遠坂凛「あなたがわたしのサーヴァントね?」その3 (391)
安価で決まったサーヴァントで聖杯戦争、3スレ目。
このお話もいよいよ佳境。
その1→遠坂凛「あなたがわたしのサーヴァントね?>>2」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380884864/)
その2→遠坂凛「あなたがわたしのサーヴァントね?」その2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382798852/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1391166058
前スレ>>1000
はい、安定の誤字ですすみませんでしたー!
クラス:セイバー
真名:錆白兵 属性:中立・中庸
筋力C 耐久E 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具C
◆スキル
・対魔力(D) 魔術に対する抵抗力。自身に元々対魔力がないためセイバーにあるまじき低さ。
・心眼【偽】(A) 直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
・無窮の武練(A+) いついかなる状況においても体得した武の技術が劣化しない。
・反骨の相(C) 一つの場所に留まらず、また、一つの主君を抱かぬ気性。同ランクまでのカリスマを無効化する。
・全刀・錆(-) 手に取った物を刀として扱う能力。棒状であれば例外なく適応される。
◆宝具
『薄刀開眼』(ハクトウカイガン)
所有者:錆白兵 ランク:C
種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:50人
自身の兵装である『薄刀・針』を破壊することで発動する最終奥義。
砕かれた刀身は視認できないほど小さい針となり、空中に霧散する。
風に乗って辺り一帯を無差別に切り裂くため、『全刀・錆』を持つセイバー以外は基本的に防御不可能。
この剣の事前知識と、身体を覆う程度の攻撃魔術を所有していなければ対応できない。
幾つもの妙技の中で、唯一自身の技量だけでは発動出来ない薄刀・針限定奥義。
クラス:アーチャー
真名:アンパンマン 属性:秩序・善
筋力A 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具EX
◆スキル
・対魔力(A) Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
・単独行動(A+) マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。単独で戦闘を行うことができる。
・戦闘続行(A) 戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
・正義の証(EX) 同じ相手に何度同じ技を使用しても命中精度が下がらない特殊な技法。攻撃を見切られなくなる。
・献身削身(―) 自らの頭部を回復用のエーテル塊として使用できる。
◆宝具
『正義の拳に勇気を込めて』 (レジェンド・オブ・アンパンチ)
所有者:アンパンマン ランク:EX
種別:対悪宝具 レンジ:1~1000 最大捕捉:1人
彼の代名詞にして、文字通り必殺技。
空中で構えを取り、真名解放と共に自ら砲弾となって拳を放つ。
彼がアーチャーたる所以でもある。
この宝具の能力は、『必ず命中する』と『相手を絶対にノックダウンする』の二つ。
招く結果はサーヴァントの消滅では無く、気絶である。
気絶させるのに必要なだけの攻撃力に自動調整して放たれるため、相手を殺すことは無い。
相手がどんなに弱くても気絶までしか暴力が展開されず、逆にどのような耐久力・防御力を誇る相手でも気絶する。
彼が四次アーチャーにこの宝具を使わなかったのは、止めが刺せないから。
気絶から復帰した後に激昂、または暴走する相手とは相性が悪い。
『その身不屈は愛の為』 (パワー・オブ・ヒーロー)
所有者:アンパンマン ランク:EX
種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
水に弱いという有名すぎる弱点を逆説的に宝具へと昇華したもの。日本で召喚された場合のみ使用可能。
これは彼を観てきた者たちの願いであり、彼に対する愛の結晶。
対人宝具と銘打っているが、実質的には結界宝具に近い。
『顔が湿る』という特定の動作を除く、全ての攻撃を無効化する。
彼が現界した時点で定められる世界の法則であるため、顔を濡らす以外の攻略法は『星の開拓者』や『原初の一』を除いて皆無。
彼を害為す行為は例外なく全て無効化されるため、令呪による自害にさえ対抗する。
しかしアーチャークラスで現界したため、頭部を交換するための宝具を持ち合わせていない。
故に真価を発揮できない状態。一度濡れたらそれまでであるため、運用には慎重を規す必要がある。
クラス:ランサー
真名:エステル・ブライト 属性:秩序・善
筋力C 耐久D 敏捷A 魔力B 幸運B 宝具C
◆スキル
・対魔力(B) 魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
・魔術(C++) 基礎的な魔術を一通り修得していることを表す。宝具の性質によりランクが向上している(本来はC)。
・道具作成(C) 魔力を帯びた器具を作成可能。料理の技量などに恩恵がある。
・奇襲(D) 背後を取って戦闘を開始した場合、命中確率と攻撃回数が増加する。
・戦闘続行(C) 名称通り戦闘を続行する為の能力。往生際の悪さ。
◆宝具
『導力魔法・遊撃武嬢』(オーバルアーツ・タイプS)
所有者:エステル・ブライト ランク:C
種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
彼女が魔術を行使するために必要となる器具。
オーブメントの組み合わせによって使用できる魔術が変化する。
戦闘時以外なら何時でも組み換えが可能であり、実質的に全てのオーバルアーツを使用可能。
『破壊杖・麒麟具』(ブレイクロッド・キリング)
所有者:エステル・ブライト ランク:D
種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:1人
謎の金属を精錬してできた黄金の光を放つ神秘の棒術具。
真名解放と共に、ただの訓練用の棒術具に過ぎなかった武装が黄金色に輝き出す。
使用中は攻撃力が大幅に上昇し、一時的にBランク相当の『心眼【真】』をスキル欄に追加する。
クラス:ライダー
真名:ラムザ・ベオルブ 属性:混沌・善
筋力C 耐久C 敏捷D 魔力D 幸運D 宝具A++
◆スキル
・騎乗(A+) 乗り物を乗りこなす能力。A+ランクはすべての乗り物を乗りこなすことが出来る。
・対魔力(C) 魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
・カリスマ(C) 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。複数戦闘での指揮力向上。
・軍略(A) 多人数戦闘における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に補正がつく。
・専科百般(E) 生前の経験と知識から来るスキル。ジョブチェンジ不可のため、十全に発揮できない。
・仕切り直し(D) 戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
◆宝具
『怪鳥三羽・天地走破』(チョコボ・ザ・トリニティ)
所有者:ラムザ・ベオルブ ランク:C
種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
個別の独立したユニットとして、チョコボを召喚する宝具。
黄チョコボ、赤チョコボ、黒チョコボの三羽から一体を選出する。
この宝具は常時発動しているものであり、チョコボは常にライダーの傍で霊体化している。
チョコボそれぞれが宝具に準ずる能力を持つため、戦況に分けて乗り換えることが重要となる。
また、個別ユニットであると言う特性上、二対一の状況を強いることが出来るのも強みの一つ。
『幻想の異端旅団』(タクティカル・ファンタズム)
所有者:ラムザ・ベオルブ ランク:A++
種別:対軍宝具 レンジ:不定 最大捕捉:25+α人
共に旅路を歩んだ旅団を孤立ユニットとして召喚する宝具。
現実を侵食する固有結界では無く、独立したクラス無しのサーヴァントを現界させる。
召喚出来る兵士は以下の通り。
戦士系:ナイト3名、弓使い3名、シーフ2名、モンク2名、竜騎士2名、侍1名、忍者1名
魔導師系:黒魔導師2名、白魔導師2名、時魔導師1名、風水師2名、召喚師1名、アイテム師3名
召喚されるユニットは何れも無銘であり、そのため現界するにあたって必要となる魔力量も少ない。
しかしそれはあくまで通常のサーヴァントと比べての話。
全力展開した場合は、ライダー本人を含めてバーサーカー二体分以上の消費を継続して行う事となる。
リスクに対して得られるリターンは十分で、系統の違うユニットをライダーの軍略、カリスマで更に強化して運用できる上に、一体一体が強力である。
さらに固有結界ではないため範囲の指定が無く、ユニットは自由行動が可能。それぞれがジョブに合わせた宝具を持つ。
陣地攻略戦や防衛戦など、使い方によっては非常に強力な宝具。
クラス:キャスター
真名:ロト 属性:秩序・善
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具A
◆スキル
・陣地作成(×) 魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。魔術師ではないため使用不可。
・道具作成(×) 魔力を帯びた器具を作成可能。魔術師ではないため使用不可。
・啓示(A) "天からの声"を聞き、最適な行動をとる。現在は『調整』の影響で使用不可。
・コレクター(A) より品質の良いアイテムを取得する才能。
・精霊の加護(EX) 武勲を立てうる戦場に限り、幸運を呼び寄せる能力。現在は『調整』の影響で使用不可。
◆宝具
『勇者の盾』(シールド・オブ・ブレイバー)
所有者:ロト ランク:C
種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
かつて世界最高の防御力を誇った盾。
盾として機能する面へのダメージを、一切合財はじき返す。
また、火炎や吹雪などの波状攻撃は面に触れた瞬間に無効化される。
本来は『王者の剣』と共に運用するのだが、キャスタークラスでは持ち合わせていない。
そのため対人宝具であり、専守の性能となる。
『回復魔法・勇』(ベホマズン)
所有者:ロト ランク:A
種別:対軍宝具 レンジ:1~4 最大捕捉:4人
かつて世界最高の性能を誇った回復魔法。
自身が仲間と認めた者の傷を完全に治癒する。
ランクがAであり魔力消費は激しいが、対象が死亡さえしていなければ有効。
どのような状態であろうと即座に回復し、万全の状態で戦線に復帰できる。
『勇気の閃光』(ギガデイン)
所有者:ロト ランク:A
種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:40人
聖なる雷を迸らせて対象を薙ぎ払う究極魔法。
セイヴァーとして召喚された場合は対魔王宝具となり、魔の者に対する特攻効果を得る。
雷撃は古来より、神の怒り、神の嘆きとして人々に伝えられてきた。
彼の放つ雷は勇気の証。その光は聖なる祈り。
世界の調和を取り戻さんと、神が授けた力の具現である。
クラス:アサシン
真名:バッツ・クラウザー 属性:中立・善
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具×
◆スキル
・気配遮断(E) 自身の気配を消す能力。彼の場合は武道家としての精神統一。集中して気を操らねば使えない。
・直感(B) 常に自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
・専科百般(E) 生前の経験から来るスキル。現在はモンクで固定されているため、十全に発揮できない。
・勇猛(A+) 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
・仕切り直し(A+) 戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
・騎乗(B) 乗り物を乗りこなす能力。Bランクで魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなす。
◆宝具
『自ら誇る勇気の剣』(ブレイブブレイド)
所有者:バッツ・クラウザー ランク:A++
種別:対城宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:500人
彼が生前に愛用した剣の一本。
宝具としての効果は、勇気の総量に応じて切断の威力を上げるという単純な物。
しかし真名解放を伴った場合は別であり、勇気の総量に応じた斬撃を空間に対して行う対城宝具。
モーションから斬撃発動までに僅かなタイムラグがあり、そのため彼の背後で盛大な光と共に空間が引き裂かれる演出となる。
空間を引き裂くと言ってもあくまで真空を作り出す程度であり、対界宝具には至らない。
真名解放の以前と以後で、対人と対城の異なる二つの効果を持つ特殊な宝具。
スキル:勇猛によって勇気にブーストが掛かるため、非常に効率がいい。
なお、現在はモンクのため使用不可能。
『自ら蔑む臆病の刃』(チキンナイフ)
所有者:バッツ・クラウザー ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1 最大捕捉:1人
彼が生前に愛用したナイフの一本。
真名解放とともに攻撃することで、戦闘から離脱がする。
強制転移であるため転移先は指定することが出来ないかわりに、確実に相手の認識から外れることが可能。
真名解放に際して必要な魔力も極端に少なく、複数回の連続使用にも十分耐えうる宝具。
なお、現在はモンクのため使用不可能。
クラス:オディオ
真名:オルステッド(魔王オディオ) 属性:混沌・狂
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A+ 幸運E 宝具E
◆スキル
・狂化(EX) 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。彼はこのスキルを外すことが出来る。
・対英雄(-) 相手の全パラメータを、英霊なら2ランク、反英霊なら1ランクダウンさせる。狂化を外すことで得られるスキル。
・対魔力(A) Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
・単独行動(EX) マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。EXランクではマスター不在でも行動できるようになる。
・魔力放出(A) 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。魔力によるジェット噴射。
・無辜の怪物(E) 生前のイメージによって、在り方を捻じ曲げられなった怪物。彼の場合は、それが半ば真実であるためランクは低い。
◆宝具
『射す光、地に堕とすのは影』(オディオ)
所有者:オディオ(オルステッド) ランク:E
種別:対人宝具
レンジ:1 最大捕捉:1人
魔王に成った経緯と、異世界の同一存在に干渉した逸話から。
人を魔王化する宝具であり、彼が他人を殺すことで自動的に発動するもの。
対象の憎しみ、または魔王となる素質に呼応して発現する。
発現すると、その憎しみを燃料に魔力を精製し自動的に傷口を塞いで蘇生。
そうやって蘇生したものは、憎しみによって魔王化を加速させていき、最後には自分を見失う。
取り除く術は無く、オディオが消滅しても影響は残る。
魔王化とは、つまり悪性への転嫁。
間桐桜のように反転存在として内に魔王を秘めるものや、衛宮士郎のように虚偽の信念で行動するものに有効。
反面、裏表のない遠坂凛や魔王としての素質がない間桐慎二には通用しない。
なお、魔王化に成功したところでそれが有利に働くとは限らないため、道楽のようなものであり、そのためランクはE。
クラス:アーチャー(四次)
真名:ン・ダグバ・ゼバ 属性:混沌・中庸
筋力A 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A++
◆スキル
・対魔力(C) 魔力に対する抵抗力。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
・単独行動(EX) 魔力供給無しでも長時間現界していられる能力。EXランクではマスター不在でも行動できるようになる。
・変化(A) 文字通り「変身」する。人間体から究極体まで、任意で変身可能。
・戦闘続行(EX) 名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
・魔力放出【炎】(A) 集中した魔力を炎へと変換し、瞬間的に放出する事によって攻撃することが可能。
・怪力(A) 魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。
◆宝具
『究極の闇』(キュグキョブン・ジャリ)
所有者:ン・ダグバ・ゼバ ランク:A++
種別:対軍宝具 レンジ:制限なし 最大捕捉:1000人
彼のプラズマ発火能力を宝具としたもの。
一度認識した相手であれば、距離や弊社物に干渉されずに発火させることが出来る。
これは魔力放出【炎】とは異なり、体内物質の分子・原子を分解・再構成することで発生する現象であるため、外的な防御は無効。
しかし宝具として昇華された反動か、マスターには多分な魔力消費が要求される。
ステータスの高さに加え、優秀な攻撃スキルを併せ持っているため、魔力消費というデメリットがあるこの宝具を使う場面は限られてしまう。
なお、使用する際は捕捉した攻撃対象1だろうが1000だろうが魔力消費に差が無いため、終盤における切り札となる宝具。
≪今日はこれだけ≫
バッツ・クラウザーは世界を救った英雄だ。
完全なる虚無を打破し、数多の次元に秩序をもたらした。
聖杯に求める望みも無く、求められたから現界したまで。
故に彼は、彼を喚び寄せた少年のために死を選ぶ。
所詮仮初の命、失って誰かが迷惑するものでもない。
むしろ失うことで救える何かがあるのなら、そちらを取るのが彼の生き方。
何よりも自由で、誰よりも奔放で――――そのくせ最後には世界を救うお調子者。
偽物の自分なんかより、いまこの瞬間を生きる人間を助けたい。
そう思ったから、そうするのだ。
そこに打算は無い。そこに信念は無い。そこに決意など、無い。
そこにあるのは―――――ほんの少しの臆病と、あとはちっぽけな勇気だけ。
しかしそれで十分。
彼に取ってはその二つが、世界を救った刃そのものなのだから。
「イリヤ。ランサー。 シロウを頼むぜ」
シロウを頼む。
つまり、この戦いに手出しは無用で―――残されたマスターの無事だけを願った。
「……うん。任された」
答えたのはランサー。
イリヤスフィールも、ほんの小さくだが―――首を縦に振った。
「はは、よかったよかった。これで楽に死ねる」
言葉とは裏腹に、太陽のような笑顔で――――彼はオディオに向き直った。
「さあ、この戦いもお開きだ! 後は残った奴に託す!」
「死ぬ気の特攻か――――それに何の意味がある? 渾身の一撃も、空を斬るしかなかった貴様に、何が出来る!」
「何も出来なくたっていいんだよ! 無謀でも蛮勇でも、それはれっきとした勇気だ!」
アサシンは特攻した。
拳さえ握らず、全力疾走でオディオに向かって走る。
無論、オディオとて只で攻撃を受けるはずが無い。
剣を下方に構えて、半月を描くように切り上げる。
「―――『疾風の如く、千里を駆ける悪(ソードビュー)』!!」
吹き荒れるのは、斬撃を伴った死の風。
アサシンはそれを横に転がって躱す。
その身体は―――僅かながら、光を放つ。
「―――何をする気だ…! その光、まさか貴様!」
アサシンは答えない。
無言のまま、歯を食いしばり―――
一心不乱にオディオへと向かう。
その気迫に。その英断に。
オディオは息を飲み、足を止める。
「本気か……! それは何の益も無い、正真正銘の自爆だぞ!!」
オディオの言葉に、アサシンは笑った。
これが彼の見せた最後の笑みであり、そして最高の表情だった。
「益が無いわけあるか。人を守れて、俺は嬉しい」
「貴様…貴様! 勇者が……!!」
バッツ・クラウザーの放つ光は、最早目が眩むほどの光量。
それは魔力の飽和、暴走、暴発だ。
英霊を形取る、聖杯から得た膨大な魔力。
解き放たれるそれはまさに、魂の閃光――――
「――――――――――『Broken』(壊れた)――――『Phantasm』(幻想)!!!」
≪ここまで≫
飛散した幻想の欠片は、そのまま空気に融けて消える。
光という光をまき散らした、死を引き換えに放った輝き。
それは儚くも盛大で、一瞬でありながら鮮明だった。
「……っ……ぐっ…!」
しかしそれでも―――――オディオの命には届かない。
全力の魔力放出による相殺を以てして、辛くも致命傷は避けている。
それはアサシンにもわかっていたこと。
絶対に倒せないことは、戦う前から直観していた。
だからこそ、文字通り全力でぶつかったのだろう。
それによって、オディオの機動力は徹底的に削がれている。
もうしばらくは、立ち上がることも出来ないほど。
英霊自身の魔力爆発は、それほどまでに重い。
「あたしはシロウを頼まれた。だから、それを果たす義務がある」
ランサーは、衛宮士郎の体躯を担ぐ。
わかっているのだろう。
いくらオディオが傷だらけでも―――彼女では止めを刺せないことが。
オディオのスキル、『対英雄』はステータスを引き下げる類のもの。
強化系の宝具しか決め手が無いランサーでは、あまりにも相性が悪い。
それでもここで仕留めたいというのなら、アサシン同様に自ら爆ぜるほか無いだろう。
だけどそれは出来ない。
彼女はアサシンの頼みごとを、ここで無下にはしたくなかった。
「次会ったら、ボコボコにしてやる。覚悟しときなさい」
「……くはは…今の私に止めも刺せない有様で、それを言うか…」
相も変わらず世界を呪ったような声で呟くオディオを背に、ランサーとイリヤスフィールは衛宮邸を後にする。
アサシンとの別れの言葉は、きっとあれで十分。あとはこの少年に語り継ぐ武勇があればいい。
――――――――――バッツ・クラウザー。 彼は最期まで、笑顔だったと。
【???】
暗い暗い闇の中で、俺は一筋の光を見た。
憎しみに呑まれるその直前で、俺は小さな勇気に触れた。
―――――『なんだよ』。 『ビビってんのか?』
どこか懐かしい、明るい声。
その問いかけは、益体の無い小噺。
―――――『そういう時はさ、いっそ怖いって口に出せ』。『ビビってる自分を、認めちまえ』。
彼は何故、今になってこんな話をするのだろう。
それは数日の間、剣と拳を打ち合う際に聞いていた言葉だ。
―――――『認めちまえば楽になる』。『弱い自分も、臆病な自分も、全部お前だ』。『許してやれよ』。
アサシンの拳はまっすぐで、そして何より疾かった。
迷いが無かったのだろう。戸惑いが無かったのだろう。
―――――『許せたのなら、もう大丈夫だ。あとはちっぽけな勇気だけ』。
そこに打算は無い。そこに信念は無い。そこに決意など、無い。
そこにあるのは―――――ほんの少しの臆病と―――――
―――――――――――――――『自分を信じる勇気だけで、世界は必ず変えられる』。
その手には剣。紅く煌めく―――勇気の剣。
そこは剣の丘。無数に聳える、威風堂々の剣、剣、剣。
ならば―――この身体は――――
――――――――――――≪この体は、無限の剣で出来ていた≫。
(ここまで)
【柳洞寺・石段】
間桐桜がアーチャーを足止めし、セイバーが葛木宗一郎を斬る。
なるほど、それは確かに妙案だ。
マスターを斬ることが出来れば、アーチャーの出力は大きく落ちるだろう。
単独行動をクラススキルとして所有しているとはいえ、それで必殺の宝具とやらは封じられる。
そう――――マスターを斬ることが出来れば。
「……くっ、厄介にも程度がござろう」
「そんな……影が、効かない、なんて……」
『その身不屈は愛の為』。
顔を濡らす以外の攻撃は、アーチャーに一切通用しない。
それは、彼が現界した時点で定められる世界の法則。
例え魔力を食い尽くす、サーヴァントにとって天敵のような魔術であろうと――世界の法は喰い切れない。
「……セイバーさん…!」
そうなっては、間桐桜はただの少女だ。
アーチャーの足止めなどという大役を、果たせるわけがなかった。
必然的に、状況は元通り―――セイバーとアーチャーの、結果の見えた果し合い。
「セイバーさん。こうさんする気はありませんか?」
アーチャーは困った顔で、セイバーに降参を促す。
彼が止めを刺すつもりが無い以上、この戦いの決着はセイバーに委ねられている。
敗北を認めるか、無為に攻撃を続けるか。
最早徒労と言う他無く、それはセイバーが最も理解しているだろう。
このままでは、切が無いと。
「…諦められぬ理由がござる。心の刃が折れるまでは、背中を見せぬが剣士の矜持」
信念。信条。心の枷。
心の刃が折れるが速いか、その手の刃が折れるが速いか。
「桜殿。逃げられよ。ここは拙者が受け持とう」
「逃げるって……どこにですか? アーチャーをここで消すのが目的で―――」
しかしそれは出来なかった。
目的は果たせなかったのだから、諦めて逃げるのは当然だ。
受け持つなどとは言うが、打倒する術がないのでは――――――
「――――もしかして、有るんですか…?」
そこで思い至る。
セイバー。錆白兵。全刀・錆。 『薄刀・針』。
全刀流の最終奥義。薄刀・針の限定奥義。
それは、空域に霧散する斬撃の霧では無かったか。
「アーチャーを打倒することは出来ずとも、主人の方を斬る方法ならば―――」
「……わたしは邪魔ですか?」
セイバーはわたしの問いに、無表情ながら申し訳なさそうに、首を縦に振る。
彼の剣技は優美で繊細。仲間を巻き込むほどの攻撃など―――宝具以外に無いだろう。
「――――でも……いいんですか…?」
その刀は、彼が忠義を捨ててでも手に入れたかったもののはず。
こんな所で――――こんな代理戦争で、誇りを砕いていいものなのか。
「無論。この剣を欲したのは、只の感傷故。砕かれるための剣と、完了に至らなかった剣の、言わば傷のなめ合いでござる」
常々思っていたことだった。
この剣を―――構想理念に基づいた、正当な剣として使用してやりたい。
いまだ未完成な剣。永久に完了しない己。
ならばせめて傍ら、砕けて初めて完成する『薄刀・針』を―――己の手で完成させる。
「全てを刀と扱う我らが、刀を刀と扱えず――――何が『全刀』でござろうか」
≪ここまで≫
間桐桜が戦場に背を向けて、裏手から山を下るまでの数分間。
セイバーはアーチャーの足止めに徹した。
薄刀では当てや払いが出来ないため、それは一度鞘に納める。
「ぶき、しまってよかったんですか?」
「場合によって得物を選ぶのも武芸者でござる。ここは、これでお相手しよう」
セイバーは言いながら身を屈めて、足元にあった木の枝を拾う。
その枝に、何かしらの力が宿っているわけでは無い。
手に取ることによって、枝が宝具化するわけでも無い。
枝は枝だ。
「枝……ですか?」
「左様。では御覧に入れよう。『全刀・錆』の真髄を」
枝を片手で小さく構えて、セイバーはアーチャーと対峙する。
石段の上方から見下ろすセイバーと、葛木を庇うように見上げるアーチャー。
先に動いたのは、白髪の剣士。
足止めに徹すると決めた者が先手を取るのは、あまり褒められた行為ではない。
しかしこの状況ではそれも仕方ないだろう。
相手はアーチャー。彼の宝具は一撃必殺。
放たれてなら、それで終いだ。暇を与えぬ連撃こそが、唯一の対処法。
「―――――」
セイバーは無言で、手に取った枝を真横に投げた。
勿論、そこにアーチャーは居ない。
枝は木の幹に命中したが、それだけだ。
否。―――それだけで。――それだけで幹は横一文字に切り裂かれ、石段に向かって傾倒する。
セイバーは幹を受け止めて、石段の下部へと転がした。
無論それには、並の真剣を凌駕する切れ味が付随する。
「お相手致すは、錆白兵。我が手の得物は全てが刀」
「せんせい、危ない!」
アーチャーは葛木を抱えて空へと逃れる。
ここで飛行を選択することは、ともすれば愚策だっただろう。
後ろに控えていた葛木を、標的である自らと一体化させる行為に他ならない。
しかし同時に、賢明な判断だったともいえる。
その幹が砕け散っていたなら、その破片全てに斬撃が宿っていた。
アーチャーが回避を選択せずに幹を壊してしまっていたら、葛木は少なからず外傷を負ったはずだ。
「アーチャー、次が来るぞ」
葛木の声で、アーチャーは下方を見る。
セイバーの足元。そこには薪割りの如く切り裂かれた大量の木片。
その全てが、棒状だ。
「刀剣投擲。これではどちらが射手かわからぬな」
セイバーは誇りを捨てて、剣士に有るまじき戦を展開する。
このアーチャーは、そうまでしなければ足止めさえままならぬ相手だ。
「くっ! せんせい!」
矢継ぎ早に投げつけられる、刀と化した数多の木片。
アーチャーは葛木を庇うために、自らセイバーに背を向ける。
それは状況の拮抗を意味し、セイバーの思惑が見事に嵌った形だった。
「桜殿さえ逃げ切れば、その後の決着は一瞬でござる」
今は鞘に納めた、彼の心命そのものと言える刃。
優美で繊細。薄く、脆くて、未完成。
そして何より、触れたもの全てを切り裂くその有り方が、酷く似ている。
錆白兵は、間桐桜に同情の念を抱いてしまった。
才能はあったのだろう。なるほど素養も、十分のようだ。
しかし彼女の運命は、何故これほどまで苛烈な物なのか。
只の少女が、魔王になるなど。
そんな世界は、世界の方が間違っている。
もともとオディオの宝具は、『魔王の素質がある者を魔王化する』宝具。
間桐桜は、なるべくしてなった魔王。
それがおかしい。そこが一番間違っている。
彼女は、普通の少女だったのだ。
話していれば笑うし、悲しければ泣くだろう。
辛くても我慢するし、疲れていても気丈に振る舞う。
健気で、儚く――――何と幼い。
幼いが故に―――――――内なる悪魔に喰われたのか。
錆はアーチャーとの対峙の中で、ほんの少しだけ―――――
剣を鈍らせることが無い程度に、ごく僅かにだけ―――憤っていた。
聞けばアーチャーは、子供たちの英雄だという。
愛と勇気を司る、勧善懲悪の主人公だという。
それならば。
それならば何故。
「――――只の少女の一人くらい、救ってやれぬのでござろうか」
誤解しているかも知れないが、錆白兵は英霊だ。
倒される側だったとはいえ、それは果し合いの上。
世間に反する事などは、その生涯に一度だけ。
彼に救われた者は、多く居る。
彼を救えた者は、一人も居ない。
だがそれでいい。もともと、感謝されようなどとは思っていない。
「―――では、これにて閉幕。……拙者に、ときめいてもらうでござる!」
間桐桜は、無事に山から下りたようだ。
最強の剣士は、念話を合図に刀を抜く。
その刀身は―――――――――薄く輝き、針となる。
「薄刀・針、限定奥義――――――『薄刀開眼』!!」
≪ここまで≫
真名解放を伴った、セイバーの最終奥義。
アーチャーはそれを、絶対に止めなければならないと直感した。
セイバーの気迫から見るに、ある程度の攻撃規模は予測できる。
セイバーの表情から見るに、あれが自爆であることは想像に難くない。
マスターごと巻き込むことで、この戦に決着を付けようという腹心算だろう。
「――させるもんか!」
故に、放つ。
相手の行動を強制的にキャンセルする、唯一無二の必殺技。
その名が叫ばれてしまえば、最早相手に勝利は無い。
「――――アン、パーンチ!」
宝具の名では無かろうと、それは間違いなく真名解放。
前提として、そこにあることが伝説なのだから。
愛を胸に。勇気を力に。犠牲はたったの二つだけ。
彼を想うすべての夢を守るために―――彼は行く。
必中必倒。
錆白兵は刀を振ることなく意識を失い、それでもなお、戦う意思は途切れなかった。
それどころか、彼は刀を振ろうとさえ思っていない。
必ず倒れるなら、倒れる前に自身の刀を折ればいい。
必ず当たるなら、当たると同時にその刀を折らせれば良い。
生前から数えて未来永劫、これから先に同じ展開はないだろう。
薄刀・針が刀と相成るその直前―――針は主を守る盾となった。
拡散する。霧散する。爆散する。
斬撃という斬撃、刺突という刺突を周囲無差別に撒いて散らして飛び交って。
脆弱なる薄刀は、ここに初めて完成した。
拳と刀身の接触。
鉄の如き正義と、硝子の如き誇りの衝突。
招く結果は、セイバーの敗北と―――――そして。
「せんせい!!」
葛木宗一郎の身体は、視認さえ出来ぬ億千万の傷塗れ。
いくらサーヴァントが鉄壁だろうと、そのマスターはただの人間に過ぎない。
防ぐ術も、躱す意思さえ抱くことも出来なかった。
「……アー…チャー…」
アーチャーの背面に隠れていたからか、辛うじて息はある。
しかしそれも時間の問題だろう。
このまま何の処置も出来なければ、待っている結果は変わらない。
「……私は………何のために生まれたのだろうか…」
それは遺言のつもりだった。
答えなど求めていない。
自分で見つけられなかった人生の意味を、今更他人に応えられても納得など出来ない。
だからせめて最期に、証明しておきたかったのだ。
自分は最期まで、生まれた意味を探していたと。
だけどそれは、葛木のエゴに他ならない。
いくら格好がよかろうと、エゴで死ぬことを正義のヒーローは許してくれない。
慈愛の正義。施すヒーロー。
正義の味方で、弱者の味方。
「だめです。それを自分で見つけるまでは、くずき先生はいきなきゃだめだ」
その笑顔は、いつだって変わらない。
常にやさしく微笑んで、誰かのために笑っている。
自己犠牲を宿命として定められた彼は、自らの消滅も厭わない。
顔を千切る。それは回復用のエーテル塊。
愛と勇気の結晶は、あらゆる傷を治療する。
「あとは、りんちゃんたちに任せます。 これを食べて、おなかいっぱいになったら―――そう伝えてくれますか?」
「――――――……わかった」
彼は救われた。
何のために生きるのか。それは分からないままだけど。
その意味を探すために、彼は今日を生きる。
≪ここまで≫
【アインツベルンの城】
俺が目を覚ました直後に見たものは、高い高い天井だった。
真っ白なのに、どこか落ち着くのは風情があるからか。
寝起きで上手く思考出来ないからだろう。現状に理解が追い付いていない。
記憶を探る。俺の最後の記憶。
確か、遠坂達と別れて衛宮邸に帰ってきたところだった。
アサシンと他愛のない話をしながら――――正門を開けて――――
「…………あ…」
思い出した。
俺は、アサシンに殴られて気を失ったのだ。
物理的に止められなければ、あのまま正気を失っていたかも知れない。
それほどまでに、憎かった。自分では抑えられないほどの憎悪。
「あ、目が覚めたのね。よかったよかった」
アサシンに声を掛けようとしたところで、誰かの声がそれを遮る。
俺が横たわるベッドの左側で、椅子に腰かけ林檎を剥いている少女が一人。
「……ランサー…?」
「意外と早かったじゃない、目を覚ますの。 二日は寝込んでると踏んでたのに」
この辺りで、俺の脳もようやくまともに回転を始める。
そもそもここはどこなのだろう。アサシンに気絶させられたのは良いとしても、それが何故、見知らぬ場所に運ばれるのだ。
それに加えて、ランサーが居る事。という事は、ここはイリヤの家か何かだろうか。
俺はあの後どうなったのか。バーサーカーはどうなったのか。そして―――
「アサシンは、どうなったんだ…?」
ランサーは俺の問いかけに口ごもって下を向く。
この反応から、大方の予想が出来てしまった。
薄々感づいていたとは言え、やはり堪えるものがある。
どうやらあの夢は、アサシンの最期の言葉を告げていたみたいだ。
「……消えたんだな」
「…かっこよかったわ。こんなこと言ったら責任感じちゃうかもしれないけど、貴方を守るために決死で戦ってた」
「そうか……いや、いいんだ。ここで自分を責めたって始まらないし、それはアサシンだって望まないだろ」
「そうね。 ……目が覚めたのなら、イリヤに挨拶してきてくれる? あの子、ずっと心配してたから」
「ああ、わかった」
俺はベットから立ち上がって、扉の方へと歩いて向かう。
身体がふらついているのは、きっとあの夢のせいだろう。
剣の丘に、聳える紅い刀身。
それは勇気の剣。あの英雄の、勇気そのもの。
「イリヤは、どこに居るんだ?」
気持ちを切り替えよう。
俺には倒すべき敵がいる。
アサシンの消滅を、無駄にすることは出来ない。
一刻も早く動かなければ。
「下の広間。リンと話をしてると思うけど」
「うわっ……遠坂までいるのか……」
またぞろ、サーヴァントを失ったことについて説教でもされるのだろう。
俺は新たにした決意を一度しまって、重い足取りのまま広間へと向かう。
≪ここまで≫
【アインツベルンの城 広間】
「それで、衛宮くんは無事なのね?」
「うん。目は覚まさないままだけど、外傷はないよ」
わたしはイリヤスフィールの拠点、森の奥にある城を訪れていた。
何でも、衛宮くんがバーサーカーに襲われたという。
アサシンはそれを阻むために戦い、命を落とした。
自らの魔力を暴発させる、決死の自爆。
それを以てしても、バーサーカーはまだ健在だという。
「……それで、イリヤ。あなたはどうするの?」
衛宮くんが守ると言った少女。
アサシンに衛宮くんを任された少女。
衛宮くんを、殺すと言った少女の判断は如何なる物か。
「それは……まだわからないわ。…だけど……いまのわたしでは、シロウを殺せない」
「きっとあいつは、その言葉だけで十分よ」
あいつとは、衛宮くんのことだったかも知れないし、あるいはアサシンのことだったかも知れない。
わたしにも曖昧だったけど、きっとそれでいいのだ。
そのどちらも、きっと正しい。
「リンは、これからどうするの?」
1、衛宮くんと話していく
2、桜と話をしにいく
3、葛木に状況を伝えに行く
>>55
≪人もいないだろうからここまでー≫
乙乙
3でっ
≪意外と居たー。じゃあ、あと1レス≫
「アーチャーのマスターに状況を伝えに行くわ。きっと協力してくれるし」
実際は葛木が、では無くアーチャーがだが、その辺りは些末事だろう。
伝えなかったことで文句を言われることはない。
「衛宮くんは任せたわよ。あいつ、バーサーカーに何かされてるみたいだから」
喉を刺されて、そこから生き返ったと聞いた。
それがあのバーサーカー特有のスキルや呪いならば、本来直接合わせるのも避けたいところだ。
「うん、大丈夫。 シロウはわたしが守ってあげる」
「流石はアインツベルン、頼もしいわね」
それだけ言い残して、大きな扉に手を掛ける。
わたしがここを離れたところで、何が起きるわけでもないが。
だけどすこしだけ、後ろ髪を引かれる思いだ。
これはきっと、どこに居たって同じだろう。
桜と戦わなければいけない。
この状況で、普段通り落ち着いていられる方がどうかしている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アインツベルンの城を後にして深い森を歩く中、ライダーが話を振ってきた。
わたしの緊張が震えとして、ライダーに伝わったからだろう。
「身内と戦うのは、つらいよね。 僕は、何度も経験した」
「そうね、正直やってられないわ。こんな思いを何度もなんて、流石は英霊ね」
ライダーは遠慮がちな性格で、普段なら首を横に振っていただろう。
流石英霊、だなんて―――彼の汚名を見れば、否定して当然だ。
だけど違った。ここばかりは、ライダーはわたしの言葉を首肯する。
「そうだよ。英雄は、こういう理不尽を超える者のことをいう」
強いられた運命を。絶望を。
何度も超えた。幾度と超えた。
その先にあったのは、異端者の汚名を負う末路。
「だからね、リン。君がそこまで頑張る必要は、どこにも無い。シロウがあそこまで頑張る必要は、無いんだ」
それでも衛宮くんは頑張るのだろう。―――それでもわたしは――――
1、それでもわたしは、桜を怒ってあげないといけない
2、それでもわたしは、桜に謝らないといけない
3、それでもわたしは、聖杯を手に入れないといけない
>>59
≪ここまでー≫
1
「それでもわたしは、桜を怒ってあげないといけない」
わたしのして来た仕打ちも。お父様の無責任も。
それら全てを棚に上げてでも。
わたしの妹を、正気に戻さなければならない。
「嫌がられるのはわかってる。嫌われるのも承知の上よ」
「それが、彼女のためになると思う?」
「思うわ」
一拍も置くものか。
ここで即答出来ないようでは、わたしの決意もたかが知れている。
「わたしを試そうなんて、10年速いわライダー」
「はは、10年って……僕、英霊なんだけどな…」
ここで甘やかしたりしないのにも、ライダーなりの矜持を感じた。
身内の問題というのは、ライダーにとってそれほど重い。
中途半端な気持ちで臨めない。臨んで欲しくないのだろう。
わたしを傷つけないために。
「そこまで言うなら、もう止めないよ。どうなったって、リンなら立ち上がれる」
「やけに買い被るわね……甘やかさないでよ」
「買い被りでも甘やかしでもないさ。君はきっと、期待に応える」
【柳洞寺 本堂】
「……オディオ…その傷は…」
「アサシンにな………思い出すだけで忌々しい…! 勇者という名を聞くだけで虫唾が走る…!」
オディオの憎しみは、今は無き英雄に向けられる。
決死であるという事は本来、誉では無い。
それを武勇にまで押し上げる精神力。
清々しいほど憎たらしい。
「…まあ良い…奴は消滅した。 ……サクラ、セイバーはどこにいる?」
「セイバーさんは……わたしが戻って来た時には居ませんでした」
魔力を感じるし、パスも通っている。
消滅したわけではないようだ。
しかし、宝具を失った彼がどう動くのか。予想は出来ない。
「放っておいても問題ないでしょうか…?」
「面倒なことをしてくれる……現状では無視するしかない。私は回復に努めねばならないからな」
わたし一人で探しに向かうのは、確かにリスクが大きすぎる。
ここはオディオの言葉に従うのが得策だろう。
アーチャーと戦い抜いたのだ、セイバーとて疲労困憊には違いないのだから。
「アーチャーは……消滅したのでしょうか?」
「さあな……それはセイバーに訊くしかない。私は休むぞ、用が有ったら直ぐに呼べ」
その言葉に頷きだけ返して、わたしは考える。
アーチャーが敗北するところを、わたしにはどうしても想像できない。
あの戦いには、どんな結末があったのだろう。
≪ここまで≫
≪久々の更新≫
とにかく、セイバーから報告を受けるまでは迂闊に動けない。
葛木とアーチャーがどうなったのか、それくらいは訊いておいた方がいいだろう。
オディオが休息をとっているのだから尚更だ。
「あのアーチャーが…ただ負けるとは思えませんが…」
しかし、今になって考えると付け入れる隙は案外多い。
彼は慈愛の英雄。自己犠牲のヒーローなのだ。
セイバーの目論んでいたこと―――マスターの殺害は、なるほど良い手段だろう。
ただ、アーチャーがそれをさせないだけで。
「セイバーさんは結局、あの宝具を使ったのでしょうか…」
空中に舞う針の嵐。薄刀開眼。
防ぐ術も躱す暇も無い、正真正銘の必殺剣。
奇しくも必殺の宝具持ち同士が会いまみえた今回の果し合い。
その結末に、死が無かったとは考えにくい。
「セイバーさんも、勝負を途中で逃げ出す人じゃないですし……」
ならば、勝ったというのか?
最高の幻想を相手にして、語りもろくに残っていない堕剣士が。
無論、錆白兵とて英雄だろう。
当時最強の名をほしいままにした、謂わば剣聖。
しかしそれでも。そこまで行っても、格が違う。
アーチャーは、この国全ての幻想だ。
この国全ての、愛と勇気だ。
最強程度が、どうして敵う。
「何かが有ったんでしょう……何かが―――きっと、予期しない出来事が…」
間桐桜はこの期に及んで、戦いの結末がわからない。
普通なら真っ先に思いついてもおかしくない閉幕だったあの終わりに、熟考しながらも思い至らない。
慈愛。自己犠牲。そこまでキーワードを並べて、頭の隅にさえ過ぎりもしない。
アンパンマンを少しでも知る者なら、その顔が食べられることは既知だろう。
その顔は誰もが笑顔になる味だと、知っているはずだ。
スキルになっていても――あるいは宝具であっても不思議ではない逸話。
愛と正義のヒーローは、誰かのためにその身を捨てる。
しかし、この件で間桐桜が責められる謂れは無い。
有ったとしても、根本的には彼女に罪は無い。
彼女にだって、慈愛や自己犠牲と言った精神の反応は頭で理解できている。
だけど心が。胸の疼きが。喉の渇きが。
間桐桜を蝕む魔王の憎しみが、それに共感したがらない。
彼女にとって彼にとって、綺麗は汚く汚いは綺麗だ。
いくら憎しみさえも憎む魔王と名乗りを上げても、感情は意思を超えてくる。
いつしか憎しみに、心さえも喰われてしまう。
憎しみを断つために、最後の憎しみを背負うと言った魔王。
全てを消すことによって、憎しみが無くなると本気で信じている魔王。
夢見がちな少年と、一体何が違うのか。
彼がかつて、勇者だったころ。
彼には名声があった。彼には羨望があった。彼には信頼があっただろう。
彼が既に、魔王となった今。
彼には誇りがある。彼には願望がある。彼には信念が存在する。
彼がかつて、勇者と呼ばれていたころ。
彼には誇りが無かった。彼には願望が無かった。彼には信念が無かった。
彼が既に、魔王と呼ばれる今こそ―――――彼は最も、人間らしく生きている。
≪前回は終わる宣言忘れてすみませんでした≫
【深山町】
葛木に現状を伝えるために柳洞寺へと向かっていたわたしとライダーは、その道程を半ばまで歩いたところで足を止める。
バーサーカー、あるいはセイバーに襲われたわけでは無い。
柳洞寺に向かう必要が無くなったからだ。
「葛木先生…!?」
血まみれの衣服。引き摺った足。ふら付く身体。
だけどその身には傷一つない。呪術や憑物の気配も感じない。
確かに葛木だ。令呪もある。間違いなく本物。
ならばこれは、何がどうなった結果なのか。
「遠坂か……いいところに来た」
表情はいつもと全く同じ。
眼尻も口角も微動だにしないし、口調も委細変わりなく平坦だ。
まるでデザインされた機械のよう。生き物なのに作り物。
誰かに似ていると思った。
表に出す性質は真逆でも。取り繕う自我は反対でも。
この男は―――あいつと似ている。
「いいところ…ってまさか、戦闘!?」
「それはもう済んだ。敗北だ。私とアーチャーはセイバーに敗れ、その結果を伝えるために歩いていた」
アーチャーの敗北。
その言葉が、わたしは受け入れられなかった。
咄嗟に否定してしまいそうになる。確証も無いのに反論したくなる。
アーチャーは真実無敵の英雄だったではないか。
その経歴に死など無い、弱点を突かれた上でも勝つ掟破りのヒーロー。
彼が敗れた―――その理由は、聖杯戦争。
喚ばれる者の皆が皆、絶対勝利を確約された英雄たち。
絶対と絶対が引き起こす矛盾は、オッズなどいとも容易く覆す。
「アーチャーからの伝言だ。 『あとは任せる』 私の役目はこれで終わりだな」
言って葛木は、踵を返す。
もうこの場所に用は無いと、暗にそう告げていた。
「……どこに行く…つもりですか?」
「さあな。わからん」
その返答が意味するのは、つまり別れだ。
彼はもう二度と、わたしの前に姿を見せることは無いのだろう。
アーチャーが彼に残したものは、それほど大きな価値がある。
今を捨ててでも、掴みたいと思う輝きがある。
「仮の姿でいつまでも居座るわけにはいかんだろう。私が居ない形こそが、この土地の本来の姿なのだからな」
何のことか、とは尋ねない。何があったのか、とは尋ねない。
ここで葛木に説明を求めるのは無粋だろう。
立ち入り難い脆さがあった。受け止められない重さがあった。
引き留める厚顔もないが、後押しも必要ないだろう。
小娘がいまさら何を捲し立てたところで、英雄の打ち立てた旗は揺らぐまい。
わたしは無言で背を向ける。
背中合わせの不器用な手向け。
お互い器用さとは縁遠いのだ、このくらいで丁度いい。
造られた意味を失って幾らか過ごした。
男は生まれてきた意味を探しに、発つ。
≪ここまで≫
【深山町】
「アーチャーが落ちたか……こうなってくると、バーサーカーとの戦い方も考えないと」
「そうね。アーチャーの宝具に頼った戦法も幾つか考えたけど…全部没か…」
オディオ――――憎しみ。
そのクラス名が表すのは、間違いなくあの英霊の有り方だろう。
誰かに憎まれた英霊。誰かを憎み続けた英霊。憎しみを生み出す英霊。
何れであろうと反英霊であることに変わりは無い。
同じく全うな英霊では無いライダーがこうなのだ。
反英霊と言うだけでその性質を決めつけるのは、本来ならば愚行だろう。
だけどわたしは、あの英霊を見た。
あの英霊の言葉を聞いた。
その上で。あれが悪だと、断じている。
「宝具の使用も覚悟してるわ。ライダー……オディオと戦う時は全力よ」
「……止めても聞かないだろうな…わかった、僕も腹を括るよ」
まだ日は高い。
葛木の言葉では、バーサーカーの拠点は柳洞寺だと言う。
桜と話すには、向かわねばならない。
オディオと、対峙しなければならない。
「どうする? まだ昼間だ、戦争には少々早い」
1、一度アインツベルンの城に引き返す
2、柳洞寺に向かう
安価>>84
≪少ないけどここまで≫
1
「引き返しましょう。挑むなら万全の状態で行くわ」
ライダーは、自力でオディオに勝てない。
宝具を全力で展開して、それで五分と言ったところか。
「無理を言ってるっていうのはわかってる……でもね、ライダー…」
これはわたしの我儘だから。けじめはわたしとライダーで付けたい。
桜をずっと放っておいて、今更虫が良いと思われるかもしれない。
今更、遠坂凛たった一人で何が出来るかと思うかもしれない。
でも。それでも――――。
「いいよ、それ以上言わなくても。君の気持ちは痛いほどわかる」
ライダーは此方に微笑みかける。
彼の生前に何があったのかは知らない。
史実通りだ、と彼は言う。それが嘘なのは、わたしだってわかった。
彼の最期が戦場なのか否かさえ、わたしは知らない。
彼はそれを語ろうとしないし、わたしも特別知りたいとは思わない。
どんな悪名で汚されても。どれだけ濡れ衣を着せられても。
彼は折れずに、貫いた。彼は腐らず、ここにいる。
その姿は、紛れも無く英雄。
ラムザ・ベオルブこそ、正しき道を行く騎士に他ならない。
「あなたが召喚された理由、ちょっとわかった気がするわ」
「僕は大分前から、薄々感づいてはいたけどね」
いくら挫折を経験しても。
何度地面に伏せようとも。
この英雄は立ち上がる。
「往生際の悪さなら、僕も君も似たようなものさ」
「それなら最後までみっともなく、希望に縋って行こうじゃないの!」
【深い森】
錆白兵は、朦朧とする頭で歩みを進める。
アーチャーの一撃は想像以上に効いていた。
あの必倒を受けてものの数分で立ち上がるだけで、それは十分凄いこと。
しかし彼にも矜持はある。武人としての欲がある。
「無理とは分かっていても……やはり、勝ちたかったでござる」
耐えるつもりでいた。
宝具にまで成っている至高の拳を受けてなお、意識を失わぬ心構えで相対した。
結果的に、セイバーはアーチャーを消滅に追い込んだかも知れない。
しかしそれを勝利と誇るほど、錆白兵は自分に甘い生き方をしていなかった。
負けたと思っている。完膚なきまでに敗北したと思っている。
「自己犠牲もあそこまで行けば、本物でござる……見事なり」
彼は戦闘を始める前に、こんなことを考えていた。
アーチャーはなぜ、間桐桜を救わないのかと。
その解は得た。しかし納得は出来ない
アーチャーの方針はわかった。しかしそれは違っている。
「あの桜殿を見て、『既に救われている』と結論するか…」
葛木宗一郎に、本来救いなど無かった。
彼はアーチャーが居なければ、今も幽鬼さながら彷徨っていただろう。
間桐桜は違う。
魔王を呼び、魔王となって。彼女は真に救われてしまった。
そこに間違いなど―――無かった。
「救いを与える英雄も……魔王となるしか救われぬ少女は救えぬか…」
それは、何とも無慈悲な話だ。
或は、打倒することこそが唯一の救いだとでも言うのだろうか。
錆白兵は、決して自分に甘くない。
しかし彼も、英霊の端くれ。振るう刀は活人剣。
情けは人の為ならず。救える者は、救うが道理。
「拙者は、女子の一人も救えぬのか…?」
全刀とはその程度か?
握る得物が全て刃と化すとしても、その心さえ切り裂けぬのか?
完了形変体刀とは、刃に心を乗せる者では無かったか?
「―――――……然り。拙者は堕剣士、落ちた侍」
元より―――失うものなど何もない。
主君を裏切ることにも、最早慣れた。
地に墜ちた剣聖如きには、既に誇りも無用の長物。
恥も外聞も無い。
恥は生前に掻き捨てた。外聞は残ってすらいない。
「桜殿に力を添えても、それは傷つけることにしかならぬでござろう」
故に、翻る。
反骨の相、此度のそれは主君を慮っての謀反。
「ならば魔王、奴を斬るしかあるまいよ。 それで拙者が名を汚せば、それが拙者の箔になろう」
衛宮士郎の下、再び剣を得ることで――――
剣の英霊は、終戦の火蓋を斬る。
≪ここまで≫
【アインツベルンの城】
「あ、シロウ! 目が覚めたのね!」
俺が広間に降りると、そこに遠坂の姿は無かった。
敵陣にあまり長居をする奴でもないし、居ないなら居ないで気持ちが楽だ。
近づいてくるイリヤに軽く手を振って、先ずはお礼を言う。
「ありがとう、俺を助けてくれたんだよな」
「……ううん、違うわ。シロウを助けたのはアサシン」
「知ってる。でも、ここまで運んで来てくれたのはイリヤとランサーだ。十分助けてもらってる」
イリヤは首を振らない。縦にも横にも動かさない。
その躊躇は、きっとアサシンに対する畏怖。
勇気ある戦死と、自分たちの行為を同列に扱われることに、気が気でならない。
自分が矮小だと感じるのだろう。アサシンの隣にいる俺は、ずっとそう感じていた。
自分が普遍だと気付くのだろう。アサシンの持つ輝きは、周囲を偽りなく照らすから。
陽の光は、遠く離れたこの場所だから温かい。
間近で受ければ、それは地獄と大差ない。
英雄は、遠く離れたこの時代だから心強い。
当時に出会えば、その正しさに怯え震えていただろう。
信念の元に生き、誰の言葉にも左右されず、世界を変えるほどの勇気を持つ者。
そんな人間が身近にいたら、狂っていると誰もが思う。
ああ、だったら―――――俺はあの時からずっと―――
「剣の丘を見たんだ」
ふと、口を突いて出た言葉。
知りたいと思った。イリヤなら、知っていると思った。
あの夢をあのタイミングで見た意味。アサシンの言葉と共に、再生された理由。
数多に並ぶ刃の中で、一際輝く紅の刀身。
「無限に並ぶ剣の丘――――初めて見る場所なのに、昔から俺のものだったみたいな…――」
「……そう。…それが、シロウの心象風景なんだね」
「心象風景……俺の?」
だとしたら、『あの剣』があるのはおかしい。
あの剣は他ならぬ、アサシンの物。
俺の心になど、あって良い代物ではとても無い。
「おかしくないよ。 だってシロウの心には、アサシンとの記憶が突き立てられているでしょ?」
突き立てられていると、イリヤは言った。
それならば、確かにそうだ。
アサシンの言葉は、アサシンの意思は、アサシンの勇気は。
僅かだとしても、確実に、俺の心を変えている。
「ほら――――手を伸ばせば、そこにあるよ。 シロウの世界――シロウの剣」
手を伸ばす。それだけでは届かない。
魔術回路に火を入れる。
今までとは違う、特別な構成。特別な方法で――――
「――――投影、開始」
俺の心に手を触れる。
掴み取るのは紅の剣。
金の装飾は、勇ある獅子の投影か。
翼の如き鍔は、竜の羽ばたくその様か。
「――――創造理念、鑑定」
この世ならざる構成理念。
神に鍛えられたような、綿密で複雑な基盤。
「――――基本骨子、想定」
それは血。それは肉。それは彼の心の欠片。
それは蛮勇。それは無謀。彼はまとめて―――勇気と称す。
「―――仮定完了。是、即無也」
これまで為した投影の中で随一。
中身が無い欠陥品とは違う。理念の欠けた模造品とは違う。
これは複製でありながら、同時に本物でもある。
あの英雄の勇気は、確かに俺が受け取った。
ブ レ イ ブ ブ レ イ ド
「全行程投影完了―――――承、自ら誇る 勇気の剣」
≪ここまで≫
「……ぐ…!」
脳内に廻る潤滑油が熱を持って走る。
回路を繋ぎとめる螺子を一つ一つ締めなおして、欠けていた部品を溶接する。
溶かす肉は幻想の断片。いつ崩壊するとも知れない、不安定な外殻。
手にした剣が放つ温度で、鎧そのものが赤熱している。
だからきっと、この体は―――。
「シロウ、そのまま続けると危険だよ。落ち着いて、ゆっくりと剣を収めて」
イリヤの手が俺に触れる。
焼けてしまうのではないかと心配したが、そうはならない。
俺の身体が発熱しているわけでは無かったから。
熱を持っているのは血でも肉でも無く、魔術回路に他ならなかった。
だからきっと、この体は―――――――。
「回路に流す魔力を、少しずつ減らしていくの。呼吸を落ち着ける感覚と一緒」
空気を吸って、空気を吐く。
熱を吸って、熱を吐き出す。
幻想の剣は少しずつ光子へと変わり、剣の丘に戻って行く。
俺の心象の一片へと、回帰していく。
だからきっと、この体は――――――――――――。
「そう。剣はシロウの体の一部。剣の丘が、シロウの心象風景なら……きっと、その体は――」
バッツ・クラウザーの記憶の断片。
その性格な来歴は、俺には殆ど掴めていない。
ただし、剣だけは。
剣に纏わる記憶だけは、事細かに再現できた。
彼が旅の中で手にした剣、目にした剣をこの手足この血肉として再構成する。
だからきっと、この体は―――――――――――――無限の剣で出来ている。
「……―――――――」
「よくできたね、シロウ。偉い偉い」
今の投影は、これまでのどれとも性質が違う。
作り上げるのは一緒だ。それを手にするところまでは一緒。
違ったのは、剣を丘に突き立てて――――俺は剣を、保存した?
「きっとね、シロウの魔術は本当に特殊なものなの。その投影は、既にある物を引っ張り出してるだけ」
「既に……あるもの………剣の丘から…?」
創っているのでは無くて、形作っている。
生み出しているのでは無くて、模倣している。
ああ、ようやくわかった。
「……はは…確かにそれなら、俺にぴったりの魔術だ」
俺に明確な『自分』が無いことなんて、実はとっくにわかっていたはずなんだ。
正義の味方も、何もかも。切嗣の真似をしているに過ぎない。
口先だけのつもりはないし、その信念は本当に素晴らしいと思う。
でもそれは、俺の信念では無かった。
喉に触れる。
信念無き決意を貫いて見せろと、あの男はそう言った。
何を思って俺を蘇生したのかもわからないが、言えることは一つ。
「……貫いてみせるさ」
俺に信念が無かろうと。そこに俺の意思が無かろうと。
この行動は決して、間違ってなどいないのだから。
模倣した切嗣の有り方が、正義であることに変わりはないのだから。
≪ここまで≫
誰だ今の
クラス: キャスター (セイヴァー)
真名:無銘 (ナーサリーライム) 属性:中立・善
筋力C 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運C 宝具EX
◆スキル
・陣地作成(A) 「なんでTさんがここにいるんですか?」
・道具作成(C) 「それじゃあ俺の作ったお守りやるからそれを枕元に置いて寝ろ、そうすりゃ大丈夫だ」
・退魔力(A) 「半身を吹き飛ばした?やれやれ、威力は親父の作った奴の半分か・・・」
・高速詠唱(A+) 「破ぁーーーーー!!」
◆宝具
『永久機関・悪霊退散』(グラスゲーム・スピリチュアル破ぁー!)
所有者:無銘(ナーサリーライム) ランク:C
種別:対霊宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:50人
もうだめかと思ったそのとき、「そこまでだ」
聞いたことのある声、寺生まれで霊感の強いTさんだ
Tさんは俺の車の助手席に乗り込むと、男のカオに両手を突き出し
「破ぁ!!」と叫んだ
するとTさんの両手から青白い光弾が飛びだし、男を包み込んだ。
男はみるみるやせ細り、やがて消えていった。
「なんでここに?」
「コンビニ行くのにアシが必要でな、さあ行くぞ・・・」
そう呟いて片手でタバコに火をつけるTさん。
寺生まれってスゲェ・・・その時改めてそう思った。
『誰かの為の物語』(ナーサリーライム)
所有者:無銘(ナーサリーライム) ランク:EX
種別:対霊宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
固有結界。サーヴァントの持つ能力が固有結界なのではなく、固有結界そのものがサーヴァントと化したもの。
マスターの心を鏡のように映して、マスターが夢見たカタチの擬似サーヴァントとなって顕現する。
本来は特定の名などなく、「ナーサリーライム」という絵本のジャンル。
結界の内容はマスターの心を映したものとなるため、彼は悪霊からの救済を象徴するTさんとして現界した。
あ、二個目の宝具は対人だ
詰めが甘い…
聖杯戦争オンラインの時にキャスターでTさん送ったんだけど届いたかな
≪>>119 届いてましたよ。内容被らないように気を付けたつもり≫
「一回部屋に戻って休んだ方がいいよ? シロウの回路では、何回も使える魔術じゃない」
言われてみれば確かに、俺の回路は焼き切れてしまうのではないかと錯覚するほど熱くなっている。
だけど、不思議と疲労は無い。
剣を打つために熱した鉄。あの状態に近い。
出力した結果をもとに、今一度細部を認識しなおす。より強く、幻視する。
投影魔術の真髄。俺の剣製の真髄は、クールダウンにこそあると理解した。
冷めていく中で。冷め切らぬ内に。
俺の幻想を、鍛え直す。
「…わかった。ちょっと休んでくる。イリヤのこと、頼んだぞランサー」
「モチのロンよ。あたしが誰のサーヴァントか、忘れたとか言わないでよ?」
ランサーは拗ねたような口調で快諾する。
言うまでも無いのはわかっていたが、言わずには居られなかった。
だが、俺の本音は伝えない。
サーヴァントだって、全てを守れるわけじゃない。
イリヤも俺も他の物も、全部守れるわけがない。
守るべき物を間違えないでくれなんて、俺が言えることじゃないから。
伝わらないなら、それでいい。
「………あんたの考えてる事なんてお見通しよ、バカ。 それはあたしへの宣戦布告と受け取ったわ」
得物である棒を抜く音。
その音その言葉に、俺は驚き。構えを取って振り向いた。
ランサーは―――こっちを向いてすらいなかった。
「全部守ってやるわよ。 イリヤも、あんたも、他のみんなもね。 あたしは…英雄なんだから」
―――――そのくらい出来なきゃ子供のままだ。
言って、ランサーは霊体化した。
残った言葉に、俺は何を思ったのだろう。
「じゃあねシロウ。お休み。 シロウの寝てた部屋、何階だっけ?」
「二階のすぐ手前側だけど……いいのか? ランサーは…」
「シロウにわたしを任されたんだよ? ランサーは約束を守るもの」
その割には、随分な消え方だった。
俺には拗ねているようにしか見えなかったのだが……
「心配しなくても平気だって。 ランサーはシロウの何倍も強いから」
「そりゃ…英霊と比べられたら負けるけどさ」
そういうことが言いたいのでは無くて、俺が心配なのは―――
「もう! ごちゃごちゃうるさーい! 早く寝なさいって言ってるの!」
「……わかったよ。 でも、何かあったらすぐに呼ぶんだぞ?」
「うん。 何かあったらね」
その笑顔は確信していた。
ランサーが居る限り、この身には万が一などあり得ないと。
―――――――――――――――
【アインツベルンの城 城外】
アインツベルンの城を背に、槍兵の少女が立ち塞がる。
阻まれるのは、白髪の剣士。現在無刀の、墜ちた剣聖。
「ここはアインツベルンの領内よ。野良サーヴァントがどんな用?」
「衛宮士郎に用が有って参った。そこを通らせて頂きたい」
「通すと思う?」
「其処まで甘くは無かろうな。危害は加えぬと約束致す…が、信用しては貰えぬでござろう」
「当たり前よ、どうしても通りたいっていうんなら―――」
少女は、手の中で棒を回して空気を裂く。
精一杯の威圧を込めて、その手の得物を突き付けた。
「あたしをぶった切ってでも通りなさい!」
≪ここまで≫
石の階段を挟んで、30メートル。この数字がランサーとセイバーの距離。
セイバーなら、一歩踏み込めば無くなる距離。
全刀流の爆縮地は、場所を選ばず発動できる。
消えるのと大差ないほどの移動速度で振り切ってしまえば、セイバーの目的は達せられるだろう。
それをしないのは、相対する戦士の決意を汚さぬためか。
ク ロ ッ ク ア ッ プ
「飛ばしていくわ…――――『固有時制御・秒針加速』」
無論、ランサーも理解している。
眼前の剣士が此方に合わせてくれているであろうことはわかっている。
セイバーからしてみれば、門番の相手などお遊びでしかないのは十分承知の上だ。
「加速――――速さで拙者に挑むと申すか」
敏捷評価は、お互いにAランク。
しかしここに、全刀・錆の応用によってのみ成せる爆縮地は含まれていない。
入りに剛駆、抜きに柔脚。セイバーの敏捷ランクは、実質測定不能である。
そんな相手に、わざわざ速度で挑む道理も無い。
「そんなわけないでしょ、少しでも見えるようにしたかっただけよ」
ランサーが加速に求めたのは、動体視力の向上。
せめてセイバーがどちらに移動して、どこに止まるのか。その程度は見極めたい。
捉えさえ出来れば、ランサーに目が無いわけではないのだから。
「成程。では、見極めてみるが良い。 拙者に――――」
白髪を僅かに揺らしながら、セイバーは足に力を込める。
斬るのは空。自身の体で、抵抗を斬る。
筋の収縮が、骨の軋みが聞こえたところで、今度は力を解放する。
爆ぜたように砕ける地面、踊るように舞う粉塵。
これぞ全刀流、爆縮地。
「――――ときめいてもらうでござる!」
「嘘でしょ!?」
己の中の秒針を速めて、セイバーよりも長い一秒を得ていた筈のランサーは、セイバーの駆動に驚愕する。
なぜなら、見えなかったから。
辛うじて、髪が揺れたのがわかった程度。
何倍にも長くなった一秒を以てしても、彼の挙動の一片すら掴めない。
ランサーが見止めることさえ出来ない一瞬の内に、彼は移動の全行程を終了していた。
「む。見極めるどころか、見る事さえ叶わぬか。これは失敬」
茫然とするランサーの背面で、剣士は無表情に嘲て見せる。
「ここを通るには……お主を『ぶった切って』行かねばならぬのでござったな?」
殺気を放ったわけでは無い。剣気が昂ったわけでも無い。
セイバーはただ少し、言葉と共に手を伸ばしただけ。
触れても居ないのに、それだけで。
「―――っ!?」
ランサーは大きく跳躍する。
石段を飛ばして、一気に地面に着地する。
「そう恐れるな。冗談でござる。……然し、よもやお主、その程度ではあるまいな?」
経験が違う。実力が違う。あらゆる面で、格が違う。
完全に背後を取られていた。彼がその気なら、ランサーはとっくに消えていた。
恐れてしまった。怯えてしまった。圧倒されてしまった。
まだセイバーは、――――移動しただけだというのに。
「……はは、あんですって…? いいわよ、本気を見せてやろうじゃないの」
確信した。まともにやって勝てる相手では決してない。
だからと言って、諦めるわけにも行かなかった。
頼ってくれる人のためにも。託された約束のためにも。
オーバルアーツ ク ロ ッ ク ア ッ プ ブ ー ス ト
「 導力変更―――――――『固有時制御・秒針加速【改】』!!」
≪ここまで≫
乙乙
ランサーって誰だっけ?
限界値まで加速した肉体と思考で、彼女はセイバーに詰め寄った。
地力が増したわけでは無い。階段の最上部まで、一歩で踏み込む余裕は無い。
フェイントにフェイントを重ねて、十全に策を講じながらの肉薄。
時間に手を加えずにあの速度を誇り、かつ正確に移動して見せるセイバーが相手だ。
常人には認識すら出来ないであろうフェイントも、見抜かれていたとて不思議は無い。
「―――ふっ!」
得物を短く持って、足元を掬うように振る。
セイバーは半歩後ろに下がり、最低限の挙動で安全圏へと逃れていった。
顔色一つ変わらない。景色を見るのと大差ない瞳で、事務的にランサーの動きを解析している。
「まだまだぁ!」
その視線を意にも介さず、ランサーは次撃を放った。
低空を斬った棒先が、勢いに任せて空を指したのを利用しての振り下ろし。
セイバーは体を半身に逸らし、道を譲るように緩慢な動きで回避する。
「っ…! ―――この!」
セイバーの技量なら、いくらでも反撃に転じることが出来るだろう。
それをしないという事は、最大限の手加減を―――最大限の侮辱をされているに等しい。
人を見下したようなすまし顔を歪める機会があるとしたら、それは今だ。
この位置関係、この状況ならば、棒術の利点が大いに生かせる。
「真―――旋風輪!」
振り下ろしと同時に出した足を軸に、棒術具を強く握って水平に振り回す。
半身での回避を選択したセイバーは、体の正面から打撃を貰う結果となった。
刃の向きも無く、取り回しが軽快な武器だからこそ実用に値する奥義。
長さを利用したリーチは、遠心力にも転用が効く最大の利点。
遠心力で威力を上乗せするという、本来は単発の打撃技。しかし初動から当てた場合は別物だ。
棒に絡めとられた体は、共に回転し―――最大の利点たる遠心力の全てを使った投げ技として出力される。
無論、セイバーほどの武人がただで投げられるわけが無い。
棒が体に触れたときから、放りだされるその時まで、全刀・錆を酷使していた。
ランサーの掌を、斬り続けていた。
回転が止まり、運動が全てセイバーの体に集約し、勢いよく地面に落下して。
それでもまだ転がり続けて、やっと止まったその瞬間に紡ぐ言葉が―――
「天晴でござる。 全刀流奥義、逆転夢斬。よくぞ耐え抜いた」
相対する敵への賞讃。
武人として。剣士として。侍として、礼を欠かぬのが錆白兵。
ランサーの目論み―――すまし顔を歪めることは、結局のところ無し得なかった。
無表情故に誤解されやすい所もあるが、彼ほど誠意を持って戦に臨むサーヴァントも珍しい。
「このくらいどうってことない……ってのは強がりかな…流石にちょっと辛いかも」
「では、どう致す? 拙者を行かせてやると?」
「それは駄目。――だから今度は、戦い方を変えるわ」
「左様でござるか。 望む所。如何なる手を打とうとも、全て切り揃えてご覧に入れよう」
遊撃士たるもの、何時如何なる時も諦める事だけはしてはならない。
彼女のスタイルは、そもそも万の戦場に立っても適応できる柔軟性にある。
腰に下げた基盤に触れる。導力の流れを変えて、嵌め込むパターンを変えて。
彼女は、全ての魔術を行使する。
オーバルアーツ・ファイアボルト
「攻炎展開・火弾投出!!」
魔術による攻撃は、錆白兵にとっては確かに新鮮なものだ。
セイバーにあるまじき対魔力の低さも相まって、非情に有効な手段だと言える。
言えるだけでは、意味が無い。
この距離も、この段差も――――有って無いような物だという事を、忘れてはならない。
「この上ない悪手。よもやここに来てとち狂ったか」
爆縮地。
火が狙い通りの場所にたどり着く何秒も前に、セイバーは少女の後ろに移動した―――筈だった。
成程、と漏らす暇も無い。その暇があったら逃げている。
ランサーは、自らの放った火炎の後に追従していた。
目をくらましつつ、回避行動が取れて、反撃に転じながらの背面跳躍。
セイバーが表れる前に、セイバーの来るべき場所に向かって。
爆縮地の抜きの瞬間は、繊細な動作が必要なため、ほんの一瞬だけ隙が出来る。
その一瞬を狙って、既に放たれていた一撃は――――、一閃の投擲。
≪ここまで≫
セイバーの下腹部を、残像を落すほどの速度を誇った棒が打撃する。
彼は耐久力に優れた戦士では無い。そもそも、肉体の完成度は人並み以下だ。
錆白兵の真髄は、見切ること。躱すこと。文字通り、逆手にとって斬り伏せる剣。
「………!」
声すら出せないまま、セイバーは城の外壁に背中を叩きつけられた。
口から洩れる濁った血。彼が人の子である証明であり、彼の血刀を揺るがす液。
錆の知る完了形変体刀は、一滴の血飛沫さえも見せることは無かった。
しかしそこでは終わらない。
ランサーはそこで手を抜きはしない。
投擲の反動で浮かび上がった棒術具を空中で手に取ると、加速した速度を生かしてセイバーに詰め寄る。
まだ崩れ落ちる途中の、無防備な肢体。
ランサーは曲気のような軽快さで、薙ぎを、突きを、払いを打った。
壁から離れようとした体が、何度も繰り返し打ち付けられる。倒れない。倒さない。
掌を避けて振る棒は、必然足元や頭部に狙いが向く。セイバーにも、それはわかっていた。
ただ、対応できないだけだ。
爆縮地には及ばないとはいえ、ランサーの加速は確かに機能している。
その棒術は最早神速の域、剣聖さえも置き去りにする渾身の連打。
「っ―――は!―――これで、止め!」
連撃の締めは、側頭部への殴打。
セイバーの体を、城の壁で削るように引き摺って、そのまま振りぬく。
摩擦で勢いが削れたはずなのに、それでもセイバーは大きく宙を舞った。
無抵抗のまま地に落ちる姿は、糸の切れた人形のよう。
同時に、ランサーの糸も切れる。
「……っはあ!……はぁ…はぁ……加速をこんだけ維持するのは、流石に堪えるわ…」
額に汗を浮かべて、その場に力無くへたり込む。
意識して呼吸を整えようにも、血液が酸素を欲している。
肩が上下に激しく揺れて、肺が平時の何倍もの仕事をこなす。
これが加速の代償―――本来不可能な筈の駆動、その負荷は一気に訪れる。
青い空を見上げて、剣士は思う。
自力では、最早全く動かない手足。
それでも、戦うことを諦めない。それでも、完了に至る意思は消えていない。
「全刀流、禁術―――『錆停め』」
その手足を。骨を。血管を。筋の一筋一筋を。
全て数多の、刀に変えて。
総べて一つの、刀に換えて。
動かない手足を、物理を超えた力で振る。
「代償は、内部から体を切り刻んでしまうこと……でござるが、最早捨て身よ。関係なかろう」
全身の至るところから、血の汗を噴くセイバー。
一撃を受けるだけで致命傷となる、弱い体。
元より剣士が一太刀浴びれば、死に直結するのは当然。
だから、禁術なのだ。
剣士として二度目を望むのは、恥じる以外に何とする。
「拙者は、衛宮士郎に会わねばならぬ。 退け、槍兵。拙者は退かぬ」
「退けっていうか……ちょっと引いたわ…」
ランサーはたじろぐしかなかった。
確実に、仕留めたと思った相手に、こうまでされては―――完敗だろう。
それに、憎めなかった。どうしても敵意を向け続けることが出来なかった。
セイバーの武士道に、どうやら当てられてしまったみたいだ。
オーバルアーツ ティアラル
「……癒水展開・救潤修復」
「……これは…?」
セイバーの周りに、水が張り付く。
それは血を。或は傷を吸って、肉体の欠損を埋めていく。
「……行きなさいよ…認めてやるわ。あんたのこと、悪い奴じゃないって」
「―――忝い、恩に着る」
ランサーの表情は、加速の反動で歪んでいたが、それでもどこか爽やかだった。
≪ここまで≫
【柳洞寺】
オディオは霊体のまま、桜を見る。
手持無沙汰に髪をいじったり、伸びをしたりしている少女。
この世界を闇で包む使命を負った少女。
特にこれと言って、深い感慨は無い。
他の世界にも干渉してきた。今回はたまたま直接的だったが、それだけで特例とするのは甘すぎる。
皆一様に、滅んだ世界だ。あらゆるオディオが生まれた世界は、魔王オディオの干渉によって跡形も無く滅んでいる。
運命を塗り替えられて、滅んでいる。
この世界も、きっと同じ末路を辿るだろう。
何せ今回は、魔王が二人も存在している。
これで世界が滅ぼせないようならば、魔王という称号が泣いてしまう。
憎しみの権化たる自身が、憎しみに弱さを感じてしまうだろう。
魔王として始まった時からこの方、彼は弱さを感じたことは無い。
怒りは強さだという。恨みは強さだという。双方ともに、憎しみの一つの顔に過ぎない。
憎しみとは極端な話、力だということ。
絶対的、かつ普遍的な――――ありふれているが故に、強大な力。
ならば彼は、いつから魔王だっただろう?
魔王として始まった時からこの方、彼は弱さを感じたことは無い。
しかしそもそも。
彼は生まれてからこの方、一度でも。弱さを感じたことがあっただろうか?
憎しみは力だと、彼は言う。
しかしそれなら。
彼は何故、親友の憎しみを相手にして打ち勝てたのだろうか?
憎しみなど無い―――それこそ、信念すら欠けた脆弱な剣で。
怒りに狂う戦友を。憎しみ猛る親友を。下すことができたのだろうか?
彼自身も気付けていない、僅かな矛盾。
オディオがオディオになった時の。人間としての最期の記憶。
触れたくなくて、ずっと考えずに放置してきた親友の言葉。
あの世で――――俺に―――――
桜は、霊体化しているオディオのことを考える。
と言っても、考えるのは魔王オディオについてでは無い。
オルステッド。
勇者オルステッドについて、間桐桜には思うところがあった。
ただ単純に、似ているのだ。
志も無く。信念も無く。決意も覚悟も誇りも無く、言われた仕事をそつなくこなす。
そんなハリボテな生き方なのに、称えられて、褒められた。
まるで同じ生き方の人間を、桜は一人知っている。
頼まれたら断らない。無言で頷き、剣をとって野を進む。
頼まれたら断らない。二つ返事で承諾して、雑務所要を引き受ける。
桜の網膜の裏側で、二つの背中が重なって行く。
では、その末路。
勇者オルステッドの末路はどうだ?
彼は人のために尽くした。文字通り無私で尽くした。
その結果、最後に受けた呼称は『魔王』。
彼は親友と歩んだ。お互いに高め合った。
その結果、最期の言葉は呪詛そのもの。
彼は少女を想った。助けると剣に誓った。
その結果、最期は悲痛の断末魔。
では、あの人の結末は?
とても似ていて、どこまでも近い人生を歩む、あの人の終わりは?
答えは決まったようなものだ。
憎しみは連鎖する。憎しみは堆積する。憎しみは成長する。
咲かせる花はラフレシア。孵化する悪意は醜く巨大な血反吐色。
信頼は裏返る。天使が堕天に酔うように。
真っ逆さまで、真下は真っ暗。
≪ここまで≫
≪たぶんこのスレの桜は、救ってくれそうな鯖宛がっても救われない≫
≪そういう意味ではいっしょに駄目になってくれる前回ランサーさんはベストな人選≫
≪乙女チックハートフルコメディ(大嘘)で、書いてて楽しかったです≫
「………そろそろだな。向かうぞ、サクラ」
まだ傷は癒えきっていない。だが、満身創痍と言うほどでもない。
ライダー。ランサー。そして宝具をなくしたセイバー。
セイバー、ランサーには対英雄が効く。AランクのステータスをCにまで引きずりおろすスキル。
ライダーはあれでどうやら反英霊のようで、十全には発揮できない。それでも効果は十二分。
相手取るにあたって、不安と言うほどの物は感じなかった。
「そもそも、セイバーさんが裏切ったと決まったわけでもないですしね」
「いや……奴とは九分九厘敵対するだろう。私の前に姿を現さないのが証拠だ」
聞けば侍は、忠を以て主に仕える者だという。
言伝も無く消え去るほどの不敬をしたのだ。今更のこのこ現れるということはあるまい。
これがオディオの見識であり、事実セイバーは生前から数えて三度目の裏切りを働いてはいる。
いるのだが、しかしこの予想は的外れもいいところだ。
セイバーはもとより、オディオに忠など志してはいない。
何かがあったとするのなら、それは間桐桜に対する同情だろう。
忠義というには余りに薄く、恋というにはあまりに気高い。
保護欲や自己満足でも無い。そもそも錆白兵に、欲も満足も有りはしない。
だから同情。憐れみだ。
盛者必衰、諸行無常。もののあはれは知りえない。
間桐桜に、美も醜も無く。あるのは只の、悲しい語り。
オディオが彼女を同一視して同一化して、それでも尚強い感慨を抱かないのに対して。
セイバーは彼女を危険視して敵対して、そうすることで救おうとしているという違い。
間桐桜をより深く理解しているのはオディオのほうでも。
オディオに桜は救えない。―――救うつもりも、無い。
わたしはオディオの顔を見る。
相変わらず、憎しみに歪んだ眼だ。今にも火を噴きそうなほど混沌としている。
魔王というと、醜い怪物か美男子の両極になることが多い。
オディオの場合は後者か。まだ勇者だったころは、さぞ人気があったのだろう。
お姫様と婚約していたらしいし、機会が有れば恋の話も聞いてみたいものだ。
無論、碌な結末が待っていないのは承知の上で。
「どちらにせよ、いつかは戦う相手だ。ここで敵に回ってくれたほうが気楽で良い」
一瞬なんの話かと思った。
わたしが他ごとを考えていたせいなので、少し記憶を遡る。
確か今は、セイバーが裏切ったか否かという話。
「あれ? オディオらしくないですね」
仲間を斬るのは気が引けるとか、自分から裏切るなんてあり得ないとか。
そんなことを。そんな勇者みたいなことを、オディオが言うはずがないのに。
「……勘違いするな。背中を斬られるリスクが減ったという意味だ」
「あ、なるほど。ごめんなさい、変な勘違いしちゃって」
しかし不意打ちにしたって、オディオ相手にどこまで通用するものなのか。
対英雄の影響は。―――本来の力を出せない状態とは、それほどまでに勝手が違う。
振ったと思った獲物が振れず、出したと思った足が出ない。
思考と実働の齟齬が生む歯車のずれは、最終的に英霊の動きを完全に止めてしまうだろう。
内側から喰い貪るように。腹の中から喰い破られるように。
身から出た錆で、鼓動をとめてしまうだろう。
「気を付けるに越したことは無い。ここに呼ばれるような者は、全員が英雄だ。結末は最期までわからんさ」
最期まで。
オディオが死んでしまうまで。
≪ここまで≫
【アインツベルンンの城】
俺は、アインツベルンの一室でセイバーと対面した。
危険が無いのはランサーが保証している。
イリヤもその言葉を訝しむ様子は無く、俺も敵意は感じなかった。
俺はベッドの上。イリヤは椅子に腰かけて、セイバーは部屋の中心に直立。ランサーは入口のドアに背中を預けている。
話を始めたのはセイバーから。開口一番、気にかかることを言った。
「桜殿を救いたい。どうか、拙者に協力させては貰えぬか」
「……桜を?」
「然り」
聞けばどうやら、セイバーは一時的に桜との主従契約を結んでいるらしい。
その過程で同情し、その過程で居た堪れなくなった。
桜の暗さは、英霊さえ遠ざけるものになっていた。
「……でも、協力って言ったって…お前がここに来る意味はあったのか?」
セイバー個人で、戦力としては十分事足りると思う。
イリヤやランサー、ましてや俺になど、助けを乞う意図が分からない。
よもやバーサーカーが放った刺客なのではと、勘繰らずにはいられない。
「無論でござる。衛宮士郎殿。貴殿の魔術は『剣製』でござろう?」
「―――なんで、それを」
「拙者とて剣。貴殿ほどの『剣』を同類と看破出来ぬほど、拙い感覚ではござらん」
……セイバーに感じていた違和感は、それか。
錆白兵は自らを剣だといった。俺と同じだ。
剣を備蓄する俺と、剣に成り替えるセイバー。系統は違えど、根本は同じ。
どちらも同じ、無限の剣製。
「それで? 具体的にどうするの?」
ランサーが問う。
俺の心に剣の丘があるのは事実だが、セイバーの意図は未だに掴めない。
「其処の童は、魔術に関してはほぼ万能。それで間違いはござらんな?」
童とは、イリヤのことだろうか。
それならまず間違いは無い。俺が知っている魔術師の中でも最高だろう。
でも、それがどうした?
「ならば、頼みがござる。拙者の記憶と『剣の丘』を、一瞬でも同調させては貰えぬか」
「……それに、何の意味があるの?」
イリヤの返事はとても冷たい。量っている。疑っている。
セイバーにどんな企みがあるのかと、見透かすために質問をする。
対して答えた剣士の回答は、イリヤを納得させるものではなかったが。
俺を奮い立たせるには、不足どころかやり過ぎだった。
「―――絶刀、斬刀、千刀、薄刀、賊刀、双刀、悪刀、微刀、王刀、誠刀、毒刀、炎刀」
「……っ!」
「それだけではござらん。四季崎の打った変体刀千本。その全ての構想理念を、拙者は記憶に留めておる」
それは、何とも、心が揺れる。
伝説の刀鍛冶、四季崎記紀の変体刀―――その全て。
あの薄刀を打ったという破綻者の理念。千もの理念。
「同じ剣を打つ者として、興味はござろう。無論、戦力にもなる」
「……それをして、お前に何の得があるんだ。セイバー」
錆白兵。お前の思惑は、一体何だ?
桜を救うなんて、ただそれだけじゃないだろう?
だってお前は―――薄刀と同じで――――
「拙者の思惑は只一つ。四季崎が全刀を打ち止めた理由、それを知ることだけでござる」
≪ここまで≫
【ショギアラ・トゥリファス】
中世の街並みが未だに残る夜のトゥリファスの街並みを、異装の男が駆け抜ける。
若草色の忍装束、背負うは五十五寸の釘。
赤い首巻を風に靡かせて暗闇を縫う忍者は、西洋の街並みからは酷く浮いていた。
服装だけが原因では無い。男は月下の静寂を、猛る怒号で切り裂いていたからだ。
「しゅたたたたたたぁ! ッッッバァァアアああンッ!!」
忍者は突如月へと跳ね、馴染みの薄い石作の家々を見下ろす。
聖杯大戦。7騎と7騎、赤と黒の殺し合い。
彼はこの戦争に置いて、黒のアサシンとして召喚された者。
「……むむ! 南方に四騎、次いで森の中に二騎でござるな! 内三騎は此方の味方でござるから、戦力は拮抗と見てよかろう!」
そう結論すると彼は、轟音と共に着地する。
アサシンは暗殺者のクラス。気配遮断を有する、情報収集や暗殺に長けたサーヴァントが召喚されることが多い。
その点では、彼は全くアサシンらしくないアサシンだ。
気配遮断は有しているし、情報収取もお手の物。だが如何せん、派手でうるさい忍者だった。
対する赤のアサシンも暗殺者では無い所を鑑みるに、此度の大戦に置いて暗殺が発生する確率は非常に低いと言える。
「では拙者も、試合う相手を探しに向かわねばああああああ!?」
対する赤のアサシン。稀代の天才、最強の剣士である彼は、暗殺などは無粋と言い切るはずだろう。
一閃。それは黒のアサシンを斬るために放ったものでは無く、己の存在を認識させるための、言わば挨拶。
「―――赤のアサシン、錆白兵。 貴殿は、黒のアサシンとお見受けする」
「……その佇まい…お主、侍でござるな? あいや、これは失礼。名乗られた手前、此方も名乗らねば失礼でござったな!」
敵の『挨拶』に、忍者は快く答えを返す。
大きく両手を前で組み、足は肩幅にどっしり構える。彼の背後に爆発を幻視するほどの威風堂々。
名乗りあげるは、お決まりの口上。
「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶぅぅ!!! 拙者の名は…轟音雷霆、獅子神=バングうう!!!」
侍と忍者。冷淡と熱血が、世界を超えてぶつかり合う。
【ショギアラ・深い森の中】
赤のアーチャー、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは逃げ回っていた。
ここは深い森の中で、相手はどうやらセイバーらしい。
銃を扱う彼にとって、聊か分が悪い戦場だ。
「待てよアーチャー! ちゃんと戦え!」
「ごめんだね! そんな妙な剣を持ってるやつと戦えるか!」
鍵の形をした、特殊な剣だ。
開閉の概念が存在する物なら、どれほど堅牢であろうと解除できるという代物。
実際に、赤のキャスター製であるサーヴァント用の拘束術式をモノともしなかった。
「こら!ついてくるな! しつこい男は嫌われるぞ!」
アーチャーはトゥーループのように回転して、後ろに弾丸を撒く。
しかし急所は狙わない。どころか人体を狙わない。彼は不殺を旨とする英霊。
狙うのは黒のセイバーの得物の柄。剣を取り落せば、流石に拾わないわけには行かないだろう。
彼の射撃技術は他の追随を許さない精度を誇る。確認するまでも無く、セイバーの手から剣が弾かれて、地面を転がる。
しかし―――
「それがどうしたってんだ、よ!」
黒のセイバーか意にも介さず、それどころか、むしろ足運びを速めて来た。
何も持っていない手を、身体の後ろに振りかぶる。
「おいおいセイバー、どういうつもりだ」
「こういうつもりだ! ストライク――レイド!」
声と共に、セイバーの手には光を伴った鍵型の剣が表れる。
投影や創造ではない。これは、召喚と言った方が近い。
彼の剣は、彼の心と共にある。
だからこんなふうに、剣を投擲することだって。
「っ! なんて奴だ!セイバーが剣を投げるな!アーチャーか君は!」
「どういう意味だ! 剣を投げたらアーチャーなんて、そんなのおかしいだろ!」
【ショギアラ・南方の城壁付近】
黒い男が螺子を両手にくつくつ笑う。
敵である赤のランサーは勿論、彼の味方である黒のライダーでさえ嫌悪感に顔を歪ませる。
「こいつ……何なのよ…! 殴っても殴っても、すぐに」
「『――「回復して」でしょ? でも違うんだよなぁ、これが。』」
「『回復じゃなくて、改竄なのさ。都合の悪い出来事を、「なかったこと」にしているの。』」
「『まあ、馬鹿にはわかんねーと思うけど。』」
「『―――馬鹿にしか、わかんねーと思うけど。』」
「……ランサー。遊んでないでさっさと済まそう」
「『なにいってんのさ、ライダー。僕が遊んでるように見えるのかよ。』」
「『見えるだろうね。遊んでるし。』」
「『でもさ、よく考えてみてよ。僕にあの子が倒せるとおもう? 無理でしょ絶対。』」
「『大体ラムザさん、槍もってるんだからさ。僕の代わりくらい務めてくれても罰は当たらないんじゃない?』」
「『僕はほら、キャスターの代わりに黒の僧侶として活躍するから。』」
「『はは、黒の僧侶って。どこの邪悪教団だよ。』」
あっさりと身内の真名を明かし、そのことに一切悪びれもしない。
戦う気は無いというが、両手の螺子が言葉を大きく否定する。
曲曲しく、魔が魔がしい。
「『まあどうしてもって言うなら、手は無いでも無いけどね。』」
「『だってあちらの陣営は、どうやらマスターとの信頼感が薄いみたいじゃないか。』」
「『だったら崩せる。だったら消せる。だったらそれは、「なかったこと」にしてしまえるぜ。』」
「『さあ、喰らえよ。絶望しろ。これがマイナス。これが過負荷だ。』」
「『―――「劣化・大嘘憑き」。赤のランサーへの魔力供給を―――』」
と、言い切る直前。
紅色の光が黒のランサーを切り裂いた。
それは世界を救った光。ちっぽけで偉大な、勇気の証。
「ははは!ピンチだったなランサー! いや、相手もランサーだったか?まあ何でもいいか!行くぜ獅子劫!」
「セイバー、サーヴァント同士の戦いにマスターを巻き込むな。行くなら一人で行ってくれ」
「ん?ああ、そうだな。悪ィ、いつもの癖だな。まあ一人でも、十分だよ」
「『……おい、無視するなよ。人を一人殺しておいて、無視するんじゃない。』」
「『死者に対する追悼とか、しかるべき態度ってものがあるだろう。』」
「『ほら、謝れよ。君のせいでさっきまで死んでたんだぞ、僕。』」
「あーそうだな。ごめんごめん。 あれ? でもお前生きてるじゃん」
紅い剣を。勇気の剣を携えたセイバー。
彼はバッツ・クラウザー。虚無を打破した真の英雄。
「じゃあ先にもう一回謝っとくな。 次もたぶん、めちゃくちゃ痛いぜ?」
聖杯大戦。7騎と7騎の殺し合い。
空前絶後の英雄戦争の結末は、果たして混沌か秩序か。あるいは――――
≪四月馬鹿。公式の四月馬鹿見れなかったorz≫
全部見てエリザは最強可愛いと再認
来年はエリザ主役でまるまる一本行けるで、きのこ!
【アインツベルンの森】
「毎度毎度、嫌になるくらい広いわよね。この森」
わたしはライダーと共に黒チョコボに跨り、木々の上を飛行していた。
アインツベルンの別荘と外界を隔てる森は深く広いため、足場の条件を無視して移動できる黒チョコボは重宝する。
障害物を飛び越えて片道訳40分。
まともに歩いたら、何時間かかるのだろうか。
「普通に歩いたら五時間と言ったところじゃないかな。僕やアサシンなら、もう少し早く動けるかも」
「英霊と比べないでよ。あんたたちは早く動けて当然でしょう」
「いや、こと密集地帯については英霊も何もないよ。歩き方を知ってるか否か、それに尽きる」
「そういうものかしら」
「そういうものだよ。知識は武器だ、いろいろなことを試しておいて損はない」
彼は、そういうスタイルで戦乱の世を生きて来たのだろう。
専科百般のスキルが、彼の生き方を証明している。
とにかく片っ端から、手に取れる武器を取って。学べる物は成る丈学んだ。
様々な技術をその身を以て知ることで、幾十の戦術に応用した。
戦略家であり、軍略家。異端者であり、救世者。
知る人ぞ知る、歴史の陰に隠れた英雄。
「苦手だとか、低俗だとか。そう思うものこそ率先して試してみたら良い。弱点がわかるから、戦い方が自ずと見えてくる」
「言うほど簡単じゃないでしょ、それ。苦手は苦手だし、低俗は低俗じゃない?」
「まあ、そうかもね。でも僕は、苦手な話術師をやったし、低俗だと思っていた忍者もやった。その経験はちゃんと生きてる」
考えるための。あるいは、考えを変えるための材料。
ライダーは実践しながら考えるタイプの策略家。
想定外に強く、混乱は無い。それは彼に、どんな状況にも対応できるだけの技術があるから。
だからライダーは、咄嗟の回避を選択できる。
後方から飛来した黒炎を、急降下してやり過ごす。
森の中、木の根が露出した武骨な大地に足を付けた。
「……ちょ…ライダー!? なによ、どうしたの!?」
「攻撃だ、おそらくバーサーカー! あの様子だと、次は本気で全員を殺すつもりだぞ!」
ライダーを狙った火炎には遊びが無かった。
速度も、火力も。一撃で焼き切るに足る水準に達している。
回避できたのは、単に気配が溢れていたから。憎しみが、溢れていたから。
「まだそこまで近くじゃない。けど、そう遠くも無いな」
「バーサーカー……もう動けるのね…」
アサシンの、文字通り捨て身の一撃を受けてから半日程度。
異常なのは回復力か執念か。
「チョコボで走れば逃げ切れる。でもそれだと、アインツベルンの城へ案内するようなものだ」
「ここで迎え撃つなら、宝具の解放は必須ね。あのバーサーカーの強さは他のサーヴァントとは隔絶されてる」
単純なステータス差では手も足も出ない。
その上バーサーカーには宝具まで控えているというのだから恐ろしい。
でも、いつかは向き合わなければならない敵だ。
「バーサーカーのマスターが桜である以上、わたしはあいつと戦わなきゃ」
1、ここで迎え撃つ
2、一旦逃げる
安価>>224
≪ここまでー≫
2
「ここは一旦逃げましょう! あの城まで行けばランサーが居る!」
「本気か!? あそこにはシロウもいるんだぞ!?」
「大丈夫よ、あの城は広いから隠れる場所くらいあるでしょ」
そうと決まれば、後は全力で進むだけだ。
バーサーカーなど意に介さず、私はライダーと全速力で城へと向かう。
その行動で、桜がどう動くかなど考えもせずに。
【アインツベルンの城】
血の海だった。
生きているものは何一つなく、ものは押しなべて『物』に価値を落していた。
「全力で駆けた割には、遅い登場だな。もう一度殺して回れるほど暇があったぞ」
「……何でよ…何であんたが…わたしたちより先に…」
オディオの言う通り、わたしたちは最速でここに到着したはずだ。
チョコボの足に、如何に英霊とて比肩するのは難しい。
それを追い抜き、さらに片手で足りない人数を殺して回るほどの速度が、オディオにあるとは思えない。
「貴様が逃げるからだろう。貴様がサクラを逆上させたからだ。向き合ってやらなかったから、関係の無い人間が被害を被る」
オディオは笑いながら、わたしの失策を指摘する。
実に楽しそうだ。本当に苦しそうだ。歓喜と悲壮が入り交じり、最早狂気を超えている。
憎悪。憎悪。憎悪。
「サクラは貴様のその顔を見たいがために、令呪まで使って私をここへと送ったのだ。……クク、実に醜い逆恨みだろう?」
「裏切り者…セイバーの策がもう少し進んでいたら危なかったかも知れないが、所詮は急仕上げの模造剣。私に肉薄する勇者には程遠い」
衛宮士郎。衛宮士郎だったもの。
彼の頭だった物は、割れたスイカを連想させる。
目隠しで振った棒に砕かれたスイカ。オディオと士郎にも、そのくらいの実力差があったのだろう。
抵抗さえ出来ないほどの。抗議の言葉さえ並べられないほどの。
割れたスイカは、その臭いが強烈だった。
現実逃避の幻影は、嗅覚から切り崩されて瓦解する。
「……逃げろ、リン。君が逃げるくらいの時間は…なんとかするから」
ライダーが私を突き飛ばす。ライダーが私を遠ざける。
オディオとは逆方向に。異臭とは反対側に。
ここまで大きな過ちを犯した私に、それでも生きろと鞭を打つ。
【アインツベルンの森】
「はぁ……! はぁ…! はぁ……!」
私は走った。ライダーとのパスは、もう繋がっていない。
走り出してから数分で、ライダーとの繋がりはあっさりと途切れた。
そもそもが、無謀な戦いだったのだから。
「……う……うぅぅぅ…!」
頬を涙が伝う。もう渇き切ってしまったと思ったのに。
ライダーを捨て駒にしてしまった。
ライダーに特攻をさせてしまった。
わたしはそれを、止めることが出来なかった。
一体どこから―――――どこから間違っていたんだろう?
「最初からですよ。姉さん」
ザクリと。全身を針で貫かれたような悪寒が走る。駆け巡る。
正面から現れた桜を相手に私は無様に腰を抜かし、尻餅をついて後退った。
「……ひ…さ、桜……!」
「最初から間違っていたんです。わたしが生まれたこと。姉さんが生まれたこと。そんなことよりも、ずっと前から間違っていた」
もう、恥も外聞も無い。プライドなど、この状況で保てる方が狂っている。
わたしは逃げる。這いつくばりながら、膝を泥で汚しながら、顔を恐怖で歪めながら。
「間違っていたんですよ。人類の有り方は、最初から。 憎しみの連鎖を、生むだけじゃないですか」
桜はそれでも追ってくる。スタスタと、揺るぎの無い足取りで。
凛々しくて、優雅で。それ以上に怖くて恐い。
「その有様なら、放っておいても大丈夫そうですが……まあ、姉妹のよしみです」
桜は歩くのを止めた。
代わりに影で、わたしを侵す。わたしを冒す。
「先ずは魔術回路から殺します。止めはオディオに頼みましょう―――さようなら。そして行ってらっしゃい」
――――――――――憎しみの無い世界へ。
【BAD END】
≪ある意味DEADより怖いBAD≫
≪コワレタ桜ちゃんとは逃げずに向き合いましょう、ヤンデレからは逃げているだけでは始まりません≫
≪メタ的にも、士郎と錆さんの準備が終わるまではどうにかオディオを足止めしないと不味い≫
≪リロードポイントは、まあ最後の選択肢で問題ないよね≫
≪今日はここまでー≫
「チョコボで走れば逃げ切れる。でもそれだと、アインツベルンの城へ案内するようなものだ」
「ここで迎え撃つなら、宝具の解放は必須ね。あのバーサーカーの強さは他のサーヴァントとは隔絶されてる」
単純なステータス差では手も足も出ない。
その上バーサーカーには宝具まで控えているというのだから恐ろしい。
でも、いつかは向き合わなければならない敵だ。
「バーサーカーのマスターが桜である以上、わたしはあいつと戦わなきゃ」
1、ここで迎え撃つ
2、時間稼ぎをする
安価>>237
凛ちゃんなら1だろ
1
「ライダー、戦闘の準備をして!ここであいつを迎え撃つわ!」
勝率は、確かに低いだろう。
ともすれば勝てないかも知れない。勝てないように出来ているのかも知れない。
だからと言って、諦め無ければならない理由も無いのだ。
勝てない相手だろうと、勝つ気で向かわなければ。
それこそ、時間稼ぎにすらならない。
「それはいいけど、策はあるのか? 僕一人では限界があるぞ」
「そうね。 でもあなた、一人じゃないでしょ?」
確かにライダーはステータス的にも、バーサーカーと一対一で戦闘を行えば結果は見えている。
そう。一対一なら、だ。
騎兵のクラスは元より、宝具に特化したサーヴァントとして召喚される。
ライダーの宝具はその典型。奇抜で特異、尚且つ利に適った裏技。
冬木の聖杯戦争は形式上、数の暴力を実現しにくい。
だからこの宝具は、裏技だ。
「…あの宝具は、途轍もない魔力消費になるぞ! リンでも、何分持つか……」
「覚悟は出来てる。 それに嘗めないでちょうだい。 わたしがその程度でくたばるように見える?」
「…はは、確かにリンはしぶとそうだな。……わかったよ、だったら何も言わない。全力で戦ってやるさ」
枯れ果てた森の中、悪寒が音を立てて近づいてくる。
それは足音なのか、それとも鼓動なのか、判別が付かない。
わたしは怯えながらも、口角を挙げて不敵に笑う。逃げ出したい衝動を抑えて、馬鹿な妹を迎え撃つ。
「よく逃げないでいられましたね。合格です。オディオの放つ瘴気と向き合えるとは、正直思ってませんでした」
言う通り、バーサーカーから感じる悪寒は耐えがたい。目に見えるほど、禍々しい。
オディオ―――憎しみだけで形成されたプレッシャーは、単純故に強く刺さる。
だけど問題は、そこじゃない。
「そりゃそうよ。わたしが向き合うべき相手は、バーサーカーじゃないんだから」
桜を見る。
頭髪の色は、いつからか消え失せてしまった黒色だった。
わたしと同じ、黒色だ。リボンは変わらず、その髪に巻かれていた。
「いいんですか? わたしの魔術は。わたしの魔法は。 魔術師にとって天敵ですよ?」
「関係ない。あんたはわたしの妹よ」
「今更何を。その台詞、もっと早くに言っていたら…こうはならなかったかも知れないのに」
桜は笑った。
もう手遅れだ、とわたしは思った。完全に壊れている。もう桜は救えない。
――――本当に?
「後ろを向くな。後悔はするな。過去は変わらない。未来はわからない。だからちゃんと、今を生きろ」
言いながら、槍を携えたかつての咎人は前に出る。
異端の軍師。救世の罪人。
彼を恨み憎む者は数知れず。
されどそれだけでは無い。
彼には理解者が居た。彼には同胞がいた。彼は、孤高ではなかった。
旅団を率いた無実の将。汚名を受けた英雄の、絆の形。
タクティカル・ファンタズム
「―――――――――『幻想の異端旅団』……これは戦争だ。容赦は要らない。こちらも元より、するつもりは無い」
≪ここまで≫
「……何をした…? この気配は……」
オディオは最小限の挙動で、己の周囲に目を向けた。
ふと、木陰から複数の気配を感じる。
大小様々、男女混合だが、しかしどれを取っても一流の戦士であることはわかる。
あるいは剣気。あるいは魔力。また或は殺気をもって佇む者達。
「…英霊だと…? 馬鹿な…! これが貴様の宝具だというのか…!」
その数、20以上。
一人一人が唯の道を極めた猛者であり、無銘でありながら英雄足りえた戦士。
ある者は剣と盾でもって旅団を支え、ある者は杖と呪文でもって同胞を癒す。
ある物は槍を、あるものは銃を、ある者は刀を、あるものは書を。
数多の軍勢を迎え撃ってなお、不退不敗。
異端と呼ばれ、忌み嫌われながらも屈することは無く。
彼らはただ、彼らが信じるべき者の理想に賭けるのみ。
「…準備は出来てるぜ、ラムザ。指示を」
武者鎧の男が声を上げる。
このことに、オディオは驚愕した。
言葉を紡ぐという事はつまり、彼らには意思があるという事。
英霊並の戦闘能力を有しながら、自立して行動するという事。
「わかってるよ、ラッド。君は近接戦に秀でたユニットを率いてくれ。ラヴィアンは魔導士系と共に補助を。アリシアはリンの護衛を頼む」
「はいよ!」 「任せて!」 「承知した!」
途端、軍勢が迅速に活動を開始する。
統制が取れていながら、その動きには余裕がある。
集団特有の利点と、個の持つ臨機応変さを併せ持った旅団。
これが彼の。彼らの宝具。
「さあ、戦争だ! いつも通り全力で戦え!」
「貴女が凛嬢で間違いないな? このアリシア、命じられた責務は果たす」
紅い忍者装束の女性が、わたしの元に駆け寄ってきた。
名前の割に和風だが、あの神話の世界観では仕方がないとも言える。
「ていうか貴女、武器は?」
見たところ、背にも腰にも武器になりそうな物が無い。
「無い。私は素手で戦う忍者だ。……先ずは確認だが、貴女の相手はあの少女で間違いないな?」
そう言って、忍者は桜を指さした。
楽しそうに笑っているあの妹が、わたしの相手で間違いない。
わたしは首肯し、注意を促す。
「あの子は只ものじゃないわ。先ずはアウトレンジから様子見しましょう」
「承知した。貴女の魔力も限られている。早急に活路を見出せるよう尽力しよう」
言うが速いか、忍者は手裏剣を投擲した。
狙いはこの上なく正確で、桜の眉間に吸い込まれるように飛んで行く。
そう。吸い込まれるように。
「……効きませんよ、魔力で形成されたサーヴァントの攻撃は。 言ったじゃないですか、姉さん」
桜の魔術は。桜の魔法は。魔術師にとって天敵。
一切合財の魔力を否定する、あの子なりの世界に対する反抗。
「様子見はどうやら正解だったようだな。殴りかかっていれば、消えていたのは私だった」
魔術での攻撃は全て無効。サーヴァントとは相性が悪い。
ここは勝ち負けでは無く、ライダーから注意を逸らせたことが何より大きい。
これで、彼の戦争に水を注さなくて済む。
≪ここまで≫
刀が踊る。オディオはそれを半身で躱す。
躱した先には矢が飛来し、それを落せば拳打が続く。
「っ…!」
普段ならば、問題にならないほどの戦力。個々が歴戦の兵と言えど、魔王に及ぶほどでは無い。
しかし彼らは集団だ。味方の隙へカバーに入り、味方の動きをフォローする。
何より重要なのが、魔導士系の戦職が行う各ユニットの戦力強化。
彼らが呪文を唱えるたびに、軍勢は加速し、力を増す。
彼らが呪文を唱えるたびに、魔王は鈍り、脆くなる。
「小癪な! 先ずは補助を潰す!」
駆けたところで、しかし剣は届かない。
杖を握る者達の前には、鎧の騎士が列を作って立ち塞がる。
そこには、ライダーも並んでいた。
「ここにいるのはナイトと竜騎士。近接系のメインジョブだ、そう簡単に突破できると思うな」
ライダーを除く槍兵二名が飛び上がり、剣士三名はそれぞれ別角度から剣を振る。
流石のオディオとて、五方向からの同時攻撃は退がる以外に回避のしようが無い。
後ろへと足を出したところに、ライダーは付け入る。
「打てぇー!」
檄を、指示を飛ばす。反応したのは黒魔導士と弓使い。
放たれた矢と雷撃は、見事オディオの身体を捉えた。
「……っ! 対魔力を持つ私に魔術とは、嘗められたものだな!」
腕に刺さった矢を引き抜きながら、オディオは無意識に弓兵を眼で追った。
それが間違いだと気付くのに、そう時間は掛からなかった。だけどそれでも、一挙動の僅かな隙を、彼らは一人として見逃さない。
モンクは地を駆け拳を握り、侍は刀を大上段に構え、シーフはナイフを浅く持つ。
ライダーが意図して作った隙。効かない魔術に織り交ぜながら有効な弓を放たれれば、注意は自然と弓使いに向く。
その一瞬を。誤差のような小さな隙をついて、彼らは連撃を浴びせてくる。
拳は腹部と顔面を打撃し、刀は胸を斜めに切り裂く。ナイフは鋭く膝を貫き、同時に剣をも奪い取った。
「……がぁ…! 貴様ら…群れるしか能の無い雑魚が……!」
「これが人の強さだよ、魔王。群れることが恥ずかしい内は、誰もお前を救えない」
ぐら付くオディオの背に向かって、ライダー自身も槍を突き出す。
左の心臓を抉るように。戦の終わりを告げる、命の警鐘を―――
「……ククク…愚かな。……愚かな言葉だな、ライダー!!」
槍は魔王を穿たない。憎しみの火炎に染まった手で、刃ごと掴まれて勢いが死んだ。
黒炎は徐々にだが確実に火力を増し、いつしか近寄ることさえ困難なまでの大火へと。
「人の強さと言ったか、ライダー。 群れることが、強さだと!」
彼は魔王。魔王オディオ。
数多の世界に干渉しながらも、決して味方を与えることだけはしなかった。
何故なら、弱いからだ。群れた人間は。【味方を知った人間は】、【何よりも弱くなるからだ】
「ならば何故、私は勝利した!? 集結した勇者を相手に、勝利を収めることが出来たのだ!?」
オディオの手で、闇が回る。何かを急くように。何かから逃げるように。
炎は、憎悪で世界を焦がす黒点へと成り至る。
別の世界があった。そこには魔王と呼ぶべき者がいて、勇者と呼ぶべき者もいた。
彼らは魔王を討ち果たし、最後にオディオと対峙する。最期にオディオを退治する。
そう息巻いて挑んだ果てに、待つのは圧倒的なまでの憎しみだった。
「答えろライダー! 私は孤高だった! それでもなお、勝利を収めた!」
彼は孤独だった。それなのに何故か、敗北出来なかった。
それなら、強さとは一体何か。魔王とは何か。
彼の存在とは、一体どういうものなのか。
≪ここまで≫
バーサーカー。つまり、狂戦士。
オルステッドは今回の聖杯戦争において、バーサーカーのクラスで現界した。
彼ならば十分にセイバーとしての適性を持つし、その逸話を鑑みるにキャスターにも適性はあるだろう。
にも拘らず、間桐桜の召喚に応じる際に彼が宛がわれたのは狂戦士の枠。
獣の如く狂った英雄。狂ってしまいたかった英雄。狂化を受け入れられる英雄。
一際広い適性条件を持つバーサーカーにおいても、オルステッドは少々特殊な事情を持つ。
実際のところ、彼は狂ってなど居なかった。
元を正せば生前から、彼が魔王になった時から、彼はずっと誤解していたのだ。
『自分は狂ってしまったのだ』と勝手に思い込み、極めて正常な脳で大量虐殺を行った。
そもそも憎しみを抱ける時点で、彼の精神はそこらの者より圧倒的に健全だ。
感情を所有している時点で、サイコパスには程遠い。
―――――お前が魔王じゃないからだ。
オルステッドは人間だった。何も変わってなど居なかった。
彼は人間のまま人間を殺し、人間のまま世界を壊した。
そこまでやっても彼はまだ狂えず、憎しみを持ったまま悲しく笑っていたのだろう。
何も無くなった世界で一人、正常な脳を抱えたままで。
狂っていると、信じたままで。
だからこそ、オルステッドは言葉によって覚醒する。
或は覚醒ではなく、失墜と言っても良いかもしれない。
狂っていなかったことを知り、魔王で無かったことを知り。
ここで初めて、勇者は狂う。
≪ここまで≫
「……? 気を付けろみんな、様子がおかしい」
ライダーの促した注意が全員に伝わってから一拍を置いて、オディオの渇いた笑いが響く。
猫背で俯き、瞳は影で窺えない。口元は裂けるほど盛大に吊り上がっていたが、前向きな感情は見当たらなかった。
肺の中に渦巻く空気を、何か嫌なものと共に吐き出すかのように、掠れた音が喉を鳴らす。
「ははは……ははははは。 はは! ははは! ハハハハハハ!!!」
いつしか背中は逆に曲り、天を仰ぎながらの絶笑に推移した。
影を払って覗かせた瞳は、酷く不安定に揺れている。焦点は定まっておらず、また、何が見たいのかもわからない。
何を見て来たのかも、わからない。
「おい、ラムザ。こいつ狂ってるぞ」
「見ればわかる。それにもともとバーサーカーだ、狂っているのが当たり前で――――」
瞬間、シーフが一人消滅した。
彼ら軍勢の誰一人として、その高速を視認できた者は居ない。
奪われた剣を取り返すと同時に、闇は戦士を体を呑んだ。
「ククク……クハハハハハハ!!!」
「構えろ! モンスターを相手にするつもりで戦うんだ! こいつはもう、理性が無い!」
一人欠けようと、戦場は続く。彼らはそのことを痛いほど理解している。
だから悲しみに打ちひしがれることは無く、どころか一層気を引き締めた。
「アルベール! 足止めは出来るか!?」
「やってるよ! でも駄目だ、風水術じゃ歯が立たない!」
小細工など通用せず、圧倒的な暴力で以って戦場を基礎から破壊する。
振られる剣に技術は無く、運ぶ足に技巧は無い。されど強靭。故に狂刃。
狂化した戦士。これぞバーサーカーの、本来の形。
バーサーカーは力任せに剣を薙ぐ。
狙うのは、この戦線でもっともガードが堅い場所。
魔導士ユニットを背に盾となる、ナイトと竜騎士の鉄壁。
「……重いっ…!」
受けた盾に亀裂が走り、荒れた大地を靴底が削った。
バーサーカーの剣は、その全てが渾身であり、故に防御にも全力を要する。
言ってしまえば、防げただけでも僥倖だ。彼らは集団である。その利点は、防御が単なる防戦を意味しないこと。
パワー ブレイク
「その力、削り取る!―――『意気削ぐ断鉄』!」
宝具の解放。彼らはライダーの宝具であると同時に、独立した英雄。
それぞれの役割に応じた、宝具に相当する絶技を持つ。
『力そのもの』を破壊する剣技は、確かに効果を発揮した。
だが―――
「削れた上でまだその威力か……!」
次ぐ一撃を防ぐ鎧は、役目を果たして砕け散る。
それほどの暴力。それほどの怪力。多少力が削がれても、規格外の総量を前に意味は無かった。
速くて、重い。一流の技量を持つ戦士たちの集団を相手に、スペックだけで圧倒する狂戦士。
正しい姿であり、だからこそ強力。
「バーサーカー…! まさか愚直さがここまで脅威になるなんて…!」
恐れ知らず。痛み知らず。怖い物など、知らぬ存ぜぬ。
考えることを辞めた勇者の、ついに憎しみに身を委ねた魔王の。
狂った一人の人間の、子供じみた自己防衛。
≪ここまで≫
忍者が木から木へと飛び移る。
私は後ろ向きに担がれる形で、常人には無し得ない移動手段に便乗する。
後ろ向きなのは、無論桜を視界から外さないためだ。
「逃げてるだけじゃ勝てませんよ? まあ、戦っても勝てませんけど」
「……癪に障るが正論だぞ。何かこの状況を打破する手段は無いのか」
「桜を倒すだけなら簡単よ」
要するに、魔力の関係しない攻撃を仕掛ければそれでいいのだから。
極論、辺りの大木をなぎ倒して圧殺すれば片付くだろう。
だけどそれは駄目だ。私は桜を叱りに来てる。
「ただ倒す、じゃ駄目。どうにかして、あの子の暴走を止めなきゃ駄目」
「ならば、その辺りの砂利でも投擲を…」
「中途半端な攻撃は逆上させるだけよ。かといって気絶させても意味が無い」
「それでは勝てない。貴女は馬鹿か?」
言われても仕方がない。反論したらそれこそ馬鹿だ。
無茶を言っているのは承知しているし、理想論なのも理解している。
何の犠牲も無しに、桜と対話など出来ないのは、誰よりもわたしがわかっている。
だってわたしは、桜の人生を犠牲にして生きていたのだから。
桜の心を犠牲にして、笑っていたのだから。
だから―――――
1、わたしの才能を犠牲にする
2、わたしの命を犠牲にする
3、……やっぱり何も棄てたくない…!
>>275
1
「降ろして、アリシア。……決まったわ。覚悟」
決めた。いや、諦めたというべきか。
こういう所は、やはり性か。どうあっても自分の命は惜しいらしい。
それを恥じることは無い。人間誰しも命あっての物種だ。
簡単に命を投げ出すのは、馬鹿と英霊だけで十分。
「ちょっとわたし、馬鹿な妹を殴ってくる」
「……正気か? それでは、魔術回路が」
「ライダーには…悪いことするわね。でも、もう決めたから」
もう諦めたから。もう逃げたくないから。
「…………そんな眼で凄まれては、聞かざるを得ないな。存分にやれ。ラムザには私から話を通しておこう」
それだけ言うと、忍者はわたしを地上に立たせ、そのまま振り向きもせずに去って行った。
見るからに全速力。どんな言い訳をしてくれるのやら。
「あれあれ? どうしたんですか、姉さん。気でも狂いました?」
「違うわよ。 狂ってんのはあんたでしょ? 待ってなさい。今から正気に戻してあげるわ」
どうだろうか。実際のところ、狂っているのわたしの方なのかも知れない。
正直な話、これで桜が正気に戻る確証は無いのだ。
その上誰も得しない策。当然わたしにとっては最悪だし、ライダーは消滅、城で控える連中にも迷惑がかかる。
だとしてもだ。
「今までのことは謝るわ。悪かったわね、苦労かけて。 でもそれとこれとは話が別」
桜から影が漏れ出す。地を這って忍び寄る暗黒は、きっとこの子自身の闇。
だったら恐れることは無い。桜はわたしが思っているより、ずっと強い心を持っているはずだから。
「しっかりしなさい。 いつまで遊んでるの」
足を上げ、前に出し、そして落す。それだけの動作が、悲壮なまでの喪失感を伴った。
消える。消える。消える。わたしの魔術回路が。遠坂の叡智の結晶が。
――――――――――――――それがどうした?
「………さあ、帰るわよ。桜…!」
≪ここまで≫
唖然としている桜に向かって、わたしは影の中を駆ける。
失われるべきものは失った。捨てられるものは捨てた。
今のわたしは空っぽだ。何も背負わず、何も手繰らず。
だからこそ空いた隙間に、大切なものを拾い上げる余裕が出来た。
「――――はあッ!」
両足を大きく広げながら踏み込み、掬い上げるように肘を出す。
裡門頂肘。中華の武技ではあるが、魔術による補強を施していないただの肘打。
しかしそれで十分。桜に対して物理攻撃を放てば、どのようなものであれ絶大な効果を発揮する。
「うっ…ぐぇ…」
腹部を疲れた桜は、抱え込むように上体を下げる。
まだ終わらない。一撃で反省するほど桜の心は弱くないし、この拳打にはわたしの腹癒せも含まれている。
妹のためとはいえ、自分の将来を捨てたのだ。一族の悲願を捨てたのだ。
そう簡単に割り切れるほど、お人よしでは無い。
「―――次行くわよ!」
震脚を踏みながらの冲捶。腰の回転と共に放つ打突。
これも、いつもの三分の一程度の出力だ。思った以上に動かない足。想像以下の拳の切れ。
だけどそれでも正確に、寸分違わず桜の胸部に衝撃は伝わる。
「ぐうぇ……あ…あ…? な、なんで…? 姉さん…わかってるんですか……? この影に触れた魔術師は…」
勢いに負け、体を支えられなかったのか、桜は盛大に尻餅をつく。
そして、直後に放った言葉がこれだった。
どうやら桜には、痛みよりもわたしの行動が重要らしい。わたしの決意が、それほどまでに意外らしい。
「……馬鹿ね、あんたは。 本当に馬鹿」
心底疑問といった表情。わたしが魔術回路を捨てるなどとは、微塵も思っていなかったのか。
そう考えると少しだけ、わたしも怒りが湧いてくる。
理不尽で傲慢、正当な理由などない憤り。
だけど、それでいいと思う。姉妹の喧嘩なんて、そんなものだと思う。
だから殴った。桜の顔を、躊躇などせず全力で殴った。
武術でもなければ魔術でも無い。何の技術にも頼らない単純な暴力。
単純にしないと、いまのこいつにはどうやら伝わらないみたいだから。
「馬っ鹿じゃないの!? このわたしが、魔術回路と妹の価値を比べるような屑だと思った!?」
「……っ! 屑…じゃないですか……! 今までわたしは、ずっと一人で…!」
「うるさい! ずっと一人? 助けも求めなかったやつがそんな事を言うな!」
「…求めれるわけ、無いじゃないですか!! そんなこと…! そんなことしたら……!」
「そんなことしたら、何よ! 助からなかったとは言わせないわよ! 少なくともわたしは―――」
桜の視線が刺さる。無茶苦茶なことを言っているのは百も承知だ。
暴論だと思う。思慮が足りないと自分でもわかっている。
それでも、これでいい。思慮だとか、遠慮だとか。そういう段階は、もうとっくに通り過ぎて。
思慮だとか、遠慮だとか。そういう能書きのせいで、わたしたちはこんなに拗れてしまったのだから。
面倒でも、途方も無くても。絡まった糸は、地道に解いていくしかない。
「――――少なくともわたしは……あなたに助けを求めて欲しかった」
辛いなら、そう言って欲しかった。逃げ出したいなら、そう言って欲しかった。
あなたの為なら才能だって捨てられるのは、いまここで証明した通り。
「……戯言を…! わたしの気持ちも知らないで……!」
言いたいことは言った。ここからは桜の番。
わたしの知らない、桜の気持ち。わたしの知ってる、桜の強さ。
桜の心は優しくて、わたしなどよりずっと強い。
≪ここまで≫
わたしの気持ちも知らないで。
こんな台詞を、まさか姉に向かって言う日が来ようとは、少し前までのわたしには予想も出来なかっただろう。
正直になったのか、あるいは自棄になっているのか。そもそもの話、わたしの気持ちを誰かが推し量れる筈がない。
本人でさえ曖昧な感情。誰がどう見ても矛盾した心情。つまるところの、ただの強情。
務めて気丈に振る舞って / 【わざと惨めを演出して】
平気なふりをしていただけで / 【嫌がるふりをしていただけで】
それだけで不思議と、零れる涙は止まっていた / 【いつからか本当に、心が悲鳴を上げていた】
強情にも意地を張り続けたわたしは、どうやら色々と忘れてしまったらしい。
涙の流し方。悲鳴の上げ方。助けの求め方。他にもたくさん、忘れてしまった。
隠すことだけ上手になって、自虐がどんどん得意になった。
先輩と話すようになってからは、あの家で朝ごはんを食べるようになってからは、笑顔の作り方を思い出して。
だけど本当に笑えていたのかは、実のところ不明だったりする。笑うふりを、していただけなのかも知れない。
オディオを召喚してからは、自分に正直になってからは、憎悪の向け方を思い出して。
だけどそれが憎悪なのかは、向けていたわたしにもわからない。憎んでいるふりを、していただけなのだと思う。
セイバーと一緒に戦ったときには、支えられて戦ったときには、失う恐さを思い出して。
だけどそれが何を恐れていたのかは、やっぱり理解不能だった。恐がるふりを、していただけなのだろう。
姉さんに殴られたときには――――ときには…―――
「……痛い……痛いですよ…姉さん……」
痛かった。お腹が。胸が。頬が痛い。ただの握り拳が、こんなにも痛い。
想いの重さだとか、愛の深さだとか、そんなロマンチックなものでは決してなくて。
これは単純に、姉さんの怒りの重量なのだと、そんな風に思った。
許す気にはなれない。例え何歳になっても、わたしは姉さんを憎むと思う。
だけどその度に姉さんは、わたしを怒ってくれるのだろう。叩いて直してくれるのだろう。
簡単に人を怒れる危うさも、真剣に人を叱れる強さも、わたしには無い。
そんな姉さんが、わたしは嫌いで……―――――
桜が気を失って、展開されていた影の絨毯が畳まれる。
前のめりに倒れこんできた妹の身体を、わたしはしっかりと受け止めた。
「……重いわね…」
人間の重さだった。一人の少女の重さだった。
何を食べたらこんなにも成長するのだろうと、歯ぎしりしたい気持ちもある。
「…まあ……悠長なことを言ってる場合じゃ…ないんだけど…」
足元が覚束ない。まるで浮き輪の上に立っているみたいだ。
視界も歪んでいるし、頭の中では一定的な電子音が鳴り響く。
魔術回路を失った反動か、はたまた慣れない駆動の代金として体が休息を要求しているのか。
桜を背負ったままでは、とても城まで進めそうにないコンディション。
「…ライダー…は、居ないのよね……」
魔力供給が断たれてこれだけ時間が経ったのだ。
単独行動スキルの無い彼では、最早消滅は確実だろう。
悪いことをしたとは思う。あの英雄にも願うことがあったはずなのだから。
だけどそれを悔やむのは筋違いだ。英霊は所詮駒…などとは間違っても言えないけれど。
彼はわたしが後悔して立ち止まるのを、良しとしてはくれない。
「あいつの願いを犠牲にしてまで為したことが、ただの兄弟喧嘩だなんて……呆れるわね」
呆れている顔は想像できても、怒っている顔は浮かばなかった。
寝坊したときも、判断を間違ったときも、ピンチに陥った時も―――ライダーはずっと、わたしを導くつもりだったのか。
論じるまでも無くわたしは未熟で、ならばそれも、あの英雄にとっては当然の責務だったのだろうか。
「……違うか…責務なんかじゃなくて……きっとそういう生き方だったのよね…」
異端の徒。神殺しの咎人。ラムザ・ベオルブの正しさは、わたしだけが知っている。
≪ラムザの戦闘は次回。今日はここまで≫
兄弟→姉妹
あー本当にごめんなさい ちょっと気を抜いたらこれだよ…
ライダーがバーサーカーに勝とうが負けようが、消滅を向かえるのは揺るがない結末である。
だからここで、ささやかな補足をしよう。
ライダーが出来なかった言い訳をして。ライダーが解きたかった誤解を、ここで解こう。
誤解その一。疑問点としてまず挙げられるのは、そもそもラムザ・ベオルブは本当に正しかったのかということ。
状況的には確かに彼の汚名は冤罪であり、教会側の隠蔽工作に利用されていたのは間違いない。
遠坂凛はあの性格なので、ともすれば名誉挽回を志して戦争に望んだと勘違いしていることだろう。
ラムザ自身はやんわりと否定していたのだが、中途半端さがかえって肯定と受け取られてしまっても、無理はない。
片やラムザの意思はというと、それがなんとも拍子抜けなことに、「どうでもいい」という傍目には至極不明瞭なものだった。
あの戦争において、自身がどのように扱われたか。後の時代において、自身がどのような評価を受けるか。
どうでもよかった。
例え異端者だと罵られようとも。狂っていると石を投げられながらも。そんなことはどうだってよかった。
為すべきことを為す。それだけだ。
だから結論として、ラムザ・ベオルブに正しさは無かった。正しさの定義は数多くあるが、彼はどれにも当てはまらない。
民から正義と呼ばれず。自身も正しさを求めず。為した偉業を誇りもしない。
故に彼は正しくなど無く。だからと言って悪でも無い。ただ自分に、正直だっただけ。
誤解その二は先述した通り、彼の願いについてである。
遠坂凛はまず間違いなく誤解していたであろう、ラムザ・ベオルブの戦う意味についての誤解。
万能の願望機である聖杯を目標に据える以上、サーヴァントにはそれ相応の願いがある。
戦いこそが望みだとか、呼ばれたから来ただけだとか、そんなのは少数派のイレギュラーに過ぎない。
彼にだって、願いはあった。聖杯でなければ叶えられない、だけどとてもちっぽけな願い。
殺した相手に謝罪をするほど大人でもないし、死んだ仲間に今更会いたいと思うほど子供でも無い。
傲慢でもないが、聖人でも無い。中途半端でありながら、徹底的に謙虚な彼が、唯一望んだ我儘。
それは親友の救済だった。
「生前に世界と契約したものは、死後に抑止力として、人類の滅亡を回避するための道具になる」
すなわち霊長の抑止力。アラヤと契約した元人間。
英雄として無双の力を振るった代償に、意思を奪われた一体の兵器となり下がる。
「只の一人も仲間を持たず、その身一つで王になった……かつて僕の親友だったそいつは、霊長の守護者だ」
幼少期には、お互いに騎士を夢見て鍛錬を重ねた。対等だったと思うし、目指していた所は同じだったと思う。
いつからだろうか、僕たちが袂を別ったのは。きっかけはあったけれど、あれだけが原因では、きっと無い。
やり直したいととは思わない。もう一度顔を突き合わせたところで、出るのはきっと罵倒ばかりだ。
今となってはお互いに理解不能で、谷を挟んで背向いに立っているような有様ではあるが。
しかしそれでも。ただ殺すだけの親友を見捨てられるほど、僕は大人では無かった。
「……それってあれか? あの英雄王ディリータ?」
ラッドが疑問符を付けて訊ねて来るが、しかし疑問などないだろう。彼らには、とっくに周知だ。
だから無言が肯定である。ラッドも別に返事が欲しくて質問したわけではあるまい。
彼が疑問に思っているとしたら。思っていたとしたら。それは別のこと。
「なんだお前。 お前だって守護者のくせに。 願い、友達のために使うつもりだったのかよ」
「駄目かい?」
「……いや、お前らしいと思うよ」
至って普通の表情で、ラッドは納得してくれたようだ。他の者も思う所はあるようだったが、それを口に出したりしない。
僕が意見を変えないのは、みんなが一番知っている。
「ラムザ、急伝だ! 遠坂凛が魔術回路を捨てる、動くなら急げ!」
「わかってる、そんな気はしてたさ」
僕の願いは、自分勝手なものだ。あいつからしてみれば、余計なお世話もいいところだろう。
だから叶わなくても。だから、敵わなくてもいい。ただ全力で、最期の悪あがきをするだけだ。
≪ここまで≫
>>300
ソースは?
>>301
今年(2014年)3月のLoV参戦後の松野Dのツイッター(公式で最終決戦後の全員生存確定+企画での小ネタ)
LoVでのアグリアスの『10年後の自分(夢)』が『愛する夫と子供との生活』と直球にも程がある代物だった事(ちなみにLoV参戦時点でFFTのENDから5年が経過しているとの事)
……ツイッターは兎も角、それ以外は状況証拠と言われればそれまでだが
ライダーは胸に手を当てて、自身を形成する魔力を『マジックポイント』に変換する。
この時代の魔術師が扱う魔力と、彼の時代の魔力とでは、少しだけ性質が違うのだ。
現代の魔術師は合理的で即物的。払えば払った分だけ効果が得られる、正当な等価交換。
対して彼らの魔術は。彼らの『まほう』は、信じる強さが力に換わる。
「――――――――汚れ無き天空の光よ」
かつて様々な戦種を極めたライダーは、サーヴァントとして召喚された現条件下では実力の半分も発揮できない。
本来ならば、魔術を使う際にはふさわしい装備と職種があるが、今はこれが精いっぱい。
軍勢は詠唱に呼応し、役目を果たさんと動く。
唱えることが可能な者はライダーの文言に音を重ね、杖や書を持たぬものは剣を握って狂った戦士を相手取る。
今際の際だ、振るえる全力を持って戦場における束縛を。戦うという、拘束を。
一人、また一人と数を減らし、それでいてなお、バーサーカーの挙動は目論み通り抑制されていた。
まさに捨て身。どうせ潰えるひと時の夢、価値無き命、故に削る選択を。
「―――――――血にまみれし不浄を照らし出せ」
二小節。高次の対魔力を誇るバーサーカーには、本来通用しない筈の魔術。
だがそれは、魔力の話。想いの強さに対するスキルでは無い。『まほう』とはいつの世も、非科学の証明。
天の光の具現化。不浄を裂く光の渦。現代の魔術師ならば、『信じる力』など夢幻に過ぎないと笑うかもしれない。
そしてその通りだ。笑われて当然。委細間違いなく、彼らのまほうは夢幻――――幻想だ。
それがどうした。そんなことは―――どうだっていい。
誰に何を言われようが関係は無く。理論では説明が付かずとも、理屈では馬鹿だと罵られても。
信じる強さは、確かにある。
ホ ー リ ー
「――――――『白色の最終幻想』!!」
放たれた閃光は、白く―――清く――――美しい輝き。
これこそが、彼の―――最期の幻想。
裁きの光は地を削らず、轟音を発生させずに、的確に罪だけを罰する。
その閃光は、魔王の持つ罪の重さ。城にまで光が届くほどの、爆圧。
痛々しさはない。見る者が見れば、これほど安らぐ光は他に存在しないだろう。
柔らかな月明かりにも似た、包み込む青輝。それは断罪の剣にして、救済の光明。
しかし無慈悲なことに、ライダーの悪あがきは攻撃として及第点に至らない。
如何に美しい散り様であろうとも、与えた傷はアサシンの足元にも及ばない。
真の英雄に対する、守護者である。ライダーにはそもそも、英雄を英雄たらしめる信仰が無い。
世界と契約したわけでは無く。彼は只の人間のまま、神を殺した異端者だ。
そう、異端者。彼は死ぬまで―――死んでもなお、異端の汚名から逃れることは出来なかった。
異端者であるが故に。英雄としての信仰を持たぬが故に。彼はアラヤに属する羽目になっている。
「ゥ……ガァァァ…」
『英霊もどき』が巻き起こした閃光は、確かにバーサーカーには大きなダメージを与えていない。
ライダーの考えが甘かった。土壇場で格好の良さを選んだ……わけでは、勿論ない。
アインツベルンの別荘に対する、それは狼煙だった。
「……閃光…接敵を知らせたか………浄化の光など…確かに私では放てん」
これでオディオの存在は知れた。もう奇襲は出来ないだろう。
城までは幾分ある。オディオの足でも数分かかる距離だ。
その間に敵は準備を進め、如何に僅かであろうとオディオに対する策を講じてくるだろう。
「ならば打ち砕くまで……私は魔王だ……魔王なのだから…」
勇者以外に敗北は無い。その勇者も、既に三騎、屠っている。
浄化の光に当てられて、魔王は理性を取り戻した。
理性のままに、憎悪に狂う魔王が出来た。
「……ククク、誤算だったな…ライダー……理性さえ戻れば…剣技も戻る……」
憎悪に身を食まれながらも、狂れる心を抑えながらも、オディオは進む。
浄化による理性の奪還。それは、誤算などでは無く。
ライダーはこう言っている。―――――自分が間違っていると知れ。
≪ここまで≫
乙
【アインツベルンの城】
「―――――。」
「――――――――……。」
「……。」
セイバーの右手を、イリヤが左手で取って。
空いた右手が、俺の額に当てられる。
流れ込んでくるのは、ある剣士の一生。剣と共に生き――否。剣として生きた、侍の生涯。その記憶。
彼が見た刀剣の記録を。振るった技巧の詳細を。事細かに閲覧する。
夢を見て居るようで、現実味は夢とは比べ物にならない。まるでそこにあるかのように、実感を持って刀を取る。
折れず曲がらず、故にいつまでも良く斬れる。 『絶刀・鉋』。―――是。保存。
対してこちらは斬れ過ぎる。全てを切り裂く、 『斬刀・鈍』。―――是。保存。
完全に同一。千もの数を誇る一本の剣、 『千刀・鎩』。―――是。保存。
薄く脆い。刀剣として扱うにはあまりにも脆弱な 『薄刀・針』。―――是。保存。
強固にして堅牢。主を守る甲冑にして剣、 『賊刀・鎧』。―――否。破棄。
重く愚鈍で不動不変。振るう事すら叶わぬ鉄塊、 『双刀・鎚』。―――是。保存。
生かさず殺さず無理やり活かす。故に不良、 『悪刀・鐚』。―――否。破棄。
日の本守護を司る。絡繰り仕掛けの剣舞人形、 『微刀・釵』。―――否。破棄。
見えざる刃で斬るのは己。最も鋭き刃の剣。 『 誠刀・銓』。―――否。破棄。
狂気と悪意を振りまく亡霊。先見自傷の、 『毒刀・鍍』。―――是。保存。
両手の引き金、吹く火炎。剣の名あれど不剣。 『炎刀・銃』。―――否。破棄。
……『虚刀・鑢』。―――否。破棄。
……『全刀・錆』。―――否。破棄。
……『逸刀・鏡』。―――己。肯定。
その数述べ、千と二振り。
何一つとして同じものは無く、全てが概念構想の粋を求めた奇作傑作名作揃い。
独創性があり、独自性がある。俺にはないものが、彼にはある。
俺は所詮、写すことしか出来ない鏡。偽ることが剣としての形。
それでいい。それが良い。――――体は剣で出来ている。
これは概念などでは無く、分類などでは無い。紛れも無く、事実。
剣の丘で打つ鉄は、贋作でありながら誇り高い逸品。
故に逸刀。――――逸刀・鏡。
≪少ないですがここまで≫
【アインツベルンの城 正面入り口】
ランサーは手持無沙汰に棒術具を回す。
衛宮士郎とセイバーの記憶の共有、その作業を手伝う技術など彼女は所有していない。
遊撃士として経験を積んで、出来る限り広範囲の魔術を扱う努力はしてきたつもりではある。
だが彼女の場合は、『戦闘手段としての魔術』という条件が大前提として存在するのだ。
必要とした範囲が戦闘に限られていたというだけだから、条件と言うよりは選択に近いかも知れない。
回りくどいやり方を、必要ないと切り捨ててきただけなのだろう。
そもそも彼女の魔術適性は、特異と言わざるを得ない誰もが羨む一級品だ。
火、水、風、土、時間に空間、加えて幻影。
この時代では五大元素と呼ばれる特性の、更に上位互換にあたる。
得手不得手も無く、攻撃に回復に、強化に弱体化にと隙が無い。
見る者が見れば発狂しても可笑しくない、『万能』という名の到達点。
魔術師として後天的に進む道を決定できる権利を有するという境遇が、どれほど恵まれているかは分かるだろう。
実際マスターがイリヤのような桁違いでも無ければ、あるいは衛宮士郎のような素人でもなければ、主従間に良好な関係が芽生える望みは酷く薄い。
嫉妬、憤慨、嫌悪、茫然。
何よりも癪に障るのが、それだけの資質を持ちながら魔術を鍛え抜きもせず、槍兵のクラスで現界すること。
戦闘の基本は棒術に頼った近接戦であり、魔術はあくまで補助であるということだ。
何を隠そう、今回の聖杯戦争において最も希少性の高いサーヴァントは、他ならぬ彼女である。
無論、珍しさと強さに相互関係は無いし、逆にありふれた―――つまり有名なサーヴァントの方が単純に強い。
名だたる大英雄が跋扈する戦争において、強さで挑めば勝ち目がないのは明白だ。
珍しさの利点。それはよく知られていないという事。
手の内が露見せず、使用しても気付かれず、名前が割れても対策出来ない。
故に全力が出せる。全力を出すことによるデメリットが存在しないのだ。
増してや彼女のマスターは、規格外にして戦力外。最早暴力的なまでの魔力を誇る。
「負ける理由が無いわね……」
だからこそ、不安だった。
万全であること。それは良い。全力であること。それは良い。
問題なのは、自分が盤石を覆してきた者であること。
彼女は知っている。絶対的優位という立場ほど、覆りやすい物は無い。
「負ける理由が無いのよ……困ったことにね」
ランサーはもう一度、声に出して優位を示す。
引くことは無いだろう。むしろより一層奮起してもおかしくない。
王とは総じて、プライドの高いものなのだ。
「…奢り……というわけでも無さそうだな。…成程、優勢であることが不安なのか」
青いな、とオディオが笑う。狂気が走った瞳で嗤う。憎悪で歪んだ心で哂う。
自らの憎しみが、自らを徐々に押しつぶしていくのが判る。
狂気を抱きながら平静を保つことの難しさは、何とも形容しがたい感覚だった。
倦怠感、と言えば近いだろうか。憎しみを抱き続けることは、耐え難い疲労に他ならない。
投げ捨ててしまいたい。もう止めてしまいたい。
それでも彼が憎むのを辞めないのは、辞めようと思う自分自身さえ憎いから。
「さぞかし楽だろうな……達観したフリは楽だろう! たかが英霊が聖者を騙るか!」
最早オディオ自身にも、自身の言葉が理解できない。
狂気と理性が裏返っては表を向いてと繰り返す。どちらが裏かもわからない。
右と左がわからない子供のように、自身の本音がわからない。
「憎いな……聖なる者、これが憎くないわけがない!」
「あたしは、聖者なんかじゃないよ」
「では何だ? 何様のつもりで私の前に立ち塞がる?」
オディオの心に余裕は無い。会話で時間を稼ぐのも、そろそろ限界だろう。
戦闘が始まれば、向こうは憎しみのままに剣を振るう。
だから今の内に、質問に答えを返しておこう。
「遊撃士。 いわゆる、正義の味方ってやつよ!」
≪ここまで≫
ランサーは全力で駆けながら、導力器に手を触れる。
前には進んでいるが、向かっているのはバーサーカーでは無く――
「『アースランス』!」
詠唱によって隆起した大地。バーサーカーの目前へと現れた尖突は、しかし彼を直接気付付けることはない。
ランサーは槍の形状を取る岩刃の穂先に棒術具の先端を突き、反動で空へと大きく跳ね上がった。
「『ファイアボルト』!!」
上空から打ち下ろすのは小さな炎弾。小さいが故に速く、小さいが故に弱い。
バーサーカーにとっては火の粉も同然の、攻撃としてすら認識できない脆弱な魔術。
防ぐ意味すらなく、ただ受けた。
ただ受けたのが、不味かった。不味いと気付いた時にはもう、視界は火炎で覆われていた。
「……っ、小癪な」
「『シルフェンウィング』!」
空に足を着き、力を込めて地面へと跳ぶランサー。
槍兵の長所は速さと同時に、接近戦におけるリーチの長さがあげられる。
長くて速い。殺傷能力が存在する武器であれば、基本的に当てた方が勝利するのが常識だ。
戦場において長きにわたり槍が第一線を独占していたことが、その何よりの証明。
しかし此度のランサーたる彼女は、大前提となる殺傷能力を放棄している。
殺さないための武技を究め、死なせないための武装を心掛ける有様だ。
今手にある得物も、練習用の棒術具。これで人を殺そうと思ったら、槍や刀を使うよりも無残な工程が必要だろう。
元より殺すつもりなどないのだから、それで当然。
「――――言ったわよね…次会ったら、ボコボコにするって!」
ただし彼女がその気になれば、殺すための武装を。殺し続けるための武装を手にすることは容易だった。
それは自らの信念に対する敗北であり、また、信念に変えても守りたいものがあるという誇り。
真名解放。叫ばれた名と共に振りぬかれた一撃は、黄金の閃光を放つ。
ブレイクロッド キ リ ン グ
「―――――『破 壊 杖 ・ 麒 麟 具』!!!」
風を切り裂くどころか纏い力と為した打撃を、バーサーカーは剣の腹で受け止める。
鉄が軋み火花を散らすが、対する黄金は一片の欠けも無く、傷一つ無い。
「黄金…では無いな…! オリハルコン…ヒヒイロカネ……それ等に類する神話級の金属か!」
「あたしだって良く知らないわよ、でも―――」
再び空気が畝って固まり、ランサーのための舞台を造る。
何も無い虚空に足を出して踏みつけて、まるで踊るように空間を駆ける。
踏むステップは無造作で乱雑だが、故にバーサーカーには知覚できない。
世界を構築する五大元素の全てが味方をする彼女は、まさに天の加護を受けているに等しい。
例え力で劣ろうと、例え武勇で劣ろうと。彼女とて紛れも無く、物語の主役。
勇者と呼称されるべき英雄の一人。
「――魔王を倒すのに持って来いの武器だってのはわかる」
「…抜かせ、小娘が!」
バーサーカーが大きく剣を振り上げる。土ごと浚い上げて粉塵が舞うが、ランサーを捉えることは出来ない。
そうやって出来た隙に、打撃が小気味よく注がれた。
バーサーカーの身体がぐら付く。アサシン、ライダーとの戦闘における蓄積もあるのだろう。
それでも異常だ。あまりにも力が強すぎる。アサシンと比較しても遜色ないどころか、上回っているようにさえ感じる。
「……くっ! 貴様よもや、その成りで半英霊か!? 私の対英雄が機能してこの威力、そうとしか思えん…!」
ランサーの筋力は本来C。イリヤスフィールという最高のマスターの恩恵を得てさえ、この数値。
対英雄の効果を受けている今ならば、Eランク相当の筋力になっているはずだ。
彼女は正当な英霊。実際、ランサーのステータス自体は大幅に減少している。
それでもなおバーサーカーにダメージを与えるほどの威力が出せるのは、至極単純な理由。
「あんた魔王でしょ? 最強装備って知らないの?」
≪ここまで≫
≪最近こっちが疎かになっていて申し訳ない≫
≪エンディングは見えてるんだ……あとは細部をどうするかだけで…≫
魔術を惜しみなく披露し、宝具まで解放しての接戦。
バーサーカーの持つ能力が、如何に英霊殺しかがわかる。
対魔力も対英雄も、あるだけで真髄を発揮する上に、強力な効果だ。
ランサーがここまで力を出せるのも、偏にマスターであるイリヤスフィールのおかげ。
本来なら、消費が供給に追いつかず瞬く間にガス欠するような戦法である。
地力では負けている。マスターの補正でようやく互角という有様。
英雄としては面白くない結果であり、もちろんランサーも悔しいとは思っている。
だがほんの少しだけ、嬉しくもあった。
バーサーカーと違って、自分には絆がある。
「あんた、魔力供給が途絶えてるでしょ?」
前に一度会ったときと比べて、明らかに魔力の総量が少ない。
マスターに見限られたのか、それとも裏切ったのか。
随分と前から単独行動スキルに頼って限界していることは明白だった。
「だから何だ。それがどうした」
「別に? でも、それが勝敗を分けるのよ」
魔力の多い少ないでは無い。
勝敗を分けるのは、守るべき者があるか否か。
ランサーには誇りがあり、守るべき友人が居る。
繋がりを強さとして、彼女は自身を振るい立てた。
「マスターに頼ることが出来なかったこと……後悔しなさい!」
ランサーは間違っている。
彼女の言っていることは、的に掠りもしていない見当違いの思い込みだ。
たしかにオディオは間桐桜からの供給を断っている。
たしかにオディオはマスターに頼ることはなかった。
だが、施しを受けないことや頼らないことがイコールで絆の浅さに繋がるという発想は、余りに幼い。
他の誰よりも深いところで理解し合い、他の誰よりも暗い部分を認め合った彼らの絆を否定するのは、酷く愚かだ。
例えば魔力供給について。
オディオは、桜がセイバーと契約した時点でそれを拒否している。
気に入らないかったのはそのせいだ。剣士のために、オディオは身を削る選択をしたのだから。
否。剣士のためなどでは決して無く、だから桜のためなのだ。
いくら膨大な魔力でも、サーヴァントを二騎維持するのは不可能に近い。あのまま続けて居たら、桜は干からびて居ただろう。
たとえマスターが死のうが生きようが、単独行動スキルがあることに変わりは無い。見捨てても良かったのだ。
見捨てても、何も変わらなかったのだ。
桜を救ったことに打算など一切なく。ならばそれは、見返りの無い絆の形と言う他無い。
共に世界を壊すといった少女。共に世界を救うといった少女。
憎しみに身を喰われた今でも思う。
あの少女だけは、憎めない。
例え全てが憎しみに支配されても、憎まないと誓う。
「後悔だと…? 笑わせるな! 私を誰だと思っている。」
後悔なら、生前に死ぬほどした。死ぬまでした。
悔やむことも、思い詰めることも、投げ出したくなるほどした。投げ出した後でもした。
終わらない憎しみの中で、もう一度見えた光を。
自らの手で黒く染めて、後悔しない筈がない。
≪ここまで≫
バーサーカーが笑った。
狂気を孕んだ嗤いでは無く、まるで憑物が落ちたかのような自嘲。
「私はオルステッド。死ぬまで自分に踊らされた愚か者だ」
桜を『此方側』に墜としたことに対する責任を、ならば果たすべきだろう。
成程たしかに、ライダーの言う通りだ。今までのオディオは狂ってなど居なかった。
復讐を誓うあり方も、自身を魔王と蔑む虚栄も。人間として正常だ。
それを認めて狂うのも、人間として当然だ。
「愚か者は愚か者らしく狂うとしよう。私は貴様らを殺し、聖杯を手にする」
魔王を名乗り過ごした生前の永い時の中で、散々嘲笑した存在に。
何よりも誰よりも狂っている蛮族に。――――勇者に。
―――今一度、身を落すのも悪くない。
「くく……くはははは!! さあ、来るが良いランサー!」
少女を救うこと。少女の目的のために剣を振るうということ。
『それ』が何を意味するか、彼は十分承知している。
だが、『それ』でいいのだと思う。
例え裏切られても。無下にされても。すれ違っても。
その最果てに憎しみしか残らずとも。『それ』でいい。
元よりオルステッドには、『それ』しか残っていないのだから。
『憎しみ』を冠して、『オディオ』である。
目的は変わらず、世界の救済。世界の崩壊。
しかし想いはより強く、そして低俗で、それでいて真っ直ぐに聖杯を指す。
魔王のために剣を取る勇者と聞けば斬新だが。
少女のために剣を取る騎士ならば、そこに矛盾は無い。
例え願いが破滅でも。例え思いが歪でも。
彼の瞳には、かつての輝きがあった。
オルステッドは煩わしい荘厳を脱ぎ捨て、装備を簡素な鎧と剣のみに削ぎ落す。
ランサーの長所はリーチと速度だ。身軽さを求めて損は無い。
剣を片手で構え、目を細めて次撃を待つ。
後方、振り下ろす形で棒術具が飛来するが、今回に限ってはどこから攻撃しようと同じことだ。
オルステッドが狙っていたのは防御でも回避でも無く、カウンター。
音さえ聞こえればそれでいい。殺気さえ感じればそれでいい。相手の攻撃に合わせて放つ、寿命を削った魔力放出。
「うそ―――っ!?」
いくらオルステッドが単独行動を発動していると言っても、彼に内包されたそもそもの魔力自体が桁違いである。
放出というよりはむしろ解放に近い。燻っていた火が空気を得て急激に燃え広がるように、体内に密閉されていた魔力は爆ぜて轟く。
攻撃を放った直後のことだ。ランサーは出来る限りの回避行動を行うが、守れたのは自分の身体だけだった。
彼女の得物は手を離れ、魔力の暴風で遥か上空へと叩きあげられる。
「失いたく無いならしっかり握っておけ!」
射殺すような眼光と共に、オルステッドは後を薙ぐ。
振り向きざまに放つ、速さに重きを置いた一撃。
ランサーの腹部を斜めに切り裂き、剣が地面に赤色を撒く。
「いっつ…! 『ファイアボルト』!!」
何とか連撃を逃れようと魔術を放つが、意味は無い。
オルステッドが誇る対魔力は勿論だがそれ以前に、当てることすら叶わなかった。
騎士は空いた片手で火を突き壊し、そのままランサーの喉を掴む。
「ぐぇ……っ!」
体が宙吊りにされながらも、浮いた足で抵抗を試みる。
靴底で騎士の顔面を狙うが、ランサーが動作を始める暇は無かった。
オディオは地面から離した肉体の安定を待たず、ランサーの後頭部を勢いのまま、地を砕くように振り下ろす。
「…ぁ……がぁ…!」
亀裂が入ったのは地面だけではないだろう。
視界が血で染まって、世界を上手く認識できない。ただ赤く、ただ痛い世界。
立て続けに繰り出される一撃。斬首を狙ったその剣を躱したのは、殆ど生存本能だった。
無様に転がって死を逃れ、考えも無いまま膝を着く。
血まみれで傷だらけ。ようやくまともな思考を取り戻して感じるのは、純粋な危機感。
ほら見たことか。絶対的優位ななど、いとも簡単に覆るのだ。
人間はいつだって、死に物狂いに生きている。
≪ここまで≫
【アインツベルンの城】
「―――――はい、おしまい。 これで全部だよ」
イリヤが俺の額から手を放す。
籠っていた熱が外気に触れて四散し、冷たい感覚が押し寄せた。
頭が冷えるのと同時に、脳が落ち着いていく。
冷静に、冷淡に。刀の記録を焼き付ける。
「忝うござる」
「かたじけのーござる……って、どういう意味?」
セイバーの発言の意味を理解できなかったイリヤが、俺の方を向いて首を傾げる。
『忝い』の意味。改めて聞かれたら、少し戸惑う言葉だ。
最近の高校生には馴染みが薄い、英霊ならではと言える文句。
「たしか……ありがとう…で良かったよな?」
「間違いではござらんが、忝いは忝いでござる。この感覚は、西洋人には理解し難かろう」
遜った言い方、と表現したらいいのか。
ニュアンスまで説明しようとなると、確かに説明が難しい。
謝りながらお礼を言う感じ、とでもいうのだろうか。もったいないお言葉、などに通ずるものがある。
日本人独特の感性で編みこまれた日本語は、言語としては非常に回りくどいことを痛感する。
「そう悲観することもなかろう。回りくどいが故に遊べる余地も多い。どのようなことでも、隣の芝は青く見えるものでござる」
「俺はまだ、そんな感性は持って無いからさ」
こちとら高校生だ。風流人にはまだ早い。
言葉遊びを楽しむ余裕は、どこにも無い。心にも、時間にも。
「セイバー、お前はこれからどうするんだ?」
用事は済んでいる。
セイバーの目的は、俺に完成形変体刀の情報を渡すことのみ。
バーサーカーと事を構えるつもりは、無いのだろう。
「桜を救うために動いているんだ。お前がバーサーカーを倒しても意味が無い……だろ?」
それは明確な裏切りになる。どのような理由があろうとも、桜はきっと聞き入れない。
訳も聞かず。訳も知らず。
セイバー憎しと怒るだろう。セイバーを殺せと吠えるだろう。
対峙するわけには行かない。だからこそ、俺に武装を託したのだから。
「左様。その通りでござるが……一点だけ、間違いにござる」
「間違い…?」
間違っているとしたら、どこだ?
助けるために動いている、というのは嘘じゃない。
桜が暴走してしまうという予想は、ならば間違いかもしれないが―――
「拙者が倒しても意味が無い…とは言わぬ。究極的には、拙者が魔王を斬るのも手段の一つでござる」
「……え? だったら…」
だったら、セイバーがやればいい。
俺みたいな素人に剣を授けずとも、英霊である錆白兵が魔王を討ち果たしてしまえばいい。
誰がどう見ても、そうするのが正しいはずで―――
「いくら正しくとも、為せぬことはある。本来であれば、英霊である拙者が片付けるのが筋なのは百も承知」
「なら……なんで…」
「拙者では勝てぬからでござる。あの魔王には、英霊の剣は決して届かぬ」
届かない。英霊の剣が、届かない。
最高の魔王。最悪の魔王。英雄を蔑み、勇者を憎む。
対英雄の、反英霊。
「届く剣は唯一貴殿、衛宮士郎の製剣のみ」
打倒する術は一つ。勇無き者が、新たに勇気を手にすること。
≪ここまで≫
【アインツベルンの城 外側】
草の一本も無い、枯れた大地に膝を突く少女。
幾度となく挑んでは身を斬られ、その度に回復魔術で無理やり復帰していた彼女の精神は、程なくして限界を迎える。
当たり前だ。彼女は英霊である前に人間であり、一人の少女。
アサシンのような、端から英雄の宿命を背負って生まれて来た者とはわけが違う。
ライダーのような、汚名を被りながらも運命に抗い続けた英雄とはわけが違う。
「………はぁ……ぐっ…! …はぁ…」
彼女には安息の日々があったし、彼女には大義名分があった。
自分だけが苦労してきたわけでは無い。どころか、自分の苦労が霞んで見える。
心は頑丈なつもりだ。だけどそれは頑丈なだけ。壊れないという保証は無い。
風のように自由であれたら、どれだけ前に進めただろうか。
土のように確かであれたら、どれほど後ろを気遣えただろうか。
壊れても繰り返す彼らと違い、鋼は元には戻らない。
最初から壊れていた彼らと違い、彼女は未だに壊れて居ない。
「……まだ…まだよ、行かせない……この扉は…イリヤは……あたしが、守るんだ…!」
「これで何度目だ。その精神も、とうに限界だろう。私の前に何度膝を突けば気が済むのだ」
「……決まってんでしょ…あんたが膝を突いたらよ…!」
頭が痛い。足が震えている。耳鳴りも酷かった。
手に持つ得物にも力が入らず、杖のように地面を突いて前に進む有様だ。
肉体的には万全の筈。回復魔術とはそういうものだ。
つまりこの疲労は、心の疲弊を意味する。心は最早、悲鳴を上げて砕ける寸前。
それでも進む。前へと進む。
砕けて散るそのときまで、鋼は鋼たる己を誇る。
「愚かな……貴様も『勇者』か…その蛮勇は尊いが、しかし私は憎悪する」
少女の虚ろな瞳を見下しながら、オルステッドは剣を上げる。
太陽に煌めいた白刃は、影のように真っ直ぐ墜ちて――――
「―――全刀流、『爆縮地』」
少女の身体は裂けることなく、長刀直刃に救われる。
バーサーカーの剣を受けて微動だにせず、欠ける気配どころか傷の一つも見当たらない。
この世で最も頑丈な刀。折れず曲がらず良く斬れる。
「貴様…やはり寝返ったか、セイバァァァ!!!」
「拙者は主のために剣を取ったまでのこと。貴殿と道は違えども、目指すところは誤差の範疇」
『絶刀・鉋』を左手に持った剣士、錆白兵は解答した。
目指すところは同じ。世界を滅ぼし少女を救うも、一人を斬って少女を救うも、誤差と言い切る侍の意図はこう。
どちらも等しく少女を救うが、どちらも等しく少女は泣く、と。
「例え誤差でも、涙は少ないほうが良かろう」
セイバーは言葉と共に、右手の刀を振るう。
錆白兵の二刀流。しかも二刀が完成形変体刀と来れば、これほど珍しいことも無い。
つまりはここに三振り、四季崎の秀作が一体となっているわけなのだから。
次いで振るわれた刀は無論、彼にとっての写し鏡をおいて他にあるまい。
「全刀流、『薄刀・針』限定奥義――――『薄刀開眼』!」
咄嗟に防いだオディオの剣に、薄刃の針が当たって砕ける。
舞い散るは幾千の針、針、針。
集団戦闘では使用不可である本来の制限を無視して使用したのは、『薄刀・針』が贋作であるが故。
衛宮士郎の投影は、剣の形を失えば塵と消えるのだから。
「……周囲を巻き込まぬ代わりに、威力は本来の1割にも満たぬ。が、しかし針は効くでござろう?」
降り注いだ斬撃は一瞬。しかし、ガードをものともしない微細かつ繊細な針は、確かにバーサーカーの身を削る。
皮膚から滲むように滴る血が、何よりの証明。
「全刀流、『絶刀・鉋』限定奥義――――――『報復絶刀』!」
流れを切らずに繰り出す技は、これまた限定奥義。
折れぬ性質を最大限に生かした、そこいらの刀身では絶対に不可能な、力任せの全力突き。
刀身で受けたバーサーカーが弾き飛ばされ、土煙を立てて後ろに退がる。
剣戟による打鉄の火花が散る戦場を前に、衛宮士郎は言葉を紡ぐ。
こちらの打鉄は心の中で。打つのは剣。数多の魂。
「――――I am the bone of my sword.」 ≪体は剣で出来ている≫
「―――Steel is my body, and fire is my blood」 ≪血潮は鉄で、心は硝子≫
既に構築された世界を、言葉に乗せて出力するだけ。
イリヤから流れてくる魔力をひたすらにつぎ込み、術式の起動に没頭する。
「―――I have created over a thousand blades.」 ≪幾たびの戦場を越えて不敗≫
「――――Unaware of loss.」 ≪ただ一度の敗走もなく、≫
「――――Nor aware of gain」 ≪ただ一度の勝利もなし≫
心の中の光景。酷く殺風景で、底なしに絢爛な、剣の丘を。
並び立つ幾百の想いを。突き立てられた信念をここに。
「―――With stood pain to create weapons.」 ≪担い手はここに独り。≫
「―――― waiting for one's arrival」 ≪剣の丘で鉄を鍛つ≫
冷たく、固く、鋭く。剣の輝きは、天空の下でゆらゆらと揺れる。
そう、この開けた天空こそが――衛宮士郎の可能性を示唆している。
無理やりにこじ開けた才能が、彼の物になるのは未だ遠くとも。
「――I have no regrets.This is the only path」 ≪ならば、我が生涯に意味は不要ず≫
「―――My whole life was“unlimited blade works”」 ≪この体は、無限の剣で出来ていた≫
≪ここまで≫
正義の味方になりたかった。
困っている人の元に駆けつけて、手を差し伸べる、そんな人間に。
英雄とは違う。勇者とは違う。似ているようで、別物だ。
彼らは血塗れで、泥臭くて―――だからこそ『世界』と『誰か』を救う者で在れる。
俺はそこまで上等では無い。
正義の味方という在り方が、綺麗だったから憧れた。
正義の味方である以上、個人の味方であることは出来ない。
たとえ知人でも、親友でも。悪なら敵に回してしまう在り方は、高潔であれど眩し過ぎたのだ。
俺は輝きに目が眩み、自分が見えて居なかったのだろう。
だから、拘るのはやめにしようと思う。
切嗣との約束を反故にする形にはなるが、縛られることを望んでいるとは思えない。
あのうだつの上がらない爺さんは、俺にそんなことを望んではいなかった筈だ。
正義は多数派のことでは無いと、ライダーを見て感じた。
正義の味方と誰かの味方は両立できると、アサシンに教わった。
正義とは勇気なり。個の心の裁量に従い、独善を働く以外に形は無い。
明確な基準は、其々の魂が知っている。
俺の正義は、『勇気の剣』と共にある。
【アインツベルンの城 固有結界『無限の剣製』】
「―――――――何を……何をした…? これは……何だ…!」
オルステッドの眼前、無数の剣が並び立ち、聳え突き立てられた荒野。
明らかに異質な魔力の流れと、透き通る空気が告げている。
ここは絶対領域だ。
「拙者の役目はここまで。後はイリヤ殿の護衛に徹するのみ」
刀を大地に突き刺して、錆白兵は無刀で退く。
代わって突き立てられた刃を取るのは、この空間の主。
錆と入れ替わるように、衛宮士郎はオルステッドと対峙する。
「貴殿の相手に相応しきは、拙者ではござらん」
『斬刀・鈍』、『絶刀・鉋』。両手に担った剣は未だ、勇気の剣では無いが。
彼の瞳には確かに、アサシンと同じ眼光が灯る。
「…何故だ……何故貴様が、その眼で私を見て居る…? 愚者が! 貴様に植え込んだ魔王の因子はどうした!?」
『射す光、地に堕とすのは影』で殺された対象は、魔王の素養、憎しみを燃料に魔力を精製し自動的に傷口を塞いで蘇生する。
逆説的には、魔王の素質の無い者は復活しないことになる。
衛宮士郎は一度殺され、そして蘇っている。魔王の素養は、十分にある。
「その質問に……答えが必要か?」
確かに衛宮士郎には、魔王とまでは行かずとも、それに近しい存在になりうる可能性があった。
彼の目指した『正義の味方』とはそれほどまでに危うく、破綻していたから。
彼の瞳に輝きが―――かつてのオルステッドにさえなかった光があるのは、ならば必然と言うもの。
蘇ったその後には、誰よりも自由な英雄と共に、戦い歩むことになるのだから。
未来など、変わるもの。包み照らす風の輝きは、縛られぬ運命の象徴。
自分を信じる勇気だけで、世界は必ず変えられる。
バッツ・クラウザーの存在は、暗い未来も笑顔に変えるほど奔放だった。
「難しいことは後で考えればいい。……理由は後から付いてくる」
今はただ、心に従い。勇気のままに。
「俺はお前を、倒すだけだ…!」
≪ここまで≫
オルステッドは、自身の身体が徐々に光子へと変化していくのを実感する。
アサシンの悪あがきで霊核に傷を負い、全快もしないままライダー、ランサーとの二連戦。
仮初の命は、疑う余地なく限界だった。
維持するのが精一杯。マスターからの魔力供給を断っている現状では、剣を振る度に消滅へと近づくだろう。
それが異界化した他人の心象風景の中では、進行速度は一層速まる。
だが、剣を収めようとは思わなかった。
ここで断念できるような薄弱な意思なら、魔王などにはなっていない。
例え歯向かう度に己を切り裂く刃でも、だだ憎しみにのままに振るうべきだろう。
「―――――…これは呪いだ。我が身が滅びようとも憎むことを止めぬ呪い……」
ただ憎い。全てが憎い。払拭する術は、最早暴力の他に思いつかなかった。
憎しみとは、なんと醜いのか。ここまでやっても、消え失せてくれないとは。
むしろ増すばかりの憎悪は、敵愾心の表れか。それとも―――
「呪いか誓いか。そんなのは気持ち次第だ」
呪われた少年。誓った少年。衛宮士郎は、言う。
「俺は正義の味方になると誓った。それは傍目に見れば呪いだったかも知れない」
形の無い約束に縛られ、救われた命を染め上げ。
一心不乱に憧れた正義の味方。父との誓いを胸に―――
「なら、それでもいいんだ。たとえ呪いでも、俺にとっては大切な誓いだった」
難しいことを考えるは、やめだ。
信念とか誇りとか、そんな大層なものを持てるほど―――衛宮士郎は大人じゃない。
「ガキはガキらしく、悪を倒しておしまいにする。……俺は単純な馬鹿でいい」
彼は高尚な正義を手放し、思考さえも放棄する。
あるのはただの弔いと、うちから湧き上がる勇気だけ。
先ず飛ばしたのは、『斬刀・鈍』。
唐突な投擲は狙い通りに、オルステッドの頭部を貫く軌道を走る。
あらゆる物を斬り伏せる刃に、防御の意味は無い。
オルステッドは直感でそれを感じとり、寸手のところで躱しきった。
次いで飛ばすのは『絶刀・鉋』。
剛直な刀身は円弧を描いてオルステッドの首を目指す。
回避した先に飛来した刃は、剣の腹で受け止められるが、それが大きな隙になる。
ここは絶対領域だ。衛宮士郎の、心の世界。
ただそれだけで力は増し、ただそれだけで勇気は湧く。
両の刀を投げ終えて無手になれども、その間は一瞬。
瞼を閉じて開いたときには、片手に剣を握っていた。
湧き上がる勇気のように赤熱し、その威勢を称えるかのように煌めく剣。
ブ レ イ ブ ブ レ イ ド
『自ら誇る勇気の剣』。
「―――――ォォオオオ!!」
勇気を起爆剤として鋭さを増す刀身は、紅き風を纏って唸る。
風音が担い手の叫びと呼応し、音を増すたびに力が湧く。
振り下ろした一撃の重みは、一点特化の爆圧となってオルステッドを打撃した。
剣で防いだその上からでも十分に、衝撃は骨身を伝って浸透する。
「…お、のれぇ……!」
「―――――ぁぁぁああああ!!」
扱う剣技は蛮勇そのもの。
顧みず、恐れず、怯まず牙剥く愚か者の行軍。
自由を愛した奔放な風は、それゆえに囚われず前へと進む。
≪ここまで≫
勇気の剣が防御を叩く。
伝導した衝撃はオルステッドを後へ押して、受けた苦痛の分だけ身体は崩れた。
限界は、とうに超えている。
少しでも気を緩めれば消えて無くなるような状況で、彼を世界に繋ぎとめる要因は一つだけ。
それは当然ながら、憎しみである。
彼が憎み疎んだ、自らの憎悪。
彼は憎しみを、蔓延させるべく憎み、根絶せんがために憎み、解放されたいが故に憎んだ。
無限に繰り返す怨嗟の輪廻で一人、決して訪れることなき終わりを待ちながら。
「――――ァァああアアア!!」
防戦一方。斬撃を重ねるたびに、勇気の剣が放つ輝きは増している。
最早止まることは無いだろう。あれは永久機関だ。
戦えば戦うほどに力を備え、備えた分だけ勇気は湧き出る。
アサシンがこの宝具を所有していたらと想像するだけで嫌気が差す。
対英雄などを問題にしないほど、彼と彼の宝具は噛み合って作用しただろう。
「―――――ぉぉおおおおおお!!!」
左腕が崩れた。光の砂と化して空気に融ける。
斬られたわけでは無い。体内の魔力が減衰し、維持することが出来ないだけ。
みっともない。無様で醜い。オルステッドの最期として、とても相応しいとは言えない。
だがそれでも、彼は世界に喰らいつく。彼は世界に牙を剥く。
憎悪という名の執念のみで繋ぎとめた肉体を、満身創痍に突き動かし、抗う。
憤怒とも凶相とも付かぬ―――見様によっては、笑っているかのようにも見える表情。
結局、オルステッドは最期まで誰にも――――間桐桜にさえも、理解されることは無かった。
打鉄。
打鉄。打鉄。打鉄。打鉄。
舞い散る光は、鉄の火花と勇気の煌めき。
剣から手を伝って全身に流動する魔力は、自身の勇気を還元したもの。
だが、それだけでは無い。衛宮士郎の勇気は、独りでに湧き上がることは無い。
正義の味方は、救う誰かが居てこそだ。手にした剣は、彼の想いがあればこそ。
「―――――――――――――…覚えておくがいい」
肉体の半分以上が風に流され、それでも抵抗を止めないバーサーカーが紡いだ言葉。
それはいつかの夢の中で、衛宮士郎が聞いた言葉だ。
「―――――――――……誰しもが魔王になりえる事を」
恐らく、間違いでは無いのだろう。
どこかで道を間違えれば、衛宮士郎も彼と同じ道を辿っていた。
どこかで道を変えていれば、オルステッドもこうはならなかったのかも知れない。
「――――――――――――――――――――――――……『憎しみ』がある限り、いつの世も」
最期の言葉は、凄惨な笑みと共に。
死を覚悟した上でなお、この世界に傷を残さんと吐き捨てる呪詛。
浄化するには、勇気を込めた閃光を。彼を認め、その上で否定する決意を持って―――放つ。
ブ レ イ ブ
「『自ら誇る』―――……」
収束する圧は、紅の風となって剣を覆う。
斬撃と共に光が弾けて、空間さえもを切り裂く――――輝きの世界を――――。
. ブ レ イ ド
「 『勇気の剣』!!! 」
【アインツベルンの城 正面】
わたしが辿り着いたときには、全てが終わった後だった。
桜を背負ったままここまで来たのだ、結末を見逃すのも致し方ない。
衛宮くんとイリヤスフィールは気を失って、ランサーに介護されている。
セイバーはそれを遠巻きに眺めていて、敵意が無いことは雰囲気でわかった。
「……で、バーサーカーは?」
セイバーの隣まで行き、わかりきった事の顛末を訊く。
侍は目を伏せながら、端的に答えた。
「呪詛を吐いて消えて行った。士郎殿の圧勝でござる」
圧勝、か。とてもそうには見えないけど。
対英雄の隙間を突いた奇策とはいえ、良く成功したものだ。
ステータスが下げられなかったところで、元々が英霊と人間。その差は雲泥だろうに。
「……して、我が主はどうなったのでござろうか」
「…ああ、桜のこと? 大丈夫よ、ちょっと疲れてるだけ」
魔術での強化無し、素の拳だったとは言え、素人相手に八極拳は少々やり過ぎだったか。
疲れで気絶しているのか、ダメージで気絶しているのかは、実際のところ良く分からない。
謝る気は、さらさら無いが。
「それは重畳。拙者はてっきり殴り合いでもしたのかと」
「うるさいわね。わたしだって疲れてるのよ、ほっといてくれない?」
「左様でござるか。では、拙者はランサーとの決着を付けて参ろう」
ここまで来て、休む間もなく戦うのか。英霊とは難儀なものだ。
ランサーの方も堪ったものではあるまい。
「まあ、疲れを飛ばすにはいい見世物かしら」
ランサーが腰を上げ、衛宮くんとイリヤスフィールを階段に座らせる。
瞳を閉じ寄り添うように眠る二人は、まるで本物の兄弟のようだ。
わたしは桜を衛宮くんに委譲して、その隣に座る。
左から、イリヤスフィール、衛宮くん、桜、わたしの順番だ。
「……始まったわね。英霊同士の戦闘は、いつ見ても付いていけないわ…」
目の前では、戦闘によって生じる様々な喧騒が飛び交う。
そんな中だと言うのに、隣の三人に釣られたのか、わたしの瞼も重くなってきた。
まあ、少しくらいなら―――休んでもいいかな…―――
寄り添い眠る少年と少女。
その微睡が意味するのは、闘争の終わり。
衛宮士郎は、新たなる正義と勇気を知り。
間桐桜は、焦がれた自由と解放を得た。
イリヤスフィールには友達が出来て。
遠坂凛は、才能を捨てた。
得たもの。失ったもの。各々思うところがあるだろう。
少なくとも遠坂凛は、後悔だけはしていない。
異端者の英雄がそうであったように、自分がすべきことをしたまでだ。
異端者の英雄がそうであったように、自分がしたいことをしたまでだ。
才能よりも。名誉よりも。家徳よりも。妹を選んだ。
彼女と彼は最後まで、似たり寄ったりの逸れ者同士。
遠坂凛とラムザ・ベオルブが引きあったのは、ならば当然。
彼女と彼には最初から、最も固い信頼があった。
結果は惨敗。途中敗退もいいところ。
後悔は無い。後悔だけは、しない。そう決めた。
彼の名は穢れていても、魂は高潔だった。 私も、そうありたいと思う。
何と言われようが、どう虐げられようが、毅然と自身を誇れる者でありたいと、そう思った。
でも、今くらいは休んでもいいだろうか。
この微睡は、労働の対価なのだから。
――――ひょっとしたら、いつものように……眠っているわたしを、彼が起こしてくれるかも知れない。
――――そんな絵空事を、呟いて――――
【 END 】
長かった……無事完結しました
最後まで見てくださった方、安価に参加してくださった方には心よりの感謝を
乙!
前みたいにホロウ時空はやるんです?
乙
凛の捨てるもの安価で違うもの選んでたらどうなってたの?
このSSまとめへのコメント
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