P「覚醒美希は可愛いなぁ」(159)

事務所。

P「これを見るためにXBOX買ったんだもんな~」

美希「あふぅ」

P「それに比べて、この子は……」

美希「ねぇ、プロデューサー。ミキ、キャラメルマキアート飲みたいってカンジ」

P「ほほぅ、それで?」

美希「買って来て」

P「あのなぁ、俺は美希のパシリじゃないんだぞ」

美希「ム、買ってきてくれなきゃ、や! じゃないと、ミキ今日のお仕事できないの!」

P「はぁ……やれやれ、わかったよ」

美希「ふぅ、やっと行ったの」

伊織「にひひ、あんなオタクをプロデューサーだなんて、あんたって物好きね」ニヤニヤ

美希「でこちゃんうるさいの!ミキだって、好きで一緒にいるわけじゃないもん!」

亜美「くくっ、ミキミキかわいそ→。あの人って見た目は普通なのに、オタクじゃねぇ~」

あずさ「気配りもできる方なのに、事務所でゲームさえしなければ良いのだけれど……」

律子「仕事もできるのに、ゲームの所為でアイドル達からは引かれてますからね」


 覚醒美希『ねぇ、ハニー!』


伊織「ぶはっ、くくっ……い、今、ハニーって、くくくっ」

亜美「ミキミキィ~、積極的だねぇ~」ニヤニヤ

美希「ミキはそんなこと言わないのっ!」


あずさ「ふっ、二人ともっ……わ、わらっひゃ!……悪ひ…わ」プルプル

伊織「あっははははは!」

亜美「にっひひひひひ!」

美希「っ」クルッ、スタスタ…

伊織「くくっ……み、美希、はぁ、はぁ……どこ行くのよ。あいつ戻って来るわよ」

美希「ふんっ、あんな人知らないのっ!」ダッ

――ドン!

P「うわ!っと、走ったら危ないだろ。ほら、キャラメルマキアートだぞ」

美希「いらないのっ!」ダッ

P「あ、おい!」

………。

現場へ移動中。

P「まったく、仕事前に飛び出して行くから焦ったじゃないか」

美希「プロデューサー、あんまりミキに近付かないでほしいの」

P「はぁ?何でだよ?」

美希「オタクがうつるの」

P「オタクって……俺オタクかぁ?」

美希「いっつも事務所でゲームしてるし、立派なオタクだって思うな!」

P「休み時間だけだろ? それに、やってるのも765プロがモデルになったゲームじゃないか」

美希「なんでも一緒なの!みんなだって、プロデューサーはオタクだって言ってるの!」

P「えっ、マジかよ!? ひっでぇなぁ」

美希「っていうか、なんでいつも美希が寝てると隣でゲームしてるの?」

P「……たまたまだよ」

美希「それに、すぐゲームの中のミキと、本物のミキを比べるし」

P「お、やきもちか?」ニヤリ

美希「プロデューサー、本当にキモいって思うな」

P「ま、真顔で言うなよ……」

美希「あーあ、ミキの担当、律子…さんがよかったの」

P「おまっ、本人を前にっ!」

美希「そうすれば、竜宮小町にも入れて、今よりもっと有名になれたって思うな」

P「いや、今以上に有名になれないのは、美希が本気で頑張らないからだろ……」


現場。

P「おはようございます!」

美希「あふぅ」

P「って、こら!挨拶しろって!」

赤羽根P「あ、どうもプロデューサー」

真美「おはよ→ミキミキ」

美希「あ、真美、おはようなの」

P「二人とも早いな、今日はよろしく」

真美「くふふっ、ねぇ、ゲームしてて遅れたの?」

P「え?」

赤羽根P「こら、真美!」

真美「にひひ、ミキミキも大変だねぇ~」

美希「…………」

赤羽根P「あの、プロデューサー」

P「ん、なんだ?」

赤羽根P「(ちょっと美希がかわいそうですよ、なんであんな物を……)」

P「おいおい、あんな物はないだろ。皆がモデルになったゲームだぞ?」

赤羽根P「しかし……」

P「うちはあのゲームで名が売れたわけだし、続編の話だってあるかもしれないぞ」

赤羽根P「はぁ、わかりました、もういいです……こら真美、美希をからかうな!」

真美「は~い」


真美「にひひ、ミキミキも大変だねぇ~」

美希「…………」

赤羽根P「あの、プロデューサー」

P「ん、なんだ?」

赤羽根P「(ちょっと美希がかわいそうですよ、なんであんな物を……)」

P「おいおい、あんな物はないだろ。皆がモデルになったゲームだぞ?」

赤羽根P「しかし……」

P「うちはあのゲームで名が売れたわけだし、続編の話だってあるかもしれないぞ」

赤羽根P「はぁ、わかりました、もういいです……こら真美、美希をからかうな!」

真美「は~い」


美希「………」

P「美希、大丈夫か? まぁ気にするなよ」

美希「えいっ!」ゲシッ

P「い゙でっ!おまっ、脛蹴んなっ……っ」

美希「ふんっ」

真美「あーあ、ミキミキかわいそ→」

P「誰の所為だ誰の……」

赤羽根P「真美、美希と一緒に行って来い。カメラさんに挨拶するんだぞ」

真美「はーい、ミキミキ行こう!」

美希「う、うんっ」


事務所。

真美「お疲れ→!」

美希「お疲れさまなの……」

赤羽根P「皆ただいま」

春香「あ、プロデューサーさん、お疲れ様です」

真「あれ、美希のプロデューサーは?」

美希「ミキのじゃないもん!」

赤羽根P「こら、なんてこと言うんだ。プロデューサーなら千早と貴音の現場だよ」

響「それって、竜宮小町と一緒の現場さー」

春香「みんな大丈夫かなぁ」

真美「ぷぷっ、オタピーにイタズラされないか?」

春香「ちょっと真美ぃ! ち、違いますからね、プロデューサーさん!」

赤羽根P「ははっ、分かってるよ」

真「律子もいるし、きっと大丈夫だよ」

真美「え→、わっかんないよぉ~?」

響「うぅ、自分も不安になってきたぞ……貴音、大丈夫かなぁ」

春香「だ、大丈夫だよ! ですよね、プロデューサーさん?」

赤羽根P「ああ、春香の言う通りだ。皆そんなこと言ったら失礼だぞ」

真美「うわっ、はるるんずっこいよ!」

真「そうだよ、春香が言い出したことなのに……」

響「う~、貴音が心配だぞぉ~」


雪歩「何の話ですか?」

真「ああ、雪歩。美希のプロデューサーの話だよ」

美希「だから、ミキのじゃないの!」

雪歩「はううぅっ!!」

響「わっ、びっくりした……なんなんさー雪歩ぉー」

雪歩「うぅ、実は昨日、美希ちゃんのプロデューサーにゲームを勧められて……」

真「ええっ、それほんと!?」

真美「うわぁ、本格的にキモいですなぁ」

春香「前はあんな感じじゃなかったよね?」

真「もうちょっと爽やかな感じだったと思うけど」

真美「う~ん、変わったのってやっぱり?」

雪歩「あのゲームが原因だよぉ~」

真「聞いた話しによると、ゲームの中身にまで口出ししたらしいよ」

響「うわ、それはメーカーさんも大迷惑さー」

真「特に美希のストーリーに口出ししたとか」

雪歩「うぅ、ちょっと怖いよねぇ」

響「(って、美希に聞こえるぞ!)」

春香「美希なら………寝たみたいだし大丈夫だよ」

美希(…………)


亜美「みんなお疲れ→」

伊織「あーあ、疲れたわ~」

あずさ「あらあら、伊織ちゃんたら」

千早「お疲れ様です」

貴音「ただ今戻りました」

赤羽根P「ああ、皆お疲れ様。あれ、プロデューサーと律子は?」

千早「二人なら、話があるということだったので……」

伊織「にひひ、きっとあの変態、律子に死ぬほど絞られてるわよ♪」

亜美「あはははっ!オタピーかわいそ→」

真「美希のプロデューサー、何かやらかしたの?」

伊織「ええ。よりによって、この私にあのオタク臭いゲームを勧めてきたのよ!」

真美「あちゃ→、いおりんもかぁ~」

伊織「私達がモデルのゲームなのは分かるけど、別にやる必要なんてないじゃない!」

赤羽根P「まぁまぁ、プロデューサーも765プロの出世作だって言ってたし、思い入れがあるんだよ」

伊織「はんっ!私達が売れたのは私達の実力でしょ!」

千早「そうかしら?」

伊織「ッ! だったら、千早があのゲームをやってやれば良いじゃないっ!」

千早「……私は、歌以外興味ないから」フイッ


春香「と、ところで千早ちゃん、大丈夫だった?」

千早「何が?」

響「た、貴音も無事か?」

貴音「どういうことでしょう?」

春香「変なことされなかった? ねぇ、やっぱり千早もプロデューサーさんを担当に……」

響「貴音もだぞぉ!いい加減にこっちに来るさー!」

千早「私は、歌がやれれば別に誰でも良いから」スタスタ

春香「待ってよ千早ちゃん!」

貴音「わたくしも失礼いたします」

響「あ、待つさ、貴音ぇ!」


亜美「あちゃ→、千早お姉ちゃんとお姫ちんの奪還は失敗ですな→」

伊織「ったく、あんな変態のどこが良いんだか!」

真美「ほんとほんと→」

雪歩「うぅ、千早ちゃんに四条さん……」

真「あーあ、961プロの妨害が無くなったと思ったらこれだもんなぁ」

あずさ「困ったものね~」


美希「あふぅ」ムク

亜美「あ、ミキミキおはよ→。って、ちょっと目ぇ赤いよ?」

美希「トイレ、行ってくるの」ダッ

事務所外。

美希(……あのまま事務所を出てきちゃったの)トボトボ

P「あれ? おーい、美希ぃ~!」

美希「プロデューサー……ふんっ!」プイ

P「おつかれ~って、いきなりご機嫌斜めか?」

美希「プロデューサーなんて、どっか行っちゃえばいいの!」

P「フ、そんなこと言ってられるのも今の内だぞ?」ニヤリ

美希「キモいの」

P「おまっ……いや、まぁ聞いてくれ。美希のライブイベントへの出演が決まったぞ」

美希「ほ、ほんと? やったー!!」

P「ははっ、ステージに立ちたいって言ってたもんな」

美希「あはっ☆ じゃあ、プロデュースよろしくお願いしますなの、律子…さん!」

P「おう!って、俺じゃないのかよっ!」

律子「まったく、何を言ってるのよ」

P「うわっ、いつの間に!?」

律子「私は竜宮小町で手一杯だから無理」

美希「えぇ~~」

律子「気持ちは分かるけど、仕事を取ってきたのはプロデューサーなんだし、我慢しなさい」

P「が、我慢て……」

律子「それに、竜宮小町だって参加できないような大型イベントよ。これはチャンスじゃない」

美希「うぅ~、でも~」

律子「成功させれば、担当プロデューサーを変えてもらえるかもしれないわよ?」

美希「そっか!じゃあ、ミキ頑張るの!」

P「お前らな……いや、まぁ、頑張ってくれるなら何でも良いか……」ガックシ…

美希「じゃあ、プロデューサー、新しい衣装とか用意しておいてねっ」

P「ああ、ミキも練習頑張れよ?」

美希「えぇー、練習はそんなにしなくても大丈夫って思うな」

P「美希のポテンシャルの高さは認めるけど、そんな考え方じゃ成功しないぞ?」

美希「ム、お説教は、や!」ダッ

P「あ、おい!」

P「……ったく、才能はピカイチなんだけどなぁ」

律子「そうですか? 私は正直、今のあの子はアイドルに向いてない気がします」

P「おいおい、そんなこと言うなよ。美希は律子のこと慕ってるんだぞ?」

律子「頼んだわけじゃありません」

P「そんな冷たいこと言うなよ~」

律子「私、あの子とは合わないです」

P「そ、そんなキッパリと……」

律子「私には、あの子の担当は無理ですから」スタスタ

P「ちょっ、律子!?」

――。

後日(ダンスレッスン)

P「ほら、もう十分休んだろ? 練習再開するぞ」

美希「もうちょっとぉ、もうちょっと休んでからぁ……」

P「はぁ、このままだと、本当に大勢のお客さんの前で失敗しちゃうぞ?」

美希「うぅ~、わかったの~」

P「すみませんトレーナー、お願いします」

トレーナー「あ、はい。じゃあ、再開しましょうか」

美希「はぁい……」

P(まったく、練習させるのも一苦労だな)

トレーナー「星井さん、少し遅れてるわよ」

美希「うぅ……ミキ、そんなに速く踊れないよぉ~」

P(美希の奴、全然本気でやってないな)

トレーナー「はぁ、じゃあ、もう一度最初から通してみましょうか」

P(さすがのトレーナーも呆れてるじゃないか)

美希「むぅ……あふぅ」

P(欠伸なんかして、こりゃあ、後で説教しないとな)


P「なぁ、美希。そろそろ本気になってみないか」

美希「ミキ、本気で練習してたよ?」

P「いや、今日の練習もだけど、本気でトップアイドルを目指さないか?」

美希「ミキはミキなりに頑張ってるの……」

P「……じゃあ、せめて、今回のライブだけは成功させてくれ」

美希「言われなくてもわかってるの」プイッ

P「頼むぞ? 今回の仕事は、かなり無理して取ってきたんだからな」

美希「むぅ、プロデューサーしつこいの!」

そして本番。

結論から言うと、美希のライブイベントは失敗した。

歌にも踊りにもミスこそなかったが、それだけだった。

観客は特別盛り上がることもなく、淡々と拍手を送っていた。

イベントの主催側は、責めこそしなかったが、期待外れという態度を隠さなかった。

P(ノーミスだったんだ。今の美希からすれば良くやった方だろう)

P(これは俺のミスだ。美希の才能を過大評価し過ぎたんだ)

P「……こりゃあ、覚悟しておく必要があるかもな」


社長室。

社長「まずは、ライブイベントご苦労だったね」

P「いえ、申し訳ありませんでした。あの、それで業界内には……」

社長「うむ、良くない風評が出回っているが、今のところ他の子に飛び火するものではない」

P「そうですか。しかし、何の説明もなく放置すれば……」

社長「ああ、765プロ全体のイメージに関わる可能性もある」

P(何らかの形で、責任を取る必要があるってことだな)

社長「正直、星井君の才能は惜しいが、765プロでこれ以上育たないのなら」
   「他のプロダクションを見る機会を与えるのも彼女の為だと思うのだよ」

P(おいおい、この状況で美希を辞めさて、他のプロダクションに移籍なんてできるか?)

P「…………社長、提案があるのですが」


社長「……本気、なのかね?」

P「はい。元々俺の責任ですし、懲罰的な処分を下した方が周りも納得するでしょう」

社長「だが、ゲームとのタイアップなど、君の功績を考えると解雇などありえないのだが……」

P「いえ、結果的に今回の失敗で765プロのイメージを損ねてしまいましたから」

社長「そうか……だが、まぁ、君の手腕は業界内でも有名だ。きっと引く手数多に違いない」

P「ハハ、ありがとうございます……では、失礼します」

ガチャ、バタン。

小鳥「プロデューサーさん……」

P「音無さん、今後のことでちょっと」

小鳥「はい、わかっています」


亜美「みんな聞いた!?オタピー辞めちゃうんだって!」

伊織「律子も春香達のプロデューサーもいるんだし、あいつは最初から邪魔なのよ」

雪歩「でもこれで安心ですぅ」

春香「あれ、千早ちゃん達の担当はどうなるんだろ?」

千早「私と四条さんは、春香達のプロデューサーが担当するみたい」

響「ありゃ、美希はどうなるんだ?」

貴音「美希は……らいぶいべんとの失敗もあるので、暫くは活動自粛だそうです」

真「えっ! 美希は歌も踊りもミスしてなかったじゃないか!」

真美「ミキミキかわいそ→!ちょ→とばっちりじゃん!」

事務所のドア前。

美希「……」

あずさ「あら、美希ちゃんおはよう」

やよい「うっうー!おはようございます!」

美希「あずさにやよい……おはようなの」

あずさ「ドアの前でどうかしたの?」

やよい「事務所に入らないんですかぁ?」

美希「っ……み、ミキ、ちょっと忘れ物しちゃったから戻るね!」ダッ

やよい「美希さん?」

あずさ「あらあら~」


美希「はぁ……思わず逃げてきちゃったの」

美希(それにしても、プロデューサー、事務所辞めちゃうんだ)

美希「ミキの所為かな……」

ポン。

P「よ、お疲れ」

美希「きゃぁああーっ!」

P「ぎゃああああっ!って、俺だ俺!!」

美希「あ、なんだ、プロデューサーなの」

P「なんだと思ったんだよ、ったく……」

美希「ねぇ……事務所、辞めちゃうんだね」

P「誰から聞いたんだ? まぁ、辞めちゃうっていうか、クビだけどな」

美希「っ……げ、ゲームばっかりやってるからなの!」

P「ははっ、かもな」

美希「うぅ……」

P「ごめんな」

美希「え?」

P「偉そうなこと言って、結局途中で投げ出すような形になってしまって……くそっ」

美希(プロデューサーすごく悔しそう。こんな顔はじめて見るの……)

P「なぁ、美希。俺にはさ、プロデューサーとしての才能はなかったのかもしれないけど」

P「でも、美希には才能がある。本気になれば、ゲームの覚醒美希みたいになれるんだ」

美希「またゲームとミキを比べてるの……」

P「美希もやってみたらどうだ? やる前から否定してたら、できるもんもできないぞ?」

美希「ミキ、別にゲームなんて出来なくていいもん」

P「ゲームに限ったことじゃないって、美希なら、ダンスだって歌だって頑張ればもっと」

美希「お説教は、や! もうプロデューサーには関係ないでしょ!!」

P「……ハハ、そうだな。じゃあ、頑張ってな美希」

美希「ぁ……」

P「俺も、一ファンとして陰ながら応援してるよ!」

美希(プロデューサー……)


数日後。

美希「あふぅ。あれ、皆は?」

小鳥「今日は直帰するって」

律子「というか、あんた寝過ぎよ」

美希「隣でゲームやる人がいないから良く眠れるの。あふぅ」

律子「あんたねぇ、そんなのんびりしてて良いと思ってるの?」

美希「だって、お仕事がないの」

律子「あんたがいつまでもヤル気出さないから、仕事が減って来ちゃってるんでしょ」

美希「そんなことないの。今まではのんびりでもお仕事来てたもん。だからミキは悪くないって思うな」

律子「じゃあ、何? 私やプロデューサーが悪いって言うの?」ガタッ

美希「ッ……」ビクッ

律子「はぁ、前のプロデューサーは、本当に仕事は出来る人だったのね」スタスタ

小鳥「あ、律子さんどこへ?」

律子「収録現場に行って来ます。今日はそのまま直帰するので……ここには戻りません」

小鳥「あ……ふふっ、そうですか。じゃあ、今日は誰も戻って来ないですね?」

律子「……いってきます」

ガチャ、バタン。

美希「っ……ぅ…ぐすっ……」

小鳥「美希ちゃん」

美希「どうして、律子…さんはミキに厳しくするの? プロデューサーなら、あんな風に言わないの」

小鳥「うふふ、プロデューサーさんが恋しくなっちゃった?」

美希「ちっ、違うもん!そんなんじゃないのっ!」

小鳥「ねぇ、美希ちゃん。ちょっとゲームやってみない?」

美希「……どうしてそんなこと言うの?」

小鳥「ん~、気晴らしにもなると思うし、物は試しで、ね」


――美希もやってみたらどうだ?


美希「……少しだけ、やってみる」

美希「あはっ、ゲームの中のミキ、全然ヤル気ないの」


 美希『でも本当に、CDはネットで買った方が安いよ?』


美希「ム、CDショップのイベントなのに……ミキはこんなこと言わないの!」

小鳥「あはは、でも、お仕事に慣れない時は似たようなことがあったでしょ?」

美希「むぅ……」

小鳥「うふふっ」

――。

小鳥「あら、もうこんな時間、美希ちゃんはそろそろ帰らないとね」

美希「あ、ほんとだ。全然気が付かなかったの」

小鳥「随分集中してたもんね」

美希「うん……なんかね、ただのゲームなのに、そんな感じしないって言うか……」

小鳥「リアリティがある?」

美希「あ、そうかも。なんか、本当のことみたいってカンジ」

小鳥「良かったら、そのゲーム持って帰る?」

美希「え、いいの?」

小鳥「置いといたら捨てられちゃいそうだし、美希ちゃんがもらってあげて」

美希「……うん、わかったの」


数日後。

真美「ミキミキ、事務所に来なくなっちゃったね」

春香「お仕事はしてるみたいだけど……」

やよい「美希さんのスケジュールだけ、空きが増えてきちゃってますぅ」

春香「うーん、お見舞いに行ってみようかなぁ……ねぇ、千早ちゃん?」

千早「そっとしておいた方が良いんじゃないかしら」

響「でも、このままじゃ、美希が辞めちゃうかもしれないぞぉ!」

貴音「それもまた、美希自身が決めることです」

真美「そりゃそうだけどさぁ~」

美希自宅。

美希「………」

 美希『ミキ、変わる!今日……ううん、今から!』

美希「あはっ、交通事故で助けられて~なんて、現実じゃありえないの」

 覚醒美希『切ってみたの。この間、短い方が好きって言ってたから』

美希「わわっ!ミキ、髪の毛ショートにしちゃったんだぁ~」

 覚醒美希『ミキね、ダメな写真は一枚も入れたくないの。上に行くためにも!』

美希「そんなにムキになったら、疲れちゃうって思うな」

 覚醒美希『これからも、ずっとそばにいてね、ハニー』

美希「あははっ、プロデューサーをハニーなんて呼ばないの」

 覚醒美希『たくさんのカメラに囲まれてる時、どう動けばいいか見えてきたの』

美希「ゲームの中のミキ、すごく忙しそう……でも、きっと楽しいんだね」

 覚醒美希『ミキ、コツわかっちゃったから。歌は、絵なんだなーって』

あ、そっか、

 覚醒美希『全ッ然、大丈夫なの。ミキ、ハニーとたくさんレッスン積んできたもん』

もしかしたら、これって全部、

 覚醒美希『ハニーの部屋、ミキのトロフィーだらけにしたいなって』

プロデューサーがミキに伝えたかったこと……?


――美希なら、ダンスだって歌だって頑張ればもっと。


美希「うん。ミキ、ちょっとだけ頑張ってみる。だから、見ててよね……〝ハニー〟」


翌日。

美希「おはようなの」

春香「み、美希っ! 心配し……」ポカーン

千早「春香、どうし……美希、その髪………」

美希「ちょっとイメチェンしてみたの。どうかな?」

貴音「良く似合っていますよ、美希」

小鳥「ほんと、すごく可愛いわよ!」

美希「あはっ☆『ミキも、これけっこう、いいかなって』」

赤羽根P「あれ、声がしたけど、美希来てるのか?」

春香「プロデューサーさん見てください!美希が髪を!」

赤羽根P「え……うわっ!!?」

赤羽根P「ど、どうしたんだ!?その髪型はっ!?」

美希「ちょっとイメチェンなの」

赤羽根P「そ、そうか……」

美希「あ、そうだ! 春香に千早さん、午後からの歌のレッスン、ミキもいっしょしていいかな?」

春香「え、うん。私は良いけど……」

千早「私も別に構わないわ」

美希「ありがとうなの!」

赤羽根P「ははっ、美希、今日はやけにやる気だな」

美希「うん!ミキね、いろいろと出遅れちゃってるから、頑張らないといけないの」

赤羽根P「そっか、早く〝皆に追い付けるように〟頑張らなくちゃな!」

ダンスレッスン。

美希「先生、ここの振り付けなんだけど……」

トレーナー「え、星井さん……? え、ええ、そこはね、もっとこうした方が」


亜美「(ねぇねぇ、ミキミキどうしたんだろう?)」

伊織「(知らないわよ。仕事も減って来てたし、焦り始めたんじゃないの)」

真「(ちょっと伊織、そんな言い方!)」

伊織「(あによ、別に悪いことじゃないでしょ!)」

雪歩「でも本当に、なにがあったのかな? 美希ちゃん、髪まで切っちゃって……」

あずさ「失恋、かしら?」

ガチャ。

赤羽根P「皆やってるかー」


「「「「ええーっ!!?」」」」


赤羽根P「っ! な、なんだ?」

雪歩「うぅっ……美希ちゃんがぁ……」

亜美「失恋しちゃったんだよぉ」

赤羽根P「お、おいおい、いきなり何の話だ? 美希が失恋って」

あずさ「あ、いえ、違うんですプロデューサーさん。実は……」

――。


赤羽根P「うーん、正直判断し兼ねる話ですね」

あずさ「すみません、私が余計なことを言ってしまったから……」

赤羽根P「いえ、美希の変化には俺も皆も驚いてましたし」

亜美「そうだよ→、本当に失恋かもしんないじゃん!」

真「プロデューサー、ボク達はどうしたら良いでしょう」

赤羽根P「そうだな……」

伊織「ほっとくしかないでしょ?」

真「伊織っ!」

赤羽根P「……いや、伊織の言う通りだ、しばらくは様子を見よう。皆、良いな?」

全員「わかりました……」


赤羽根P「美希、ちょっと良いか?」

美希「あ、ごめんなさいなの。ミキ、すぐに歌のレッスンに行かなくちゃ」ダッ

赤羽根P「あ、おい!……あの、今日の美希はどんな様子だったでしょうか?」

トレーナー「正直驚きました。星井さん、一度説明を聞いただけで振りを全て覚えてしまって」

赤羽根P「え?」

トレーナー「しかも、二回目以降踊るときには、自分なりのアレンジまで加えてるんです」

赤羽根P「二回目にはダンスを自分の物に……? そんなこと、あり得るんですか?」

トレーナー「私もこんなこと初めてで……それと今日の練習でダンスレベルは菊池さんと並びました」

赤羽根P「ええっ!?」


亜美「ねぇ、みんな……」

伊織「なによ?」

あずさ「どうしたの、亜美ちゃん」

亜美「亜美ね、ミキミキの髪型、どっかで見たような気がしてケータイで調べてみたんだ……」

真「何か、あったの?」

亜美「オタピーがやってたゲームの中で、ミキミキが髪を切るストーリーがあるらしいんだよ」

雪歩「ま、まさか……」フルフル

亜美「うん。これが、髪切ったゲームのミキミキ……」

全員「っ!!?」

みんなごめんね。
手直ししながらだから、遅くなっちゃって…。
明日は仕事だけど、一応最後までやるのでお付き合い下さい。

真「これ、今の美希と同じ髪型じゃないか!」

伊織「何よアイツ……焦ってるからって、ゲームと同じ髪型にするわけ?」

雪歩「美希ちゃん、どうして……」ウルウル

あずさ「前のプロデューサーさんの影響かしら」

真「でもさ、美希って前のプロデューサーのこと嫌ってたよね」

亜美「だよねぇ……じゃあ、やっぱし、焦りで?」

伊織「あのバカ、後で問い詰めてやるんだから!」

雪歩「で、でも!プロデューサーには様子を見るようにって言われたよ?」

伊織「そんなこと言ってたら、私達までそういうイメージが付いちゃうかもしれないでしょ!」

亜美「オタッキープロダクション……」ボソ

全員「ぅ……」ドヨーン


事務所。

美希「春香も千早さんもありがとうなの。いろいろ勉強になっちゃったってカンジ」

千早「私の方こそ、美希のお陰でコーラスの練習もできたから」

春香「それにしても美希すごいよ! 少し練習しただけで、全部完璧にできちゃうんだもん!」

千早「ふふっ、本当ね。あのまま続けてたら、追い抜かれていたかも」

春香「あはは! 私なんて、開始三十分で追い抜かれてたよ!」

千早「笑い事じゃないと思うけど……トレーナーもそう言ってたわね」

春香「あははっ!ははっ、は………うぅ、私っていったい……」

美希「ううん。ミキなんて、まだまだ全然なの」

千早「美希?」

伊織「ちょっといいかしら」

美希「あ、でこちゃん、おつかれさまなの~」

伊織「ええ、おつかr……じゃなくて!」

亜美「いおりん、出鼻を挫かれてますなぁ」

真「美希、聞きたいことがあるんだ。その髪型のことで……」

伊織「ちょっと!私が聞くって言ってんでしょ!」

美希「……なにかな?」

真「あのね、その髪型って、ゲームキャラの美希の髪型だよね」

春香「ええっ!?」

千早「どういうことなの?」

亜美「ごめんねミキミキ、亜美が見付けちゃったんだ……」

伊織「さぁ、どういうことか説明してもらおうかしら」

美希「うーん、説明って言われてもぉ……」

伊織「アンタまさか、あのゲームやったんじゃないでしょうねぇ?」

美希「うん、やってみたの!」

春香「ぅえええっ!?」

千早(春香、さっきから驚いてばかりね)

真「やっぱり、ゲームやったんだ……」

美希「みんなもやってみる?」

伊織「あ、あんな物やるわけないでしょっ!」

亜美「ミキミキがオタピーに侵食された……」

伊織「アンタ分かってんの!?あんな物に影響されて、前のプロデューサーと同類よ!」

美希「そっか、プロデューサーといっしょなんだ……」

伊織「そうよ!……って、なんで嬉しそうなのよっ!?」

美希「あはっ☆ そんなことないの。プロデューサーと同じなんて、やだなー♪」ニッコリ

三人「うぐっ……」

伊織(なによアレ!すごく嬉しそうじゃないっ!)

亜美(どういうことだってばよ?)

真(ボクに聞かれても分からないよ!)

伊織「と、とにかく、これ以上妙なマネしないでよねっ!」

亜美「(なんか、亜美達って悪役っぽくない?)」トコトコ

伊織「(うっさいわね!)」スタスタ


数日後(ダンスレッスン)。

トレーナー「美希ちゃん、もうどんなジャンルのダンスも完璧ね」

美希「ありがとうなの」

伊織「あーあ、でも、仕事が一つもないんじゃ意味がないわよねぇ~」

真「髪切っちゃうから、今までの仕事もなくなっちゃうんだよー」

あずさ「美希ちゃん、ウィッグ着けてみない?」

雪歩「げ、ゲームもやめれば、仕事もきますぅ!」

亜美「そうだよ→、ミキミキ、オタクっぽいよ?」

美希「みんな……」

美希「心配してくれて、ありがとうなの」

全員「ぐっ……」

あずさ「(めげないわね、美希ちゃん)」

真「(もっとキツく言った方が良いのかな)」

雪歩「(こ、これ以上は無理だよぉ!)」

亜美「(どうする、いおりん。正直、今のミキミキには、いろいろ勝てる気がしないんだけど)」

伊織「(……だからでしょ。あんなに頑張ってるのに、評価されないなんて許さないんだから)」

美希「ねぇねぇ、先生! ミキね、今度選材写真を新しくするの!」

トレーナー「へぇー、それは楽しみね。できたら教えてね?」

美希「うんっ!」

事務所

春香「ミキのお仕事、全部なくなっちゃったね……」

千早「そうね、美希だけ担当プロデューサーも決まってないし」

響「う~、どうして律子は、ミキの担当をしてあげないんだ?」

貴音「律子嬢にも、何か思うところがあるのでしょう」

やよい「私達のプロデューサーはダメなんでしょうか?」

真美「いやぁ、人数的にも無理っしょ」

春香「そういえば、私達も美希と会ってないよね」

千早「意図的にスケジュールをずらしているんじゃないかしら」

やよい「え、どうしてですか?」

千早「多分、万が一にも私達の評価に影響が出ないようにという配慮だと思う」

貴音「高木殿も、美希の活動自粛に当たって随分と憂慮されていましたからね」

春香「そ、そんな………。小鳥さん、今のことについて何か知りませんか?」

 小鳥「(はい、はい、前に言われた通りです。なので、そろそろかと……)」

響「ダメさー、電話中だぞぉ」

真美「もう!こんなときに、どこに電話掛けてるんだYO!」

貴音「何にせよ。今、プロデューサーと律子嬢と高木殿が、美希について話し合っています」

千早「それが終わるのを、待つしかないですね……」

社長室。

社長「星井君について、君達の率直な意見を聞きたい」

赤羽根P「頑張っていると思います。今後、きっと結果もついて来るはずです」

律子「……ですが、ネット上には良くない噂も出回っています」

社長「ふむ」

律子「このままだと、765プロ全体のイメージに関わるかもしれません」

社長「律子君の意見について、君はどう考えるかね?」

赤羽根P「……確かに、少々良くない噂も立っているようです。しかし!」

社長「うむ、君の言いたいことは分かった。だが、現状、星井君を担当できる人材もいない」

コンコン、ガチャ。

小鳥「失礼します。社長、お電話なんですが……」

社長「む、分かった。君達、この話はまた後ほどしよう」

赤羽根P「……わかりました、失礼します」

律子「失礼します」

社長「音無君、電話は誰からかね?」

小鳥「……保留になってますので、よろしくお願いします」ペコリ

社長「ん?音無君?」

バタン。

社長「もしもし、お電話かわりました……」

翌日。

美希「おはようございますなの~」

小鳥「美希ちゃんおはよう。来て直ぐで悪いんだけど、社長室に行ってくれる?」

美希「え……?」

小鳥「大事な話があるんだって」

美希「あは……ミキ、お仕事もしてないし、クビになっちゃうのかな……」

小鳥「大丈夫」

美希「小鳥?」

小鳥「大丈夫だから、いってらっしゃい?」

美希「……うん」

コンコン。

美希「えと……しつれいしますなの」

社長「やぁ、朝からすまないね」

美希「お話があるって聞いたの」

社長「うむ、ずばり言おう。星井君に仕事の依頼が来た」

美希「え……ほ、ほんと?」

社長「うむ、どうやら他のプロダクションのプロデューサーが、星井君を推薦してくれたようだ」

美希「ど、どうしてミキを?」

社長「……なんでも、一ファンとしてだそうだ。嬉しいことじゃないか」

美希「いち、ふぁん?」

社長「頑張れそうかね?」

美希「…………」

美希(ねぇ、プロデューサー。ミキにできるかな?)


――美希には才能がある。本気になれば、ゲームの覚醒美希みたいになれるんだ。

ふふっ、でも、ミキはゲームの中のミキじゃないよ?

――やる前から否定してたら、できるもんもできないぞ?

うん、本当にそうだね。

――頑張ってな美希。

ミキ、がんばるよ。


社長「もし、無理そうだと思うなら……」

美希「ううん、やります……やらせてくださいなの!」


本番。

スタッフ「765プロさん、スタンバイお願いしまーす」

美希「はいなのっ!」

赤羽根P「本当に大丈夫なのか? 二曲続けてこんなダンサブルな選曲で……」

美希「うん、他の出演者さんは必ずスローな曲を入れてるから、その分アピールできるって思うな」

赤羽根P「いや、そうじゃなくてだなぁ」

美希「大丈夫なの、今の美希は『覚醒美希』だから、あはっ☆」

スタッフ「765プロさん、本番お願いしまーす!」

赤羽根P「よし、頑張って来い!」

美希「うん、行ってくるの!」ダッ

――



~数ヵ月後。


『ベストビューティー・アワード』『ダイナマイト中学生・アワード』

『IA大賞 - MVP』『シャイニングアイドル賞ビジュアル部門』

『ジュエリーベストドレッサー賞』『女性が選ぶ、女の敵タレント№1』

……。

赤羽根P「すごいな、プロデューサーの机がトロフィーで一杯だ」

小鳥「美希ちゃんが『机の上トロフィーで一杯にするの!』って、頑張りましたから」

赤羽根P「ははっ、本当にやってのけるところが美希らしいです」

小鳥「うふふ」

赤羽根P「……プロデューサーは、美希の才能を見抜いてたんですかね」

小鳥「ええ、たぶん」

赤羽根P「じゃあ、美希や皆にゲームを勧めていたのも?」

小鳥「うーん、どうでしょう? 本人は『ゲームでもやってヤル気出さないかな~』って言ってましたけど」

赤羽根P「そ、そんな軽い気持ちだったんですか……」

小鳥「ええ。でも、本当のところは本人にしか分からないですけどね」

ガチャ。

亜美「ただいまー」

伊織「今やってる歌番組に美希が出てるでしょ!」

あずさ「あらあら、伊織ちゃんたら」

千早「お疲れ様です」

貴音「ただいま戻りました」

春香「プロデューサーさん、お疲れ様です!」

赤羽根P「お、皆帰ってきたな」

響「美希が出てる番組見るさー」

やよい「うっうー!」

雪歩「楽しみですぅ」

真「真美、テレビつけてよ」

真美「おっけ→!」ポチ

 『みんなぁー!今日はたくさん楽しんで行ってほしいのー!!』

生放送歌番組(楽屋)。

律子「うわぁ……大物アーティストばかりじゃない」ゴクリ…

美希「あはっ、律子…さん、出演者リスト見て緊張してるの?」

律子「あんたも少しは……って、美希ももう大物タレントか」

美希「ふふっ、ミキが緊張を解してあげるの。ほれほれ~」ツンツン

律子「んぁっ、ちょっ、どこ触って……んんっ!」ビクンッ

美希「あははっ、やわらかいの~♪」

コンコン。

スタッフ『星井美希さん!ステージへの移動をお願いします!』

美希「はぁい! じゃ、ミキ行ってくるね!」タッタッタッ

ガチャ、バタン。

律子「はぁ、はぁ、美希の奴……」

律子(というか、軽くあしらわれちゃって、これじゃあどっちが……)

テレビ

 『では続きまして、星井美希さん!特設ステージからでーす!』

 『みんなぁー!今日はたくさん楽しんで行ってほしいのー!!』


律子「ハハ、すごい歓声……」

律子(まったく、一人でここまでやられたら、こっちの立つ瀬がないじゃない)

律子「……だから、あの子の担当だけはごめんなのよ」

ステージ。

「みんなぁー!今日はたくさん楽しんで行ってほしいのー!!」

轟く歓声、会場全体がうねり、まるで嵐の海のようだった。

(ねぇ、プロデューサー。ミキは、あなたの目指した形に近づけてますか?)

その問いに返答はない。記憶の中のプロデューサーはその答えを言っていない。

(……ちょっとでも近づけてたら、嬉しいな)

前に、プロデューサーの移籍先を突き止め手紙を送ったことがある。
謝罪、お礼、近況、会いたいこと……色々なことを書き綴った。
けれど、返ってきたのは企業としての事務的な返答だった。


『拝啓
 貴社、益々のご清栄のこととお喜び申し上げます。
 さて、貴社ご所属タレント様より頂戴しましたお手紙、
 当方としましても、大変光栄なお話ではございますが、
 やはり、所属を別にするタレントとプロデューサーが、
 業務外で会うことは、対外的な印象上、難しい事と存じます。
 ご要望に応えられず、誠に申し訳ございません。
 末筆ながら、貴社の益々のご活躍をお祈り申し上げます。
 敬具』


(あははっ、あのお返事はあんまりなの~)

曲が始まり、客席も熱を上げていく。

(プロデューサー、ごめんなさい。ありがとう。ミキは元気だよ。それと、会いたいです)

伝えたい言葉を込めて、彼女は輝き続ける。

彼が夢見たトップアイドルとして――。

epilogue


某プロダクション本社(プロデューサー執務室)

大型のテレビ画面には、今やトップアイドルとなった元担当アイドルの姿があった。

 『みんなぁー!今日はたくさん楽しんで行ってほしいのー!!』

「覚醒美希は可愛いなぁ」

「何それ、前の彼女引きずってるみたいで、イタイよ?」

と、現担当アイドルによる容赦ない言葉が飛んでくる。

「ぐっ……ったく、可愛くないぞ」

ちくりと反撃に出ると、冷めた瞳に睨め付けられてしまった。

「い、いや、まぁ、ファンの前で可愛ければ良いんだけどさ……」

しどろもどろの呟きは見事にスルーされ、人の隣で退屈そうにその長い髪を弄んでいる

「ところでさ」

「何?」

「なんか用かい?」

この時間は、特になんの予定もなかったはずだ。

「……今度のイベントの衣装、どうしようかと思って」

「ああ、好きに決めていいぞ?」

「………」ジトー

「じょ、冗談だよ……うーん、そうだな~。あ、その制服で出てみるとか!」

「……本気で言ってる?」

「うん、なんか名案な気がしてきた。前々からその制服姿は可愛いと思ってたんだ」

「………」

「あ、もちろん、嫌なら良いんだぞ? ファン会員向けのライブだし、自由に……」

「これで出る」

無愛想に呟いて、彼女は音もなく立ち上がり、足早にドアの方へ。

「あのさ、プロデューサー。今度のライブも、ちゃんと横で見ててよね」

「? あたりまえだろ?」

「ん」

背を向けたまま、小さく頷いて、彼女は部屋を出て行った。

閉めたドアに背中を預ける。
頭を傾け、ドアに耳を寄せる格好になると、微かにあの人の声が聞こえてきた。

『ほんと、立派になったよなぁ~』

まるで、おじいちゃんみたいな物言い。
正直、あの人にとって『星井美希』が何なのか、私には量りかねる。

「当たり前か、自分のことだって分からないのに……」

でも、あの人の目が。


「今度のライブ、頑張ろう」


自分だけに向いていないのは、なんだかすごく嫌だから。


(前の子のことなんて、直ぐに忘れさせてあげるから)



END

途中さるってしまいご迷惑をお掛けしました…。

最後はモバマスの子をイメージしました。
美希も後の子も、Pとの親密度は高くないです。


みんな付き合ってくれてありがとう。
特にオチもなくてごめんなさい。
おやすみなさい。

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