憧「やり直せばいいのよ!」和・灼・美穂子「は?」(82)

立つかね?

原村家

灼「長野もけっこう寒…」、

和「ええ、暖かい物があれば良かったのですが生憎アイスティーしかなくて」コポコポ

憧「いいわよ、そんな気をつかわなくても」

美穂子「あら、小鍛治プロと福与アナの記者会見が始まるみたいよ」

憧「あのバカップルの会見? リア充は一秒でも早く爆発すればいいのに」

灼「ハルちゃんの競争相手が減って私は嬉し…」

和「お待たせしました。ごめんなさい、急だったのでお茶菓子も用意なくって」

美穂子「気にしないで。私、お家から野沢菜持ってきたから」

灼「ありがと。うん、本場の野沢菜は美味し…」

『ええっと妻から去年の放送中にプロポーズされて、じゃあって…』テレテレ

憧「公共の電波を使ってプロポーズなんて公私混同が過ぎるんじゃない?」

美穂子「ええ、国民の財産を私物化なんて由々しき事態ね」

『中学の頃に主人をTVで見たんですよ。その時に一目惚れって言うか~』テレテレ

和「放送局も放送局です。こんなくだらない事よりも報道すべき物があるはずです」

灼「いいなぁ、年上との初恋が実るなんて…」ボソッ

憧「じゃあ今日は暇だし、とりあえずTV局に軽く抗議でもしとく?」

美穂子「そうですね。こんな軽薄な報道で私たちまで誤解されるのも困りますし」

灼「…でもさ、いずれはあの二人みたいにになりたいよね。私たちも」

和「それはそうですけど、私と咲さんの出会い方はあまり良くなかったですから…」

憧「和、あの子に『退部してもらえませんか?』とか言っちゃったんでしょ?」

和「ええ… もしあの時に戻れたら、あんな暴言は絶対口にしません」

美穂子「そうね。私も中学の時に上埜さんの連絡先を聞いていれば…」

灼「私も意地はらないでこども麻雀クラブに参加しとけばよかった…」

憧「じゃあさ、やり直せばいいじゃない?」

美穂子「そんなことができれば、とっくにやっています」

和「最初から素敵な出会いをしていればきっと今頃は…」

灼「過去をやり直すって言ってもどうしようもできない」

和「そうですね。染谷先輩は時間を消し去ることしかできないですし」

美穂子「白糸台の大星さんが巻き戻せる時間も限りがありますからね…」

憧「まぁ、困った時はやっぱあそこを頼るしかないでしょ」ピポパポ

鹿児島


ブィーン ブィーン

小蒔「…あら、着信してないのに携帯電話が震えていますね?」

春「姫様、それはメールを受信して… 邪気共からの連絡!?」

小蒔「えええッ!! ま、またあの人たちですか!?」ガクガク

初美「姫様なんであんな連中にメアド教えているんですかー!?」

小蒔「だって、あの人たちに逆らったら何をされるか…」ガクブル

春「最早万策も尽きた私たちに姫様を御守りする戦力は…」

霞「…まだよ、まだ方法はある。 小蒔ちゃん、どうやらお別れの時がきたみたいね…」ニコッ

初美「二人なら楽しいときは2倍に、苦しい時は半分で済む… 霞ちゃんだけいい恰好させませんよー」ニヤリ

巴「待ってください! このメールの内容、狩宿家に伝わる秘宝を使う良い機会です」

霞「巴ちゃん、まさかアレをやる気なの…?」

和「…と、言う訳で憧のメール通り私たちを過去に送ってほしいんです」

美穂子「あ、これ私の家で漬けた野沢菜ですがお口に合いますか」

小蒔「…ご丁寧にありがとうございます」

灼「じゃ、挨拶も済んだし時間も勿体ないから神代さんと打と…」

憧「前から思ってたんだけどさ、別に打たなくてもいいんじゃない?」

和「そうですね。神様が降りるまで神代さんの首を捻り続ければ済む話ですね」

小蒔「ひぃいぃいいぃ!?」カタカタカタ

初美「こ、こいつら姫様を一体何だと思ってやがるんですかー!!」ガタッ

霞「堪えなさい、初美ちゃんッ! 今日こそ奴等に正義の鉄槌を下せるのですから」ヒソヒソ

小蒔「お、お待ちください。貴女達の要望ですが神様を下ろす方法では叶わないんです!」

憧「あら、そうなの? 最近は首捻るコツつかみかけてたのに」

春「クッ…」ギリッ

和「困りましたね。では他に方法があるのですか?」

霞「…巴ちゃん、アレを」

巴「はい。こちらでございます」スッ

灼「石臼… こんな物で一体何をすんの?」

巴「はい。こちらの石臼を回せば御望みの過去に行くことが可能です…」

~使用方法説明後~


美穂子「…つまり過去と言っても単純に時間を戻す訳じゃないんですね」

小蒔「その通りです。ですので望んだ世界じゃなくても挫けず他の世界へ移行すればいいのです」

憧「なるほどね。じゃ、さっそくやってみようか」

和「では私は高校入学当初に… いえ、転校先が高遠原じゃなく咲さんと同じ中学の世界がいいですね」

憧「そうね、じゃあ私は阿知中に進んだ世界がいいかな」

美穂子「これで夢にまで見た上埜さんと同じ高校生活を過ごせるのですね」

灼「ネクタイ貰った頃じゃ小っちゃ過ぎるから、こども麻雀クラブに参加した世界に…」

霞「はいはい、どこでも勝手にお好みの世界に行ってください…」

憧「確か小6の時に阿太中進学決めたんだから4年前か」

和「私は父の転勤が決まった頃に説得しなくていけないので3年前でしょうか」

灼「ハルちゃんがこども麻雀クラブの顧問の頃だから5、6年前だね」

美穂子「それでは一番現在に近い時間軸の私からで構いませんね?」

憧「この石臼を回せばいいのね? ん、結構重いわね」

初美「もう来ないで下さいよー!」

春「…来るも来ないも一度この時間軸から外れたら二度とこの世界に戻れないはず」ボソッ

巴「これぞ狩宿家最終秘儀・先祖流し…」ボソッ









美穂子「ここはインターミドルの会場!? 懐かしいですね」

和「あそこにいるのが中学生の部長ですね。なんか今よりも風貌が…」

憧「うわぁ、あれは相当の女ったらしね… この時点でかなりの数を食い散らかしてるわよ、アレ」

美穂子「そんなことありません! 今も昔も上埜さんは純潔ですッ!!」

灼「後がつかえてるんだから早く用事を済ませ…」

美穂子「そうでしたね、それじゃあ早速上埜さんの連絡先を聞いて…」

和「…あ、部長負けた対戦相手の子を連れてどこ行くんでしょう?」

美穂子「きっと優しい上埜さんのことですから、泣いてた子を慰めてあげてるんでしょう」

灼「ロッカー? あ、二人で中に入って…」


ギシギシアンアン


憧「ちょッ!! 対戦相手をその場でお召し上がり!?」

和「さすが全盛期の部長、信じられません…」

美穂子「跳べよおおおおぉぉぉぉぉッッ!!」ゴリゴリ









美穂子「…上埜さんの女癖の悪さにも困ったものね」ハァハァ

灼「これで1034回の時間跳躍。やっとこの世界で連絡先を聞き出して進学先変更に成功…」

和「部長が風越に行ってしまいましたが、そうなるとこの世界の清澄はどうなるんでしょう?」

憧「別にどうでもいいでしょ? 私たちには関係ない話じゃん」

美穂子「皆さんにはお待たせしてご迷惑をおかけしました。では健闘をお祈りしています」ペッコリン

和「ありがとうございます。では次は私が咲さんと同じ中学の世界ですね」

灼「今度の世界を見つけるのは今よりは簡単そ…」

憧「じゃ、この世界の私たちにもよろしくね~」ゴリゴリ

シュン

美穂子「…行ってしまった。頑張ってくださいね、皆さんも」

~和の世界~


咲「ありがとう原村さん、でもやっぱり私はお姉ちゃんときちんとお話したいんだ…」

和「お気持ちは十分にわかります。でも、お姉さんもまだ時間が必要なんじゃないでしょうか?」

咲「それはそうかもしれないけど…」

和「きっと、咲さんが今会いに行っても拒絶されてしまうのオチです。お姉さんだってまだ高校生なんですから」

咲「…そうだね。私、自分のことしか考えてなかったよ。お姉ちゃんだってまだ辛いんだよね、きっと」

和「ええ、ですから焦らずに時間が癒してくれるまでもう暫く待ちましょう」

咲「うん。でも私、いつまで待ってればいいのかな… その日が来るまで待っていられるかな?」

和「…大丈夫です。その日までずっと私が傍にいますから」ギュッ

咲「原村さん!? …優しいんだね、ありがとう」グスッ

和(クンカクンカ …嗚呼、中学生時代の咲さんもやっぱり良い匂いですね!! この時代に来た甲斐がありました)

和(ここで一気に押し倒して未成熟な咲さんを堪能するのもアリですが、初々しい恋愛は今しか楽しめませんからね…)ニヤリ

~美穂子の世界~


久「…早い物ね、あのインターミドルで貴女と出会ってもう1年も経ったなんて」

美穂子「まだ1年ですよ上埜さん。でも、この1年間は充実していて過ぎるのが早かった気がします」

久「そうね、それは私も同じ。でも、こうして幸せな時間を過ごせたのも全部貴女のおかげかも」

美穂子「そんなことありません。ただ私はずっと貴女の傍にいただけですから」

久「ううん… こうして風越に来れたのも奇跡みたいなもんだから、あの頃は家で色々あったしね」

美穂子「ええ、でもこうして現在があるのですから過去のことなんて気にしないでください」

久「そうもいかないでしょ? あの頃、どれだけ貴女に助けられたか忘れる訳にはいかないわ」

美穂子「…全部、過ぎた事です。私たちには現在があって未来があるのですから気にしないでください」

久「未来か… そうね、今年IHに出場できたら過去を清算しようかしら。 その時は美穂子、貴女に大事な話があるわ」

美穂子「えっ…!?」

久「その時が来たら…、この1年間ずっと貴女に伝えられなかった事を言うわ」ニコッ

美穂子「上埜…さん…?」///

~灼の世界~


灼「そうだよ、今のハルちゃんは逃げてるだけ。あの日からずっと」

赤土「アハハ、まさか灼に説教されるなんてね… ま、確かに言う通りだね」

灼「逃げたままじゃ何も始まらない。あの日に決着をつけなきゃ…」

赤土「それはわかってる。けどさ、どうしようもないんだよ今の私じゃ…」

灼「ううん、大丈夫。私がハルちゃんの悪夢を断ち切ってみせる」

赤土「灼が? サンキューな。でも無理だよ、この体に染みついた恐怖はそう簡単には」

灼「うん、今の私じゃまだ無理。でも、あと5年待って」

赤土「5年?」

灼「そう。そうしたら私がハルちゃんをあの日に連れてってあげるから」

赤土「灼、まさか5年ってアンタがIHに?」

灼「…うん。だからそれまでずっと傍にいて。あの日に辿り着くだけじゃなく超える為にも」

赤土「…灼 そうね、阿知賀で教師をやらないかって誘いもあるし後進育てるのも悪くないか」

灼「ハルちゃん…」///

~憧の世界~


憧「じゃ、穏乃はさやっぱ阿知賀に進むの?」

穏乃「うん! 和も阿知賀行きたいって言ってたし、ここの部室好きだからさ」

憧「そっか、そうだよね。実は私も阿知賀に行くって決めたんだ」

穏乃「おっ、憧も阿知賀か! 玄さんもいるし、これで麻雀部があればなぁ~」

憧「まぁね。でもさ、どうしても打ちたいなら同好会でも作ればいいんだし、他にもいっぱい楽しいことあるよ?」

穏乃「他にも? ねぇねぇ、それって麻雀よりも楽しいの!?」

憧「そうよぉ …でも、まだ穏乃も小っちゃ過ぎるから教えてあげるにはちょっと早すぎるかなぁ~」

穏乃「小っちゃいって憧の方がチビのくせにお姉さんぶるなよな!」

憧「ふふ、もう本当にロリ穏乃も可愛いんだからッ! その内、たっぷり教えてあげるから我慢しててね」

穏乃「もう~、なんだよ。今教えてくれたって減るもんじゃないだろケチー!」

憧「ヘヘッ、や~だよ~! じゃ、私を捕まえられたら教えてあげよっかなぁ~」

穏乃「あっ言ったなぁ~ 待て、憧~!!」



終わる

そして


~憧の世界・その後~


憧「ねぇ穏乃、アンタも阿知賀に行くんでしょ?」

穏乃「うん、本当なら私も阿知賀に行きたいんだけどさ…」

憧「どうしたのよ? なんか最近元気ないけど何かあったの?」

穏乃「実はさ、最近吉野の観光客も減ったじゃん? それでウチの景気があんま良くないらしいんだ」

憧「そうなんだ、ウチも参拝客減ったもんね。やっぱり地球の温暖化が原因かしら?」

穏乃「どうなんだろうね? でさ、大阪の方からこっちでお店やらないかって誘いがあるらしくって…」

憧「嘘でしょ? そんな話、一度も聞いた事ないわよッ!?」

穏乃「そりゃそうだろ。だって憧にこんな話するの初めてだもん」

憧「…いや、そういう話じゃなくって」

穏乃「まぁこればっかは自分じゃどうしようもないしなぁ…」

憧「そ、そりゃそうだけどさ」

穏乃「それに決まった訳でもないからさ。 じゃ、また明日学校でな~」

憧「ちょ、待ちなさいよシズ! 一体どういうことなの、これって…」

?「やっぱりここでも世界の自動修正が起こっていましたか…」

?「仕方ない。世界を歪めたのは私たちの方だし…」

?「―――いつもならば強気でイケる そんな性格なのに~♪」

憧「アンタたち、どうしてここに!?」

美穂子「なのにどんな頑張ってみても壁は崩せない… 諦めてください新子さん」ニコッ

憧「…どういうことよ、アンタたちも理想の世界で楽しく過ごしてたんじゃないの?」

和「ええ、理想通り咲さんと同じ中学に通い、ある時期までは理想的な時間を過ごしていました」

灼「私もハルちゃんと過ごしたあの時間、絶対に忘れない…」

美穂子「でも、世界を歪めた代償が… 新子さんもその傾向がもう見え始めていますね」

憧「代償って何よ!? それにここは別に何も変わりないから帰りなさいよッ!!」

灼「嘘。玄のとこが改装してたし、ウチがROUND1になって…」

憧「そんなの微々たることでしょ? 止めてよね、自分たちが失敗したからって足引っ張るのは!」

和「…憧、これは友人として親切で言ってるんです」


~和の世界・その後~


照「…済まなかったな、咲。あれは事故だったのにお前だけを責める様な真似をして」

咲「ううん、私の方こそゴメンねお姉ちゃん!!」グスッ

和(…こ、これは一体? 高校に進学前に咲さんとお義姉さんの和解なんてオカルト有り得ません…)

照「母さんもお父さんと話は済んでいるそうだ。これからはまた家族で暮らせるぞ」ニコッ

咲「ホントに!? じゃあ皆で長野で暮らすんだね!!」

照「いや、母さんの仕事や私の学校もあるから東京で暮らすんだ。ちょうど咲も進学する前だしな」

和「えっ!? ちょっと待ってください、咲さんは私と清澄に進学するって約束を…」

咲「和ちゃん… ごめんね、でも私はやっぱり家族で過ごしたいし…」

和「咲…さん…」

?『返してください、私の身体を…』

和「えっ?」

美穂子「…ええ、私たちの忠告を無視しても貴女が辛くなるだけ」


~美穂子の世界・その後~


久保「一体何をしでかしたのかわかってんのか、上埜ァ!!」バシィ

久「……クッ」

美穂子「止めてくださいコーチ、何があったかは知りませんが暴力はダメです!!」

久保「止めるな福路ッ!! こいつのせいで我々はIH出場辞退させられたんだぞ!!」

美穂子「…えっ!? 嘘でしょ…、上埜さん…?」

久「…本当よ。ウチのやっぱ家計苦しくってさ、それでお金目当てで色んな子と寝てたのよ」

久保「…で、こいつが協会の孫娘を孕ましやがってそこからバレたって訳さ」

美穂子「そ、そんな…」ポロポロ

久保「…さっき職員会議で上埜の退学処分が決まった。 さぁ、とっとと荷物を纏めて消え失せろ!!」

久「…最初っからわかってわ。こんな綺麗な世界、私みたいな野良犬がいれる訳ないのよね…」

?『お願いです、返してください私の体を』

美穂子「え…?」グスッ

灼「辛いよ…」ボソッ


~灼の世界・その後~


赤土「ごめんね、灼… でもさ、皆の姿を見て私も向き合えそうな気がしてきたんだ。あの日にさ」

灼「それは私にとっても嬉しいことだけど… でもハルちゃん、私とIHに行くって約束は!?」

赤土「大丈夫、もう灼は私の手助けなんてなくても自分自身で未来を選べるんだから」

灼「そんなことないッ! まだ私にはハルちゃんが必要、だから行かないで!!」

赤土「…ダメだよ、灼。 私がここにいたら今度は灼があの日から一歩も進めなくなっちゃう」

灼「…ッ!?」

赤土「灼を私のコピーになんかしたくないんだ… わかってよ、私だって辛いんだからさ…」

灼「ハルちゃん…」

?『ねぇ、いい加減返して。私の体…』

灼「…えっ?」

~で~


和「やっと辿り着いた理想の世界。私も、お二人もその程度で諦められませんでした…」

美穂子「その後もなんとか知ってる元の世界の未来に戻そうと必死に抗いました」

灼「けど歪められた世界は自己修復し、その反動で更に辛い未知の未来に進んだ…」

憧「で、結局私たちが時間跳躍したあの時間軸に戻るのがベストだと…」

美穂子「そうです。過去をやり直すなんて所詮夢物語だったんです」

灼「でも、まだあの世界には私たちの未来がある。だから無駄に傷付く前に帰ろう、憧…」

憧「嫌よ… こんな優しい世界ここしかないんだから!! 帰るならアンタたちだけで帰んなさいよッ!!」

和「…憧、もう貴女にも見聞きできてるはずですよ。この世界にいた、自身の姿や声が」

憧「……この世界にいた自分?」

アコ『私の事だよ。返してくんない、私の身体?』

憧(…チッ、どうやらアンタは心霊現象や幻覚って類じゃなさそうね)

和「憧、対消滅って言葉を知っていますか?」

憧「…何それ?」

美穂子「簡単な話です。一つの世界に同じ人物は矛盾が発生するので存在できないんです」

灼「ここに自分がいる。 じゃあここに来る前の『自分』はどこに行ったのか不思議じゃない?」

憧「そんなの知らないわよ… 私がここに存在してるんだから消滅したんじゃないの?」

和「いいえ、何も消滅していません。今の憧の肉体はこの世界にいた『本来の憧』の物です」

憧「はぁ? じゃあどうして今の私は石臼で時間を跳んだこと覚えてんの?」

美穂子「ええ、人格や記憶… 或いは魂と呼ばれる物は元の新子さんの物よ」

和「そして、それらがその体に上書きされた、矛盾のない状態だと思ってました」

灼「でも、矛盾のない状態は見せかけだけ。 本来存在したそういった物は存在し続けてたんだ…」

和「世界を歪ませた結果、貴女の肉体には二人分の憧の記憶等が存在しているのです」

憧「なるほどね… 最近やけに見聞きしてるコレは病気とかじゃないってわかって安心したわ」

灼「私たちが知ってる世界との差異が拡がるにつれ、ソレはますます見えたりするようになる…」

美穂子「私も最初は原村さんの言葉が信じられずあの世界で頑張ろうとしたわ…」

和「…ですが福路さんも鷺森さん、そして私も結局その世界の『自身』の苛む声と自己修正が進む世界の前では…」

灼「これでわかったでしょ? これは親切で言ってるんだから帰ろう、元の世界に」

憧「あっそ。さっきも言ったけど私は嫌ッ! アンタたちが帰るのは勝手だけど私はここに残るから」

和「憧…」

憧「元いた自分の人格とか何なの? そんなの無視すればいいじゃない!!」

憧「世界の自己修正? 未来なんて自分自身で決めるもんでしょ?私はそんな物になんか負けないわよッ!!」

アコ『…じゃあ、どうして元いた世界を捨ててきたの?』

憧「それは……」

アコ『そこにも穏乃はいたのに… アンタは自分も未来も信じられずに逃げただけでしょ?』

憧「うるさい、うるさいうるさいッッ!! 私はもうこの優しい世界しかないんだからッ!!」グスッ

美穂子「…かなりの末期状態ね」

灼「これ以上いたら憧の精神が危ない…」

和「仕方ありませんね。では皆さん、始めましょう…」

空気が爆ぜた。それは突然だった。

拳。影が、視界の隅を過ると躰が自然に動く。横に跳び、尻から落ち転がる。
そこを狙って飛んでくる脚。止めた腕が痺れる。 等間隔で囲む三人の影は、一頭の黒い獣のようだった。
構えに隙はなく、それだけで恐ろしいほどの手練れだということがわかった。 背中にじわりと汗が滲み出ていた。

影とすれ違う。構え直した時、脇腹に痺れるような熱が残っていた。
大きく息を吸い、肺に空気を送る。沸々と躰が熱くなる。 吼えなければ、その熱で焼き焦がれそうなほどの熱い滾りだった。


憧「ンだらァァ、来いよオラァッ!!」

灼「アンだオイッ?! テメ、んだコイてんじゃねーよオイ!!」

和「テェなコラッ!? マジぶっこっぞオラァ!!」

美穂子「何クレてんだオィ!? ンッなモン、ってじゃねーぞぉオゥッ!?」


ポカスカ ドカッバキッ

見ているか穏乃、私は戦っている。この世界で、お前と生きるため、私は戦うのだ。
躰の底から何かが満ち溢れる感じがした。再び、影。拳に手応えがあった。構え直すと、影はそこにはなかった。
視界が明るい。空なのだ、憧はそう思った。ということは、私は斃れているのか。視界に広がる空は、どこまでも白かった。


憧「シ…ズ………」ドサッ

灼「あ~あ、修学旅行で買った木刀だったのに殴り過ぎて折れちゃっ…」

和「私もです… 折角新品の安全靴を用意したのに蹴りすぎて凹んでしまいました」

美穂子「あらあら、それは災難ね。私は何か痛いと思ったら新子さんの歯が拳に刺さっていました」

灼「大丈夫? そこのコンビニで消毒液でも買った方がいいんじゃ…」

和「あ、それなら私が行きます。ちょっとお腹が空いたのでパンでも買おうかなと」

美穂子「それなら皆で行きましょ。 あそこ、バンドエイドとかも売ってるかしら?」


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憧「う、う~ん… あ~、穏乃とお揃いのカーディガンが破れてる!?」

和「あ、目が覚めましたか憧?」

憧「なんかまだ体中痛いんだけど? アンタたち、ホントに容赦ないわね…」

灼「こっちだって怪我したんだからおあいこ…」

憧「全くもう… で、ここどこよ?もう元の世界に戻ってきちゃったの?」

美穂子「いえ、あの後3人で相談したのですがこのまま帰るのも勿体ないと」

灼「せっかく時間跳躍できるのだから、元の世界で経験できないことをしとこって…」

和「どうせ別の世界ですから、そこの世界の私たちがその後どうなろうと構いませんし…」ニヤリ

美穂子「長居しなければ大丈夫でしょうし、色々愉しませてもらいましょ?」ニコッ

憧「やっぱアンタたち最高ね! じゃあじゃあ、私は小5ぐらいの穏乃たちを無理やりさ…」

和「「フム… 憧、もっと詳しくそのアイディアを聞かせてください」





おしまい

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