恭子「…」

テレビ『なんでやねん!なんで、は?いや、なんでやねん!ホンマなんでやねん!』

漫「あはははは、アホやなあ、あはははははは」ケラケラ

恭子「アホはアンタや」コツン

漫「あうっ!」

漫「きょ、恭子ねえちゃん…!」

恭子「勉強はどうしたんや、「やるでー!」ちゅーとったやろ」

漫「や、やったんやけど…」

恭子「…ほう」

漫「……疲れてもうて」

恭子「…」

漫「…お菓子食べたらやる気出るかもと思て…食べに来て」

恭子「……」

漫「そしたらテレビがあって…」

恭子「もうええわ」ハァ

漫「お、怒っとる…?」

恭子「怒るん通り越して呆れる、のすら飛び越えて…」

漫「…」

恭子「凹んどる」

漫「凹んどるの!?」

恭子「だって……やるって、約束したのになあ」

漫「うっ」

恭子「まあ、そんなもんなんかな…そんなもんかもな…」

漫「あ、あの…恭子ねえちゃん…」

恭子「……メゲるわ」

漫「ごめんなさい、ごめんなさい恭子ねえちゃん!」

恭子「…」ジトー

漫「ちゃ、ちゃんと勉強するで、凹まんで、おねえちゃん!」

恭子「…ほんと?」

漫「ほんと、ほんとやって!」

恭子「ならええけど」

漫「…」ホッ

恭子(あいかわらず…泣き落としに弱い)

恭子「…コーヒー淹れるけど、いる?」クスッ

漫「え?えっと、うん……いる」

恭子「はい」コトン

恭子「飲んだら勉強せえよ?」

漫「うん、するする」ゴク

恭子「わたしは飲んだらコンビニでも行ってこよかな」ゴク

漫「え、うちも行く」

恭子「勉強」

漫「えー…」

恭子「なんか欲しいもんがあるんやったら買ってきたるけど?」

漫「うーん…そやなあ……」

漫「…あ、チョコ欲しい」

恭子「チョコ?板チョコとかでええの?」

漫「うん、チョコかじって頭に糖分回すんや」

恭子「ふーん……アホらし」

漫「あ、ひどい!」


――――…………

――コンビニ

恭子「…これと、これ」ヒョイ

恭子「お、こんなん出たんや」ヒョイ

恭子「えーと…」

恭子「チョコはー…これでええか、いっぱい入っとるみたいやし」ヒョイ

恭子「うん、こんなもんか」

恭子「……あ」

恭子(…肉まん)

恭子「…」財布ジーッ

恭子「…これは、ええか」モドシ

恭子(そんで、肉まん買ってこ)

恭子「…」カゴコトン

ソフィア「いらっしゃいませー」

恭子「……え、ソフィア?」

ソフィア「お、恭子!?うわー、ひさしぶりじゃん!」

恭子「ほんま、ひさしぶりやな」

ソフィア「だよな、中学以来か?」

恭子「たぶんそやな」

恭子「あ、肉まんみっつ」

ソフィア「はいまいどー」

恭子「ここでバイトしとったん?」

ソフィア「うん、1年前くらいからかなあ」ピッ

恭子「へえー、結構来とるんやけどなあ、知らんかったわ」

ソフィア「しっかし変わんねーな」ピッ

恭子「そっちもや」

ソフィア「あれ、チョコ嫌いなんじゃなかったっけ」ピッ

恭子「あ……えっと、家族の」

ソフィア「あー」

恭子「かじって頭に糖分を回すんやって」

ソフィア「へ…?なんだそれ」

恭子「ほら、うちの高校、来週からテストやから」

ソフィア「あー、そっちは2期制なんだっけ?いいよな、テスト少なくて」

恭子「そのぶん範囲広なるけどな 漫ちゃんなんかモロその被害者や」

ソフィア「ははっ、6点で650円になります」

恭子「はい」

ソフィア「どうも、また来いよ」

恭子「やからよく来るんやって」

ソフィア「ああ、そっか、そうだったな」

恭子「じゃ、がんばって」フリ

ソフィア「おう、じゃーな」フリフリ

bbbb…

恭子「ん、メール…?」カチカチ

『晩ごはん食べてくるで、ごはん当番かわってください ごめんね~』

恭子「……スーパーも行かなあかんやん」ハァ


――――…………

漫「いただきまーす」

恭子「めしあがれ」

漫「んー!おいしい!」パクパク

恭子「そらよかった」パク

漫「…なあなあ、恭子ねえちゃん」

恭子「ん、なんや」

漫「郁乃ねえちゃん、ほんとにデートなんかな?」

恭子「…さあなあ」

漫「うーん…」

恭子「ふつうに靖子さんってオチかもしれんで」

漫「藤田さんと遊んどるんなら晩ごはん前に帰ってこれるんとちゃう」

恭子「楽しくなってもうたんちゃうの、遊んでて」

漫「…ほんとにそう思っとる?」

恭子「……まあ、別の友だちやって可能性もあるやん」

漫「…朝帰りやったらどないしよ」

恭子「…」

漫「どないしよ!どんな顔したらええかな!?」

恭子「…ないやろ、あした月曜やで 普通に会社あるんやから」

漫「分からんやん!おんなじ会社の人やったら、あるいは…!」

恭子「あるいはなんやねん…」ハァ

漫「恭子ねえちゃんやって、まるで心配してへんわけちゃうでしょ?」

恭子「…してへんよ、郁乃さんかて大人やで?」

漫「そらそうやけど…」

恭子「別に郁乃さんが誰かと付きあってても、嫌なわけやないんやろ?」

漫「そらそうやって!あたりまえやんか!」

恭子「なら…」

漫「そういうことちゃうやん…そういうんやなくて…」

恭子「…」

漫「…でも、なんか心配になるやん……わからん?」

恭子「…さあ」

漫「むー…」プクーッ

恭子「ええ歳してなんて顔しとんの」

漫「恭子ねえちゃん、素直やない!」

恭子「あはは、そらおもろい」

漫「……とにかくっ!決めたで!」

恭子「え、何を?」

漫「今日はリビングで勉強する!」

恭子「…なんで?」

漫「郁乃ねえちゃんの帰り待つんや!」

恭子「自分の部屋で待ってればええやん…」

漫「そういうことやないんやって、気持ちの問題やん!」

漫「恭子ねえちゃんも一緒にしよ、な?」

恭子「えー…」

漫「おねがい!この通りやって!」


――――…………

恭子「…」カリカリ

恭子「…」カリカリ

恭子「…」…チラ

漫「Zzz」

恭子「…」

恭子(結局寝とるし…)

漫「Zzz」

恭子(全然進んでへんやん…チョコあんま意味なかったな…)

漫「むにゃむにゃ…ねー、ちゃ……Zzz」

恭子「…」

恭子「ベッドに運んだるか」

漫「Zzz」

恭子(…わたし、持てるんかな、漫ちゃん)

ガチャ

郁乃「ただいま~」

恭子「おかえりなさい」

郁乃「あら~恭子ちゃん、まだ起きてたん~?」

恭子「…まあ、テスト勉強してたんで」

郁乃「…? 漫ちゃんもおるやん、寝とるけど」

恭子「…ええと」

郁乃「なあに、もしかして帰り待っててくれたん~?」

恭子「…漫ちゃんがそう言うたんですけどね」

郁乃「わあ~ありがとな~」ナデナデ

恭子「…お酒飲んでます?」ナデナデサレ

郁乃「ちょこっとな~」

恭子「…」

郁乃「おみずおみず~」

恭子「結構遅かったですね」

郁乃「ほえ?」

恭子「あ、いや…お説教する気はないんですけど…」

恭子「…漫ちゃん、なんや心配してましたよ」

郁乃「…?」

恭子「…別に、心配するようなことやないんですけどね、郁乃さんかて大人やし」

郁乃「…」

郁乃「ふふっ、あはは」

恭子「…?」

郁乃「あはははははははは!」

恭子「郁乃さん…?」

郁乃「はははは、ふふ、ふふふ……ふう、恭子ちゃん」

恭子「…」

郁乃「ありがとね」

恭子「…べつに、わたしは」

郁乃「やあ~っ」ダキッ

恭子「!?」

郁乃「ありがと~!」スリスリ

恭子「ちょ、酒くさっ!これ、ちょっとやないでしょう!」

郁乃「ふふ~」スリスリ

恭子「まっ、はなれ…」

郁乃「……でも、だいじょうぶやで」

恭子「…え」

郁乃「ほんとに、心配してもらわなあかんようなことになったら、真っ先に言うから」

恭子「…」

郁乃「恭子ちゃんと漫ちゃんに ちゃんと言うから」

恭子「…」

郁乃「やから、だいじょうぶ、だいじょうぶや」ナデ

恭子「…わかったから、離れてください」

郁乃「は~い」パッ

恭子「……冷蔵庫に肉まんありますよ」

郁乃「わあ、いただきま~す」


――――…………

――学校・昼休み

ゆみ「そういえば、最近グッピーを飼いだしたんだが」パク

智葉「ぐっぴー?」パク

花子「あれっしょ?ちっこい、さかな」パクパク

ゆみ「ああ、これがその写真だ」

智葉「ほう、これが…」

恭子「綺麗なもんやな」パク

花子「でもゆみの趣味っぽくなくねー?」

ゆみ「まあ、趣味ではないな」

恭子「ん…?」

ゆみ「親が前から飼ってみたかったようでな、仕事仲間から子どもを分けてもらってきたんだ」

恭子「…へえ」

智葉「なるほどな」

ゆみ「それでおっかなびっくり飼うことになったわけだが、これがなかなか、かわいくてな」

花子「いいじゃんいいじゃん」

智葉「わたしも、めだかを飼ってるぞ」

恭子「へえ それは、なんちゅーか」

花子「あはは、らしいよなー」

恭子「やな」

智葉「だからまあ、かわいいというのは分かるな」

ゆみ「だろう?」

智葉「ああ」

花子「…あれ、智葉、それおはぎ?」

智葉「ん、そうだが」

花子「へえーなんかおもしれーな、手作り?」

智葉「店のな 駅の向こう側にだんご屋があるだろう」

花子「うーん?」

ゆみ「本屋の前のか?」

智葉「そうだ」

恭子「あー、あそこか」

花子「あれ…?わたしだけ分かんないかんじ?」

ゆみ「この辺では一番大きい本屋なんだが、使ったことないか?」

花子「うーん、本あんま読まないからなー」

ゆみ「…そうか」

花子「あー!いまちょっとあれだろ!あれなかんじだろ!」

ゆみ「なにも言ってないじゃないか…」

智葉「別にあれなかんじでもないぞ」

花子「わたしここ住みじゃないからな!マンガとか買うのは地元のちっこい本屋で事足りるんだって!」

ゆみ「いや、受験生だから、参考書とか…」

花子「さ…参考書は、こんど…買おうかな、って…思ってたし…」

ゆみ「…まだ持ってないのか」

恭子「ゆみ、やめといたろう」

花子「ちょ、その憐れみの目!」

恭子「…憐れんでなんか、ははっ、ないで」

花子「嘘じゃん!」

智葉「じゃあ、今度行くか」

花子「お?」

智葉「わたしも欲しい参考書があるしな テストが終わったら、どうだ?」

恭子「ああ、ええかもな」

花子「……参考書、かあ」

ゆみ「…」

ゆみ「ついでに、そのだんご屋にも行ってみるか」

智葉「そうだな 味は保証するぞ、家族がみな気に入っててな」

花子「おおっ」

智葉「値段も良心的だしな」

花子「よーし行こう!テスト終わりな、空けとく空けとく!」

恭子(…単純)

bbbb…

恭子「…? ごめん、電話や」ガタッ

花子「おーう、行ってらー」

恭子「もしもし」

漫『あ、恭子ねえちゃん、いまだいじょうぶ?』

恭子「うん、なんや?」

漫『あ、あの、今日なんやけど…』

恭子「うん」

漫『友だちとな、勉強会やろうってことになって』

恭子「へえ、えらいやん」

漫『そ、それで、その…』

恭子「…?」

漫『それ、うちでやってもええかなあ…?』

恭子「…」

漫『あ、恭子ねえちゃんが嫌やったらええんやけど、きょう使えるんがうちしかなくて…』

漫『で、でも別に、図書館とかでやってもええんやけど、うん、そう、無理ならぜんぜん!』

恭子「…ええよ」

漫『!!』

漫『え、ええの…!?』

恭子「駄目って言うと思ってたん?」

漫『え、えっと…うん、なんとなく…ダメなんかなあ、って』

恭子「…別に構わへんよ、勉強会ならなおさらや」

漫『ありがとう、恭子ねえちゃん!』

恭子「…あ、でも」

漫『うん?』

恭子「散らかってんの、ちょっとは片してから入ってもらいよ?」

漫『うん!分かっとるで!』

恭子「じゃ、切るで」

漫『うん、ほんまにありがとう!』

ピッ…ツーツー…

恭子「…郁乃さんにもいちおうメールしとこか」カチカチ

『今日、うちで、漫ちゃんが友だちと勉強会するらしいですよ いちおう伝えとこ思て』

恭子(…別にこんなん要らんか ……もう送ってもうたけど)

花子「おかえりー」

ゆみ「ご家族か?」

恭子「うん、まあそんなとこ」スワリ

花子「はは、だと思った」

恭子「え、なんで?」

花子「顔見ればわかるって」

恭子「…嘘やん」

花子「えー嘘じゃないよな、智葉ー」

智葉「かもな」

bbbb…

恭子(ん…メール)カチカチ

『りょうか~い』

恭子「…」

花子「あ、それも家族からっしょ?」


――――…………

恭子「ただいま」

恭子(靴…ふた組多い)

漫「おかえりー!」

佳織「お、おじゃましてます」ペコッ

小蒔「してますっ」ペコン

恭子「どうぞどうぞ、狭いとこやけど」ペコ

漫「えっとな、こっちが佳織ちゃんで、こっちが小蒔ちゃんや」

佳織&小蒔「はじめまして」ペコンッ

漫「そんでこっちが恭子ねえちゃん」

恭子「どうも 漫ちゃんがいつもお世話になってます」ペコ

佳織「い、いえっ、そんなっ」フルフル

小蒔「こちらこそ、お世話になってますっ」フルンフルン

恭子(…なんかおもろい)

漫「このままリビング使っててええ?」

恭子「ええよ、わたし部屋におるから」

――恭子の部屋

恭子「…」カリカリ

恭子「…」カリカリ

恭子「…」

恭子「ふー…」ノビ

恭子(あの子ら、ちゃんとやっとるんかな)

恭子「…」

恭子(チョコ買って来とったな)

恭子「…」…クスッ

恭子「さ、もうひとふんばり」

恭子「…」カリカリ

恭子「…」カリカリ

恭子(…チョコ、買い置きしといたるか)

「ただいま~」

恭子(? …郁乃さん?)

恭子「…」ガチャ

郁乃「あ、恭子ちゃん ただいま~」

恭子「おかえりなさい なんや早いですね」

郁乃「うん、ちょっと早くお仕事終わってん」

漫「あ、い、郁乃ねえちゃん、あの、えっと…」

郁乃「お友だちが来とるんやろ?」

漫「はえ?」

郁乃「恭子ちゃんから教えてもらったで~」

恭子「…」

佳織「お、おじゃましてます」ペコッ

小蒔「してますっ」ペコン

郁乃「あら~、かわいいお友だちやね」

郁乃「はじめまして~漫ちゃんと恭子ちゃんの姉の、郁乃です~」ペコー

漫「えっと、こっちが佳織ちゃんで、こっちが小蒔ちゃん」

佳織&小蒔「はじめまして」ペコンッ

郁乃「ところでふたりとも、ごはんのご予定は~?」

小蒔「へ?」

郁乃「よかったら、食べてかへん?」

佳織「え、えっと、ご迷惑じゃ…」

郁乃「ええよええよ~わたしも作り甲斐があるし~」

漫「あれ、きょう郁乃ねえちゃんが当番やったっけ?」

恭子「このまえ変わったぶんやな」

漫「ああ、そか」

郁乃「ちなみに今晩は肉じゃがやで~」

小蒔「! にくじゃが…!」

恭子(あ…食いついた)

漫「ふたりとも食べてって食べてって にぎやかなほうが楽しいで」

佳織「う、うん、じゃあ…」

小蒔「いただきますっ!」ペコン

郁乃「は~い」

郁乃「じゃ、ちょっと待ったってね、ちゃちゃっと作ってまうから」

漫「郁乃ねえちゃんの肉じゃがはほんと美味しいんやって!」

小蒔「…!!」ゴクッ

佳織「じゃあ、ごはんまでにこの単元終わらせちゃおうか」

漫「そ、そやな…!」

恭子「…」

漫「ちゃ、ちゃんとやっとるで!」

恭子「なんも言ってへん」

漫「あ…あ、あはは、そうやんな」

恭子「ほんま、お世話になってます」ペコ

佳織「い、いえ、そんな」

漫「なってます」ペコッ

佳織「!」

小蒔「なってますっ」ペコン

佳織「小蒔ちゃんまで!?」

恭子&漫&佳織&小蒔「いただきまーす」

郁乃「めしあがれ~」

小蒔「!」

佳織「おいしい…!」

漫「やろー!」

郁乃「えへ~今日は腕によりをかけちゃいました~」

恭子「ほんまに、いつもより美味しい…」

郁乃「特訓の成果やねっ」ブイッ

恭子(特訓しとるんか…)

郁乃「肉をじゃがっとするイメトレを繰り返してん」

漫「おおーっ!」

恭子「ほんまは?」

郁乃「いつもよりちょっと高いお肉買ってきたんやで~」

漫「!」

恭子「まあ、そんなとこやと思いましたよ」

郁乃「あと味付けをちょっと変えてみてんけど、どう?」

恭子「ああ、それは結構いいかんじやと思います」

郁乃「ほんま?じゃあこれからもこうしよ~」

小蒔「おかわりいただいてもいいですか?」

郁乃「もちろん」

小蒔「ありがとうございますっ」

郁乃「ところで、ふたりはどういうお友だちなん?部活とか?」

佳織「あ、いえ、えっと…部活はバラバラなんですけど…」

漫「なんちゅーか、気付いたら友だちやったよね」

小蒔「ですね」コクン

恭子「…」

郁乃「まあそんなもんか~」

恭子(…たしかに、わたしも花子とかといつ仲良くなったんか、よう憶えてへんな)

郁乃「じゃあじゃあ、何部に入っとるん~?」

佳織「え、えっと…」

佳織&小蒔「おじゃましましたー」ペコンッ

郁乃「また来てね~」フリフリ

ガチャン

郁乃「ええお友だちやね~」

漫「へ、へへ」

恭子「お風呂、洗って来ますね」

漫「あ、ええよ、うちやるで」

恭子「? なんで?」

漫「え、えっと、お礼?」

恭子「…?」

漫「と、とにかく、うちやるで!」

恭子「…うん まあ、やってくれるなら、頼むわ」

漫「まっかせて!」

恭子「…」

郁乃「あはは~」

恭子「…なに笑ってるんですか?」

郁乃「ん~?ううん、嬉しかったんやろな、と思て」

恭子「…?」

郁乃「漫ちゃん、お友だち家に連れてきたん、初めてやろ?」

恭子「…まあ、たぶん」

郁乃「やから、きっとすっごい嬉しかったんやって」

恭子「そんなもんですか」

郁乃「恭子ちゃんもお友だち連れてきてええんやで~?」

恭子「え…」

郁乃「そしたらまた、おいしい晩ごはん作ったげるし」

恭子「あ、いや…」

郁乃「そういえば、恭子ちゃんのお友だちってあんま会ったことないな」

郁乃「遠慮せんで連れてきたらええよ」

恭子「…」

恭子「わたしは、ええですよ」

郁乃「え~なんで~?」

恭子「えっと…」

郁乃「お友だち、おらんわけやないんやろ?」

恭子「いますよ、普通に」

恭子「でもなんちゅーか…そういうんとはちゃうちゅーか」

郁乃「ふーん…?」

恭子「やからまあ、ええですて」

郁乃「そう…?まあええんやけど」

恭子「…あの、別に嫌とかやなくて」

郁乃「分かっとる分かっとる」

郁乃「ま、恭子ちゃんたちはもう、ちょっぴり大人やもんね」

恭子「…」

漫「お風呂洗ってきたでー!」

郁乃「! おつかれさま~」


――――…………

おねえちゃん、おねえちゃんまって!

「ほえ?」

はあ…はあ…

「あら、ついてきてもうたん~?」

うちも、うちもあそぶ!

「ん~…こまったなあ…」

あそぶ!うちもまぜて、おねえちゃん!

「えっとな、お姉ちゃんたち、ちょお遠くまで遊びに行くんや」

…うちもいく

「ううん、三輪車じゃ行けへんとこなの」

……

「おうち帰ったら遊んだげるから、おうち戻り?な?」

…わかった

「…ごめんな、恭子ちゃん」


……………………

花子「おーい恭子、聞いてる?」

恭子「ほえ?」

花子「え、なにそのリアクション、新しいな」

恭子「…聞いとったで」

花子「すげー嘘じゃん」

恭子「…ごめん、なんの話やっけ?」

花子「だーからさ、バスケ見に行かない?って話」

恭子「バスケ…?」

花子「マジでなんも聞いてなかったの!?」

恭子「「聞いてる?」だけ聞いとった」

花子「…」ジトー

恭子「…ごめん」

花子「はー…まあいいけどさー…つーか恭子、テスト勉強のしすぎじゃね?」

花子「ってわけで、気分転換にバスケを見に行こう!」

恭子「やから、なんの話なん?それ」

花子「あーえっとー…」

花子「つーかもう始まっちゃうな…よし恭子、走るぞ!」グイッ

恭子「は?ちょ、花子!」

花子「はいダッシュダーッシュ!」タッタッタ

恭子「ちょ、わかった、走る!走るから離し!走りづらいわ!」

花子「オッケーイ」パッ

恭子「…ふう」タッタッ

恭子「…で、どこ向かってるん?」

花子「体育館っ」

恭子「体育館…?なんで?」

花子「だーから、バスケ見ようって」

恭子「…? いまテスト期間やから、部活どこも休みやん」

花子「バスケ部じゃなくてもシュートは打てるだろ?」

恭子「…??」

花子「まあ、着きゃあ分かるって」

――体育館

ザワザワ…ザワザワ…

花子「おー、結構ギャラリーいんじゃん」

恭子「いすぎやろ…テスト期間やで」

花子「まあまあ、そんだけ注目度たっかいんだって」

恭子「…で、何が始まんねん?」

花子「ワン・オン・ワン」

恭子「えっと…1対1でやるやつ…?」

花子「そんなかんじ …あ、ほら!あのふたり!」


純「…」手足ブラブラー

ダヴァン「…」ストレッチー


花子「あのふたりがやりあうってわけ!すげーっしょ?」

恭子「…まあ、背は高いみたいやけど」


恒子「はーい!そろそろはっじめるよー!」

恭子「…福与先生」ハァ

花子「ふたりともバスケ部じゃねーからさ、対決が見れるとしたらテスト期間くらいなんだよ」

花子「って誰かがこーこちゃんに掛けあってみたらしいよ」ニシシ

恭子「ノリノリで引き受けたんやろなあ…ジャージまで着とるし」


恒子「ほい集合集合っ!」笛ピッピーッ

純「…」

ダヴァン「…」

恒子「見合って見合ってー!先に十点差つけたほうが勝ち、オーケー?」

純「…ああ」

ダヴァン「おっけいデス」

恒子「オッケーオッケー」

恒子「ジャッジはわたしっ!でも反則とかよく分かんないからしちゃダメね?」

純&ダヴァン「…」コクン

恒子「あとは他のせんせーが来たら怒られるから逃げること!」

恒子「そんじゃはじめ!」

純「…」ダムダム

ダヴァン「勝っタラ…分かってまスネ?」

純「ラーメンだろ?わかってるよ」ダムダム

ダヴァン「グッド…!」シュッ…バチンッ

純「!?」

ダヴァン「…攻守交代デス」フッ

純「…ちっ」


恭子「…」

花子「おおーなに今の!はっや!」

恭子「…なあ、花子」

花子「すっげなー!さすがアメリカのダヴァン!」

恭子「花子ってば」

花子「うん?どした?」

恭子「どっちが強いんや、これ」

花子「いやいや、どっちもつえーんだってば なんでバスケ部じゃねーの?ってふたりなんだから」

恭子「どっちも…」

花子「まあでも、強いて言うなら、ダヴァン優勢だと思ってるやつが多いんじゃねーかな」

恭子「ダヴァンて、あっちの?」

花子「そうそう、アメリカ人なんだってさ だからもうストリートバスケとかしまくりよ!」

恭子「そうなん?」

花子「知んない」ニシシ

恭子「ほんま適当やな…」

花子「でもつえーのはホント、ほら」

恭子「あ……入った」


ダヴァン「フゥ…」

純「あれが入んのかよ…」

ダヴァン「ギヴ・アップしまスカ?」

純「…誰が」

ダヴァン「オーケー、続けまショウ」ニッ

純「…」ダムダム

恭子「じゃあ、あっちの子は?」

花子「あれ、井上純、知らない?」

恭子「うん、有名なん?」

花子「うーん、まあ有名っちゃ有名かな 2年最強のスポーツウーマン」

恭子「へえ」

花子「家の都合で部活には入ってないんだけど、よく頼まれて助っ人とかやってるんだよ サッカーとかバレーとか、水泳とか」

恭子「…」

花子「バスケとかなー」


シュー…シュポン!

ダヴァン「…ナイス・シュート、デス」

純「へっ、やられてばっかじゃいられねーからな」

ダヴァン「フフッ…これは、久しぶりに熱くなってしまいまス、ネッ…!」シュッ!

純「!」

シュポン!

ダヴァン「お返しデス」フッ

ダヴァン「…」ダムダム

純「…」


花子「よーしねばれよー井上ー」

恭子「…花子」

花子「うん?」

恭子「いま何点差?」

花子「えっと、5点かな」

恭子「そか」

花子「恭子、けっこー真剣に見てんじゃん?」

恭子「え」

恭子「…うん」コクン

花子「へへ」

花子「……あ」

…シュポン!

花子「ありゃーこれで7点差だ」

純「…」ダムダム

ダヴァン「…」

純「……」ダム、ダム


花子「恭子はどっち応援してんの?」

恭子「え……たぶん、井上純」

花子「へへ、やっぱ?」

恭子「…なにがやっぱなん」

花子「んー?なんとなく、そうかなーって」

恭子「…」

花子「でも、結構きっついな、井上」

恭子「? そうなん?」

花子「うん…攻めあぐねてる ダヴァンの守りに隙がなさすぎるんだよなー」


純「…」ダム、ダム、ダム

ダヴァン「…」

花子「ここで入れればまだ分かんないけど、逆に、外したら…」

恭子「…」


純「…」ダムダム…ダンッ!

ダヴァン「! 通しまセン…!」

純「…」…グッ

純「通らねえよ」クラッ

ダヴァン「!!」


恭子「後ろに…」

花子「フェーダウェイだ!」


純「」シュッ

ダヴァン「クッ…!」

ヒュー…


恭子「…」

花子「うわ、たっけーな」

恭子「…」


ヒュー…


恭子「……」

恭子「…きれい」

花子「へ?」


ヒュー……ガンッ! 

クル、クル…


花子「! ぶつかった!よーしよし!」

恭子(これが……これがもし、入ったら……)

花子「入れー!」

恭子(晩ごはん、エビフライにしよ)


――――…………

恭子「ただいま」ガチャ

恭子「…あれ」

恭子(誰も帰ってないんかな…)

恭子「…」カチカチ

恭子「…ん、メール来とったんか」

『今日は小蒔ちゃんちで勉強会してくるで、遅くなります ごはんも出してくれるんやって! すず』

恭子「…」カチ…カチ…

恭子(…返信は、ええか)

恭子「あ…今日って郁乃さんも遅い日やっけ」カレンダーチラッ

恭子「ああ、やっぱそうや」

恭子「なんや、こんならどっかで食べてくるんやったな」

恭子「…」

恭子「勉強って気分でも、ないな」

恭子「…はあ」

ガチャ

――コンビニ

恭子「…」ヒョイ、ヒョイ

恭子「…」ヒョイヒョイ

恭子「…」ヒョイヒョイヒョイ

恭子「…こんなんもあるんか」

恭子「…」

恭子「買ってこ」ヒョイ

恭子「…」カゴコトン

ソフィア「いらっしゃいませー」

ソフィア「うお、すげーな…チョコばっかじゃん」

恭子「うん」

ソフィア「はは、また妹さんに?」

恭子「…ううん、自分用」

ソフィア「へ?」

恭子「あと肉まん……ひとつ」

恭子「さて…」

恭子「…」パク

恭子「あまっ…」

恭子「…」

恭子「…」パクッ

恭子「…」

恭子「あかんわ、口ゆすご…」

ジャーッ

恭子「…」ブクブク…ペッ

恭子「ようあんなもんバクバク食べれるな…」

恭子「……普通にごはん買ってくるんやったわ」

恭子「…」

恭子「…あほちゃうか」

恭子「…」グー…

恭子「…肉まん」

――恭子の部屋

恭子「…」ゴロン

恭子「…」

恭子(おなかすいた…)

「ただいまー」

恭子(…漫ちゃんか)

「あれ、恭子ねえちゃん?」

恭子「…」

「靴はある…んー、寝とんのかなあ…」

恭子「…」

コンコン

「恭子ねえちゃん、起きとるー?」

恭子「…寝とる」

「起きとるやん!入るで?」

恭子「…」ふとんモグリ

漫「恭子ねえちゃん?」ガチャ

恭子「…」

漫「? 具合でも悪いん?」

恭子「別に…」

恭子「用がないなら出てってや、寝とるんやから」

漫「え、うん…」

恭子「…」

漫「えっと…おやす

……グー

漫「…」

恭子「…」

漫「…恭子ねえちゃん、おなか空いとんの?」

恭子「…空いてへん」

…グー

漫「……ぷっ」

漫「ぷくっ…ふふっ、あははははははははは!」

恭子「…そんな笑うことないやろ」

漫「だって、グーって、あは、あははははははははは!!」

恭子「…」

漫「ははは ふう、じゃあなんか作ったるよ」

恭子「…ええ」

漫「えー、なんで?」

恭子「ええもんはええんやって」

漫「んー……よし、じゃあうちのぶんも作るから、ふたりで食べよ」

恭子「…」

漫「それならええでしょ?」

恭子「…食べてきたんやないの?」

漫「育ちざかりやからだいじょぶやって!」

恭子「…」

漫「うん、決まりや!なにつくろかなー」

漫「できたー!特製焼うどん隠し味風味!」

恭子「…」

恭子(…隠し味風味て)

漫「はい、めしあがれ」コトン

恭子「…いただきます」

漫「うちも食べよっと」コトン

恭子「…」パク

恭子(!? 味濃っ…!)

漫「いただきまーす」パクッ

恭子(なんやこれ!?ムードがムードだけにツッコミづらいんやけど…!)

漫「うあ、まずっ!ちゅーか味濃っ!なんやこれ!!」

恭子「…言ってよかったんか、それ」

漫「あはははは、こら失敗やな、ごめんごめん」

恭子「…」グー

漫「ちょっと直してくるで、貸して」

漫「完成!特製焼うどん隠し味取り消し風味!」

恭子「…味見は」

漫「したで!今度は大丈夫や!」コトン

恭子「…いただきます」

漫「うん、めしあがれ」

恭子「…」パク

恭子「…おいしい」

漫「でしょー?」コトン

漫「いただきまーす」パクッ

恭子「…」パク、パク

漫「うん、おいしい!」パクパク

恭子「…」パク

漫「やっぱ変な味付けするもんやないね」パクパク

恭子「…漫ちゃん」

漫「ん?」

恭子「…」

漫「恭子ねえちゃん?」

恭子「…」

恭子「ありがと」

漫「ほえ?」

恭子「…」パク

漫「え、えっと…?うん…うんええよ、ええよ、ぜんぜん!」

恭子「…」パク

漫「こんなんでよければいくらでも作ったるで!!」ドヤッ

恭子「…」

恭子「うん」クスッ

漫「あ!なんで笑うん!?」

恭子「笑ってへん」クスクス

漫「無理があるで!」


――――…………

郁乃「ふんふんふふ~ん」ジューッ

恭子「…ふああ、なんや、いいにおい」ウトウト

郁乃「あ、起きたんか おはよ~」

恭子「おはようございます」

恭子「朝ごはん、作ってくれたんですか?」

郁乃「うん、なんや休日やのに早起きしてもうたからね~」

恭子「へえ」

郁乃「漫ちゃんにも声かけて来てくれる?」

恭子「ん、起こしてまうんですか?」

郁乃「ふふ~、ごはんはみんなそろって食べたいやん?」

恭子「…? まあ、ええですけど」

郁乃「コーヒーと紅茶どっちがええ?」

恭子「え? ええと…」

恭子「じゃあ紅茶で」

郁乃「は~い」

郁乃「ふたりは今日もテスト勉強?」パクパク

恭子「ええ、まあ」パク

漫「今日は図書館で勉強会するんや」パクッ

郁乃「へえ~えらいえらい」

漫「あ、たぶんごはんも外で食べるから、帰るんも遅くなると思う」

恭子「そうなん?郁乃さんは?」

郁乃「わたしは、今日は靖子と遊ぶから、えっと~」

恭子「…」

恭子(…今日は、か)

郁乃「恭子ちゃんがさみしいなら、帰ってきたげるで?」

恭子「ならわたしも、夕飯はどっかで食べてきますわ」

郁乃「やあん冷たい~」ブー

恭子「そんなんでさみしがるほど……子どもやないんで」

郁乃「うん?なあに今の間~」

恭子「…べつに、なんでも」

漫「あ、そや、明日なんやけど…」

恭子「ん…?」

郁乃「なあに~?」

漫「その、またうちで勉強会したいんやけど、ええかな…?」

恭子「…」

郁乃「ええよええよ、なあ、恭子ちゃん?」

恭子「へ?…うん、まあ、ええんちゃう」

漫「ほんまに!?やった!」

郁乃「明日のごはん当番はー…恭子ちゃんやね!」

恭子「…そんな大したもの出せませんよ?」

郁乃「ええんやって、料理は愛やで~」

恭子「高いお肉買っとったくせに…」

郁乃「愛情もこめたも~ん」

漫「あはは、みんなにも期待しといてって言っとくわ」


――――…………

――恭子の部屋

恭子「…」カリカリ

恭子「…」カリカリ

恭子「…ふう」

恭子「日本史はだいたいこんなかんじでええかな」

恭子「もうこんな時間か…そろそろ夕飯食べにいこかな」

恭子「…」

恭子(誰か誘ってみても…)ケータイパカッ

恭子「…」カチ、カチ

恭子「…あ」

恭子(でも、よう考えたら、みんなテスト前やんな)

恭子(2日前ともなれば、花子でもさすがに勉強しとるやろうし…)

恭子「…」

恭子(まあ、ひとりでええか)ケータイトジ

ガチャ

――街

恭子「…」テクテク

恭子(なに食べよ…)

智葉「ん……恭子?」

恭子「…?」クル

恭子「あ、智葉やん」

智葉「やはり恭子か」

恭子「智葉、こんなとこでどうしてん?」

智葉「予備校帰りだ 恭子は?」

恭子「ん、ごはん食べよと思て」

智葉「へえ…?」

恭子「えっと…きょう家族みんな外しててん…やから」

智葉「そうか」

智葉「…ちょうどいいな、ちょっと付きあわないか?」

恭子「……へ?」

――ラーメン屋「カツ丼」まえ

恭子「…」

智葉「すこし気になってた店なんだが、ひとりで入るのはどうも気が引けてしまってな…よかったら、ここで食べないか?」

恭子「えっと…ええけど」

恭子(ちゅーか、ここ……)

智葉「そうか 悪いな、付きあわせてしまって」

恭子「ううんぜんぜん、わたしもひとりやったし…」

恭子(靖子さんちのラーメン屋やん!)

智葉「じつは知りあいにすすめられてな、外国人なんだがラーメンに目がないやつで、なかなかいい舌をしてるんだ」

恭子「へ、へえ…」

ガラガラ

貴子「らっしゃい!」

智葉「ふたりです」

貴子「はいこちらへ……ん、店長のお友だちの…?」

恭子「あ、あはは…どうも…」

智葉「ん、知りあいなのか?」

恭子「ええと、ここの店長さんが、郁乃さんの昔からの友だちで…」

智葉「なんだ、人が悪いな」フッ

恭子「ごめん…なんか言い出しづらくて」

貴子「まあ、こちらへどうぞ あ…きょう店長いないけど…?」

恭子「あ、はい 郁乃さんとおるから…」

智葉「はは、なるほどな」

恭子「…ほんまごめんな?」

智葉「いや、いいさ、気にしてない しかし面白いこともあるものだな」

恭子「わたしも、正直驚いてん…」

貴子「ご注文はお決まりで?」水コトン

智葉「いや……そうだな」チラッ

恭子「…ん?」

智葉「恭子、決めてくれ」フッ

恭子「へ?え、ええっと…」

貴子「へい味噌チャーシューお待ち」

智葉「…ちゃんとラーメンだな」

恭子「なんやと思ってん?」

智葉「カツ丼が出るんじゃないかと思ってな」

恭子「まあ、そら無理ないわ」

智葉「はじめ知りあいにすすめられた時も、からかわれてるんだと思ったんだ…そんな名前のラーメン屋があるか、とな」

恭子「靖子さん、カツ丼好きやからなあ」

智葉「…カツ丼屋をやろうとは思わなかったのか?」

恭子「ラーメン作りのほうがあったんやって、才能」

恭子「やから味は保証付きや」

智葉「…いただきます」

恭子「わたしも、いただきます」

智葉「…!!」

智葉「たしかに…うまいな」

恭子「やろ?」

智葉「ほう、勉強会か」

恭子「ようやるなーってかんじやろ?」

智葉「かわいらしいじゃないか」

恭子「チョコをかじりかじりやるんや、頭に糖を回すんや言うて」

智葉「はは、それはいい」

恭子「漫ちゃんなんか明らかに教えてもらってる風やったな、なんや申しわけないわ」

智葉「わたしたちもやってみるか、勉強会」

恭子「冗談、花子に勉強教える会になってまうで」

智葉「そんなこと言って、恭子がいちばん熱心に教えそうだがな」

恭子「…やから嫌やねん」

智葉「ははははは!」

恭子「…」

智葉「ん…そういえば、その妹さんらしい4人組を見かけたな、さっき」

恭子「4人?」

恭子(増えとる…?)

智葉「ごちそうさま」

恭子「ごちそうさんです」

貴子「おう、またどうぞ!」

恭子「…」ペコ

ガラガラ

智葉「ふう、うまかったな、あいつがすすめるのも分かる」

恭子「そか、よかった」

智葉「しかし、本当に済まなかったな、付きあってもらって」

恭子「ええて、ほんまに」

智葉「…」フッ

智葉「じゃあ、また学校で」フリ

恭子「うん」フリ

恭子「…」

恭子「明日の晩ごはんの材料、買ってこ」フフッ


――――…………

――恭子の部屋

恭子「Zzz」

ガタンガタン…

恭子「Zzz」

ガタガタ…ガタッ…

恭子「…ん……んう…?」Zzz

ガタガタンッ!ガタンッ!!

恭子「…うるさ……なんやねん…朝っぱらから…」ウトウト

ガチャ



恭子「…」

漫「ふう…これは、えっと…こっちに…」

恭子「…なにしとんねん」

漫「ひゃう!」

漫「…なんや、恭子ねえちゃんか…おはよう」

恭子「おはようやないわ、ガタガタガタガタ何やっとんねん…」

漫「あ、起こしてもうた…?」

恭子「そう聞こえへんかったか?」

漫「あ、あはは……ごめんなさい」

恭子「…まあ、ええけど」

漫「ほら、今日みんな来るやろ?やからその、ちょっとは片付けとこ思て…」

恭子「随分いまさらな話やな」

漫「こ、このまえは急やったからノーカンやん!」

恭子「ふーん…」

漫「恭子ねえちゃん、あの、手伝ってくれたり…」

恭子「ノーやな 郁乃さん起こしてもうたら、わたしまで怒られるし」

漫「郁乃ねえちゃんならもう出かけたで?」

恭子「え?」

漫「先週と同じ、人と会う約束がある言うて」

恭子「…へえ」

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