淡「チヤホヤされたい!」 (111)

 ――昼 東京>白糸台高校 虎姫ルーム


菫「誰に」

淡「そりゃあ不特定多数の皆様方にだよ!」

菫「はぁ……? 何を言ってるんだオマエは」

菫「見た目はそれなりに整っている 空回りがちだが愛嬌もある」

菫「なにより女子高生麻雀界の頂点を謳歌するチームの大将だ
   マスコミの助力もあって 話題性なら
    そこいらのアイドルにだって引けを取らない」

菫「その証拠にファンレターや手作りのグッズもひっきりなしに届いてる
   見ろ 部屋の隅にある五段重ねのダンボールを
   アレは全部オマエに宛てられたモノなんだぞ?」

菫「これ以上のチヤホヤはないだろ」

淡「んふふー、そーゆーことをサラッと言ってのけるスミレは
   のちのち大成するよ! あわあわシール一枚あげるっ」

菫「額に貼り付けるな額に」

淡「スミレの言うことにも一理あります!」

淡「だけどもどっこい!
  その程度のチヤホヤならテルーやスミレだってもらってるからね!」

淡「私はもっともーっと沢山チヤホヤされたいの! 地球の……ううん」

淡「あわよくば宇宙に住んでるみんなにだって持て囃されたい!」

照「淡ならなれる なんなら私が淡のマネージャーに立候補してもいい」

淡・照「いぇーいっ」

菫「オマエらハイタッチしてる暇があるなら牌にタッチしろコラァ!
  さっきから麻雀とかけ離れすぎてるんだよっ私達の会話!」

照「ぷっ、菫……今のダジャレ……だだ滑りだったね
   恥ずかし……ププッ」

菫「なっ!」

淡「ゴメンね……私がテルーの胸を揉みしだいてさえいれば
   パイタッチとか言えたのに……はい 残念賞のあわあわシールあげる」

菫「やめろぉ! 真面目に言ったことをギャグされた挙げ句
  ダメ出しをくう気分を考えてろ! それと太ももにシール貼るな!」

照「ツッコミも冗長で下手」

菫「あ?」

照「なんでもないですゴメンナサイ だから弓ひかないで」

淡「というわけでキンキュー会議を取り行っていこーと思います!」

照「いかに淡が宇宙一のトップスターに上り詰めるのか
  その手段を模索したいと思う」

淡「なお! 計画から実行! そして完遂までの一連の流れを
  オペレーション・クェーサーと名付けます!」

照「気になることがあれば お手元のお菓子をご覧ください」

菫「そうか 遠回しの退部申告なんだな? そうなんだな?」

淡「なんでやー! 桐島カンケーないやろー!」

照「私たち<チーム虎姫>は……見る人みんなを魅了する
  グローバルなチャームの持つで集団であることは周知の事実――だけど」

照「私や淡のように
  人ならざるモノ――すなわち麻雀牌に
  愛される程のフェロモンをもつ人間は世界でも数少ない」

菫「牌に愛されるメカニズムってそんなんだったのか!?」

照「いえす 魅力イコール雀力なのである」

淡「なるほどー 確かに
  ドラゴンに愛されてたアチガの妹さんも
  なかなか人気が高いみたいだもんね」

照「牌という無機物にドラゴンという生命体」

照「これらに愛されるために魅力が必要であるならば
   淡が更なる魅力を身につけていくことで――」

照「ありとあらゆる存在の愛を……一身に受けられるスゴいあわあわに進化するハズ」

淡「ス、スゴいよテルー! それなら宇宙人もメロメロだよ!」

菫「目標が高いのは結構だが
  その意欲を麻雀に向けてくれ頼むから」

照「大丈夫 淡のキューティクルが高まるにつれ
  雀力も伸びしろを増すなら これも立派な麻雀部の活動の一環」

菫「本当だな?
  遊びたくてテキトー言ってるワケじゃないんだな?」

淡「いいからいいからー テルーを信じてー」

菫「部費でプリンを買い込んだり 合宿の行き先を私用して
  ハワイ旅行を申し込んだと思ったら 乗る飛行機を一人で間違えて
  一週間も探し回ってみればマンチェスターの奇抜な髪型コンテストで受賞してた女を信用できるか!」

照「トロフィーあげるから許して欲しい」

菫「いらんわ!」

淡「髪型じゃなく∠の部分だけで受賞できるテルってすごーい!」

照「照れる」

菫「……」

照「菫の許可も得られたので
   手始めに龍門渕へ乗り込もうと思う」

菫「待て待て待てぇー!
   百歩譲ってオペレーション・クェーサーとやらを認めたとしても
   なぜ他校に乗り込まねばならないんだ!」

照「淡の女子力アップに一役買う人物がいるから」

菫「魅力なのかキューティクルなのか女子力なのかハッキリしろ!」

淡「いいからいいからー♪ テルーを信じてー♪」

菫「ちょっ! 待て押すなコラ!
  せめて書け置きをだな――」

照「私が書いておくから行こう行こう」

 五分後――昼 東京>白糸台高校 ろうか


亦野(私の名前は亦野誠子
   今をときめく絶対王者〈虎姫〉チームのナンバー5だ)

亦野(白糸台の一員たるもの
   向上心は人一倍あると自負しているし)

亦野(いつかは虎姫のナンバー1――はムリカナ……でも
   せめて3位に座すことを目標に精進している
   が――いかんせん実力が伴わない未熟者だ)

亦野(昨日の部活動では活躍するどころか
   六万点近くの大量失点という失態を見せてしまう始末)

亦野(このままではいけない! 今日からは
   生まれ変わったNew亦野誠子を先輩達にお見せしよう!)

亦野「ふぅ」

 >ガラッ

亦野「こんにちは! 今日もヨロシクおねが――ってアレ?」

渋谷「……」

 同刻――東京>白糸台高校 虎姫ルーム


亦野「尭深だけ?
    この時間に先輩と淡がいないのって珍しいな」

渋谷「これ」

亦野「ん? なんだこの紙」

  【 ちょっと長野いってくる みんなのてるてるより
     お土産ほしけりゃ電話ぷりーず】

亦野「えぇー……」

 数時間後――夜 長野>駅地下


淡「ついたー!」

照「ふるさとの香りがする」

菫「どんなニオイだ」

淡「んー? クンクン」

淡「なんかコゲ臭いねー!」

照「火事のニオイ」

菫「えっ」

 五分後――夜 長野>駅前


 >出火原因は麻雀牌みたいよ
 >こわいわねー……
 >消防隊はまだかー


淡「ふー……はぁー……なんとか上に逃げてこれたね」

淡「もー! みんなビビってズンドコ走り出すもんだから
  オシクラマンジュウで体中が痛いよー」

照「あのラッシュに巻き込まれたせいで 逃げ遅れた人もいたかもしれない」

菫「マズいな……地下だと煙の逃げ道が――」

京太郎「咲ぃー! いたら返事してくれ!
    おーい!」

菫「……あの男子も
  ツレとはぐれて気が気でないだろう」

照「……」

京太郎「あ、あの! こんな∠した女の子を見ませんでしたか!
    ――そうですか……すいません」

淡「んー こっちに来たねぇ」

京太郎「あのすいません! こんな∠した女の子見ませんでした?」

淡「んーん テルーくらいしか知らなーい」

照「……」

菫「キミのツレは携帯を持っていないのか?」

京太郎「もう何度もかけてます! ――あぁもう!」


 >――オネガイーギュットチカラヲコメルヨー♪

京太郎「この着信音……咲――!」

 ――ぴっ

京太郎「おい咲! 今どこに……おいお前なんで
    なんでそんなに咳き込んで……地下にいんのか!?」

京太郎「おい! 咲! ――くそっ!」

菫「まてどこに行く!」

京太郎「地下に決まってるでしょう! 離してくれよ!」

菫「ふざけるな! この黒煙がみえないのか!
  目の前で死に急ぐヤツをみすみす見過ごせるか!」

淡「あわわわ! テルぅー! どうしよぉ……」

淡「ってアレ? テルー! テルー!」

淡「……」

淡「あわわわぁスミレ大変! テルーも迷子だー!」

 同刻――夜 長野>駅地下


照「……」

 >カガヤイテーココイチバーン

照「もしもし……ゴホッ」

照「ん? 駅前のラーメン屋だけど?
  湯気が多くてむせただけだし」

照「……ゴメンね菫 一つだけ謝っておく」

照「ハンカチがなかったから 菫の旅行カバンから
  菫のパンツぱくってマスク代わりにしてる それじゃ」


 >カガヤイテーココイチ


照「しつこい――しばらく電話しないで」

照「……ゴホッ」

照「急がなくちゃ」


 同刻――東京>亦野の部屋


亦野「お土産の電話してっていったの先輩なのに……」

渋谷「どんまい」

 十分後――夜 長野>駅前


京太郎「離してくれよ! てかアンタ力強すぎんだろゴリラか!」

菫「じょ、女子を捕まえてゴリラとはなんだ!」

京太郎「いま男子を捕まえてるのはアンタだろうが!」

淡「テルー! テルーどこぉー! うぅぅ……テルー」


 >中から女の子が出てきたぞ
 >∠っ娘が二人いるぞー!
 >顔面にパンツかぶった変態がお姫様だっこしてる……


照「……」

淡「テルー!」

菫「なにっ!?」

照「私は救助には明るくないから
  ここにいるみなさんに――この子をお願いします」

京太郎「咲!」

咲「はぁ……は……ゴホゴホッ」

照「ここに小さな毛布があるから使ってください」

菫「おいソレ私の」

淡「スミレ空気読んで!」

照「それじゃ私はこれで」

照「ずらかれー」

菫「ま、待てお前コラ!」

淡「あはははー! にげろにげろぉー」

京太郎「ちょっ……アンタ達は――!」

咲「……ゴホッ――きょう……ちゃん? わたし
   助かった……の――ゴホッ」

京太郎「……あぁ 助けてくれたよ」

京太郎(お前の大好きなお姉ちゃんが)

照「ここまでくればひと安心」

菫「ま……まったくオマエはいつもいつも」

淡「まーまー あの場にいてもメンドーだったし
  オッケーオッケー 私服だし学校もバレてないよきっと
  みんなテルの顔を見てたのもあるけど」

菫「オッケー、か……」

菫「……良かったのか? 照」

照「……うん」

照「私が助けたのは……見ず知らずの女の子
  ただそれだけだから」

照「それに今日は助けることが出来た
  今は……それだけで満足」

菫「そうか……」

菫「それだけでいいなら私のパンツは返せるな?」

照「これは別腹」

 一時間後――夜 長野>旅館 照たちの部屋


淡「テルーのほっぺプニプニー」

照「あばばばばー」

淡「そーいえばスミレは?」

照「渋谷たちに連絡しにいった」

淡「なんのー?」

照「お風呂にはいって最初に洗う部分」

淡「私は足からだよー」

照「私は∠から」

淡・照「きっとスミレはお尻から」

菫「違うわぁ! 射抜くぞおのれら!」

淡「おかえりぃスミレー」

照「いいよ ただし矢じゃなく」

照「枕で勝負」


 >ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


菫「……」

淡「……」

照「……」

淡「絶対安全圏!」

照「コークスクリューツモ」

菫「シャープシュート!」


 >三人の戦いは丑三つ時までつづいた――

  数時間後――夜 長野>旅館 照たちの部屋


照「……」

照「……」

照「……」←自宅の枕じゃないと寝つけないタイプ

淡「テルー 起きてる?」

照「うん」

淡「とつぜんですが発表です! 防災標語〈あわあわ〉ぁー!」

照「お さない
  は しらない
  し ゃべらないみたいなやつ?」

淡「うん!」

淡「あ わてない!

  わ めかない!

  あ わよくば!

  わ んこそば!」

照「ふ、ぷふふっ」

照「なにそれっ……なんでわんこそば?」

淡「こーゆー標語っていざ火災だーって時に思い出すもんでしょー?」

淡「おはし って他人の事を考えての行動ばかりじゃん」

淡「だからカンペキに自分本位な項目が
   一つくらいあってもいいかなーって思いました!」

照「そ、それでわんこそば……? ふ、ふふっ」

淡「いざって時は『あれしたいこれ食べたい』って
   考えた方がパワーも出そうじゃない? だからさ――」

淡「……テルーも次 いざって時がきたら思い出してほしいな」

淡「私のために長野まできて 着いてすぐ女の子を助けてさ
   いつも誰かのために一生懸命なテルが――」

淡「少しでも自分のことを考えて 大切にできるように」

淡「わ、わたしをっ……グスッ
  一人にしないで……? テルがいなくなったら私っ――わたし」

照「……」

照「おいで 淡」

照「ゴメンね 心配かせて」

淡「うん……! うん……!」

照「よしよし」

淡「えへへ……テルーあったかい」

照「このままでも……眠れる?」

淡「うんっ……抱きテルまくらギュッとしながら寝るー」

照「おやすみ 淡」

淡「おやすみー」

菫「……」

菫「……」

菫「……」

菫(宥ちゃん枕持ってきておいてよかった)

 次の日――朝 長野>龍門渕高校 校門前


淡「ふぁー……ねむねむ」

照「淡 今から潜入するんだからシャキッとしなきゃ」

淡「あいあいさー! 大星淡!
  超星淡となるべく今日も頑張りまーす!」

菫「なんだそれ――じゃなくて照!
  今オマエなんて言った!」

淡「テルーならもう中に入ってったよ?
  じゃー私も行くから まったねぇースミレ」

菫「あぁもう! こんな広い敷地内にあのバカを放ったら
  迷子になるなという方が無理難題だろうが――」

 五分後――朝 長野>龍門渕高校 食堂


純(ハギヨシさんの作るランチもいいけど
   たまにはこーいう所で食うメシも悪くねーよな……っと)

純「あむっ――うん ウマいな」

 >ざわざわ


純(ん? イヤにざわついてんな
  なに見てんだあの野次馬ども)

照「みそラーメンください」

純(なんだぁ……?
  食券売機スルーして直に注文するバカがいるだけじゃねぇか)

照「――あ、はい」

純(気付いてションボリしてるな)

純(それにしてもあの∠ どっかで見たことあるような)

純「……」

純「……」

純「ぶほっ」

純(チャ、チャンピオン!? 宮永照……だよな?
  なにしてんだこんな所で!)

照「……」

純(み、みそラーメンのボタンを連射してる
  あん? 小銭が戻ってきたな……)

照「キョロキョロ」

純(まさか――金が足んねーのか?)

照「キョロキョロ」

純(周りの奴らも金かしてやれよ
  いや……恐れ多いかチャンピオンだし)

照「……あっ」

純(……う)

照「ジー」

純(ヤバい……めっちゃこっち見てる)

照「ジー」

純(俺が井上純だって気付いてるのか? 気付いてんだよなアレ)

純(なにせあの龍門渕四天王の一人なんだからな俺は)

純(知らないヤツはそうそういないハズ……)

照「亦野ー お金かしてー」

純「誰だよ!」

照「ズルズル」

照「おいしい」

純「そりゃよーございました」

照「この借りは麻雀で返す」

純「いや金で返してくれ頼むから 下手したら死ぬ」

照「ところで ウチの亦野とはどういう関係?」

純(そんなに似てるか? オレとあの副将
  なんかショックだわ……)


 同刻――朝 東京>白糸台 虎姫ルーム


亦野「へ、ヘクション! ――あ」

渋谷「牌山崩し……チョンボ……」

純「――それで チャンピオン様がウチに何の用なんだ?」

純「わざわざ東京から来たんだ 
  名高いアンタらに相応しい そりゃあ大層な目的があんだろ?」

照「甘え子供ちゃん」

純「天江衣な」

照「天江衣ちゃんを見にきた」

純「ふぅん――まぁおおよそ見当通りだな」

照「スゴい なんで分かったの?」

純「そこいらのザコならまだしも アンタ程の打ち手が選ぶ対戦相手に
  オレらじゃ役不足だろ なら衣と透華くらいなモンだぜ」

照「……? 私たちは別に麻雀をしにきたワケじゃない」

純「えっ」

純「衣を見に来たんだよな?」

照「うん」

純「麻雀をして見(けん)に徹したいって意味じゃ?」

照「ない」

純「えーと……つまりだ」

純「アンタははるばる東京から
   動物園でたわむれるパンダを視線で愛でるスタンスで
   長野在住の一女子高生を見つめたいがためにココに来たと」

照「うん」

純「変態か!」

照「おかわり」

純「オマケに大飯喰らいか……」

 同刻――朝 長野>龍門渕高校 麻雀部室


透華「――事情は分かりましたわ! 行方不明になったチャンピオンの
   捜索を手配すればいいのでしょう? ハギヨシ」

ハギヨシ「承知」

菫「ほんと こんな形でお邪魔してすいません」

一「まぁ事前にアポ取りはしてたんだし 気にしないでよ」

菫「それを照に伝え忘れてたのもそうですが
   そもそもココにお邪魔させてもらった理由も
   照のやつを律するべき立場にある私自身も
   なぁなぁとしてここにいる事実も……なにもかもお恥ずかしい限りです」

一「あはは……苦労してるんだね」

智紀(あ……私も今日のこと
   純に伝え忘れてた……まぁいっか)

淡「ねーねー! アレやってよ!
  子鹿の音が聞こえるか!(ドヤッ)ってヤツ」

衣「ば、馬鹿者! 子鹿さんではない! コジミだ!
  子鹿さんを泣かせるでない!」

淡「乞食?」

衣「こ・じ・みっ!!!! 貴様の耳は壅塞(ようそく)の極致にあるようだな!」

淡「遠足の局地にあるよーだな!(ドヤッ)」

衣「うわぁあああああん! とぉかぁああああああ!!!
   あわいがイジメるゥウウウウウウウ」

透華「あらあら」

淡「怖くないよー タダのあわあわだよー」

衣「グスッ……ほんと? あわあわ?」

淡「あわあわ」

衣「あわあわ?」

淡「あわあわー」

衣「あわあわワーイ!」

淡「わーい!」

智紀「……何故か通じ合ってる」

菫「魔物の共通言語かおのれの名前は……」

透華「二人は意気投合してるようですし
    菫さんは私達と打ちませんこと?」

菫「えっ! その……いいんですか?
   これ以上手間をとらせてもらって」

透華「構いませんわ! チャンピオンの従者に甘んじたまま
    なんの旨味もなく帰りたいのであれば 断っても結構ですけれど」

一「ちょっと透華!」

菫「……フフッ なかなか人を乗せるのが上手いですね
   その半荘一回――受けて立つ」

智紀「じゃあ私も」

一「はぁ……やっぱりこうなるんだよねー
   血気盛んな主人をもつと大変だ」

透華「では――スタートですわ!」

淡「コロモって髪キレーだねー 触っていい?」

衣「あわいの髪も風光明媚がごとき代物
   衣の髪で満足いくか?」

淡「むふー、私の髪って麻雀打つ度に痛んじゃうから
  ほらっ、100年生オーラで!」

衣「なるほど……世知辛いな
  オマエも自分の力に翻弄されし禍い者か」

淡(あ、この子 冗談が通じないタイプだ)

淡(でも――そーゆー所が可愛いな)

 >ギュッ

衣「はわっ」

淡(無垢っていうのかなこーゆーの
  掴みどころがないのはテルも一緒だけど
  意識してやってないんだろうなって感じがかーわいいー)

衣「やめろー! はなせー!」

淡(うん、分かってきたよテルー!
   私とコロモを引き合わせたかった理由が)

衣「聞いてるのか!? あぁあ……!
   アタマ撫でるなぁぁ……」

 同刻――朝 長野>龍門渕高校 大浴場


純「ふぅ……あっつ」

照「……食後の朝風呂は格別」

純「まぁな――で」

純「何でオレ達ここでくつろいでんだっけ」

照「ジャグジーであわあわ成分を補給したいから」

純「泡々成分ねぇ……」

照「お腹減った」

純「おいおい 別の成分ぬけ落ちてんぞ
  てかラーメン3杯も食ったろうが……」

純「それともアレか
   その暴食癖が強さの秘訣だったりすんのか?」

照「ううん」

純「……」

照「……」

純「いや違うなら教えてくれよ! そういう流れじゃんコレ!」

照「流れなら鳴いて断ち切ってください」

純「オマエ絶対オレのこと覚えてただろ!
  さっきわざと間違えただろ!」

照「まぁまぁ……教えるから」

照「淡がさ……本気になると髪の毛……
  ぶわぶわドヒューン……ってなるよね」

純「あぁアレな ダブリーの予兆みてぇーなヤツだろ」

照「アレね……実は――汗とかで髪が
   ……ベタついてると……あんまり……フワフワしない」

純「……」

照「……」

純「え!? 話終わり!?」

照「うん」

純「オレの質問はどこ行ったんだよ!」

照「うん」

純「『うん』じゃねええええええええええええええええええ」

照「……」

純「……」

照「……」

純「……」

照「……」

純「……」

照「……何の話だっけ」

純「もういいよ……諦めた」

照「ごめん なんか……もお……眠くて」

純「寝るなよ! 絶対寝るなよ!? 振りじゃねえからな!?」


 同刻――朝 長野>龍門渕高校 脱衣場


ハギヨシ「……ふむ」

ハギヨシ「さすがにあの場に溶け込む器量も
     水を差す度量もこのハギヨシには不足しています」

ハギヨシ「透華お嬢様――今しばしお待ち下さい」

照「……りょーかい」

純「はぁ……なんだかねぇ」

純(チャンピオンつっても 麻雀してなきゃタダの人か
   無防備極まりねぇもんだ)

純「ふぁあ……」

純(っといけねぇ オレまで寝落ちしたら
  本格的に事件だっての)

純「おい そろそろあがろうぜ
   衣に会いたいなら案内するから……よ」

純「……」

純「……」

純「いねぇし」

 三十分後――昼 長野>龍門渕高校 部室


純「ただいまーっと
   ここにチャンピオンはいたり……しねえか」

透華「あら 宮永さんなら先ほどここに来て
    今さっきお連れの方と一緒に帰ったばかりですわよ」

純「えっ あのポンコツが!?
   自力でここにたどり着けたのか!?」

一「ううん ハギヨシさんが一緒だったよ っていうか
   ポンコツ呼ばわりはヒドいんじゃない?
    いくら方向音痴だからって」

純「そーだな……あー探し回って損した」

衣「じゅん! ころもは今日から高校100ねんせーだ!
   今までの100倍くらいお姉さんとして敬うといい!」

純「えっ」

透華「ふふっ 衣ったら
    新しい背伸びの仕方を覚えましたのよ」

智紀「子供はみんな日進月歩 成長をやめない」

衣「こどもじゃない! ころもだ!」

純(成長してるというより、子供寄りに退行してるような)

純(……)

純(……でも、ま 気の持ちようなのかね)


 同刻――昼 長野>みちばた


淡「とゆーわけで! 高校200年生に大躍進しました
   新生あわあわだよ! テルー!」

照「倍満をちゃっかりかつしっかりかます
   さすがは私の淡 よーしよしよしよしよし」

淡「あはははっ くすぐったいよぉ」

 >ズドーンズドーン

菫「往来でじゃれあうな魔物ども 道路が揺れる」

淡「ほいしょっと」

照「おうふ」

淡「わぁー いつ乗っても高いね
  テルーの目線のさらに上!」

菫「肩車してれば高いだろうさ」

照「今なら届きそう?
   淡のなりたかったものに」

淡「うーん――どうでしょうかねぇ
   でも昨日よりは全然イケそーだよ!」

照「そう それなら良かった」

菫「そうでなくては困るけどな
   わざわざ長野に来て収穫なしときたら笑うしかない」

照「菫も妙に満足そうに見えるけど 気のせい?」

菫「き、気のせいだろ」

淡「でも、まだまだ足りなかったりするのかなぁ?
   チヤホヤ指数はしばらくしないと計算できないし」

菫「なんだその未知の分野」

淡「重複された正と否に押し潰されそうなシュレディンガーの猫を
   撫で回したい淡ちゃん状態だからね! 箱を開けるまで答えは不明瞭なんです」

菫「お前は一体何を言っているんだ」

照「答えを見て足りないなら 何度でも重ねればいい」

照「私はいくらでも淡に付き合うよ」

淡「ありがとう! テルー大好き!」

照「あんまり私の∠プニプニすると 指が切れるから気をつけてね」

淡「なんと!」

菫「……」

照「どうしたの菫 眉間にシワ寄せて」

菫「こんなバカげた小旅行が 再び訪れるかと思うと頭が痛くてな……」

照「もう少しで空港だから 頭痛の薬あげる」

菫「少しは省みろ頭痛の種」

淡「レッツゴー東京ー! バイバイ長野――って痛ぁー!
   指切っちゃった……」

照「絆創膏も追加っと」

照「……」

照(長野……いつか)

照(淡に会わせたかったもう一人に
  淡を会わせてあげることが出来るのかな)

照(私自身――向き合うことが出来るのかな)

照「……」

照「バイバイ――長野 またね」

 数時間後――夜 長野>上空
飛行機の中


淡「むにゃむにゃ……」

菫「……いいのか? あんな約束して」

照「亦野のお土産なら心配ない 
  東京で売ってるテキトーな釣具を渡すから」

菫「いやそっちじゃなくて……ていうかそんな約束してたのか」

菫「淡のことだよ 何度でも協力するって話」

照「……」

照「チヨホヤされたいってことは
   他人の意識を自分に向けたいってこと」

照「でもそれは
   淡の意識も他人に向いてる証だから」

菫「……寂しかったりしないのか? あんなにテルーテルーって
   オマエにしか興味を示さなかった淡が
   オマエ以外に興味をもったこと――そして」

菫「苦しくはないか? そんな淡の仲介に回るような真似は」

照「……」

照「菫は優しいね」

菫「優しさを示すべき立場なだけだ 優しいわけじゃない」

照「私は淡が好き」

照「だから……淡には私だけを見ていて欲しいとも思ってる――でも」

照「淡の中に……私以外の誰かが息づくことはきっと
   淡にとってプラスに終わると思うから」

照「それに……」

照「私はどんな淡も好き それが今はハッキリと分かる」

淡「スー……スゥー……盛りそばいっちょー……むにゃむにゃ」

菫「そうか」

照「それに……」

照「たとえ全国のアイツやコイツに会わせても
   この宮永照 淡の想い人として君臨し続ける自信がある」

菫「あーオマエはそうゆうヤツだったな思い出した思い出した」

照「恋も部活もチャンピオン」

菫「ゴシップの見出しに使えそうなタイトルだな
   こんど記者に頼んでおいてやる」

照「照れる」

菫「皮肉だったんだけどな……ん?」

菫「照! 流れ星だ流れ星!」

照「……? 見えないけど」

菫「うっすらだけど……ホラ! また流れた!」

菫「三連覇の悲願を願え! ほら早く早く!」

照「……」

照(今度はどこに行こうか? 淡)

照(海があるところ? それとも雪がいいかな)

淡「……むにゃむにゃ テルーといっしょなら……どこでもいいよ……うーん」

照「……ふふっ」

照(私は――淡がいれば流れ星いらずかな)

照(いつも手の届くところにいて
  私の願いをケロッと叶えてくれる 可愛い可愛いお星様)

照「大好きだよ 淡」




カン!!!!

 次の日――東京>白糸台高校 ろうか


亦野(昨日 連絡をくれた部長の話によると――今日!)

亦野(ついに!)

亦野(先輩たちが長野から戻ってくる!)

亦野(待ちわびた一局の中を――再びしのげるんだ!)

亦野(う、ううんっ? なんだか緊張してきたな
   こういう気分はいつもの茶目っ気の効いた挨拶で流してしまおう)

亦野「すう……はぁ……」

亦野「おかえりさまさまですっ! 失礼します!」

 >しーん

渋谷「長野のお茶……美味しい」

  同刻――東京>白糸台高校
  ルーム虎姫


亦野「あ、あれ? 部長たちは」

渋谷「はい……書き置き――とお土産だって」

亦野「……」


   【 ちょっとどこかの市に行ってくる あわいのてるてるより 】


亦野「えぇー……」


    【 追伸 お土産の釣具はえんりょなくつかってね 】


亦野「えぇえ……」

亦野「……」

亦野「これ船釣りバッテリーじゃぁん……」



もいっこカン!

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