男「好きです。付き合ってください!!」(306)
立
◆◇屋上◆◇
級友「ありがとう。でも、その……」キョロキョロ
級友「ごめんなさい、でも男君とは付き合えない」
男「あ、あはは……そっか……」
級友「えっとね、男君が悪いってわけじゃないんだよ、ただちょっと……私たちが付き合うのがベストじゃないっていうか」
男「……べ、ベストじゃない、ですか」
級友「いや、男君は魅力があるから、もっとちゃんと別の人と、ね」
男「あはは……うん」
級友「あの、とにかく、ごめんなさい! えと、もう行くね! じゃあっ」
タッタッタッタッ
男「……」
男「散った……散ったよ、うん」
男「……はぁ」
すっ
幼「……ほんと、何でなんだろうね」
男「あ、幼」
幼「やあ――よいしょっと」
ぎゅっ
男「っ!?」
ぎゅーっ
幼「ドンマイ、男」
男「抱きしめてくれるの嬉しいけど、どうせなら前から抱きしめて欲しかったなー、なんて……」
幼「やだよっ、背中に手をまわされそうだし」
男「……そんなことしない」
幼「ふふっ」
幼「人生って上手くいかないね~」
幼「でも、大丈夫。次があるよ、うん」
男「あのさ……幼……何度も言うけど、やっぱり――」
どんっ
幼「んんー、ハグタイム終了っ」
幼「諦めないでね。私はいつも見守ってるから、ね?」
男「あ、ああ」
幼「よーし……じゃあ、先に校門行ってるよー」
すたすたすた
男(振られたときにどこか安心してしまった)
男(……やっぱり俺は――……ま、仕方ないよな)
男「さぁて、帰りますかあ」
すたすた
…………
……
◆◇教室◆◇
ざわざわ
男(うわー……まさか、俺の告白のことで盛り上がってる? だったら最悪な朝だ)
男「おはよー」
友「おおっ、おはよう!」
男「なんか、いつもより周りが『がやがや』やってるみたいだけど、何かあったのか?」
友「それがさ、実は…………転校生が来るんだって! しかも、女の子!」
男「……ま、まじかよっ」
友「まさにキターーーーッ!! チャンスがキターーーーッ!!」
男「チャンスなんて……。俺と違って、友ならたくさんあるだろうに」
友「いや……チャンスならお前だって幼ちゃん――……って、まぁいいや」
男(そこで幼の名前出すなっての)
友「とにかく、転校生が来るって話題であちこち繁ってるわけ」
幼「ふーん、転校生かー」
男「わっ、びっくりするわ」
友「聞いてよ、幼ちゃん! 男がさ、転校生に興味津々でさ、まだ見てもないのに恋活すごく燃えてんの、ふははっ」
男「おい、友、それお前だろが……」
幼「ほう……女の子なの?」
友「そう! 女子!」
幼「そっかー……。昨日振られたばっかりなのに、元気になってよかったよかった!」
男「ちょっ、それは黙っ――」
友「えっ、男振られたん!?」
男「あーまー、そのうち話す……」
幼「ま、切り替えの早さに定評がある男ならではだよね」
男「褒められてる? 侮辱されてる?」
幼「ふふっ」
男「その笑い方は後者か……?」
友「普通わかるだろ」
男「ほっとけ」
幼「あのね、男。そんなんじゃダメだよ。おとく――男は『ちゃんとした相手』を見つけないと」
幼「今の男は、なんだか恋人になってくれるなら何でもいいみたいな感じがしちゃって、ダメダメですな」
友「ダメダメだわ」
男(……幼のせいだろ……)
男「――って言うか、なんで俺が怒られる流れになってるんだ」
友「えっ?」
幼「えっ?」
男「……はぁ」
男(まあいいや……)
キーンコーンカーンコーン
ざわざわ
男「幼、あのさ――」
幼「ストップ! ……友くんの手前、ああ言ったけど、男が前向きになるのは嬉しいよ」
男「あ、えっと……照れるな」
幼「おい、可愛いから照れんなや」
男「すみません」
幼「ふふっ、楽しみだね、わくわくするよねー」
男「そうだな、転校生だからな」
幼「先生遅いなあ」
男「まあ、転校生のことがあるからじゃないか?」
ガラガラ
先生「あー、すまん。遅れた」
先生「ちょっと、事情があってな」
先生「――このクラスに新しいメンバーが加わることになった」
「転校生キタァァアアアッ!!」
「待ってましたぁぁああ!」
先生「うるさい! ……はぁ。ま、いいか」
先生「じゃ、入ってきてくれ、女」
すたすたすた
女「……」
先生「自己紹介を頼む。あ、時間が無いからまきで」
女「はい」
女「転校してきた女です。よろしくお願いします」
「……」
先生「……はい、拍手ー」
ぱちぱちぱちぱち
先生「よし、じゃあ席は――っと、一番後ろでいいか?」
女「はい、大丈夫です」
先生「わかった、じゃあ窓際の空いている席で」
女「ありがとうございます」
すたすた
先生「はい、朝のホームルーム終わりだ」
先生「クラスの各々、ちゃんと転校生に優しく接すること。それと、へんなことはするなよ、女の子なんだからな」
先生「あと、次の授業に遅れるなよ、以上だ」
すたすたすた
ガラガラ
…………
……
ザワザワ
「すごい美人……」
「どうしよう、話掛けにくい」
「俺行ってくるわ!」
「俺も俺も!」
「あの、さ、女さん、どこから来たの?」
女「……神戸です」
「神戸! 神戸良いよね、港町だよね」
「女さん、ずばり、彼氏とかいんの!?」
「バストは?」
幼「やめときなよー、男子ー」ガタッ
女「……っ!?」
幼「質問攻めで女さん困っちゃうでしょ?」
「いや、気になるじゃん」
「ほんとそれ」
幼「うーん……しかし、いやらしい質問はダメだと思うよ」
「へいへい」
「ま、ほどほどにしとくわ」
「でさ、女さん――」
幼「はぁ、やれやれ。男子は皆こうだから困るよね」
男「……いや、わたくしにおっしゃられましても」
幼「あれ、男は質問しないのかい?」
男「んー」
男「ま、落ち着いてからな」
幼「やはり行くのだな」
男「あー……まあ」
幼「ふーん、どうなの? 結構タイプだったりするの?」
幼「男が好きなアイドルとかに似てはないけど、女さんは美人だよね」
男「……」
幼「この無言はどう解釈すべきか」
男「幼はさ、どうして――」
幼「――よし。私は女さんに質問しちゃってくるよ、聞きたいことあるからねっ」
幼「ふふっ、でも男には聞いたこと教えてあげないからねーっ」
男「なんの意地悪だよ」
幼「ふふっ」
男「……はぁ」
…………
……
◆◇教室◆◇
女「……」
幼「男、帰ろー」
男「ああ、うん」
幼「じゃあね、女さん」
女「あ……えっと………………うん、さようなら」
男「じ、じゃあ……」
女「………………はい」
幼「やだ……男のコミュニケーション能力……」
男「う、うるさいっ」
幼「あははっ」
すたすた
女「……」
…………
……
◆◇帰路◆◇
幼「あーもー、ほんと男にはガッカリだよ」
男「なんでだよ」
幼「ほんとに女さんを彼女にするつもりあるの?」
男「えっ?」
幼「えっ?」
男「……いや、だからさ」
幼「……」
男「幼、俺がほんとに好きなのは――」
幼「……わたしは男と付き合いたくない」
男「……っ」
男「っべ、別に幼が好きとか言ってないだろ」
幼「う……うん」
幼「まあ、それなら大丈夫だ。私の杞憂だったわけだ」
男「ああ、そうだよ……」
幼「……何でもいいから、はやく……それでもって『ちゃんとした』彼女をつくるのだよ」
男「……」
幼「いい? わかった?」
男「ああ……」
…………
……
◆◇家◆◇
男「ただいま」
男「……ふぅ」
男「あーそうだ、青色切れかけてたんだったな」
男「買いに行かないと」
男「……」
男「着替えてから行くか」
……
…………
……
◆◇公園◆◇
男「うん、色々余分に買ったし、大丈夫だろ」
すたすた
男「……」
男「あれ?」
キィキィ
女「…………はぁ」
男「えっと……確か、あれは転校生の女……さん……?」
女「……っ」
男「転校生の女さんだよね、こんにち――」
女「……!?」
男「……えっ、と、ゴメンね。急に声掛けて」
男「クラスメートの男、だよ」
女「え、あ、うん……男……くん…………あの男くん……」
男「女さん、ここで何してたの?」
女「…………ブランコです。見てわかりませんか?」
男「あ、あはは……そ、うだよね」
男(あ、あれ……女さん結構キツイ……?)
女「あなたは何してらっしゃるんですか?」
女「暇なんですか? 友達は幼ちゃ――幼さん以外いないんですか?」
男「……」
男(本当にグサッて胸に刺してくるな)
男「か、買い物だったんだけど、えっと……ごめん、もう行くね」
すたすた
男「やばい、女さんやばい。ああ見えて物言いのキツイい人だったんだ……」
…………
……
◆◇教室◆◇
男「おはよう」
「うっす」
「はよっ」
級友「……あっ、おはよ……」
男「お、おはよう」
級友「……」
男「えっと……」
友「おー、男! はよっすー」
男「ああ、うん、おはよう、友」
女「……」
男「お、おはよ」
女「…………」
男(うっわー……無視かあ……)
「おはよう、女さん」
女「あ、おはようございます」ニコッ
「女さん、教室迷わなかった?」
女「えっと、実は少し迷っちゃいました。ふふっ」
男(……どうやら俺だけ無視されているみたいだ……)
男(なんでなんだろう……)
男「はぁ」
友「ん、どうしたんだ?」
男「いや、何でもないよ」
友「ん? ……まあいいか」
ガラガラ
幼「みんな、おはよっ」
男「うっす」
女「…………っ! おはよっ」
幼「おおっ、女さん! うん、おはよー」ニコッ
男「のお、幼さんや」
幼「はいはい」
女「……チッ」
男「――っ!?」
男「な、何でもないです、ハイ」
男(どういうことなんだろ。俺が幼に話かけたら余計に態度が悪く……)
女「あの、幼……幼さん、今日初めての――」
幼「うんうん――」
男「……」
友「ほんとどうしたん?」
男「何にもないってば。……はぁ」
…………
……
◆◇教室◆◇
幼「さーて、ご飯ご飯ー」
女「あの、幼さん」
幼「ん?」
女「もしよかったら、ご飯一緒にいいかな?」
幼「うん、いいよっ」
女「えへへ」
男「……」チラッ
男「友ー、購買行こう」
友「ん、そうしよか、今日は目標カツサンドな」
男「いや、もう無理だろ」
ガラガラ
男「なぁ、友」
友「ん、どうした?」
男「お前さ、女さんのことどう思う?」
友「え、どうってそりゃあ優しそうないい子? あ、それに美人」
男「そ、そっか」
友「ははぁん、そんな質問するってことはまさか――」ニヤニヤ
男「や、違うって、そうゆうことじゃないって!」
友「ははっ。じゃあ、まあ一応そういうことにしといてやるよ」
男「……はぁ」
…………
……
……
…………
男(勘違いじゃない。どうやら、俺は女さんに嫌われているようだ)
男「はぁ」
男(あれからも彼女の側を通ったりするたびに舌打ちされ、睨まれたりした)
幼「……んー?」
男「はぁ」
幼「どうしたの、男?」
男「や、何でもないよ……」
幼「…………よし、じゃあ一緒に帰ろっ」
男「あ、うん」
女「あっ……」
すたすた
女「あ、あのっ、幼さん、私と一緒に帰らない?」
幼「えっ? 男も一緒だけどいいかな?」
男「えっと……」
女「………………チッ。うん、大丈夫。お願い」ニコッ
女「よろしく、男くん」ギロッ
男「ひっ……」
幼「ふふっ、よし、じゃあ仲良く三人で帰ろーっ!」
男(睨まれた。絶対睨まれた)
…………
……
◆◇帰路◆◇
幼「――でさ」
女「ふふっ、素敵だねっ」
男(わ……びっくりするこのアウェー感)
幼「――で、男はどうなの?」
男「えっ、あっ、俺は」
女「……」ギロッ
男(ひぃぃいっ)
女「…………あのね、幼さん――ううん、幼ちゃん」
幼「えっ、その呼び方――」
女「うん」
女「――あの頃と私変わっちゃったから、昔のこと思い出せないのかな」
幼「む、昔……?」
女「私は……幼ちゃんが転向しちゃう前によく遊んでた女、だよっ!」
幼「…………」
女「……もしかして、忘れちゃった?」
幼「……えっ」
幼「ええぇぇええっ!?」
幼「ほ、本当にっ!?」
女「……」コクッ
幼「おお覚えてるよっ、一緒によくオママゴトとかしてたよねっ」
幼「信じられない! 懐かしいなあっ、まさか女さ――女ちゃんと会えるなんてっ」
男「……えっと」
幼「あっ、男、あのねっ」
幼「私が転校してくる前に仲良くしてた友達だったのっ」
女「ふふふ、どうも。幼ちゃんの『幼馴染』です」ギロッ
男「あ、あはは……」
幼「ねぇ、ねぇ、どうしてすぐに教えてくれなかったの?」
女「言わなくても気付いてくれるかなぁって――」
幼「えっ――――」
男(アウェーっていうか、何で俺は今ここにいるの?)
…………
……
◆◇教室◆◇
男「おはよ」
「はよっす」
「はよー」
男「おはよう、女さん」
女「……話し掛けないで下さい」
男(……朝からキツいなあ。もうはっきりと拒絶されてしまった)
幼「おはよーっ」
男「おはよう」
女「幼ちゃんおはよっ」
女「昨日全然話し足りなかったから、今日もいっぱいお話しようね」
幼「うむ、そうしよう!」
「……幼さんすげぇ」
「女さんともうあそこまで仲良くなったのか」
男「昔の知り合い、なんだってさ……」
「そうなんだー」
「男、女さんが『男』じゃなくて良かったな、ははっ」
男「う、うるさいっ」
…………
……
男「幼、昼飯一緒に食べよう」
幼「うん、いいよーっ。大歓迎だよー!」
女「……」
幼「あ、女ちゃん、男も一緒でいいかな?」
女「えっと……うん……」
男(うわ……女さんも一緒か……)
幼「ふふっ、というわけで、男、両手に花で食事できるね」
男「あはは……。ありがと」
女「……チッ」
男「あ、そうだ。文化祭近付いてきたよな。何やるか確定した?」
幼「うん」
幼「そろそろ準備とか始めないといけない。丁度、今日のLHRで話しあおうかと」
男「頑張れ、クラス代表さん」
幼「ふむっ」
女「えっ? 文化祭?」
男「うん、もうすぐ開かれるんだ。模擬店とか出すやつ」
女「…………ふーん、そうなんですか」
幼「女ちゃん、来たばっかりだけど、大丈夫かなぁ」
女「……私、頑張るよっ。仕事とか任せてっ!」
男「お、俺もっ」
幼「ふふっ、頼もしい。頼れる幼なじみさんたちに囲まれて嬉しいなー、あはは」
……
…………
幼「今回の模擬店は第一希望だった『喫茶店』に決定しました――」
男(喫茶店か……)
女「……」
幼「――それでは、メニュー班・衣装班・セット班・看板班に分かれます」
幼「それぞれ担当は――」チラッ
男「……?」
幼「ふふっ」ニコッ
…………
……
……
…………
幼「――というわけで、男っ、女ちゃんとちゃ~んと仲良くやるんだよ!」バシッ
男「っ、幼……はぁ。はいはい。転校してきたばっかりなんだしな」
男(とは言っても、まさかあの女さんと一緒って……はぁ……)
女「……」
男「……看板班、一緒になったね」
女「……」
男「……えっと、その……よろしく……」
女「……はぁ」
男(うわ……露骨なため息)
女「なぜか私たち二人だけの班になりましたが……もういいです。早く作業しに行きましょう」
男「あ、はい……」
…………
……
◆◇第二美術室◆◇
男「…………」ぺたぺたぺたぺた
女「……」ぺたぺた
男「……」ぺたぺたぺたぺた
女「……ふーん……」
男「ん? どうかした?」
女「……男性のくせに、割と上手なんですね」
男「あー、あはは……ごめん」
女「誰も悪いなんて言ってませんよ」
男(言ってるようなもんだったよ)
男「……あのさ……幼のこと好きなんだね」
女「当然です。私の親友なんですからっ」
男「そっか」
男「あんなに心を開く幼、見たことないよ。幼も女さんのこと好きみたいだね」
女「ふんっ、当然です」
男「あ、あははー……」
女「……でも、あなたもですよね?」
男「…………さあ、どうかな」ぺたぺた
女「…………チッ、なんですかそれ」
男「……」ぺたぺた
男(今の質問は『俺が幼のことを好き』と、『幼が俺のことを好き』のどっちなんだろう。いや、後者はありえないか)
男(……前者なら正解だ)
…………
……
女「……」ぺたぺた
男「……お疲れ様、もうそろそろ帰らないといけない時間だよ、はいっ」
女「ミルクティー……これどうして……」
男「あ、や、たまたま幼が言ってたこと覚えていただけだから! 女さんがミルクティー好きだったって」
男「それに、たまたま一つ買ったら当たりが出て、タダでついてきただけだから! ほんと、たまたまだから!」
女「そっ……そうじゃなくて……えっと、と、トイレだとか言ってましたが、飲み物買ってて遅くなってたんですね!」
男「あー……えっと、急いだつもりだったんだけど、ごめん、あはは」
女「まあ、いいです……別に……」
男「教室の皆はもうだいたい帰ってたみたいだったよ」
男「幼からは『先に帰ってて~』ってメール来た」
男「で……あのさ……一緒に帰る?」
男(女さんと仲良く……は無理でも、今の関係は変えたいし)
女「……」
男(でも、やっぱり嫌われてるみたいだし、断られるだろうな)
女「……いいですよ」
男「えっ」
女「ただし、私護身のためのスタンガン持っていますから」
男「あー、はい。わかります。使われないように心がければいいんですよね……」
…………
……
◆◇家◆◇
男「……はぁ、疲れた。主に精神面で…………っと、メールだ」
幼『おかえりなさい! 女ちゃんいい子だったでしょ?』
男「いい子? 『そうらしいですね』、っと」
男「…………まぁ、マジメだし、根本的には悪い子じゃないかな……」
男「……」
男「文化祭の班決めも……今日のメールもそう……もしかして、幼……」
男「……はぁ。『級友さんの次』ってことなのかな……」
…………
……
◆◇学校◆◇
男「おはよ」
幼「おはよっ」
女「……」ペコ
男(昨日でちょっとは前進したのかな)
男「今日も、その、よろしく」
女「まあ、はい」
幼「……ふふっ、ふむふむ、男、しっかりやれているみたいですなっ!」
男「ん?」
幼「二人とも頑張ってね! 立派な看板つくってね!!」
女「うんっ!」
……
…………
……
……
…………
男「スースー……」
幼「はぁ、ダメダメだ。この人、授業終わったのにまだ寝ちゃってるよ。昨日の作業がそんなに疲れたのかな」
ガラガラ
「あ、あのさっ、女さんちょっといいかな」
女「はい?」
ざわざわ
ざわざわざわざわ
友「あれは……××……何しにきやがった……っ」
幼「あー、男ピンチっ、ピンチですぞ」
男「……んー……ん?」
幼「ほら、あれ。男がグースカやってる間に、隣のクラスの超絶イケメンが女ちゃんにアプローチしてるよ!」
男「んー、あー、まぁ女さん、顔は良いもんなぁ」
幼「女ちゃんをあんまり気にしてないだとっ!?」
男「……おやすみ……スー」
幼「…………はぁ。やっぱダメダメだ、この人」
……
…………
◆◇第二美術室◆◇
男「女さん、看板の準備は僕がするから、絵の具とか用意しててくれる?」
女「………………あの、一人で大丈夫ですか?」
男「えっ……あー、うん。平気だよ。絵の具お願いね」
女「……はい」
男「…………っ」
…………
……
……
…………
男「…………」ぺたぺた
女「……」
男「……昼に隣のクラスの男子が訪ねてきてたよね。何かあったの?」ぺたぺた
女「たいしたことは無いですよ。…………前の学校でもよくありましたし」ぺたぺた
男「そっか」ぺたぺた
男(やっぱり告白されたんだろうな)
男(ていうか、転校してそんなに日が経ってないのに、しかも隣のクラスの男子からとは……モテる人って凄いよな)
男「……」チラッ
女「……」ぺたぺた
女「……男君って絵とかやってるんですか?」
男「え? う、うん。確か小学生くらいからかな。まあ下手の横好きだけどね」
男(当時転校してきたばっかりだった幼に、絵を褒められたことがきっかけ……)
男(……なんだけど、これは恥ずかしくて言えないよな)
女「よく続けられ――いえ、ごめんなさい、なんでもないです」
男「……本当に好きになったら、ちょっとしたことじゃあ変わらないもんだよ」
女「……そうですか、変なことを言って本当にごめんなさい」
男(本当に好きになったら……)
…………
……
男「……」ぺたぺたぺたぺた
女「……う」ちょこ
男「……あー、そこ塗りにくいよね。ちょっと筆を貸してくれる?」
女「あ、は、はい」
男「ここはこうやって……筆先でこういうふうに――っと、できた。よしっ」ニコッ
女「……ど、どうも」
男「さっきやったようにやれば、上手くいくから、はい」
女「あ、ありがとうございます。………………なるほど、腕前をひけらかしたわけですか」
男「いや、そういうわけじゃなかったんだけど……はは」
女「幼ちゃんは渡さないんだからっ」ボソッ
男「あはは……やっぱり女さんは幼のことが好きなんだね」
女「……ふんっ」
……
…………
男「よしっ、今日のところはこれで終わりっと。お疲れ様」
女「おつかれさまです」
男(あー……外が真っ暗だ。今日もまた夜遅くなっちゃったな……)
男「遅くなっちゃったし、今日も一緒に帰ろうか?」
女「…………はぁ。まあ、仕方なくですが」
男「あ、はい……」
…………
……
◆◇学校◆◇
男「おはよう」
友「うっす!」
幼「はよ! ……昨日はどうだった?」
男(昨日のは細かい作業ばっかりだったからな……)
男「んー……ま、ぼちぼちですわ」
男「あ、女さん。おはよう」
女「……おはようございます」
幼「ふふっ……ほんとに『ぼちぼち』なのかなっ?」
…………
……
◆◇第二美術室◆◇
男「……じゃあ、今日はプレートを仕上げようか」
女「そうですね」
男「うん、じゃあ取ってくるから、また他の準備とかお願い」
女「……はい、わかりました」
女「えっと、その……一人で――」
男「ううん。今日のも小さいし、大丈夫だよ」
スタスタ
スタスタ
「あの、ちょっと女さん?」
「悪いんだけど、来てくんない?」
女「えっ? 私ですか?」
「あんた以外に誰がいんだよ」
「いいからさっさ来いって」
ギュッ
女「……っ、えっ? ちょっと、やめてくださいっ! はなしてくださいっ!!」
ばたっ
「うっざ、いいから来いって言ってんだよっ!!」
…………
……
スタスタ
男「……っし、女さん、プレートを――」
男「って、あれ? いないのかな」
男(他のクラスの人達も、まだいないみたいだな)
キョロキョロ
男「……あれ?」
男(用具が散乱してる)
男(それに、布……いや、ハンカチ……これは女さんのかな?)
男「どうしたんだろ…………よし、女さん探しに行くか」
…………
……
……
…………
ドンッ
女「った……」
「あんたさぁ、××くんに気のあるフリして近づいてさぁ」
「そんでもって色目使っといて、フったんだろ?」
女「なんのことですか? そもそも……××って……?」
「……は? 知らないって言うの!?」
「……っ、調子乗るのも大概にしてよねっ!?」
女「……」
「とりあえずさ、あやまんなよ」
「××くんに謝れって言ってんの」
グイッ
女「いや、だから――……っ!」
タッタッ
男「……っと、いたいた、女さん」
女「あっ、男くん……」
「……ッチ、他の男かよ……」
「ビッチが……てめぇ、覚えとけよ」
すたすた
女「……」
男「……? あの人たち……どうかしたの?」
女「よくわかりませんが、××君って方を陥れたと因縁をつけられただけです」
男(ああ、隣のクラスの噂のイケメン君か。……モテる人は苦労するんだな)
男「……なんか災難だったね」
女「いえ。前の学校でもありましたし」
男「そうなのか……」
女「…………駆けつけてくれて、ありがとうございます」ボソッ
男「あ、はは、どういたしまして」
…………
……
◆◇家路◆◇
女「――ってあの子たちに絡まれてしまって」
男「うわ……女子の嫉妬って怖いんだな」
女「そうですね。本当に困ります」
男「やっぱりな……」
女「男性はみんな嫌いですが、女性のこういう所も嫌いですっ」
男「あはは、苦労が絶えないなぁ」
女「私が可愛いからいけないんですよね」
男「……そういうのを人前で言うからダメなんだろうな……」ボソッ
クルッ
女「思ってても、こんなのを人前では言ったことありませんよ!」
男(俺の前で言ったじゃん……)
女「でも幼ちゃんの可愛さには負けちゃいます」
女「久しぶりに会ってびっくりしましたが、やっぱり幼ちゃんは可愛いですね」
男「女さんも負けてないと思うけど……まあ、確かに……幼は可愛い」
女「ですよね、ですよねっ!! ――って、あ……そうだ、この人……敵なんだった……」ボソッ
男(一緒に幼の話をするくらいだから、女さんとそれなりに仲良くなれたのかな)
女「あの……今日のことは幼ちゃんには内緒にしててもらえますか?」
男「えっ、でもどうして――」
女「どうしても、です!」
男「……わ、わかった。そのかわり、何かあったらクラスメートでも……その……例えば俺でも……た、頼りなよ」
女「…………わ、わかりました」
…………
……
◆◇家◆◇
男「今日も疲れたなあ、はぁ」
ばたっ
男(女さん大丈夫かな……今日のアレって逆恨みだよな。前にもあったって言ってたけど……)
幼「男ー!」
ガチャ
男「うおっ! ビックリしたー。いつも来るときはメールとか電話とかしてって言ってるだろ」
幼「ん~? ふふっ、いきなり入られたら困るようなことしちゃうんだ~?」ニヤ
男「そ、そうじゃない」
幼「ならいいよね」ニコッ
男「……はぁ。まぁいい。今日はどうした?」
幼「久しぶりに描いて欲しいなって」
男「えっ……」
男「……いいのか?」
幼「ううん、お願いしているのはこっちだよっ」ニコッ
男「……わかった」
男「ちょっと待ってて。今すぐ用意するから」
…………
……
男「……」
サーサーッ
幼「……」
男「急にどうしたんだ?」
幼「…………うん、頼めるうちに頼まないと、後悔しちゃうかなって……」
男「……?」
幼「それにっ! おとく――男の画力も上がったかなぁ~ってね、ふふっ」
男「……そりゃそうだよ。あれから何年経ったか」
男「きっと幼に満足させることができるさ」
幼「あららー、あはは、たいした自信だね」
男「なんたって『十六年分』使い込んだ俺の左手だから」
幼「……そっか……」
男「……だから、俺と――」
幼「あっ、そうそう!」
幼「女ちゃん! 女ちゃんさ、どんな感じ? 最近なんだか仲が良いみたいだよね」ニヤニヤ
男「…………」
男「……はは、そうだな。ここ何日かでようやく女さんが分かってきたような気がする。幼のことが好きみたいだ」
幼「ふふっ、それは嬉しいことだ。女ちゃん可愛いよねっ」
男「んー……ああ、そうかもな……」
……
…………
男「――っし、できた。ほら」
ぱさっ
幼「ふむふむ……あはは、本当だ……。凄いや……上手……」ポロッ
男「えっ、おい――」
幼「あ、あはは、ごめんっ、目にゴミが入っちゃって……あはは」
ごしごし
男「……そ、そうか」
男(幼……何で涙を……)
幼「あのね、男……」
男「ん?」
幼「さすが私の『専属画家』だねっ!」ニコッ
男「――っ!」
男「幼……あのさ、また描かせてくれるか?」
幼「んー……気が向いたらね」
男「そうか……」
幼「明日も女ちゃんと仲良くがんばってね! 私、本当に応援してるからっ!!」
男「ちょっ、幼――」
幼「じゃあ……ばいばい、男」
ガチャ
男「幼っ…………はぁ」
男(……『ばいばい』か……)
…………
……
◆◇学校◆◇
男「おはよー」
友「おう、おはよう」
幼「……おはよっ」ポケーッ
男「……幼……?」
男(ん? なんか今日の幼ヘンだな)
男(どうかしたのか? 昨日のこと……だけじゃないな。これは――)
男「……幼、ちょっと」
幼「わっ、ちょっと、やめてっ、やめてよっ!」
友(うっわ、躊躇いなく左手を幼ちゃんのお……おデコにっ!!!)
男「……ん、やっぱり。行くぞ、幼」
幼「ちょっ、いきなりどうしてっ」
男「熱があるじゃん。文化祭が近いから無理したんだろうけど、ダメだ」
幼「……っ、もうっ」
男「友、幼は今日熱で欠席、それと俺は遅刻するから、そう担任に伝えてくれるか?」
男「……あと、悪いんだけどお前の自転車――」
友「ほら、鍵受け取れ! 第二駐輪場の門側あたりに止めてあるから!」
男「ありがと、行ってくる」
すたすた
幼「……勝手に何しちゃってるんすかっ……ふんっ」
男「ごめん、でも……無理はダメだ。ただでさえ体弱いんだから」
幼「あーあ、昨日の今日で……私ときたら……。はぁ、だらしないなぁ……」ボソッ
……
…………
女「……あれ、幼ちゃん……?」
友「ああ、さっき男が連れて行ったよ」
女「えっ、男君? どこにですか?」
友「女さん熱があったみたいだから、女さん家に連れて帰ったんだと」
女「……そうなんですか……。男君が……」
女「幼ちゃん、熱大丈夫かな……」
…………
……
男(前に『男と一緒に二人乗りはできない』って幼が言ってたけど、今日は仕方ないよな……)
幼「あーあ、男不良だねー」
幼「無理やり女の子を教室から引っ張り出して、そのまま学校まで飛び出しちゃうんだから」
幼「しかも授業までさぼっちゃってさ」
男「すみませんね」
幼「ばーか」
男「あはは……」
幼「……どうしてわかったの?」
男「付き合いが長いからな」
男(好きだからいつも幼のことを見てて、そのおかげでちょっとした異変にも気付けるようになったんだけどな)
幼「ふーん……そっか……」
ギュッ
幼「まぁ、私も男のちょっとした変化に気付けるもんね」
男「……えっ」
幼「……ふふっ」
……
…………
◆◇学校◆◇
ガラガラ
男「……おはようございます」
先生「ごほん、早く席につけ」
男「……遅刻してすみません……」
先生「……まあ、事情は聞いている」
男「……」チラッ
友「……」びしっ
男(友、ありがとうな)
女「……」チラッ
スタスタ
男「幼は大丈夫だよ」ボソッ
女「……」ホッ
…………
……
……
…………
女「男くん、幼ちゃんはどうでした? 幼ちゃん昔は体弱かったから……」
男「うん、今も体が丈夫ってわけじゃないから、家でおばさんにお願いして寝かせてもらった」
女「そうですか。……まあ、そうですねー、今日のは褒めてあげます」
男「あはは……どうも」
女「ご褒美に私のサンドイッチを一つあげますね」
男「えっ、あっ、はい、ありがとうございます」
…………
……
◆◇第二美術室◆◇
男「そろそろ仕上げだな。なんとか余裕持って間に合いそうでよかった」
女「そうですね。後半はテンポ良くできましたし」
男「女さんの頑張りかな」
女「んー、そうですねっ」
男「あはは」
男「そうだ、そろそろ教室の舞台班から飾り貰って来ないといけないな。ちょっと行ってくる」
女「えっと……あの――」
男「今は他のクラスの人達もいてるから大丈夫と思うけど……昨日みたいなことがあったら困るから、一応すぐに戻ってくるよ」
タッタッタッ
女「そういうことじゃなかったんですけど……ふふっ、心配性なんですね」
…………
……
◆◇教室◆◇
男(さて、舞台班の飾りは――っと)
「――ってさ、女さんムカつくよね」
「ほんとそれ、男子にいい顔ばっかしてて、私好きになれない」
「転校してきて直ぐに男子あさりしてたしね」
ガラガラ
男「……なぁ」
「っ!?」
「わっ、びっくりした」
男「悪口はやめときなよ」
「なんだ、あなたもアレなの? 女さんのこと好きになったやつ?」
「これだから男子は……」
男「いや、そうじゃなくて……。女さんはそんなつもりとか全然ないだろ」
男「それに女さんが頼んじゃわけじゃなく、男子が勝手にちやほやしてるだけだし」
男「それに、転校してきたばっかりの子って、敵作らないようにクラスの子に気を遣うのって普通だろ? それが男子でも」
男「だから、女さん責めるのはやめなよ」
「……っ」
「ふん……」
男「……まあ、二人の気持ちもわからなくないけど、仲良くしてやってよ」
「……」
すたすた
女「男くん、すごく遅かったから、来ちゃいました。早く飾り運んじゃいましょう」
男「……っ、お、おう。ごめん……」
「……」
「……お、女さん、飾りはあのダンボールに入ってるよ」
女「ありがとうございます」ニコッ
男「……じ、じゃあ、行こっか」
……
…………
◆◇家路◆◇
男「今日でだいたい終わったなー」
男(あの後、女さんに変化なかったし、クラスの女子たちの会話を聞かれてなかったのかな)
女「そうですね。私もだいたいコツがつかめてきましたしっ、ふふふ」
すたすたすた
「へぇ、これが噂の女ちゃんですかぁ、ふはは」
「あー、確かに可愛いわー」
「やっべ、マジち○ぽぶち込みてぇわ、あはははは」
女「――えっ」
男「っ!! おい、何かようか?」
「あー……やっぱ男連れてんのか、萎えるわ」
「処女好きだもんな、お前、うははっ」
「なぁ、兄ちゃん、そのおんなを置いてさっさどっか行けや」
女「ひっ……!!」
男「そ、それはできない」
「じゃあ、ぶっ殺す!!」
ドガッ
男「……っ!?」
女「男くんっ!? だ、大丈夫ですかっ!!?」
男「っつー……いきなりヤバ……女さん、いいから、いいからっ、早く逃げてくれ……!!」
女「で、でもっ、男くんっ……右手が――」
男「……大丈夫だから……はやく!!」ギロッ
女「……男くんっ」
「おい、さっさ立てよ。……もうこんなザマかよ、おい、あはははっははっ」
女「……っ、すぐに助けを呼ぶからっ!!」
たったったっ
男「うん、お願いした」ニコッ
「……おい、てめぇ、何逃がしちゃってんの?」
「マジでぶっ殺すよ……?」
男「それはゴメン被りたいね……」
「ほら、喰らえよ」
ドガッボコッ
ドコッ
…………
……
……
…………
キキーッ
警察「おい! そこの君たち!!」
「……っべ、……やりすぎた……」
「まあ、これだけやればいいか……」
「△△ちゃんも満足いくだろ……早く逃げるぞ」
タッタッタッ
男「…………っく、はぁはぁ……」
男「あはは……あー、そうだ……女さんに護身のスタンガン借りればよかったなぁ……っつ……」
男「あ、やばもう――」
タッタッタッ
?「おとくんっ、おと――」
?「――――」
…………
……
◆◇病室◆◇
男「――ってて」
男「……あれ? ここはどこだ……? ベット……えっ、病院!?」
女「……っ!」
幼「ああ、良かった! 本当に良かった!! 大丈夫? 手は動く? 左手の方は問題ない!!?」
男「えっ、ああ、うん」
男(そうか、ボコボコにやられたのか、……恥ずかしいな)
女「良かったです……本当に大事に至らなくて……グスッ……それと、ありがとう、ありがとうございました、男くんっ」ポロポロ
男「あはは、いやいや……それより、さっきの悪そうな人たちはどうなった?」
女「逃走中のところを警察が捕まえたそうです……」
男「……よかった。でも……確か女さんの名前を呼んでたけど、女さんを狙ってやったのか? なんでなんだろ?」
女「昨日の隣のクラスの女子たちが関係してたみたいです……。でも、もうその子達についても大丈夫そうです」
男「ああ、なるほどな……。で、どうして幼がここに?」
幼「女ちゃんから電話があって……。ねぇ、男……無茶はだめだよっ……絶対に……絶対にもうこんなことしちゃだめだよっ……グスッ」ポロポロ
なでなで
男「あはは、心配してくれるんだな」
幼「……っ、当然だよ……」
ぎゅっ
男(なんで当然なんだよ)
男「ていうか、こっちは幼の熱が心配なんだけどな」
幼「……あはは、薬を飲んで、それから家でずっと寝てたら治まったよ」
男「そっか……」
ぴとっ
幼「あう……やめてよ、恥ずかしいなあ」
男「でも、まだ少し熱っぽいな。早く帰って寝ないとな」
幼「――――」
男「――」
女「……」
女「おとくん……か……」
…………
……
◆◇病室◆◇
男「明日は文化祭か……」
幼「うむ、そうだねー」
男「はぁ、結局文化祭出られないのか……そうか……」
女「男君、絵は大丈夫ですよ。故・男くんの分も私が頑張りましたから」
男「生きてるからな!!」
幼「あははっ、すっかり仲良しになったね! よきかな、よきかな」
女「……っ、で、でも一番は幼ちゃんだよっ!」
男(誰の一番が幼なんだろうな)
幼「ああ、そうだそうだ。はい、これ。果物だよー」
男「……お! 好きなやつだ。さすが幼。ありがとう」
幼「あはっ、幼馴染だもん、当然だよ。ふふっ」
女「……」
……
…………
……
幼「――じゃ、そろそろ行こっか、女ちゃん?」
女「あ、えと、先に受付に行ってくれる? ……ちょっとだけ話があるの」チラッ
男「……?」
幼「……ん、わかった。……じゃあね、男君」
すたすた
男「ん、ああ、今日はありがとうな」
女「あの、あらためてお礼をします。この前はありがとうございました」
男「あー、当然のことをしただけだから……」
男(いや、マンガでは当然だったことが俺にはできなかったんだけどな……)
女「……いや、でも……」
男「気にしないで、あはは。こうなったのは俺が弱かったからなんだし」
女「……いいえ。本当にありがとうございました。いずれこの恩は――」
男「いやいや、大げさだって。あ、そうだ、幼が下で待ってるよ、そろそろ……」
女「そ、そうですね、では。今日はこれで」
男「あ、待って、女さん。クラスで上手くやれてる? ……って、あはは、ヘンな質問だったな、ごめん、忘れて」
女「…………大丈夫です。女子たちみんなと一緒に、仲良くやっていますよ」ニコッ
男「そっか」
女「はいっ!」
ガラッ
女「…………男君……」ボソッ
幼「……」
女「……っ!? えっ、幼ちゃん、居たのっ!!?」
幼「……あ、はは、えっと……そのー、『ちょっと』って言ってたから、待ってようかなって」
女「そっかー…………聞かれてたんだ」ボソッ
幼「ん?」
女「ううん、待たせてごめんね。いこっか」
…………
……
◆◇教室◆◇
男「おはよう」
友「うおおおおおお!!! 男おおおおお!!」
パチパチ
「おかえりなさい」
「おかえり」
「――」
男「ちょっ、えっ、何これ恥ずかしいな……」
友「いや、お前はそれだけのことやったんだ! 誇っていいぞ、男」
男(ボッコボコにやられて褒められるって何……? 新手のイジメ?)
女「あっ、おはようございます。……おかえりなさいっ」
幼「おっ、男! おはよう! よかったよかった!」
キーンコーンカーンコーン
先生「おい、お前ら席につけ~」
…………
……
……
…………
幼「久しぶりだねー、こうやって四人でご飯食べるの」
男「いや、あんまり経ってないだろ」
幼「女さんは入院してた数日間、ずっと暗かったからね、男が帰ってきて本当に良かった!」
女「ちょっと、幼ちゃんっ! そういう幼ちゃんだって――」
男「あはは」
男「まあ、俺もあそこは退屈だったから、早く戻ってこれてよかった」
幼「今だって両手に花だもんね、うふ」
女「あ、そう言えば、『看護師さんに可愛い人いた』って友君と話していませんでした?」
男「や、あれは違っ――」
幼「さいてー」
女「うふふ」
……
…………
女「あの……男君、放課後屋上に来てください」ボソッ
男「え? わ、わかった」
…………
……
……
…………
◆◇屋上◆◇
男「急にどうした?」
女「話がありまして」
男「ん?」
女「…………私が幼ちゃんと男くんをくっつけてあげます」
男「――っ!?」
男「え、それ、どういうことっ!? あの幼を好きな女さんがっ!!?」
女「や、ま、そうですけどっ……」
女「し、仕方ありませんよっ、だって約束したんですもん。恩を返すって」
男「……そっか……」
男「……でも、たとえ女さんが協力してくれても、俺たちは結ばれないと思うな」
女「えっ? どうして?」
女「男君は幼ちゃんのことが好きなんですよね?」
男「……うん」
男「俺は幼のことが好きだ」
女「……っ!」
女「そ……そうですよね……じゃあ、何で?」
男「『俺が』じゃなくて、幼が俺と付き合えないみたいなんだ」
女「なんで……幼ちゃん……っ」
男「それは……」
男「――俺の右手が動かなくなってしまったから」
女「……っ!」
男「幼はさ、俺の右手がこうなったのが自分のせいだと思っているみたいなんだ」
男「きっと、それがあって幼は俺と『そういう関係』にならないと決めたんだと思う」
男「女さんも知ってたんだよな、右手のこと」
女「……はい」
男「うん。気づいてた。看板作業のときに親切にしてくれたから」
女「いえ、別に。ただ、タイヘンかと思っただけで」
男「ありがとう」
男「この右手は――」
◆◇◆◇◆◇◆◇過去◆◇◆◇◆◇◆◇
幼『はじめまして、神戸から来ました幼と言います。よろしくお願いします』ペコ
ぱちぱちぱちぱち
『はい、みんな仲良くしましょうね! 席は……一番うしろの男くんの隣ですよ! 男くん?』
男『はいっ』
すたすた
幼『よろしくねっ』ニコッ
男『う、うん』
少女『おとくん一緒に帰ろー?』
男『えっ、ああ、うん!』チラッ
幼『……』キョロキョロ
男『あ、そうだ、幼さんも一緒にかえる?』
幼『えっ! いいの? ありがとう、えへへ』
少女『……』
……
…………
男『次は図工かあ。ねっ、男くんは図工好き?』
男『うーん、よくわかんないけど、絵を描くのは楽しいかなあ』
少女『おとくんは絵が上手なんだよぉ!』
幼『そうなんだあ』
男『次は隣の人の似顔絵を描く授業だから、幼さんを描くね』
幼『わあい、楽しみっ』
…………
……
男『……』
サーッサーッ
幼『うう……』
カキカキ
男『ふぅ、できた』
幼『わぁ! 凄い! あたしが可愛いーっ! 男くんは絵が上手いんだねっ』
男『そ、そうかなっ』
幼『図工の似顔絵の授業以外でも書いて欲しいなあ、なんて、えへ』
男『い、いいよっ』
幼『えっ、ほんとっ? わーいっ! じゃあ、私は専属モデルだねっ』ニコニコ
少女『…………』
『少女ちゃん、どうしたのぉ?』
少女『ううん、なんでもないよっ』
>>男『次は図工かあ。ねっ、男くんは図工好き?』
男『うーん、よくわかんないけど、絵を描くのは楽しいかなあ』
大丈夫かコイツ?
× 男『次は図工かあ。ねっ、男くんは図工好き?』
○ 幼『次は図工かあ。ねっ、男くんは図工好き?』
すみません……。訂正します……。
少女『ねっ、おとくん、一緒に帰――』
男『ねぇ、幼さん』
幼『違う違うー! 幼でいいっていったでしょっ』
幼『ま、前の学校でも仲のいい子には、そ、そう呼ばれてたもんっ』
男『えっ、ほんとお?』
幼『ほ、ほんとだもん!!』
男『じゃあ、えっと……幼っ』
幼『ふふっ、そうそう! やればできるじゃんっ、おとくんっ』
男『……っ、えへへ』
少女『おとくん……おとくん……っ』ウルウル
片腕が死んでる奴に「両手に花」って発言するのはどうなのよ、と思った
……
…………
幼『あっ……うううっ』
男『あ、おはよう、幼! ……あれ、どうかしたの?』
幼『う、うん……私のうわぐつが……』
男『あれれ? 持って帰って忘れちゃったの?』
幼『……ううんっ……ぐすっ……ちゃんとここに入れてたのにぃ……ふぇ』ウルウル
男『……っ』
男『大丈夫。一緒に探そう』
ぎゅっ
幼『えっ……おとくん……。えへへ、ありがとっ……ぐすっ』
ごしごし
少女『……おとくん……私ねおとくん……』
……
…………
少女『おとくん』
男『あっ、少女ちゃん。どうしたの?』
少女『あのね、おとくんは覚えてる?』
男『えっ? なんのこと?』
少女『えとえと、幼稚園のときにジャングルジムで約束したことっ』
男『……?』
少女『えっと、ごめん、やっぱり何でもないよっ』
タッタッタッ
男『どうしたんだろお?』
幼『おーとくーんっ、一緒にかーえろっ?』
男『どうしたの、幼。こんなとこに呼び出して』
幼『えへへ。あのさ、たいせつなお話があるの』
男『えっ? たいせつ? なんだろお』
クルッ
幼『えっとね、私は――』
少女『幼さんっ! ゆるさないっ!』
幼『――えっ』
少女『わたしのっ! わたしのおとくんをとらないでよぉぉおおっ!!』
タッタッタッ
男『えっ、ちょっと――』
タッタッタッ
グサッ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
男「――そして、幼なじみだった『少女』から、転校生の『幼』を利き腕だった右手で咄嗟に幼を庇ったわけ」
女「……」
男「まあ、一応リハビリした――というかしてるんだけど、今もあまり自由には動かせない」
男「こうして、動かなくなったんだけど、もちろん後悔なんてしてない」
男「でも、幼かった昔の幼なじみは、あのあとすぐに転校しちゃったけど……」
女「男くん……」ポロ
ごしごし
女「男くんは、ほんっっとにお人よしさんなんですねっ、ふふっ」
(幼い子ほど理性的でなく、また道徳を身につけておらず、ときには残酷なことをしてしまうものです)
ラストまでもうすぐですが、すみません、ほんのちょっと外します><
男「もう左手でなんでもできるし、絵だってかつての右手よりはるかに上達してる」
男「でも、俺が告白しようとしても、幼がその雰囲気を察知して、いつもはぐらかされるし、告白できてもかわされてしまった」
男「その挙げ句、幼は俺に他の女子と付き合わせようとするんだ」
女「っ……それって、酷いですね……っ。男くんは幼ちゃんが好きなのにっ……他の女子と……って……」
男「はは……。それでさ、最近はもう幼のことは諦めようと思ってた」
男「好きという感情を隠して、幼がそう求めているように、他の人と付き合おうとも考えて――」
女「でも、その決断は、まだ早いです」
女「私は幼ちゃんの親友です」
女「必ず幼ちゃんの本心に触れて、男くんとの仲を取り持ちます!」
女「幼ちゃんのこと、私に任せてください」
女「そして、男くんは幼ちゃんに告白して下さい」
男「……女さん……うん。ありがとう」
女「告白して、もし振られたときは……」
男「……?」
女「……っと、とりあえず、男君は幼ちゃんに告白してください!」
女「それで、最近ではいつ告白できたんですか?」
男「女さんが転校してくる前日……あ、でも、あれは幼に告白したわけじゃなくて――」
女「えっ!? 別の人にも告白してたんですか!!?」
女「さいっっってい! 見損ないました! 女子だったらだれでもいいんですか!?」
男「あ、や、そうじゃなくて……えっと、さっき言ったけど、幼がくっつけようとさせてきたから……」
女「言い訳ですかっ?」
男「……」
女「……なんか……凄くショックです……」
男「あー……なんかごめん……」
女「いや、別にいいです……。っていうか、なんでショック受けたのか自分でもよくわかりませんし……」
女「さっきの話だと仕方ないことですよね」
女「わかってるんですけど……でも…………はぁ」
男「……女さん?」
女「や、なんでもないです……うん」
男(明らかに様子がヘンだな)
女「……そうだっ!!」
男「……っ」
女「男くん、告白の練習をしましょう」
男「えっ……わかったけど……」
……
…………
……
男「――好きです。付き合ってください!!」
クルッ
女「…………っ」
男「……どうだった?」
女「……」
男(女さんが背中を向けてるから、表情が分からない……)
女「そ……そうですね……うん、合格です」
女「……悪くない、いやむしろ良かったと思いますよ」
女「……うん」
クルッ
女「自信を持って告白しちゃってくださいねっ」ニコッ
男「……っ」ドキッ
女「幼ちゃんの方は任せてください」
男「わ、わかった。ありがとう、女さん」
女「別にいいですよ」
女「…………男くん、上手くいくと良いね」ボソッ
男「ありがとう」
女「ふふっ」
…………
……
女「ふーっ、幼ちゃんもう男くん行ったよ。いるんでしょ? 出てきてよ」
幼「あー……あはは、どうも……」
女「幼ちゃん……やっぱり……。ここで見てた通り、男君が告白するよ」
幼「あー、あはは、またかー……毎回振るのも胸が痛くなっちゃうよ、はは……」
女「……っ」
女「でも、それって本当は男君が好きだからだよね?」
幼「や、何言ってるのっ? 好きだったら付き合ってるよ?」
女「……あのさ、男君が女子と話しているとき、幼ちゃんがどんな目でそれを見ているか分かってる?」
女「今日だって――」
幼「わ、私は男の保護者として、その女子を見定めなきゃならないからね」
女「……」
女「もういいから。ね、正直に言ってよ」
幼「……好きだよ、おとくんのこと」
幼「でもね、私はおとくんと付き合うことができないんだ」
女「……」
幼「男の利き手だった右手が動かなくなったの知ってるよね」
幼「あれ、やったのは私」
女「……ちがう!」
幼「ううん、違わない。そして、おとくんの夢だった芸術家の道を絶たせたのも私」
幼「あと、おとくんを好きだった女の子――もう一人の幼馴染が、私たちの側から離れていった原因も私」
幼「私はおとくんから全てを奪ってしまったんだ」
幼「全部……そう全部、私が悪いんだよ?」
幼「私が男のもう一人の幼馴染から男を『奪った』。そして、彼女は……私にナイフを刺そうとしたの。でも、おとくんがそれを手で庇ってくれたんだ」
幼「私が……おとくんを好きにならなかったら、私がおとくんと仲良くしなかったら、私がおとくんに会わなかったら、絶対にこうならなかったんだよ?」
幼「だから、私はおとくんが全てを取り戻す手伝いをしないといけない。そして、私は絶対に幸せになってはいけない」
幼「私が嬉しい思いをしちゃいけないんだ」
女「だから、そもそも幼ちゃんのせいじゃないし、そうだったとしても……その考え方は勝手すぎる!!」
女「全部男君のための『つもり』なのかも知れないけど、間違ってる!」
女「だって、どれも男君のためじゃなくて、自分のため……そう、結局は『自分自身の罪を償いたい』っていう、身勝手な考えだよ!」
女「自己満足だよ、それは!」
幼「……っ!」
幼「お、女ちゃんに何がわかるっていうのよ!!? 私はずっと、ずうううっと、会ったときからおとくんが好きだったんだよ!?」
幼「それを……グスッ……それを抑えて……我慢して…………おとくんの幸せを願うってきめたのに……っ、それすらもダメって言うの!?」
女「だから、誰が我慢しろって言ったの!? 好きなら何でそう言わないのっ!!? 男君が幼ちゃんのこと好きだって知ってるんでしょ?」
幼「そ、それは……っ。でも……」
女「本当に男君の幸せを望んでいるなら、どうしなきゃいけないのか分かるでしょ!!」
女「離れていったもう一人の幼馴染に悪いとか思っているの? そのために男君を振ったんだとしたら、男君は本当に不幸!」
幼「いや……ちがっ……私……っ」ポロポロ
女「あのね、幼ちゃん。二人が結ばれるのが一番良いんだよ。それは男君にとっても」
幼「でも……また、私がおとくんに対する『恋』を表に出したら……また、おとくんが……グスッ」ポロポロ
女「大丈夫、大丈夫だよ。幼ちゃんがちゃんと『男君の幸せ』を願っていれば、『再び』は起こらないから、ね?」
なでなで
幼「……グスッ」ポロポロ
幼「……女ちゃん……っ、ありがとうっ、ありがとう」ポロポロ
幼「私っ、今すぐおとくんに言いたい! 伝えたいっ!」
女「うん……お幸せに」ニコッ
幼「行ってくるねっ」
タッタッタッタッ
バタンッ
女「ふふっ、男くんとの告白の練習、これじゃあ無駄になっちゃいそう」
女「……はぁ」
女「……失恋、かあ……っ」
女「……初恋だったのにな……」ポロ
女「…………幼ちゃんが私より良い女性だから、認めてあげるんだからねっ……アホッ」ポロポロ
女「アホッ……男くんのアホっ!! ぷしゃいくっ!! 八方美人っ!!」ポロポロ
女「ふぇっ……えぐっ……うわぁぁあんっ」ポロポロポロ
…………
……
◆◇教室◆◇
タッタッタッタッ
「はぁ、はぁはぁ、おとくんっ!!」
ガラガラ
「……っ!? わっ、びっくりした! 幼?」
「おとくん、お待たせっ」
「えっ――……うん、遅かったな」
「ごめんね。……ごめん……。あのね、私言いたかったことがあるの」
「あの日からずっと……ずっと……言えなかった」
「でもね、それを今日ここで言います」
「あのね――」
「好きです。付き合ってください!!」
――完――
長い間お付き合いしてくださり、ありがとうございました!
また機会がありましたら、そのときはよろしくです^^
ってか「少女」が「女」なわけないだろ常識的に考えて
このSSまとめへのコメント
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