千早「アイドルの賞味期限って、知ってますか?」(180)

最近、自分の周りの世界が変わったような気が変わったような気がします。
そして私自身も。
こんにちは。765プロ所属アイドルの如月千早です。
でもそれは決していい意味ではなくて・・・。

春香「千早ちゃん!おっはよー!」

間違えた。

変わったような気が変わったような気がします。→変わったような気がします。

だった。

彼女は天海春香です。
可愛くて、優しくて、ちょっぴりドジな、お菓子作りが大好きな女の子らしい女の子。
彼女がいなかったら私はアイドルをとうの昔に辞めていたでしょう。

千早「おはよう、春香。」

春香「千早ちゃん。今日のお仕事は?」

千早「歌番組の収録。」

春香「そっかー。いいなあ。私は今日も男の人と仕事だよ!」

おとこのひと…それがどんなことを意味するのか、私は分かっていました。

千早「ねぇ、春香…辛くない?」

春香「全然!私、私のビデオを買ってくれたお客さんに喜んで欲しいんだもん!」

千早「…春香、頑張って」

春香「千早ちゃんもね!」

千早「うん」

そういって、私と春香は短いキスをした。
これは仕事を頑張るための活力剤。
春香はこれから数人の男に抱かれる。私とキスをした唇にキスされる。
そして、それを全世界に売られる。私はそれがたまらなく悔しかった。
春香は純粋な子で、これももう一度輝くステージに立つためなのだと思っているのだろう。
春香の柔肌はもう数多の男に晒されてきた。それを見るのが私だけならよかったのに。

千早(うん、今日も全力を出し切ったわ。)

千早(あっ、そうだ。借りて帰ろう)

歌番組の収録を終えた後、私はすぐにビデオ屋に向かい、DVDを数本借りた。

千早(早く、早く帰らなくちゃ。)

時間はあるはずなのに、なぜかDVDを借りた後は言いようのない焦燥感に駆られる。
気がつくともう私は自分の家の前に着いていた。

私の前にはDVDが数本並んでいる。
それぞれ星井美希、萩原雪歩、菊地真を映したものだ。

千早(どれにしようかしら…)

千早(…美希にしよう)

まず美希のDVDを機械にセットし再生する。
私は機械音痴だが、これはなんとかできるようになった。
仕事柄、DVDを見る機会も多いし。

千早「美希…」

美希は一時期名実共にトップアイドルだった。
ルックス、スタイルともに抜群。喋り方も可愛らしく甘い声。いわゆるハニーボイス。
私のことを何故か「千早さん」と呼んでいた。
律子にはぎこちない「さん」づけだったのに。

千早(あれは美希なりの敬意だったのかもしれないわね)

でも私はそう呼ばれることを無意識に喜んでいたのかもしれない。
私も美希を可愛い後輩であり、ライバルだと思っていた。

そんな美希は爆発的な人気を誇った。
でも人気は衰えるもの。変わらないものなどないのだ。
まったく、盛者必衰の理とはよく言ったものだ。
そして彼女も仕事量が段々減り、気付けばAV女優として注目されるようになっていた。
まあ、AV遺跡の時には結構な騒ぎになったのだが。
昔、アイドルの『ミキちゃん』のファンだった人たちはどうしているのだろうか。

千早(そういう人たちも、こういうものを見て興奮してるのかしらね…)

テレビに美希の姿が映し出される。最近あまり会っていないがやはり可愛らしい。
胸も・・・あの頃よりも大きくなった気がする。私はD72のままなのに。くっ。

今回のシチュエーションは痴漢だ。
制服姿(ミニスカート)で電車に乗る美希。
それじゃあ痴漢されるに決まっていると思うのだけれど、これはAVだから仕方ない。
ご都合主義万歳だ。

千早(あっ、早速男の人の手が美希の体に…。)

胸を揉みしだくようにして、感触を楽しんでいる。美希は嫌そうなそぶりを見せるが、顔は上気している。
そして別の男の手が美希のスカートに伸びる。
まずは美希の白い肌に触れて、ひときしり撫でまわしたらそこから股間に手を伸ばす。
パンツの上から美希の性器を触って美希の反応を伺っている。
美希も「あっ、ダメなの・・・」と言っているがそこはAV。演技に決まっているし、止めるものなど誰もいない。

千早「美希・・・」

美希の服はもうほとんど脱がされていた。というかハサミでチョキンとされていた。
火照りきった美希の体に異物が挿入される。それはとても滑らかな行為だった。
そのピストンの度に美希は嬌声をあげた。

美希「あっ、あっ、あ!」

千早「うぅ!」

そして私も果ててしまった。それからやけに冷静になった頭で私は思考を巡らせた。
なんで、なんでこんなことになってしまったんだろう。
私はなんで借りてまでこんなものを見ているのだろう。
名実共にトップアイドルだった彼女達をなんで救えなかったのだろう。
悔恨の念に身体をゆすられるような気がした。
果てた美希が画面に移る。

美希「ねえ、皆。ミキ、キラキラしてた・・・?」

その言葉に私は頷くほかなかった。

千早「ええ、ええ…美希…」

千早「あなたはとってもキラキラしてるわ。」

千早「昔も、今も。」

そう画面に向いて呟き、私は深い眠りについた。
萩原さんと真のはまた明日見よう。

次の日。

千早「よし、今日も上手く出来たわ。」

今日の仕事は我那覇さんも一緒だった。
我那覇さんは今も動物番組でお茶の間の人気者の地位をゲットしている。
それから持ち前の歌唱力を買われて、歌手としても活躍している。
我那覇さんは今をときめく人気者だ。

響「おつかれ!千早!」

千早「我那覇さん。また歌、上手くなったわね。」

響「いやー、千早に言われると照れるなあ。でも自分、結構練習してるんだ!ありがとね!」

千早「我那覇さんの歌、とっても力強くて…好きだわ。」

響「そんなに褒めるなあ!!」

千早「ふふ。」

響「えへへ。」

千早「…。」

響「…。」

千早「あの頃みたいにみんなも出れたらいいのに。」

響「千早・・・。いつか、またみんなで出れる日がくるさー。それまでがんばろ!」

我那覇さんはそう言っていつもの太陽のような眩しい笑顔をくれる。
自分が苦しいときも悲しいときも、他人に優しく接してくれる。
そんな彼女が素直に羨ましくて、尊敬できる。

千早「そうよね。我那覇さん。ごめんなさい。」

響「ええ!なんで謝るんだぁ!」

我那覇さんがちょっと焦ったような顔になる。

千早「これからもお互い切磋琢磨して頑張りましょう。」

そう言うとまたパァアっと顔を輝かせて、

響「うん!!自分負けないからねっ!」

千早「私だって。」

そういって私たちは微笑みあった。

さて、今日は帰って萩原さんと真のビデオを見なくちゃ。

家に着いた。テーブルに昨日放置したビデオが置いてある。

千早「ええと、ここよね。」

美希のビデオを出して、代わりに萩原さんと真が映っているDVDを入れた。
萩原さんと真は『男に抱かれる』AV女優になってはいない。
萩原さんは男の人が苦手だからそんなことできるわけがない。
彼女はAV女優になることを頑なに拒んだ。当たり前だろう。清純な彼女の純潔を奪う奴なんて私も許せない。
そこで事務所は提案した。「菊地真とDVDに出てみないか?」と。
萩原さんは喜んだ。
彼女と真は自他共に認める仲良しさんだから。

彼女はまた真ちゃんと一緒に楽しくお仕事ができるんだ!と思ったに違いない。
でもそんなに現実は優しくなくて・・・。

千早「あっ。」

画面に萩原さんと真が映る。
彼女達は最初睦まじく話している。まるで以前の765プロでのふたりのように。
そして、それから真が萩原さんを押し倒した。
彼女は、彼女の身体をまさぐっていく。
こうして見ると真の胸は私と同じくらいだけれど、萩原さんはナイスバディだ。
彼女は昔、自分はひんそーだと気にしていたけれど、全然そんなことはない。

千早「綺麗、綺麗よ。」

萩原さんは最初、真とこのようなビデオに出るのを嫌がったらしい。
それはそうだ。彼女達はあくまで親友で、本来性的関係を持つ間柄ではない。
だから最初のDVDではその不慣れが如実に現れていた。
でも今は・・・。

雪歩「あっ、真ちゃん!」

真「雪歩っ、雪歩っ」

雪歩「ううう!」

今はもう躊躇なく互いの身体を貪っている。
そうしないと解放されないことくらい、分かってる。
でも、まだ彼女たちは『アイドル』を諦めていない。
だから、必死で互いを求め合う。

千早「萩原さん、真…」

画面は一層高ぶっていた。

千早「きれい。きれい。」

雪歩「あああ!!」

萩原さんが嬌声をあげて達した。
その数秒後に私も達してしまった。

千早「んあー」

知り合いで性欲を発散しているという背徳感。
それが一層私を興奮させた。

千早「もう寝よう。」

その時、携帯が鳴った。

着信の主は春香だった。

千早「もしもし」

春香「…」

千早「あ、春香?どうしたの?」

春香「…」

千早「春香?」

自分からかけて来たにも関わらず、春香は無言だった。
そのうちひっくひっくと泣きはじめた。

千早「どうしたの?!」

春香はめったに泣かない。
いつも他人に対して笑っている印象しかない。
そんな春香が電話越しで枕を濡らしていた。

春香「ちはや…ちゃん。」

千早「春香、大丈夫なの?!ねえ!」

春香がズーっと電話越しに鼻をすすったのが分かった。

春香「あ、あははっ。私、どうしちゃったんだろ。」

千早「はるか…」

春香「ごめんねっ!千早ちゃん、私どうかしてた!」

千早「ちょ、待ってよ!春香!」

そのあとにはただただ無機質な機械音だけが流れた。

千早「春香…」

その後、春香に電話しても彼女が出ることはなかった。

千早(春香、そうとう追いつめられてるのね。)

千早(そうよね…)

千早(春香の出てるビデオは健全なもの以外は観てなかったけれど…)

千早(明日、借りてみよう…)

今日は、高槻さんと仕事だった。

やよい「うっうー!千早さんっ、お疲れ様でしたあ!」

高槻さんはやっぱり可愛い。癒される。やよ癒し…なんちゃって。

やよい「千早さん?どうかしましたか?」

千早「お疲れ様、高槻さん。良かったら一緒に…」

やよい「あっ!!私、伊織ちゃんのお見舞いに行かないとっ!」

千早「あ…」

やよい「すみません、千早さん。今日はこれで失礼します。」

千早「え、ええ。水瀬さんにお大事にって伝えておいてね。」

やよい「はいっ!!絶対に伝えます!」

高槻さんは、変わらない。
あの頃の純真だった『やよいちゃん』のままだ。
お茶の間の受けも抜群で特にご高齢の方からの人気が高いらしい。
勿論、若年層からも人気だが。

千早「じゃあまたね。高槻さん」

やよい「はいっ!」

高槻さんと別れて帰り路をとぼとぼ行く私。
見慣れたビデオ屋の看板が目に入った。
ビデオ屋に入る時は一応変装をする。
流石に素のまま借りるのは気まずいから。

さっと棚に目を通して、春香の出演しているビデオを探し当て、手に取った。
そしてレジに向かい、借りてから家への道を急ぐ。
早く家に着きたいような、永遠にDVDを見たくないような。
だって、今まで絶対に春香のDVDだけは借りていないし、彼女の穢れた姿だけは観たくなかったのだ。
私の中の『天海春香』が壊れるような気がして。

千早「でもっ!」

春香が泣いた。あの春香が泣いていた。
その原因を探れるなら。私は…

慣れた手つきでDVDを入れ替えた。
私は手洗いもうがいもせずにじっと画面を見つめた。

千早「えっ…」

そのDVDを見て私は愕然とした。

千早「えっ、えっ。なにこれ…うそ。」

千早「う、うぇえええええ」

汚い話しだが、私はその場で嘔吐してしまった。
そのDVDは凄まじかった。
美希や萩原さんや真のものとは比べ物にならない、そんな悲惨な光景が映し出されていた。

私は半狂乱していたのかもしれない。
何故か乾いた笑いが出た。

ねえ、春香。
なんでこんなことに、こんなことをさせられる前に私に相談してくれなかったの。

ねえ、春香。
なんでいつも私の前で笑えていたの…?

ねえ、春香。
なんで苦労一つ見せずに、この前まで泣かないで、
『アイドル』を夢見ていられたの?

千早「ねえ、春香…。」

千早「はるかぁあ…」

私に希望を持たせてくれた少女。
明るい笑みを絶やさなかった少女。
私が芸能界を諦めなかったのはあなたが、天海春香という少女がいたからだったのに。

なんで私は春香と道を違えたんだろう。
春香の方がよっぽど優しくて、こんなぶっきらぼうな私より思いやりがあって…。

春香が、トップアイドルになるべきだったのに…。

春香に電話をかけてみる。

プルプルプルっ

春香が電話に出るまでの機械音。
聞きなれているはずなのに今日はそれだけで手に汗が滲んだ。

春香「…千早ちゃん?」

千早「春香、あなた!!」

春香「えへへ。」

千早「なんで、なんでそんなに笑っていられるの?」

春香「だって笑ってないと。アイドルは笑顔が基本でしょ?」

千早「っ!!」

千早「もう、いいの。春香。」

春香「…」

千早「ひとりで抱え込まないでよ…」

春香「…ビデオ…みたの?」

千早「…」

春香「そっか、ごめんね。気分悪くしちゃって。」

千早「…」

そんなことないわよ、とは言えなかった。

春香「私も辛かったよ。でも、千早ちゃんに見られるのはもっと辛いなあ」

春香「ただのAVならまだしも、スカトロだもんね。」

すかとろ…初めて聞いた。
あの頃の春香には似つかわしくない言葉が出てきたのが時の流れを感じさせた。

春香は無理して笑っているようだった。
それから、沈黙が流れた。
そして、

春香「もう、やだよ・・・」

千早「春香・・・」

春香「もう、無理なのかな。」

千早「え?」

春香「もう一度アイドルとしてみんなと同じ舞台に立つなんて、できないのかな・・・」

それははっきりとした絶望だった。
みんなに、私に希望を与えてきたアイドル、天海春香の発した言葉だとは到底思えなかった。
いや、思いたくなかった。

春香「今まで、新しいプロデューサーさんを信じて頑張って来たけど、もう無理だよ・・・」

千早「春香!」

春香「千早ちゃん。今までありがとう。」

千早「どういうことよ、ねぇ、春香?!」

春香「じゃあね。」

千早「じゃあねなんて言わないで!」

春香「またね。」

千早「・・・春香。」

ツーツーツー。無機質な音だけが耳に響いた。

千早(いやよ、春香!どういうことなの?!ねえ、春香!!)

慌てて電話をかけ直す。

「おかけになった電話番号は-」

春香。春香。
だってあなた、辛いそぶりなんて微塵も見せなかったじゃない。
少なくとも私の前では。
私も春香がこんなひどいことされてるとは思ってもみなかったけれど。
いや、春香は溜め込んでいただけ。
それは脆くてすぐ壊れてしまう。

私は夜の街を駆けた。
電車を乗り継ぎ息を切らして私は春香の家に乗り込んだ。

千早「春香!!」

春香は倒れていた。

春香「・・・」

千早「しっかりして!春香!」

春香「・・・」

千早「はるかぁ・・・」

ぽろぽろと涙が出てきてしまう。私はやっぱり弱い。
泣きたいのは私じゃない。彼女なのに。

春香「・・・ちはやちゃん?」

千早「春香!」

春香「えへへ、わざわざ来てくれたんだ。嬉しい。」

千早「当たり前でしょう?!あんな電話の切り方して…」

春香「ごめんね。迷惑かけて。」

千早「迷惑なんかじゃない!私は、春香がっ」

風呂入りm@s

春香「千早ちゃん?」

千早「大好きなんだからっ」

春香「千早ちゃん。私、汚いよ。」

私の脳裏にあのビデオが浮かんだ。
あのビデオでさえも春香は笑顔のままだった。

千早「春香に、春香に汚いところなんてないっ!」

春香「…千早ちゃん。」

春香「ねえ、千早ちゃん。」

千早「?」

春香「なんで助けてくれなかったの?」

千早「え?」

春香「私が苦しんでるの知ってたくせに!」

そう言って春香は私を睨んだ。
心の底から私を軽蔑するような目で。
初めてだ、春香が私を睨むなんて初めてだ。

千早「それは本当に悪かったと思ってるわ・・・ごめんなさい」

春香「謝ったって許してあげない。」

千早「ごめんなさい…春香」

春香「ダメ。」

そういって春香は私の唇にキスをした。

春香「私が男の人にされたみたいなこと、可愛い可愛い千早ちゃんにしてあげる。」

あの排泄物が頭をよぎった。でも私が吐き気を催したのは男の人の便で…
春香のなら、春香のなら私は…

春香は妖艶な眼差しをしていた。いつのまにかそんなにいやらしい仕種を覚えたのね。

でも、気付いてしまった。
春香の体がかすかに震えていることに。

千早「・・・春香。無理しないで。」

私がぎゅっと春香を包むとその中で春香はびくっと身体を震わせた。

春香「千早ちゃん・・・」

千早「泣きたい時は泣いて。相談したいときは相談して。」

春香「うううう」

千早「私、春香のこと本当に大好きだし、大切だから」

千早「こんな風に想った相手…初めてだから」

千早「もう少し早くあのビデオを見ていたら良かったのかもしれない」

春香「やだよ!!あんな姿、千早ちゃんには絶対見られたくなかったもん!」

千早「ごめんなさい。AVに出される時点で普通じゃなかったのに、私も感覚が狂っていたみたい。」

春香「芸能界って性が乱れてるもんね」

千早「ええ。」

春香「アイドルを目指すって一歩間違えたら、迷い道くーねくねなんだね。」

千早「…」

春香「でも、それでもやりたかったの。アイドルを」

春香「貶されたり、あることないこと言われたり、辛いこともある世界だけど」

春香「楽しいこともたくさんあって、みんなもいて…いっしょで」

春香「ファンの人たちのためにも自分のためにも一生懸命レッスンして。」

春香「なにがあってもへこたれないで…」

春香「ねえ、千早ちゃん。」

春香「私、夢を夢を見てたのかなあ…」

春香「まるで喜劇じゃないの。ひとりでいい気になって―」

千早「夢じゃないし、喜劇でもない。」

千早「確かに春香はみんなに希望を与えていたと思う。」

千早「それに私もたくさんあなたに救われたわ。」

千早「ありがとう、春香。」

春香「私、またスタートラインからやり直せるのかなあ。」

千早「ええ、勿論。…ちょっときついかもしれないけれど。」

春香「・・・」

千早「たまには私の胸で泣きなさい。」

春香「ぷっ」

千早「春香?」

春香「千早ちゃんの胸で?どこにあるの?」

千早「くっ。」

春香「なーんてね」

千早「ちょっと、春香!」

春香「うそうそ。ちょっとだけ貸してね。」

春香は泣くだけ泣いて、それから私にもう一度キスをした。

春香「頑張れるおまじないなの。」

春香「千早ちゃんしかできなくて私にしか効き目がない、ちゅーのおまじない。」

千早「もう、春香ってば。」

その夜の春香はやけに甘えてきて、私たちはぎゅっと抱き合ってお互いのぬくもりを感じ合った。

春香「千早ちゃん、体温低いんだね。」

千早「そうみたいね、春香は温かいわ。」

春香「ねえ、ずっとこのまま千早ちゃんといれたらいいのに。」

千早「私だって…」

私だってこのまま春香を抱きしめていたかった。

でも、時を止めるなんてことは不可能だし、現実はそんなに甘くはない。
それから、変わったことと言えば。
春香が新しいプロデューサーに頭を下げて、ビデオの出演をやめた。
一回じゃ勿論だめだった。
何回も何回も何回も説得し続けてようやく春香は解放された。

千早(よかった…)

代わりに…

P「なあ、千早。ビデオに出てみる気はないか?」

と、比較的マシだと思っていた私のプロデューサーまでそんなことを言うようになった。

千早「プロデューサー。ふざけないでください。」

P「うっ」

千早「私は歌手なんです。」

P「でも春香が出るの辞めちゃったしなああ」

千早「いつから765プロはそんな事務所になっちゃったんですか。」

P「うう、律子と音無さんが寿退社してからかなあ」

千早「しっかりしてください!!まったく…」

P「ごめん、千早」

それからも変わらない。
春香は『男の人と一緒にでるビデオ』に出なくなって、代わりに地道にコツコツ努力している。
美希はAV女優として大人気だし、本人も満足しているみたいだった。
萩原さんと真もセットでひっぱりだこ。
我那覇さんはやっぱり今をときめく人気者だし、四条さんはグルメ番組に出ていたりドラマに出ていたり。
あずささんは新婚さんだ。高槻も家計のためあくせく働いているし。
水瀬さんは、この前お見舞いに行ったけれどだいぶ元気そうになっていた。

千早(そして…私は降り注ぐライトのその中)

それでも私は、今日も恋の歌を歌っている。

ピロリロリン♪

あっ、春香からメールだ。

『今日の夜、一緒にご飯食べない?』

私は戸惑いながら、けれどしっかりと意思をもって返信をする。

『もちろん。』

千早「わーたしがー守ってあげるー」

歌詞を口ずさみながら、私は衣装から私服に着替えようとする。

この私服は以前春香と買い物に行った時に彼女に選んでもらったものだ。
普段の私なら絶対に選びそうにない淡い色のスカート。
可愛らしい服。
それを素直に嬉しいと思える自分がたまらなくうれしかった。
心が高鳴っている。

千早「変じゃ…ないかしら」

P「似合ってるぞ」

千早「わああああ!!ぷ、プロデューサー?!!」

>>150
やよいを名字呼び捨てとかどんだけ壁があるんだ

P「千早にしては珍しいな。そんな淡い色。」

千早「春香が…選んでくれたんです。」

P「春香が?ああ、春香っぽいなあ」

千早「そうですね。」

P「千早、嬉しそうだな。」

千早「そ、そうですか?」

P「ああ、表情が柔らかい感じがする」

>>156間違えたわ、確かに冷たいなww

千早「えへへ。」

P「千早はほんとに春香が大好きだな」

千早「えええええ!!!!!」

P「図星だろ」

千早「うう、はい。」

P「春香と何か約束あるのか?」

千早「ええ、夕食を一緒に」

P「じゃあ、俺はこれで。お疲れ様」

千早「お疲れさまでした。」

プロデューサーに挨拶をした後、私は再び鏡に映る自分を見つめた。
確かに頬が少し紅潮していて、今までに見たことがないような『如月千早』がそこにいた。

千早「うう。」

ねえ春香。いつか縁側でお茶でも啜りながら、あんな日もあったね。
なんていえる時が来るのかしら。
信じあえる喜びも傷つけあう悲しみも、全部ひっくるめて。

千早「よし、行こう。」

いつもよりも軽やかな足取りで私は都会の街に繰り出していった。


                       END

終わった!!

はるちはわっほおおおおおおい
結局こんな感じになってしまう

亜美真美は?

>>167亜美真美!!
亜美真美は闇落ちしました…ってのは嘘で一応勉強に勤しむため、アイドルを辞めたということに…

縁側でお茶というと老後はるちはSSを思い出すな

>>171ごめんなさい、それ多分わたしです…

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