女騎士「ふっ…迂闊だったな」女間者「くっ…殺せ!」 (64)

女騎士「ああ。だがその前に、いくつか質問に答えて貰う」

女騎士「誰の差し金だ?」

女間者「……」

女騎士「だんまりは身のためにならんぞ」

女騎士「お前が私の右腕だったとしても、容赦などせんからな」

女間者「……」

女騎士「……やれ」

拷問官「は!」バシッ

女間者「い゛っ………!」

女騎士「っ…」ビク

拷問官「おらぁ! 吐け!」バシュッ

女間者「うぐっ……あ゛あ゛っ…!」

女騎士「待って、ちょっと待って! もういいから」

女間者「っはぁ……はぁ…」

女騎士「む、むち打ちで済んでいる間に喋った方が身のためだぞ」

女間者「……」

女騎士「お、大方、黒幕は王の失脚を狙う元老院の貴族どもだろう」

女間者「……」

女騎士「おい、どうなんだ?」

女間者「……」

女騎士「くっ……」

女騎士「鞭……し、塩責めにでもしてやれ」

拷問官「御意」ヌリヌリ

女間者「っ――ぁっ――っ!!」

女騎士「ほう、さすがこの程度では口を割らんか」

拷問官「騎士様、ほどほどにしないと何も聞き出せませんぜ」

拷問官「なにせこの間とっ捕まえた盗人は、痛みで死んじまいましたからね」

女騎士「えっ?」

女間者「うぐっ……ぅっ……」

拷問官「あれほど仲の良かった者にここまで出来るとは」

拷問官「さすが、若くして騎士の称号を得るだけのことはある」

女騎士「よ、よし。この辺で良いだろう、洗い流せすぐに」

女騎士「まだ死なれては困るからな」

女間者「っ……はぁはぁ…」

女騎士「ど、どうだ、いい加減に話す気にはなったか?」

女間者「……」

女騎士「くっ……」

女間者「……」

女騎士「今日はもういい。このまま吊しておけ」

拷問官「は!」

女間者「……」

女騎士「……」ソ~

女間者「……こんな夜遅くに何か用ですか?」

女騎士「起きてたのか」

女間者「鎖で吊された状態で寝られるわけないじゃないですか」

女騎士「そ、そうだな……さすがに辛いだろう。今降ろすから」

女間者「いいんですか? そんな勝手なことして」

女騎士「手枷に足枷、錘まで付けてるんだ。何も出来まい」カラカラカラ

女間者「まぁそうですけど」

女間者「んんーっと……はぁ、ありがとうございます」セノビ

女騎士「それでその、傷は大丈夫か?」

女間者「痛いに決まってるじゃないですか」

女騎士「そ、そそうだよな。すまない。拷問なんて初めてだし」

女騎士「塩とか一番楽そうかと思ったんだが……」

女間者「傷口に塩塗られて楽だと思ってるんですか?」

女騎士「すまない……」

女間者「謝罪なんて要りませんよ。私が裏切ったのは事実ですし」

女騎士「……」

女間者「……」

女騎士「な、なあ、もう話してくれないか。誰が糸を引いている?」

女間者「いまさら私が口を割るとでも?」

女騎士「いいか、お前が持ち出した週末の晩餐会の情報」

女騎士「すでに警備の強化、衛兵の人員刷新と陛下の予定変更も終わった」

女騎士「そもそも、受取人だった男は衛兵に囲まれその場で自害した」

女騎士「そいつの持っていた指令書から、衛兵に刺客を紛れ込ませたことも把握済みだ」

女騎士「計画はもう失敗したんだ。後は首謀者を突き止めるだけ」

女騎士「お前の処遇は私に一任されている。一言そいつの名を言ってくれれば」

女騎士「お前を死罪にすることはないんだ」

女間者「……」

女騎士「なあ、頼む。お前を殺したくないんだ」

女間者「……隊長は、私が逃がしてくれと言ったらそうしてくれますか?」

女騎士「それは……」

女間者「それは騎士の使命に背くって言うんでしょ」

女間者「私にだって守らねばならない使命があるんです」

女騎士「くっ……鎖はそのままにしておくから。いくらかは寝ておけよ」

女間者「……」

翌日

拷問官「さあ、今日こそは吐いてもらうぜ」

女間者「……」

女騎士「いい加減に教えろ」

女間者「……」

拷問官「このアマァ!」バシッ

女間者「あ゛っ…」

女騎士「お、おい!」

拷問官「これでもくらいやがれ」バチンッ

女間者「ぐっ――い゛ぁ゛っ…っ」

女騎士「やめろ!」

拷問官「で、ですが、これじゃあ埒があきませんぜ」

女間者「はぁはぁ…っはぁ……」

女騎士「こ、これでも話さない気か!」ザパッ

女間者「うぷっ……んっ…」

女騎士「この!」ビシャ

女間者「うっ……」

拷問官「水をただ掛けてるだけじゃ意味ねぇですぜ」

拷問官「水責めってのはこうやらねぇと」グイ

女間者「うぐっ……っ…っ――」バシャ

女間者「ゲホッ! ゴホッ!――ッ」

拷問官「さあ! 吐く気になったかおらぁ!」

女間者「――ッ! っ!」

女騎士「し、死んでしまうぞ!」

女間者「ゲホッ…ゲホッ……オ゛ェ…」

女騎士「だ、大丈夫か!?」

女間者「っはぁ…けほっ……ふぅ…」

深夜


女騎士「生きてるか?」

女間者「……また来たんですか?」

女騎士「傷はどうだ?」

女間者「さあ? 途中から感覚もなくなったんで」

女騎士「……すまない」

女間者「何故隊長が謝るんです?」

女騎士「それは……」

女間者「まあいいです」

女騎士「……」

女間者「……」

女騎士「……ひとついいか?」

女間者「なんですか?」

女騎士「なんで、裏切ったんだ」

女騎士「……お前が我が隊の副隊長になってもう3年だ」

女騎士「いつも飄々としてつかみ所のないやつだが、誰よりも実直で優しくて」

女騎士「背中を預けるのはお前しか考えられない……それに、私はお前のことが――」

女間者「私を買いかぶりすぎですよ」

女騎士「えっ……」

女間者「私は別に何か思い立ってこうしたわけじゃない」

女間者「私が騎士隊に入ったのも、あなたに取り入って信頼を得たのもこの計画のため」

女間者「ですから、私は最初からあなたを騙してた」

女間者「それだけです」

女騎士「そんな……嘘だ」

女間者「いいえ、本当です」

女騎士「お前のことはこの私が一番良く知っているんだ!」

女騎士「こ、この前だって次の里帰りは私も一緒にと」

女騎士「一度故郷を見せたかったって色々と話してくれたではないか」

女間者「みんなデタラメですよ」

女騎士「で、でも、今までのこと全部が演技ではないのだろう?」

女間者「それはまあ、そうですけど」

女騎士「よかった……」ホッ

女間者「それに、隊長のことは嫌いじゃありませんでしたし」

女騎士「なっ///」

女間者「ふふっ こう言っておけば、隊長も少しは気が楽でしょう?」

女騎士「……」

女間者「さ、質問には答えましたからもう帰ってください」

女騎士「くっ……」

女間者「……」

翌日

女騎士「おい! なぜ私が入れない!?」

衛兵「申し訳ございません。騎士様があの謀反者に肩入れしてると上から…」

女騎士「あいつの身柄は私が任されてるんだ!」

女騎士「なのに私が入れないのはおかしいだろう!」

衛兵「ですが貴女を牢には入れるなとの命令で……」

女間者「ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

女騎士「なっ……すぐにやめさせろ!!」

衛兵「いや、私には……」

衛兵長「悪いがお引き取り願おう」グイ

女騎士「放せ! 私を誰だと――」

女間者「がぁ゛あ゛っ……痛゛っ…あ゛あ゛!!」

女騎士「お、おい!……何をしているんだ! やめさせてくれ!」

女間者「ゲホッ! ぐあ゛っ……あ゛っ!!」

女騎士「もう入らなくてもいい! だから止めろ!!」

女間者「い゛っ!!あ゛あ゛ぁ゛!!!」

女騎士「頼む……っ…やめてっ…お願いだから」

衛兵長「晩餐会は今晩。それまでになんとしても首謀者を突き止めねばならんのです」

衛兵長「謀反を企てた者が客として招かれているなら事は重大。騎士様もお分かりでしょう」

衛兵長「次また牢に近づけば、いくら騎士様でも容赦しかねますのでつもりで」

女騎士「ぁ……ああ…」



女騎士「……」

女間者「来ると思いました」

女騎士「っ! 良かった、無事で……」

女間者「ほぼ死にかけですけどね」

女騎士「……」

女間者「晩餐会、始まってますよね?」

女騎士「ああ」

女間者「いいんですか? 警備を放っておいて」

女騎士「裏切り者を出した隊が警備を務めるとでも?」

女間者「ですよね」

女騎士「……」

女間者「……あの、ひとついいですか?」

女騎士「なんだ?」

女間者「昨日の夜、何か言いかけてましたよね。なんだったんですか?」

女騎士「い、いや、それはだな……その///」

女間者「教えてくれたら、私も少しくらいは白状してもいいですよ」

女騎士「なっ……ひ、卑怯だぞ!」

女間者「そりゃあ、裏切り者ですから」

女騎士「くっ……」

女騎士「わ、私は……お前のことがだな…//」

衛兵「謀反だ!!!!」

女騎士「な、なに!?」

女間者「どうやら成功したみたいですね」

女騎士「どういうことだ!? 計画は失敗のはずじゃ……」

女間者「私はただの囮ですよ。わざと計画を露呈させるための」

女間者「衛兵に刺客が紛れているが誰か分からない。そうなれば、配置変更せざるを得ない」

女間者「潜入しにくい上級の部隊は他へ回され」

女間者「こちらの息の掛かった者達が居るいくつかの部隊が、王の身辺警護に就くわけです」

女間者「あとは簡単ですよね」

女騎士「……すまない」

女間者「どうしたんです、急に?」

女騎士「聞いたな?」

衛兵「は!」

女騎士「直ちに陛下の元へ兵を送れ」

衛兵「了解しました」

女間者「そんな……」

女騎士「……」

女間者「騙してたんですね、私のこと」

女騎士「それはお互い様だ」

女間者「なんで分かったんですか?」

女騎士「言っただろ、お前のことは私が一番よく知ってる」

女騎士「たかが情報を持ち出すくらいで、お前がヘマをするはずがない」

女間者「……喜んでいいんですよね、それ」

女騎士「ああ。私が背中を預けられるのは今もお前だけだ」

女間者「えへへ、ありがとうございます」

女騎士「それにしても、少し落ち着きすぎじゃないか?」

女間者「そう見えますか?」

女騎士「まだ何かあるんじゃないかって不安でしょうがない」

女間者「なにもありませんよ」

女間者「ただ、貴女が隣に居ると安心できるんです」

女騎士「っ/// ま、また私を誑かそうとしてるだけだろう」

女間者「どうでしょうね」

女騎士「くっ……///」

拷問官「貴様! この期に及んで姑息なぁああ!」

女騎士「やめろ!」

拷問官「な、何故庇うんです!? どうせ明日には見せしめで処刑ですぜ」

女騎士「命令だ! 出て行け」

拷問官「……は! 失礼しました」

女間者「いいんですか? 謀反者を庇っちゃって」

女騎士「かまうものか」

女間者「明日死ぬんですね、私」

女騎士「黒幕を教えればわからんぞ」

女間者「それは出来かねます」

女騎士「ほんと、お前は融通が利かないな」

女間者「隊長だってそんなに変わりませんよ」

女騎士「いいや、私の方がまだ可愛げがあるな」

女間者「また下手な冗談を」

女騎士「わ、私は可愛くないっていうのか!?」

女間者「可愛いですよ」

女騎士「なっ///」ドキ

女間者「なに赤くなってるんですか」

女騎士「なってない//」



翌日

執行官「――陛下暗殺を企て国家の転覆を狙う国賊に下るべきは……」

女間者「よもや隊長に殺される日がこようとは」ヒソヒソ

女騎士「お、おい喋るな」ヒソヒソ

女間者「独り言ですよ、いいじゃないですか。緊張してるんですから」

女騎士「まったく……徹夜で話してまだ足りないのか」

女間者「私、騎士って嫌いなんですよ」

女騎士「そして唐突だな」

女間者「故郷は小さな村で、私は農場の娘だったんですけど」

女間者「まぁ、有り体に言えば戦禍に飲まれまして」

女間者「撤退する敵を追うためにこの国の騎士達は騎行戦術をとったんです」

女騎士「……」

女間者「行軍速度を重視して物資は最小限に、必要になれば途中の村で調達する」

女間者「どうせ敵国の村だからって事でしょうね。ほぼ略奪でした」

女間者「奴らに抵抗した村の人達はみんな殺されました。お母さんやお父さんもみんな」

女間者「それを率いていたのが若き日の王だった」

女騎士「……」

執行官「今ここに、王の名において国賊どもに裁きを下す!」

執行官「囚人を処刑台へ!」

女間者「独り言は終わりみたいですね」

衛兵「さあ来い」グイ

女騎士「ぁ……」

女間者「……」

女騎士「……」

女間者「……」

女騎士「くっ……殺せ!!」

おわり

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