セシリア「一夏さん? 」 (5)

一夏「木葉は長く、草は緑に、
ヘムロックの花笠はのびて、あでやかだった。
木の間の空地にさしこむ光は、
夜空にまたたく星明かりだった。
そこに踊るのは、ティヌーヴィエルよ、
見えない笛の音にあわせて。
星明かりを髪にかざし、
まとう衣をきらめかせて。

きびしい山から、ベレンはおりて、
道ふみ迷い、さまよう森辺、
エルフの河野とどろくあたり、
ひとり嘆いて、たずねていけば、
ヘムロックの草陰にかいま見た、
黄金の花々を裳と袖にさし、
髪を影のようになびかせて、
おどる美しい乙女の姿。

セシリア「まあ」

一夏「山々を越えてさまよう運命に疲れた足も、
魅せられた心にたちまち癒えて、
烈しくはやく駆けよったベレンの
手に掴んだのは、きらめく月光ばかり。
織りなす木々をすりぬけて、わが家へ
乙女は躍る足どり軽く逃げていった。
あとに男は、なおも淋しく、
耳をすませつつ静まる森をさまよった。

セシリア「男はきいた、苔提樹の葉ずれのように軽い
逃げ行く乙女の足音を。
またきいた、地下から湧きいでて
かくれた壷地に鳴る楽の音を。
はやヘムロックの花束はしおれて、
一葉一葉、溜め息をつき
ささやきながら、ぶなの葉は落ちた、
冬の森に、たゆたうように。

てす

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