恭介「さやプラス」さやか「う、うん」(126)
恭介(さやプラスって、もしかして……)
さやか「え、えっとね、私と仁美でゲームを作ったんだけどね」///
恭介「それで僕にテストプレイを?」
さやか「う、うん……」
恭介「どうして僕なんだい? 鹿目さんや暁美さんに頼んだらいいんじゃないかな」
さやか「ほら、恋愛シミュレーシュンだから、こういうのはやっぱ男の子の感想を聞きたいっていうか」
さやか「作った身としては、いろんな人にプレイしてみてもらいたいっていうか…」モジモジ
恭介(でもこれどう考えてもさやかがヒロインのゲームだよね…)
恭介「バ、バイオリンの稽古が忙しいから、ちょっとゲームをやってる時間は」
さやか「え……」ウルル
恭介「いや、いや…、稽古で疲れてたからちょうどゲームがやりたいって思ってたところなんだよね!」
さやか「本当!?」
恭介(まあ深く考えないでおこう。さやかも単純にゲームの感想が聞きたいみたいだし)
代行ありがとうございます。
まどプラスの続きで、前スレの326の意見を参考に書きました。
どうぞよろしくお願いします。
~数日前~
まどか「そんなわけで、まどプラスをきっかけにほむらちゃんと仲良くなれたんだ」
仁美「全て私の計画通りですわあああああああ」
ほむら「」ギロッ
仁美「ひぃっ」
さやか「まあまあ、話し聞いてる限りじゃ転校生も結局仁美のお陰でうまくいったわけなんだし…」
ほむら「わかってはいるけど、志筑さんの掌で踊らされていたというのが腹立たしくて」
まどか「さやかちゃんも、仁美ちゃんにお願いしてみたら?」
さやか「ば、ばか。そんな恥ずかしい真似できるわけ…」///
仁美「あら、お望みとあらば美樹さんにも作って差し上げますわよ」
まえスレみたいれす
ほむら「でも、それは敵に塩を送ることになるのでは? あなたも上条恭介のことが好きなんじゃないの?」
仁美「構いませんわ。それで美樹さんのことが好きになるようでしたら、私も諦めがつきますもの」
仁美「むしろこのまま美樹さんが何もしないまま私が上条くんとお付き合いすることになれば、かえって後味が悪いですわ」
まどか「仁美ちゃん……かっこいい」
ほむら「意外と懐が広いのね。少しは見直したわ」
さやか(あれ? なんかこの流れ…おかしいことになってない?私は別にゲーム作って欲しいなんて言ってないのに)
仁美「早速鹿目さん用のデータを、美樹さん用に書き換えさせていただきますわぁ!」
ほむら「絶対楽しんでやってるわね……」
ちょっとだけ支援。
~現在 放課後~
恭介(さて、授業も終わったし中沢と一緒に帰ろうかな)
仁美「上条くん、ちょっとよろしくって?」
恭介「志筑さん? なんの用かな?」
仁美「うふふ。昼間美樹さんから面白いものをもらったと思うんですが」
恭介「ああ、あれね。そういえば志筑さんと一緒に作ったんだっけ?」
恭介「さやプラスだっけ。どんなゲームなんだい?」
仁美「さやかさんとお喋りするゲームですわ」
恭介「ああ、やっぱり。でもゲームだから、さやかに似たキャラクターってことかな」
仁美「いえ、さやかさん本人ですわ!」
恭介「!?」
仁美(私がライバルにやすやす協力すると思ったら大間違いですわぁあああああ)
仁美「もし何かわからないことがあれば、電話していただければお答えいたしますわ」
恭介「え、うん……」
恭介(志筑さんの背後に、黒いものが背景に見える気がするんだけど…)
~恭介ホーム~
恭介「というわけで、早速やろうと思うんだけど……気が進まないな」
恭介「でもやらないと、明日さやかにどやされるんだろうし……」
恭介「考えてても仕方ないか。えっと……これがスイッチだっけ?」
--ロード中--
恭介「あ、始まった」
さやか「こんにちは、私、美樹さやか。さやかちゃんて呼んでね」
恭介「………ぷ」
さやか「ちょっと、何吹き出してんのよ! 失礼しちゃうな」
仁美(やはり予め上条くんに仕掛けを説明しといて正解でしたわ)
仁美(百合でないのは残念ですが、今日も面白いものが見れそうですわね)
さやか「で、いきなり笑ってくれちゃった、画面の前のあなたは何て言う名前なの?」
恭介(なるほど。さやかは僕が仕掛けを知ってることを知らないんだっけ?)
恭介(面白そうだからこのまま、知らんぷりして遊んでみようかな)
恭介「僕の名前は、上条恭介。よろしく、さやかちゃん」フフ
さやか(恭介がさやかちゃんて呼んだ…)///
さやか(って呼べっていったのは私なんだから照れてどうすんのよ)
さやか「よ、よろしく……恭介」
さやか「あっ、でも恭介くんて呼んだほうがいいかな?」
恭介「呼び捨てで構わないよ」
さやか「じゃあ恭介、よろしくね」
さやか(恭介は私だって気づいてないんだよね……なんか騙してるみたいで悪いな……)
さやか(でも、ゲームだと思ってもらえば、普段は聞けないようなことも聞けちゃうかもだし……うーー)///
仁美(ふふふ。美樹さん、珍しくガチガチに緊張してますわね)ニヤニヤ
さやか「えっとね、このゲームは私と恭介が仲良くなることを目的として作られてるの」
さやか「だから恭介は遠慮なく私にいろいろ話してくれると嬉しいかな…」//
恭介「わかったよ、さやかちゃん」
さやか「うう……」///
恭介(ちゃん付けされるのが恥ずかしいなら、最初からやめとけばいいのに…)
恭介(でもこういうさやかが見れるのは新鮮だなぁ)
さやか「それで、恭介は何をするのが好きなの?」
恭介「バイオリンだよ。小さい頃からずっと」
さやか「そ、そうなんだ…頑張ってんね」
恭介(そっか、さやかはゲームのキャラを演じて、僕のこと知らないふりをしてるんだね…)
恭介「さやかは普段どんなことして遊んでるの?」
さやか「わ、わたし?」
さやか「え~っと、クラシックとか、お菓子作りとか…かな?」
恭介「さやかは、お料理出来るんだ」
さやか「もちろん。これでもケーキ、クッキー、和菓子、なんでも作れちゃうのだぁ!」
恭介「へぇ~。甘いものは好きだから、是非食べてみたいね」
さやか「ホント? じゃあ明日学校に」
恭介「学校?」
さやか「い、いや、なんでもない。なんでもないんだよぉ恭介ちゃんよぉおおおおおおおおおおお~」
恭介(動揺しすぎだよ、さやか)
さやか「き、恭介は今日は何してたの?」
恭介「普通にバイオリンの稽古だよ。今は終わって、これから宿題するところかな」
さやか「そうなんだ…偉いね」
さやか(ふう、なんとか誤魔化しきったみたい。気をつけないとね)
さやか(鹿目さんより、ボロが出るのが早かったですわね)
恭介「さやかは宿題しなくていいの?」
さやか「私も後でやるんだ」
恭介(もしかして、僕がゲームやるまでカメラの前でずっと待機してたんじゃ……)
恭介「大変だね…」
さやか「?」
さやか「恭介に聞きたいことがあるんだけどさ」
さやか「その、どういう女の子が好きなの?」///
さやか「今好きな子とかはいるの?」
恭介「どうしてそんなこと聞くんだい?」
さやか「えっと……」
さやか「そ、そう。これは一応恋愛シミュレーションゲームなわけで、できればその…」///
恭介(なるほど、そういう遊びか……って、さやかと付き合うこと?)
恭介(いやいや。いくらなんでもそんなの恥ずかしいよ)///
恭介(さやかだってさすがにそんな恥ずかしい真似できるわけないさ)
さやか「恭介のこと好きになれたら嬉しいなって…」
恭介「えええええええええええ~~!」////
さやか「い、嫌だった?」ウルッ
恭介(だからなんでさやかはそんな涙目なんだよ!)
恭介(何が目的でさやかがこんなことしてるのかわからない)
恭介(いくらゲームをプレイして欲しいからって、限度を通り越してるよ!)
さやか(恭介が引いてる……)
さやか(ゲームだったら大丈夫だと思ったのに、もしかして私ってそんなに嫌われてたの?)
さやか(いや、ただ驚いてるだけかもしれないし……ああ、でも嫌われてたらどうしよう)
仁美(そろそろ手助けが必要かもしれませんわね)ククク
ピルルル、ピルルル(電話)
恭介「もしもし、志筑さん? これはどういう遊びなの?」
仁美「さあ。私自身も美樹さんからは詳しいことは聞いておりませんの」
仁美「ゲームを開発して欲しいとお願いされただけですし」
仁美(もちろん嘘ですけどね)
仁美「美樹さんがおっしゃった通り、目的は上条くんと仲良くなることなんじゃないでしょうか?」
恭介「……」
プツ…(電話)
恭介(ダメだ。志筑さんもさやかと共謀してる)
恭介(教室で感じた志筑さんのあの黒いオーラ、ただごとじゃないよ)
恭介(志筑さんに恨まれるようなことした覚えはないのに……)
恭介(やっぱり二人揃って僕を陥れようとしているのかな?)
~恭介 妄想~
さやか「恭介ったら、ゲームの中の私に本気になっちゃってさ…」
ほむら「不潔」
まどか「上条くんやらしいかも」
仁美「殿方の考えることは理解できませんわね」
恭介(ああああああああ……そんな、ひどいよさやかぁあああああああああ~~~)
恭介(君は遊びなのかもしれないけど、そんなことになったら、学校に行けないじゃないか)
仁美(ふふふ、今頃上条くんが考えているであろうことが手に取るように伝わってきますわ…)
さやか「恭介…」
恭介「さ、さやか…?」
さやか「恭介は私のこと嫌いなの?」
恭介「き、きらいじゃないよ…」
さやか「ホント?」
画面の向こうにいる幼馴染が目に涙を貯めていることに気がついた。
まるで自分に嫌われることが、何よりも怖いと言わんばかりに手で胸を抑えながら上目遣いでこちらを見ている。
恭介「う、うん……」///
さやか「えへへ~、安心した」ニコッ
恭介(って、僕はなにときめいてんだ! これじゃさやかの思惑通りじゃないかああああああ)
仁美「美樹さんやりますわね」
さやか「さっきの質問、もっかいしてもいい?」
さやか「恭介はどんな女の子が好きなの?」
恭介「と、とりあえず真っ直ぐな人がいいかな…」アセアセ
さやか(ふっふ~ん、さやかちゃんは真っ直ぐだけが取り柄だからバッチリだね!)
仁美(………まあ、私もある意味真っ直ぐではありますわよ……)
恭介(人を陥れるのを楽しむ子は簡便だよ)
さやか「元気な女の子はどうかな?」
恭介「……」
さやか「だ、ダメかな……」
恭介(さやかは自分のことを好きだって言わせようとしてるんだね)
恭介「どちらかっていうと、お淑やかなほうが好みかな…」
さやか(が~~~~~~ん)
仁美(お淑やかキマシタワーーー。っていっても上条さんの思惑はわかってますけどね)
さやか「えっと、恭介……恭介は今好きな人とかいるのかな?」
恭介「いません。絶対にいませんから」
恭介(下手なこと言って、変な噂流されたらたまらないよ)
さやか「そ、そう…」
さやか(なんかさっきから恭介の態度がよそよそしいんだけど…)
さやか(やっぱり恋愛の話をしてるからかな…。可愛いとこあるなぁ)
恭介「僕もさやかに質問があるんだけどさ」
恭介(そっちがその気なら、僕だって何か弱みを握ってやるんだ)
恭介「さやかは好きな人がいないの?」
さやか「!?」///
恭介(この反応! 手応えアリだ♪)
恭介「もしかして、クラスの子かい?」
さやか「え、えっと……」///
さやか(うわぁ、どうしよう~~まさか私のことを聞かれるなんて思ってなかった)
さやか(この流れで誰も好きじゃないなんて、誤魔化せないし…)
さやか(そうだ、この際恭介って言っちゃえば、ゲームだから好きでしたってオチでやり通せるんじゃ)
さやか「わ、私の好きな人は……」
恭介「」ゴクリ
さやか「……k」
本当にそんなんでいいの?
わたしの生まれて初めての告白を……恭介に嘘つくために……
そんなことの為にこのゲームをしてるの?
言えない……
言えないよ。
恭介「さやか?」
さやか「へへ。ちょっと好きな子のこと思い出したら胸が詰まっちゃって……」
恋する女の子の顔。
たかだか数センチ×数センチの画面に映るのは、ただの幼なじみ。
いつも見慣れたはずの……
さやか「レディにそんなこと聞くもんじゃないぞ!」
恭介「そう……だね、僕が悪かったよ」ドキドキ
いけない、いけない。これもきっとさやかの術中に違いない。
もっと冷静にならなくちゃ。
さやかは全力で僕を篭絡させようとしてきてる。
なら僕だって……やってやる!
恭介「さやかに想われてる子は幸せだね、正直羨ましいな」
恭介「僕もさやかみたいな女の子と付き合えたら嬉しいんだけどなぁ」
あくまで、紳士的に。決して鼻の下を伸ばしたような声をしないように心がけた。
仁美(あら、上条くん。そういう作戦に出るのですわね)
さやかは僕を骨抜きにして、クラスの笑いものにしたいらしい。
だったら僕はそれに流されないようにするだけだ。
なおかつ、さやかの上に立ってイニシアチブを保つ。
さやかだって褒められたり、甘ったるいムードは苦手なはずだ。
あえてそれを作り出してやる。
~さやか~
『さやかみたいな女の子と付き合えたらうれしいんだけどなぁ』
恭介は何を言ってるの?
まさか私と付き合いたいって、本気で思ってるわけ?
いやいや、恭介が言ったのは「現実の私」じゃなくて「ゲームの中の私」に対してだよね。
でもそれって結局どちらも私であることには代わりないんじゃ……
恭介はさやプラスのさやかが私だって知らないから、私には言えないようなことを言っちゃったなんてことも…
でも、ゲームを盛り上げるために言った可能性も捨て切れないわけで。
どうしよう……胸が…苦しい。
~恭介~
どうやらさやかは、照れているようだね。
思った通り自分がくすぐったい思いをするのには慣れていないみたい。
でも、さやかならすぐ反論して自分の優位性を保とうとすると思ったんだけど……
黙りこくるってことは、僕の攻撃が相当効いていると見ていいのかな。
人をはめようとして自分がはめられる気分はどうだいさやか?
二度とこんなイタズラできないぐらいに羞恥で顔を赤くして、部屋から逃げ出せばいいよ。
恭介「さやか、どうしたんだいそんな顔を赤くして」
さやか「だって恭介が……」///
恭介「僕は思ったことを素直に言っただけだよ」
さやか「///」
恭介「ふふふ、照れるさやかはますます可愛いなぁ」
なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
でも、僕以上にさやかはもっと恥ずかしい想いをしているはずだ。
予想通り画面上には目をグルグル回しながら、思考をするのを辞めたロボットのごとくフラフラと身体を揺らすさやかが映っていた。
作戦成功。
ちょっと効き過ぎのような気もするけど、これぐらいやっても罰は当たらないだろう。
~さやか~
私を可愛いなどと言う者が、中学に上がってからいただろうか?
いや、身に覚えがない。
たとえ仮にいるするならそれは親戚か、路傍に極稀に現れるという痴漢ぐらいのものだろう。
我ながら嘆かわしい。
ととと、動揺のあまり思考口調が変になってしまったけれど、これはどういう状況なの?
恭介ったら私のことベタ褒めじゃないの。
ここまで来るとさすがに気持ちが悪いよ。
でも、でも、もしかしたら本当に私のこと好きだったのかもしれないし…
よくあるよね、幼なじみの関係で、相手のことを想っててもなかなか言えないってこと。
……あ、私がそうか。
私がそれに当てはまるみたいに、恭介が同じだとしても、不思議じゃないんじゃないの?
都合よく考えすぎなのかな?
そういえば、好きな人を聞いたとき、恭介は慌ててたっけ。
『いません、絶対にいません…』なんていう変な敬語まで使って……
その焦りは言葉の裏返しととることだってできるんじゃ……
ゲームとはいえ私の好きな人を気にしてくれてたわけだし。
やっぱり恭介は私のことを……?
~恭介~
この様子じゃさやかもそろそろ懲りて、ゲームから興冷めするに違いない。
ここはさやかが白旗を上げるのを待ってみようか。
さやか「恭介……」
伏し目がちに、こちらを見つめるさやか。
何か言い辛いことを言おうとしている様子だ。
早速降参か。
さやか「わ、わたしは……」
さやか「私は恭介のことが……」
その瞬間動悸の振幅が自分で聞こえるぐらい大きく振れていた。
さやかの切なそうな表情や、震える声に心が乱されて。
僕はその後に続く言葉を無言で待ち続けたけど、さやかはなかなか口を開かない。
これは降参するとおもいきや、さやかが僕を陥れるための作戦なんだろうか。
それとも……
僕は改めて第2の可能性について思案しなければいけないのか。
……さやかが、僕のことを?
画面に釘付けになって息をするのを忘れた。
~さやか~
恭介のことが好き。
私はどうやって、恭介に想いを伝えようかって、いくつも何通りも頭の中で考えてた。
どうやったら告白がうまくいくか、どうやったら気持ちがうまく伝えられるのかって。
そんな勇気がないくせに、妄想だけが膨らんで何もできなかった。
だから、この機会を逃したらチャンスはなくなっちゃうんだろうなって気もする。
だって恭介の言葉のせいで、私は今ものすごく舞い上がってる。
あいつが本気かどうかは知らないけど、私は恭介のことだけが頭がいっぱいで……
こんなに自分の想いを伝えたいって思ったのは初めてだよ。
想いを伝えたいという気持ちが、恥ずかしいって気持ちを追い越したんだから。
でも悔しいことに、ここでいくら私が恭介に想いを伝えたところで、
本物の私が言ったことにはならない。
結局恭介には伝わらないんだ。
いっそのこと、全てネタバレして玉砕してみようか。
でもそんなことしたら、恭介は私の告白よりも、そっちに気が囚われてうまく伝えられる自信がないよ。
恭介「僕のことが……?」
さやか「……」
さやか「……なんでもないよ」
なんでもなくなんてない。
恭介のことが好き……
~さやか~
今から恭介に電話をかけてみようか。
ゲーム楽しんでる?なんて白々しく声をかけて、みるのもいいかも。
ここまで見てるかぎり、恭介も少しは楽しんでくれてるみたいだし、会話だって弾むかもしれない。
うまく行けば、私の気持ちだって……
何より私の顔だけが恭介から一方的に見られているって言うのが恥ずかしい。
早くこの不毛な状況から逃げ出して、楽になりたい。
ポケットの携帯に手をかけたところで、それを抑制した。
……しまった、恭介がゲームをしてる時に電話なんかしたら、バレちゃうじゃん。
危ないところだった。
恭介「もう一つ聞いてもいいかい?」
さやか「な、何かな?」
恭介「さやかには好きな子がいるみたいだけど、どうしてその子のことが好きになったの?」
さやか「それは……」
ど、どうしよう。
誤魔化すこともできるけど……
でも恭介がこの質問をするってことは、恭介が私の好きな人に興味があるってことだよね?
それってつまり……
私は恭介に想いを伝えたいという誘惑に勝てなかった。
恭介も私のことを好きだって思うと嬉しくて、胸の奥が熱くなってたまらなかった。
私は私が好きな人の話をした。
人を惹きつける、感動させる力を持った才能に魅力を感じたこと。
幼い頃から自分と一緒にいてくれたこと。
思いやりがあって、いつも他人を気遣ってくれる優しさ。
恭介の名前は出さなかったけれど、恭介にはそれが誰のことかわかったはずだ。
私の言葉が止まった時には、このゲームの終わりを覚悟した。
話してる途中、私はなんて馬鹿なんだろうと思った。
恭介が私のことを好きだという可能性があるだけで、勘違いだってことも十分ありえる。
一方的な暴露話をしている気がしてならなかった。
恥ずかしくて涙が出そうになったのに……
だけど、不思議なことに私の言葉はとまらなかった。
語彙も貧相で日本語としても未熟な青臭いばかりの言葉が瀑布のように流れていく。
自分でも驚いた。
これだけたくさんの言葉が自分の口から出ていくことに。
私が普段意識していなかったようなことさえ漏れていく。
ちょっぴり感動した。
私がこんなに恭介のことを好きだったことに。
そして素直な気持ちで言葉に出せたことが何より嬉しかった。
自分が大好きなものの話を、一番伝えたい人に話せたことが嬉しかった。
~恭介~
さやか……
なんでそんな話を僕にするんだよ?
ゲームキャラクターを演じなきゃいけない君が、僕しか知らない思い出を知ってたら、おかしいじゃないか。
君は僕を陥れることを考えていたんじゃないのかい?
僕を笑いものにするために、こんなことを仕組んだんじゃなかったのか?
『このゲームは私と恭介が仲良くなることを目的として作られてるの』
ごめん、疑ってしまって。
最初から君の言葉を信じていたら、もう少し長くゲームを楽しめていたのにね。
いくらイタズラ好きな君でも、そんな悪趣味なことをするはずがなかったのに……
~仁美~
じょ、浄化されそうですわ。
早くどちらでもいいからさっさと終わらせてしまってくださいな。
もう出番とかいいんで、ホント早く…早く。
~恭介~
僕はさやプラスの電源を切って、部屋を出た。
さやかにはどんな言葉をかけていいか、どうやって謝ればいいのかわからなかった。
今もさやかはカメラの前で僕の言葉を待っているのだろうか?
あるいは、僕が電源を落としたことに気づいて、宿題を始めているのかもしれない。
僕はさやかに何を謝ればいいのだろうか?
初めからさやか本人が出演していることに気づいてたのに、黙ってたことだろうか。
さやかの気持ちに気づかず、僕が変なことを言ってしまったことだろうか。
さやかの言葉が信じれず、最後の最後まで疑ってしまったことだろうか……
それとも……
防音室につくとバイオリンケースを手にとった。
ケースの端に、幾粒かの雫が滴る。
中から靭やかな光を放つバイオリンを取り出して、じっと見つめた。
今一番、演奏を聞かせたい人の顔が浮かんだ。
ごめんね、さやか。
いきなりゲームのスイッチを切ってしまって。
君は恥ずかしいのを我慢して、最後まで僕のことを好きだと言ってくれたのに…
だけど僕はあれ以上、君とお喋りすることはできなかったんだ。
このバイオリンとはさやか以上に長い付き合いになる。
褒められたり、他の子より綺麗な音が出せるのが嬉しくて始めた。
今では音楽が好きだから、もっと上手くなりたくて続けてるけれど……
『恭介のバイオリンを聞いてると幸せな気持ちになるんだ』
初めてそういってくれたのは、さやかだったかな…
褒められることはあっても、人の気持ちを動かしたり、感動させられる力が、自分にあるなんて思わなかった。
人を喜ばせられることが、笑顔にできる力が僕にあるんだって。
これから先、多くの人に演奏を聞いてもらうことかもしれない。
その人達の支えや、安らぎになれるなんておこがましいことは言わない。
だけど僕のバイオリンが大好きだと言ってくれる人。
その人たちに聞いてもらうためだけに……
とりわけ僕のことをよく知っていて、
演奏だけじゃなくてこんな僕を好きでい続けてくれる幼馴染には
飽きないでいつまでも聞いてもらえると嬉しい。
涙が止まったら、会いに行ってそれを伝えたい。
画面の中にいたあの子に会いに行ってまずは謝りたい。
おしまい。
これ以上は蛇足でござるよ。
支援してくれた人ありがとう。
まどか「初めまして転校生の鹿目まどかです」
もよろしく。
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