青子「有珠に冗談で『私をプレゼント』って言ったら大変なことに」(84)

有珠「青子は私のだから」ギュッ

青子「これはまずい」

草十郎「よかった。仲良くなったんだな。じゃ、俺バイトだから」

青子「ま、って―――」

有珠「……」ギュゥゥ

青子(プロイにされる……かもしれない)

―――数時間前

青子「はっ?!」

草十郎「ん?どうしたんだ?」

青子「今日、何日だっけ?!」

草十郎「9月29日」

青子「しまった!!」

草十郎「なにが?」

青子「明日……有珠の誕生日……」

草十郎「そうだな」

青子「草十郎は……覚えてたの……?」

草十郎「勿論。ちゃんと有珠のためにプレゼントも買っておいた」

青子「……」

青子(まずいわ。今月発売したCDウォークマンに浮かれすぎて、有珠の誕生日を失念してた)

青子(今月はもうお金が……)

草十郎「蒼崎?どうかしたのか?」

青子「え?なにも問題はないけど?」

草十郎「そうか。顔色が悪そうだったから、風邪でも引いたのかと思った。季節の変わり目って体調を崩しやすいんだろ?」

青子「私は大丈夫よ。心配ご無用だから」

草十郎「そうか」

青子(私はきちんと有珠から誕生日祝い貰ってるし、無しなんていった日には、どうなるか……)

青子(草十郎にお金を……)

青子(いやいやいや!!それだけは……!!)

草十郎「そういえば有珠が漏らしてたけど、蒼崎のプレゼントはいつも期待しているみたいだ」

青子「……」

青子「いつもって……そんなにプレゼントを渡したことないけど」

草十郎「その数回で有珠は蒼崎に期待を抱くようになったんじゃないかな。記念日なら尚更だろうし」

青子「ちっ……」

草十郎「どうした?」

青子「別に」

青子(考えなきゃ……)

ガチャ

有珠「……」

青子「あ、ど、どうしたの有珠?」

有珠「本を読みきただけ」

青子「あ、そうなんだ」

有珠「……なに?」

青子「な、なんでもない」

草十郎「バイトまで時間があるな。庭の掃除でもしておこうか」

青子「……ねえ、有珠?」

有珠「なに?」

青子「明日、誕生日でしょ?何が欲しい?」

有珠「別に貴女からの贈り物はそんなに期待していないし、なんでもいいけれど」

青子「えー?」

有珠「それに……」

青子「それに?」

有珠「そういうことを聞くのはタブーなんでしょ?」

青子「何時の間にそんな常識を」

有珠「常識だから知っているの」

青子「あ、そ」

青子「……」

有珠「……」ペラッ

青子(これはあれだ。『肩透かしさせたら、殺す』って感じね)

青子(はてさて……。もう夕方だし、明日は普通に平日だし)

青子(お金を工面する時間が……)

有珠「青子」

青子「なになに?」ビクッ

有珠「……なんでもいいから」

青子「え……」

有珠「それだけ……」

青子「……」

青子(それが一番困るんだけど……)

青子(ええい。悩んでてもお金は降ってこない)

青子(とりあえず……)

青子「ちょっとお手洗いに」

有珠「……なんでそれを告げるの?」

青子「え?」

有珠「……青子。わたしになにか隠してるの?」

青子「なにも」

有珠「そう。ならいいけど」

青子(これ以上はまずい……。なんとかして草十郎に……)



草十郎「……」ザッザッ

青子「……」

草十郎「蒼崎、なんだ?」

青子「あ。やっぱり、気づいてた?」

草十郎「5分も後ろに立たれたら、誰だって気がつく」

青子「……」

草十郎「庭掃除を手伝いたいって言うのがそんなに恥ずかしいのか?」

青子「ちっがう!!」

草十郎「え……?」

青子「えっと……お金、ある?あれば貸して―――」

草十郎「……蒼崎。俺を苛めたいのか」

青子「……ごめん。なんでもない」

ロビー

青子(やっぱりダメ。そもそも草十郎に頼るとか、ないない)

青子(となれば手作り……?)

青子「そうだ!うんうん。何でもいいって有珠は言っちゃったわけだし」

青子(そうと決まれば部屋で自作してやるわ)

青子(簡単な縫い包みでも渡せば、それでいいでしょ)

青子(多分)

青子「よっし!早速……」トコトコ

有珠「……」ガチャ

有珠「……」ソワソワ

草十郎「あれ?有珠?」

有珠「静希君」

草十郎「どうかしたのか?蒼崎の背中、じっとみてたけど」

有珠「えっと……」

リビング

有珠「静希君はなにか聞いてる?」

草十郎「なんのこと?」

有珠「……青子がどんなプレゼントを用意してるか」

草十郎「いや。聞いてない。というか、そういうことは知ってても言えないと思う」

有珠「そうよね」

草十郎「気になってるのか」

有珠「少しだけ。本当に少しだけ」

有珠「目の前に箱があったら中身が気になるものでしょ?」

草十郎「そういうものか……」

有珠「だから、青子がどんなモノを用意しているのか……ほんの少しだけ興味があったの」

草十郎「そっか。でも、期待してていいと思う」

有珠「どうして?」

草十郎「あの蒼崎が俺にお金を借りようとしてきた。それってつまり、有珠のプレゼントに全財産を投げ打ったってことじゃないか?」

有珠「な」

有珠「……そう」

草十郎「ああ。だから、何も心配することじゃない」

有珠「そうね。ごめんなさい、静希君。意味のないことを訊いて」

草十郎「ううん。もっとそういう相談をしてほしいぐらいだ」

有珠「そういう相談って、貴方にとってどうでもいいこと?」

草十郎「どうでもよくはないかな。これって蒼崎と有珠にとっては大事なことだと思う」

有珠「静希君には関係ないわ」

草十郎「二人にとって大切なことなら、力になりたい」

有珠「どうして?」

草十郎「普段、何の力にもなれないから」

有珠「……」

草十郎「よし。休憩終わり。廊下の掃除、してくる」

有珠「……」コクッ

有珠「青子……」

草十郎「……」ゴシゴシ

ドォォォン

草十郎「……」

草十郎「……」スタスタ

草十郎「あおざきー」トントン

青子『え!?草十郎!?』

草十郎「今、すごい音がしたけど……」

青子『なんでもない!!』

草十郎「ギターの練習か?」

青子『そうそう!!ちょっとロックだったでしょ!!』

草十郎「良く分からないけど、蒼崎がそういうならそうなんだろうな」

青子『それだけ!?』

草十郎「ああ。ギターの練習がんばってくれ」

青子『まかせて!!』

青子の部屋

青子「はぁ……」

青子「もう一度、最初から……」

青子「えっと、魔力を糸にこめて……」

青子「……」チクチク

青子(どうせ何かの実験に使われるでしょうし、それなら初めから魔術用具として使い道があったほうが―――)

青子「あ」

ドォォォン

青子「くっそ!!できなーい!!!」

青子「普通に縫っても面白くないしなぁ……」

青子「……紅茶でも飲もう」

青子「あぁ……どうしよう……」トボトボ

リビング

有珠「……」

青子「……」ガチャ

有珠「あ」

青子「有珠……?」

有珠「……なに?」

青子「紅茶、淹れる」

有珠「……」スクッ

青子「え?」

有珠「わたしが淹れてあげる。丁度、飲みたかったから」

青子「えぇ!?どういう風の吹き回し!?」

有珠「……どういう意味?」

青子「あ、えっと。ごめん。いつもそんなこと言わないから」

有珠「そんなことないと思うけれど」

青子(これはあれだ。『優しくしてやるから、それだけの見返りだせよ、おらぁ』ってことね……)

有珠「……はい」

青子「ありがとう」

有珠「……青子?」

青子「な、なに!?」

有珠「……無理してるの?」

青子「無理って?」

有珠「本当に何でもいいから」

青子「あ、うん……」

有珠「……」ペラッ

青子「……」

青子(完全に期待してる……)

青子(このままじゃぁ……ぬいぐるみにされるの私だぁ……!!)ブルブル

青子「ごちそうさま。それじゃあ」

有珠「……」ジーッ

青子(めっちゃ見てる……)

青子(もしかしたら感づいてるかもしれない……)

有珠「……」ジーッ

青子(とにかく、明日までになんとか……!!)

青子「……」トコトコ

有珠「……」

有珠「……」スクッ

有珠「……」トテトテ

廊下

草十郎「そろそろ、バイトの時間か……」スタスタ

草十郎(その前にお茶でも―――)

有珠「……」コソコソ

草十郎「有珠」

有珠「……!?」ビクッ

草十郎「蒼崎の部屋の前で何やってるんだ?」

有珠「(しーっ)」

草十郎「?」

草十郎「なるほど。わかった」

有珠「え?」

草十郎「有珠はリビングで待っててくれ」

有珠「あの……」オロオロ

草十郎「蒼崎にちゃんと訊いてくる」

有珠「……」コクッ

青子の部屋

青子「えぇい。上手くいかない」

草十郎『蒼崎』トントン

青子「なに?」ガチャ

草十郎「ちょっといいか?」

青子「うん?」

草十郎「有珠はかなり気にしてるみたいだ」

青子「何を?」

草十郎「明日のことだろう」

青子「……そう」

草十郎「……ケーキは用意してないんだ。すぐに痛むらしいから、明日蒼崎と一緒に買いにいこうって思ってたんだけど」

青子「……」

草十郎「きっと、冷蔵庫にないことを気にして……」

青子「何の話?」

草十郎「蒼崎にケーキはどうするか有珠が訊きたがってたみたいだから」

青子「ケーキ?それは別に用意しなくていいから」

草十郎「でも、ケーキは必要だって聞いたけど」

青子「いいのいいの。ないって言っておって」

草十郎「ない……?」

青子「そう。本当はあるけど、そっちのほうが驚くでしょ?」

草十郎「なるほど」

青子「だから。何を訊かれても、無いで通すのよ?」

草十郎「記念日の催しは考えられているんだな」

青子「これくらいはね。素直に渡したんじゃ、つまらないし」

草十郎「分かった。蒼崎の言うとおりにする」

青子「よろしくね」

リビング

有珠「……」ソワソワ

草十郎「有珠。訊いてきた」

有珠「……ど、どうだったの?」

草十郎「……用意してない」

有珠「……」

草十郎「用意してない」

有珠「……どうして?」

草十郎「それは……忘れてたとかじゃないかな」

有珠「……」

草十郎「そういうわけで、残念だけど……用意してないってことらしい」

有珠「そう……」

草十郎「えっと……」

有珠「……」

草十郎(これでよかったのか……)

青子「……」ガチャ

草十郎「蒼崎。なんかやつれてないか?」

青子「気のせいよ」

有珠「……」

青子「紅茶、貰うわね」

有珠「……」ジーッ

青子(ダメ……全然、間に合いそうに無い)

有珠「……青子?」

青子「な、なによ?」

有珠「やっと分かったわ。どうにも様子がおかしいと思ったの」

青子「な、なんのこと?」

有珠「―――用意してないのね」

青子「……!?」ガタッ

草十郎「有珠……!!」

青子「……」

有珠「貴女の誕生日にはきちんと用意したのに」

青子(下手に誤魔化しても、無駄ね……)

青子「ええ。そうよ。ご名答。忘れてたの」

草十郎「な……」

有珠「……」

青子「CDウォークマンが欲しくて、すっかり忘却してました。ごめんなさい」

有珠「そんな無駄なモノを……」

青子「ほ、ほしかったんだから、仕方ないでしょ」

有珠「……そうね。青子はそういう人だったわ。ごめんなさい」

青子「……」

有珠「……」

草十郎「えっと……蒼崎」

青子「黙ってて」

ロビー

草十郎「蒼崎、どうして。あんなことを。本当は用意してるんだろ?」

青子「してない。すっかり忘れてたの」

草十郎「そんな!!さっきはあるって!!」

青子「それはケーキの話でしょ?ケーキは明日買いに行けばいいじゃない」

草十郎「……待ってくれ。蒼崎は何を用意してないんだ?」

青子「有珠のプレゼントよ。それぐらい分かるでしょ」

草十郎「じゃあ、有珠に訂正しないと。今の話はケーキの話じゃなくてプレゼントの話だって」

青子「いや。有珠と私はプレゼントの話をしてたから」

草十郎「そ、そうなのか……。困ったな。今から、買いにいくのか?」

青子「買いにいけるなら、とっくに行ってるわよ」

草十郎「なんで行かないんだ?」

青子「お金がない」

草十郎「……」

青子「……お金がないの」

草十郎「む……。それじゃあ、庭で俺にお金を借りようとしたのは」

青子「プレゼントを買うお金がなかったから」

草十郎「全財産を有珠のプレゼントに捧げたんじゃ……」

青子「私用の品に捧げたわ。きれいさっぱりね」

草十郎「……」

青子「軽蔑した?」

草十郎「―――なんでそれを先に言ってくれないんだ」

青子「草十郎……。お金、貸してくれるの?」

草十郎「それはできない。でも、いい考えがある」

青子「いい考え?」

草十郎「この前、木乃美に聞いたんだ。お金の無いときのプレゼント」

青子「手作りの品って言うんでしょ?それぐら―――」

草十郎「体」

青子「……え?」

草十郎「お金はない。でも、最大限のプレゼントがしたい。そんなときは自分をプレゼントしたらいいらしい」

青子「体……?」

草十郎「ああ」

青子「ちょっと待って。草十郎は何をプレゼントしようとしてるの?!」

草十郎「俺はこのティーカップを」スッ

青子(無難なの買いやがって……!!)

草十郎「でも、俺も割りと危なかった。食費と学費、あと家賃のかねないで」

青子「足りなかったら、体をプレゼントするつもりだったの?」

草十郎「ああ」

青子「はぁ……」

草十郎「ダメなのか?」

青子「いい?有珠に……魔術師に体を売るって、どういうことか分かる?」

青子「畜生以下の扱いを受けるってことよ?」

草十郎「有珠はそんなことしない。きっと、蒼崎を受け入れてくれる」

青子「あの子を甘くみないで」

青子「とにかくダメダメ。そんなの」

草十郎「でも、用意してなかった蒼崎が悪いわけで。たとえばプレゼントを買うまでの間、なんでも言うことを聞く、とかでもいいんじゃないか?」

青子「……」

草十郎「お金に余裕ができたら、改めて品を購入して渡したらいいだけだし」

青子「つまり、私自身を担保にするってことね」

草十郎「ああ。それなら契約だろ?」

青子「なるほどね」

草十郎「どうだ?」

青子「仕方ない。どうせ、時間もないし、それなら操り人形にされることはないでしょ」

草十郎「よかった。早く仲直りしてくれ」

青子「結局、それか」

草十郎「頼むな、蒼崎」

青子「はいはい」

青子(でも、有珠にその手の言い訳が通用するか疑問だけど……)

リビング

有珠「……」

青子「あーりす」

有珠「……」

青子「あの。本当にごめん。すっかり忘れてた。反省してる」

有珠「……」

青子「それでね。今回の失態を鑑みて、一代決心をしたのよ」

有珠「……」ピクッ

青子「―――プレゼントは わ た し」

有珠「……」

青子「私をプレゼントするわ、有珠!!」

有珠「……」

青子(やっぱりダメか……)

有珠「そ」

青子「え?」

有珠「……」

青子「ダメなら。えっと、再来月まで待ってくれたら、きちんと……」オロオロ

有珠「……青子」

青子「な、なに?」

有珠「それ、本当?」

青子「なにが?」

有珠「青子をわたしにくれるの?」

青子「そうそう。まぁ、期限付きだけ―――」

有珠「……」ギュッ

青子「え……」

有珠「青子はわたしの」

青子「ちょっと……有珠……」

有珠「……」ギュゥゥ

青子「えぇ……」

青子「とりあえず、座りましょう」

有珠「……」コクッ

青子「よっと……」

有珠「……」ギュゥゥ

青子「ちょ……向かい側に―――」

有珠「青子は私のでしょ?」

青子「待って。有珠、無条件で我が身を差し出すわけじゃないの」

有珠「何か等価交換しろってこと?プロイ?」

青子「違う違う。私自身を担保にするの」

有珠「プレゼントを渡せるようになるまでってこと?」

青子「正解っ」

有珠「……」

青子「だ、だめ……?」

有珠「……それでいいわ」

青子「ほんとに?!たすかったぁ……」

有珠「でも、それまでは青子はわたしのってことでいいのよね?」

青子「え?まぁ……そうなるかなぁ……」

有珠「そう……」

青子「有珠?」

有珠「何をしても貴女は怒らない。何をされても従う。そういうことでいいのよね?」

青子「まって!!死ねとか、意識をなくさせるようなこととか、魔術師生命が絶たれるようなことは精一杯拒否させてもらうからね」

有珠「そんなことしないわ。青子からプレゼントもらえなくなるから」

青子「それなら、いいんだけど……」

有珠「……ふふ……なんでも……いうことを……」

有珠「青子は私のだから」ギュッ

青子「これはまずい」

草十郎「よかった。仲良くなったんだな。じゃ、俺バイトだから」

青子「ま、って―――」

有珠「……」ギュゥゥ

青子(プロイにされる……かもしれない)

青子「……で、これからどうするの?」

有珠「どうするって?」

青子「いつまでもこうしてくっついてるわけにもいかないでしょ?お互いにやることはあるんだし」

有珠「そうね」スクッ

青子「有珠?」

有珠「……」トテトテ

青子「……?」

青子(はぁ……なんとか切り抜けられたぁ……のかな?)

青子(まぁ、許容を超える強要なら抵抗するって言っておいたし、命の危険はとりあえず避けられるかもしれない)

ガチャ

有珠「青子。ちょっときて」

青子「なに?」

有珠「荷物。運ぶの手伝って」

青子「荷物?」

青子の部屋

有珠「……よし」

青子「よしじゃない!!なによ!!これ!?なんでアンタの部屋の私物を私のところに?!」

有珠「当然でしょ?貴女はわたしのモノなんだから」

青子「は?」

有珠「これからはここで寝起きするの」

青子「な、なんで……」

有珠「わたしのモノだから、傍に置いていたいの」

青子「……」

有珠「……」ギュッ

青子「はぁ……わかったわかった」

有珠「青子?なんで嫌そうなの?貴女がわたしのモノになるって言ってきたのに」

青子「嫌っていうか拍子抜け。この程度でいいんだって。なんでアンタの部屋じゃなくて私の部屋なのかは不問にするけど」

有珠「……そう」

青子(絶対服従している体だから、有珠は安心しきってるのか……。こういうところはまぁ、好きなんだけどなぁ)

青子「……ふわぁぁ」

有珠「……」ペラッ

青子「寝ていい?」

有珠「寝るの?」

青子「眠いし」

有珠「わかったわ」

青子「……」モゾモゾ

有珠「……」モゾモゾ

青子「……え?」

有珠「え?」ギュッ

青子「一緒に寝るの?」

有珠「ここしか寝るところがないから。仕方なくよ」

青子「いや、まあ……」

有珠「……青子はわたしのモノだから」

青子「わかった!わかりました!!はいはい、一緒に寝ましょう!!」

夜 ロビー

草十郎「ちょっとお茶でも飲んでから……」ガチャ

青子「……」

草十郎「蒼崎?」

青子「おかえり、草十郎」

草十郎「どうしたんだ?こんな時間に」

青子「ちょっとね」

ガチャ

有珠「静希君」

草十郎「ただいま、有珠」

有珠「青子」ギュッ

青子「はいはい」

草十郎「二人ともすごく仲良くなったんだな」

青子「おかげさまで、トイレに行くだけで叩き起こされるようになったわ」

有珠「青子!」

草十郎「とにかく仲直りはできたみたいでよかった」

青子「別に喧嘩してたわけじゃ……」

有珠「青子、部屋に戻るわよ」ギュッ

青子「はいはい」

草十郎「……」

青子(とはいえ、この状況は中々よろしくない)

有珠「どうしたの?」

青子「なんでも」

草十郎「あの」

青子「ん?」

草十郎「二人一緒に寝るのか?」

有珠「……」コクッ

青子「それがどうかしたの?」

草十郎「そうか……」

青子「なに?なんか問題でもあるの?」

草十郎「いや、二人の状況にぴったりの言葉をついさっきバイト先で教えてもらったんだ」

青子「どういうこと?」

有珠「……?」

草十郎「愛し合う女性同士のことをレ―――」

青子「……」ピキーン

草十郎「がっ……!?」グググッ

青子「なに?よく聞こえなかったんだけど」

草十郎「だ……から……レ―――」

青子「もうちょっとキツめにいっとくか」

草十郎「あっ……!?」

有珠「青子、静希君、死ぬから」

青子「……で、静希くん?何がいいたかったの?」

草十郎「……なんでもない」

青子「よろしい」

有珠「静希君は何を伝えようとしたの?」

青子「有珠は知らなくて結構」

有珠「そう」

草十郎「蒼崎、なんで首を絞めた?」

青子「名誉毀損されそうになったからだけど?」

草十郎「む……。そうなのか。今度から気をつける」

青子「うん」

有珠「……」

青子「さー、ねよねよ」トコトコ

有珠「そうね」トテトテ

草十郎「そうか。女性に対してレズとか言ったらダメなのか」

草十郎「気をつけないと」

翌日 リビング

草十郎(お茶が美味しい)

有珠「……」ガチャ

草十郎「有珠」

有珠「……青子は?」

草十郎「まだ帰ってきてない」

有珠「そう……。やっぱり校門のところで待っておくべきだった……」ブツブツ

草十郎「有珠は蒼崎のことかなり好きになったのか」

有珠「別に。わたしの中での評価に変動はないけど」

草十郎「でも、一緒に寝たんだろ?」

有珠「寝ただけね。そもそも青子は今、わたしのモノだから」

草十郎「……現在の蒼崎はモノってことか」

有珠「ええ」

草十郎「なるほど。でも、モノにも愛情を注ぐときがある気がする。―――例えば、誕生日に貰ったものとか」

有珠「それは……そうだけど」

草十郎「はい、これ」スッ

有珠「え……?」

草十郎「誕生日、おめでとう。有珠」

有珠「あ」

草十郎「蒼崎と同じように大事にしてくれると嬉しい」

有珠「え?」

草十郎「今、蒼崎は有珠のモノだけど、記念日に貰ったモノだから、有珠にとっては宝物だと思う」

有珠「青子が……宝物」

草十郎「俺のプレゼントも是非、有珠の宝物コレクションに加えてほしい」

有珠「別に青子は宝物じゃない」

草十郎「そうなのか」

有珠「……多分」

草十郎「でも、大切な人ではあるんだろ。じゃないと、一緒に寝たりできないと思うし」

有珠「つまり、わたしがこのプレゼントを抱いて寝たらいいの?」

草十郎「うーん……そうかもしれないな。うん、きっとそうだ」

有珠「でも、どうして?」

草十郎「なんだろうな。昨日、二人がくっついているのを見てて、羨ましいって思ったからかもしれない」

有珠「羨ましいって、わたしに?それとも青子に?」

草十郎「どっちも」

有珠「どっちも?」

草十郎「俺には入り込める空間がなかった。昨夜のリビングでは俺だけが完全に孤立していた」

草十郎「所在がないというよりも、あの場所に俺がいることに酷く違和感があった」

有珠「そんなこと……」

草十郎「つまり、それだけ二人の仲が良く見えたんだ」

有珠「……」

草十郎「だから、俺のティーカップも一緒に抱きしめててほしい、と感じたのかもしれない」

有珠「そう」

草十郎「できそうか?」

有珠「やってみるけど、割れないかが心配ね」

草十郎「箱に入れた状態ならその心配も無いと思う」

夜 青子の部屋

有珠「……」ギュゥゥ

青子「誕生日おめでとう」

有珠「ありがとう」

青子「で、さっきから何を抱きしめてるの?」

有珠「これ、わたしのだから」

青子「それはわかってる。草十郎からのプレゼント?」

有珠「……」コクッ

青子「そんなに大事そうに抱きしめて……もしかして……」

有珠「なに?」

青子「ふふ……なるほどね。やっと自分の気持ちに気づけたか」

有珠「自分の気持ち?」

青子「そ。草十郎が貴女にとって、大切な存在になったんじゃない?」

有珠「……静希君と同じことを言うのね」

青子「同じことって……?」

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