岡崎泰葉「ドールハウス」 (34)


泰葉「できた…」

泰葉「可愛いなぁ…」

泰葉「作るのにだいぶ時間かかったもの…当然ですね。」

泰葉「でも何か足りない…目が義眼なのは仕方ないことだけど…」

泰葉「…そっか、わかった!」

泰葉「そうと決まったら…ここを綺麗にして…これは事務所の皆で食べましょうね。」

泰葉「みんな...大好きみたいだから...」

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泰葉「ふふっ…相変わらず…東京の空は、星が見えない。でも、このドールハウスの中はとても綺麗…中にいるドールたちも、ライトで照らされて凄く綺麗…」

泰葉「この子も…顔は情けないけど…いい毛並み。」

泰葉「飼い主の金髪も、新しいドールの真っ白い髪も…やっぱり可愛くて綺麗ね。嫉妬してしまいそう……」

泰葉「でももう嫉妬なんてしませんよ?」

泰葉「貴女達は大切な私のドールです…」

泰葉「お休みなさい…私の可愛いドールたち」

泰葉「今度のお友達は…貴女達の大好きな人よ。」




翌日 事務所

泰葉「皆さん、お鍋できましたよ。」

P「おっ、美味そうだな。」

ちひろ「寒い日にはぴったりですね。」

みりあ「モツ鍋だ―!」

泰葉「いつも同じ鍋でごめんね、みりあちゃん。」

みりあ「そんなことないよ?私、泰葉さんのモツ鍋好きー」

P「俺も好きだぞ。味付けがいい!」

泰葉「ありがとうございます。」

P「しかし、最近モツ鍋ばっかりだな。」

泰葉「ちょっとハマっちゃって…ダメでしたか?」


P「モツ鍋にか?」

泰葉「……」

P「泰葉?」

泰葉「え、ええ…そんなところです。」

ちひろ「相変わらず美味しいわ……一体どこで買ったの?」

泰葉「実家の方の知人から送られてくるんです。」

ちひろ「これを美味くタイアップで一山……」

泰葉「ごめんなさい。趣味でやっている程度の人なので、販売までは…」

ちひろ「お金儲けは無理そうね…ざんねんだわ。こんなに美味しいのに。」


P「おかわり!」

みりあ「私も―!」

輝子「あの、私も」

ちひろ「ずずっ... 鍋のスープも美味しいわ…」

泰葉「沢山食べてくださいね。」

P「それにしても、泰葉は料理が美味いな。」

泰葉「芸能界に長くいると、色々なことを体験するので…」

みりあ「私も、泰葉さんみたいになる―!」

泰葉「その…なんだか恥ずかしいですね。」

P「胸を張れって、泰葉。お前は自慢のアイドルだよ。」

泰葉「Pさん…ありがとう///」

P「うんうん…おっと、名残惜しいけど、仕事の時間だな。みんな、準備しろ。そろそろ行くぞ。」


輝子「フヒッ」

みりあ「えー、もっと食べたかったなー」

P「おいおい、わがまま言うなって。」

みりあ「わがままを言う私は、悪い子?」

輝子「悪い子…ヒャッハ―!」

P「輝子、それはちょっと違うぞ」

輝子「ごめんなさい。」

みりあ「ひゃっはー♪」

P「真似するのは…まぁ二人とも可愛いから、良しとするか。」

輝子「フフ、人が足りない。」


P「こずえのことか?」

ちひろ「そういえば、連絡は何も来ていませんね。」

P「イヴは…実家に帰るとか言ってたからいいものの…アイツに実家ってあるのか?」

ちひろ「やだなぁ、あるに決まってるじゃないですか。」

P「そうですよね。じゃあ行ってきます。」

泰葉「実は…この仕事、結構楽しいんです。」

P「泰葉プロデュースのドールハウスだもんな。」

泰葉「はい。」

P「みりあ、輝子、こずえ、この3人をドールに見立てて」

泰葉「私が3人に合ったドールハウスを作る。」

P「こずえがいないのが残念だな。おっと、相手先に連絡しないと。」


泰葉「ええ。」

P「代わりに、あの輿水さんが来るらしいぞ。」

泰葉「輿水さんですか?」

P「ああ。あのバラエティに引っ張りだこの。」

泰葉「お会いするのは初めてですが…楽しみですね。」

P「そうだな。今話題のアイドルだからな。」

泰葉「華やかなだけの世界じゃないのに…あんなに頑張ってる輿水さん。興味が出てきました。」

みりあ「ねーねー、私たちともお話ししようよ―!」

みりあ「ね、輝子ちゃん!」


輝子「あっ…えっ…」

P「ほら、輝子を困らせるな。」

みりあ「ただお喋りしようとしただけだよ?」

P「着いたぞ。着替えたらすぐ収録だ。頑張れよ。」

みりあ「よーし、お仕事がんばるぞ~、輝子ちゃん、泰葉さん。レッツゴー!」

輝子「フヒヒ、引っ張られる…1人じゃない…少し嬉しい」

P「じゃあ俺は、挨拶してくるな。」

みりあ「いってらっしゃーい」





P「仕事お疲れ様。」

みりあ「収録大変だったねー」

輝子「あの棺桶…じめじめしてた」

みりあ「輝子ちゃんのドラキュラ、カッコよかったよ」

泰葉「ホラーテイストのドールハウスで…皆さん似合っていました。」

輝子「フヒヒ」

P「嬉しそうだな。輝子」

みりあ「さっちゃん、最後泣いてたよね。」

P「さっちゃん?」


泰葉「輿水さんのことですよ。仲良くなったみたいですね。」

みりあ「あのね、あのね、輝子ちゃんが棺桶から、バーン!!って出た後…びくっ!ってなってね、それでね」

みりあ「えーっと、えーっと」

輝子「ノコノコやってきたさっちゃんを、フハハハハ!」

泰葉「みんな無邪気にはしゃいで、かわいい…」

P「そうかそうか。楽しい収録でよかったな。」

輝子「またやりたい…」

みりあ「その時はまだ笑顔だったけどね、私が天井からバーンって降りてきた所を、カメラでカシャ、カシャ!ってね」

泰葉「無邪気すぎて…しそう…」

P「泰葉、何か言ったか?」

泰葉「ふふ…」


・・・
・・



P「よし、これで最後は泰葉を送れば、今日の仕事は完了だな。」

泰葉「Pさん…お願いがあるんです。」

P「どうした?」

泰葉「私の家で、ご飯食べてもらえませんか?」

P「いや、アイドルの家に行くのは……」

泰葉「お肉が傷んじゃいそうなんです…冷凍庫も大きくないので…」

泰葉「ご飯を食べたら…すぐ帰っても構いませんので…だめですか?」

P「確かに…あの量のモツを送られてくれば、肉も多いか…よし。」

泰葉「じゃあ…来てくれるんですか?」

P「言っとくが、飯だけだからな?」


泰葉「ありがとうございます…みんなが喜びます。」

P「そうだ、親睦を深めるために、輿水さんも呼ぶか?」

泰葉「…今日は遠慮します…輿水さんも疲れていると思うので……」

P「泰葉は優しいな。」

泰葉「この業界に長くいると…色々なことがわかるんです…」

P「話している間に、泰葉の家に着いたな。」

泰葉「どうぞ…私たちが…精一杯歓迎します。」

P「お邪魔します。(私たち?)」

泰葉「ふふ…そのうちPさんも…私の言っている意味がわかります…。」

P「?」








P「あれ、寝てたのか…確か泰葉の家で飯を…前が見えないな。」

泰葉「ふふ…おはようございます。」

P「ああ、悪いな。寝てたみたいだ。アイマスク、今…あれ、腕が動かないな。」

泰葉「何を言っているんですか?」

P「…いや、ただ自分の家に帰ろうとした「ここがPさんの家ですよ?」」


P「家?」

泰葉「そうでした…Pさん、マスクしていては…なにも見えませんよね。」

泰葉「今ほどきますね。」

P「おお、ありがと…」

泰葉「どうですか?綺麗ですよね。この家…」

P「家って…これ…..」

泰葉「ドアを開ければ…ほら、可愛い家に…可愛い女の子に、お姉さん。ペットもいますよ?」

P「可愛い女の子…こずえ!?それに、イヴにトナカイ!!」

泰葉「トナカイじゃなくて…ブリッツェン…ですよ?」

P「そうかすまない。じゃなくて、何でこんな場所に!!おい、返事しろ!!」


泰葉「やだなぁ…ドールは、返事をしてくれませんよ?」

P「ドール?どう見たって、こずえにイヴじゃないか。」

泰葉「なら…近くで見てください。」

P「こずえ…目を開け…目が…」

泰葉「水分量がどうしても多いので…」

P「イヴ…トナカイ!」

泰葉「みんなの目なら…このビンに入ってますよ。ちゃんとネームプレートもあるんです…」

泰葉「二人ともすごく綺麗な目…」

P「う、おぇぇ…」

泰葉「吐くなら…いえ…そのくらいの粗相は許します……」

P「泰葉…どうしてこんなことを……」

泰葉「ねぇ、Pさんにとって…幸せって何?」


泰葉「Pさん…私の芸能生活が長いのは知ってますよね?」

泰葉「その中で…私は様々な体験をしました。」

泰葉「皮肉なことに、Pさんに会うまでは…嬉しいことよりも、悲しいことのほうが多かった……」

泰葉「仲のいい友人だと思っていた子が…陰で私を蹴落とすために色々していたこと…親の価値観を植え付けられ、やりたくもないことをやらせる親」

泰葉「友達が人気になると…急に働かなくなる親、子供に寄生する親…」

泰葉「幼い子でも、性的な目で見ようとする大人たち…」

泰葉「だから私は…こんな世界を許せなかった……」

泰葉「私を狙う大人も当然いました。『言うことを聞けば、ドラマに出してやる。バラエティに出してやる。モデルなんかより、沢山稼げるぞ』と言ってきました。」



泰葉「私は怖かった…けど、両親は私よりも、お金を優先しようとしていた…」

泰葉「怖い!怖かった!でも…両親は聞く耳を持ってくれなかった。」

泰葉「私は…私は…親の人形じゃない。」

泰葉「その時初めて…芸能界から逃げようと思いました。」

泰葉「そして…しばらくして、その仕事を…他の女の子がやっているのを見ました。」

泰葉「私は…内心ホッとしました。これで私が狙われることは無くなる。」

泰葉「その時でした…前に私に迫ってきた男から…ある写真を見せられました。」

泰葉「その中には…この世のものとは思えない顔をしたドール、体の一部がない少女のドールなど…様々なものが映っていました。」

泰葉「男曰く…海外で人気のドールらしいです。『これはある国で撮った写真だ。ここにいる子たちは全て~』と言っていました。」

泰葉「男は…これで私を怖がらせ、『言うことを聞かなければ、お前もこうするぞ!』とでも言うつもりだったんでしょう……」


泰葉「しかし…私の顔を見て…彼はすぐ帰りました。」

泰葉「笑っていたそうです…それも、目を輝かせながら…もっと、もっと見せて!ほかの写真は無いの?もっと、もっと見せてほしい!」

泰葉「そんな顔をしていたそうです。」

泰葉「その頃からでした…私も自分だけのドールハウスが欲しい。芸能界で汚れてしまう前の、無垢な人を…私のドールにしたい。」

泰葉「普通のドール、ドールハウスでは…この気持ちは抑えられませんでした。」

泰葉「私は気付いたの…ドールを、ドールハウスを作っている時だけ、私は人形じゃない!私は人形じゃなく人間。そんな気分になれるってことに…」

泰葉「そんな中…Pさんと出会いました。Pさんは、私を人形扱いした人達から解放してくれました。」

泰葉「そして、今までの仕事で貯めたお金…といっても、多少は使われましたが、残ったお金でこの小さな家を建てました。」


泰葉「こうして…私は本当に人形から解放されました。煩わしい両親とも離れ、同時に、私の理想のドールハウスを作る環境を手にしました。」

泰葉「だから…Pさんは私にとって…とても大切な人です。」

泰葉「それに、Pさんのおかげで…私はとうとう見つけました」

泰葉「それが…あの2人です。」

泰葉「どちらも…私の…理想のドールに近かった…」

泰葉「だから…私は行動に移りました。」

泰葉「本物そっくりのドールにするための…勉強もしました…」

泰葉「最初は小動物から…徐々に大きな動物を…ほら、あそこのドールハウスに居ますよ?」

泰葉「そして…とうとう、人間のドールを作ってみました。最初の人は、失敗や実験含めてグチャグチャニなったけど…」

泰葉「2人目は結構うまく行ったんですよ?え…どこにいるか?」

泰葉「長崎の海…ふふ」

泰葉「逃げようとしても無駄ですよ…?それに、話を最後まで聞いてください…」


泰葉「Pさんにそんな酷いことはしません。」

泰葉「丁寧に…丁寧に背中から内臓をとり」

泰葉「だから…イヴさんたちを見てください…傷が少ないでしょ?」

泰葉「ここに…Pさんも…加えてあげますね。」

泰葉「安心して…防腐技術の勉強もしました…」

泰葉「お腹も…人に見られやすい場所の傷は最小限に抑えます」

泰葉「背中から…ね?」

泰葉「目は…くり抜くことになるけど…大切に保管します…そうだ、Pさん…」

泰葉「ふふ…ごめんなさい。涙が…だって、嬉しいんだもん…大好きな…大好きなPさんが…私だけのドールになってくれる…」

泰葉「最後に…聞いてもいいですか?」

泰葉「みりあちゃんと、輝子ちゃん…どっちと一緒に住みたいですか?」

泰葉「『どちらにも手を出すな』…わかりました…両方ですね。」


泰葉「輝子ちゃんは…棺桶…みりあちゃんは…アレがいい…かな?対比できる二人…陰と陽…彼女達には、新しいドールハウスを作って上げます。」

泰葉「勿論、ドールになっても…貴方は大切な人です…信じてくれますか?」

泰葉「じゃあ…始めましょうか…何だか私、最高のドールを作れる気がするの。」

泰葉「え、皆がいなくなった後…どうするか?」

泰葉「最後まで…私の心配してくれるんですね。優しい人…」

泰葉「安心してください…理想のドールハウスが完成したら…私は、その場にずーっといますよ?」

泰葉「ええ、理想のドールハウス…大好きな…みんなのいる、この家こそ…私の理想の家」

泰葉「え、私のやっていることが、私の嫌いな大人と同じ?」


泰葉「違いますよ、だって…これは、あの子たちを守っているんです。」

泰葉「汚い大人に汚される前に…私が大事に、大事に守ってあげるんです。」

泰葉「あの子たち…そうだ、輿水さんも混ぜてあげましょう。あの子も、純粋そうだし…あんなに素敵なドールハウスを、番組で作らせていただいたから…」

泰葉「私の…夢のドールハウス」

泰葉「これが出来るのもPさんのおかげ、です」

泰葉「ありがとう…そしてまたね。Pさん…」

泰葉「理想のドールハウスが出来たら...お祝いしましょう...Pさん」

泰葉「私に、最高の夢、見せてね。」



終わり

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