澪「唯! す、好きだっ!」 (19)
唯「へっ!?」
澪「つ、付き合ってください!」
唯「……み、澪ちゃん、えっと」
澪「………」
唯「……嬉しいよ」
澪「……!」
唯「こちらこそ、よろしくお願いします…!」ペコリ
▼▼▼
澪「ふ、ふふっ、うふふふふ……」ニヤニヤ
律「……上手くいったみたいだな、澪。なんか気持ち悪いことになってるけど」
正確には気持ち悪い顔に。鏡で見せてやろうか。
澪「へ? あ、なんだ律か」
律「なんだとはなんだ、相談に乗ってやったってのに」
澪「ああ、その件はありがとう。律の助言もたまには役に立つんだな」
律「たまにとはなんだー! 浮かれてるのはわかるけど私の扱い酷いぞ!?」
澪「……そうだな、ごめん。ありがとう律、全部お前のおかげだ」
律「……や、やりにくいな……」
ニタニタしてたと思ったらいつも通りになったり急にしおらしくなったり……変なやつだ。テンションの上下が激しく幅が広いのは今に始まったことじゃないけれど。
律「でも、別に全部が私のおかげってことはないさ。少なくとも澪が勇気を出さないと始まらなかったし終わらなかった。そこは自信持って言えるよ、胸を張れ、澪」
澪「……ありがとう、律」
律「私だけじゃなくって、その場をセッティングしたり周囲に根回ししたりしたムギや梓にも、な」
澪「うん。でも、やっぱり一番にお礼を言うべき相手は律だ。いつもいつも助けられてるよ」
律「……お互い様だっての」
これは本心だ。澪がいなかったら私はきっと今まで頑張れていない。ここまで頑張れていない。
澪「……元々、律が私に音楽を勧めてくれなければ、今日と言う日もなかったんだ」
違うよ。澪がいなければ、私も音楽をやってなかっただろうから。こうして楽しい毎日を送れてなかっただろうから。
……でも、それも今日までだ。澪に唯という大事な人が出来たなら、私は澪という巣から飛び立たなくてはいけない。唯も大事な親友だから、その場所はちゃんと明け渡さないといけない。
律「……良かったな、澪」
澪「……ああ。だから、その、これからも迷惑かけるかもしれないけど……よろしく、律」
律「……………は?」
待て。待て待て。
今何て言った、こいつは。
澪「……ど、どうした、律?」
律「いや……今、「これからもよろしく」って言ったか?」
澪「い、言ったけど……」
あ、これは本気で言ってる顔だな。何の疑問も抱いていない時の澪の顔だ。私がツッコミに回らないといけない時の顔だ。
律「……ダメだ。これからもよろしくは出来ない」
澪「ええっ!?」
待て、そんな目で見るな。ちゃんと説明してやるから。親友として、最後の世話を焼いてやるから。
律「お前には恋人がいるだろ。恋人に助けてもらって、恋人を助けてあげるんだ。対等な関係で、お互いを一番に考えて助け合っていくんだ、これからは」
澪「律………」
律「唯でダメな時はちゃんと私も力になるよ。でも、私は常に二番目だ。一番は唯だ。そうじゃないといけないんだ。わかるよな?」
澪「………」
ちょっと寂しくはなるだろうけど、そうじゃないといけないという事くらいはわかる。お互いの為にも。
律「……な?」
澪「……律」
律「うん」
澪「……それくらい、私が自分で判断するよ……」
律「……は?」
澪「唯に一番に相談することと、律に一番に助けを求めることの区別くらい、自分でつける!!」ド ン ッ
律「うおっ!? 急に大声出すな!」
澪「唯との距離は縮めていくよ! こ、恋人なんだからっ! 当たり前だ! でもそれは律から遠ざかる理由にはならない!」
律「は、はぁ?」
澪「律はさっき私が勇気を出したって言ってくれたけど、私は律から遠ざかる為に勇気を出したつもりはない!」
律「いや、まあ、その時はそうかもしれないけど、結果的にだな……っていうかちょっと落ち着け」
澪「律だけじゃないよ。唯との関係を変える為に勇気を出したけど、律ともムギとも梓とも憂ちゃんとも和とも、接し方を変えるつもりなんて全然ないから、私は」
律「……もっと恋人を大事にしてやれよ、私達のことはいいからさ」
澪「唯を大事にしないなんて言ってない」
律「言ってるようなものだろ」
澪「言ってない!」
律「あーもー……じゃあ逆に考えてみろ。唯が澪と付き合うことになりました、でも唯は変わらず梓に抱き付いています。はいどう思う?」
澪「……べ、別に、普通だろ。それが唯なんだから」
一瞬言葉に詰まったじゃないか。
澪「というか律こそ逆に考えてみろ! あの唯が、恋人が出来たからって和や憂ちゃんと変に距離を取るようなことすると思うか?」
律「……そう言われると想像しづらいな」
澪「それに、こ、恋人として、私だけを見て欲しい気持ちはあるけど、その為に他の人を犠牲にしろなんて言うつもりもないし」
律「でも梓に抱き付いてたら妬くんだろ?」
澪「……そしたら、律が私をからかって笑い話にしてくれればいいだろ」
律「……!」
澪「律との距離が遠かったら、私が唯に直接言うしかなくなるけど。でも律が隣にいてくれれば、ただの笑い話にできるだろ」
律「あー……うん、まあ、そうかな……」
いかん、言い包められそうだ。だって、澪のその信頼、すげー嬉しいんだもん。
澪「唯と二人っきりの時は、律の助けがなくてもなんとかする。勇気を出すから」
律「だから、それ以外では今まで通りでいろ、って?」
澪「うん。あ、でも唯と必要以上にくっついたら叩くからな」
律「「必要以上」の線引きが難しそうですわよ!?」
澪「大丈夫、律ならできる」
律「くっそー! なんだその無条件の信頼は!?」
澪「……ダメか?」
律「………」
ダメか、と言われればダメなわけない。嬉しい。だったら、私は……
律「……わかったよ、もう! いいか、覚悟しろよ澪! 一生、死ぬまでずっとお前の親友として隣でからかい続けてやるからな!」
おしまい
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