恒一「・・・えーと・・・」
勅使河原「まあ無理も無いよな。赤沢、説明してやって」
赤沢「今私達が把握してるのは、今のところゆかりと久保寺先生ね。他にも誰かいるかもしれない」
恒一「他にも?」
赤沢「3年3組の生徒、先生ならびにその親族までがこの呪いの対象となっているの」
恒一(呪い・・・なのかなぁ)
勅使河原「まったく、しっかりしてくださいよ対策係ぃ。全然止められてないじゃん」
赤沢「くっ・・・!確かに無能の謗りを受けても仕方が無いわ」
榊原「対策係って、その現象を止める必要はあるの?」
赤沢「私達はまだ中学3年生よ!受験も控えてるのに不純異性交遊なんてもってのほかだわ!」
勅使河原「くっくっくっ、まあこういうこった」
赤沢「異性とのお付き合いっていうのは成人を迎えてからでしょう!」
恒一「古風なんだね・・・」
赤沢「まったく、ゆかりとかクラス委員の癖に、ブツブツ・・・」
恒一「桜木さんって、階段での事故の時の話?」
勅使河原「知ってるのか?」
恒一「テストが終わったあと廊下にいたら、桜木さんが出てきて急いで走っていったんだ」
赤沢「それで?」
恒一「階段の方で大きな音がしたから見に行ったんだけど、ある人に抱きかかえられて猛スピードで保健室に行っちゃった」
赤沢「ある人って言うのは誰?知ってる人?」
恒一「言っていいのかな・・・えーと、風見くん」
赤沢「!!」
勅使河原「ぶわっはっはっは!クラス委員同士たぁねぇ」
恒一「桜木さんの方は捻挫ですんだみたいでよかったね」
勅使河原「不幸中の幸いだな。だけどなんでそんなに急いでたんだ?」
恒一「両親の結婚記念日のプレゼントを買い忘れてたんだって」
恒一「親族も入るのなら、水野くんのお姉さんも入るんじゃないかな」
赤沢「初耳ね。看護婦さんだったっけ」
榊原「うん、この前赤沢さん達に呼び出されたとき―――
恒一「見崎さんと仲良くするなって、どういうこ・・・あ、電話」
水野『もしもし、恒一くん?今大丈夫?』
恒一「水野さん?どうしたんですか?」
水野『この前借りた本読み終わったんだけど、今度取りにこれる?』
恒一「はい、わかりました。僕のほうはいつでも」
水野『そ・・・ね・・明日はひば・・・から、あさ・・・』
恒一「もしもし?電波悪いですよ?」
水野「あ・ごめ・・・今エレベ・・・あっ』
恒一「もしもし?」
『み、水・・さん!折り入・・・話があり・・・!』
水野『ご、ごめ、こうい・・・ん、ま、かけ直・・・」プツッ
勅使河原「へーぇ、入院患者にプロポーズねぇ」
恒一「お互い一目惚れで、読書好きって共通点もあったみたい」
勅使河原「水野のヤツ、何も言ってなかったよな」
赤沢「成人同士のお付き合いにとやかく言うつもりはないわ」
恒一「ところで、”いないもの”って何?」
赤沢「・・・」
勅使河原「あー、それはな」
ガチャ
勅使河原「お、噂をすれば。おーい見崎ー、こっち来いよー」
鳴「・・・」
赤沢「・・・」
恒一(なんか険悪なんだけど・・・)
勅使河原「なんで見崎が眼帯をしてるか知ってるか?」
恒一「それは、えっと・・・」
鳴「大丈夫、コンプレックスとか無いから」
勅使河原「ちょっと外してもらってもいいか?」
鳴「やめとく。ここじゃちょっと」
勅使河原「ん、まあいいや。義眼だって事は知ってるよな?」
恒一「う、うん」
鳴「大丈夫、コンプレックスとか無いから」
勅使河原「実はこの目にはな・・・ほら、見崎」
鳴「・・・見えるの」
恒一「・・・?」
鳴「見えるの。恋の色が」
恒一「は?」
鳴「この目はね、誰が誰を想っているのかが見えてしまうの」
恒一「どういう風に?」
鳴「こう、なんというか淡い光が・・・説明できない」
勅使河原「こんな特殊能力があるもんだから、3組はおろか他のクラスの女子からも相談受けてるんだぜ」
恒一「あー、だから休憩時間いつも教室にいないんだ・・・」
勅使河原「ここまできたら、なんで”いないもの”って呼ばれてるかわかるだろ?」
恒一「赤沢さんだね」
赤沢「不純異性交遊を助長するような人を認めるわけにはいかないでしょ!」
勅使河原「な? 表向きは”恋愛対象としてはいけない”って意味で通ってるけどな」
恒一「どうして?」
勅使河原「学校中の女子からの反発を食らいたいか?ってことさ」
鳴「恋愛もさせてもらえないなんて、不便な体質よね」
勅使河原「なーに、彼氏くらいすぐできるって」
勅使河原「しかしまぁ、久保寺先生までとはなぁ」
久保寺「皆さんに、ご報告があります」
実はこの度、結婚することになりまして、教員を辞職することになりました。
先日母を亡くしてしまったのですが、その時に力を添えてくれたのが今の奥さんでしてね。
奥さんの実家を継いで、農業を営むことになりました。
いやはや、この年まで独身だったのは恥ずかしい限りですが・・・たはは」
生徒(久保寺先生が笑った・・・!)
久保寺「なおこのクラスの担任は三神先生となります」
鳴「嬉しそうだった」
勅使河原「高林も入院先で出逢いがあったりしてな」
恒一「高林くん、大丈夫なの?」
赤沢「入院期間は少し長くなるけど、命に別状はないそうよ」
恒一「そっか、よかった」
勅使河原「さて、俺らが知ってるのはこのくらいか」
鳴「あ」
勅使河原「どした?」
鳴「そういえばこの前、3組の人から相談を受けたの」
赤沢「・・・」
勅使河原「いつものことじゃね?」
鳴「それが男子からだとしても?」
勅使河原「へえ、そりゃ珍しい。誰だ?」
鳴「言っていいのかな」
勅使河原「大丈夫大丈夫、冷やかすために聞いてるんじゃないから。な?対策係さん」
赤沢「・・・」
鳴「・・・うーん、勅使河原くん、耳貸して」
勅使河原「お?おお」
鳴「・・・・・・」
勅使河原「和久井ィ!?」
恒一・赤沢「えっ!?」
鳴「耳打ちした意味なくなっちゃったじゃない」
勅使河原「だ、だってよ、和久井ってあの和久井だぜ?あんな大人しいやつが・・・?」
恒一「でも温厚で優しそうだよね」
赤沢「相手は誰?」
鳴「・・・わからない。「やっぱりいいや」って言ってどこか行っちゃった」
赤沢「何故その目で確認しなかったの?」
鳴「興味だけで人の心を覗いたりしないから」
赤沢「くっ・・・」
勅使河原「はいはい二人ともそこまで。今日はこのくらいにしとこうぜ」
恒一「そういえば、金木さんと松井さんもすごく仲が良いけど」
勅使河原「ああ、ありゃ1年のときからだ。不可侵領域だよ」
赤沢「ど、同姓で恋愛とか・・・はしたない、はしたないわ・・・」
鳴「じゃ、私帰るから」
恒一(和久井くんか・・・そういえばあの時)
綾野「あれ、和久井じゃん!休日に会うなんて奇遇ですなぁ~」
和久井「あ、綾野さん・・・どこか出かけるの?」
綾野「うん、本屋とか買い物とか。一緒に行く?なーんてねー」
和久井「いや、僕もう帰るところだから・・・」
綾野「よそよそしいなぁ。席が隣同士の仲じゃんかー」
和久井「あは、あはは・・・あっ、危ない!」ガバッ
綾野「え?きゃっ!」
ガシャーン!
綾野「・・・ひゃー・・・ビビった」
和久井「大丈夫?け、けがしてない?」
綾野「うん、大丈夫・・・ありがと」
恒一「今なんかすごい音が・・・わっ、ガラスが。って、綾野さんと和久井くん?」
綾野「・・・おー、こういっちゃん、奇遇ですなぁ~」
恒一「んーーーー・・・」
勅使河原「どした?」
恒一「ううん、なんでも。そういえばなんで僕も一瞬だけ”いないもの”にされたの?」
赤沢「牽制のつもりだったの」
恒一「牽制?」
赤沢「優しいし誰とでも仲良く接するし・・・まあ、男前な方じゃない?世間一般的に見て」
勅使河原「なら俺も認定されててもおかしくなかったってことか」
赤沢「ごめんなさい」
恒一「ううん、いいよ。そういう理由だったらあまり悪い気はしないっていうか」
勅使河原「なら俺も認定されててもおかしくなかったってことか」
赤沢「今日は帰りましょう。なにかあったら連絡よろしく」
恒一「うん、わかった」
勅使河原「なんで無視なの?」
桜木「榊原くん・・・」
恒一「桜木さん?どうしたの?」
桜木「じ、実は私・・・本当は榊原くんのことが・・・」
恒一「えっ!?えええ?いや、ちょっと・・・」
水野「私も好きよ!恒一くん!」
恒一「水野さん!?どこから!?」
水野「あなたが大学生、いやせめて高校生くらいだったら私は・・・!」
??「そうよ!若すぎるのよ!」
恒一「どなたですか!?」
??「はじめまして!久保寺紹二の妻です!」
風見「楽しそうだね榊原君。僕も混ざっていいかい?」
恒一「なんで!?」
恒一「・・・なんだよこの夢・・・」
へるる、へるる、へるる、へるる・・・
恒一「わっ!・・・もしもし」
父「おお恒一、インド土産は何がいい?」
恒一「別になんでもいいよ」
父「じゃ、カルタ!」
恒一「・・・ジャカルタはインドネシアだよ。そんなことよりもさ、お母さんって昔、モテたりした?」
父「お?昔は父さんもモテてなぁ。学生達からよくラブレターを」
恒一「母さんの話をしてくれる?」
父「聞いたことは無いが、初恋の相手は学校の先生だったとか言っていたな」
恒一(この現象、やっぱり昔からあったのかな)
父「懐かしいなぁ。あれは付き合って2年目だったか、俺は理津子と」
恒一「その話はいいや。じゃあね」
恒一「イノヤ?場所は知ってるけど、うーん」
勅使河原「お?もしかして鳴ちゃんとデートかぁ?赤沢がブチギレるぞぉ」
恒一「で?何の話?」
勅使河原「会って話がしたいんだ。一応クラスの話でもあるしな」
恒一「えーと・・・」
赤沢「恒一くん、こっちよ」
恒一「赤沢さん?」
赤沢「勅使河原に呼ばれてきたんでしょ。座ったら?」
恒一「あ、うん。じゃ隣に」
赤沢「どうぞ」
恒一「・・・」
赤沢「・・・」
恒一(隣に座るのとかは気にしないんだ・・・)
智香「いらっしゃい、泉美ちゃんのお友達?」
赤沢「はい、”友人”の榊原恒一くんです」
智香「あら、いつも優矢くんがお世話になってます。望月優矢の姉です。ご注文は」
赤沢「私と同じのを」
・
・
・
勅使河原「ごめんごめん、遅くなっちまった」
赤沢「・・・」 スッ
勅使河原「え?なんで移動すんの?」
赤沢「あんたと向かい合わせで座りたくないの」
勅使河原「俺、そんなに嫌われてる?」
赤沢「はっきり言われたい?」
勅使河原「いや・・・いいわ」
恒一「で、話って?」
望月「うん、お姉さんに事情を話してみたんだ。夜見北出身で、3組の噂は知ってたみたい」
勅使河原「そしたら、智香さんからビックリ情報が出てきたんだ」
智香「常連さんで、松永克巳って人がいるんだけど、『松永さんの年は”ある年”だったのか』って聞いてみたの」
松永『あの年の現象は俺が止めたんだ。止めてやったのは後にも先にも俺だけだ!ざまーみろ!』
智香「ですって」
勅使河原「止めようとしてるのはここにもう一人いるけどな」
赤沢「松永という人が現象を止めた・・・そして手がかりをどこかに残した」
勅使河原「でも松永本人の手がかりがなぁ」
赤沢「恒一くん、あなたの身近に同級生がいなかった?」
恒一「あっ」
赤沢「ところで勅使河原、なんであんたは協力してくれるわけ?あんたには現象を止める理由は無いでしょ」
勅使河原「まあ、いつもつるんでる仲じゃん?たまには役に立ってやるよ」
~後日~
勅使河原「おはよーっす」
望月「おはようございます」
恒一「何その荷物?」
勅使河原「色々とな」
赤沢「お待たせ」
杉浦「おはよう」
中尾「うえぇぇ・・・」
恒一「皆そろったね。・・・中尾くん、大丈夫?」
中尾「楽しみすぎて昨日ほとんど寝てない・・・」
恒一「無理しないで帰ったほうが・・・」
中尾「・・・何言ってんだ、杉浦の水着姿を見るまでは何があっても帰らねぇぞ・・・!」
赤沢「勅使河原は私の車ね」
勅使河原「おっ、おう!」
玲子車 助手席:赤沢 後:恒一、望月
赤沢「じゃ、行きましょう」
望月「へへ、なんだか楽しみだね」
恒一(望月くん、女子ウケしそうなキャラだよなぁ)
赤沢車 助手席:勅使河原 後:中尾、杉浦
勅使河原「ブツブツ・・・ブツブツ・・・」
中尾「うーん、うーん」
杉浦「中尾、ほんとに大丈夫?」
中尾「うーん・・・じゃあ手を握ってくれ、なんて」
杉浦「手?はい。これでいいの?」 ギュッ
中尾「!! ありがとう。だいぶ良くなったよ」 ニッコリ
勅使河原「ブツブツ・・・ブツブツ・・・」
中尾「・・・海が俺を待っている。そんな気がしてならないんだ」
望月「中尾くん、そんなキャラだったっけ?」
勅使河原「あぢー」
玲子「松永君、急な出迎えで不在みたい」
恒一「時間あいちゃうね。どうしよっか」
勅使河原「よっし!泳ぐか!」
杉浦「夜見山から出てるし、変なことは起きないはずよ」
赤沢「そうね。夏休みなんだし、少しは羽を伸ばさないと」
玲子「せっかく海に来たんだしね」
中尾「行きましょう。海が俺を、いや、皆を待っています」
玲子「中尾くん、そんなキャラだったっけ?」
望月「海だー!」
勅使河原「夏の海ー!」
中尾「俺の海ー!」
勅使河原・中尾「ヒャッホーーーー!!」
恒一「テンション高いなぁ・・・あれ?」
鳴(ヒトデ・・・ヒトデがいなかったらひとでなし・・・クス)
恒一「見崎?」
鳴「っ!・・・榊原、くん?」
恒一「偶然だね。別荘ってこの辺なの?」
鳴「うん」
恒一「そうなんだ。なんで顔赤いの?」
鳴「別に」
赤沢「あいたっ。・・・ボール?どこからっ」
中尾「へっへー」
赤沢「やったわねー。ていっ」
中尾「おっと、どこ投げて・・・あ!」
杉浦「アタック!」 バシッ
中尾(杉浦のボールを顔面キャッチ・・・俺は幸せ者だ)
松永「玲子か?携帯に電話したのに。電池切れてないか?」
玲子「えっ?・・・ありゃ」
松永「相変わらずそそっかしいんだな」
玲子「よくここがわかったわね?」
松永「わかったも何も、ここがホテルから一番近い浜辺だからな」
松永「しっかし、女は化けるもんだなぁ。あんなチンチクリンな小娘が」
玲子「そういうあなたも変わったわね。すっかりオッサン」
松永「うっせぇ。・・・14年ぶり、か。お互いもうすぐ30歳だ」
玲子「うっさい」
松永「・・・三神、か。まだ結婚してなかったんだな」
玲子「えーえーそうですよ。仕事も忙しいし、すっかり婚期を逃しちゃいましたよーだ」
松永「・・・そこも、お互い様ってか」
玲子「マツも独身なの?」
松永「まあ、な。未だに昔の記憶を引きずっちまってる」
玲子「昔って、なんかあったっけ?」
松永「・・・覚えてないのか?かーー、これだから女ってのは」
恒一「あっ、ボールが・・・」
中尾「まかせろー」
杉浦「いや、私取ってくるよ。あんた病み上がりでしょ」
中尾「お、おう」
勅使河原「おいおい、いい所見せようとして失敗かぁ?」
中尾「優しいな・・・俺のことを気遣ってくれるなんて」
勅使河原「結果オーライか」
玲子「うーん・・・降参!15年近く前のことだもん、さすがに記憶がね」
松永「ったく、まあいい。覚えてないのならそれでもかまわん」
勅使河原「・・・杉浦、なんか変じゃね?・・・まさか、溺れてんじゃ」
杉浦「や、やばっ・・・足、足つっ・・・!ゴホッ」
赤沢「多佳子!今助けに・・・!」
中尾「俺が行く!!」
勅使河原「行け中尾!ここでいい所見せ付ければヒーローだぞ!」
中尾「まかせろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」
杉浦「ちょ、こ、これ本当に、シャレになら・・・!」
中尾「杉浦!捕まれ!」
勅使河原「お!戻ってきた!」
望月「よかった・・・」
赤沢「はぁ・・・もう」
杉浦「ゲホッ、ゲホッ」
赤沢「多佳子!心配かけないでよ!もう!」
杉浦「ご、ごめん・・・ゲホッ」
中尾「松永さん、救急車を呼んでください!」
杉浦「き、救急車?いや、いいよそこまでしなくても。大丈夫だから」
中尾「馬鹿野郎!杉浦の体にもしもの事があったらどうするんだ!俺も一緒に行くから!」
杉浦「な・・・中尾・・・」
赤沢「・・・・・・・・・・・・」 ガスッ ガスッ
鳴「私の砂山・・・」
イノヤ・・・ッ!
勅使河原「教室?」
恒一「うん、松永さんが現象を止める方法を記した物が、教室のどこかにあるって」
勅使河原「うっし、早速赤沢に・・・」
恒一「待って、赤沢さんにはまだ教えたくないんだ」
勅使河原「なんで?」
恒一「赤沢さんさ、海に行った日からずっと機嫌が悪いんだ」
勅使河原「まあ、対策係だった杉浦と中尾があんなことになったらなぁ」
恒一「というわけだから、捜索は僕達だけで行おう」
望月「そうだね。できる限り少人数で」
勅使河原「何か見つかったら赤沢に報告するかぁ」
赤沢「話は全て聞かせてもらったわ!」
一同「のわぁ!!!」
赤沢「対策係を差し置いてなに作戦会議してるのよ。私も参加するわ」
翌日・・・ッ!
恒一「赤沢さんは?」
勅使河原「集合時間を30分遅く伝えたんだ。俺らだけで話したいこともあるかもしれないしな」
綾野「あれ、テッシーにこういっちゃん。何してんの?」
恒一「綾野さん。まあちょっとね。部活?」
綾野「ううん、先生に報告があって。実は私、転校することになったんだ」
勅使河原「マジかよ!急な話だな。いつ?どこ?」
綾野「それが今日なんだよね。場所はそんなに遠くは無いんだけど」
勅使河原「そっか。しかし夏休み中に転校なんてな」
綾野「ほとんどの人は夏休み明けに報告になっちゃうね」
勅使河原「そうだな。俺らも夏休み中に誰かに会ったら伝えとくぜ」
綾野「お、助かるー!それじゃバイバイ!ちょくちょく遊びに来るからー!」
勅使河原「はぁ、クラスのムードメーカーがいなくなっちまうかぁ」
恒一(和久井くん・・・)
勅使河原「おーっす」 ガラッ
鳴「・・・」
恒一「見崎?なんでここに・・・?」
鳴「美術部員だから、たまにはと思って」
勅使河原「あいたー、こんな日に限ってか・・・」
望月「お待たせ・・・って見崎さん?なんでここに?」
鳴「あなたがそれを聞くの、変じゃない?」
赤沢「あら、皆もう来てたの」
勅使河原「げっ、赤沢もう来た・・・」
赤沢「げっ、とは何よ。早めに着いちゃったと思ったけどもう全員揃っ・・・なんであなたまで」
鳴「またこのメンツ。今からまた皆で海でも行きましょうか?なんてね」
赤沢「この・・・!」
勅使河原「はいそこまで、停戦協定ー。で、見崎は何してたんだ?」
鳴「同じ質問を4回もされるなんて始めてね。あなた達こそ何の用事なの?」
和久井「失礼します」
千曳「ん、君は確か三神先生の生徒だったね」
和久井「はい、3年3組の和久井と申します」
千曳「部活かい?」
和久井「いいえ、宿題でちょっと調べたいことがあって」
千曳「ほう、感心だね。そういえば綾野くんも同じクラスか」
和久井「あ、は、はい。そうです」
千曳「転校するという話はもう聞いているかい?」
和久井「えっ?」
千曳「やはりか、夏休み中だから報告もできなかったのだろう。部員が減ってしまうのは残念だ」
和久井「そ、そんな・・・」
千曳「30分ほど前かな、私と三神先生に挨拶を済ませて帰っていったよ」
和久井「・・・失礼しました!」
和久井「三神先生!」
三神「ひっ、和久井くん?」
和久井「あや、綾野さんが・・・」
三神「綾野さんなら先ほど挨拶に見えたわ。今日中に出発してしまうみたいね」
和久井「今日・・・!」
三神「近いうちに皆に伝える予定だったけど、誰かに聞いたの?」
和久井「さっき、第二図書館で・・・」
三神「ああ、千曳先生、顧問だものね」
和久井「先生!住所はわかりますか!?」
三神「住所?住所録ならあるけど」
和久井「見せてください!・・・・・・ありがとうございました!」
三神「あ、和久井く・・・あらあら、うふふ」
望月「そういえば、中尾くんと杉浦さんの件なんだけど」
勅使河原「しっ、赤沢に聞こえるぞ」
望月「あっ・・・あれって、夜見山の外だったのに、なんでああなったのかな」
恒一「中尾くん、『杉浦さんの水着を見るまでは帰らない』って言ってたよ」
望月「じゃあ中尾君の片思いだったんだ。でも杉浦さんはどうだったんだろうね」
勅使河原「んー、まあ助けてもらったあとにあんなセリフ言われたら、コロッと落ちちゃうんじゃねえの?」
恒一「現象の力が無くてもね」
勅使河原「あの風見が人一人抱きかかえたってえのも、それも現象の力が成せる技だったのかねぇ」
恒一「風見くん、力ないの?」
勅使河原「ないない。貧弱な体してんぜー?」
望月「火事場の馬鹿力ってやつかな」
勅使河原「人間、本気出しゃどうにかなるってか」
赤沢「男3人!何か見つかった?」
勅使河原「ひッ!ま、まだでーす」
恒一「でも赤沢さん、なんで恋愛にここまで執着するんだろう?」
勅使河原「さあな。入学当時はあんなんじゃなかったような気もするんだけど」
望月「空気悪いね。窓開けようか」 ガタガタッ
恒一「危ない!」
望月「え?うわぁっ!」 パリーン
恒一「望月くん、怪我はない?気をつけなきゃ」
望月「う、うん、大丈夫・・・ありがとう、榊原君」
赤沢「あ、あわわわわ・・・」
勅使河原「あん?」
赤沢「ダ、ダメよそういうのは絶対!だ、だだ男子同士とかそういうのは私だけじゃなく世間の目があわわわ」
勅使河原「お前さぁ・・・」
赤沢「へ?は・・・!お、お手洗いに行ってくるっ!」
鳴(あ、かわいい髪飾り・・・鏡、鏡ないかな鏡)
綾野家・・・ッ!
綾野「今日でこの家ともオサラバかぁ。ちょっとだけおセンチな気持ちになっちゃうな」
父「おーい彩ー、そろそろ出発するぞー」
綾野「あっ、はーい。・・・バイバイ、夜見北のみんな。そして夜見山!」
綾野「最後の戸締り、よし、と」
和久井「あ、綾野!・・・さん!」
綾野「ひぃっ! わ、和久井!どうしたの!つーか走って大丈夫なの?」
和久井「ぜぇ、ぜぇ・・・さ、さっき、学校で千曳、先生に、て、転校って、聞いて・・・」
綾野「・・・うん、急だったから報告できなかったんだ」
和久井「ぜぇ、ぜぇ・・・だから、その・・・うっ!ひぃー、ひぃー・・・!」
綾野「ちょ、ちょっと、大丈夫?無茶するから!吸入器は持ってる?」
和久井「はぁ、はぁ・・・死ぬかと思った」
綾野「まったく、なにやってんのよもー。どうしたの?そんな慌てて」
和久井「・・・綾野さんが転校って聞いたから、その・・・遠いの?」
綾野「んー、月に1回は夜見山に遊びに来れるくらいの距離かな」
和久井「そっか。・・・あの、さ・・・これ」
綾野「何これ、電話番号?」
和久井「ぼ、僕の携帯の番号なんだけど・・・その、いらなかったら捨てていいから」
綾野「・・・・・・・・・」 ビリッ
和久井「あっ・・・」
綾野「ペン、持ってる?」
和久井「あ、うん、はい」
綾野「・・・よし、ありがと、これあげる」
和久井「・・・これって・・・」
綾野「あ、もう行かなきゃ!じゃーね!またいつか!」
和久井「うん・・・気をつけて!」
綾野「落ち着いたら電話するから、その番号登録しといてよねー!」
恒一「ん?」
勅使河原「なんかあったか?」
恒一「これ、ロッカーの中に貼り付けてあった」
勅使河原「きたきたきたぁ!ビンゴ!」
赤沢「中身は何かしら?」
恒一「ちょっと待って・・・カセットテープだ」
望月「カセットテープか・・・放送室になら再生できるものがあるかも」
勅使河原「お、あったまいー!行くぞ、放送室!」
赤沢「あんた、意外とノリノリね」
勅使河原「え?いやー、まあ、お前の役に立ててるみたいだし?」
赤沢「見つけたのは恒一くん、放送室に行こうって言ったのは望月。あんたは何かした?」
勅使河原「えーと・・・ムードメーカー?」
赤沢「さ、放送室に行きましょう」
鳴(♪)
小椋「あれ?兄貴、どこか出かけるの?」
敦志「うん、ちょっと」
小椋「珍しいこともあるもんだね。どこ行くの?」
敦志「まあ、友達に会いに行く、みたいな」
小椋「へー、兄貴って友達いたんだ。知らなかった」
敦志「う、うっせ!掲示板で知り合った人たちと会うんだよ!」
小椋「掲示板って、インターネットの?」
敦志「おう。自慢じゃないがウェブ上では交友関係広いんだぞ」
小椋「ほんとに自慢になんないよそれ。女の人もいるの?」
敦志「わからん。ハンドルネームは女の名前だけど、実際は男って事もよくあるみたいだし」
小椋「へー。女の人だと良いね」
敦志「べ、別にそういうあれじゃねえんだよ。もう行くからな!」
小椋「行ってらっしゃーい。・・・いいなぁ」
えーと、もう録音されてるのか?
えー、はじめまして。3年3組の松永克巳だ。
これを聞いてるって事は、3年3組で起きる現象に頭を抱える変わり者の後輩達だと思う。
「毎月誰かが恋に落ちる」。俺のいた3年3組もこの現象が起きていたんだ。
クラスメイト同士だったり、兄弟だったり、はたまた親が再婚したりと様々だった。
そんな中、クラスの誰かが「合宿」なんてものを考えたんだ。
夏休み、クラスの皆で合宿所で1泊、親睦を深めようって計画だった。
クラスメイトはおろか、何故か担任まで乗り気でな、無論俺も賛成だった。
そして合宿当日、俺は同じ部活だったクラスメイトに思い切って告白したんだ。
「ごめんなさい!」だとよ。
なんでだよ!次々とアベックができていく中、なんで俺は断られるんだよ!
しかも告白のタイミングが悪かった。
合宿所に着いてすぐに告白しちまったたもんだから、残りの時間は地獄だった・・・。
○○ってやつがいてな、こいつは頭も顔もいいのに、女に興味がないっつういけすかないヤツだ。
××って女子はソフトボール部の部長をやってるんだ、容姿はいいんだが、こいつも男に縁がなさそうなヤツだった。
あまりにもムカついたんで、俺は、この二人が両思いだって噂を流してやったんだ。
勅使河原「ただの私怨じゃねえか・・・」
翌日、合宿所の近くにあるという恋愛成就に効くという神社へ全員で向かった。
これも俺には地獄だったがな。
神社の帰り道、急に雨が降ってきてな、前を歩いていた○○だけが用意周到に傘を持ってきていた。
こういう所がいけすかないんだ。
そしたら、××が○○の傘に無遠慮に入ってきたんだ。
○○は嫌そうな顔をしていたが、××はお構いなし。俺は心の中でほくそ笑んでいた。
その時、階段で××が足を滑らせて転びそうになった。
「危ない!」って○○が手を出したら、××を○○が後ろから抱きしめるような格好になったんだ。
後日二人に聞いたら『雷に打たれたような衝撃だった』だってよ。
・・・あー、思い出しただけで腹立ってきた。もういいや、この話やめ。
現象?その二人がアベックになってから止まったっぽいよ。
だからクラスメイトの誰かが恋に落ちたら止まるんじゃねーの。はい終わり。
恒一「・・・」
勅使河原「・・・」
赤沢「・・・」
望月「・・・」
鳴「・・・」
勅使河原「・・・どうする?これ」
赤沢「捨てましょ」
望月「一応解決策?は聞けたけど・・・」
恒一「合宿か。赤沢さん、どうする?」
赤沢「うーーーん・・・・・・悩むわ」
勅使河原「誰かが恋すれば終わり。毒をもって毒を制す、ってか」
赤沢「・・・わかった、合宿を行いましょう。希望者だけで」
勅使河原「うーし、じゃ今日はひとまず解散、詳細は明日にでも考えるか。電話するぜー」
恒一「ところで見崎、その髪飾りはどうしたの?」
鳴「気づいてないのかと思ってた」
恒一「いや、さすがに気づくよ、その大きさ」
鳴「さっき教室で見つけたの。似合う?」
恒一「あはは、うん、似合ってるよ」
おにぃの・・・おにぃのバカーーーー!!
ふぇぇ・・・大きくなったら私と結婚するって約束したのにぃ・・・なんで彼女なんかぁ!!
うぅ・・・もう男の人なんか信じない!
あいたっ。
あ、ごめんなさい!大丈夫ですか?
うん、平気。
・・・
・・・お兄さんのこと、大好きなんだね。
・・・!
?
ぎゃーーーーーーーーーー!!!!忘れて!今のは忘れてぇーーーーー!!!!
あ、ちょっと! ・・・?
赤沢「ハッ・・・いやぁぁぁ!自分こそ忘れなさいよあんな過去ぉぉ!!」
合宿当日・・・ッ!
参加メンバー・男子:恒一、勅使河原、望月、風見、猿田、王子、和久井、中尾、前島、辻井
参加メンバー・女子:赤沢、見崎、小椋、桜木、杉浦、金木、松井、有田、柿沼、渡辺
引率:三神、千曳
勅使河原「ほー、結構人数いるじゃん」
三神「突然ですが、綾野さんが両親の仕事の都合で転校いたしました」
鳴「っ」
和久井「・・・」
三神「急な話だったので、クラスの皆に報告ができなくてごめんなさい、とのことです」
小椋「転校先でも演劇部があったらいいね」
赤沢「そうね」
勅使河原「なんで千曳先生も来たんだ?」
小椋「ヒマだったんだって」
勅使河原「なんだよそれ。まあどうでもいいや、集合写真撮ろうぜ!
望月「わぁ、結構部屋広いね」
勅使河原「参加者は男女10人づつか。こりゃちょうどいいな」
恒一「あのさ、一つ気付いたんだけど、いいかな?」
勅使河原「なんだ?」
恒一「参加者は20人で、不参加者は綾野さんを抜いて9人でしょ?」
勅使河原「ああ、それがどした?」
恒一「もし現象を止める対象者がその9人の中にいたとしたら、この合宿の意味って・・・」
勅使河原「・・・」
望月「・・・」
鳴「・・・」
勅使河原「・・・それ、絶対赤沢に言うなよ。多分気付いてない」
恒一「うん、皆も口を滑らせないようにね」
赤沢「えー、皆さんお食事中にすいません、一ついいでしょうか」
勅使河原「げっ、まさか気付いた?」
赤沢「この合宿はあくまでも現象を止める為なので、恋愛感情を持つというレベルを超えることは・・・」
桜木「風見くん、これおいしいよ」
風見「本当かい?じゃあ僕も」
杉浦「う、キュウリ苦手・・・中尾、あげる」
中尾「まかせろー」
金木「はい、あーん」
松井「あーん。はいお返し。あーんして」
鳴「恒一くん、頬にソースついてる」
恒一「え?本当だ。あはは」
赤沢(ああもう!クラス委員同士、対策係同士、女の子同士、そして元”いないもの”同士・・・!!)
勅使河原「まずいな・・・」
望月「まずいね・・・」
勅使河原「よーし腹いっぱいになったところで自由時間ー。敷地外へ出るのは禁止だぞー」
鳴「・・・」 ツンツン
和久井「ん?」
鳴(中庭に)
・
・
・
鳴「呼び出しちゃってごめんなさい」
和久井「どうしたの?」
鳴「綾野さん、転校しちゃったのね。知らなかった」
和久井「うん・・・でも、いいんだ」
鳴「思いは伝えられたの?」
和久井「・・・どうだろう。わからない」
鳴「後悔はない?」
和久井「うん」
恒一「見崎はどこに・・・あれ、調理場の扉が開いてる」
前島「榊原君・・・!」
恒一「わっ!前島くん、どうしたの?震えてるけど」
前島「調理場には行かないほうがいい・・・管理人が・・・!」
恒一「管理人がどうかしたの?扉閉めてくるよ」
恒一「中から話し声が・・・?」 ソッ
峯子「はいあなた、あーんして」
謙作「うむ、お前の作る料理はいつもうまいなぁ。ますます惚れ直しちまった」
恒一「!!!」
前島「・・・な?」
恒一「・・・寒い・・・8月なのに体が寒い・・・!」
勅使河原「お前ら何やってんだ?」
恒一「勅使河原くんと望月くん・・・調理場の中で・・・管理人が・・・!」
鳴「実はね、言ってなかったんだけど」 スッ
和久井「あっ、眼帯・・・」
鳴「ある日をさかいに、和久井くんと綾野さんは繋がったの。すごくすごく薄くだけど」
和久井「薄く繋がる・・・?それって、いつの話?」
鳴「さあ、覚えてない」
和久井「・・・まあ、いいや。ありがとう。見崎さんに相談できてよかった」
鳴「お礼はいい。勝手に人の恋心を覗いちゃってるしね」
和久井「最後に・・・今って、繋がってる?」
鳴「・・・・・・残念、二人の距離が離れすぎててわからないわ」
和久井「ほんと、はぐらかすの上手だね」
鳴「ただいま」
恒一「み、見崎・・・!」
望月「お帰りなさい・・・!」
勅使河原「あぁー。見崎が天使に見える・・・!」
鳴「なんで震えてるの?」
勅使河原「さて、と。望月、ちょっと付き合え」
望月「どこ行くの?」
勅使河原「このまま朝を迎えて神社に行っておしまいじゃ盛り上がらねえだろ。ちょっと考えがある」
望月「えぇー、今度は何する気なのさぁ」
勅使河原「たまにはそこのお二人さんも二人っきりにしてやらなきゃな」
鳴「・・・」
恒一「あ、あはは・・・お構いなく」
望月「もう・・・じゃ、行ってくるね」
恒一「さっき、どこ行ってたの?」
鳴「内緒」
恒一「初めて会った時のこと覚えてる?ほら、病院で」
鳴「ごめんなさい、記憶にない」
恒一「すごく悲しそうというか、寂しそうに俯いて歩いてたのを見かけたんだ」
鳴「そう。気がつかなかった」
恒一「・・・誰か、亡くなったの?」
鳴「ううん、生きてる。明るく、いつでも前向きに生きてる」
恒一「じゃあ、なんであんなに悲しそうだったの?」
鳴「・・・私にはね、双子の妹がいるの。藤岡未咲っていうね」
恒一「双子の妹?知らなかったよ。でも苗字が違うんだね」
鳴「かくかくしかじか」
恒一「そうだったんだ、そんな事情が・・・」
鳴「その日も未咲のお見舞いに行ったの。その日にあった出来事を聞いてあげるのが日課みたいなものでね」
恒一「いいお姉さんだね」
鳴「患者の子と仲良くなったとか、誰がお見舞いに来てくれたとか、とても楽しそうに話すの」
恒一「へえ。いい話じゃない」
鳴「・・・未咲と別れたあと、気持ちが沈むの。どうして双子なのにこうも違うのか、って」
恒一「えっ?」
鳴「容姿はそっくり。でも未咲は天真爛漫。鳴は・・・まあ、こんな感じ。光と影みたい」
恒一「いや、見崎にだっていい所はたくさん・・・」
鳴「こんな事を考えてしまう自分にも失望するの。その真っ只中に恒一くんとすれ違ったのね」
恒一「見崎・・・」
鳴「大丈夫、私の事は私が一番わかってるし、未咲はとても大切な妹。それは変わらないから」
杉浦「ねえ、泉美」
赤沢「・・・」
杉浦「やっぱ、怒ってる?」
赤沢「複雑なところ。・・・よりにもよって」
杉浦「だよね。泉美の理解者同士が、ってわけだし」
赤沢「・・・どうなのよ、中尾とは」
杉浦「あいつ、いい奴だよ。見た目に似合わず優しいところあるし」
赤沢「それはまあ、なんとなく知ってる」
杉浦「それに・・・命の恩人だし。一応」
赤沢「そこが複雑なのよ。助けたからこうなったわけだし、助けてなかったら・・・あれだし」
杉浦「泉美も何かがきっかけで変われたらいいのに」
赤沢「バッ・・・!わ、私は・・・無理!無理無理!絶対無理!」
杉浦「ん?誰か来たみたい」
勅使河原「よう」
杉浦「どうしたの?」
勅使河原「ちょっと話し合いがしたいんだけど、出てこれるか?」
杉浦「えー、もうそろそろシャワー入ろうと思ってたんだけど」
中尾「よっ、なんか知らんが俺も呼ばれた」
杉浦「待ってて、今行くから」
勅使河原「赤沢ー、ちょっと杉浦借りてくぜー」
赤沢「は?今度は何しでかす気よ」
勅使河原「担保として望月置いてくからよー」
望月「お、お邪魔します・・・」
赤沢「・・・何なのよ・・・つーか望月置いてかれてどうしたらいいのよ・・・」
赤沢「ったく、おかしいくない?あいつったらほんと無責任!あんたもそう思うでしょ?」
望月「そ、そうだね(もう30分経ったよ・・・)」
勅使河原『えー、3年3組の皆様、聞こえてますでしょうか』
恒一「勅使河原くん?」
勅使河原『このまま朝を迎えるだけでは少々盛り上がりに欠けると思いませんか?』
赤沢「何を始める気よ・・・」
勅使河原『そこで特別企画!大肝試し大会を始めまーす!』
杉浦・中尾『わーー、ドンドンパフパフー』
赤沢「多佳子!?」
勅使河原「皆様、正面玄関前までお越しくださいませー」
勅使河原「はいどうもー、実行委員の勅使河原、ならびに中尾と杉浦でーす」
赤沢「はぁ・・・」
勅使河原「はいそこ、あからさまにゲンナリしないでくださーい」
赤沢「で、何をするって?」
勅使河原「ルールは簡単、二人一組で5分ほどのルートを周ってくるだけだ」
赤沢「狙いは?」
勅使河原「ズバリ、男女の親密度アップ!現象を止めるために3人で必死に考えたんだぜぇ?」
小椋「面白そうじゃん!やろーやろー!」
王子「おう!賛成だ!」
賛成ー! 賛成ー!
勅使河原「さて、概ね賛成みたいだけどどうする?」
赤沢「はかったわね・・・この状況で反対なんて言えるわけ無いでしょ・・・!」
勅使河原「はい、では二人一組でペアを作ってくださーい」
赤沢(男女ペア、とは言ってなかったわね・・・。多佳子にしよう)
赤沢「多佳子ー、私と・・・」
杉浦「泉美、ごめん!私・・・」
中尾「・・・わりぃな」
赤沢「なっ!ぐぬぬ・・・まあいいわ、由美・・・」
小椋「私、望月がいいー!」
有田「あっ、ずるい!私もー!」
渡辺「抜け駆けなしー!」
望月「え、えぇっ!?」
小椋・有田・渡辺「「「さあ、望月は誰がいい!?」」」
望月「えーと、えーと・・・み、三神先生!三神先生と行く!」
三神「え、私も参加者なの?」
望月「勅使河原くん!三神先生でもアリだよね!?」
勅使河原「うーむ・・・特別に許可する!」
千曳(ほう、一番波風の立たない選択ができるとは・・・)
有田「ちぇー、ズルーイ」
渡辺「しょうがない、松子、一緒に行こっか」
有田「そうだね、どうせ遊びだし」
小椋「くそー・・・前島!あんたでいいわ!行くわよ!」
前島「えっ!ぼ、僕?」
赤沢「出遅れた・・・ゆかりは風見だろうし、金木さんは松井さんと・・・そうだ!恒一くんがいたわ!」
恒一「見崎、こういうの平気そうだよね」
鳴「怖くは無いけど、夜道で片目って歩きづらい」
恒一「手を繋げば大丈夫だよ」
赤沢「そうよね!見崎さんもいたわね!」
辻井「ほ、ほら、別に変な意味じゃないよ!?ただメガネキャラ同士っていうだけだから心配しないで、ね!?」
柿沼「は、はい、お願いします」
赤沢「・・・千曳先生は」
千曳「不参加だ。あいにくこういうのは不得手でね」
赤沢「意外です」
千曳「ほら、そこで手招きして待ってるのがいるぞ」
勅使河原「へへー、残り物にはなんとかがあるって言うじゃん?」
赤沢「裏がありそうね・・・」
勅使河原「和久井は本人の希望で、コースのどこかに隠れて脅かし役をやってくれるってよ」
和久井「頑張るよー」
勅使河原「じゃペアも決まった所で、行く順番をクジで決めまーす」
赤沢「なんで組み合わせはクジじゃないのよ」
勅使河原「まあまあ、決まったもんはしょうがねーだろ?」
杉浦(わざわざ悪役を買ってやったんだから、あとはあんた次第よ)
勅使河原(感謝感謝!)
1組目:風見・桜木ペア
風見「桜木さん、怖いのって平気?」
桜木「あまり得意じゃ・・・でも・・・」
風見「どうしたの?」
桜木「こ、こうやって二人で歩いてると、その・・・」
風見「?」
桜木「デ・・・デートみたい、ですよね・・・」
風見「!!」
桜木「・・・」
風見「「・・・」
和久井「わっ」
桜木「・・・」
風見「・・・」
和久井(気づかれなかった?)
2組目:金木・松井ペア
松井「・・・怖い」
金木「大丈夫、私の手を握って」
松井「杏子の手、暖かい」
金木「ね?手を繋いでいれば怖くないわ。このまま行きましょう」
和久井「わーっ」
松井「ひっ・・・!」
金木「大丈夫、私が亜紀を守ってあげる。だから安心して」
松井「うん・・・頼りにする」
金木「さあ、行きましょう。もう目を開けても大丈夫」
松井「杏子・・・ありがとう」
金木「亜紀・・・」
和久井(やりづらいなぁ)
3組目:中尾・杉浦ペア
杉浦「さ、行きましょ。中尾が先導して」
中尾「おう・・・」
杉浦「『まかせろー』はどうしたのよ」
中尾「お、俺こういうのあまり得意じゃなくてよ・・・」
杉浦「何それ、発案者のくせに」
中尾「だってよ、自分も参加するとは思ってなかっ・・・」
和久井「わーっ」
中尾「にゃーっ!!」
杉浦「ぶふっ、あっはっはっはっ」
中尾「わ、笑うなよ!すっげぇ恥ずかしい!」
杉浦「だ、だって、にゃーっって、くくく・・・お腹痛い・・・最高、あんた最高だわ」
中尾「う・・・行くぞ!ほら!」
杉浦「あとでみんなにバラしちゃお。にゃーっ」
中尾「やめろ!やめてください!」
4組目:有田・渡辺ペア
有田「おー、結構雰囲気出てるねー」
渡辺「へたなオバケ屋敷よりよっぽど恐怖感あるよ」
有田「そうそう、恐怖感といえばさ」
渡辺「何?」
有田「アメリカでは日本のホラーみたいな『何もない恐怖』って概念が薄いらしいよ」
渡辺「何それ、豆知識?」
有田「うん、こないだテレビでやってた」
和久井「わーっ」
有田「きゃーー!」
渡辺「きゃー!って、松子の声の方がビックリしたんだけど!」
有田「和久井!ちょっとやめてよバカ!びっくりすんじゃん!」
和久井「うん、そういう役だから」
渡辺「何かぶってるの?」
和久井「ゴミ袋」
5組目:三神・望月ペア
三神「私でよかったの?」
望月「は、はい。よろしくお願いします」
三神「はい、じゃ行きましょ」
望月「うぅ~、こ、怖いよう」
三神「苦手?」
望月「僕こういうの全般が全然ダメで・・・」
和久井「わーっ」
望月「ひゃぁーーっ!!こ、このっ!このっ!」
和久井「いたっ、痛い痛い、僕だって」
望月「はっ・・・もぉ~、やめてよぉ~!」
三神(まずい、今キュンとしかけた。天然ジゴロになるわねこの子)
6組目:前島・小椋ペア
小椋「・・・」
前島「ご、ごめんね、僕なんかじゃきっとつまんないと思うけど」
小椋「なんであんたそんなにナヨナヨしてんのよ。剣道部でしょ!」
前島「それとコレは関係がないと思う・・・」
小椋「いいからシャキっとしてよ」
前島(望月くんも似たようなタイプだと思うんだけどなぁ)
和久井「わーっ」
前島「ひゃぁあーーっ!!出たぁ!た、助けてぇ!」
小椋「!!」
和久井「あはは、腰抜かした」
前島「・・・あぁ~、もう。かっこ悪いなぁ僕」
小椋「・・・」
前島「ごめんね小椋さん、こんな体たらくで」
小椋「ふむ・・・」
7組目:辻井・柿沼ペア
辻井「よ、よろしく!じゃあ手を繋ごうかっ!」
柿沼「えっ・・・」
辻井「ハッ!いや、変な意味じゃなくてね!?ほら、足場も悪いし、エスコートするのが紳士の嗜みだよね!」
柿沼「いや、あの・・・」
辻井「あ、僕が手汗かいてるのが気になる!?なるよね!今拭くからちょっと待ってね!」
柿沼「いや、そこに和久井くんが・・・」
和久井「なんかあったの?」
辻井「ギャピン !?」 ギューッ
柿沼「はう!」
辻井「な、なんだよ和久井くん!脅かし役が普通に声をかけないでくれたまえ!」 ギューッ
和久井「騒がしいから何かあったのかと思って。というか柿沼さんが」
辻井「へ?」 ギューッ
柿沼「は、はわわわ・・・」
辻井「あぁっ!か、柿沼さん!わざとじゃないんだよ!神に誓ってわざとじゃないんだよ!」
8組目:恒一:鳴ペア
恒一「ほら、手、繋いで」
鳴「ありがとう」
恒一「思ったより明るいね。満月だからかな」
鳴「雨だったら何も見えないかも」
恒一「でも、和久井くんがどこかに隠れてると思ったら結構ドキドキだよ」
鳴「・・・ちょっと待って」 スッ
恒一「?」
鳴「・・・和久井くん、みっけ」
和久井「えっ?」
鳴「そこの木の所に立ってる」
恒一「どこ?全然見えないよ」
和久井「ずるいなー、それ」
鳴「ふふ」
恒一「ずっと一人で脅かし役なんて寂しくない?」
和久井「そうでもないよ。リアクションが三者三様で。それに」
恒一「それに?」
和久井「他の人とペアを組んだら、怒られるかもしれないし」
恒一「誰に?」
鳴「あと2組よ、頑張って」
和久井「おー」
鳴「さ、行きましょ、恒一くん」
恒一「あ、うん・・・??」
鳴「・・・」 クルッ
和久井(さて、次はどこに隠れようかな)
鳴「・・・ふふ」
9組目:王子・猿田ペア
王子「・・・」
猿田「・・・」
王子「・・・」
猿田「・・・」
王子「・・・なあ」
猿田「んー」
王子「・・・泣いても、いいかな」
猿田「・・・ここなら誰にも見えんし誰にも聞こえんぞな」
王子「うえぇ・・・なんで合宿まで来てこんな目に・・・しくしく」
「オチ担当の宿命ぞな」
和久井(・・・出ていけない・・・)
ちょうど規制をくらったところで、2時間ほど用を足してくる。
落ちたらまた立てよう。
和久井「次でラス・・・ん?電話だ。誰から・・・っ!!」
綾野『やっほー、今電話大丈夫?』
和久井「あ、あやや綾野さん!う、うん、大丈夫だよ」
綾野『? 外にいるの?』
和久井「うん、今合宿のイベント中で、肝試しの脅かし役やってる」
綾野『あはは何それー。合宿か、由美にこの前聞いた。皆楽しんでる?』
和久井「うん、僕自身もわりと」
綾野『へー、いいなー。私も行きたかったなー』
和久井「ところで、どうしたの?」
綾野『ついさっきやっと荷物整理が終わったんだけど、終わった途端ドッと疲れちゃって』
和久井『お疲れ様」
綾野『ありがと。それで、和久井の声でも聞いて癒されようかなーって思って電話してみたんだ』
和久井「そ、そうなんだ」
綾野『あー、やっぱ和久井の声って癒される』
綾野『そのうちさ、こっちに遊びに来なよ』
和久井「うん、みんな誘って」
綾野『・・・和久井一人で来て欲しいな』
和久井「えっ?」
綾野『和久井と・・・二人で会って話したいな・・・って』
和久井「え・・・え、そ、そ、え・・・」
綾野『・・・なーんて、元演劇部の演技力、恐れ入ったか!』
和久井「え・・・あ、あははは、すっかり騙されちゃった」
綾野『立て込んでるみたいだから、また近いうちに電話するね』
和久井「うん、わかったよ。それじゃ体に気をつけて」
綾野『うん・・・・・・あのさ』
和久井「何?」
綾野『さっきのさ、”演技”ではあるけど・・・”嘘”じゃないから・・・おやすみっ』 プツッ
和久井「・・・」 カッ
10組目:勅使河原・赤沢ペア
赤沢「はぁ・・・」
勅使河原「まあまあ、とりあえず行こうぜ」
赤沢「・・・」
勅使河原「・・・」
赤沢「・・・」
勅使河原「・・・俺のこと、そんなに嫌い?」
赤沢「大っ嫌い」
勅使河原「・・・そっか・・・」
赤沢「・・・」
勅使河原「・・・」
赤沢「・・・」
勅使河原「・・・」
赤沢「ちょ、ちょっと待ってよ!そのリアクションは反則でしょ!」
勅使河原「・・・へ?」
赤沢「なに普通に落ち込んでるのよ!いつものやりとりでしょ!別になんとも思ってないわよ!」
勅使河原「・・・はは、そうだそうだ。そうだったな」
赤沢「さっきまでのテンションはどうしたのよ」
勅使河原「・・・ちょっと、まじめな話がしたいんだ」
赤沢「何よ、あらたまって」
勅使河原「お前ってさ・・・東京の高校、受けるんだっけ」
赤沢「ええ、そのつもり。そろそろ準備にかからないと」
勅使河原「・・・俺もさ、そこ受験したら、どうなるかなって」
赤沢「は?正気?私ですら難関なのに、あんたが受けるっていうの?」
勅使河原「今から必死に取り組めばさ、どうにかなるかもしれないじゃん?」
赤沢「あんた、そんなに高い志をもった人間だったっけ?」
赤沢「まあ、万が一合格したとしても、授業についていけなくなるのが関の山よ」
勅使河原「入学さえできれば、あとはどうとでもなる」
赤沢「無理無理。諦めて近所の高校にしときなさい」
勅使河原「・・・お前と一緒の高校に行きたい」
赤沢「ちょ・・・は?何よそれ・・・」
勅使河原「・・・俺、俺さ・・・俺、お、お前の・・・」
赤沢「! あんた、まさか・・・!」
和久井「シャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
勅使河原「ぎゃーーー!?」
赤沢「きゃーーーーー!?」
和久井「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
赤沢「ちょ、何!?なんで追ってくるの!?誰よあれ!?」
勅使河原「し、知らねえよ!和久井しかいねえハズだぞ!?」
赤沢「こんな和久井知らないわよ!!」
ズサーーーーッ
赤沢「あ!転んだ!」
勅使河原「今だ!逃げるぞ!掴まれ!」
赤沢「あっ・・・」
和久井「・・・っ、あれ、僕なんでこんなところに・・・?」
赤沢「はぁ・・・はぁ・・・」
勅使河原「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
赤沢「・・・もう、追ってきてないみたい」
勅使河原「何だったんだ?今の・・・」
赤沢「・・・ちょっと、何どさくさに紛れて手握ってんのよ」
勅使河原「あっ、わりい。ちょっとパニックになっちまった」
赤沢「・・・いいわよ、このままでも。行くわよ」
勅使河原「・・・」
赤沢「今だけはいいけど、皆の前では手を離し・・・どうしたの?何立ち止まって」
勅使河原「・・・好きだ!」
赤沢「っ・・・」
勅使河原「俺、お前のことが好きだ!」
勅使河原「中学に入ってからずっと・・・お前のことが好きだった」
赤沢「・・・ちょっと、そんな気はしてた」
勅使河原「気付かなかったと思うが、中尾と杉浦の協力てこうやって二人きりになるチャンスをもらえた」
赤沢「それは気付いてた」
勅使河原「赤沢、俺は本気でお前のことが好きだ」
赤沢「・・・・・・無理。私、どうしても自分の信念は曲げられない」
勅使河原「・・・いいんだ。今日を逃したらもう言えない気がしてた」
赤沢「・・・」
勅使河原「・・・俺の気持ちを伝えられただけで、俺は十分だ」
赤沢「あんた・・・」
勅使河原「でもよ、せめて、お前と同じ高校に行けたら・・・行けたらいいなって・・・」
赤沢「・・・なに泣いてんのよ」
勅使河原「わかんねぇ。わかんねぇけど・・・止まんねぇんだよ・・・」
勅使河原「・・・ぐすっ」
赤沢「・・・言っとくけど、そうとう偏差値は高いわよ。今のあんたじゃ到底無理」
勅使河原「・・・知ってる」
赤沢「それこそ、風見クラスの成績が必要になるけど」
勅使河原「なら俺は風見を踏み台にする」
赤沢「酷いわね」
勅使河原「今は幼馴染なんてもんは関係ねえ。俺自身の問題だ」
赤沢「・・・本気で目指すつもり?」
勅使河原「当たり前だ」
赤沢「私、大学進学も視野に入れてるけど」
勅使河原「勅使河原直哉の本気を見せる時だ」
赤沢「受験失敗したら絶交だから」
勅使河原「なっ、それは・・・」
赤沢「弱気にならないでよ・・・」
勅使河原「・・・わかった。それくらいのリスクくらい受けて立ってやるよ!」
恒一「あ、帰ってきた」
中尾「・・・おい!手つないでんぞ!」
杉浦「ちょ、泉美相手に?マジでやったの!?」
風見「あいつ、たまに出す本気はすごいんだよ」
鳴「・・・」 スッ
勅使河原「お?なんだよお前ら」
小椋「わー!テッシーおめでとー!」
勅使河原「は?」
中尾「勅使河原さん!赤沢さんをゲットした感想を一言お願いします!」
勅使河原「ちょ、ちょっと待て!なんだよいきなり!」
望月「・・・勅使河原くん、ハッキリここまで聞こえてたよ。『好きだ!』って」
勅使河原「はぁ!?・・・って、すぐそこだったのかよ!」
赤沢「・・・あ ん た ねぇー!絶対ワザとでしょ!そういう所が大っ嫌いなのよ!!」
やんや、やんやー!
鳴「・・・ふふ」
望月「わぁ、花火だ!」
千曳「不参加だった代わりだよ」
勅使河原「イエー!千曳先生イエー!みんな、騒ぐぞー!」
桜木「わぁ・・・綺麗」
風見「うん・・・いや、君の・・・いや、うん」
松井「杏子、見て」
金木「綺麗。輝いてるよ、亜紀」
杉浦「結局答えは出さなかったみたいだけど、泉美もまんざらでもなさそうだったわね」
中尾「”新・対策係”は1日で解散か」
和久井「たーたーりーじゃー」
有田「きゃー助けてー!あはははは」
渡辺「あははは和久井テンション高いんだけどー!」
三神「・・・そっか、ここの中庭だったっけね」
望月「何がですか?」
三神「ううん、なんでも。ちょっと昔をね」
小椋「あんた、演劇部にも入ってみない?」
前島「は?」
辻井「いや、ほんとごめんね?怒ってるよね?僕の自業自得だもんね?」
柿沼(うぅ、辻井君の顔、まともに見れないよぅ・・・)
辻井「その・・・訴えたりとかしないよね?」
恒一「見崎って、やっぱり線香花火とか好きなの?」
鳴「地味だからあんまり」
恒一「あ、そうなんだ」
王子「あはは・・・線香花火って、僕達の命の灯みたいだぁ」
猿田「落ちたぞな」
恒一「見崎のその目って、だれが現象を止める人なのか、っていうのはわからないの?」
鳴「残念だけどそこまでは」
恒一「そうだよね。わかってたらここまでする必要も無かっただろうし」
赤沢「帰ったらさっそく書店に行くわよ。参考書を見繕ってあげる」
勅使河原「いいのか?お前だって色々あるんじゃ・・・」
赤沢「あんた、勉強の仕方知らないでしょ。ある程度は助力するわ」
勅使河原「・・・ありがとな」
鳴「当の本人はもうあまり気にしてないみたい」
恒一「見崎のその目であの二人を見たら、どう見える?」
鳴 「残念、花火がまぶしくてよくわからないわ」
恒一「残念、花火がまぶしくてよくわからないわ」
恒一「はは、当たった」
鳴「・・・意地悪」
1週間後・・・ッ!
智香「いらっしゃい。千曳先生、もういらしてるわよ」
千曳「なかなか洒落た店を知っているんだね」
恒一「望月くんのお姉さんが働いてるんです」
千曳「知っているよ。彼女も夜見北の学生だったからね」
智香「お久しぶりです先生。ご注文はお決まりですか?」
恒一「見崎、コーヒーは飲める?」
鳴「平気」
恒一「えーと、これだ、ハワイコナのエクストラファンシーを二つ」
智香「かしこまりました」
千曳「ほう、君はコーヒーには明るい方なのかい」
恒一「いえ、以前飲んでおいしかったので」
千曳「最高級品だ。当然だよ」
智香「お待たせいたしました」
千曳「さて、合宿から1週間が経ったが、何か変化はあったかい」
恒一「それが、わからないんです。夏休み中なのもありますし」
千曳「そうか、そうだろうな」
恒一もっとこう、ハッキリと形になって現れるものならわかるのですが・・・」
鳴(・・・あつっ)
千曳「学校が始まってしばらく経つまではなんともいえない、か」
恒一「はい」
鳴(・・・火傷しちゃった)
恒一「でも、この現象ってなんなんでしょうか?いつから始まったものなのかも・・・」
千曳「・・・それはきっと26年前、私が夜見北の教師だった時の出来事がきっかけだと思う」
鳴(おいしい)
恒一「26年前・・・ですか」
千曳「 あの時、私は3年3組の担任を受け持っていたんだ。これでも昔は男前で通っていたんだよ。
まあそれはいい。ある女子生徒がいてね、眉目秀麗。成績も申し分ない生徒だ。
だが、無機質さが否めなくてね。笑顔一つ見せない子だったよ。
言われたことを完璧にこなす、一つのミスもなく。何を問いかけても完璧に受け答える。動揺を見せることもなく。
そんな彼女を、一度だけ皆の前で叱ったことがあった。
なに、些細なことだ。黒板を消し忘れた、とかその程度のね。
当時、私は熱血教師を地でいっていてね。
ミスのないことが当たり前だと思い込んでいたせいか、つい必要以上に叱責をしてしまった」
恒一「どうなったんですか?」
千曳「とても、嬉しそうだったよ」
恒一「えっ?」
鳴「その気持ち、少しわかります」
恒一「どういうこと?」
鳴「他の生徒と同じように接してもらえた事で、孤独ではなくなった」
千曳「見崎くんの言うとおりだ。彼女は今まで叱られたことがなかった、と風の噂で聞いたよ」
恒一「でも、それがこの現象とどういう繋がりが?」
千曳「・・・私は、その生徒に畏怖を覚え、敬遠するようになっていた」
千曳「寡黙で無表情だったのに、その日を境に笑顔でいる事が増えたんだ」
鳴「足枷が外れた気持ちだったんでしょう」
千曳「当時の私にはその気持ちが理解できなかった。なぜ叱責したことで人間味を取り戻したのかと」
恒一「確かに、理解できなければ不気味かもしれません」
千曳「そして卒業式の日、生徒から貰った花束の中に、彼女からの手紙があった」
恒一「中にはなんと?」
千曳「お話したいことがあります。あとで校舎裏まで来て欲しい、と」
恒一「ラブレター、ですか」
千曳「・・・私は行かなかった。いや、行けなかった」
恒一「・・・怖かったんですね」
千曳「何を言われるのか、どのように接していいのかもわからなかった。色恋沙汰とは無縁だったのでね」
鳴「かわいそう」
千曳「いち教師でありながら一人の生徒の心すら悟れなかった。そんな無力な自分に失望し、教職を辞した」
千曳「彼女が笑顔になってから、クラス内での恋愛事が盛んになった覚えがある」
恒一「今の3年3組のような感じですか?」
千曳「そうだ。私には何もいい話はなかったがね」
恒一「ということは、その生徒がこの現象のきっかけとなった人物、か」
鳴「・・・なるほど」
恒一「千曳先生、昔は男前だったんですね」
千曳「今は違うというのかい?」
恒一「あ、いえ、そういうわけじゃ・・・」
千曳「ははは、冗談だ。若い頃は夜見山のジョージ・シーガルだなんて言われて舞い上がっていたもんさ」
恒一「俳優ですか?」
鳴「ジェット・ローラー・コースターは見ました」
千曳「ほう、懐かしい・・・話も脱線したな」
千曳「彼女とは卒業式以来会っていない。今では幸せな家庭を築いていることを切に願うよ」
鳴「・・・」
千曳「さて、私は私用があるんで先に失礼するよ。お代は出そう」
恒一「えっ、そんな、悪いですよ」
千曳「私の懺悔を聞いてくれたお礼だ。ではまた学校でな」
智香「ありがとうございました」
千曳「えーと、今は猪瀬くんか。素敵な店だね、また来るよ」
智香「お待ちしています」
鳴「・・・きっと、その生徒の果たせなかった願望がこの現象を呼んでいるのかも」
恒一「そうかもね」
鳴「恒一くん、もうわかってるよね?」
恒一「何が?」
鳴「今年の現象を止める対象者が誰なのか」
恒一「えっ・・・えーと・・・」
鳴「わからない?千曳先生の話と、以前聞いた話を思い出せば答えは出るはず」
恒一「うーん・・・あっ・・・なるほどね」
鳴「ね?問題にもならないくらい簡単でしょ」
恒一「ちなみにその二人って、見崎の目にはどう映ってるの?」
鳴「残念、この場にいないからわからないわ。ふふ」
恒一「やっぱりね」
鳴「このあと、どうする?」
恒一「そうだ、病院に行ってみようか。未咲って子に会ってみたいな」
鳴「そうね、行きましょ。未咲も会いたがってたし」
fin
前島「あーーーーーーー」
小椋「もっと!」
前島「あーーーーーーーーーーー」
小椋「お腹から!」
前島「あーーーーーーーーーーーーーーーー」
小椋「そう!いいよ!さすが剣道部!」
前島「・・・ほんとに入部するの?」
小椋「するの。私の目に狂いがなければ、あんたいい線いけるよ」
前島(とほほ、まだ夏休みだってのになんでこんな目に・・・)
小椋「彩が抜けた分もあるし、あんたには期待してるからね!へへっ」
前島(・・・でも、まあ、いいかな)
小椋「さ、練習するわよ。来月の発表会あんたも出るんだから」
前島「えっ?」
松永『咲谷記念館か・・・懐かしいな。悪い意味で』
玲子「そうよね。着いて1時間足らずで告白だもの」
松永『ぶはっ!・・・お前、覚えてたんじゃねーか!』
玲子「ううん、思い出したの。死角になるように中庭の隅っこでさ、あの時のマツの顔ってば」
松永『やめろ!やめてくれ!古傷を抉るな!』
玲子「あはは・・・ねえマツ、近い内に、また会えないかな?あの頃の話で盛り上がりたい気分になってさ」
松永『・・・昔話をしたがるってのも、年をとった証拠だな』
玲子「ちょっと、それどういう意味よっ」
松永『お互い様ってことさ。えーと・・・来週の土曜なら空いてるかな』
玲子「どこかで落ち合う?」
松永『いや、お前ん家まで行くわ。住所変わってないだろ?』
玲子「変わってないけど・・・場所知ってるの?」
松永『そりゃ知ってるさ。好きだった女子の家の住所くらいはな』
玲子「なるほどね・・・うん、じゃあ待ってる」
桜木「わあ、すごい風見くん。学年で4位だよ」
風見「うーん、もう少し頑張れたかな」
桜木「十分だよ。私なんて10位だったし」
風見「今回は上位に3組が多いな。6位赤沢、7位柿沼、9位榊原、10位桜木さん」
桜木「本当だ、ベスト10に5人もいる」
風見「12位中島、15位辻井、16位佐藤、17位多々良、21位勅使・・・勅使河原?」
桜木「すごーい。勅使河原くん頑張ってたもんね」
風見「あいつ、前回から100位近く上がってる」
桜木「席替えのとき、一番前の席に立候補してたしね」
風見「・・・本気モードか。いつまで続くかな」
桜木「大丈夫だと思うよ。しばらくは」
川堀「おい聞いたか?勅使河原、赤沢と同じ高校受験するんだってよ」
水野「マジかよ!くぅ~、あいつは俺らの仲間だと思ってたのに・・・」
鳴「恒一くん、卒業したら東京に帰るの?」
恒一「そのつもりだったけど・・・父さんとも相談して、夜見山に残ることにしたんだ」
鳴「そうなんだ」
恒一「気に入ったんだ、ここ。父さんも『お前の行きたい所へ行け』って言ってくれたし」
鳴「どこ受験するの?」
恒一「見崎と同じ高校だよ」
鳴「・・・いいの?もっと上の高校だってあるのに」
恒一「部活が盛んな学校だって話だから、僕も部活に入ってみようかなって」
鳴「そうね。美術部もあるみたい」
恒一「それに、見崎もいる」
鳴「・・・何、突然」
恒一「『お前の行きたい所へ行け』っていうのはそういうことだ、っていう僕の解釈」
鳴「体調はどう?」
未咲「あっ、鳴。いらっしゃーい。私の方は順調だよ」
鳴「そう、よかった」
未咲「あれ、なんかいい事あった?なんか嬉しそう」
鳴「いえ、特に何も」
未咲「またまたー。鳴ってば結構表情に出てるよ」
鳴「さあ、どうかしらね」
未咲「それそれ。なんか隠してる時って、必ずそうやってはぐらかすの。自分じゃ気づかない?」
鳴「・・・ほんと?気をつけよう」
未咲「今日はね、いっくんもお見舞いに来る日なんだ。へへー」
鳴「ああ、入院中に仲良くなったっていう人だっけ。じゃあ私は早々にお暇するわ」
未咲「大丈夫だよ。鳴も知ってる人だから。あ、来たみたい」
高林「あっ」
鳴「えっ?」
綾野「そうそう、ホームからまっすぐ出て・・・あ、いた!大ちゃーん!」
和久井「わっ、雪だ。 久しぶりだね、綾野さん」
綾野「ブッブー、不正解ー」
和久井「え?あ、ああ・・・彩、ちゃん」
綾野「はい正解ー。次間違ったら罰ゲームだからね」
和久井「はは、厳しいや・・・そのコート、素敵だね」
綾野「でしょ?今日の為にわざわざ買ったんだから。似合う?」
和久井「うん、とても似合ってる。かわいいよ、彩ちゃん」
綾野「お、おお・・・即答ときたか・・・!」
和久井「合宿の時のお返し」
綾野「くそー、ちょっと会わないうちに成長しおったな。じゃ、行こっか。」
和久井「うん。こっちって雪すごいんだね。でも不思議とあまり寒くない」
綾野「雪が太陽光を反射するから、体感的に暖かく感じるんだって」
和久井「へぇー。夜見山じゃ見られない景色だよ」
綾野「でもやっぱ手は冷えるなー。手繋いでくれたら暖まるんだけどなー」
辻井「あ・・・!」
柿沼「あ、おはようございます」
辻井「あ、ああーおはよう柿沼さん、早いんだね?」
柿沼「はい。今日は日直ですから」
辻井「はは、そうか、偉いんだね。・・・」
柿沼「・・・」
辻井「・・・僕、邪魔だよね?いるだけで邪魔しちゃってる感じだよね?ちょっと散歩でもして」
柿沼「いえ、あの・・・いてください」
辻井「え、ええと・・・いいのかい?」
柿沼「辻井くんも・・・日直です」
辻井「そうだよね!だから僕も早く来たんだったね!忘れてたよ!ははは、はは・・・」
柿沼(変わった人だなぁ・・・)
久保寺「やあ」
望月「あ、久保寺先生!お久しぶりです!」
米村「おーい!久保寺先生来てるぞー!」
江藤「色黒になりましたねー」
藤巻「奥さんは来てないんですか?」
久保寺「私だけだよ。皆にも会わせてあげたかったんだが、人手が厳しくてね」
桜木「農家って、大変ですか?」
久保寺「とても大変だよ。全くの素人だからね。でも、都会じゃ味わえない充実感に満ちているよ」
風見「ご多忙の中、よくいらしてくれました」
久保寺「ははは、そりゃ来るさ。大事な日だからね」
勅使河原「おーーーっ!久保寺先生じゃーん!」
久保寺「相変わらず君は人一倍元気だね。よし、これで全員そろったか」
―――3年3組のみんな、卒業おめでとう―――
杉浦「コンタクトにしてみようかなぁ」
中尾「なんで?」
杉浦「だって、高校生になったじゃん?イメチェンでもしてみようかなって。髪も伸ばしたりしてさ」
中尾「ならん」
杉浦「「は?」
中尾「杉浦は眼鏡あっての杉浦だ」
杉浦「・・・それって、眼鏡を外したら私じゃないってこと?ちょっとショックだな・・・」
中尾「ち、違う!俺は、その、今のお前でも十分素敵だってことを言いたくてだな・・・」
杉浦「・・・ぷっ、はいクサい台詞いただきましたー」
中尾「あっ!ハメやがった!」
杉浦「ほんとひっかかりやすいよねあんた。そういうところ好きだけどさ」
中尾「ぐ・・・まあ、榊原、見崎、和久井、前島、佐藤、小椋・・・高校でも変わり映えしないメンツだよなぁ」
杉浦「まあね。なんたって近いし。・・・あいつらも、うまくやってるかな」
あれ、あんたまだいたの?
よっ。サークル終わるの待ってたんだ。・・・ちょっと、来てもらってもいいか?
ここならいいか。誰もいないな。
顔、にやけ過ぎ。
だって、やっとこの日が来たかと思うとさ、その、嬉しくてよ・・・
・・・はぁ。あんたの執念には負けたわ。
本気を見せるって言っただろ?
いいから早くして。・・・私だって恥ずかしいんだから。
お、おう・・・あー、あーー。オホン。
まずは、20歳の誕生日、おめでとう。
ありがとう。
・・・泉美さん。以前からずっと好きでした。俺と、付き合ってください。
- fin -
「Another's Another ~”本命”は誰?~ 」 投稿完了。
好きなキャラを推していたら和久井くん無双になったでござる
久々にSS書いたった。
真夏の車内に置いといたスニッカーズくらい甘くてベタベタしてるけど、たまにはいいよね。
でも僕は、和久井×綾野。
気の弱い優しい男×明るくて元気な女の身長差カップルとか俺得。
公式HPの座席表でも、二人の距離近いしね。
うーむ、アニメ版しか知らないから設定までもが若干甘かったか。
そのうちまた何かのSSで会いましょう。
ノシ
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