P「はるちはもいいけれど」
P「まこゆきもいいけれど」
P「やよいおもひびたかもいいけれど」
P「せっかくの週末です。今夜は一味違った魅力を探ってみましょう」
P「紳士な皆様とよき時間を過ごせることを願っております」
さて、注文を聞こうか
>>5&>>8
シチュエーションお題:>>12
あずさ
貴音
排便
律子さんたちとの昼食を終えて事務所へ戻ると、貴音ちゃんが珍しく苦い顔をしてソファに座っていました。
テーブルには食べ終えたカップラーメンが残っています。
「貴音ちゃん、インスタントはあまり体によくないと思うんだけれど……」
「…どうやら、そのようです」
あら?よく見るとなんだか苦しそうな顔をしてるわね……
「じつは…最近通じが悪いのです」
なるほど…偏った食生活だと、そういうこともありえます。
とくに女の子は便秘がちな子も多いですから。
プロデューサーさんが話を聞いてなかったことにほっとしつつ、私は色々と質問をしてみることにしました。
「昨日の晩御飯はなぁに?」
「らぁめんです」
「お昼は?」
「らぁめんです」
「……朝は?」
「……らぁめん、です」
あらあら…困りました。
貴音ちゃんたら、ラーメンが大好きなのはいいけれど、
さすがに毎日3色同じものを口にして、健康にいいはずはありません。
これでは体を壊すのも無理はありませんね。
「貴音ちゃん、だめよ?普段からきちんと気をつけておかないと……」
「…面目ありません」
少し落ち込んでいるように見える貴音ちゃんは、なんだかいつもより子供っぽくて…
やっぱりかわいらしいところもあるんだなー、と勝手に思ってしまいました。
…ここはやっぱり、数少ない年上の私が一肌脱いであげたほうがいいかもしれませんね。
「貴音ちゃん。よかったら普段の食事のこと、少し私に任せてもらってもいいかしら?」
「あずさが…ですか?」
そんなに意外かしら?これでも料理は人並みにたしなんでいるんですけど…
──────
というわけで、お仕事が終わったあと待ち合わせをして、貴音ちゃんを私のアパートまで連れてきました。
一人暮らしを初めてまだまだ短いですけど、誰かと一緒に家に帰るのはやっぱり安心します。
「では…失礼いたします、あずさ」
「かしこまらなくてもいいのよ、うふふ。さあ上がって」
帰りにスーパーで買った食材を、ひとまずテーブルに置いておきます。
思わずたくさん買ってきちゃいましたけど、貴音ちゃんが半分持ってくれたおかげでそんなに苦労はしませんでした。
「ゆっくりしていてね?すぐ作るから」
「私も手伝います」
「いいのよ~、お客さんなんだから。ね」
いつもよりちょっとだけ可愛いエプロンを着けて、私は台所に立ちました。
便秘に効くもの……やっぱり食物繊維かしら。
さあ、頑張って作りましょう。
不思議ですね……男の人を呼んだわけでもないのに、なんだか少し緊張しちゃって。
普段料理をふるまう相手なんていないからかしら?
リズムよくトントントンと野菜を刻みつつ、時折後ろに目をやると、
貴音ちゃんはなんだか落ち着かない様子でテレビを見ているようでした。
ソワソワしてる貴音ちゃんなんて、初めて見たような気がします。
「あの…本当に何もしなくてもよいのでしょうか」
「ゆっくり待っててくれていいのよ~」
何度も遠慮がちに言う貴音ちゃんの優しさが、少し嬉しく思えました。
「………完成~」
私がそういうと、貴音ちゃんがゆっくりとこちらへやって来ます。
「配膳くらいなら、私にも手伝えます」
「あら~。じゃあ、お願いしようかしら」
私よりもテキパキと食事を運ぶ貴音ちゃん。
「いただきま~す」
「頂きます」
ご飯に、卵スープに、竜田揚げ。
そしてごぼうのサラダ。
私も、いつもはここまで頑張って作りません。
貴音ちゃんに早く元気になってもらいたいから、張り切っちゃったんでしょうか?
それとも、誰かとお家で食事ができるのが嬉しかったんでしょうか?
「……こちらに来てからずっと、しっかりとした食事を取れていなかったのです」
「そうなの?忙しいものね~」
いつもと同じきりっとした目だけれど、どことなくやわらかさが含まれているような気がします。
どうやらどれから食べるべきか、迷っているみたいですね。
「貴音ちゃん、迷い箸はお行儀悪いわよ?」
「…はっ。申し訳ありません」
「うふふ。許してあげます」
再び貴音ちゃんのほうを見たとき、今度は竜田揚げをお箸できるのに苦戦していました。
なんだか新鮮です。
少し早く食べ終えた貴音ちゃんは、私の完食をしばらく待っていてくれました。
別に、じっとして動くなーなんて誰も言っていないのに……可愛らしいですね。
「ごちそうさま~」
「まこと美味でした」
「お粗末さまです」
食器のお片づけは手伝ってもらいました。
私が洗いとすすぎ、貴音ちゃんがタオルで丁寧に拭いてから棚に戻して、の分担作業。
こんな風にしたのはきっと昔お母さんとだったような気がするんですが、
もう何年も前のことなんですね。懐かしさがゆっくりこみ上げてきます。
「お風呂に入りましょうか」
調理前に沸かし始めておきましたから、もうお湯も張り終えているでしょう。
「では、あずさからお先にどうぞ」
あらあら、貴音ちゃんったら、
何を言っているのかしら?うふふ。
「あの……本当に一緒に…?」
「あら~、ダメかしら?せっかくなんですもの。うふふ」
貴音ちゃんの手を引いて脱衣所へ向かい、内側からぴっちりと鍵をかけてしまいました。
もう逃げられませんね、と言いたげな目をしている貴音ちゃん。
別に鍵を開けて出て行くこともできるのよ?そうなったらほんのちょっぴり残念だけど。
するすると服を脱いでいく私に合わせるように、貴音ちゃんも一枚一枚薄着になって行きます。
自分で誘っておきながら、なんだか恥ずかしいわ……
ぷち、と下着のホックが外れる音がしました。
「貴音ちゃん、やっぱりスタイルいいわね~」
「何を言うのです、あずさには負けますよ」
そんなつもりで言ったんじゃないのだけれど……
カラカラと戸を開けて、お湯加減を確かめます。
うん。ちょうどいいわね。
私、背中の流しっことかあこがれるタイプなんです。
「あずさ、ここは私が先に……」
「あら、いいの?じゃあお願いしちゃおうかしら」
椅子に座って貴音ちゃんに石鹸を預け、泡立てが終わるのを眺めていたら、
貴音ちゃんは不思議そうに私を見つめて聞いてきました。
「何か変でしょうか…?」
そんなことないのよ。
ちょっと楽しくなっちゃって。ごめんなさいね~。
やがて準備ができたようで、背中にゆっくりと泡つきのタオルが触れる感触がありました。
上へ下へ、背中の筋に合わせて優しく上下するのがとっても心地いいです。
「貴音ちゃん。もう少し強くしても平気よ」
「そうですか。では」
あぁ…そうそう、そのくらい……んっ…
いいわぁ、癖になりそう……
「はぁっ………はぁっ……」
この声は私じゃなくて、貴音ちゃんです。
背中を流すのって、そんなに体力がいるものなのね……私も頑張りましょう。
「では、お願いします、あずさ」
「ええ」
貴音ちゃんと同じように、こしこしと背中をゆっくりこすってあげていると、
さっきどうしてあんなに優しく現れていたのか、ちょっと理由がわかったような気がします。
だって、貴音ちゃんの肌はとってもすべすべで……思わずため息が出るほど真っ白だったんですもの。
手が止まっている私に貴音ちゃんが声をかけてきて、見とれている自分に初めて気づきました。
ほどよく洗い終えた後で、私はあるいたずらを思いついちゃいました。
「!?あず……んっ!?」
心配しなくてもいいのよ?これは貴音ちゃんのためなんですもの。
腸マッサージは効果が高いって、テレビでやってたのよ?
腰から手を回しておへその下あたりを手でもんであげると、
貴音ちゃんはびっくりして可愛い声を……
「あ、あずさっ、そのようなっ……」
「大丈夫よー。便秘に聞くんだから」
「ですがっ、いきなり……っ」
んー、確かにお腹の辺りにはちょっとしこりができてます。中に溜まってるものかしら?
ぐっ…と押してみると、我慢したような声が聞こえてきます。
ちょっと痛かったかしら?ごめんなさいね。
しばらくしてようやく私が手を止めたころには、貴音ちゃんは息も絶え絶えといった状態でした。
私も腕が疲れたかしら……でも、貴音ちゃんのためですものね。
「……あ、あずさ……今後は、このようなことは……先に言っていただけると……」
「気をつけます。うふふ」
たしかに、ちょっと失礼なことをしちゃったかもしれませんね…反省します。
でも、それでも怒ったりしないのに貴音ちゃんの優しさなんでしょうね。
さすがに湯船に二人も入ったらお湯がたくさんあふれてもったいないので、交代で浸かります。
長い銀色の髪の毛をまとめて頭にタオルを巻いた貴音ちゃんの姿を見ると、
なんだか親近感のようなものが沸いてきます。
私も髪を切る前はそうしていましたから。
訂正
怒ったりしないのに→怒ったりしないのも
私もしばらくの間湯船に使ってから、一緒に上がりました。
ふざけて高音ちゃんのお腹の辺りをバスタオルで拭いてあげたり、
お返しとばかりにお尻を拭かれたり…今思えば、年甲斐もなかったかもしれませんね。
「あずさのパジャマは、私にもぴったりですね」
体格が似ているからかしら、困ることがなくてよかったわ。
そうね、やよいちゃんなんかが着たらぶかぶかで余っちゃいますもんね。
「寝る前様のお薬を飲んでおきましょう」
取り置いてある小さなビンから二錠ほど渡してあげると、
貴音ちゃんは何を思ったかそれを口に放りこんで…
ボリボリと噛んでいました。
「た、貴音ちゃん?それは水と一緒に飲み込むものなのよ……」
「そうだったのですか……どうりで面妖な味だと思ったのです……」
おっちょこちょいさんなのねー。
訂正
使ってから→浸かってから
でも、これで少しはお腹も楽になってくれるかしら?
「よくなるといいわね~」
「ええ…何から何までありがとうございます」
「いいのよ~。うふふ」
時計を見ると、そろそろいい時間です。
明日もお仕事ありますし、確か夜更かしもお腹の調子を壊しやすいとか。
「もう寝ましょうか」
ベッドは1つしかありませんけど、大丈夫ですよね?
──────
朝目が覚めると、貴音ちゃんの姿はありませんでした。
「あら……貴音ちゃん?」
部屋を見渡してもどこにも気配は残っていませんし、
一緒に入っていたはずの布団にも、すでに私以外の熱は残っていません。
「どこ行っちゃったのかしら……」
もしかして、お風呂であんなことしちゃったから起こって帰っちゃったのかしら……
思い返すと、確かにやりすぎだったような気がします。
貴音ちゃん、ごめんなさいね。
でも、貴音ちゃんと一緒にご飯を食べたり、背中を流し合ったのは確かだったようで…
唯一片付け忘れていたテーブルクロスがテーブルに残っています。
それでも、なんだか夢を見ていた気分です……
「……起きなくちゃ」
なんだか寂しくなる気持ちを抑えて、台所にあるパンを取り出しトースターに…2枚セットします。
自分でも不思議です……いつも通り、1人で起きることになっただけなのに………
「コーヒーも入れておきましょうか…」
…だめね。こんなことで落ち込んでちゃダメ。
もし事務所で会ったなら、一言謝っておきましょう。
そして、その後『お腹の調子は良くなりましたか?』と聞けばいいですよね。
チン!と小気味のいい音がして、トースターがピョンと顔を出しました。
そうそう、バターを用意するのを忘れていたわ。
冷蔵庫から取り出し、ナイフを用意して席に着きます。
「…こっちは、塗っておかなくてもよさそうね」
ナイフの先にちょっとだけバターをつけて、自分のパンに塗っていきます。
…そろそろお湯も沸いたかしら?コーヒーのパックを用意しておかなくちゃ。
私はすっとテーブルから立ち上がり
ブビュルブブッブリブリブリブービュブビビブボブビュビュビュー!!!!!
……びっくりして、バター付のナイフを床に落としてしまいました。
今のは何の音でしょう………?
しばらくの沈黙の後、カラカラカラ……と小さな音がしたと思ったら、
その次に聞こえてきたのは吸い込むような水音。
「…………おはようございます…あずさ……」
最後に、少しやつれた気がしなくもない貴音ちゃんが現れたのです。
「…お、おはよう、貴音ちゃん……」
びっくりしたような、安心したような。
とりあえずトーストを2枚用意しておいたのは、間違っていなかったようです。
お湯を沸かしておいたやかんが、こちらもゴポゴポと音を立てていました。
「おかげ様で………」
「そうみたいね~。大丈夫?」
「…えぇ……ありがとうございました…」
お腹をさすりながら、それでもいつもの平静さを失うまいとして、
貴音ちゃんはテーブルに腰掛けました。
「お腹が空きました」
「……うふふ。ちょうどパンを焼いたところよ」
どうやら、いつもよりはにぎやかな朝になりそうです。
──────
「おはようございます~」
「おはようございます」
事務所へつくと、すでに来ていたのはおよそ半分くらい。
今朝は貴音ちゃんのおかげで、一度も迷わずに到着できたんですよ。うふふ。
「あら?珍しいですね、貴音とあずささんが一緒だなんて。途中で会ったんですか?」
律子さんが不思議そうに尋ねてきます。
私たち二人はお互い目で合図を送りながら、
「そうなんですよ~」
「偶然にも、近くで」
昨日のことは内緒にしておきましょうね。
だって、女の子には秘密の1つや100個、あるものですもんね?
律子さんがデスクに戻ったところで、そっと耳打ちします。
「貴音ちゃん」
「はい」
「食事は毎日気を使わないとダメよ。また今日からラーメンなんて許しませんからね?」
「……難しいですね…」
あらあら。だめよ、そんなんじゃ。
「よかったら、今日もうちで一緒にご飯食べましょうか?」
「良いのですか?」
「もちろんよ~」
こうなると、一人暮らしもなんだか楽しくなってきますよね。
終わり
>>51訂正
もしかして、お風呂であんなことしちゃったから起こって帰っちゃったのかしら……
↓
もしかして、お風呂であんなことしちゃったから怒って帰っちゃったのかしら……
ダメだなこりゃ
次
>>67&>>69
シチュ:>>72
響
伊織
ロケ!
うんこしてくる
ブビュルブブッブリブリブリブービュブビビブボブビュビュビュー!!!!!
「お疲れさまでぇす♪またよろしくお願いしまぁす♪」
「おつかれさまだぞー!」
ゲストとして私と響が出演することになっていた、
「クソ田舎に泊まりやがれ ~逆に誰か知っている人いるの?ってくらいの秘境温泉編~」
の撮影がたったいま無事終了した。
こんな失礼なタイトルにもかかわらず、
地方のローカル局で日曜朝の看板タイトルになっているほどの人気番組らしい。
「お疲れ様です!今日はどうもありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
「また呼んでくれよな!」
二人してスタッフに挨拶をしてまわり、一通り落ち着いてから今回のロケ地である温泉宿を外から眺めてみる。
……見た目は悪くないが随分と古い建物だ。
先ほどまで温泉と食事を楽しんでいた身からすると、
なるほどテレビで紹介してもらえるだけあって質は全く問題なかった。
……ただ、私たちの他に客が一人もいなかったということ以外は。
「ふぅーっ、お疲れ、伊織!」
「ええ、お疲れさま」
…考えてみれば、こうやって響と二人きりで仕事をする機会は今回が初めてかもしれないわね。
事務所ではそれなりに仲良くやっているつもりだけど、いかんせん響はいつも貴音と一緒にいることが多いんだもの。
「さぁて、これからどうしよっか?」
「そうねぇ……このままもう一泊してから帰るって話だったけど……」
あまりに田舎過ぎて、スタッフ達もなかなか車を出しにくいって聞いたわ。
きっちりとタイミングを計らないと、電灯のない道に夜放り出されたらひとたまりもないんですって。
「まあいいさー!もう一回温泉入ろうよ!」
「えぇっ、また?ふやけちゃうわよ」
撮影で長い時間風呂に入りっぱなしだったっていうのに、響はとっても元気で……
反対に私はいい感じにのぼせてたから、少し気が引けた。ごめんなさいね、響。
まあ、たまにはこういうのもいいかもしれないわね。
「もう……待ちなさい!置いていくんじゃないわよっ!」
一緒のお風呂に入れば、少しはアイツの元気の秘訣とか分かるかしら?
──────
「うわーっ、やっぱ広いなー!」
撮影で使ったのと同じ大浴場で、響がはしゃいでる。
人もいないし、余計に声が大きく響いて聞こえるわね…うるさいったらありゃしない。
前言撤回するわ。アイツの元気の秘訣?やっぱりそんなにいらない。
「響、もう少し静かにしなさいよ」
「えー、だって他に誰もいないんだぞ!?」
なおさらよ。あんたの声はやよいばりに大きいのよ。
「やっほおおおおおおおおおお!!!!!!」
「う る さ い っつってんでしょ!」
露天風呂でもないのに、馬鹿みたい。
……でも、ああいう馬鹿やれる性格が最近うらやましくなってきているのも事実なのよね。
お堅い教育ばっかりされてきたから、自由なスタイルに憧れるようになるのも自然なことなのかしら?
とりあえず響は放っておいて、シャワーの前に腰掛ける。
今度はもう少し…ゆっくり丁寧にシャンプーしておきたいから。
「伊織ー」
「…何?なんかあったの?」
目を開けられない状態なの、分かってるでしょ?
悪いけど後にして……
「自分が髪洗ったげよっか?」
「え?」
意外な提案だった。
「自分さ、ほら、髪長いだろ?手入れには自信あるんだー」
…そりゃ分かるわよ。あんたの髪は事務所じゃ千早と1、2を争うくらい綺麗だもの。
当然私だって負けてないつもりだけど。
「ロケお疲れ様ってことでさ、遠慮しなくていいんだぞ!」
「………」
気持ちはありがたいけども、今ちょうど洗ってる最中の私に持ちかける話でもないんじゃない?
……でも、せっかくの厚意を無下にするような水瀬じゃないわよ。
「……そうね。じゃあリンスだけお願いしようかしら」
「任せとけ!」
トン、と胸をたたく音が聞こえた。
目をつぶってて分からないけど、きっと響らしくにぱーって笑ってるんでしょうね。
スーパーアイドル伊織ちゃんの髪の毛を触らせてあげるんだから、適当なのだったら承知しないんだから。
シャワーで泡を洗い落としたのを確認してから振り向くと、響が持ってきた椅子を私の真後ろに設置していた。
「いっくぞー」
にゅりにゅりとたっぷりのリンスをなじませた両手で、はさむように私の髪に触れる響。
なかなかやるじゃない。その髪の量は伊達じゃないってわけね。
「どう?」
「結構上手ね。あんた」
「えへへ、ありがとう」
どうしてお礼を言うのか分からないけど、そのまま響の両手が根元から毛先まで、
私の髪をスーっっとなでていった。
何度か往復してるうちに、だんだんと無口になっていく私たち。
「伊織、髪綺麗だなー」
「……ありがと」
会話が続いても、せいぜいこのくらい。
でも、全然気まずさは感じなかった。
かぽーん、って擬音は一体誰が考えたのかしら?すごいわよね。
大浴場には当然ながら私たち二人っきりのままで、聞こえるのはゴウゴウとお湯の流れる音と「かぽーん」、
そして響が一生懸命になって私の髪を手入れしながら漏らすちょっとした声。
「………はい!おわったぞー」
そう言うと響は壁にかけておいたシャワーヘッドを取って水量と温度を調節して、
「はい、上向いてー」
私が言われるがままにすると、頭の先に温かい感触が戻ってきた。
器用にも、顔には一切お湯がかかってこない。
「……上手ね」
「でしょー」
さっきとは若干違う反応。
気づいたけど、流すときは洗ってくれてるときに比べて
ちょっとだけ雑になるのね。片手でシャワー持ってるから当然かしら。
時折小さな指が背中を掠める。なんだかくすぐったい。
「……これでカンペキ!どうだった?」
いつもの口癖も、なんだか嫌味ったらしくないわね。
「気持ちよかったわ。どうもありがとう」
丁寧に礼をすると、響はちょっと意外そうだった。
「てっきり『フ、フン。まだまだね!』って言われるかと思った」
馬鹿ね。それに私のモノマネ、全然似てないわよ。
……さて、今度は私がやってあげる番なのかしら?
「あ、あの、伊織………」
「……何?今度は私がアンタにやれって言うの?」
「…べ、別にムリならいいんだぞ」
何よもう。人に何かしてあげるときは平気でやるくせに、
自分が頼みごとするときはそうやってちょっと弱気になるのね。
そういうの悪い癖って言うのよ。拒否されるとでも思ってるのかしら?
「……しょうがないわね。特別よ、感謝しなさい」
こういう言い方しかできないのは、私の悪い癖なのかもね。
前後を代わって、響を後ろから眺める。
うわぁ……背中が見えない……解いてるとこんなにボリュームあるのね……
これは骨が折れそうだわ。
撮影中に満足いくまで髪を洗えなかったのはどうやら響も同じだったみたい。
どうせ後で面倒になると想い、シャンプーはボトルごと足元に準備しておく。
「いくわよ。覚悟なさい!」
一言気合を入れて、私はシャンプーのノズルを思いっきり押し込んだ。
まずは頭の近くからね……
ツー、とシャンプーを頭頂部に垂らして、
そのまま10本の指で痛くない程度に掻きながら少しずつ泡を作っていく。
「う、うおお……いいなぁ、これ」
よく分からない言葉を上げてはいるけど、とりあえず反応はよさそうね。
このまま続けましょう。
だんだんとワッシャワッシャを音を立てて、響の髪の量に比例するかのように大きく密度の濃い泡が生まれてきた。
うん、こっちはこのくらいでよさそうね……
もう一度手のひらに補充したシャンプーを、今度は長い髪全体に浸透させていく。
触ってみるとますます実感させられるけど、響の髪は健康的という以外に例えようのないサラサラヘアーね。
沖縄の太陽の恵み?…関係あるのかしらね。
「はぁ………気持ちいい……」
鏡越しに表情を覗くと、トロンと眠たそうな顔をして満足げにしている。
よかったわ、喜んでもらえてるみたいで………
いえ、別に喜んでもらって欲しくてやってるわけじゃないけど。
そう、これはギブ&テイクよ。
「響、少し上向いて」
「こうかー…?」
泡が顔に垂れないように、注意しながら髪を洗っていく。
腕が疲れてきたけど、ここでやめるわけにもいかないものね。
少し強めに、でも傷つけないように……
頭は掻き揚げるように、髪はなじませるように、手と腕全体を使いつつ……
ようやく洗い上げた頃には、腕の筋肉がくたくただった。
「………ふぅ。こんなものかしら」
「終わった?」
「ええ?あとはリンスよ」
「大丈夫?疲れてない?」
疲れるのが予想できるんなら、はじめにそう言って欲しかったわね。やっぱり。
まあ、リンスのほうはさっきほど大変じゃなくて良かったわ。
訂正
「ええ?あとはリンスよ」 →「ええ。あとはリンスよ」
チャポン………
「ふぅー。やっぱ気持ちいいなぁ……」
「…えぇ。一苦労した後は格別ね」
撮影のときとは違って、今度は二人ぴったり横に並んで浸かってる。
時々腕や腰が当たるんだけど、それはそれで感触を楽しんでいるような気がするのよね。どうしてだろう。
湯あたりでもしちゃったかしら?数時間前も見てたはずなのに、のぼせた響の頬が少し気になった。
「……なぁー伊織ぃ」
間延びした台詞が反響する。
「……なぁに?」
「ここって部屋に露天風呂があるんだよなー」
「…そうね。さっき入ったでしょ撮影で」
「そうだけどさー」
響も相当出来上がっているみたいだけど、大丈夫かしら?
「やっぱり、もっと落ち着いた感じで入りたかったからさ、伊織と」
「………え?」
「…ご飯食べたら、今度は露天風呂入ろうよ。……二人でさ」
『二人で』という部分はおそらく何気なしに付け加えただけだろう。
それでも響の表情や声色のおかげで、なんだかいけないことに誘われたようで、少し緊張して……
はぁ?何考えてるの、私。ばっかじゃないの?
「…もちろんいいわよ」
「……やたー」ザッパァ
勢い良く立ち上がった響のお尻が、ちょうど目の前に浮かび上がってきた。
何だか馬鹿馬鹿しくなって、パチンと軽く叩いてやった。
「私も上がるわ」
「そっかー」
どうやらお互いに限界が来ていたらしい。
アイツが湯冷めしないように気をつけてあげましょう。
ごめん限界だわ寝る
残ってたら11時くらいには復帰したい
──────
「ご飯、美味しかったなー」
「そうね」
汗をたくさんかいたからかしらないけど、夕食は思いのほか喉を通った。
食器も全部下げてもらって、今は部屋で一息。
小さなテレビから、お笑い番組の音声が聞こえてくる。春香が出演してる番組ね、これ。
「よーし伊織。露天風呂入ろっ」
「そうね。そうしましょ」
ベランダの扉を開けると、ほのかに湯気の立つ小さめの浴槽がある。
外はもうすっかり暗くて、今日は月もまだ昇ってない。
ダイナミックに浴衣を脱ぎ捨てた響が、飛び込んだ。
「もう……やめなさいよ、みっともない」
「ごめんごめん」
今日はアイツが笑ってるところを見ると、何だか怒る気がすぐに失せちゃうわ。
何でかしら。
「……ふぅ…いい気持ち」
「だなー……」
夜は涼しくて、顔に当たる風が気持ちいい。
「今日は伊織とこれてよかったなー」
「え?」
何でいちいち反応するのよ、馬鹿じゃないの私。
「いやー、最初は上手く行くかなーって思ってたけどさ、色々楽しかったし」
「……そうね。私もよ」
「そっかそっか」
満足げね。そこまで嬉しそうだと私も嬉しいわ。
「……動物達、元気にしてるかなー」
「事務所で預かってもらってるんでしょ?心配要らないわよ」
「だといいんだけどなー」
パチャパチャと水面を蹴る響。
「……ま、しばらく動物達のことは置いとこう」
「……ええ」
「今は伊織といて楽しいから、それでいいや!あっははは」
「そうね。私も楽しいわ」
「そっかそっか。ありがと」
そう言うと、響はわざわざ私のところに寄ってきて、
さっきと同じようにぴったり隣に落ち着いた。
「…どうかしたの?」
「いーや。なんにも」
「何それ。変ね」
「べつにいいさー。えへへ」
触れ合っている肌が温泉よりも温かく感じる。
「ねぇ、今日は月でないの?」
「さぁ。これから出てくるんじゃない?」
「そっかー。どのくらい?」
「知らないわよ」
「えー。温泉で月見したかったのにー」
ぶーたれる響はちょっとだけ可愛い。
私には負けるけど。
「良いじゃない。出るまで待てば」
「うーん………じゃあ伊織も一緒に待ってて」
「何でよ」
「一人じゃ寂しいじゃん」
「全く……」
今度こそふやけちゃうわよ?
しわしわが戻んなかったらどう責任取るのよ。
「……しょうがないわね。付き合ったげる」
「ホントか?伊織は優しいなー」ギュゥ
「…ちょっと、離れてよ…抱きつくんじゃないわよ裸で」
「まあまあいいじゃん」
「……もう!」
なぜだかぴったりとくっついてくる響を余所目に、空を見てみた。
まだまだ月の昇る気配もなさそう。
ま、今日はそれでも良いかもしれないわね。
終わり
今度こそ寝る
落ちてたらそのときはそのときで
マダァー?(・∀・)っ/Ц⌒☆チンチン
雪歩
真美
ゲーム
「ねぇねぇゆきぴょん」
事務所の給湯室でお茶を淹れようとしていたとき。真美ちゃんが奥から私のことを呼んで来ました。
一旦火を止めてそちらに向かうと、なぜか真美ちゃんは小鳥さんのデスクの前にいて、
不思議そうに画面を眺めてます。どうしたんだろう?
「これどんなゲームなのかなぁ」
「ゲーム?」
一緒になってモニターを覗き込んでみると、
画面の真ん中には可愛い女の子の絵とともに怪しいタイトルが大きく表示されていました。
『処女宮』
……嫌な予感しかしませんでしたぁ…
「ショジョ?…ミヤ?」
「あ、あの、真美ちゃんこれは……」
だめだめ、落ち着いて……ここは年上の私がしっかりしておかないと。
よくは分からないけど、小鳥さんのPCに入っていて、女の子の絵があって、
もうそれだけで分かります。
これは……その…そういう、ゲームなんでしょう…
もう…ちゃんと閉じて置いてくださいよぅ……
「きっとピヨちゃんがやってるゲームだから、多分ソッチ系だよね→。んっふっふ~」
真美ちゃんも興味津々です。
うーん…どうしよう……小鳥さんのためにも、ここは気をそらせてあげないと……
「ま、真美ちゃん…お茶飲む?さっき入れたばっかり…なんだけ」
「ちょっとやってみよーよ!」
中学性の好奇心にはかないません……
こんなにストレートに提案してくるなんて……うぅ…
改めてPCの画面を確認すると、
ご丁寧にこのゲームにはサブタイトルも用意されているみたいです。
『~栗毛の潮吹少女たち~』
もういやですぅ!
「シオフキ?変なタイトルだね→。栗に毛なんてあるの?ショジョってなーに?」
意味を理解していないんでしょう、真美ちゃんは栗毛やら処女やら潮吹きを連呼しています。
幸いにも今は事務所に他のアイドルたちはいないようですけど、恐ろしい光景をつい思い浮かべてしまいます……
『やよいっち→、シオフキって知ってる?』
『え?クジラさんのこと?』
『ミキミキ→クリに毛って生えてる?』
『えっ!?は、生えてないの…!』
『ねぇねぇ、ピヨちゃんってショジョ?』
『ピヨッ!?』
最後のは因果応報だとしても、色々と見るに耐えません…
こっ、ここは…私が一肌脱ぐしかありません!
みんなが、そして真美ちゃんが変な恥をかいてしまわないように……
ここで真美ちゃんを止めるのが、私の役目なんですぅ!
意を決して、私は大きく息を吸い込みました。
「ま、真美ちゃん!」
「あ、始まった」
だめぇぇぇぇえええ!!
「おー、大きな学校だね」
「ま…真美ちゃん、だめだよ…怒られるよ…」
「上書きセーブとかしなきゃ大丈夫っしょ→」
そ、そういう問題じゃなくて…
「あ、誰か来た」
ゲームの中での話ですけどね。
なんだか可愛らしい女の子がお話しています。
……って、何私も見てるんですかぁ!
大事にならないうちに、早く止めないと……
──────
「…ぅ、ぅゎぁ………///」
「…………」
私、先輩失格ですね。
可愛らしい女の子の絵と、なんだか優しい文章に引き込まれて、
気づいたら私も真美ちゃんのプレイするゲームのギャラリーと化していました。
つまり……つまり、ゲームは最初の「そういうシーン」になってしまって、
私はついにそれを止めることができなかったのです。ごめんなさい、小鳥さん……
画面の中では、女の子たちが放課後の教室でキスをしていました。
「…ね、ねぇ…女同士でも、チューってするんだね…」
「…あ、あははは……」
流石の真美ちゃんも少し動揺しているみたい。
……でも、さすがにこれ以上は本当にダメ。
まだ真美ちゃんが知ってはいけない世界…私も知らないけど。
「真美ちゃん、もう終わろう」
「……まだ!もうちょっと……」
「だ、ダメなんだって……!」
だ、誰か……律子さぁん!プロデューサーぁ!
お願いだからこの子を止めて……!
「……ぅわぁっ!?」
ガタン、と椅子に座ったまま地面を蹴って、真美ちゃんが後ずさりしてました。
画面の中では、好奇心に負けて裸のままお互いの体を触りあっている女の子達……
終わった。ただそう思えました。
一方で顔を真っ赤にする真美ちゃんを見て、
やっぱりこの子もまだ中学生なんだなぁと、冷静に考えていました。
私は静かに画面を閉じて、臭いものに蓋をするようにモニターの電源も切りました。
BGMが消えて、沈黙が逆にうるさいような気がしてきます。
本当はもっと早く止めてあげなくちゃいけなかったんですけど……
どうしよう、真美ちゃん椅子の上で固まってる。
「真美ちゃん……大丈夫?」
「…………ぅん……」
思った以上に衝撃的だったみたいです。
「ご、ごめんね……止めてあげられなくて…」
「ううん、真美が勝手に見たのが悪かったから……」
真美ちゃん、ちょっとだけ泣いてる……?
時折聞こえる、鼻をすする音。
「ゆきぴょん……女の子どうしで、ああいうこと………」
すっかり強気をなくしてしまった真美ちゃんが、細々とした声で尋ねてきました。
「…あ、あのね。普通はしないよ。ただあれは……」
「………ヘンだよ……あんなの…」
私もたいしたことは知らないけれど、
異性愛すら良く分からないはずの年頃の真美ちゃんが見るには、
もしかしたらあまりに残酷なものだったのかも………
ごめんね…ごめんね。
「真美ちゃん…心配しないで。あれはただのお話で……」
「…そうだけどさ……」
逆に、自分がすごく落ち着いているのもなんだか不思議な気分です。
しばらくの間、二人っきりの事務所で淡々と時間が過ぎていました。
電源を切った直後の状態のまま……
真美ちゃんが動かないので、私は少しそわそわしながらただ様子を見つめることしかできません。
責任転嫁かもしれませんけど、ちょっとだけ小鳥さんを恨みます。
「……真美ちゃん……」
椅子の上で両膝を抱えて、頭を埋めてじっとしたまま、真美ちゃんからの返事は返ってきませんでした。
…ど、どうしよう……
「……ゆきぴょん…」
「へっ?」
唐突に話しかけられて思わず間抜けな声が飛び出してしまいました。
「女の子同士でやって…楽しいのかなぁ?」
「……さ、さぁ……」
し、知るわけないじゃないですかぁ…いくら男の人が苦手だからって、
さすがに私もそっちの趣味は……ない、はず…
真美ちゃんは少し落ち着いたみたいです。顔をあげて椅子から立ち上がり、
事務所のソファまで向かってポスンと腰掛けました。
テレビをつけて、ザッピングを始めています。
よ、よく分かりません……もう平気なのかな?
とりあえず、お茶を淹れてあげましょう。
「はい。どうぞ」
「ありがと」
こちらに目を向けないまま湯呑を掴み、ズズズと音を立てて美味しそうに飲んでくれています。
お茶は心を落ち着ける効果があるんです。さっきのことは忘れたほうが良いですよね?
私も隣に座って、真美ちゃんの見ているテレビをしばらく眺めていました。
「………ゆきぴょん」
「どうしたの?」
また突然私に話しかけてくる真美ちゃん。今度は何かな?
「……実はさ、チューくらいならしたことあるんだよね」
ぶふぅ!!
「えっ……えっ?…えっ?」
「あ、いや…したっていっても、亜美とか…やよいっちとか」
「あ、あぁ……そういう意味…」
「それに。ほっぺにチューするくらいだし。それだけなら別に普通っしょ?」
まあ、女の子同士なら…さっきのあれを見てそう言ってしまうのは不自然かもしれませんけど。
私だって、撮影とかで真ちゃんにしたことありますし。
ちょっと恥ずかしかったですけど。
「でもさ……あれはさ」
話をぶり返さないでよぅ……
「口同士でしてたんだよね→……」
「………そ、そうだね……」
少し噴き出してしまったお茶を拭いて気を紛らわせていると、真美ちゃんが重ねて言いました。
「……どんな感じなのかな?」
……し、知りません……ていうか、あのね、真美ちゃん……
どうして私のこと、じっと見てくるの……?
「……さっきはさ…えっちぃのがあってびっくりしたけど…」
真美ちゃん、なんだかモジモジしています。
可愛いけれど、次に何を言われるか考えると私は気が気でなりません。
「べつに……まぁ……悪くはない、んじゃないかな……って」
さっき泣きかけてたのは誰なんですかぁ…!
真美ちゃん、意外とメンタル強いんだね……
「…そ、それで……?」
おそるおそる聞いてみます。
いえ、本当はこんなこと聞くのも間違いだって分かってるんです。
こんな聞き方をすれば、どんな返事が待ってるか大体予想できますもんね…
でも………私もほんの少しだけ、期待していたのかも……
ゲームの影響、なんでしょうか……
「…今、誰もいないしさ」
真美ちゃんの言葉の意味するところが、嫌というほど理解できました。
「ま、待って……そんな、いきなり言われても……」
本当は分かっていたくせに、
いざとなるとこういう風に言い逃れしようとするのは自分の悪い癖ですね。
「いきなりじゃないよ」
「え……」
「一緒にアレ、見たじゃん」
そ、そうだけど……でもこんなことになるだなんて……!
真美ちゃんが一瞬腰を浮かせて、こちらにずい、と寄ってきました。
そのまま私の肩には、ちょうどいい重さがのしかかります。
「ゆきぴょーん…こっち見て」
だめだよぅ……今横を見たら、間違いなく……私……
一瞬の隙でした。
色々とめぐらせていた考えが、あるとき急にすべて停止してしまいました。
自分でも何が起こったのかわかりません。
ただ、妙な感触のあった左のほほに指で触れると…なんだか湿っぽくて。
そのまま目をやると、真美ちゃんは恥ずかしそうに笑っていました。
「ごめん……しちゃった」
「………!」
何ででしょう。同じ女の子なのに…一回り年下なのに……
どうして…こんなにドキドキしてるんだろう……
「ゆきぴょん…顔真っ赤だね」
言われて気づいたときにはもう遅いんです。
意識すると余計に頭に血が上っていく感覚がしました。
「ね………一回だけで良いからさ」
私は、真美ちゃんがHなシーンを見てしまった責任を、
今ここで取るべきなんでしょうか………
別室にて
小鳥(計画通りッ!!)
ワンピースの襟を手で軽く掴まれて……
真美ちゃんは思いのほか強い力で、私を引き寄せていきます。
これ……本当に、しちゃうのかな……
でも、真美ちゃんとなら……別にいやじゃないかも……
「……これって、目とかつぶったほーがいいの?」
今度はなぜか真美ちゃんが平気な顔をして私を見つめてくるんです…
うぅ…さっきと状況が逆転してませんかぁ…?
私は何も言わず、ギュッと目を閉じて……
しばらくした後、真美ちゃんの匂いと、唇の柔らかい感触が同時にやってきました。
でも、触れたというよりはぶつかったという感じです。
……………ん?どうしようこれ…息が苦しい……
そっか、鼻ですればいいんだ。
機転を利かせたつもりでしばらくいると、パッと離れた真美ちゃんがぷはぁと息継ぎをしました。
「……えへへ、ゆきぴょん…いきなりごめんね」
「…ううん……いいよ、別に」
あのくらい長い時間するのが普通なのかな?
ふと思うと、さっきまでの出来事がすべて本当にあったのかどうか、よく分からない変な気分になってきます。
いつの間にか真美ちゃんは私の隣に普通に座ってて、何も言わずテレビを見ています。
いつもの765プロの光景でした。
「真美ちゃん、お茶のおかわりいる?」
「うん!あんまり熱くないのでお願いね→」
「分かった」
きっと、二人とも変な夢を見ていたんでしょうか。
お湯加減をしっかり調節して、コポコポとお茶を湯呑に注いでいきます。
真美ちゃんが飲みやすいように、少し薄めにして……
淹れたお茶を持っていくと、真美ちゃんがいつも通りの笑顔で「ありがと」と言ってくれました。
二人の時間はもう少し続きそうです。
終わり
ミキミキミキミキミキミキミキ
まっこまっこりーん
お料理教室
まこみきか…準レギュラーカプじゃねーか
飯
もしあれなら再安価してもいい?
律子
春香
「料理を教えてほしいんですっ」
昨日、春香からこうお願いをされてしまった。
「春香は料理得意じゃなかったっけ?いつもお菓子とか作ってきてるじゃない」
「お菓子はそれなりに得意なつもりなんですけど、普通の食事はあんまり…作ったことなくて」
恥ずかしながら、と付け加えて春香は言った。
あまりに唐突だったので事情を聞いてみると、今度の父の日のために昼食をふるまってあげたいとのことだった。
いい娘を持って、お父さんも幸せ者ね。
「でも、それなら私以外に適役が…やよいとか」
私はせいぜい人並みレベルにしか料理できないわよ?
「さすがに、年下に教わるのは恥ずかしいような気がして…」
なるほど、分からなくもないけれど。
結局父の日の前日、土曜日に春香が我が家に訪ねることになった。
「今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、お手柔らかにね」
昼過ぎに春香がやってきたあと、一通りの準備を済ませて台所に並んで立つ。
希望のメニューはあらかじめ聞いておいたので、材料の準備もばっちりよ。
「材料費、後で半分払いますね」
「いいのよ。そのくらい」
「でも……」
「いいからいいから」
こういうときは先輩の顔を立てるものよ。
親切なのも結構だけどね?
「まずは下ごしらえからね」
ご飯を炊くのはすでにしておいたので、野菜を切って炒めるところから。
…さすがに米をとぐくらいはできるわよね。お菓子を作れるくらいだから変なミスはしないでしょ。
フライパンの火加減を見ていると、春香は手馴れた様子で野菜を細かく刻んでいく。
……なんだ、やっぱり上手じゃない。私に教わる必要なんて本当にあったのかしら?
それに、指を包丁で切るなんてベタなドジも踏んだりしていないし。
「律子さん、こっちできました」
「ありがとう。じゃあ豚肉で巻いていって」
「了解です!」
色とりどりの野菜を肉巻きにしていく。
栄養バランスも見た目もいいし、調理も簡単なオーソドックスメニュー。
春香は一つ一つ丁寧に仕上げていた。
お父さんのためかしら?可愛いじゃない。
少なくとも私よりはずっと。
その間、私はスープのベースになるコンソメを鍋に数個投入していく。
「いたっ」
「どうかした?」
「指、切っちゃいました……」
肉巻きを作るときに、脇に置いておいた包丁の存在を忘れていたみたい。
さっきは平気で扱っていたっていうのに、こういうところがドジたる所以なのかしら……
少しあきれたので、罰として少しいたずらしてやる事にした。
「しょうがないわね、指貸しなさい」
「あっ……」
パクリ指をくわえて血をすってあげるなんて、今時マンガでも読まない展開だけどね。
「あ、あの、いいですよぅ、自分でやりますから……」
私がこんなことするのなんて、意外かしら?
残念ね。私だってユーモアのセンスくらい持ち合わせてるわ。
「……これに懲りたら、次から気をつけることね。ふふ」
「……ありがとうございます…」
春香は照れくさそうに指を見つめていた。
──────
何度かトラブルはあったけど、無事に調理は終了した。
時計を見ると…始めてからすでに1時間半ほど経っている。
春香は結構疲れていたみたいだけど、慣れればもっと時間短縮できるはずだから心配いらないわよ。
食器をテーブルに並べて、そろって「頂きます」をした。
…春香と二人っきりで食事なんて、初めてじゃないかしら?
「そういえば、そうですね」
いつもは竜宮の3人と一緒になることが多いから、不思議な気分だわ。
私が担当したのはスープだけで、あとは簡単に指示するだけだったけれど……
どのメニューも上々の出来だった。春香も満足げのようね。
「あ、律子さん。ご飯粒が…」
「え?」
口の周りを探ろうとする前に、春香の手が伸びてきてさっとそれを取っていった。
「さっきの仕返しです」と言わんばかりに、へへんと笑ってパクリと食べる。
なるほど、一本取られたわ。
──────
後片付けを済ませると、すでに時計は昼の3時を回っていた。
「じゃじゃーん!デザートのクッキーです!」
なんとも嬉しい誤算だわ。まさか持ってきてくれてるなんて。
良く見ると、いつも事務所で食べてる私のお気に入りの種類が多めに用意されていた。
「律子さん、いつもこの種類のクッキーを多めに食べてくれますから」
あら、気づいてたの?
私でも無意識だったはずなのに、そんなことを考えてクッキーを焼いてきてくれたのかと言うことを考えると、
なんだか嬉しくなった。
「待ってて。紅茶を淹れるわ」
今日は特別に、いつもより高い茶葉を使いましょうか。
「楽しみにしてますね!」
久しぶりに、楽しいティータイムの予感がする。
春香はテーブルに座りながら、両足をプラプラさせてじっと待っていた。
「今日はありがとうございました!」
「いいえ。役に立てたなら光栄だわ」
二人でゆったり過ごしていると時間はあっという間に過ぎて、
とっくに外は暗くなっていた。
それほど遅い時間ではないけれど、ここから春香の家までは数時間かかるから仕方ないわね。
ちょっと寂しいけど、今日はお別れ。
「帰りに今日のレシピ復習しておきます!」
「ええ。お父さん、喜んでくれるといいわね」
「はい!あ、そうだ」
思い出したように春香が言う。
「律子さん、今日作ったメニューは好物なんですか?」
「えっ? ……そうね、かなり好きなものの内に入るわね」
なるほど……とつぶやいて、そのあと「あ、なんでもないです」と勝手にフォローを入れる春香。
「じゃあ、また月曜日に!」
マンションの廊下から見えなくなるまで見送ってあげると、階段の直前でもう一度立ち止まり、
一礼してから春香は降りていった。
「父の日……ねぇ」
私はまだ大した準備をしていないことに気づく。
感謝の手紙と、ビールの詰め合わせでも贈ってあげようかしら。
──────
週が明けて事務所へ出勤すると、一番乗りかと思っていた私にとって意外な人物がいた。
「あ、おはようございます!」
春香だった。
「昨日は大成功でした!律子さんのおかげです」
「どういたしまして。良かったわね」
心底嬉しそうにしている春香を見ると、一緒に作ってあげた甲斐もあるというものね。
「でも、どうしてこんな早い時間に?」
「あ…それはですね」
そういうとクルリと踵を返し、春香は自分のバッグをゴソゴソとあさり始めた。
「はい!」
にっこりと笑う春香の両手に、お弁当が1つずつぶら下がっている。
「……それは?」
「この前のお礼と……律子さん、最近お昼ご飯が外食ばっかりだって伊織に聞いて」
…………。
「この前と同じメニューだからつまらないかもしれないですけど…今日のお昼、空いてますか?」
この子ったら、わざわざこれだけのためにこんな朝早くから……?
私がいつも始めにここに来るのを知ってて……
「せっかく作ったのに、先約を取られちゃってるのは嫌ですから…」
照れくさそうな表情で春香は言った。
「……そうね。幸い今日はまだお昼の予定はないし、午後までここにいるつもりよ」
「ホントですか!?」
私なんかと一緒に食べて、なにが楽しいのかしらね。不思議だわ。
「今日はいい天気ですから、屋上で食べましょう!」
「いいわね」
「あ、水筒にお茶も用意してるんですよ。春香ちゃんは抜け目ありませんから!」
「やるじゃない」
「午後からは営業ですか?」
「ええ。竜宮のね」
「じゃあ、午前中は私と一緒にいてください!」
「ええ。いいわよ」
「あ、これからも時々お弁当作ってあげましょうか?」
「迷惑でなければぜひ」
「もちろんです!楽しみにしててください!」
「期待してるわ」
お料理教室は成功したって言っていいわよね。
おかげで最近の楽しみがまた1つ増えたんだもの。
終わり
美希
やよい
kskst
ちょい休憩
「美希さん……相談があるんですけど……」
そう言ってやってきたやよいの手には、最近出演が決まったらしいドラマの台本があったの。
でもなんだか困ってるみたいだから、演技とかの相談なのかな?
ミキを頼ってくるなんて、やよいはよく分かってるね。
「どうしたの?」
「今度やる役のことなんですけど……」
中身は良く知らないけど、律子がいうには「やよいには相当難しい役」だって。
台本貸して、と言って受け取った最初のページをめくると、簡単な登場人物の紹介が載ってたんだけどね。
ミキがびっくりしたのは……
「やよいの役って……『ヒロインに恋する女の子』なの?」
「そうなんです……あぅぅ…」
コレ、ホントなの?
こんなに可愛いやよいにそんなオカシな役を演じさせるなんて、どうかしてるの!
「そ、そもそも私、好きとかそういうの良くわかんないですし……」
それはそうなの。ミキだって少し前はそんなこと想像できなかったって思うな。
「それなのに、女の子を好きになっちゃう役なんて……うーん…」
両手で頭を抱えて唸りながらなやむやよい、とってもかわいいの。
だけどね。こういう役でも、選ばれたのにはきちんと理由があると思うし、
選ばれたからにはやよいのできる最高の演技をしないとダメなんじゃないかな?
そんな感じのことを言ってあげると、
「それは分かってるんですけど……役の気持ちがぜんぜん分からないんですー…」
…無理もないよね。
しょうがないね!ここはミキがやよいのために一肌脱いであげる!
「女の子に恋する気持ちがわかんないんだったら、女の子と恋愛してみたらいいんじゃないかな?」
「え、えぇぇっ!?」
そりゃ、ビックリするよね。
「ごめんごめん。正確に言うと、『女の子と恋愛してる感じ』で何かやってみるとか」
「あ、そういう意味だったんですか。ビックリしたー…」
って言っても、ミキにもどうすればいいかはよくわかんないんだけど。
台本を読み進めると、やよいの演じる女の子とヒロインは分かりやすく関係を深めている描写があったの。
最初はクラスでの他愛ないお話、放課後の居残り作業、遊ぶ約束、お泊り……
それで、最後には決意の告白。残念ながら、最後は振られちゃうんだけど。
「女の子の友達と一緒に過ごして、この台本に書かれているとおりにいろいろやってみたら、何か分かるかもよ?」
「それ、いい考えですね!さすが美希さんですー!」
喜ぶのはまだ早いの。
問題は、それを誰とやるかってことなんだよ?
「あ…そうでした……だれもこんなのに協力なんてしてくれませんよね…」
ちょっとがっかりしてるやよい。
多分、うちのアイドルならみんな喜んでやよいに協力してくれるって思うな。
「じゃあ、ミキとやってみる?」
「……いいんですか?」
お安いご用なの。
──────
「じゃあ、やってみるの」
「はい!よろしくお願いします!」
やよい、気合たっぷりだね。
ミキも精一杯付き合ってあげる。
最初は、休み時間の初めての会話のシーン。
やよい「…ふぅ…委員会の仕事、今日の放課後までに終わらせないと…」
美希「高槻さん、それなぁに?」
やよい「あ、これは委員会の仕事で…」
美希「そうだったの。随分たくさんあるのね」
やよい「はい」
美希「大変だと思うけど、頑張ってね。私も生徒会の仕事があるから、これで」スタスタ
やよい「あ、分かりました」
…コレで終わりなの。あっけなかったね。
やよいも「コレだけじゃぜんぜん分からない」って顔してるの。
ま、もう少し先のシーンをやってみれば何か分かるんじゃないかな?
次は同じ日の放課後のシーン。
休み時間に色々お話してたおかげで、やよい役の子がヒロインにお仕事を手伝ってもらうっていう場面なの。
「ここはこの先のストーリーに関わるところだから、何もないように見えて結構重要なんだよ?」
「分かりました!頑張りまーす」
じゃあ、はじめよっか。
やよい「はぁ……お仕事終わらない…今日中に先生にわたさないとダメなのに…」
ガラガラ
やよい「あ…あなたは」
美希「高槻さん?こんな時間にここで何を?」
やよい「あの、委員会の仕事が……」
美希「・・・昼間に言ってたもの?」
やよい「はい、なかなか終わらなくて……」
美希「たくさん残ってるじゃない。教室の戸締りをしたいんだけれど」
やよい「すいません、すぐ終わらせますから……」
美希「………貸してちょうだい」
やよい「えっ?」
美希「手伝ってあげるわ」
やよい「で、でも…」
美希「いいから。さっさと終わらせましょ」
やよい「……はい!」
──────
やよい「……お、おわったぁ…」
美希「お疲れさま。早く先生に提出してらっしゃい」
やよい「はい!…あの、ありがとうございました。本当に」
美希「気にしないでいいわ。さ、職員室もしまっちゃうわよ」
やよい「あのっ!この御礼は必ずしますから!」ダッ
美希「あっ……」
美希「……別にいいのに」
「どうだった?」
「うーん……ここだけじゃまだ難しいです…」
やっぱり頭を抱えるやよい。
「あのね、ミキ的には、ここはやよいがヒロインの優しさに初めて気づく場面なの」
「なるほどー」
「だからね、この先一緒の時間が増えて、
ヒロインのいいところを少しずつ見つけていくためのはじめの一歩なんだって思うな」
少しは納得してくれたかな?重要なシーンだって言ったの。
──────
何日かこうやって演技レッスンがつづくと、やよいも少しずつ役に身が入るようになったみたい。
いいことだね。
「だけど、まだ好きっていう気持ちはよくわかりません…」
うーん。どうしよっかな。
台本を再び読み返しながら、二人で遊園地にお出かけするシーンがあったことを思い出したの。
ドラマの中では、女の子がヒロインへのコイゴコロに気づくシーンなんだけど……
「ねえやよい」
「はい?」
「今度ミキとデートしよっか」
あれ?やよいったら、ちょっとだけ照れてるの。
「美希さんとデートですか……緊張します…」
それで今度の日曜日、二人っきりで遊園地に出かけることになったってわけ。
──────
休日ってやっぱり人がたくさんいるんだね。
人ごみがぎゅうぎゅうでもみくちゃにされちゃいそうなの。
「やよい、はぐれちゃダメだよ」
せっかくだし、やよいの手をギュッて握ってあげた。
最初はためらってたけど、しばらくするとやよいも手を握り返してくれたんだ。
「最初はジェットコースターに乗ろっか?」
あのくらいの高さなら、やよいも大丈夫だよね?
…あれ、そうでもなかったみたいだね。
しょうがないから、メリーゴーランドにしようっと。
色々と乗り物を回ってると、あっという間に夕方になっちゃった。
「楽しいと時間もあっという間だね」
「美希さんは私といて楽しかったですか?」
「当たり前なの。やよいとデートできて嬉しいの」
「…えへへ…私もです」
最後は観覧車に絶対乗るって決めてたから、やよいを引っ張って一緒に乗り場へ向かったの。
ごめんねやよい。でも観覧車のシーンで、やよいはヒロインに恋するんだよ?
そこはちゃんと再現しておいたほうがいいって思うな。
「うぅ……美希さん、怖いですぅ…」
「大丈夫なの。大丈夫なの」
さすがに、ちょっと悪いことしちゃったかな?
下が見えないようにぎゅっと抱きしめてあげると、やよいはちょっとだけ震えていたの。
「大丈夫だよ。ミキがついてるから」
「………はい」
相変わらず外は見れなかったっぽいけど、頂上につく頃にはやよいの声は笑ってたから、まあオッケーかな。
「やよい、台本の中身覚えてる?」
「…はい」
「せっかくだし、ここで再現してみようよ」
やよいは頑張って顔をあげていたけど、手はミキの服をぎゅっと掴んでた。
ダメだよ?シワになっちゃうの。
美希「綺麗ね」
やよい「はい…きれいですね」
美希「ありがとう。おかげで今日は楽しかったわ」
やよい「私も……楽しかったです…」
美希「……どうしたの?私の顔をジロジロみて」
やよい「えっ?い、いえ……何でもありません」
美希「……ふふっ。変ね」
やよい「………」
美希「………」
やよい、がんばって。
やよい「………美希さん」
美希「どうしたの?やよい」
やよい「……わたし、美希さんと会えてよかったと思ってます」
美希「あら。急にどうしたの?」
やよい「だって……私に優しくしてくれたのは、美希さんが初めてで…」
さすが、演技もだんだんと板についてきてるんだね。
美希「私も、心を許せるのはあなたが始めてよ」
やよい「そうなんですか…?」
美希「ええ」
美希「私、貴女のこと好きよ」
やよい「……!」
でも、ミキの演技力もなかなかだよね?
「はぅ………美希さん…」
美希「貴女、他人思いだし可愛いし」
「………あの……」
美希「愛想のない私にもよくしてくれたものね」
「…………」
美希「あなたがいなければ、私も退屈な学校生活を……」
「…………」
あれれ?
「やよい?やよい?」
「…は、はい……」
「どうしたの?台詞忘れちゃった?」
「…えと、違うんです……あの…?」
なんだか様子がおかしいの……大丈夫なのかな?
「具合悪いの?」
「……ごめんなさい。なんだか、すっごくどきどきして……」
「…え?」
やよいの顔、なんだか赤いの……
「………美希さんに『好き』って言ってもらえて、なんだか心がぽわぽわーってなって……」
やよい、様子が変だよ?
観覧車を降りたあと、やよいは自分からミキに手をつないで来てくれたの。
もう人も少ないから、はぐれる心配なんてないのに。
「やよい、もう手を離しても大丈夫なの」
「別にいいんです……えへへ……」
そう言ってもっと強くギュッて握ってくるやよいは、
なんだか朝と雰囲気もちがうような気がする。
やよいは次の日から、ずっと私にくっついてくるようになったの。
何でだろう。
──────
美希「どうしたの?こんな時間に呼び出して」
やよい「ご、ごめんなさい………でも、私」
美希「?」
やよい「い、言いたいことがあって……伝えたいことが…」
いよいよクライマックスの練習に入ったの。
やよいはこのシーン以外の練習にたくさん時間を割きたかったみたいだけど、
やっぱり大事なシーンだからここもきちんと練習しておかないとね。
美希「珍しいわね。貴女が言いたい事だなんて」
やよい「………あの……私………」
やよい「美希さんのことが好きです……大好きです……!」
…すっごい迫力。この台詞がまさかやよいから出てきてるとは思えないの。
ミキも思わずドキドキしちゃった。
でも、ヒロインはちょっと冷たい性格なんだよね。ここでやよいを振っちゃうの。かわいそうに…
ミキなら絶対ほっとかないって思うな。
美希「……あなたの気持ちは嬉しいわ。だけど…ごめんなさい」
演技とはいえ、やよいをフるのはちょっと辛いかな……
やよい「………そうですか」
美希「……気を悪くしないで。私はこれでも、あなたのことを大切に……」
やよい「………ヒクッ、いえ……グスッ、いいんです……ィック……」
美希「…………」
やよい、泣く演技上手いの………なんだかこっちまで悲しくなっちゃう。
やよい「わたしっ、いままで……ぐしゅっ、みきしゃんといっしょにいらぇて………」
美希「…………」
やよい「とっれも………たのし…………うわわぁぁぁあん………」
…待って、やよい。そこまで大泣きするシーンだった?
「やよい、やよい。大丈夫?」
「うぅぅ……ごめんあさいぃ……グシュ……」
きっと、演技に身が入りすぎてつい悲しくなっちゃったのかと思ってた。
でも、やよいはビックリするようなことをミキに言ってきたの。
「わたしっ…えんぎでも、みきさんに嫌われたくなくて………グスッ」
え?
ミキ?
「………役とかが関係ないときも、美希さんをみてるとどきどきして……
一緒にいるとすっごく楽しいですし、いられないと寂しいし……」
「やよい……」
「だから、つい………ごめんなさい…」
もう、やよいは可愛いの。
演技に集中しすぎて、役と本当の自分がごっちゃになってたんだね。
だから、ミキに振られたとき、本当に振られた様な気持ちになって……
………あれ?
それって…どういう意味なの?
「…………やよい?」
「……はい…」
「…ミキのこと、好き?」
これは本当に、なんでもない質問。
いつものやよいなら、きっと
『はい!ミキさんのこと、だーい好きですよ!』
って、笑顔で言ってくるはずなの。
だけどね。
「……………ごめんなさい…」
それだけ言って、やよいは黙りこくっちゃった………
ぶへへ(笑顔)
え、えと……どうしよう……
ちょっと困っちゃった……
男の子にコクハクされるのは慣れてるから簡単に「ごめんね」で済むけど、
やよいにそんな冷たいこと言えないし……
結局何も言えないままの私を置いて、やよいは帰っちゃった。
「役者をやってればよくあることよ」
ぶー、律子。そんな言いかたないんじゃない?
これはやよいのためなんだよ!
「よくあるでしょ?映画やドラマで恋人役として共演した男女がそのまま結婚するって話」
「それは分かるけど…相手はやよいなんだよ?」
「それ自体はしばらくしたら落ち着くわ。役に入り込んでいる証拠なのよ」
律子、なんかひどすぎるって思うな。
ミキはドラマで活躍するやよいより、いつもの元気なやよいが好きなのに……
「で?今はやよいと仲直りしたの?」
「仲直り、っていうか……」
「まだなのね」
「うぅ…だって……」
最近はやよい、ミキとあってもあんまりお話してくれないし……
「……今のやよいの気持ちが偽モノだとか、そういうことを教えてやれって言ってるわけじゃないの」
律子が眼鏡をはずしてミキのことをまっすぐに見てくる。
「やよいは、あなたに嫌われたと思ってるのよ」
「そんなわけないもん!」
「でしょう?ならそれを伝えてあげて」
「……そんなのでいいの?」
「私だって伊達にプロデューサーやってないわ」
頭をポンポンってされるのは嫌いじゃないけど、律子が相手だとなんだか余計に恥ずかしいの。
「美希はいつものやよいが大好き。これだけ言えば心配いらないわ」
ホントなのかなぁ……でも、ミキがやよいのこと大好きなのはウソじゃないから。
ホントの気持ちは伝えてあげないとね。ドラマのなかのやよいみたいに。
「律子さーん」
「あら。春香」
「お昼ごはんですよ」
「そう。行きましょうか」
「…ミキ、頑張ってみるね」
そう、と一言だけ言って、律子は春香と事務所を出て行っちゃった。
最近あの二人、仲良いんだね。
社長に聞いたら、やよいは事務所の前の窓を拭き掃除してるって。
階段を下りて外に出たら、やっぱりやよいはそこにいた。
「やよい!」
「はわっ、美希さん………」
やよいはミキを見るとすぐに目をそらして、バケツを片付けようとしていたの。
やよい、これからずっとミキに対してそうするつもり?そんなの、ヤ!
「待って、やよい!」
「あぅっ!?」
捕まえるように手を伸ばして、そのまま抱きしめてあげた。
やよい、すっごく軽いんだね。
「………うぅ、美希さん………」
「やよい。ミキね、やよいのこと大好きなの」
「…ふぇっ!?」
ちょっとは緊張するかと思ったら、別にそんなことはなかったの。
だって、いつも思ってることだもんね。
「やよいはいっつも元気で、かわいくて、優しいから大好きなの!」
「あ、あの、美希さん……?」
「演技の練習のせいでとか、そんなの関係ない!」
「………」
「……大好きなやよいに大好きって言われて、いやな気持ちになるわけないの」
「………」
「お願い。いつものやよいに戻ってよ……お願いなの」
ど、どうかな?これで全部言ってあげたの。
「………うぅ……みきさぁん……」
あ、あれ?
やよい、また泣いちゃった…律子、ウソついたの?
「迷惑かけてごめんなさい……私、あの時どうかしてたみたいで……」
「……今はもう平気なの?」
「……冷静になって考えたら、役と本当の人をごちゃ混ぜにするのはよくないかなーって……」
なぁんだ。やよいはとっくにいつも通りだったんだ。
「でも、美希さんを困らせちゃったのは本当ですから……これからどうしようかって、ずっと思ってたんです」
「……困ってなんかないの」
「嫌われちゃったらどうしようかって、ずっと悩んでたんです……」
「……嫌いになんかならないの!」
何だか安心して、やよいの頭をナデナデしてあげたの。
「……よかったら、演技の練習最後までつきあおっか?」
「……はい!」
よかった。いつものやよいだね。ミキ、安心したの。
演技の練習の前に、お掃除終わらせようね。
二人でやればすぐ片付くって思うな。
──────
結局、やよいのドラマは大ヒット。
同姓の相手に恋するジレンマを上手く表現できてるって、大評判だったって。
さすがやよいなの。ミキも負けてられないね。
「ミキさん!レッスン一緒に行きませんか!?」
せっかくお昼寝してたところだけど、やよいと一緒ならミキも頑張るよ。
でもその前に、確認しておきたいことがあるんだよね。
「やよい、ミキのこと好き?」
「はい!私ミキさんのことだーい好きですっ!」
終わり
亜美
すまん亜美真千早ぴよだった
st
まこ
亜美のいたずらに耐えかねて怒っちゃうけど結局最後は許すまこちん
>>325訂正
同姓→同性
あとやよいの台詞内のミキ→美希で
19時くらいから再開
晩飯カレーなのに……
ほ
最近のボクは、写真撮影と聞いただけで憂鬱になる。
どうせまた、男装に近い格好で写されるに決まってるから。
雪歩や美希あたりは「カッコイイところも真ちゃんのいいところだよ」なんて言うけれど…
今のところは不満しか残ってないんだ。
今日もプロデューサーから聞いた撮影の内容は似たようなものだった。
「もう……せめて女の子の格好をさせてくれよ……」
そろそろ我慢の限界だ。せっかく髪も伸びて…バストだって昔に比べて大きくなったのに!
ボクのことをかわいいなんて言ってくれるのはせいぜいあずささんか小鳥さんくらいなんだもの。
もっと同世代の子にほめられたいんだよ、ボクは!
柄にもなく考え込んでイラついていると、亜美がやってきた。
片手にはボクの写真を握り締めて。
キタワァ(n‘∀‘)η゚・*!!
「まこち~ん、さっすがカッコイイですな~」
きっと悪気はないんだと思うけど、その話題は今はやめてほしいんだ。
真美が一緒になってやってくるんじゃないかと思って事務所を見渡しても、特に見当たらなかった。
そういえば雪歩もさっきから姿が見えないな。どこに行ったんだろう?
「みてみてこれ→、スーツビシッと決まってるね→」
亜美の見せびらかしてきた写真の中では、
ウエディングドレスに身を包んだあずささんの隣にいるボクは新郎役だった。
そりゃ、あずささんには女の子らしさではかなわないけどさ……
「まこちんまこちん、あずさおねえちゃんの王子様役になった気分は?一言どうぞ!」
「……やめてよ、亜美」
手でマイク型を作ってこっちに向けてくる亜美。
悪いけど、今はそういう気分じゃない。
「ごめん亜美、ボクトイレ行くから」
「男子トイレならいま兄ちゃんが使ってるよ~」
「やめてくれよっ!」
勢い良くバァンと机を叩いて、そのまま立ち上がる姿勢になってしまった。
亜美がビクッ、と肩を震わせた。
「ボクを馬鹿にするのもいい加減にしろよっ!いっつもいっつも男扱いして……」
「ち、ちがうよ…ただ…」
「どうせこんなナリでアイドルやってるボクを、陰で笑ってるんだろ!」
「そんなわけ……」
「もういい!」
「ま、待って…まこち……」
ソファで雑談していた春香や美希が黙ってこっちを見つめている。
雪歩と真美も給湯室から顔を出してきた。二人ともそこで何をしてたんだろうか。
亜美の声を無視し、事務所を飛び出してトイレへと向かう。
何やってるんだよ、ボク……よりによって年下の亜美に八つ当たりなんて……
用を足しているとさっきまでの悩みはもうどうでもよくなっていて、
早く戻って亜美に謝ろうという考えだけが残っていた。
だけど遅かった。
事務所に戻った頃にはすでに亜美は竜宮小町ごと仕事へ出かけてしまっていた。
はぁ……ボク、最悪じゃないか。
メールじゃダメだ、明日朝イチでなんとかしなきゃね。
──────
次の日事務所へ来ると、珍しく春香と律子が二人で話をしていた。
なにやら相談事があったらしいけど、今のボクにはどうでもいい。
ソファに座ってどう話を切り出そうか迷いながら落ち着きなく待っていると、
しばらくして亜美と真美が二人一緒にやってきた。
「おっはよ→!」
「おはようございまする諸君!」
二人の、特に亜美のいつも通りの元気っぷりを見て、ボクは少し安心した。
よかった、あんまり気にしてなさそうだ……
ゆっくり立ち上がって二人に歩み寄りながら、
「おはよう二人とも!ねえ亜美、昨日のことなんだけど……」
「お、おはようまこちん!今日はなんだか可愛いんじゃない!?」
……え?
……今、何ていった?
「い、いやー、まこちんはさー…クールなところもあるけど、可愛いところもあるって言うかさ」
「朝からそういう可愛さがばい→んって出てる感じがするよね!」
何だ?何でボクのことをそういう風に言うんだよ?
「亜美、どうしちゃったのさ。真美も……」
「何が?亜美たちはいつも通りだYO」
「へ、変なまこちん」
「でも、ドジなところも可愛いって言うか~」
不自然を通り越して、不気味な気分だった。
「絶対変だよ……」
「そんなことないよ~」
周りを見ると、春香も律子もとくに何も言おうとしていなかった。
もう食べた
ブビュルブブッブリブリブリブービュブビビブボブビュビュビュー!!!!!
──────
それから亜美は、ことあるごとにボクに対して「かわいい」を何度も言ってきた。
あまりにビックリしすぎて、昨日のことを謝らなきゃと言う思いを完全に忘れてしまっていたほどだった。
「まこちん、その服かわいいね!」
「まこちん、今日の髪型かわいいね!」
「まこちんならこういう可愛い衣装もいけるんじゃない!?」
「まこちんって可愛いよね→、もう可愛さの権化と化してるよね→」
「まこちんて可愛くない?むしろ可愛いってまこちんじゃない?」
「ねえねえミキミキ、ミキミキって可愛いけどもしかしてまこちんなの?」
もうわけが分からない。
昼過ぎを待つ前にボクは耐え切れなくなって、亜美を屋上に呼び出した。
思えばこういう行為を平気で行うこと自体、ボクが可愛いと言われない理由のひとつなのかもしれないけど。
柵に身を預けて景色を眺めていると、後ろで遠慮がちに扉を開く音が聞こえた。
亜美がやってきたのだ。
「…まこちん」
「亜美。よかった、来てくれて」
とぼとぼとこっちへ歩いてくる亜美の様子を見て、
わざとらしくカワイイを連呼していたさっきとは随分違う印象を受けた。
「……あのね、亜美」
「まこちん、ごめんなさい……」
ボクが謝ろうとする前に、なぜか亜美が謝ってきた。どうして?
「昨日、まこちんのこと男みたいな言い方して……まこちん怒らせちゃったから……」
「……なぁんだ」
気合を入れて謝罪の言葉を考えてきたのはどうやら間違いみたいだったね。
「気にしてないよ」
「…ホント?」
「うん、慣れてるし。ボクのほうこそ…怒鳴っちゃったりしてごめん」
そういうと、亜美は安心したように笑ってくれた。こういうのが本当に「可愛い」って言うんだろうな。
一応仲直りはできたけど、亜美がどうしても埋め合わせをしたいといって聞かなかったから、
ある約束を取り付けた。
休日の一日、今度はきちんとボクを女の子扱いして一緒に過ごしてくれるって。
今日の出来を見ると大して期待はできなさそうだったけど、
それでも嬉しかった。
──────
休日になって、ボクは駅前で亜美の事を待っていた。
わざわざ千早に頼んで選んでもらった今日の服装は、
フリフリとは言えないけどしっかりと女の子らしいカジュアルスタイル。
ちょうど千早の私服と似た感じだけど、ボクにも似合いそうということで薦めてくれた。
ありがとう、千早。
待ち合わせぴったりの時間になって、亜美がゆっくりと歩いてきた。
いつも通りの動きやすい服装をしていた。
「ごめんまこちん、待ったー?」
「ううん、今来たとこだよ」
しまった。これじゃボクがまた男みたいじゃないか。
「……まこちん、今日の服…オシャレだね」
気にせず亜美が続ける。
この前の無理な演技とは違って、とっても自然に出てきてくれたんだろうか。
「…あ、ありがとう…亜美」
少し返事に遅れちゃった。
ああいう風に言われると、人間真に受けるんだね。
今日はどこへ行くのかな?
亜美、好きなところにつれてってよ。全部任せるから。
一緒にパフェを食べたり、亜美に似合いそうな服を探したり、
竜宮小町のCDを試聴したり、可愛い雑貨屋さんを巡ったり………
何かをして一緒になって笑っているボクをみて、亜美はここぞと言うタイミングで
「まこちん、そうしてると可愛いよ」
なんて言ってくれたりした。なんだろう、心が温かくなる。
傍から見れば亜美のほうが可愛いに決まってるのに、今日に限っては
亜美がボクに対してそう言ってくれるだけですごく嬉しかったんだ。
ボクもまけじと
「亜美のほうが可愛いよ」
なんて言ってみるけれど、どうやら今日は効かないみたいだね。
説得力がないなんていわれちゃった。へへっ。
だけど、いい事ばかりではなかった。
次の行き先を決めながら街を歩いていると、突然誰かに話しかけられたんだ。
「君たち、可愛いじゃん。どっから来たの?」
チャラチャラした二人組の男だった。
石油王「君たち、可愛いじゃん。どっから来たの?」
「…まこちん、どうする?」
亜美が耳打ちで相談してくる。
これがナンパって奴なんだ。初めてされちゃった。
そういう意味では光栄だったけど、あいにく今日は亜美と二人っきりで過ごす約束をしてるんだよね。
「あの、ボクたちは……」
「は?ボク?」
なんだか怪しげにボクを見つめる二人組。
「おい、コイツ男じゃん」
「なんだ。彼氏かよ、行こうぜ」
……やっぱり。ちょっと女の子っぽい格好したくらいじゃ、普通の人から見るとそんなもんなのか。
でも、ナンパを追い払えたし結果オーライだね。
心の中で少しがっかりしながら、亜美のほうを見る。
「何言ってんのさ!まこちんは可愛いおにゃのこだもん!!」
二人組に対し、食って掛かる亜美。ちょっとちょっと、どうしてそんな馬鹿みたいなこと言うのさ!?
亜美にそう言いかけたとたん、ボクはハッと思い出した。
──休日の一日、今度はきちんとボクを女の子扱いして一緒に過ごしてくれる──
あの約束を。
「コイツなに言ってんの?」
「いや待て。良く見るとこいつ女かも知れねえぞ」
「あ?マジ?」
そういいつつ、僕の顔をジロジロ見る男。気味が悪い。
亜美はばかだなあ。せっかくボクの顔のおかげで男を追い払えたかもしれないのに。
亜美だって、…ほらこぶしを握り締めて震えてるじゃないか。こいつらが怖いんだろ?
そんな無理しなくてもいいのに……
「おい。お前どっちだ?」
こんな失礼な質問をするような奴に、亜美に手を出させたりしない。
ごめんね、亜美、せっかくがんばって約束を守ってくれようとしてるのに、
ボクのほうが台無しにしちゃって。
「そうだよ。ボクはこの子の彼氏だ。分かったらどっか行ってくれないか」
そう言うと、男達は渋々人ごみに消えていった。
無事に済んでよかったけど、やっぱりちょっと空しいや。
──────
「亜美、気にしなくていいよ。亜美のせいじゃないんだから」
「………」
「……もう……」
亜美のやつ、そんなにショックだったの?
「……だって…亜美のせいで、まこちん男扱いされて……」
…参ったな。ボクが見ず知らずの人間に男と呼ばれることくらい、
いまさら珍しいことでもないはずなのに。
「……ごめんなさい」
「いいんだって。あんな奴らに何を言われてもなんとも思わないよ」
「……約束、守れなかったね」
「いいんだ」
ボクはそっと亜美の手をとって、優しく握ってあげた。
なんだか形勢が逆転しちゃってるような気がするなあ。ま、こういうのがボクらしいといえばそうだね。
「亜美が無事だったから、今日はそれで十分だよ」
我ながら臭い台詞だったかなあと後悔する。
「……まこちん…やっぱカッコいーね」
「…あっ!言ったな?」
「…でも亜美、カッコイイまこちんのほうが好き……かも」
……そういう風に言われると、何だか反論できなくなっちゃうなぁ。ずるいや。
「亜美がそう言ってくれるなら、ボクもしばらくはカッコイイままでいいや」
「…えへへ、まこちんホントにカッコよかったよ」
「……そう?」
「亜美の王子様みたいだった!」
王子様ねぇ……ちょっと気になったけど、今日は特別に許してあげようかな。
別に、今すぐ雪歩みたいに可愛くなりたいなんて贅沢も言うつもりないし。
亜美にはまた今度、「カワイイ」ってほめてもらおう。
終わり
失速感が否めない
さいごはちはぴよです
シチュ>>380
夏祭り
ドッキリ
夏祭り
休憩
夏になる前に、765プロではアイドルのみんなの身体測定を実施します。
やっぱり水着なんかを着る機会も多いですから、
成長期の子供達にはちゃんとサイズのものを用意しなければいけませんしね。
ほとんどのアイドルは背が何センチ伸びたとか、
体重がどの位増えただとか、もちろん3サイズの変化なんかにも敏感で、
毎年ちょっとしたお祭り騒ぎになります。
もちろん、社長とプロデューサーさんは蚊帳の外ですけど。
残念がる歳でもないので表面上は平静を装っていますが、ふふっ。実際はどうなんでしょう。
今日はその測定が終わった後の夜です。みんなもう先に帰っちゃって、今は事務所に私一人。
何だかつまらないなぁと思い始めた頃、玄関をノックする音が聞こえました。
「あら?誰かしら」
ドアを開けて入ってきたのは、千早ちゃんでした。
訂正
ちゃんとサイズ→ちゃんとしたサイズ
「音無さん……お疲れ様です」
「お疲れさま。こんな時間にどうしたの?」
「実は……」
「ええ。何の用?」
ボイストレーニングの帰りかしら?
夜遅くまで、お互い精が出るわね。
しかし、千早ちゃんが持ちかけてきたお話は、
意外と言うかなんと言うか……
「……今日の件です」
…千早ちゃん、事務所で一番スレンダーだものね。
あまりデリケートな話は避けたいけれど、
最近では亜美ちゃんや真美ちゃんが急成長して、
やよいちゃんにも追い抜かれちゃったのよね。
今年の測定結果についてちょっとストレートな表現を使わせてもらうと、
千早ちゃんは今年見事事務所一の貧乳の座を欲しいままにしたのです。
ごめんなさい。
「…結果は分かっているんです。亜美も真美も、高槻さんも…まだ中学生ですもの」
「…そうねぇ」
「いずれこうなることは覚悟していました……」
うーん…千早ちゃんもまだ高校生なんだし、一応成長の余地はあると思うんだけれど。
ちょっと悔しそうにしているいじらしい千早ちゃんがなんだか可愛く見えてきて、
思わずいたずらしたくなっちゃいました。
ちょっとしたドッキリを仕掛けるだけだから、別にいいわよね?
「…誰より大きいとか、誰より小さいとかは関係ありません」
「…つまり?」
「……去年の私と比べて、どうでしたか?」
…うん。計画通りね。
「そのことなんだけどね………」
「…はい」
「千早ちゃん………」
「…………」
千早ちゃんがどんな気持ちで私の言葉を待っているのか、容易に想像できます。
でも、事務員音無小鳥。たまには鬼にでもなれるんです。
「…………1cm、縮んでたわ」
千早ちゃんはへなへなと地面に座り込んでしまいました。
「……うそでしょう……まさか……」
「…………私もそう言いたいわ…」
「……くっ………どうして、こんな……!」
そうでしょう。きっと悔しいと思うでしょうね。
一体何が原因なのかしら…慢心?環境の違い?
いろいろと頭をめぐらせることは多いでしょう。
おそらくどん底の気分だと思うわ。私のせいだけど。
でもね千早ちゃん、人が下に落ちるのはどうしてだと思う?
……再び這い上がる術を学ぶためよ。
頑張りなさい、千早ちゃん。あなたにはまだ無限の可能性がある。
そういう言葉を投げかけようと、私は椅子から立ち上がり、
座り込んだ千早ちゃんのもとへ歩み寄ろうと………
「………っ、ひっく、うぅっ、ぐしゅ……ぁぁぁぁああん…………」
ガチ泣きでした。
あーあ泣かした(歓喜)
「あぁぁぁっ……ぅゎぁぁぁぁぁあん………!」
「ちょ、ちょっと千早ちゃん!落ち着いて!」
「わたひがなにしらっていふのょぉぉぉおっ………!!」
……何ということでしょう。
765プロ屈指の歌姫が、その美声発する喉を力の限り震わせ、
自らの残酷な運命を嘆いているその様子は………
なんだか、とってもそそります。
「いっく、えぐっ、うぐっ、……ぁぁぁぁぁぁあん………!」
「ち……千早ちゃん………ごくり……」
ち、違います!流石に私もそっちの趣味は……
でも、普段大人っぽい千早ちゃんがこうやって子供みたいに泣くのも
すっごく新鮮な感覚です。
ただ…どうしましょう、これドッキリの収拾つかなくなりそうね……
「千早ちゃん……大丈夫………?」
「……っく、グスッ………ごめんなさぃ……」
「心配いらないわ…お姉さんがついてるから……」
千早ちゃんを優しく抱きしめてあげると、こてんと頭を私の方に預けてきました。
あら、ホントにかわいい。
「………音無さん……」
しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した千早ちゃんは、
私から一旦離れてすっくと立ち上がりました。
その表情はなんだか覚悟を抱いたように強く、鋭く私の視線を捉え……
でも、鼻声と泣き腫らした目のおかげで緊張感に欠けます。
「何かしら……」
「私、真剣です」
千早ちゃんはしばらく言うのに戸惑っていたみたいですが、
ようやく一言だけ、私にこう言いました。
「胸を大きくするのに協力して、もらえませんか……」
「はい」
そして私は無意識に二つ返事をしてしまったのです。
──────
「狭いけど、入って」
「失礼します……」
とりあえず事務所の戸締りを済ませ、せっかくなので千早ちゃんを連れて帰宅しました。
少しだけ散らかってるけど、我慢してね?うふふ。
「…綺麗なお部屋ですね」
あら、どうもありがとう。そっちの棚は絶対に開けちゃだめよ。
随分と遅くなりましたが、晩御飯の時間です。
千早ちゃんは
「こういうのが効くんですか?」
と色々尋ねてきましたけど、適当にそれっぽい解説をして受け流しました。
だって、コンビニで買ってきたグラタンのどこに豊胸効果があるって言うんですか?
「千早ちゃん、胸を大きくするなら一番効果があるのは分かるわよね?」
「……マッサージです」
「正解♪」
さすが千早ちゃん、ある程度の知識は持っているみたい。
「…他人にしてもらうと効果があがると言うのも」
「……そうね」
そうね、とは言いましたが、そんな根拠はありません。
というか、それを教えたのは昔の私です。千早ちゃん、すっかり本気にしちゃってるのね。
「歌以外に興味はない」と言っておきながら、やっぱりその手の話に敏感なお年頃ですもんね。
……私、つくづく鬼なんじゃないでしょうか。
飯
ブビュルブブッブリブリブリブービュブビビブボブビュビュビュー!!!!!
「マッサージ…してあげましょうか?」
あくまで淡々と提案してみます。
「……………」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ」
千早ちゃんは恥ずかしそうに目をそらしながら、
「………お願いして、いいんでしょうか……」
奇蹟のカーニバル、開幕です。
──────
脱衣所って、二人だと結構狭いんですね……
全部脱ぐのも一苦労です。
先に裸になった私を見て、千早ちゃんがなんだか苦い表情をしていました。
……年甲斐もなく、ちょっと優越感
安心して、千早ちゃん。あなただって十分魅力的よ。
一糸まとわぬ姿の千早ちゃんは、折れそうなくらい細くて綺麗でした。
「まずはきちんと体を温めないとね」
千早ちゃんには先に湯船に浸かってもらい、私は体を洗っていきます。
頭、腕、肩、指……いつものようにスポンジでゆっくりなでていきます。
千早ちゃんの視線が、ほんの少し気になりました。
「いえ…音無さん、スタイルいいですね」
うふふ。ほめても何もでないわよ?
俺は何か出そうです
一通り体を洗い終えたあと、一旦千早ちゃんには湯船から上がってもらいます。
いつも真っ白な千早ちゃんの頬がほのかに赤く染まっていて、なんだかセクシーです。
「もう……やめてくださいっ」
あら。声に出てたかしら?ごめんなさいね。
「あの……あまりジロジロ見られると、恥ずかしいのですが……」
そんなに視線が気になるかしら?駄目よ、アイドルなんだから慣れないと。
「こういう場面に慣れる必要はないと思うんです……」
確かに、恥じらいを重視する男の人は多いものね。
>>419
つトイレットペーパー
「しっかり洗えたかしら?体は温まった?」
「いえ、もう少し浸かっていようかと……」
そんなこと言って、恥ずかしくなってきちゃったんでしょう?
まあいいわ。一緒に100まで浸かりましょうか。
「えっ、一緒にですか……?」
「もちろんよ。私だって温まりたいもの」
遠慮がちに再び湯船に入ろうとする千早ちゃんの腕を掴み、
すとんと私の前に座らせてあげます。
うわー、本当に細くてうらやましい。
両腕を腰にまわして抱きしめてあげると、きゃっと可愛い声をあげて反応してくれました。
「千早ちゃん、このままマッサージしてみる?」
「えぇっ!?こ、この体勢でですか…?」
「遠慮しなくてもいいのよ。さあ、身を任せて……」
両手を千早ちゃんのバストの脇に置き、全体を抱え込むようにして中心へ寄せ上げ…
「ひゃんっ
小鳥「…………」ニヤァ
小鳥「……いいわぁ……これはいいわぁ……」ニヤニヤ
小鳥「………」
小鳥「はっ!?」
P「気づきました?」
小鳥「……プロデューサーさん…!?」
P「あずたか」
小鳥「」ビクゥ
P「ひびいお」
小鳥「」ビクゥ
P「まみゆき、はるりつ、みきやよ、あみまこ」
小鳥「」ビクビクゥ
P「あげく自分と千早ですか」
P「感服いたします」
小鳥「」ビクビクビクゥ
P「まあ、いい画が撮れましたよ。おかげさまで」
小鳥「ひぇっ!?」
P「小鳥さんがはるちはまこゆきなどに飽きてマイナーなカップリングでアヘアヘしているその様がね」
小鳥「まさか……!?」
『ドッキリ大成功』
小鳥「ま、待ってください!はるちはに飽きてなんかいませんってば!!!」
ようこそ。
このSSはサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このスレタイを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「可能性」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って
この百合スレを立てたんだ。
じゃあ、今日はもう解散しようか。
終わる
正直最初の安価で心が折れていた
小鳥さんが何とかしてくれると思った
乙ブビュルブブッブリブリブリブービュブビビブボブビュビュビュー!!!!!
ブビュルブブッブリブリブリブービュブビビブボブビュビュビュー乙!!!!!
>>434
おまえはちょっとお腹ユルすぎだな
つオムツ
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