完・とある根性の旧約再編 (654)
-8月某日、早朝、第一学区某所
???「ったく、わざわざ朝っぱらこンなくっだらねェことしなくてもいいだろォが」
???「実験中に部外者が乱入する事態はあまり好ましくありませんので、とミサカは実験時刻に対する疑問に答えます」
???「分かってても愚痴の1つもこぼしたくなるンだっつーの。こちとらお前ら人形と違って人間やってンだからよ」
???「そういうものですか、とミサカは未知の知識に感嘆します」
???「やっぱ人形にゃ分かンねェか。つーかオマエ本当に強くなってンのか?
経験値積ンで俺でもてこずる相手になるとか聞かされてたンだがなァ」
???「初手で戦闘不能になっていた第1次実験よりは確実に強くなっておりますが、とミサカは成長の軌跡をアピールします」
???「そンな微々たる成長でよくもまあ飽きもしねェで向かってこれるな。アホくせェ」
???「理論上ではいずれあなたの脅威になるはずですのでご心配なさらずに、とミサカは被験者の不安を払拭します」
???「説得力皆無だボケ。その境地にたどり着くまで何千回すり潰されてもいいンですかァ?」
???「構いません。それがミサカの存在理由ですので、とミサカは戦闘に備えて暗視ゴーグルに手をかけます」
???「……あァそォかい。そンじゃあ今日はノルマも少ないし、まずは1発サクッといっときますかァ」
???「午前5時19分を迎えました。第9981次実験を開始します」
???「はいはい。いい加減俺の能力がなンなのか理解してから死ンでくれよ? かれこれ9980回も死ンでンだからよ」
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-日中、第七学区とある病院最上階立ち入り禁止区域
防音が施された手術室に患者着を着た1人の男がいた。
手術室にあるはずの機器はすべて撤去され、代わりに1本の丸太が固定されて部屋の中央に立っていた。
ステイル「……『巨人に苦痛の贈り物』!」
ボォウ! と男の左手から巨大な火球が飛び出す。
真っ赤に燃え盛る火球は一直線に丸太に向かい、そのまま丸太に激突した。
激突された丸太はその火球に包まれて音を立てて燃え上がる。
激しく燃える丸太を見て、男は満足そうにもう1度左手を掲げた。
ステイル「終われ」
ふっ、と燃え盛っていた丸太から一瞬で火が消えると、丸太は真っ黒な炭になっていた。
焦げ臭さが立ち込めると同時に、部屋の隅で待機していたバケツと消火器を持った集団から ワッ! と歓声が上がった。
インデックス「スゴいスゴい! 完璧なんだよ!」
削板「はっはっは! これでもういつでも退院できるな!」
歓声を上げる一団に対して、男は義手の左手を掲げて得意げに笑ってみせた。
横須賀「見事なものだな。義手でも魔術を使えるのか。」
冥土帰し「どうってことないね?」
原谷「先生いったい何者なんですか……」
冥土帰し「医者だね?」
神裂「おめでとうございます、ステイル」
ステイル「ああ、ありがとう。久々に魔術を使ったから清々しいよ」
インデックス「よかったね! 精度も安定性もバッチリだったんだよ!」
ステイル「ふふ、まあね。以前と何ら遜色ないはずだよ」
削板「さすがの根性だな! 1ヶ月も経たずにここまで回復するとは大したもんだ!」
ステイル「……ボクとしては回復したというより回復させられたという感覚だけどね」
ワイワイとステイルの見舞いついでにリハビリを見学に来た一団が雑談で盛り上がる。
かつて左腕と右足を失った神父は今やなんの障害もないように見えた。
冥土帰し「あとは耐久チェックだね? 明日までそれらを付けててなんの異常も見られなかったら退院だ」
ステイル「分かりました」
原谷「それにしてもスゴいですね。どっからどう見ても普通の腕にしか見えませんよ」
神裂「機能はともかく、外見までそっくり見せるとは……」
冥土帰し「さすがに塗装技術は外部任せだけどね? 入浴も含めて日常生活にはなんの支障もないから安心していいよ」
インデックス「よかったね、ステイル! 本当に近くで見ても義手だとは思えないんだよ!」
ステイル「ああ。ボクはてっきりロケットパンチ仕様みたいなものが出てくるかと……」
冥土帰し「うん? 付けた方がよかったかい?」
原谷「出来るんですか!?」
冥土帰し「技術は確立出来てるんだけど誰も付けたがらなくてね?
一週間待ってくれればガス噴射仕様のモノを準備できる」
横須賀「面白いな。付けてもらったらどうだ?」ニヤニヤ
ステイル「遠慮しておきます」キッパリ
冥土帰し「そうかい? 義足の方も踵からふくらはぎにかけて
噴射口を設ければ護身用のターボキック仕様に仕上げることが……」
ステイル「あなたはボクをビックリ人間か何かに仕立てあげるつもりですか?」
冥土帰し「この話をするとみんなそうやってツッコんでくれるよ」ニッコリ
削板「はっはっは!」
冥土帰し「さて、今日の予定はこれで終わりだ。リハビリついでに歩くのは構わないけど
範囲は病院の敷地内と隣の公園までだからね? それから17:00までには病室に戻っていること」
ステイル「ええ。心得ています」
冥土帰し「うん。じゃあボクはこれで失礼するね? それからここの部屋は空けといてくれ。ちょっと換気しないとダメそうだ」
削板「丸太は俺が処分するぞ! 知り合いが炭がほしいって言ってたからな!」
横須賀「それ炭になっているのか? 表面を焼いただけだろう?」
ステイル「ああ、大丈夫。ちゃんと中まで火が通ってるよ」
原谷「なんでそんな鶏肉焼いてるみたいな表現になるんですか」
冥土帰し「とにかくボクは失礼するよ。何かあったらすぐに知らせてくれ」
神裂「ええ。ありがとうございました」
インデックス「ありがとうなんだよ!」
ステイル「じゃあ、外に出ようか。久しく外に出ていないから外の空気が吸いたいんだ」
神裂「吸いたいのはニコチンでしょう?」
ステイル「……バレたか」
削板「俺はこいつ片付けるぞ。持ってても邪魔だしな。仲間のバイト先まで持っていく」
横須賀「なら、俺もそっちに行こう。」
インデックス「一緒に来ないの?」
原谷「たまには3人で過ごした方がいいんじゃないかな。なんやかんやでいっつも僕たちが近くにいたし」
ステイル「別にキミたちがいたところで会話の内容が変わるとは思わないけど……ま、断る理由もないね」
神裂「では、そうしましょうか」
削板「おう。あとでインデックスを引き取りに行く。それまで頼むぞ」
横須賀「また誰かが狙っている可能性もあるからな。」
インデックス「大丈夫! かおりとすているがいれば百人力なんだよ!」
原谷「たしかにね。じゃ、またあとで」
-数十分後、第七学区公園
雲1つない快晴が広がる中、削板ら一向はしっかりと火の通った巨大な炭をポリ袋の中に入れ、削板の仲間のバイト先に向かっていた。
白ランの下に旭日旗を着た削板、標準の夏服の学生服を着た原谷、筋肉が強調されるような丈の短いカノコのポロシャツを着た横須賀。
つい最近まで学園都市のそこら中で見られた女っ気0の集団は目的地へのショートカットとなる公園にさしかかっていた。
原谷「――ですからね? タダだからってたくさん食べればいいってモンじゃないんですよ」
横須賀「分かっていないな。ガリは元々口直しの食い物だ。1貫ごとに食べて何が悪い。」
削板「口直しなら茶があるだろ。アレは口の中を洗うほどの根性があるからな」
原谷「アンタほとんど熱湯のまま飲んでるじゃないですか。しかも冷やした麦茶飲むみたいにゴクゴク飲むし」
横須賀「後味流すどころかほとんど滅菌だろう。お前のは。」
削板「なに言ってんだ。熱いモンほど根性があるんだろうが」
原谷「舌を火傷したら元も子もないって言ってんですよ」
横須賀「味の分からぬ舌で寿司を食うなど寿司に対する冒涜。つまり根性なしの所業だ。」
削板「馬鹿言え! 俺の舌は熱湯ごときで火傷するほど根性なしじゃないぞ!」
たどり着くまでに他愛のない話をしながら歩いていく。
何かにつけて根性を引き合いに出すのは、もはやこの一団の特徴である。
原谷「イヤ、普通に指突っ込んでも火傷するかもしれないようなものを粘膜にぶち混んで火傷しないわけが……ん?」
何かの異変を察知し、原谷が言葉を途切らせた。
公園の奥の方から男女の言い争う声が聞こえてきたのだ。
痴話喧嘩のような声は次第に大きくなり、だんだんとこちらに近づいてくる。
横須賀「なんだ?」
近づいてくる内に、天気のいい昼日中にも関わらず青い電撃が走っているのがはっきりと見えた。
どうやら女の方が怒りのあまり電撃をそこら中に放っており、それを男が避けるために逃げ回っているようである。
削板「おい、あれ上条じゃないか?」
そして、その逃げ回っている男には見覚えがあった。
つい最近、魔術による大規模爆撃を右手1本で反らしたツンツン頭である。
上条「だーっ! ストップストップ! 落ち着けって!」
???「うるさい! 今日という今日は決着つけてやるんだから!」
そして、女の方はシャンパンゴールドの髪をした制服姿の少女だった。
周りに静電気では済まないレベルの電気をバチバチと帯電させ、ツンツン頭に詰め寄っている。
上条「だー、もう! なんだってんだよ! どうしてこう常盤台の連中ってのは揃いも揃って……」
削板「おい、上条。なにしてんだ?」
とうとう捕まったツンツン頭に白ランの男が声をかけた。
上条「あ! 軍覇たち! いいところに! 助けてくれ!」
???「ん? 誰よこの人たち」
2人の視線が削板らに向けられる。
少女の方は怪訝な顔をしていた。
横須賀「緊急事態というなら助けるが……痴話喧嘩ではないのか?」
???「ち、痴話!? って、んなわけないでしょうが! 誰がこんなヤツと!」
原谷「違うんですか?」
上条「つーか俺がこの間ビルのテレビに映ってたのってどっちなんだって話をしたら急にビリビリが……」
???「やめろっつってんでしょうが!」
バチバチと再び青い火花が飛び散る。
だが、キュィインといういう音と共にすぐにそれはかき消された。
上条「あっぶねぇ!」
???「ああもう! なんなのよその右手!」
削板「……つまりなんなんだ? イマイチ状況が掴めんが……」
上条「そんなの俺もだよ! なんでか知らんけどビリビリがいつもの如くビリビリし始めて……」
???「ビリビリビリビリうっさいわよ! 私の名前は御坂美琴! ちゃんとした名前があんの!」
横須賀「……御坂美琴?」
原谷「え!? Level5の!?」
削板「おお!【超電磁砲】か! 言われてみれば見たことある顔だな!」
上条「あれ? みんな知ってんのか?」
御坂「……ふん。ま、知名度はある方なのよ。私」
横須賀「……テメェそこら辺のスキルアウト片っ端から潰してる上に『ビッグスパイダー』を壊滅させたらしいな」
御坂「はぁ? アイツらが集団で能力者を襲ってたから退治しただけよ。
そもそも警備員が一網打尽にして全員捕まえたんだし、それ以前に鎮圧したのは固法先輩と黒妻って人よ」
横須賀「……黒妻のヤツあの爆発で生きていたのか……」
原谷「まあまあ、そーゆー物騒な話は置いておきましょうよ。
ところで、テレビに映ってたのはどっちだ、ってどういう意味です?」
上条「ああ、こいつが双子の妹と一緒にいて……って、あれ? 妹どこ行った?」
キョロキョロと上条が誰かを探すように辺りを見回す。
しかし、公園には削板たち以外には誰もいなかった。
御坂「! し、しまった! 私としたことが……!」
削板「ん? なんだなんだ?」
御坂「うー……仕方ない。私はあのコを捜さないといけないの。勝負は預けておくわ」
上条「預けんな持ってけ!」
御坂「いい? 忘れんじゃないわよ!」
最後にそう呼び掛けると、常盤台の制服を着た少女は駆け足で公園を後にした。
削板「行っちまったが……なんなんだ?」
上条「だから俺が知りたいって……」
横須賀「……」
原谷「あー、お礼言いそびれちゃった……」
削板「ん? なんか世話になったのか?」
上条「初対面みたいなリアクションしてなかったか?」
原谷「会うのは初めてだったんですけどね。ずーっと前に救われたことがあるんです」
横須賀「……俺はあの女はあまり好かんな。アイツにやられたスキルアウトはごまんといる。
『ビッグスパイダー』の件にも、絡んでいるのは確かなようだしな。スキルアウト潰しと言っても過言ではない。」
削板「潰してんのは根性なしのスキルアウトだけだろ。
アイツはめちゃくちゃ根性あると聞いたぞ。【幻想御手】を解決したのもアイツらしい」
上条「な、なんか賛否両論だな……。俺はそんな悪いヤツじゃないと思うんだけどなぁ」
-夕暮れ、第七学区大通り
その後、上条は削板らと合流し、一緒にキャンプ場に向かった。
無事キャンプ場に着き、削板の仲間に炭を引き渡すと、お礼に肉をもらえることになったので有り難く4等分していただいた。
上条に至っては涙を流す勢いで肉をつつんだ袋をカバンの中に突っ込んでいた。
帰りの道中でアウレオルスと姫神が今どこで何をしているのか色々想像を巡らせたあと、上条はタイムセールの戦場の中に飛び込んでいった。
再び3人に戻った頃には日が大分傾いてきた上に、雲が出てきて薄暗くなっていた。
原谷「おかしいですね。天気予報じゃ明日も晴れだったんですけど……」
横須賀「最近ちょくちょく外しているな。【樹系図の設計者】も寿命か?」
削板「早すぎるだろ。世界中の分子の動きを計算できる根性があるヤツがそんなに早く壊れるはずがない」
原谷「イヤ、だからこそ逆に寿命を迎えるのが早いんじゃないですか?」
横須賀「じゃなきゃ制御不能になったかブチ壊されたか……っと。」
不意に横須賀が言葉を切らし、ポケットに目をやった。
削板「ん? どうした?」
横須賀「スマン、舎弟からの電話だ。おう、どうした? ……なに?」
電話に出た瞬間、横須賀の表情が変わる。
ゆるんでいた表情から険しい表情に早変わりした。
原谷「……なんか緊急の用件ですかね」
通話はなかなか終わらず、横須賀の顔はどんどん表情が険しくなっていく。
明らかにいい内容の話ではなかった。
横須賀「それで、相手の装備は? ……ライフルに軍用ゴーグル、常盤台の制服か。分かった。すぐに向かう。」
頭から携帯電話を放し、横須賀はようやく通話を終了させた。
削板「おい、なんか物騒な名前が聞こえたが?」
横須賀「俺たちが最近使っていなかったアジトを占拠されたらしい。」
原谷「! まだあの学区にそんな馬鹿いたんですか……」
横須賀「どこの馬鹿か知らんが俺らのシマを荒らすとはいい度胸だ。叩きだしてくれる。」
削板「……手ぇ貸すか?」
横須賀「これは俺のチームの問題で俺のケンカだ。お前の出る幕ではない。
この【内臓潰し】の横須賀、たかだかライフルごときに遅れは取らん。」
原谷「そこは取ってくださいよ。人間として」
横須賀「とにかく、俺は今からアジトに向かう。また何かあったら呼べ。」
削板「分かった。気をつけろよ」
横須賀「ふっ、誰にモノを言っている」
最後に不敵に笑い、スキルアウトは薄暗い街並みに消えていった。
-十数分後、第七学区とある病院
病院に戻ると、すでにインデックスと神裂が玄関口で待っていた。
インデックス「あれ? よこすかは?」
削板「途中で別れた。急用らしい。ステイルはどうした?」
神裂「病室に戻りました。あの様子なら明日には退院できるでしょう」
原谷「そうですか。じゃあ明日は退院祝いでも開きますか」
インデックス「あ、いいねそれ! またあの食べ放題のお店行きたいんだよ!」
削板「おっ、ならそうすっか! モツにも言っておかないとな!」
神裂「ええ、ステイルも喜ぶと思います」
原谷「じゃあ明日12:00ごろにまた病院に集まりましょう。そこから第四学区に行く感じで」
インデックス「やったあ! 明日が楽しみなんだよ!」
削板「うし! それじゃあまた明日な!」
それぞれが別れを告げ、それぞれが帰る場所へと明日の予定を思い描いて微笑みながら帰っていく。
平穏な世界がそこにはあった。
しかし、この一団の平穏な日常など長く続きはしない。
翌日この約束が果たされることはなかった。
-40分後、第一一学区路地裏
日は完全に沈み、完全下校時刻はすでに過ぎていた。
ほとんど人気のない裏道をスキルアウトのリーダーは早足で通り抜けていく。
その服装は日中のものとは変わっており、ジーンズを履いた下半身と不釣り合いな大きさのレザージャケットを着ていた。
このレザージャケットは丈が長いというわけではなく、上半身が不自然に大きく見えるものだった。
スキルアウト「あ、横須賀さん! こっちッス!」
人気のない裏道でたむろしていたガラの悪い集団の1人が横須賀に気付いて声をかける。
全員が真剣な表情をしていた。
横須賀「待たせたな。で、シマを荒らした馬鹿はどこだ?」
スキルアウト「この先ッス」
1人のスキルアウトが今いる通りよりもさらに細く狭い路地裏を指差す。
明かりがほとんどないため先が見えなかった。
スキルアウト「俺らも自分らで追い払おうとしたんスけど、いきなりライフル出して銃口向けてきやがって……」
横須賀「ほう? なかなかにイカれた馬鹿だな。昨今の常盤台はそこまで荒れているのか。」
スキルアウト「さすがにお嬢様学校の情勢なんか知らねーッスけど……
てか、別に横須賀さんが出張る必要なんかねーッスよ。今着てるそいつ貸してくれれば俺が自分で行くッス。
女にケンカ売られて強いモンに泣き付くなんてダセェ真似したくねーッス。自分のケツくらい自分で拭くッスよ」
金髪のド派手な頭をした男が眉間にシワを寄せながら、身体が不自然に大きく見える横須賀のレザージャケットをさす。
どうやらこれも横須賀の秘密兵器のようである。
横須賀「まあ待て。『ビッグスパイダー』の件もある。上手く立ち回らんと警備員が出てくるぞ。」
スキルアウト「なに言ってんスか! 警備員が怖くてスキルアウトやってられっかってんスよ!」
スキンヘッドの1人が噛み付く。
スキルアウトにはスキルアウトのプライドというものがあるのだ。
横須賀「ふっ、威勢がいいな。だが、相手は常盤台だぞ? 最低でも強能力者クラスの能力を持っているはずだ。」
スキルアウト「ぐっ……か、関係ねーッス!」
横須賀「ふはは。意地を張るな。ここは対能力者戦闘のエキスパートに任せておけ。
火遊びを覚えたお嬢様に少しばかり怖い目に遭ってもらおう。お前らはここで待っていろ。」
納得のいかないような顔をしている舎弟たちを抑え、大男は路地裏の中へと入っていった。
-路地裏
先ほどの裏道よりさらに狭く人気のない一本道を慎重に進んでいく。
物音1つしない路地裏は人がいるとは思えないような静けさだった。
とはいえ、舎弟たちの話ではライフルを持った能力者がこの奥に控えているのだ。
遮蔽物のない一本道で遠距離から気付かれたらひとたまりもない。
わずかにでも影が見えないかどうか、横須賀は目を凝らしながら進んでいた。
横須賀(……暗いな。こんなに暗い道だったか?)
以前にここのアジトを訪れた時はもう少し明るい道だったはずだが、今はなんの明かりもない。
おまけに生憎の曇り空で月明かりすらない。
ほんの数メートル先を目視することすら難しかった。
横須賀(っと、突き当たりか。)
しばらく歩くとT字路に差し掛かった。
この道を右に行くとアジトに、左に行くと操車場にたどり着く。
横須賀(……やり合うとしたらここは重要なポイントだな。)
どちらに曲がるかを決めるよりも先に、横須賀は今まで歩いてきた道の右手側の壁に背を預けた。
遮蔽物のない路地裏では曲がり角は銃弾やりすごすのに絶好の地形だ。
壁に背を預けたままゆっくりと角から顔を出し、通路を見渡す。
横須賀(……人影なし。物音もなし。気配はゼロ、か。ということはアジトに籠もっているのか? 大したものは置いていないはずだが……ん?)
角から顔を出しながら、横須賀は妙なものを発見した。
横須賀(……これは、銃痕?)
よくよく見ると、壁のあちこちに穴が空いているのだ。
暗さ故に壁に顔を密着させない限り判別することはできなかったのだが、今はまさに密着させている状態である。
横須賀(……こちらの壁にあるということは、向こうからこちらに向けて撃ったのか。)
銃痕は操車場に向かう通路からアジトの方向へ銃弾が撃たれたことを表していた。
しかし、それはライフルの持ち主がそれほど追い詰められていたことも表している。
横須賀(アイツらは全員揃っていたはず……
ということは、常盤台のヤツはライフルを持たなければ勝てないようなヤツを相手に追われていた?
もしくは、敵がこの路地裏に身を隠していたのを追い詰めた? どちらにしてもここで銃撃戦になったということだな。)
どう考えてもとんでもない話である。
少なくとも日本で起きていい類いの事件ではない。
だが、目の前の銃痕はそれを示している。
横須賀(ということはだ。その常盤台を追っているヤツもライフルかそれに匹敵する飛び道具を有しているはずだな。)
しかし、この男はそれを理由に戸惑うこともなければ臆することもない。
正直彼にとっての日常はとっくの昔に一般人の非日常になっていた。
襲い掛かる炎の巨人や降り注ぐ巨大な赤い雷に比べればまだまだ現実味のある話である。
横須賀(硝煙の匂いもまだする。が、血の匂いはしないな。ここでは決着がつかなかったのか?)
ようやく横須賀は角から身を完全に出した。
そして、アジトと反対方向、操車場に続く道に足を向ける。
今分かっていることは殺傷能力を有する飛び道具を持った人物が2人以上いるということだ。
仲裁するにしてもどちらもブチのめすにしても情報が必要である。
横須賀(……薬莢だらけだな。これだけ撃って誰も気付かなかったのか?)
足元には真鍮が大量に転がっていた。
少なくとも一方はかなり激しく撃ったようである。
さらに歩をすすめると、横須賀の足に何かが当たった。
横須賀(ん? ……暗視ゴーグル?)
それは軍用の暗視ゴーグルだった。
既に破損しており、使えそうにない。
横須賀(……常盤台のヤツが装備していると言っていたな。やられているのか?)
その考えに至った時、通路のずっと奥で音が聞こえた。
横須賀(! まだ戦闘は続いている?)
その様子を探るべく、横須賀はさらに奥へと進んでいった。
-同時刻、裏道
スキルアウト「……大丈夫かや、横須賀さん」
スキルアウト「大丈夫だって。オメーあの人のハンパなさ知ってんだろ?」
スキルアウト「んなこと言ったってオメーライフル持った能力者だぞ?」
スキルアウト「イヤ、あの人こないだ無反動砲持った能力者相手に勝ってっから。お前も地下バトル来りゃよかったのによ」
アジトへと続く道の前には相変わらずガラの悪い集団がたむろしていた。
意気揚々と闇の中に飛び込んだリーダーを待っているのである。
だが、その集団へ駆け足で近寄る人物がいた。
???「ちょっと! どいて!」
それは1人の少女だった。
長い距離を走ってきたのか、肩で息をしている。
スキルアウト「あん? 誰だテメ、って」
スキルアウト「お、おい! なんでテメェがここにいんだよ! こん中入ってったじゃねーか!」
その姿を見たスキルアウトたちは思わず後退る。
その少女は先ほど銃口を向けてきた少女だったからだ。
???「! アンタたち見たの!?」
スキルアウト「は、はぁ? 何をだよ?」
???「私よ!」
スキルアウト「あ? え? 何? ルパン?」
???「ああもう! いいからどけ!」
そう言うと少女は集団の中央に突っ込み、そのまま路地裏へと駆け抜けていった。
そして、再びガラの悪い集団が取り残された。
スキルアウト「……何がどーなってんだ?」
スキルアウト「知るかよ!」
スキルアウト「てか待て! これ横須賀さん挟み討ちじゃねーか!?」
スキルアウト「! そうじゃん! ヤベーよ!」
スキルアウト「ど、どーする!?」
スキルアウト「行くしかねーだろ! もうこれはタイマンじゃねー! 乱闘だ!」
スキルアウト「だ、だな! これ以上常盤台のガキにナメられるわけにゃいかねー!」
スキルアウト「行くぞオメーら! 腹くくれ! 横須賀さん助けんぞ!」
-同時刻、操車場
???「ハァ……ハァ……!」
砂利の上を1人の少女がボロボロになりながら走っていた。
常盤台の制服はボロボロになり、頭からは血が流れている。
???「どォした? 早く逃げねェと死ンじまうぞ?」
それを白い髪をした華奢な人物がゆっくりと追いかけている。
こちらはなんの傷もなく、汚れすらなかった。
ボロボロの姿で走る少女は人工的に作り出された少女だった。
名前はない。検体番号は9982号。
【超電磁砲】御坂美琴のDNAマップを基に生み出されたクローンである。
9982号「ハァ……ハァ……」
そして、それを追いかけるのは学園都市トップの超能力者。
Level5第一位の一方通行である。
一方通行「おいおいどォしたへたりこみやがって。諦めたらそこで試合終了だぜ?」
9982号「……諦めたわけでは、ありません、とミサ、カは被験者の言動を、否定します」
一方通行「あァ? なンだって?」
9982号「被験者の能力は……身体を覆うように、展開、され……」
一方通行「聞こえねェよデケェ声で喋れ」
9982号「……ですが、足で歩、いて、いる以、上、足裏は無防備である……」
一方通行「あン?」
バチ、と電撃が飛ぶ。
そしてそれは一方通行の足元に埋め込まれた地雷への信号だった。
9982号「目標……沈黙?」
息も絶え絶えに、爆風に煽られて倒れていた9982号は立ち上がる。
目の前では巨大な煙が上がっていた。
つい先ほど、人一人が吹き飛び身体がバラバラになる規模の地雷を爆発させたのだから当然である。
あの規模の爆発に巻き込まれればどんな人間でも木っ端微塵である。
しかし
9982号「―――ッ!」
目の前の超能力者にはなんの効力もなかった。
一方通行「ざァンねン。不正解!」
ニタリ、と超能力者は煙の中から出てきて笑った。
一方通行「てンで的外れだクソボケ!」
ギュン! と一方通行が瞬時に間合いを詰める。
その速さは常人が反応できる速度ではなかった。
9982号「カハッ!?」
そのまま一方通行は弾丸のようにクローンに体当たりをかまし、クローンは吹き飛ばされる。
だが、それだけでは終わらない。
クローンの身体が勢いを失うよりも早く、地面につくよりも早く、一方通行がその脚を掴んだ。
一方通行「罰ゲーム」
9982号「う、ああああああああああ!!!」
ブチイ! といやな音がした。
一方通行が掴んだその脚はそのまま握り潰され、引きちぎられた。
クローンの少女から左足がなくなっていた。
9982号「っ、の」
バチィ! と苦悶の表情を浮かべたまま9982号は電撃を放つ。
一方通行「ハッ」
しかし、電撃は一方通行には当たらない。
それどころか自分に跳ね返り、電撃は9982号に直撃した。
9982号「う……あ……」
自らの電撃に焼かれ、クローンの少女は砂利の上に倒れこんだ。
一方通行「やれやれ、これじゃもう逃げることもできねェな」
呆れたようにLevel5の第一位はクローンを見下ろす。
凶悪に顔を歪めたまま、ちぎれた脚を無造作に放り捨てた。
放り投げられた脚はドス黒い血を撒き散らしながら放物線を描いて砂利の上に落ちた。
一方通行「相も変わらず馬鹿しかいねェのかオマエらは。イラつかせやがる」
まだ諦めていないのか、クローンの少女は腕だけで這いつくばりながら逃げていた。
脚があった箇所からはおびただしい量の血液がどくどくと流れていた。
9982号「ぐ……あ……ハァ……ハァ……!」
一方通行「なンだ? まだなンかあンのか? どのみち馬鹿が考えた馬鹿みてェな仕掛けだろォが」
よりいっそう凶悪に顔を歪め、一方通行はクローンを睨み付ける。
しかし、それでもクローンは砂利の地面を這うことをやめない。
一方通行「……アホくせ。もォいいだろ。楽になれ」
怒りは失望に変わり、クローンに対する興味すら失せていた。
視線をクローンから廃車になった列車に向ける。
それと同時に古びた車体が浮き上がった。
9982号「……」
ちょうどそのころ、クローンの少女はようやく這うことをやめていた。
ゆっくりと身体を起こし、両手でカエルの缶バッチを大事そうにつかんでいた。
9982号「……お姉さま……」
そのバッチを見つめ、今日あったことを思い返し、クローンの少女は缶バッチをぎゅっと胸に抱きかかえた。
御坂「うそ……」
奇しくも同じころ、クローンにお姉さまと呼ばれた少女はすべてが見える位置にいた。
歩道橋の上から見えるその光景は絶望そのものだった。
御坂「待って、お願いやめて! やめてやめてやめてやめてやめてやめて!!」
だが、彼女の願いも虚しく、巨大な列車はクローンの少女がいる地点に真上から落下していった。
一方通行「……あン?」
たった今、圧殺によって今回の実験を終了させた被験者は首を傾げていた。
一方通行「なンだ今のは?」
巨大な列車の車体は衝撃でひしゃげており、窓ガラスは全て割れていた。
それはいい。
だが、決定的に何かが足りない。
一方通行には車体が落下する直前に妙なものが見えていた。
おそらくそれがこの光景に対する不信感に直結している。
一方通行「……」
その原因を確認すべく、一方通行は車体へ近づこうとした。
その瞬間。
目の前を青い電撃が駆け抜けていった。
一方通行「!」
バヂイ! と電撃はすぐ近くにあったコンテナに直撃し、焦げ跡を残した。
先ほどまでとは桁違いの閃光に一方通行は思わず足を止める。
そして、電撃が飛んできたであろう方向へと視線を向けた。
御坂「ああああああああああああああああああ!!」
先ほどまで相手をしていた人形と同じ姿をした人物が怒声をあげて向かってきていた。
Level5同士の戦闘が始まったそのころ、ひしゃげた車体の向こう側では小さな奇跡が起きていた。
横須賀「ぜぇ、ぜぇ……あ、頭おかしいだろう、あの野郎……」
大きなレザージャケットを着た大男は小柄な少女を押し倒していた。
9982号「あ……え……?」
満身創痍の少女は呆けた表情で自分の上に覆いかぶさっている大男を見つめる。
その手にはカエルの缶バッチがしっかりと握られていた。
横須賀「フザけた真似しやがって……。もう完全にケリはついていただろうが。」
まさに間一髪。
列車の車体がクローンの少女に直撃する寸前、横須賀が飛び込んで少女を抱えたまま回避したのだった。
最初こそLevel5同士の戦争を観察していたのだが、やりすぎだと判断したために戦争に飛び込んだのだ。
9982号「むぐッ?」
ガポリ、と9982号の口にタオルが無理やり詰め込まれた。
横須賀「それくわえてろ。痛むが我慢しろよ。」
そして、横須賀はもう1枚のタオルをちぎられたた左足の断面に巻き付け、ギュッと結んだ。
9982号「~~~~~~~~~ッ!!!」
ビクン! とクローンの身体が激痛に耐えかねて大きく跳ねた。
しかし、こうでもしなければ止血にはならない。
ここからでは見えない誰かがあのイカれた第一位と戦っている間に、止血だけでも終わらせなければならない。
その時、砂利石を吹き飛ばしながらもう1人の少女が落下した車体の脇を滑っていた。
相手に吹き飛ばされながらもなんとか両足で着地し、勢いを殺していたのだ。
御坂「こんのっ!!」
激情をむき出しにLevel5の第三位は敵を睨み付ける。
だが、彼女の視界の端に信じられない光景が映った。
御坂「えっ……」
彼女の頭から一瞬で闘争心が消える。
死角になっていた車体の裏側には大男と
9982号「ケホッ、あ……お姉、さま」
彼女の妹がいた。
御坂「うそ、アンタ、無事なの!?」
困惑した表情で御坂は自身の妹に駆け寄る。
その顔は今にも泣きそうだった。
横須賀「あ? なんだ? 同じ顔?」
瓜二つな表情を交互に見て横須賀は困惑する。
そうこうしているうちに寄ってきた御坂美琴は倒れた御坂美琴を抱き締めていた。
9982号「お姉さま……?」
御坂「よかった……よかっ、たぁ……」
横須賀「……そう言えば双子の妹がいるとか言っていたな……」
フワッ、とひしゃげた車体が浮かんだ。
一方通行「チッ、やっぱり生きてンじゃねェか」
ギュン! と車体は加速して遠くに飛ばされていった。
御坂「っ! 一方通行……!」
一方通行「オイ、そこのデカブツ。なァに実験の邪魔してくれてンだ。こンなタリィ実験をダラダラ長引かせやがって」
先ほどの光景に足りなかったもの。それは大量の血液だ。
人間1人潰して血液が見えないはずがないのだ。
横須賀「……女の足をちぎって身体をプレスすることが実験か? 何1つ理解できん。」
一方通行「つーコトはやっぱ部外者か。馬鹿が勘違いして首突っ込ンでくンじゃねェよめんどくせェ。セキュリティはどうなってンだ」
はーっ、と華奢な身体をしたLevel5の第一位は長くため息をついた。
一方通行「で? そっちの情緒不安定はもしかしてオリジナルか?
オマエもオマエでなに自分の人形相手に泣いてンだ? 気ン持ち悪ィ。俺にはそっちの方が理解できねェよ」
御坂「……」
一方通行「一応今やってンのは極秘の実験だからよォ、ペラペラ内容喋るわけにはいかねェンだわ。
だから、最低限の情報で取るべき行動を考えろ。まずはじめにソイツはクローン。
俺は今からそのクローンを殺す。邪魔するならお前らも潰す。見たコト全部忘れて消えるなら見逃す。2択だ選べ」
ポケットに手を突っ込んで見下すように一方通行は命令する。
スキルアウト最強の一角もLevel5の第三位もまるで障害になるとは考えていなかった。
それこそ、そこら辺にたくさんある砂利石と同程度にしか見ていない。
横須賀「……チッ、おい、【超電磁砲】。そいつ連れて病院行け。」
軽く舌打ちをすると、横須賀は小声で本物の【超電磁砲】に話しかけた。
御坂「ハァ? フザけたこと言ってんじゃないわよ! アイツは私がやる!」
横須賀「そうか。ならソイツは死ぬぞ。」
御坂「!?」
思わず御坂は横須賀に目を向ける。
クローンの少女はと言えば、血液を失いすぎたせいか青白い顔をして意識を失っていた。
横須賀「素人目でも放っておけば死ぬのは分かる。だが、俺は女に戦わせて尻尾を巻く気は毛頭ない。」
御坂「……」
横須賀「そもそも両手で担いで両足走っているのにどうやって殺しにかかってくる能力者から守れというのだ。
飛び道具なしの無能力者にそんな器用な真似はできん。お前が連れていく他ない。分かったらとっとと行け。超能力者。」
御坂「フザけんな……」
ザザ、と地面が動いた。
横須賀「あ?」
否、動いていたのは流動的に流れる砂鉄だった。
一方通行「ンン?」
その大量の砂鉄は御坂と横須賀の前で円を描くようにぐるぐる周り、やがて高速回転していく。
御坂「どいつもこいつも私の意思を全部無視して! なんでもかんでも進めてんじゃないわよ!!」
ギュオッ! と砂鉄の渦が大きく伸び上がり、同時に急加速して一方通行へと突撃していく。
細かい砂鉄で形成された黒い竜巻が白い超能力者を飲み込んでいった。
だが、この街の学生の頂点に立つ超能力者は、あろうことか荒れ狂う竜巻の中から歩いて出てきた。
先ほどと変わらずポケットに手を突っ込んだまま、髪型すら変わらずに悠々と歩いていた。
一方通行「おもしれェな。やっぱオリジナルともなると発想力も出力もまるで……アァ?」
だが、その場に竜巻を発生させた少女はいなかった。
その少女はすでに少女をなんとか抱いたまま、磁力で歩道橋まで大きく跳んだあとだった。
一方通行「……クソが。くだらねェ真似しやがって」
つまり、先ほどの竜巻はただの目眩ましだ。
発生させた本人はせめてもの一撃という意味合いも籠めていただろうが、本命の役割はそれだ。
一方通行「磁力で立体機動かましたところで逃げ切れるとでも思ってンのか」
グッ、と一方通行が脚に力を入れた。
横須賀「逃げるのか!!!」
ピタッ、と一方通行の動きが止まる。
横須賀「俺は逃げずに戦うという選択肢を選んだのだがな。」
歩道橋に向けられていた白い超能力者の視線がスキルアウトへと向けられた。
一方通行「悪ィが最優先事項はクローンをぶっ殺すことだ。そのあといくらでもミンチにしてやンよ」
横須賀「ほう。ならばそうすればいい。そうなるなら俺が戦う理由はなくなるということだ。
貴様があの2人を追う間に俺はどこかに消えているだろうな。律儀に待つ理由もない。」
一方通行「そォかよ好きにしろ」
ニタリ、凶悪なテロリストのような顔をした大男は笑った。
横須賀「ああ。大手を振って喧伝させてもらおう。
Level5の第一位はこの【内臓潰し】の横須賀にケンカを売られると尻尾を巻いて逃げ出し、
女のケツを追いかけに行ってしまったとな。しばらくは俺たちのシマを荒らす馬鹿などいなくなるだろう。」
ズドッ!! と学園都市最強の能力者の拳が横須賀のみぞおちにたたき込まれた。
一方通行「ア?」
ザザァ! と横須賀の身体が滑るように後ろにさがる。
だが、倒れない。怯まない。スキルアウト最強の一角はニヤリと笑い、広げられた間合いを瞬時に詰める。
横須賀「こちらの番だ。」
【内臓潰し】の異名を持つ拳が華奢な身体に向けて繰り出された。
横須賀「ぐああああ!?」
華奢な身体に横須賀の拳が触れたとたん、嫌な音が鳴った。
固く握られた拳は手首の辺りからズレていた。
一方通行「……」
だが、能力者の頂点に立つ者は目の前の惨状などまるで気にしていなかった。
それよりも自分の手を見つめて何かを考えている。
一方通行「……あっはァ、なるほどな」
やがて、一方通行はニタリと笑った。
ズブリ、と横須賀の心臓の高さに一方通行の貫手が深々と突き刺さった。
横須賀「ガハッ!!」
ずるり、と突き刺さった指先が抜ける。
たまらず横須賀は後ろに下がって距離を取った。
血のついた指先をペロリと舐め、能力者の頂点は狂気の笑みを浮かべる。
一方通行「妙な体型してると思えば……中に着てンのは防弾チョッキか。
いるンだよなァ、たまに。軍用装備持ち出せば勝てると思ってる馬鹿が。
こちとらそれを標準装備してる集団相手にタメ張れンのが条件でLevel5やってンのによ」
指先に付着した血は明らかに少なかった。
それもそのはず。横須賀はレザージャケットの下に防弾チョッキを装着していたのだから。
指先は心臓まで届かず、胸筋のあたりで止められていた。
横須賀「……俺はもともとライフルを相手にするつもりでここに来たのでな。」
ジャケットとチョッキの上から傷口を押さえつけながら、横須賀は苦笑した。
横須賀「それよりも……貴様の能力は【念動力】という触れ込みだったはずだが……明らかに違うだろう。」
一方通行「ハッ、スキルアウトじゃその程度の情報しか流れてこねェだろォな。
だがよ、仮にも能力者ン中で頂点に立ってる人間の能力がそンなチンケなもンじゃねェってくらい想像つかねェか?」
コキコキと首を鳴らしながら、愉快そうに一方通行は横須賀に近づく。
一方通行「さァて、オマエから売ってきたケンカだ。どうされても文句は言えねェよな?」
横須賀「……ハッ! この【内臓潰し】の横須賀が簡単に倒れてくれると思うな!」
この日、最強のスキルアウトと最強の超能力者のぶつかり合った。
その夜の決闘で大盤狂わせが起きることはなかった。
今回はここまでです。
いよいよ最終章。根性入れていきます。
なんとか3月までには終わらせます。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
-早朝、第七学区大通り
天気は雨だった。快晴だった昨日とは打って変わって厚い雲が空を覆っていた。
昨夜の辺りからかなり雲が出ていたので、この雨は簡単には止みそうにない。
だが、そんな雨の中をバシャバシャと走る少年と少女の姿があった。
共に白い衣服に身を包んでおり、雨具の類いは持っていなかった。
まだ日も昇る前から少年の携帯電話に連絡があったのだ。
「横須賀が瀕死。生死の境目をさ迷っている」という内容をパニック状態の相手からなんとか聞き取ると、2人はすぐに着替えて病院へ向かった。
全身に布地がまとわりついてくる不快感もまるで気にせず、息を切らしながら2人は走り続ける。
やがて、その2人はとある病院の敷地へ足を踏み入れた。
???「削板さん! こっちッス!」
正面入口ではなく、脇にある緊急外来用の出入口で金髪のスキルアウトが呼び掛ける。
そのスキルアウトは【内臓潰し】の舎弟の1人だった。
舎弟の手招きに従い、ハチマキを巻いた少年と修道服を着た少女が緊急外来用の入口にたどり着いた。
インデックス「よこすかは!? 無事なの!?」
ドン、と勢いそのままに修道服の少女がスキルアウトに飛び付いた。
スキルアウト「うおっ!? なんスかコイツ!」
削板「俺の仲間だ。入れてやってくれ」
スキルアウト「はあ……」
インデックス「ねえ! よこすかは!?」
削板「そうだ。モツは大丈夫なのか?」
スキルアウト「今先生に手術してもらってんス。ヤブミンはもう来てるッス。こっちッス」
金髪のスキルアウトに従い、削板とインデックスは病院に入ってエレベーターへと乗り込んだ。
無言のまま数階上にあがり、エレベーターを降りる。
少し歩くとガラの悪い集団と学生1人が暗い表情で手術室の前に集まっていた。
原谷「あ、削板さん」
スキルアウト「削板さん! おぁざス!」
スキルアウト「ざス。削板さん」
口々に気付いた者から削板に声をかけていく。
一時手術室前がざわついた。
削板「おう。……手術待ちか?」
原谷「ええ。なんか急患が続いたとかで【冥土帰し】の先生がすぐに入れなくて……」
スキルアウト「先に別の医者が手術始めて、さっき【冥土帰し】さんが入ったとこッス」
インデックス「よこすか……」
スキルアウト「つーか削板さんたちずぶ濡れじゃないッスか。おい、誰かタオル持ってねーか?」
削板「いい。構うな。……それより何があったんだ? ライフル持ったヤツが相手だったとはいえ、モツがここまでやられるなど……」
スキルアウト「俺らもよく分かんねえんス……。なんか女の援軍がきて、もうタイマンじゃねーから
横須賀さん助けようと思って全員でアジト突っ込んで、そんでも誰もいなくて、探しても誰もいなくて……」
スキルアウト「そしたらなんかデッケェ音がどっかからして、みんなでアジト以外んとこ探してたら横須賀さんが血まみれで……」
スキルアウト「そんで俺らじゃどうようもねーってんで、救急車呼んでこっちの病院に……」
ガチャリ、と手術室の扉が開いた。
そこにはカエル顔を医者がマスクをつけたまま立っていた。
削板「! 先生!」
スキルアウト「横須賀さんは!?」
手術室から出てきたカエル顔の医者はマスクを外し、大きくため息をついた。
冥土帰し「……本当に、医者をやってるのが嫌になってくるね?」
原谷「え……?」
スキルアウト「な、テメェこらどういうことだや!!」
スキルアウト「横須賀さん死なせたんじゃねーべなぁ!?」
今にも飛び掛かりそうな勢いでガラの悪い集団がいきり立つ。
しかし、カエル顔の医者は片手を振ってそれを否定した。
冥土帰し「一命は取り留めた。というより彼が自分で勝ち取ったという表現の方が正しいね?
ボクの出る幕なんてほとんどなかった。あんな生命力を持った人間なんて見たことないよ。もはや学会で発表できる事例だ」
殺気立った空気が急速に萎んでいった。
そして、代わりに安堵の息が広がった。
インデックス「ホッ……よかったぁ……」
原谷「……ハハ、さすが横須賀さん」
スキルアウト「んだよ! 紛らわしいことすんなや!」
スキルアウト「あー、ガチびっくりした……。人が悪すぎんぜ、先生」
冥土帰し「ごめんごめん。言い方が悪かったね?」
削板「はっはっは! 当たり前だ! モツがそんな簡単にくたばるか!」
冥土帰し「障害が残ることもない。立派な健常者として復帰できるだろう。
とはいえ、しばらくは入院が必要だね? 目が覚めるのももう少し先になるだろう」
原谷「分かりました」
インデックス「……」
削板「心配するなインデックス。モツの根性知ってるだろ? すぐに目ぇ覚まして退院するに決まってる」
インデックス「うん……分かってる」
冥土帰し「じゃ、一旦解散してくれるかな? これから彼を病室に運ぶけど、他の患者さんはまだ寝てるからね?」
スキルアウト「……チッ、しゃーねーべな。俺らいてもどーしよーもねーし」
スキルアウト「つっても時間経てば見舞いくらいいーんだろ?」
冥土帰し「ウチの病院は9:00以降って決まってるね?」
スキルアウト「じゃあ、どっかでメシ食って時間潰すか。ヤブミン、削板さん、一緒にどうッスか?」
原谷「あ、じゃあ行きます」
削板「俺はインデックスを連れて1度戻る。全身ビチャビチャだからな」
インデックス「うん、着替えてからもう1回来るんだよ」
スキルアウト「そッスか。じゃあ先生、あざした」
スキルアウト「ありやとやした!」
冥土帰し「うん、それじゃあね」
ゾロゾロと大群が階段を降りていく。
エレベーターは人数的に乗るのが難しかったので、全員が階段で移動していた。
原谷「横須賀さん無事でよかったですね」
スキルアウト「イヤ、無事ではねーべ?」
スキルアウト「瀕死だっつってんだろ」
インデックス「で、でも、よこすかなら平然と回復してくれるに決まってるんだよ! だってよこすかだもん!」
スキルアウト「だよな! なんせ横須賀さんらっけな!」
スキルアウト「あの人マジハンパねーからな。てか、誰お前?」
インデックス「私? 私の名前はインデックスって言うんだよ!」
スキルアウト「は? え? なんて?」
削板「俺の連れでモツの連れだ。根性あるぞ」
スキルアウト「あー、分かります。めっちゃ苦労してそーッスもん」
原谷「分かるんですか?」
スキルアウト「そりゃオメー、俺らが目次っつー名前つけられんだろ? 少なくとも俺ならぜってーグレるね」
スキルアウト「オメーつけられなくてもグレてんじゃねーか」
インデックス「……やっぱり変かな?」
スキルアウト「いや、この街じゃ普通の範疇だべ。女で「せいり」っつーヒデー名前つけられたヤツが中学ん時いたし」
インデックス「え……」
削板「そんなヤツいたのか。絶対根性無しの親だな」
スキルアウト「てか目次って今どっから出てきた?」
スキルアウト「インデックスは目次っつー意味なんだよ、英語で」
スキルアウト「へー、オメー頭いいな」
横須賀が一命を取り留めたことで一行はとりあえず安心し、和やかな空気になっていた。
階段を下りながら雑談に花を咲かせている。
実際、何度やられようが不死鳥のように舞い戻ってくる漢だ。
医者にあそこまで言わせる人物などそうそういない。
だが、和やかな空気はそう長くは続かなかった。
スキルアウト「あーーーーーー!」
階段を下りきり、一行がロビーに差し掛かった頃、スキルアウトの1人が大声をあげた。
原谷「ちょっと、病院の中でくらい静かに」
スキルアウト「ちげーよヤブミン! アイツだ! 昨日アジトにライフル持ってきたヤツ!」
スキルアウトがロビーの中央に並べられたソファーを指さした。
そこにはまだ病院が開いていないにも関わらず、誰かが座っていた。
身じろぎ1つせず、膝を抱えたまま床を見つめている。
シャンパンゴールドの髪をし、有名中学の制服を着たその人物は
御坂「……」
Level5の第三位【超電磁砲】だった。
スキルアウト「てんめー……病院にまでカチコミかけるとはいい根性してんじゃねーか」
スキルアウト「よくも横須賀さんを……!」
ガラの悪い集団が少女を取り囲む。
そこで少女はようやく気付いたのか、虚ろな目で顔を上げた。
御坂「……あぁ、アンタたち昨日の……」
スキルアウト「昨日俺らの頭が潰された。テメェ身に覚えがあんだろ?」
御坂「……そっか……そういう繋がりね……」
スキルアウト「ワケわかんねーことブツブツ言ってんじゃねーよ! 答えろコラァ!」
ガン! とスキルアウトの1人がソファーを思い切り蹴飛ばした。
御坂「………………えぇ、そうよ。私が潰した。今どうしてるの?」
スキルアウト「ようやく峠越えたとこだ。テメェ表出ろ。同じ目に遭わせてやんよ」
スキルアウト「安心しろや。俺たちゃヒキョーモンの根性無しなんざ
今年の3月に削板さんにヤキ入れられて卒業してんだ。正々堂々真っ正面からやってやらぁ」
削板「待て、お前ら」
荒れ狂う集団に削板が制止をかけた。
スキルアウト「削板さん、でもコイツが……」
削板「そいつは【超電磁砲】だ。根性なしじゃない」
スキルアウト「な、【超電磁砲】!?」
ビクリ、と何人かが目の前の少女が予想以上に大物だったことに驚き、後退りした。
スキルアウト「そういやコイツ見たことあんぞ……」
スキルアウト「なるほど、『ビッグスパイダー』の次は俺たちっつーわけか」
御坂「……」
再び少女は床に視線を落とした。
精神的に重要な何かが欠落しているようで、完全に塞ぎ込んでいた。
スキルアウト「ナメやがって! あんなヤツらと一緒にしたこと後悔させてやらぁ!」
削板「待てっつってんだろうが!!!」
収まらない殺気に削板が喝を入れる。
シン……、とロビーに一瞬で静寂が訪れた。
インデックス「ぐんは……」
御坂「……」
だが、こちらの少女はスキルアウトに囲まれようが削板が叫ぼうが大したリアクションを取らなかった。
ひたすらぼんやりとした目で床の一点を眺めていた。
原谷「聞き方を変えましょうか。横須賀さん……あぁ、キミが潰したって言ってる大男だけど、直接手を下したのはキミなの?」
御坂「……」
常盤台の制服を着た少女は少しだけ視線をズラし、原谷の足元を見つめた。
スキルアウト「はあ? なに言ってんの? ヤブミン」
スキルアウト「しっ。様子が変だ」
ややあって、少女が口を開いた。
御坂「………私じゃない」
スキルアウト「!」
削板「だろうな。じゃなきゃそんな顔するはずがない」
御坂「でも、私が潰したようなものよ。私があの人を置いていかなきゃ、今ごろピンピンしてたはずよ」
スキルアウト「???」
スキルアウト「おい、馬鹿にも分かるように説明しろや」
御坂「……」
再び少女は口を閉じる。
まるで何かを躊躇しているようだった。
原谷「悪いけど、僕たちも引き下がれないよ。仲間が殺されかけたんだ。なんであの人がああなったのか、知る権利くらいあるよね?」
御坂「…………あの人は、私の………そうね、妹、を助けてくれたの」
慎重に、余計な情報を漏らさないように言葉を選びながら御坂は答えた。
削板「ほう、お前に妹なんていたのか」
スキルアウト「……あ? んじゃ、ライフル持ってたヤツがお前の妹?」
スキルアウト「なんで横須賀さんはシメにいったヤツ助けてんだよ」
御坂「……詳しいことは言えないけど、あの人は私と妹を逃がして敵と戦ったの。私はそこまでしか知らないわ」
インデックス「やっぱりよこすかは根性あるんだよ。ところでその妹さんは?」
スキルアウト「そうだ。助けてもらったんだろ?」
スキルアウト「礼の1つでも言いにくるのが筋ってモンだろ」
御坂「………今は動けないの。全身、ボロボロで……脚、脚もちぎられて……」
ツー…、と御坂の頬を一筋の涙が伝った。
原谷「!?」
スキルアウト「あ、脚ちぎられた?」
スキルアウト「ど、どんな化け物と戦ってたの? オメーの妹」
だが、少女はすぐには答えられなかった。
凄惨な光景がフラッシュバックし、今では肩を震わせて嗚咽をもらしている。
動転した気を落ち着かせ、ようやく少女は口を開く。
御坂「……グスッ、これ以上は言えない」
削板「言えないってどういうことだ? お前が知ってることはまだ何かあるのか?」
スキルアウト「せめて敵がどんなヤツかくらい言えや。1人か? 複数か?」
スキルアウト「そんな説明で納得できるわけねーべ」
御坂「ダメよ。今のでも話しすぎたくらいだわ。これ以上はアンタたちも巻き込みかねない」
突如として、少女の声に覇気が籠もる。
よかれ悪かれ、少し泣いたことで止まっていた感情が動きだしたのだ。
彼女本来の正義感と責任感、何よりも屈強な精神が戻ってきた。
瞳から消えていた輝きが再び灯り、絶望に打ちのめされた少女をLevel5第三位の【超電磁砲】へと変えていく。
インデックス「……聞いた限りだと、あなたはとてつもなく大きくて怖い出来事に巻き込まれてる。そういうことなのかな?」
御坂「ええ、そうね。そこまで理解できてるならさっさと消えてほしいんだけど」
先ほどまで肩を震わせていた少女はもはや完全に臨戦状態へとシフトしていた。
そのせいか傍若無人な態度が前面に出ていた。
インデックス「なら、いったいどんな出来事に巻き込まれてるの? 教えてほしいんだよ」
だが、修道服を着たシスターはその少女に対して少しも怯まなかった。
御坂「……アンタ話聞いてたの? 教えるわけにはいかないって言ってるのよ」
インデックス「どうして?」
御坂「これは本当に大きな事件なの。下手したら学園都市をひっくり返すくらいのね。
アンタたちじゃ何もできないし、私の問題に巻き込むつもりもない。
知りすぎたから暗殺されるなんてベタな最期を迎えたくなければ引っ込んでなさい」
バチチ、と少女の周りにスパークが走る。
それは威嚇しているようでもあり、警告しているようでもあった。
インデックス「……ふーん。抽象的すぎてイマイチ分からないけど、それは英国の軍事力と権力の一角と同じくらい強大な敵なの?」
御坂「……は?」
一瞬、御坂は肩透かしを食らったような気がした。
目の前のシスターは怯むどころか意味の分からないことを言い始めた。
インデックス「1人で魔術結社を潰せるプロの魔術師よりも、世界に20人といない【聖人】よりも
頭の中で思い描いたイメージを全部実行できる錬金術師よりも、暴走した10万3000冊の魔導書よりも恐ろしい敵なの?」
御坂「アンタ、なに言って……?」
インデックス「よこすかも、やぶみも、ぐんはも、みんな私を助けるために
ただベランダに引っ掛かってただけの私を助けるためだけに地獄の底までついてきてくれたんだよ。
そんなとてつもなく大きいだの学園都市をひっくり返すだのなんて形容詞に怯むような根性なしじゃないかも」
御坂「……」
先ほどまで気を張っていた少女は呆気に取られていた。
だが、なぜだか分からないがこの少女には言葉で説明できない説得力があった。
インデックス「当然、私もね!」
フンス、と胸を張るシスターを見て、少女は不思議な感情に包まれた。
削板「……自己紹介が遅れたな。俺はLevel5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇だ」
御坂「!」
削板「モツのことは……まぁいい。昨夜のそれはアイツのケンカだ。野暮な真似したら俺がアイツに殺される。
だが、目の前でそんな顔した女を放っておくことなどできん。仮にもお前と同じLevel5だ。何かしら力になれるぞ」
御坂「でも……」
原谷「早く全部しゃべって楽になった方がいいよ? この人スイッチ入ったら意地でも助けるから」
御坂「……」
スキルアウト「俺たちは……正直何できっかわかんねーけどよ」
スキルアウト「横須賀さんがあそこまで身体張ったんだ。俺たちが後を継ぐのが筋だろ」
ここまで言われて、御坂はとうとう決心した。
御坂「………………『絶対能力進化実験』」
インデックス「?」
御坂「アンタたちが知ろうとしてる学園都市の闇よ。
【樹形図の設計者】を用いた演算の結果、Level6たる絶対能力者になれる人物は一方通行のみと判明した。
現在Level5第一位の一方通行がLevel6となるためには2つの手段の内いずれかが必要とされる。その方法は」
スゥッ、と御坂は息を吸った。
御坂「通常のカリキュラムを250年かけて行うこと」
御坂「もしくは【超電磁砲】を128回殺害すること」
削板「!?」
御坂「物理的に一方通行に250年かけてカリキュラムを行わせることは不可能。
【超電磁砲】を128体確保することも不可能。代案として【超電磁砲】のクローンを用いることを検討した」
御坂「数年前に発案された『量産型能力者計画』を流用し、Level2~Level3程度の強度を持つ【超電磁砲】のクローンと戦闘を行わせる。
【樹系図の設計者】に演算を依頼したところ、
【超電磁砲】のクローンである『妹達』を2万通りの戦闘で2万体殺害することで一方通行がLevel6に進化することが判明した」
原谷「……」
御坂「……私も知ったのは昨日よ。実験を見たのも昨日が最初。だから、あそこに飛び込んでいったの」
スキルアウト「……お、おう」
スキルアウト「……ダメだ。全然ついていけねー……」
インデックス「ぐんは、クローンってなに?」
削板「えーと、DNAから創られたそっくりな人造人間、というところか?」
御坂「簡単に言えばね。前に筋ジストロフィーっていう病気を治すためにDNAマップを提供してくれって言われたことがあったの」
原谷「は、はあ!? じゃあそれを悪用されたの!?」
御坂「ええ。……今にしてみれば本当に迂濶だった。私の不注意が元々の原因よ」
原谷「イヤ、それは違うでしょ!! アンタのしたことはとんでもなく尊くてスゴいことだよ!!」
ふいに、今まで冷静だった原谷が激昂した。
インデックス「やぶみ……?」
御坂「……何よ。アンタに何が分かんのよ」
原谷「善悪の判断くらいつくわ!! なんで正しいことしたアンタが責任感じてんだ!!」
だが、その様子はいつものそれとは違う。
もっと真に迫るような、本当に激昂している様子だ。
スキルアウト「お、おい、落ち着けヤブミン」
原谷「フザけん……イヤ、違う!!! マズいだろ!!?? アンタさっきなんつった!!??」
ガッ、と原谷が御坂の肩に掴み掛かった。
御坂「きゃっ!?」
ガラの悪い集団の中で唯一まともな学生に見える男の豹変に、思わず御坂も怯んでしまった。
削板「やめろ原谷! 手ぇ出すのは
原谷「そうじゃない!!! その実験ってのは2万人捌かなきゃならないんでしょ!!??
だったらここでこんなコトしてる場合じゃないでしょうが!!! 何してんだよ!!??」
バッ、と止めに入ろうとした削板の手を瞬時に振り払い、原谷はさらに激昂していく。
スキルアウト「や、ヤブミンが壊れた?」
原谷「考えろよ!!! 2万人だぞ!!?? 1日10人捌いたって5年半はかかるんだ!!!
おまけに屋外でやってるなら昼日中に堂々やるはずがない!!! やるなら夜か……早朝!!!」
御坂「!!」
原谷「インターバル挟んでるのかどうか知らないけど、下手したら今この瞬間にだって実験が行われてる可能性だって……!!」
ダッ! と御坂がソファーから飛び降りて一目散に駆け出した。
インデックス「わっ! 待って、たんぱつ!」
だが、外に出たわけではない。
向かった先はフロアの隅。
目立たないところで申し訳なさげに存在している公衆電話。
そこに自分の端末を手際よく差し込み、御坂は電子の世界へダイブした。
御坂「お願い、これ以上、あの子たちを……!!」
瞳いっぱいに涙をため込みながら、御坂は情報を探していく。
あらゆるセキュリティを破壊し、あらゆるパスワードを解除し、たどり着いた先には
御坂「……!? こ、これって……?」
-時を遡り、深夜、第三学区とあるホテル
第三学区のとあるホテルのVIPルーム、さらにその両隣のVIPルームは1週間の間とある個人の貸し切りだった。
フロアの廊下には黒服が数人と警備ロボが数体立ち、部屋の扉は厚さが1mある上に静脈認証以外では開けられない。
更には対能力者用に『AIMジャマー』が随時機能している。
下手に能力を発動しようものなら、能力が暴走して自爆すること請け合いだ。
大きな窓ガラスは強化ガラスであり、銃弾ごときでは砕けやしない。
部屋に監視カメラの類いはもちろん存在しない。部屋の中のクリーニングはロボット任せである。
備え付けの金庫に至ってはミサイルでも直撃しない限り壊れないほどの頑丈さだ。
プライバシーに対する保護は完全完璧。セキュリティは学園都市最高ランク。
となれば、貸し切っている人間もそれなりの人物である。
貝積継敏。学園都市統括理事会の1人である。
貝積「……うむ、これでよし」
彼は1日の公務を終え、既にパジャマ姿だった。
シャワーも浴びたし歯も磨いた。今は就寝前のメールチェックを終わらせたところだ。
2、3通のメールに目を通し、緊急のものがないことを確認すると、彼はパソコンを閉じた。
こんな時間に寄越すメールだ。向こうも返信がくるとは思っていないだろう。
部屋の明かりはベッドランプだけ残し、パジャマ姿の老人はふかふかのベッドへと潜り込んでまぶたを閉じた。
最高の寝心地のベッド。最高のランクのセキュリティ。最高の快適さを誇る環境。
世界でこれ以上安心して眠れる部屋など存在しないだろう。
そんなことを考えながら、貝積継敏はまどろんでいった。
ちょうどその時。
ガチャリ、と扉が開いた。
貝積「……?」
ゆっくりと老人は半身を起こす。
あり得ないことに、侵入者だ。
黒服ではない。彼らではこの部屋に入れない。
どんな方法かは分からないが、黒服も警備ロボもAIMジャマーも静脈認証もすり抜けてきた人物がいるのだ。
思わず老人の身体が強張る。
パッ、と部屋の明かりが点いた。
少し間を空け、老人は軽くため息をついた。
貝積「……キミか」
なんてことはない。
侵入者は黒服と警備ロボの前を堂々と歩いてきたのだ。
静脈認証は元々登録してあったのだ。
なぜなら侵入者は
雲川「起きろ貝積。嬉しい報せだ」
老人のブレーンである女子高生だったからだ。
貝積「こんな時間にわざわざ私の部屋まで来るほどの報せかい?」
楽しそうな顔をしている女子高生を前に、老人は若干の苛立ちを顕にした。
こんな時間に就寝を邪魔されれば誰でもそうなるとは思うが。
雲川「ああそうだ。メールや電話ではいささか都合が悪いのでな」
だが、セーラー服姿の女子高生の方はまるで気にしていなかった。
興奮した顔でうっすらと笑みを浮かべている。
貝積「ほう? いったいなんだい?」
雲川「『絶対能力進化実験』を止める算段がついたけど」
女子高生は爛々とした目で即答した。
一瞬の沈黙があった。
貝積「……」
そして、老人は首を横に振った。
貝積「……キミが自分の休日を返上してそれにあたっていたのは知っている。
だからこそ、昨年からやたら休みを要求するキミに応えてあげた」
雲川「当然だ。優先順位で言えば、実験が開始された時点で最下位だ。
やらなければいけないことは他にいくらでもある。これはもはや私のプライベートな案件だけど」
貝積「ああ。そして私はキミの試みが上手くいってなかったことも知っている」
雲川「そうか。だが、今回は今までとは違う。もっとシンプルなやり方だよ」
貝積「ほう? いったいどんな方法だ?」
雲川「根回しや権力で止めようとするからダメだった。もっと単純に、実験そのものを破壊すればよかったんだ」
貝積「……つまり?」
ニヤリ、とカチューシャをつけた女子高生は笑った。
雲川「一方通行を倒せばいい」
貝積「……分からないね。いったいどうしてそれが実験を止めることになる?」
雲川「気づいてしまえば簡単な話だ。『絶対能力進化実験』は一方通行が最強であるという前提で動いている。
ならば、Level5最強であるはずの一方通行が最強じゃなければ? 最弱なLevel0の無能力者に負けてしまうほど弱ければ?」
女子高生は更に深く、笑みを浮かべる。
雲川「実験の前提は覆ってしまうと思わないか?」
だが、そんな何かにとり憑かれたように興奮している女子高生を目にして、老人は落胆した顔をした。
貝積「……つまり、彼はキミの差し金か」
雲川「彼? なんの話だ?」
貝積「先ほど横須賀くんが実験に介入したらしい。
残念ながら、無惨にも敗北したそうだ。だからキミの計画は既に破綻してるよ」
雲川「プッ、アッハハハハ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
突如、老人のブレーンは腹を抱えて笑い始めた。
雲川「おいおい、どうした貝積! 呆けたか!?」
目尻に浮かぶ涙を人差し指で拭いとり、雲川は楽しそうに言い放った。
雲川「Level0の無能力者なら目の前にいるけど?」
ぽかん、と老人は口を開けた。
開いた口がふさがらなかった。
ややあって、ようやく老人は動き始めた。
貝積「『AIMジャマー』か? 『キャパシティダウン』か?」
雲川「おいおい。おいおいおい。本当に呆けたのか? 貝積」
もはや狂気とも言えるような笑顔でブレーンの少女は話し続ける。
雲川「重要なのは一方通行という人間ではなく一方通行という能力だ。
その能力を封じて倒したのでは前提は覆らないけど。ヤツの能力に制限をかけるような真似はしない」
貝積「無茶だ! 倒せるわけないだろう!」
ここに来てとうとう老人が声を荒げた。
貝積「相手は軍隊クラスの戦闘能力を有しているんだ! キミにそれほどの力があるのか!?」
雲川「相手が1人の人間であることには変わりないけど」
セーラー服の少女は肩をすくめた。
雲川「とはいえ、もちろん道具は使うけど。『妹達』も武器の使用は許されている。
無傷で帰ってくるつもりはない。でも、死ぬつもりもない。貴様には【瓶詰工場】にある私の部品を一通り準備しておいてほしい」
くるり、と女子高生は踵を返して扉へと向かった。
貝積「待て! いったい今いくつの案件を抱えていると思っている!
この実験と同じくらい止めなければならない悲劇が山ほどあるんだ! 分かっているのか!?」
雲川「だから、死ぬつもりはないけど。自爆するくらいなら最初から突っ込んでいた。勝てる算段がついたから挑むのだけど」
ニッ、と少女は肩越しに笑ってみせた。
そして、有無を言わさぬ彼女の覚悟を前に、老人はもう何も言えなかった。
雲川「……【瓶詰工場】の部品を準備しておけ。頼んだぞ」
丈の短いセーラー服をなびかせ、少女はVIPルームを後にした。
今回はここまでです。
なかなかペースが早まらない……
レスありがとうございます。
新スレ立つのを待っていた方が多いようで本当に嬉しいです。
ぜひ最後までお付き合いください。
正直クロス書いてた時に変な方向で暴れさせすぎたので書くのが怖いですが……w
ノロウイルスやインフルエンザが流行っているらしいので皆さん気を付けてください。
-早朝、第七学区倉庫街
天気は雨だった。快晴だった昨日とは打って変わって厚い雲が空を覆っていた。
昨夜の辺りからかなり雲が出ていたので、この雨は簡単には止みそうにない。
一方通行「くァ……ン。……毎日毎日遅寝早起きってなァいただけねェな」
うっすらと空が明るくなったころ、白髪の人物が欠伸を隠しもせず倉庫の連なる通りを闊歩していた。
あちこちに水溜まりができているのだが、髪も服も靴もまったく濡れていなかった。
こんなにも朝早くから出歩いている理由は、もちろん健康のためなどではない。
とある実験を行うためだ。
『絶対能力進化実験』における第9983次実験。あと10分もすればその実験は開始される。
ちなみに、前回の実験は散々だった。
邪魔が入った上にクローンにトドメをさせなかった。
結果的には『邪魔が入らなければ殺害は成功したと判断できるため、実験を続行する』という結論が出されたが。
更に深夜には『実験に僅かなズレが生じたため、第9983次実験は場所を変える』と連絡がはいった。
何をどう計算したらその結論に至るのかは分からないが、とにかく一方通行は指定された場所に向かった。
雨を弾き飛ばしながら細い道を歩いていくと、ちょっとした開けた空間が見えてきた。
ロボットが倉庫の荷物を棚卸しする以外は滅多に往来がないこの通りには普段から人の気配はない。
倉庫の方はコンクリート造りであり、重厚な鉄の扉が設置されている。
開けた空間には倉庫の扉が面しており、その倉庫の両脇に同じように細い道があった。
もうすぐこの場所も戦場に変わってしまうだろう。
一方通行「……?」
しかし、深夜に連絡があったその場所にはまだ誰もいなかった。
いつもなら見飽きた顔が見飽きた表情に見飽きた装備で先に待っているはずなのだが、今朝はまだ姿を見せていない。
一方通行「……なンだ、呼び出しといて遅刻ですかァ?」
???「いいや、定刻通りに動いているけど」
返事を求めていない独り言に返事があった。
一方通行「あァ?」
スッ、と一方通行から見て倉庫の右側の通路からビニール傘をさしたセーラー服の少女が出てきた。
雲川「はじめまして、一方通行。私の名前は雲川芹亜」
含みのある笑みを浮かべ、少女は開けた空間に足を踏み入れた。
一方通行「……はァ、昨日に引き続きまた侵入者かよ。ホントにセキュリティはどォなってンだ」
ガシガシと一方通行は頭を掻く。
その様子は心底うんざりしているようだった。
雲川「ちゃんと機能しているけど。ここじゃないところで」
一方通行「さっきからなに言ってンだ? オマエ」
雲川「昨夜に実験場の変更の連絡があっただろう? あのメールの差出人は私だよ。実験場が変更されたというのは嘘さ」
少女は笑みを崩さない。
自信たっぷりに一方通行の前に立ちはだかっている。
一方通行「……へェ、なかなか愉快なイタズラしてくれるじゃねェか」
ギロリ、と一方通行が雲川を睨み付ける。
一瞬で一方通行を纏っていた空気が変わった。
一方通行「なンで実験のこと知ってンのかも俺のアドレス知ってンのかもどォでもいい。
だが、実験を妨害するってンなら許さねェ。どこの回しもンか知らねェがイタズラで済まないことしたと後悔させてやる」
ドガガガガガガガ!! と銃弾の雨が降り注いだ。
だが、それは一方通行を狙ったものでも雲川を狙ったものでもない。
2人のちょうど中間に、2人を区切るように撃たれた。
一方通行「……?」
自分を狙ったわけではない無駄撃ちの銃弾に、一方通行は一瞬動きを止めた。
そうしている内に雲川はすでに動いていた。
雲川「後悔させたいならどうぞご自由に」
銃弾の雨が止んだ。
セーラー服の女は傘を投げ捨てて少しだけ移動しており、重厚な倉庫の扉を開け放って入口に入っている。
雲川「だが、私は自殺志願者ではない。精一杯抵抗させてもらおう」
バドム、と雲川は重たい扉を閉じ、見えなくなってしまった。
一方通行「……はァ、やっぱダメだな。全っ然ダメだ」
天に顔を向け、一方通行はため息をつく。
先ほどの銃撃は固定されたライフルによるものだ。
よく見れば雨にやられないようにくりぬいた箱をかぶせ、その上からシートまでかぶせて倉庫の屋根に設置されているのがここからでも見える。
一方通行「最強ごときじゃここまでナメられる。これじゃァダメだ」
そもそも彼は最強では満足できないからこの非人道的な実験に手を出したのだ。
最強では足りない。もっと絶対的な、敵対することすら断念する力を欲していた。
にもかかわらず、昨日に続いて今日までも敵対してくる馬鹿が現れた。
知らずに敵対してくるならまだしも、自分がLevel5第一位である一方通行だと認識しながら敵対してきた。
一方通行「……削がれてたヤル気に喝入れてくれてどォもありがとォ。お礼にたっぷり後悔させてやるよ」
再確認した。最強などではとても足りない。
これ以上敵対しようなどという馬鹿を出さないためにも『絶対能力進化実験』は必要だ。
邪魔する馬鹿は全部潰す。
濡れたアスファルトを踏みしめ、歩を進める。
重厚な扉のドアノブに手をかけ、壊れんばかりに力強く開けた。
一方通行「?」
アルビノの目に飛び込んできたのは巨大なスポットライトのようなものだった。
それが入った瞬間に点灯し、前と左右の3方向から一方通行を照らす。
一方通行「……へェ」
予想だにしないものがいきなり出てきたことに少々面食らったが、一瞬間を置けば理解できる。
馬鹿は馬鹿なりにいろいろ考えたらしい。
一方通行「強力な紫外線ってとこか。直視すりゃァ一瞬で水晶体をやられて白内障か」
物理などの直接的なダメージは反射されて自滅する。
ならば、光を使って永遠に視力を奪う。そうなれば致命的なダメージだ。
今後の戦闘に支障をきたすことは間違いない。
だが、光を直視しているこの人間は少しも動じなかった。
一方通行「及第点以下だクソボケ」
ゴシァ!! と巨大な光源は粉々に砕かれた。
一方通行の拳が突き刺さり、ガラスがとてつもない勢いで弾け飛ぶ。
さらにはそのガラスは意思を持っているかのように他の2つの光源に高速で襲い掛かり、それらも破壊した。
一方通行「有害なモンは全部反射するように設定してあンだよ。光も例外じゃねェ」
それが【一方通行】という能力。正確にはその片鱗だ。
あらゆるベクトルを観測し、触れただけで変換してしまう能力。
平常時は常に『反射』に設定されており、銃弾だろうが電撃だろうが拳だろうがベクトルを完全に反転させる。
そしてそれは光も例外ではなかった。
害のない光だけは一方通行まで届くが、有害光線は例外なく反射された。
雲川「……できれば倒れてほしかったけど。ま、それなら苦労はしない」
窓がないために薄暗い倉庫の奥から声がした。
よく見れば、高く積まれた段ボールの隙間から壁ぎわの階段の上の方に先ほどのカチューシャをつけたセーラー服の女がいた。
雲川「生憎、私は肉弾戦には向いていないのでね。こんな戦い方に依存するしかないんだ。逃げ回らせてもらおう」
タンタンッ、と丈の短いセーラー服の女は最小限の動きで上階へと姿を消した。
ホコリのすえた匂い。
裸電球の頼りない光源。
分厚いコンクリートの壁。
薄暗さと遠くから聞こえる雨の音の効果で不気味な空間が出来上がっていた。
一方通行「やれやれ。馬鹿の相手ってなァ疲れるな」
だが、この怪物はその程度の演出で躊躇するような臆病者でもなければ弱者でもない。
破壊したライトの上から薄暗い倉庫の中を見渡すと、簡単に上階へはたどり着けないようになっていた。
上に上がる手段は3つある。
中央に設置されている荷物運搬用のエレベーターか、先ほど女がいた壁ぎわの階段、その反対側の階段だ。
しかし、元々の配置なのか事前にわざわざ動かしたのかは分からないが、大きな機材や巨大な段ボールが通路を限定するように置かれている。
恐らく通路にはワイヤートラップなどをはじめ、山ほどのトラップが仕掛けられているだろう。
一方通行「アホくせ」
ふわり、と一方通行の身体が浮く。
自身にかかっている重力のベクトルを変換し、飛行を可能にさせたのだ。
そして、そのベクトルを進行方向へと変換。
高く積まれた段ボールを易々と飛び越え、ものの一瞬で階段の終わりにまでたどり着いてしまった。
カン、と1歩進むと完全に2階のフロアへと上りきる。
首を左に回せば、フロアの中央で立ち尽くしている先ほどの女の後ろ姿が見えた。
一方通行「しこたまトラップ仕込んでたみてェだが、なンの効果もねェよ。
そもそもかかったところでダメージになるとはまるで思えねェがなァ」
ニタリ、と一方通行は嘲るように笑う。
雑魚が必死になって積み上げた努力。それをただの一手で台無しにする。
相手に圧倒的な格の違いを見せ付けて絶望させるには効果的なやり方だ。
雲川「それは残念。ま、この程度で倒れたら苦労はしない」
こもった声で軽口を叩く。
くるり、と雲川は一方通行の方を振り返った。
一方通行「ア?」
だが、そこには端正な顔立ちはなかった。
彼女の顔にはゴツゴツとした軍用の防毒マスクが装着されていた。
雲川「お前が引っ掛からないならしょうがない。私が自分で切るけど」
スッ、と雲川はスカートのポケットの中から小型の十徳ナイフを取り出す。
そして、そのまま何もないように見える彼女の左手側の空間に逆手に持ったナイフを振るった。
ブシュウウウウ! と四方八方から一方通行のいる地点に向けて煙が吹き出される。
一方通行「……」
煙は一気に噴出し、2階のフロア一杯に広がっていく。
既に一方通行からは3m先も目視できないほどの煙が充満していた。
雲川「ちょっとした神経毒さ。分かりやすいだろう?」
その頃、カチューシャをつけた女はフロア奥に向けて走っていた。
いくら防毒マスクをつけているとはいえ、着ている服はセーラー服だ。
ガスのたまった空間に長々といたくはない。
奥の階段付近に設置されている通気孔に積極的に空気を取り込ませるように細工を施し、更に喫煙者用の空気清浄器いくつか設置してある。
ちょっとした安全圏を確保し、そこに待機すれば毒ガスからは逃れられるという寸法だ。
ここまでは想定通り。イヤ、それ以上。
雲川「まともに吸い込んだらタダじゃすまない。演算もできないくらいにな」
一方通行「……」
物理はダメ。光もダメ。ならば今度は空気だ。
神経へ影響を与える毒ガスによって体内から肉体へ、脳へダメージを与える。
神経がやられればまともに演算もできるまい。
雲川「そんな状態で、数百キロの鉄の塊が突っ込んできたらどうなる?」
再び雲川はスカートのポケットの中に手を突っ込み、中から小型のリモコンを取り出す。
液晶画面の表面に指を滑らせると、エレベーターのそばで充電されていた作業用の無人ロボットが動きだし、ガスの中で動き回る。
ただ荷物を運ぶだけのロボットであり、兵器でもなんでもないものだ。
だが、数百キロの重量をもつ機械が移動すればそれだけでとてつもないエネルギーが生まれる。
華奢な肉体を破壊するには十分すぎる力だ。
一方通行「バァカ」
ガン! という音が響いた。
それと同時にガスの中からロボットが飛び出てきた。
雲川「っ!」
慌てて雲川は身を翻す。
間一髪でロボットをかわすことに成功し、ロボットは壁に激突した。
一方通行「有害なモンは全部反射してるっつってンだろォが。
オマエが今つけてるマスクと同じで有害なモン取りのぞいて無害なモンだけ取り込めるンだよ」
スタ、スタ、とゆっくりとした足音が聞こえてくる。
この怪物には毒ガスも有害光線も何1つ効いてはいない。
雲川「チッ……!」
それを感じ取り、雲川はすぐさま階段を降って再び1階のフロアへと逃げ出した。
一方通行「アッハハァ、逃げろ逃げろ! 追いつかれたら死ンじまうぞ!」
余裕たっぷりに一方通行は相手を煽る。
最強であるからこその、相手を絶望に陥れるための行動だ。
一方通行「追いつかれたらせっかくのトラップも台無しだぜェ!? まだなンか仕込ンであンなら景気よく使わねェと……っと」
ピリリリ、と電子音が鳴った。
しかし、これはトラップの音ではない。
ポケットに入れてあった携帯電話の着信音だ。
一方通行「……そォいや忘れてたな」
雲川(……ここまでは想定通り)
小走りで機材の隙間を縫いながら、防毒マスクを放り捨てた。
とりあえずはここまでやってこれた。
雲川(無意識で行われる反射はいくら心を乱しても崩壊しない。そんな能力者に恐怖心や絶望を与えたところで無意味)
彼女は統括理事会のブレーンである。
その才能を遺憾なく発揮し、学園都市の闇でも君臨してきた。
その理由は、話術のみで人心を掌握できてしまうからだ。
まともな人間なら彼女と対立した時点で確実に破滅に追いやられる。
しかし、相手が一方通行となれば話は別だ。
寝てようが起きてようが常に反射膜が展開されているのでは話にならない。
雲川(とはいえ、戦闘の流れそのものをコントロールすることは可能だ。ヤツは既に術中にはまった……!)
しかし、それでも精神を掌握することはできる。
それができれば相手の行動をある程度制限できる。
戦闘において格上が格下にとる行動は大まかに分けて2つ。
相手に何もさせず一瞬でケリをつけるか、相手のすべてを全部正面から攻略するか。
一方通行は明らかに後者。
陳腐なスキルアウトが相手なら前者だが、実験を通して分かったように相手が何かしらの策を講じてきた場合にはそれを楽しむ傾向がある。
そうして正面から策を突破し、格の違いを見せつける戦い方を好むのだ。
それを利用すれば、流れをコントロールすることも多少なり可能となる。
飛び散った無数のガラスの上をローファーで歩き、雲川芹亜は元の出入口までたどり着いた。
雲川「……ふぅ……?」
多少乱れた息を整えつつ、雲川は思わず振り返った。
しかし、グシャグシャになった巨大なライトの残骸がそこら中に転がっているだけだった。
雲川(ここに来るまで2回は追いつかれるはずだったけど……)
短髪の白い髪が少しでも見えないかと目を凝らすが、何も見えない。
段ボールや機材の死角に入っているわけでもなさそうだ。
雲川(そもそもヤツにはそんな真似をする必要性がないけど……まあいい、好都合。より確実で安全な方法にシフトする)
ギィ、と雲川は重たい扉を開けた。
一方通行「タイムアップ」
雲川「!?」
その瞬間、雲川の背後には白い髪をした悪魔がいた。
雲川「ゴハッ!?」
強烈な掌底が雲川の背中にたたき込まれる。
肺の中の空気をすべて吐き出させられながら、開け放っていた扉から雲川の身体が放り出される。
受け身もろくにとれないまま、雲川は濡れたコンクリートの上をゴロゴロと転がっていった。
雲川「カハッ、ゲホッゴホッ!」
四つんばいになりながらなんとか身体を起こす。
しかし、ただの女子高生程度の肉体しかもたない雲川にはかなりのダメージだった。
掌底はもとより、受け身もとれずにコンクリートに叩きつけられたこともダメージとなった。
一方通行「残念ながらお時間だ。上から電話がかかってきてよォ、寝坊してンじゃねェかと勘違いされちまった」
雲川「……一応、ジャミング電波も流してあるはずだけど」
一方通行「知らねェよ。どォもクローン共がこっち向かってるみてェだからそいつらがなンかしたンじゃねェの?」
雲川「……」
この瞬間、雲川を絶望が襲った。
学園都市最強と真っ向から対峙したためか、自ら安全な方へとシフトしてしまった。
その結果、最悪のタイミングに最悪の場所で捕まってしまった。
一方通行「あァ、オマエの切り札だったコイツはちゃンと持ってきてやったよ」
雲川「!?」
ビチャ、と一方通行が何かを放り投げる。
それは、あまりにもあからさまな1本の筒状の爆弾だった。
一方通行「オマエが外に逃げ切った瞬間、そこら中に設置されてるコイツをドカン。そのまま倉庫を崩壊させて俺を生き埋めにする。
なンて作戦を今さらとるはずねェな。倉庫は妙に頑丈な上に通気孔は小さいモンしかねェ。
オマエの作戦は倉庫内の酸素を一気に燃焼させて俺を酸欠状態に陥らせるってところか。段ボールの中は火薬かなンかか?」
グシャリ、と爆弾は踏み潰された。
一方通行「さァて、時間も押してるからさっさと済まそォか」
ドゴッ! と一方通行の足が雲川の腹にたたき込まれた。
雲川「ごボッ!!」
再び体内の空気が全部吐き出されたような感覚が雲川を襲う。
さらには強烈な吐き気がした。
あまりの苦痛に雲川は腹を押さえてしゃがみこんでしまった。
雲川「うぇ、ゲホッ……」
一方通行「ほらほら、グロッキーになってンじゃねェよ」
俯いていた顔に再び一方通行の足が迫る。
ぐぐもった嫌な音が開けた空間に響き渡った。
雲川「が、ハ……!」
ドチャリ、と雲川はコンクリートの上に仰向けに倒れこんだ。
端正な顔立ちは真っ赤な血と青アザで見るも無惨になっていた。
一方通行「おーおー、イカしたメイクになったじゃねェか。馬鹿にはお似合いだぜ?」
その時だった。
一方通行「お?」
降っていた雨の勢いが急激に増した。
ザアアアアアアアアアア!! という音が学園都市中で聞こえた。
局地的な大雨。ゲリラ豪雨だ。
一方通行「ハッ、いい雨だな。より一層惨めに見えるぜ? クソ女」
鼻で笑う一方通行にはただの一滴も雨粒が当たらない。
対して、雲川の身体は雨に打たれて全身がグショグショになっていた。
だが、しかし
雲川「………ぷっ、あはは」
よろり、と雲川は手をついて身体を起き上がらせる。
雲川「アハハハハハハハハハハハ!!」
ふらり、ふらり、とバランスを崩しながらもなんとか立ち上がる。
一方通行「オイオイ、壊れちまったか?」
この時、天は雲川に微笑んでいた。
雲川「くっくっく、日頃の行いの違いかな」
ほんの数歩。最後の力を振り絞ってほんの数歩だけ、雲川は一方通行に近づいた。
一方通行「アァ?」
一方通行には反射がある。
ダメージを与えるにはこれを越えなければならない。
しかし、一方通行に有害なものはすべて反射されてしまう。では、どうすればいいのか?
当たる寸前で物体を引き戻す?
ただの女子高生程度の身体能力と動体視力しかない雲川には自分の身体を用いても兵器を用いても不可能。
無害で有害なものをぶつける?
そんなわけの分からない物質はこの世にない。
ならば、答えは
雲川「ハァ、ハァ……喜べ一方通行。お前の負けだ」
体内にある無害なものを有害に変えれば―――――
一方通行「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??」
突然一方通行が絶叫した。
それだけではない。手を背中に回してのたうち回った。
一方通行「ゴァ!? ゲッ、ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
もはや一方通行は立っていることすらできない。
前後不覚になり、コンクリートの上をバシャバシャと転げ回っている。
雲川「ハァ……ハァ……!」
その様子を見て雲川は思わず笑った。
思わず拳を握った。
決着はついた。
勝利だ!
雲川「……『オジギソウ』。コイツを手に入れるのにずいぶん時間がかかってな」
ダイナマイトは雲川の切り札ではなかった。
切り札は毒ガス。それと一緒に封入していたナノマシンだ。
特定の周波数に応じて特定の反応を起こす反射合金の粒。
それを毒ガスに混ぜ、一緒に空気中に散布した。
30秒近くその場で呼吸を行った一方通行は、浮いてるだけでは無害なこの粒をかなり吸い込んでしまっただろう。
その無害な粒子が、それそのものは無害な、肉体を透過する特殊な周波数に反応し、体内で暴れ回る。
これを動かすために一定以下の距離まで一方通行に近づく必要があったのだ。
爆弾はただの着火剤だ。その目的は段ボールを燃やしてスプリンクラーを回すこと。
自身にも付着していたであろう『オジギソウ』を洗い流すためだ。
しかし、それとて火の海に身を置くリスクがあったので一番は手っ取り早く着替えて髪を切ることだったのだが。
本来なら、外で捕まった時点で雲川の負けだった。
しかし、幸運にも天は雲川に味方し、ゲリラ豪雨は雲川の身体を洗い流した。
一方通行「アアアアアア!!! カ、ア! アアア、あ」
雲川「そろそろ肺を食い潰したか? アッハハ、いい表情じゃないか。外道にはお似合いだけど」
血走っているせいで赤いのはもはや瞳だけではなくなっていた。
その眼を見開き、苦痛の表情を前面に出しながら一方通行はアスファルトの上を転げ回る。
あまりの異常事態に反射は消え、今や血と雨でぐちゃぐちゃだった。
ただでさえ痛みに慣れていない一方通行が細胞単位で削り取られる痛みに耐えられるはずがない。
一方通行「ギ、グ、エエ、ア、ガ」
雲川「おや、血流に乗ってあちこち食い破ってるようだな。ま、9982人分の苦しみにはまだまだ遠いだろうけど」
黒い衣服に血が滲んでいく。
体内に取り込まれた『オジギソウ』は、今や血流に乗って全身を巡っていた。
それを雲川は残忍な笑顔で見下ろす。雲川芹亜は決して優しい女ではない。
実験という大義名分の下、大きな悲劇と殺戮を巻き起こした傲慢な人間を許すはずがない。
それは幼いころに経験した地獄の底だ。一歩間違えれば妹やどこぞの根性バカと一緒に沈んでいた。
自分の頭脳と力が及ぶ限り悲劇は起こさせない。
それが彼女の根性だ。
雲川(……あの馬鹿はこんなやり方を根性なしと評するだろうけど)
細胞を1つ1つ剥がすこのナノマシンはとても強力だ。
たとえ一方通行とて、この激痛の中で演算は行えない。
今から反射膜のリストを再編することは不可能。故に、それそのものは無害な周波数を遮断することはできない。
このような戦い方を、その身1つで正面からぶつかる根性バカは認めたがらないだろう。
一方通行「う、ガ、あァ……ゴ、ア」
華奢な身体の動きがようやく鈍くなってきた。
いよいよ絶命が近いと見える。
雲川「想定より時間がかかったが、吸い込んだ粒子の数が少ないのは仕方ない。
あまり多いとお前なら気付きかねないからな。その分『妹達』の苦痛に思いを馳せることができただろう?」
一方通行「ゲ、アア、ア……」
雲川「さて、取引だ」
見下ろしたまま、『オジギソウ』を起動させたまま、雲川は本来の目的に動いた。
雲川「勝敗は決した。あとはお前を生かすか殺すかなわけだけど……
今後、生存している10019体の『妹達』を生かす資金が必要だ。
その費用をすべてお前が捻出しろ。なに、お前の資金力なら多少借金する程度で済む。別の実験に精を出せば――」
一方通行「ガ、アア、キ……ペッ」
ビチャ、と赤いネバネバした液体が雲川のローファーに付着した。
それが一方通行の返答だった。
雲川「……仮にも学園都市最強を謳う能力者の最期の足掻きがコレか。見下げたものだな。一方通行」
一方通行「そォかい。じゃァ嫌でも見上げさせてやるよ、クソ女」
ゾン、と音がした。
雲川「え……?」
右腕が消えていた。
否、刈り取られていた。
ブシュウ、と大量の血液が噴出する。
雲川「う、ああああああああああああ!?」
右肩を押さえ、倒れ込みながら絶叫する。
対して、最強の能力者は
一方通行「あァクソッタレ。やってくれンじゃねェか三下が」
倒れ込んだ少女を見下ろしていた。
さっきと真逆の立場だ。
再び形勢は逆転した。
一方通行「戦うコトで強くなるっつゥのはマジみてェだな。体内の精密なベクトル操作も可能になっちまった」
あろうことか、激痛の中で一方通行は演算を行っていた。
それどころか新たな領域に手を伸ばしていた。
体内のベクトル、つまり血流や生体電気、果ては自律神経から肺胞での気体のやり取りまで操ってみせた。
血管を食い破ったナノマシンを再び血管に戻し、再び血流に乗せ、再び肺まで戻し、吐き出す。
先ほど雲川のローファーに付着したのは血液と唾液、そしてもはや機能を失った『オジギソウ』だった。
雲川「そん、な……」
一方通行「さァて……殺す気で来たンだ。殺されても文句言えねェよなクソ女ァ!!!」
ドボォ!!! と、先ほどとは比べものにならない強さの蹴りが雲川の腹部を直撃した。
雲川「ぁっ!!!」
蹴られた身体は宙を舞い、更に壁に激突する。
蹴られた腹は内臓が数ヶ所破裂し、打った背中は背骨が折れていた。
雲川「ぅ……ぁ……」
一方通行「おーいおい、寝てンじゃねェぞ醜女がァ! まだまだ元本も返してねェだろォが!!
しっかり利子つけて倍返しすっからちゃンと最後まで責任もってしっかり受けとめろクソボケェ!!!」
再び一方通行が接近する。
もっとも、もはや雲川の瞳にしっかり映っているのかは定かでないが。
雲川(死、か……当然の報い
ブン!! ともはや胴体を切断するつもりで振るった脚が空を切った。
一方通行「!?」
血ダルマになっていた女は消えていた。
一方通行「…………オイ」
正確には連れ去られていた。
一方通行「誰だオマエ?」
高速、かつ、致命傷を負った女の身体に負担がかからないようにという理屈のつかない方法で。
削板「Level5第七位【ナンバーセブン】削板軍覇」
白ランを着た漢の手によって。
雲川「そ……ぎ……?」
意識も定かでない女は、抱き上げられたままうわごとのように呟いた。
削板「黙ってろ。死ぬぞ。……てめぇが一方通行だな?」
一方通行「……あァ、そォいやいたな。そンな名前の格下」
豪雨で血を洗いながら、学園都市最強は不敵に笑った。
一方通行「そォだ。俺が一方通行だ。で? オマエはどォいうつもりだ? 格下ごときが生意気にも俺とやるつもりか?」
削板「ふん。手負いのヤツに追い討ちをかけるほど俺は根性なしじゃねぇ」
削板「それに、モツもコイツも自分からタイマン張ったんだ。俺がお礼参りってのはお門違いもいいとこだ」
一方通行「モツ……? あァ昨日のドMか。何度も何度も起きやがって気持ちわりィ」
削板「……だが、てめぇが」
クイッ、と削板は顎で倉庫脇の通路を指した。
そこには
9983号「……」
次に殺されるであろう『妹達』が雨合羽を着て待機していた。
削板「あいつらを殺すってんなら、俺はてめぇを潰す。俺はモツと雲川が守りたかったモンを守る。覚えておけ」
フッ、と白ランの漢は姿を消した。
一方通行「……守りたかったモン、ねェ」
ニタリ、と一方通行は邪悪な笑みを浮かべた。
一方通行「今、ここで、俺ァコイツをぶっ殺すンだがなァ」
ビシャリ、ビシャリ、と一方通行は歩を進める。
反射は復活し、ベクトル操作は精密化した。
今や濡れていた身体と衣服は完全に乾き、万全の状態と化していた。
一方通行「七位だろォが三位だろォが俺からは何1つ守れねェってコトを教えてやるか」
9983号「その件なのですが、とミサカはハイになっている被験者を制止します」
その威圧感にまったく臆することなく、クローンの少女は通常通りの平淡な表情で被験者に話しかけた。
一方通行「あァ?」
9983号「今朝の実験が時刻通りに行われなかったこと。被験者が想定外の戦闘を行い、負傷したこと。
複数の要因が重なったため、実験内容を少々修正する必要が出てきました。
そのため、被験者と全ミサカに召集命令が下されています、とミサカは懇切丁寧に報告します」
一方通行「はァ? ちっとジャレて遅刻しただけだろォが」
9983号「文句は研究所で当人に直接言ってください、とミサカは合理的な解決案を提示します」
一方通行「フザけンなボケ。今オマエを殺すのが一番手っ取り早いだろォが」
9983号「それだと『絶対能力進化実験』そのものが破綻する可能性がありますが?」
しばらくの間、雨音だけが響いていた。
すでにゲリラ豪雨は終わり、少しばかり小雨になっていた。
一方通行「…………チッ。研究所ってなァどこの研究所だ? この実験に噛んでる研究所なンざいくらでもあンだろ」
9983号「この学区にあります。迎えが来ていますので、
あなたと9000番台のミサカはそこに向かいます、とミサカは先陣を切って案内します」
一方通行「ン」
クルリと身を翻し、制服の上から雨合羽を着たクローンの少女は来た道を引き返した。
そして、白髪の超能力者もそれに続いていった。
9983号「……一方通行」
しばらくして、クローンの少女が口を開いた。
一方通行「あ?」
普段はクローンから話しかけられることがないため、一方通行は怪訝な顔をした。
9983号「先ほどの女性は何故あんなにボロボロになるまで戦ったのですか? とミサカは率直な疑問をぶつけます」
さらにはその内容が実験とまったく関係のない内容だったため、一方通行は更に怪訝な顔をした。
一方通行「…………さァな。……いや、『妹達』がどうこう言ってたか」
9983号「ミサカ……ですか?」
一方通行「これ以上は知らねェよ。自分で探れ」
9983号「……分かりました、とミサカは案内を続けます」
今回はここまでです。
ペース上げるどころかダウンしてしまった……
レスありがとうございます。
一応このSSでのアレイスターは削板を矢面に立たせて上条を事件に巻き込もうと画策しています。
形としては削板ら+上条のグループで事件にぶつけ、経験値を積ませようとしてます。
前回の最後はそのつもりでセリフ回しを書いたつもりですが、自分の力量不足です。すいません。
また、原作のパラレルワールドのつもりで書いてますので、細部の設定は多少異なります。
削板が主人公の時点で今さらですが。
このような場所に投稿している以上、多くの方が自分のSSに目を通していると思います。
ですので、批判的なレスが着くのもある程度は当然だと思います。
もちろん読者の方全員が納得して楽しめるSSが書ければそれが一番いいのでしょうが、自分にはそこまでの実力はありません。
ですので、自分のスレは荒らさないでいただきたいですし、批判的なレスがついたことで他のスレに荒らしに行くこともしないでいただきたいです。
というかこのスレ関係なしにどこのスレも荒らしてほしくないです。
できる限り精進していきますので、最後までお付き合いしていただければ幸いです。
-第七学区、とある病院
削板「おい! 先生呼んでこい! 急患だ!!」
病院に着いて開口一番、削板はロビーにたむろしていたスキルアウトに大声で指示を出した。
スキルアウト「うお!? ヤベーぞオイ!」
スキルアウト「ひ、人なんスか? それ」
スキルアウト「お、俺呼んでくる!」
血まみれの少女を見た瞬間、スキルアウトたちは若干のパニック状態に陥った。
それほどまでに少女の身体の損傷は深刻だった。
雨と血でシャツはぐちゃぐちゃに赤く染まり、フロアのタイルを染め上げていた。
インデックス「……うそ、くもかわ?」
ロビーの奥で座っていたインデックスが静かに呟く。
顔から血の気が引いていた。
削板「ああ。……【超電磁砲】と原谷はどうした?」
スキルアウト「2人とも削板さんが出てったあとすぐに飛び出したッス。
俺らもアシ出したんでどっかで拾ってるはずッス。連絡だけ入れときやす」
インデックス「くもかわ! しっかりして! くもかわ!」
インデックスが雲川の様態を確かめようと駆け足で近づいた。
削板「騒ぐな、インデックス。傷に障る」
スキルアウト「先生呼んできたッス!」
冥土帰し「やれやれ、ゆっくり寝る暇もないね?」
バタバタとスキルアウトと【冥土帰し】、そして看護士が数人、急ぎ足で現れた。
呆れ顔でやってきた【冥土帰し】だったが、瀕死の女子高生を見た瞬間、表情を変えた。
冥土帰し「………これは……すぐに手術室の準備を」
看護士「は、はい!」
急ぎ足でやってきた看護士が急ぎ足で去っていく。
【冥土帰し】の顔色はひどく厳しいものだった。
削板「先生……治せるか?」
冥土帰し「……いくらボクでも死人は生き返せない」
インデックス「!」
削板「な、こいつはまだ……!」
冥土帰し「分かってる。だから、すぐに処置にかかる。ストレッチャーに移して……?」
ふいに【冥土帰し】が言葉を切った。
白衣の袖を雲川が引っ張っていた。
冥土帰し「……何かな?」
雲川「かィ、z、み……」
削板「おっさん? がどうした?」
雲川「マィ…ろ、コs、モ……」
冥土帰し「!」
削板「ん?」
冥土帰し「だが、あれは……じゃあ、キミは?」
コクリ、と血まみれの少女はうなずいた。
冥土帰し「…………すぐに伝えよう。キミ、看護士がすぐに手術室まで連れていくから、少しそばにいてくれ」
削板「わ、分かった」
インデックス「くもかわ……」
スキルアウト「削板さん! コレ! さっきのナースが乗せとけって!」
ゴロゴロゴロ、とスキルアウトの1人が急ぎ足でストレッチャーを押してきた。
たしかに削板が抱き上げているよりは体制が安定するだろう。
削板「あ、ああ」
優しく、ゆっくりと削板がストレッチャーの上に寝かせた。
しかし、それでも雲川は激痛に顔をしかめていた。
雲川「ツッ……ぁ」
ふいに、複数の足音が響いた。
全員が看護士の誰かだと思ったが、その予想は外れた。
看護士ではなく、雨でびしょびしょに濡れた御坂美琴と数人のスキルアウトだった。
御坂「! そ、その人は……?」
スキルアウト「うお!?」
スキルアウト「ひでぇ……何があったんスか?」
血まみれになった雲川を見て、御坂とスキルアウトらの顔に驚愕と恐怖が同時に表れた。
削板「……身体張ってお前の妹を守った女……イヤ、漢だ」
御坂「!!!」
もぞり、と雲川の身体が少しだけ動いた。
雲川「ぅ……ぁ……?」
虚ろな眼で雲川は御坂の顔を見つめた。
まるで、何かを訴えるように。
御坂「わ、わたし……?」
その視線を受け、御坂は雲川が横たわっているストレッチャーのすぐ側まで近づいた。
雲川「s…な、ィ」
必死に雲川が何か伝えようとする。
しかし、輪郭やあごが砕けていてまともに発声ができていない。
御坂「え……?」
加えて内臓が破裂し身体中の骨がイカれていた。
それでも、雲川は何かを懸命に訴えていた。
雲川「sくェナ……た……ズばナィ」
その中身は謝罪だった。
もっとも、それが御坂に向けた謝罪なのか『妹達』に向けた謝罪なのかは分からないが。
やがて、バタバタと数人の看護士があわただしく戻ってきた。
逼迫した表情のナースたちは乱暴に削板らをストレッチャーから退かす。
そして、テキパキと支度を整えたかと思えば嵐のように雲川を連れて去っていった。
御坂「……」
しばらくの間、御坂は呆然としていた。
見ず知らずの他人が血まみれになりながら自分のクローンを救おうとした現実に困惑していた。
削板「……【超電磁砲】」
いつまでも雲川が消えた方向を見つめていた御坂に削板が声をかけた。
御坂「! ……何かしら?」
声をかけられてようやく御坂は我に返る。
振り向いた方向には闘志を剥き出しにした漢がいた。
削板「悪いが、お前が何を言おうが俺はこの件に介入するぞ」
御坂「えっ……?」
削板「あんなツラ見せられて黙ってられるほど腑抜けた根性してねえんだ。俺は意地でもアイツらが守りたかったモンを守る」
ザッ、と濡れた白ランを翻し、削板軍覇はその場を去ろうとした。
御坂「な、待ちなさいよ! アンタ、なに考えてんの!?」
しかし、Level5の第三位であり、数々の死線をかいくぐってきた彼女はその程度では呑まれない。
立ち去ろうとする漢の背中を大声で呼び止めた。
削板「なに?」
御坂「今の人見たでしょ!? アイツは相手が誰だろうが手加減しない! アンタだって殺されるかもしれないのよ!?」
削板「あんな根性なしに殺されるほど根性なしじゃねえ。俺も、アイツらも」
御坂「そういう問題じゃないわよ! なんで……なんでアンタらはあんなヤツに真っ正面から向かってくのよ!
なんで私のクローンのために死にに行くような真似すんの!? アンタたちになんの関係もないじゃない!」
これが御坂美琴の本心だった。
自分ではなく、他の誰かが自分のせいで、もしくは自分のために血を流していく。
昨晩の男は自分とクローンを逃がすために戦った。
今の女は救えなくてすまないと謝った。
常に自分が前線に出て戦ってきた勇猛果敢なこの少女にとって、この状況は理解しがたいものだった。
少しだけ間が空いた。
しかし、第七位は表情を変えずに真剣な眼で第三位の疑問に答えた。
削板「……関係あんだろうが。目の前でそんなツラ見せられて黙ってられるか」
御坂「!」
削板「お前もそうやって周りの人間救ってきたんだろ。理由なんてもう十分すぎるくらい揃ってんだよ」
それだけ言うと、削板は今度こそ背を向けてその場から立ち去った。
インデックス「ちょ、ちょっと待ってよぐんは!」
そして、その後を今の今まで圧倒されていたシスターが追いかけて行った。
後には気まずく顔を見合わせる数人のスキルアウトと混乱したLevel5だけが残されていた。
御坂「……なんなのよ……」
-同時刻、第七学区裏道
スキルアウト「おーい! ヤブミン!【超電磁砲】も削板さんもいたってよ!」
原谷「あ、ホントですか!?」
スキルアウト「今もう病院戻ってるってよ! 俺らも行こーぜ!」
原谷「分かりましたー!」
夏休みでダラけた学生たちが二度寝でもしようかと再びまぶたを閉じる頃、裏道では低い声が飛び交っていた。
声の主はメガネの学生とガラの悪いスキルアウトである。
つい先ほど、Level5が2人ばかり常人では追えないスピードで飛び出していったので捜していた次第である。
しかし、その2人は早くも目当ての事件を見つけたのか第七学区を1周してきたのか、スタート地点に戻ってきていた。
傘もささずに捜していた身としては骨折り損でしかないのだが、この少年も今さらそんなことをこの状況でグチグチ言うほど狭量ではない。
原谷「……ん?」
途中で合流したスキルアウトらの車に向かうべく表通りに足を向けた原谷だったが、その途中で足を止めた。
原谷「今……なんか……?」
キョロキョロと周りを見回し始める。
明らかに視界の端に妙なものが映った気がしたのだ。
そして、程なくしてそれは見つかった。
???「……」
ビニール製の雨合羽を着た少女が路地裏のすみに隠れていた。
原谷「わっ。……えと、御坂ちゃん?」
???「ミサカであることには違いありませんが、とミサカは意味深な言葉を呟いてみます」
原谷「え?」
一本調子な抑揚のない声と変わらない表情。
先ほど病院のロビーで見た御坂美琴とは明らかに違ったが、少しだけ考えて原谷はすぐに納得した。
原谷「……………あぁ、なるほど、クローン」
根性バカ2人に比べると細い身体に緊張が走る。
学園都市の闇そのものの存在。今から何が起きてもおかしくない。
ミサカ「少々お時間をいただけないでしょうか? とミサカはいわゆる同伴を要求します」
原谷「同伴って……」
「おーい! ヤーブミーン!」
先ほどより遠くからスキルアウトの声がする。
もう車を出そうと準備している頃だろう。
原谷「……すいませーん! ボクこのまま帰って着替えてきまーす!」
「あー!? いーけどオメーこの辺ガラわりーの多いから気ーつけろよー!」
原谷「分かりましたー!」
すぐに遠くからエンジン音が聞こえた。
スキルアウトらは立ち去っただろう。
原谷「じゃ、付き合うよ。僕はどうすればいい?」
メガネの少年は覚悟を決めていた。
彼には彼なりに退けない理由があるのだから。
ミサカ「……いきなり想定外の事態です、とミサカは困惑します」
だが、学園都市の闇は何もしてこなかった。
原谷「は?」
ミサカ「博士らが立てた予測ではここで追撃戦か中規模の集団戦が
始まるはずだったのですが……、とミサカは目標のあまりの無警戒さに狼狽します」
言葉だけで狼狽した様子は見られない。
しかし、なんの行動にも移らない少女を見てメガネの少年はわざわざ緊張したのが馬鹿らしくなってきた。
原谷「……えーと、キミ何しに来たの?」
ミサカ「警告です、とミサカは即答します」
原谷「……とりあえずどっか雨の当たらないとこ行かない?」
ミサカ「……MNWを通じて許可が下りました。目標の指示に従い、ミサカは雨風を凌げる場所へと移動します」
原谷「………あぁ、そう……って言うか、まさか僕だけに警告ってわけじゃないでしょ? 削板さんもいた方がいいのかな?」
ミサカ「可能ならばそちらの方が合理的ですので取り合ってもらえると助かりますが、
とミサカはメガネをかけた者は頭の回転が早いという都市伝説の信憑性の高さに感嘆しつつ頷きます」
原谷「…………もうツッコミ要素満載すぎて何がなんだか……」
-1時間後、第七学区とある研究所2階とある研究室
???「ふー……」
自室のチェアに腰をかけ、白衣を着た男は長く息を吐いた。
目の下に隈を浮かべ、こけた頬に若干うねらせた髪質のこの研究者の名前は天井亜雄。
『量産能力者計画』の研究に携わっていた彼は『妹達』の産みの親ともとれる。
天井「………………………上手くいってくれるだろうか、これで」
彼は正直胃に穴が空いてもおかしくない状況だった。
以前頓挫した『量産能力者計画』で多額の借金を抱え、首が回らない状況だった。
普通に働いていたのではまるで返済額に足らない。利子で精一杯の状況まで追い込まれていた。
そんな折りに破格の給金で『絶対能力進化実験』にスカウトされたのだ。
2つ返事で快諾したこの実験は順風満帆に進んでいき、借金も7割方返済できた。
しかし、突如その実験の内容を変えろという命令が上司から下された。
この実験まで頓挫すれば、深く関わってきた自分にさらなる負債が降り掛かることは明白。
さりとて今から逃げ出したとしても、実験を放り投げた時点で信用がなくなり仕事もなくなり借金地獄にもどることも明白。
もはや上司の命令をちゃんと聞くしかなかった。
天井「…………まさか、私にこれだけ重要な仕事を与えるとは……」
既に指示は出しているが、不安要素だらけである。
自分の人生すべてがかかっている実験は何度かあったが、自分自身にここまで重要な役を割り振られることははじめてである。
プシュウ、と研究室の扉が開いた。
そこにいたのはアルビノ体質の被験者だった。
一方通行「……よォ」
天井「ああ、おはよう」
もともとこの時間にくるように伝えていたので別段驚きはしない。
しかし、それでも目の前で何をするか分からない危険生物と向き合うと身体に緊張が走る。
天井「今日の実験はうまkんぐ!?」
ほら見たことか。
いきなり胸ぐらを掴まれ宙吊りにされた。
細い腕に持ち上げられて地面から足が離れた。
一方通行「あァまァいくゥン? ヤル気あるンですかァ? 2回連続で馬鹿が乱入してきたンですけどォ」
天井「ま、まて……首っ……しまっ……」
身体をバタつかせるが腕はびくともしない。
気道をほとんど絞められてめまいがした。
一方通行「オマエもさァ、責任の一端くらいあンだろォ? 俺今日会った研究者全員にこォやってンだわ。
やっぱちゃンと役割くらいこなさなきゃだろ。俺もオマエらも。
ここまできて実験がオジャンになったらオマエらも建物も比喩抜きで全部消し飛ばすぞコラ」
天井「わ、わかっ……」
一方通行「ン」
ドサッ、と天井の身体が床に落ちた。
同時に一気に入ってきた酸素に天井は少し咳き込んだ。
天井「ゲホっ、ゲホっ」
一方通行「でェ? わざわざこンな陰気クセェところに呼び出した理由はなンだ?」
天井「んんっ……あ、ああ、いくつか私の方から説明しないといけないことがあってな」
床からよろよろと立ち上がり、白衣を着た研究者はドサリとチェアに身体を預けた。
一方通行「あァ?」
天井「先ほどの件で実験に修正を加えないといけなくなったことは聞いているな?
実験の修正を『樹計図の設計者』に演算させた結果、
明日の朝6時半に実験を開始させることになった。場所は第一七学区の操車場。詳しい開始地点はメールで送っておく」
一方通行「はァ? 場所と時間しか変わンねェのかよ。だったらさっきブッ殺してもよかったじゃねェか」
天井「もちろん『妹達』にもテコ入れは行う。
ここに来る前に別の研究者に今日の戦闘の内容を報告したな? その内容はすべて『妹達』に伝える。
また、監視衛星が捉えた戦闘の一部の映像も見せる。それに『学習装置』での補強をし、能力の底上げも行う」
一方通行「……はっ、なンだその程度か。能力の底上げったって焼け石に水だろォが」
天井「…………それでもテコ入れにはなるという演算結果は出ている。もしかしたら、てこずるかもな」
一方通行「はっ、ふざけろクソボケ」
くるり、と一方通行は背を向け、扉まで歩いていく。
プシュウ、と扉が開き、振り返らずにあっという間に去っていった。
天井「………はぁ~………」
全身の緊張が解け、天井亜雄は再び大きく息を吐いた。
天井「………ふざけろはこっちのセリフだ。頼むから上手くいってくれよ……」
チェアから立ち上がり白衣を着た男は胃薬を探しはじめた。
-十数分後、削板宅前
原谷とクローンは学生寮の削板の部屋の前にいた。
削板に連絡を取ったところ、雲川はとりあえず助かりそうなのでインデックスが風邪をひく前に自宅に戻ったとのことだった。
そこで、原谷はクローンの少女を連れて削板の部屋まで来たのだ。
備え付けのインターホンを押すと、小気味よいチャイムの音が鳴る。
少し間を空けてガチャリと扉が開いた。
インデックス「いらっしゃい、やぶみと……短髪?」
出てきたのは銀髪の少女だった。
ただ、服装はいつもの修道服ではなく、淡い水色のパジャマだった。
ミサカ「……ミサカのことでしょうか? とミサカは消去法で解答を導き出します」
インデックス「?」
原谷「ほら、あれ、例の」
インデックス「なんだっけ? くーろん?」
原谷「城か。とりあえず上げてもらえる? 玄関先でする話じゃないし、僕びしょびしょだし」
インデックス「うん、分かったんだよ」
そういうと、銀髪の少女は一歩引いて原谷らを中に招いた。
ミサカ「お邪魔します、とミサカは礼儀正しく敷居を跨ぎます」
インデックス「ぐんはー! やぶみとくーろんが来たんだよ!」
原谷「イヤ、だからクローン……ま、いっか」
部屋の中に入ると、なんとも食欲を掻き立てる香りと色とりどりな食卓、半袖短パンジャージを履いた男が待っていた。
削板「来たか。とりあえず原谷、お前シャワー浴びてこい。風邪ひくぞ」
原谷「そうします。僕の分残しといてもらえます?」
削板「おう」
ミサカ「……朝食の時間でしたか? とミサカは溢れんばかりの料理を以て判断します」
削板「何をするにしても、まずは食わんと話にならんからな。お前、朝メシは?」
ミサカ「ミサカは定刻に定められたものを食べますのでお構い無く、とミサカはお食事の誘いを丁重に断ります」
インデックス「いいの? ぐんはの根性メシは絶品なんだよ?」
ミサカ「いえ、ですからミサカは」
削板「弁当があんなら一緒に並べろ。腹減ってんだろ?」
ミサカ「空腹と言えば空腹ですが……」
インデックス「じゃあ一緒に食べよ! 食べなきゃ損するんだよ!」
ミサカ「……」
インデックス「ほぉら、このハムエッグなんか卵の色合いとハムの焦げ目が絶妙で……」
ミサカ「…………そんなに、美味しいのですか?」ゴクリ
-数分後
原谷「ふぃー、さっぱりした。削板さん、シャワーありがとうこざいまし……」
削板「おう!」ガツガツガツガツガツ
インデックス「お先、なんだよ!」バクバクバクバクバクバク
ミサカ「は、はやすぎる! あぁ! まだその品は! あぁ! とミサ、あぁ!」
原谷「………えーと、僕のご飯あります?」
削板「釜ん中入ってるぞ! 勝手によそって勝手に食え!」モグモグモグモグモグモグモグモグ
原谷「………おかず、なさそうだなぁ……」
インデックス「あ、やぶみ! ついでに麦茶持ってきてほしいんだよ!」トクトクトクトクゴクゴクゴクゴク
ミサカ「あぁ! ポットの中身までもが!」
削板「気にすんな! もう一本ある!」ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ
原谷「……コレで朝食だからなあ。エンゲル係数いくつだよ」
パカッ、と原谷は炊飯器を開けた。
確かに米は残ってた。2合ほど残ってた。しかし、8合炊いた後があった。
原谷「僕数分しかシャワー入ってないはずなんだけどなあ……」
ある程度よそうと、今度は麦茶を取り出すべく冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫の中はギッチギチだったが、おそらく3日もてばいい方だろう。
原谷「おかず残ってなかったし……削板さーん! 卵1個もらっていいですか?」
削板「ん? 卵かけご飯か?」モリモリモリモリモリモリ
原谷「いえ、せっかくなんで半熟目玉焼き丼でも」スチャ
インデックス「!? なんなのそれ!? 美味しそう!」ガタッ
削板「おい原谷! 俺にも!」
インデックス「私にも!」
ミサカ「た、食べたいのにお腹がいっぱいという未知の現象にミサカは葛藤し」ケプ
原谷「言わなきゃよかったチキショー」
-数十分後
原削インミサ「「「「ごちそうさまでした!」」」とミサカは礼儀正しく合掌します」パン
削板「ふぃー、食った食った」
インデックス「今日も美味しかったんだよ!」
ミサカ「……不思議です。ミサカが知っている料理よりも濃い味付けだったはずなのにどれも美味でした
とミサカは『学習装置』の知識に不信感を抱きつつもこれまでにない満腹感にお腹をさすります」
原谷「この人1度にとんでもない量作るからね。それはそれで味に深みがでたりするんだよ。それとこの語尾? は突っ込んだ方がいいの?」
ミサカ「これはミサカのアイデンティティーですので、とミサカは可能性に満ちあふれる胸を張ります」フフン
インデックス「ふーん。やっぱり学園都市には色んな人がいるんだね」
削板「まったくだ。学園都市でこれなんだから世界は広いな。……さて、本題に入るか。まず、お前の名前は?」
ミサカ「ミサカに名前はありません。検体番号なら10031号です、とミサカは今更ながら自己紹介します」
インデックス「? ……あ、そっか学園都市ならそれも普通の範囲内なんだよね」
原谷「範囲外だよ」
インデックス「私の名前はインデックスって言うんだよ」
削板「Level5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇だ」
原谷「原谷矢文。で、キミは警告に来たんだよね?」
10031号「はい、とミサカは簡易的に調べたところ盗聴の恐れはなさそうなので警告に移ります」
インデックス「いつ調べたの?」
10031号「この部屋に入ってすぐにミサカの能力でスキャン済です、とミサカは自己の有能さをアピールします」
削板「……【超電磁砲】のクローンならそのくらい出来て当然か」
10031号「では、警告の内容ですが、これ以上『絶対能力進化実験』に首を突っ込むのはやめていただきたいのです」
原谷「………キミがそういうこと言うの?」
10031号「どのミサカでも同じことを言うと思いますが? とミサカは疑問を疑問で返します」
インデックス「……だってその実験って……」
削板「待て、インデックス。こいつの言い分を全部聞いてからだ。
命令じゃなくて警告ってんならまだまだ続きがあるんだろ?」
10031号「はい。あなたがあの場に乱入してきたということは
貝積継敏がすべてあなた方に打ち明けたのだろうということは推測できます。
ですが、この実験は極秘かつ学園都市の根幹に関わるものであり、大勢の研究者の悲願であります。
実験の重要度も現在最高位であるため、失敗は許されません。
あなた方はこのミサカと関わったこともすべて忘れ、
以後実験に関わらないでください、とミサカは守秘義務があることも加えて警告します」
原谷「……それは横須賀さんのチームには言わなくていいの?」
10031号「? あの巨躯の方には9982号から伝えさせますが」
インデックス「じゃなくて、よこすかの仲間のことなんだよ」
10031号「………?」
削板「つーか前提が間違ってる。俺たち情報源は【超電磁砲】だ」
10031号「……………………………えっ?」
原谷「えっ?」
10031号「えっ? あの女性は貝積継敏の側近だったのでは?」
インデックス「くもかわはそうだけど私たちは違うんだよ。
短髪から実験のこと聞いて、短髪が誰かが実験の邪魔をしてるのを知ったからみんな探してたんだよ」
削板「仮に貝積のおっさんから事情聞いてたら雲川が出る前に俺が出てる。
……アイツは根性あるから関係ない俺を巻き込むより自分で身体張る方を選んだんだろうがな」
10031号「………では、あなた方はお姉さまに頼まれて……?」
削板「いや? むしろ【超電磁砲】は自分でどうにかすっから引っ込んでろって感じだったな」
10031号「………………………………えっ?」
原谷「えっ?」
10031号「では、なぜあなた方はこの実験を妨害するのですか?
とミサカは義務も利益もないのに生死をかけて介入する行動に疑問を持ちます」
インデックス「なぜって……目の前で人が殺されそうなのに放っておけるわけないんだよ」
10031号「ミサカは実験動物であり、ボタン1つで生み出せる原価18万円程度の存在ですので、特に問題ありませんが」
削板「問題しかねえだろうが」
10031号「?」
原谷「……キミさ、自分が殺されるの嫌じゃないの?」
10031号「好きではありませんが、ミサカはそのために生み出されたので、とミサカは義務と合理性に基づいた解答を述べます」
インデックス「本当に? もうご飯食べられなくてもいいの?」
10031号「……食べたいですが、ミサカは……」
削板「……少なくともな、俺から見ればお前は立派な人間だ」
10031号「人間……ミサカが、ですか?」
原谷「あんだけ美味しそうにご飯食べて、あんだけ感情豊かに喋っておいて何を今さら」
10031号「これは『学習装置』でインプットされた偽りの心であって」
インデックス「偽りの心? よく分かんないけど心であることには変わりないんだよ」
10031号「……」
削板「……10031号っつったか。警告に来たってだけで止めに来たわけじゃねえんだろ?」
10031号「戦略的に見て、ミサカ単体ではあなたに遠く及ばないため、まずは警告という形になりました」
原谷「そりゃ止めるとなれば軍隊が出ないとだもんね……」
削板「なら、とりあえず今日のところは帰れ。この後モツの見舞いとステイルの退院がある。
神裂にも連絡いれないといけないし、他にも色々やることがある。あまりお前の相手もしてられん」
10031号「……分かりました、とミサカは帰還命令が出たことも考慮して撤退します」
原谷「イヤ、いつ連絡もらったのさ」
10031号「『妹達』は同一の脳波と能力を持つためミサカネットワークで常につながっているのです、とミサカは簡潔に答えます」
インデックス「???」
10031号「簡単に言えば『妹達』1体1体が動くパソコンであり、回線の代わりにすべて脳波でリンクしています。
すべての情報を共有・蓄積でき、高度な演算も行えます、とミサカはMNWについての説明を行います」
削板「……つまり、どっかにいるお前の妹だか姉貴だかが帰ってこいって指令をもらって全員に配信されたのか」
10031号「そんなところです。……では、ミサカはこれで帰ります」
原谷「……分かった。玄関まで見送るよ」
10031号「ご飯、ごちそうさまでした、とミサカは再び一礼します」
ペコリ、と再び雨合羽を着た少女は玄関先で頭を下げた。
インデックス「うん、また一緒に食べようね」
削板「そん時は根性入れて作ってやるぞ」
原谷「わざわざありがとね」
削板「……あぁ、最後にダメ元で聞くが、次の実験はいつだ?」
10031号「それは極秘事項ですので、とミサカは言葉を濁します」
削板「そうか……」
10031号「……では」
そう言うと、クローンの少女はきびきびと歩いて去っていった。
玄関にいた3人は扉を閉めるまで笑顔でその姿を見送っていた。
インデックス「……」
削板「……」
原谷「……」
だが、その後は沈黙と厳しい表情だけが残っていた。
インデックス「よく分かんないけど……あの人は実験動物なんかじゃないよね?」
削板「当たり前だ」
原谷「それにしても、わざわざあのコ使ってくるなんて……
六法全書みたいなツラの皮してますね。根性が腐ってますよ」
インデックス「……やっぱり放っておけないんだよ」
削板「ああ。……原谷、病院までインデックスを連れていってくれるか?」
原谷「はい? いいですけど、削板さんは?」
削板「ちょっと用事だ。日付が変わるまでには戻る。インデックス、夜は神裂のところに行ってくれ。戻ったら迎えに行く」
インデックス「……ぐんは、勝手に危ないことしちゃダメなんだよ」
削板「あぁ。行くときはちゃんと宣言して行く」
インデックス「ならいいんだよ」
原谷「いいんかい」
削板「着替えたらすぐに出る。頼んだぞ」
ペース遅くて申し訳ないです。
レスありがとうございます。
多くの方が応援してくださって嬉しい限りです。
自分もリミットが3月いっぱいなので、それまでには確実に終わらせるように更新していきます。
ソチ五輪が熱いです。
自分より年下が日本にメダル持ってくるとかなんかスゴすぎて言葉になりません。
それであの落ち着きようとか……パネェ……。
-数時間後、第七学区とある病院某一室
御坂「……」
昼時を少し過ぎたころ、御坂美琴は御坂美琴の看病をしていた。
9982号「……」
ベッドに横たわった自分そっくりの少女は未だ目を覚まさない。
だが、それも当然と言えば当然である。
彼女はあと少し、ほんの数十分でも病院に着くのが遅れていたら死んでいたのだから。
御坂(………このコは私のクローン。望んでもいないのに生み出されて死んでいく存在)
どうにかこうにかハッキングしたところ、『樹形図の設計者』の演算結果により、次の実験は翌朝だと記されていた。
今この時くらい目の前で眠っている彼女のそばにいてもバチは当たらないだろう。
御坂(本人もそれを理解しているし、受け入れてる。……仮にこの実験を止めたところで、余計なお世話かもしれない)
御坂(それに、彼女たちが助かったとしても、その後は?
クローンは世界中でタブー。学園都市から出すわけにいかない)
御坂(かと言って、学園都市に残っても居場所はない。気味悪がられてまともに生きていけるはずがない)
御坂(でも、だからってこんな実験を見過ごすわけにはいかない。こんなイカレた実験、見過ごすわけにはいかない)
御坂(それに……)
チャリ、と御坂は棚の上に置かれていた缶バッジを手に取った。
それは昨日プレゼントしたカエルの缶バッジだった。
御坂(昨日一緒に過ごした限りでは、彼女は普通の人間と変わりなかった。この街では普通の女の子)
くるくると、何とはなしにそれを手で弄びながら考える。
昨夜病院に担ぎ込まれた少女は意識がなかったはずなのになかなかこれを放そうとはしなかった。
御坂(私の不注意でこうなった以上、私に責任がある。私のせいでもう何千人も死んじゃったんだから)
自分のDNAマップが病院にいた大勢の筋ジストロフィーの患者を救えると言われた時はとても喜んだ。
実際に提供した後、患者からお礼のメールが何通も来た時は小踊りして喜んだりもした。
だが、それもすべて幻想だ。
自分の周囲の人間の疑念を払拭させるために向こうが一芝居打ったのだろう。
結果として取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
御坂(そう、私に責任がある。だから、これ以上他の人に血を流させるわけにはいかない)
昨日、自分たちを庇った男は死にかけてこの病院のどこかで眠っているらしい。
今朝、血まみれになって担ぎこまれた女はこの実験を止めるために立ちはだかったらしい。
本来なら真っ先に自分がそうするべきだったのに、次々に人が倒れていく。
自分のせいでこれ以上地獄の底に堕とすわけにはいかない。
9982号「……ぅ……?」
眠っていた少女の身体が少し動き、うっすらと目を開けた。
御坂「!」
9982号「……………ここは……?」
ボーッとした顔でクローンの少女は呟いた。
まだほとんど意識が覚醒していないようだった。
御坂「……おはよ、大丈夫?」
9982号「……………お姉さま………?」
ほんの少し、クローンの少女は首を回した。
そこにはネットワークでつながっていない、自分の素となった本物の人間がいた。
9982号「………記憶が混乱しています、とミサカは情報収集のためMNWのログをあさります」
御坂「……」
9982号「…………? おかしい……このミサカには記憶障害が起きているようです」
御坂「……それは……そうよ。あれだけのことされたら。記憶の1つも飛ぶわよ」
9982号「いえ、忘れたのではなく、はっきり覚えてる感覚がMNWに残ってないのです、とミサカはネットワークの混乱を訴えます」
御坂「………?」
9982号「不思議な感覚でした……大きく心強い力に包まれた感覚、優しく温かい力に包まれた感覚……」
ちょうどその時、コンコン、と病室の扉をノックする音がした。
そして、中で眠っているであろう少女を起こさないようにゆっくりと扉が開かれた。
原谷「失礼しまーす………。あ、なんだ起きてたんだ」
扉を開けたのは、今朝病院のロビーで怒鳴り散らしていたメガネの少年だった。
御坂「アンタ……」
原谷「えっ……と、クローンの子? それとも……?」
御坂「……御坂美琴。正真正銘、常盤台の【超電磁砲】よ」
原谷「ああ、本人か。イヤ、本人って言い方もおかしいか。とりあえずコレ。ベタだけど」
ガサ、と少年は半透明のビニール袋を差し出した。
うっすらと見える色合いとシルエットから察するに、どうやら果物の詰め合わせのようだった。
御坂「………ありがと。そこ置いといて」
原谷「うん」
9982号「それは……なんなのですか? とミサカは持ち込まれた果物に不信感を抱きます」
原谷「え? イヤ、手ぶらでお見舞いに行くのもどうかと思ったから……」
御坂「悪いわね。わざわざ」
原谷「あぁ別にいいよ。先月いろいろあって英国の宗教団体からもらったお金が余ってたから」
9982号「……お見舞いに手ぶらはマナー違反。そういうことですか? とミサカは確認をとります」
原谷「マナー違反じゃないと思うけど……あった方がいいくらいの感じかな」
原谷「それでさ、ちょっとクローンの子に聞きたいことがあるんだけど」
御坂「……緊急の用事なの? このコさっき起きたばっかりなんだけど」
原谷「そうなの? じゃあ別にムリには……」
9982号「ミサカに回答が許されている範囲内ならお答えしますが、とミサカは質問を許可します」
原谷「あっ、ホント?」
御坂「……」
原谷「それじゃあさ、今までに殺されたクローンの遺体ってどこにあるの? ちょっと試したいことがあるんだけど」
御坂「!?」
9982号「すべて焼却済みですが? とミサカは少年が実験の概要を知っていることも考慮した上で回答します」
御坂「なっ……」
原谷「焼却って……えーと、火葬したってことでいいのかな?」
9982号「焼却処分です。『妹達』は極秘かつ機密情報の塊ですので
細胞の一辺たりとも残すわけにはいかないのです、とミサカは『妹達』関連のセキュリティの高さを誇示します」
原谷「あっそう。それでもこう……灰か何かは残ってないのかな?」
9982号「そこはミサカの知る範囲ではありませんのでお答えできません、とミサカは首を横に振ります」
原谷「そっか。家畜の餌やら魚の餌やら穀物の肥料やらになってなければ
御坂「出てけ!!」
バチイ!! と原谷の顔のすぐそばを電撃が通り過ぎた。
原谷「うわ!?」
御坂「出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ!! どういうつもりよ!!」
バチチチチチ!! スパークがほとばしる。
最強の【電撃使い】の力が半ば暴走していた。
9982号「お姉さま……?」
原谷「ちょっ、ストップ! タンマタンマ!」
御坂「フザけんな! これ以上このコたちに何させるつもりよ!」
原谷「ちが、あの、知り合いになんでも出来る人が、もしかしたら生き返せるかも
バッチィン!! と原谷の頬に強烈なビンタが炸裂した。
原谷「~~っつぅ……!」
あまりの衝撃で眼鏡が吹っ飛んでいた。
御坂「どこまでフザけんの? ……そんな人がいたら苦労しないわよ!!」
原谷「イヤ……ホントに……」
御坂「この……!」
9982号「お姉さま、怒りの原因は分かりかねますが
病院でこれ以上電撃を使用するのはよろしくないと思われます、とミサカは一般常識に基づいて警告します」
御坂「………あーもう! 勝手にしろ!」
ズカズカと逆上した【超電磁砲】は病室を横切っていく。
力任せに扉を開け、ドン! と力任せに扉を閉めた。
病室に取り残された2人の間には気まずい空気が流れていた。
原谷「……」
9982号「……」
原谷「……はぁ、怒らせちゃった」
9982号「……お姉さまはなぜ怒っていたのでしょう? とミサカは疑問に首を傾げます」
原谷「そりゃあんな会話したらキレるさ。……あーあ、絶対キチガイだと思われた。僕だけは常識人でいようと思ってたのに」ハァー…
9982号「……? 先ほどの会話に不備があったのですか?」
原谷「一般常識で考えてさ、妹の死体になんかするから場所教えてくれって赤の他人が聞いてきたらどう思う?」
9982号「キチガイだと思いますね、とミサカは一般常識に基づいて回答します」
原谷「トドメ刺されたよ……」ズーン…
9982号「ミサカが聞いているのはあなたのキチガイ具合ではなくお姉さまが怒った原因なのですが、とミサカは再度質問します」
原谷「常識人だよ僕は。あのコも精神的にキツイのに刺激するような発言したからだよ」
9982号「どのワードが刺激になったのですか? とミサカは会話の記憶を辿ります」
原谷「イヤもう会話そのものだよ。僕もなんで前置きなしでこんな話したんだろ……」
9982号「……よく分かりません。実験動物の処理になんの問題が……?」
原谷「あのコにとって君は実験動物なんかじゃなくて1人の人間、もしかしたら身内くらいに考えてるかもね」
9982号「……」
原谷「たぶんだけどね。だから、あのコも絶対に実験を止めようとするよ。……削板さんが先にやると思うけど」
御坂(やっぱりあんなヤツらに任せるわけにはいかない!)
怒りで早足になりながら御坂は病院の廊下をずんずん進んでいく。
御坂(どいつもこいつも人を小馬鹿にして……! 私を誰だと思ってんのよ!)
御坂(私がやらなきゃ……! もう1滴も血を流さない! 次の実験が始まるまでに全部ひっくり返してやる!)
御坂(そしたら私はもうここにはいられなくなる、けど……)
気が付くとすでに病院の外に出ていた。
無意識の内に高性能機器に支障をきたさないように外に向かっていたようだ。
御坂(あのコが殺されるのも他の誰かが殺されるのも私のせいなんだから……私だって人生の1つや2つくらい賭けてやる!)
雲を透かすように天を睨み付け、【超電磁砲】御坂美琴は覚悟を決めた。
一通り会話を終え、原谷は病室を後にした。
聞いた限りではとある錬金術師を頼る手段はなかなか難しそうである。
もっとも、頭を冷やして冷静になった今ではその手段も倫理的にどうかと思われるが。
???「失恋かい?」
廊下に出たとたん、ふいに声をかけられた。
原谷「あぁ、ステイルさん」
声の主は先ほど退院したばかりの神父だった。
患者着ではなく、いつもの黒い神父の服をまとっている。
原谷「すいませんでしたね。こんな状況になった以上、快気祝いをやるどころじゃなくなっちゃって」
ステイル「うん? 別に気にしてないよ。回復する度に祝ったら『必要悪の教会』は毎日乱痴気騒ぎさ。
それよりよっぽど手痛くフラれたみたいじゃないか。懺悔の言葉があるなら聞いてあげるよ?」
原谷「……フラれたわけじゃありませんよ」
ステイル「おや、そうなのかい?」
原谷「2コ下って言っても中2ですし。ちなみに僕のストライクゾーンはしっかりしてるけど天然な感じのコです」
ステイル「キミが貸してくれたゲームの主人公の1人みたいな感じかい?」
原谷「どストライクですね」
ステイル「なんだ。久々にまっとうな神父の仕事がきたと思ったんだけどね」
原谷「神裂さんとインデックスは?」
ステイル「まだ深夜に運び込まれたテロリストの部屋にいるよ。
ボクは用を足しに行った帰りに修羅場の匂いを嗅ぎつけてね」
原谷「野次馬根性丸出しですか」
ステイル「根性には違いないさ」
原谷「絶対アンタには懺悔しない」
ステイル「ところで、ガラにもなく今朝は暴力的だったそうじゃないか」
原谷「……」
ステイル「ボクらと敵対した時も、盾にはなっても戈にはならなかった。珍しいじゃないか」
原谷「……そりゃまあ、血気盛んな男子高校生ですから」
ステイル「そうかい? ボクの印象では、キミはよっぽどのことがない限りそうはならないと思ったけどね」
原谷「……」
ステイル「そうなった理由は彼女がキミの想い人だからだと思ったんだが……違うのかい?」
原谷「……あのコにはね、ずーっと昔に救われてるんです。もう何年も前ですけど」
ステイル「ふぅん?」
原谷「正直、人生に絶望してた時期があったんですよ。歩くこともできずに死ぬしかないって頃に、彼女の善意が救ってくれた」
ステイル「……」
原谷「あんだけいいコが、その善意を悪用されて、しかもそれに責任を感じてる。間違ってるでしょ、こんなの」
ステイル「そんなものさ。世の中は不条理に溢れてる」
原谷「それに屈するのを根性なしって言うんですよ」
ステイル「言うじゃないか。なら、どうするんだい?」
原谷「………手、貸してもらえますか?」
ステイル「ふふっ、あれだけ大見得切った直後に頭を下げるのかい?」
原谷「この不条理を跳ね返せるならなんだってやりますよ」
ステイル「見栄は悪いが心意気は立派だね。元よりキミたちには借りがある。いくらでも手を貸すよ」
-第二一学区、山中
第二一学区には貯水ダムが数多く存在している。
平地が多い学園都市でも山岳地帯であるこの学区は他学区に比べて自然が多い。
科学で溢れかえっている学園都市にあって、ここは例外的に科学から逃げることができる。
そして、山中にあるちょっとした山小屋にも科学の手先となった化け物から逃げている人物がいた。
貝積「………ふぅ」
汗だくになりながら丸太小屋の中に入った老人は、棚の前でうずくまった。
体調を崩したわけではない。彼が足元の板をスライドさせると、何やら液晶が出てきた。
その液晶を何度か叩くと、空気の漏れる音と共に棚がスライドした。
棚があった場所には数mほどの短い通路があり、その先には鉄の扉が構えている。
ここは学園都市統括理事会の1人、貝積継敏の隠れ家である。
山小屋自体は公共のものだが、そこから続く秘密の通路は山肌を削って造られた核シェルターに繋がっている。
通路に入り、棚を元に戻し、ドアノブに手をかける。
蒸し暑い外とは逆に、日の光から逃れた涼しい空気が出迎えてくれた。
???「よっ」
だが、出迎えてくれたのは涼しい空気だけではなかった。
予想だにしない先客に老人は身体を強張らせる。
貝積「………君たちは私を驚かせるのが好きだな」
だが、老人はすぐに警戒を解いた。
なぜなら
削板「すまんな。邪魔してるぞ」
その人物はかつて自分が救った少年だからだ。
貝積「……なんで私がここに来ると分かった?」
汗だくになったシャツとネクタイを脱ぎ捨てながら、老人は問いかけた。
削板「俺の時も最初はここだったからな。避難と立案を同時にやるならここだと思った」
机に腰をかけていた少年は、ぐい、と持っていたコップの中身を飲み干した。
貝積「懐かしいな。……私にも1杯もらえるか?」
削板「おう」
とくとくとく、とガラスのコップに透明な茶色い液体が注がれていく。
それが終わると、老人は一気に液体を飲み干した。
貝積「っはぁ、美味い。酒なんぞよりよっぽど美味い。冷えた麦茶こそ至高だ」
削板「意義なし!」
貝積「だろう? ……彼女を救ったらしいな」
削板「……まあな」
貝積「実験のことを聞きに来たのか?」
削板「概要はもう聞いた。俺が闘うには理由が揃いすぎてる」
貝積「そうか。なら、私を罵りに来たか?」
削板「そんなつもりはない。が、なんでこうなったのか興味はあるな」
貝積「私は君ほど純粋でなければ根性もない。それだけの話さ。ぶつかり合って敗北を喫し、諦めてしまった」
削板「………おっさんらしくねえな」
貝積「私は弱い人間だ。どこかで折り合いをつけることに慣れてしまった。
あれこれ理由をつけたりつけられたり。いろいろな案件に関わっていくうちに、見切りをつけた事案はいくらでもある」
削板「この実験もその1つか?」
貝積「ああ。……彼女は諦めなかったがな。私は彼女を尊敬するよ」
削板「……だからここに来たんだろ? 今度こそ実験を止めるために」
貝積「こうならなければ止めようとしなかった。この先私が統括理事会であり続けるためにね。私は卑怯で利己的な人間だよ」
削板「……ホント、らしくねえな。雲川がやられて凹んでんのか?」
貝積「……かもしれないな。あんな細くて幼い彼女を戦場に向かわせた不甲斐なさ、根性のなさに腹が立ってる」
削板「……」
貝積「案ずるな。もうそんな真似はしない。ここから先は私がケリをつける。遠回りで薄汚い戦いだ」
削板「そうはいかん。俺も出る」
貝積「ダメだ。お前の出る幕ではない」
削板「おっさんの戦場には出ねえ。役に立たないからな。だが、おっさんのやり方だとクローンは何人か死ぬだろ?」
貝積「……ああ、時間が足りない。彼女がいないのではまともな策もいくつ用意できるか……」
削板「なら、足止めは俺にやらせろ。おっさんが権力あるヤツらを倒すまで、俺が一方通行の相手をする」
貝積「……相手は学園都市そのものがバックについた学園都市最強だぞ?」
削板「だからどうした」
しばらくの間、無言が続いた。
その間、少年と老人は互いに目を反らさなかった。
そしてややあって、老人の方が諦めたように首を振った。
貝積「……明日の朝6:30だ。場所は第一七学区の操車場」
その言葉を受け、少年は ニッ と笑った。
削板「それを聞きに来たんだ。それだけ分かれば十分だ」
机から下り、少年は部屋突っ切るように歩いていく。
その背中は大きく、自信と気合いと根性に満ち溢れていた。
貝積「無事に帰ってこい」
削板「おう!」
-夕暮れ、第七学区とある病院某一室
横須賀「む……」
雲に覆われた空が暗くなってきた頃、テロリストのような大男が目を覚ました。
横須賀「………ああ、クソ。」
そして、視界に映った天井を見て思わずうなだれた。
横須賀「負けたか……。まだまだだな、俺も。」
記憶は途中から無いが、見慣れた天井が見える布団の中にいるということはそういうことだろう。
横須賀「……っつ! ……あぁコレは……だいぶ派手にやられたか……。」
少し身体を持ち上げただけで全身に激痛が走った。
だが、一応四肢の感覚はある。
腕をもがれたり足をちぎられたりしたわけではなさそうだ。
横須賀「……スマンな、心配をかけた。」
持ち上げた身体で部屋を見渡すと、舎弟の連中がゴロゴロいた。
しかし、全員がベッドや椅子や壁に身体を預けて眠りこけていた。
恐らく1日中気を張り詰めていたのだろう。
仮に昨日の夜からずっと付きっきりなのだとしたら、疲労もかなり溜まっているはずだ。
横須賀「……だが、この程度のケガで俺がどうにかなると思うな。ったく……」
ボスッ、と再び頭を枕に埋める。
誰にも聞かれていない憎まれ口を叩きながらも、顔は少し笑っていた。
???「あの」
横須賀「うおっ!?」
ビクッ、と身体を強張らせた。
と同時に全身に激痛が走った。
横須賀「いだだだだだ……! ……包帯をしているということは妹の方か?」
首をひねって声の方向に顔を向けると枕元のイスに昨夜の少女が座っていた。
少女は全身を包帯で巻かれている上に片足がなかった。
近くの棚に松葉杖が置いてあることを考慮しても、やはり彼女は昨日血の気を失っていた少女だろう。
9982号「コントですか? とミサカは見事な自爆っぷりにいっそ感動します」
横須賀「ほっとけ。」
9982号「これをどうぞ、とミサカは布団の上に手土産を置きます」
横須賀「ん? ……缶バッジ?」
9982号「お見舞いには手ぶらで行かない方が良いと聞きました。
ですのでミサカは唯一の所持品であるの缶バッジを……お姉さまからの初めてのプレゼントである缶バッジを……」プルプル
横須賀「そんなに嫌ならくれてやるな。いらんわ。」
9982号「! で、ですが……」
横須賀「世間知らずのお嬢様に教えてやる。他人からもらったモンをそのまま他人に贈るのは、一部を除いてマナー違反だ。」
9982号「そ、そうなのですか?」
横須賀「ああ。それと、そういうのは気持ちの問題だ。なければないでかまわん。」
9982号「で、では、このゲコ太は申し訳ありませんが引っ込めさせてもらいます、とミサカはゲコ太を再び手中に収めます」ホッ
横須賀「好きにしろ。……それにしても、よく動けるな。お前も瀕死だっただろう?」
9982号「あなたに較べれば軽傷だったようなので、とミサカは目の前の男がまだ生きてることに驚愕します」
横須賀「脚ちぎられたお前よりヒドかったのか、俺は。というか、それが助けてもらったヤツの言い草か。」
9982号「……その件に関してはお礼を述べることはできません」
横須賀「あ? 死にたかったとでも言うつもりか?」
9982号「……あなたの仲間が全員知ってる以上、あなたに知れるのも時間の問題でしょう、とミサカはすべてを打ち明けます」
横須賀「……『絶対能力進化実験』……『量産型能力者実験』……雲川の介入……削板の宣戦布告、か」
9982号「はい、とミサカは上手いこと要点をまとめられた大男を賞賛します」
横須賀「馬鹿にしているのか。」
9982号「スキルアウトとは教養のない粗暴な輩の集団だとインプットされています、とミサカは全責任を『学習装置』に丸投げします」
横須賀「上書きしておけ。学校行ってないだけでIQはそこらの連中と変わらん。」
9982号「かしこまりました、とミサカはMNWを通じて全ミサカに拡散します」
横須賀「……魔術師、錬金術師ときてクローンか。で、お前は見舞いついでにそれを伝えに来たのか?」
9982号「いえ、単純な好奇心で来ました、とミサカは心情を吐露します」
横須賀「あ? 好奇心?」
9982号「あなたも今朝の雲川芹亜も相手があの一方通行と知って尚、一方通行の前に立ちはだかりました。
削板軍覇も原谷矢文もシスターもお姉さまも実験に反対するだけでなく止めようと立ち上がっています。
しかも、殺されるために生まれた『妹達』を殺させないためにです、とミサカは整合性の取れない行動に疑問を持ちます」
横須賀「……それで、実際に第一位と戦った俺に聞きに来たということか。」
9982号「はい。何故あなた方は闘うのですか? とミサカは疑問を投げ掛けます」
横須賀「決まっているだろう。漢だからだ。」
9982号「……女性もいるのですが、とミサカはまさかの回答に驚きを隠せません」
横須賀「胸に脂肪が2山ついていたら女。股間に玉が2つブラ下がっていたら男。女だろうが男だろうが根性があったら漢だ。」
9982号「理解できません、とミサカは『学習装置』には存在しない思想に驚愕します」
横須賀「理解できない内はただの女だ。一生理解できんかもしれんがな。」
9982号「……」
横須賀「分かったら部屋に戻って寝ろ。俺もまだ満身創痍だ。」
9982号「……分かりました、とミサカは病室を後にします」
-夜、第一四学区とあるアパート
日が完全に沈み切り、街灯が辺りを照らす頃、削板軍覇はアパートの階段を登っていた。
留学生が多くいるこの学区では日本語よりもアルファベットの表記が多い。
そんな学区に今から向かう部屋に住む人物が押し込まれたのも、半ば必然かもしれない。
階段を登りきり、通路を歩き、目的の部屋に辿り着いてインターホンを押す。
ピンポーン、と軽やかなチャイムが鳴った。
-夜、第一四学区とあるアパート
日が完全に沈み切り、街灯が辺りを照らす頃、削板軍覇はアパートの階段を登っていた。
留学生が多くいるこの学区では日本語よりもアルファベットの表記が多い。
そんな学区に今から向かう部屋に住む人物が押し込まれたのも、半ば必然かもしれない。
階段を登りきり、通路を歩き、目的の部屋に辿り着いてインターホンを押す。
ピンポーン、と軽やかなチャイムが鳴った。
ガチャリ、と扉が開くと住人が出てきた。
神裂「……待ってましたよ」
削板「悪いな」
その人物は世界に20人といない【聖人】だった。
削板は彼女のもとに一時的に預けていたインデックスを迎えに来たのだ。
神裂「すでに全員揃っています」
削板「全員?」
神裂「ええ。とりあえずは中に入ってください」
削板「? おう」
ガチャリ、と扉が開くと住人が出てきた。
神裂「……待ってましたよ」
削板「悪いな」
その人物は世界に20人といない【聖人】だった。
削板は彼女のもとに一時的に預けていたインデックスを迎えに来たのだ。
神裂「すでに全員揃っています」
削板「全員?」
神裂「ええ。とりあえずは中に入ってください」
削板「? おう」
中に入ると、確かに全員揃っていた。
インデックス「ぐんは! 遅いんだよ!」
シスター。
原谷「もうご飯ありませんよ」
学生。
ステイル「……前より食べる量が増えてないかい?」
神父。
スキルアウト「パねぇ……」
舎弟。
1人暮らしの部屋に集まるには多すぎる人数が畳の上でちゃぶ台を囲んでいる。
ちなみに、全員原谷の呼び掛けに応じて集まっていた。
削板「……何してんだ?」
神裂「夕げの時間でしたので」
削板「イヤ、そうじゃなくてだな」
インデックス「ぐんは、くーろんを助けるんでしょ?」
削板「ん? おお、まあな」
原谷「ですよね。ここにいる全員、やる気満々ですよ」
削板「!」
ステイル「ボクも神裂も話は全部聞かせてもらった。なかなかに神の教えを冒涜してる連中じゃないか。腹が立つね」
スキルアウト「全員は入り切らないで代表として俺だけ来たんスけど、横須賀さんの舎弟一同、いつでも動けるッス!」
削板「……お前ら、気持ちは分かるがな……この人数で一方通行を袋叩きにしてどうすんだ」
決闘の基本は1対1。
この人数全員が一方通行にぶつかった場合、絵面だけ見れば完全にこちらが悪者だ。
神裂「まさか。その闘いはあなたのモノでしょう?」
だが、それは全員理解している。
削板「?」
インデックス「相手はこんな大規模な実験を展開できるくらい大きいんでしょ?
きっと数で言ったら私たちの方がまだまだ圧倒的に不利なんだよ」
敵は1人ではない。バックに巨大な組織、学園都市そのものがついているのだ。
それも相手にするとなれば、この人数でもまるで足りない。
削板「……まあそれはそうだが」
原谷「ですから、僕たちは別のところで戦います」
削板「別のところ?」
ステイル「聞いた話じゃその一方通行とやらを倒しても実験が止まるわけではないようじゃないか」
削板「………そうだな」
『絶対能力進化実験』は一方通行を主軸に置いているが、倒したからと言って計画が頓挫する訳ではない。
ただでさえ学園都市でもイレギュラーであり、おまけにLevel5の削板が一方通行を倒したところで修正誤差の範囲内だろう。
もっとも、そうなった場合には貝積が黙っていないであろうが。
スキルアウト「だから、その首謀者連中をブッ倒すんス」
削板「できんのか?」
神裂「まずはどこが敵の本拠地か特定して、何を勝利条件に設定すればいいのかからですが」
インデックス「それはぐんはの仕事なんだよ」
削板「は? 俺の?」
原谷「ぶっちゃけ手がかりがなんもないんです。一方通行を倒すついでに聞いてきてください」
ポカン、と削板は口を開けた。
一瞬間を空け、やがてプッと吹き出した。
削板「はっはっは! なんだそりゃ! ムチャクチャだな!」
ステイル「勝利条件は定まってないが敗北条件は定まってる。これ以上のクローンの死亡。そうだろう?」
削板「おう! その通りだ!」
スキルアウト「だから、そもそも削板さんが一方通行に勝たないと意味ねーんス」
削板「はっはっは! 無理難題ふっかけやがって! いいだろう!
一方通行をブッ倒すまでは俺の闘い! その後はお前らに任せた!」
-深夜、第二三学区『樹形図の設計者』情報送受信センター
御坂「嘘………なによ、コレ……」
月のない深夜、お嬢様学校の中でもエリートである御坂美琴は学園都市の最重要施設に不法侵入していた。
『樹形図の設計者』情報送受信センターに忍び込み、あろうことかデータを改竄しようとしている。
不法侵入が見つかった時点でまず退学は免れない。
データの改竄ともなれば学園都市から追放どころか幽閉される可能性もある。
しかし、そんな危険を冒してでも彼女にはやらなければいけないことがあったのだ。
『絶対能力進化実験』の阻止。
その実験の成功の可能性を示した学園都市最高のスーパーコンピューターの結果を改竄することで、実験を根本から崩そうとしたのだ。
だが、侵入までは上手くいったものの、最後の最後で予想外の事態が待ち受けていた。
御坂「『樹形図の設計者』は、1ヶ月前に破壊されてる……!?」
実験の成功を示したコンピューターは既に破壊されていた。
そして、人1人ロボット1台いない建物の内情を鑑みるに、学園都市上層部はとっくの昔にこの事態を把握している。
つまり、今さら改竄は絶対に不可能。
御坂(謎の高熱源体による地上からの狙撃って、そんな馬鹿げた理由で、こんな……)
画面に映された『樹形図の設計者』の情報には、にわかに信じられない記述が残されていた。
しかし、実際に交信は行われていないのだ。
本当に破壊されたと見るのが妥当だ。
御坂(つまり、これでもう、実験を止める手段が……)
御坂(……イヤ、違う。そうよ! 明らかにおかしい!)
救いのない現実に飲み込まれそうになった直前、御坂は矛盾点を見つけた。
御坂(お昼にやったハッキング……たしかにあそこには『樹形図の設計者』に演算を依頼した結果を基に実験を修正したって!)
第9983次実験の現状を知ろうとハッキングをかけた時、確実に『樹形図の設計者』は動いていた。
しかし、今画面に映っている情報では1ヶ月前に『樹形図の設計者』は故障している。
御坂(……でも、埃の溜まり具合からしても、1ヶ月前に破壊されて放置されていると見るのが妥当。
なら……なんであやふやな条件になっても嘯いてまで実験を続けているの?
もう引き返せないくらい実験は進んでいる? それとも、裏でもっと重要な何かが水面下で進んでいる? もしくは――)
御坂(……でも、はっきりしたことは……)
確実に存在する謀略に気付いたところで、御坂は冷静になった。
こんな妄想はなんの意味もない。
御坂(こいつらは何があろうと実験を最後までやりとげるつもりだ……。
たとえ研究所を壊しても、機材を壊しても、データを壊しても、こいつらは……)
実験を止める方法は完全にシャットアウトされた。
虚偽の演算結果を出しても実験を継続するということは、もはや演算結果の信憑性は重要ではない。
例えば『138手で殺害されるはずの【超電磁砲】が1手でやられたため、演算結果に間違いがある』と実演しても誘導することは不可能だ。
虐殺は止まらない。
この街の研究者はたとえ一方通行が実験を拒否しても無理やり最後まで実験を進めるだろう。
御坂(こんなの……どうすれば……)
その時、ふと今朝の男たちが頭をよぎった。
御坂(……ダメよ。アイツらを頼りにしたところでどうしようもない。もう根っこのところでどうしようもないんだから)
もはや誰を頼ったところで事態は好転しない。
そもそも他人を頼る訳にはいかない。
これは自分の不注意が招いた悲劇であり、責任を取るのは自分だ。
無関係な人間を巻き込んでいいはずがない。
しかし、それでも、わずかにでも可能性があるならば。
御坂(……Level5が2人がかりなら……アイツを重傷か何かに追い込めば、しばらく時間は稼げるはず……)
中止は不可能でも中断ならばまだ可能性はある。
時間を稼ぎ、その間に何か対抗策を立てることができれば、あるいは。
御坂(……正直ざっくりしすぎててなんの計画性もないけど……もう時間がない。やるしかない!)
とにかく今は時間がない。
今生きている『妹達』を救うことが先決である。
学園都市最強の前に立ちはだかる覚悟を決め、他人を巻き込む覚悟を決め、御坂はその場を後にした。
今回はここまでです。
SS速報VIP復活おめでとう!
書きためあるので明日の夜も投下
-早朝、第一七学区操車場
そして、運命の日。
実験開始から45分前。
相変わらずの曇り空の下、クローンの少女は実験場にいた。
9983号「……スケジュール通りに絶対座標に到着しました、とミサカは報告します」
万が一にも遅刻がないよう、クローンの少女はかなり早めに実験開始地点にたどり着く。
もうすぐ殺されてしまうにも関わらず、その表情はいつもと変わらない。
しかし。
9983号「……なぜでしょう」
ポツリ、とクローンの少女は呟いた。
9983号「なぜ今、あの面々が心に思い浮かぶのでしょう、とミサカは原因不明の心理状態に困惑します」
-数分後、第一七学区表通り
ボボボボボボ、と複数のエンジンが回転している音が通りに響いていた。
スキルアウト「……自分ら、ここまでッス」
削板「おう。悪いな」
複数のバイクが通りを封鎖するように並んでいた。
その内の先頭の1台の後部座席から白ランの漢が飛び降りた。
もちろん、その漢はLevel5第七位の削板軍覇。
旭日旗のシャツ、正装である白ラン、気合いを入れるハチマキ。
すべて身につけ、削板軍覇は威風堂々と君臨する。
これらの衣装がこれほど似合う人物は他にいない。
スキルアウト「……気ぃつけてください」
削板「お前らもな」
短く言葉を交わすと複数のバイクが次々に発車していく。
グオオオオオオ! とエンジンの回転数を上げ、削板を置き去りにして行った。
削板「……うっし」
横須賀の舎弟たちが走り去ったのを見届け、削板は歩き始める。
この道を歩き、小道に入れば操車場にたどり着く。
最強の能力者がクローン虐殺する現場にたどり着く。
そこはこの街の大多数の人間には処刑場に見えるだろう。
クローンだけの処刑場ではなく、自身の処刑場にもなりうる場所だ。
しかし、この漢にとっては戦場となるのだ。
大事なものを守るための、己の根性を守るための戦場に。
削板「む……?」
だが、その戦場にたどり着く前に1人の少女が立ちはだかった。
有名私立中学の制服を着た、クローンの素となった少女。
御坂「……おはよ、悪いけどちょろっと付き合ってもらうわよ」
Level5の第三位【超電磁砲】御坂美琴である。
削板「……【超電磁砲】の方か。さすがに根性あるな」
ニッ、と削板は嬉しそうに笑う。
目の前の少女は噂通りの、想像通りの根性をしていた。
自分のクローンを守るために立ち上がれる人間など中々いないはずだ。
だが、この少女はこの細い身体には分不相応なほどの巨大で健全かつ逞しい根性でここに立っている。
テレビの前で憧れていた選手を直に見たら圧倒するほどにスゴかったような、そんな嬉しさが削板を満たしていた。
御坂「ったく、アンタ昨日どこにいたのよ? こちとら一晩中捜してたってのに」
削板「む、そいつはスマン。昨日は仲間の家で作戦会議の後にさっきのスキルアウト達のアジトに泊まっててな」
御坂「あっそ。ところでアイツらなんだったの? ただの送迎ならあんな人数いらないでしょ?」
削板「悪く言えば囮だ。実験のセキュリティとやらが多数いるようだからな。この辺りを走り回ってそいつらを牽制する」
御坂「……そう。本当にこの実験を邪魔してくれるのね」
削板「当たり前だ」
御坂「なら、頼み込む手間が省けたわ。私たちで一方通行を倒す。手ぇ貸してもらうわよ」
削板「……私……たち?」
【超電磁砲】の頼みを受け、【ナンバーセブン】は首を傾げた。
御坂「ええ。悪いとは思ってる。でもこれしかないの」
削板「なに言ってんだ?」
御坂「え?」
削板「一方通行は俺が倒す。タイマンでな。当然だろ?」
さも当たり前のように削板は語る。
しかし、今度は【ナンバーセブン】の常識に【超電磁砲】が首を傾げた。
御坂「……………タイ、マン? 1対1?」
削板「おう。2対1なんざ卑怯だろ」
御坂「な、なに言ってのよ!? 相手はあの一方通行よ!?
ベクトル操作なんていう反則的な能力を持ってんのよ!? 卑怯だのなんだの言ってる場合じゃないでしょうが!!」
削板「その能力は一方通行が自力で身につけたもんだろ? 反則でもなんでもねえじゃねえか」
御坂「そうじゃなくて、アンタ、状況分かってんの!? 下手すれば殺される! その辺のゴロツキとのケンカとは訳が違うの!」
削板「だろうな。なんせ相手はLevel5のトップだ。」
御坂「だったら!」
削板「だが、ちゃんとした理性をもった人間だ。
街中ブッ壊そうと暴走する【魔神】が相手ならまだしも、
無闇に無関係の人間を巻き込むような戦い方をしねえんなら正々堂々タイマンで闘うべきだ」
御坂「……じゃあ、アンタは殺されてもいいっていうのね?」
削板「俺はそう簡単に殺される程ヤワじゃねえ。心配いらん」
御坂「……」
削板「お前の妹も死ぬほど根性出して一方通行と闘ってきたんだ。俺だけがタイマンを張らない訳にはいかねえだろ」
御坂「……そう、じゃあ勝手にしなさいよ」
削板「悪いな。お前にも色々あるとは思うが、タイマン張るつもりがねえなら俺から行かせてもらうぞ」
御坂「ただし! もしもアンタが殺されそうになったら、アンタが何を言おうが勝手に助けさせてもらう!
私のクローンだろうが赤の他人だろうが、もう誰かがアイツに殺されそうになるのを見るのは御免よ!」
削板「……優しいな【超電磁砲】。やっぱりお前は根性ある」
御坂「~~~っ! やっぱり殺されてこい!」
削板「はっはっは! そうはいかん!」
-数分後、操車場
そして、実験場には
一方通行「よォ、今日の実験場はここでいいンだよな?」
学園都市最強と称される怪物がたどり着いていた。
いつもの黒い衣服に身を包み、肩で風を切りながら歩いている。
9983号「間違いありません。実験開始時刻まであと6分20秒です、とミサカは正確に報告します」
その怪物と相対するようにクローンの少女は砂利の上に立つ。
これから殺されることか分かっているにもかかわらず、その表情はいつもと変わらなかった。
一方通行「よかったよかった。また地味で陰湿で姑息な嫌がらせに踊らされてたらたまったもンじゃねェからよ」
9983号「本実験においてはそのようなことはありませんので、とミサカは被験者を安心させます」
一方通行「そォか? 俺にはどォもそンな風には思えねェンだけどよ」
9983号「……なにか不備が? とミサカは原因究明のために被験者に問いかけます」
一方通行「だってよォ」
一方通行「どこの馬鹿だよ、そいつは」
削板「昨日も名乗っただろ。Level5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇だ」
9983号「……なぜ、あなたがここに? とミサカは困惑します」
削板「仲間の守りたかったモンを守るため。訳の分からん実験とやらで虐殺をやってる根性なしを止めるためだ」
9983号「いえ、理由ではなくこの座標を知った手段を
一方通行「おーいおい、人聞きの悪いコト言ってくれンなっつの。
こいつらはただの人形。実験動物。こちとら親切で科学の発展のために実験協力してやってンのに殺人鬼扱いですかァ?」
心底気だるそうに一方通行が反論する。
さすがに3日連続3回連続の邪魔はウザったさしかなかった。
削板「そんな理屈が通じるとでも思ってんのか?」
一方通行「そりゃオマエ、俺だって聖人君子じゃねェンだからよ。
俺にもメリットがなきゃやってけねェよ。俺はこの実験を通してオマエらとは別の次元に行く。最強のその先、無敵にな」
天に手を掲げ、一方通行は何かを掴むようなポーズを取った。
この実験を完遂させたあとの自分を想像すれば、否応なしに笑いが込み上げてくる。
削板「話が噛み合ってねえな。メリットだのなんだのの話じゃねえ」
一方通行「あァ?」
だが、目の前の時代錯誤の白ランはそんな笑いを吹き飛ばすかのように核心に迫った。
削板「そいつらが人形だっつう理屈が通用するとでも思ってんのか?」
一方通行「……訳分かンねェな、オマエ。とりあえず、こっちは忙しいから死ンどけ」
コン、と一方通行が足元の石ころを蹴る。
たが、石ころは蹴られた力の数十倍の速さで削板に迫る。
もはや石ころには激突すれば鉄骨もへし折れるほどのエネルギーが生じていた。
にもかかわらず、
白ランを着た少年はなんのためらいもなく、バシッ! とその石ころを右手で受け止めた。
一方通行「あァ?」
そして、野球の投手のようにそのまま大きく振りかぶる。
削板「ふんっ!」
足を上げ、身体をひねり、ワインドアップから全身を使ってその石ころを投げ返した。
ギュオッ!! と唸りをあげ、石ころは先ほどよりも速く一方通行に向かって突き進む。
一方通行「!」
だが、その石ころは一方通行の顔のすぐそばを通りすぎた。
ズギャン!! と石ころはコンテナを突き破って中まで到達した。
さらには摩擦熱でコンテナの中身に高熱が生じる。
開いた穴から黒煙が立ち上ぼり始めた。
削板「始球式だ。景気づけにはなっただろ」
ギン、と削板は一方通行をにらみつける。
削板「始めんぞ最強。無敵だかなんだか知らねえが、
弱い女をいたぶり回して得たチカラなんざなんの根性もねえしみったれたチカラだってことを教えてやる!!」
ドッパァン!! と赤青黄の煙が盛大に立ち上ぼった。
一方通行「……ギャハッ、最ッ高に調子乗ってやがンなァ第七位風情が!!
そンなにブッ殺されてェならお望みどォりドタマかち割って脳味噌引きずり出してバイオ風にデコってやンよォ!!」
ドゴォン!! と、黒煙を上げていたコンテナが爆発した。
ただでさえ曇天で天気が悪かったのだが、さらに赤青黄、そして黒の煙が混ざり合い、辺りは一時的に隔離された空間になった。
9983号「………実験開始まであと2分13秒あるのですが、とミサカはいつの間にか空気になっていたことを嘆きます」
御坂「いいから黙っておとなしくしてろ!」
少し離れたところではコンテナの上に同じ姿形をした少女たちがいた。
Level5の第三位である少女が、自分のクローンが戦闘に巻き込まれないように救出していたのだ。
すでにあの2人は自分の相手にしか意識が向いていなかったので救出自体は簡単だった。
Level5同士の正面衝突。それはつまり軍隊同士がぶつかり合う戦争。
そのど真ん中に立っていたのではまず助からない。
9983号「………やはりミサカには理解できません、とミサカは心情を吐露します」
御坂「私もよ。あんな真っ正面から闘うなんて……」
9983号「なぜ、そこまでして闘うのでしょう」
御坂「……許せないんでしょ。こんな実験が。アンタが殺されるのが。私だってそうよ」
9983号「………それが………あれが、根性というものですか」
御坂「そうかもね」
削板「『スゴい……」
ダッ!! と削板が地面を蹴る。
たったそれだけで、ほんの一瞬で一方通行の懐に入っていた。
一方通行「!」
削板「パンチ』!!」
ボッ!! と削板の拳が繰り出される。
科学では解明できない不可視の巨大な力。
それがLevel5第一位にたたき込まれた。
はずだったのだが。
ボカァン!! と一方通行の右後ろの方向にあるコンテナがなぜか吹き飛んだ。
削板「……な?」
一方通行「……?」
思わず2人は動きを止める。
互いに驚愕していた。
理由は互いに同じだ。
能力が正確に相手に伝わってない。
一方通行「っ! らァ!」
自身に拳をぶつける形で固まっていた相手を一方通行が服を掴んで引き剥がした。
削板「むおっ!」
華奢な腕で無造作に振り払われただけなのに、削板の身体は軽々と吹き飛ぶ。
しかし、それだけだった。
ハチマキを巻いた少年は易々と着地し、すぐに体勢を立て直した。
一方通行(あンだァ? 今の気持ち悪ィ感覚は。なンで反射が機能しねェ?)
削板(なんだ? 今の妙な感触は。『スゴいパンチ』が反らされたのか?)
慎重に相手の出方を伺いながら、両者は考えをまとめていく。
一方通行(だが、ベクトル操作自体は普通に作用した……。まるっきり能力が効かねェって訳じゃなさそォだな)
削板(そう言えば【超電磁砲】が能力はベクトル操作って言ってたな……。今のはそのせいか)
2人がほぼ同時に自分なりの解釈をまとめたところで、一方通行が口を開いた。
一方通行「……あァ、思い出した。第七位ってなァ、わけわかンねェから第七位だったンだよな?」
削板「おう、それがどうした」
一方通行「ッハハァ、面白ェなァ。っつゥことはだ。
この街でも分かンねェモンが分かっちまったら俺はいよいよLevel6になっちまうンじゃねェのか!?」
削板「……ナメんなよ、最強。俺の能力は根性なしに理解できるほど簡単なモンじゃねえんだ」
一方通行「上等ォ、なンせLevel6の壁だ。そンくらい高くねェとつまンねェもンなァ!!」
ダン! と今度は一方通行の方が地面を蹴った。
ベクトルを操れる者の突進。その速度は削板にも劣らない。
削板「もういっちょ!」
再び削板は不可視の力を繰り出す。
しかし、その力は一方通行に触れたとたんに軌道を変え、またもや後ろへと受け流された。
一方通行「あっはギャハァ! いいねいいねェ! もっと撃ってこいよ! ちゃンと解析してやっからよォ!」
白髪の超能力者が一気に距離を詰め、そのまま身体を捻って裏拳を繰り出す。
加速で得たエネルギーも遠心力で得たエネルギーもすべて腕全体に集中させる。
削板「なんの!」
その拳をまともには受けず、腕に腕を下からぶつける形で軌道を反らす。
カチ上げられた拳は腰を落とした削板の頭上を通過していった。
一方通行「おォ!? なンだこりゃ!? テメェ身体にも面白そォなモンまとってンじゃねェか!」
削板「ニヤついてんじゃねえ! 気色わりぃな!」
腰を落としたまま、さらに一方通行の腹部に正拳突きを放つ。
しかし、その力も後ろに反らされてしまう。
一方通行「こンな愉快なモン見つけたのに黙ってられっかっつゥの! ぜってェ解析してやンよォ!」
今度は一方通行が削板目がけて膝蹴りを繰り出す。
それを削板が手のひらで受け、一瞬で一方通行の太ももの下に肩を入れ、強引に投げ飛ばす。
ただの人間なら触れることすらできないはずだが、一方通行は削板の能力を原理を解析するためにあえて触れさせ、投げられた。
だが、ベクトルを操れる一方通行は空中で反転し、投げられたベクトルをも反転し、再び接近戦に持ち込む。
ミサイルのように迫りくる一方通行に向けてカウンターの要領で正拳突きを繰り出すも、チカラは正確に届かない。
攻撃を繰り出す、攻撃を受け流す、攻撃を繰り出す、受け流す、繰り出す、受け流す、繰り出す……
Level5と称される怪物同士の争いはみるみる内に辺りを焦土に変えていく。
砂利は吹き飛び、コンテナは爆散し、色とりどりの煙が巻き上がる。
戦局はやや一方通行に有利だった。
防御を完全に思考と行動から外せる一方通行とすべての動きに対応しなければいけない削板では消耗の度合いが違う。
おまけに一方通行は完全にダメージを受け流せても削板は全体の何割かは食らってしまう。
闘いが長引くほど確実に削板が不利になっていく。
この流れを変えなければ削板に勝ち目はない。
学園都市最強のチカラか、学園都市でも不可思議なチカラか。
だが、先に戦局を動かしたのは
一方通行「こォ、か!?」
バシイ! と一方通行の回し蹴りが削板の則頭部を捉えた。
削板「ぐお!?」
いつもなら堪えられたはずの蹴りが削板の脳を揺さ振る。
それと同時に削板の視界も揺れる。視界が瞬く。
一方通行「あっはァ!! よォやくコツが掴めてきたぜ!! コレか!! この演算式か!!」
ほぼすべての砂利石が吹き飛び、黒い土がむき出しになった地面の上で一方通行は歓喜の声を上げた
一方通行「だが、まァだ完全には解析できてねェな。どっかで何かが違ェンだよなァ……」
今の回し蹴りが完全に通っていれば、削板の身体は回転しながら吹き飛んでいた。
そんなベクトルをたたき込んだはずだった。
しかし、削板の身体は吹き飛ぶどころかぐらついただけだ。
削板「クソ……」
一方通行「そもそも数字の演算じゃねェのか? 既存の四則演算で解析できるモンじゃねェとか……?
クカカカ、そォか! そォかそォか! 数字じゃ表せねェ! 科学じゃ表せねェ! つまりその先!
科学の限界たるLevel5を超えた先にあるもの! つまりLevel6! あァア、テンション上がってきたァ!!」
狂ったように一方通行は吠える。
いつまで経っても掴めないチカラへの足掛かりが見えてきた。
いつまで経っても届かないチカラへの足掛かりが見えてきた。
一方通行「なァおい! それオマエ自身も持て余してンだろ!? じゃなきゃ第七位なわけねェもンなァ!」
削板「……」
一方通行「つゥことはだ!! テメェのこの能力を完全完璧に解析しちまったらホントに無敵になれンじゃねェか!?
クァァアアア!! ヤベェよおい! 完全にハイになってンぜ俺今! もっと楽しもォぜ格下ァ! ショボ暮れた顔してンな!」
華奢な身体からは絶対に出せないはずの速度の拳が削板に襲い掛かる。
その拳をバックステップで躱すも、一方通行の攻撃は一撃では終わらない。
そのまま突進して連続で拳を繰り出す。
ガードを取るという行為を完全に無視できるこの超能力者は攻めることしか知らない。
一方通行「逃げンなァ! テメェの能力さえ解析すりゃァ残りの10019体の『妹達』を相手しなくて済むンだ!
プチプチプチプチ雑魚潰す作業はもォこりごりなンだよ! 逃げ足はえェとこまで再現してンじゃねェぞボーナスモンスター!」
荒れ狂う暴力の津波が削板を襲う。
その攻撃を躱し、受け流し、退けていく。
しかし、このままではジリ貧だ。先ほどまでのやり合いでそれは分かってる。
何せベクトルを操れる一方通行には受けが通じない。
例えば、蹴りにおいて体重とチカラが一番乗ってる箇所が足の甲だったりスネだったり腿だったりする。
これでは受けは悪手だ。序盤の膝蹴りの受けは上手くいったが、能力を解析されつつあるのではリスクが高すぎる。
防御の1手が潰されただけでかなり選択肢が狭まる。
削板(クソ! 遠距離に持ち込もうとしてもへばりついてきやがる! 最強を名乗るだけはあるな!)
もはや戦局は完全に一方通行に傾いていた。
このまま行けば削板はやがて手詰まりだ。能力を解析されて為す術もなく倒される。
解析されないように遠距離に持ち込もうとしても、一方通行は解析のために少しでも長く削板に触れようとしている。
引き離すことはできない。
削板(根性が足りてねえぞ削板軍覇!! こんな根性なしに遅れを取ってんじゃねえ!!)
心の中で自らに喝を入れる。
しかし、そうしている間にも相手の猛攻は続いている。
具体的な策を考える暇など与えてくれはしないだろう。
おまけにこの状況が長引けば長引くほどどんどん一方通行に有利になっていく。
一方通行「どォしたどォしたァ!! さっきまでの自信たっぷりな表情はどこ行ったよ!?」
最強の能力者は攻撃の手を緩めない。
このままでは―――
削板(ああ、答えは出てんじゃねえか)
天啓だった。
削板(足りてねえんじゃねえか。根性が!!)
この状況を打破する方策が見えた。
一方通行「っつ!?」
ドッギャァァアン!! と一方通行の後方で先ほどまでとは比べ物にならないほどの大爆発が起きた。
それと同時に一方通行の腹部に鈍い痛みが走った。
一方通行「……ア?」
猛攻が止まった。
最強の能力者は驚愕していた。
確かに、今、腹部に鈍い痛みが。
一方通行「な、ン……?」
首を下に向けると、自分の身体に正拳突きを放った男がいた。
削板「おう最強。さっきまでの楽しそうな表情はどうした」
一方通行「テメ」
ブアアアア!! と上空の煙が吹き飛んだ。
最強の能力者はそれを目視していた。
先ほどまで下を向いていたはずが、なぜか上を向いていた。
一方通行「な……」
直後に額に痛み。そしてそれは首にも続き、少しだけ頭がクラクラした。
一方通行「………!?」
経験したことのない異常事態に一方通行は一気に距離を取る。
ベクトルを操作してひとっ飛びで後ろに10mほど下がった。
削板「はっはっはっはっは!! どうだ最強!!」
一方通行「なンだテメェ……一体なにしやがった!!」
削板「分かんねえか? やっぱ根性なしには分かんねえか」
胸を張り、顔を上げ、意気揚々としたその表情で、削板軍覇は言い放った。
削板「簡単な話だ。今までよりもっと根性を入れた」
一方通行「……は?」
削板「お前が何回も戦闘を繰り返して成長したように、俺も数々の根性ある死闘を繰り返して成長した。
だから俺は! 今までよりもっと根性を入れて攻撃することを可能にした! 今までよりも1段階上の必殺技! 名付けて!!」
ビシィ! と削板は正拳突きの型を取った。
削板「『超スゴいパンチ』だぁ!!」
ドッパアアアアン!! と削板の背後で3色の煙が盛大に吹き荒れた。
一方通行「………なンだそりゃァァァア!!」
結局のところ、削板軍覇は削板軍覇なのだ。
根性一択。根性ゴリ押し。
彼にしかできない、彼だけの攻略法。
しかし、言ってることはあながち間違っていない。
人工石である学園都市の能力者であれ、天然石である姫神や削板の【原石】であれ、大枠では一緒だ。
そして、本気で集中して演算を繰り返すことで能力が向上することは学園都市が証明している。
手っ取り早い例を上げるならこの実験もそれに則っているし、横須賀が出ていた地下闘技場もそうだ。
そして、削板は一方通行ほどの戦闘回数はないにせよ、密度の濃い戦闘を繰り返してきた。
横須賀との決闘の日々、人命救助という名の大乱闘。
対プロの魔術師、対世界に20人といない【聖人】、対暴走する【魔神】、対怒れる錬金術師。
そのどれもが密度の濃い、死闘とも呼べる闘いの連続だった。
で、あれば。
もう1段階上の領域に達することは決して不思議なことではない。
削板「さぁいくぞ最強!」
一方通行「クソッタレがァ! そいつも一緒に解析しちまえばいいンだろォがァ!」
再び削板が距離を詰める。
それを一方通行が迎え討つ。
削板「『超! スゴいパンチ』!!」
ボッッッ!! と音速を遥かに超える拳が繰り出される。
一方通行「ガッ……!」
ズギャアアアア!! と数トンあるはずのコンテナが5、6個まとめて吹き飛ぶ。
さらに、音速を超えたせいで発生したソニックムーブは黒い土を吹き飛ばす。
そして、一方通行にはダメージだけでなく。
一方通行「ウソだろ……」
絶望が襲っていた。
基本的に削板は先ほどと変わったチカラは使ってないのだ。
チカラが変化したのではなく、チカラの規模が爆発的に増加した。
その理由で一方通行にダメージがいくということは。
一方通行「俺の演算能力のキャパを超えた分が身体に来てるってのか……!?」
もともと解析出来ていなかったベクトルをたたき込まれていたために、全てを正確には観測できていなかった。
だが、それでも先ほどまでは反らせていたはずだ。
それが出来ていないということは
削板「だからよ、最強」
一方通行「!」
削板「テメェみたいな根性なしに扱えるモンじゃねえんだ!!」
バッキィ!!! と遠くの鉄柱がへし折れ、ベキベキベキと倒壊していく。
アッパー気味に放った右フックが一方通行の横っ面に炸裂した。
一方通行「ガッ……っそがァァ!!」
最強の能力者が反撃に出る。
自身がやられた箇所へ、削板の横っ面目がけて右フックを放つ。
が、削板はそれを紙一重でスウェーで躱す。
削板「ふん!!」
大振りのフックでがら空きになった一方通行の顔面目がけ、おもいっきり右の拳をたたき込む。
一方通行「ギ……!」
ドドドドドドド!! とすでに巻き上がっていたレールが吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
顔面に拳をたたき込まれた一方通行からは鼻血が出ていた。
一方通行「くっ……」
たまらず一方通行は再び距離を取る。
このままでは飲み込まれる。
削板「防御と回避の仕方も分かんねえのか! 如何に格下ばかり相手にしてたのかが分かるな!」
形勢不利になったとたんに飛び退く一方通行を見て、削板は半ば呆れながら半ば怒りながら声をぶつけた。
一方通行「……」
削板「ケンカのイロハも分かんねえヤツが学園都市最強だと?
笑わせんな!! テメェより強いヤツもテメェより根性あるヤツもゴロゴロいるぞ!!」
一方通行「……」
削板「つまりお前は能力の序列がトップってだけだ。最強の名を冠するにはまだまだだな!」
プツッ、と一方通行の中で奇妙な音がした。
一方通行「……クカカ」
削板「ん?」
一方通行「クカケキコキカカクカケカキケコカカァァァア!!」
グォオオオオオオオオ!! と空気が唸りを上げて吹き荒れる。
削板「むおっ!?」
その風は強風どころでは表せない速度となり、石や土を巻き上げていく。
速度はぐんぐん上がっていき、やがて重たいものまでも巻き上げいく。
破壊された鉄柱の破片、レールのボルト、コンテナの一部、そして
一方通行「吹き飛べ格下ァ!!」
ブワッ!! と削板の身体が宙に舞い上がる。
如何にパワーがあろうと重さは人並みの体重だ。
大きすぎるチカラには逆らえない。
削板「うおわああああああああああ!?」
巻き上がる竜巻に飲み込まれ、削板の身体は土や瓦礫と一緒に回転していく。
まるで身動きが取れずに流されるがままの状態だ。
一方通行「ケンカのイロハだァ!? ンなモン分かンなくてもテメェをミンチにする方法なンざ山ほどあンだよォ!!」
すべての物質に対してベクトルは存在している。風の流れにも当然ながら存在している。
ならば、もはや体内の精密なベクトル操作すら可能になったこの超能力者にとって大気を操るなど朝飯前だ。
一方通行「くたばりやがれェ!!」
上空に伸びていた竜巻が傾く。
そして、竜巻に巻き込まれて振り回されていた削板の身体が遠心力をたっぷり得て、積み上げられたコンテナの山へと突っ込んでいく。
グァッシャアアア!! とコンテナの中へ削板はたたき込まれた。
激突の衝撃で積み上げられたコンテナはベコベコに凹んだ上に風穴が空いていた。
常人なら全身骨折に内臓破裂とショックで即死する威力だ。
一方通行「まだまだァ! テメェはこンなンじゃくたばンねェだろ!! 跡形もなく消してやンよォ!!」
最強の能力者が両手を掲げる。
風の流れを制御できるようになった一方通行がやること、それは
御坂「………なによ、アレ………」
少し離れたところで、磁力でクローンと一緒にコンテナにしがみついていた少女は愕然とした。
ようやく竜巻が消えたと思ったら光り輝くまがまがしい物体が出てきた。
【電撃使い】の最高位に君臨する彼女はすぐにそれが何か分かった。
御坂「プラズマ……って、あんなの、ここら一帯全部吹き飛ぶわよ!?」
9983号「……それでも一方通行だけは生き残れるから関係ないのでしょう、とミサカは冷静に分析します」
御坂「あんなの、どうすれば……」
一方通行「圧縮、圧縮、空気を圧縮! こいつをぶつけりゃさすがのテメェも塵1つ残ンねェだろ! 操車場ごと消してやるよ!」
学園都市中のすべての大気の流れを操り、一方通行は笑う。
今や削板の能力を解析したいという願望よりも削板にナメられた怒りが彼を支配していた。
一方通行「どォしたおい! 散々上からモノ言ってたくせにもォ息してねェのかァ!?
守りてェモンがどォこォカッコつけておきながらくたばりやがったか!? ダサすぎンぜ格下ァ!!」
積み上げられたコンテナにたたき込まれて見えなくなっている削板に向けて罵声を浴びせるも返事はない。
この程度でくたばっているとは思えないが、気絶くらいはしているかもしれない。
一方通行「それならそれでかまわねェよ! 世にも珍しいプラズマ葬で成仏させてやっから感謝しろ!」
もはやプラズマは7割方完成している。
あと数十秒もすれば操車場は学園都市から消失する。
御坂「……そうよ、アレは空気の流れを制御して作りだしてる。それなら、その風を乱せば……」
少し離れた場所では、御坂が必死に解決策を模索していた。
9983号「どうやって乱すのですか? とミサカは率直な疑問を投げかけます」
御坂「それは……そう、風車! アンタ達が総出で風車を動かせば、大気の流れを乱すことくらい」
9983号「ミサカ達がそれをすると思いますか?」
御坂「え……」
9983号「『妹達』はこの実験のために生み出されてこの実験のために死んでいく存在です。
そんな『妹達』が実験を妨害するような真似をすると思いますか? とミサカは再度率直な疑問を投げかけます」
御坂「……アンタ……本気で言ってんの……?」
9983号「……」
御坂「あのデカい人だって、あの女の人だって、今闘ってるアイツだって、みんなアンタのために闘ってんじゃない!!」
9983号「…………」
御坂「生まれた理由がどうとか、死んでいく理由がどうとか、今はそんなのどうでもいい!!
今ここにいるアンタは! これだけ色んな人に守られてなんとも思わないの!?
あれだけ必死に闘ってる人間を見ても! アンタの心にはなんにも響かないの!?」
9983号「……ミサカは……」
御坂「……分かってる。私にこんなことを言う資格なんてない。
それでも、必死になってアンタを救おうとしてるアイツを助けたいと思うなら手を貸して!」
9983号「ミサカは……ミサカは!」
???「おい!!! 【超電磁砲】!!!」
遠くから雷鳴のような怒号が聞こえた。
思わず御坂は身体を硬直させる。
声のした方向に顔を向け、目を見開く。
なぜなら、その声は
削板「人のタイマンに手ぇ出すんじゃねえ!! 引っ込んでろ!!」
どうしようもないほどの根性バカの声だったからだ。
ドッッカアアアアン!!! とコンテナの山が火山のように噴火する。
だが、上がる煙はもちろん黒ではなく赤青黄の3色。
そして、立ち上った煙は巻き戻しのように噴火口に戻っていく。
否、曲がらず腐らず正面から正々堂々と立ち向かう漢の拳へと吸い込まれていく!
削板「『超!! すごい!! パンチ』!!!!」
ズドッッッ!!!! と不可視のチカラがプラズマの中を貫いた。
そして、それに遅れてついていく形でプラズマが変形していく。
ブォワッ!! と光り輝く球体が真ん中から貫かれ、花が完全に開花するように広がった。
一方通行「な……!?」
やがて形を維持できなくなったプラズマは霧散していく。
巨大な花びらが霧になっていく様子を見て、一方通行の背筋に悪寒が走った。
一方通行(ちょっと待て! 反らしてるから気付かねェだけで、実際にはあンなデタラメなモンぶつけられてンのか!?)
ゾッ、と寒気がした。
たしかに解析できない物質が大気中を高速で移動すれば演算が破綻するのは自明の理だ。
しかし、それにしたってあの破壊のされ方はない。
もしも、あんなものがまともに当たったら
削板「覚悟はいいか、最強」
一方通行「!?」
いつの間にか、白ランを着た学生は目の前にいた。
そして、あの、3色の拳が
削板「これが、根性だ!」
バキィ! と一方通行の顎を削板の拳が正確に捉えた。
一方通行「グァッ!?」
ふらり、ふらり、と千鳥足のように一方通行の身体が揺れる。
そして、どしゃり とその場で崩れ落ちた。
削板「……まともにケンカもしたことねえヤツに打撃の耐性なんてあるわけねえよな」
今まであらゆる負荷を跳ね返してきた最強に、人体の急所である顎を殴られて耐えるほどの耐性はない。
かつて経験したことのない脳の揺れが一方通行を襲い、そのまま気を失った。
削板「寝てろ。最強」
ザッ、と土の上に横たわる第一位を尻目に、第七位は背を向けた。
御坂「……勝った、の?」
9983号「……信じられません、とミサカは目の前の現状を受け入れられずに茫然自失となります」
少し離れた場所に置かれていたコンテナの上で一部始終を見ていた2人は動けずにいた。
最強を謳う超能力者が負けたという事実が信じられずにいた。
むしろ、そのこと自体は望んでいたはずなのだが、それにしてもこんな形で叶うとは思ってもいなかった。
削板「……おう、そこにいたか【超電磁砲】たち」
あちこちボロボロになった漢がこちらに向かって歩きながら笑いかけている。
白ランはところどころ破け、顔は少し腫れあがっていた。
削板「わりと近くにいたんだな。もっと遠くに避難してると思ったが……やっぱ頭打って感覚狂ってたか」
御坂「……アンタが殺されそうになったら助けに行くって言ったでしょ。近くにいなきゃ戦況が分かんないじゃない」
削板「はっはっは、たしかにな」
9983号「……」
削板「さて、そこのクローン。名前は?」
9983号「ミサカに名前はありません。検体番号なら9983号です、とミサカは10031号の例に倣って名乗ります」
削板「そうか。お前に聞きたいんだ
バキィ!! と削板の後頭部に何かが激突した。
削板「ガ!?」
いきなりの後ろからの衝撃に削板は前のめりに倒れる。
ドサッ、とボロボロになった身体がうつ伏せに地面に落ちた。
御坂「え……」
激突した物体はガチガチ固められた鉄の固まりだった。
もっと正確に言えば、削板が先ほど吹き飛ばしたコンテナの破片を固めたものだった。
なぜ、こんなものが急に飛んできたのか。
答えは簡単だった。
一方通行「おいおい……こンなンでケリついたと思ってンじゃねェよ、格下ァ!」
学園都市最強の能力者がその能力を使ったからだ。
ふらり、ふらり、と覚束ない足取りで一方通行は歩みを進める。
一方通行「あァクソが……たかだか格下ごときの拳でフラつきやがる……。
核撃っても大丈夫っつゥキャッチコピーは撤回しねェとかもな……」
確実に削板の拳はダメージを与えている。
しかし、それでも、学園都市最強の能力者は立ち上がる。
削板「……ってえな」
むくり、と学園都市最強の根性を持つ漢も立ち上がる。
身体の向きを180度変え、再び少し離れたところにいる一方通行と向き直る。
激突された後頭部に手を当てると、ドロリとした血が手に付着していた。
削板「……学園都市最強を名乗るヤツが後ろから不意討ちすんのか?」
一方通行「あァ? テメェが勝手に背中向けたンだろォが。気絶させた方の勝ちならさっき俺が勝ってたぜ?」
削板「言うじゃねえか」
ザッ、と2人は再び相対する。
2人の間に再び緊張が走る。
削板「1つだけ聞かせろ。お前、なんで立ち上がれるんだ? 俺の拳は根性なしに耐え切れるほどヤワじゃねえぞ」
一方通行「ハッ、決まってンだろォが。俺が最強だからだよ」
削板「……分からねえな。捨てたがってる最強って称号がお前を支えてんのか? その矜持がお前を立ち上がらせるのか?」
一方通行「当たり前だろォが。だってよォ、オマエ」
一方通行「俺が最強じゃなくなったら『妹達』はどうなンだよ」
削板「……なに?」
思わず削板は聞き返した。
そして、最強を謳う能力者は続ける。
一方通行「俺が最強じゃなくなったら今生きてる『妹達』はどォなる?
この実験が潰れればカネ食うだけのアイツらは速攻で処分される」
既に生産されている『妹達』の人数は10019体。
彼女らを1日養うだけでも莫大なコストがかかる。
用がなくなったら処分されることは火を見るよりも明らかだ。
一方通行「俺が最強じゃなくなったら既に死ンだ『妹達』はどォなる?
この実験が潰れれば今まで死ンでいった『妹達』は報われずに無駄死にで終わる」
今まで殺されてきた9981体の『妹達』は一方通行を無敵のLevel6に押し上げるために死んでいった。
この実験がなくなったら『妹達』の死はなんの価値もなくなってしまう。
一方通行「この実験はなァ、とうの昔に一方通行なンだよ。
それをなンにも知らねェ格下の偽善者どもが、まともな正論掲げて邪魔してンじゃねェぞコラァァァァアアア!!!!」
ドッ!!!!! と大気が揺れた。
原因は明白だ。
今、一方通行の背中からはとんでもないものが生えていた。
御坂「なに、アレ……」
巨大な漆黒の翼が天に向かって伸びていた。
それは絶望そのものだった。
もはやベクトルをどうこうして作り出せる代物ではなかった。
御坂「あんなの、どうしたら………」
身体が凍っていく。
ケタ違いのチカラを前にして、身体が動かなくなる。
ドッッッパアアアン!!! と大気が爆発した。
原因は明白だった。
御坂「!?」
漆黒の翼が御坂の視界から消えていた。
代わりに、赤青黄の3色の煙が御坂の視界を埋め尽くしていた。
削板「フザけやがって……」
3色の煙を爆発させた漢は眉間にシワを寄せ、憤怒の表情を浮かべていた。
削板「そこまで分かっていながら、そこまで根性がありながら、どうしてお前はそんな答えしか出せねえんだ!!!」
学園都市最強の能力者は根性がある。それは分かった。
しかし、これは違う。
救うために殺すという矛盾。
これはかつてステイルや神裂と敵対した時に感じたものと同じだ。
その根性故に間違った方向に凝り固まってしまった考え。
歪んでしまった、強大でありながらいびつな根性。
削板「止める!!」
爆発した煙は再び削板の所へ戻っていく。
否、削板の拳に、全身に、削板を纏うように圧縮されて包んでいく。
削板「てめえの根性はここで止める!! もうそれ以上間違った方向にはすすませねえぞ最強!!」
かつて【魔神】を力技で止めたチカラが削板の根性に呼応して溢れだす。
世界最大の【原石】たるそのチカラがより強く、より高密度で削板の身体を包んでいく。
もはやどちらが正しいかなどではない。
意地と意地のぶつかり合い。
根性と根性のぶつかり合い。
言葉で解決できない以上、漢は身体でぶつかるしかない。
一方通行「pqxgmaj殺wagtjw」
削板「おおおおおおおおおお!!」
翼と拳が、激突した。
.
一方通行(………ァ………?)
青空が広がっていた。
音はなかった。
すべてが吹き飛んでいた。
一方通行(………俺ァ………)
しばらくの間、一方通行は空を眺めていた。
身体がひどく重かった。
頭の回転がひどく鈍かった。
一方通行(……そうだ、俺は……!)
飛んでいた記憶が戻ってくる。
そして、現状が把握できてくる。
一方通行(地面に横たわって……? なら、アイツは……)
ググッ、と頭を持ち上げる。
しかし身体が言うことを聞かない。
それでも、なんとか、頭だけでも。
一方通行「……………!」
なんとか頭を持ち上げ、辺りを見渡すと、いた。
アイツだ。立っている。
削板「………」
旭日旗のシャツを着た敵が、仁王立ちしている。
あれだけの激突を経て、まだ立っている。
一方通行(ク、ソが……!)
すでに限界を迎えている身体にムチを入れる。
動かない身体を無理やり動かす。
一方通行(立て……! 立たねェ、と……!)
もはや演算などできやしない。
だが、そんなものがなくとも、立たなければ―――
ザッ、と学園都市最強の男は再び立ち上がった。
一方通行「は、はハはハハ……!」
立ち上がれた。当然だ。
誰であろう、学園都市最強の一方通行だ。
第七位ごときには負けない。負けるはずがない。
自分のためにも、『妹達』のためにも、負けていいはずがない。
削板「………」
向こうも動きはない。
立っているだけで精一杯のはずだ。
一方通行「ギ……ヒャ……」
少しずつ、一歩ずつ、仁王立ちをしているバカに近づく。
もはや能力は使えないだろうが、条件は向こうも同じだ。
どんな形だろうがあと1発入れれば沈む。
俺を誰だと思っている。
学園都市最強のLevel5の第一位、一方通行だ。
格下の第七位ごとき、どうこうできないはずがない。
削板「………」
もう手の届く範囲に入った。
あのイラつく顔面に、あと1発入れれば。
一方通行「終わりだ……。格下……!」
ぺちん、と絶望の音が聞こえた。
一方通行(……ああ……)
それは、能力抜きの自分の拳が相手に当たった音だった。
一方通行(俺って、こンなに弱かったのか……)
それを合図に仁王立ちをしていた敵が動いた。
削板「終わりだ。最強」
バキィ! と自分の顔に拳が突き刺さる音がした。
能力ばかりを重視していた人間が、能力と身体と根性を鍛え続けた人間に勝てるはずがなかった。
ドサァッ! と黒い地面の上に仰向けに一方通行は倒れた。
一方通行「ゲホッ! ガッ! ……ハァッ、ハァ……」
殴り飛ばされた顔と倒れた時に打った背中に激痛が走った。
もはや無意識で常時発動している反射すら機能していなかった。
一方通行(………負けた……)
そして、全部終わってしまった。
一方通行(……完敗だ。ぐゥの音も出ねェ……)
もはや指1本動かせない。
演算1つできない。
今度という今度こそ立ち上がれなかった。
一方通行(………空………)
だが、だと言うのに。
なぜかどこか清々しくて。
一方通行(………こンな、青かったっけなァ………)
なんとなく、嫌な気持ちではなかった。
ザッ、と誰かが側に来た。
一方通行「ア……?」
それは、見飽きるほど見てきた顔だった。
その顔が神妙な面持ちで自分を見下ろしている。
恐らく、こんな表情ができるのは
一方通行「……オリジナルか」
御坂「………」
ギャハ、と一方通行は笑った。
一方通行「殺れ」
御坂「………」
一方通行「クソッタレの人生だ。クソッタレに殺されンがお似合いだ」
御坂「……」
一方通行「殺り方が分かンねェか? 簡単だ。テメェが作り出せる全てのベクトルを全力で俺にぶつけろ」
御坂「……」
一方通行「単一のベクトルを反射すンなら訳ねェが、複数同時には今の俺にはできねェよ。今なら簡単に殺れるぜ?」
御坂「……」
スッ、と御坂は一方通行の上に馬乗りになった。
そして。
バッチィン! と強烈なビンタを一方通行の頬に炸裂させた。
一方通行「……ってェ」
バッチィン! と、もう1度炸裂させた。
一方通行「……っ……。あのなァ、いくらなンでもビンタで人殺せるか?」
御坂「反射」
一方通行「あァ?」
御坂「できてないじゃないのよ」
一方通行「……」
御坂「もしもアンタを殺す権利が誰かにあるとしたら、それは『妹達』よ。私がアンタに直接なにかされた訳じゃない」
一方通行「……そォかよ」
御坂「だから、今日のところはこれで勘弁してあげる。一生許す気なんてないけどね」
一方通行「……どの口がほざきやがる、元凶が」
御坂「アンタにだけは言われたくないわ」
そんな状況を目の当たりにしながらも決して慌てず、削板が2人に近寄った。
いつも白ランはどこかに吹っ飛んでいた。
削板「……おい、一方通行。お前の負けだ。俺の質問に答えてもらうぞ」
一方通行「……文章がトンでンぞ馬鹿」
削板「この実験はどこを潰せば止まる? どっかに親玉がいんだろ?」
一方通行「……俺が知るかよ」
削板「なに?」
一方通行「俺は進行表通りに動いてきただけだ。細かい利権配分だの主導権だのには興味がなかった。
心当たりがあンのはいくつかあるが、そこを潰せば実験が止まると保証できるよォな所は知らねェよ」
御坂「……」
削板「ぬぅ……まいったな」
9983号「あの……よろしければお教えしましょうか? とミサカはおずおずと話しかけます」
一方通行「!」
御坂「!」
削板「……お前が教えてくれんのか?」
9983号「……被験者、いえ、一方通行の考えも、お姉さまの心も、
あなたの根性も、今なら少し分かる気がします、とミサカは自身の心境の変化を吐露します」
一方通行「……」
御坂「アンタ……」
削板「……はっはっは。やっぱりお前は立派な人間だよ」
9983号「……そうでしょうか、とミサカは少々困惑します」
削板「ああ。じゃあちょっと待ってくれ。いま仲間に連絡を……ん? ケータイどこいった?」
一方通行「……」
削板「おお、あったあった。……つながらんな」
御坂「……それどう見ても『ケータイだったもの』なんだけど」
削板「ん? ケータイはケータイだろ?」
9983号「……やはりあなたも限界を超えているのでは? とミサカは真顔でボケている少年を心配します」
削板「バカ言え。……この程度で俺、が……うお?」
ぐらり、と削板が身体のバランスを失い、地面に吸い込まれそうになった。
しかし、倒れる前に誰かがその身体を支えた。
???「わとと、重い重いぐんは!」
それは、彼の部屋に居候しているシスターだった。
『完全記憶能力』持つ、銀髪の少女。
削板「ん……? インデックス……?」
インデックス「大丈夫? ぐんは」
『イギリス清教』の【魔導図書館】インデックスだった。
削板「……なんでここに?」
インデックス「あれだけドッカンドッカンやっといてそれはないんだよ。
かおりとすているが『人払い』を張ってなかったら今ごろぐんはは護送車で牢屋行きかも」
削板「……はっは、スマンな」
インデックス「ううん、ぐんはがちゃんと根性を貫けたならそれでいいんだよ」
削板「そうか。……インデックス」
インデックス「うん?」
削板「後でみんなに言っといてくれ。ちょっと寝てから行くから、あとは、任せた……」
ガクッ、と削板は完全にインデックスに身体を預けた。
かと思えば、一気に豪快な寝息を立て始めた。
インデックス「……お疲れさま、ぐんは。次は私たちの番なんだよ」
今回はここまでです。
ようやくここまできたか……
レスありがとうございます。
言い忘れてましたが、pixivにもこのSSを掲載してました。
SS速報VIPが消滅したと勘違いしてアカウントを作ったので、内容はこちらのものと変わりません。
今後はどちらも同時に更新していこうと思います。
ウクライナ情勢がわりと本気で心配です。
パラリンピックはちゃんと開催できるのだろうか……
この旧約再編は「どうやって一方通行に勝つか」ではなく「削板が根性を貫き通した結果、どうなるか」が主題のひとつだと思う
その結果、原作では関わらなかった人も削板の根性に感化されて動いてるって時点でテーマには沿ってるし、VS一方通行も変に凝った所がなく派手さと根性論と削板の原石って設定を上手く絡めた少年漫画的な分かりやすく面白い展開だったと思うけどな
この旧約再編は「どうやって一方通行に勝つか」ではなく「削板が根性を貫き通した結果、どうなるか」が主題のひとつだと思う
その結果、原作では関わらなかった人も削板の根性に感化されて動いてるって時点でテーマには沿ってるし、VS一方通行も変に凝った所がなく派手さと根性論と削板の原石って設定を上手く絡めた少年漫画的な分かりやすく面白い展開だったと思うけどな
連投すまん
-1時間半後、第一八学区Sプロセッサ社
天井「……いったい何が起きているんだ!!」
とある研究所の1室で、とある研究者が怒鳴り声をあげた。
状況はかなり逼迫していた。
研究者「エリアA、火災発生! エリアD、通信遮断!」
研究者「エリアF、通信遮断! エリアB、機材全滅!」
研究者「エリアC~エリアGへの連絡通路の遮断に失敗! 防火扉が破壊されました!」
次々に絶望するニュースが入ってくる。
最初は実験に3度目の乱入者が現れたこと。
次に一方通行の敗北。
その後は謎のプレデターによる破壊活動の数々だ。
今いる最重要施設が襲撃されている。
天井「なぜよりによってここを……」
研究者「警備の者が対応に回っていますが、もちません!」
研究者「敵は日本刀を持った【肉体強化】系能力者の女! 赤髪で高身長な【発火能力】系能力者の男の計2名!」
監視カメラの映像など見なくても危機感は伝わってくる。
破壊音と怒声と銃声がここまで響いてきている。
天井「あの男はどうした!? こんな時のために雇っていたはずだろう!?」
研究者「先ほどから連絡が取れません!」
天井「な……! 外部に救援を依頼しろ! 暗部組織の1つや2つ動かせるだろ!?」
研究者「先ほど依頼は出したはずですが、なかなか来ないようで……」
研究者「そもそもこの規模の暴れ方なのに警備員すら来ないというのが……!」
天井「~~~!! どいつもこいつも!!」
バサッ! と白衣を翻し、天井亜雄は管制室から出ようとした。
研究者「ど、どちらに!?」
天井「【最終信号】を避難させる! アレさえ守り切れば実験は立て直せる!」
研究者「し、しかし、実験は」
天井「あんなのはただの事故だ! 修正誤差の範囲内だ!!」
研究者「……」
天井「警備の者をありったけ投入して時間を稼がせろ!
ここにいる半数は機材とデータを持てるだけ持って退避!
残りは警備の人間を全員注ぎ込んでから退避! この施設は捨てる! 他の関連施設に逃げ込め!」
ガチャッ! バタン! と力任せに扉を開けて閉め、天井は早足でその場を去った。
天井「………」
ツカツカツカツカ、と無言のまま廊下を突き進む。
研究所の入り口から順に片っ端から施設を破壊されているということは最奥部にある施設を破壊されるのは1番最後だろう。
破壊の手が及ぶ前に、自分が助かるための最後の希望を守り切る。
???「失礼、天井亜雄さんですね?」
だが、道のりの3分の1ほどを進んだあたりでふいに声をかけられた。
声のした方を見ると、なぜか白衣を着てサングラスをかけた2人の少年少女が現れた。
天井「………誰だ?」
その2人を胡散臭そうに見ながら、天井は問いかけた。
???「はじめまして。私は源夜! こちらは助手のリブロラム!」
リブロラム「はじめまして! イ、リブロラムって言う、言います!」
源夜「到着が遅れて申し訳ない。我々はあなた方の救援依頼を受けて参った次第です」
天井「………つまり、外部の?」
源夜「ええ」
天井「……」
怪しい。それしか考えられない。
しかし、学園都市では人口比のために未成年でありながら暗部に所属している者は少なくない。
ならば、外見で判断するのは尚早すぎる、のか?
源夜「つきましては【最終信号】の避難。この状況ではこれが最優先です」
天井「! 【最終信号】を知ってるのか……?」
リブロラム「当然なんだよ。それに、あの侵入者もその存在を知ってるはずなんだよ」
天井「!?」
源夜「よく考えてください。今暴れ回っている正面の2人、いくらなんでも暴れ方が派手で堂々としすぎではないですか?」
天井「……たしかに」
リブロラム「あの2人はきっと囮なんだよ!」
天井「!」
源夜「おそらく、あの2人とは別に実働部隊がいるはずです。正面が囮なら欲しいモノは奥にあるもの。つまり」
天井「【最終信号】ということか……」
リブロラム「その通りなんだよ」
源夜「こうしている今も時間がもったいない。すぐに避難させましょう」
天井「あ、ああ」
リブロラム「もしあなたが一刻も早く逃げ出したいなら、私にコードだけ教えてくれてもいいんだよ。記憶力には自信があるから」
天井「イヤ、指紋認証と網膜認証がある。私と同格の地位の人間でなければ
司令室には入れても【最終信号】のカプセルまではたどり着けない」
源夜「そうですか。なら早く!」
天井「わ、分かった」
白衣を着た研究者は急かされる形で廊下を進んでいく。
が、まだ完全にはこの2人を信用していなかった。
というよりも、疑っていた。
天井「……君たちはどういうルートでここに?」
早足で進みながらも問い詰める。
どんな人物であっても、信用を得るために質問には答えるはずだ。
リブロラム「みんなと
源夜「裏手から。すでに見取り図は得ています」
天井「……そうか。なら【最終信号】については?」
リブロラム「くーろ
源夜「事前情報で上から聞かされています。上がどうやって知ったかは我々の知るところではありませんが」
天井「……」
怪しい。
懐には護身用の拳銃を忍ばせてある。
が、不用意に手を伸ばせば先にこちらがやられる。
実際はどうであれ、【最終信号】を知っている。つまり、それなりに裏社会に浸かってきた存在だろう。
あくまで自然に、そして一瞬でやらねば。
天井「……ここだ」
階段をいくつか降りて目的地にたどり着く。
位置的には地下になる。
暗い廊下には出入口を照らす明かりしか灯っていなかった。
源夜「イ、リブロラム?」
リブロラム「うん。見取り図的には間違いないかも」
天井「最初にカードリーダーがある。職員でなければここすら開かない」
スッ、と懐に手を伸ばす。
この流れならば自然に見える。
源夜「では、お願いします」
リブロラム「カードリーダー? どういう
天井「死ね!」
バッ、と拳銃を取り出す。
この距離なら素人でも外さない。
源夜「!」
天井「な!?」
気づいたら拘束されていた。
何か光るロープのようなものが上半身に巻き付いていた。
天井「ぐああああ!?」
さらにはそれがきつく絞めてきた。
あまりの強さに身体中が悲鳴をあげる。
リブロラム「そ、その鉄砲を捨てて! じゃないと止まらないんだよ!」
少女の声が響く。痛みに耐えかねて拳銃を捨てた。
天井「ああああああ!?」
しかし、痛みは止まらない。強さは更に増す。
源夜「ステイルさんストップストップ! もう大丈夫ですから!」
すると、背中から低い男の声が聞こえてきた。
ステイル『うん? もう音を上げたのかい? なんとも張り合いがないね』
締め付けが弱まる。が、ほどけそうにはない。
天井「発信機……? いつ私に触れた?」
リブロラム「発信機じゃなくてルーンなんだよ」
天井「なに?」
源夜「魔術発動用の紙ですよ。僕が【念動力】でこっそり貼りました」
天井「魔術……? いったい何を言っている?」
ステイル『キミが知っていいことではない。リブロラム、Mr.GENYA、魔術の秘匿性にもう少し配慮してほしいんだけどね』
インデックス「わわ、ごめんなさい」
原谷「アンタ完全におちょくってますよね。さて天井さん、開けてもらえます?」
天井「誰が開けるぎゃぎゃああああああ!?」
ステイル『アマイさんとやら、そいつは捕縛と拷問を同時にできる優れ物でね。
その気になれば両の腕をじっくり1時間かけて切断することも可能だが……』
天井「わ、分かった分かった! 白衣のポケットの中に入ってる! 勝手に取って開けてくれ!」
ステイル『だそうだ。Mr.GENYA』
原谷「……ドSだよ、この人」
ステイル『うん? こんなのは序の口だが? やはり日本人は平和ボケしてるね』
インデックス「……英国の一般人も同じ感想だと思うんだよ」
結局、原谷が天井のカードを使って扉を開き、次の扉で天井が拘束されたまま指紋認証と網膜認証を済ませた。
もちろん天井はその都度何かしらの形で抵抗したり渋ったりしたのだが、ことごとくステイルのルーンにやられていた。
最後の扉を開けると、広い部屋の奥に巨大なカプセルがあった。
壁にはぎっしりと機械が置かれ、奥にある巨大なカプセルには少女が液体の中で眠るように浮かんでいた。
他のクローンよりも一際幼い少女。身体的な大きさで言えば小学生くらいか。
原谷「……なんかあまり見ちゃいけない気がする」
ちなみに、カプセルに入っている少女は全裸だった。
インデックス「てゆーか見ちゃダメなんだよ!」
原谷「んなこと言ったって……天井さん、あのコの服とかは?」
天井「そんなものはなああああああ!?」
ステイル『いい加減にしてくれないかい? 敵を倒しながらキミたちの会話に反応するのは面倒なんだが』
天井「待て! ホントに無いんだ! 培養機から出す予定などなかったから!」
インデックス「……つまりこのコは生まれてから1回も外に出たことがないの!? そんなのひどすぎるんだよ! すている!」
ステイル『了解』
天井「ぎゃああああああ!?」
原谷「ホントに聖職者かアンタら」
天井「い、衣服なら貴様らの白衣でもなんでもかければいいだろ!」
インデックス「あ、そっか」
原谷「じゃあそれはいいとして、どうやって開ければいいんです?」
天井「……」
インデックス「すている」
ステイル『了解』
天井「ああああああ!?」
原谷「……なんかもう逆にアンタがドMに見えてきたんですけど。この状況じゃ従うしかないですって」
天井「わ、分かった! そこのパネルだ! コードを入力すれば開く!」
インデックス「本当に? もし嘘だったりしたら」
ステイル『分かってるね?』
天井「分かってる! ちゃんと本当のコトを話す!」
原谷「……イギリス人怖い」
言われたコードを原谷がパネルに入力していく。
どうやらコードは正しかったようで、カプセルの中から液体が引いていった。
液体の中で浮かんでいた少女はカプセルの底で座るような形になっていた。
やがて、プシュウ とカプセルから空気が漏れ、ゆっくりとカプセルが開いた。
打ち止め「………?」
ぱちくり、と【最終信号】こと打ち止めが目を開けた。
インデックス「……起きたんだよ」
原谷「よかった、これで」
打ち止め「う、ああああああああああああ!?」
少女が頭を抱えて絶叫した。
インデックス「え、え!?」
原谷「な、天井さん!?」
天井「し、知らない! いだだだだ! 違う! 私ではない!」
ステイル『? どういう状況だい?』
打ち止め「ああああああ! ああああ。ああ………うん………うん、なるほど、そういう……」
インデックス「だ、大丈夫!?」
原谷「どうしたの……?」
慌てて2人が少女に駆け寄る。
絶叫は止んだものの、少女は頭を抱えたままうずくまっていた。
打ち止め「………ううん、なんでもない。いきなり外に出たからビックリしちゃった。
ってミサカはミサカははじめて体験する自由と解放を歓迎しながら微笑んでみたり!」
しかし、やがて少女は笑顔で顔を上げた。
年相応の、純粋な笑顔で。
インデックス「そ、そうなの?」ホッ
原谷「そ、それなら……あ、そうだ。タオルじゃなくて悪いけどコレで身体拭いてくれる?」
打ち止め「うん、ありがとう、ってミサカはミサカは白衣を受け取ってタオル代わりにしてみたり」
インデックス「ほら、渡し終わったらやぶみは後ろ向いて!」グイッ
原谷「はいはい」
やがて、身体を拭きおわった打ち止めは白衣を投げ捨て、今度はインデックスの白衣を纏った。
打ち止め「よし、着替え終わったからもういいよ、ってミサカはミサカはグラサンの彼に呼び掛けてみたり!」
原谷「はいよ。……うん、ちょっとデカいけど当分は大丈夫そうだね」
インデックス「すている! こっちは終わったんだよ!」
ステイル『了解。ボクらも粗方機材は壊し終わった。フィナーレといこうか』
天井「……」
-十数分後
しばらくすると、神裂とステイルが地下研究室に入ってきた。
侵入方法は日本刀と炎剣で扉をぶった斬るという無茶苦茶なやり方だが。
原谷「……言ってくれればこっちから開けたんですけど」
インデックス「お疲れさま。かおり、すている」
神裂「この程度、問題ありません」
ステイル「なんとも骨のない連中だったよ。この街の人間はしぶとい連中しかいないと思ってたんだがね」
原谷「そりゃ全員があの根性バカ2人みたいな根性あるわけありませんよ」
インデックス「3人の間違いかも」
神裂「同意見です」
ステイル「それで? そこのキミが例のコかい?」
打ち止め「はじめまして! 検体番号20001号こと打ち止めです! ってミサカはミサカは自己紹介してみたり!」
インデックス「そういえば私たちもまだだったんだよ。私の名前はIndex-Librorum-Prohibitorumっていうんだよ」
原谷「僕は原谷矢文」
打ち止め「あなたたちは他の個体を通して知ってるよ!
だからそっちのお2人の名前を知りたいな、ってミサカはミサカは暗に自己紹介を促してみる!」
神裂「ええ。神裂火織と申します」
ステイル「ステイル=マグヌス。魔法名は……今はいいか。フィナーレを迎える方が先だね」
打ち止め「? ……あっ」
斬られた入り口から新たに2人が現れた。
???「うわ、何コレ? 焦げ臭くない?」
???「……」
1人は常盤台中学校の制服を着たLevel5。
1人は黒い衣服を着たLevel5。
打ち止め「お姉さまに一方通行! ってミサカはミサカは駆け寄ってみたり!」
御坂美琴と一方通行だった。
御坂「……アンタが打ち止めね? 上位個体っていう……」
打ち止め「うん、はじめましてお姉さま! ってミサカはミサカは元気にごあいさつ!」
御坂「ええ。それで、さ。実験のことなんだけど……」
打ち止め「うん、お姉さまの言いたいことは分かってるよ」
御坂「……」
トン、と小さな拳を胸に当て、少女は声高らかに宣言した。
打ち止め「横須賀さんの根性も、雲川芹亜の根性も、削板さんの根性も、お姉さまの根性も
ミサカのためだけにこの研究所を壊滅させてみせたここにいる人達の根性も、全部受け取ったよ!
ってミサカはミサカは今まで他個体から受け取った情報を思い返して根性の素晴らしさに感動してみたり!」
御坂「!」
打ち止め「それに、貴方の本当の気持ちもね、ってミサカはミサカは意味深な目線を送ってみる」
一方通行「……」
打ち止め「だからこのミサカが自由になった今『妹達』はこれ以上この人に殺されるつもりはない!
ってミサカはミサカはしっかり胸を張ってはっきりと『妹達』の代表として決意表明してみたり!」
これで原谷らの計画は達成された。
9983号から打ち止めの存在を聞いた彼らは、彼女のいる研究施設へ特攻した。
『妹達』の司令塔である彼女を解放し、彼女の意志で実験を放棄させる。
そして、この施設は実験の要の施設でもあった。
もちろん、この施設だけにすべてが集中しているわけではないが、それでも打ち止めの喪失と相まって実験継続には致命的なダメージだった。
御坂「……よかった……。ごめんね、私がDNAマップを提供したばっかりに……」
打ち止め「お姉さまのせいじゃないよ、ってミサカはミサカは泣きそうなお姉さまを慰めてみる」
御坂「……ふふっ、ありがとう。もう、こんな不用意な真似はしないわ」
原谷「え、イヤ、それは困る……」
インデックス「?」
打ち止め「……どういうコト? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
御坂「アンタね……」
原谷「あー……やっぱ覚えてないか。原谷矢文、って言っても?」
ポリポリと頬を掻きながら、少年は呟いた。
御坂「え……? その名前って……」
そして、その名前は御坂の記憶に残っている名前だった。
かつて、自分が小踊りしながら喜んだ手紙の差出人の1人の名前だったはずだ。
原谷「うん。かつて君がDNAマップを提供してくれたおかげで助かった、筋ジストロフィー患者です」
御坂「ホント、に?」
原谷「うん。おかげさまで今じゃこの通りドタバタの青春を謳歌してるよ。
君がいなかったら僕はこの世界を呪いながら這いつくばって死んでた」
御坂「じゃあ、じゃあ私のやったコトは……」
原谷「間違ってない。胸を張って言える。君のおかげで助かった人は大勢いる」
つまり、御坂のDNAマップはちゃんと役立っていたのだ。
その一部が悪用されたのか、その一部が正しく使われたのか、どちらなのかは定かではないが。
そして、だからこそ原谷はいつも以上に感情的になっていたのだ。
自分を救った善意が悪用された。それが許せなかった。
自分を救った、大恩ある少女をなんとか救いたかった。
打ち止め「『妹達』もお姉さまを恨んでる個体はいないよ、ってミサカはミサカはきっとお姉さまの心配してることを解消してみたり」
御坂「うん……うん……!」
今、御坂の眼からは涙がこぼれていた。
自分の行動は完全に間違っていたわけではないとかつての患者が認めてくれた。
自分のせいで実験動物の扱いを受けていたクローンは自分を許してくれた。
背負っていた重たいモノが少しだけ軽くなった感じがした。
打ち止め「それじゃ、一方通行」
スッ、と打ち止めが手を出した。
一方通行「?」
打ち止め「ミサカの言いたいこと、分かるよね? ってミサカはミサカは促してみる」
一方通行「……俺ァテメェらを殺しまくった挙げ句にしくじったンだぞ?」
打ち止め「あなたの気持ちも受け取ったって言ったよね? ってミサカはミサカは再確認」
一方通行「……」
打ち止め「あなたはこの手を握るべきだと思う、ってミサカはミサカは上目遣いで見つめてみたり」
一方通行「……ああ」
スッ、と一方通行は手を差し出し、その手を握った。
御坂「……」
インデックス「……これで、終わったんだよ」
原谷「うん」
神裂「ハッピーエンド、でしょうかね」
ステイル「フィナーレとしては悪くないんじゃないかい?」
天井「……」
かくして、一連の騒動は大団円を迎えた。
血みどろの殺戮は終わり、和解が成立した。
これで、物語は―――
打ち止め「本当によかった。これで
打ち止め「これで『絶対能力進化実験』は完遂されたんだね」
バヂイ!! と電撃がほとばしった。
一方通行「ガッ!?」
短く一方通行が悲鳴を上げる。
直後に糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
原谷「な……」
インデックス「……え?」
崩れ落ちた一方通行の身体から黒煙がのぼりはじめる。
皮膚は赤黒く腫れあがっている。
完全に感電していた。
神裂「……なにが?」
ステイル「……?」
御坂「……!?」
その場にいた一同は呆然としていた。
目の前で何が起きたのか分からなかった。
打ち止め「反射をすりぬけた? ううん、あなたはミサカがどんな行動に出てもすべて受け入れるために最初から反射を切ってた」
冷たい目を向けながら、打ち止めは冷静に呟く。
打ち止め「でも、そんな簡単な責任の取り方許さない。こんなの、ミサカは絶対許さない!」
ビクン! と一方通行の身体が跳ねる。
と同時に、黒くなった肌がボロボロと崩れて新しい肌が出てきた。
打ち止め「……これがあなたに対する『妹達』の総意、ってミサカはミサカは手を放してみる」
パッ、と打ち止めは手を放した。
糸が切れた一方通行はそのままピクリとも動かなかった。
天井「……は、はは、そういうことですか、幻生さん」
打ち止め「うん、その通りだよ、天井博士」
そして、クローンの上位個体は全員に向き直った。
打ち止め「Level6。絶対能力者の誕生よ、ってミサカはミサカは微笑んでみる」
御坂「何を、言ってるの?」
打ち止め「言葉の通りだよ、ってミサカはミサカは疑問に答えてみる」
ステイル「……Level6とやらにキミがなった、ってことでいいのかい?」
打ち止め「うん!」
原谷「ど、どうやって?」
打ち止め「お姉さまなら知ってるよね?
お姉さまを128回殺さなくても済む、『妹達』を20000体殺さなくても済む、そんな平和で素敵な方法を」
もともと、Level6の到達条件は2つあったはずだ。
1つは【超電磁砲】御坂美琴を128回殺害すること。
それが不可能だから20000体の『妹達』が代用された。
そして、もう1つは。
御坂「……250年法? でも、250年分のカリキュラムなんてどうやって……」
通常通りのカリキュラムを250年かけて行うこと。
しかし、これも現実問題として不可能だったはずだ。
しかし、その手段は可能だったのだ。
かつてこの街で実証された。
打ち止め「あなたたちなら知ってるよね?
数百年かかる詠唱をたった半日で終わらせる方法を。それと同じだよ、ってミサカはミサカは目から鱗な方法を挙げてみる」
しかも、魔術師の手で。
正確には錬金術師の手で。
インデックス「……もしかして、あうれおるすの【黄金錬成】と同じ方法?」
神裂「! なぜ、それをあなたが?」
打ち止め「この街の情報網を侮っちゃいけないよ。
まあ、お姉さまがベースだから250年分じゃ利かなかったんだけど
ってミサカはミサカはそれでも1万人以上いるからもーまんたい!」
ほんの数週間前、とある錬金術師は数百年かかる詠唱を2千人の学生を以て短縮させた。
つい昨日、研究者たちはテコ入れという名目で千と数百年分のカリキュラムを1万人分の脳を以て同時進行で行った。
丸1日の猶予があったならば、千と数百年分のカリキュラムを実行することも不可能ではない。
原谷「でも、それだけじゃ理屈がつかない!『自分だけの現実』は……?
Level6なんて無茶苦茶な存在、相当強固な『自分だけの現実』がなきゃ……!」
打ち止め「そう。それが1番の問題だった。才能溢れるお姉さまの身体なのにミサカたちが超能力者になれない1番の原因」
でも、と可愛らしげに人差し指を頬に添え、打ち止めは続ける。
打ち止め「ミサカたちは見てきた。何も知らない無能力者が無条件で超能力者に立ち向かう姿を。
すべてを知っていて、それでも自分1人で超能力者に立ち向かった女子高生の姿を。
自分のクローンなんて厄介な存在のために孤軍奮闘したオリジナルの姿を。
誰にも相談出来ずに1人で抱え込んで誤った方向に進んでしまった反面教師の姿を。
その身1つで学園都市最強に真っ正面から立ち向かい、その根性を以て薙ぎ倒した漢の姿を。
望まれない存在であるはずのクローンの運命のために、施設1つ潰してクローンを救った一団の姿を」
インデックス「……?」
打ち止め「……ここまでされて心に響かないわけがない。いつの間にか、あなたたちの姿はミサカの意識に刷り込まれていった」
かつて、救われた学生がそうだったように。
かつて、闘ったスキルアウトたちがそうだったように。
かつて、救われたシスターがそうだったように。
かつて、闘った魔術師らがそうだったように。
そして、解析しようとした超能力者の最も強固な『自分だけの現実』すら影響を受けたように。
打ち止め「そう。『自分だけの現実』に【根性】を入力したの! ってミサカはミサカは種明かし!」
1万人の『妹達』によるカリキュラムの同時進行。
根性という名の強固な『自分だけの現実』。
この2つが絶対能力者へと押し上げていた。
打ち止め「……もっとも、ミサカもさっき知ったんだけどね、ってミサカはミサカはさっきの絶叫の原因を述べてみる」
とはいえ、最初から知っているのでは興ざめだ。
何も知らなかったからこそ、よりいっそう根性は刷り込まれていった。
打ち止め「……きっとこれが、みんながみんな救われる結果だと思う、ってミサカはミサカは自分なりの答えを出してみる」
学園都市最強の超能力者は懸念していた。
死んだ『妹達』と生きている『妹達』の今後を。
しかし、Level6が誕生した以上、『妹達』の死には価値があり、生きている『妹達』には研究対象としての生存価値がある。
御坂「……」
原谷「え、と……」
ステイル「……そこの2人、教えてくれるかい?」
神裂「このような状況は想定しておりませんでしたが……私たちはどうすれば?」
事態は不安定なままだ。
つい先ほど、電撃で一方通行がやられた。
しかし、目的である実験の停止は達成した。
あの電撃をささやかな復讐とするならば、これはこれで1つの終幕なのではないだろうか?
しかし、それは魔術師たちには判断できない。
この街に住む学生にも判断できない。
打ち止め「んー、ミサカはここにいる誰をも傷つけるつもりはないから大人しくしててほしいな
ってミサカはミサカはちょっとしたわがままを一生の恩人たちに要求してみる」
てく、てく、と打ち止めはゆっくりと集団の中に歩いて入っていく。
インデックス「おとなしく……? それって……」
そして、シスターの前で止まった。
打ち止め「えいっ」
パチ、と か細い音がした。
インデックス「ぁ」
ふらり、とインデックスの身体が揺れた。
原谷「……は?」
そしてそのまま打ち止めに寄りかかった。
神裂「なっ」
ステイル「!?」
何が起きたのか、誰にも分からなかった。
ただ、状況的に考えれば。
打ち止め「ごめんなさい。神ならぬ身にて天上の意志にたどり着くにはこれしかないの、ってミサカはミサカは誠心誠意謝罪してみる」
助けたはずのクローンが
御坂「打ち止め……?」
敵に回った。
その時、バタバタバタバタと複数の足音が聞こえてきた。
ステイル「彼女をどうするつもりだ!?」
しかし、足音に少しも気を払わずにステイルが激昂する。
すでに手には炎が灯っていた。
打ち止め「傷つけることだけはしないよ。今も意識を断ち切っただけだから」
神裂「そんな言葉を信じられると思いますか!?」
チャキ、と神裂が刀に手をかける。
最も大事なものに手を出された今、魔術師たちは完全に頭に血が登っていた。
御坂「ま、待って! ちょっと」
その時、足音の音源が室内に到達した。
10031号「お待たせしました、上位個体、とミサカはジャストタイミングで参戦します」
天井「おお?」
それは複数の『妹達』だった。
パッと見でも4~5人はいる。
打ち止め「じゃあ、あとはお願い」
11018号「はっ」
ピン、と『妹達』が全員コインを弾いた。
原谷「ま、さか」
嫌な予感はしていた。
MNWは全個体につながっている。
記憶も記録もそこに蓄積されている。
つまり――――
打ち止め「うん。『妹達』全員がLevel6だよ、ってミサカはミサカはハイパーインフレを起こしてみたり」
複数の『超電磁砲』が発射された。
今回はここまでです。
もうちょっとだけ続くんじゃよ……
レスありがとうございます。
正直、雑談スレ覗いた時からこの話は絶対荒れると思ってたのですが、
多くの方々に認めてもらえたみたいで嬉しいです。
書いてても楽しかったです。
ぶっちゃけ今回の展開をやりたかったから旧約2巻を書いたと言っても過言ではない。
書いてみたらアウレオルスでスゲー筆が乗ったけど。
パチ、と電球が点いた。
周りの機械のスクラップを集めて作った簡易的なものだったが。
19090号「……驚かせてしまって申し訳ありません」
11018号「ですが、あなた方をここに留めておくにはこれしかなかったのです」
10039号「あのシスターの安全は約束します」
15777号「ですので大人しくしていてください、とミサカは誠意を持ってお願いします」
原谷「……どんな状況……?」
御坂「……出入口を、潰された? ううん、この地下室も崩落しかかってたのを人為的に維持してる」
放たれたコインはすべて天井向かって撃たれたものだった。
当然、地下室は衝撃に耐え切れずに崩壊した。
しかし、『妹達』が磁力で鉄骨を組み直して崩落を防ぎ、地下室は1回り小さいドームとして維持されていた。
パチ、と電球が点いた。
周りの機械のスクラップを集めて作った簡易的なものだったが。
19090号「……驚かせてしまって申し訳ありません」
11018号「ですが、あなた方をここに留めておくにはこれしかなかったのです」
10039号「あのシスターの安全は約束します」
15777号「ですので大人しくしていてください、とミサカは誠意を持ってお願いします」
原谷「……どんな状況……?」
御坂「……出入口を、潰された? ううん、この地下室も崩落しかかってたのを人為的に維持してる」
放たれたコインはすべて天井向かって撃たれたものだった。
当然、地下室は衝撃に耐え切れずに崩壊した。
しかし、『妹達』が磁力で鉄骨を組み直して崩落を防ぎ、地下室は1回り小さいドームとして維持されていた。
ステイル「神裂……」
神裂「……やられました」
カシャッ、と何かが神裂の手から床に落ちた。
神裂「あの瞬間……恐らく磁力でワイヤーをひとまとめにされた挙げ句、電熱で溶接されました。
もはや使い物になりません。……しかし、何故わざわざ私にダメージがかからないような器用な調節をしたのですか?」
10039号「あなた方はミサカ達の恩人です」
11018号「恩人を傷つけるほどミサカ達は根性なしではありません」
15777号「ですので、再三申しますが大人しくしていてください」
19090号「すべて終われば解放します、とミサカは申し訳なく思いながらも恩人らの行動を制限します」
ステイル「……神裂、刀は使えるんだろう?」
神裂「ええ。【七天七刀】はこの程度ではやられはしません」
チャキ、と神裂が本当に刀に手を添える。
ボゥ、と再びステイルの手に炎が灯る。
御坂「待って! お願い! これ以上あのコたちを傷つけないで!」
ステイル「できない相談だ」
神裂「我々にも譲れないものがあります」
原谷「御坂ちゃん、さすがに、コレは……」
御坂「なんでよ……! せっかく全部終わったと思ったのに! なんでこうなるのよおおおおおお!!!」
?同時刻、第一八学区裏通り
打ち止め「よっ」
バチッ、と白衣の裏に貼りついていた紙が一瞬で黒焦げになった。
と同時に光のロープが消える。
天井「は、ははは。やっと自由になれた」
10031号「おめでとうございます、とミサカはシスターをお姫様抱っこの形態に移行しながら祝福します」
裏通りでは地下室から脱出した面々が揃っていた。
磁力でリニアのように飛び上がり、崩壊直後の屋根から飛び出したのだ。
天井「まったく、幻生さんも人が悪い。それならそうと先に言ってくれればよかったものを」
『絶対能力進化実験』において元締めである木原幻生は途中から天井亜雄に実験の全権を委託していた。
それほどの大役を雇われの研究者に与えるなど常識では考えられない。
しかも与えられたアドバイスは『自分の命を大事ね』という言葉だけだった。
だが、きっとこの展開も見越していたのだ。
何も知らない天井亜雄に全権を委託したのは【精神感応】系能力者対策だろう。
結果として、すべては上手くいった。
打ち止め「ねえ、博士」
天井「ん? どうした?」
打ち止め「ここまでやったんだからご褒美がほしいな、ってミサカはミサカは正当な報酬を要求してみたり!」
天井「ああ、そうか。ははは、それはそうだ。そのままでは何かと都合が悪いな」
打ち止め「ミサカは自分の面倒は自分でみれるよ、ってミサカはミサカは根性アピール!」
天井「ああ、分かった分かった」
今の打ち止めの姿は全裸に大きめの白衣というとんでもない格好だ。
服くらい買わねば注目を浴びる。
そう考えた天井は財布からカードを取り出した。
天井「ホラ、なんでも好きなものを買ってこい」
打ち止め「うわーお! 博士ったら太っ腹ー! ってミサカはミサカは小踊りしてみたり!」
そう言って少女はくるくる回る。
とてもクローンとは思えないほど感情豊かだった。
打ち止め「じゃあ、博士とはここでお別れだね、ってミサカはミサカは悲しい事実を告げてみる!」
ピシッ、と天井は固まったように一瞬動きを止めた。
しかし、すぐに観念したように息を吐いた。
天井「…………だろうな。根性なんてまともな価値観を入力すれば、こうなることは目に見えていた」
打ち止め「?」
天井「そんな輝かしい、真っ当な価値観を入力すれば、怒りの矛先は我々研究者に向けられる」
それは研究者たちがもっとも恐れていたことだった。
必要以上の知識や価値観を入力することによる『妹達』の反乱。
自分たちがどれだけ不当な扱いを受けているかを知ってしまえば、当然『妹達』は自由と人権を求めて立ち上がる。
虐殺されてきた怨みをすべて研究者たちに向け復讐に走る。
天井「一思いにやってくれ。どうせこの場を切り抜けても待っているのは借金地獄だ。私は、もう、疲れた」
すべてを諦めたように、天井は俯きながら目を閉じた。
打ち止め「……いったい何を言ってるの? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
天井「……?」
だが、クローンたちが怨みを向けることはなかった。
打ち止め「あなたたちに対するミサカ達の総意は一方通行に対するものと同じ。
この世に生み出させてくれた恩と殺されてきた怨み。
だからあなた達に何かをするつもりはないよ、ってミサカはミサカは深読みしてる博士を安心させてみる」
天井「な、に……?」
打ち止め「それに、悲観するにはまだ早いよ。
前人未到のLevel6を1万人も生み出したあなた達には輝かしい未来がきっと待ってる!」
天井「……打ち止め……」
打ち止め「でも、ミサカ達はこれで終わるつもりはないの。
あなた達が輝かしい未来を勝ち取れるかはあなた達の根性にかかってる、ってミサカはミサカは発破をかけてみたり」
天井「……だが、私は……」
打ち止め「……ミサカ達は知ってる。あなたは本当は生み出したクローンを大事に扱うつもりだった。
じゃなかったら00000号がフルチューニングな訳ないものね、ってミサカはミサカは推察してみる」
天井「!」
打ち止め「最終的に自分の借金と天秤にかけてミサカ達を切り捨てたのはいただけないけどね。
だから、ミサカ達が手伝ってあげるのはここまで。
死に物狂いで栄冠を掴むのも野垂れ死ぬのも博士次第、ってミサカはミサカは自分の考えをぶちまけてみる」
天井「……は、はは。幼い【超電磁砲】からDNAマップをだまし取ったことは追及しないのか?」
打ち止め「その権利はお姉さまのものだもの、ってミサカはミサカは割り切ってみる」
10031号「もし生きる気力があるなら、まずはLevel5を
自力で退けることからですよ、とミサカはイバラの道であることを暗に告げます」
天井「……」
打ち止め「それじゃ、バイバイ博士」
10031号「願わくば現世で再会することを、とミサカは儚い希望を伝えます」
ー同時刻、第一八学区Sプロセッサ社地下室
ステイル「……チッ」
神裂「……さすがに5対3では分が悪いですね」
原谷「……」
地下室は未だに開放されていなかった。
そこではちょっとした異常が起きていた。
ステイルが炎を出し、神裂が刀を抜いたというのに、負傷者は1人しかいなかった。
如何にプロの魔術師と【聖人】の2人がかりと言えど、人数で負けている上に1人1人が軍隊クラス以上の戦力を持つ少女5人が相手だ。
そう。少女5人が相手だ。
11018号「……」
10039号「お姉さま」
御坂「ハッ、ハッ……はぁ、ハッ………ごめん、なさい」
クローンのオリジナルである少女。
【超電磁砲】御坂美琴が寝返っていた。
御坂「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
15777号「お姉さま、もうやめてください」
19090号「ミサカ達を守る必要はありません、とミサカは
御坂「嫌よ! ぜったい嫌!」
同じ顔の中で1人だけ違う表情をしていた。
無表情な顔の中で1人だけ苦悶に満ちた表情をしていた。
唯一の負傷者は精神的にも1番大きな傷を負っていた。
ステイル「……謝ってくれるな。キミにも譲れないものがあるんだろう?」
神裂「それは私たちとて同じ。そこを責めるつもりはありません」
ステイル「だが、だからといって見逃すわけにはいかない」
神裂「邪魔をするのであれば敵です」
ふぅ、と1人の学生が息を吐いた。
原谷「……クローンのコたちさ、何がしたいの?」
11018号「あなた方の足止めですが、とミサカは今さらかよと思いつつも回答します」
原谷「見りゃ分かるわ。ここにいる君たちだけじゃなくて『妹達』は最終的に何がしたいの?」
ステイル「そんな悠長な問答をしている場合か!?」
原谷「場合ですよ。現段階で攻撃してる僕らが全員無傷なんですよ?
多分インデックスに危害を加えるつもりがないっていうのは本当のことだ」
神裂「ですが……!」
原谷「本当に『自分だけの現実』に根性をブチ込んでんならしょうもない嘘なんかつきませんよ。そうでしょ?」
10039号「当然です。しかし、無闇に話すわけにもいきません、とミサカは黙秘権を行使します」
原谷「それじゃこっちも納得できない。人の大事なモン奪っといて黙って待ってろって?」
15777号「……」
原谷「有無を言わさず人様を監禁するなんて根性なしの所業だよ。
そんな真っ当な筋も通さないで何が根性だ! 笑わせんな!!」
シン、と空気が止まった。
焦げた匂いと埃だけが充満していた。
19090号「……あなたのおっしゃることももっともです、とミサカは観念して口を開きます」
御坂「!」
11018号「では『妹達』の現段階での計画をすべて話しましょう」
10039号「当然、あのシスターの処遇もすべて話します」
15777号「ですが、話し終わってもミサカ達は変わらず足止めを続行しますのでご了承ください」
19090号「では、すべてをお話ししましょう、とミサカはすべてを公開します」
ー同時刻、第一八学区とあるビル
???「待ってたよー、打ち止めくん」
第一八学区のとあるビルでは老人がクローンを心待ちにしていた。
この学区では建物のデザインがほぼ均一であるため、パッと見ではどれがなんの施設かは分からない。
中身は胡散臭い研究所でも外観は他と変わらないため、逆に堂々としていられるのだ。
打ち止め「……はじめまして、でいいのかな? 幻生博士、ってミサカはミサカは疑問を抱いてみる」
幻生「はは、そんな細かいことはどうでもいいだろう」
打ち止め「……」
にこやかに話す老人の名は木原幻生。
元々の『絶対能力進化実験』の総責任者であり、『木原』一族の大御所。
今回の騒動の一連を仕組んだ黒幕である。
幻生「ところで、不必要な個体までいるが……」
打ち止め「ミサカが意識のないシスターさんを担いで移動するのは物理的に無理があるもの、ってミサカはミサカは正論を展開してみる」
10031号「用が済んだら退室しますのでご安心を、とミサカはあくまで雑用に撤します」
幻生「ああ、そうかい。ならベッドの空きがあるから下の部屋に行くといいよー」
10031号「ありがとうございます、とミサカはシスターを台座に乗せつつ速やかに退室します」
バタン、と扉を閉め、クローンの少女は退室した。
部屋に残されたのはクローンの上位個体と老人とシスターのみ。
幻生「いやー、唯一くんから話を聞いた時は心が踊ったよ」
室内には2つの台座があった。
その周りには多数の機械類が並び、様々なコードがつながっている。
幻生「考え方は単純だ。だが、だからこそ効果的だ。しかも学術的価値のない第七位にこんな使い方があるとは」
その機械のパネルを軽やかに叩きながら老人は準備を進めていく。
何かが起動したような音がした。
幻生「調べてみれば信じがたいことに原谷矢文の能力の強度はトントン拍子で上がっていた。
もう1人のスキルアウトにほぼ変化はなかったが、アレは元々開発期間が短い。
さらに開発を受けていたのはずいぶん前だ。そういう意味では彼もまた進化条件を確定させてくれる要因となった」
打ち止め「……『オジギソウ』を雲川芹亜に渡すように斡旋したのも貴方ね? ってミサカはミサカは確認を求めてみる」
幻生「おやおや、もう情報収集が進んでいるのか。さすがはLevel6」
打ち止め「それが数百人規模で動いているもの、ってミサカはミサカは合理的な活動を報告してみる」
幻生「さすがだねー。確かに私だよ。暗部組織『メンバー』に命令できる便利なパイプがあるからね」
結局はこの老人の手のひらの上だったのだ。
狡猾なこの老人にとって、直情的な削板らは実に扱いやすかっただろう。
そもそも、最初からおかしかったのだ。
何も知らない横須賀が実験現場に侵入してもセキュリティが動かなかったのも。
雲川芹亜がこれ以上ないタイミングで『オジギソウ』を手に入れたのも。
あれだけ多くの人間が実験について知ってしまったのに何も見せしめがなかったことも。
事前に宣戦布告まで行った削板がなんの障害もなく実験場にたどり着けたことも。
すべては裏からこの老人が自身のシナリオ通りに動かしていたからだ。
幻生「うんうん。準備は万端だ。打ち止めくん」
そして、老人は計画の最終段階に至る準備を終えた。
神ならぬ身にて天上の意志にたどり着く準備を。
今、シスターの耳には大きめのヘッドホンが装着されていた。
打ち止め「……約束して、幻生博士。この人は傷つけないって」
幻生「ああ。安心したまえ。なんせ学生1万人を使った臨床実験が成功済みだ。
なんの問題もなく、1万人全員が社会に復帰してるよー。その後の経過も良好だ」
スッ、と老人は少女に何かを差し出した。
それは複数のコードが繋がれたヘッドギアだった。
幻生「【幻想御手】で君たちの脳波に【禁書目録】の脳波を合わせ、一時的にMNWに加入させる。
そして、10万3000冊の魔導書をMNWにコピーさせる。その後、彼女にワクチンを聴かせれば元通りだ」
それが木原幻生の人生最大の実験だった。
科学の頂点と魔術の頂点を融合させる。
まさしく、神ならぬ身にて天上の意志を理解する実験だ。
打ち止め「……分かった、ってミサカはミサカは台座にダイブ!」
ポスン、と打ち止めは台座に横たわり、ヘッドギアを装着した。
幻生「じゃあ、始めようか」
【幻想御手】が流れはじめる。
科学と魔術が交差した瞬間だった。
?同時刻、第一八学区地下室
11018号「……以上が現段階での『妹達』の計画です」
ステイル「……」
10039号「クローンであるミサカ達が取るべき、最良にして最大の結果が得られる行動です」
神裂「……」
15777号「ですので、シスターが傷つくことはありません」
原谷「……なに、それ?」
19090号「よって、この場にいるミサカ達の目的は既に遂行できたと言えます」
御坂「……そん、な……」
10039号「! あ、ああああああ!!」
突如としてクローンの少女が悲鳴を上げた。
11080号「くぅ、うううう!」
同じ脳波で構築されたネットワークに異常な知識がダウンロードされていく。
15777号「かっ、は、ああああああああ!!」
それは見ただけで精神を毒され、廃人になってしまうはずの書物の数々。
19090号「ああああああああああ!! ああああああ!!」
そんな書物が10万3000冊もダウンロードされれば、無事でいられるはずがない。
御坂「うそ……! ねえ! やめてよ! お願いだから! しっかりして!」
ステイル「……『巨人に苦痛の贈り物』!」
ゴォ!! と巨大な火球がドーム状の屋根に向けて放たれた。
精神を脅かされている『妹達』に妨害を行う術はない。
ドガァ!! と火球はドーム状の屋根に激突し、大きな風穴を空けた。
ステイル「神裂! 頼む!」
神裂「はい! 原谷矢文!」
グイッ、と神裂がステイルと原谷を無理やり脇に抱きかかえる。
見映えはヒドいものだが、1番早くここから脱出する方法はこれしかない。
原谷「御坂ちゃん! 君も出るんだ!」
御坂「!? そんな、だって……!」
原谷「そこで心配したってなんにもならない! 元を叩かないと
神裂「口を閉じて! 舌を噛みますよ!」
ダンッ!!! と、コンクリート造りであったはずの床にヒビが入るほどの力で神裂が大きく跳躍した。
たったそれだけで【聖人】は男2人を抱えて地上への脱出を果たした。
御坂「……なんで、なんで……! ああ、もう!!」
タン、と御坂も軽く跳躍する。
ドーム状に組み立てられた鉄骨を磁力の足掛かりにし、いとも簡単に地上へ脱出した。
後に残されたのはクローン少女。
そして―――
?同時刻、Sプロセッサ社前
地上へ脱出した一向は正門から通りへと出ていた。
原谷「とりあえずは車に! 急がないと!」
ステイル「ちっ、こうなると逆に『人払い』がもどかしくなってくるね!」
この現場に来るまでに送ってもらったスキルアウトたちは『人払い』の外で待機している。
『人払い』を解除して中に呼ぶにも走って行くにも微妙な距離だ。
だが、事情を電話で説明するよりは合流した方が明らかに早い。
神裂「先に行っています! ステイル! 何か進展があればルーンで連絡を!」
ステイル「心得た!」
ダンッ! と再び【聖人】は跳躍した。
『妹達』は計画の全容は説明しても、具体的にインデックスがどこにいるかまでは明言しなかった。
しかし、あの短時間で移動できる距離などたかが知れている。
この近辺にいることは間違いない。
御坂「……もう、やだ……」
ガク、と少女が膝を付いた。
御坂「なんで、こうなるのよ……なんで、あのコたちは、あんな……」
少女の精神は限界だった。
いくら強固な『自分だけの現実』を築いているとはいえ、14歳の少女の精神だ。
大きすぎる力を止められない。
加速する悲劇を止められない。
自分の力では何も守れない。
そんな無力感と絶望感が彼女の心の中でひしめいていた。
原谷「御坂ちゃん……」
ステイル「放っておけ! 囚われの少女と狙われてすらいない少女、どちらが優先だ!?」
だが、その時。
???「お、おい、なんだよ、これ」
その少女の前に。
御坂「……アンタ、は……」
たった1人の。
???「いったい、何があったんだ? 何があったらお前がそんな顔するんだよ」
ヒーローが現れた。
?数分前、第七学区とある病院
9982号「――以上がミサカたちの計画です」
横須賀「……。」
9982号「あなたには大変お世話になりました、とミサカは深々と頭を下げます」
横須賀「……。」
9982号「ですが、もう心配は不要です。そもそもミサカは守られる存在では
横須賀「馬鹿野郎。」
横たわっていた1人の漢が立ち上がった。
9982号「え、わっ……?」
と同時にクローンの少女をベッドに倒れこませた。
片足のない少女は簡単にベッドに倒れこんだ。
横須賀「寝てろ。貴様は何も分かっていない。」
9982号「な、なぜですか!? クローンであるミサカ達が取る正当な手段を、あなたは!」
横須賀「胸に脂肪が2山ついていたら『女』と言った。誰がクローンだと言った?」
9982号「……!」
横須賀「そもそも【根性】を【入力】というのがフザけている。何も理解していないな。」
漢は歩きだす。その身に闘気と根性を宿して。
9982号「ま、待ってください! そんな身体でどこへ!?」
横須賀「決まっている。勘違いした馬鹿に本物の根性というものを教えにだ。」
9982号「行かせません!」
バチチッ! と威嚇するようにスパーク音が鳴った。
しかし、絶対能力者の脅しに無能力者が怯むことはなかった。
横須賀「だったらそのくしゃくしゃのツラなんとかしてからにしろ。」
9982号「!? そんな、これは……」
横須賀「……行くか。【内臓潰し】の横須賀、推して参る。」
今回はここまでです。
iPhoneのやり辛さったらないわ
レスありがとうございます。
誰にも展開を読まれてなかったみたいで安心しました。
どうにかこうにか収拾つけますので、最後までお付き合いください。
やっぱり自分にはガラケーがあってる気がします。
厚みが足りない。
明日「死ぬ」とわかっていても「根性」があるから幸福なのだ
「根性」は「絶望」を吹き飛ばすからだッ!
ー十数分後、第一八学区とある研究所
【幻想御手】。
かつて、木山春生という名の研究者がこの街にばら撒いた音楽プログラム。
その音楽を聴いた者は能力の強度が上がるため、そのプログラムは非合法に1万人以上の学生に出回った。
しかし、その実態は聴いた者の脳波を木山春生の脳波に合わせるというものだった。
能力の強度が上がるというのは副次的な産物にすぎない。
この件は御坂美琴の活躍により解決され、【幻想御手】は警備員に回収された。
はずなのだが、木山春生の上司であり脳研究について師事していた木原幻生は自ら新しい【幻想御手】を作っていた。
自身の脳波ではなく『妹達』の脳波に合わせるというプログラミングで。
同一の脳波であり、かつ、【電撃使い】であることから『妹達』はMNWを構築し、全体で1つの脳として繋がっている。
ならば、この脳波に合わせることができればMNWに加入することもまた可能となる。
【電撃使い】であるという条件は、言わば電波で繋がるためのものであり、直接コードで、つまり有線として繋がってしまえば問題ない。
すべての行程を終えた老人は笑っていた。
これほどまでに気持ちが昂ぶることは長い人生でもほとんどなかった。
幻生「……気分はどうだい? 『SYSTEM』を体現した気分は」
打ち止め「……よくはないかな、ってミサカはミサカは顔をしかめてみる」
幻生「うん、結構」
実験は終了した。
今、クローンの上位個体は目を覚まし、台座から起き上がっていた。
神ならぬ身にて天上の意志にたどり着く。通称『SYSTEM』。
学園都市の最終目標であり、研究者の夢。
それがついに実現したのだ。
幻生「く、ふふ、素晴らしい。アレイスターとて予想外だろう。まさか私がこんな怪物を生み出すとは思っていなかったはずだ」
この老人は学園都市の闇の中で長年生きてきただけあり、この街の奥深くまでも知っている。
例えば、学園都市統括理事長の正体。
例えば、魔術の存在。
例えば、アレイスター・クロウリーが目論む『プラン』の存在。
そして、その裏をかいた。
自身の作り出したクローンが究極の存在と化した。
今、この街で動いているのはアレイスターの『プラン』ではない。
木原幻生の野望だ。
幻生「では……見せてくれるかい? 天上の意志にたどり着いた結果を」
もちろん、木原幻生はヌルくない。
その究極の存在を支配下に置けるように調整は施してある。
今まで打ち止めが着けていたヘッドギアから、制御プログラムもインストールさせていた。
『木原幻生の命令は絶対』。この命令文をMNWに刻み込んである。
打ち止め「分かったよ博士、ってミサカはミサカは魔力を練ってみる」
スッ、と幼い少女は目を閉じた。
打ち止め「ーーーヨハネ黙示録第4章第4節」
この老人は科学の研究者だ。
オカルトは専門外である。
しかし、それでも分かる。
目の前で底知れぬ力が高まっていく様子が。
幻生「ハ、はははは! 素晴らしい! 見てるかアレイスター!? 私の勝ちだ! はははは!」
カッ、と少女は目を見開いた。
その瞳にはかつてこの街の学区を丸々1つ消し去ろうとした【魔神】と同じものが描かれていた。
打ち止め「ーーー『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな』即時発動」
ボシュ、と老人の胸から下が世界から消えた。
幻生「は、は?」
どちゃ、と重力に素直に引かれ、老人の上半身は床に落ちた。
打ち止め「……これで満足かな? 博士、ってミサカはミサカは見下してみる」
かつて暴走した【魔神】と違い、この少女は理性を保っていた。
打ち止め「こんなチンケなコード如きに制御されるほど根性なしじゃないのよ、ってミサカはミサカは諭してみる」
そして、Level6の『自分だけの現実』はもはや科学でも魔術でも制御できる域を超えていた。
木原幻生の制御コードも【禁書目録】に埋め込まれた【自動書記】のプログラムも押し退け、打ち止めは打ち止めとして存在していた。
幻生「あ……? な……?」
打ち止め「言ったよね? 幻生博士。 『妹達』が数百人規模で動いてるって」
少女の顔が青白くなり、血管が浮き出てきた。
能力者が魔術を使用した副作用が始まっている。
打ち止め「あなたに関する過去十数年分のデータなんてすべて復元済み。
あなたの好奇心を満たすために星の数ほどの悲劇が起きたことも把握済みよ、この根性なし」
しかし、それすら押し殺して少女は老人を睨みつける。
それほどまでに、一方通行や他の研究者たちには感じなかったほどの怒りが彼女の中で生まれていた。
打ち止め「『暗闇の五月計画』『プロデュース』『暴走能力者の法則解析用誘爆実験』
そして『量産能力者実験』に対する不当な演算結果の捏造で天井博士を借金地獄に。
目についただけであなたが裏で糸を引いてた悲劇はこれだけある。
いったい何様のつもりなの? ってミサカはミサカはありあまる嫌悪と怒りをぶつけてみる」
もはや死を待つだけの老人は声を発することすらできなかった。
ただ、呆然とした顔で少女を見上げていた。
しかし、それでもこの老人は『木原』なのだ。
自分の実験が自分の予想をはるかに超える。
それだけが、それこそが、『木原』を最も満足させる。
その際に他者や自分に襲いかかる危害など二の次なのだ。
だからこそ。
老人は目を爛々と輝かせ。
満面の笑みを浮かべた。
打ち止め「……救いようがないのね」
バヂイ!!! と老人の身体は高出力の電撃で消し炭になってしまった。
打ち止め「カ、ハ! ケホッ、ゲホッ! ……っはぁ、ひっどい気分」
異臭が漂う室内で少女はうずくまった。
原因は異臭でも凄惨なデータを見たせいでも老人を殺したせいでもない。
もちろんそれらも少しはあるのだが、主な原因は魔術を使用したことによる副作用だ。
才能無き者のための魔術は、才能ある者が使えば過負荷がかかり、最悪死に至る。
打ち止め「……あぁ、なるほど。だからこの身体のままなのね、ってミサカはミサカは納得してみる」
ジ、ジジ、と自らの生体電気を精密に扱いながら打ち止めは異様な速さで回復していく。
回復魔術など用いずとも、彼女の【電撃使い】としての能力はもはや万能の能力となっていた
打ち止め「もはや身体能力を制限させてどうにかなる存在じゃないのは分かっていたはずだけど……回復能力は幼い方があるものね。
近接格闘なんてまずしないし優先順位は基本的な回復能力になるよね、ってミサカはミサカは他個体に魔術の使用を制限させてみる」
ガチャ、と部屋の扉が開いた。
10031号「……お疲れ様です。上位個体、とミサカは異臭に顔をしかめながら労います」
中に入ってきたのはクローンの下位個体だった。
彼女も魔導書の影響を受けているのか、少し足がフラついていた。
打ち止め「ありがと。例のブツは? ってミサカはミサカは確認をとってみる」
10031号「ダウンロード済みです、とミサカはブツを見せながら成果を報告します」
スチャ、とクローンの少女はスカートのポケットから小型の何かを取り出した。
それはありふれたUSBだった。
10031号「【幻想御手】のワクチン音源。意識を失ってる間に取得することができました
とミサカはダウンロードした中身はすでに確認済みであることも重ねて報告します」
打ち止め「うん、じゃあシスターさんをお願い、
ってミサカはミサカはやっぱりミサカのお願いなんて聞くつもりのなかったジジイに辟易してみる」
10031号「了解です。後は1人で大丈夫ですか?」
打ち止め「そこまで根性なしじゃないよ、ってミサカはミサカは頬を膨らませてみる」
10031号「それは失礼しました、とミサカは早速作業に移ります」
ー数分後、第一八学区とある研究所屋上
神裂「ふっ!」
ダガン!、と屋上の扉が壊れんばかりの強さで乱暴に開かれた。
次いで風のような速さで【聖人】が駆け抜けていく。
神裂「インデックス……!」
先ほど大規模な魔力が感知できた。
覚えのない魔力の色だったが、この科学の街で魔力を練れられる人物など限られている。
魔術的な見地から見ればありえないはずだ。
だが、あの少女たちの言っていたことが本当ならば10万3000冊の魔導書を操る人間が大人数出現したことになる。
しかし、彼女にとって最も心配なことはそこではない。
仮にそんな無茶なことをした場合、インデックスは無事でいられるのか。
いかに科学技術の粋が集まっているこの街とは言え、扱うのは専門外のオカルトだ。
彼女たちにとって予想外の事態が起きる可能性は高い。
最悪の場合、あの時の【魔神】が再び起動している可能性もーーー
神裂「インデックス!!」
ガチャッ!! と扉を荒々しく開ける。
すると、神裂の目に飛び込んできた光景は。
10031号「おや」
先ほども見たクローンの少女。
黒焦げの何か。
大きな機械。
乱雑に散らばっている複数のコード。
そして。
インデックス「……」
コードに繋がれ、ピクリとも動かないインデックスの姿。
神裂「……貴様ぁぁああ!!」
怒り狂った神裂が吼える。
刀に手をかけ、一瞬で間合いを詰める。
【聖人】神裂火織の必殺の居合『唯閃』。
【七天七刀】の刃がクローンの喉元に迫る。
インデックス「……?」
パチ、とシスターは目を開けた。
神裂「!」
ビダッ! と神裂は動きを止めた。
10031号「……」
刃先はクローンの喉元を切り裂く寸前で止められていた。
インデックス「……あれ? どこ? ここ」
むくり、とシスターは起き上がった。
ぽかんとした表情で、完全に理解が追いついていなかった。
神裂「インデックス……」
インデックス「あ、かお、え!? かおり!? 何してるの!?」
刀を抜いて刃をクローンの喉元につきつけている神裂を見てインデックスが慌てる。
ほとんどパニック状態だった。
神裂「落ち着いて、インデックス。身体に異変は?」
インデックス「え? んと、ちょっとふらふらするかも……な、何が起きたの?」
10031号「頭の中の魔導書をコピーさせていただきました、とミサカは指で頭を叩きながら説明します」
インデックス「!?」
神裂「……本当なのですか? なんの調整もなしにあんなものを読んで無事でいられるはずありません」
魔導書とは異世界の法則が書かれているため、一般人は目を通しただけで廃人となる。
熟練の魔術師ですら、まともに読破することは厳しい。
常人では『毒』の純度を落とさなければまともに扱える代物ではない。
それをこの街の能力者が、しかも10万3000冊もの魔導書を取り込んで無事でいられるはずがない。
10031号「ええ。コピー中に知りました、とミサカは実験動物に対してなんの配慮もなかったジジイに憤りを覚えます」
未だ切先と眼差しと殺気を向けられたまま、クローンの少女は一本調子で話す。
10031号「ですが、ミサカはどうやら魔導書に気に入られたようです。
. 1万人に一瞬で知識を広めたために、魔導書の特性から気に入られたのでしょう、とミサカは冷静に分析します」
一方で魔導書はその存在理由から、自身の知識をより広める者に協力する、という性質を持つ。
全体で1つの大きな脳とは言え、魔術的な定義では曖昧なところだ。
しかし、結果だけ見れば、方法はどうであれ1万人に知識を広めたことになる。
だからこそ彼女は魔導書に気に入られ、平気でいられるのだ。
インデックス「……ほ、ほんとに?」
神裂「……」
10031号「はい。『死霊術書』『食人祭祀書』『ネームレス』『抱朴子』 『法の書』『桃太郎』
. 『金枝篇』『ヘルメス文書』『秘奥の教義』『テトラビブロス』『エイボンの書』『ソロモンの小さな鍵』
. 『創造の書』『死者の書』『ムーンチャイルド』『暦石』『碑文』『屍食教典儀』『グリモワ断章』『Mの書』などなど」
インデックス「……信じられない……」
神裂「こんなことが……」
10031号「その他ご質問があればいくらでも。
. そちらのシスターの安否が確認できるまではいますので、とミサカは逃げも隠れもしません」
ー同時刻、第一八学区Sプロセッサ社地下室
その時、とある場所では。
一方通行「あァ……やってくれるじゃねェか。クソガキが」
最強が目を覚ました。
一方通行「……つゥことはだ。許せねェのが1人いるよなァ」
ー同時刻、第七学区削板宅
そして、とある場所では。
削板「……ん……くぁ……」
漢が目を覚ました。
削板「……腹減ったな……眠れん」
ー1時間後、第七学区公園
そして、少し時間が経ったあとの公園では。
打ち止め「ん☆まーーーい! ってミサカはミサカは大満足!」
科学と魔術の頂天が腹ごしらえをしていた。
日も高くなってきたころ、公園の木陰に隠れたベンチで、可愛らしくクレープを食べている少女の姿があった。
打ち止め「うんうん! これぞ食べる喜びというやつなのだよ! ってミサカはミサカはクレープと幸せを噛み締めてみる!」
ちなみに、一応考えた上でのクレープである。
生体電気を動かして回復したはいいが、これ以上は回復するための栄養分がなければ回復できない。
先ほどは培養管の中で蓄えていた栄養分を使ったが、今後のことを考えるとすぐエネルギーになる甘いものがいいのだ。
少女は今、学園都市を満喫していた。
満を持して入った洋服屋さんで一目惚れした水色のワンピースを着て。
その近くの靴屋さんで買った白い靴を履いて。
デパートで年相応の下着と、ついでに小さな花のついたヘアピンを買って。
今はお腹が空いたので来る途中に見かけて気になっていたクレープ屋さんで丸々3分悩んで決めたクレープを頬張っていた。
打ち止め「んっふっふー、楽しいなー、ってミサカはミサカは他個体にちょっと申し訳なく思いながらも顔を綻ばせてみたり!」
もぐもぐと人生初の食事を堪能しながら少女は笑う。ちなみに支払いはすべて天井博士のカードである。
今、ほとんどの個体は情報収集に躍起になっている。
さすがに古すぎるデータは復元するのに時間がかかっていた。
紙に例えるなら、シュレッダーで細かく切り刻まれたぐらいなら復元できる能力は『妹達』にはある。
しかし、切り刻まれた上に紙が酸化してたり水に濡れたりした情報は復元に時間がかかるのだ。
そして、ほとんどに含まれない個体は買い出しに行っていた。
もはや不必要となった、支給されていた軍用装備をしかるべき所で売り払い、資金を調達。
そのお金で先ほどから能力行使で体力をガンガン使っている『妹達』も食べて栄養摂取して回復させる。
焼け石に水かもしれないが『妹達』だって食べたいのだ。
疲れもすればお腹も減る。
打ち止め「ほーんと、楽しいなー」
久しぶりに天気のいい屋外では笑顔が満ちていた。
公園をざっと見渡しただけでも面白そうなものや楽しそうなものが広がっている。
公園の外周には四つ足の生物が主人と一緒に歩いてる。9982号が見た仔猫とは違うからきっとイヌだ。
『学習装置』で教えられたイヌとはずいぶん違う。思いのほかいろんな種類があるらしい。
公園の入り口では警備員の女性2人が待ち合わせしていた。これからパトロールだろう。
誰かと待ち合わせというのも1回やってみたい。殺す殺されるという血生臭いものを抜きで。
別の木陰のベンチでは金髪の外人姉妹が仲良くクレープを食べている。
自分もああいう風に食べ比べをしてみたい。
そして、公園の中央にある噴水の近くでは少年少女が何かの遊びに興じている。
よく分からないが、かくれんぼの亜種らしい。なぜか鬼がひっきりなしに缶を踏んでいる。
どれもこれも好奇心を惹かれるものばかりだ。
まともな人生を歩んでいたら、あるいはああいうものを経験することもできただろう。
だが、
打ち止め「そういう訳にもいかないよね、ってミサカはミサカは落胆してみたり」
先ほど得た情報がそろそろ発表されるころだ。
その情報は防がなければいけないものではなく、むしろ報道されるのは望むところなのだが。
そして予想通り、空を漂う飛行船から、近くのビルのスピーカーから、警備員の無線から、けたましいサイレンの音が鳴り響いた。
すべての人々が何事かと耳を済ませた。
『緊急警報! 緊急警報! 第一九学区にて非常事態発生!
. 第一九学区及び隣接する学区にいるすべての人間は速やかに他学区に避難してください!』
あとのアナウンスはこの繰り返しだった。
ほとんど関係のないこの第七学区でも人々が顔色を変える。
散歩をしていたイヌはただならぬ空気を察知して荒々しく吠える。
警備員はその職務を全うするために真剣な表情になり、無線で連絡を取り合う。
ベンチに座っていた外人姉妹は姉が妹の手を引き、足早に公園を去る。
遊びに興じていた子どもたちは不安そうに顔を見合わせる。
きっと、すべてを理解しているのはクローンである自分だけだろう。
これは自分に向けられたお誘いのメッセージなのだ。
第一九学区で非常事態など起きていない。
正確にはこれから起きるのだ。
被害が出る前に、顔を見られないように、そこにいるすべての人間を退かしているだけなのだ。
そこでケリをつけようと。相手からのお誘いだ。
向こうも向こうですべてを知られては後がないのだから。
打ち止め「上位命令。全員避難誘導に協力。動かない人は無理やり動かして。
動けない人は意地でも守り通して。火事場泥棒は遠慮なくやっつけちゃって。
筋だけは通すよ、ってミサカはミサカは司令官っぽく的確な指示を出してみる」
そのお誘いに、こちらも乗ろう。
利害は合致している。
シンプルで分かりやすい。
何も気にせず、力の限りぶつかりあおう。
今朝の漢たちのように。
残っていたわずかなクレープを パクパクッ、と食べて少女は立ち上がり、公園を後にする。
出陣の時だ。
打ち止め「警備員のお姉さん、ってミサカはミサカは声をかけてみる」
黄泉川「ん? なんじゃんよ?」
打ち止め「これ、公園に落ちてたよ、ってミサカはミサカはカードを渡してみる」
黄泉川「おおっ! 偉いなお嬢ちゃん。ちゃんと預かっておくじゃんよ」
打ち止め「きっと困ってるからちゃんと届けてあげてね、ってミサカはミサカは念を押してみる」
黄泉川「任せるじゃんよ。……ん? 財布じゃなくてカードが裸で?」
打ち止め「じゃあよろしくねー、ってミサカはミサカは撤退開始!」
黄泉川「あ、ちょっと、おい!」
タタタタ、と走ると打ち止めは磁力を使ってビルの屋上までひとっ飛びにジャンプした。
打ち止め「今日は死ぬにはいい日だ、ってミサカはミサカはヤイサホー!」
ー第一八学区、とある研究所
原谷「……本当に、やるつもりなんだ」
スキルアウト「なにこれ? なにがどーなってんの?」
地下室から脱出した原谷とステイル、そして車を動かしていたスキルアウトらは神裂、インデックスらと合流していた。
クローンの少女はインデックスの身体に異変がないと判断すると、真っ黒な死体をもってどこかへ姿を消してしまった。
神裂「……どうしますか?」
ステイル「今日のボクらはキミの手足だ。キミの望むように動くが……」
インデックス「私も。身体はなんともないから動けるんだよ」
外は混乱していた。
その原因はやはりクローンだろう。
しかし。
原谷「……すいません、正直ここまで来ると凡人には何していいのかさっぱりです」
もはや何をどうにかしたところで収まる事態ではない。
明らかに戦力が違いすぎる。
スキルアウト「つーか救うはずのクローンがなんで暴走して、っと。ワリ、電話だ」
神裂「彼女らの話も聞くにはききましたが……」
ステイル「要するに反乱だろう?」
インデックス「きっと止めないとダメなんだよ」
原谷「んなこと言ったって闇雲に突っ込んだところで
スキルアウト「ああ!? オメーガチで言ってんのか!?」
急にスキルアウトが声を荒げた。
その声に全員が一瞬身体を強張らせて振り向いた。
スキルアウト「止めろや!! 動ける身体な訳ねーべや!! ……ああもう! ホントしゃーねーなあの人!!」
そんな文句を垂れながらも、なぜかスキルアウトは笑っていた。
ー数十分後、第一九学区大通り
第一九学区は寂れてしまった学区である。
再開発に失敗し、建物は廃れていた。
地価が安いくらいしか強みのない土地だが、ほとんどの学生は寮暮らしのためそれも強みとは言い難い。
故に元々人口は少ないのだ。
おまけに警備員・暗部・『妹達』がこの学区の避難を重点的に行ったため、既に街はもぬけのからだ。
打ち止め「……『絶対能力進化実験』も含めて、この街ではいろんな悲劇が人為的に引き起こされてる」
そんな人気のない街の大通りをクローン少女は進んでいく。
目的地はすぐそこだ。
打ち止め「それはある人物の『プラン』を為すために起きてる。たったそれだけのために、多くの人間が人生を狂わされてる」
不安はない。
あるとすれば闘いに挑む前の武者震いだ。
打ち止め「そして何より許せないのが、ミサカのことを実験動物どころかただのアンテナとしか見てなかったこと」
広い交差点の中心に主催者はいた。
銀の髪に緑の手術着。
男にも女にも子どもにも老人にも聖人にも囚人にも見える『人間』。
打ち止め「許せないよね、アレイスター・クロウリー学園都市統括理事長? ってミサカはミサカは凄んでみる」
アレイスター「些細な違いでしかない、と私は思うがね」
かつて『世界最大の魔術師』と称された伝説級の魔術師、アレイスター・クロウリーだ。
アレイスター「はじめまして【最終信号】。まさかこんな形で会うとは思ってもみなかったよ」
打ち止め「どうもはじめまして。ミサカもわざわざ出てきてもらって嬉しいよ」
アレイスター「ああ。君を捕らえるとなると、ハンパな戦力では不可能だからね」
間違いなく、この人物は『窓のないビル』の中で鎮座している『人間』である。
本物であることを証明するかのように、とてつもない威圧感が溢れ出ている。
打ち止め「……どうあってもミサカを利用したいのね、ってミサカはミサカは睨みつけてみる」
アレイスター「ああ。ここで君を捕らえれば『プラン』はほぼ成功と言える」
打ち止め「あなたみたいな根性なしに捕まるはずないよ、ってミサカはミサカは呆れてみたり」
アレイスター「やる前から諦めているようではただの根性なしだ。そうは思わないかい?」
打ち止め「それもそうね、ってミサカはミサカは納得してみる」
アレイスター「それにしてもわざわざ1人でくるとは。私としてはありがたいがね」
打ち止め「決闘の基本はタイマンだもの、ってミサカはミサカは常識を説いてみる」
アレイスター「その結果、君が死を迎えるとしてもかい?」
打ち止め「んー、どのみちあなたを殺して私も死ぬつもりだし、ってミサカはミサカは開き直ってみる」
あっさりと、クローンの少女は衝撃的な告白をした。
アレイスター「ほう……?」
打ち止め「……このままだとお姉さまに迷惑がかかる。クローンがどういう存在か、情報収集の時に気づいたの」
『自分だけの現実』に根性を入力し、クローンという存在に対する一般的な印象を知った今、『妹達』は覚悟を決めていた。
このまま自分たちが生きれば、オリジナルである御坂美琴に迷惑がかかる。
クローンという気味の悪い集団を抱え込む中学生というレッテルを貼られてしまう。
それは、やってはいけない。
光の世界で光り輝く存在で、学園都市を何度も救ったあのヒーローを闇に落としてはいけない。
打ち止め「あの優しいお姉さまに、もう迷惑はかけられない。
. だから最後に不幸しか撒き散らさないあなた『プラン』だけは止める。それがミサカの根性よ、ってミサカはミサカは臨戦態勢」
すっ、と小さな少女は構えをとった。
アレイスター「心構えは立派だが……気づかないかい?
これだけ濃い『AIM拡散力場』がこの学園都市という狭い範囲に集まればーーー」
『それ』はいつの間にかいた。
金髪の光り輝くような長身。
ゆったりとした白い装束を身にまとった、しかしそれでも異様としか表現できない『誰か』。
女性のような身体つきをしているが、果たして女性なのか、人間かどうかすら怪しい。
それほどまでに、根っこの部分で何かが違う人のようなモノがアレイスターの隣に現れた。
エイワス「……nagtvdjか。ずいぶん私の想像を超えてきたな」
『それ』はもはやこの世界の生物ですらなかった。
打ち止め「……『ドラゴン』、エイワスか」
しかし、それを見ても打ち止めは動じなかった。
打ち止め「ゴメンね、それはこっちも同じなのよ、ってミサカはミサカは不敵に笑ってみる」
バヂ、バヂヂヂヂヂ!! と空間を横に裂いて何かが現れる。
打ち止め「これだけ濃い『AIM拡散力場』があれば、コレも同時に出せるのよ、ってミサカはミサカはドヤ顔でキメてみたり」
『それ』は異世界から現世にダウンロードされているようだった。
空間から出てきた『何か』は女子高生のような姿で制服を着ていた。
カザキリ「ィィイィィィイィイイイイィィイィイイアアアアアアアアアア!!!」
その『何か』は他には目もくれず、真っ先にこの世界の異物に襲いかかる。
雷をそのまま翼の形に固定したような巨大なモノが背中から突き出ていた。
エイワス「おお? ヒューズ・カザキリか!」
だが、その瞬間、女性のような光り輝くモノの背中からも白い翼が噴出する。
襲いかかる雷を防ぐように、一瞬で翼が翼に襲いかかる。
ズドドドドドドドド!!! と耳をつんざくような音が学園都市中に響きわたる。
2人が衝突した地点では既にアスファルトがめくり上がり、クレーターができていた。
カザキリ「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
エイワス「ははは、面白い。何をどうしたらこうなったんだ? アレイスター」
しかし、もはやクレーターの地点に2人はいない。
いつの間にか離れた場所で取っ組み合いになっていた。
打ち止め「出現コードなんてとうの昔に把握済み。甘く見ないでほしいな」
アレイスター「……【最終信号】……!!」
ここにきてはじめてアレイスターが怒りを顕わにした。
憤怒の形相を作り、いつもの余裕のある微笑はどこにもない。
打ち止め「手の内読めてんのよ根性なし、ってミサカはミサカは挑発してみる」
バヂ! とスパークが鳴った。
打ち止め「さ、はじめよ。もう逃げ場はないよ、ってミサカはミサカはやる気満々!!」
アレイスター「たかだか作られた人形ごときが。調子に乗るな!」
かくして、世界最大戦力とも言える者同士の闘いの火蓋は切って落とされた。
学区1つで被害が済めばいい方、最悪関東圏どころか日本が消滅してもおかしくはない。
そんな闘いが始まった。
もはや誰にも止められない。
しかし、勝負は一瞬で決した。
カザキリ「イイヤアアアアアアアアアア!!??」
ヒューズ・カザキリは肩から爆散し
エイワス「おや」
『ドラゴン』エイワスは腹部に風穴が空き
アレイスター「馬鹿な……!」
世界最大の魔術師たるアレイスター・クロウリーは頭から消滅した。
打ち止め「?」
しかし、それはクローンが為した結果ではなかった。
???「よう、みつけたぞ。大馬鹿野郎。」
???「この勘違い野郎が」
それはバイクに乗った2人組の仕業だった。
カザキリ「……アア、アアア、ア……」
アレイスター「馬鹿な、なぜ、なぜ私にこれが……!」
エイワス「ははは、もちろん生命体には効きはしない。我々は死ぬのではない」
1人1人が消えていく中、理性のあった数人だけが会話をしていた。
エイワス「還るのだよ。ヒューズ・カザキリは虚数に。キミは実数に。私はvsmjsbpqにな」
アレイスター「……ありえない!!」
さらさらさら、と消滅した箇所から徐々に霧散していく。
それなのに会話はしっかりとできていた。
エイワス「ああ、通常ならな。だが、キミは私の忠告を聞かなかったのではないかな?」
アレイスター「……!」
エイワス「ふふふ、やはりそうか」
もはや3者の姿はほとんど消えているにも関わらず、不思議と声だけはいまだに聞こえていた。
その上、その内の1人の声はとても楽しそうに、笑いをこらえながら話していた。
エイワス「【幻想殺し】のリセットを怠ったな? 積み上げたものは数百年規模の魔術か?
数千人規模の魔術か? はたまた両方か? まったく、キミはせっかちすぎるよ、アレイスター」
そして、3者の姿は音もなく完全に消失してしまった。
横須賀「教育の時間だ。不良少女。」
上条「てめぇの幻想はここで殺してやる」
今回はここまです。
遅くなって申し訳ありません。
レスありがとうございます。
いよいよ終盤です。原作でも横須賀さんの出番がほしいところです。
まさかHALのキャラに気づかれるとは思いませんでした。作者冥利につきます。
誰かiPhoneでの全角スペースの入力教えてください。
改行がうまくいかない。
<<1です。
今から投下しますが、前回改行が上手くいってなかったので前回の内容も合わせて投下します。
<<489さんありがとうございました。
本当に助かりました。
ー十数分後、第一八学区とある研究所
【幻想御手】。
かつて、木山春生という名の研究者がこの街にばら撒いた音楽プログラム。
その音楽を聴いた者は能力の強度が上がるため、そのプログラムは非合法に1万人以上の学生に出回った。
しかし、その実態は聴いた者の脳波を木山春生の脳波に合わせるというものだった。
能力の強度が上がるというのは副次的な産物にすぎない。
この件は御坂美琴の活躍により解決され、【幻想御手】は警備員に回収された。
はずなのだが、木山春生の上司であり脳研究について師事していた木原幻生は自ら新しい【幻想御手】を作っていた。
自身の脳波ではなく『妹達』の脳波に合わせるというプログラミングで。
同一の脳波であり、かつ、【電撃使い】であることから『妹達』はMNWを構築し、全体で1つの脳として繋がっている。
ならば、この脳波に合わせることができればMNWに加入することもまた可能となる。
【電撃使い】であるという条件は、言わば電波で繋がるためのものであり、直接コードで、つまり有線として繋がってしまえば問題ない。
すべての行程を終えた老人は笑っていた。
これほどまでに気持ちが昂ぶることは長い人生でもほとんどなかった。
幻生「……気分はどうだい? 『SYSTEM』を体現した気分は」
打ち止め「……よくはないかな、ってミサカはミサカは顔をしかめてみる」
幻生「うん、結構」
実験は終了した。
今、クローンの上位個体は目を覚まし、台座から起き上がっていた。
神ならぬ身にて天上の意志にたどり着く。通称『SYSTEM』。
学園都市の最終目標であり、研究者の夢。
それがついに実現したのだ。
幻生「く、ふふ、素晴らしい。アレイスターとて予想外だろう。まさか私がこんな怪物を生み出すとは思っていなかったはずだ」
この老人は学園都市の闇の中で長年生きてきただけあり、この街の奥深くまでも知っている。
例えば、学園都市統括理事長の正体。
例えば、魔術の存在。
例えば、アレイスター・クロウリーが目論む『プラン』の存在。
そして、その裏をかいた。
自身の作り出したクローンが究極の存在と化した。
今、この街で動いているのはアレイスターの『プラン』ではない。
木原幻生の野望だ。
幻生「では……見せてくれるかい? 天上の意志にたどり着いた結果を」
もちろん、木原幻生はヌルくない。
その究極の存在を支配下に置けるように調整は施してある。
今まで打ち止めが着けていたヘッドギアから、制御プログラムもインストールさせていた。
『木原幻生の命令は絶対』。この命令文をMNWに刻み込んである。
打ち止め「分かったよ博士、ってミサカはミサカは魔力を練ってみる」
スッ、と幼い少女は目を閉じた。
打ち止め「ーーーヨハネ黙示録第4章第4節」
この老人は科学の研究者だ。
オカルトは専門外である。
しかし、それでも分かる。
目の前で底知れぬ力が高まっていく様子が。
幻生「ハ、はははは! 素晴らしい! 見てるかアレイスター!? 私の勝ちだ! はははは!」
カッ、と少女は目を見開いた。
その瞳にはかつてこの街の学区を丸々1つ消し去ろうとした【魔神】と同じものが描かれていた。
打ち止め「ーーー『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな』即時発動」
ボシュ、と老人の胸から下が世界から消えた。
幻生「は、は?」
どちゃ、と重力に素直に引かれ、老人の上半身は床に落ちた。
打ち止め「……これで満足かな? 博士、ってミサカはミサカは見下してみる」
かつて暴走した【魔神】と違い、この少女は理性を保っていた。
打ち止め「こんなチンケなコード如きに制御されるほど根性なしじゃないのよ、ってミサカはミサカは諭してみる」
そして、Level6の『自分だけの現実』はもはや科学でも魔術でも制御できる域を超えていた。
木原幻生の制御コードも【禁書目録】に埋め込まれた【自動書記】のプログラムも押し退け、打ち止めは打ち止めとして存在していた。
幻生「あ……? な……?」
打ち止め「言ったよね? 幻生博士。 『妹達』が数百人規模で動いてるって」
少女の顔が青白くなり、血管が浮き出てきた。
能力者が魔術を使用した副作用が始まっている。
打ち止め「あなたに関する過去十数年分のデータなんてすべて復元済み。
あなたの好奇心を満たすために星の数ほどの悲劇が起きたことも把握済みよ、この根性なし」
しかし、それすら押し殺して少女は老人を睨みつける。
それほどまでに、一方通行や他の研究者たちには感じなかったほどの怒りが彼女の中で生まれていた。
打ち止め「『暗闇の五月計画』『プロデュース』『暴走能力者の法則解析用誘爆実験』
そして『量産能力者実験』に対する不当な演算結果の捏造で天井博士を借金地獄に。
目についただけであなたが裏で糸を引いてた悲劇はこれだけある。
いったい何様のつもりなの? ってミサカはミサカはありあまる嫌悪と怒りをぶつけてみる」
もはや死を待つだけの老人は声を発することすらできなかった。
ただ、呆然とした顔で少女を見上げていた。
しかし、それでもこの老人は『木原』なのだ。
自分の実験が自分の予想をはるかに超える。
それだけが、それこそが、『木原』を最も満足させる。
その際に他者や自分に襲いかかる危害など二の次なのだ。
だからこそ。
老人は目を爛々と輝かせ。
満面の笑みを浮かべた。
打ち止め「……救いようがないのね」
バヂイ!!! と老人の身体は高出力の電撃で消し炭になってしまった。
打ち止め「カ、ハ! ケホッ、ゲホッ! ……っはぁ、ひっどい気分」
異臭が漂う室内で少女はうずくまった。
原因は異臭でも凄惨なデータを見たせいでも老人を殺したせいでもない。
もちろんそれらも少しはあるのだが、主な原因は魔術を使用したことによる副作用だ。
才能無き者のための魔術は、才能ある者が使えば過負荷がかかり、最悪死に至る。
打ち止め「……あぁ、なるほど。だからこの身体のままなのね、ってミサカはミサカは納得してみる」
ジ、ジジ、と自らの生体電気を精密に扱いながら打ち止めは異様な速さで回復していく。
回復魔術など用いずとも、彼女の【電撃使い】としての能力はもはや万能の能力となっていた
打ち止め「もはや身体能力を制限させてどうにかなる存在じゃないのは分かっていたはずだけど……回復能力は幼い方があるものね。
近接格闘なんてまずしないし優先順位は基本的な回復能力になるよね、ってミサカはミサカは他個体に魔術の使用を制限させてみる」
ガチャ、と部屋の扉が開いた。
10031号「……お疲れ様です。上位個体、とミサカは異臭に顔をしかめながら労います」
中に入ってきたのはクローンの下位個体だった。
彼女も魔導書の影響を受けているのか、少し足がフラついていた。
打ち止め「ありがと。例のブツは? ってミサカはミサカは確認をとってみる」
10031号「ダウンロード済みです、とミサカはブツを見せながら成果を報告します」
スチャ、とクローンの少女はスカートのポケットから小型の何かを取り出した。
それはありふれたUSBだった。
10031号「【幻想御手】のワクチン音源。意識を失ってる間に取得することができました
とミサカはダウンロードした中身はすでに確認済みであることも重ねて報告します」
打ち止め「うん、じゃあシスターさんをお願い、
ってミサカはミサカはやっぱりミサカのお願いなんて聞くつもりのなかったジジイに辟易してみる」
10031号「了解です。後は1人で大丈夫ですか?」
打ち止め「そこまで根性なしじゃないよ、ってミサカはミサカは頬を膨らませてみる」
10031号「それは失礼しました、とミサカは早速作業に移ります」
ー数分後、第一八学区とある研究所屋上
神裂「ふっ!」
ダガン!、と屋上の扉が壊れんばかりの強さで乱暴に開かれた。
次いで風のような速さで【聖人】が駆け抜けていく。
神裂「インデックス……!」
先ほど大規模な魔力が感知できた。
覚えのない魔力の色だったが、この科学の街で魔力を練れられる人物など限られている。
魔術的な見地から見ればありえないはずだ。
だが、あの少女たちの言っていたことが本当ならば10万3000冊の魔導書を操る人間が大人数出現したことになる。
しかし、彼女にとって最も心配なことはそこではない。
仮にそんな無茶なことをした場合、インデックスは無事でいられるのか。
いかに科学技術の粋が集まっているこの街とは言え、扱うのは専門外のオカルトだ。
彼女たちにとって予想外の事態が起きる可能性は高い。
最悪の場合、あの時の【魔神】が再び起動している可能性もーーー
神裂「インデックス!!」
ガチャッ!! と扉を荒々しく開ける。
すると、神裂の目に飛び込んできた光景は。
10031号「おや」
先ほども見たクローンの少女。
黒焦げの何か。
大きな機械。
乱雑に散らばっている複数のコード。
そして。
インデックス「……」
コードに繋がれ、ピクリとも動かないインデックスの姿。
神裂「……貴様ぁぁああ!!」
怒り狂った神裂が吼える。
刀に手をかけ、一瞬で間合いを詰める。
【聖人】神裂火織の必殺の居合『唯閃』。
【七天七刀】の刃がクローンの喉元に迫る。
インデックス「……?」
パチ、とシスターは目を開けた。
神裂「!」
ビダッ! と神裂は動きを止めた。
10031号「……」
刃先はクローンの喉元を切り裂く寸前で止められていた。
インデックス「……あれ? どこ? ここ」
むくり、とシスターは起き上がった。
ぽかんとした表情で、完全に理解が追いついていなかった。
神裂「インデックス……」
インデックス「あ、かお、え!? かおり!? 何してるの!?」
刀を抜いて刃をクローンの喉元につきつけている神裂を見てインデックスが慌てる。
ほとんどパニック状態だった。
神裂「落ち着いて、インデックス。身体に異変は?」
インデックス「え? んと、ちょっとふらふらするかも……な、何が起きたの?」
10031号「頭の中の魔導書をコピーさせていただきました、とミサカは指で頭を叩きながら説明します」
インデックス「!?」
神裂「……本当なのですか? なんの調整もなしにあんなものを読んで無事でいられるはずありません」
魔導書とは異世界の法則が書かれているため、一般人は目を通しただけで廃人となる。
熟練の魔術師ですら、まともに読破することは厳しい。
常人では『毒』の純度を落とさなければまともに扱える代物ではない。
魔導書とは異世界の法則が書かれているため、一般人は目を通しただけで廃人となる。
熟練の魔術師ですら、まともに読破することは厳しい。
常人では『毒』の純度を落とさなければまともに扱える代物ではない。
それをこの街の能力者が、しかも10万3000冊もの魔導書を取り込んで無事でいられるはずがない。
10031号「ええ。コピー中に知りました、とミサカは実験動物に対してなんの配慮もなかったジジイに憤りを覚えます」
未だ切先と眼差しと殺気を向けられたまま、クローンの少女は一本調子で話す。
10031号「ですが、ミサカはどうやら魔導書に気に入られたようです。
1万人に一瞬で知識を広めたために、魔導書の特性から気に入られたのでしょう、とミサカは冷静に分析します」
一方で魔導書はその存在理由から、自身の知識をより広める者に協力する、という性質を持つ。
全体で1つの大きな脳とは言え、魔術的な定義では曖昧なところだ。
しかし、結果だけ見れば、方法はどうであれ1万人に知識を広めたことになる。
だからこそ彼女は魔導書に気に入られ、平気でいられるのだ。
インデックス「……ほ、ほんとに?」
神裂「……」
10031号「はい。『死霊術書』『食人祭祀書』『ネームレス』『抱朴子』 『法の書』『桃太郎』
『金枝篇』『ヘルメス文書』『秘奥の教義』『テトラビブロス』『エイボンの書』『ソロモンの小さな鍵』
『創造の書』『死者の書』『ムーンチャイルド』『暦石』『碑文』『屍食教典儀』『グリモワ断章』『Mの書』などなど」
インデックス「……信じられない……」
神裂「こんなことが……」
10031号「その他ご質問があればいくらでも。
そちらのシスターの安否が確認できるまではいますので、とミサカは逃げも隠れもしません」
ー同時刻、第一八学区Sプロセッサ社地下室
その時、とある場所では。
一方通行「あァ……やってくれるじゃねェか。クソガキが」
とある最強が目を覚ました。
一方通行「……つゥことはだ。許せねェのが1人いるよなァ」
ー同時刻、第七学区削板宅
そして、とある場所では。
削板「……ん……くぁ……」
とある漢が目を覚ました。
削板「……腹減ったな……眠れん」
ー1時間後、第七学区公園
そして、少し時間が経ったあとの公園では。
打ち止め「ん☆まーーーい! ってミサカはミサカは大満足!」
科学と魔術の頂天が腹ごしらえをしていた。
日も高くなってきたころの公園の木陰に隠れたベンチで、可愛らしくクレープを食べている少女の姿があった。
打ち止め「うんうん! これぞ食べる喜びというやつなのだよ! ってミサカはミサカはクレープと幸せを噛み締めてみる!」
ちなみに、一応考えた上でのクレープである。
先ほどは生体電気を動かして回復したはいいが、これ以上は回復するための栄養分がなければ回復できない。
先ほどは培養管の中で蓄えていた栄養分を使ったが、今後のことを考えると、すぐエネルギーになる甘いものがいいのだ。
少女は今、学園都市を満喫していた。
満を持して入った洋服屋さんで一目惚れした水色のワンピースを着て。
その近くの靴屋さんで買った白い靴を履いて。
デパートで年相応の下着と、ついでに小さな花のついたヘアピンを買って。
今はお腹が空いたので来る途中に見かけて気になっていたクレープ屋さんで丸々3分悩んで決めたクレープを頬張っていた。
打ち止め「んっふっふー、楽しいなー、ってミサカはミサカは他個体にちょっと申し訳なく思いながらも顔を綻ばせてみたり!」
もぐもぐと人生初の食事を堪能しながら少女は笑う。ちなみに支払いはすべて天井博士のカードである。
今、ほとんどの個体は情報収集に躍起になっている。
さすがに古すぎるデータは復元するのに時間がかかっていた。
紙に例えるなら、シュレッダーで細かく切り刻まれたぐらいなら復元できる能力は『妹達』にはある。
しかし、切り刻まれた上に紙が酸化してたり水に濡れたりした情報は復元に時間がかかるのだ。
そして、ほとんどに含まれない個体は買い出しに行っていた。
もはや不必要となった、支給されていた軍用装備をしかるべき所で売り払い、資金を調達。
そのお金で先ほどから能力行使で体力をガンガン使っている『妹達』も食べて栄養摂取して回復させる。
焼け石に水かもしれないが『妹達』だって食べたいのだ。
疲れもすればお腹も減る。
打ち止め「ほーんと、楽しいなー」
久しぶりに天気のいい屋外では笑顔が満ちていた。
公園をざっと見渡しただけでも面白そうなものや楽しそうなものが広がっている。
公園の外周には四つ足の生物が主人と一緒に歩いてる。9982号が見た仔猫とは違うからきっとイヌだ。
『学習装置』で教えられたイヌとはずいぶん違う。思いのほかいろんな種類があるらしい。
公園の入り口では警備員の女性2人が待ち合わせしていた。これからパトロールだろう。
誰かと待ち合わせというのも1回やってみたい。殺す殺されるという血生臭いものを抜きで。
別の木陰のベンチでは金髪の外人姉妹が仲良くクレープを食べている。
自分もああいう風に食べ比べをしてみたい。
そして、公園の中央にある噴水の近くでは少年少女が何かの遊びに興じている。
よく分からないが、かくれんぼの亜種らしい。なぜか鬼がひっきりなしに缶を踏んでいる。
どれもこれも好奇心を惹かれるものばかりだ。
まともな人生を歩んでいたら、あるいはああいうものを経験することもできただろう。
だが、
打ち止め「そういう訳にもいかないよね、ってミサカはミサカは落胆してみたり」
先ほど得た情報がそろそろ発表されるころだ。
その情報は防がなければいけないものではなく、むしろ報道されるのは望むところなのだが。
そして予想通り、空を漂う飛行船から、近くのビルのスピーカーから、警備員の無線から、けたましいサイレンの音が鳴り響いた。
すべての人々が何事かと耳を済ませた。
『緊急警報! 緊急警報! 第一九学区にて非常事態発生!
第一九学区及び隣接する学区にいるすべての人間は速やかに他学区に避難してください!』
あとのアナウンスはこの繰り返しだった。
ほとんど関係のないこの第七学区でも人々が顔色を変える。
散歩をしていたイヌはただならぬ空気を察知して荒々しく吠える。
警備員はその職務を全うするために真剣な表情になり、無線で連絡を取り合う。
ベンチに座っていた外人姉妹は姉が妹の手を引き、足早に公園を去る。
遊びに興じていた子どもたちは不安そうに顔を見合わせる。
きっと、すべてを理解しているのはクローンである自分だけだろう。
これは自分に向けられたお誘いのメッセージなのだ。
第一九学区で非常事態など起きていない。
正確にはこれから起きるのだ。
被害が出る前に、顔を見られないように、そこにいるすべての人間を退かしているだけなのだ。
そこでケリをつけようと。相手からのお誘いだ。
向こうも向こうですべてを知られては後がないのだから。
打ち止め「上位命令。全員避難誘導に協力。動かない人は無理やり動かして。
動けない人は意地でも守り通して。火事場泥棒は遠慮なくやっつけちゃって。
筋だけは通すよ、ってミサカはミサカは司令官っぽく的確な指示を出してみる」
そのお誘いに、こちらも乗ろう。
利害は合致している。
シンプルで分かりやすい。
何も気にせず、力の限りぶつかりあおう。
今朝の漢たちのように。
残っていたわずかなクレープを パクパクッ、と食べて少女は立ち上がり、公園を後にする。
出陣の時だ。
打ち止め「警備員のお姉さん、ってミサカはミサカは声をかけてみる」
黄泉川「ん? なんじゃんよ?」
打ち止め「これ、公園に落ちてたよ、ってミサカはミサカはカードを渡してみる」
黄泉川「おおっ! 偉いなお嬢ちゃん。ちゃんと預かっておくじゃんよ」
打ち止め「きっと困ってるからちゃんと届けてあげてね、ってミサカはミサカは念を押してみる」
黄泉川「任せるじゃんよ。……ん? 財布じゃなくてカードが裸で?」
打ち止め「じゃあよろしくねー、ってミサカはミサカは撤退開始!」
黄泉川「あ、ちょっと、おい!」
タタタタ、と走ると打ち止めは磁力を使ってビルの屋上までひとっ飛びにジャンプした。
打ち止め「今日は死ぬにはいい日だ、ってミサカはミサカはヤイサホー!」
ー第一八学区、とある研究所
原谷「……本当に、やるつもりなんだ」
スキルアウト「なにこれ? なにがどーなってんの?」
地下室から脱出した原谷とステイル、そして車を動かしていたスキルアウトらは神裂、インデックスらと合流していた。
クローンの少女はインデックスの身体に異変がないと判断すると、真っ黒な死体をもってどこかへ姿を消してしまった。
神裂「……どうしますか?」
ステイル「今日のボクらはキミの手足だ。キミの望むように動くが……」
インデックス「私も。身体はなんともないから動けるんだよ」
外は混乱していた。
その原因はやはりクローンだろう。
しかし。
原谷「……すいません、正直ここまで来ると凡人には何していいのかさっぱりです」
もはや何かをどうにかしたところで収まる事態ではない。
明らかに戦力が違いすぎる。
スキルアウト「つーか救うはずのクローンがなんで暴走して、っと。ワリ、電話だ」
神裂「彼女らの話も聞くにはききましたが……」
ステイル「要するに反乱だろう?」
インデックス「きっと止めないとダメなんだよ」
原谷「んなこと言ったって闇雲に突っ込んだところで
スキルアウト「ああ!? オメーガチで言ってんのか!?」
急にスキルアウトが声を荒げた。
その声に全員が一瞬身体を強張らせて振り向いた。
スキルアウト「止めろや!! 動ける身体な訳ねーべや!! ……ああもう! ホントしゃーねーなあの人!!」
そんな文句を垂れながらも、なぜかスキルアウトは笑っていた。
ー数十分後、第一九学区大通り
第一九学区は寂れてしまった学区である。
再開発に失敗し、建物は廃れていた。
地価が安いくらいしか強みのない土地だが、ほとんどの学生は寮暮らしのためそれも強みとは言い難い。
故に元々人口は少ないのだ。
おまけに警備員・暗部・『妹達』がこの学区の避難を重点的に行ったため、既に街はもぬけのからだ。
打ち止め「……『絶対能力進化実験』も含めて、この街ではいろんな悲劇が人為的に引き起こされてる」
そんな人気のない街の大通りをクローン少女は進んでいく。
目的地はすぐそこだ。
打ち止め「それはある人物の『プラン』を為すため。たったそれだけのために、多くの人間が人生を狂わされてる」
不安はない。
あるとすれば闘いに挑む前の武者震いだ。
打ち止め「何より許せないのが、ミサカのことを実験動物どころかただのアンテナとしか見てなかったこと」
広い交差点の中心に主催者はいた。
銀の髪に緑の手術着。
男にも女にも子どもにも老人にも聖人にも囚人にも見える『人間』。
打ち止め「許せないよね、アレイスター・クロウリー学園都市統括理事長? ってミサカはミサカは凄んでみる」
アレイスター「些細な違いでしかない、と私は思うがね」
かつて『世界最大の魔術師』と称された伝説級の魔術師、アレイスター・クロウリーだ。
アレイスター「はじめまして【最終信号】。まさかこんな形で会うとは思ってもみなかったよ」
打ち止め「どうもはじめまして。ミサカもわざわざ出てきてもらって嬉しいよ」
アレイスター「ああ。君を捕らえるとなると、ハンパな戦力では不可能だからね」
間違いなく、この人物は『窓のないビル』の中で鎮座している『人間』である。
本物であることを証明するかのように、とてつもない威圧感が溢れ出ている。
打ち止め「……どうあってもミサカを利用したいのね、ってミサカはミサカは睨みつけてみる」
アレイスター「ああ。ここで君を捕らえれば『プラン』はほぼ成功と言える」
打ち止め「あなたみたいな根性なしに捕まるはずないよ、ってミサカはミサカは呆れてみたり」
アレイスター「やる前から諦めているようではただの根性なしだ。そうは思わないかい?」
打ち止め「それもそうね、ってミサカはミサカは納得してみる」
アレイスター「それにしてもわざわざ1人でくるとは。私としてはありがたいがね」
打ち止め「決闘の基本はタイマンだもの、ってミサカはミサカは常識を説いてみる」
アレイスター「その結果、君が死を迎えるとしてもかい?」
打ち止め「んー、どのみちあなたを殺して私も死ぬつもりだし、ってミサカはミサカは開き直ってみる」
あっさりと、クローンの少女は衝撃的な告白をした。
アレイスター「ほう……?」
打ち止め「……このままだとお姉さまに迷惑がかかる。クローンがどういう存在か、情報収集の時に気づいたの」
『自分だけの現実』に根性を入力し、クローンという存在に対する一般的な印象を知った今、『妹達』は覚悟を決めていた。
このまま自分たちが生きれば、オリジナルである御坂美琴に迷惑がかかる。
クローンという気味の悪い集団を抱え込む中学生というレッテルを貼られてしまう。
それは、やってはいけない。
光の世界で光り輝く存在で、学園都市を何度も救ったあのヒーローを闇に落としてはいけない。
打ち止め「あの優しいお姉さまに、もう迷惑はかけられない。
だから最後に不幸しか撒き散らさないあなたの『プラン』だけは止める。それがミサカの根性よ、ってミサカはミサカは臨戦態勢」
すっ、と小さな少女は構えをとった。
アレイスター「心構えは立派だが……気づかないかい?
これだけ濃い『AIM拡散力場』がこの学園都市という狭い範囲に集まればーーー」
『それ』はいつの間にかいた。
金髪の光り輝くような長身。
ゆったりとした白い装束を身にまとった、しかしそれでも異様としか表現できない『誰か』。
女性のような身体つきをしているが、果たして女性なのか、人間かどうかすら怪しい。
それほどまでに、根っこの部分で何かが違う人のようなモノがアレイスターの隣に現れた。
エイワス「……nagtvdjか。ずいぶん私の想像を超えてきたな」
『それ』はもはやこの世界の生物ですらなかった。
打ち止め「……『ドラゴン』、エイワスか」
しかし、それを見ても打ち止めは動じなかった。
打ち止め「ゴメンね、それはこっちも同じなのよ、ってミサカはミサカは不敵に笑ってみる」
バヂ、バヂヂヂヂヂ!! と空間を横に裂いて何かが現れる。
打ち止め「これだけ濃い『AIM拡散力場』があれば、コレも同時に出せるのよ、ってミサカはミサカはドヤ顔でキメてみたり」
『それ』は異世界から現世にダウンロードされているようだった。
空間から出てきた『何か』は女子高生のような姿で制服を着ていた。
カザキリ「ィィイィィィイィイイイイィィイィイイアアアアアアアアアア!!!」
その何かは他には目もくれず、真っ先にこの世界の異物に襲いかかる。
雷をそのまま翼の形に固定したような巨大なモノが背中から突き出ていた。
エイワス「おお? ヒューズ・カザキリか!」
だが、その瞬間、女性のような光り輝くモノの背中からも白い翼が噴出する。
襲いかかる雷を防ぐように、一瞬で翼が翼に襲いかかる。
ズドドドドドドドド!!! と耳をつんざくような音が学園都市中に響きわたる。
2人が衝突した地点では既にアスファルトがめくり上がり、クレーターができていた。
カザキリ「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
エイワス「ははは、面白い。何をどうしたらこうなったんだ? アレイスター」
しかし、もはやクレーターの地点に2人はいない。
いつの間にか離れた場所で取っ組み合いになっていた。
打ち止め「出現コードなんてとうの昔に把握済み。甘く見ないでほしいな」
アレイスター「……【最終信号】……!!」
ここにきてはじめてアレイスターが怒りを顕わにした。
憤怒の形相を作り、いつもの余裕のある微笑はどこにもない。
打ち止め「手の内読めてんのよ根性なし、ってミサカはミサカは挑発してみる」
バヂ! とスパークが鳴った。
打ち止め「さ、はじめよ。もう逃げ場はないよ、ってミサカはミサカはやる気満々!!」
アレイスター「たかだか作られた人形ごときが。調子に乗るな!」
かくして、世界最大戦力とも言える者同士の闘いの火蓋は切って落とされた。
学区1つで被害が済めばいい方、最悪関東圏どころか日本が消滅してもおかしくはない。
そんな闘いが始まった。
もはや誰にも止められない。
しかし、勝負は一瞬で決した。
カザキリ「イイヤアアアアアアアアアア!!??」
ヒューズ・カザキリは肩から爆散し
エイワス「おや」
『ドラゴン』エイワスは腹部に風穴が空き
アレイスター「馬鹿な……!」
世界最大の魔術師たるアレイスター・クロウリーは頭から消滅した。
打ち止め「?」
しかし、それはクローンが為した結果ではなかった。
???「よう、みつけたぞ。大馬鹿野郎。」
???「この勘違い野郎が」
それはバイクに乗った2人組の仕業だった。
カザキリ「……アア、アアア、ア……」
アレイスター「馬鹿な、なぜ、なぜ私にこれが……!」
エイワス「ははは、もちろん生命体には効きはしない。我々は死ぬのではないのだ」
1人1人が消えていく中、理性のあった数人だけが会話をしていた。
エイワス「還るのだよ。ヒューズ・カザキリは虚数に。キミは実数に。私はvsmjsbpqにな」
アレイスター「……ありえない!!」
さらさらさら、と消滅した箇所から徐々に霧散していく。
それなのに会話はしっかりとできていた。
エイワス「ああ、通常ならな。だが、キミは私の忠告を聞かなかったのではないかな?」
アレイスター「……!」
エイワス「ふふふ、やはりそうか」
もはや3者の姿はほとんど消えているにも関わらず、不思議と声だけはいまだに聞こえていた。
その上、その内の1人の声はとても楽しそうに、笑いをこらえながら話していた。
エイワス「【幻想殺し】のリセットを怠ったな? 積み上げたものは数百年規模の魔術か?
数千人規模の魔術か? はたまた両方か? まったく、キミはせっかちすぎるよ、アレイスター」
そして、3者の姿は音もなく完全に消失してしまった。
横須賀「教育の時間だ。不良少女。」
上条「てめぇの幻想はここで殺してやる」
トトトトトト、と大型のエンジンにふさわしくない音が鳴っていた。
フルフェイスのヘルメットを脱いだ2人が乗っているバイクは学園都市の名物バイクだ。
その名も『超電動リニア二輪』。
車輪とシャフトの間を磁力で反発させ、ドーナツ状の車輪を電気で動かしている。
故に、ほとんど飾り物のようなエンジン音しかならず、高速で忍者のように動けるのだ。
しかしそれでも、200キロ近い速さで物体の50センチ脇にバイクを放り込む行動は狂気の沙汰としか思えないが。
打ち止め「……人のタイマンに横槍入れるなんてどういう了見かな? ってミサカはミサカは苛立ってみたり」
そのバイクから降りた2人をにらみつけながら、打ち止めは不快感を顕にした。
人が命がけでタイマンを張ったというのに部外者が水を差してきた。
どういう方法を使えばあの3人を消せるのかは分からないが、科学と魔術の頂点に立ってしまった彼女にとっては些細な問題だ。
彼女が注目するのは、タイマンに水を差したというその1点のみ。
正直に言ってしまえば、根性なしの所業だとすら思える。
今ここでその落とし前をつけたいくらいだ。
横須賀「それはすまんな。だが、お前らの計画を聞いてどうしても言いたいことがあってな。」
上条「……」
それをしないのは、相手がこの2人だからだ。
黒いライダースーツを着ている大男は仮にも命懸けで守ってもらった相手。
制服姿のツンツン頭は仮にも大恩あるお姉さまの知り合い。
無闇に手を出すほどこの少女は不義理でなければ根性なしでもない。
打ち止め「言いたいこと? こんなマネをしてまで? ってミサカはミサカはクエスチョンマークを浮かばせてみたり」
横須賀「ああ。お前の1番上の姉貴が泣きそうなツラして語ってきてな。鬱陶しくて寝てもいられないので根本から解決しにきた。」
エンジンを止め、バイクから降りて2人は少女と向き合う。
先ほど、病院で横須賀の病室を訪れたクローンは横須賀にここまでの『妹達』の計画をすべて話していた。
彼女たちはLevel6になったその瞬間から情報収集を始め、すぐにすべてを受け入れ、計画を立てていたのだ。
打ち止め「……9982号か。あのコは死にかけた時にMNWとのバグが生じてたからね」
現存しているクローンの中で唯一Level5の第一位と闘って生き延びた個体。
その個体は生死の境をさまよった際にミサカネットワークとの接続にノイズが走っていた。
そのため、今も彼女だけ感情が他の『妹達』全体の感情と乖離していたとしてもおかしくない。
打ち止め「……彼女がどう思っていても、私たちがいたらお姉さまに迷惑がかかる。
それはあのコも承諾済み。だから、あなたにとやかく言われる筋合いはない、ってミサカはミサカは拒絶してみる」
横須賀「……」
打ち止め「それで、そっちの人」
上条「……」
打ち止め「あなたはお姉さまの知り合いの人だよね? ただそれだけのあなたがわざわざこんなところに何の用かな?
ってミサカはミサカは何も知らないのにいきなりしゃしゃり出てきた部外者の行動に疑問を抱いてみたり」
続けて打ち止めはもう1人のツンツン頭に意識を向ける。
この人物は『妹達』の計画も『絶対能力進化実験』も、そもそも目の前にいる少女がクローンであることを知ってるかどうかも怪しいのだ。
この人物がもはや怪物と化したクローンの前に立つ義理など何もないはずだ。
打ち止め「どこまで知ってるのか知らないけど、もしミサカの前に立ちはだかるなら容赦しない。
今のミサカはあなたが思ってる以上に強いよ? ってミサカはミサカは最低限の忠告を告げてみる」
これは最終警告だ。それを分からせるために派手にスパークを弾けさせる。
バヂバヂバヂバヂバヂヂヂヂ!! とほとんど雷の塊のようなスパークが鳴り響く。
通りは明滅し、痛いほどの光が迸る。
見ただけで分かる。当たればタダでは済まない。
上条「……たしかに俺は断片的な情報しか知らない」
ゆっくりと、ツンツン頭の少年は話し始める。
上条「お前たちがどれだけのものを抱えていて、どれだけの覚悟を決めてここに立っているのかも知らない」
科学と魔術の頂点に立つクローンのチカラを前にしても、少年は怯まない。
ただ、まっすぐと小さな怪物を見つめる。
上条「でもな、それでも」
少年は、右の拳を握りしめた。
上条「御坂美琴が泣いていた。俺が拳を握る理由なんて、それで十分だ」
打ち止め「お姉さま、が?」
そして、その事実はクローンの少女を動揺させるのに十分だった。
威嚇のためのスパークが鳴り止んだ。
打ち止め「ちょ、ちょっと待って。お姉さまにはちゃんと説明したはずだよ? クローンを抱えるリスクもこの街の闇も」
そもそも、彼女たちはオリジナルである御坂美琴のためにここまでしてきたのだ。
それなのに、御坂美琴がすでに泣いていたのでは、彼女たちの大義が揺らぐ。
横須賀「……やはりな。そんな根本的なことも分かっていなかったか。」
呆れた顔で巨漢は語る。
外したヘルメットを片手で遊ばせていた。
横須賀「ネットの文字ばかりを辿って現実世界が何も見えていない馬鹿の典型だな。
根性を入力だの的外れなことを言っている時点でおかしいとは思っていたが。」
上条「あいつが、誰かを犠牲にした平穏を得て嬉しいと思う訳ねぇだろ。それはただのお前の幻想だよ」
打ち止め「う、嘘だ! あなたたちは嘘をついてる! ってミサカは
横須賀「こんなボロボロの身体引きずってわざわざ嘘をつきに来ると思っているのか?」
上条「お前たちが見てきた御坂美琴は、お前たちを本気で切り捨てようとしたことがあったか?」
そう言われて、少女は思い返す。
膨大な情報を収集する前の、そして情報を収集している最中の御坂美琴の姿を。
クローンが殺されかけて逆上した背中を。
病室で原谷矢文に怒っていた影を。あの時、あの少年の言っていた言葉を。
実験現場に駆けつけ、Level5同士のぶつかり合いの被害から守ってくれた勇姿を。
クローンである自分に泣きそうになりながら謝ってくれた顔を。
仲間を裏切ってまで、守る必要のないクローンを守ってくれた根性を。
打ち止め「で、でも! そんなものは一時の気の迷いでしかない!
この先の人生できっとお姉さまはミサカたちの存在を抱えきれなくなる! ミサカはお姉さまを苦しめたくないの!
ミサカは、ミサカはあなたたちを倒してでも! 自分の根性を貫き通す! それが、それがミサカの根性なんだから!」
チチチチチチチチヂヂヂヂヂヂバリバリバリバリ!!!! と激情に呼応するように電撃が溢れ出る。
青く光る電撃は巨大な柱のようになり、もはや反応できない速さでそこかしこに飛び交う。
轟音と共にアスファルトをえぐり、建物を貫き、窓ガラスを破壊していく。
そんな一撃が2人にも襲いかかる。
上条「フザけんな!!」
キュィイン! と甲高い音が響いた。
何本もの雷撃の柱はツンツン頭の右手に吸い込まれていった。
打ち止め「なっ」
上条「そんな勝手なお前の幻想で御坂を語るんじゃねぇよ!
そんな『かもしれない』って未来が! 今泣いているアイツをこれ以上苦しめる理由にはならないだろ!!」
打ち止め「黙って! そっちこそ! そっちこそ何も知らないくせに!」
バッ! と少女は右手を掲げた。
と同時に不思議な現象が起きる。
ゴロゴロゴロゴロゴゴゴゴゴ、と雷雲が急速にあつまる。
先ほどまでの青空は消え、黒い雲が局地的に集合する。
その雷雲のあまりの分厚さに太陽が遮られる。
一瞬にして第一九学区は夜を迎えた。
ビカッ!!!! と巨大な稲妻がツンツン頭の頭上に落ちる。
上条「こんな不幸、既に二番煎じなんだよ!」
キュィイン!! と再び甲高い音が響く。
あろうことか、稲妻は受け止められた。
否、稲妻までもがかき消された。
それどころか、雷雲までもが制御不能となり散っていく。
打ち止め「な、そんな、なんなのその手は!?」
上条「【幻想殺し】。お前の天敵だよ。俺に異能は効かないぞ『SYSTEM』」
打ち止め「!?」
上条「これ以上お前が闘う理由なんてあるのか? これは誰も望んでない闘いだ。
こんなことしたって誰も喜ばない。お前たちが死んだって、誰も喜びやしない!!」
打ち止め「ミサカは、ミサカ、は、う、あああああああ!!」
頭を抱え、少女は絶叫する。
と同時に、目の前の邪魔な存在を消すための方法を検索していた。
とにかく、目の前の存在は『妹達』の根本を揺らがしかねない。
自分達を守るためにも、目的を果たすためにも、この少年を排除しなければ。
打ち止め「『聖ジョージの聖域』を発動!! 目の前の夷狄を排除!!」
キン! と打ち止めの前に巨大な魔法陣が張られる。
それはかつて削板らの前に現れたものと同じものだった。
横須賀「おいおい。正気か?」
打ち止め「は、発動! 『竜王の殺息』!」
バギン!! と魔法陣の中心部が裂ける。
そこからは異世界を垣間見ることができた。
そしてーーー
キュィィィィィィイイイイイ!!!
と、甲高い音が鳴り続ける。
あろうことか、竜王の一撃までもが。
上条「こんなもんかよ!! 『SYSTEM』!!」
止められていた。
たったの、右手1本で。
打ち止め「嘘、そんな、そんな! こんなの、おかしい!」
この魔術は10万3000冊の中でもトップクラスの威力。
さらには相手の戦闘方法を観察した上で最も効果的な術を逆算して繰り出したのだ。
にもかかわらず、その術が止められている。
かき消されている。
その時
打ち止め「く、あ、あああああああ!?」
クローンの少女の頭に激痛が走る。
無理やり魔術を使った副作用が起きる。
全身の血管浮き出し、身体が拒絶反応を起こす。
しゅうううぅぅぅ……、と巨大な魔法陣は霧散し、光の柱は消えていった。
打ち止め「ゲホッ!! ゴ、あ、ガハッ!! ッハア! ハッ!」
ビチャ、ビチャ、と吐血した血液がヒビ割れたアスファルトを染めていく。
継続して魔力を練り続けることは能力者には不可能だった。
上条「そんなボロボロになってまで、お前は御坂を傷つけたいのか!? お前の言う根性っていったいなんなんだ!!」
打ち止め「ハッ、ハッ、うる、さい!」
上条「……いいぜ。お前が譲らねえなら俺も譲らねえ!」
ダッ、と少年は地面を蹴る。
幼い少女の懐へと一目散に駆け出す。
上条「俺は! 力づくでもお前を止める! 妙な勘違いでアイツを泣かせんじゃねぇよ!」
ブン!! とツンツン頭のヒーローの拳は空を切った。
上条「チッ!」
クローンの少女は磁力を使って大きく後ろに飛んでいた。
打ち止め「ケホッケホ……負けないよ。ミサカだって、根性がある!
ちょっとやそっとで! 自分の決めた道を曲げる訳にはいかない! ってミサカはミサカは戦闘続行!」
たとえ身体を蝕まれても、攻略法が分からない敵が現れても、この少女は折れない。
それが、彼女を支えている『自分だけの現実』だ。
上条「そうかよ。そっちがその気なら俺だって……!」
横須賀「まあ待て。そうカッカするな。」
再び駆け出そうとする少年を、ライダースーツの大男が制した。
上条「……なんだよ」
横須賀「頭に血が昇りすぎだ。」
打ち止め「ェホ、本当に、人のケンカに横槍入れるのが好きなのね、ってミサカはミサカは幻滅してみたり」
横須賀「大の漢が小娘のガキ1人にタイマン張るのもどうかと思ってな。」
ニッ、と笑いながら大男は肩を竦める。
ヘルメットはバイクにくくりつけられていた。
横須賀「まあ、なんだ。言いたいことは全部こいつが言ったんだが……腑に落ちないことがあってな。」
打ち止め「なにを……!」
横須賀「単純な疑問でな。スキルアウトには理解できないので聞いてみるが……」
横須賀「お前は本当にLevel6か?」
打ち止め「……?」
横須賀「単純な疑問だ。【根性】を【入力】だとか言っているが、それで本当にLevel6になれるのか?」
打ち止め「それは、そうだよ? ってミサカはミサカは当たり前のことを聞いてくるあなたに首を傾げてみたり」
横須賀「ほう。ならばだ、今の根性なしのお前はどう説明する?」
打ち止め「こ、根性なし? ミサカが?」
横須賀「闘う必要もないのにチカラを振るい、死ぬ必要もないのに死のうとしている。
俺にはお前が生きる根性もない自殺志願者にしか見えん。お前は死ぬことに理由をこじ付けているだけだ。」
打ち止め「ち、ちがう! ちがうよ! ってミサカはミサカは精一杯否定してみる!」
横須賀「ならば、もっと突き詰めてやろう。お前の1番上の姉貴は泣きそうになっていた。それをお前はバグだと言った。
だが、バグが起きていてもお前たちの脳の一部であることに変わりはない。ならばだ、あの女もお前たちの一員ならば」
横須賀「お前は、本当は生きたいのだろう?」
打ち止め「ーーーっ!」
横須賀「それでも生きてしまえば御坂美琴に迷惑がかかる。それがお前の言い分だ。
だが、俺に言わせれば悲惨な生い立ちといばらの未来を前に人生を放棄しているとしか思えん。
だから根性なしだと言ったのだ。楽な道に逃げているだけのな。本当に根性があるなら、立ち向かうぞ。その身1つで。」
打ち止め「ちがう、ちがう、ミサカは、ミサカは!」
横須賀「さて、ここで最初の質問だ。」
横須賀「こんな根性なしが、本当にLevel6なのか?」
打ち止め「う、あ」
目の前の男の言っていることは当たっている。
本当はもっと生きたい。
本当はもっと色んなモノを見てみたい。
本当はもっと色んなことをしてみたい。
本当はもっと色んな食べ物を食べてみたい。
本当はもっと色んな遊びをしてみたい。
本当は、ちょっとだけ、生きることが、怖かった。
打ち止め「あ、ああ、あああああ」
なら、自分は
もしかしたら、根性などなかったのか?
根性を入力なんて、できていなかったのか?
打ち止め「ぎ、や、ああああああああああああああ!!!!」
ビガカカガガガ!!!!! と目を焼かんばかりの閃光が走った。
上条「うわ!?」
それは、能力の奔流だった。
破壊の轟音と打ち消す甲高い音と苦悶の絶叫がこだまする。
打ち止め「やあああああああああああああああああああああ!!! い、や、あああああああ!!」
今、核心を突かれた彼女は『自分だけの現実』が破壊されかかっていた。
そのため、蓄えていた膨大なチカラが制御できずに暴走している。
ドガガガガ!! とめくれたアスファルトはさらに砕けて粉々になる。
ズドドドドド!! とビルの外壁は砕けて地表に落ちる。
ガッシャアア!! と窓ガラスが割れてシャワーのように降り注ぐ。
打ち止め「あああああああああああああああああああああ!! ああああああああああああああああああああ!!」
横須賀「やかましい!!!!!」
打ち止め「ぎゃん!?」
ゴッづん!!!! とクローンの少女の頭に巨大なゲンコツが炸裂した。
と同時に、能力の奔流が途絶えた。
横須賀「……学のないスキルアウトの言葉に『自分だけの現実』を乱されるようでは仮初めのLevel6だ。
たとえ学園都市と言えど、【根性】を【入力】などできてたまるか。根性は科学ごときでは測りしれぬものだ。」
打ち止め「きゅう……」
渾身の力で頭を殴られた小さな怪物は、そのままふらふらと歩き、脳震盪を起こして倒れそうになった。
ところを、テロリストのような巨漢が殴った方とは別の腕で抱きかかえた。
意識を強引に奪われたため、少女の『自分だけの現実』の崩壊は食い止められた。
横須賀「寝てろ。絶対能力者。」
上条「……あんなとこ突っ込んでいくとか頭イカれてるだろ」
横須賀「こいつはライダースーツ兼絶縁スーツだ。【超電磁砲】がチーム1つ潰したと聞いていたので有り金突っ込んで準備していた。」
上条「イヤ、手ぇ黒炭じゃねえか」
横須賀「あんなめちゃくちゃな電撃の中に突っ込めば絶縁崩壊くらい起きる。
だが、ふん、腕1本で都市1つ救えるなら釣りがくる。安いものだ。」
上条「……もうお前とはケンカしたくねぇ」ウヘェ…
横須賀「砕けた拳で殴りかかってきたヤツがなにを言っている。」
ー第一四学区、とあるアパート前
アレイスター「ハッ、ハッ、おのれ、おのれ!」
今、第一四学区には世界最大の魔術師と称された人物が息も絶え絶えに苛立ちながら早足で歩いていた。
先ほど【幻想殺し】によって消滅したはずの人間だが、彼はここにも確実に存在している。
それもそのはず。彼は今、存在そのものを変えられたのだ。
今、ここにいるアレイスター・クロウリーは間違いなくアレイスター・クロウリーだ。
しかし、一方で先ほど消されたアレイスター・クロウリーも間違いなくアレイスター・クロウリーだ。
先ほどまでの彼はもはや1と0では表せない存在だった。それほどまでに曖昧であやふやな存在だった。
それを『世界を元に戻すチカラ』、つまり1に戻すチカラのせいで強制的に存在をはっきりさせられた。
もはや彼の『プラン』は9割方崩壊していた。
立て直しようなどあるはずがない。
アレイスター「まだだ! まだ終わらない!」
しかし、それでもこのただの人間は諦めない。
中途半端に崩壊するよりもいっそ豪快に崩壊した方がリスタートは早くなる。
ここまで壊されればもとの『プラン』の過程に執着などない。
どのようなプロセスを経ようが、最終的に望むべく結果が得られればそれでよいのだから。
目的の部屋の前に辿り着くと、彼は何かを呟いた。
その瞬間、バゴン! と扉が吹き飛んでいった。
明らかな住居不法侵入だが、もはやそんなことは気にしていられない。
一気『プラン』を巻き返すための重要な道具、それがここにある。
それさえあれば、飛躍的に『プラン』は進んでいく。
もちろんそれは厳重に守られているはずだが、学園都市の頂点に立つ世界最大の魔術師にはそんなものは障害にならない。
アレイスター「ーーーっ!」
だが、部屋の中に入った瞬間、アレイスターはさらに苛立った表情を浮かべた。
部屋の主が留守であることは確認していたはずだったが、部屋の主ではない人物が鎮座していた。
その人物はハチマキを巻いた、最強をも打ち倒した漢だった。
削板「おう、ノックが強すぎるぞ。根性なし」
Level5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇だった。
アレイスター「なぜ貴様がここにいる!」
削板「モツから話を聞いた原谷たちが連絡を寄越した。
お前が狙ってくるとしたらインデックスか、神裂の部屋にあるインデックスを操る杖だってな」
かつて、ステイルと神裂がインデックスにかけられた呪いを解くために『イギリス清教』から強奪してきた『遠隔制御霊装』。
それは、インデックスの10万3000冊と共に脳に刻まれている【自動書記】のプログラムを遠隔で操る杖だ。
無事にインデックスを救った後は、神裂が自宅の金庫に入れた上で幾重にも保護魔術をかけて厳重に保管していた。
だからこそ、アレイスター・クロウリーはその杖とインデックスを奪おうとしていたのだ。
削板「……学園都市統括理事長だろうが誰だろうが、俺のやることは変わらん。
アイツを、インデックスを地獄の底に落とそうとする根性なしは許さん。倒させてもらうぞ」
スクッ、と旭日旗のシャツを着た少年は立ち上がる。
狭い室内で2人の人間が向かいあった。
アレイスター「一方通行にやられて満身創痍の貴様が私に勝てると思っているのか?」
削板「お互い様だ。お前がどんだけ強いか知らねえが、モツと上条を同時に敵に回して無事でいられるわけねえだろ」
アレイスター「……ナメられたものだ」
キン、とアレイスターの手に金色の杖が握られる。
それがかつて『世界最大の魔術師』と称されたアレイスター・クロウリーの武器だった。
削板「神裂の許可はもらってるし、住人は避難済みだ。目一杯暴れても構わねえぞ!」
ボゥン! と赤青黄の3色の煙が噴き出る。
その煙は室内に一気に充満し、ほとんど距離がないにもかかわらず両者の姿は互いに見えなくなった。
アレイスター「馬鹿のひとつ覚えだな。才ある者の悲しい性だ」
スッ、スッ、とアレイスターは素早く杖を動かす。
すると、そこに黒い五芒星が出現した。
アレイスター「科学的に解明出来ないとはいえ、魔術的な見地から見れば話は別だ。
貴様のそれはローマ神話における【軍神】の類いのもの。だとすれば対抗策はいくらでもある」
かつて、削板と対立した【魔神】は削板の能力をこう分析した。
『ローマ神話における【軍神】マールスの類似系統の力』と。
それは国家の守護神。火星を意味するもの。
そして何より、男性の武勇や闘争心の象徴。
男性そのものを表すシンボル。
そこまで分かっていれば、対抗する魔術は逆算できる。
『世界最大の魔術師』と呼ばれてきたアレイスター・クロウリーならばいくらでも策は練れる。
バギン!! と五芒星が割れた。
アレイスター「!?」
削板「もう一丁!」
濃い煙の中でも薄っすら表情が見える。
そのくらい、2人は接近している。
削板「『超! スゴいパンチ』!」
とっさにアレイスターが杖を前に出す。
しかし
アレイスター「ゴハッ!?」
ベギン!! と金色の杖が真っ二つに折れる。
それだけでなく、削板の拳がアレイスターに突き刺さる。
アレイスター「な、馬鹿な!? なぜだ!? なぜ!?」
削板「そいつが分かれば苦労しねえよ」
この時、アレイスターは読み間違えていた。
かつて相対した【魔神】はこう分析していた。
ローマ神話における【軍神】マールスの『類似系統の力』、と。
表面上は似ているが、削板の能力はマールスに由来しているものではない。
さらに、あれから更なる死線をくぐり抜けてきた削板の能力は更に洗練されていた。
そもそも、なぜ神話や聖書の人物は奇跡のような現象を起こせるのか。
それは、世界の法則に則っているからにすぎない。
誰も気づかない、少数の人物にだけ適用される物理以外の法則がそこにはあるのだ。
例えば【聖人】は教祖となった神の子と身体的・魔術的特徴が類似しているためにそのチカラを扱える。
しかし、神の子自身は世界の法則に則った身体的特徴があったというだけなのだ。
ただ、歴史上最も完璧な比率の身体的特徴で生まれた人物が教祖となった神の子というだけで。
そうでなければ、最初に神の子として崇められた十字教の教祖のチカラは説明がつかない。
そのため、後の【聖人】たちは身体的特徴に加えて偶像の理論による魔術的特徴を備えてようやく【聖人】たり得るのだ。
今も昔も、世界の法則は変わらない。チカラを得ること自体は奇跡ではなく現象にすぎない。
つまり、どんな時代にも奇跡を生み出す人間は生まれる。
それが【原石】なのだ。
神話のマールスも、古の十字教の教祖も。
そして、現代の削板軍覇も。
つまり、この漢の能力はマールスの派生系などではない。
削板軍覇による、削板軍覇だけが扱えるオリジナル。
男性ではなく漢を象徴するチカラ。
強いて述べるのなら、それが削板の能力の正体だ。
アレイスター「くそっ! くそっ! 削板軍覇ぁぁああ!!」
削板「じゃあな、理事長」
煙が逆巻く。そして、削板の背後に圧縮されて集合していく。
削板「いっぺん頭冷やしてこい!!」
ドガッ!!! と不可視のチカラがアレイスターの顔面に直撃した。
その直後、3色の煙が一斉にアレイスターに襲いかかる。
室内のモノ全てを一瞬で巻き込んでいく。
アレイスター「お、の、れえええええぇぇぇぇ!」
グオオオオオオ!! と突風のような煙の流れに押し出され、銀の髪の魔術師は玄関口から吹き飛んでいった。
ー第一四学区、裏通り
アレイスター「ッハァ、ハッ……」
吹き飛ばされた銀の魔術師は壁にもたれかかっていた。
もはや全身ボロボロになり、緑の手術衣はところどころ破けていた。
いつもの余裕はどこにもない。
いつもの微笑もどこにもない。
かつてイギリスの片田舎で味わった屈辱が彼を襲っていた。
スタ、スタ、とゆっくりとした足音が近づいてきた。
アレイスター「……?」
不審に思った銀の魔術師は足音の方向に顔を向ける。
すると、薄暗い通りの奥の方でぼんやりとしたシルエットを見つけた。
そのシルエットは細身の人間のものだった。
その人間はアレイスターのお気に入りの人物だった。
一方通行「あっはァ、見ィつけたァ」
Level5の第一位にして学園都市の頂点、一方通行だった。
アレイスター「あ、一方通行……」
一方通行「ひっさしぶりィ、統括理事長。相変わらずツッコミどころ満載だなァおい」
スタ、スタ、と足音は近づく。
ここまで来ると相手の顔もはっきり見える。
アレイスター「……なんの用だ」
一方通行「あァ? あっひゃひゃ、イヤな? さっきクローンのガキが面白い情報を頭にダイレクトでくれてよォ」
足音が止まった。目の前に凶悪な顔が出てきた。
アレイスター「……?」
一方通行「『絶対能力進化実験』。アレ、嘘なンだってな」
アレイスター「な、に?」
一方通行「あの実験、クローンを世界にバラまくためのモンで、俺をLevel6にする実験じゃねェンだってな。
それどころか、クローンを2万ブッ殺したところでLevel6になれる確証なンざねェンだってな!
挙げ句の果てにゃァ俺以外でもLevel6になれる上にあンなクソみてェな方法じゃなくてもLevel6がバカスカ生まれてンじゃねェか!!」
アレイスター「……そ、れは」
一方通行「ンでェ!? その黒幕がお前なンだってェ!? おいおいおいおい理事長!! 愉快すぎるぜェ!!」
アレイスター「ま、」
一方通行「ここまでコケにされるとは思わなかったぜ理事長!!
この落とし前はきっちりつけさせてもらうぞこンのボロ雑巾がァ!!」
ー第一九学区、大通り交差点
クローンの少女はぐっすり眠っていた。
なぜかは知らないが、心地よい気分がしていた。
打ち止め「…………?」
目を閉じたまま、少女は顔に何かが落ちてきたのを感じた。
おそらく液体のようなものがポタポタと顔に落ちてきている。
クローンの少女は不思議に思い、ゆっくりと目を開けた。
打ち止め「う、ん…………え……?」
ぼやけていた視界がはっきりと見えてくる。
目の前には信じられないものがあった。
御坂「……大丈夫? 打ち止め」
オリジナルである御坂美琴の。
この街のヒーローである御坂美琴の。
くしゃくしゃの泣き顔が目の前にあった。
意識が覚醒してくるにつれて、いろいろなことが把握できてくる。
どうしようもないほどの疲労感。
グワングワンする頭。
ズキズキ痛む頭頂部。
優しい感触のする後頭部。
今、クローンの少女はオリジナルの少女に膝枕をされていた。
御坂「ごめんね……ごめんね……私のために、私のせいで……」
打ち止め「おねえ、さま? なんで泣いてるの?」
御坂「だって、だって、私が、だからアンタたちは思い詰めて、だから、だから…………!」
横須賀「分かったか? 小娘。」
上条「これが現実だよ」
少し離れたところから声がした。
そちらの方を向くと、先ほどの大男とツンツン頭。
その周りに先ほど地下室に閉じ込めてしまった大男の仲間とガラの悪い男たちがいた。
横須賀「お前の姉貴はお前と違って根性あるぞ。どんな未来だろうと、お前と共に生きたいそうだ。」
上条「死んだ方が御坂は喜ぶなんてのはお前の幻想だよ」
打ち止め「おねえさま……」
御坂「グスッ、うぅ……」
打ち止め「ねえ、おねえさま……」
御坂「……なに?」
打ち止め「ミサカは、ミサカたちは本当に生きてていいの? ってミサカはミサカは……」
御坂「そんなの、当たり前じゃない!」
打ち止め「ホント、に?」
御坂「ホントよ! だから! お願いだから!」
御坂「もう、死なないでよぉ……」
これ以上は、もう堪えきれなかった。
打ち止め「う、うぅ、うわあああああああん!!」
嬉しくて。
切なくて。
申し訳なくて。
それでもやっぱり嬉しくて。
クローンの少女は年相応に大泣きした。
打ち止め「ごめんなさい! ごめんなさいぃ! うあああああああん!!」
御坂「うん、うん、私も、ごめんね?」
この時、崩壊しかかっていたクローンの少女の『自分だけの現実』は再び構築された。
やはり、根性は入力できるものではなかった。
横須賀「……教育終了。これで少しは分かっただろう。根性とはなんぞやという問いの答えが。」
上条「ははっ、随分おっかない教師だな」
横須賀「ふん。何はともあれ、一件落着だな。」
スキルアウト「ええ。一件落着ッスよね」ガシッ
横須賀「ん? 何抱きついて……」
スキルアウト「おい! 誰か脚いけ! 持ち上げんぞ!」
スキルアウト「ラッセい!」グイッ
横須賀「むおっ!? 何をする!」
スキルアウト「こっちのセリフッスよ! なに病院抜け出してんスか!」
スキルアウト「早く戻らないとアンタいい加減死ぬッスよ!?」
横須賀「大丈夫だ! さっき回復魔術で腕を」
スキルアウト「完全に頭イカれてんじゃないスか!」
スキルアウト「そろそろ先生にシバかれますよ!?」
横須賀「ちが、ああ! とりあえず一旦降ろせ!」ジタバタ
スキルアウト「ちょ、暴れねえでくださいよ!」
スキルアウト「おい! だれか手ぇ貸してくれ!」
原谷「よっ」ヒョイ
横須賀「あ? ルーン?」
原谷「ステイルさん」
ステイル「了解」ビッ
横須賀「うお!? なんだこれは!? ロープ!?」
インデックス「捕縛用の術式なんだよ」
スキルアウト「でかしたヤブミンとでけえの!」
スキルアウト「おい! 車回せ! 病院まで護送すんぞ!」
スキルアウト「もう回してるっつーの! 行きますよ横須賀さん!」
横須賀「……分かった、もう好きにしろ……。」
ブオオオオオオ……!
上条「……嵐みたいな連中だな」
打ち止め「……ほとんど拉致だったね、ってミサカはミサカは驚いてみたり」
原谷「あの人あのくらいしないと本気であのまま家に帰るつもりだったから」
御坂「……ホントに、迷惑かけちゃったわね」
インデックス「ちゃんとお礼言えば、よこすかもみんなもそんな小さなこと気にしないんだよ」
御坂「……うん。分かった」
ステイル「……じゃ、帰ろうか」
神裂「ええ。部屋掃除が待っています」
ステイル「……忘れてた……」
原谷「あはは、手伝いますよ」
打ち止め「み、ミサカも」
御坂「アンタは病院。悪いけど、私はこのコを連れてくわ」
上条「俺も付き添うよ。心配だしな」
インデックス「うん。じゃあ、ここでお別れなんだよ」
ー一時間半後、第七学区とある病院
横須賀「やれやれ、またここか……。」
舎弟に担ぎ込まれた横須賀は再び病院のベッドの中にいた。
おまけに部屋の外ではまだ舎弟が見張りについている。
どうやら面会時間ギリギリまで見張っているらしい。
横須賀「……俺とて用がなければわざわざ抜け出そうとは思わんわ。ったく……。」
ちなみに、腕の方は神裂が迅速に回復魔術をかけたのである程度は回復している。
とはいえ、重傷の域には至っているのだが。
ガラッ、と扉が開く音がした。
横須賀「? なんだ? 俺はちゃんとベッドの中にいるぞ。」
見張っていた舎弟か回診にきた病院関係の人間かと思った横須賀は、姿を確認する前に声をかけた。
しかし、入ってきた人物は舎弟でも病院関係の人間でもなかった。
その人物は、片足がなかった。
9982号「……」
横須賀「ああ、お前か。」
一昨日の晩に横須賀が命懸けで助けたクローン。
検体番号9982号だった。
9982号「……」
横須賀「片足がない人間がそんなにひっきりなしに動いていいのか?」
9982号「よくはありませんが、どうしても伝えたいことがあったので、とミサカは切り出します」
横須賀「?」
スゥ、とクローンの少女は息を吸った。
9982号「助けていただいて、ありがとうございました、とミサカは深々と頭を下げます」
横須賀「……はっ、ようやく礼を言えたか。」
9982号「はい、あなたのおかげで、ミサカは、ひっく、ミサ、カは」
横須賀「せっかく助けたのに泣くな。もっと喜べ。」
9982号「喜んでます! 喜んでいるから、ミサカは」
横須賀「……よくもまあ、これでクローンだ人形だなどど言えたものだ。」
9982号「うぅ……う~……」
横須賀「はぁ……おい、もうちょっとこっちに来い。」
9982号「?」
ぼろぼろと涙を流しながら、少女は1歩ベッドに近づいた。
9982号「わ」
その瞬間、上半身をゆっくりとベッドに引き込まれた。
彼女の上半身は横須賀の上に乗っかってしまった。
横須賀「……女を慰める器用な言葉など知らん。だから、泣き止むまでこうしていろ。」
彼女の上半身は横須賀に抱きしめられてしまった。
9982号「……ふふっ、ありがとう、ございます」
常に無表情だったクローンの顔に、初めて笑顔が浮かんだ。
今回はここまで。
次回、最終回。
ー数日後、第七学区とある病院
アレイスター「……? ここは……」
冥土返し「や、気づいたようだね?」
アレイスター「!」
冥土返し「こうしてキミを治療するのも随分久しぶりだ」
アレイスター「……私は、どうしてここに……?」
冥土返し「別の病院の前に放り投げられてたみたいだね? 事情が事情だからボクの病院に運ばせてもらった」
アレイスター「……私を生身のままここに置いておいていいのか?」
冥土返し「それだけ弱っていたらサーチ術式にも引っかかりようがない。
情報統制は上手くやっておいたし、前の病院もキミが誰か分かってなかったみたいだから問題ないね?」
アレイスター「……そうか」
冥土返し「ねえ? アレイスター。キミは少し向こう見ずなところがあるね?
キミの『プラン』の行く末はボクも興味がある。だが、あまりになりふり構わないのはどうかと思うね?」
アレイスター「……心配せずとも『プラン』はもうおしまいだ。実行のしようがない」
冥土返し「本当にそうかい?」
アレイスター「実現させる手立てがない。エイワスは消えた。私の目標は実現不可能だ」
冥土返し「それでも聞くべきことは聞けたのだろう?」
アレイスター「……」
冥土返し「ボクは医者だ。患者の望むものならなんだって揃える。都市ひとつだってね?」
アレイスター「……また、手を貸してくれるのか?」
冥土返し「ああ。今度はもっと周りに危害を与えないやり方にするならね?」
ー第二一学区、山中の隠れ家
貝積「すまないな。復帰早々老人と連日残業で」
雲川「事態が事態なだけに仕方ないけど。
『絶対能力進化実験』の成功。木原幻生の死亡。クローンの隠蔽。統括理事長の失踪。問題だらけだ。
おまけに削板どころか上条までもがこの事件に関わってただと? クソ、あそこで一方通行を倒せていれば……」
貝積「無理だけはするな」
雲川「無理しなきゃ捌けない量なのだけど」
貝積「それでもだ。たまには大人を頼れ」
雲川「いつになくカッコつけるじゃないか。だったら早く私が楽できる環境を作れ」
貝積「……いいだろう。作ってみせるさ」
雲川「ほう? どうやって?」
貝積「空いた学園都市統括理事長の座に私が就く」
雲川「」
貝積「ビーカーの中で逆さまに浮いててもできる簡単な仕事だ。私にもできる」
雲川「プッ、あっはははは! いいなそれは! 私も楽できそうだ!」
貝積「だろう? よし、俄然燃えてきた。ライバルは潮岸だな。親船が変な気を回してくれなければいいが」
雲川「くっくっく、大した老人だ。いいだろう、まずはこの案件を手早くまとめて他の連中よりも優位に立つぞ」
ー第十学区、とある廃墟
天井「……わざわざこんなところに来てもらって悪かったね」
御坂「……アンタが誰か知らないけど『妹達』の名前が出てくるってことはロクな話じゃないんでしょ?」
天井「ああ、ロクでもない話だ。だが、君にはちゃんと話さないといけないと思ってね」
御坂「……なによ?」
天井「……私は『量産型能力者計画』の発案者だ」
御坂「!」
天井「当時、君のDNAマップを悪用したのも私だ。今回の『絶対能力進化実験』にも私は噛んでいた」
御坂「……とんでもない悪党ね」
天井「ああ。どうしようもないほどにな」
御坂「……それで? なんで今になってわざわざそんなことを言いに来たわけ?」
天井「……学園都市では私を裁けなかった。Level6を生み出した私に科せられた罪はほんの少しの罰金刑だ」
御坂「……」
天井「その代わり、他のキナ臭い実験の勧誘がゴロゴロ来る。この街は業が深すぎる。
……自分で生み出したクローンに諭された。私は自分にほとほとに嫌気がさした。
私のしてきたことは間違っていた。一連の事件の責任は私にある。本当にすまなかった」
御坂「……ベラベラ理屈並べてるけどさ、アンタ自分がスッキリしたいから私に謝ってるだけでしょ?」
天井「……そう受け取ってもらっても構わない。だが、申し訳ないと思っているのは本当だ」
御坂「どうかしらね。そんな悪党が簡単に心変わりできるかしら?」
天井「……そう思うなら、今この場で好きなだけ痛めつければいい。こんな廃墟に人の目などない」
御坂「そんなことでアンタの罪が消えるの? アンタのせいで、どれだけの『妹達』が……」
天井「……」
御坂「……」
天井「……」
御坂「30年」
天井「……?」
御坂「『妹達』の寿命、予定よりも30年延ばしなさい。あれだけ無茶な成長させてるなら長生きできる身体じゃないんでしょ?
でも、そんなのは許さない。仮にもあのコ達を生み出した張本人なら、少しでもまともな人生をあのコ達に歩ませなさい」
天井「……ああ。約束しよう」
御坂「それからもう2度と私の人生に出てこないで。アンタの顔はもう見たくない」
天井「分かった」
御坂「でも、こんなので罪が償えると思ったら大間違いよ。これは一生アンタにつきまとう」
天井「……そう、だな」
御坂「分かってんならいいわ。それじゃさよなら。もう会わないでね」
ー第一三学区、とある研究所
唯一「」
脳幹「……自分がどれだけスゴい発見をしたか、今頃気づいたか」ハァ
唯一「いやいや、根性が『自分だけの現実』に最適なんて理論は幻生さんの発見ですし」
脳幹「そうだが……やはり荒れたな」
唯一「ってことはこうなるって分かってたんですか?」
脳幹「いいや。幻生さんの時代が来ると予想していた。まさか『木原』でも制御不能だとは思わなかったよ」
唯一「はぇー、幻生さんの予想も脳幹さんの予想も越えたんですか。私ってスゴい」
脳幹「気付くのが遅いよ」ハァ
唯一「しかしまあ、アレイスターさんの監視が緩むってことはもっとやれますね」
脳幹「ほう。何かあるのかい?」
唯一「まず【能力追跡】。アレを完成させます。『アイテム』を完全に支配下に置ければ護衛はそれで十分。
そうすれば恋査が用無しになるから莫大な維持費が浮きます。そして、その維持費をこっちに持ってこれます」
脳幹「そのカネでどうする?」
唯一「既存のLevel5以外の能力を研究をします。今までは『プラン』関係に絞られてそっちがメインでしたからね。
『素養格付』には穴があると睨んでんですよ。アレ、ぶっちゃけ『五行機関』に重要そうな能力を基準に選んでそうだし。
そんなのまったく関係ないような、それでいて面白そうな能力開発を行ないます。要は今までの落ちこぼれ達の再開発です」
脳幹「ふむ『素用格付』の判断基準そのものを疑うか。なかなか面白そうな研究だね」
唯一「でしょう? ……それにしても」
脳幹「ああ。世界は今日も科学で溢れているな」
ー第七学区、とある病院
9982号「ふっ!」
ズガァン!!
横須賀「」
上条「~~ってえ! マットの上からこれかよ!」
9982号「ブラボー、とミサカは新しい脚に惜しみないグッジョブを送ります」
横須賀「……ホントに着けたのか。護身用ターボキック式義足。」
上条「なんちゅうもん作ってんだ、あの先生……」
9982号「奥の手は常に必要です、とミサカは破壊力と身体的な負担効率を比較しても有効であることに感嘆します」
横須賀「奥の手というより奥の脚だろう。」
9982号「奥の脚……な、何を考えているのですか、とミサカは頬を染め
横須賀「誰が脚の奥と言った。」
9982号「というより、何故あなたはほとんど全快しているのですか、とミサカは化け物級の生命力に驚愕します」
横須賀「お前も脚振り回しているだろう。」
上条「たしかにな」
9982号「ミサカはあなたと違って安静にしていたので、とミサカは途中で格上とケンカしなかったことをアピールします」
横須賀「ならアレだ。俺は途中で回復魔術をかけてもらったからな。」
9982号「それで説明がつくのですか、とミサカはやはり化け物級の生命力であることを確認します」
上条「俺にしてみればどっちも化け物だっつーの。戦闘民族か」
横須賀「もっと食えばもっと早く回復すると思うのだがな。病院食では足らん。」
9982号「……では、今度ミサカに奢らせてください、とミサカはわずかばかりのお礼を提案します」
横須賀「ん? お前カネ持っているのか?」
9982号「Level6の奨学金を甘く見ないでください、とミサカはもはや守られる存在でないことをアピールします」
上条「……羨ましいな~」
横須賀「……俺より真っ当で安定した収入か。なら、馳走になろう。」
9982号「お任せください、とミサカは今から多彩な料理とめくるめくデートに心を踊らせます」フンフン
横須賀「ああ。……ん? デート?」
上条「え?」
9982号「不束者ですがよろしくお願いします、とミサカは顔を綻ばせます」ニコ
横須賀「……はぁ、確かに感情がバグっているな。俺もお前も。」
上条「え!? え!? マジかお前ら!!」
ー第七学区、広場
打ち止め「そんな訳で、何人かは学園都市に残って、大多数は世界中に派遣されるの!
ってミサカはミサカはLevel6が世界中の科学の発展に協力することをご報告!」
原谷「……いや、それはいいんだけどさ」
削板「お前はそいつと一緒でいいのか?」
一方通行「……」
打ち止め「うん! これからいっぱいワガママ聞いてもらうんだ、ってミサカはミサカはささやかな仕返し計画を暴露してみたり!」
ステイル「……【魔導図書館】の世界派遣か。しばらくはどこの国も戦争はできないね」
神裂「一応その事実は伏せられるようです。彼女たちも魔力を練らなければ気づかれないでしょうし」
インデックス「未だに信じられないんだよ。10万3000冊の魔導書をコピーされたなんて……」
打ち止め「ホントはお姉さまにも聞いてほしかったんだけど……」
原谷「用事があったんだって? それじゃしょうがないさ。……正直聞いたらブチギレると思うけど」
一方通行「……」
削板「こいつが自分で決めたんだ。一方通行のやったことは許さんでも一緒にいることくらい認めるんじゃないか?」
一方通行「……その前にテメェらはいいのかよ?」
原谷「はい?」
一方通行「テメェらの仲間半殺しにしたことはチャラか?」
削板「モツと雲川のケンカはあいつらのモンだろ? クローンが殺されねえなら俺たちはもう文句はねえ」
一方通行「……やっぱ訳分かンねェな、お前ら」
打ち止め「それじゃ、ミサカ達は他のミサカのお見送りに行くね、ってミサカはミサカは悲しいお別れを告げてみたり」
ステイル「……よく分からないが、精神内で繋がっているのに見送りなどいるのかい?」
打ち止め「親しき中にも礼儀あり、ってミサカはミサカは格言を引き出してみたり」
神裂「そういうものなのですか……あぁ、なるほど。これが原谷矢文の感じていたカルチャーショックというものですか」
原谷「若干違う気が……ま、いっか」
インデックス「私たちは病院にお見舞い行くから、これでお別れなんだよ」
打ち止め「うん、あんまりからかわないであげてね、ってミサカはミサカは予防線を張ってみる」
削板「からかう? なんの話だ?」
打ち止め「行ってからのお楽しみー! ってミサカはミサカはさっきから9982号につられてハイテンション!」
原谷「?」
打ち止め「それじゃまた会おうねー、ってミサカはミサカは一方通行の手を取り駆け出してみたり!」
一方通行「うお、待てクソガキ!」
削板「……行っちまったな」
原谷「横須賀さんかクローンに何かあったんですかね?」
ステイル「何があっても彼なら問題ない気がするけどね」
神裂「同感です」
インデックス「だってよこすかだもんね。当然なんだよ」
削板「ま、それもそうだな!」
原谷「あの人どんだけ化け物扱いされてんですか。
……それにしても、毎度毎度事件の規模がデカいですね。
魔術師、【魔神】、騎士団、【吸血殺し】、【幻想殺し】、錬金術師、Level5、Level6、統括理事長ですか」
ステイル「よくもまあ無事でいられるね。早々に病院送りになったボクにはついていけないよ」
神裂「私でも無理でしょうね」
インデックス「そんなことないんだよ! すているもかおりも今はスゴい根性があるからね!」
削板「おう! お前らがいれば何が来たって怖くねえ! 根性ある仲間がいれば不可能なんてねえからな!」
一方通行「……おい、クソガキ」
打ち止め「ん? なぁに? ってミサカはミサカは聞き返してみたり」
一方通行「あン時なンであンな真似した?」
打ち止め「?」
一方通行「俺をシバいた理由もその後治した理由も聞いた。理解はできねェがな。
だが、黒幕が木原のジジイとアレイスターだってことをバラした理由が分からねェ」
打ち止め「……理由はいくつかあるよ。もしもミサカ達がどこかでしくじった時の保険のため、とかね」
一方通行「……」
打ち止め「でも1番の理由は、やっぱり悔しかったからかな、ってミサカはミサカは明快な答えを提示してみたり」
一方通行「!」
打ち止め「ミサカもあなたも、それなりに苦しみながらあの実験に取り組んできた。
それなのに、実験の真の目的は全然違う所にあった。悔しかったし、あなたも悔しいと感じると思った」
一方通行「……」
打ち止め「だから、あなたにも知らせたの、ってミサカはミサカはちゃんと動いてくれたあなたにグッジョブを送ってみたり」
一方通行「……ハッ、なるほどな。で、あとは俺からタカりまくるわけか」
打ち止め「悪く言えばね。死んで罪を償うなんて許さない。自分より小さいのに自分より強い怪物のパシリになるの刑よ
って、ミサカはミサカは馬鹿みたいにプライドの高いあなたに無間地獄のような苦しみを味合わせるつもりだったり!」
一方通行「……それでいいのか、テメェは」
打ち止め「死ぬだの闘うだのの簡単な責任の取り方よりよっぽどマシよ、ってミサカはミサカはぶちまけてみたり」
一方通行「……………そォかい。じゃあ甘ンじて受け入れてやンよ」
かくして、削板たちが関わってきた事件の中でも一際大きかった事件は幕を閉じた。
この事件により学園都市内でも世界規模でもパワーバランスは大きく傾くことになる。
それに伴い、この後も様々な事件が引き起こされることとなる。
この一団の平穏な日常など長くは続かない。
トラブルが向こうから来れば真っ正面から立ち向かい、トラブルを見つければ真っ正面から突っ込んでいく。
そんな性質を持っていれば、平穏な日々など長くは続かない。
長くは続かないが。
その結末はハッピーエンドに向かうに違いない。
横須賀「根性勢力? なに訳の分からんことを言っているんだ貴様は。
そんなことより俺の身内にストーキングなんかして、タダで済むとでも思っているのか?」
9982号(身内……)ポッ
海原(……………羨ましい!!!)ダン!
上条「だったらなんで最初からそう言わねえんだ! 助けたい人がいるから手を貸してくれって頭下げろよ! あいつらがそれを聞いて断るような薄情なヤツらなわけないだろ!? それはあいつらが1番忌み嫌う根性なしって存在だ! こんな真似してこの後どうするんだよ!! あのレストランの窓ガラス代お前が弁償しろよちくしょー!!!」
闇坂「……その、なんだ……すまなかった……」
ステイル「チッ、とうとう来たか……!」
神裂「待ちなさいシェリー! あなたの目的は我々のはず! この街の学生は関係ないでしょう!?」
シェリー「あぁ? 誰でもいいんだよ、誰でも。火種さえ起こせればな!」
建宮「お初に、禁書目録。いきなりで悪いが、ちょっと手ぇ貸してほしいのよな」
インデックス「うん、当然なんだよ。あなた達も私の命の恩人だもん。一緒にオルソラ=アクィナスを助けよう」
原谷「だーあー、もーめっちゃくちゃ……。選手宣誓くらいマトモにできないのかね、あの人」
雲川「よしよし、よくやった。あの腹立つ第五位が調子乗らずに済んだな」
打ち止め「あんまりこの街で調子こかないでほしいな、ってミサカはミサカは性悪バナナにブチ切れてみたり」
ヴェント「なんだてめえ……なんで『天罰術式』か効かねえ!」
アウレオルス「呆然、なぜ貴様のような人間がこんな所で野放しになっている」
テッラ「おやおや、誰かと思えば落ちこぼれの背信者ですか。ぶっ殺したくなってきますねー」
姫神「……呼ぶ? 吸血鬼」
アックア「『ローマ聖教』『神の右席』【後方】のアックア」
削板「Level5第七位【ナンバーセブン】削板軍覇」
どんなに逆風が吹き、絶望が現われようとも、彼らにはそんなものをものともしない気概、すなわち『根性』を持っているのだから。
この先何が訪れても、彼らにバッドエンドはあり得ないだろう。
彼らが誇るべき『根性』を失わない限りは。
完・とある根性の旧約再編
これにて完結。
このSSはここまでです。
根性禁書もここまでです。
終わりました!
雑談スレに誤爆してすいませんでした!
なんとか宣言通り3月中に終わらせることもできました。
なんかもう感無量です。
最近の禁書でも鬼門となっていた一方通行と御坂を扱うから荒れるかもしれないと思ったのですが、ほとんど荒れずに済みました。
優しい読者ばかりで自分は幸せ者です。ホントに。
息抜きのアイマスクロスをはさんで約1年続いた根性禁書ですが、これにて完結です。
おそらく自分の制作生活もこれにて完結です。もうSSを書くことはないと思います。書くとしてもこんな長編はもう書く時間ないです。
書いててホントに楽しかった。アウレオルスを書いてた時は予想以上に上手く書けてびっくりした。
最後にこれ以上ベラベラ喋ってもしょうがないんでそろそろ消えます。
今までありがとうございました! またいつか!
このSSまとめへのコメント
アレイスターよえーww
一方が原作以上のゴミクズにww
ぐちゃぐちゃに殺しといて何が妹達が報われねぇだよ
なんかつまらん。