絵里「悔しいけど、好きって純情」 (34)

※ガチシリアス

※死に描写アリ


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季節はもう、雪解けの頃。





希「そんな物憂げな顔して、エリチらしくないんやない?」

絵里「私だって、恋に悩むお年頃よ。そんな日だって、たまにはあるわ」

希「もう、ウチというものがありながら恋煩い? 関心せんよー?」

絵里「ごめんなさい、今の私にはあなたがいてくれればそれだけで幸せよ」

希「ホントに?」

絵里「もちろんよ、今の私は最高に幸せ者ね」

希「ふーん、ならいいけど♪」

絵里「さあ、行きましょう? 折角のデートなんだから、時間がもったいないわ」

希「はいはい、そんな急がんでもええのに~」





希「また、我慢ばっかりして……」


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聴こえる、私の心を揺さぶるような、風の音。

目に映るは、元気に公園を駆け回る少年たち、心配そうに見守る大人たち。

肌に感じる、少し肌寒い冬の香り、空から降り注ぐ暖かい日の光。





そして、私の手にはあの子に貰ったスクールリング。

もう、必要なくなったスクールリング。

あの日を思い出させる、嫌味ったらしいスクールリング。




だけど、私の宝物のスクールリング。
















『私、絵里先輩が好きなんです! だから、スクールリング、貰ってください!』





私が2年生だった頃、元気に横結びの髪を揺らしながら私の元に駆け寄り、茶髪のその子は目を輝かせながら、

だけどちょっぴり不安な表情を浮かべて、そう言った。





『ありがとう、だけど私はあなたのことを何も知らないわ』





そもそも私は、恋なんてするつもりないし。





『これからお互いの事を、分かりあえばいいと思います!』





そんなこと、必要ないわ。





『私、待ってますから!』





無駄なことね。





絵里「はぁ…………」

希「お疲れ様、相変わらずお疲れ様やね」

絵里「まったく、今月で何回目よ……」

希「多分、4回目くらい?」

絵里「数えなくていいわよ……」

希「それにしても、今回の子は変わってたね。まさか名前も言わずに去るなんて」クスクス

絵里「どうせ断るんだから同じよ」





もう、あの子と関わることなんてないと思ってた。

だって、名前も言わずに走って行っちゃったのよ?

それっきりだと、思うじゃない。





『絵里先輩、μ'sに入ってください!』





嵐のような告白から、1年が経っていた。

私は生徒会長になり、理事長から廃校の危機に面しているという発表もされて。

根負けした私は、スクールアイドルの、μ'sのメンバーになっていた。





『絵里ちゃん、この後二人でお話したいんだけど……』





1年前、私が告白された日と同じ日。

多分、いや、間違いなく、告白されるんだって分かった。

その頃の私は、満更でもなかったと思う。

μ'sを引っ張っていくまっすぐな心と、前だけを見つめるあの目に、私は心を奪われていた。

そのことを、みんなは知っていたのかしら?

ふとしたことであの子の事を思いだし、いつもあの子を目で追っていた。




自分でも分かってた。

私の、あの子への『思い』は『想い』へと変わっていたことも。

それが、私の初恋だってことも。





『もう一度言うね。私、絵里ちゃんのことが好きなの!』





1年前の私とは違う。

あの子から手渡されたスクールリングを、左手の薬指にはめる。

あの子の喜ぶ顔は、私にとっての幸せと同義だった。






『私のスクールリング、いつかあなたに渡したいって思ってる。その日まで待ってて?』





その日から、私の初恋は幸せへと向かい、動き出した。

例えば、困った時にはすぐ駆けつけて、抱きしめたい。

そんな想いを持ち続けて、あの子のためにすべてをかける覚悟も……



















終着点なんて、無いと思ってた。






あの幸せが、いつまでも続くと思ってた。

あの子の笑顔を、いつまでも見られると思ってた。








『それでね、ゲームセンターの近くのクレープ屋さんが』





『※※※っ! 危ないっ!!』





『えっ?』







辺り一帯に轟音が響き渡る。

トラックがビルに突っ込んだらしい。

私の目の前だった。






音も無く、気配もなく、私の運命は静かに変わり……

幸せな日々は大きな音を立てて崩れていった。







病院に連れて行かれたあの子は、緊急手術を行うことになった。

手術の成功は、難しい。

医者にそう言われた。

























あの子の家族、μ'sのメンバーが、病院の一室にで肩を震わせていた。

全員が喜びの涙を流し、誰一人としてその部屋を出ようとする者はいなかった。

手術は成功し、あの子は一命を取り留めた。




























その代わりに、視覚・聴覚を失った。

事故の時に、頭を強く打ってしまい、神経系をやられてしまったらしい。





もちろん、スクールアイドルとして、μ'sのメンバーとして活動ができる身体ではなくなった。

その日から、μ'sのリーダーは私へと委託された。

だけど、あの子がいた時のように活気も、笑顔も、今となってはなくなってしまった。








そして私達3年は、大学進学のために勉強に集中するようになり、自然とμ'sの活動は参加しなくなっていた。

2年生を中心に、活動を続けることはできていたみたいだけど、ラブライブの出場なんて夢のまた夢。

廃校は阻止したものの、このままではスクールアイドルとしての価値を失ってしまう。





そんな時、あの子ならなんとかできたんでしょうね。

だけど、そんな力は私たちには生憎持ち合わせていないようで。






皮肉ね、あの子が立ち上げた場所は、あの子によって壊された。

残された私たちに、その場所を作り直すことなんて。

できるわけないのよ。






例えるならば、一度雪の結晶となり地上に降り立って、溶けてしまったら戻ることなんて、出来ない。

冷たい水となり、人の心までも冷たく冷やしてしまう。

今のμ's(私たち)に、人の心を暖めることなんて出来やしないのよ……
























あの子への想いは、次第に薄れていった。

もう、あの事件も遠い日のような気分だった。

忘れてるんじゃなくて、忘れようとしていたのかも。






『絵里達が卒業する前に、μ'sの全員で※※※に会いに行きませんか?』






正直私は、乗り気ではなかったわ。

幼馴染より、可愛がられた後輩よりも、恋人『だった』私にとって、拷問のようなことだったから。

だけど、『会いに行かない』という選択肢は、棚の裏にも、引き出しの奥にも、私の心の端っこにも存在しなかった。






















『503 ※※ ※※※様』






少し懐かしい、病室の風景だった。

事件が起きてすぐのころは、μ'sのメンバーで交代でお見舞いに行ってたっけ。

目も見えない、耳も聞こえないのに、お見舞いなんて意味ないのに。

だけど私は、ローテーションとは別に、毎日穂乃果に会いに来ていたわ。

意味のないことなのに。






『※※※ちゃん、久しぶりだね』

『うぅ、※※※ちゃんがいないと寂しいにゃ……』

『もう、あの頃の※※※は戻ってこないのですか……?』






そんな言葉、あの子には届いてないのに。

意味のないことなのに。






『あのね、μ'sの時の※※※ちゃんの写真だよ?』






そんな写真も、泣きそうな顔も、あの子には届いてないのに。

意味のないことなのに。










『それでは私たちは帰ります。絵里は、もう少しだけ※※※と一緒に居てあげてください』






そんなこと、意味ないのに。

なんて思いつつも、あの子のそばを離れられないなんて。

もう、想いは捨てたはずなのに。






『ねえ、本当は私の声も聞こえてて、私の泣きそうな顔も見えてて、笑いをこらえてるんじゃないの……?』






反応なし。

当然ね、視覚・聴覚を奪われてるって、医者が言ってるんだから。










そういえば、同じように視覚・聴覚を失っている患者とのコミュニケーションとして、手のひらに字を書く。

なんてことをテレビで観たことがある。

それなら、あの子とも意思の疎通ができるじゃない。






あの子の手を取り、手のひらに言葉を紡ぐ。

一瞬驚いてたみたいだけど、すぐに状況を把握したみたい。






『わたしはえりよ』










あの子はすぐに私の手のひらを探した。

あの子の指先に私の手のひらを差し出し、くすぐったいのを我慢した。






『ひさしぶりだね』






ごめんなさい、寂しかったわよね。






『わたしえりちゃんにいわないといけないことが』






『えりちゃんにはきいてほしいの』






今まで会いにこなかったことを怒られるのかしら?

それとも、今まで言うことができなかった熱烈なラブコール?

そんなわけないじゃない。

多少の予想はついてるし、そもそも今日ここにみんなが誘われた時点で分かってたことなのよ。

心の準備は、できてる。










『わたしね』


































『もうすぐしぬんだって』












































分かってた。

分かってたことなのに。

既に、心の準備をしてきたはずなのに。

どうして?

どうしてこんなに……














































『穂乃果ぁぁぁ! うぅ…………! 嫌よ、穂乃果が死ぬなんて嫌なの!! 私はあなたに出逢えて幸せだった!』






『もっと幸せな日々を送るはずだったのに…… あなたの笑顔を、いつまでも見られるはずだったのに…………』






『だから…… だから、もっと私と一緒に居てよ! 私はあなたが、穂乃果がいないとダメなの! だから……」










ギュッ






『穂乃果……?』






私は、穂乃果の腕に包まれて、安堵した。

だけど、涙は止まらない。

穂乃果の事を考えると、私は…………






『ごめんね、えりちゃん』






『そのまえにおねがいがあるの』








お願い?

もちろん、穂乃果のためなら私は!

なんだって、どんなことだってしてあげたい!






『どんなことかしら』






私の返事を待って、またゆっくりと穂乃果は私に気持ちを伝える。






『すく-るりんぐ、ゆびにはめてほしいな』










忘れていた。

『私のスクールリング、いつかあなたに渡したいって思ってる。その日まで待ってて?』

私から言ったことなのに、何て最悪な人間なのかしら。

私は、あの約束を完全に忘れてしまっていた。






だけど、ずっと制服のポケットに入れていた。

あの時から、いつでも穂乃果に私のスクールリングを渡せるようにって。










『ほのか、ゆびだして』






そう穂乃果の手のひらに指で伝えると、私の前に手を出してきた。

私をμ'sに誘ってくれた時に差し出してくれたあの手と違って、とても弱々しい穂乃果の手。

その手を優しく包むように、薬指に私のスクールリングをはめてあげた。

その瞬間、穂乃果は懐かしい笑顔に戻ってくれた。






『ありがとうえりちゃん』






それは、こっちの台詞よ、穂乃果。

貴女がいてくれたから、私は……










『もうしんじゃうなんて、もったいないな』






『もっと、えりちゃんとおもいでつくりたかった』






私も、穂乃果と同じ気持ちよ。

ずっと、穂乃果と一緒に過ごしていたかった。

なのに、どうして……?

どうして穂乃果なのよ?










『こんなはやくしぬなんて、くやしいな』






『えりちゃんのことだいすきだったのに』






『くやしいけど、すき』










私だって、とても悔しいわよ。

こんなに早く、幸せな時間が終わってしまうなんて。























私の幸(ゆき)は、雪のように儚い。

捕まえたと思ったら、一瞬にして消えてしまう。

だけど、その一瞬が、夢のような気持ちだった。

私も、もちろん穂乃果も。





その儚さが…………






『悔しいけど、好きって純情』










                          ~end~

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月21日 (日) 01:58:35   ID: Hlkp5ZvC

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