ちひろ「おもひでぽろぽろ」 (36)

ちひろ「こんなところにいましたか」

まゆ「ちひろさんも来たんですかぁ?」

凛「……」

ちひろ「あそこにいると気が滅入ってしまうので。隣失礼しますね」

まゆ「どうぞ。でもこれからどうするんですかぁ?」

ちひろ「そうですね。とりあえずみなさんに希望を聞いてそれからですかね。
    まゆちゃんと凛ちゃんはどうします?」

まゆ「まゆは」

凛「……わからないよ」

まゆ「……まだ時間はあるからゆっくり考えればいいんじゃないですかぁ?
   まゆは続けますけどぉ」

凛「私がわからないのは二人だよ! なんでそんな普通に会話出来るの!
  だって……プロデューサーが死んだんだよ!」

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P「お疲れッス」

ちひろ「あ、お疲れ様です。プロデューサーさん」

P「例の件ッスけど長期休暇として認められたみたいッス」

ちひろ「え? 辞職ということでお伝えしたはずなんですが」

P「社長としても優秀な事務員は手放したくないみたいッス」

ちひろ「いいんですかね。もしかしたら一ヶ月くらいいないかもしれないんですけど」

P「社長が許可してるからいいんでスよ。……前の事務所絡みッスよね」

ちひろ「ええ、まぁ……」

P「うん、えっとまぁ貰える物は病気以外貰っとくべきッスよ」

ちひろ「……そうですね。ではありがたく頂戴いたしましょう」

比奈「ところでプロデューサー。口調が移ってるっスよ」

P「この口調結構楽ッス。これからこれで行くッス」

比奈「恥かしいのでやめてください」

P「おおぅ……真顔……」

比奈「ちひろさん帰ってくるんスよね」

ちひろ「ええ、休暇のようですので戻ってきますよ」

比奈「待ってるっス」

ちひろ「比奈ちゃん……」

比奈「ちひろさんがいなかった時のここ、ひどかったんで……」

ちひろ「ああ……」

ちひろ「さてと、名簿はここにあるしアポ取らないといけない子もいるから
    最初は普通に会える子から行こうかな」

ちひろ「しかしなんで通ってる学校とかまで書いてあるんだろう……。
    迎えに行くのに必要だったのかな。まぁ今利用できるわけですし良しとしましょう」

ちひろ「まずはこの辺から行こうかな……」


ジロジロ  ジロジロ

ちひろ(校門前で車の中から下校する生徒を監視するってもしかしなくても
    警察が呼ばれるのでは)

ちひろ(車移動しようかな。でもここから離れると見失う可能性が……)ケータイスーポンポン

コンコン

ちひろ「ひゃい!?」

ありす「……何やってるんですか」

ちひろ「あ、ありすちゃん! 警察かと思いましたよ!」

ありす「下校する小学生を眺める行為は明らかに呼ばれてもおかしくないんですけど」スッ

ちひろ「あーっと! 呼ばないでください! 今日はありすちゃんに用事があるんです!」

ありす「私に……ですか? 言っておきますがアイドルならもうやりませんよ」

ちひろ「アイドル勧誘、というわけじゃないです。元気にしてるかなと顔を見たくなって」

ありす「元気ですよ。というか携帯で連絡してくれれば……」

ちひろ「携帯……水没させちゃったんです……」

ありす「なるほど」


ちひろ「好きなの頼んでいいですよ」

ありす「えっ?」

ちひろ「えっ?」

ありす「あの、え? すみません、もう一度お願いします」

ちひろ「え、だから好きなのを……」

ありす「ちひろさんが? ……人って一年程度でそんなに変わるんですか」

ちひろ「ちょっと失礼じゃないですかね」

ありす「あの事務所にいた人なら誰でもそう思いますよ」

ちひろ「そんなに守銭奴でしたっけ、私」

ありす「ええ。鬼、悪魔と並べられる程度には」

ちひろ「あんなにプロデューサーさんのために尽くしてたのに」ヨヨヨ

ありす「……もう一年も経ったんですね。あれから。
    あっと言う間でしたよ。私も小学六年生から進学……あれ……」

ちひろ「はいやめ! その話はやめやめ!」

ありす「……まぁあっという間でしたよ。でもあの頃はもっと速かった気がします」




P「……なぁありす」

ありす「どうしたんですか?」

P「あのな。これは色々ダメだ」

ありす「なっ! どういうことですか!」

P「なんだろうな……甘いんだよ。ひたすら甘い。あとイチゴ」

ありす「イチゴパスタなんですから当たり前じゃないですか」

P「全くのミスマッチ。おいしくなる要因が根絶されてる」

ありす「そんなハズありません。イチゴはおいしいんですから」

P「俺もイチゴは好きだけどさ……。俺クッキーとイカの塩辛好きだけど
 二つ合わせたらおいしいと思うか?」

ありす「おいしいはずないでしょう」

P「だよな! つまりこれなんだ」

ありす「そんな……。わかりました。もっと料理の腕を磨きましょう。
    Pさんのためにも」

P「ああ、そうしてもらうと助かる」


ありす「……あれから料理も練習したんですよ。今では普通のペペロンチーノ作れるんです」

ちひろ「……イチゴは?」

ありす「入ってません。他にもいろんな料理が作れるようになりました。
    でも食べて欲しかった人はもう居ないんです。それに……」

ちひろ「それに?」

ありす「私が待てますかと聞いた時に『俺にオセロで勝ったら考えてやるよ』
    と言っていたのでオセロだって強くなりました」

ちひろ「そういえばあの人オセロがやたらめっぽう強かったですね」

ありす「私が大差で負けると『仕方ないな。ハンデとして片目でやってやるよ』
    とか言うふざけた大人でした。あんな人今までも、そしてこれからもいないでしょう」

ちひろ「まぁいないでしょうね」

ありす「……勝ち逃げなんて卑怯です。Pさん」

ちひろ「この子が一番場所が掴めないのだけど……」

ちひろ「住所だとこのアパートかな。えーっと表札には……」

「おや、ちひろさんじゃないですか」

ちひろ「あ、ライラちゃん!」

ライラ「どうしたのですか? ワタクシに何かご用でございますか?」

ちひろ「ええ、ちょっと顔を見たくなったので」

ライラ「お久しぶりですね。一年振りぐらいでございますね」

ちひろ「そうですね。元気でしたか?」

ライラ「おかげさまでございます。すっかり日本語もうまくなったです」

ちひろ「日本語はあまり変わっていないような……」

ライラ「これからアルバイトでございます。ちひろさんも一緒に行きますです?」

ちひろ「え、行っていいんですか?」

ライラ「はい。問題ないと思いますです」


ちひろ「ここは……」

ライラ「お邪魔するですよー。お客さんがいるですよー」

桃華「お客さん? あら、ちひろさん。お久しぶりですわね」

ちひろ「お久しぶりです。ライラちゃんのバイト先って聞いたんだけど……。
    ってあれ? ライラちゃんがいない」

桃華「着替えに行ったのですわ。どうぞこちらに」

ちひろ「お邪魔します……」キョロキョロ

桃華「そんなに珍しいモノはありませんわ」

ちひろ「いやいや、こんな豪邸に本当に住んでいるなんて……」

桃華「あら、わたくしてっきりPちゃまから巻き上げたお金で
   もっとすばらしい家を建てているかと思っていましたわ」

ちひろ「私のイメージがひどい……」

桃華「恨むならご自分をお恨みくださいまし。さ、そこの席にどうぞ」

ちひろ「あ、どうも」

ライラ「お茶でございますです」

ちひろ「おう、ライラさんがフリフリのメイド服着てるの」

ライラ「可愛いドレスでございます」

桃華「わたくしがデザインしましたの」

ちひろ「へー、可愛いですね。これならアイドルの衣装としても……」

桃華「ふふっ、桃華デザインドレスを着て再びステージに立つのも悪くないかもしれませんわね」

ライラ「懐かしい日々でございます」




桃華「Pちゃま! Pちゃま!」

P「ん? どうした?」ドボドボ

桃華「角砂糖入れすぎですの!」

P「そう? コーヒーもこのくらい入れるぜ」マゼマゼ

桃華「そんなに入れたら風味も何もあったもんじゃありませんわ」

P「そう? 甘くてうまいけど」ゴクゴク

桃華「ただの砂糖水と変わりませんわ」

P「そんなことないよ。ほら、飲んでみなよ」スッ

桃華「……底に砂糖が貯まってますわ」

P「こうかき混ぜて底のが舞い上がったところをクイィーって飲むんだよ」

桃華「はぁ……。よくかき混ぜて……飲む」ゴクン

P「やーい、間接キスー」

桃華「甘すぎですの。やっぱりただの砂糖水ですわ」

P「え、あ、うん」

桃華「あとそんな小学生みたいなこと言ってもわたくしは動揺しませんわ」

P「あれ、なんで俺、十二歳に窘められてるんだ……?」





P「ライラ、アイス買っていいぞ」

ライラ「本当でございますか?」

P「ああ、今日頑張ってたからな。ご褒美だ。あと暑いし」

ライラ「おぉ……。毎日暑いといいですね……」

P「いや、アイドル業頑張れよ」

ライラ「わたくしこれにしますです」

P「おー、いいの選ぶな。本当にいいの選ぶな。こっちのアイスにしないか」

ライラ「これにしますです」

P「そうか。それにするか。じゃあ俺はこれにするもんね!」

ライラ「……アイス?」

P「アイスだよ。ほら、アイスを挟んでるんだよ」

ライラ「おぉ……これはすごいですね……」

P「だろー? だからお前もほら、こっちに」

ライラ「こっちの挟んでるアイスにしますです」

P「あくまでそのブランドから離れる気はないのか……」


桃華「あの方は仕事は有能でしたのにどうして普段はああも……」

ライラ「アイス……」

ちひろ「本当に仕事は出来る人だったんですけどね……」

桃華「もしもあのままPちゃまが生きていたらとたまに思いますわ。
   まだ事務所があって、わたくしはアイドルをしていて……」

ライラ「ごほうびのアイスがあって……」

桃華「今更どうこう言っても仕方ありませんわ。
   そういえばちひろさんはなぜライラさんのところに?」

ちひろ「みんな元気かなと思って」

桃華「晶葉さんには会いましたの?」

ちひろ「まだですけど」

桃華「なら丁度いいですわ。ライラさん。ご案内くださいまし」

ライラ「了解でございますです」テクテク

ちひろ「え? 晶葉ちゃんいるんですか?」

桃華「一年前事務所が潰れた時にスカウトしましたの。
   あれだけの才能を野に放つのはもったいないですわ」

ちひろ「なるほど。櫻井一族のどこかの研究所で働いてるってことですか」

桃華「どこかの研究所じゃありませんわ」

ライラ「アキハさん、アキハさん」コンコン

ちひろ「え?」

晶葉「ライラか。開けていいぞ」

ライラ「失礼しますです」ガチャ

晶葉「どうしたんだ? まだ夕飯の時間では……おや、ちひろさんじゃないか」

ちひろ「お久しぶりです。晶葉ちゃん。ところでこの部屋は……」

晶葉「私の研究室だが?」

ちひろ「桃華ちゃんの家の中に?」

晶葉「うむ。気が付いたらこうなっていた。快適な発明が出来るから問題ないが」

ちひろ「そういうものですか」

晶葉「しかしどうしたのだ。アイドルの勧誘にでもしにきたのか?」

ちひろ「いえ、あれからずいぶん経ちますしちょっと顔を見たくなって」

晶葉「なるほど。ま、見ての通り私は元気だ」

ちひろ「ええ。それは何よりです」

晶葉「強いて言うなら……発明した道具で共に遊ぶ相手がいないことかな。
   私が作ったもので助手と一緒に遊ぶのはなかなか楽しかった」

ちひろ「それって標的私達でしたよね」

晶葉「無論その通りだ。もしかしたら助手は私の事をどこぞの猫型ロボット
   のようにしか見て無かったかもしれないが……私にとっては大切な友人だった」




晶葉「出来たぞ! 刷り込みロボだ!」

P「ほほう。カモの形をしたロボか」

晶葉「うむ。対象をターゲットしてスイッチすると……」ポチッ

ウィーン

P「お? 寄って来た」

晶葉「これでこのロボはPの後をずっとついていくぞ」

P「お、本当だ。これなんかいいな」

晶葉「さらについてくるだけじゃない。荷物が増えたときは後ろのパネルを開いて
   荷物収納も出来るのだ」カパッ

P「便利ロボだな」

晶葉「ある程度の悪路も走れるが問題点は段差に弱いのが難点だな」

P「水は?」

晶葉「防水加工はしてあるが水に沈められたら壊れるぞ。
   雨程度ならよく拭けば問題ないだろう」

P「なるほどなるほど。多少シャワーが当たっても平気というわけか」

晶葉「シャワー?」

P「おっとこっちの話だ。頭の上にカメラをつければ……」

晶葉「P。お前、何を考えている」

P「いや、全然。何にもだよ。これ、ちょっと借りて行くな」

晶葉「あ、ああ」


晶葉(あの後、女風呂に侵入していたロボを発見したんだったな……)

ちひろ(なんだろう、晶葉ちゃんが遠い目をしている)

桃華「言ってくださればわたくしが遊び相手になりますわよ?」

晶葉「となると標的はこの屋敷の使用人か」

桃華「……出来れば標的を必要としない発明品がいいですわね」

ライラ「全自動お掃除マシンとかいいですねー」

ちひろ「それって既にあるような……」

ちひろ「桃華ちゃんの話ではこの辺のはずだけど……あ、この喫茶店かな」

ちひろ「うーむ。どこからどうみても普通の喫茶店ですね。本当にいるのでしょうか」

カラーン

「いらっしゃいませー」

ちひろ「お、お久しぶりです。菜々さん」

菜々「……お客様お一人でしょうか」

ちひろ「はい」

菜々「ではそちらの窓側の席へどうぞ」

ちひろ(普通のウェイトレス姿で普通にお仕事か。もうメイド服とか着ないのかな)

菜々「よっこいしょっと」

ちひろ「あれ、なんでナチュラルに私の前に座ってるんですか」

菜々「マスターのお気遣いで休憩貰ったんですよ。あ、コーヒーでよかったですか?」

ちひろ「ええ、ありがとうございます」

菜々「桃華ちゃんから聞いています。みんなに会って回っているそうですね」

ちひろ「ええ。ここも桃華ちゃんから教えてもらいました」

菜々「一周忌のお集まりというわけではないそうですね」

ちひろ「ええ、ただみんなの顔を久しぶりに見たくなったので」

菜々「……あの日々はまるで昨日のことのように思い出せます。
   黄金のように輝いていて……」




P「菜々ー」

菜々「なんですか?」

P「ここにカセットテープがあるだろ?」

菜々「はい、ありますね」

P「こっちに鉛筆があるだろ?」

菜々「はい、ありますけど。撒き戻すんですか?」

P「いや、もう必要なことはわかったよ。ありがとう」

菜々「え? ……こ、このくらいいいい一般常識ですから」

P「ちなみに卯月はわからなかった」

菜々「ウッ……ウサミン星の一般常識ですからっ!」

P「まぁこれは置いといてお前のCDが決まったぞ」

菜々「……しーでぃー?」

P「イエス。CDデビュー」

菜々「そ、それはCDと略した別の何かではなく」

P「お前の待ちに待っていた物だよ」

菜々「……」ポロポロ

P「うお、泣くな。声もなく泣くな」

菜々「あ……あ……」ポロポロ

P「ほら、ティッシュで鼻かんで」

菜々「あ゛ー!!」ブワッ

P「落ち着け、菜々! ワンクッション入れたはずなのに……うぉっと」

菜々「ん゛ー!!」

P「俺のスーツに顔突っ込んで泣くな……まぁいいか。存分に泣けー」ヨシヨシ

菜々「嬉しいですぅ……」ズビー


菜々「まるで舞踏会のシンデレラでした。本当に……」

ちひろ「私はてっきりアイドルを続けるものかと思っていました。
    他の事務所からの誘いはありましたし」

菜々「なる前の私はとにかくアイドルというのになりたかったんです。
   もしもあのままの気持ちがあったならまだアイドルをしていたかもしれません」

ちひろ「……あの人も罪深い人ですね」

菜々「本当ですよ。人の夢を散々叶えておいて、恩返ししようと思ったら
   いなくなるなんて。私にイジワルするしひどい人です」

ちひろ(それは自爆する菜々さんが悪いような)

菜々「今の私を見たらなんて言うでしょうね。メイド服も着ず、十七歳でもなくなった
   今の安部菜々を見たら……」

未央「で」

卯月「で」

みく「で!」

ちひろ「……すみませんでした」

みく「全くにゃ! 他の事務所の事務員がレッスン場に来たら
   警備員なんて呼ばれるに決まっているにゃ!」

未央「私達がいなければ今頃ちひろちゃんは……あぁ!」

卯月「お久しぶりです!」

ちひろ「うん。久しぶり。みんな元気そうでよかったよ」

未央「まーね。またライブもあるし」

ちひろ「みたいですね」

卯月「今度はちょっと大きい場所でやるんですよ!
   未央ちゃんとみくちゃんと一緒です!」

みく「というか今じゃみくたち三人ユニットだもんね」

未央「三人ユニットか……」

卯月「ニュージェネレーション……懐かしいね」

みく「一年前はみくはソロたったにゃ……」




未央「とおー!」ダキッ

P「っと。未央。年頃の娘が抱き付くものじゃないぞ」

未央「そこはアイドルがーってなるんじゃないの?」

P「年頃の女性のほうが大事だろ。ほら、離れろ」

未央「むっふっふー。そんなこと言って嬉しいんでしょー?」グニグニ

P「はい」

未央「ん?」

P「嬉しいです。すごい嬉しいです。みおっぱいたまんねぇっす」

未央「……」パッ

P「とまぁこんな変態に襲われるかもしれないだろ?」

未央「いや、今のプロデューサー本気だったよ」

P「演技派だからな」

未央「じゃあ抱き付いても嬉しくないんだ」

P「嬉しい!」

未央「……」

P「……未央、いいか。落ち着け。違うんだ」

未央「ケーサツかな」スゥ

P「ヘイ! やめるんだ、未央。本当に俺が死んでしまう」

未央「もう抱きつかなければいいわけだしね」

P「俺は抱き付いてもらっても構わないぞ?」

未央「プロデューサー。ケーサツに捕まるのはやめてね?」

P「その憐憫の目やめてください」





卯月「どうですか!」

P「すばらしい!」

卯月「似合ってますか!」

P「キュートだ!」

卯月「でもブルマってちょっと履きづらいですね」ユビクイッ

P「!!」ガタッ

卯月「ど、どうしたんですか」

P「いや、なんでもない。今の体操着は短パンなのか?」

卯月「こう……膝くらいまであるパンツですね」

P「そりゃまたロマンの欠片もないな」

卯月「ロマンですか?」

P「何、気にするな」

卯月「ところでその……ブルマなのはプロデューサーの意向ですか?」

P「まぁそうだな。男性はブルマ好きだし」

卯月「プロデューサーもですか?」

P「そりゃまぁ……」

卯月「……頑張ります!」

P「ん? お、おう」






P「みくー、アイス食べる?」

みく「食べるにゃ」

P「ほい、ミルクバー」

みく「ありがとにゃ」ペロペロ

P「……」ジー

みく「……どうしたにゃ?」

P「今日も暑いな」

みく「おかげで死にそうにゃ」

P「だからと言って下着姿で事務所にいていい理由にはならんのだよ」

みく「え……ひどくない?」

P「ひどくない。なんだ、その短パンに上ビキニって。お前がひどいよ」

みく「だって暑いしー、人目だってないしー」

P「ここにいるだろ。ここに」

みく「Pチャンは別にいいにゃ」

P「つまり俺はお前を好きなだけ見つめていいと」

みく「いや、そういうわけじゃ……近い近い!」

P「フーフー」

みく「もう……えいっ」ズボッ

P「モゴッ」

みく「ちょっとみくのアイス咥えててにゃ。上に着てくるにゃ」

P「プハッ。さっきまでお前が舐めてたアイス口に突っ込むなよ」

みく「Pチャンがえっちな目でみくを見るからいけないにゃ!」

P「ふざけんな! そんな体さらけ出しといて興奮しないなんて
 ホモか人外かのどっちかだ!」

みく「いろんな人に謝るにゃ! 全く……返してもらうにゃ」パク

P「ということでみく、結婚しよう」

みく「みくがトップアイドルになったら考えてやるにゃ」



未央「結局セクハラしっぱなしだったな」

卯月「頑張ったのに……」ムゥ

みく「あれって本気だったのかな……」

ちひろ「えー三者三様の思い出があるようで」

未央「まぁないはずないよ。全てはあの事務所、あの人から始まったんだから」

卯月「あの人がいなかったら今の私達はなかったんです」

みく「変態だったけど感謝はしてるにゃ。変態だったけど」

ちひろ「あの世にいるプロデューサーさんも喜んでますよ。多分」

未央「そういえば他の人には会ったの?」

ちひろ「ええ。さすがに全員とまでは行きませんが大体の人には会いましたよ。
    あとはちょっと会うのが難しい人と……会いにくい人かな」

卯月「? それって二つとも同じ意味では?」

未央「そうそう、あの人は元気だよ。今はお互い忙しいから一月に一回くらいしか
   会わないけど。自分の店継ぐみたい」

ちひろ「そうですか。……でも最難関はあの子かな」

みく「むぅ……同じ門の出なのにずいぶんと差をつけられたにゃ」

未央「大丈夫! 私達ならすぐに追いつけるよ!」

卯月「頑張りましょう!」

ちひろ「未央ちゃんにメールアドレス教えてもらったから連絡は付いたけど……」

ちひろ「無理言っちゃった気がするなぁ……」

「お待たせしました」

「お久しぶりです」

ちひろ「すみません。お忙しい中時間を割いてもらって……。
    ありがとうございます。泰葉ちゃん、美優さん」

泰葉「本田さんから話は聞きました。あの事務所のみんなに会って回ってるそうですね」

ちひろ「ええ。ごめんなさい。それのためだけに呼び出してしまって」

美優「いえ……大丈夫ですよ。むしろこんなところまで来ていただいてすみません」

ちひろ「仕方ないですよ。確か……ドラマの撮影でしたよね。お二人とも出てる」

泰葉「はい。あの頃思い考えていた未来図とは随分と異なりましたけど……。
   あの人がいたおかげで今は楽しいです」

美優「あの頃の無口な私が今の私を見たらどう思うでしょう……ふふっ……」

ちひろ「まさかアイドルを経て女優になるなんて思いもしないでしょう」

泰葉「あのままアイドルを続けてても……きっと成長は出来なかったでしょう」

美優「でもその過去があるから……今こうしていられるんです」




P「お疲れ。どうだ、仕事は」

泰葉「別に問題ありませんよ」

P「そうか。そいつは良かった」

泰葉「……」

P「……アイドルは楽しいか?」

泰葉「仕事ですし別に……」

P「俺は仕事が楽しいかなんて聞いていないさ。
 アイドルが楽しいか聞いてるんだよ」

泰葉「……? それに何の差が?」

P「俺だってな。仕事超大変だよ。薄給だし」

泰葉「はぁ……」

P「でもな、俺はこのプロデューサーという職に就けて本当によかった
 と思う。例えもっと楽で稼げる職に就けたとしても……この職はやめない。
 そのぐらい俺は楽しい」

泰葉「……」

P「泰葉。この世界はお前が思ってるよりも幸せで楽しいものなんだよ」

泰葉「私には……そうは思えません」

P「思わせてやるよ。お前がアイドルとしてファンに夢を見せるなら
 俺がプロデューサーとしてお前に夢を見せ、そして叶えてやる」

泰葉「変な人ですね」

P「まーな」





美優「Pさん……」

P「違うんです」

美優「本当に……?」

P「もしも俺が注文するんだったらバニーガールにしますよ!」

美優「Pさん……」

P「すみません」

美優「こ、こんなにお腹が開いてる服なんて……。
   冬なのに……」

P「サンタコス似合ってますよ」

美優「ありがとうございます……。でも……恥かしい……」

P「そこはもう羞恥心を捨てて! ポーズ取りましょう!」

美優「えっ? えーっと……」

P「はい! 取りますよー!」

美優「え、カメラ? 個人用の……ですよね?」

P「はいっチーズ!」

美優「きゃ、きゃはっ……」

P「ヌフン」ドバッ

美優「Pさん! 鼻血出てます! Pさーん!」



泰葉「……それで、本当の用件はなんですか?」

ちひろ「ですから顔を見に……」

泰葉「それだけのために新幹線に乗ってロケ地に来た……と言われても
   信じられませんよ」

ちひろ「ははは……そう、ですよね……」

美優「ちひろさん……」

ちひろ「いえ、仕方ないと思います。他の子も表面上は納得してましたけど
    きっと疑ってる子もいるでしょう」

美優「何を……ですか?」

ちひろ「えっ?」

美優「ちひろさんは……そう、旅行のついでに私達に会いに来たんですよ。
   ね、泰葉ちゃん」

泰葉「……そうでしたね。すみませんでした」

ちひろ「……ありがとう。美優さん、泰葉ちゃん」

美優「いえ……私達は何もしてないですよ」

泰葉「こちらこそ久しぶりに会えて懐かしい気持ちになりました。
   ありがとうございます」

「三船さーん、岡崎さーん」

ちひろ「あ、呼ばれてますね。お仕事、頑張ってください」

美優「ふふっ……ありがとうございます」

泰葉「他の事務所のアイドル応援してたら怒られますよ。
   それではまた、どこかで」タッタッタ

ちひろ「ええ……また」

ちひろ「さて……最難関ですね。水をかけられないようにしましょう」

ちひろ「すみませーん」

凛「いらっしゃいま……なんですか」

ちひろ「お久しぶりです。元気そうですね」

凛「まぁ……。みんなに会って回っているそうですね」

ちひろ「はい。みなさん元気そうでしたよ」

凛「何のために?」

ちひろ「……凛ちゃんはまだ私の事を許してくれませんか」

凛「……ッ! わかってる! 頭ではわかってたんだけど……!」




まゆ「……まだ時間はあるからゆっくり考えればいいんじゃないですかぁ?
   まゆは続けますけどぉ」

凛「私がわからないのは二人だよ! なんでそんな普通に会話出来るの!
  だって……プロデューサーが死んだんだよ!」

ちひろ「……」

まゆ「凛さん。もしも泣き叫んでPさんが生きて帰ってくるんでしたら
   まゆは喉が潰れるまで、体中の水分が無くなるまで泣き叫びますよぉ?
   でも帰って来ませんよねぇ?」

凛「そんなことっ……!」

ちひろ「凛ちゃん。プロデューサーさんは死んでもういないんです。
    悲しむことが悪いことだとは思いませんけど先のことを考えないわけには
    いきません。だって私達は生きているんですから」

凛「……ごめん。やっぱりわからない。二人ともまるで……宇宙人みたいで」

ちひろ「凛ちゃん……」

凛「ちひろさん。私はアイドルやめるよ。もう歌えそうに……ないから」


凛「まゆが言っていた事もちひろさんが言っていた事もわかるよ。
  わかるけど……すぐにそう考えるなんて無理だよ。人間なんだもん。
  だから私はアイドルから離れてゆっくりと理解したの。
  ちひろさんに当たるのはお門違いなのも理解してる。けど……。
  全く悲しんでいるように見えなかった二人が……わからなかった」

ちひろ「多分……それが普通の反応なんだと思います。
    あの大きな出来事をゆっくりと咀嚼し消化するには時間が入ります。
    凛ちゃんはプロデューサーさんと距離が近かった分、その時間が多く
    必要だったんです」

凛「まゆやちひろさんにとっては大きな出来事じゃなかったの?」

ちひろ「とんでもない。ただ……それを素早く処理する方法を知っていただけですよ」

凛「……まだ答えてもらって無かったね」

ちひろ「何をですか?」

凛「なんでみんなに会って回ってるの? ……私だってやっと消化出来たのに。
  ちひろさんに会ったらまた思いだすかもしれないのに」

ちひろ「……私はみんなを信じています。あの事務所にいたアイドルみんなが
    この出来事の前に崩れ落ちないって。でももしも……消化することが
    出来ず、歩みを止めてしまった人がいたら応援しようと思ったんです。
    プロデューサーさんから目を離し、再び歩けるように」

凛「……私はアイドルやめちゃったけどね」

ちひろ「でも過去を受け入れて今は立派に歩いています」

凛「……うん」

ちひろ「確かにまだ悲しんでいる子はいました。
    でもだからと言って足を止めているわけではありません。
    ちゃんとその先へと……成長してました」

凛「ごめんなさい」

ちひろ「え?」

凛「その……色々ひどいこと言って」

ちひろ「いえ、私こそあの時凛ちゃんの気持ちも考えず言ってごめんね」

凛「仲直り、だね」

ちひろ「ですね。このままじゃプロデューサーさんがうかばれません」

ちひろ「……寒い」

「あらあらぁ、どうしたんですかぁ?」

ちひろ「やっぱり来ましたか。まゆちゃん」

まゆ「当然ですよぉ。Pさんの命日なんですからぁ」

ちひろ「ずいぶんと大活躍してますね。今じゃトップアイドルでしょう」

まゆ「うふふ……ありがとうございます。おかげさまで引っ張りだこですよぉ」

ちひろ「この時間はオフなの?」

まゆ「いえ、ラジオの収録ですよぉ?」

ちひろ「……プロデューサーさんに怒られますね」

まゆ「今のプロデューサーは頭が固い人でまゆがどれだけ頼んでも
   空き時間を作ってくれなかったんですから仕方ないですよぉ。
   うふふ……Pさん。仕事サボって来ちゃいましたよぉ」

ちひろ「……どのぐらい時間あるの?」

まゆ「ちょっと話すくらいなら平気ですよぉ」

ちひろ「暖かいモノ奢りますよ」

まゆ「え゛っ」

ちひろ「えっ」

まゆ「……時間は人を変えるんですねぇ」

ちひろ「プロデューサーさん。あなたのアイドルはみんなひどいですよ」

ちひろ「みんなに会って回りました」

まゆ「らしいですね。元気でしたかぁ?」

ちひろ「ええ、みんな元気でしたよ」

まゆ「それはよかったですね。Pさんも喜んでますよぉ」

ちひろ「……凛ちゃんとも仲直り出来ました」

まゆ「そうですか。やっと整理がついたんでしょうねぇ」

ちひろ「そうみたいです。最初会った時はちょっとピリピリ
    してましたけど最後は笑って見送ってくれました」

まゆ「……ちひろさんはなんでみんなに会って回ったんですかぁ?」

ちひろ「みんなが元気かなって気になったんです」

まゆ「ちひろさんはどうなんですかぁ?」

ちひろ「私は……私はこの通りですよ」

まゆ「携帯、水没させたそうですね」

ちひろ「ええ、うっかり」

まゆ「みんなと連絡が取れないようにですか」

ちひろ「えっ……」

まゆ「だっておかしいでしょう? 水没させてデータが復旧出来なかったなら
   誰か一人に連絡を取って連絡先を教えてもらえばいいのに……」

ちひろ「だからそのデータが消えてしまって……」

まゆ「じゃあどうやってみんなに会いに行く気だったんですかぁ?」

ちひろ「……」

まゆ「今度はみんなに会って回って……。仕事だってお休み貰ってるんですよねぇ。
   心配になったならデータなくした時点でみんなに会いに行ってもおかしくないのに」

ちひろ「それは……」

まゆ「……ちひろさん。まゆの前では意地を張らなくていいんですよぉ?
   あの時からまゆはうすうす思ってましたけど……」

ちひろ「意地、ですか」

まゆ「まゆはPさんの死を受け入れました。その上で私はPさんと共にあると思っています。
   だから傍にいるPさんにたまに話しかけてたりします。人に見られたら困りますけどね。
   でもちひろさんは違いますよねぇ……」

ちひろ「……」

まゆ「ちひろさん……。みんなと話しても……Pさんは帰ってきませんよ。
   受け入れてください。Pさんの死を」

ちひろ「……私はまだ心の何処かで思っているんです。Pさんが事務所のドアを
    開けて入ってくるんじゃないかって」

まゆ「ありません」

ちひろ「……携帯に連絡が入って……飲みに誘ってくれるんじゃないかって」

まゆ「ありません」

ちひろ「……また、晶葉ちゃんの道具で……みんなを、困らせるんじゃないかって……ッ」

まゆ「ちひろさん。もうやめましょう。もう事務所はなくなりました。
   Pさんも骨になってお墓の下です。顔を上げてください」

ちひろ「この支えを失ったら……私は……」

まゆ「泣けばいいんですよぉ。気が済むまでずっと」

ちひろ「う……ひっく……」ポロポロ

まゆ「不器用な人ですねぇ」

ちひろ「すみません……お見苦しいところを」

まゆ「いえ、お気になさらずに」

ちひろ「今回みんなと会ったのは……一縷の希望をかけていたんです。
    もしかして誰かがプロデューサーさんと会ってるんじゃないかって。
    でもプロデューサーさんは彼女たちの記憶の中で静かに眠っているみたいで……。
    まゆちゃんならと思ったんですが」

まゆ「まゆは常にPさんと共にありますよぉ」

ちひろ「ふふふ……プロデューサーさん。あなたのアイドルは私よりよっぽど強いみたいですよ」

まゆ「一件落着ですねぇ」

ちひろ「……ところでだいぶ時間が経ってしまいましたが大丈夫なんでしょうか」

まゆ「……まずいですねぇ」

ちひろ「……私、車で来てるんで送りますよ。せめてものお礼です」

まゆ「じゃあお言葉に甘えますねぇ」

ちひろ「では行きましょう」

まゆ「ええ」

まゆ(Pさん。みんながやっと未来に歩き始めました。
   だからPさんも暖かく見守っててくださいね)

以上。今年のSS納め

         ,, _
       /     ` 、
      /  (_ノL_)  ヽ
      /   ´・  ・`  l    プロデューサーは死んだんだ
     (l     し    l)    いくら呼んでも帰っては来ないんだ
.     l    __   l    もうあの時間は終わって、君も人生と向き合う時なんだ
      > 、 _      ィ
     /      ̄   ヽ
     / |         iヽ
    |\|         |/|

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