あずさ「飲み屋あずさ」(180)

あずさ「いらっしゃいませ~…律子さんじゃない!お久しぶりね~」

律子「こんばんわあずささん…今日も相変わらず男の人がいっぱいですね」

あずさ「はい、おかげさまで、あ、カウンター席でいいかしら?」

律子「はい…よいしょ……ははは、もうよいしょなんて言っちゃう歳になってしまいましたね」ストン…

あずさ「あらあら、まだ全然お若いですよお客様」

律子「それは嫌味ですか?あずささんはいつまで経ってもキレイですもんね」

あずさ「そんなことないわよ、最近はお化粧することが増えたもの、困っちゃうわよね」

律子「……最近まですっぴんでお店を回していた人は流石ですね」

あずさ「ふふふ、ご注文を聞きましょうか?」

律子「それじゃあ鳥の軟骨と烏龍ハイで」

あずさ「はーい、少々お待ちくださいねー」

あずさ「お待たせしましたー」

律子「おいしそう…それにしてもあずささん、一人でこれだけのお客を相手にして大丈夫なんですか?」

あずさ「これだけって言っても4、5人じゃない、まだ現役の頃の方がつらかったわ」

律子「私にはそうは見えませんでしたけどね…ホント、いつまでお若くて羨ましいです」

あずさ「もうそのお話はいいじゃないですか……最近はどうなんです?」

律子「あぁ…テレビ見れば分かる通り、大人気ですよ…一時期は他のアイドルに抜かれましたけどなんとか盛り返せましたね」

あずさ「あちらは不祥事が絶えなかったからね、自業自得というものね」

律子「ははは…ウチだって前までいつ不祥事が起きてもおかしくはなかったじゃないですか」

あずさ「でもあの人はちゃんとしてましたからそういう心配はありませんでしたね」

律子「んっ…んっ……あずささん、本当は残念じゃなかったんですか?」

あずさ「……あ、い、いらっしゃいませー」

律子「あ…逃げた」

あずさ「別に逃げたわけじゃありませんよ…」

律子「そうですかぁ?こういう席ではもう少し正直にならないと」

あずさ「……律子さんってそういう話あんまり好まなかったような…」

律子「今じゃあ結構あせってますからね、興味津々ですよ……ホント気づくのが遅かったですよ」

あずさ「律子さん……それじゃあ私達ってやっぱり行き遅れ組なのかしら」

律子「失礼な…でもあずささんならホイホイ捕まえそうですけど」

あずさ「もう!それこそ失礼ですよ!……運命の人はそこら辺にホイホイ居るわけじゃないんですから」

律子「へー…まだ追いかけてたんですか」

あずさ「……やっぱり今更何を夢見てるのかしらね、私」

律子「うーん…いいんじゃないですか?逆にあの頃、運命の人って言ってたのがおかしかったんですよ……このくらいの歳の方がセリフ的にピッタリですよ、あずささん」

あずさ「今遠まわしで馬鹿にされてるのかしら…私…」


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律子「でも未だにそういうのに前向きなのは素直に尊敬しちゃいますよ…私なんか未だにベタな『仕事が恋人!』を盾にして生きてますから」

あずさ「ふふ、なら私はお客様が皆恋人かしら」

律子「それ皆さんに言ってあげて下さい、このお店もっとおっきくできるかもですよ」

あずさ「言いませんよもう…仕事が恋人……私もあの時はアイドル一筋で頑張ればよかったかもしれないわ」

律子「………」

あずさ「あ、いらっしゃいませー」

律子「……アイドルの方にもっと意識を傾けさせられなかったのは私の責任ですね」

あずさ「そんな…律子さんのおかげで私はあそこまで頑張れたんです……ただ私が世間を少し軽く見てただけってことですよ……じゃあちょっと離れるわね」タッタッタ…

律子「………」

あずさ「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

律子「あのあずささんが一人でお店……未だにあんまり信じられないなあ」

あずさ「ふぅ…今日はこのくらいかしらね」

律子「何がです?」

あずさ「お客様、もうこの時間帯になるとほとんど出入りがなくなっちゃうの」

律子「意外ですね…こういう時間帯からこのお店本気出すのかと思ってました」

あずさ「?……どういう意味ですか?」

律子「いや、じゃあいいです」

あずさ「?」

律子「そういえば、最近皆と会ってます?」

あずさ「あ、あー…律子さんは?」

律子「私以外でですよ、私の方は春香や千早、響辺りとはよく会うわね」

あずさ「あの娘達はまだ全然テレビに出てるわよね」

律子「はい…千早はまだまだ現役ですよ、来週にも音楽番組に出る予定ですから」

あずさ「そうなの…元気でやってるのね、安心したわ」

律子「春香達はもうバラエティアイドル……というかもうタレントになっちゃってますね」

あずさ「数年前までアイドルだったって知ってる子供は少ないでしょうね」

律子「そこまで時間経ってませんってば……でももうその三人もあの頃と比べればめっきり事務所に来ることも無くなって…」

あずさ「そうなんですか…ちょっぴり寂しいですね」

律子「そうでもありませんよ、他のアイドルの娘達が皆いい娘達ばかりだからこんな私にも優しくて……なんだか小鳥さんの気持ちがちょっとだけ分かっちゃいましたよ」

あずさ「そういえば音無さんは元気にしてます?」

律子「さぁ…何だかんだで嫁いでしまいましたから…今頃イケメン富豪のところで元気にしてるはずですよ」

あずさ「……私、あの人が事務員じゃないということがあんまり信じられないわ」

律子「同感です、今若い子がしてるんですけどあまり慣れなくて……やっぱりすごい影響力あったんですね、あの人」

あずさ「ええ、また会いたいわ…一回飲みにきてくれないかしら」

律子「そ・れ・で、あずささんの方はどうなんです?」

あずさ「うーん…正直に言っちゃうとあんまりもう……ね?」

律子「でしょうね…ここいいお店なのに皆あんまり知りませんもんね」

あずさ「そうね…やっぱり教えたほうがよかったのかしら?」

律子「それはそれで…元アイドルが何度も出入りする飲み屋っていうのも…」

あずさ「まあ元アイドルが経営してしまっている時点で……ねぇ?」

律子「ふふ、それもそうですね…あずささんも座って一緒に飲みましょうよ」

あずさ「んー…そうね…来るかもしれないお客様には申し訳ないけど今日は早めにお店閉めちゃおうかな」

律子「ありがとうございます…でもいつの間にかお酒を誘うのが逆になっちゃって変な感じですね」

あずさ「私はとっても嬉しいですよ、昔はいっつもしかめっ面で律子さんったら断るんだもの」

律子「未成年なら普通に断ります……それじゃあ改めて、思い出話を肴に乾杯」

あずさ「はい、乾杯」

カンッ…

―――
――


あずさ「んっ…んー……今日も暑いわねぇ」

あずさ「9月なんだから早く秋にならないのかしら…」

あずさ「地球さんも困った人…ふふ…」

真「何言ってるんですかあずささん?」

あずら「あら?真ちゃんじゃない!お久しぶりね!」

真「はい…いやぁ~ごめんなさい、最近は全然お店に顔出せなくて」

あずさ「いいのよいいのよ、来てくれただけでうれしいわ…さ、入って入って」

真「それじゃあお邪魔しますね…」

あずさ「そういえば朝からこんな所でどうしたの?」

真「夫がまだ実家から帰って来ないので久々にジョギングを……ついでに朝ごはんを作るのも面倒だったので寄らせてもらいました」

あずさ「そう、じゃあちゃっちゃと作っちゃうわね」

真「はい、お願いします」

あずさ「はい、どうぞ」コト…

真「はあ…相変わらずおいしそう…私もこれぐらいおいしいものを作りたいなあ」

あずさ「あら?真ちゃん、変えちゃったのね?」

真「?何がです?」

あずさ「ボクから私、何だか違和感感じてしまうわ」

真「あぁー…流石にママになってボクっていうのは恥ずかしくて……今だけでも戻しましょうか?」

あずさ「真ちゃんの好きな方で、私はボクの方がいいけれど」

真「それじゃあボクしかありませんね…でもボクって治す時は結構苦労しちゃいましたよ」

あずさ「あら?そうなの?」

真「はい…夫と何度も矯正訓練を頑張りました……でも全然ダメで」

あずさ「ふふ、いい人じゃない」

真「はい、ボクなんかにはもったいないくらいですよ…それで子供を授かったときに思ったんです…ボクって今からお母さんになるんだなって」

真「それからです、自然にボクが私になっちゃって……あの時の感覚は今でも忘れられないなぁ」

真「何だか今までのボクという殻から抜け出したような…とても不思議な感覚でした」

あずさ「ふーん…いい話じゃない」

真「ははは…何だか恥ずかしいですね、この歳になってこんな痛い発言…」

あずさ「そんなことないわよ、私なんて未だに運命の人を探しているのだから」

真「そうなんですか……ははは…あずささんは変わってないなあ」

あずさ「そうなの…はぁ…私を覆ってる殻がどんどん厚くなっていく気がするわ…」

真「大丈夫ですよ、あずささんはきっと見つけますから…その時はママの先輩としてみっちり教えてあげますからね」

あずさ「お手柔らかにお願いしますね…それじゃあ今度来るときはその人とお子さんを一緒にね」

真「はい…あっ…でもあの人、絶対あずささんに惚れちゃいそう…」

あずさ「ふーん、それじゃあ取っちゃおうかしら」

真「っ!な、何言ってるんですかもう!そ、そういう冗談やめてくださいよっ!」ガタッ

あずさ「ふふ、真ちゃんも案外変わってないわね、一途で可愛い所」

真「うっ……この歳で可愛いって言われるとは思いませんでした」

真「けど一途か…プロデューサーは今何してるんでしょうかね」

あずさ「さぁ…まだ現役なのかしら」

真「どうなんでしょうかね…でも会いたいですよ…ボクが好きだった男の人」

あずさ「あら、結構ザックリ言っちゃうのね」

真「もう今更なんで……あー…でも流石に何言ってるんだろうボク…久々に走ったせいで色んな所が熱持っちゃったかな」

あずさ「こういう話、前にも律子さんとしたばっかりなの……こんな歳で色気づくなんてみっともないかしら?」

真「全然、女の人はいつだって恋に燃えていますから……ボクも毎日燃えてるんで…へへへ」

あずさ「ふふ、やっぱり真ちゃんは本質的な所は変わってないわね……本当はお母さんになったからちょっと遠くに感じてしまっていたけれど、安心したわ」

真「そうだったんですか…けど遠く感じちゃうのも仕方ありませんよね…あの頃、皆が仲良かっただけに」

あずさ「……そうね…本当に遠くなったものね」

―――
――


真「それじゃあご馳走様でした、また今度顔出しに来ますね」

あずさ「はい、ご家族一緒で大歓迎よ」

真「へへへ…ではまた」

あずさ「はーい、またいらしてくださいねー」

あずさ「………」

あずさ「よぉーっし!お昼に向けて準備しなきゃ!」

あずさ「………」

あずさ「子供か…いいなぁ…」

スーパー

あずさ「ふぅ~…やっと着いたぁ…」

店員「おや?あずささんじゃないですか、今日はどのくらいで着きました?」

あずさ「聞いて驚かないでくださいね、42分ですよ」

店員「おぉー、そりゃまたすごいですねぇ、前は確か56分くらいだっけ」

あずさ「はい!私は日々進化しているってことですよ~」

店員「それじゃあそのまま頑張ってくださいねー、あっ!今日は卵安いですからお買い求めくださいね」

あずさ「あら、情報ありがとうございます…卵卵~♪」

???「あっ!あずささんじゃないですか!」

あずさ「ん?……まさかやよいちゃん!?」

やよい「はい!お久しぶりですね」

あずさ「とってもキレイになって……一瞬分からなかったわ」

やよい「あずささんもとってもキレイですよ!」

あずさ「ふふ、相変わらず優しいのね…今日はやっぱりお買い物?」

やよい「はい、弟が部活の大会に出るのでお弁当を…」

あずさ「そうなの?それじゃあ気合を入れて作らないとね」

やよい「そうなんですよ~……でも…」

あずさ「?…でも?」

やよい「お弁当作るためにはウチじゃ少し狭いし色々足りなくて…」

あずさ「足りない?どういうことかしら?」

やよい「いえ…部活仲間の子達の分も作らなくちゃいけなくて…でもそれじゃあウチのコンロだけじゃ火力が足りなくて間に合わないんです…」

あずさ「仲間の子達の分まで…」

やよい「はい…私が作る料理を気に入ってくれて……でもやっぱりオーケーしちゃったのは間違いだったかもしれません…うー…」

あずさ「うーん…じゃあウチの厨房でよかったら使う?」

やよい「え?あずささんのお家の厨房ってそんなに大きいんですか?」

あずさ「ええ、私今、お店やってるから」

やよい「!そ、そうなんですか!あずささんすごいですね!」

あずさ「ふふ、知らせられなくてごめんなさいね」

やよい「そんな…でも行きたいなぁ…あずささんのお店」

あずさ「それなら決定ね、今日は私がやよいちゃんを借りちゃうってお家の人達に連絡しておいて」

やよい「はい!あの…本当にありがとうございます!とっても助かります!」

あずさ「いいのいいの、その代わりやよいちゃんには頑張ってもらうつもりだから」

やよい「?」

あずさ「ふふ、楽しみねぇ~」

やよい「鳥のからあげ、お待たせしましたー」

おっさん「おぉ!やよいちゃんじゃないか!アイドル辞めても元気してたぁ?」

やよい「はい!おじさん達が応援してくれたおかげで私は今も元気ですよ!うっうー!」

おっさん「おうおういい事言ってくれるじゃないの…よーっし!今日はやよいちゃんに免じて俺が奢ったるよ!」

後輩「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」

やよい「あずささん、からあげ持っていきました!」

あずさ「うん、ありがとう…ウチの常連さんなのあの人」

やよい「それに私のことを覚えててくれました……今でも覚えててくれて本当に嬉しいです」

あずさ「そうよね、本当手放したくないお客様だわ…あっ、今度は左端の座敷のお客様達に生ビールお願い」

やよい「はーい!……お待たせしましたー!」

あずさ「……これからもバイトで頼もうかしら」

やよい「お疲れ様でしたあずささん……ふぅ…」

あずさ「はい、お疲れ様やよいちゃん…いい働きっぷりだったわ」

やよい「あ、ありがとうございます…えへへ…今日も運んだだけなのにすごく疲れちゃいました…」

あずさ「そういえばやよいちゃんはお仕事どうしてるの?」

やよい「小さな会社でお茶を配ったりする雑務を……やってることは同じなのにすごく疲れましたぁ…」

あずさ「ふふ、それはきっとウチの常連客様達がやよいちゃんのこと大好きだからじゃないかしら?」

やよい「……どういうことですか?」

あずさ「だって一緒に飲んでいたじゃない…普通飲食店で従業員がお客様と一緒に飲んじゃうなんて以ての外なんだから」

やよい「うぅ…ごめんなさい…」

あずさ「いいのいいの、それだけ皆がやよいちゃんのことを気に入ってくれたってことなんだから」

やよい「……えへへ…そうだったら嬉しいな…」

あずさ「でもまだ寝るのには早いわよやよいちゃん、明日の準備準備」

やよい「は、はい…今起きます…」

やよい「んっ…んん…」zzz…

あずさ「でも結局寝ちゃうのね…こんな所で寝ちゃうと風邪引いちゃうわよ~」

やよい「んん……んふぅ…」zzz…

あずさ「ふふふ、仕方ないわねもう…おやすみなさい」ファサッ…

あずさ「よし、それじゃあ仕込みしちゃおうかしら、お店とお弁当の」

あずさ「今日は夜更かし決定ね、お肌がボロボロになっちゃったらどうしましょ」

やよい「………」zzz…

あずさ「さて、私の味も気に入ってくれるかしら……これも将来の花嫁修業みたいなものよね」

あずさ「独身、三浦あずさ、頑張るわよー!」

―――
――


やよい「……んっ…あれ?どこですかここ…」

あずさ「ごめんなさいやよいちゃん、カウンター席なんかで眠らせちゃって」ジャッジャ…

やよい「……あっ…あぁ!ご、ごめんなさい!私寝ちゃってました!」

あずさ「いいのよ、でも私なんかがでしゃばって良かったかしら?」

やよい「そんなっ…とっても助かります!ほ、本当にありがとうございますあずささん!」ペコペコ…

あずさ「そんなに謝らないで、それにほら、もうそろそろお日様も昇ってくるから早くやよいちゃんも取り掛かって」

やよい「はい!」

あずさ「ふふふ…腕がなるわね」

―――
――


あずさ「ふぅ…終わったわね」

やよい「おいしそう…すっごく…」

あずさ「本当ね、私とやよいちゃんが揃えば最強ね~」

やよい「っ……あ、あずささんっ!」

あずさ「ん~?何?」

やよい「本当に…本当にありがとうございました!あずささんが居なかったら私…私…」ペコペコ…

あずさ「もう…そんなに堅くならないで…やよいちゃんが困ってたら助けるに決まってるじゃない…それとも私が困ってた時はやよいちゃん助けてくれないの?」

やよい「そんな!助けるに決まってますよ!」

あずさ「そうでしょう?だから何度も頭を下げないで……ね?」

やよい「……はい!分かりました!」

あずさ「よろしい、それじゃあ朝ごはん食べましょうか?」

やよい「はい!」

やよい「今日はありがとうございました!皆きっとこのお弁当、喜んでくれると思います!」

あずさ「うんうん、それじゃあ弟さんに頑張ってって伝えておいて」

やよい「はい!それじゃあまた…」

あずさ「あ、待ってやよいちゃん」

やよい「は、はい?何ですか?」

あずさ「昨日頑張ってくれたから、はい、お給料」ス…

やよい「えぇっ!?そ、そんな…受け止められませんよ!」

あずさ「いいからいいから、受け取ってくれないと私警察に捕まっちゃうわよ」

やよい「……あ、ありがとうございます…あの中見てもいいですか?」

あずさ「はい、どうぞ」

やよい「じゃあ………っ!ま、待ってくださいあずささん!やっぱり受け取れませんよ!」

あずさ「あら?どうして?」

やよい「こんな大金…昨日の働きに全然見合ってませんよ!ダメです…やっぱり…」

あずさ「ふふ、それじゃあそのお金は後で返しにきてくれるかしら?」

やよい「……後で?」

あずさ「そう、大会終わりにまた皆で……ご馳走をそろえて待ってるわよ」

やよい「っ!あ、ありがとうございました!私…あずささんにまた会えて本当に…本当に良かったです!」

あずさ「私も…やよいちゃんの笑顔が見れてとっても良かったわ……きっとまた来てね」

やよい「はい!絶対来ますね!それじゃあ!」タッタッタ…

あずさ「はい、またね~……よぉーし!今日も頑張るわよー!」

伊織「で、アイドルを辞めて何をしているかと思えばこんなちっぽけな飲み屋だなんてね」

あずさ「それで、伊織ちゃん何にするの?」

伊織「そうね…とりあえずお腹が空いたわ、食べ応えのあるものを頂戴」

あずさ「はーい、ただいまー」

伊織「ふーん…やよいが言うから来てみたけどあずさのくせに結構いい店じゃない」

あずさ「そう?伊織ちゃんに認めてくれてよかったわ」

伊織「ふん…まあちゃんと働いてて良かったわ、あずさがアイドルを辞めて世間に出るなんて最初は考えられなかったんだけど」

あずさ「もう…私は立派な社会人よ」

伊織「はいはい、そういうことにしておくわ」

あずさ「……ふふ…やっぱり伊織ちゃんはいつまでも優しいのね」

伊織「なっ!ば、馬鹿言わないで早く作りなさいよ!」

あずさ「はいはーい」

あずさ「はい、オムソバ」

伊織「オムソバ……まあいいけど」

あずさ「おいしいのよオムソバ、私は好きなんだけどなあ」

伊織「別に嫌いだなんて言ってないじゃない……いただきます」

あずさ「はい、どうぞ」

伊織「………おいしい…」パクパク…

あずさ「あらそう?伊織ちゃんのお口に合って良かったわ」

伊織「まあそうね、この伊織ちゃんがおいしいなんて言うのは珍しいんだから誇っていいわよ」

あずさ「ふふ…ありがとう伊織ちゃん」

伊織「………」パクパク…

???「店主、こちらにも同じ物をいただけますか?」

あずさ「あ、はーいただいま……って貴音ちゃん!?」

貴音「はい、お久しぶりですね、あずさ、伊織」

伊織「何してるのよこんな所で…」

貴音「真から久々に連絡を貰いましたので、あずさの顔を見ようと…」

あずさ「そうだったの…嬉しいわ、ありがとう貴音ちゃん」

貴音「いえ、私こそ今まで音信不通で申し訳ありませんでした」

あずさ「そんなこと今となってはいいのよ…オムソバね、ちょっと待っててね」

貴音「はい、楽しみに待っております」

伊織「で、アンタは今何をしているのよ」

貴音「今でございますか?おむそばとやらを待っておりますが」

伊織「そうじゃなくて…アイドルを辞めて何をしているのかって聞いてるのよ」

貴音「……それはとっぷしーくれっとでございますよ」

伊織「激しく気になるわね…」

伊織「でも貴音全く外見変わってないじゃない…」

貴音「そうでしょうか?」

伊織「そうよ…はぁ…貴音って昔っから不思議だったけどここまで来ると人間なのか疑わしくなるわね」

貴音「伊織、人の秘密に土足で踏み入るものではありませんよ」

伊織「それって秘密があるのね…」

あずさ「はい、オムソバお待ちどうさま~」

貴音「来ましたか…卵が麺を包み込むとはなんと奇抜で面妖な……いただきます」

伊織「ふぅ…それにしてもあずさ、アンタっていつになったら運命の人を見つけるのよ」

あずさ「うっ……もうその話は律子さんとしたわよ!」

伊織「はぁ?知らないわよそんなの……で、いい男は見つからないの?」

あずさ「……まだ」

貴音「急ぐ事はありませんよ、運命に選ばれた者はその刻が来た時には現れますよ」

伊織「何言ってんの、そんな悠長なことしてたから今こうやって一人で飲み屋なんて切り盛りしてるんじゃない」

あずさ「………」ズーン…

伊織「でも…あずさが一人でちゃんとやれてて安心したわ…」

あずさ「……私ってそんなに心配されてたの?」

伊織「当たり前じゃない、右に歩けば海に着いて、左に歩けば登山するくらいなんだから」

貴音「なんと、それは真でございましょうか?」

あずさ「まことじゃありません!……でも心配してくれててありがとう…伊織ちゃん」

伊織「別に、一緒にユニット組んだ仲間なんだから当然でしょ……おいしかったわあずさ、ありがと……また気が向いたら来るわね」

あずさ「うん、また来てちょうだいね」

伊織「そうね、その時は……アンタの本当の運命の人と来るかもしれないわね」ニヤッ

あずさ「っ!そ、それって!」

ピシャン…

あずさ「………」

貴音「ふふ、意地の悪い言い方をしますね、伊織は」

あずさ「えっ…」

貴音「あの方は今も独りでございますよ…伊織はあの方の連絡先を存じているのでああいうことを言ったのでしょう…伊織ならば存じていてもおかしくはありません」

あずさ「そ、そうだったの…ふぅ…」

貴音「ですがあずさ、あの方があずさの運命の人とは限りませんよ」

あずさ「………まさか」

貴音「……あの方がもし訪れたその時はあずさ、どちらがあの方の伴侶となるべき者か、必ずや決着をつけましょう」

あずさ「…分かったわ……お互い良い戦いになるように頑張りましょ」

貴音「ええ、負けませんよあずさ」

あずさ「ふふ、私だって」

あずさ「……でも貴音ちゃん」

貴音「はい、何でございましょうか?」

あずさ「どうしてあの人が独身だって知ってたの?」

貴音「……それもとっぷしーくれっとでございますよ」

あずさ「む?まだまだね貴音ちゃん、ここは私の戦場よ、あなたはアウェーって分かってる?」

貴音「?…一体どういう意味でございましょうか…」

あずさ「話してくれるまで……私の武器で攻撃するってことよ」ゴトンッ…

貴音「………これは…」

あずさ「芋焼酎……付き合ってもらうわよ、貴音ちゃん♪」

貴音「………」サー…


貴音「もう……飲めないでございまぁぁすよぉー…」

あずさ「ふふふ…貴音ちゃんったら可愛いんだから」

―――
――

あずさ「んっ…んー…また今日の朝も天気いいわぁ~」

あずさ「………」

貴音『わ、私…今まで旅をしていたのでございます…』

貴音『そしてある所に立ち寄った時、そこでろけ番組を行なっていた者達がおりまして、その中にあの方が…』

貴音『私は嬉しく思いまして…ひっく…あの方に話しかけました』

貴音『それから他愛の無い話をして……その時にあの方にはまだその相手がおらぬと…』

あずさ「………まだあの人芸能界で頑張ってるのね…」

あずさ「それにしても一人旅かぁ…羨ましい~…」ノビー…

あずさ「私も運命の人を探すために旅に出ようかしら…なんて」

あずさ「よしっ!もしそういう事態になった時のためにも今日も頑張るわよ!」

美希「もう!すっごくありえないの!」

あずさ「そ、そうね」

美希「頭きちゃったの…ミキ、まだ水着でも全然いける歳なのに」

あずさ「うーん…その雑誌の人達は美希ちゃんの魅力が分かってないのね」

美希「そう!そうなの!ミキまだお肌も胸もお尻だって他のモデルの娘に全然負けてないのに!」

あずさ「でも美希ちゃんはモデル業界ではトップだから……雑誌も迂闊なことが出来ないって判断したのかもしれないわ」

美希「?…どうして?」

あずさ「だって美希ちゃんが水着になっちゃったら皆がそっちに目が行って、他のモデルの娘が目立たないってことじゃない」

美希「……そっかぁ!うん、ミキもその通りだと思うの!」

あずさ「そういえば美希ちゃんはどうやってここを知ったの?」

美希「あ、デコ…社長から聞いたの」

あずさ「え?社長?」

美希「うん、水瀬伊織…デコちゃん」

あずさ「……え…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?しゃ、社長になっちゃったの伊織ちゃん!?」

美希「そうなの、ミキが乗ってる雑誌の社長…でも雑誌だけじゃなくてお化粧品とかお洋服とか、そういう女の子の求める物を全部揃えてる会社の」

あずさ「し、知らなかったわ…何も言わずに言っちゃうんだもの…」

美希「だからミキ、社長に雇われて嬉しいんだけど…その社長の下の人達がダメダメなの…あー…やってらんなーい」

あずさ「……とりあえず飲んじゃう?」

美希「うん…お願いするの」

あずさ「それじゃあ最近流行ってるらしいマッコリにしようかしら」

美希「……やっぱりミキ…モデルよりもアイドルの方がいいなあ」

あずさ「そうね…美希ちゃんは確実にモデルよりもアイドルの方がいいわ」

美希「………」

美希「でもハニーが居ないアイドル活動なんて……ミキには考えられないの…今でも」

あずさ「……そう…」

美希「何でハニー…事務所やめちゃったのかな」

あずさ「……はい、マッコリ一丁」

美希「ん…ありがとうなの」

あずさ「私も飲んでみたけどクセが強い気がしたわ、でも結構まろやかで好きな人は好きそうなお酒ね」

美希「……うん…ミキは嫌いじゃないな」コク…

あずさ「そ、よかった」

美希「あー…お仕事って何でこんなに辛いんだろう…あの頃はとっても楽しかったのになあ」

あずさ「そうよねえ…でも私は今の仕事が楽しいけど」

美希「ふーん…じゃあミキもあずさのお仕事手伝っちゃおうかなあ」

あずさ「ふふ、私は大歓迎だけどミキちゃんやってみる?結構疲れるわよ?」

美希「……やっぱりやめておくのー」コクコク…

あずさ「もうミキちゃんったら、少しだけ期待してたのに」

訂正訂正
あずさ「ふふ、私は大歓迎だけどミキちゃんやってみる?結構疲れるわよ?」
あずさ「もうミキちゃんったら、少しだけ期待してたのに」

あずさ「ふふ、私は大歓迎だけど美希ちゃんやってみる?結構疲れるわよ?」
あずさ「もう美希ちゃんったら、少しだけ期待してたのに」


気づかなかった…

美希「それじゃあ逆に、あずさもモデルをしてほしいの」

あずさ「うーん…私がモデルかぁ」

美希「あずさのおっぱいならきっと上手くやれると思うの…」

あずさ「いや、そんなこともう出来る歳じゃないわよ…でもこのお店を畳むことになっちゃったら考えておこうかな」

美希「本当に?」

あずさ「本当本当、だからそれまでに美希ちゃんもモデル頑張ってね」

美希「うん……はぁ~…あずさが来てくれるまでミキは何を糧に頑張ればいいんだろう…」

あずさ「ふふ、私でよかったらいつでも来ていいからね」

美希「……うん!」

あずさ「それじゃあ私も飲んじゃおうかな」

美希「それはダメ!あずさが飲んじゃったら太っちゃうの!太ったらモデルできないの!」

あずさ「……よぉーし、今日は飲んじゃうわよー」

美希「あ、あれ?あずさ?どうしてそんなに顔が怖く…」

あずさ「美希ちゃんも付き合ってもらうわよ~」ニヤニヤ…

美希「っ!こ、来ないでほしいのぉぉぉ!!!」

―――
――


あずさ「はぁ…最近は飲んでばっかりだなあ」

あずさ「売り物のお酒まで飲んじゃって…請求なんて出来ないし…はぁ…」

あずさ「………」

あずさ「うーん…何だか体も重いようなダルイような…」

あずさ「お昼前まではお客も来ないし…お医者さんのところに行こうかしら」

あずさ「はぁ…仕事を優先するなら自分の身をまず確認しないといけないし」

あずさ「よし、行かないと…」

病院

あずさ「ふぅ…」

あずさ「………」

あずさ(どうしましょう…迷って歩いている間にいつの間にかダルさが無くなっちゃった…)

あずさ「今更行っても仕方ないわよね…帰りましょ…というかやっぱりただの二日酔いねきっと…」

???「あれ?もしかしてあずささんですか?」

あずさ「?……どちら様でしょうか…?」

真美「ふふ…真美だよ真美、あずさお姉ちゃん」

あずさ「えっ…ま、まさか真美ちゃん!?」

真美「そだよー、ていうか気づいてくれなくて超ショックだったんだけど」

あずさ「いや…何だか面影があるようでないような…でもとってもキレイになったわぁ~」

真美「へへへ、褒められて悪い気はしないな~」

あずさ「でも突然あんな話しかけられ方をされたら分からないわよ」

真美「真美だって流石に常識に則って生活してるんだよ~?」

あずさ「まあそうよね…けど本当に分からなかったわ…変わっちゃったのね」

真美「いやあ、子供のままでいたかったよ…でも現実を見据えなきゃいけない時が来てしまってね…」

あずさ「ふふ…確かにその外見で昔の喋り方だと逆に不自然ね…真美ちゃんも現実を受け止めたのね」

真美「受け止めたって…あずさお姉ちゃんから見た真美って一体……それに普段はもっと知的な話し方なんだよ~」

あずさ「へぇ~…それは見てみたいわね」

真美「きっと度肝を抜かれるぜ~、お医者さん見習いだからもっと難しい専門的な話だってできるんだぜ~」

あずさ「お医者さん……うん、白衣姿似合ってるわ」

真美「そうっしょ?昔は派手なのを着てたから今じゃあこういうのが新鮮なもんで…」

あずさ「……そういえば亜美ちゃんは?」

真美「ああ、亜美なら今お昼ごはん買ってきてるよ~」

亜美「で、亜美が買いに行ってる時に真美だけあずさお姉ちゃんとお話ですか」

あずさ「!亜美ちゃん!まあまあ、キレイになっちゃって」

亜美「へへへ…突然ベタ褒めしないでほしいなぁ」

あずさ「あ~…もうあの時一緒にユニットを組んでいたあの女の子はこんなに成長しちゃったのね…」

亜美「ふっ…病院前で泣かないでくれよ姉ちゃん、変な噂立てられるからな」

真美「それじゃあ流石に戻ろうか、時間もヤバめだし」

あずさ「あら…ごめんなさい、迷惑掛けていたかしら…」

真美「そんなことないよ、丁度休憩時間だったし」

亜美「そうそう、それにあずさお姉ちゃんに会えただけでもうお昼ご飯さえいらない感じ~」

あずさ「?…どういう意味?」

亜美・真美「にっひっひっひっひ…こういう意味ぃ!」ムギュッ

あずさ「きゅあっ!も、もう!コラー!」

亜美「へへへー、あずさお姉ちゃんのメロンご馳走様でした~、またねあずさお姉ちゃん!」タッタッタ…

真美「後りっちゃん達から聞いてるよー、お店暇できたら行くからねー!その時はメロン以外のおいしい物頼んまーっす!」タッタッタ…

あずさ「……はぁ…成長したのかしてないのか…あの子達ったら」

あずさ「いい物見れたけどまた帰り道で時間潰しちゃったわ…はぁ~、いつになったら道を覚えられるのかしら…」

あずさ「……早くお店の支度しないと…」

あずさ「………」

あずさ「皆変わっちゃってるのね…中身はあの頃と同じところがいっぱいだけど環境が劇的に変わっていってて…」

あずさ「もう昔の仲間たちがお互いの環境に入り込めないような…」

あずさ「………」

あずさ「何を言ってるのかしらね私…最近は考え事も多くなったし…」

あずさ「……お店開けないと」カラカラ…

???「こんばんわ!あずささん!お久しぶりですね!」

???「……こんばんわ、ご無沙汰しています」

あずさ「……あ、あなた達は…」

「「乾杯っ」」

春香「っはぁ~…これのために頑張ってるもんですよー」

千早「春香、オヤジ臭いわよ」

春香「なっ…酷い…楽しみを終えた一言を認められないなんて…」

千早「春香、演技臭いわよ」

春香「……わ、私そんなに臭くないよ!」

あずさ「……ここに来る前にどこかで飲んできたの?」

千早「いえ…全然」

春香「大体何なんですか!打ち上げの時とか全然私の傍に誰も寄ってこないんですよ!酷いと思いませんか!?」

あずさ「ええ…そう思うわ」

春香「そうですよね!宴会はお酒を飲んで楽しくお喋りするためのものなのに皆さん!皆さんですよ!私を腫れ物を扱うように…」

千早「いつもお酒を飲むとこうなってしまうんです…無視してくれて大丈夫ですよ」

あずさ「お客様の愚痴だって聞くのが飲み屋のお仕事だから…任せて」

春香「そういえば千早ちゃんってこういうお店来ることないよね?」

千早「ええ…昔はお酒が出るお店で歌ってたことはあるけども自分が飲むために来ることはないわね」

春香「ふーん…それじゃあ今日はじゃんじゃん飲んじゃおっか!」

千早「明日も仕事入ってるんでしょ?二日酔いで仕事に行ったら大問題よ」

春香「もう!千早ちゃんは親友の私を信じてないの!」

千早「ええ、お酒を飲んでる人を信じるほど馬鹿じゃないわ」

春香「………あぁぁぁぁぁぁぁ…どうして世間の風当たりはこんなに強いのぉぉぉぉ…」

あずさ「昔の春香ちゃんとは思えないわね、おつまみ要る?」

千早「はい、何も食べてないので…」

あずさ「了解でーす、後春香ちゃん」

春香「……はい?」

あずさ「他にもお客様がいるから、そんな醜態を晒しているとイメージダウンに繋がるわよ?」

春香「………」

千早「全くその通りよ、今の時代視聴者がテレビにタレコミすることがあるんだから」

春香「…わ、私もうお酒いいかもしれません…」

あずさ「ふふふ、でもまさかあなた達二人と一緒にお酒を飲めるとは思わなかったわ」

千早「いいんですか?一緒に飲んで…」

あずさ「いいのいいの、私がそういう緩いのを分かってて皆来てるし」

春香「私が言うのもなんだけど…それって大丈夫なんですか…?」

あずさ「ええ、だって常連さんたちは私のファンの人達なんですもの」

春香「っ……じゃ、じゃあ…」

あずさ「ええ、きっと春香ちゃんのことも知ってるはずよ」

春香「」バッ

おっさん「」サッ

千早「酒は身を滅ぼすのね…いい勉強になったわ」

春香「はぁ…これじゃあ本当にアイドルじゃなくてタレントになっちゃいますよ…」

あずさ「そっか…まだ春香ちゃんたちは765プロのアイドルだったわね」

千早「アイドルだなんて…もう書類上だけですよ、今となっては」

春香「そうなんですよ…今じゃあ女優活動とタレント活動……これだけですよ」

千早「私も歌だけです…最初はこの環境を望んでいたのですが」

あずさ「環境…」

春香「変わっちゃいましたよ、環境も、人間関係も」

千早「………」

春香「765プロは新人アイドルばかりで、知り合いはもう千早ちゃん、響ちゃんと社長さんだけ…」

千早「仕事だって望んでいた歌の仕事ばかりです…けど本当にそれだけ…」

春香「何だかんだありましたけど…やっぱりプロデューサーさんと一緒に頑張ってた時が一番でした」

千早「ええ…好まない仕事ばかりだったけれど……今となっては物足りないような…」

あずさ「………」

ガラッ

響「おーい!来たぞー!あずささーん!」

雪歩「こ、こんばんわぁ…」

あずさ「あら、響ちゃん雪歩ちゃん、いらっしゃいませ」

響「おいおい店を開いたのに自分たちを呼ばないなんて幾らなんでも酷いぞ!」

雪歩「あの…隣座ってもいいですか?」

春香「はーい、どうぞー」

千早「我那覇さんは私の隣に」

響「うん、失礼するぞー」ス…

雪歩「あの…私ウーロン茶でお願いします」

響「自分も同じので頼むよ」

あずさ「はい、ただいまー…それと鳥のからあげと枝豆、四人でお好きにつまんで頂戴」

響「お!丁度お腹空いてたんだー、いただきまーす」

春香「あっ!私も空いてるのに!いただきます!」

千早「それで萩原さんは今どんなお仕事を?」

雪歩「私は実家のお手伝いを…とてもじゃないけどあずささんみたいなお仕事は出来なくて…」

あずさ「あらそう?慣れるとおもしろいのよこれが~」

響「雪歩もここでバイトしたらどうなんだー?」

雪歩「そ、そんな!私になんて無理だよぉ…」

千早「そんなことないわよ、萩原さんならきっと出来るわ」

雪歩「……そうかなぁ…」

春香「うんうん、だって雪歩っていつも最初は無理とか出来ないとか消極的に入るけど、結局やり遂げちゃいますからね」

あずさ「それが雪歩ちゃんの強みでいい所よね…私だったらいつでも待ってるわよ」

雪歩「っ!あ、ありがとうございます…本当はこういうお店で働くのって少し興味があったんですぅ…」

あずさ「ふふふ、暇な時でいいから顔出してね、雪歩ちゃん」

雪歩「は、はい!」

春香「でも何だかんだで今日は有意義ですよ~…昔に戻ったみたいだね」

千早「そうね…私も本当に久しぶりよ、こんなに楽しいおしゃべりをしたのも」

響「自分も最近は外国へのロケとかのせいで体がボロボロだからこういうのとっても楽しいぞ」

雪歩「……皆…頑張ってるんだね」

春香「頑張ってるよ…でも何だか…」

雪歩「?…何だか…?」

春香「何だか昔の頃からズルズルとやってるような気がしてならないのよ…」

響「……確かに自分もそう思うな…」

千早「私も心のどこかでいつかまたあの頃に戻れると思って仕事をしているわ…そんなのただの幻のようなものなのにね」

あずさ「………」

春香「はぁ…本当に…本当に楽しかったなあ」

あずさ「……昔は思い出したって今の環境は変わらないわよ、春香ちゃん」

春香「もう、せめてお酒の席でぐらい夢を見させてくださいよ~」

あずさ「夢を見ていたっていつかは現実に潰されるものよ…お酒はその夢を見るものじゃなくて現実を忘れさせるためだけのもの、ちゃんと分かって飲んでね、春香ちゃん」

春香「あぁぁ…やっぱり当たりが強い…」

千早「現実を忘れられるんですか…こんなもので」

あずさ「個人差はあるわね、でもいい物よ、お酒って」

春香「そうですよー、お酒はいい物ですよー、もっと飲んじゃいましょう!」

あずさ「あら、春香ちゃんったらお酒もういいんじゃないの?」

春香「どうせ明日のお仕事に潰されてしまうんですよ、それなら気分よく潰されたほうがマシです!そうでしょう!」

響「おぉ!よく言ったぞ春香!自分も明日ブラジルに飛ぶけど飲みまくるぞ!あずさ、自分、生ビール一つ!」

雪歩「二人共明日大丈夫なのかなぁ…」

あずさ「お酒は自己責任よ、萩原さんの心配することじゃないわ」

千早「あの…本当に申し訳ありませんあずささん…こんなに騒ぐつもりはなかったんですけど…」

あずさ「いいのよ、本当はこういうお客様は迷惑極まりないけど」

おっさん「」ポリポリ…ゴクゴク…ニヤニヤ…

あずさ「他のお客様も承諾してるみたいなので、今回は特別ね」

千早「ありがとうございます…ほら、春香もちゃんと謝って」

春香「こんな所で謝るなんて場違いなことしないよ!ほら、あずささんも飲んじゃいましょう!」

あずさ「……それもそうね、飲んじゃいましょうか!」

―――
――


雪歩「………」zzz…

響「うっ…き、気分悪い…」

春香「はぁ…はぁ……ち、千早…ちゃん」

千早「ごめんなさいあずささん、トイレはどちらに…」

あずさ「あ~、トイレならそっちの方を奥に行けばあるんじゃないかしら~」

千早「ありがとうございます…って行き止まりなんですが…」

あずさ「あっ…ごめんなさい間違えちゃったわ」

千早「………」

春香「ちっ…ちはっ…ちゃん……もう座らせて…」

千早「いいから頑張って歩きなさい春香、あずささんのお店を汚したくないでしょ?」

春香「うっ……ん…」

あずさ「あ、トイレ見つかったかしら~?」

千早「はい、おかげさまで…でもこんな事になってしまって…」

あずさ「いいじゃない、いいじゃない…ほら千早ちゃんも飲んで飲んで」

千早「いえもう…」

あずさ「ぶー…ツレないなあ……でも楽しかったわ、ありがとう、千早ちゃん」

千早「……はい、私もですよ」

あずさ「あーあ…皆とこうやって楽しくできないかしらね…また…」

千早「………」

あずさ「お互いもう関わりが少なくなっちゃった皆とまた…こうやって他愛の無い話をして…楽しく食べたり飲んだりしたいわね…」

千早「……そうですね」

あずさ「……んっ…はぁ…」コクッ…

あずさ「……お酒が夢を見せてくれたらいいのにね、いつまで経っても現実しか見えないわ…悲しいことにね」

―――
――

雪歩『それじゃあ私はこれで…』

響『の、飲みすぎたぁ…明日大丈夫かな…またな、皆……うっ…』

春香『もう一人で帰れるってばぁ…馬鹿にしな…いったぁ!…も、もう世界なんて嫌いよぉ…』

あずさ「春香ちゃんはお酒飲んでもそそっかしいんだから…」

千早「……皆、帰ってしまいましたね」

あずさ「そうね~…でもまた来てくれるわよね、絶対」

千早「ええ、皆このお店を気に入ったはずですから」

あずさ「ふふ、そういうのお店の人にしてみれば結構嬉しいセリフよね……ありがとう、千早ちゃん」

千早「いえ……あの…あずささん」

あずさ「?…どうかした?」

千早「………一つ相談いいですか?」

あずさ「ん~?何かしら?」

千早「………ごめんなさい……春香達がたくさん飲みましたけど…お酒…またお願い出来ますか?」

あずさ「……はい、ただいま」

千早「………」

あずさ「でも夜も深いしあんまり飲んじゃダメよ、明日キツくなっちゃうから」

千早「大目に見てください…明日はオフなので帰ったらそのまま寝てしまう予定なので」

あずさ「そう、じゃあ、お酌させてもらおうかしら」

千早「ありがとうございます…」コポコポ…

あずさ「………控えめにね」

千早「善処します…」

あずさ「それで、どんな相談かしら?」

千早「っ…驚かないでくださいね…」

あずさ「うん……それで」

千早「……私…結婚を申し込まれているんです」

あずさ「っ!……そう」

千早「はい…前に大晦日の歌番組で競演した人に毎回食事の誘いを受けてて…それから先日…結婚指輪を…」

あずさ「…嬉しかった?」

千早「とても……その指輪は私がいただくには少々もったいないくらい綺麗で……本当に申し訳なくて…けど同時やっぱり嬉しかったです」

千早「彼とは歌の趣味も合っていたし、とても優しく…私の方も気になっていたんです……いえ、もう好きになっていました」

あずさ「………」

千早「だから私、受けようと思ったんです……彼となら一緒になってもいいって思って…けど…」

千早「彼を思うたびに…ずっとちらつくんです…あの人が」

千早「とっくの昔に諦められたあの人がずっと頭の中に浮かんでくるんです…」

あずさ「………」

千早「そのたびに昔、あの人を想っていた自分とあの人を裏切ったような気がして……だから…彼の想いに答えられなくて…」

あずさ「……でも彼はあなたを待っているんでしょう?」

千早「はい…でももし、急いであの人への想いを隠しながら彼と結ばれたら……きっとお互い後悔するはずです」

あずさ「………」

千早「だから私はこんな未練がましい自分に彼を巻き込みたくありません……そう思っていつも渋っていても彼はめげずに何度もその指輪を渡しに来てくれて…」

あずさ「………」

千早「もう耐えられないんです…分からないんです……過去を引きずって彼と一緒になるのか…過去を引きずって彼と別れるのか…」

千早「でもどちらを選んでもお互い納得できない結果になってしまうはずです……私のせいで」

あずさ「……そっか」

千早「…んっ……こういう話をしている時って、お酒はとっても飲みやすいですね」

あずさ「そうね…もやもやを吐きだした分、刺激のある物を欲しちゃおうものなんじゃないかしら、人間って」

千早「……そうかもしれませんね…それであずささんはどう思いますか…?」

あずさ「うーん…まあ仕方ないわよ、人と一緒になるなんてそう簡単に決められる事じゃないわ」

千早「……それは彼も同じです…彼もきっと悩んで決めてくれたと思います」

あずさ「そうね…残りの人生を一緒に添い遂げる人を決めるんだからきっと悩んだと思うわ」

千早「………」

あずさ「でもね千早ちゃん、彼が悩んだということが分かっているなら彼の想いがどれだけかっていうのも分かってるんでしょう?」

千早「……はい」

あずさ「それなら簡単に別れるなんて選択はしちゃダメよ、同じ過ちを犯してしまうことになっちゃうんだから」

千早「同じ…過ち?」

あずさ「ええ、もしその彼と別れた後に千早ちゃんはまた新しいいい人を見つける…でもまた過去のことを引きずっちゃう…堂々巡りね」

千早「うっ……そうかもしれません…」

あずさ「でしょ?でも確かにあの人への想いがあるのにその彼と一緒になるのは……考え物よね」

千早「……どうすればいいんですかね…私」

あずさ「……私は相談に乗ってあげるだけで解決させることは出来ないわ…ごめんなさい千早ちゃん」

千早「………そうですか」

あずさ「けど、一つだけ言えるの……時間が経てば環境が変わる…いつまでも昔のままじゃいられないの」

千早「………」

あずさ「千早ちゃんは少しだけ昔の環境を求めすぎている感じがするわね…どれ程あの頃が大好きだったのかが分かっちゃうぐらい」

千早「……はい」

あずさ「でもね、その頃の皆は今をちゃんと生きてる…私も、千早ちゃんも」

千早「………」

あずさ「だからもし過去を吹っ切られなくても、今、一緒にいる人と一緒に乗り越えればいいわ……要するに、私じゃ何も出来ないからその彼の人と一緒に考えて」

千早「…そうですよね」ゴクッ…

あずさ「ごめんなさい、あんまり力にはなれなかったわよね…私そういう経験ないから、こんな歳で」

千早「いえ、あずささんに相談してよかったです……でもやっぱりめんどくさい女ですよね、私」

あずさ「そんなことないわ、真ちゃんだって言ってたもの、女の人は毎日恋に燃えているって……千早ちゃんもきっと燃えてるのよ」

千早「恋に燃える……ふふ、何だか古いですね、そのフレーズ」

あずさ「あら、私も結構気に入ってるのに…もしかして私の感性って古いのかしら」

千早「どうですかね、今を生きている私には分かりませんよ」

あずさ「まっ…生意気……でも幸せになってね千早ちゃん、何があってもまたおいしいお酒用意して待ってるから」

千早「……はい…またきっと来ますね……彼と一緒に」ニコッ

―――
――


あずさ「恋バナをこんな歳でするとは思わなかったわ~…何だか新鮮な感じ」

あずさ「………」

あずさ「でも千早ちゃんも苦悩してるのね…色々と」

あずさ「結婚や相手の人のこと、そしてプロデューサーさん……千早ちゃんだけじゃ抱えきれない大きな問題がいっぱい」

あずさ「それに比べて私は問題なくのほほんと生きているって実感しちゃったわね…」

あずさ「………」

あずさ「それも…一つの幸せかもしれないけれど」

あずさ「少し…寂しいかもしれないなぁ…」

???「……すいません」

あずさ「っ!?は、はい!」

???「今…このお店やってますか…?」

あずさ「あっ!はい、やってますよ……って!あなた!」

小鳥「………」

あずさ「どうしたんですか音無さん…気分でも優れないのかしら?」

小鳥「いいえ…でもごめんなさいねあずささん……久しぶりに会えたのにこんな見苦しい姿を…」

あずさ「そんな…会えただけでとっても嬉しいですよ…それで誰から…?」

小鳥「誰か?……たまには町をブラブラしようかなって思って…そしたらあずささん似の人が飲み屋の前に立っていたから…」

あずさ「そしたら私だった……なるほど」

小鳥「すごい偶然よね…私のアイドルセンサーが数年ぶりにビビっと反応しちゃったのかしら」

あずさ「ふふ、それよりもお腹空いていませんか?本当は今の時間帯は朝食メニューしか出せないんだけど、音無さんなら特別に食べたいものを作ってあげますよ!」

小鳥「っ…それじゃあその朝食メニューを……あずささんが…私のためだけに作ってくれた朝食が食べたいです…」

あずさ「はい、ただいま」

あずさ「どうぞ、今日はオーソドックスな鮭の塩焼き定食です、ご賞味あれ」

小鳥「……いただきます」ス…

あずさ「………」

小鳥「っ…っ……んっ…っ…」ハフハフッ

あずさ「ふふ…音無さん、そんなに急がなくても焼いちゃった鮭は逃げませんよ」

小鳥「……ご…ごめんなさいあずささん…止まらないの…もう…温かくてすごく…すごく止まらないの…」ハフハフ…

あずさ「………」

小鳥「んっ…こんなにおいしい朝食久しぶりです……タダで…本当にありがとうございます…」

あずさ「こらこら、誰も無料で作ってあげませんよ」

小鳥「ふふっ…もうっ…そこは大目に見てくれてもいいじゃない…」

あずさ「ダメです……ゆっくり食べてくださいね」

小鳥「……はい」ニコッ

小鳥「ぷっはぁ…あー……おいしかったぁ…」

あずさ「それで、どうしちゃったんですか音無さん」

小鳥「……あ、あのお味噌汁のおかわり…」

あずさ「ちゃんと訳を喋ってくれたらタダにしてあげても構いません」

小鳥「………強気なあずささんには勝てないわね」

あずさ「……観念したのなら話してくれませんか…私…こんな状態の音無さん…今まで見たことなくて…」

小鳥「そっか……うん、そうよね…前までの私とは似ても似つかないような女になっちゃったから…」

あずさ「………」

小鳥「私が嫁いだことは知ってる?」

あずさ「ええ、確か玉の輿って…」

小鳥「そうなの…けど最近……ううん…もう数年前からその相手の彼と別居してるような関係が続いてるの…」

小鳥「それでたまに家に居ても私とは無機的な会話ばっかりで…ごはんも稀にしか一緒に食べてくれないし……それも夜遅くとか」

あずさ「………」

小鳥「けど…彼は結婚した時言ってくれたのよ…ちゃんと夜の8時までには帰ってきて一緒にご飯を食べてくれるって…その約束は絶対守ってくれるって」

あずさ「……でも守れていない…」

小鳥「ええ…けど…けどやっぱり止められないものなのよ…あの時の約束を守って8時までにご飯を作ること…」

あずさ「………」

小鳥「いつか彼がまた私と楽しく一緒にご飯を食べてくれる……そう、思っちゃうと自然に手が動いちゃって」

小鳥「だから私がいつも食べるご飯は冷め切っていて…温め直しても全然おいしくなくて…」

小鳥「彼も夜遅くに帰ってきて私が作った冷め切ったご飯を食べて……イヤそうな顔をしてすぐ自分の部屋に行っちゃって…」

小鳥「それから私も食べきれないから捨てるしかなくて……そういうのが毎日……ずっとその繰り返しなのよ…」

あずさ「………」

小鳥「私、毎日考えちゃってるの…昔に戻って浮かれていた自分を殴ってやりたいって…何が結婚だ…顔や金で踊らされやがってって」

あずさ「………」

小鳥「こんな悲しみを味わうんだから一生独身でいろ…って」

小鳥「言ってやりたい……結婚なんて…地獄の連続だって」

あずさ「………」

小鳥「これが…私が今日、まるで死人のような状態の理由……でもこれでタダね、やったぁ」

あずさ「………」

小鳥「お味噌汁、もう一杯もらえる?あずささん」

あずさ「はい…私なんかが作ったのでよければ」

小鳥「謙遜しちゃダメよ……ここ数年、私が飲んだお味噌汁の中ではトップなんだから」

あずさ「そうですか…それはよかったです」ス…

小鳥「ありがとう……ねぇ、あずささん」

あずさ「……何ですか?」

小鳥「この鮭の塩焼き定食……本当においしかったわ…何故か分かる?」

あずさ「………分かりません…」

小鳥「それはね、多分、私への愛情だと思うの」

あずさ「……愛情?」

小鳥「こんな状態の私を心配してくれたあずささんの愛情がこの定食の中につまってるのよ、たくさん……ってちょっと自意識しすぎかもね」

あずさ「……愛情…そうですよ、愛情です……よく気づきましたね、音無さん」

小鳥「そう、良かった……鮭の塩焼き定食、ご馳走様」

あずさ「……はい、満足してもらえて良かった…」

小鳥「ふふ……あー…でも考えちゃうなぁ…」

あずさ「…何をですか?」

小鳥「いや…私だって彼のために毎日愛情を込めて作ってるはずなのに…どうしてあんな顔するのかなって……あずささんは分かる?」

あずさ「っ………ごめんなさい…私には分かりません」

小鳥「そっか……うん、私も分からないわ……分かりたくもない」

あずさ「………」

小鳥「今日はとってもいい朝をすごせたわ…本当に感謝してもしきれないくらい」

あずさ「……今度は飲みに来てくださいね、おいしいお酒たくさん用意して待ってますから……来なかったら私の方から探して連れて来ますからちゃんと来るように!」

小鳥「っ…も、もう!オバサン泣かせるようなこと言わないでよ……またフラって立ち寄るからその時まで…さよなら、あずささん」

あずさ「はい…また絶対に会いましょうね、音無さん」

小鳥「っ……ええ」ニコッ…

―――
――


あずさ「ありがとうございましたー、またいらしてくださいねー」

あずさ「………」

真『何だか今までのボクという殻から抜け出したような…とても不思議な感覚でした』

千早『どの道お互い納得できない結果になってしまうはずです……私のせいで』

小鳥『言ってやりたい……結婚なんて…地獄の連続だって』


あずさ「三者三様……皆…結婚によって大きく変わっていってる」

あずさ「……でも私ってそれくらい大きな問題をあんな若い時に平然と…はぁ…」

あずさ「恥ずかしいなぁ…本当に…」

あずさ「………」

あずさ「もし私が運命の人を見つけられたとしても……それから一体どうなるのかしら」

あずさ「……考えても無駄よね…そんなこと」

あずさ「………」

あずさ「もう…お店閉めちゃおうかしら…」

カラカラ…

あずさ「っ!い、いらっしゃ……あっ…」

社長「こんばんわ三浦君……入っても良かったのかな?」

あずさ「どうぞ…」コポコポ…

社長「いやあ…三浦君にお酌してもらえるなんて夢みたいだよ」

あずさ「そんな…私もとっても嬉しいです」

社長「それは良かった……うん、今日のお酒は格別だね」ゴキュ…

あずさ「………」

社長「けど、三浦君の表情はあまりいいとは言えないね、何かあったのかい?」

あずさ「……いえ…ただ少し色んなことがありまして…」

社長「ふむ…良かったら話してくれるかな、私も君が居た元アイドル事務所の社長として力になりたいんだ」

あずさ「………」

社長「もしかして私じゃあ頼りなかったかな?」

あずさ「いえ…でも飲み屋の店主としてお客様よりも自分を優先するのは…」

社長「そんなつまらない御託を僕は酒の肴にする気はないよ……だから三浦君、ここまで来ると信用されてないと思えてきて泣いてしまいそうだから話してくれるかな?」

あずさ「ふふっ…分かりました、それじゃあ私の悩みについての相談を聞いてくれますか?」

社長「ああ…どんと来なさい」

社長「なるほど…結婚か…」

あずさ「昔の私はそれをすごく軽視していて……今、皆の状況を聞いて今更恐怖心が出てきてしまって…」

社長「……私も音無君の事情は知っていたよ…でもまさかそこまで悪化していたとは」

あずさ「……馬鹿ですよね…運命の人を探すためにアイドルをしていたのに結果、結婚自体に怖気づいちゃうなんて…」

社長「そんなことはないよ…でも一生を掛ける問題だ、あの頃の君は確かに結婚という行為を軽く見ていただろうね」

あずさ「………」

社長「けれど、結婚というのはそんなに重たいものでもないよ」

あずさ「……どういう意味ですか?」

社長「私が彼……プロデューサー君をプロデューサーに抜擢した理由を君は知っているかね?」

あずさ「………」

社長「簡単なことだよ、彼を人目見て、ティン!ときたからだよ」

あずさ「ティン…」

社長「そう、彼ならこの765プロを何とかできる人間だと、直感的に判断してしまったんだよ」

あずさ「直感…」

社長「そして彼は本当にやり遂げた……私の直感と判断は間違っていなかったんだ」

あずさ「……それとこの話には一体何の関係が…」

社長「分からないかい?結局私が言いたいことと言うのはね、三浦君、君はティンっと来るような瞬間があったかい?」

あずさ「………」

社長「その場面に出会った時、心から何かがあふれ出なかったかい?」

あずさ「あふれ出る…」

社長「そうだ、君の場合は心からこの人が好きだ、この人と一緒になりたい…という時が」

あずさ「………」

社長「もしあったのならそれが君の運命の人かもしれないし、違うかもしれない……けれど」

社長「その人と一緒になることはきっと幸せなことのはずだよ……結婚はそれだけの意味は確実にあるんだ」

あずさ「………」

社長「そして、それからの道はその人と一緒になって考えればいい、それが幸せか不幸せになるのか…それも結婚するからこそ分かる利点だよ」

あずさ「…何だか結婚っていう物がいい物のように聞こえますね」

社長「私は少なくともそう思ってるからね、君にもそう思ってほしいよ」

あずさ「どうですかね…」

社長「もし無くても今から見つければいい…君はまだまだ全然若いのだから」

あずさ「……もう一杯注いじゃいますね」

社長「うん、悪いね……なあ三浦君、これからもここを贔屓にさせてもいいかな?」

あずさ「……はい、社長さんなら大歓迎ですよ」

社長「うん…とてもいいオアシスを見つけたもんだ……いいお酒といい女将さん…」

あずさ「ふふ、そんなに褒めたって何も出ませんよ」コポコポ…

社長「けれどまだ少し足りないかな…あるものが欠けているよ」

あずさ「……何がですか?」

社長「君が一番分かっているのだろう?」

あずさ「………やっぱり社長さんはすごいですね」

社長「そりゃあ私だって今まであの事務所を支えてきた人間だからね…それくらいは分からないと務まらないものだよ」

あずさ「………」

社長「今ならまだ全然間に合うと私は思うよ、三浦君」

―――
――

あずさ「………」

社長『君が一番分かっているのだろう?』

あずさ「………」

社長『今ならまだ全然間に合うよ、三浦君』

あずさ「言わなくたって私だって…」

あずさ「………」

あずさ「何も出来ない…はぁ…」

伊織『そうね、その時は……アンタの本当の運命の人と来るかもしれないわね』ニヤッ

あずさ「……あれって…」

あずさ「………」

あずさ「皆ごめんなさい…約束よりも少し早めにまた会うことになるかもしれないわ…」

Prrr...

今更ながら>>130訂正
社長「もし無くても今から見つければいい…君はまだまだ全然若いのだから」

社長「もし心からあふれ出るような瞬間が無くても今から見つければいい…君はまだまだ全然若いのだから」

伊織「で、やっぱりこうなっちゃう訳ね」

あずさ「ありがとう伊織ちゃん…皆を呼んでくれて」

伊織「いいわよ別に、久々に全員が集まるなんて私だって嬉しいんだから…」

あずさ「うん…私も嬉しいわ…本当に」

伊織「そ、じゃあ早く準備しなさいよね、皆が来て何も出せなかったら飲み屋の店主として失格よ」

あずさ「はい!それじゃあ伊織ちゃん、皆の分のグラスとか出してくれるかしら?」

伊織「……ホントしょうがないわね…あずさがこの伊織ちゃんを使うのは何だか癪だけど…今日ぐらいは許してあげる」

あずさ「やっぱり伊織ちゃんは優しい…きっと何十年経っても優しいままで居てくれるといいなぁ~」

伊織「っ!バ、バッカじゃないの!たかがグラスを出すだけでそんなことっ……あずさはとっとと作りなさいよ!」

あずさ「はいはい、ウチの臨時アルバイトさんはとっても厳しいわね」

ガラッ

やよい「私もー!私も手伝わせてくださーっい!」

あずさ「あら、やよいちゃんこんばんわ」

やよい「はい!あずささん、伊織ちゃんこんばんわ!……あれ?」

伊織「な、何よ…」

やよい「伊織ちゃん…あずささんのお手伝いしたいからもっと上手になるように料理を教えてほしいって言ってたのに何で食器類を…」

伊織「や、やよいっ!手伝うならほら早くこっちを先に手伝いなさいよ!……もう」

あずさ「それじゃあ後で伊織ちゃん、厨房手伝ってみる?人手がとっても足りないの…」

伊織「なっ……まああずさがそこまで言うなら伊織ちゃんは別に…」
ガラッ

響「はいさーい!来たぞみんなー!」

伊織「ちょっと響っ!もう少し空気読んで入ってきなさいよ!」
響「な、何で自分が怒られるんだ…?」

春香「ねえ早く入ってよー」
千早「あの…我那覇さん……早く入ってもらっても…」

響「だって自分何にもしてないのに怒られたんだぞ!?春香達だってそう思…」

真「はーいどいたどいたー!お店の前で溜まってるとお店の人に迷惑だよー!」

響・春香「うぎゃぁー」

雪歩「こんばんわぁ…」

あずさ「あら皆さんこんばんわ、好きな所に座ってくださ~い」

雪歩「あ、あの!私も手伝うことがあったら…」

あずさ「ふふ、じゃあ少し頼んじゃおうかしら」

雪歩「はいっ!」

ガラッ

亜美・真美「双子ドクターズ、ただいま参上ー!」

美希「あは!皆揃っちゃってるの!」

貴音「なんと懐かしい光景でしょう…心躍りますね」

やよい「皆さんこんばんわ!うっうー!」

亜美「真美さんよ、この女性は何を言っているのだろうか?うっうー?」

真美「おそらく社会という鉄檻の中で我を見失ってしまったんだろう……察してあげてくれ」

やよい「もう!イジワルしないでよ二人共!」

美希「それにしてもやよいもキレイになったの、まあミキには敵わないけどね」

伊織「あーら、私の力があればやよいがどれ程になるのかしらね……美希?」

美希「うっ…社長も来てたんだ…」

伊織「ふふっ、私の前であんまり生意気なことは…」

あずさ「ちょっと伊織ちゃん!火を使ってるときに余所見しちゃダメでしょ!」

伊織「うぇっ!わ、分かってるわよ!」

美希「社長、料理ぐらい作れないとカッコ悪いのー」

伊織「料理ぐらいちゃんと作れるわよ!」

貴音「なんと良き香り…私の腹の中に眠る龍の目が醒めてしまいそうです」

響「貴音…少し見ない間に何だか色々と進化してたんだな…」

あずさ「……賑わって来たわね」

ガラッ

社長「やぁ、また来てしまったよ」

律子「うわっ…なんて濃い面子…」

小鳥「……こんばんわ、みんな」

美希「あぁっ!小鳥!小鳥だけ全然連絡くれないから心配してたの!ほら、早くこっち来て!」グイッ…

小鳥「っ…も、もう…私オバちゃんなんだからそんなに強くひっぱらないでよ…」

律子「………」

社長「懐かしいね、この景色」

律子「はい…純粋に懐かしいですね…けど」

社長「うん、まだ後一人足りないね」

あずさ「………」

あずさ「ふぅ…結構作っちゃったわね」

伊織「はぁ…こんなに作ると流石にしんどいわね…」

やよい「うっわぁー!とってもおいしそうです!」

亜美「あぁっ!何ということだ!ここで亜美のゴッドフィンガーがおもむろにからあげに!」

真美「おぉっと!偶然にも真美のクレイジーフィンガーもエビチリの山に!」

律子「やめなさい、ホントいつまで経ってもそういう所は変わらないのね」バシッ

亜美・真美「ぐへっ」

貴音「………」グーキュルルーガオーッグギャァァァー

響「貴音!旅を思い出すんだ!これぐらいの苦痛はたくさんあったはずだぞ!」

春香「うん!とってもおいしそうだね!」

千早「そうね、けど明日も仕事なんだから食べすぎちゃダメよ」

春香「……ぶー」

美希「どうしよう…こんなに食べちゃったらお尻が……もうどうにでもなれなのぉ!」

小鳥「………」

社長「音無君、もし寂しかったらいつでも戻ってきてくれても構わないよ」

小鳥「………」

社長「今の765プロだってこれぐらい賑やかだからね、まあやっぱりこっちには負けてしまうかもしれないけれど」

小鳥「……いえもう大丈夫です」

社長「……本当かい?」

小鳥「はい…だってもうこの元気だけで私には十分です……これからも頑張れますよ」

社長「そうか…うん、君がそれでいいなら私はもう何も言わないよ」

小鳥「……あ~あ、私、社長と結婚すればよかったかなぁ」

社長「っ!き、君!?今そういうのはここで…」

小鳥「冗談です♪いい歳して可愛い反応するんですね、社長って」

社長「……はぁぁぁぁぁぁ…」

あずさ「………」

雪歩「……来ませんね」

あずさ「そうね…」

真「皆を待たせるなんてあの人らしくないですよね…」

あずさ「………」

あずさ「もう、始めちゃいましょうか?」

やよい「えっ…でも…」

あずさ「折角の料理が冷めちゃうわ…多分、彼だって先に始めておいてくれって言うに決まってますよ」

伊織「それもそうね、始めましょ」

貴音「……私もその考えに賛成でございます」

響「貴音は自分の本能に忠実だな…」

社長「それじゃあ、旧765プロ再会パーティを…」


ガラッ!

「はぁ…はぁ…」

あずさ「………」

「いやぁ…なんとか間に合った…」

あずさ「……お久しぶりです、こんばんわ、プロデューサーさん」

P「はい…こんばんわ、あずささん」

あずさ「…ふふっ…ほら早く入ってください、皆待ってますよ」

P「はい…って本当に皆揃ってる…」

美希「遅いのハニー!ミキを待たせるなんていい度胸なの!」

亜美・真美「兄ちゃん老けたね久しぶりだねー!」

P「うるさいぞお前達……でも皆本当に変わったんだな」

春香「プロデューサーさんこそすっごく変わりましたね…確かに老けたような…」

千早「すごく新鮮な感じが……いいえ、老けているから新鮮というよりも……」

真「でも老けてるプロデューサー、ボクは渋カッコいいと思いますよ!」

P「……俺そんなに老けた?」

雪歩「老けたと…思いますぅ…」

小鳥「今度私のこのお肌のハリを保つ秘密を教えてあげましょうか?」

律子「いやあ、こりゃもう手遅れでしょ」

P「いやそんなに老けてないって!」

やよい「皆待ってください!老けていてもプロデューサーはプロデューサーです!時間が経つことは仕方がないんです!」

貴音「やよいの仰るとおりでございますよ、刻の流れによる風化という物は抗いようがないものです…誰しも」

響「そういえば自分の家族も最近歳取ってきたんだ…どうすればいいんだろう…」

P「もういいよ…俺が老けてるってことで…」

社長「さ、君もグラスを手に取りたまえ、今からパーティの開始だよ」

P「あっ…はい…じゃあ…」ス…

社長「よし、全員揃ったね…それじゃあこれから旧765プロ再会パーティを開催します……乾杯っ!」


「「「「「「かんぱーっい!!!」」」」」」

―――
――

「「「「「「………………」」」」」」

P「で…皆酔いつぶれちゃいましたね…」

あずさ「ふふふ、765プロってお酒弱い子が多かったのね~」

P「そういうあずささんもそんなに強くは無かった覚えがありますけど」

あずさ「……だってどこかの誰かさんのせいでたくさん飲んじゃった覚えがあるので~…」

P「………?」

あずさ「もう一缶開けちゃいます?」

P「それじゃあ……まだ酔えそうにないので」

あずさ「でもごめんなさい、もうビール缶しか残ってなかったの」コポコポ…

P「小鳥さんがあおるように飲んじゃってましたからね、仕方ありませんよ」

あずさ「いいじゃないですか、飲みたい時に飲む、そのための飲み屋あずさですよ」

P「……いいお店なんですね」

あずさ「そんなのあなたが一番知ってるじゃないですか…」

P「………」コク…

あずさ「この飲み屋あずさの最初のお客様…プロデューサーさん…」

P『へぇ…引退したらお店を経営……それならその時は是非呼んで下さいね』


P『えっ…本当に作っちゃったんですか!?流石あずささん……は?店への道が分からない…?』


P『はい、出勤中に見てきましたよ…でも本当にあの作りかけのお店があずささんのお店とは未だに何だか信じれませんね……いやっ!嘘ついてるなんて思ってませんって』


P『うん…すごくおいしいです…お店出して正解だったかもしれませんね……い、いやこれ以上俺で試作品を試さないでください!もうお腹いっぱいですって!』


P『工事の音が近所迷惑?……あー…大丈夫です、俺もついて行きますから一緒に謝りましょう?ね?』


P『とうとう完成しましたね、お店……それじゃあこれからも頑張ってください、あずさ店主』


P『店の名前?うーん……あずささんが経営しているので、「飲み屋あずさ」…みたいな感じでいいんじゃないですか?あっ!本気にしないでくださいよ!ちょっと!』

あずさ「飲み屋あずさ…プロデューサーさんがつけてくれたこのお店の名前…」

P「本当に採用するなんて思いもしませんでしたよ…いくらなんでも安直すぎですし…」

あずさ「でもこのお店のために力を貸してくれたプロデューサーさんがつけてくれた名前だから…採用しないわけないですよ」

P「俺はそんな大げさなことしてませんよ」

あずさ「私がそう思ったらそうなんです!……そうやって否定することから入る人は嫌われちゃいますよ…お酒の席なら特に」

P「それもそうですね……じゃあどういたしまして」

あずさ「………」

P「………」

あずさ「ふふっ…空気が凍っちゃいましたね」

P「はい…何だか一瞬妙に緊張しましたよ」

あずさ「……でもあんまり苦痛じゃありませんでしたよ?私は」

P「俺も全然、逆に落ち着いてて好きですよ、ああいう沈黙」

あずさ「………」

P「いや、そういう意図的にされるのは結構傷つくんだけど…」

あずさ「ふふふ……はぁ…何だかおもしろいですね、プロデューサーさんとの空気」

P「……酔ってるんじゃないですか?」

あずさ「そうなんですかね…うーん…」

P「先に休んでください、後のこの人達は俺がなんとかしますから」

あずさ「………」

P「それじゃあ…」

グイッ

あずさ「………」

P「……あずささん?」

あずさ「せっかく帰ってきたのにそういうのはあんまりじゃないかしら……プロデューサーさん」

P「…すいません…それじゃあもう少し…」

あずさ「女子の融通が利く男の人は好感度高いですよ~」

P「融通利くのは人間なら誰だって好ましいと思うような気が…」

あずさ「もうそういうのはいいですから!ほら!座って座って!」

P「はいはい…」

あずさ「………」

P「………」

あずさ「座らせちゃったのはいいけど…また凍っちゃいましたね」

P「あんまり喋ることありませんからね」

あずさ「うーん…じゃあ話題探しのためにも一杯飲んじゃいますか?」

P「結構飲ませてきますね…」

あずさ「何ですか?私のお酒が飲めないって言うんですか…?」

P「いえいえ全然…第一、今日はあずささんのお酒を飲みに来たようなもんですから」

あずさ「……そうですか…じゃあはい、どうぞ」コポコポ…

P「……ありがとうございます」

あずさ「……そういえばプロデューサーさんは今まで何をしていたんですか?」

P「アイドルのプロデューサーを辞めてからはテレビの番組を作る仕事に携わっていました……結構大変でした、ああいう仕事も」

あずさ「……765プロを離れてまでするお仕事だったんですか?」

P「……どうですかね…でも新しい世界に触れられたのは新鮮でしたよ」

あずさ「でも…やっぱりプロデューサーさんはプロデューサーさんじゃないと…」

P「そうですか…そうですよね、確かに俺もアイドルのプロデューサーの方がしっくり来てた所なんです」

あずさ「………」

P「だから当分はあの世界から離れようと思っていた所なんです……本当にこの数年間、勝手なことばかりしてきましたよ」

あずさ「そうですね…プロデューサーさんが外れてしまったことで、皆もアイドルの仕事から離れていきましたから…」

P「はい…何だかんだで皆、俺に信頼のような物を寄せていたんですね…」

あずさ「……それだけじゃないと思いますけどね」

P「?」

あずさ「でも皆今を頑張って生きてますよ…結婚してたり、会社の社長になったり、一人旅をしていたり、芸能界で仕事を続けていたり…」

P「……それじゃあ皆…色々と変わっちゃったんですかね」

あずさ「いいえ、そんなことないんです…皆が居る世界は確かに変わったかもしれません、でも皆、あの頃から変わってません…」

あずさ「皆、あの頃と変わらない765プロの仲間です」

P「………」

あずさ「ふふ、何だか変な事言っちゃいましたね…忘れてください」

P「いえ…いいこと聞いちゃったので当分忘れそうにないですよ」

あずさ「プロデューサーさんったら……あ、もう一杯飲みます?」

P「……いや、今日はもうこれぐらいにしておきましょう、あずささん」

あずさ「あら、まだまだ私は飲めますよ?」

P「でももう最高にいい気分なので…これ以上お酒を飲まなくても十分な気がするんです…」

あずさ「そうですか…それじゃあ今日はもうお開きってことですね」

P「はい、後あずささん…また今度でいいので……一緒に飲んでくれますか?」

あずさ「……っ…勿論です、では今後も飲み屋あずさをよろしくお願いしますね、お客様」ニコッ…

―――
――


あずさ「………」フキフキ…

あずさ「あ~ああ…何だかあんまり脈があるような感じは無かったわね~…」フキフキ…

あずさ(でも…)

『また一緒に飲んでくれますか?』

あずさ(今はこれくらいで十分よね…)

あずさ「また…来てくれるはずだから」

ガラッ

あずさ「あっ、いらっしゃいませー」

「あの…今やってますか?」

あずさ「はい、営業中ですよ~」

「それじゃあ今日はここにしよっか?」

「「「おー」」」

あずさ「団体様ですね、お座敷にどうぞ」

「いやあまさかこんな所にお酒を飲める場所があるなんて思いませんでしたね」

「ラッキーだったな、ほら座れ座れ」

あずさ「ふふ、今日も頑張らないと…」

「あ、あの…」

あずさ「はい?何でしょうか?」

「もしかしてあなた…765プロのアイドルの…」

あずさ「……いいえ、今は違いますよ」

「えっ…でも…」

あずさ「今はもうアイドルじゃありません……私はただの飲み屋あずさの店主、三浦あずさです、お客様」ニコッ…



終わり

何度かさるくらったけど完結できてよかった

支援保守ありがとうございました
それではお疲れ様でした

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