市橋「き、君は?」杉本「なんだコラ」 (142)
市橋「この公衆トイレは僕の縄張りなんだが」
杉本「なんだオメェは。公衆トイレはみなのもんだろうが」
杉本「細けえこと言ってるとあの女みたいにヤっちまうぞコラ」
市橋「しかたないな。一晩だけだぞ」
市橋「(しかしどっかで見た顔だなあ」
杉本「(こいつの顔どっかで見たぞ」
市橋「・・・・・・」
杉本「おいお前。裁縫セットなんて取り出して何するつもりだよ」
杉本「もしかしてそれで俺と戦ろうってんのか?上等だぶっ数してやんよ」
市橋「気に入らない点が2つある」
市橋「1つ目、僕は君と戦う気はないという。やたらと絡んでくるのはよしてくれ。
あまり騒ぎたくないのでね」
市橋「2つ目。命のやり取りもしたことない若造が簡単に殺すとかいうんじゃない。言葉に重みがないからな」
杉本「なんだオメェ。騒ぎたくないってもしかして追われてんのかよ」
市橋「・・・・・・」
杉本「それにその口ぶり。お前、もしかして人殺しだな?」
杉本「傑作だぜ。二人揃って追われてるってわけか」
市橋「二人・・・まさか君も」
杉本「まさかのまさか、大まさかさ。
俺は今マッポに追われてんだ。
それも取り調べ中に脱走。指名手配の大物ってわけだな」
市橋「そうか、君もか。
僕も警察に追われていてね」
杉本「ヒャハッ。こんな偶然あるんだな。あんたは何したんだ?」
市橋「・・・・・・人を愛した。それだけさ」
杉本「何わけわかんねーこと言ってんだコラ」
市橋「僕は愛しすぎたんだよ・・・彼女のことを・・・」
杉本「まあ愛するって点なら俺らも似たもの同士かもしんねえな」
市橋「?」
杉本「俺も愛してやったんだよ。あの女あアマの身体をたっぷりとな。ヒャハッヒャハッ」
市橋「・・・ゲスだな」
杉本「なんか言ったか?」
市橋「ゲスだと言ったんだ。君の愛し方には美学というものがないな」
杉本「オーケイ。俺の聞き間違えなら良いんだがテメェ今、俺のことをゲスだとか言わなかったか?」
市橋「聞こえないならもう一度言おう。
君のそれは愛ではないし、君はただの劣悪なゲスだと言ったんだ」
杉本「残念だぜ。逃走者同士仲良くやれると思ったんだがな」
市橋「あいにく僕は粗野な性格はしてないんだ。彼女も僕も繊細なんだよ。騒がないでくれ」
杉本「ッチ」
杉本「“起きろ”」
杉本「犯して降ろして15万円
(フィフティーンレイプ&フォールダウン)」
市橋「驚いたな。君もか」
杉本「けっ。さっさと“出せよ”」
市橋「“授業の時間だよ”」
市橋「浴槽で囁かれる英語教室(バブルブリティッシュイングリッシュ)」
杉本「・・・んだこれ」
市橋「悪いが、僕の“咎”は君の“咎”とは比べ物にならないようだね。
わかるかい?これが“命”の重みだよ」
杉本「ば、馬鹿な。人型の“咎”。
お前、まさかその女を・・・」
市橋「そう、彼女は僕が浴槽へ沈めた。
だけど彼女はこうして僕のそばへいてくれる。僕を守ってくれる。これこそが真の愛の形なんだよ」
杉本「くそッ。喰らえッ!
犯して降ろして15万円(フィフティーンレイプ&フォールダウン)!」
杉本の背後に浮遊していた15枚の札束が刃となって市橋に襲いかかる!
市橋「無駄だよ・・・」
市橋「浴槽で囁かれる英語教室(バブルブリティッシュイングリッシュ)」
市橋「“2時間目マナー講座”」
市橋がそう呟いた瞬間、傍に立つ外国人風の女性が防御壁を展開した。
よく見るとその防御壁は、いくつもの英字辞書であった。
札束たちは見るも無残に叩き落とされる。
杉本「ば、ばかな・・・」
市橋「“2時間目 マナー講座”は防御の授業。
彼女は他人からの身の守り方を言語をもってして教えてくれるんだ・・・」
市橋「ああ・・・君は今日も美しい・・・」
杉本「・・・・・・ニヤリ」
市橋「何を笑っているんだい?
君の負けだということがわからないのかい?」
杉本「“咎”とはいえ、それは“女”なんだよな」
市橋「・・・何?」
直後、市橋の傍に立つ女性の像(ビジョン)に異変が起き始めた。
杉本「俺の“犯して降ろして15万円(フィフティーンレイプ&フォールダウン)に触れた女は、たとえ人間だろうと野良猫だろうと、ATMに行って金を降ろす」
杉本「15万円を降ろせるまで、永遠にだ」
市橋「ば、バカな!ま、まってくれ!」
市橋の呼び掛け虚しく、女性の像(ビジョン)は既に歩き出していた。
近所のセブン銀行に向かって・・・
杉本「俺の勝ちのようだな」
市橋「“14時間目 アクティブリスニング”」
杉本「なん・・・だと・・・」
市橋が詠唱した直後、市橋の身体が多数の英単語に囲まれ始める。
その異様な光景に、杉本は一歩後ずさりをした。
市橋「14時間目のアクティブリスニングは、彼女ではなく、僕自身を英単語によって強化する授業・・・」
杉本「く、くそっ!生身のてめえなんぞ咎 “咎”を使うまでもねえ!」
途端、杉本は咆哮しながら拳を振り上げ市橋に突進した。
顎への一撃。ストリートでケンカ慣れしている杉本ならば外すはずはない。
顎を揺らし、ひいては脳を揺らして意識を消失させる。乾坤一擲、一撃必殺。
ストリートで培った、技術というにはあまりにも粗すぎるそれを、杉本は愛用していたのだ。
市橋「fast 【早く】」
だが。
杉本の一撃は空を切った。
身体能力を強化しているとはいえ、おぼっちゃまの市橋とストリート最強の杉本では、杉本に分があるはずである。
それは、杉本が殴りかかる前の、市橋が発した英単語によるものだった。
市橋「遅いよ・・・・・・」
市橋「gravity 【重力】」
滑らかな発音。
市橋の口から本場直伝の英単語が発せられる。
それを聞くと同時に、杉本は襲いくる謎の重みに襲われていた。
杉本「くっ!な、なんだ、身体が重い!」
市橋「bind【拘束】」
杉本の足元から英語がプリントされている蔦が伸び、その手、足を絡め取る。
息もつかせぬ市橋の英単語の連発。
市橋「アクティブリスニングは発音し、それを聴かせることに意味がある。
アクティブなリスニングをするのは僕じゃなくて、君だったというわけさ」
杉本「拘束・・・拘束ねぇ・・・ククク」
不敵な笑み。
杉本は拘束されてもなお、不敵な笑みを浮かべていた。
否、拘束されてからこそ、浮かべていたその笑みは、とてつもなく邪悪だった。
市橋「さて、彼女を迎えに行かないと・・・
安心してくれ。男を沈める趣味はない」
しかし市橋は気づかない。彼の意識は今、杉本の“犯して降ろして15万円(フィフティーンレイプ&フォールダウン)によって、強制的に15万円をセブン銀行へ降ろしに行っている、“彼女”へと向いていた? 。
杉本「知らないのか、お前。俺がどうやって警察から逃げたのか」
市橋「知らないし興味もないね。
彼女を迎えに行ったらアクティブリスニングは解いてあげるよ。しばらくそこでおとなしくしていてくれ」
杉本「俺を・・・“縛るな”」
杉本がそう呟いた瞬間、杉本へと絡みついていた蔦は霧散した。
市橋「ばっ、ばかな」
杉本「へへっ。俺はなあ、幾重にもしばられた腰縄をほどいて逃走したんだよ。
ニュース見てないのか?」
そう。
杉本は取り調べの際結ばれていた腰縄をほどき、逃げた。
しかし、それが“咎”として発現していたとは誰が予想していただろうか。
杉本「そしてお前にはしゃべる暇も与えねえぜ!
消えろ!犯して降ろして15万円(フィフティーンレイプ&フォールダウン)!!!!」
再度、杉本の背後に15枚の札が出現する。
そして出現と同時に、無防備な市橋へと向けて札たちは一斉に襲いかかった!
杉本は勝利を確信する。
市橋の“咎”はまだセブン銀行 。
奴を守るものはない、と。
市橋「・・・やれやれ」
市橋「浴槽で囁かれる英語教室(バブルブリティッシュイングリッシュ)」
市橋「2時間目 イングリッシュクレーム」
市橋が詠唱した。
杉本が知覚したのはそこまでだった。
その後、強大な何かのエネルギーにより、杉本は意識を失った。
市橋「君がまだ覚醒したばかりで助かったよ」
市橋「“咎”の複数持ち(ダブルホルダー)は珍しくない。
そして彼らには共通したルールがある。
それは、1度に二つの“咎”はつかえない」
市橋「君は・・・まだ名前はつけていなかったようだが、束縛を解く“咎”をつかったね」
市橋「それによって、えっと、なんだっけ。
犯して降ろして15万円(フィフティーンレイプ&フォールダウン)か。
その“咎”は一度消滅し、僕の彼女への効果は消えたんだ」
市橋「だから、彼女は戻ってきた。
あとは彼女の授業のなかでも最速の授業。2時間目のイングリッシュクレームで君を倒させてもらったよ」
市橋「外国でのクレームは、速さが命だからね」
市橋「にしてもセンスのない咎名だよ。
君もそう思うだろう?」
市橋は傍に立つ彼女に話しかけながら、その場を後にした。
その姿は、愛しい恋人に語りかけるやさしげな一人の男そのものだった・・・
俺「"絞り出せ"」
「七回目の自慰(セブンスヘヴン)」
それから2ヶ月後。
市橋は大阪のドヤ街にいた。
というのも身分隠して働くにはドヤ街が一番だからである。
その日も、市橋はきつい肉体労働を終えて寮で休んでいた。
市橋「ふう。今日もつかれたね」
自分の“咎”へと語りかける市橋の目はとても穏やかである。
市橋「小腹がすいたから、コンビニにでも行こうか・・・」
夜道。
殺人犯の市橋だが、やはり夜道は警戒する。
いくら“咎”を持っているとはいえ、警察に追われている身である。
不良や不審者と揉め事を起こして通報されてしまえばそれでおしまいだからだ。
そして、市橋の想像しうるなかでも最悪の事態が起こる・・・
「おっさん。金持ってないの?」
冷たく響く若々しい声。
そこに一人の少年(Aとする)が立っていた。
市橋「ないよ。残念ながら」
A「一円も?あんたそこのコンビニに入るんだろ?」
市橋「ああ。悪いが君にあげられるお金はないんだよすまない」
A「・・・・・・」
市橋はここで判断ミスをしていた。
この少年がただのチンピラやたかりの類ではないことはその身に纏っている、圧倒的な悪の雰囲気から察していた。
しかし市橋は少年を甘く見ていたのだ。
A「“逃がすな”」
A「石棺塞ぎし地獄の玩具(コンクリートモスキート)」
少年の傍に、背丈と同じくらいの四角いコンクリートの箱が現れる。
市橋「“咎”・・・!?」
市橋「ま、まずい!
浴槽で囁かれる英語教室(バブルブリティッシュイングリッシュ)!」
市橋は即座に“彼女”を顕現させた、がそれが仇となった。
“彼女”が出現した瞬間、少年Aの咎であるコンクリートの箱がすさまじい速さで開き、中から鎖が飛び出した。
その鎖は市橋を無視して彼女へ絡みつく。
市橋「なっ」
鎖がコンクリートに“彼女”を引きずりこむまで、ものの2秒。
市橋の目の前で、蓋は、音を立てて閉まった。
少年A「へへ。綺麗なお姉さんだったから思わず“閉じ込めちまった”」
市橋「ば、ばかな!リンゼイ!」
市橋はうろたえ、コンクリートの箱の中にいる彼女へと呼びかけるが反応はない。
市橋「く、くそ。“14時間目 アクティブリスニング”!」
市橋「escape 【脱出】!」
しかし、市橋の詠唱虚しく、それは何の効果も生み出さなかった。
少年Aは笑う。
A「無駄だよ、無駄。
俺の“石棺塞ぎし地獄の玩具”(コンクリートモスキート)に閉じ込められたものは、異能だろうが自然現象だろうが、必ず活動を休止する」
A「さて、このお姉さんは持って帰って俺が“遊ぶ”としようか」
少年Aはコンクリートを愛おしそうに撫で、市橋に背を向けた。
市橋「ま、待て!!!!!!!!」
“咎”を失った市橋は素拳でAに殴りかかる。
A「うぜえな」
A「“石棺塞ぎし地獄の玩具(コンクリートモスキート)”」
A「火遊び」
少年Aが呟いたと同時に、コンクリートが開き、彼の手に向かって巨大なライターを吐き出した。
少年Aはそれを握りしめ、市橋に向けてためらいなくスイッチを押す。
市橋「ぐおぁっ!」
ライターからは火柱があがり、市橋の髪の毛を焼いた。
A「さあうせな。殺しはしない。あんたが消えたらあんたの“咎”のこのお姉さんも消えちまうからな」
市橋「くそ・・・やめて・・・くれ・・・」
市橋は懇願した。
“彼女”を奪わないでくれ、と。
いわばそれは最後の願いでもあった。
A「ダメだ。気に入ったからな。俺の玩具だ」
市橋「どうしてもか?」
A「どうしてもだ」
市橋「そうか」
それを聞いて市橋は、諦めたように、鼻を縫い付けていたミシン糸を引き抜いた。
A「お、おいお前何をしてるんだ」
市橋「ははっ。彼女を失うことはできないんだよ。わるいけど」
裁縫セットをつかい整形していた市橋の顔が本来の顔へと近づく。
市橋は、逃亡のため己の顔を変えていた。
しかし、それは、己の強力な自我と欲望をエネルギーとしている“咎”の力を弱めることにもなっていたのだ。
なので、自分の顔を元に戻すことで、市橋の“咎”はようやく本来の力を取り戻すのだ。
A「ば、ばかな。お、抑えきれないだと」
コンクリートがガタガタと震え出す。
外へ出せ、と言わんばかりに。
市橋「悪いが手加減できそうにないよ少年。すまないな」
市橋の元へと強大なエネルギーが集まってゆく。
しかし、少年Aも負けていなかった。
彼にもまた犯罪者としての、矜恃があるのだ。
市橋「“浴槽で囁かれる英語教室”(バブルブリティッシュイングリッシュ)」
A「“石棺塞ぎし地獄の玩具”(コンクリートモスキート)」
お互いが“咎”名を叫び、今出せる最強の技を唱えあった。
市橋「“課外授業 自宅講座”」
A「“お仕置き”」
先に動いたのは、市橋の“咎”だった。
“コンクリート”を中からこじあけ、“彼女”が飛び出してくる。
そして、市橋を守るように、彼の前へと立ち、“課外授業”の準備を始める。
“彼女”の両手には巨大な英字辞典が握られており、彼女はそれを八双に構えた。
しかし“コンクリート”もそのとき既に最終決戦へ向けての準備を終えており、つるつるだったコンクリートの表面は、無数の針で覆われていた。
市橋「授業・・・開始!」
市橋がそう高らかに宣言すると、“彼女”は辞典を振り上げAに襲いかかった。
しかし“コンクリート”が“彼女”と少年の間に割って入り、針で覆われてた表面を向けて“彼女”に体当たりする。
市橋「よ、よけろ!」
“彼女”はすんでのところでそれをかわすと体制を整えた。
A「無駄無駄。
“お仕置き”のときのコンクリートモスキートは接近戦最強。オートマターで敵を狙い続け引きずりこむ」
A「しかし、お前のその“課外授業”とやらはその辞書で襲い掛かるだけの能。
パワーでは勝てないかもしれんが接近戦ではこちらに
Aがそこまで言ったところで、Aの首はへし折れていた。
A「な、なんで・・・」
意識を失う間際、Aは確かに見た。
自分へ向かって巨大な辞典を投擲する、“彼女”の姿を。
A「先生が・・・本大事にしなくていいのかよ・・・」
市橋「彼女は物にはこだわらない。そういった形よりも授業の内容重視のタイプなんでね」
“彼女”の辞典は消耗品である。
日本の学校生活で教わった、本を粗末にしないというその凝り固まった思考こそが、Aにとって最大の敗因となった。
Aが倒れたのを確認して、市橋は彼女に話しかけた。
市橋「はからずして、君はまた一つ教えてやったわけだね。平和ボケで形式主義の日本人たちに。
君は最高の教師だよ」
恋人を褒める市橋はうるんだやさしい瞳をしていた。
謎の第三者
酒鬼薔薇聖斗の出番はありますか
(( (ヽ三/)
(((i ) ノ´⌒`ヽ
/ γ⌒´ \
( .// ""´ ⌒\ )
| :i / \ / i )
l :i (・ )` ´( ・) i,/
l (__人_). | (ヽ三/) ))
\ `ー' / ( i)))
`7 〈_ /
トラストミー
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません