『ウルトラマンゼロ』シリーズと『魔法少女まどか☆マギカ』のクロスSSです。
概要は下記の通りになります。
・見滝原に関わるのはゼロ一人。他のウルトラマン、UFZは活躍なし。
・ゼロは『キラー ザ ビートスター』までの時系列を経験済み。
・魔法少女は本編組のみ。外伝の人物は活躍なし。
・一部、独自の設定解釈あり。
既にウルトラ×まどマギのクロスSSが幾つかありますが、別物としてお読みください。
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【救済の魔女編 その1】
ここは『アナザースペース』と呼ばれる宇宙。
若きヒーロー・ウルトラマンゼロは故郷を遠く離れ、この世界を拠点としている。
そして彼は今、仲間と共に未だ暗躍を続ける敵の残党を追っていた。
手分けして宇宙を巡る最中、ゼロは美しい結晶地帯で機械兵士『レギオノイド』の大群を発見する。
ゼロ「ヘッ・・・こんな所に隠れてやがったか!」
結晶地帯の上に降り立ったゼロの周囲を、百体を超えるレギオノイドが一斉に取り囲んだ。
しかしゼロはバキバキと腕を鳴らし、余裕を見せる。
ゼロ「あいつらを呼び戻すまでもねぇ・・・まとめて銀河のチリに帰してやるぜ!」
いざ戦いに臨もうとしたその時、ゼロの耳は聞き慣れない声を拾い上げる。
??「また・・・失敗だった」
ゼロ「誰だ?」
声の主に問いかけるが、返事はない。
??「この命、無駄にしないって決めたのに・・・
何度でも繰り返して助けるって、そう決めたのに・・・」
ゼロ「おい、何を言って・・・うぉっ!?」
声に気を取られていたゼロを目掛け、ドリルを構えた陸戦型レギオノイドが突撃を仕掛ける。
ゼロは腕をLの字に組み、光線『ワイドゼロショット』を放つ。
撃ち出された光線は、四方から向かってくるレギオノイドを次々と撃ち落としていく。
??「もう潮時かな・・・なんて考えてるの。馬鹿だよね・・・情けないよね・・・」
ゼロ「一方的に聞こえてくるだけのようだな・・・」
僅かな隙を狙い、キャノン砲を装備した宇宙戦型レギオノイド達が一斉砲撃を開始する。
ゼロは砲撃をくぐり抜けて飛び、頭部に装着した二つのブーメラン『ゼロスラッガー』を投げる。
念力で操作されるスラッガーは、砲撃中で動けないレギオノイドを切り裂き、爆破していった。
ゼロ「先にコイツらを片付けねぇとな!」
続いてゼロは戻ってきたスラッガーをキャッチし、カラータイマーの両サイドにセットする。
ゼロ「うおっらあぁぁぁーーーーっ!!」
胸に光るタイマーから、必殺光線『ゼロツインシュート』が放たれる。
ゼロが反動を受けるほどの凄まじい威力は、残るレギオノイド達を次々と薙ぎ払っていく。
??「でも、目の前にいるのも貴方なんだよね・・・?
貴方が望むなら、地球と一緒に・・・私も・・・・・・」
その一言を最後に、謎の声は途絶えてしまった。
全ての敵を殲滅したゼロの心に、声の主とその言葉の意味が疑問を残す。
ゼロが拠点とするアナザースペースに『地球』は存在しないのだ。
ゼロ(助ける・・・潮時・・・それに『地球』・・・
別の宇宙で、何かが起きてるのは間違いなさそうだな!)
ゼロはブレスレットとして身に付けた神秘の盾『ウルティメイトイージス』を輝かせる。
イージスは鎧へと変化してゼロに装着され、武装形態『ウルティメイトゼロ』となる。
イージスの力は次元の壁を超越し、様々な宇宙への往来を可能にする。
ゼロは時空を超えて声の気配を辿り、真相を確かめることを決意していた。
ゼロ「行ってみるか———地球とやらに!!」
時空の歪みが巻き起こり、ゼロはその彼方へと飛び去っていく。
ゼロの出身宇宙『M78ワールド』では、様々なウルトラマン達が地球を守ってきたと聞く。
その星が一体どんな場所なのか、ゼロは少なからず興味を抱いていた。
【救済の魔女編 その2】
次元を超え、ゼロが辿り着いた別世界の『地球』。
目の前に広がる光景は、彼が想像していた世界とは遠くかけ離れていた。
空は淀み、街は水没し、殆どの生命は姿を消している。
ゼロ「この地球に、一体何が起こったっていうんだ・・・?」
荒廃した世界に渦巻く、膨大なマイナスエネルギー。
その中心へ急いだゼロの眼前には、彼を遥かに上回る規格外の怪物が蠢いていた。
おびただしい数の根を生やす、山のような巨体。その頂点には、人型の上半身が天を仰いでいる。
ゼロ「どうやら、コイツが元凶なのは間違いなさそうだな!」
ゼロはかつての戦いで、超巨大な敵を相手にした経験が何度かあった。
しかしこの怪物を前にし、今までの敵とは比較にならない事を悟る。
その禍々しさは『神』に匹敵すると言っても過言ではなかったのだ。
ゼロ(イージスのエネルギーも残り僅かか・・・早々に仕留めてやるぜ!)
イージスの力は必須と見るが、次元超越でエネルギーを大幅に消費し、最強技までは放てない。
代わりにゼロは腕に備えた剣に残るエネルギーを集中し、怪物目掛けて一振りする。
ゼロ「シェアッ!!」
怪物の全長に匹敵する光刃『ソードレイ・ウルティメイトゼロ』が伸び、巨体を一瞬の内に両断する。
このイージスは、アナザースペースの人々と守護神から受け継いだ『心』の力。
普段のゼロが、敢えて次元移動にしか力を使わないほどに無敵———そのはずであった。
ゼロ「馬鹿な・・・!?」
傷は切断と同時に再生を始め、光刃が消えた時、怪物は既に無傷であった。
先程の攻撃で敵の存在に気付いた怪物が、ゆっくりとゼロを見下ろす。
ゼロ「ぐぅああぁぁっ・・・!何だ・・・一体何が!?」
その瞬間、肉体から魂が引き剥がされるかのような苦痛がゼロを襲う。
イージスの聖なる力が辛うじてゼロを守るが、そのエネルギーも限界に近付いていた。
ゼロ「少しでも気を抜けば、命を持って行かれちまう・・・!」
紙一重で意識を保ち、耐え忍ぶゼロ。
しかし彼の目に、思わぬ光景が飛び込んできた。
ゼロ「人間だと!? それに・・・まだ生きている!」
遠くに見えるのは半分が水没したビル。
その屋上から、ボロボロに傷ついた少女がこちらを見つめていた。
まだ、この星の生命は完全には消え去っていなかったのだ。
ゼロ「ぐぁ・・・・・俺もあの人間も、いつまでもここには居られねぇ!」
・・・・・待ってろよ!!」
今の状態では退くことしかできないと悟り、ゼロは余力を振り絞って少女の元へ飛ぶ。
それに気付いた少女が身構えるより早く、眩い光が彼女を連れ去っていった。
つづく
ある程度書き溜めてあり、展開と終着点も決まってますが
一気に消費しないよう少し間を空けて投下します。
【救済の魔女編 その3】
飛び去った光は怪物から遠く離れ、やがて崩れずに残る建物に降り立った。
ゼロ「はぁ・・・はぁっ・・・」
薄暗い建物の一室で、思わず倒れこむゼロ。
その胸には未だに異様な感覚が残っている。
ゼロ「そうだ・・・さっきの人間は!?」
少女「私の事かしら?」
声のする方向を振り向くと、黒い長髪が印象的な少女が、壁にもたれ掛かり座っている。
間違いなく、先程の戦いで助けた少女だった。
ゼロ「良かった、無事だったか・・・・・って、お前随分大きくなったな!」
少女「やはり貴方、あの巨人なのね。自分の姿をよく見なさい」
ゼロ「え・・・お、俺が小っちゃくなってんのかぁ!?」
ゼロの姿は、巨大なウルトラマンから人間へと変化していた。
姿こそ異国の民族服を纏った長身の青年であったが、
彼の声と、腕に輝くブレスレットだけが本来の面影を残している。
ゼロ(そうか・・・エネルギー抑えるために、無意識に姿を変えていたんだな)
一人で焦り納得するゼロに対し、少女は顔色一つ変えることはない。
それを見て、ゼロは非常事態であることを再認識する。
ゼロ「・・・それより、この世界に一体何が起きているんだ?」
少女「見ての通りよ。どうにかしたいなんて、考えるだけ無駄ね」
ゼロ「いや、何とかしてみせる。俺はそのために別の宇宙から、時空を超えてここへ来た!」
少女「貴方も宇宙から?」
非日常を目の当たりにしている為なのか、少女はゼロの話に疑いを持っていない様子であった。
そして彼女の反応は、ゼロ以外の来訪者がこの星を訪れたことを意味していた。
ゼロ「どういうことだ?あの化け物も他の星から来たってのか!?」
少女「いいわ、少し教えてあげる。貴方が戦ったのは『救済の魔女』」
ゼロ「『救済』・・・冗談だろ?どう見ても真逆の事が起きてるぞ!」
少女「あらゆる命を吸い上げて、待ち受ける絶望から救済する。それがあの魔女の力。
貴方もあと一歩で救われてたところよ」
『慈悲』という怪物の本質と、常識破りの能力を知るゼロ。
ウルティメイト状態ですら数分持たずに撤退を余儀なくされた戦いを思い出し、その頬を汗が伝う。
少女「でも、この事態を招いた奴等はもう地球を去った。二度と戻ってくることはないわ」
ゼロ「敵とは・・・何者なんだ?」
少女「奴等は・・・・・・」
その時、少女の話を遮るかのように、遥か遠くで魔女の叫びが響いた。
ゼロはブレスレットを確認するが、消費したイージスの力は完全に回復していなかった。
再び次元を超えて仲間を呼ぶことは不可能。尤も、そんな猶予はこの世界に残されていない。
しかし、ゼロは立ち上がった。
少女「貴方、正気なの?」
ゼロ「あの魔女を止めねぇと、この地球は完全に死に絶える。だから俺は行く・・・!」
少女「『彼女』は止まらないわ。大人しく地球を出て、元の宇宙に帰ったほうが賢明よ」
ゼロ「でも・・・このままにしていいわけねぇだろ!!」
ゼロの言葉が静かな建物内に響き渡った。
一瞬面食らう少女であったが、直ぐに表情を戻すと、彼の覚悟を試すかのように問いかける。
少女「どんなに繰り返し抗っても・・・この先待ち受けるのは絶望だけよ。
貴方なら、その運命を変えられるとでも言うの?」
ゼロ「確かに絶望的かもな・・・だが、最後まで諦めずに不可能を可能にする。
それが『ウルトラマン』なんだよ!」
どんな揺さぶりをかけようとも、今の彼には届かなかった。
ゼロが拳を突き出すと、ブレスレットからゴーグルを模したアイテム『ウルトラゼロアイ』が出現する。
手に取ったゼロアイを、ゼロは自身の両目に装着した。
ゼロ「デュワッ!!」
赤と青の光が渦を巻き、その体に纏いつく。
やがて、サイズは人間大のままウルトラマンとなったゼロが姿を現した。
謎の『声』の正体を何となくも理解していたゼロは、その相手に向けて正義を誓う。
ゼロ「俺はゼロ・・・ウルトラマンゼロ!必ずこの世界と君を守る。信じてくれ!」
少女「守るべきは私じゃない。でも———」
少女は傷ついた体に鞭打つように立ち上がると、小さな宝石を取り出す。
すると、身に付けていた制服が面影を残しながらも黒と灰色を基調としたものに変化する。
その腕には、少女には不相応な盾が現れていた。
少女「ウルトラマンゼロ・・・私と一緒に戦って、それを証明してみせて」
ゼロの存在は、全てを諦めようとしていた少女に僅かな『希望』をもたらしていた。
殆どの命が『救済』されていく中で、彼女が取り残されていた理由、
それは自らに課した使命と、まだ向き合う必要があったからだ・・・少女はそう解釈することにした。
ゼロ「人間を超えた力を感じる・・・お前は一体・・・?」
少女「私は暁美ほむら。掴まって。貴方が時空を超えられるのなら、きっと・・・」
ほむらと名乗った少女は左手を差し出し、ゼロは応えるかのようにその手を取った。
二つの『盾』が向かい合ったとき、ゼロのイージスが強い輝きを放つ。
ほむら「行ける・・・!」
ほむらが自らの盾に手を掛けると同時に、ゼロの意識は途絶えた。
【救済の魔女編 その4】
静かな朝、自宅のベッドの上で目蓋を開くほむら。
彼女にとって何度見たとも知れない光景であったが、この日は普段と違っていた。
ほむら「!?」
彼女の隣には、青年の姿のゼロが寝息を立てている。
それも、お互いに左手を握り合うという窮屈極まりない体勢であった。
一気に嫌悪感を増大させたほむらは、ゼロを突き飛ばして飛び起きる。
ゼロ「うぉわっ!?」
ベッドから転がり落ちたゼロは、その衝撃で目を覚ました。
ゼロ「痛ってて・・・何だいきなり!」
ほむら「時間がないのよ」
ゼロ「そうだ!地球の終わりが・・・」
ほむら「学校の準備があるの。その前に、全て説明するわ」
ゼロ「えっ?」
状況が掴めないゼロに、ほむらは一から語り始める。
この世界の真実、敵の正体、彼女自身の目的、そして彼女がゼロに求めること全てを。
ほむら「この世界では『魔法少女』と呼ばれる存在が魔女と戦っている。
私もその一人よ」
ゼロ「ほほぅ・・・この世界は『ウルトラマン』がいない代わりに、
その『魔法少女』とやらが平和を守ってるわけだな!」
正義の巨人『ウルトラマン』の概念は様々な次元に存在し、その誕生や背景は世界ごとに異なる。
同じように、ウルトラマンの存在しない世界や、別のヒーローに守られている世界も数多い。
ゼロは、この世界も後者であると認識していた。
ほむら「私も、そんなシンプルな設定であって欲しかったわ」
ゼロ「何やらワケありのようだな。けど、その前に聞かせてくれ!
俺達が今いる世界・・・ここはどこなんだ?」
窓の外に広がるのは、緑の木々が並び、青い空が広がる美しい光景。
ゼロの関心は、最初に訪れた終末の世界とのギャップに向かっていた。
ほむら「ここは見滝原市。私と貴方が出会った場所」
ゼロ「どういう事だ・・・滅びかけた世界とまるで光景が違うぜ?」
ほむら「私の魔法は時間を操ることができる。そして今、私達が立っているのは
時間軸を巻き戻した『一ヶ月前の見滝原市』よ」
ゼロ「うそーん」
目を見開かせ、呆気に取られるゼロ。しかし、話はまだ始まったばかりに過ぎない。
彼女が全てを語り終えたとき、ゼロの表情からは余裕が消えていくことになる。
それ程までに、彼女が置かれていた状況は過酷なものであった。
つづく
次の投下まで、また間を空けると思います。
【趣の魔女編 その1】
ゼロとほむらが出会ってから、数日が経過した某所。
外界と隔絶された結界の奥で、赤い服に身を包んだ魔法少女が一人、魔女と対峙していた。
結界の主は『和』を感じさせながらも、髑髏を象った頭と一本足を特徴とする『趣の魔女』。
魔女は外見に勝るとも劣らない不気味な声を発し、少女を挑発している。
魔女「羅ラra・・・乱・・・♪」
少女「はああああッ!!」
少女は身の丈よりも大きな槍を振るい、力強くも素早い斬撃を仕掛ける。
対する魔女も一本足と思えない速度で動き回り、その刃を回避する。
魔女「戯ギ・・・giィ・・・・♪」
少女「遊ばれてるってか・・・上等だよ!」
魔女「欺ィ♪」
魔女は腕の代わりに、なびかせた髪を自在に操って攻撃を繰り出す。
少女が避けた攻撃は結界の地面を砕き、十分な威力を持っていることを見せつける。
少女「こいつ!」
負けじと少女も連続で突きを繰り出すが、魔女は大きく宙返りして後退する。
少女から見て強敵といえる魔女でもなかったが、その素早さと巧みな回避が厄介であった。
決定打が入らないことに、少女は苛立ちを募らせていく。
少女「思いのほか手こずらせてくれんじゃん・・・
もう面倒臭いからさ、テメェからかかって来なよ!!」
少女は敢えてその場を動かず、槍を構えて魔女を待ち構える。
魔女は相手が攻めに出ないことに気付き、一気に跳躍して間を詰めようとする。
少女(もっとだ・・・!)
少女を捉え、舌舐めずりしながら髪を振るう魔女。
魔女がギリギリまで迫った瞬間、少女は機敏な動きで攻撃を避ける。
少女「そらよっと!!」
魔女「愚擬ィ畏ィィィッ!!」
すれ違いざまに繰り出された一閃が魔女を裂く。
カウンターが成功し、魔女は傷口からドス黒い血を噴出させて転がり落ちた。
少女「さーて、これで仕舞いだな!」
少女はとどめを刺すべく、体を起こそうとする魔女に歩み寄る。
構えた槍を振り下ろそうとしたその時、結界の上空から彼女達目掛け、
2メートル前後の燃え上がる物体が迫ってきた。
??「うおぉぉぉぉぉーーーっ!!」
少女「な・・・新手の魔女!?」
思わず槍を戻し、後退する少女。
現れたのは脚に炎を纏い、結界に飛び込んだ人間大のウルトラマンゼロであった。
降下によって更に速度を得た宇宙拳法『ウルトラゼロキック』が、魔女に直撃する。
魔女「愚擬ィ畏ィィィーーーッ!!」
魔女は髑髏の右半分を粉砕され、炎上しながら結界の片隅へと吹っ飛ばされた。
ゼロは砂埃を上げて滑り込み、結界内に着地する。
ゼロ「ほむら以外の魔法少女か・・・遥々魔女を追いかけた甲斐があったぜ!」
ゼロは今、ほむらとは別行動を取り、見滝原市を中心に魔女との戦いに身を投じていた。
しかしこの数日間で、他の魔法少女と遭遇したのはこれが初めてであった。
ゼロ「俺はウルトラマンゼ・・・・・・」
少女「晩メシもまだだってのに・・・次から次へと!!」
ゼロ「なっ!?」
自己紹介を始める間もなく、突如として少女はゼロに襲い掛かった。
ゼロは両手にスラッガーを持ち、間一髪で槍を受け止める。
ゼロ「何すんだ!俺とお前で戦う理由はねぇ!」
少女「喋れる魔女はいても、会話できる魔女は珍しいな!しかも俺っ娘かよ!」
ゼロ「お前・・・誰が俺っ娘だ!!」
人型でありながら地球人と全く異なる容姿、そして赤と青を基調とした配色。
ゼロの特徴は、少女に魔女と誤解させるに十分なものであった。
ゼロ「俺は魔女じゃない!この結界の魔女を倒しに来ただけだ!」
少女「アンタが何言おうと届きゃしないのさ。
魔法少女が魅入られるようじゃ、仕事務まんねぇからなっ!!」
鍔迫り合いの最中、突然槍が多関節に別れる。
槍は蛇のように縦横無尽に動き回り、地面ごとゼロを削り取ろうと襲い掛かった。
激しい連撃で立ち込める砂埃に視界を奪われながらも、ゼロはスラッガーで槍を弾いて耐える。
ゼロ「力押しの赤い奴ってのは、どの世界でも聞く耳持たねぇもんだな!」
少女の攻撃を捌きながら、ふと仲間の一人との出会いを思い出すゼロ。
しかし砂埃が晴れ始めた時、ゼロは地面を赤い紋章が包囲していることに気付く。
少女「バレたか。でも一気に終わらせてやるよ!!」
ゼロ「これは・・・まさか!?」
砂埃は、この魔法への反応を僅かでも遅れさせる為の策であった。
全ての紋章から一直線に槍が伸び、ゼロを串刺しにする。
少女(・・・外した?)
しかし、絡み合う無数の槍の中にゼロはいなかった。
少女は槍を解除して周囲を見渡すが、その姿は見当たらない。
少女「速ぇ魔女には当たんないか・・・」
ゼロ「別に速くなくたっていいんだぜ?俺は自由に体を縮小できるからな!」
少女ははっとしたように声の方向を振り返ると、先程魔法を展開した位置にゼロが立っていた。
ゼロは自身の能力を使い、数ミリメートルものサイズとなって槍の直撃を回避していたのだ。
少女「チッ・・・どんな能力だよ!?」
ゼロの意に反して少女は攻撃を再開し、二人は再び槍とスラッガーの刃を交える。
ゼロ(魔女に苦戦してたかと思ってたら・・・中々やるじゃねぇか!)
彼女の戦闘能力はゼロも認めざるを得ないものであり、
彼女を攻撃できない防戦一方の状況はゼロにとっても厳しいものであった。
ゼロ「もう一度言う!俺はゼロ・・・ウルトラマンゼロ!
グリーフシードが欲しいなら譲る。だから退いてくれ!」
説得のため、ゼロは首を振って魔女が倒れた場所を示す。
彼が口にした『グリーフシード』とは、倒された魔女が落とす黒い宝石であり、
魔法少女達は、魔女討伐と並行してこのグリーフシードの回収も行っている。
そして、それは魔法少女ではないはずのゼロも同様であった。
少女「そりゃ大人しく倒されてくれるって意味かい?」
二人は魔女の亡骸に目を向けるが、既にその姿はない。
しかしグリーフシードは見当たらず、結界も消滅するどころか変化を始めていた。
ゼロ「消えた・・・!?」
少女「あの魔女、死んでない・・・?」
つづく
やっぱ戦闘描写ムズいな・・・
でも読んでくれてる人の為に、投下ペースを上げられるよう頑張ります。
【趣の魔女編 その2】
結界内には、二人を取り囲むかのように大量の障子が現れた。
障子の裏では、黒い影が円を描くかのように動き回っている。
少女「ザコ魔女かと思ってたのに、しぶといじゃんよ・・・」
ゼロへの攻撃を一旦止め、間を取る少女。
魔女の位置に集中するゼロだが、少女は魔女に加えてゼロへの警戒も怠ろうとしない。
それは少女にとって、どちらかへの隙を生み出しかねない状態でもあった。
ゼロ「俺のことより、ヤツに集中した方がいいぜ」
少女「そうしたいけど・・・そうもいかなくてね!」
少女がゼロに警戒を向けた一瞬、障子を突き破って魔女が飛び出す。
髑髏は崩れて面影を残しておらず、傷口からは新たな二つの顔と
流れ出る血を利用した触手が伸びている。
ゼロ「ボーっとすんな!後ろだ!!」
少女「なっ!?」
ゼロは右腕を胸の前で曲げ、額から高速の熱線『エメリウムスラッシュ』を放つ。
光線は魔女の顔を一つ爆破するが、その隙に触手が少女の両腕を拘束する。
魔女「廃・ハイ・肺ホー♪」
ゼロ「させるかよ!!」
二発目のエメリウムスラッシュが放たれるより早く、瘴気に塗れた触手が少女の両腕を切断する。
魔女は即座に離脱して光線を避け、障子の中へ飛び込む。
同時に、槍と二本の腕が地面に落ちた。
少女「うぐぁっ・・・!舐め過ぎてたな・・・畜生!!」
ゼロ「おい、大丈夫か!!」
ゼロの目の前で、ショッキングかつ痛々しい光景が広がる。
しかし少女の痛覚は抑えられており、意識を保っていた。
少女(ヤバイなこれ・・・どっちかに襲われたら確実に死ぬじゃん・・・)
両足だけでは打つ手もなく、絶体絶命の状況に陥る少女。
死を覚悟した彼女に応えるかのように、再び魔女が迫った。
ゼロ「見てるだけで痛ぇぜ・・・ちょっと待ってろ!」
少女を助けるべく、ゼロは魔女に向けてゼロスラッガーを投げる。
スラッガーは魔女を追尾して障子の外へ引きずり出すと、ダメージを与えつつ足止めする。
その間にゼロは少女の元へと駆け寄り、胸元へと手を伸ばした。
少女「お・・・おい、テメェっ!?」
ゼロ「ジッとしてろ!」
ゼロが手をかざしてエネルギーを送り込んだ先には、
魔法少女の力の源である宝石『ソウルジェム』が煌めいていた。
ほむらが変身時に用いたソウルジェムは紫色であったが、彼女のものは燃え上がるように赤い。
少女「アンタ本当に魔女じゃなかったのか・・・?」
ゼロ「さっきから言ってんだろ!俺は魔女でも魔法少女でも俺っ娘でもねぇ!」
少女「そこまで冗談真に受けるかよ・・・」
転がった両腕が光の粒子となり、少女の腕の断面へと戻っていく。
両腕が再び形成され、完全に修復を終えた時、その手に再び槍が握られる。
少女(あれだけの傷を、跡形も無く・・・)
その回復速度と精度に少女は驚いていた。
しかしスラッガーで弱った魔女を見るや、何事も無かったかのように立ち上がり、戦闘に復帰する。
少女「お疲れさん。魔女はアタシが仕留めてやるから、そこで休んでろよ!」
ゼロ「あ・・・おい、待て!」
少女は槍を構えて突撃を仕掛け、魔女も唯一残った顔を伸ばし、それを迎え撃つ。
少女「はあぁぁぁぁぁーーーっ!!」
ゼロ「シェーアッ!!」
ゼロが指を振ると、頭に戻ろうとしていたスラッガーは方向を転換し、牙を向く魔女の顔を切り落とす。
少女も魔女を深々と貫くと、即座に槍を引き抜き、駄目押しに二度切り裂いた。
魔女「魅giィィi餌ア亜アアアアアーーーーーーッ!!」
致命的なダメージを負った魔女は、断末魔の叫びと共に崩れ落ち、消滅した。
ゼロ「ここはもう大丈夫そうだな」
魔女結界が解除され、辺りは本来の姿である森に戻っていく。
陽は既に落ち、辺りを月明かりだけが照らしている。
少女も変身を解除して私服に戻ると、残されたグリーフシードを拾い上げた。
少女「一応忠告はしとくけど、風見野はアタシの縄張りだからな。
決着もついてないことだし・・・欲しけりゃ力ずくで奪ってみなよ!」
ゼロ「風見野・・・ここは見滝原じゃないのか?」
少女「見滝原ぁ?寝ぼけてんのか?」
ゼロ「さっきの魔女に逃げられちまってな!そいつを追いかけてここに来た」
ここは風見野市と呼ばれる、見滝原市の隣街。
ゼロは見滝原での戦いから逃走した魔女を追い、彼女と出会ったのであった。
少女「まあいいや・・・さっきの回復とこのグリーフシードでチャラにしてやるよ」
ゼロ「そんじゃ、俺からも一つ忠告させてもらうぜ!」
少女「こっちだってキャリア長げーんだ。バカにすんな」
ゼロ「『ワルプルギスの夜』だ」
少女「は・・・・・・今何つった?」
話半分で聞くつもりだったゼロの『忠告』に、少女は耳を疑う。
『ワルプルギスの夜』とは、魔法少女達の間で伝説となっている大物魔女であった。
それは一度具現化するだけで、何千もの人名が失われる被害を引き起こすという。
ゼロ「大体、三週間後くらいか・・・見滝原の街に『ワルプルギスの夜』が現れる。
アイツは俺がやる・・・お前も気をつけろよ!」
少女「んな話だけ聞かされても、真偽がサッパリなんだよ・・・
グリーフシードも集めてるみたいだし・・・アンタ何者だ?」
ゼロ「詳しくは話せないが、お前の敵じゃない」
少女は「魔女でも魔法少女でもない」と明言しながら、多くの事情を知るゼロを疑問視する。
しかし、彼は自らの正体と目的を明かそうとはしなかった。
少女「手の内は明かさず、か。
でもソイツには少しばかり興味あってさ・・・忠告、守れないかもな!」
ゼロ「おい、相手は・・・!」
少女「今日は色々ありすぎてマジ疲れたわ。もう帰る」
忠告を流すかのような反応を見せた後、少女はその場を去ろうとする。
ゼロ「待てよ」
少女を呼び止め、ゼロもウルトラマンの姿を解除して人間の青年へと戻る。
その服装は、初めて人間体に変化した際のものとは違い、この世界の特色に合わせた
若者らしいファッションとなっていた。
少女「へぇ・・・ますます何者なのかわかんなくなってきたよ」
ゼロ「土産だ。持ってけ!」
ゼロはポケットからグリーフシードを一個取り出すと、杏子に投げ渡した。
それは彼なりの挨拶代わりであった。
少女「ははっ、中々男前じゃん・・・ゼロちゃんよ!」
ゼロ「そんな事言っても、これ以上は譲れねーぞ」
少女「でも、うるさそうな顔してんな!」
ゼロ「顔がうるさいって何だ!?意味分かんねぇよ!」
ゼロを軽く茶化す少女の表面から、ほむらのような哀愁は感じられず、
むしろ魔法少女として戦っていることを前向きに受け取っているようにも見えた。
そんな彼女に親近感を覚えたゼロは、名を尋ねる。
ゼロ「お前、名前は?」
少女「アタシは佐倉杏子。またどっかで会う機会があるかもな」
ゼロ「死ぬなよ、杏子!」
「有り得ない」と言わんばかりに手首を振り、立ち去る杏子。
どこか心配そうに彼女を見送ると、ゼロも自らの生活拠点へと足を向ける。
ゼロ「さぁ、俺も帰るとするか!・・・・・・ネットカフェとやらによ」
ほむらは、自らの家にゼロを滞在させる事を許していなかった。
ゼロは今、超能力で作った「モロボシ・シン」という偽の身分照明と、
ほむらから受け取った生活資金を元にネットカフェで生活していたのだった。
つづく
完成分のストックは消化したので、
以降は週1〜2回ペースで投下できればと思ってます。
あと杏子はゼロについて
「どう見てもコイツ『魔女』だし、まぁ女だろ」程度に考えてた・・・はず。
【薔薇園の魔女編 その1】
夕刻の見滝原の街中を、コンビニ袋をぶら下げた青年が一人歩いていた。
「モロボシ・シン」の名義を借りたウルトラマンゼロである。
魔女狩りを始めて一週間、手探りながらも彼は地球の生活に溶け込み始めていた。
ゼロ「へへっ、ウルトラ兄弟が絶賛してただけのことはあるな!
何度食っても飽きが来ねえ」
袋の中に入っているのはカレーライス。
地球を訪れた経験のある先輩ウルトラマン達は、総じてこの料理を評価していた。
案の定ゼロもその虜となり、数日間の夕食全てにカレーを選んでいた。
ゼロ「公園で食ったら、また魔女探しだな」
ゼロが歩道橋を渡っていた時、虚ろな表情をした中年男が手摺に手を掛けていた。
不思議そうにそれを見ていたゼロの前で突然、男が歩道橋を乗り越え始めた。
真下には、何台もの自動車が行き交っている。
ゼロ「ばっ・・・馬鹿ヤロウ!何やってやがる!!」
迷わず袋を投げ捨てて駆け寄り、男を歩道橋の中へ引き戻す。
男は押さえつけてもなお、道路へ飛び降りようともがいていた。
ゼロ「仕方ねえ・・・!」
男を大人しくさせるべく、ゼロは鳩尾に軽く拳を打ち込み、気を失わせた。
倒れた男を抱きかかえると、首に黒い刻印が刻まれていることに気付く。
ゼロ「これは!?」
それは魔女に魅入られた証『魔女の口付け』であった。
ゼロが手をかざすと、どこからか刻印に向けて
マイナスエネルギー(人の心から生まれる暗い波動)が送信されていた。
ゼロ「どうやら、魔女の影響を受けてるようだな。
・・・ゆっくりメシ食ってる暇もなさそうだぜ!」
ゼロが指で刻印を擦ると、男の首から刻印が消えた。
代わりにゼロの指先に刻印が浮かび、マイナスエネルギーが発信され続ける。
その送信元を逆探知するべく、男をその場に残してゼロは走り出した。
一方、見滝原の病院から、一人の少女が家路についていた。
少女は、ほむらが通う見滝原中学校の制服を着用している。
少女(・・・・・・)
無言で歩く彼女の表情は重い。
考え事をしていた少女の足は、無意識の内に自宅とは別方向へと向かっていく。
少女「・・・あれっ?」
ようやく彼女が気付いたとき、周囲には見慣れぬ光景が広がっていた。
少女「えっ何ここ・・・迷った?」
西洋的でありながら、どこか不気味さを感じる謎の迷路。
引き返そうと振り返るが、既に入り口は見えなくなっていた。
少女「まっずいなぁ・・・誰か探して案内してもらわないと・・・」
ここが魔女の作り出した結界であることも、魔女の存在すらも少女は知らない。
不安に駆られながら、少女は先へ進むことを選んだ。
つづく
あと>>27に少し訂正を。
【×】ゼロはポケットからグリーフシードを一個取り出すと、杏子に投げ渡した。
それは彼なりの挨拶代わりであった。
↓
【○】ゼロはポケットからグリーフシードを一個取り出すと、少女に投げ渡した。
それは彼なりの挨拶代わりであった。
【×】ほむらは、自らの家にゼロを滞在させる事を許していなかった。
ゼロは今、超能力で作った「モロボシ・シン」という偽の身分照明と、
ほむらから受け取った生活資金を元にネットカフェで生活していたのだった。
↓
【○】ほむらは、自宅にゼロを滞在させる事を許していなかった。
ゼロは今、超能力で作った「モロボシ・シン」という偽の身分照明と、
ほむらから受け取った資金を元にネットカフェで生活していたのだった。
乙です!
モロボシ・シンって名前はモロボシ・ダンとハヤタ隊員の名前からとったのかな?
(ハヤタ隊員のフルネームはハヤタ・シン)
【薔薇園の魔女編 その2】
マイナスエネルギーを辿ることで、迷うことなく魔女の元に到達できたゼロ。
彼は結界の高所から、薔薇園の中心で蠢く魔女を見下ろしていた。
ゼロ「こいつか・・・中々厄介そうだぜ」
結界の主は、ドロドロの汚物にまるで蝶の羽根が生えたかのような『薔薇園の魔女』。
その魔女を守るように、よく似た外見をした使い魔達もひしめいている。
しかしゼロはすぐに戦闘に入らず、少しばかり何かを考え込んでいた。
ゼロ(これが、今の俺に出来ること・・・)
やがて踏ん切りがついたように拳を突き出し、ブレスレットからゼロアイを召喚する。
その時、少女の声が結界に響き渡った。
少女「あのーっ、すみませーん!!」
ゼロ「ほいっ!?」
少女「やっぱ人いた!助かったぁー!」
突然響いた声に驚き、思わず手にしたゼロアイをポケットに直す。
ゼロが背後を振り返ると、結界に迷い込んだ少女が、通路の奥で手を上げていた。
ゼロ(あの子に、魔女の姿を見せるわけにはいかねぇな)
少女はこちらへ向かって歩いてくる。
ゼロは待ち構える魔女に背を向け、逆に少女の方へと走って行った。
ゼロ「一般人の立ち入りは禁止だぜ。どうしたんだ?」
少女「いやぁ〜お見舞いの帰りだったんですけど、
ぼーっとしてたらここに迷い込んじゃいまして・・・」
魔女がゼロへの臨戦態勢にあったためか、少女は使い魔に遭遇していない様子であった。
しかし『口付け』の見受けられないこの少女も、魔女に目を付けられた可能性は高い。
ゼロ「とにかく、ここに長居は無用だぜ。こっちだ!」
ゼロは少女の手を取り、薔薇の咲き誇る迷路を引き返していく。
やがて魔女の殺気がこちらに向き始め、深部から幾つもの小さな影が追いかけて来た。
少女「なっ・・・何!?」
ゼロ(使い魔か!)
現れたのは、深部の薔薇園にいた魔女の手下達。
後ろを振り向いた少女は、その姿を直視してしまう。
少女「うわ、グロい・・・」
ゼロは少女に使い魔を認識させてしまったことを後悔するが、
今は敵の撃退が最優先であった。
ゼロ「すぐ追いつく!真っ直ぐ走れ!」
少女「えぇっ?お兄さん大丈夫なの!?」
ゼロ「でぇありやっ!!」
ゼロは少女に飛びかかろうとする使い魔に回し蹴りを食らわせ、壁に叩き付けた。
人間体とはいえ壁にひびが入るほどの威力があり、使い魔も消滅する。
ゼロ「な、大丈夫だろ?」
少女「すっご・・・」
少女はアクション映画を見ているかのような感動を覚えるが、
すぐにゼロの指示を思い出し、走り出した。
使い魔との小競り合いを続けながらも、結界と外界の境目まで到達した二人。
そこには硬く閉ざされた扉があり、ゼロが押しても蹴りつけても開く様子はない。
ゼロ「悪い、少し下がっててくれ!」
ポケットから先程直したゼロアイを取り出す。
しかし今回はゼロアイを装着せず、半分に折り畳み、扉に向けて構えた。
ゼロ「ついでに耳も押さえてろよ!」
少女「ちょっ!?注文多いってば!」
小銃となったゼロアイから一発の光線が放たれ、扉に穴を開けた。
ゼロは扉を壊すべく、畳み掛けるように連射していく。
少女「って、工事まで始まっちゃったよ!!」
鳴り響く爆発音が止んだ後、ボロボロになった扉をゼロが蹴破る。
崩れた扉は消滅し、ついに外界への道が開いた。
ゼロ「よし、急ぐぞ!」
ゼロは再び少女の手を取ると、夕日が沈みかけた外界へと彼女を連れ出した。
少女は自分が出てきた建物を振り返るが、その外観は只の廃ビル。
思えばビルの面影が感じられたような気もするが、
この中に庭園のような迷路・怪物達が納まっていたとは、とても思えなかった。
ゼロ「危なかったぜ・・・」
少女「はぁっ・・はぁっ・・・」
廃ビルから離れた二人は、安全と判断して立ち止まる。
追っ手が来る様子もなく、結界の反応も移動してはいなかった。
少女「何かもう色々と、ありがとうございました!」
ゼロ「いや、礼には及ばねえよ」
少女「・・・でも何だったのアレ?私、悪い夢でも見てた!?」
ゼロ「君、最近何か悩んだりしてないか?
もしそうなら・・・今日見たもの全部、疲れが見せた悪い夢だ!」
一連の出来事を、現実と認識しつつも信じられない少女。
ゼロは少女の肩に手を置き、笑顔で全てを否定する。
少女「いや無理ありすぎっしょ!まーでも・・・確かに悩んでたのはホントだね。
恭・・・・・・友達が怪我してて、そのことで色々とさ・・・」
今まで活発に振る舞っていた少女が、急にしおらしくなった。
何か事情があると察したゼロも、励ましの言葉を残す。
ゼロ「友達、治るといいな」
少女「・・・うん、ありがと。
今日の事は何がなんだか・・・ってカンジだけど、もう帰るよ」
ゼロ「ああ。・・・おっと、忘れてたぜ」
思い出したように少女を呼び止めたゼロは、意味深な忠告を残す。
ゼロ「最近、魔法ナンチャラになれば願いがどーの・・・
って勧誘してくる怪しいヤツがいるみたいだから、十分気をつけろよ!」
少女「何それ、都市伝説?」
ゼロ「似たようなもんだ。じゃあな!」
少女「お兄さんこそ、じゃあね!」
少女は手を振りながら去り、ゼロも手を上げてそれを見送った。
彼女がいなくなるのを確認し、ゼロは魔女討伐の為に再び結界へ戻ろうとする。
その時、何者かが彼に声を掛けた。
??「怪しいヤツってのは心外だね」
ゼロ「・・・お前は!!」
すぐさま振り返るゼロ。
彼の目の前には、白く小さな動物が座り込んでいた。
つづく
>>36
http://m-78.jp/special/premiere/cast.html
宮野真守が直接演じた人間体です。
作中で宮野の名前出すのもどうかと思ったんで、
「ゼロと同じ声」「顔がうるさい」といった表現で濁してました。
??「僕が見えているようで安心したよ。君とは直接話がしたかったからね」
ゼロ「言ったそばから出やがったか!」
言葉を話す謎の動物を前に、ゼロの表情が途端に険しくなる。
??「はじめまして、僕はキュゥべえ!」
ゼロ「ヘッ・・・キュゥべえだと?
ゆるキャラぶってんじゃねえよ、『インキュベーター』!!」
QB「驚いたよ。僕達の事まで知っていたとは」
ゼロ「ああ、知ってるぜ。テメェらが魔法少女を生み出してることも、
その目的も、全部な!」
キュゥべえとは、契約を交わした少女の願いを一つ叶え
対価として、魔女討伐の使命を授ける『魔法の使者』である。
同時に、ほむらがゼロに告げた敵の正体———
『インキュベーター(孵卵器)』そのものであった。
QB「僕が予想していた以上に核心に迫っているようだね・・・実に興味深い。
君が何者かも含めて、詳しく聞かせてもらえないかな?」
ゼロ「生憎、テメェに構ってる暇はねぇんだよ!
早く魔女を倒さないと、また犠牲が増えちまう!」
QB「あの魔女のことなら、心配は要らないよ」
ゼロ「あぁ?」
残してきた魔女の動向を心配していたゼロであったが、キュゥべえの言葉と共に、
廃ビルから漂っていたマイナスエネルギーの反応が消える。
ゼロ「結界が解けた・・・逃げられたか!?」
ゼロは急いで魔女の元へ駆け出し、キュゥべえもその後を追う。
ゼロ「このっ!着いて来んじゃねぇ!」
QB「はぁ、魔女なら既に死んでいるよ。行くだけ時間の無駄なのに」
ゼロ「黙ってろ!自分で確かめて・・・」
ゼロは向かっていた方角から、一人の少女が歩いて来ることに気付く。
彼女は、ほむらや先程助けた少女と同じく、見滝原中学校の制服であった。
少女「キュゥべえ!もう、急にいなくなるんだから」
ペットと触れ合うかのようにキュゥべえを呼ぶ少女。
キュゥべえも少女の元へ駆け寄ると、その肩に飛び乗った。
QB「早かったね、マミ」
マミ「あの程度の魔女に、後れを取るもんですか」
会話から察するに、マミと呼ばれたこの少女が、既に魔女を倒した後らしい。
普通の人間に魔女退治はまず不可能。ゼロにその方法は一つしか思い浮かばなかった。
ゼロ「まさか、君も魔法少女なのか?」
マミ「!?」
思わぬ問いに驚くマミ。
マミ「・・・キュゥべえも見えるみたいだし、どうやら一般人ではないみたいね。
確かにその通りよ」
マミは自分が魔法少女であることを認めるが、
見知らぬ青年がその存在を知っていることを警戒する。
ゼロ「って事は、君が魔女を倒してくれたんだな。安心したぜ!」
マミ「えっ?」
魔女が倒され、市民が救われたことを純粋に喜ぶゼロ。
その反応を見たマミは一瞬驚くが、警戒は解かなかった。
マミ「貴方は、魔法少女の家族か関係者かしら?」
ゼロ「俺は———」
QB「彼はもう一人のイレギュラーだよ。
一週間前から見滝原で魔女と戦っていた、魔法少女とは全く別の存在だ」
ゼロが名乗るより早く、キュゥべえが口を挟む。
マミ「男性ということは、キュゥべえが力を与えたわけではないのね?」
QB「うん、魔法とは全く異なる力を感じるよ。彼の持つ腕輪からは、特にね」
ゼロの左腕に輝くウルティメイトイージスに目を向けるキュゥべえ。
一方でマミは護身のため、魔法で小銃を作り出した。
その銃口は地面を向いていたが、直ぐに対応できるよう握られている。
ゼロ「またこうなるか・・・
君は、俺が結界から女の子を逃がしたところは見てないのか?」
杏子との出会いに続き、ゼロはまたも敵と疑われていることに不満を抱く。
少女を救出した一件で敵意が無いことを証明しようとするが、
結界内で入れ違いとなったためか、マミはそれを知らなかった。
マミ「彼言ってることは本当なの?キュゥべえ」
QB「確かに事実だね。彼は人間や魔法少女へ危害を加えたりはしていない。
彼が敵視しているのは魔女、そして僕だ」
ゼロ「あの野郎ッ、またややこしくなるような事を!」
良くも悪くも偽りの無いキュゥべえの証言が、ゼロの行動を肯定する。
ゼロが悪人ではないことは察したマミであったが、
「キュゥべえへの敵視」という不安要素が、彼女を困惑させた。
マミ「貴方の『正体』と『目的』を教えて貰えないかしら?
悪いけど、今のままでは味方と判断できないの」
敢えて魔法少女に変身せず、小銃のみで対話に臨むマミ。
それは信用と疑心で揺れる彼女が、手荒な真似を避けた形であった。
ゼロ「言えない、と言ったら?」
マミ「長くは待たないわ。私、この後予定があるの」
ゼロ「予定———予定だと!?」
何気ないマミの一言で何かを思い出し、焦り始めるゼロ。
彼女の問い掛けにも構わず、ゼロはこの場を立ち去ろうとする。
ゼロ「悪い、急用を思い出したんでな。俺は帰る!」
マミ「動かないで。説明責任は果たしてもらうわよ」
マミも咄嗟に、手にした銃をゼロへと向ける。
一瞬立ち止まるゼロであったが、その表情にはどこか余裕が感じられた。
ゼロ「名前だけなら教えてやるよ。俺はゼロ、ウルトラマンゼロだ!
それ以外は秘密だ。じゃあな!」
マミ「ちょっと、待ちなさい!」
時折後ろを振り返り、マミの持つ銃を気にしながらも、ゼロは走り去って行く。
しかし彼女が、最後までゼロを撃つことは無かった。
QB「ウルトラマンゼロ?どこかで・・・」
マミの肩でその様子を見ていたキュゥべえは、静かに呟く。
その声は、マミの耳には届いてはいなかった。
いくら不信人物でも銃向けといて「対話」はねえだろ…マミさんよぉ
QB「見逃して良かったのかい?」
マミ「色々と気に掛かるのは事実だけど、悪い人ではないのかもしれない。
もし不穏な動きがあれば、その時に対処するわ」
彼女の銃はあくまでも護身であり、ゼロが攻撃に出ない限り、引き金を引くつもりは無かった。
そして彼が本当に、魔女を倒して人を守る「正義の味方」であるのなら、
このまま見逃しても構わないという思いもあった。
QB「そうか。でも、もし君が発砲していたとしても、彼は難なく防いでいただろう」
マミ「防いでた・・・あの状態で?」
QB「彼の手が微量のエネルギーを纏ってたのさ。直ぐにでも大きく展開できるようにね。
恐らく、バリヤーでも張るつもりだったんじゃないかな?」
マミ「これは一本取られたわね」
ゼロが見せた余裕の意味を知り、マミは軽く溜め息をついた。
更にキュゥべえは、ゼロとは異なるもう一人のイレギュラーについて話を続ける。
QB「彼もだけど、もう一人・・・暁美ほむらの動向も心配だ。
何かを企んでいる可能性は高い。気をつけるべきだね」
マミ「それは、暁美ほむらと彼が組んでいるという事?」
QB「まだ断定はできないよ。彼女は恐ろしい程に隙が無い」
マミ「その件も含めて、色々聞いてみるわ」
同じ見滝原の魔法少女として、マミはほむらの存在を知っている。
彼女はキュゥべえの反応から、ゼロの存在に興味を抱いている反面、
ほむらについてはかなり危険視していることを察した。
QB「そういえば、彼が結界から逃がした子、彼女にも素質があったんだ。
マミ、君にも新しい後輩ができるかもしれないよ」
マミ「新しい、後輩・・・」
キュゥべえは新たな魔法少女の誕生を示唆すると、どこかへ去っていく。
一人残ったマミは、どこか複雑そうな表情を浮かべていた。
つづく
>>49
「対話」って向かい合って話することだから、
脅迫じみてても間違ってはない・・・・・・よな!?
【薔薇園の魔女編 その3】
夜を迎えた見滝原市街。
その路地裏に、魔法少女となったほむらが立っていた。
無表情で何かを待つ彼女の元に、一人の青年が近付いてくる。
ゼロ「ここだな」
現れたのは、マミとの対峙から抜け出した人間体のゼロ。
二人は別行動を取ってはいるが、場所と日時を指定して密会を続けていた。
そして今回は、三日ぶりの再会となる。
ほむら「早く」
ほむらがそっと手を差し出し、ゼロはその手に触れる。
同時に二人を除いた全ての時が、一瞬にして止まった。
ゼロ「相変わらず徹底してるな。関心するぜ」
ほむら「当然よ。もし念話にまで介入されたら、全てが奴に筒抜けになる」
ほむらは魔法少女の能力として『念話』と呼ばれるテレパシー会話も行えたが、
キュゥべえの監視を考慮し、時間停止の魔法を密会に利用している。
ほむら「遅くなったことだし、手短に済ませましょう」
ゼロ「悪い、少しばかり手間取っちまってな!
あの契約野郎が、俺のこと嗅ぎ回ってたからよ」
ほむら「インキュベーターに会ったのね」
ゼロ「それと、他の魔法少女にも二人会ったぜ。
槍使いのじゃじゃ馬娘と、銃を持ったお嬢さんだ」
ゼロが語った魔法少女の特徴を耳にし、ほむらは僅かながらも反応を示す。
しかし、何事も無かったかのように彼女は話を続けた。
ほむら「奴は、間違いなく貴方と接触した魔法少女からも情報を集めるはず。
余計な情報は与えてないわね?」
ゼロ「俺の名前と、『ワルプルギスの夜』のことを一人に伝えただけだな。
忠告のつもりだったが、退いてくれるかが怪しいもんだ」
ほむら「その程度なら十分よ。
私達が謎を抱える限り、奴は注意をこちらに向け続ける。
この現状を、最後まで維持すればいい」
ゼロ「ああ!ヤローの営業ノルマ、俺達でぶっ潰してやろうぜ!」
ほむら「只、相手は狡猾すぎる。
貴方は熱くなりやすい性格だから、口車には乗らないよう注意して」
ゼロ「お、おう・・・」
ほむらの指摘を受けたゼロは、ばつが悪そうに頭を掻き、軽く頷いた。
ゼロ「おっと、これ渡しておかねぇとな」
ゼロはポケットから何かを取り出し、ほむらに手渡す。
それは、ゼロが数日間の戦いで入手したグリーフシードであった。
その数は、杏子に譲った二個を差し引いて五個。
要した日数と比較しても、十分過ぎる収穫である。
ゼロ「朝から晩まで結構戦ったぜ。使い魔も会わせると、もっとだな」
ほむら「順調のようね。感謝するわ」
ゼロ「へへッ」
ゼロは空いた片手で、鼻を軽く擦る。
つづく
あと>>55に少し訂正を・・・
【×】使い魔も会わせると
【○】使い魔も合わせると
ほむら「私の方も順調よ。貴方は引き続き、魔女討伐を続けて頂戴。
今まで通り・・・見滝原から魔女を消し去る勢いで構わないわ」
ゼロ「なあ、思ったんだけどよ・・・本当にそこまでやって大丈夫なのか?」
ほむら「全て計画の内よ。何も無策に言ってるわけじゃない」
ゼロ「とはいえ、グリーフシード目当てに縄張り争いまでやってるくらいだ。
一波乱起きるんじゃねえか?」
ほむらの指示を受け、ゼロは一週間で相当数の魔女を倒してきた。
しかし彼は、その行動が魔法少女達の均衡を揺るがすのではと心配していた。
原因は、魔女狩りの戦利品・グリーフシードにある。
それはソウルジェムの魔力を回復させる役目を持つ上、倒した魔女から必ず手に入るものではなかったからだ。
ほむら「見滝原の魔法少女は、私を含めて今は二人。然したる影響はないわ。
気に掛かるなら、支障のない範囲で私達のグリーフシードを提供すればいい」
ゼロ(もう一人・・・さっきの子か)
ほむらの指す魔法少女がマミであると、ゼロはすぐに察した。
しかし杏子の時と違い、慎重な彼女が説明もなくグリーフシードを受け取るかは、疑問が残る。
ほむら「何れにせよ、魔女の反応を見つけたり、目の前で誰かが魅入られていたとして、
放っておける貴方ではないでしょう?」
ゼロ「口挟んどいて何だが、確かにその通りだ。見過ごせるわけがねぇ」
ゼロは自分の正義に従い、発見した魔女・使い魔は一切見逃さずに戦っている。
迷いが生まれようと、その戦い方を変えることは出来ず、ほむらもそれを望んでいた。
ほむら「忘れないで。
私達の目的は『ワルプルギスの夜』に勝利して、この一ヶ月を終えること。
そして———『彼女』の契約を阻止することよ。
貴方の戦いは、彼女を非日常から遠ざけるために必要なの」
ゼロ「わかったよ。俺も迷わず戦う」
ほむら「理解が早くて助かるわ。
全ては上手く運んでる。お互い、上手くいくことを祈りましょう」
ゼロ「やってやるよ!俺のウルトラ魔女ファイトは・・・こっからだぜぇぇっ!!」
ゼロは片手の拳を振り上げ、ほむらは「何を言っているんだ」とばかりの表情で彼を見る。
こうして二人は自身の役割を再確認し、密会を終えた。
・・・はずであったが、ゼロは急に余所余所しい態度を取り始めた。
しばらく沈黙が続くが、埒が明かないのでほむらから話を切り出す。
ほむら「何?」
ゼロ「最後に相談があるんだけどよ・・・」
ほむら「家には泊めないわよ」
生活の改善を直談判したいゼロであったが、ほむらは聞くまでなく一蹴してみせる。
ゼロ「少しくらいいいじゃねえか!ネットカフェじゃ背中もロクに———」
問答無用とばかりに、ほむらはゼロの手を離す。
再び時を刻み始めた路地裏に、彼女の姿は既になかった。
ゼロ「・・・またメシ買い直すか」
空しく呟いたゼロの手には、封筒が握られている。
中には次の合流予定が書かれたメモ、そして追加の生活資金が入っていた。
つづく
やっとウルトラゼロファイト二部見れたけど、ブロンズ像で茶吹いた
【薔薇園の魔女編 その4】
ゼロとほむらが密会を終えた頃、マミは公園のベンチで一人「予定」の時刻を待っていた。
目を閉じて俯いていたマミは、軽く深呼吸し、心を落ち着かせる。
どこからか聞こえてくる足音の方へ目を向けると、ビニール袋を提げた少女が歩み寄ってくる。
その少女は、風見野市の佐倉杏子であった。
マミ「久しぶりね、佐倉さん」
杏子「そっちも相変わらずそうだな」
杏子はマミと同じベンチに、少し距離を置いて腰を下ろす。
彼女はすぐにビニール袋へ手を伸ばすと、スティック菓子を取り出して封を開けた。
以前から二人は面識を持っていたが、長らく顔を合わせておらず、どこか気まずい空気が漂っていた。
マミ「考えてもみなかったわ。貴方の方から連絡をくれるなんて」
杏子「アタシだって好き好んで来るわきゃないさ・・・聞きたいことが色々あんだよ」
親しげに話そうとするマミだが、杏子の反応は微かに冷たい。
世間話はできそうにないと判断したマミは、すぐに本題へと移った。
マミ「そう・・・何が知りたいのかしら?」
杏子「『ウルトラマンゼロ』って奴の事だよ。見滝原で魔女を狩ってる、謎の兄ちゃんさ」
マミ「貴方も彼に会ったの!?」
杏子の口から飛び出したのは、先程遭遇した謎の人物の名前。
同じく、ゼロについての情報を尋ねるつもりでいたマミは驚きを隠せなかった。
杏子「ん?もしかしてアンタの使い魔かよ?」
マミ「人を魔女みたいに言わないで頂戴。それに、ついさっき会ったばかりよ。
それ以上の関係はありません!」
杏子「冗談だよ冗談。真に受けんなって」
杏子の軽口に、マミはむっとした様子で言葉を返す。
このやり取りが、重苦しい空気を僅かに和ませた。
マミ「とにかく、貴方も知っているのなら話は早いわ。私達の情報を共有できないかしら?」
杏子「わかったよ。つーか最初からそのつもりだったし」
マミはすぐに話の起動を修正すると、杏子に協力を持ちかける。
了承した杏子から先に、ゼロとの関わりで得た情報を話し始めた。
杏子「まず、三週間後に『ワルプルギスの夜』が見滝原に来るって話、知ってるかい?」
マミ「『ワルプルギスの夜』!?・・・本当にあの魔女は実在しているの?」
杏子「そこまで知るかよ。逆に聞きたいから、風見野からわざわざ来たんじゃんか」
ゼロの名に続き、再びマミは度肝を抜かれる。
ごく普通の魔法少女から見れば『ワルプルギスの夜』はあくまで噂話であり、
その存在自体が眉唾ものであった。
杏子「只、ゼロの奴が言ってたのさ。あの大物魔女を相手に戦うってね。
危険だからアタシらは手を出さないでほしいんだと」
マミ「戦うって・・・『ワルプルギスの夜』が噂通りの存在なら、
相応の強さを持ってないと無事では済まないはずよ」
杏子「最初、魔女と間違えて襲っちまったんだけど、確かにやり手だったよ。
防御に回るばっかで、全然攻めてこなかったけどねぇ」
ゼロの力を知らないマミは、本当に彼が『ワルプルギスの夜』に対抗し得るのかを疑問を感じていた。
しかし、マミから見ても『実力者』である杏子は、素直にその強さを認めていた。
マミ「彼と戦ったみたいだけど、一体どんな能力を?」
杏子「身体能力もハンパなかったけど、能力もすげぇトリッキーだったな。
デコからビーム出すわ、ミジンコみてーに小さくなるわ・・・」
マミ(おでこからビーム!?)
杏子が説明を続ける一方、マミの脳内では青年が髪を掻き揚げ、額から破壊光線を発射していた。
杏子「忘れてた。あの兄ちゃんも変身して戦うんだよ。
最初会ったときは既に変身してて、後で人間の姿に戻ったんだ」
マミ(彼も変身を!?)
長らく魔法少女として戦ってきた経験故か、マミには特撮ヒーローのような
男性の変身イメージがすぐには出てこなかった。
代わりに、青年が魔法少女の衣装を纏った姿を想像してしまう。
杏子「確か全身タイツみてーな体してて、色は赤・青・銀で、刃を二つ持ってて…」
マミ(・・・全身タイツ!?)
今度は彼女の脳内で、カラフルな全身タイツを着用した青年が、両手にナイフを構える。
彼女はゼロのウルトラマンとしての姿を見ていないため、断片的な特徴では全く想像がつかなかった。
マミ「ただの変質者じゃない・・・」
杏子「多分アンタが想像してるよりはスタイリッシュだよ・・・」
二人は、それぞれ異なる理由で唖然とする。
杏子「大体、アタシから話してばっかだけど、そっちは何か情報無いのかよ?」
マミ「そういえばキュゥべえは、彼に全く関与していないと言ってたわ。
魔女を倒した力は、魔法とは全く違うそうよ」
杏子「魔法と違う、か。確かに別モンだったよ、ありゃあ」
マミの持つ数少ない情報にも、杏子は既に何かを知っている様子を見せる。
それは『趣の魔女』との戦いで、ゼロの治癒を受けた一件にあった。
杏子「ちょっと魔女相手にヤバい状況になっちまってさ、アイツに回復してもらったんだよ。
けど、魔法とはどっか違うんだよね。なんつーか、『暖かい』?」
マミ「そんなことが・・・」
ゼロが杏子のソウルジェムに与えたのは、ウルトラマンの持つ『光』のエネルギー。
しかし杏子には、その感覚を上手く表現することが出来なかった。
マミ「佐倉さんは、彼が悪人だと思う?」
杏子「少なくとも悪い奴じゃあないでしょ。グリーフシードも貰ってるからな。
それに『敵じゃない』って自分で言い切ってたし」
マミ「やっぱり、そうなのかしら・・・」
杏子「まだ何か引っかかってる様子だね。情報交換にならないから、言っちまえよ」
何かに迷っているようなマミの様子に、杏子は鋭く切り込む。
マミ「彼、キュゥべえに敵意を持っているそうなの。
これもキュゥべえ本人の話だから、信憑性は高いと思うわ」
杏子「敵意ねぇ・・・確かにキュゥべえの奴は色々と胡散臭いからな。
『僕と契約して〜』って壷でも買わされたんじゃないの?」
笑いながら話す杏子を見ながら、マミも釣られてくすりと笑う。
この時点で、二人の間に漂っていた重々しい雰囲気は既になくなっていた。
マミ「その件に繋がることで、もう一つ気になることがあるの。
『暁美ほむら』って名前の、黒い魔法少女を知らない?」
杏子「聞いたこともないね。見滝原の奴か?」
マミ「ええ。しかも、キュゥべえがイレギュラーだなんて呼ぶ程の問題児」
杏子「ほーう。そいつは一体何やらかしてんのさ?」
マミ「彼女、魔女討伐の使命を殆ど果たしていないの。
その代わりにキュゥべえを襲ったり、何か不審な動きを繰り返してる。
何を考えてるのか、全く分からないわ」
ほむらはゼロに魔女討伐の殆どを任せ、自分の『目的』に集中している。
それらの行動は、マミやキュゥべえにも異質に映っていた。
杏子「サボリ魔がまかり通るほど、この契約は甘くないだろ。
変身してコソコソやるにも魔力がいる。グリーフシードだって———」
全て言い終える前に、杏子の脳裏をある記憶がよぎった。
杏子「そういやゼロのやつ、魔法は関係ないのにグリーフシード回収してたっけ。
アイツの収穫をサボリに提供すりゃあ、合点はいくかもな」
マミ「そして二人ともキュウべえを敵視している。
もしかして彼は、暁美ほむらに利用されて・・・?」
肩代わりにも思える魔女討伐と、共通の敵意。
マミは、ほむらが悪意ある目的の為に、純粋な『正義の味方』であるゼロを唆したのでは考える。
それは、彼女がキュゥべえに疑いを持っていないからこその仮説であった。
杏子「ははっ!面白くなってきたじゃん!」
杏子は菓子の空き箱を袋に突っ込むと、ベンチから体を起こした。
そのままマミの正面へと歩いて行く。
杏子「連中の動向も気になることだし、たまには見滝原にも足運ばせてもらうよ!」
マミ「見滝原にもって、貴方には風見野が・・・」
杏子「別にアンタから縄張りを奪おうなんて考えちゃいないさ。欲しいのは情報だからね」
マミ「でも・・・」
不敵な笑みを浮かべながら、勝手に話を進めていく杏子。
マミは自信なさげに、ぎゅっと拳を握り締める。
少しだけ間を置き、何かを決意したかのように口を開いた。
マミ「いい機会だから、提案させて」
杏子「あぁ?」
マミ「もう一度私と組むつもり、ないかしら? 見滝原も風見野も、私達二人で・・・」
その提案を耳にし、杏子の反応が固まる。
しかし、すぐにいつもの小憎らしい彼女が帰ってきた。
杏子「久々の連絡にすんなり応じたと思ったら・・・やっぱそれが狙いかよ」
マミ「・・・・・・」
棘のある杏子の口調に、マミは俯いてしまう。
二人はかつて組んで戦っていた経験があったが、意見の相違から現在はコンビを解消している。
今回マミが接触に応じたのも、和解し、もう一度共に戦えないかという期待を持っていたからであった。
マミ「ごめんなさい。貴方の気持ちも考えずに」
杏子「・・・で、アンタは戦うのかい?」
マミ「えっ?」
杏子「もし『ワルプルギスの夜』が来たら、戦うのかって聞いてんだ」
思わずマミが顔を上げた時、杏子は背を向けていた。
杏子「ソイツが本当に現れるってんなら・・・加勢してやってもいい。
名を上げる折角のチャンス、譲るのは勿体無いしね」
最初から聞き入れられないと考えていたマミは、予想していなかった返事に驚く。
やがて沈んでいた表情が、少しずつ笑顔へと変わっていった。
マミ「もちろんよ。それが、魔法少女の使命ですもの」
杏子「フン」
僅かに明るくなったマミの声を耳にし、杏子は鼻で笑う。
杏子「ま、今日のところは帰らせてもらうよ」
マミ「佐倉さん、久々に話せて良かったわ。———ありがとう」
杏子は振り返ることなく立ち去り、マミはその後姿を、見えなくなるまで目で追う。
未だ全ての溝は埋まらないものの、二人の口元はどこか嬉しそうに緩んでいた。
つづく
次の投下で序盤が終わると思います。
【ウルティメイトフォースゼロ その1】
一方、ゼロが地球へ向かって数時間が経過したアナザースペース。
宇宙のとある場所に、緑の輝きを放つ巨大建造物『マイティベース』が浮かんでいる。
それは、ゼロが仲間達と結成したチーム『ウルティメイトフォースゼロ』の秘密基地であった。
??「イヤッホォォォーーゥッ!!」
どこからか火の玉が現れ、雄叫びを上げながらベース内へと入っていく。
やがて炎は消え、その中から筋肉質な赤い巨人が降り立った。
??「イェェィ!!」
彼が頭を掻き揚げると同時に、頭から炎が噴き出す。
巨人の名はグレンファイヤー。ゼロの仲間の一人である。
グレン「うおぉーーぃ!グレン様のお帰りでぇい!
———って、あら?まだ誰も帰ってねえのかよ?」
しかしベース内には誰も見当たらない。
グレン以外のメンバー達は、まだ敵の残党捜索から帰還していなかった。
グレン「ファイヤーーッ!!」
グレンの声はベース内で反響し、空しく響く。
一人とは思えないテンションを見せていた彼も、退屈には敵わない様子であった。
グレン「揃いも揃って真面目なこった! いいよいいよ、俺は昼寝でもして待ってらぁ!」
グレンが床に寝転がり始めた時、ベースの入口からコツコツと足音が響いてきた。
顔を向けると、銀色の巨人が一人歩いてくる。
??「お疲れ様です、グレン」
グレン「ああ、ミラちゃんかよ」
豪快なグレンと対照的に、クールな雰囲気を漂わせる彼は、
ゼロの仲間の一人・ミラーナイトであった。
ミラー「暇を持て余しているようですね。少しは掃除でもしてはどうですか?」
グレン「あぁ?俺だってあちこち飛び回って疲れてんだ。
理由つけて『焼き鳥』に任せときゃ十分だろ!」
ミラー「働かざるもの使うべからずですよ。
それに、燃えるゴミは貴方が処分した方が早いでしょう」
グレン「ったーく!俺を焼却炉か何かと勘違いしてんじゃねえのか・・・
大体、やる事ねえのはおめーも同じだろうが!」
ミラー「私は、鏡の手入れがありますから」
宇宙を守る巨大ヒーローとは思えない会話が繰り広げられるが、これもまた彼等の日常である。
ある意味、ウルトラマンとして型破りなゼロを象徴するようなチームといえた。
グレン「まぁ掃除は置いとくとして、ベリアル軍の奴らはどうだったんだ?
俺の持ち場には見当たらなかったぞ」
ミラー「私も同じでした。もう一度捜索するかは、三人の報告次第ですね。
もうすぐ帰ってくるとは思いますが・・・」
グレン「あーあ、待機ってのが一番キツイ任務だぜ!」
現時点でウルティメイトフォースゼロのメンバーは五人。
グレンとミラーは、ゼロと『焼き鳥』を含めた残る三人の帰還を待つ。
今の彼等は、ゼロが次元を越えて旅立ったことなど知る由もなかった。
つづく
これで序盤終了。
仲間達の留守番シーンは、区切りを付けたいときに入ります。
>>70
八百万の神を祀らず、異国の神を崇め(ry
マジレスすると、書き疲れたんでレンタルしたブラックラグーン見てました。
【お菓子の魔女編 その1】
祝日を迎えた、昼下がりの見滝原市。
街を行き交う人の姿が増えてなお、魔女はいつも通りに機を狙い、息を潜めている。
同じようにウルトラマンゼロも、魔女結界の中で変わらぬ戦いを続けていた。
結界内は見渡す限りの青空が広がり、制服の掛かった電線が張り巡らされている。
ゼロ「どいつもこいつも、なんて姿だよ…」
呟いたゼロの前に、電線を伝って蜘蛛のような何かが這い出てきた。
現れたのは、女学生の制服に六本腕という異形の『委員長の魔女』。
邪悪な敵には悪態をつくことも多いゼロだが、魔女に対してはどこか複雑な様子を見せる。
しかし、その存在が平和を乱す以上、戦闘で手心を加えるつもりは毛頭ない。
ゼロ「さあ、来な!」
臨戦態勢に入ったゼロに応えるかのように、結界の上空から、大量の机や椅子が落ちてくる。
ゼロ「って、そう来るかよ!?」
戦っていたのが魔法少女ならば、電線を足場とする他なかっただろう。
しかし飛行能力を持つゼロに支障はなく、結界を飛び回ることで落下物を回避していく。
魔女は攻撃を続けながら、更にスカートの中から大量の使い魔を呼び出した。
スケート靴を履いた下半身だけの女学生達が、滑るように電線の上を駆ける。
ゼロ「ハッ!」
隙を見ては飛び掛ってくる使い魔を、ゼロはエメリウムスラッシュで正確に狙い撃っていく。
光線を魔女にも向けて発射するが、魔女は素早い動きで電線を這い回り、光線を避ける。
得策でないと判断したゼロは光線を止め、頭のゼロスラッガーを飛ばした。
ゼロ「シェアッ!」
スラッガーの狙いは魔女の本体ではなく、しがみ付く電線であった。
切断された電線は垂れ下がり、掛けられていた制服もひらひらと落ちていく。
対する魔女は電線から電線へと飛び移り、スラッガーもそれに追従する。
ゼロ「逃げ場はねえぜっ!」
ゼロが指を振ると、スラッガーは不規則な起動を描き、電線を手当り次第に切断していく。
大量の制服が舞い上がる中、魔女はついに足場を失い、落下する。
ゼロ「終わりだ!」
戻ってきたスラッガーを手にするゼロ。
スラッガー二本を重ね合わせると、それは巨大な一本の刃『ゼロツインソード』へと合体する。
ツインソードを構えたゼロは、高速飛行で魔女へと迫る。
ゼロ「はあぁーーーーっ!!」
目前に魔女を捉えたゼロは、魔女と交差する一瞬の間に、二回の斬撃を繰り出した。
ゼロはそのままは制止せず、結界の真下へと突き進んでいく。
そして、魔女は×印の傷を青く光らせながら、一切の声も発することなく消滅した。
ゼロ「おっと!」
ゼロが着地の体勢を取った時、結界は完全に解除された。
地面に降り立つと同時に変身を解き、空から落ちてきたグリーフシードをキャッチする。
ゼロ「休日にまで学校行くこたぁねえよ。ゆっくり休みな」
戦いを終えたゼロが早々に立ち去ろうとした時、背後で小さな拍手が鳴る。
振り向くと、そこには先日出会った魔法少女、マミの姿があった。
つづく
結界の足場がロープなのか電線なのかわからなかったので、電線として扱ってます。
マミ「お見事ね。五分も経ってないわ」
警戒を怠らなかった前回と違い、マミの雰囲気は丸かった。
微笑む彼女に戸惑い、ゼロは苦笑いを返す。
ゼロ「はは…今日は安心しても大丈夫なのか?」
マミ「この間は、銃なんて向けて御免なさい。最初から危害を加えるつもりはなかったの」
ゼロ「いや、いいんだ。そういえば君はマミと言ったかな」
マミ「改めて自己紹介するわ。私は巴マミ。見滝原中の三年生」
謝罪と自己紹介を行い、敵意がないことを態度で証明するマミ。
ゼロはその心変わりを疑問に思うも、彼女を信用する。
ゼロ「で、どうしてここに?」
マミ「魔女と一緒に、貴方のことも探してたの。
結界に入って行くのを偶然見つけて、戻ってくるまでここで待機」
ゼロ「そういう事か。ま、丁度良かったかもな。俺も君と少し話がしたかったところだ」
マミ「私と?」
マミは杏子と、ゼロはほむらとの密会を経て、二人はもう一度話をすることを望んでいた。
両者の意向は一致していたが、状況はまだそれを許さなかった。
ゼロ「その前に、もう一仕事済まさねぇとな」
強いマイナスエネルギーが放たれるのを感じ取ったゼロは、その方向へと向き直る。
マミ「魔女が現れたのね?」
ゼロ「ああ。ここに来てからベスト3に入る反応の強さだ。
その上、まだ孵化もしてないときたぜ!」
ゼロは魔女の捜索において『口付け』の逆探知に加え、
魔女から漏れ出るマイナスの力を、自身の感覚で直接察知する方法を取っている。
後者は市内を歩き回る必要があったが、今回はその必要がないほどに発信源が強い力を放っている。
ゼロ「俺が行く。お茶でも飲んで待っててくれ!」
マミを一旦この場に残し、一人で魔女の元へ向かおうとするゼロ。
しかし彼女も、ゼロと同じ方角へ足を向けた。
マミ「女の子を一人にしちゃ駄目よ。
取り返しのつかない事になる前に、二人で一気に片を付けましょう」
ゼロ「取り返しの付かないこと…どういう意味だ?」
マミ「あの方角、病院があるのよ」
一瞬の沈黙の後、二人はすぐに走り出した。
【お菓子の魔女編 その2】
ゼロが『委員長の魔女』と戦っていた頃、一人の少女が中央病院へと入っていく。
その少女とは、先日ゼロが結界から助け出した見滝原中学の生徒であった。
少女は受付で見舞いの手続きを済ませると、エレベーターで上の階へ向かう。
しばらく進んだ後、廊下の真ん中で歩みを止めた。
少女(何で来ちゃったんだろ)
目線の先には、『上条恭介』の名が書かれた病室がある。
彼こそがゼロに話した友達であったが、少女はそこから先に踏み込むことを躊躇っていた。
少女(私が今入ったとして、気の利いた言葉を掛けてあげられる?
恭介の苦しみを、少しでも和らげられる?———無理だ)
結局入ることができずに病室を後にし、屋上へと足を向ける。
階段を上りながら、少女は前回の見舞いを思い返していた。
『僕を苛めてるのかい?弾けもしない曲を、毎日、毎日…!』
『諦めろって言われたのさ…今の医学じゃ無理だって』
『僕の手は、もう二度と動かないんだよ!!』
少女の頭に、病室の少年から向けられた言葉の数々が渦巻く。
彼へ抱く感情が『友愛』以上のものであったことが、更に彼女を苦悩させた。
屋上に到着すると、少女は腰を下ろしてフェンスにもたれ掛かる。
青空に向けて手を伸ばすと、手を握っては開いてを繰り返し、物思いに耽っていた。
少女(何で私じゃなくて、恭介なのよ…)
その時、突然の悪寒が少女を現実に引き戻す。
少女(何!?この嫌な感じ…)
得体の知れない感覚は、迷い込んだ迷路の空気とよく似ていた。
少女が思わず体を縮ませていると、頭上から何者かの声が聞こえてくる。
QB「『魔女』だよ、美樹さやか」
名を呼ばれた少女が見上げると、フェンスの上にキュゥべえが座っていた。
さやか「動物が喋ってる?って、何で私の名前まで知ってんの!?」
QB「僕はキュゥべえ。君の名前も、秘めた力も全部お見通しさ」
さやか「あんた、一体何を言って…」
魔女結界の時ほどではないが、さやかは目の前の状況が掴めなかった。
そんな彼女に、キュゥべえは説明を始める。
QB「君が迷い込んだ迷路と、小さな怪物を覚えているだろう?
その根源——『魔女』が、この病院の近くで生まれようとしているんだ」
さやか「本当に全部お見通しかい…つまり、この前私が見たものに関係があるんだね?」
QB「その通りだ。魔女は人間の生命力を奪う。
弱った人間の集まる病院が狙われれば、どうなるかは想像に難くない」
さやか「そんな…どうしよう!?恭介や他の患者さん達も!」
さやかは、廃ビルから自分を助け出した青年のことを思い出す。
彼ならば、この状況を救ってくれるかもしれないと。
しかしキュゥべえが提示した打開策は、全く異なるものであった。
QB「君が戦って、この病院を救うしかない」
さやか「は?私が化け物と戦うってこと!? ムリムリ、勝てっこないって!」
QB「僕と契約を結べば、その力が手に入る。君はその素質を持っているんだ」
さやか「何なのよ、契約って」
QB「君の願いを一つだけ叶えよう。君が望むなら、どんな奇跡だって起こすことが出来る」
さやか「どんな願いも?」
さやかの中で、想い人の姿がちらついた。
バイオリン奏者であった彼が、治った手でもう一度演奏をする姿が。
QB「その対価として、君には魔法少女になって魔女と戦ってもらいたい。
君は願いを成就し、皆を守る力も得られる。悪い話ではないはずだよ」
さやか「魔法…少女」
キュゥべえの契約を耳にし、さやかは青年の別れ際の言葉を思い出す。
『最近、魔法ナンチャラになれば願いがどーの…
って勧誘してくる怪しいヤツがいるみたいだから、十分気をつけろよ!』
彼の忠告がキュゥべえを指していると考え、さやかに僅かな迷いが生じる。
だが、ゼロとマミが向かっている事を知らない彼女に、選択肢は一つしか残されていなかった。
さやか「決めたよ。私、契約する」
QB「美樹さやか、君は何を願う?」
さやかは息を呑み、覚悟を決めた。
すごい話だな
【お菓子の魔女編 その3】
反応を追った二人の足は、マミの憶測通りに中央病院へと辿り着く。
病院の裏では、既に魔女結界が完成しつつあった。
ゼロ「本当に病院を狙ってやがったか!」
マミ「まだ孵化はしてないようね。急ぎましょう」
休む間もなく、結界へと飛び込む二人。
内側に広がる空間には、大量に積み上げられたお菓子の山が広がっていた。
その上には、斑模様の小さな使い魔が列を作って歩いている。
やがて侵入者に気付いた使い魔達は、一斉に向きを変え、二人の周囲に集まり始めた。
ゼロ「甘ったるい光景だな…見てるだけで胸焼けを起こしそうだぜ」
マミ「お菓子は苦手かしら?それじゃあ、私一人で食べ尽くさせてもらうわよ!」
マミが手を広げると、身につけていた指輪が本来の形であるソウルジェムに戻る。
ソウルジェムを輝かせると、彼女は黄色を基調とするクラシカルな魔法少女に変身した。
ゼロ「ヘッ!共闘を持ちかけといて、そりゃないぜッ!!」
ゼロは軽く鼻を擦ると、腕のイージスからウルトラゼロアイを召喚する。
手にしたゼロアイを装着しようとしたその時、どこからか突風が巻き起こった。
ゼロ「何だ!?」
二人が戦闘に入るよりも早く、高速で移動する何かが使い魔を切り裂いた。
それは青い光の軌道を描き、使い魔を次々と薙ぎ払っていく。
マミ「速い…」
ゼロ「間違いねえ、別の魔法少女だ!」
使い魔を一掃した青い光は動きを止め、マントをなびかせた少女に形を変える。
キュゥべえとの契約を終え、魔法少女となったさやかの姿がそこにあった。
つづく
>>82
レスありがとうございます。
「すごいつまらない話」って意味であれば、精進します。
さやか「そこのお二人さん、この私が来たからにはもう大丈夫ですからねー!」
剣を手にし、得意げな表情を見せるさやかの顔を見て、ゼロは驚きを隠せない。
ゼロ「君は、この間の!?」
さやか「ってあれ…迷路工事のお兄さん!?
それにこの人、もしかして魔法少女……ですか?」
さやかの方も、ゼロとマミを認識すると態度が豹変した。
マミ「その通りだけど、貴方達は知り合い同士?」
ゼロ「あの子だよ、俺が結界から助けたのは」
マミ「彼女が…?」
ゼロが助けた少女は素質を持ち、新しい魔法少女になり得る。
キュゥべえがマミに語ったその話は、現実のものとなっていた。
ゼロ「大体、なんで契約してんだ!俺の忠告はどうしたんだよ!?」
さやか「仕方ないじゃん。こっちも四の五の言ってられない状況だったんだからさぁ…」
ゼロは濁した表現ではなく、詳細に念を押しておけば良かったと頭を抱える。
さやかの方も、頼りになりそうな二人が現れたことで、体の力みが解けてしまった。
マミは、契約に難色を示すゼロの様子が気になっていたが、それを一旦心に留める。
その代わり、剣を地面に刺して首を垂れるさやかに優しく微笑みかけた。
マミ「そう悲観するものでもないわ。
貴方が魔法少女になったということは、何か願いを叶えて貰ったんでしょう?」
さやか「でも、すぐにこの中入っちゃったから何も確認できてないんすよ…
キュゥべえも急にいなくなっちゃうし、もし嘘だったら三枚におろしてやる!」
マミ「心配しなくても大丈夫よ。キュゥべえを信じて」
彼女達のやり取りを、やりきれない表情でゼロは見つめる。
特にキュゥべえに絶対の信頼を置くマミへ、真実を話せないことがもどかしかった。
ゼロ(あの野郎が、俺達に気付かなかったはずがねぇ。
わざと黙って、契約せざるを得ない状況を作り出したってところか…!)
ゼロは拳を握り締め、キュゥべえへの怒りを滾らせる。
改めてこの二人を守り、無事に帰還させる決意を固めるのであった。
ゼロ「こうなった以上は仕方ねぇ。皆で先に進もう」
マミ「ほら、行きましょう。新人さん」
さやか「う、うん」
ゼロは、さやかが魔法少女として危険に身を投じる以上、この初陣が重要になると考える。
彼は同行を持ちかけ、さやかも剣を引き抜いて、誘いに応えた。
三人は結界の深部へ向けて歩き出すが、さやかはその道中で、
初対面のマミだけでなくゼロにも名前を伝えていないことを思い出した。
さやか「そういえばまだ名乗ってなかったっすよね。
私は美樹さやか。以後、よろしくお願いしまーす!」
マミ「私は巴マミ。よろしくね」
ゼロ「俺はウルトラマンゼロだ」
さやか「ウルなんとかゼロ?…芸名か何かですか?」
ゼロ「ウルトラマンゼロ…本名だ本名!
一応『モロボシ・シン』って名義使ってっから、気になるならそっちで呼んでくれ!」
さやか「名義?まぁ、とりあえず『ゼロさん』って事で!」
和気藹々と絡む二人を傍目で見ながら、マミは安心感を抱く。
つづく
シャル戦目前で申し訳ありませんが、
しばらく仕事でネットが使えなくなるので、数週間単位で更新が滞ります。
手書きで書き溜めは続けるので、エタらせないよう気をつけます。
誤字脱字、描写の失敗、追加したい説明、入れ忘れてた伏線が多々あるので、
もしかすると、修正を加えた上でスレを立て直すかもしれません。
以上、失礼します。
マミ(いつもと同じ魔女退治…なのに誰かと共に戦うだけで、こんなにも気分が違う)
目を閉じて立ち止まるマミを、さやかは不思議そうに見つめる。
さやか「マミさん?」
マミ「少し離れててね」
さやかが距離を置くと、上空から大量のマスケット銃が落下し、マミの周囲に突き刺さった。
さやか「わっ!?」
ゼロも手にしたゼロアイを折り畳み、小銃形態へと変えている。
マミ「美樹さん、来るわよ!」
お菓子の陰に身を潜めていた使い魔達が、弾丸のような速さで三人に突っ込んでくる。
先に察知していたマミは、素早く銃を振り回し、使い魔を撃ち抜いた。
マミの銃は連射が不可能であったが、一発撃つ度に持ち替えることで、複数の使い魔を倒していく。
驚くべきは動作のスピードであり、最早連射と変わりないレベルにあった。
ゼロ人間体「あまりマミに近付きすぎると巻き込まれるぜ!」
さやか「それくらいわかってますって!」
マミ以外の二人は、少し離れた場所で使い魔と戦っていた。
ゼロは小銃で応戦しながら、剣を振るうさやかに指示を仰ぐ。
マミ(いつもより体が軽く感じるのは、気のせいかしら)
続いて、お菓子に空いた弾痕から黄色いリボンが伸び、隠れていた使い魔達を縛り上げる。
引きずり出した獲物に狙いを定め、マミは踊るような動きで次々と撃ち抜いていった。
ゼロ人間体「やるじゃねえか。いい腕してるぜ!」
さやか「すっごいよマミさん!ちょーカッコいい!」
マミ「もう、見世物じゃないのよ」
マミの優雅な戦い方にゼロは感心し、さやかも目を輝かせている。
彼女は二人を窘めつつも、満更でもなさそうな表情を見せていた。
マミ(ここに、あの子もいてくれれば…)
マミは安堵がより一層強くなると共に、杏子と会話した夜を思い出していた。
三人が再び歩き始めた時、それぞれの脳内にキュゥべえの声が響く。
QB『魔女の孵化は近い。後は他の道に惑わされず、一直線に進むんだ!』
さやか「キュゥべえ?じゃ、ないよね」
さやかは周囲を見渡すが、キュゥべえは見当たらない。
マミ「キュゥべえからの念話ね。美樹さんには、後で説明してあげるわ」
ゼロ人間体「チッ…急ごう!」
結界の道を真正面に走り抜けると、巨大な椅子とテーブルが並んだ最深部に辿り着く。
そこには壁にめり込んだグリーフシードと、それを見つめるキュゥべえの後ろ姿があった。
さやか「キュゥべえ、そんなとこにいたの?」
QB「一足先に進ませてもらったよ。孵化を監視して、君達を導く必要があったからね」
ゼロ人間体「『君達』か。そいつは俺とマミが結界に向かってるのを知ってたって意味かよ?」
QB「そこは自由に解釈してくれて構わない。それより、魔女が出てくるよ!」
結界の壁にめり込んだグリーフシードが強い力を発し、お菓子のパッケージへと形を変える。
パッケージを破り、中からぬいぐるみのような愛らしい外見をした『お菓子の魔女』が飛び出した。
さやか「今度はグロくない…むしろ、カワイイかも」
魔女はふわふわと椅子に舞い降りるが、一向に動く気配はない。
その誕生を祝福するかのように、別の部屋から、お菓子を抱えた使い魔達が集まってきた。
ゼロ人間体「さやか、この魔女は普通と違う。今回は使い魔の退治に集中してくれ!」
さやか「わかった!」
初めての魔女戦かつ二人を頼りにしているためか、さやかはすんなりと指示を受け入れた。
マミとゼロは魔女の座る椅子へ向かい、並び立つ。
マミ「悪いけど、この後お茶会が待ってるの。速攻で決めさせてもらうわ!」
ゼロ人間体「オイオイ、話するとは言ったが、お茶会やるとは聞いてないぜ…」
二人の銃が椅子の上へと向けられ、同時に魔女の体を撃ち抜く。
椅子から飛ばされた魔女は、結界の壁に叩き付けられ、落下した。
マミ「ここは任せて」
マミはゼロに向けてウインクすると、使い魔の時を上回る数の銃が、空中に浮かんだ状態で召喚される。
全ての銃口は魔女へ向けられ、一斉に撃ち出された。
魔女とその周囲に空けられた全ての弾痕からリボンが伸び、小さな体を絡め取る。
やがて何重にも巻き付いたリボンは、球体に近い形となって魔女を閉じ込めた。
さやか「よっしゃあ!やっちゃえマミさん!」
マミ「オッケー、最大出力でいくわよ!」
マミの目の前でリボンが渦巻き、その中から大砲が出現する。
その魔法は直ぐにでも放つことができたが、マミは威力を底上げするため、魔力を集中し始めた。
ゼロ人間体「このまま上手くいってくれればいいんだがな」
余裕を見せるマミを後ろで見守りながら、ゼロは考えていた。
強いマイナスエネルギーを放っていた魔女が、一方的にされるがままという状況が腑に落ちない。
念のため、小銃形態のゼロアイを再展開し、ゴーグルの形状へと戻す。
その予感通り、魔女がついに行動を始めた。
マミ「拘束が!?」
リボンの球が、球体とは呼べない形に変形しながら膨張を始める。
直後に拘束していたリボンが弾け飛び、中から第二形態へと変貌した巨大な魔女が飛び出してきた。
マミ「え…」
さやか「マミさん!?」
マミが魔力の供給を止めて離脱するよりも早く、さやかの声が届くより早く、
斑模様の大蛇がマミに牙を剥いた。
ゼロ人間体「デュワッ!!」
マミの危機に、ゼロはすかさずゼロアイを装着した。
青年の体を赤と青の光が包み込み、瞬時に巨大化していく。
巨大なウルトラマンの姿となったゼロは、マミへと迫る魔女の顔面に拳を叩き付けた。
吹っ飛ばされた魔女は、巨大なケーキへ頭から突っ込んでいく。
マミ「…巨人?」
さやか「で、でかっ!!」
巨体の魔女ではなく『巨人』を始めて目にするマミ、そして何もかもが初めてなさやかは驚愕していた。
今のゼロは、魔女に合わせた25メートル前後と、本来の49メートルから約半分のサイズである。
とはいえ、彼が人間大を超えて変身したのは『救済の魔女』との戦い以来だった。
ゼロ「さっきから何だかご機嫌だな、マミ。所々詰めが甘くなってるぜ」
マミ「そうね…心配掛けてごめんなさい」
ゼロの声は、結界の中に大きく響き渡る。
マミは慢心があったことを反省しながらその場から移動するが、その表情は明るかった。
マミ「だけど、その油断を貴方がフォローしてくれた。
こんな事言ってる場合じゃないんだけど、それってとても素敵なことだと思わない?」
ゼロ「?」
マミの言葉の意図が、今のゼロにはよくわからなかった。
その内に魔女が起き上がり、ケーキをぶち撒けながらゼロへ向けて牙を剥く。
ゼロ「デェアッ!」
ゼロは寸前のところで頭を掴み、噛み付こうとする魔女を抑える。
魔女はもがき続け、長い尾をゼロの体に巻きつけていく。
ゼロ「ヘッ…あのマイナスエネルギーが全部馬鹿力に行ってるなら納得だぜ!」
マミ「待ってて、援護するわ!」
マミの放ったリボンが魔女の顎を縛り上げ、ゼロと反対方向に引き寄せた。
魔女の怪力で完全に引き剥がすのは不可能であったが、魔女を抑えるゼロの手に、少しの余裕ができる。
ゼロ「お菓子食うのに、そんな牙が必要あるかってんだよっ!」
ゼロはその隙を狙い、魔女の顔面へパンチ以上の勢いで頭突きを繰り出す。
魔女にゼロの額が接触すると同時に、零距離でエメリウムスラッシュを発射した。
ゼロ「オラァッ!!」
爆発を起こした魔女の顔面から、叩き折られた牙が飛び散る。
魔女は口から黒煙を吹き上げてふらつき、ゼロを締め上げていた尾を緩めた。
ゼロはすぐに尾を引き剥がして掴み、勢いよく振り回し始めた。
魔女の体で椅子やテーブルは薙ぎ倒され、巻き起こる風でマミとさやかも吹き飛ばされそうになる。
ゼロ「デアァァッ!!」
そのままジャイアントスイングが繰り出され、魔女は体を伸ばした状態で地面に叩きつけられた。
ゼロ「マミ、今だ!」
マミ「ええ!」
気絶した魔女の顔の近くには、まだ放たれていないマミの大砲が残されていた。
マミは急いで大砲の元へ跳び、魔女の口に照準を定める。
マミ「ティロ・フィナーレ!」
マミが技名を叫ぶと共に、大砲から砲撃が放たれる。
最大出力で撃ち出された魔弾は、魔女の体を一直線に貫き、大爆発を起こした。
さやか「やったっ!」
全ての使い魔を倒し終えたさやかは、爆炎を目にして思わずガッツポーズを決める。
ゼロもサムズアップを決め、マミは頷く。
勝利に沸く三人であったが、ゼロの並外れた聴力が小さな声を拾い上げる。
QB「君の本当の力は、そんなものじゃないだろう。彼女達に遠慮でもしているのかい?」
その呟きが聞こえていたのは、ゼロ只一人。
はっとした様子で振り向くと、キュゥべえは普段と変わらぬ表情で、怪しくゼロを見つめていた。
つづく
今週は運良く投下できましたが、来週どうなるかはわかりません
【お菓子の魔女編 その4】
『お菓子の魔女』との戦いを終えて十数分。
ゼロとマミは病院の受付前に座り、一目散に院内へと走り去ったさやかを待っていた。
ゼロ人間体「随分と味気ないお茶会だな…」
マミ「ご不満なら、お金返して貰えないかしら?」
ゼロ人間体「いや、味は良いんだよ。味はな」
自販機で購入した紅茶を飲みながら、雑談を交わしていた二人。
さやかが中々戻らない為、マミは魔女の出現によって遮られた話を、この場を使って切り出すことにした。
マミ「それよりも、私にしたかった話って何かしら?」
ゼロ「そうだったな。忘れるとこだったぜ!」
ゼロも缶から口を話すと、本題に移る。
軽口を飛ばしていた時と違い、彼の表情は真剣なものに変わっていた。
ゼロ人間体「俺は約三週間、全力で見滝原の魔女と戦う。
その間、君とさやかがグリーフシードにありつけないかもしれない」
マミ「確かに、貴方が現れてから急激に魔女の数が減ったわ。
そこに美樹さんが加われば、枯渇は免れそうにない」
ゼロ人間体「万が一の為だ。ソウルジェムを濁らせないよう、これを受け取ってくれ」
ゼロは服のポケットから数個のグリーフシードを取り出し、マミに差し出した。
だが、マミはそれを直ぐに受け取ろうとはしない。
マミ「見滝原にいるもう一人の魔法少女…暁美ほむらは大丈夫なの?」
ゼロ人間体「それは…!?」
マミ「やっぱり彼女と組んでたのね」
ゼロの反応に、ほむらとの繋がりを確信するマミ。
しかし彼女は警戒とは違い、どこか残念そうな表情を見せていた。
ゼロ人間体「そうだとしたら、俺は敵になるのか?」
マミ「いいえ、私は貴方を信頼したい。
貴方を捜してたのも、信頼に値する人物かを確かめたかったから」
ゼロ人間体「その点は合格を貰ったわけだな」
マミ「でも、平和を守るために戦うのなら、暁美ほむらから離れた方がいいわ。
彼女の行動や思考は、普通じゃない…」
ほむらの事情を知るゼロは、マミの心配が不要なものであると知っている。
しかし、彼女について多くを語るわけにはいかなかった。
ゼロ人間体「その事なら大丈夫だ。それに、俺はあいつを守ると誓ったからな。
途中で投げ出すわけにはいかねえのさ!」
マミ「相応の理由があるのね…それ以上は詮索はやめておくわ」
マミはゼロのグリーフシードを受け取り、会話は終わりを告げた。
ゼロの行動理解を示したかに思われたマミだが、只一つの例外を心に秘めていた。
マミ(他の魔女は譲れても、『ワルプルギスの夜』だけは譲れない。
あの子との繋がりを、もう一度取り戻すために…)
二人とも紅茶を飲み干し、しばらくの沈黙が続く。
そこから少し経って、マミから口を開いた。
マミ「美樹さん、遅いわね。あの子の願い…怪我や病気に関係があるのかしら?」
ゼロ人間体「さやか自身は健康そうだしな。怪我といえば、もしかすると…」
病院に入って三十分程が経過した頃、ようやくさやかが受付に戻ってきた。
さやか「凄い…本当に奇跡も魔法もあったんだ!!」
現れたさやかは、二人を待たせたことを謝り忘れるほど、歓喜に身を震わせていた。
さやか「ゼロさん、マミさん、ちょっと時間いい?
二人になら相談してもいいかな…なんて思っちゃって」
マミ「私でよければ、聞かせて頂戴」
ゼロ人間体「まぁ、俺も構わないぜ」
三人は病院の入り口を出て、市内へと歩いて行った。
途中でベンチを見つけた三人はそこに腰を下ろし、さやかも自らの心の内を語り始めた。
さやか「まず願いの事なんだけどさ…私、好きな人がいて、
その人が動かせなくなった手をキュウべえに治してもらったんだ」
ゼロ人間体「やっぱり願いって、友達の腕のことだったんだな」
マミ「自分以外の誰かのために…貴方は本当にそれで良かったの?」
さやか「もちろん!後悔なんてあるわけないですよ」
さやかが病室へ急いだ時、現代医学では治せなかった上条恭介の腕は、見事に完治していた。
彼はさやかの起こした奇跡を知らず、彼女が恩人として感謝されることはない。
それでも、さやかの心は十分に満たされていた。
さやか「でも、後先考えずに契約しちゃったのも確かなんだよね。
魔法少女になって戦う事がどういう事なのか、キュゥべえの話だけじゃ実感が湧かなかったしさ」
ゼロ「その事なら仕方ねえよ。お前は病院を守るために戦おうとしたんだ。立派だぜ」
さやか「でも…」
マミ「後悔はないけど、この先が不安なのね?」
さやかは静かに頷く。
さやか「前もって体験コースみたいなものがあれば良かったんだけどなぁ…
覚悟決めて戦ったつもりだけど、二人を見たら安心して肩の力抜けちゃいましたもん」
不安そうな言動とは打って変わり、さやかは真剣な眼差しを二人に向けた。
さやか「だから、心構えとして聞いておきたいんだ!ゼロさんやマミさんは何の為に戦ってるの?」
回答に迷ったゼロは、その目線をマミを向けた。
マミ「え、私?」
さやか「あ、やっぱりマズかったですか?」
マミ「…いえ、貴方のこれからに活きるのなら、幾らでも聞かせてあげるわ」
了承したマミの顔付きは、先程と比べてどこか暗い。
マミ「私の家族はね、交通事故で既に死んでるの」
さやか「交通事故…」
マミ「私もその時に死にかけて、キュゥべえとの契約で何とか命を繋いだのよ」
マミの語った思わぬ過去に、さやかだけでなくゼロも驚いていた。
さやかは俯き、余計な詮索をしてしまったと後悔する。
マミ「大切な人を亡くす悲しみは、本当に辛くて苦しかった。
でも、魔法少女として戦い始めて、こう考えるようになったの。
魔女の呪いで悲しむ人達を、授かったこの力で減らしたいってね」
さやか「マミさんごめん…辛いこと聞いちゃって」
マミ「そういうことはいいから、最後まで聞きなさい」
マミは笑い、気にしていない様子でさやかを気遣う。
マミ「でも、獲物を巡って争ったり、使い魔を見逃したり…この世界も結局は損得で動いてるわ。
同じ魔法少女にも中々理解してもらえなくて、私が間違ってるんじゃないかって、よく悩んだものよ」
さやか「そんな事ないっすよ!」
ゼロ「んな事ねえよ!」
ゼロとさやかは思わず立ち上がって叫ぶ。
二人は顔を見合わせ、直ぐに腰を下ろした。
さやか「あ、ゴメン…なさい」
ゼロ「ちょっと熱くなっちまったな…」
マミ「ふふ、ありがとう。それじゃ貴方の番ね」
マミは理解を貰えたことを喜びながら、今度はゼロへと顔を向ける。
ゼロ人間体「俺は———別に理由なんてねえよ」
さやか「えっ?」
ゼロ人間体「ずっと昔からそうやってきた。ただ、それだけのことさ」
それはゼロの嘘偽りない答え。
そして、あらゆる次元の『ウルトラマン』に共通する意志であった。
シンプルな言葉ではあったが、さやかとマミはその背景にある重みを感じていた。
理由は異なれど、二人に共通する『正義の心』を汲み取ったさやか。
彼女は、自分の道について決意を固めた。
さやか「よーし決めた!私も二人みたいに、みんなを守る正義の味方になってみせる!
…というわけでお二人方、私を弟子にしてください!」
ゼロ人間体「はぁっ!?」
マミ「えっ!?」
大きく頭を下げ、二人への師事を希望するさやか。
突然の提案に、二人は驚きを隠せない。
ゼロ人間体「ちょっと待てよ、俺は魔法少女とは事情も戦い方も違うからな。
俺じゃなくてマミに教わるべきだ」
マミ「確かに、同性でしか話せないこともあるかもしれないし…」
押し付け合いにはならず、マミが面倒を見る形で進んでいく二人の話は進んでいく。
その中で、さやかはゼロの言葉に別の興味を示した。
さやか「やっぱゼロさんって、キュゥべえと契約したわけじゃないんだね。
『ウルトラマン』って一体何なんですか?」
ゼロ人間体「それはだな…」
QB「彼は、別の宇宙から来た存在だよ」
ゼロ人間体「…何?」
前触れもなく現れたキュゥべえが、口を噤むゼロに代わってその答えを提示した。
困惑するゼロを気にも留めず、キュゥべえは話を続ける。
マミ「別の宇宙?」
QB「そう、人類の理論で説明すると『マルチバース』と呼ばれるものだ」
さやか「まるちばーす?」
QB「僕達がいるこの宇宙の外には、異なる宇宙が無数に存在している。
概念も文明も、全く異なる世界がね。それが多世界宇宙(マルチバース)だ。
ゼロの故郷『光の国』を始め、別宇宙の存在を知る文明は数多い。
キュゥべえことインキュベーターがそれを知っていることも、ゼロは少なからず想定はしていた。
QB「けれど宇宙の境界を超越するのは、並大抵ではない条件をクリアする必要がある。
彼はそれを成し、別世界からこの宇宙を守るためにやってきたというわけさ」
さやか「ファンタジーからSFの世界になってる…!?」
マミ「中々に話が飛躍したわね…」
二人はゼロが異星人という事実に驚きはしたものの、反応は薄い。
さやかも、非日常に慣れ始めた様子であった。
ゼロ「テメェ、何故俺のことを知ってる!」
ゼロの問いに対し、キュゥべえの答えは念話となって返ってきた。
QB「それに答えるには、僕からも一つ確認が必要になる」
ゼロ人間体「確認だと?」
QB「『ビートスター天球』を攻略したのは君だね?ウルトラマンゼロ」
ゼロ人間体「それがどうし……た!?」
キュゥべえが口にした事件——それはゼロがこの宇宙を訪れる数ヶ月前、
ゼロの出身宇宙『M78ワールド』で行われた戦いであった。
さやか「どしたの、ゼロさん?」
マミ「あれは『念話』といって、魔法の一つよ」
さやかには、ゼロがキュゥべえを睨み付けているようにしか見えていない。
そんな彼女に、マミは念話について説明を始めていた。
ゼロ人間体「お前、それ一体どこで…」
QB「どうやら本人で間違いないようだね。またの機会に、全て語ることを約束しよう」
ゼロ人間体「おい、待て!」
そう言い残し、キュゥべえはどこかへと走り去っていった。
立ち尽くしていたゼロは、次第に焦りを感じ始める。
ゼロ人間体「悪いが、俺はもう行く。後は二人でゆっくり話し合ってくれ!」
マミ「何だか深刻そうね…後は任せて」
どんなやり取りが行われていたのかを気に掛けつつも、マミはさやかの指導を引き受ける。
さやか「ゼロさん、また一緒に戦える?」
ゼロ「ああ、またいつかな!」
ゼロは二人に別れを告げ、キュゥべえの去った方角とは、別方向に走っていった。
さやか「それじゃ改めてよろしく、マミさん!」
マミ「私も、同じように平和を守る『仲間』が出来て嬉しいわ。
みっちり指導してあげるから、覚悟しておきなさい!」
さやか「えーっ!お手柔らかに頼みますよぉ〜」
こうして新たな魔法少女のコンビが誕生したが、その様子を、物陰から何者かが見つめていた。
杏子「…アンタはこれが見せたかったのか?」
QB「僕は只、魔女が生まれることを君に教えただけさ。
反応が強かった割に、随分と早く倒されてしまったようだけど」
杏子「そうかい」
そこに居たのは、見滝原を訪れていた杏子、そして三人の元から離れたキュゥべえ。
杏子は歩いていくマミ達を追わず、苛立ちを押し殺しながらその場を後にした。
つづく
急いで書いたので、色々と粗が…
念の為書いておきますが、ゼロと魔法少女達に恋愛感情はありません。
【鎧の魔女編 その1】
マミ「少し時間かかっちゃったけど、どうかしら?」
さやか「うん、めちゃうまっすよ!」
『お菓子の魔女』との戦いから早二日。
さやかはマミが一人で暮らすマンションで、マミ手製のアップルパイに舌鼓を打っていた。
マミ「昨日はごめんなさい。実践にならなくて」
さやか「いやいや、魔女の探し方とか教えてもらいましたし、十分ですって」
昨日、マミはさやかに魔女の探索から戦闘まで、一連の流れを体験させるつもりでいた。
しかし魔女を見つけることができず、今日は知識面を指導しようと自宅に招いたのであった。
マミ「そう言ってもらえると助かるわ。その分も埋め合わせできるよう、私も頑張るから」
マミは机の上に積まれた大量のノートを抱えると、テーブルの横に置いた。
その中には、今まで彼女が戦ってきた魔女の特性や戦法など、詳細なデータが書き込まれている。
さやか「ゲッ…」
ページをパラパラと捲りながら、思わず渋い顔を作るさやか。
マミ「実践だけじゃなく、知識も伴って初めて一人前よ」
さやか「わかってますよぉ…それより、今頃ゼロさんどうしてんのかな?」
マミ「こら、話を逸らさない」
さやかを窘めつつも、内心はマミもゼロの戦いが気になっていた。
二人がゼロの事を考えていた頃、彼は見滝原市内の各所を駆け回っていた。
ゼロ人間体(何故だ…)
キュゥべえから話を聞かされて以降、ほむらとの合流を急いでいたゼロ。
しかし密会予定日でないとはいえ、彼女の姿は自宅や学校を含め、市内のどこにも見当たらなかった。
ゼロ人間体(何故どこにもいない……ほむら!)
走りながら、ほむらの安否と今後について不安視するゼロ。
彼がある豪邸を横切った時、ゼロの背後を何かが追いかけてきた。
ゼロ人間体「この感じは!?」
それは明らかにマイナスエネルギーの塊であった。
気配の元はすぐにゼロに追い付き、素早く結界を展開した。
ゼロ人間体「ヘッ…魔女の方から喧嘩ふっかけてくるたぁ珍しいな」
魔女結界には石柱や石像が宙を浮かび、やがてその奥から大柄な魔女が歩いてきた。
立ちはだかったのは、体に布を纏った一つ目の魔女。しかし、その目蓋は閉じられている。
ゼロ人間体「捜す手間が省けたのは有難いが、あまり構ってやれる暇はないぜ!」
身構えるゼロに対し、魔女は伸縮自在な両腕を伸ばす。
腕は捻れた刃のようになっており、ゼロを切り刻まんと襲い掛かった。
ゼロ人間体「おっと!」
ゼロは攻撃を軽くかわし、外れた両腕は地面に突き刺さる。
青年の姿のまま魔女の懐へと飛び込んだゼロは、そのまま胸部目掛けて拳を振るう。
ゼロ人間体「うおらぁーーーっ!!」
パンチが命中した魔女の体から、鐘を打ち鳴らしたかのような音が響き渡った。
魔女は微動だにしておらず、鎧にも傷一つついていない。
魔女はすぐさま地面から両腕を引き抜き、ゼロを振り払った。
ゼロ人間体「うぉわっ」
振り飛ばされ、結界を転がるゼロ。
即座に起き上がって体勢を整えると、今度は自分の拳を押さえる。
ゼロ人間体「堅ってえなオイ…」
魔女に目を向けると、ゼロの攻撃で纏っていた布がずり落ち、その下の鎧が露わになっていた。
ゼロ人間体「『鎧の魔女』ってところか…手間を惜しんだ俺がバカだったな!」
鈍い痛みを我慢しながら、拳から手を放すゼロ。
すぐに腕のイージスからゼロアイを召喚し、ウルトラマンの姿へと変身した。
ゼロ「ハッ!」
ゼロは頭部からスラッガーを飛ばすが、二本とも魔女へ向かわず、彼の目の前に浮かんだ状態で固定される。
ゼロ「でぇあぁっ!」
ゼロは勢いよく回し蹴りを放ち、スラッガーを魔女目掛けて蹴り飛ばす。
蹴りの威力で、本来以上の加速力を得たスラッガーは、魔女の両腕を難なく切り落とした。
唯一の武器である両腕を失い、丸腰となった魔女。
スラッガーが頭部に戻ってきたことを確認したゼロは、再び魔女の懐へと飛び込んだ。
ゼロ「今度のは効くぜぇっ!」
ゼロの右拳が魔女の鎧に命中し、右拳を引くと同時に左拳が繰り出される。
その動作は次第に速度を上げ、機関銃のような拳の連打に変わっていった。
ゼロ「しゃあらららららららららら!」
間髪入れずに繰り出される拳の勢いは、魔女の巨体を後退させていく。
ゼロ「ららららららららららららららら!」
やがて鎧にひびが入り、閉じられたままであった魔女の目蓋が見開かれる。
ゼロ「ららららららららららららららら!」
そしてゼロは最後の一撃に、自身の持てる最高の威力を込めた。
ゼロ「ららららららららららあぁぁーーーっ!!」
炎を纏った拳が打ち込まれ、魔女の鎧ごと胴体を貫く。
魔女は目を思い切り血走らせながら、鎧もろとも粉々になって崩れ落ちた。
宙に浮かんでいた石柱が次々に落下し、魔女結界が解除されていく。
その場には、拳を伸ばしたゼロの姿だけが残されていた。
ゼロ「ったく。こんなこと今までで初めてだぜ」
普段は結界を探して走り回っているだけに、魔女の意外な行動にゼロは驚いていた。
彼が拳を戻すと、手のひらにはグリーフシードが握られている。
ゼロ「まぁいいか…それより、次にほむらと会うのは明日の夕方。それを待つしかないようだな」
ゼロはグリーフシードを直すと、再び夜の見滝原市街へと消えていった。
つづく
ネカフェ経由なので、時間と金が許せばもう一回投下します。
【鎧の魔女編 その2】
翌日の午後、ゼロは魔女退治の合間を縫い、見滝原中学の通学路に立っていた。
ほむらが予定通りに現れるかを心配してた彼は、下校中の生徒達に目を配り、彼女の姿を捜している。
ゼロ人間体(来てるかどうかは怪しいもんだが、少しでも早く合流できればな…)
そんなゼロの姿を真っ先に見つけたのは、ほむらではなかった。
さやか「あれ?」
ゼロ人間体「ん?おっ、さやかじゃねえか!」
駆け寄ってきたさやかを見たゼロは、彼女とマミが、ほむらと同じ学校に通っていたことを思い出す。
さやか「久しぶりっす!こんなとこで何を?」
ゼロ人間体「ああ、ちょっと生徒が魅入られてないか確認をだな。それより、マミとのコンビは順調かよ?」
さやか「もちろん、めちゃめちゃ頑張ってますよ!昨日なんて何十冊ものノートを…」
ほむらの件を上手く誤魔化すゼロ。
よく見ると、さやかの後ろにもう一人、別の少女が立っている。
ゼロ人間体「その子は?」
さやか「私の友達だよ。仁美っての!」
仁美「はじめまして。私、志筑仁美と申します」
仁美と名乗った少女は、言葉遣いから立ち振る舞いまで、
活発なさやかとは正反対のお淑やかさを持っていた。
ゼロ人間体「礼儀正しいな。ホントにお前の友達かよ?」
さやか「んなっ!?ガラ悪そうなのはそっちも同じじゃないですか!」
ゼロ人間体「よく言うぜ!それより仁美、俺はウルトラマンゼロだ。よろしくな」
仁美への自己紹介で、包み隠さず自分の名を名乗るゼロ。
さやかはゼロの腹を、裏拳で軽く叩いた。
ゼロ人間体「何だよ?」
さやか「どう見ても日本人の兄ちゃんなんだからさ、それ色々とマズイよ」
小声でゼロに指摘するさやか。
彼女の心配どおり、その名前を疑問に感じた仁美が尋ねた。
仁美「ウルトラマンさん?外国の方かしら?」
さやか「うーんと、この人俳優とか色々やってるんだよ。芸名とかそんなカンジ!」
ゼロ人間体「お、おう…モロボシってんだ。モロボシ・シン!」
仁美「お芝居ですか。興味深いですわね」
ゼロは慌てて、仮の名前で自己紹介をし直す。
それを聞き、仁美は納得した様子であった。
さやか「ホントなら、まどかも紹介したかったとこなんだけどなぁ」
ゼロ人間体「『まどか』?」
さやか「ここにはいないけどさ、私の友達。
転校生のヤツが学校サボりまくってて、代わりに雑用引き受けちゃってねぇー」
『まどか』という名前を耳にしたゼロが、思わず反応を示した。
それに気付いたさやかは、ゼロを茶化しにかかる。
さやか「ほほぅ…まどかに興味深々っすか。
残念!さやかちゃんが既にツバつけてましたぁ〜!」
ゼロ人間体「バカ、そんなんじゃねえよ!」
親密そうに話すゼロとさやかについて行けず、一人それを眺めていた仁美。
彼女は戸惑いながら、口を開いた。
仁美「お尋ねしたいのですが、さやかさんとモロボシさんはどういったご関係ですの?」
さやか「どんな関係…えーっと、そう言われるとなぁ…。兄貴分兼師匠みたいなカンジ?」
ゼロ人間体「だから、俺は弟子なんて取らねーぞ」
さやか「いーや、志は受け継いだからもう師匠同然っすよ!」
仁美の質問は、再びゼロとさやかだけの会話に変わってしまう。
楽しそうに話す二人を、仁美はただ黙って見つめていた。
さやか「あ、ゴメン。全然答えになってなかったよね」
仁美「いえ、とても仲が良い事はわかりましたわ」
しばらくして仁美を待たせていたことに気付き、二人は話を切り上げる。
さやか「それじゃゼ…モロボシさん、またね!」
ゼロ人間体「ああ。二人とも元気でな!」
さやかは手を振って去り、仁美もゼロに軽く微笑み返す。
ゼロは二人の後ろ姿を見送ると、再びほむらを待った。
仁美「気さくな方でしたわね。さやかさんにはお似合いかもしれませんわ」
さやか「いやいや、そんなんじゃないんだってマジで!
それに年離れすぎだし……って、あの人何歳なんだろ?」
仁美「愛に年の差なんて関係ありませんのよー!」
さやか「だぁーからぁー!」
誤解しているかのような仁美の発言に、さやかは狼狽してしまう。
さやか「も、もう…私ちょっと先輩と待ち合わせしてるから、ここでね」
仁美「ええ、それではまた明日」
さやか「そんじゃ!」
ペースを乱されたさやかは、マミと合流するため、逃げるように仁美と別れていった。
去っていくさやかを見つめる仁美の表情は、どこか穏やかではなかった。
さやか(もう、仁美のやつ…私が好きなのはゼロさんじゃなくて)
さやかは歩きながら、リハビリに励む恭介を想い、頬を染める。
彼の事を考える内に、マミとの合流場所である公園に到着した。
ベンチに腰を下ろしてマミを待つが、中々彼女は現れない。
さやか(おっそいなぁ、マミさん)
十数分が経った頃、さやかの前に誰かが歩いてくる。
しかし姿を現したのはマミではなく、さやかの知らない人物であった。
杏子「よお、ルーキー」
さやか「え、誰?」
杏子「アタシは風見野から来た佐倉杏子ってんだ。ヨロシクな」
やって来たのは、普段どおりにビニール袋を提げた杏子。
彼女と面識のないさやかは疑問に感じるが、すぐに何かに気付いた。
さやか「もしかして…」
さやかは軽く手を上げ、指輪に変化したソウルジェムをちらつかせる。
杏子「ご名答」
杏子は持ったビニール袋ごと手を突き出し、指を一本伸ばす。
そこには、さやかと同じくソウルジェムの指輪があった。
さやか「びっくりすんじゃん…魔法少女なら先に言ってよ!」
杏子「キュゥべえから聞いたのさ。アンタまだ契約して日が浅いんだろ?
アタシが色々と教えてやるよ」
同じ魔法少女と知り、安心するさやか。
指導を引き受けようとする杏子に感謝しつつも、まだ現れないマミのことが気に掛かる。
さやか「でも私、別の人とコンビ組んでるんだよね。良かったら、一緒にさ…」
杏子「放っとけよ」
さやか「え?」
杏子の言葉を耳にし、さやかの表情が固まる。
杏子「マミなんかより、もっと有意義な魔法の使い方ってやつを叩き込んでやるからさ」
さやか「あんた、マミさんの事…」
杏子「それより———」
杏子はビニール袋からスティック菓子を取り出し、封を開ける。
杏子「食うかい?」
さやかに菓子を差し出す杏子。その顔には、歪な笑みが浮かんでいた。
一方、ゼロはさやか達と別れた後、続いてマミと出くわしていた。
ほむらの動向を気にかけていたマミから、彼女が今日も登校していないことを聞かされたゼロは、
数時間後に控える密会に備え、その場を後にした。
つづく
スレ立て直しの件は、全体の3/4が終わった辺りを予定。
今はとりあえず話の方を進めることにします。
乙
当分書けないって書いてたから今日何気無く見に来てビックリしたぜよ
しっかしこのスレ面白いね。ゼロが基本的に人間サイズで活躍してるしよく喋るから、ウルトラマンクロス作品にありがちな原作キャラおいてけぼりが無いのが素晴らしい
【鎧の魔女編 その3】
ゼロとの会話で時間を割いてしまい、マミは急ぎ足でさやかの元へ向かう。
遅れて公園に到着するも、周囲にさやかの姿はなかった。
マミ(美樹さん、まだ学校かしら…それともお見舞い?)
さやかが一度この場に来ていることを、当然マミは知らない。
立ったまま彼女を待ち、その間に今日の指導内容について考える。
マミ(基礎知識なら、昨日で大方身についたはず。今日は実践ね)
後輩を導く使命感と、自身の充実感に満ちたマミ。
その頃、当の後輩は少し離れた廃工場の敷地内にいた。
さやか「使い魔は見逃せってどういう事よ…」
魔法少女に変身し、偶然見つけた使い魔との戦闘を終えたさやか。
彼女は、私服のまま傍観していた杏子を問い詰める。
杏子「そのまんまの意味だよ。しばらく放っといて、魔女になってから狩りゃあいいのさ」
さやか「なっ!?その間に街の人が襲われたらどうすんの!」
杏子「知ったことかよ。グリーフシードのエサになりゃ儲けモンでしょ」
さやか「あんた…!」
軽蔑の眼差しを向けるさやかに対し、杏子は呆れ顔を見せた。
杏子「はあ…くだらねー事願っただけあって、頭の方もサッパリだね」
さやか「くだらない?私の願いを知って…」
杏子「惚れた男のために、契約して怪我治してやったんでしょ?
貴重な願いを自分の為に使わないなんて、損だよ損損!」
さやか「お前に…何がわかる!」
さやかは、少しずつ込み上げてくる怒りに肩を震わせる。
杏子はそれに気付きながら、話を続けた。
杏子「アンタさ、今のうちに介護の勉強でもやっときなよ」
さやか「はぁ、介護?」
杏子「その剣でヤローの両手両足ぶった斬りゃあ、一生アンタと幸せな———」
さやかの平手打ちが、杏子の悪態を止めた。
魔法少女として力の加減をしたつもりであったが、その勢いで杏子は張り倒される。
さやか「信じらんない…あんた、本当に魔法少女なの!?」
杏子は一言も発さぬまま起き上がると、血の混じった唾を飛ばす。
そして指輪をソウルジェムに戻すと、魔法少女の姿に変身した。
杏子「本当も何も、見ての通り魔法少女さ」
変身と同時に長い槍が握られ、その先端はさやかの喉元に突き付けられている。
さやかの頬を冷や汗が伝うが、杏子はすぐに槍を下ろした。
杏子「先輩に対する敬意ってモンがまるで感じられないねぇ。なら、その体に直接叩き込んでやるよ!」
さやか「お前みたいな奴には、絶対負けない!」
杏子は槍を持ち直し、さやかに向けて構える。
さやかも剣を握り締めると、同じ魔法少女を相手に戦う覚悟を決めた。
さやかは猛スピードで杏子に迫ると、その周囲を移動してかく乱を狙う。
対する杏子は、青い軌道を目で追うこともせず、気だるそうにその場を動かない。
さやか「はあっ!」
さやかはすれ違いざまに剣を振るい、杏子の槍を弾こうとする。
だが、その攻撃は難なく捌かれてしまう。
杏子「どこ攻撃してんのさ?ちゃんとアタシを狙えよ、このウスノロ!」
杏子が繰り出した槍の一撃を、さやかは間一髪で回避する。
その刃先は、明らかにさやかの体を狙っていた。
さやか「…ッ!」
杏子「これ殺し合いなんだけどさぁ、試合か何かと勘違いしてない?」
さやか「殺し合———いっ!?」
杏子の槍から、重く速い攻撃を何度も繰り出される。
あまりの激しさに、さやかは防戦一方の状態に追い込まれてしまう。
さやかは後ろに大きく後退して距離を取るが、杏子はすぐに間を詰めていく。
杏子「いつまで持つかねぇ?」
さやか「くそっ!」
杏子を相手に、剣術やスピード等の基本能力では限界があった。
少しでも戦いの流れを変えるため、さやかは密かに構想していた技の実践を決める。
さやか(応用させてもらうよ、マミさん!)
刃を交える二人の上空から、複数の剣が降り注ぐ。
マミが使用した銃の召喚を真似た魔法だったが、さやかが不慣れなこともあり、その本数は少ない。
杏子はさやかの振るう剣を押し返すと、その場を離れて剣の雨を回避した。
さやかは地面に突き刺さった剣を引き抜き、杏子目掛けて投擲する。
彼女もいつの間にか、相手を殺すことを前提に戦っていた。
さやか「食らえぇっ!!」
杏子「ド素人にしてはやるじゃんか。まだ数も力もまだまだだけどな!」
杏子は槍を多関節に分割すると、鞭のように振り回して剣を落としていく。
一本を残して剣を使い切ったさやかは、最後の剣を握り締め、杏子と睨み合う。
杏子「そういやアンタ、一度も魔女と戦ったことないんだってね」
さやか「それが何よ?」
杏子「楽しいだろ?こうして惜しみなく魔法使えてさぁ。
んなカンジで、自由気ままに魔法使えばいいんだよ!」
杏子は槍の関節を元に戻し、さやかに突撃を仕掛ける。
さやかも物怖じせず、自ら杏子へと向かっていった。
さやか「私はお前みたいに、自分のためだけに魔法を使ったりしない!
私は、正義の味方になるんだあぁーーーっ!!」
剣と槍の先端が接触すると共に、両者の魔力が激しくぶつかり合う。
しかしパワーは杏子が勝っており、さやかは数秒ほど耐えた後で弾き飛ばされてしまった。
さやか「うぁ…」
杏子「正義の味方?笑わせんなよ」
倒れたさやかに近づき、その姿を見下ろす杏子。
さやかが手を伸ばす先に転がっていた剣を、杏子はにやにやと笑いながら蹴り飛ばした。
さやか「やっぱマミさんの言ったとおりだ…」
杏子「ああ?」
さやか「損得ばっか考えてる奴には、理解できないって事よ」
杏子「ははっ、そりゃマミの思考がおかしいのさ。そしてアンタもね」
さやか「大体、マミさんとどういう関係なのよ……それに、何で私なんかに執着すんのさ…」
その問いかけに対し、杏子は無表情のまま何も答えない。
さやか「ふぅん…もしかしてあんた、私とマミさんが組んでることに嫉妬してんの?」
さやかは薄ら笑いを浮かべながら、杏子を挑発する。
その一言は、杏子の頭へ一気に血を上らせた。
さやか「な…何!?」
倒れているさやかを取り囲むように、地面に赤い紋章が広がった。
危険を察知したさやかは、余力を振り絞って立ち上がろうとする。
杏子「そのまま寝てろよ。一生な」
杏子の槍がロープのようにさやかへ巻き付き、再び地面に叩きつけた。
さやか「がはっ!?」
さやかは拘束から逃れようともがくが、槍は彼女を堅く締め上げている。
杏子「じゃあな、クソルーキー!!」
杏子が叫んだ時、一発の銃声が鳴り響く。
同時に、槍の関節となっていた鎖が一つ弾け飛んだ。
つづく
>>123
オールスター路線じゃないので地味に感じるとは思いますが、今後もよろしくお願いします。
銃声の方向には、魔力の衝突に気付き、駆けつけたマミの姿があった。
マミ「美樹さん!」
さやか「マミさん?来てくれたんだ!」
さやかは杏子からは解放されたものの、巻き付いた槍から抜け出せないでいた。
身動きが取れない彼女を救うため、マミは銃を投げ捨てて跳躍する。
杏子「なんでアンタが!?」
さやかの元へ向かうマミを見て、杏子は動揺していた。
一点に集約されるはずだった大量の槍は、杏子の心に影響され、目標を定めずに伸びていく。
さやか「マミ…さん?」
杏子「な…」
紋章から、四方八方へ不規則に突き出た槍。
マミが魔法の範囲からさやかを助け出した時、内一本がマミの腹部を深々と貫いていた。
その光景に、杏子は頭に上っていた血が完全に冷めていくのを感じた。
さやか「マミさぁーーーーん!!」
さやかの声が、廃工場に響き渡った。
すると、彼女に応えるかのように、空から緑色に光る物体が二つ飛んでくる。
その形状は、間違いなくゼロスラッガーであった。
さやか「これ、ゼロさんの…」
スラッガーの一本はマミを貫く槍を、もう一本はさやかを縛る槍を切り裂き、二人を解放した。
さやかは自身の疲労も構わず、マミの元へ駆け寄る。
役目を終えたスラッガーが空に昇っていくと同時に、上空から男の叫びが響いた。
ゼロ「杏子おおおおおぉーーーーっ!!」
杏子「テメェまで…!」
空から猛スピードで下降してきたウルトラマンゼロが、杏子の目の前に着地する。
その衝撃で、アスファルトの地面が砕け飛んだ。
杏子「正義の味方大集合かよ…笑えないっての!」
新たな槍を作り出した杏子に対し、ゼロも腕のイージスを輝かせた。
青白い光の中から、自身と似た配色の槍『ウルトラゼロランス』を取り出す。
杏子が振るった槍は、ゼロランスによって受け止められた。
ゼロ「お前、自分が何やってるかわかってんのか!?」
杏子「見ての通り、新人教育さ!邪魔すんな!」
ゼロは槍と槍の応酬を続けながら、杏子の攻撃が二人に向かわないよう抑える。
最初の出会いとは全く異なる杏子の雰囲気、そして行動に、ゼロは戸惑っていた。
ゼロ「バカ言うな!魔法少女のお前が、魔女と同じ事やってんじゃねえぇっ!!」
杏子「!?」
ゼロの言葉に反応を示し、一瞬杏子の力が緩む。
杏子「アタシは…魔女じゃない」
その隙にゼロは片手で杏子の槍を奪い、投げ捨てる。
ゼロ「デェアァッ!」
杏子「チッ!」
ゼロ「ここまでだ!」
ゼロはゼロランスを杏子から離し、手のひらを突き出して制止した。
一方、さやかが幾ら呼び掛けても、マミからは反応が返って来ない。
救出を優先して痛覚を制御しなかったのか、完全に意識を失っている様子であった。
さやか「マミさん!マミさん!どうしよう…」
うろたえながら、さやかは対峙しているゼロと杏子を見る。
しかし、すぐに視線をマミへと戻した。
さやか(今は私が何とかしなきゃ…でも、どうやって?)
さやかは自分が何をすべきかを必死に考える。
やがて彼女が思い出したのは、昨日マミとの勉強会で教えられた知識だった。
マミ『使える魔法は、キュゥべえと契約した時の願いに左右されるの』
マミ『美樹さんは、『癒やし』の願いで契約したから、それに関連する力に特化しているはずよ』
マミ『そんな風に得意分野を理解して、長所を伸ばすことが大切なの。
自分にしかできない事を皆で補い合えば、どんな強敵にも負けたりしないわ』
マミ『私はそう信じてる』
さやかは自分の手を見つめ、マミを救うためには、どう魔法を応用すべきかを考える。
さやか(私にしか出来ないことをやるんだ———私自身の『癒し』で!)
さやかが意を決して傷に手を伸ばした時、ゼロの声がそれを遮った。
ゼロ「さやか、少しどいてろ!」
さやか「あっ…」
ゼロは急いでマミに駆け寄り、さやかを押し退けた。
そのまま髪飾りに付いたソウルジェムに手をかざすと、『光』のエネルギーを送り込んでいく。
それは以前、傷を負った杏子を回復させたヒーリングと同じものだった。
深かったマミの傷は、輝きを放ちながら徐々に塞がっていく。
さやかはその様子を、ただ見つめることしか出来なかった。
ゼロ「これで大丈夫だ」
さやか「うん、良かった」
マミをゆっくりと地面に寝かせたゼロは、再び杏子に向き直る。
しかし、既に彼女の姿は消えていた。
ゼロ「杏子、何故あんな事を…」
魔法少女同士が戦う現実に、ゼロは少なからずショックを受けていた。
しばらくするとマミが意識を取り戻し、目を開けた。
マミ「ん…」
さやか「あっ、マミさん!」
起き上がろうとするマミを、ゼロは止める。
ゼロ「無理すんな。人間なら死んでる傷だったんだぜ」
マミ「ゼロさん?貴方も来てたのね」
ゼロ「ああ、魔法同士がぶつかるのを感じたからな。急いで飛んできたんだ」
マミ「また心配掛けてしまって、ごめんなさい」
マミは少しだけ首を上げ、周囲を見渡す。
そこにはゼロとさやか以外の姿はない。
マミ「彼女は?」
ゼロ「もう行っちまったよ。あえて追わなかった」
マミ「そう…」
マミは残念そうな様子で、魔法少女の衣装から制服に戻る。
マミと杏子に何らかの繋がりがあることに気付くゼロだが、
彼女の体調を気遣い、この場で尋ねることはしなかった。
ゼロ「さやか?」
続いてさやかに声を掛けるゼロ。
彼女はマミを見つめながら考え事をしている様子であり、反応は返ってこない。
ゼロ「さやか、一人で帰れそうか?」
ゼロはさやかの肩に手を置いて、聞き直す。
ここでようやく彼女はゼロに気付いた。
さやか「えっ?ああ、私は大丈夫。回復力なら人一倍だから!」
ゼロ「そうか。俺はマミを送っていく。気を付けて帰るんだぞ!」
実際はかなりの疲労を溜め込んでいたが、それを隠して普段どおりに振舞う。
さやか「それより、一度でっかい姿見てるから違和感あるなぁ。まるでチビトラマンっすよ?」
ゼロ「お前、誰がチビトラマンだ!」
さやか「ぎゃーー!!」
ゼロはさやかの頭を掴み、髪をくしゃくしゃにする。
二人のやり取りは、いつもと何ら変わらないものだった。
ゼロ「さぁーてとっ!」
陽も沈みかけ、ゼロはマミの背中と足に手を伸ばして抱え上げる。
その体勢は、いわゆる『お姫様抱っこ』だった。
マミ「えっ、ちょっと!?これは…」
ゼロ「遠慮すんな。案内してくれりゃあ、家まで送ってやるからよ!じゃあな、さやか!」
二人の姿は一瞬の内に青い光となり、空へ消えていった。
さやかはその様子を手を振って見送る。
さやか(そうだよ…経験のない私より、ゼロさんがやった方が確実だったもんね)
魔法を解いて、制服姿へと戻るさやか。
彼女はしばらくその場に立ち尽くし、物憂げな表情を浮かべていた。
つづく
【天球ガーディアン編 その1】
その夜、市街の路地裏に一人しゃがみ込んでいたゼロ。
彼は何かを考えながら、深い溜め息をつく。
ゼロ人間体「はぁ……」
時間が経つにつれて杏子達の一件が気に掛かり、その表情は浮かない。
しばらくして響いてきた足音を聞き、ゼロが呟く。
ゼロ人間体「お前、ずっと捜してたんだぜ」
彼の前には、数日かけて捜し回ったほむらが、何事もなかったかのように姿を現していた。
ほむら「………」
ほむらは無言のまま魔法少女に変身すると、ゼロに近付き、肩に手を置いた。
同時に、二人を除いた全ての時が止まる。
ほむら「予定なら、今この時間だとメモは残したはずよ」
ゼロ人間体「だからってな、今まで一体どこにいたんだ?」
ほむら「決戦に向けての準備よ。そのために、この街を離れる必要があったの」
ゼロ人間体「せめて一言教えてくれれば、俺が連れてったのによ」
ほむらは数日間をどのように過ごしたのか、詳しく語らなかった。
だが、ゼロが変身して移動すれば、数日の予定を数時間で終わらせることは容易なはずだった。
ほむら「全ては私達の秘密を守るため。迂闊には接触できないわ」
ゼロ人間体「もし、その秘密がバレたとしたら?」
ほむら「どういう事?」
ゼロ人間体「インキュベーターの野郎、俺の正体を知ってやがった…」
ほむら「!?」
ゼロの一言が、二人の間に流れる空気を大きく変えた。
ほむら「少し前まで、奴は貴方の事を何も知らなかったはず。何か心当たりは?」
ゼロ人間体「心当たりか…」
この世界を訪れるまで、キュゥべえとは全く面識のなかったゼロ。
両者を結び付ける要素が、一つだけ存在した。
ゼロ人間体「…ビートスターの事くらいだな」
ほむら「『ビートスター』?」
ゼロ人間体「この世界に来る前、俺と仲間達が戦ったコンピューターの怪物だ」
ゼロは『ビートスター天球』、
そしてそのマスターコンピューター『ビートスター』について語り始める。
ゼロ人間体「奴は俺のように時空を超えて、色々な宇宙で生命体を滅ぼしていたんだ。
機械による支配が、全宇宙に平和をもたらすと信じてな」
ほむら「どの世界にもいるのね。独善的な価値観を押し付けてくる連中が」
ゼロ人間体「どうだったんだろうな、奴は…」
ほむらに話を続けながら、ゼロの記憶に顔のないロボットの姿が蘇る。
『有機生命体は宇宙を滅ぼす癌細胞である。
我々機械が支配することで、この天球のみならず、宇宙の平和と秩序が守られる!』
『この天球を止めるには、私を倒すしかない!!』
『有機生命体は、脆く不完全な存在である。それ故に、破滅をもたらす!』
そして、ロボットの最期の言葉も。
ゼロ『心を持たないお前なんかに、俺たちの命を裁く権利はねぇ!!』
『何故だ…私が間違っていたというのか…?』
『私は間違ってなどいない…私が正しい…』
『私があってこそ…全ての宇宙は平和と秩序が保たれる…』
『私があってこそ…私が…私が……』
『私は、怖かった…』
ゼロ『えっ?』
はっとしたように我に返るゼロ。
目の前には、ほむらがいつもと同じ表情でゼロを見ていた。
ほむら「あまり本調子ではないようね」
ゼロ人間体「すまねぇ…とにかくインキュベーターの野郎、この件について何かを知ってやがる」
ほむら「そいつを作ったのが、インキュベーター達では?」
ゼロ人間体「ビートスターを作った文明もその宇宙も、遠い昔に滅んでる。それはありえないな」
二つの繋りが未だ見えない中、ゼロはビートスターが語ったある言葉を思い出す。
ゼロ人間体「只、奴が言ってたんだ。
『邪悪な異星人』の侵略で故郷の宇宙が滅んだってな」
ほむら「貴方は、インキュベーターがその侵略者だと考えてる?」
ゼロ人間体「え?」
キュゥべえとより長く関わってきた彼女だけに、何か気になる点があるようだった。
ほむら「あの朝にも話したけれど、奴等の目的は『この宇宙を延命し、存続させる』こと。
そのために、奴等は地球で魔法少女を作り出し続けてる」
ゼロ人間体「ああ、確かに聞いた」
ほむら「自在に時空を越えられるなら、地球なんかに固執せず、
より発展した世界からエネルギーや技術を持ち込むはず。そういう解釈もできないかしら?」
ゼロ人間体「滅ぼす以前の問題ってことか…ますます見当がつかなくなってきたぜ」
あくまでもほむらの予想であるが、それを聞いたゼロも一理あると考え込む。
ゼロ人間体「いずれ全て話すなんて言ってやがったが、一向に現れる気配もないしな」
ほむら「奴等は狡猾だけど、嘘は言わないし約束は必ず守る。今は保留しましょう」
ゼロ人間体「そうか、時が来るのを待つ他なさそうだな。でも、話はもう一つあるんだ」
この一件については先送りし、ゼロは次の話に移った。
ゼロ人間体「他の魔法少女に、俺達が組んでることを感づかれてた。
巴マミっていう、前に話した銃使いだよ」
ほむら「巴マミが?」
ゼロ人間体「でも、俺達の事を詮索するつもりはないようだ。
俺にも、信頼を置いてくれてる」
ほむら「それは貴方に、でしょう?」
ゼロとマミは『お菓子の魔女』戦で共闘して以降、互いを仲間と認識できる程に信頼していた。
しかし、マミがほむらへ向ける不信は未だ変わっていない。
ほむら「問題は彼女の信頼じゃなくて、情報がインキュベーターに渡ってるか否かよ」
ゼロ人間体「悪いが、そこまでは確認してねえんだ」
ほむら「こちらから迂闊に聞き出すのは、逆に危険を伴いそうね。
巴マミにもインキュベーターにも、その件には触れないよう注意して」
ゼロ人間体「じゃあ、俺達は今後どうしたらいい?」
ほむら「接触を望んでるという事は、貴方への関心を失っていない証拠。
加えて私が秘密を守り抜けば、インキュベーターをつなぎ止められるはず」
ゼロ人間体「つまり、方針は変わらないってことか」
ほむら「ええ。今まで通り貴方は魔女と戦い、私が『彼女』を奴等から遠ざける。それだけよ」
ゼロ「わかった」
彼女は密会を締めくくるべく、ゼロに封筒を差し出す。
ゼロも思い出したかのようにグリーフシードを取り出すと、彼女に手渡した。
そこでゼロは、ほむらにある質問を投げかける。
ゼロ人間体「そういえばお前、マミとは知り合いなのか?」
ほむら「知り合いと言えば違いないわ。彼女はこの一ヶ月を繰り返すたび、必ず現れる魔法少女だから」
ゼロ人間体「それなら、佐倉杏子と美樹さやかの二人はどうだ?」
ほむら「巴マミと同じよ。今まで彼女達の力は必須だったから、何度か手を組んだわ」
対立していた魔法少女達に繋がりが生まれ得ることを知り、
ゼロは少し嬉しそうに話を続けた。
ゼロ人間体「なんだよ、あいつらが仲間だったなんて話初めて聞いたぜ。
何で早く教えてくれなかったんだ?」
ほむら「必要ないからよ」
ゼロ人間体「…えっ?」
ほむらの一言は、ゼロの期待を冷たく突き放した。
ゼロ人間体「必要ないってお前…あいつらは仲間じゃないのか?」
ほむら「一概には言えないわ。殺されかけた事だってあるもの」
ゼロ人間体「殺されかけた…」
ほむら「苦労して彼女達を集めなくても、今は貴方の力がある。
この時間軸で全てを終わらせるために、足手纏いは必要ないの」
ほむらは、ゼロに情報を隠しているわけではない。
しかし魔法少女三人の存在も含め、不要と判断した情報はゼロに伝えていなかった。
ほむら「貴方の話から察するに、美樹さやかは既に契約してしまったようね。
残念だけど、彼女のことは諦めた方がいい」
ゼロ人間体「諦める?おい、何を言って…」
ほむら「私も監視しておくべきだったと後悔してるわ。
美樹さやかは、『彼女』に近すぎる」
ゼロ人間体「だから何を言ってるんだ!」
ゼロは声を張り上げる。
ほむらは一旦話を止めるが、すぐに口を開いた。
ほむら「美樹さやかに限った話ではないわ」
ゼロ人間体「な…」
ほむら「どの時間軸でも、彼女達は魔法少女の『現実』に大きく揺れる。
絶望に身を焦がすか、魔女に殺されるか…何れにせよ、決戦までに全員は揃わない」
ゼロ人間体「そんな事させるかよ…!」
着々と迫る『ワルプルギスの夜』との決戦に向け、ゼロは決意を新たにする。
ゼロ人間体「俺がいる限り、この時間軸は終わらせねぇ!
皆でこの一カ月を越えて、地球も魔法少女も全部救ってみせる!!」
ほむら「頼もしい限りね」
しかし、ほむらの目はゼロの見せる『正義の心』を冷ややかに見つめていた。
ほむら「彼女達と関わるのは自由だけど、目的だけは見誤らないで」
ゼロ人間体「わかってるさ…」
彼女はそのやり取りを最後に、ゼロの肩に置いた手を離す。
路地裏には、一人しゃがみ込むゼロだけが残された。
ゼロ人間体(あの日の『声』と、今の非情さ———本当のお前はどっちなんだ?)
ゼロはほむらの持つ裏表に違和感を感じながら、路地裏を後にした。
つづく
【天球ガーディアン編 その2】
翌日の朝、登校の準備を終えたほむらは、部屋で一人考え込んでいた。
ほむら(美樹さやかが契約したのは、私がこの街を離れた数日間の事。
ここから先、学校に奴が現れる可能性は高くなる)
彼女が気に掛けるのは、さやかの契約によるキュゥべえの行動の変化。
ほむら(迂闊に魔法が使えない分、気は抜けない。…けど、問題はそれだけじゃない)
ほむらは時計に目を向ける。
しばらく針を見つめた後、ソファーから立ち上がり、鞄を手に取った。
同じ頃、マミも学校へ向かうべく玄関を出る。
鍵を閉めようとした時、一人の青年が腕を組んで立っていることに気付いた。
マミ「あら、ゼロさん?」
ゼロ人間体「よう、朝早くから悪いな」
マミ「ずっと待ってたの?呼んでくれれば、朝食くらいご馳走できたのに」
マミが扉の横にある、インターホンのボタンを押してみせる。
扉の奥から僅かに「ピンポーン」というベル音が聞こえてきた。
ゼロ人間体「すげえ…そう使うのか!ネットカフェの飲み物といい、地球のボタンは凝ってやがんな!」
マミ「ネットカフェ?」
ボタン式のソフトドリンク台を指しているであろうその一言に、不安を感じるマミ。
まさかとは思いつつも、念のために確認をしてみる。
マミ「もしかしてゼロさん、そこで寝泊まりして……」
ゼロ人間体「ああ。ここに来てからずっと住んでるぜ!
背中は痛いわ、目の前の機械は使い方わかんねーわで苦労したが、もう慣れた」
マミ「そ、そう……」
マミはゼロを自宅に滞在させて助けたい気持ちがあった。
しかし彼女の部屋には、時折キュゥべえが姿を現す。
ゼロがキュゥべえを敵視していることを考え、話を持ちかけることを止めた。
ゼロ人間体「ま、とにかく調子良さそうで何よりだ」
マミ「昨日はありがとう。いくら魔法少女とはいえ、
下手したら死んでいたかもしれないわね。改めてお礼を言うわ」
ゼロ人間体「え?…ああ、そうだな」
「死んでいたかもしれない」
何気なく口にしたマミの言葉に、ゼロは濁した返事を返した。
マミ「それより、お見舞いというわけでもないんでしょう?」
ゼロ人間体「実を言うと、その通りだ。すぐにでも聞きたいことがあってな」
マミ「…昨日のことね?」
ゼロは真剣な顔つきで頷いた。
ゼロ人間体「憶測だけどよ…お前、佐倉杏子とは知り合いだな?」
マミ「貴方の言う通りよ。あの子とは、以前一緒に戦ってたの」
ゼロ人間体「杏子について知っている事を、俺に教えてほしい」
ゼロの質問がただの興味本位でないことは察するが、マミはすぐに返事を返せなかった。
マミ「あの子のプライバシーに関わることだから、そう簡単に教える事は出来ないわ。
貴方は、それを聞いてどうするつもり?」
ゼロ人間体「俺は、何故杏子がさやかを襲ったのかが知りたい。
あいつの抱えてるものを理解して、力になりたいんだ」
その気持ちはマミも同じだった。
しばらく考えた後、ゼロに全て話すことを承諾した。
一方、さやかも普段と同じように家を出て、学校へ向かっていた。
通学路を歩いていると、道の先にほむらが佇んでいる。
さやか「転校生?おはよ!」
ほむら「………」
挨拶を返さないほむらに、さやかは自ら駆け寄って行く。
さやか「っていつまでも『転校生』じゃ失礼よね!『ほむら』でいいかな?」
ほむら「好きにするといいわ」
さやか「素気なっ!いつまでもクールぶってると、私と絡んでて苦労するぞぉ〜!」
陽気に接するさやかに、ほむらは尋ねた。
ほむら「率直に質問するわ。貴方は、魔法少女としてどう在りたいの?」
さやか「な、魔法少女!?…ってまさか」
ほむら「巴マミからは聞いてないのね。私も魔法少女よ」
さやか「へ、へぇ…そうだったんだ」
意図せぬ魔法少女との出会いに驚くさやか。
昨日の件もあって僅かに警戒心が生じ、自慢の笑顔も少し引きつっていた。
ほむら「もう一度聞くわ。貴方は魔法少女としてどう在りたいと考えてる?」
さやか「私は、正義の味方として平和を守りたい」
ほむら「そう…」
再度の質問に対し、さやかは自分の目標を堂々と答える。
杏子と関わったことで、彼女の中でその思いはより強くなっていた。
ほむら「もし本当にそれを望むなら、貴方は何もしない方がいいわ」
さやか「はぁ!?」
ほむら「この街で魔女と戦ってる青年の事は知っているはずよ。
貴方は何もせず、彼に全て任せていればいい」
ほむらの言う青年がゼロであることは、さやかにもすぐに理解できた。
さやか「何言ってんのよ…ゼロさん一人に全部押し付けて、魔法少女の私達が楽しようって事!?」
ほむら「そうじゃない。貴方が動けば、事態がより悪い方向に向かうという事よ」
さやか「え…」
杏子のように笑うことも茶化すこともせず、無表情かつ冷静にさやかを否定する。
ほむらのその対応は、さやかにより大きなショックを与えた。
さやか「そんな…それじゃ私が魔法少女である意味がないじゃん…」
ほむら「そう、最初から貴方は魔法少女になる必要なんてなかった」
さやか「最初から…」
思い返せば、意を決して契約した『お菓子の魔女』との戦いも、
結局はゼロとマミが駆け付けて討伐した。
そして杏子との戦いで、傷を負ったマミを救ったのもゼロだった。
ほむら「大事なことを言い忘れてたわ」
立ち去ろうと背を向けていたほむらは、再びさやかへ向き直った。
ほむら「貴方がこの先魔法少女として迷うことがあっても、それは日常の世界とは無関係であるべきよ。
間違っても、親しい人達に救いを求めようなんて思わないで」
さやか「………」
そう言い残し、ほむらは足早に学校へと足を向ける。
その場に残されたさやかは、黙って駆け出し、先を行くほむらを追い抜いて行った。
そして、ゼロの頼みも聞き入れたマミは、彼に杏子の過去について語り終えていた。
マミ「私が話せるのはこれくらい。
でも誰かに口外しないと約束して。それが貴方の組んでる、暁美ほむらであっても」
ゼロ人間体「ああ、約束だ」
ゼロは何のジェスチャーも取っていなかったが、
彼の雰囲気だけで、マミはその約束が守られると安心できた。
マミ「さっきの代わりと言っては何だけど、私のお願いを一つ聞いてもらえないかしら?」
ゼロ人間体「お願い?」
マミ「私と美樹さんを、貴方の魔女討伐に同行させてほしいの」
意外な要求に驚くゼロに対し、マミは不安げな表情で話を続けた。
ゼロ人間体「同行っておい、急にどうしたんだ?」
マミ「美樹さんの経験が心配なの。彼女、今まで一度も魔女と戦えていないから」
ゼロ人間体「そうか、病院の時は使い魔を任せたんだったな」
マミ「それと、魔法少女との戦いなら…」
ゼロ人間体「………」
二人の間に、重苦しい空気が漂い始める。
マミ「病院の戦いで、貴方が美樹さんの同行を許したのは、
彼女の今後を考えての事でしょう?それと同じ事を、もう一度経験させたいの」
ゼロ人間体「マミには朝早くから無理言っちまったからな。
わかった。明日の夕方、またここで会おう!」
マミ「ええ、お願い」
マンションでの合流を約束したゼロ。
最後にマミはゼロの生活を気遣い、滞在とは別の話を持ちかけた。
マミ「明日の夜、美樹さんも呼んで三人で夕食でもどうかしら?
私が作るから、希望があれば教えて?」
ゼロ「いいのか?じゃ、カレーで頼むぜ!」
マミ「カレーなんかでいいの?手間なら惜しまないわよ」
ゼロ「当ったりめぇだろ。俺の故郷ではちょっとした伝説なんだぜ!
特にウルトラ兄弟の十男が異様に推しててよ———」
ゼロが熱く語り始める中、マミはある事を思い出す。
マミ「いけない…学校が!」
ゼロ人間体「あ、忘れてたぜ」
マミ「ごめんなさい!また明日の夕方に会いましょう」
マミはゼロの話を遮って頭を下げると、慌ててマンションを降りて行った。
つづく
あのお方のバレ見ちまった
ゼロファイト配信組にはきっついな…
【天球ガーディアン編 その3】
昼休みを迎えた見滝原中学校。
ほむらの言葉を朝から引きずっていたさやかは、三年生のいる階へと向かっていた。
さやか『マミさん!』
マミ「あら、美樹さん?」
クラスメートと昼食の準備を始めたマミに、さやかの念話が伝わる。
マミが振り向くと、教室の扉の前でさやかが手を振っていた。
マミ「ごめんなさい、ちょっと後輩が呼んでるみたい」
マミはさやかの元へ向かい、友人達もそれを快く了承する。
二人は学校の屋上へと場所を移し、弁当を広げた。
さやか「せっかくの昼休みに押しかけちゃってすみません。でも、いつも通りで安心しましたよ」
マミ「いいのよ。こっちこそ余計な心配かけちゃったみたいね」
さやか「私がもっと上手く戦えてれば、あんな事には…」
マミ「大丈夫よ。ゼロさんのお陰で、体の方はまるで何事も無かったみたい」
さやか「ほんと凄いっすよね、あの人…」
話を進める内、さやかの表情は沈み、昼食を食べる箸が止まる。
それに気付いたマミは気分を和らげようと、穏やかに接する。
マミ「美樹さん、昨日の彼女のことなら気にする必要はないのよ」
さやか「やっぱテンション低いの、バレてました?」
マミ「当然よ。急に落ち込まれたら気になるでしょ。
彼女に何を言われたとしても、私達は私達のやり方で平和を守りましょう」
さやか「あの佐倉杏子ってやつ、マミさんとは知り合いなんですよね?
例えどんな関係でも、私にはもう関係ないっすから」
マミ「…どういう事?」
さやか「容赦しないって意味です」
さやかの言葉は、普段の彼女らしからぬ暗さを含んでいた。
さやか「あいつ、使い魔を見逃そうとしただけじゃない。私の事も殺そうとした。
それにマミさんだって…」
マミ「その事なら私は…」
さやか「でも私が許せない。もし悪事を働くような奴なら、私は魔法少女が相手でも戦い———」
マミ「はい、もうその話はおしまい!もっと前向きな話をするわよ!」
杏子の件にさやかを深く関わらせてはいけない…そう感じたマミは話を遮る。
新たに持ち出した話題は、今朝にゼロと取り付けた約束だった。
マミ「明日の夕方、ゼロさんの魔女探しに私達も同行することにしたの」
さやか「…え、ゼロさんと?ああ、そうなんだ!」
マミ「あの人の力を借りて、美樹さんの実戦経験を補うのよ。
その後、私の家で食事でもと考えてるんだけど、予定は空いてる?」
さやか「それなら大丈夫!今以上にレベルアップしてみせますよー!」
さやかは口調が暗くなっていたことに気付き、普段通りを意識して言葉を返す。
マミ「それじゃ明日の放課後、校門で合流して私のマンションへ行きましょう。
ゼロさんともそこで待ち合わせてるから」
さやか「…その、代わりに今日の待ち合わせ、少しだけ遅れても大丈夫です?」
マミ「構わないわよ。もしかして…」
さやか「あはは、そういう事です」
その放課後、さやかは友人達に断りを入れ、足早に中央病院へと走った。
さやか「え、退院してたんですか!?」
看護師「あら、上条君から聞いてなかったのね」
中央病院へと着いたさやか。しかし、恭介の姿はそこになかった。
彼は足のリハビリを終えて退院し、明日から学校にも出るだろうという話だった。
さやか(無駄足じゃん…電話の一つでもくれれば良かったのに)
恭介の元気な姿を見ることで、自分が魔法少女である意味をすぐにでも再確認したい。
その当てが外れたさやかは、気を落としたまま受付を去った。
さやか(ん?)
さやかが病院を出ると、そこには仁美の姿がある。
下校前に別れたはずだったが、さやかは彼女に病院へ行くとは伝えていない。
仁美「やはり、ここにいらしたんですね」
さやか「あれ、仁美?どこか悪いの?」
仁美「いえ、さやかさんにお話したいことがあったんです」
さやか「学校で言ってくれれば…って、今日の私、一日上の空だったよね。ゴメンゴメン!」
笑ってみせるさやかだが、仁美は何時になく真剣な表情でこちらを見ていた。
さやか「えと、用事は?」
仁美「恋の相談ですわ」
さやか「恋?」
仁美「実はずっと秘密にしてきたのですが、私も上条くんをお慕いしておりましたの」
さやか「あはは…そうだったんだ。恭介の奴も隅に置けないねぇ。
けど、『も』ってのはどういう意味かなぁ?あいつとはただの幼なじみで…」
仁美「自分に嘘をつく必要はありませんわ」
さやか「仁美…」
思わぬ告白に無関心を装うさやかだったが、動揺は隠しきれていなかった。
仁美「私ね、本当は隠し通して身を引くつもりでいたんです。さやかさんの想いは知ってましたから」
さやか「それが、何で急に…」
仁美「昨日モロボシさんと関わるさやかさんを見て、考えを改めることにしたんです」
さやか「だ、だからあれは誤解だってば…仁美も習い事の先生や先輩と話すことくらいあるでしょ?」
仁美「愛に年齢は関係ない…私がそう考えているのは本当です」
さやか「えっ?」
仁美「上手く言えないのですが、私にはさやかさんがモロボシさんに、
友人や師とは違う信頼を置いてるように見えました」
仁美「貴方の心には誰が映っているのか、その答えが知りたいんです。
だから上条君が学校に戻ってきた日の放課後、私は告白します」
さやか(そんな…恭介はもう退院してて、明日…)
仁美「その間にどうするかは、さやかさん次第です。
貴方は大切なお友達…貴方と上条君が結ばれることになっても、私はきっと祝福しますわ」
そう言い残して、仁美はその場を去っていった。
仁美は恭介の退院を知らず、彼は恐らく、明日から学校生活に復帰する。
そして仁美が告白するであろう放課後には、マミとゼロの魔女討伐に同行する約束があった。
今から恭介に会いに行くべきか、電話で思いを伝えるべきか。
立ち止まって悩み続けていた時、さやかの背後から別の少女が声を掛けてきた。
杏子「ったく、病院の前で痴話ゲンカやってじゃねーよ」
さやか「その声…!?」
物陰から姿を現したのは杏子だった。
咄嗟にさやかは指輪をソウルジェムへと戻し、握り締める。
さやか「一体どの面下げて来たのよ…マミさんあんな目に合わせといて!」
杏子「魔法の間合いに飛び込んできたのはアイツの方だ。アタシの責任じゃない」
さやか「どこまでクズなのさ、あんたって奴は!」
杏子「それに、ゼロの奴がいたから大丈夫だろ…」
怒りを露わにするさやかとは対照的に、杏子の態度は昨日と違っていた。
先程までのさやかと同じく、どこか気分が沈んでいるように感じられる。
杏子「それより、さっきのやり取りは何さ?
せっかく治してやった男、あいつに取られちまってもいいのかよ?」
さやか「あんたには関係ない」
杏子「早いとこ告れよ。ホントはアンタの契約、ヤローの気を引く口実だったんでしょ?」
さやか「違う」
杏子「強がんなよ。人間誰しも見返りを求めんのがフツーなのさ。
マジでアンタが他人のことだけ考えてるより、そっちの方が私も安心できるっても———」
さやか「だから違うって言ってるでしょ!!」
杏子の落ち着いた口調が、今朝のほむらと同じようにさやかを揺さぶる。
さやかは声を上げ、杏子の誘導を振り払おうとする。
さやか「知った風な口聞かないでよ…結局のところ、私が気に入らなくて喧嘩売ってるだけでしょ!」
杏子「そうかもな……何もかも、駆け出しの頃のアタシと似すぎてて気に入らねぇ」
さやか「何それ、意味わかんない」
昨日のように突っかかってくる様子のない杏子に、さやかも調子を狂わせていた。
さやか「あんたの過去とかマミさんとの関係とか、私には関係ないからさ。
誰にも迷惑がかからない形なら、いくらでも相手してあげるよ。私も負ける気ないし」
杏子「………」
さやか「何もないなら行くわよ」
さやかはソウルジェムを再び指輪に戻し、マミの待つ公園へ向かっていった。
つづく
>>151は会話文少なすぎたかなぁと反省。
でも、ほむらの発言がブーメランになってるのは意図的です。
【天球ガーディアン編 その4】
陽も落ちた市内を、一人歩き回っていたゼロ。
彼は魔女を探し続けながら、今後について悩み続けていた。
ゼロ人間体(本当の意味で皆を救うには、俺がこの一カ月を越える必要がある…)
ゼロ人間体(でも、決戦に全員は揃わないとほむらは言っていた。
そして杏子やマミと違って、さやかには確実に命の危機が訪れる)
ゼロ人間体(何時、何が原因になるのか…明日の魔女探し、気を抜くわけにはいかねぇな)
ゼロ人間体(それに、杏子の事も…)
考えるほどにその足は重くなり、商店街の外れで歩みを止める。
しばらく立ち止まっていると、ゼロの感覚は建物の隙間を縫って迫り来る、マイナスエネルギーの反応を捉えた。
ゼロ人間体(この感じ…またか!)
ゼロの周囲から、爪の生えた触手が無数に伸びた。
同時に魔女結界が展開し、地面は様々な柄を縫い合わせた布に変化していく。
ゼロ人間体「デュワッ!」
ゼロはイージスからウルトラゼロアイを取り出し、両目に装着する。
だが、変身より早く触手がゼロを包み込み、握り拳のような袋を作り上げてしまった。
袋の上には、猫の二面と手足を持つ『猫の魔女』が降り立つ。
閉じ込めた獲物にとどめを刺そうと、魔女は笑みを浮かべて涎を垂らしていた。
魔女が爪を振り上げた時、ゼロの入った袋が一瞬、強い光を放った。
異変を感じた魔女は、すぐに跳躍して袋から離れる。
ゼロ「はあああああーーーーっ!!」
ゼロの声が響くとともに、袋が白熱化し、爆発する。
立ち込める煙の中からは、腕をL字に組んで立つウルトラマンゼロの姿が現れた。
ゼロ「エネルギー満点のエサなら、くれてやるぜぇっ!!」
四つの目を全てゼロに向けて驚く魔女に、そのままの体勢でワイドゼロショットを放つ。
反応するより速く光線が命中し、魔女はその威力に押されて後ずさっていく。
ゼロ「フィナーレェッ!!」
意味もなくマミの真似をすると、駄目押しにワイドゼロショットの出力を上げる。
やがて耐え切れずに吹き飛ばされた魔女は、結界内の巨大なミシンに衝突し、大爆発を起こした。
ゼロは魔女が爆死した近辺まで歩き、グリーフシードを探す。
しかし周囲に落ちている様子はなく、ゼロは人間の姿へと戻った。
ゼロ人間体「この前と同じだ…何故魔女の方から俺を襲う?」
自分の結界に籠もることなく、直接ゼロを襲撃した『鎧の魔女』を思い出す。
完全に『猫の魔女』の結界が解けたとき、ある声が疑問に答えた。
QB「それは、君も狙われているからさ。
一部の魔女は、人間を超えた君の力に目を付け、陰から口付けする機を伺っているよ」
ゼロ人間体「インキュベーター!?」
ゼロの背後に突如として現れたのは、キュゥべえだった。
ゼロ人間体「毎回いきなり現れやがって…それに『呪い』の存在が、俺の『光』を扱えるわけねえだろ」
QB「彼等が欲しいのは『生命力』の方さ。君自身のエネルギーの性質は問題ではない」
ゼロ人間体「ほう…向かってくるなら蹴散らすまでだな。どのみち放っておくわけにもいかねぇしよ」
QB「でも、十分に気をつけるといい。君に迷い・焦燥・悲しみ、そんなマイナスな感情が芽生えたとき、
魔女はここぞとばかりに君を狙うだろう」
改めて振り返ると、『鎧の魔女』の襲撃はほむらの不在を心配していた最中だった。
そして今も、ゼロは別の迷いを抱えている。
ゼロ人間体「忠告は有り難く受け取ってやる。だが、俺が聞きたいのはそんな話じゃねえ!」
QB「そうだったね。それじゃ、ついて来て!」
ゼロ人間体「おい、待ちやがれ!」
駆け出したキュゥべえを追い、ゼロも走り出した。
その頃、マミとさやかは人気のない空き地で模擬戦闘を行っている最中だった。
マミ「私の『レガーレ・ヴァスタアリア』、いつまで持ちこたえられるかしら?」
さやか(かなり厄介だ…ドヤ顔にツッコむ余裕もないよ)
さやかの周囲に次々と銃弾が撃ち込まれ、その弾痕からリボンが伸びる。
様々な位置から迫るリボンを、さやかは剣を振るって切り捨てた。
マミはリボンの拘束魔法を多用し、さやかのスピードを活かした回避能力を鍛えている。
マミ「逃がさないわ!」
さやかは移動速度を上げてリボンを回避するが、
足元に張り巡らされていた細いリボンに気付かず、足を取られてしまう。
マミ「足元がお留守になってるわよ?」
さやか「やばっ!?」
その隙を付いて、複数のリボンがさやかの体を絡め取った。
マミ「はい、そこまでよ!」
リボンによって宙吊りにされるさやか。
手足をはじめ、首から腰までをリボンが締め上げ、抜け出すことは不可能だった。
さやか(これは…)
魔法を受けたさやかの頭に、槍を抜け出せなかった杏子との戦いが思い出される。
その光景が蘇るとともに、さやかの意識は「訓練」から遠ざかっていった。
さやか「…まだ、終わりじゃない」
小さな声でさやかが呟く。
その直後、上空から複数の剣がさやか目掛けて降り注いだ。
マミ(あの剣、まさか!?)
その剣はさやかの体ごとリボンを切り裂き、地面に突き刺さる。
拘束から脱して地面に落ちたさやかは、全身から血を流しながら体を起こした。
さやか「く…あっ!」
痛覚の遮断を上手く扱いきれていないため、さやかは苦痛に顔を歪める。
しかし瞬時に回復魔法を展開して傷を治すと、剣を一本引き抜いてマミへと向けた。
その顔には、まるで何事もなかったかのように怪しい笑みが浮かぶ。
さやか「以外に簡単なもんだね。上手くやればどんな魔法少———魔女にも負ける気しないわ」
その呟きが微かに聞こえていたマミは、さやかの元へ歩み寄った。
マミ「そんな戦法…危険すぎるわ」
さやか「慣れてしまえば大丈夫っすよ」
マミ「大丈夫なはずないでしょう!もし昨日の戦いを引きずっての事なら、やめておきなさい」
さやか「佐倉杏子のことだけじゃない…暁美ほむらにも言われたんです。
私が動くと、事が悪い方向に向くって」
マミ「…暁美ほむらが?」
さやか「才能のない私があいつらやマミさん…そしてゼロさんに追い付くには、こんな方法しかないんですよ」
マミの中で、次第にほむらに対する怒りが湧き上がっていく。
今はそれを堪え、さやかの両肩に手を置いて説得に集中した。
マミ「才能の有る無しなんて、誰かが決めつけることじゃない。
不得意なものがあっても、皆で補い合えばいいのよ」
さやか「でも、他の魔法少女とまるで分かり合える気がしないよ…」
マミ「私がついてるわ。それにゼロさんも。だから一つ一つ経験して強くなりましょう?」
さやかは俯いて、目線をマミから隠す。
しばらく体を震わせた後、思いきってその顔を上げた。
さやか「ありがとう…マミさん。明日の魔女探しも頑張りましょう!
魔法少女さやかちゃん、本当の戦いはこれからだぁぁーっ!!」
マミ「その意気よ、美樹さん」
マミは微笑みながらも、内心はさやかの自身を省みない戦い方に、言い知れぬ不安を抱いていた。
そしてさやかも、自身の不安を完全に拭い去れたとは言い難かった。
【天球ガーディアン編 その5】
キュゥべえを追った末に、高層ビルの屋上へと辿り着いたゼロ。
ゼロがその端まで近付くと、見滝原市の夜景を背に、キュゥべえが赤い目を光らせていた。
ゼロ人間体「おい、こんな所まで誘導して何のつもりだ!」
QB「僕も追われてる真っ最中でね。邪魔が入らないよう、場所を変えただけだよ」
ゼロ人間体(追われてる…ほむらの事か?)
ゼロ人間体「まあいい。それより何故俺を知ってるのか、全部答えてもらうぜ!」
QB「では、順を追って話すとしよう。まだ夜はこれからだ」
ゼロはその場に座り込み、話に耳を傾ける体勢を整えた。
QB「まず僕達が地球の存在ではないことは、既に君も知っているだろう。
その役目が、この宇宙を延命させるためであることも」
ゼロ人間体「話だけなら聞いてるぜ。どこまで本当かは知らねーがな」
QB「知っているならそれでいい。前提の再確認だからね」
ここまでは、既にほむらから聞いた通りの話。
彼女も知らないゼロとの繋がりについて、キュゥべえは語り始める。
QB「僕達が別宇宙へ旅立ったのは、最近の話だ」
ゼロ人間体「嘘つけ」
QB「嘘ではないよ。多次元の存在は仮説として存在していたけれど、
憶測の域を出ないその理論に、僕達は長い間興味がなかっただけさ」
QB「けれど認識を改めざるを得ない出来事が、半年ほど前に起きたんだ」
ゼロ人間体「半年前?」
QB「この宇宙に、惑星をも凌駕する規模の人工天球が現れたのさ」
ゼロ人間体「ビートスターが、この宇宙にも!?」
QB「天球は僕達の対話にも応じず、機械の軍勢を率いて、幾つもの文明を滅ぼしていった。
しかし僕達を含め、この宇宙で天球に対抗する術は存在しなかったんだ」
ビートスターは様々な次元でロボットを回収・コピーし、コントロール下に置いて兵力としていた。
その規模は圧倒的であり、中枢であるビートスターを倒す意外に天球を止める方法はなかった。
QB「けれど、僕達が地球への侵攻を危惧していた時、天球は忽然と姿を消したんだ」
QB「大きな損害を被った僕達は調査に乗り出し、その結果、
天球が全く異なる次元へと転移したことを突き止めた」
QB「天球の動向を調査する為、僕達は次元を越える方法の確立を急いだ。
その第一段階として、ある方法を試すことにしたのさ」
ゼロ人間体「嫌な予感しかしねえな…」
QB「ごく稀に宇宙で観測される空間の歪み、その内部に踏み込むことだ」
ゼロ人間体「空間の歪みだと?」
QB「その先に発見したのさ、多次元に跨る異空間をね」
ゼロはその異空間に心当たりがあった。
思わずその地の特徴を挙げ、真偽を確かめる。
ゼロ人間体「そこにはドデカい大陸が浮かび、様々な『魂』が眠っていた……違うか?」
QB「君も知っていたようだね。あの異空間の存在を」
ゼロ人間体「なるほどな。『怪獣墓場』に入ったってわけか…!!」
QB「君のいた世界では『怪獣墓場』と呼ばれているんだね。では、僕達もそう呼ばせてもらおう」
『怪獣墓場』とは、マルチバース上の様々な次元に繋がる異空間。
そこには多くの生命体の『魂』などが漂着し、安らかな眠りについている。
そして怪獣墓場は、ゼロが初めて『ウルトラマン』として戦った、忘れられぬ場所でもあった。
QB「怪獣墓場がどの宇宙に、どのようにして繋がっているのかを調べるには、多大な時間を要する。
僕達は足掛かりとして、上空に存在する不思議な形状をした『門』を調査することにしたんだ」
ゼロ人間体(なんてこった…こいつら)
QB「門を抜けた先に広がっていた、未知の宇宙。
そこで数々の文明と接触を計り、運良く天球の最期、そして君の存在を知ることができたというわけさ」
ゼロ人間体(こいつら…『グレイブゲート』を経由して、俺の故郷にまで!!)
怪獣墓場の上空には、何者かによって建造された巨大な門『グレイブゲート』が存在する。
そして、グレイブゲートは怪獣墓場と、ゼロの出身宇宙『M78ワールド』を繋ぐ役割を果たしていた。
ゼロ人間体「ようやく話が繋がってきたな…テメェらにはヒヤヒヤさせられるぜ!」
QB「それは僕達も同じことさ」
ゼロ人間体「テメェらは『感情』を持たないんだろ?一緒にすんじゃねーよ」
QB「一種の喩えさ。時空を駆ける勇者が、
世界の片隅にある街一つを守っているとは想像もしてなかったからね」
ゼロ人間体「ヘッ…とんだ営業妨害だったろ?
でもすぐには帰らねーぜ。テメェらからすれば、邪魔で仕方ねえだろうがな!」
QB「そうでもないよ」
ゼロ人間体「えっ?」
キュゥべえの視線が、ゼロの左腕に向けられる。
その瞬間、キュゥべえの頭部が血しぶきを上げて弾け飛んだ。
ゼロ人間体「!?」
首から上を失ったキュゥべえの体は、ビルの真下へと落下する。
ゼロが背後を振り向くと、そこには銃を構えたほむらの姿があった。
ゼロ「ほむっ!?」
ほむら「もう構わないわ」
ほむらの名を最後まで言いかけるが、途中で口を噤む。
一方で、ほむらはそれを気にしていない様子だった。
QB「やはり君達は繋がっていたようだね。彼に知識を授けたのも君だろう?暁美ほむら」
ほむら「答える義理はない」
屋上の出入口の前に、新たなキュゥべえが姿を現す。
QB「彼女に捕まると色々と厄介だからね。ウルトラマンゼロ、また会える機会を楽しみにしているよ!」
ほむら「貴方は引き続き魔女討伐を」
ゼロ人間体「お、おう!」
階段へと逃げ去っていくキュゥべえを追い、ほむらもゼロを残して走り出す。
ほむら(時間を多く確保できてるとはいえ、順調過ぎると思ってた…)
ほむら(この時期まで彼女が目を付けられなかった時間軸は、『あの時』を除いて他にない)
ほむらがふと思い出したのは、水晶玉を持った白い魔法少女と、彼女を守護する黒い魔女。
その姿は、ほむらの思考から一瞬にして姿を消した。
ほむら(奴の様子からして、想像してた以上に彼へ関心を抱いてる)
ほむら(…でも今回ばかりは譲れないわよ?インキュベーター)
ビルの階段を駆け降りながら、ほむらは再び銃口をキュゥべえに向ける。
ほむら(彼は、最後の希望。———『ウルトラマン』の力は、私のものよ!!)
ほむらがゼロに垣間見た希望、それは仲間や理解者といった『支え』とは全く異なっていた。
つづく
SS内の設定について少し補足。
ほむらは少なくともTDS・おりマギの出来事は経験しており、
本編以上にループを重ねている設定です。
魔女は『○○の魔女』と名前が分かっているものを選んでますが、かずマギは未見なので出してません。
又、ポータブル版の要素は少し違った形で絡んでくる予定。
又、ゼロの物語は下記の6作品があります。
1:http://www.youtube.com/watch?v=40_mOaffnPU
2:http://www.youtube.com/watch?v=pfbcThan6Ds
3:http://www.youtube.com/watch?v=xoWMQdfK3QU
4:http://www.youtube.com/watch?v=UbEz-J50Dx0
5:http://www.youtube.com/watch?v=429Twc9ZBUY
6:http://www.youtube.com/watch?v=WsCbO5C3fww
このSSは1〜4以降にあたるIFストーリーになりますので、5番目の『サーガ』へは続きません。
セリフの引用があるのもそのためです。
ゼロファイト本編でゼロさんまさしく力を(つーか体ごと)乗っ取られてしもうた…
【ウルティメイトフォースゼロ その2】
グレンファイヤーとミラーナイトが帰還し、一時間が経過したアナザースペース。
近くの小惑星でグレンがゴミを燃やしていると、
マイティベースへ赤と紫、二つの光が入っていくのが見えた。
グレン「ん?ありゃあ…」
機械音と共に、ベースに二人のロボットが降り立つ。
彼等はウルティメイトフォースゼロのメンバー、通称『ジャン兄弟』。
ジャン兄「遅くなった」
彼はゼロの仲間の一人、ジャンボット。
メンバー内でも特に規律正しく、機械でありながら正義の『心』を宿している。
ジャン弟「念入りに探したんだ。遅くて当然だろう」
もう一人は生意気な弟分、ジャンナイン。
ビートスター最強の刺客ロボットであったが、正義に目覚め、ゼロ達と行動を共にしている。
ミラー「お疲れ様です」
グレン「おー帰ったか、焼き鳥ども!」
二人をミラーナイトが出迎えるとともに、グレンもベースの内部へ戻ってきた。
ジャン兄「私は焼き鳥ではない!ジャンボットだ!」
ミラー「後にして下さい。まずは結果の報告からお願いします」
ジャン弟「僕達のエリアに敵は確認できなかった。他はどうだ?」
ミラー「私とグレンも同じです。残るはゼロだけということになりますね」
ジャン兄「ふむ、ではゼロが戻るまで待機だな」
グレン「えー、またかよぉ…」
四人はゼロの帰還を待ち続けるが、数時間が経過しても、彼が戻る様子はない。
ジャン弟「…遅い」
ミラー「これは、ゼロの持ち場にベリアル軍が現れたという事でしょうか?」
ジャン兄「それにしては時間が掛かり過ぎている。ゼロがあの機兵に後れを取るとも思えない」
ゼロの身に何かが起きたのではと、メンバー達の間に不安がよぎる。
只一人を除いて。
グレン「けっ…どーせ任務ほったらかして、若い女の子達とキャッキャウフフやってるんだろうさ!」
ミラー「何故そう破廉恥な発想に…」
ジャン弟「『ハレンチ』とは、何だ?」
ジャン兄「お前は知らなくていい。ともかく、私がゼロのエリアを確認してこよう」
ジャンボットは一人で出口へと歩き、ミラーナイトはその後を追う。
ベース外へ出たジャンボットの体は、緑の粒子を散らしながら変形を始め、
やがて『ジャンバード』と呼ばれる宇宙船形態へと姿を変えた。
彼が『焼き鳥』と呼ばれるのも、これが理由である。
ミラー「一人で大丈夫ですか?」
ジャン兄「問題ない。それより、ジャンナインの方を頼む」
ミラー「貴方の代わりにグレンに絡まれるのは目に見えてますからね…わかりました」
ジャンバードはブースターを起動すると、ゼロの担当エリアへ向けて飛び去っていった。
教育係でもある兄が去り、残されたジャンナインはグレンとミラーに指示を請う。
ジャン弟「僕は、どうすればいい?」
グレン「はっはぁ〜!そんじゃヒマつぶしに、お前のアニキの裏話でも教えてやるよ!」
ジャン弟「裏話?」
ミラー「またそんな事を…後でジャンナックル食らうのは貴方なんですよ、グレン」
別次元の過去で繰り広げられるゼロと魔女の戦い、
そして仲間達の退屈との戦いは続く———
つづく
短くてすみませんが、これで中盤まで終了。
>>183
なん…だと…?(←つべ配信待ち)
ゼロファイト9話の配信見て、物語とは別な意味で寒気が…
ウルトラシリーズに詳しい人の意見が欲しいです。
SS内のキュゥべえですが、
まどマギ世界からウルトラゾーン(宇宙空間の歪み)を通して怪獣墓場に入り、
グレイブゲートを抜けてM78ワールドに辿り着いたと設定しました。
・『ウルトラ銀河伝説』でのグレイブゲートは、M78ワールドと怪獣墓場を繋げていた。
・ゲート以外から怪獣墓場へ行くには、ウルトラゾーンに入るしか方法はない。
・ゼロファイト1部のラストで、ゼロ達はゲートへ向かわずアナザースペースへ帰った。
・『ベリアル銀河帝国』からゼロファイト最新話(9話時点)まで、
アナザースペース側にゲートが存在する描写がない。
以上を踏まえて、ゲートで行き来できるのはM78ワールドのみと判断しましたが、
ゼロダークネスは思いっきりゲートを通ってアナザースペースへ向かった件…
ゲートが多世界に通じているとSSの前提が崩れかねないのですが、
これは気にしない方がいいのでしょうか…?
ゼロファイト1部でガンQでてたし
怪獣墓場は多世界とつながっているとは思う
いろいろと憶測は出来るが・・・
とりあえずゲートについての設定ってどんなのあったかな
皆さんレスありがとうございました。
再びキュウべえと多次元の関係が関わってくるのは少し後なので、投下を続けながら考えることにします。
ちなみにゼロファイトでアナザースペースと怪獣墓場を直接行き来していた描写について、
ゼロ達はゲート以外の直通ルートを知っている(そして公式が深く設定してないだけ)と勝手に解釈してました。
作者ってほんとバカ…
>>190
数十万年前に何者かが建造した設定ですが、あまり深くは掘り下げられてないようです。
マルチバースの設定がなかった2009年のOV『ゴーストリバース』が初登場でした。
【影の魔女編 その1】
翌日の見滝原市。
普通の学生達が目覚め始める早朝、マミはキッチンに向かっていた。
QB「ご機嫌だね、マミ」
マミ「あら、おはよう。キュゥべえ」
鼻歌を唄いながら鍋に火を通すマミに、どこからか現れたキュゥべえが声を掛ける。
マミ「貴方がこの家に来てくれるなんて久々よね。最近はほとんど顔も見せてくれないし」
QB「イレギュラー達のお陰で、僕も多忙なのさ。でも、君も中々忙しそうじゃないか」
マミ「ふふっ、わかる?」
マミは笑顔で鍋をかき混ぜる。
その中には、彼女が作って一晩寝かせたカレーが煮立っていた。
マミ「これ、調味料を一から買い込んで作ってみたの。初めてだったし、味は保証できないけどね」
キュゥべえがテーブルの上に飛び乗ると、そこには小麦粉など、手を付けられていない材料も置かれている。
マミ「それは、食後のデザート用にと思って出してるの。
もし時間があれば、カレーを食べて貰ってる間に何か焼けるかなってね」
QB「いつにも増して力が入ってるようだね。一体誰が来るんだい?」
マミ「ゼロさんと美樹さん。今日は三人で魔女を探す予定なの。
それが終わったら、この家に招いて三人で夕食よ」
QB「それは賑やかになりそうだ。存分に楽しむといい」
マミは学校の支度を始めるべく、鍋の火を止めてキッチンを離れる。
残ったキュゥべえは、少し何かを考えた後、静かにマミのマンションを去った。
ホームルームを控えたの見滝原中学。
退院した恭介は、松葉杖を突きながら教室に姿を現した。
心配していた友人達は、彼の元に集まっては声を掛ける。
友人「上条、ひでー怪我だったんだろ?もう大丈夫なのかよ?」
恭介「ああ、手の方は全く問題ないよ。もうしばらく松葉杖は手放せそうにないけどね」
恭介が翌日に登校するなど、予想もしていなかった仁美。
彼女は戸惑った様子でさやかを見る。
仁美(さやかさん…?)
当のさやかは、調子が悪そうに教室を出ていく。
別の友人も心配していたが、一人で行くとでも言われたのか、その後を追わなかった。
さやか(昨日の夜決めたことじゃん…私はずっと魔法少女として、この街を守るんだ)
さやか(私は見返りを求めて契約したわけじゃない。
告白なんてしたら、佐倉杏子の言い分を認めるのと同じこと)
さやか(だから忘れるんだ…)
昨日の出来事を通して、さやかは魔法少女として戦い続けることを選んだ。
しかし、その思いは恭介の顔を見ただけで簡単に揺らいでしまっていた。
そんな自分を恥じ、さやかは心の中で戒めの言葉を呟き続ける。
仁美「さやかさん」
さやか「仁美!?」
突然聞こえてきた声に驚くさやか。
恐る恐る振り向くと、そこには彼女を心配して着いて来た仁美がいた。
仁美「大丈夫なのですか?まどかさんも心配してますわ」
さやか「私なら心配いらないよ。保健室くらい一人で行けるからさ」
さやかは友人達との登校から、何事もなかったかのように振る舞っていた。
彼女が教室に入って直ぐに不調を訴えたことから、仁美は昨日の件が関係しているのではと後悔していた。
仁美「私、こんなに早く上条くんが戻ってくるとは思ってませんでした。
だから、さやかさんの心の整理がつくまで時間を…」
さやか「私のことなら、これっぽっちも気にしなくていいよ」
仁美「やはり、貴方はモロボシさんの事を?」
さやか(モロボシ……ゼロさん…)
地球で活動するため、ウルトラマンゼロが使う仮の名前。
それを耳にしたさやかの頭に、青年の姿と仁美の言葉が蘇る。
『昨日モロボシさんと関わるさやかさんを見て、考えを改めることにしたんです』
さやか(あれ?…ゼロさんがいたから、私は苦しんでるの?)
さやか(ゼロさんがいなければ、私は恭介と一緒になれたの?)
さやか(…違う!私は魔法少女!見滝原を守る正義の味方!恋愛なんてしてる暇なんてない!!)
慌ててさやかは、内に傾きかけた意識を現実に引き戻す。
さやか「あの人の事は本当に関係ないから。
周りからどう見えてるのか、自分でも良くわかんないけどさ…」
仁美「では何故、上条君のことをそんな簡単に…」
さやか「仁美、言ってたじゃん。大切な友達だから祝福できるってさ。
それは私も同じこと。だから堂々と伝えなよ!」
仁美「本当に、後悔はありませんね?」
さやか「そっちこそ、ここまで言っといて今さら撤回しちゃヤだよ?」
仁美「さやかさん…わかりましたわ」
仁美は保健室へ向かうさやかをこれ以上追わず、一人教室へと戻っていく。
残るさやかは、湧き上がる感情を鎮めようと胸を強く押さえた。
さやか(いいんだよ、これで。私が守るから…二人のこれからを)
同日午後の風見野市。
杏子は棒付きのアイスを食べながら、建物の屋根でぼんやりと空を眺めていた。
杏子(こんなはずじゃなかったんだ…美樹さやかの奴が現れてから、どうにも調子が狂っちまう)
杏子(アタシはただ、もう一度…)
考え込んでいる内にアイスはなくなり、棒だけを口に咥えていた。
それに気付いた杏子は、指と顎に力を込めて棒をへし折る。
杏子「クソッ!マジで何がしたいんだよ、アタシは!!」
割り切れずに「く」の字に曲がった棒を、声を上げながら投げ捨てる。
棒が飛んだ先に白い小動物が現れ、素早く棒を避けた。
QB「いきなりゴミを投げつけるなんて、ひどいじゃないか」
杏子「なんだ、キュゥべえかよ」
QB「不機嫌そうだね、杏子。あまり苛立ちを溜め込むことは、僕もおすすめしないよ」
杏子「久しぶりに顔を見せたかと思ったら、余計なお世話だ。
それに溜め込むのがダメなら、誰かで発散するとしかないよねぇ…!」
不敵な笑みを作って見せる杏子。
しかし、キュゥべえは彼女の内面を見抜いていた。
QB「君は経験上、物事を割り切るのが上手い方だと思っていた。けれど、彼女達のことは例外なようだね」
杏子「…何が言いたいのさ?」
QB「君が取った行動については、既に把握しているよ。だからこそ言おう。
もう一度美樹さやか、そして巴マミと向き合う必要があると思わないかい?」
杏子「……」
QB「実は夕方に、二人はウルトラマンゼロの魔女探しに同行する。
彼の今日一日の動きから、見滝原のどこで魔女を探すのか、大凡検討はついた」
杏子「アタシにどうしろってんだよ」
QB「どうするかは君次第だ。只、その区域に強い魔女の反応を見つけた。
ウルトラマンゼロなら、確実にその場所を嗅ぎ付けるだろうね」
杏子「ふぅん…別にその魔女、狩ってしまっても問題はないわけだ?
アタシは魔法少女の役目を果たすだけだしね」
QB「どうするかは———」
杏子「あーもうわかったわかった。聞かせな、その場所」
その二時間後、見滝原中学の下校時間が訪れる。
一旦つづく
【影の魔女編 その2】
放課後の見滝原中学。
教室を出たさやかは友人と別れ、校門前に立っていた。
さやか(駄目だ…昨日の比じゃないよ)
さやか(今日だけでもこんななのに、二人が付き合うことになったら…)
さやかは仁美の後押しをしながら、恭介への恋愛感情を全く抑えられずにいた。
今も告白の結果が気が気でなく、下校する生徒達の中から二人を探してしまう。
さやか(忘れろ…私は魔法少女…私は正義の味方…)
心の中での呟きを続ける内、ある人物の姿が目に止まる。
それは黒髪をなびかせて歩く、暁美ほむらだった。
さやか(あいつ…)
ほむらはさやかの方を一度も見ることなく、校門を出て行く。
教室では一切関わらないよう避けていた彼女を、さやかはいつの間にか目で追い、睨みつけていた。
その後ろ姿が見えなくなった時、対抗心からか、少しだけ気が紛れていることに気付く。
さやか(…感謝するよ。あんたのお陰で、ほんの少し楽だわ)
さやか(恋愛してる暇があるなら、誰よりも強くならなきゃね。
あんたの言ったこと全部否定できるくらい、意味のある魔法少女になってやる)
さやか(この街の平和を守るために…)
さやか「…あはっ」
さやかの口元から、軽い笑いが洩れる。
しばらく経って、さやかの元にマミが近づいてきた。
マミ「美樹さん、待った?」
さやか「そうでもないっすよ。早く行きましょう、マミさん」
マミ「そうね、ゼロさんももう待ってるかもしれないし」
合流した二人は、共にマミの住むマンションへと向かう。
歩きながら、マミは普段よりも真剣な口調でさやかに声を掛けた。
マミ「美樹さん」
さやか「はい?」
マミ「もし魔女が見つかったとしても、絶対に昨日みたいな戦い方をしては駄目よ。
ゼロさんも、貴方のことをきっと心配するから」
さやか「うん」
マミ「いざという時は、私達が貴方を助けるわ。だから無茶だけはしないでね」
さやか「わかりました」
さやかの応答を、どこか素っ気無く感じるマミ。
昨日から思い悩んでいると知っているだけに、それを指摘することはできなかった。
さやか(ゼロさん、ねぇ…)
さやかの表情が曇る。
やがてマンションに辿り着いた二人。
入り口の前には、腕を組んで立つゼロの姿があった。
ゼロ人間体「お、やっと学校終わったか!」
マミ「お待たせ。ゼロさんは準備できてる?」
ゼロ人間体「任せな、いつでもオッケーだ!」
マミと会話するゼロを、さやかはただ眺める。
さやか(違う)
さやか(勘違いもいいとこだったね、仁美)
昨日、仁美に指摘されたことから、さやかはゼロに対して
自覚がないままに恋愛感情を抱いているのではないかと考えていた。
しかしゼロを見ても、恭介のような感覚に陥ることはない。
その上、今までになかった別の感情が湧き上がってくる。
マミ「美樹さん、私の家に荷物を置いていきましょう」
さやか「あっ、はい」
無表情でゼロを見つめていたさやかに、マミが声を掛けた。
気付いたさやかは、マミの元に駆け寄る。
ゼロ人間体「じゃ、俺はここで待ってるぜ」
マミ「ごめんなさい、すぐ戻るから!」
ゼロを一旦その場に残し、二人は共にマンションへと入っていった。
一旦つづく
準備の整った二人を交え、ゼロは見滝原市が載った一枚の地図を広げる。
彼が想定していたルートは、キュゥべえが予測を立てた区域と同じ、
朝から現在にかけて探索を行っていない場所だった。
ゼロ人間体「これが今回のルートだ。晩メシもあることだし、七時を過ぎる前にフィナーレだな!」
マミ「えっ、『フィナーレ』?」
心当たりのある単語に、思わずマミが反応する。
ゼロ人間体「いや、前にノリノリで技名叫んでたろ?あれ聞いて、俺も言ってみたくなったんだよ」
ゼロ人間体「ゼロ・フィナーレェッ!!ってな!」
マミ(他の人にはこんな風に映ってたのかしら?なんだか恥ずかしいわね…)
ゼロは声を上げながら人差し指を伸ばし、手で銃の真似をする。
その様子を見て、マミは苦笑いを返していた。
ゼロ人間体「それと、あれから一週間経ってたな。これ渡しておくぜ」
ゼロは数個のグリーフシードを取り出し、二人に手渡した。
それは、獲物に出会えない魔法少女のための措置。
マミ「ありがとう。ほとんど美樹さんとの訓練だったから、大きな消費はなかったけどね」
さやかはゼロの魔女退治について、マミから話には聞いていた。
受け取ったグリーフシードを見つめ、ある言葉が脳裏に蘇る。
『貴方は何もせず、彼に全て任せていればいい』
さやか(守られて、与えられるだけ?)
さやか(私は魔法少女で、守る側なんだよ?)
思うところがありながらも、さやかはグリーフシードを直して目線を戻す。
ゼロ人間体「さぁ、そろそろ行こうぜ!」
マミ「頑張りましょう、美樹さん」
さやか「うん」
ゼロは気合を入れて、行き先を指差す。
魔法少女二人を交えた、いつもと違う魔女探しが幕を開けた。
開始から数十分が経過した、とある路地。
魔女探しの最中でありながら、ゼロは何もせずに先へと進んでいく。
ソウルジェムを使って探知する魔法少女との違いが気になり、マミはゼロに尋ねた。
マミ「ちょっといいかしら?」
ゼロ人間体「ん、俺か?」
マミ「病院の時から気になってたの。ゼロさんは一体、どんな方法で魔女探しを?」
ゼロ人間体「そうだな…俺は魔女や使い魔から滲み出てる呪いを、体で感じ取って探してるんだ」
この世界で表現される『呪い』は、ゼロが知る『マイナスエネルギー』とほぼ同質のもの。
ゼロは二人に伝わり易くするため、敢えてその表現を避けた。
マミ「つまり、ゼロさんは道具が必要ないのね」
ゼロ人間体「ああ。使い魔に魅入られた人間がいれば、口付けから反応を追うこともできるしな」
ゼロの探索手段を聞き、納得するマミ。
それを聞き、口数の少なかったさやかがふと言葉を洩らす。
さやか「ふぅん…私達が苦労して魔女探してるのとはワケが違うんだね」
一瞬、三人の間に流れる空気が固まる。
マミ「美樹さん?」
さやか「あ、ごめん…すごくカンジ悪い言い方になってたっすよね」
ゼロ人間体「いや、別にいいさ。俺は気にしてないからよ!」
その一言に含まれた棘に、ゼロもマミも気付いていた。
無意識の発言であったが、さやかはすぐに謝罪を入れる。
さやか(駄目だ私、何でゼロさんに当たってんの…)
頭を押さえて反省するさやか。
これを機に、三人の口数は次第に少なくなっていった。
つづく
今日はこれで終了します。
開始から約二時間。魔女の反応を全く掴めないまま、陽は暮れ始める。
無言で先を進み続けていた時、ゼロは超能力でマミにテレパシーを送った。
ゼロ人間体(なあ、マミ)
マミ「えっ?」
突然の声に少し驚くマミであったが、すぐに念話で返事を返す。
マミ(ごめんなさい、何かしら?)
ゼロ人間体(いや、お礼を言っておこうと思ってな)
マミ(お礼?)
ゼロ人間体(まぁ結果的にはバレちまったんだが…
俺とほむらの事、今まで誰にも言わないでいてくれたんだろ?)
マミ(その事ね。確かに、キュゥべえにも美樹さんにも伝えていないわ)
ゼロ人間体(俺を信じてくれて、ありがとな)
以前から二人の繋がりを疑っていたキュゥべえが、確信に至ったのは昨晩のこと。
それまで、マミは二人の関係について口を閉ざしていた。
マミ(でもね、ゼロさん)
ゼロ人間体(ん?)
マミ(本当は全部キュゥべえに相談してしまおうかと考えてたの)
ゼロ人間体(相談…っておい、何でだよ!)
ゼロは驚きが表面に現われそうになり、注意しながら先を進む。
マミ(彼女が美樹さんに何を言ったか、貴方は知ってる?)
ゼロ人間体(あいつが、さやかに?)
マミ(美樹さんが動けば、事態が悪い方向に向かうって。
それ以上は聞けなかったけど、まだ他に何かを言われているみたい)
ゼロ人間体(さやかの様子がおかしいのは、ほむらが原因だったのか…?)
マミ(私の中で、貴方への信頼が深まるほどに、暁美ほむらへの不信が強くなってる。
彼女との関係、もう一度考え直す気はない?)
ゼロ人間体(考え直すって、俺はあいつを…)
『お菓子の魔女』戦後の段階では、ほむらを信頼できると言い切れていたゼロ。
しかしその後の密会を経て、マミの「普通じゃない」という言葉が、彼の中で現実味を帯び始めていた。
ゼロの中で様々な思いが渦巻き、一旦テレパシーを打ち切った。
返事が途絶え、マミはゼロを横目で見る。その姿は、黙々と歩くだけのいつもの彼。
ゼロ人間体(確かに俺にもわからねぇ。ほむらの考えてることが)
ゼロ人間体(でも、あいつは大切な人を守りたくて、余裕がないだけなんだ。
あの日届いた悲痛な声が、その証拠だ)
ゼロ人間体(…待てよ?本人は何も答えてはくれねぇが、あの声は本当にほむらだったんだよな?)
ゼロ人間体(大体、何故あの声は俺に聞こえたんだ?しかも、俺が跡を辿れるような反応を残してまで…)
別の疑問が浮かび上がってきた時、ゼロは漂うマイナスエネルギーを察知し、足を止めた。
ゼロが見つめる先には、建設中の工事現場がある。
マミ「魔女、見つかったのね?」
ゼロ人間体「ああ。どうやら、この先で結界を張ってるようだ」
マミ「早速行きましょう。取り逃がさない内に」
ゼロ人間体「でも待ってくれ。この反応、さやかにはまだ…」
ゼロが感じ取った魔女の強さは、恐らくさやかの力量以上。
さやかを戦わせるべきか心配するゼロに、本人は若干苛ついた様子で割って入った。
さやか「私はやりますよ。どんな相手でも諦めずに戦うのが、正義の味方だからね」
ゼロ人間体「それでもな…」
さやか「いいじゃないっすか。今日は私の経験を補うための集まりなんですから」
マミ「私も、今回は美樹さんに任せたい。私達はサポートに徹して、万が一に備えましょう」
ゼロ人間体「…わかったよ。でも、危なくなったらすぐ言うんだぞ!」
さやか「うん」
二人に根負けする形で、ゼロは戦いを了承する。
その僅かなやり取りの中で、さやかに再び暗い感情が湧きあがる。
さやか(…上から目線かよ)
ゼロが先導して反応を追っていくと、並んだコンテナの近くに結界への入り口があった。
ゼロ人間体「病院の巻き寿司ほどじゃねえが、こいつも間違いなく強敵だ。
使い魔を地道に倒しながら、油断せず行こうぜ!」
さやか(一人でもやってみせる。これは、平和を守るための大事な一歩なんだ)
さやかは意気込みながら、指輪をソウルジェムに戻す。
三人が結界に踏み込もうとした時、何者かの念話が伝わってきた。
杏子(…ホントに来てやんの)
ゼロ人間体「この声、まさか!?」
すぐさまゼロとマミが振り向き、見上げると、ビルの鉄筋の上に杏子が座っていた。
マミ「佐倉さん!」
ゼロ人間体「杏子…」
杏子を見るマミの中では、数日前に起きたさやかとの戦いが。
ゼロの中には、マミから聞いた彼女の過去が蘇る。
ゼロ人間体「杏子、降りてきてくれ。今度は武器じゃなくて、言葉を交わしたいんだ」
杏子「ご指名どーも。でもアタシが話したいのは美樹さやかの方。アンタらじゃない」
さやか「一人で喋ってなよ」
さやかは杏子を一切振り向くことなく、魔法少女の姿に変身する。
そのままゼロとマミを残し、一人で結界の中へと飛び込んでいった。
ゼロ人間体「おい、勝手に!」
杏子「チッ…」
後を追いたいゼロであったが、杏子のことも放っておけず躊躇してしまう。
そんな彼に、マミは結界を指さして後押しする。
マミ「行ってゼロさん、美樹さんをお願い!」
ゼロ人間体「いいのか、マミ?」
マミ「今は佐倉さんのこと、私に任せてほしいの。
それより、あの子の気持ちが先走って危ない戦い方を始めたら、すぐに止めてあげて!」
ゼロ人間体「危ない戦い方?よくわからないけど任せな!
この俺がいるからには、何が何でも守り抜いてみせるぜ!」
ゼロはイージスからウルトラゼロアイを取り出すと、続いて結界の内部へと飛び込んで行く。
残ったマミと杏子は、しばらく無言でお互いを見つめ合っていた。
一旦つづく
「この魔女の性質はおそらく『独善』。倒したければ、黒色の苦痛を知らなくてはなりません」
「あの少女は、立ち向かうに足る苦痛を既に手に入れています」
「でも貴方の方はどうなんでしょうねぇ、ゼ〜ロぉ〜?」
【影の魔女編 その3】
只一人、薄暗い結界の最深部へと到達したさやか。
彼女の眼前には、崖のような一本道と太陽を模した塔があった。
塔の下を見ると、黒い少女の姿をした『影の魔女』が、祈るように座り込んでいる。
さやか(あいつだね、魔女は)
さやかは無言で剣を握り締めると、全速力で魔女へと向かっていく。
すると魔女の背中から、無数の影が触手のように伸び、さやかに襲いかかってきた。
さやか(二人が来る前に、切り刻んでやる!!)
さやかは迫る影を素早く切り払うが、新たな影は次々と伸びてくる。
俊足を活かして攻撃を避け、魔法を足場に空中を蹴って進む。
しかし、あらゆる方位から迫りくる攻撃で、魔女に近づくことすらままならない。
やがて動物の顔を複数持つ使い魔が現れ、牙を剥いてさやかの足首に噛み付く。
動きが止まった一瞬、使い魔の顔が次々とさやかに噛み付き、その体を捕えた。
さやか「くっ…」
動けないさやかに、魔女から伸びた影が纏わりつき、樹の形となって彼女を内部に閉じ込める。
だが、直後に二本のゼロスラッガーが、緑の軌道を描きながら樹の周囲を飛び交った。
ゼロ「シェアアァーーーッ!!」
響いてきたゼロの声とともに樹は切り刻まれ、中のさやかを開放する。
遅れて飛んできたゼロの両手に、スラッガーが戻っていく。
ゼロ「待たせたな、さやか!あんまり無作為に突っ込むなよ!」
さやか「ゼロさん?」
駆け付けたゼロに対し、さやかが発したのはその一言のみ。
ゼロは見ていなかったが、その目つきは彼女の本音をわかりやすく表していた。
「余計な事を」と。
つづく
魔女と使い魔の影は、さやかだけでなくゼロにも襲い掛かった。
ゼロは手にしたスラッガーを振り回し、絶えず伸びる影を切り刻む。
ゼロ(俺はいいとしても、さやかの消耗が続くのはマズいな…)
ゼロは全ての影を薙ぎ払った直後、スラッガーを頭部に戻す。
続いて腕を横に伸ばし、速度に優れるエメリウムスラッシュの発射動作に入った。
ゼロ「だったら本体を———ってまたかよ!?」
その隙をつき、新たな影が迫る。
ゼロはやむなく光線を中断すると、再度スラッガーを手にして応戦する。
ゼロ「光線がムリなら、これでどうだ!!」
影の攻撃を避けながら、二本のスラッガーを合体させてツインソードを形成する。
その場で回転して周囲の影を切り払うと、続けざまにツインソードから緑色に光る斬撃を飛ばした。
すると魔女を守るかのごとく、軌道上に使い魔達が集まってくる。
使い魔は迫り来る斬撃に次々と頭をぶつけ始め、自らの死で威力を弱めていく。
瞬く間に使い魔は減り、最後の一匹が消滅したとき、飛ばした斬撃は消えてなくなっていた。
ゼロ「こいつら、この星の芸人並みに体張りやがるぜ…どう仕留めるか」
さやか「別に私一人でやれますから」
ゼロ「おい待て!突っ込むなって言っただろ!」
ゼロの攻撃に巻き込まれないよう注意しながら、使い魔と戦っていたさやか。
彼の手が止まったのを見るや、自分の番とばかりにクラウチングスタートで魔女に突撃を仕掛ける。
ゼロ(今回は経験どころじゃねぇ…あの魔女、さやかとは相性が悪すぎる)
ゼロ(ここは、やっぱり俺が!!)
さやかが正面から魔女に向かったため、この直線上で必殺技は使えない。
飛行能力で塔の裏に回ろうと考えていた時、ゼロは大きく地面を踏みつけた。
ゼロ「しつけぇんだよ!」
足の下には、使い魔が密かに伸ばしていた触手がある。
すると、元々不定形である影は一気に形を変え、ゼロの足に巻き付き始めた。
ゼロ「なっ…これを狙ってやがったのか!?」
更に様子を窺っていた数体の使い魔が、一斉に顔を伸ばす。
先程までのさやかと同じようにゼロへ噛み付き、瞬く間に押さえ込んでしまった。
ゼロ「こっの!放しやがれぇぇっ!!」
影の拘束から抜け出せず、ゼロは声を上げて抵抗する。
後ろで何かが起きていることに気付き、さやかも振り返った。
ゼロ「さやか?」
さやか「………」
一瞬目が合う二人だったが、さやかは何も言わず、助けに戻ることなく背を向けた。
その様子を見ていたゼロは、思わず叫ぶ。
ゼロ「さやか!避けろぉぉーーっ!!」
魔女へ向き直ったさやかの前には、数十本もの影が迫っていた。
つづく
起きたらまた書きます
時は少し遡り、ゼロが結界に入った直後に戻る。
マミと杏子は向き合い、公園での再会以来となる言葉を交わしていた。
マミ「こうして話すのって、久しぶりね」
杏子「この前は現れていきなり寝込んじまったもんな、アンタ」
マミ「でも目覚めは良かったわよ。ゼロさんのおかげで」
杏子「もう完全にゼロの奴がナイト様状態じゃん。一体どうやってたらし込んだのさ?」
マミ「平和を守りたいって思いが一致してるだけのことよ。
それにあの人は、別の世界から来た宇宙人だったの。人間の色目なんかに惑わされたりはしないわ」
杏子「そーかい。お堅いねぇ、正義の味方ってやつはさ」
杏子は『お菓子の魔女』戦後の話を盗み聞きした際、ゼロの正体を知っていた。
だが、マミは彼女があの場にいたことを知らない。
しばらく中身のないやり取りが続いた後、マミは本題に入る。
マミ「それより佐倉さん、これ以上美樹さんを目の敵にするの、やめてもらえないかしら?」
杏子「ハッ!それの何が悪いのさ?」
杏子「向こうもウダウダ説明するより、体で理解した方が早いでしょ。
魔法少女の競争がどんなものなのかをね!」
マミ「確かに…言葉を並べるより行動で示すのが貴方よね」
杏子「その通り。だから魔法は自分のためだけに使うし、目障りな奴は即ブッ潰す。
続けられないコンビならすぐに解しょ…」
マミが急に寂しげな表情を見せ、杏子はそれ以上続けるのを躊躇ってしまう。
マミ「佐倉さん…貴方が美樹さんにこだわるのは、やっぱり昔の自分をあの子に重ねてるから?」
マミ「それに本当は、感情的に動きすぎて自分でも収拾がつかなくなってるんじゃない?」
どちらも図星だった。
しかし杏子はそれを悟られまいと、口を噤む。
マミ「でも、これだけは理解してあげて。あの子は、病院の人たちを助けたい一心だった。
それに契約の内容だって、選んでいる余裕がなかった事を」
マミ「それと、貴方が引きずらないよう、これだけはハッキリさせておくわ。
私、この間のことは気にしてないから」
杏子「は?」
マミ「貴方の魔法に巻き込まれたこと、何一つ気にしてないって言ったのよ」
その言葉を聞き、杏子の様子が変わる。
本人は平静を維持したかったが、余裕が消えていることはマミから見ても明らかだった。
杏子「何でアンタから離れたのか、まるでわかっちゃいないんだな…
どうして平然としてられんのさ!ワケわかんないっての!!」
杏子「そうだよ!否定なんてしねーよ!誰かのために祈って、正義の味方目指して、アンタの世話んなって…
あの女、まるで昔のアタシじゃん。それがムカつくってんだ!!」
マミ「きっとそう感じるはずよね…でも勘違いしないで、佐倉さん」
杏子「勘違い…何がさ」
マミ「私のことは構わない。でも美樹さんのことは、本人にしっかり謝りなさい!」
マミの口調が僅かに強くなり、杏子も思わずたじろぐ。
マミ「謝って、しっかり互いを理解し合って。そしたら皆で一緒に『ワルプルギスの夜』と戦いましょう?」
マミ「私たちに美樹さん、それにゼロさんも加えた四人でね」
杏子「それアタシが持ちかけた話だろ…何主導権握ってやがんだ…」
マミを直視できずに目を逸らした時、杏子の視界に結界が映る。
それを見た杏子は魔法少女に変身し、鉄筋から飛び降りる。
杏子「あのバカども…!!」
マミ「佐倉さ———まさか!?」
杏子はマミを横切って結界に飛び込んでいく。
只ならぬ様子であることにマミも気付き、杏子の後を追い掛けた。
結界の中では、『影の魔女』を相手に二人の苦戦は続いていた。
迫る十数本もの影に対し、さやかは一切の回避行動を取らず、一直線に魔女へと向かっていく。
ゼロ「バカ!避けろって言ってるのが聞こえねぇのか!!」
さやかは夢中で剣を振り回すが、全ての影を捌くことは不可能だった。
魔女に剣を突き立てようと空中へ飛び上がった瞬間、数十連もの影の突きが撃ち込まれる。
ゼロ「さやかぁぁーーーっ!!」
直撃したさやかの体は、血を流しながら地面に落ちた。
しかし、倒れたさやかの周囲に魔法陣が展開し、その傷を瞬く間に癒やしていく。
さやか「あはは!どっちが先に力尽きるか、勝負だね!」
ゼロ(待てよ)
完治すると同時にさやかは飛び起き、再び魔女へ向かっていく。
痛覚を遮断しながら影の猛攻を受け止め、再び傷を作りながら魔女への距離を詰める。
さやか「あはは!あっははははっ!!」
ゼロ(ちょっと待て…何て戦い方してるんだ、あいつは)
ゼロ(そんなに傷ついて、痛みさえ忘れて、何で笑ってんだよ!?)
さやかは傷ついては回復を何度も繰り返し、魔女から退く様子は全くない。
マミが言っていた『危険な戦い方』の意味を理解し、ゼロは唖然としていた。
さやかはマントを翻すと、中から複数の剣を飛ばし、張り巡らされた影を裂く。
道を開くことに成功したさやかは、ついに魔女の目前に到達する。
さやか「あっはっはっは!これで、終わりだぁぁっ!!」
とどめを刺そうと剣を振り上げた時、無理が祟ったのか、その体がふらつく。
さやか(あれっ?)
膝をつくとともに、視界が霞んで見える。
顔を上げたその一瞬、さやかには魔女の後ろ姿が別のものに映っていた。
さやか(何で、こんなところに仁美が?)
それは、親友の一人であり、恋敵となった志筑仁美の後ろ姿。
さやかが一度瞬きすると、その姿は真っ黒な『影の魔女』に戻っていた。
さやか「いや、違———!!」
影の一撃がさやかを突き飛ばす。
倒れ込んだ彼女を狙い、魔女の触手が一斉に襲い掛かる。
さやか(何なのよ、何で仁美が…)
さやか(もしかして私、心のどこかで仁美を殺したいとでも思ってたの?)
さやか(私、二人がくっ付いても守るって誓ったじゃん!)
さやか(そうだよ…私が全部守らなきゃ!私が…!!)
疲労と消耗が見せた幻が、さやかの心を惑わす。
攻撃が迫っているにもかかわらず、さやかは手元から離れた剣を握れずにいた。
ゼロ「そうだ!もう気ィ遣ってる余裕なんてねえ!!」
彼女を救うため、ゼロもある決断を下していた。
さやかが迫りくる影に気付いた時、突如として轟音が響き渡る。
さやかを狙っていた影は、一斉に方向を変えて轟音の元へ向かっていく。
振り向くと、押さえ込まれていたゼロの体は10メートル近くにまでに巨大化している。
だが影の拘束は強力で、ゼロはそこから抜け出せてはいなかった。
さやか(この魔女は、私が…)
魔女にとどめを刺す絶好のチャンスであったにも関わらず、
さやかはその場にへたり込み、動くことができなかった。
ゼロ「まだ足りねぇか…なら見せてやるぜぇっ!!」
ゼロは影に拘束されたまま、結界の真下へと飛び降りてしまった。
直後、先程を遥かに上回る轟音が結界中に響き渡る。
やがて、さやかの真横から更なる巨大化を果たしたゼロの顔が出現した。
さやか「ひっ!?」
『影の魔女』の姿は、ゼロが作り出す巨大な影に覆い尽くされる。
今のゼロの姿は、種族として本来の大きさである49メートル。
ゼロはここで初めて、自分たちが巨大な石像の腕に乗って戦っていたと知るが、
それは今の彼にはどうでもよい事だった。
ゼロ「さやか、すぐその場から離れろ!!」
さやかの反応はなく、ただゼロの姿を見上げているだけ。
それを見たゼロは手の先から眩い光を放ち、さやかの体を包み込んで移動させる。
その間、彼女の中ではある記憶が蘇っていた。
『さやか、少しどいてろ!』
数日前、マミを救おうとした治癒魔法を、ゼロに遮られた出来事が。
ゼロは巨大な拳を構えると、魔女目掛けて一気に振り下ろす。
迫り来る拳を食い止めるべく、魔女の扱える影と使い魔全てが絡み合い、巨大な樹を作り上げた。
ゼロ「うおおおおぉーーーーっ!!」
影の大樹がゼロの拳を受け止める。
魔女の全力を以ってしても、その勢いを殺すことは不可能だった。
ゼロ「デェアァッ!!」
ゼロの拳は魔女を直撃し、塔もろとも一気に叩き潰した。
地震のような衝撃が巻き起こり、石像の手首から先は崩れ落ちていく。
結界の最深部へ急いでいた杏子とマミにも、その衝撃は伝わっていた。
杏子「何だよ、何が起こってんだよ!」
マミ「美樹さん、ゼロさん…無事でいて!」
迷路を抜けて、二人の元へ到着した杏子とマミ。
彼女達の前には、額と目、そして胸のカラータイマーを怪しく光らせる巨人のシルエットと、
傷だらけのまま座り込むさやかの姿があった。
杏子「マジかよ…」
マミ「これが、本当の『ウルトラマン』…」
杏子は、初めて目にする巨大なゼロを唖然としながら見上げる。
マミもまた、以前見た25メートルを上回るゼロ本来の姿に、ただ圧倒されていた。
そしてさやかは、崩れ落ちた正面の道を眺め、
心の中でせき止めていた何かが溢れ出るのを感じていた。
つづく
もうしばらく本編の投下を続けますが、修正作業が終わり次第、
HTML化を依頼してスレを立て直します。
展開そのものは殆ど変わりませんが、>>89から気になっていた下記の点は確実に変更します。
・ほむらのループ開始が病院ではなく自宅
・魔女について説明してない
・光の国の場面を1シーンだけ追加
・誤字脱字やわかりにくい点の修正
>>188で触れたグレイブゲートの件はどうにも後付けができそうにないので、
これまで通りの設定で進めつつ、途中で補足を挟む形を取りたいと思います。
申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
乙乙。こりゃもうさやかは魔女化確定かもわからんね。
なんというかさやかは、自分大好き人間なんじゃないかと思う時がある。
恭介が好きなんじゃなく、「腕が動かず夢を失った幼馴染を気遣う献身的な自分」が好きなのであり、「それを治すために魔法少女となり自ら危険な世界へと飛び込んでいく自分」に酔ってる。
そして街を守るのではなく「報われぬ想いを殺し正義の魔法少女として戦う自分」を守るために戦ってるんじゃないかと思う。
だからそんな自分に現実を突きつける杏子や、自分の努力の遥か上を行くゼロのことを疎ましく思っているのかも。
【影の魔女編 その4】
魔女が死んだことで、結界の空はひび割れ、崩壊を始める。
ゼロは今の大きさで外界に出るわけにはいかず、人間大まで縮小した。
結界が完全に消滅し、周囲は夜の建設現場へと景色を変えていく。
すると四人の元に、一連の戦いを見物していたキュゥべえが歩み寄ってきた。
QB「なるほどね、ウルトラマンゼロ」
ゼロ「あぁ?なんだ、テメェも来てたのかよ」
QB「君がその戦い方を続ける理由、エネルギー消耗を抑える目的だけではなかったんだね」
ゼロ「こいつ…」
また一つ秘密を暴かれたと知り、ゼロは不機嫌そうにキュゥべえを睨む。
そのやり取りを耳にし、杏子は尋ねた。
杏子「キュゥべえ、その戦い方ってどういう事よ?」
QB「君達が結界の中で目にした通りさ。今まで彼は、全く本気を出して戦っていない」
杏子「本気じゃないって、十分強ぇのにまだ…」
マミ「待って!病院に現れた魔女は強敵で、私達は力を合わせて戦ったわ」
QB「確かに君たち魔法少女から見て、強力な魔女だったのは間違いないね。
でも、ウルトラマンの力なら余裕で倒せたはずだよ」
マミ「余裕で…?」
ウルトラマンが魔法少女よりも強いことは、マミも杏子も既に受け入れている事実。
だが想像を超えた戦力差に、マミが抱いていた「肩を並べて共に戦う仲間」という意識は大きく揺らぎ始める。
QB「彼はね、一つの宇宙を滅ぼせるほどの敵と戦い続けてきた、正真正銘の正義の味方なんだ。
『ワルプルギスの夜』以外に、まともに戦える魔女がいるとは到底思えないね」
QB「しかも、彼の腕輪は僕の想像を超えた力を宿している。
その力を全て解放した彼が一体どれほどの強さを持つのか、本当に興味深いよ」
関心をウルティメイトイージスにも向けられていると知ってなお、ゼロは話に口を挟めずにいる。
それほどに気まずい空気が、今この場に漂っていた。
その時、地面に突き刺さる剣の音が沈黙を破る。
キュゥべえを含めた全員がその方向を向くと、傷を治し終えたさやかが佇んでいた。
マミ「無理しちゃ駄目よ。まだ動かないほうがいいわ」
マミはさやかに近付き、両肩に手を置いて彼女を気遣う。
しかし、さやかはその手をそっと取り、肩から下ろした。
さやか「あーあ、拍子抜けだわ」
さやか「意気込んで戦ってたのがバカみたい。最初からあいつの言ってた通りにすれば良かったんだね」
ゼロ「バカなもんか…今日の魔女はお前と相性が悪かったんだ。また次がある!」
「あいつ」が誰を指すのかが引っかかりながらも、ゼロは態度を和らげて接する。
さやかはゼロに顔を向けるが、その目に輝きはない。
さやか「もういいよ。ゼロさん一人で全部やっちゃえば?
化け物みたいにでっかくなって、魔女叩き潰しちゃえばお仕舞いなんだし」
マミ「何を言ってるの…」
さやかが洩らした言葉は、鋭いナイフとなってゼロの心を突き刺した。
ゼロ「俺が……化け物?」
さやか「その通りじゃないっすか。パワーにスピード、それに回復…
私の長所なんて、ぜーんぶゼロさんの下位互換」
さやか「しかもその腕輪、主人公だけが貰えるパワーアップアイテムみたいなもんでしょ?
もう色々と化け物じみてて、全ッ然追いつける気しないんだわ」
ゼロ「待ってくれ…俺は…」
マミは双方に気を遣いつつも、さやかを静止しようと割って入る。
マミ「言い過ぎよ、美樹さん。知っての通りゼロさんと私達では事情が違うの。
劣等感を感じる必要なんて全くないのよ」
マミ「それに貴方がこうして魔法少女になったから、願いは叶えられた。
大切な人を、絶望から救えたじゃない」
さやか「…ぶっちゃけ恭介の怪我ってさぁ、ゼロさんが回復すれば何とかできましたよね。
私の願いって、人生懸ける意味ありました?」
マミ「それは…」
自らの願いさえ否定する姿は、更なるショックをゼロに与えた。
それはまるで、心に突き刺されたナイフをぐりぐりと抉られるかのような苦痛だった。
大きく動揺するゼロに助け舟を出したのは、キュゥべえだった。
QB「さやか、これをごらん」
キュゥべえが座る場所に目を向けると、足元には粉々に砕けたグリーフシードが転がっている。
『影の魔女』が孕んでいた卵が、本体もろともゼロに叩き潰された結果だった。
QB「グリーフシードは、君たち魔法少女の命を繋ぐ貴重品だ。無駄にはできない」
QB「でもウルトラマンゼロ、君が全力で戦えばグリーフシードを無傷で回収できる保証がない。
力を抑えて人間大で戦うのは、それが理由だね?」
ゼロ「ああ…そうだよ」
ゼロは胸を押さえながら、普段よりも小さな声で答えた。
QB「わかるかい、さやか」
QB「彼は何も君達を見下してなんかいない。敢えて自らリスクを負っているんだよ。
この街の人々だけでなく、魔法少女も守るためにね」
俯いたさやかは、左右の手のひらを思い切り両頬に叩きつける。
自制を利かせようと、さやかは自分なりに戦っていた。
やがて顔を上げたさやかは、涙目になりながらゼロを見る。
さやか「ごめんゼロさん…今の私、都合の悪いこと全部ゼロさんのせいになってしまってるんだ」
さやか「もう、私と関わらないほうがいいよ。でないと私、もっとゼロさんのこと傷付けちゃうよ…」
ゼロ「…さやかっ!」
ゼロへの謝罪を口にすると、さやかは魔法少女の姿のまま走り去ってしまう。
追いかけなければならないと理解していながら、ゼロはすぐにその場を動くことが出来なかった。
QB「それでは、僕が彼女の様子を見てくるとしよう」
ゼロ「待てよ」
QB「きゅっぷ…!」
ゼロはキュゥべえが反応できないほどの速さで、その首を掴み上げる。
マミは思わず止めに入ろうとするが、穏やかではないゼロの様子がそれを躊躇わせた。
ゼロ「テメェ…さやかに何かしやがったのか?」
QB「何を言ってるんだい?僕はさやかが契約して以降、彼女に殆ど関与していないよ」
ゼロ「…んだと?」
QB「彼女に歪みが生じた理由、そのきっかけとなった人物は複数いる。
そして、その一人はウルトラマンゼロ、君自身じゃないか」
ゼロの手から一気に力が抜け、ウルトラマンの姿から人間体へと戻っていく。
キュゥべえは体をくねらせ、ゼロの手から抜け出した。
ゼロ人間体「俺がいたから…さやかは傷付いたのか?」
QB「否定はできないね」
ゼロを更に大きな虚脱感が襲う。
冷や汗を垂らしながらその様子を見ていた杏子に、キュゥべえからの念話が響く。
QB(そして杏子、この事態を招いた一番の原因は君にある。それを忘れないでね)
杏子「畜生…ッ!!」
居ても立ってもいられず、杏子もどこかに走り去ってしまう。
そして残されたマミは、キュゥべえと肩を落とすゼロを前に戸惑い続けていた。
【影の魔女編 その5】
ゼロ人間体「さやかは俺が必ず連れ戻す。だから先に家に帰るんだ」
ゼロ人間体「後のことは、どうか俺に任せてくれ」
マミにそう言い残し、ゼロは胸を押さえながら市街へと向かっていった。
同じようにキュゥべえもどこかへ去り、マミは一人マンションへと帰宅する。
部屋の電気をつけると、リビングには自分とさやかの鞄が置かれている。
マミ(美樹さんのご家族、心配するかしら?)
マミ(私の家に泊めるって、連絡しておかないとね)
美樹家への電話を終えてキッチンへ向かうと、テーブルの上には手付かずのデザート材料が残っていた。
黙々とそれを片付け、続いてコンロに目を向ける。
目線の先にあるのは、夕食のメインとなるはずだった手作りカレーの鍋。
マミは鍋を火にかけようと手を伸ばすが、途中でその手を戻した。
マミ「食欲、湧かないや」
結局夕食を取ることなく、マミはリビングへと引き返す。
マミ「どうしてこうなっちゃうかなぁ…」
体と心の疲れが一気に押し寄せ、制服を着替えることすら億劫に感じる。
マミは寂しげな表情を隠すように、うつ伏せでベッドに倒れ込んだ。
つづく
まわりに相談出来たり支えられる大人がいないから、自分の中で勝手に答え出しちゃうのも仕方ないよな
まぁそういう作品なんだろうけど
もうストーリーは出来上がってるだろうから出来れば皆魔女化することなくハッピーエンドだったらいいなぁ
午前一時を過ぎた見滝原市。
さやかは月明かりの差し込む暗い部屋で一人、膝を抱える。
自分自身を見つめ直すべく選んだのは、『薔薇園の魔女』が潜んでいた廃ビルの一室。
さやかにとって「全ての始まり」といえる場所だった。
さやか(私って最低だ…あの二人ならまだしも、
親友の仁美や関係ないゼロさんまで憎んじゃってる)
さやか(それにこの感情、全然消えてくれない…)
さやか(マミさんだったら、笑顔で全部受け止めてくれるんだろうな…
でも、こんな私あの人には見せられない)
心中を誰かに吐き出したい衝動に駆られるが、
「正義の味方」を全うするマミの存在が、手の届かないもののように思えてしまう。
代わりに浮かび上がったのは、魔法とは無縁の世界で自分を支えてくれる人達の姿。
さやか(パパやママは、こんな夢みたいな話でも信じてくれるかな…)
さやか(そうだ…きっとまどかなら、全部信じて慰めてくれるよね)
親友ならば安心して打ち明けられる。
そんな期待を抱いた時、思い出したのはほむらの残した言葉だった。
『間違っても、親しい人達に救いを求めようなんて思わないで』
さやか(いや…あいつの言うとおり、無関係なみんなを巻き込んじゃダメだ。
これは私が向き合わきゃいけない問題なんだ)
さやか「でも、抱え切れないよぉ」
さやかの目から何度目ともわからない涙が零れる。
彼女の後ろで、キュゥべえはその様子を無言で眺めていた。
QB「やっと見つけられたようだね」
キュゥべえは何かに気づき、さやかとは別方向を振り返る。
すぐに視線を戻すと、さやかに近づいて声を掛けた。
QB「さやか、今の自分に絶望しているかい?」
さやか「キュゥべえ…その通りよ」
さやか「そうだ…ずっと聞けず仕舞いだったから教えてよ。
魔法少女の強さってさ、才能の違いとかあったりするの?」
QB「確かにそれは事実だね」
さやか「やっぱりね。無能なくせして、無理して首突っ込むからこうなるんだ…
ゼロさんだって、最初会った時から忠告してくれてたのに」
QB「心配しなくても君は有能さ」
さやか「私が?」
QB「そうとも。君は実に効率のいい卵だったよ」
QB「まさか契約から一週間足らずで、この段階まで来てくれるとはね。
とても素晴らしい感受性の持ち主だ」
さやか「卵って…何の話よ?」
キュゥべえの言葉の意味が理解できず、さやかは振り返って説明を求める。
すると、それを遮るかのように気迫のない男の声が聞こえた。
ゼロ人間体「さやか、そいつの話に耳を傾けるな」
さやか「!?」
部屋の入口に、人間体のゼロが姿を現した。
さやか「どうしてここが…」
ゼロ人間体「言ったよな、俺は『呪い』を感覚で追いかけてるって。
さやか、自分のソウルジェムをよく見てみるんだ」
さやかはソウルジェムを取り出し、目を向ける。
貰ったグリーフシードに触れようともしなかったため、
ソウルジェムは穢れを溜め込み、怪しい輝きを放っていた。
ゼロ人間体「傷ついたお前の心が、呪いを生み出して消耗を速めてるんだ」
さやか「私が、呪いを…」
ゼロ人間体「それに、さっきの戦いで魔力を使い過ぎてる。さぁ、早くソウルジェムを浄化しよう」
ゼロはポケットから取り出したグリーフシードを持って、さやかに近づく。
ソウルジェムの穢れを吸わせようと、手を伸ばした時だった。
さやか「言ったじゃないっすか。もう関わらない方がいいって…」
さやかは手に持ったソウルジェムを使い、魔法少女に変身する。
変身と同時に振るわれた剣は、ゼロのグリーフシードを瞬時に真っ二つにしていた。
ゼロ人間体「な…!?」
唖然とするゼロの手から、二等分となったグリーフシードが落ちる。
それを見たキュゥべえが、二人の間に駆け寄ってきた。
するとキュゥべえの背中が蓋のように開き、その穴でグリーフシードを回収してしまった。
役目を終えたキュゥべえは、素早く二人から離れる。
空気を読まないキュゥべえの行動によって、緊迫した空気は一時的に解かれる。
最初に口を開いたのは、話し相手を求めていたさやかの方だった。
さやか「…私がゼロさんにひどいこと言っちゃった理由、わかります?」
ゼロ人間体「全部…俺のせいだ」
さやかは、目を閉じて首を横に振った。
さやか「実は仁美も、恭介のこと好きだったみたいなんすよ。
私とゼロさんの仲が疑わしいから、自分も告白するって言い出してさ」
さやか「そして思っちゃったんだ。
ゼロさんがいなければ、いずれ私が一緒になれたかも知れないのにって」
さやか「たったそれだけのことなんすよ。
後はもうなんでもかんでも理由つけてゼロさんのせい。…幻滅ですよね」
ゼロ人間体「そいつの事、心の底から好きなんだな」
さやかは黙って一度だけ頷く。
さやか「本当はわかってるんだ…意地になって告白しなかった私の責任だって。
それに、仁美の告白がどうなったかだって知らないのに…」
さやか「だけど…他にも色々あって、強くなろうとして、全部一人でやろうとして…」
さやか「あはは…私ってもうヒーローものによくあるアレっすね…
正義の側にいるのに、力を求めて闇に堕ちちゃう奴?」
ゼロ人間体「力を求めて、闇に…」
さやか「そうです。あはははははっ」
さやかの言葉で、ゼロの中に一瞬かつての記憶が蘇る。
怪獣墓場で初めて『ウルトラマン』として戦う———それより以前の自分の姿が。
ゼロ人間体「辛いよな」
笑い飛ばすしかないさやかを前に、ゼロはイージスからゼロアイを取り出して装着する。
真っ暗な廃ビルを一瞬、赤と青の光が照らした。
ゼロ「さやか、今助けてやるからな」
さやか「助けるって、悪に堕ちた私をぶっ殺してやるって事?
それ、私からもよろしくお願いしますよ」
ゼロ「そんな事できるかよ…本当のお前を、これから取り戻す!」
ウルトラマンへと変身したゼロは、もう一度イージスを輝かせる。
中から取り出したのは、攻めの武器ではなく『ウルトラゼロディフェンダー』と呼ばれる盾。
傷付けることなく助けたいというゼロの意思表示に、さやかは体を震わせていた。
さやか「もう…こんな私救おうとしないでよおぉーーっ!!」
さやかは叫び声を上げ、ゼロへと迫る。
彼女が叩きつけた剣の一撃を、ゼロはディフェンダーで受け止めた。
さやか「てああぁっ!」
さやか「はあっ!」
さやかは泣きながら、何度も何度もディフェンダーに剣を振るう。
ゼロもまた、黙ってその攻撃を受け続ける。
さやか「はっ…ぐすっ…」
やがて滲む涙で、さやかの視界が塞がってしまった。
剣の刃でディフェンダーを押し、その感触を確認しながら片手で涙を拭う。
再び目蓋を開けて剣を振り上げた時、ディフェンダーだけが宙に浮かび、ゼロの姿は消えていた。
さやか「いない…まさか!?」
さやかが目を閉じた一瞬の内に、ゼロは背後へと回り込んでいた。
そのままさやかを背後から抱き締め、剣を手放させる。
ゼロ「こんな方法で悪いが、お前の呪いと穢れ…俺の光で吹っ飛ばす!」
さやか「は…放せっ!」
ゼロの腕から逃れようと、さやかは暴れて抵抗する。
次第にゼロの体が強い輝きを放ち、さやかの体も同じように光に包まれていく。
ゼロ「さやか…今までずっと、そいつだけを見てきたんだろ?
仁美よりも長く、仁美よりも近い場所で」
ゼロ「相手もきっとそれを知ってる。
お前のことを選んでくれてるはずだ。それを信じようぜ」
ゼロは仁美の失恋を願ったわけではない。
ただ、さやかを安心させたい。言葉の意図はそれだけだった。
やがて、さやかが言葉を発せないほどに光は高まり、溢れるかのように空へ昇る。
ゼロ「うおぉぉぉぉぉ———っ!!」
光に押し出されるように、さやかのソウルジェムからドス黒い障気が抜け出していく。
同時にさやかは意識を失い、魔法少女から制服姿へと戻っていった。
すぐにディフェンダーをイージスへ戻したゼロは、倒れこむさやかを支える。
QB「ソウルジェムが…まさか、こんなことまで!?」
ゼロ「かなり強引な浄化だ。人間相手に何度もやるもんじゃねえよ」
さやかが握っていたソウルジェムは、一点の濁りもない青い輝きを取り戻している。
それを見て、ゼロは少しだけ安堵していた。
QB「確かにこの方法、グリーフシードを用いた本来の手順から大きくかけ離れているね」
それに、問題の先送りであって根本の解決にはなっていないよ」
ゼロ「先送りだと?」
キュゥべえの指摘は、ゼロの安堵を一瞬にして消し去った。
QB「そう。幾らソウルジェムから穢れと呪いを取り除こうとも、
彼女自身が生み出した呪いは、彼女の心が変わらなければ何度だって生まれ得る」
QB「遅かれ早かれ、彼女は再びソウルジェムを濁すことになるだろうね」
ゼロ「そんな…」
ゼロは言葉を続けられず、さやかの顔を見つめる。
今の姿が人間体であれば、ゼロの表情は悲しげなものになっていた。
そんな彼の心境などお構いなしに、キュゥべえは話を続けようとする。
QB「そこでウルトラマンゼロ、君に話があるんだ!」
ゼロ「………」
ゼロはキュゥべえを無視すると、そっとさやかを抱え上げる。
直後、その姿は光となって外へ飛び去って行った。
QB「もうひと押しといったところかな」
残されたキュゥべえは、その光が見えなくなるまで廃ビルの窓から空を見つめていた。
見滝原の空を飛びながら、ゼロの中に今回の出来事、向けられた言葉の数々が蘇る。
その一つ一つが、彼の自信を確実に奪っていた。
ゼロ(俺は、誰かに『心』を教えることはできた。でも、救うことは…)
地球人の心の複雑さを痛感し、
真下に広がる夜景から目を逸らすかのように月を見る。
ゼロ(そういえば、どっかの宇宙で噂に聞いたっけな。
邪悪な心だって救える『慈愛の戦士』の話———)
ゼロ(俺は、そいつにはなれない…)
つづく
影の魔女編は終了です。
コスモスさんとは確か一度会ってるはずなんだよな確か。ウルトラマンシリーズの歌を集めたDVDのドラマパートでティガ、ダイナ、ガイア、コスモスがヤプールからゼロを助けるために現れてたのがどうも公式扱いなんだよな。(サーガでコスモスと面識あるような描写、ダイナがそのDVD内で「また会ったな?ゼロ」と発言。)まあ、かなりグレーな扱いだけど
皆さんレスありがとうございます。
申し訳ありませんが、今回は投下をお休みさせて頂きます。
開始当初は、三月一杯で完結できるだろうとナメてました…ちょっと急ぎます。
>>255
ゼロファイト二部で判明した要素を追加している以外、物語は完成済みです。
先の展開は言えませんが、今後もよろしくお願いします。
>>268
ヒットソングヒストリーは正史と見るにはかなり微妙なラインなんで、
パラレルとして扱ってます。(台詞も流用できるし…)
ウルトラに限らず、まどマギで公式になってるマミ杏師弟設定も微妙な所だなーと思ったり。
多少の不幸はあるけど、悲惨なことにはならなかったよねTDG
【芸術家の魔女編 その1】
駅のベンチに、さやかが座っている。
彼女は正面を見つめながら、淡々と言葉を続けていた。
さやか「結局私は、一体何が大切で何を守ろうとしてたのか…
もう何もかも、ワケわかんなくなっちゃった」
さやか「確かに私は何人か救いもしたけどさ、だけどその分、
心には恨みや妬みが溜まって、一番大切な友達さえ傷付けて…」
さやか「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。
私たち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね…」
ようやくこちらを見た時、さやかの目には涙が滲んでいた。
さやか「私って、ほんとバカ」
彼女の目から零れた涙が、頬が伝う。
流れた涙が落ちた先には———
ゼロ人間体「さやかっ!?」
薄暗く狭い個室の中で、ゼロは声を上げて飛び起きる。
周囲を見ると、そこは彼が寝泊まりするネットカフェの一室だった。
夢と理解したゼロは、大きな溜め息をつくと椅子の背もたれに体を倒す。
ゼロ人間体「…夢オチかよ」
夢で涙を流していたさやかの姿が、深夜の出来事と重なって見えてしまう。
完全に目が覚めてしまったゼロは、再び体を起こした。
ゼロ人間体「まったく、嫌な夢見ちまったぜ…
これからあいつを助けなきゃならねえってのに」
ゼロ人間体「いや、さやかだけじゃなかったな」
更に、さやか以外の少女達が脳裏をよぎる。
魔法少女同士の対立を見せ付けた杏子、目的のために手段を選ばないほむら、二人の顔が。
ゼロ人間体「俺一人の力でできないことは多い…
でも一カ月の中であいつらを助けられるのは、俺しかいない」
ゼロ人間体「俺にあるのか?魔女退治以外にやれることが…」
頭を抱えるゼロは、何かを思い出したかのように時計を取り出した。
時刻は、既に午前十時を過ぎている。
ゼロ人間体「こんな時間まで寝てたのかよ…そろそろ魔女を探さないと」
ゼロ人間体「そういえば今日は土曜日だったな。
あいつらも魔女を探しに出るんだろうか?」
ゼロ人間体「俺の戦いが魔法少女を傷付けるなら、鉢合わせないように……」
ドンッ!!
ゼロ人間体「!?」
突然、自室と隣室を隔てる薄い壁が揺れた。
ゼロ人間体(何だよ…)
ゼロの考え事は、本人の自覚がないままに言葉となって発せられていた。
どうやら苛立ちを募らせた隣室の客が、壁を殴ったらしい。
それに気付いたゼロは、思わず口元を押さえる。
ゼロ人間体(俺はいつの間に…悪かったよ)
苦悩する今のゼロも、他人にとっては独り言を呟く薄気味悪い客でしかない。
申し訳なさそうネットカフェを後にしたゼロは、魔女退治へと向かっていった。
さやか「ん…」
ゼロが街へ出て一時間が経った頃、さやかはベッドの上で目を覚ます。
寝ぼけ眼で周りを見渡すと、そこは自分の部屋ではなかった。
さやか「ここ、マミさんのマンションだよね…」
さやか「そうだ、私ゼロさんに助けられ…た?」
浄化を受け、意識を失う直前までの出来事は、鮮明に思い出せる。
ソウルジェムを改めて確認すると、溜め込んでいた穢れも綺麗になくなっていた。
さやか「また、守られたんだね」
ゼロや仁美のことを考えると、複雑な心境になることに変わりはなかった。
しかし、妬みや憎しみといった負の感情は、心の中で温かい何かに掻き消されてしまう。
その感覚を不思議に思っていると、様子を見に来たマミが部屋に入ってきた。
さやか「マミさん」
マミ「目が覚めたのね。調子はどう?」
さやか「あ、うん…悪くはないよ。心配かけてごめんね」
マミ「無事で良かった。今日は魔女討伐もお休みして、ゆっくり休んだほうがいいわ」
さやか「………」
昨夜の出来事がなかったかのように、マミは普段通りの笑顔を見せる。
一旦つづく
さやか「そういえば、ここに私を連れてきたのゼロさんだよね?あの人は…」
マミ「行ってしまったわ。貴方をここまで送り届けて、すぐに」
ゼロがマミのマンションを訪れたのは、彼女が眠りについていた夜中の二時半頃。
助けたさやかをマミに預けると、ゼロは辛そうな様子で早々に去って行った。
その際、何が起きたのかゼロは語らず、マミも触れることはなかった。
さやか「そうなんだ。私のこと、何か言ってました?」
マミ「特には…ただ、貴方を頼むと言われただけよ。
それよりも美樹さん、カレー作ってあるんだけどお腹は空いてない?」
さやか「ご飯は、今はいいかも」
マミ「やっぱり、寝起きにカレーはきつかったわよね。食べたくなったらいつでも言って」
その後もマミとの会話は続くが、彼女が返す言葉や態度は、
どことなく昨日の件を避けているようでもあった。
違和感を感じたさやかは、敢えて逃げようのない言葉を選ぶ。
さやか「ねえマミさん」
マミ「どうしたの?」
さやか「昨日からのこと…私に何があったのかは聞かないんだね」
マミが一瞬、ドキッとした様子を見せた。
だが、すぐにいつもの様子で質問に答える。
マミ「それは…貴方が思い詰めてることを知ってたからよ」
マミ「今は、気持ちを整理する時間も、考える時間も必要でしょう?
だから、私からは聞かない。貴方がここにいてくれればいいの」
さやか「そっか、やっぱマミさんは優しいや。…でもその優しさ、逆に辛いっすよ」
マミ「…辛い?」
さやか「マミさんが聞かないなら、私から言っちゃうね」
さやかは昨日のような豹変こそ見せず、新たな呪いも生み出してはいない。
しかし、残された自己嫌悪は彼女を苦しめ続けていた。
さやか「ここに連れて来られる前、私ゼロさんに剣向けて戦ったんだ」
マミ「!?」
さやか「ゼロさんは攻撃なんてしてこなかったけど、それだけじゃない」
さやか「昨日の魔女に斬りかかった時、見えたんだ。魔女の姿が一瞬…恋のライバルにさ」
さやか「ゼロさんが助けてくれなかったら、本物の仁美に何しでかしてたかわかんない…
恋も戦いも上手くいかずに、嫉妬に狂ったバカ女。それが本当の私なんだ」
さやか「こんな奴、正義の味方失格ですよね。
これ以上私と一緒にいたら、いつかマミさんまで悪い影響受けちゃう」
さやか「その前にさ…コンビ解消しよう」
マミ「なんで…」
突然の提案に、マミは大きく動揺していた。
彼女はさやかに近寄ると、その手を取って強く握り締めた。
マミ「私は…私はそんな事気にしないわ!
貴方がどんな人間でも、一緒にいるだけで心強いもの!」
さやか「私なんかがいなくても、マミさんは大丈夫っすよ。
今まで、ずっと一人でこの街を守ってきたんですから」
マミ「…もう、美樹さんしかいないの」
さやか「え?」
マミ「佐倉さんも離れて、ゼロさんも私達が肩を並べられるような存在じゃなかった…
私には美樹さん…貴方しかいないの!」
マミ「もし貴方が正義の味方でいられないのなら、私も一緒にバカ女になってあげる」
マミから飛び出した思わぬ一言に、淡々としていたさやかまでもが焦り始める。
さやか「何言ってんのマミさん…違うよ!そんなのマミさんじゃないよ!」
さやか「マミさんは私やあいつらみたいな魔法少女とは違う!
たとえ一人でも、正義を貫くような人であってほしいんだ!!」
マミ「勝手な理想押し付けないで…私はそんな強い人間じゃないわ。本当は———」
さやか「ごめん、それ以上は聞きたくない!」
マミ「美樹さん!!」
さやかはマミの本心から逃げるかのようにベッドから立ち上がる。
部屋に置かれたままの鞄を掴むと、制止も聞かずにマンションを飛び出していった。
【芸術家の魔女編 その2】
ゼロの魔女探しは、何の収穫も得られないまま昼を迎える。
あまり食欲が湧かないながらも、ゼロは昼食を買うためにコンビニを訪れた。
ゼロ人間体(少し無理してでも食っとかないとな。体は資本ってやつだ)
弁当類には手を出さず、おにぎりを二つ取ってレジの最後尾に並ぶ。
混み合う最前列に目を向けると、黒髪の少女が会計している最中だった。
ゼロ人間体(ほむらと同じくらいの歳だな)
少女の姿に、ほむらの面影を見るゼロ。
声が外に漏れないよう注意しながら、彼女の事を考える。
ゼロ人間体(そういえば、明後日の夜はあいつと合流する予定だったか)
ゼロ人間体(さやかの事、報告するべきなのか?
でも、あいつは他の魔法少女にまるで関心を持ってねぇ…)
ゼロ人間体(いや、逆に俺から追及しておかないとな。さやかに何の目的で、一体何を言ったのかを)
客「チッ、早くしろよ」
客「後ろつっかえてるんですけどー」
ふとゼロの耳に入ったのは、心ない声の数々。
気付けば最前列の少女が小銭を落としており、それを黙々と拾っていた。
ゼロ人間体(何で誰も手を差し伸べようとしないんだ?客も、店員も…)
ゼロ人間体(皆で拾えば早く終わるはずなのに、陰口まで)
周囲の無関心さに苛立ちを感じたゼロは、少女に手を貸そうと列を抜ける。
その時、ゼロよりも先に誰かが少女へと近付いた。
ゼロ人間体(あ…)
小銭集めを手伝い始めたのは、長身の少女だった。
その少女には、どことなく仁美を彷彿させるお淑やかさが感じられる。
ゼロ人間体(あるじゃねえか、優しさは)
先程までの光景に、一瞬とはいえ人間全ての感性を疑いかけてしまったゼロ。
二人の姿を見ながら、彼はそれを反省する。
自分まで手を貸すとかえって拾いづらくなると気付き、再び列に戻ろうとする。
振り返ると、作業服を着た中年の男が列を詰めており、戻ってきたゼロを睨みつける。
ゼロ人間体(………)
突き刺すような眼差しに、助け合いの余韻は一気に冷めてしまう。
ゼロはおにぎりを棚に戻すと、コンビニを後にした。
ゼロ人間体「いつもと同じ見滝原…そのはずなのに」
人混みから目線を下げれば、誰かがゴミを投げ捨てる様子が。
目を閉じれば、雑踏の中から他人を貶める噂話が聞こえてくる。
ゼロ人間体「何故、人間の悪い所ばかり見えちまう…?」
ゼロは歩くペースを早め、市街から離れていった。
それから数時間、ゼロは町外れを歩きながら戸惑い続けていた。
怪獣や侵略者との戦いとは、別の側面に立つことで見えてきた現実に。
ゼロ人間体(ここはエスメラルダでもアヌーでもねぇ…『地球』だ)
ゼロ人間体(俺がこれまで関わった地球人といえば、ZAPとかいう宇宙開拓者たちくらいか。
あいつらの心にも、裏があったりするんだろうか…?)
ゼロ人間体(そして、地球を守り抜いた親父やウルトラ兄弟達——
みんな、地球人の心の闇とどう向き合ってきたんだ?)
ゼロ人間体(わからねぇ…冗談抜きにわからねぇ!)
アナザースペースやM78ワールドで訪れた多くの惑星、
今のゼロには、その中のどれよりもこの地球が異質に映ってしまう。
その時、どこからか穏やかな声が聞こえてきた。
??「そんなに悩むくらいなら、いっそ死んだほうがいいよ」
ゼロ人間体(死ぬ、か。確かにウダウダ悩むよりは楽なのかもな)
??「そう、死んじゃえばいいんだよ」
ゼロ人間体(そうだな、死んで———)
呟きを止め、ゼロは立ち止まる。
歩いていたはずの道路は見る影もなく、地面は絵画と化している。
ゼロ人間体「———って、んなわけねえだろ!!」
背後を振り向くと同時に、ゼロはキックを繰り出した。
その蹴りは、背後から迫っていた人型の使い魔を勢いよく吹っ飛ばす。
ゼロは今、全く自覚のない内に魔女結界へと取り込まれていた。
つづく
多忙で投下が遅くて申し訳ありません。
>>278
マミ自殺ENDの外伝が悲惨じゃないだと?
と、一瞬勘違いしました…平成三部作の方ですね。
このSSまとめへのコメント
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