折木「えるたそ………」 福部「」(121)

―――地学準備室(古典部部室)


福部「………」

折木「…………」ペラッ

福部(ホータロー……今何て言った?)

福部(幻聴……いや、聞き間違い?)

折木「里志」

福部「えっ、あっ、な、何だいホータロー」

折木「何をそんなにうろたえる」

福部「べ、別にうろたえてなんていないよ?」

折木「変なヤツだな……」ペラッ

福部(キミにだけは言われたくないよホータロー……)

ヒュオーゥ

折木「窓閉めてくれ。風が冷たい」

福部「あ、うん。わかったよ」ガラガラッ

折木「すまんな」ペラッ

福部「いいさ」




折木「チタンダエルまじ大天使………」

福部「」


福部(今絶対言った!絶対大天使って言ったよ!)

福部(これは突っ込むべきなのか、それとも聞かなかったことにするべきなのか……)

福部(………よし!)

福部「ホータロー」

折木「何だ?」

福部「今日は何を読んでるんだい?」

福部(あいだを取って話を逸らす!)

折木「どうしたんだ急に」

福部「いや、今日のはやけに分厚いから気になってさ」

折木「千反田のようなことを言うんだな」

福部「私、気になります!ってやつかい?」

折木「それ以上その似てない声マネをしたら蹴り殺す」

福部「」

福部(ええと………うん、まあ今のは僕が悪い。
   そういうことにしておこう。その方がいい……)

折木「今日は古書肆が憑物落としと称して謎を解くアレだ」

福部「ああ、あのシリーズ」

折木「主人公のスタンスは尊敬せざるを得ない」

福部「肉体労働はしないって誓ってるんだっけ」

折木「俺もあやかりたいものだ」

福部「でも本のチョイスとしてはホータローらしくないな」

折木「そうか?実に俺向きだと思うが」

福部「だって文庫本なのに文章量が半端じゃないじゃないか」

折木「実のあるセンテンスはごく一部だ。後は斜め読みでも理解できる」

福部「今その発言でシリーズファンの4割を敵に回したよ」

折木「それに一冊で普通の文庫の数倍はヒマが潰せる」ペラッ

福部「それなりの値段だけどね」

折木「ハードカバーを買ったと思えば安いものだ」

福部「………そんなものかな」

折木「話は変わるが里志よ」ペラッ

福部「何だいホータロー」

折木「『折木える』という名前はエゼキエルっぽくてちょっと語呂がいいと思わないか?」

福部「もうフォローしきれねえよ!」

折木「いきなり大声を出すな」

福部「うるせえよ!黙って聞いてりゃあさっきから何なんだお前は!」

折木「落ち着け里志。キャラが崩壊してるぞ」

福部「だからお前にだけは言われたくねえよ!!
   何だ『えるたそ』って!!何が『チタンダエルまじ大天使』だよ!!!」

折木「………」ソーッ

福部「おもむろに眼鏡をかけさせようとすんな!っていうか何処から出したその眼鏡!!」ガッシャーン

折木「いや、その方がツッコミっぽくなるような気がして」

福部「誰の所為だと思ってんだぁぁぁぁ!!」

―――数分後

折木「何かすまんな」

福部「いや、もういいよ。全てがどうでもいい……」

折木「ところでどこまで話したんだったか。なぜ千反田があんなにかわいいのか、だっけか?」

福部「さっきからどうしたのホータロー?豆腐の角に頭でもぶつけたの?」

折木「何だ、お前は伊原派だったか」

福部「だからそういう問題じゃねえっつってんだろうが!!」

福部「大体キミの主義は省エネじゃなかったかい?」

折木「俺の主義主張と千反田がかわいいという事実に関係はないと思うが」

福部「うん、まぁ……うん?」

折木「大体高校生にもなって省エネとか痛すぎるだろ」

福部「自覚はあったんだね」


折木「大体省エネって何だ。老荘思想か」

福部「『無為』の意味をはき違えてるような気がするけどまあいいや。それで?」

折木「いや、千反田ってつくづく俺たち童貞の理想というか妄想が具現化したような存在だなって思って」

福部「ちゃっかり僕まで童貞認定されちゃったよ」

折木「違うのか?」

福部「そうだけれども!」

折木「考えてもみろ。学校屈指の美少女で名家の令嬢、その育ちにふさわしい気品、そして頭はいいがちょっと勘が鈍いというギャップ。
   言うことなしだろ」

福部「そしてあの美しい黒髪!」

折木「あ?」

福部「」

折木「それはどういう意味だ?」

福部「いや、だからやっぱり黒髪は最高だよねって……」

折木「…………ハァ」ヤレヤレ

福部「え、何その『お前何も分かってないな』みたいなため息」

折木「お前何も分かってないな」

福部「ホントに言ったよ!」

折木「いいか?確かに千反田の髪は美しい」

福部「うん」

折木「鴉の濡れ羽色とはああいう髪を言うんだろうな」

福部「緑の黒髪とも言うね」

折木「そうだな」

福部「ちなみここでいう『緑』っていうのは『若々しい』くらいの意味でグリーンとはあまり関係がないらしいよ」

折木「へぇ」

福部「」フフン

折木「でも今はどうでもいい」

福部「」


折木「俺が言いたいのは、千反田は黒髪だから可愛いわけではないということだ」

福部「というと?」

折木「茶髪だろうが金髪だろうが千反田はかわいい」

福部「ああそういう……」

折木「金髪の千反田……ものすごく見たい」

福部「茶髪でもいいね」

折木「ショートにしちゃったりな」

福部「おでこも出してみたり!」

折木「千反田はおでこもきれいだろうな」

福部「あ、でもデコキャラは僕と被っちゃうね!」

折木「あ゛?」

福部「すみませんでした」

福部「それで、いつ告白するんだい?」

折木「何を?」

福部「えっ」

折木「えっ」

福部「それはマジで言ってるのかいホータロー」

折木「だから何が」

福部「いや、だって好きなんだろ?千反田さんが」

折木「好きどころじゃない。愛してる」

福部「お、おう」

折木「それがどうした」

福部「どうしたっていうか……それならその熱い思いを千反田さんに届けようとは思わないのかい?」

折木「意味が分からん」

福部「どうしてだい?……ハハーン、まさか今更『恋愛なんてエネルギーの浪費だ』、なんて言い出すんじゃないだろうね?」

折木「違う」

福部「じゃあどうして?」

折木「もし振られたら立ち直る自信がない」

福部「」

折木「死にたくなるどころかその場でショック死する自信がある」

福部「そんなに好きなのか……」

折木「愛してる」

福部「………そんなに愛してるのか」

折木「そもそもだ」

福部「うん?」

折木「俺の千反田に対する感情が恋愛感情なのかすら定かではない」

福部「出来の悪い少女漫画みたいなこと言い出したね」

折木「どう思う?」

福部「知らないよ。心の底から」

福部「じゃあ、その、ほら。あんなことやこんなことしたいとか思わないの?」

折木「あんなことやこんなこと?」

福部「………健全な男子高校生なら一度は思うことだよ」

折木「お前千反田のことそんな目で見てたのか。最低だな」

福部「今日のホータローは95割増しでうざいね」

折木「そういうアレではないんだよなぁ。何というかこう……」

福部「うん」

折木「溺愛したい」

福部「はい?」

折木「言い方を変えるなら全力で可愛がりたい」

福部「とうとう全力とか言いだしたよ」

折木「膝枕で昼寝とかさせたい」

福部「膝枕『されたい』じゃなくて?」

折木「違うな。スイカとメロンくらい違う」

福部「どっちもおいしいねってか」

折木「寝る前に本とか読んでやりたい」

福部「あ、でも全部読み終わるまで寝付かないんじゃないかな」

折木「なぜ?」

福部「『私、続きが気になり』……」

折木「殺すって言ったよな?」

福部「ごめんなさい」

折木「眠りについたのを確認したら寝顔を堪能した後起こさないようにそっとドアを閉めたい」

福部「段々詳細かつ気持ち悪くなってきたぞ」

折木「でもなぁ」

福部「どうしたんだい?」


折木「いや、身の回りの世話をするのはいいんだが」

福部「うん」

折木「千反田って自分のことは大概自分でできそうだな、と」

福部「ああ、なるほど。確かに意外に生活能力高そうだもんね」

折木「いざとなったらやることないんじゃないか?」

福部「でもお世話したいんだろう?」

折木「できることは自分でやらせたいんだよ」

福部「お母さんか」

折木「なぁ」

福部「何だい?」

折木「千反田ってモテるのか?」

福部「ああ、やっとその話題なんだ。
   そうだね、一年男子を中心にかなり人気は高いみたいだよ」

折木「本当か」

福部「本当さ。僕のデータベースに間違いはないよ」

折木「ほう」

福部「告白とかもチョクチョクされてるらしいね」

折木「マジか」

福部「うん。今月だけで4回は下らないんじゃないかな」

折木「ふぅん」

福部「どうする、ホータロー?」

折木「どうもしないさ」

福部「へぇ?」

折木「ただ」

福部「ただ?」

折木「千反田を困らせるような輩はそのうち学校に来なくなるかもな」

福部「いいね。僕好みの回答だ」

折木「お前の好みなど知らん」

福部「そうかい。でも安心していいよ。千反田さん、全部断ってるみたいだから」

折木「何だと?」

福部「うん。取りつく島もなくバッサリだって。
   振られた本人たちから直接聞いたんだから間違いない」

折木「」グッ

福部「ホータロー、今僕に見えないようにガッツポーズしただろ」

折木「しとらん」

福部「いや、絶対したね!」

折木「してないと言っている」

福部「………断ってる理由も知りたいかい?」

折木「……………興味がない」

福部「ふぅーーーーん?」ニヤニヤ

折木「生え際後退させてやろうか?」

福部「」サッ

グゥー


折木「………腹が減った」

福部「そりゃあれだけ喋りまくればね」

折木「………帰るか」ガタッ

福部「そうだね」ガタガタッ


折木「千反田も伊原も来なかったな」

福部「用事でもあったんじゃないかな?」


ガラガラッ


千反田「…………」

伊原「……………」ニヤニヤ

折木「」

福部「」


折木「いつからいたんだ」

伊原「ふくちゃんが大声でアンタに突っ込んでたあたりからよ」

折木「千反田」

千反田「………はい」

折木「全部聞いてたのか?」






千反田「……………………ポッ」




折木「……………死のう」ツカツカガッ

福部「待ちなってホータロー!ここ四階だから!!」

折木「確実に死ねるな」グイグイ

福部「だから落ち着きなって!!」

伊原「そうよ。下に人がいたらどうするの」

福部「そう!そうだよ!!」

福部(ナイス摩耶花!)

伊原「死ぬなら誰にも迷惑がかからないように一人でひっそり死になさいよ」

折木「そうだな」ダッシュ!


福部「あっこら待てホータロー!!千反田さん!摩耶花!捕まえて!!」

伊原「げっ、コッチ来た!」

千反田「…………えいっ!!」

ギュッ

折木「おふっ」

ドサッ

折木「……ってぇ」

福部「千反田さん、ナイスタックル!」

伊原「だ、大丈夫、ちーちゃん?」

千反田「私は、大丈夫です……」ムクッ


折木「………」

福部「観念した方がいいんじゃないかな、ホータロー」

伊原「そうそう、年貢の納め時よ」




千反田「…………折木さん」

折木「…………何だ、千反田」

千反田「…………わ、私、その……」

折木「…………」




千反田「私も、気になります。そのお話の続き――――」




―――翌日・昼休み

伊原「平和ねー」モグモグ

福部「そうだね」モグモグ

伊原「空は青いし」

福部「弁当は美味しいし」ゴックン

伊原「言うことないわね」

福部「そうそう」

伊原「…………あんなのがいなければね」



折木「おい千反田、顔に米粒ついてるぞ」

千反田「えっ?どこですか?」

折木「ほら、口の横」ココ

千反田「ここ、ですか?」

折木「違う、逆だ逆。……こっちだ」ヒョイパク

千反田「あっ……」

折木「早く取らないからだ」モグモグ

千反田「もぉー折木さん!」ポカポカ



伊原「……何アレ。気持ち悪いんだけど。主に折木が」

福部「まぁまぁ。千反田さんも嬉しそうだし」

伊原「………私もふくちゃんと……」ボソッ

福部(………聞こえない聞こえない)



折木「この卵焼きも美味そうだな」

千反田「ありがとうございます」ニコニコ

折木「お前が作ったのか?」

千反田「はい!……あの、お一ついかがですか?」

折木「お、気前がいいな」

千反田「はい、あーん」

折木「あー……ん」パクッ

千反田「どうですか?」

折木「もちろん美味い」モグモグ

千反田「本当ですか?」

折木「ああ」ナデナデ

千反田「うふふ、嬉しいです!」





伊原「折木しねばいいのに」



おしまい

これにていったんおしまいです。
保守・支援ありがとうございました。

昨日書いたSS↓
える「スケッチブック……?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1337897838/)
に引き続き今日も氷菓SSを書いてみました。

VIPでSS書くの本当に楽しいですね。
ではまた。

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