大黒天「どうした? ほら、チーズをあげよう」
鼠娘「ちゅーっ! 穴あきチーズだぁ」
大黒天「フォフォフォ! いい子にはプレゼントを! メリークリスマス!」
鼠娘「コラ待て!」
大黒天「なんじゃ?」
鼠娘「なんじゃ、じゃありません! なんつーカッコしてるんですか!」
大黒天「似合わんか? ニコラウスくんのおふるなんじゃが……」
鼠娘「似合いすぎててイヤなんです! なんですかその付けひげ!」
大黒天「このあいだ、白龍の毛刈りをしたじゃろ?」
鼠娘「ええ……毛はアマテラスさまが冬織物にされたんでしたね」
大黒天「そうそう、そのあまり毛で作った」
鼠娘「ああなるほど……って、特級の神具の材料を仮装に使わないでください!」
大黒天「いかんか? 口元がふわふわしててあったかくて、具合が良いんじゃが」
鼠娘「そうではなく……打ち出の小槌は? 乗り物の俵はどこにやったんです?」
大黒天「この大袋にはいっとるよ」
鼠娘「お帽子は?」
大黒天「この赤いとんがり帽子の下に……ほれ、いつも通り」
鼠娘「ああなるほど……」
大黒天「それじゃあ、世のいい子達にプレゼントを配ってくるよ」
鼠娘「はい、いってらっしゃいませ……待てい!」ぐいっ
大黒天「これこれ、袋を引っ張るな、放さんか」
鼠娘「鏡を見てからおっしゃってください」
大黒天「何がいかんというのじゃ? 赤い帽子にジャケットにズボン、黒い革のベルト、まっ白なヒゲ」
鼠娘「付けひげでしょう?」
大黒天「まあそうじゃが……どこからどう見てもサンタクロース」
鼠娘「……の、ニセモノですよ」
大黒天「たといニセモノでも、なかなかの出来だと思うぞ? でっぷり太ったおなか、大きな声、プレゼントどっさりの袋」
鼠娘「だから、中途半端に似ちゃってるから気味悪いんですって」
大黒天「どこがだ? 世にあふれる偽サンタを見てみろ、付けヒゲは中途半端、体格もひょろひょろだったり若かったり、ぜんぜんサンタクロースには似ていないだろう? その点……」
鼠娘「わかりました。大黒天さま、その袋を持って、これからどうするおつもりなんですか?」
大黒天「それはもちろん、空飛ぶ米俵に乗ってだな、町の夜空を駆け巡り、いい子達の寝ている枕元に吊された……足袋は今なんと言うんだったかな?」
鼠娘「靴下ですか?」
大黒天「そう、靴下。靴下に贈り物を詰め、頭をポンポンと撫でて、窓から去る」
鼠娘「去り際に子供が目を覚ましたら?」
大黒天「振り返って「ホッホッホー メリークリスマス!」と言ってやるのさ」
鼠娘「なんだか上手く行くような……」
大黒天「そうじゃろう? では行ってくる」
鼠娘「あー、やっぱりダメです!」グイッ
大黒天「なぜじゃ!?」
鼠娘「今なんて言いました? 米俵? あのジェットタワラーで夜のお宅訪問するんですか?」
大黒天「良いではないか。速さでは斉天大聖くんのキントウンに負けるが、馬力と積載量では勝っとるよ」
鼠娘「へえ……さすがですね」
大黒天「そうじゃろう? ふふん」
鼠娘「いえいえ、ダメですって!」
大黒天「どうして? めでたさならそこらの空飛ぶ手段に負けんぞ?」
鼠娘「その見た目が問題なんです! 米俵に乗って空飛ぶ老人なんか見たら、子供が泣き出しますよ?」
大黒天「なに? それはまずいな……ニコラウスくんはどうやって飛んでいるんじゃろう?」
鼠娘「トナカイに雪車をひかせて飛んでるんですよ」
大黒天「トナカイと言えば、北の国の毛鹿か……タケミカヅチくんのところで貸してくれんかのう?」
鼠娘「春日大社の?」
大黒天「そう」
鼠娘「奈良の公園で鹿せんべい食べてるあの子達ですか?」
大黒天「そうじゃよ」
鼠娘「種類が違いすぎます! そもそもあのもやしっ子たちに雪車なんかひけるはずがありません!」
大黒天「ふむ……たしかになあ……それなら大口真神くんにひいてもらうのはどうじゃろうか?」
鼠娘「え……あの大狼にですか?」
大黒天「空も飛べるし、力も強い。毛も長いからトナカイとやらにそっくりじゃろう? 角はカチューシャで付けてもらおう」
鼠娘「あの恐れ多き獣神を……なんというか、さすがは……」ブツブツ
大黒天「なんか言うたか?」
鼠娘「なんでもありません!」
大黒天「そうか……では行ってくるぞ」
鼠娘「だから待ってくださいって!」
大黒天「なんじゃ、まだ何かあるのか?」
鼠娘「贈り物ですよ、いったい何をあげるつもりなんですか?」
大黒天「なにをって……お前には、ほれチーズ」
鼠娘「ちゅー♡ 今度はゴーダチーズだぁ!」
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