弟子「敵の足の小指に正確に蹴りを当てる拳法!?」師匠「うむ」 (109)

~ 学校 ~

ドゴッ! バキッ! ガスッ!

生徒「うぅ……」

不良「10万持ってこいっつっただろうが、このボケが!」

DQN「明日持ってこなかったら、もっとひどい目にあわしてやんぞォ!?」

ピアス「チクッたりしたら、俺の闇魔法で滅殺だからな!」

ギャハハハハ…… ワハハハハ……

生徒「うっ……」

生徒「ち、ちくしょう……ぼくはなんて弱いんだ……」グスッ…

~ 銀行 ~

生徒(今までもらったお年玉を下ろしたら、10万円はなんとかなったぞ)

生徒(だけど……本当はアイツらなんかに1円だって払いたくない……!)

生徒(でも払わないと……どんな目にあわされるか分からない……)

生徒(ぼくがもっと強ければ──)

生徒(もっと強ければ、アイツらをやっつけてやるのに……)

生徒(でも、ぼくにはとても無理だ……)

生徒(明日、大人しく金を払おう……)

~ 町 ~

生徒「──ん?」



チンピラ「人に肩ぶつかっといて、なんだその目つきはァ、てめえ!?」

パンチパーマ「やるんかい、コラァ!」

青年「…………」



生徒(ケ、ケンカだ!)

生徒(どうしよう、警察呼んだ方がいいのかなぁ……?)オロオロ…

生徒(でも、今から呼んで間に合うかなぁ……)オロオロ…

パンチパーマ「謝るなりかかってくるなりせんかい!」

チンピラ「黙ってねえで、なんかいってみろやァ!」ドンッ

青年「!」ヨロッ…

青年「ぐおおおおっ! いででででっ! ぐああああっ……!」

チンピラ「な、なんだァ!?」

パンチパーマ「なに大げさに痛がっとんじゃ!?」

青年「…………」ニヤッ



生徒(笑った!?)

青年「…………」ザッ…

シュシュッ!

チンピラ&パンチパーマ「!!?」

チンピラ「うぎゃあああっ!?」ゴロゴロ…

パンチパーマ「足がああああっ!?」ゴロゴロ…

青年「それじゃ」スタスタ…



生徒(あの人の蹴りが、二人の足をかすめたようにしか見えなかったけど……)

生徒(二人ともものすごく痛がってる!)

生徒(いったいなにをやったんだ!?)

生徒(す、すごい……!)

生徒(あの人に頼めば、もしかしたらぼくも強くなれるかもしれない!)

生徒(ついていってみよう!)タタタッ

しばらくして──

青年「オイ」

青年「さっきからずっと俺をつけまわしてるが、なにか用でもあるのか?」

生徒「!」ギクッ

生徒「あ、あの……ぼく、さっきあなたが絡まれてるところを見てまして……」

青年(ああ、あれか)

生徒「あなたは、あっという間にあの二人をやっつけましたよね……」

生徒「それでぼくも、あなたのように強くなりたくて……」

生徒「お、お願いします! ぼくを弟子にして下さい!」ガバッ

青年「弟子ィ!?」

青年「う~ん、わりぃけどさ、俺は弟子を取れるような人間じゃ──」

生徒「こ、ここに……10万円あります!」サッ

青年「!」

青年(オイオイ、最近のガキは金持ってんな!)

生徒「どうか、ぼくを強くして下さい!」

青年「……うむ、そこまでいうのならば仕方あるまい」

青年「弟子にしてやろう。ただし、修業は厳しいぞ?」

生徒「ありがとうございます! 頑張ります!」

青年「よし、じゃあ今から俺とお前は“師匠”と“弟子”だ!」

~ 神社 ~

弟子「師匠、ここで修業をするんですね?」

師匠「ああ、ここならめったに人が来ないからな」

師匠「道場とかを期待してたんだったら、残念だったな」

弟子「いえ、かまいません!」

師匠「ところで聞いてなかったけど、なんで強くなりたいんだ?」

弟子「実はぼく、学校でいじめられてまして……」

弟子「強くなって、ぼくをいじめてくる奴らを見返したいんです!」

師匠「なるほどな……」

師匠「だけど、はっきりいって、今日中にお前をそいつらより強くするのは無理だ」

弟子「はい……」

師匠「だから今日はまず、そいつらをどうにかする方法を伝授してやる」

師匠「名づけて……えぇと……サッカー拳だ!」

弟子「サッカー拳!?」

師匠「サッカー拳ってのは、ようするに痛がるフリだ」

師匠「痛がるフリをしてファウルをもぎ取る、サッカー選手の高等テクニックだ」

師匠「俺もさっきやってたろ?」

弟子「ああ……やってましたね。突き飛ばされただけなのに、大げさに痛がってました」

師匠「時と場合によっては、あれが格闘技のどんな技より有効なんだ」

師匠「じゃあいくぞ」

師匠「いだだだだっ!」

弟子「いたたたたっ!」

師匠「わざとらしいぞ、もう一回!」

師匠「あだだだだっ!」

弟子「あだだだだっ!」

師匠「ダメだダメだ、もう一回! 全然なってない!」

数時間後──

師匠「よし、だいぶよくなったぞ。今日はここまでだ」

弟子「ありがとうございます」

弟子「でも……このサッカー拳をどう使えばいいんですか?」

師匠「明日、なるべく人の多いところで使え」

師匠「ついでに明日は俺、予定ないから、放課後に校門で待っててやる」

師匠「それで、その不良どものいじめはなくなるはずだ」

弟子「はぁ……」

弟子(とても信じられない……)

翌日──

~ 学校 ~

不良「よぉ~う」

弟子「!」ビクッ

DQN「10万持ってきたろうなァ?」ボソッ

弟子「……ないよ」

不良「あぁ!?」

ピアス「絶対零度で冷凍(フリージング)しちまうぞ!?」

DQN「なに考えてんだァ!? ブッ殺すぞォ!」ドンッ

弟子(今なら大勢人がいる──やってみよう!)

弟子「ぐあああっ……! あぐぅ……い、いだいよぉ!」ゴロゴロ…

DQN「な!?」

ザワザワ……

「なになに?」 「ものすごい痛がってるよ!」 「ありゃヤバイよ!」

不良「な……!?」

不良「オメー、なにやったんだよ?」

DQN「いや、ちょっと小突いただけだって……」オロオロ…

ピアス「まさかDQNの暗黒波動の力が強すぎて……」

弟子「ぐぅぅぅ……っ!」

「うっわぁ……」 「やりすぎよねえ」 「大丈夫か、アイツ」

不良「……行こうぜ!」スタスタ

DQN「お、おう!」スタスタ

ピアス「俺も! 戦略的撤退だ!」スタスタ

弟子(ホントだ……助かった……)

弟子(でも、やりすぎると救急車呼ばれるかもしれないし、この辺にしとこう)スクッ

放課後──

~ 校門 ~

不良「あのヤロウ、ふざけやがって……! 演技だったとはな!」

DQN「こうなりゃ、校門で捕まえてリンチしてやろうぜェ!」

ピアス「俺たち三人で、ジェットストリームアタックだ!」



弟子「あ、こんにちは、師匠!」

師匠「…………」ムスッ

弟子(なんで、こんな不機嫌そうな顔をしてるんだ?)

師匠「もらった金の分は働く……」ムス…



不良「なんだアイツ!? もしかしてボディガード雇ったのか!?」

DQN「ヤバそうなツラしてるし、腕とかかなり太いぜ。ありゃヤベェよォ……」

不良「当分、アイツには手を出さない方がいいかもな……」チッ

ピアス「数ターンは待機してた方がよさそうだな」

~ 神社 ~

弟子「師匠が校門で待っていたのは、どういう意味があったんです?」

師匠「俺はあの三人に聞こえるよう、わざとお前に雇われたとほのめかした」

師匠「アイツらの目には、格闘技やってる俺はかなり強く見えただろう」

師匠「ヤンキーってのは、明らかに自分より強い奴とはケンカしないもんなんだ」

師匠「これで当分、奴らはお前に手を出してこないはず」

師匠「時間が経てばまたイジメを再開するかもしれないが──」

師匠「少なくともお前が強くなるための時間くらいは稼げるだろ」

弟子「なるほど……さすが師匠!」

師匠(昔からこういうセコ技開発は得意だったからな……)

師匠「よし、今日から本格的な修業に入る!」

師匠「サッカー拳に続いて、俺がお前に教えるのは──」

師匠「敵の足の小指に正確に蹴りを当てる拳法だ!」

弟子「敵の足の小指に正確に蹴りを当てる拳法!?」

師匠「うむ」

師匠「ぶっちゃけ今の時代、相手に重傷を負わせるような拳法は無意味だ」

師匠「敵を倒せても、自分が逮捕されたら意味がねえ」

師匠「そこで、俺が考えたのがこの拳法だ」

師匠「最少の動きで、最大の痛みを与えることができる!」

師匠「タンスの角に小指をぶつけた時の、あの痛みをな!」

師匠「蹴りの角度と力の調節を極めれば、靴の上からだって効果大だ」

弟子「おお~!」

師匠「ちなみにあの時、俺がチンピラたちを倒した技もこれだ」

弟子(そうか……あの時の蹴りは彼らの小指を狙ったものだったのか)

弟子「それで師匠……この技の名前は?」

師匠「え、えぇ~と……タ、タンス脚だ!」

弟子「なるほど!」

師匠「よし、じゃあさっそく柔軟体操から始めるぞ」

弟子「えっ、蹴りじゃないんですか?」

師匠「いきなり形から入ったって、技なんか身につくものじゃない」

師匠「しっかり準備して、体づくりをして、技を身につけるんだ」

弟子「は、はいっ! 分かりました!」

師匠「うむ!」

師匠(10万も払ったくせに、えらく素直だな……)

師匠(最初は適当にあしらってやろう、とか思ってたけど……気が変わった)

師匠(よぉ~し、本格的に鍛え上げてやっか!)

師匠「体かてえな、これじゃいい蹴りは出せないぞ」ググッ…

弟子「はいっ! いだだだだっ……!」



師匠「この空き缶に乗った米粒を、米粒だけ蹴れるようになれ!」

弟子「はいっ!」



カコーンッ!

師匠「ダメだ、ダメだ! やり直し!」

弟子「はいっ!」



師匠「もちろん、サッカー拳の鍛錬も続けるぞ! 痛いフリだ!」

弟子「ぐわあああっ! いだだだだっ……!」ゴロゴロ…

師匠「だいぶよくなってきたな! これならイエローカードも夢じゃない!」

師匠「腕立つ伏せだ! ほれ、ちゃんと顎をくっつけろ!」

弟子「うぐぐ……!」グッグッ…



シュパッ!

弟子「やった! 米粒だけを蹴ることができるようになりました!」

師匠「じゃあレベルを上げて次はゴマ粒だな」

弟子「は……はいっ!」



弟子「ぐううっ……! あぐぅぅぅっ……!」ゴロゴロ…

師匠「すごくよくなってきたぞ! こりゃレッドカードものの名演技だ!」

弟子「ありがとうございます!」

師匠「基礎練のおかげもあって、体つきもだいぶガッシリしてきたな!」

弟子「そうですね、体はほっそりしたのに体重が少し増えました」

師匠「そんだけ筋肉がついてきたってことだ!」



師匠「いよいよ実戦だ!」

師匠「動き回る俺の、足の小指を狙うんだ!」バババッ

弟子「はいっ!」



弟子「あ、当たらない……」ハァハァ…

師匠「フッ……まだまだこんなもんじゃ免許皆伝はやれねえな」



弟子「ぐあぅ……っ! うぐおぁぁぁっ!」

師匠「やるな! 思わずスマホで救急車を呼びそうになっちまったぜ」

師匠「お前、やられ役の俳優とか向いてるんじゃねえか?」

弟子「ありがとうございます、師匠!」

三ヶ月後──

バシッ! ガッ! ビシッ!

弟子「はあっ!」シュッ

ピッ……!

師匠「ぐあっ……!」ズキッ…

師匠「いででっ……みごとだ!」

弟子「やったぁ!」

師匠(俺が本気で動いたわけじゃないとはいえ、今のはジャストミートだった)

師匠(足の小指は傷つけることなく)

師匠(最大の痛みだけを与えるギリギリの打撃だった……)

師匠(セコ技とはいえ、たった数ヶ月でここまでやるようになるとはな……)

師匠「よくやった! 合格だ!」

師匠「サッカー拳とタンス脚、この二つさえ覚えていれば」

師匠「人を傷つけることなく、世の中をうまく渡っていけるはずだ!」

師匠「もちろん、お前をいじめてた奴らなんかには絶対負けはしねえ!」

弟子「はいっ!」

師匠「ただし、くれぐれも悪用はするなよ!」

師匠「ケンカなんか、しないにこしたことないんだからな」

弟子「分かっています。ありがとうございます、師匠!」

………

……

数日後──

~ 町 ~

弟子(──あ、あれは!)



不良「ちょっと付き合ってくれよ……。な、いいだろ!?」

女「はなして!」

DQN「あぁ!? なんだその口のきき方はよ!」

ピアス「ざっけんなよ! 異次元空間に送っちまうぞ!?」



弟子(あの三人……もうぼくのことなんかどうでもよくなったのか)

弟子(すっかりぼくをいじめなくなったけど──)

弟子(相変わらず、他校の人相手にあんなことしてたのか……!)

弟子(怖いけど……放ってもおけないよな)ゴクッ…

弟子「や、やめろ!」

不良「あぁ!?」

不良「どこの命知らずのバカかと思ったら、お前かよ」

不良「そういや最近はシカトしてたがよ、なんの用だ?」

弟子「その人を……はなせ!」

不良「はぁ!?」

不良「なにほざいてやがんだ、ザコのくせによ!」

DQN「てめぇ、俺らが手ぇ出さなかったの、なんか勘違いしてねえかァ!?」

ピアス「俺らとエンカウントしちまったら、いくら逃げても回り込まれちまうぜ!?」

弟子「なるべくケンカはしたくないけど、もう昔のぼくじゃないぞ!」

弟子「……来い!」

不良「なにが来い、だ……ぶっ殺す!」

不良「死ねやぁ!」ブンッ

弟子「はあっ!」シュッ

不良「!?」ズキッ…

不良「うぎゃあああああっ!」ドサッ

ピアス「どうしたんだ!? ……状態異常攻撃か!?」

DQN「なんか踏んづけちまったんだろォ! かまうな、やっちまえェ!」

弟子「とうっ! でやっ!」シュシュッ

DQN&ピアス「!?」ズキッ…

DQN「ぐぎゃああああっ!?」ゴロゴロ…

ピアス「足っ! 足ィ……ッ! 早く宿屋に……ッ!」ゴロゴロ…

弟子(や、やった……“タンス脚”大成功だ!)

弟子「今だ、逃げよう!」グイッ

女「ありがとう!」ダッ

~ 商店街 ~

弟子「ふぅ……ここまで逃げれば大丈夫だと思う」

女「う、うん……」

弟子(あの三人も、あの感触ならもう回復してるはずだ)

女「あ、あの……ありがとう……」

弟子「いっ、いや……黙って見てるわけにもいかなかったし、さ……」

女「…………」

弟子「…………」

女「ちょっと……お茶でもしない?」

弟子「う、うん……いいよ……」

………

……

~ 神社 ~

師匠「やったな!」

師匠「不良どもを撃退できて、しかも彼女までできるとは」

師匠「雑誌とかに載ってる幸運グッズの体験談みたいじゃねえか」

弟子「か、彼女じゃありませんよ……友だちです!」

弟子「それに、これは幸運じゃなく、師匠のおかげですよ!」

弟子「あの三人を傷つけずに倒すことができ、友だちまでできたんですから!」

師匠(くそっ、羨ましいな……)

師匠(だが、あの不良どもも一度衝突した以上、このままで済ますとも考えにくい)

師匠(なにもなければいいんだが……)

~ 町 ~

不良「クソがっ!」

不良「あのヤロウ……このままじゃ済まさねえぞ! 絶対ぶっ殺してやる!」

DQN「でも、どうするよ」

DQN「急に足の小指が痛くなるなんて技、どうしようもねえだろォ!」

ピアス「そうだぜ、まるで魔法だぜ! 上級魔法だぜ!」

不良「こうなったら……白髪さんに頼むか」

DQN「白髪さんに!? さすがにやりすぎじゃねえかァ!?」

ピアス「あの人は制御のきかない封印されし魔神みたいなモンだぞ!」

不良「かまうもんか……こうなったら手段は選んでいられねえ!」

~ クラブ ~

白髪「ふざけてるのかね?」

ドゴォッ!

不良「ぐはぁ! ……あ、あぐっ!」ドサッ

DQN「大丈夫か!?」

ピアス「不良は800のダメージを受けた!」

白髪「オレにいじめられっ子をシメろって……ふざけてるのかね? ん?」

不良「す、すんません! でも本当に強いんですよ!」ゲホッ…

不良「俺たち三人がかりで、あっという間に倒されちまったんです!」

白髪「ふぅ~ん」

白髪「近頃は警察にマークされて、ろくにケンカもしてなかったしねぇ」

白髪「いいだろう……引き受けてあげよう」ニコッ

不良「あ……ありがとうございます!」

数日後──

~ 町 ~

女「でさぁ~」

弟子「へぇ~、そうなんだ」

ザッ……

白髪「やぁ」

弟子「はい?」

弟子(な、なんだ突然!? だれだこの人!?)

白髪「君、強いんだってねえ……オレと遊んでくんない?」

弟子(どう見ても文字通りの意味じゃないよな……ケンカしてくれってことか?)

弟子(だけど……師匠のいいつけどおり、ケンカはなるべく避けなきゃ!)

白髪「シカトされるのは嫌いだよ」グイッ

弟子「うっ……うぐぁぁぁぁぁっ! 痛いぃ……!」ヨロヨロ…

白髪「へ……?」

弟子(今だ!)

弟子「逃げよう! 早く!」タタタッ

女「う、うん!」タタタッ

白髪「あ……しまった!」ガーン

白髪「…………」

白髪「ふ~ん、そういうタイプの人間かい」

白髪「無益な争いはああやって避ける、と」

白髪「ハハ、かっこいいじゃないか」

白髪「…………」ブチッ

白髪「イ、ラ、つ、く! オレが一番嫌いなタイプの人間だァ!」

白髪「ぜってェ~この手でグチャミソにしてやらァ!!!」

弟子(逃げ切れたみたいだ……)

弟子「女さん、大丈夫?」

女「私は平気! でもすごい演技力だったね、ビックリしちゃった!」

弟子「これも修業のたまものだよ。痛いフリしてやりすごせってね」

女「アハハッ、弟子君って面白い!」

弟子「ハハ……」

弟子(でもさっきの白髪の人……とても危険な目をしていた)

弟子(あれで諦めてくれればいいけど──)

そして──

~ 女の学校 ~

女(あの痛がるフリは本当に驚いちゃった! すごい演技力だったな)

女(普段の頼りないところも、たまにたくましいところもいいけど)

女(こないだみたいな演技派な彼もよかったな……)ポッ…

ザッ……

DQN「よォ、久しぶりだな。ずいぶん探しちまったぜェ……」

DQN「制服覚えててよかったぜ。おかげで学校が分かったからな」

女「ア、アンタたちは!?」

ピアス「血も涙もない狩人(ウルフ)とは、俺たちのことよ!」

女「なんの用よ!?」

DQN「決まってんだろォ!? ついてこいやァ!」ガシッ

ピアス「お前は姫だ。姫はさらわれる運命(ディスティニー)にある!」

~ 学校 ~

不良「オイ、話がある」

弟子「!」ビクッ

弟子「話って?」

不良「ついさっきDQNたちから連絡があってな……お前の女は俺たちがさらった」

弟子「!? ──どういうことだ!」

不良「安心しろよ、まだ手ェ出しちゃいねえから」

不良「だが、俺に大人しくついてこなけりゃ、女はどうなるか分からない」

不良「なにしろ、白髪さんはイカれてるから──」

弟子「今すぐぼくをつれてけ!!」ガシッ

不良「ぐ!?」

弟子「早くしろッ!」ギュウ…

不良(コイツ……すげえ力だ! 妙な技だけじゃねえ、ちゃんと鍛えてやがる!)

不良「わ、分かったよ……! つれてくよ……!」ゲホゲホッ

~ 廃工場 ~

不良「白髪さん、連れてきました!」

白髪「ん、ご苦労」ニコニコ

弟子「やっぱり黒幕はあなたか……女さんはどこだ!?」

白髪「あっち」

DQN「ここだ!」グイッ

女「ご、ごめんなさい……!」

弟子「彼女を放せ!」

白髪「いいよ、放してやるよ。ただし……オレに勝てたら、ね」ニコッ

弟子「…………!」

弟子(そうか……ぼくと戦うために、こんなことをしたのか!)

弟子(師匠、すみません……。ぼくは女さんを守るため、ケンカをします!)

弟子「いいだろう……勝負だ!」ザッ

ピアス「戦闘開始(バトルスタート)!」パチンッ

白髪「いっくよ~……オラァァッ!」シュッ

バキィッ!

白髪「オラァッ! ラァッ!」ビュババッ

ドゴォッ! ガスッ!

弟子「ぐあぁっ……!」

弟子(なんてパワーとスピードだ! あの三人とはケタちがいだ!)

弟子(でも、ぼくにはこの技がある!)

弟子(この技なら、相手がどんなに強くても通用する!)

弟子(足の小指を正確に蹴る──タンス脚!)

シュバァッ!

ガキンッ!

弟子「つっ……!?」

白髪(今コイツ、オレの足の小指を狙った……?)

白髪(なるほど、そういうことかい)ニヤッ

白髪「残念だったねえ」

白髪「オレはガキの頃から、泣くってことを知らなくてね」

白髪「注射でも、ハチに刺されても、フランダースの犬を見ても泣かなかった」

白髪「海外から輸入した整髪剤の副作用で、髪が真っ白になっても泣かなかった」

白髪「そんなオレが唯一泣いたのが、タンスの角に小指をぶつけた時さ!」

白髪「以来、オレは二度と泣かないよう、足の小指に鉄キャップをはめて」

白髪「ガードしてるのさ」スッ

弟子(なっ……これじゃタンス脚は効かない!)

不良「さ……さっすが白髪さん!」

DQN「俺たちにゃ思いつかないことをやりやがるゥ!」

ピアス「そこにシビれるし、憧れるが、憧れは理解からもっとも遠い感情だ!」

白髪「つまり──オレは君の天敵だってことだ!」ダッ

バキィッ! ガッ! ドズッ!

弟子「ぐあっ……!」

白髪「へぇ、けっこう鍛えてあるな」

白髪「だけど、君にはオレにダメージを与える手段がない!」シュッ

ドゴォッ!

弟子「ぐふっ……!」ドサッ

女「弟子君! しっかりして! 私のことはいいから、逃げて!」

弟子「大丈夫……まだまだこれからだよ」ゴシゴシ…

白髪「かっこいいなぁ……かっこよすぎるよ」ニコッ

白髪「女の前だからって強がってんじゃねぇよォ!!!」ブオンッ

ドゴォッ!

白髪「どうせまだヤッてもいねんだろが! 童貞のまま死ねやァ!!!」

不良(白髪さんがキレちまった! 相変わらずキレるタイミングがわかんねぇ!)

弟子「つああっ!」シュッ

ガキンッ!

白髪「無駄だ! 完全にプロテクトされたこの小指に、蹴りなんざ通じねーよ!」シュッ

ドゴォッ!

白髪「ったくテメーみてえな、クソガキはマジうっとうしいんだよォ!」ブンッ

バキィッ!

白髪「ククク……ここまでだな、ガキ」

白髪「テメーにトドメ刺して、女ヤッて、ついでにあの三人もボコって終いだ」

不良&DQN&ピアス「え!?」

白髪「じゃあな!」ダッ

弟子「ぐっ……!」



「オイ弟子、なにやってやがる!!!」

弟子(この声は……!)

白髪「だ、だれだ!?」キョロキョロ

「いいか……タンス脚はそんなヤワな技じゃねえ!」

弟子「で、でも……」

「試しに、敵の脇腹のアバラ骨あたりを狙って蹴ってみろ!」

弟子「え……」

「いいから、やれ!」

弟子「はい!」

白髪(バカが、んなこといわれたらちゃんとガードするに──)サッ

弟子「はあっ!」シュッ

ズンッ……!

白髪「がっ!?」

白髪(オレのガードの隙間を通るように、蹴りを入れてきやがった!)

「次、右足のくるぶし!」

弟子「はいっ!」シュッ

ガッ!

白髪「ギャッ!?」

「次、ヒジのビリッとなるところ!」

弟子「はいっ!」シュッ

バシィッ!

白髪「あがっ!?」ビリッ

女(す、すごい! いわれたところを寸分の狂いもなく正確に蹴ってる!)

不良(蹴りってあんな正確に当てられるもんなのか……? まるで機械じゃねえか!)

「そろそろお前も気づいただろう……」

「タンス脚は足の小指を狙って蹴る拳法じゃなく──」

「足の小指を狙えるくらい正確な蹴りを繰り出せるようになる拳法だってな!」

弟子「はいっ!」

「さあ、もうアドバイスはいらねえだろ! やってやれ!」

弟子「はいっ!」ダッ

白髪「くぅ……クソがッ!」ダッ

ガスッ! ビシィッ! ドシュッ!

不良「体の弱いとこ痛いとこを的確に狙ってやがる……!」

DQN「あんなもん、どうしようもねえじゃねえかァ!」

ピアス「全ての攻撃が会心の一撃なようなものだ! やはり天才か……」

女(弟子君……すごい!)

ズドッ……!

白髪「げぼぉっ……!」

不良「ミゾオチにモロだ!」

白髪「げほっ、げほっ……」

白髪(くっ、くそぉ~……どうガードしても“効く”ところを蹴られちまう!)

白髪(次は……次はどこだ!? どこを狙ってくる!?)

白髪(頭? 首? 胴体? 腰? 下半身? どこを蹴られてもいてえ!)

弟子「次は──」

弟子「ここだっ!」シュバッ

白髪(うわぁっ! やめてくれぇ~っ!!!)

ピタッ……!



女「当たる寸前で、蹴りを止めた……?」

弟子「師匠に習ったもう一つの拳法“サッカー拳”で痛いフリをするうち」

弟子「ぼくは他人の痛みというものを学びました」

弟子「あなたの痛がりようが、演技ではなく本気だということがよく分かる」

弟子「だからこれ以上、ぼくはあなたを攻撃しませんし、できません」

白髪「あうぅ……!」ガクッ

白髪「オレの負けだ……許してくれえ……」グスッ…



不良「あの、あくびしても涙を流さねえ白髪さんが涙を……」ガクッ

DQN「俺たちなんかが敵う相手じゃなかったんだァ……」ガクッ

ピアス「エンディング……開始(スタート)!」パチンッ

女「弟子君!」ガバッ

弟子「うわぁっ!?」

女「本当にかっこよかったよ、ありがとう!」ギュッ…

弟子「いや、そんな……」

パチパチパチパチ……

師匠「みごとだった。文句なし、だ」パチパチ…

弟子「師匠! 師匠のおかげでぼく、こんなに強くなれました!」

師匠「いや……礼をいうのはこっちの方だ」

師匠「まさか、お前がここまで強く勇気のある奴になるとは思わなかった」

師匠「今日一番お前を褒めてやりたいのは、正確な蹴りじゃなく」

師匠「最後に相手の痛みを思いやって寸止めしたことだ」

師匠「サッカー拳とタンス脚を、みごとに使いこなした勝利だった」

弟子「師匠……」

師匠「おかげで、俺もお前に勇気をもらった」

弟子「勇気を?」

師匠「俺は元々ある道場の跡取りでな──」

師匠「厳格な親父や殺人術みたいな技、道場の古臭いしきたりにムカついて」

師匠「自分でサッカー拳やタンス脚みたいなセコ技を開発して反発したり」

師匠「家も飛び出しちまってたんだが……やっと親父と向き合う覚悟ができたよ」

師匠「俺は道場に戻る。そして親父としっかりケリつけるつもりだ」

弟子「師匠……どうか頑張って下さい」

師匠「あと、これは俺からの餞別だ」スッ

弟子(封筒……?)

師匠「じゃあ、達者でな」ザッ

弟子(封筒の中は──10万円! これはぼくが師匠に渡したお金……!)

弟子(あ、あと手紙が入ってる!)



 弟子へ

 師匠としてのアドバイスだ、これでちょっと豪華なデートでも楽しめ!

 師匠より



弟子(ハハ……師匠らしいや)

女「どしたの? さっきの人はなんだったの?」

弟子「あの人は、ぼくの大切な師匠だよ」

弟子「そうだ、せっかくだしこのままデートでもしない?」

女「え、でもケガは大丈夫?」

弟子「大丈夫! サッカー拳で多少大げさに痛がってた部分もあるしね!」

その後──

~ 道場 ~

弟子「お久しぶりです、師匠」

師匠「おお、弟子! よくこの道場の場所が分かったな!」

弟子「ネットで色んな道場を調べてたらすぐ分かりましたよ」

弟子「道場を飛び出していた、才気あふれる放蕩息子が」

弟子「死闘の末、父親を倒し、正式に跡を継いだ道場があると……」

師匠「……勝ちを譲ってもらったような部分もあるがな。俺もまだまだだ」

師匠「ところでお前こそ、あの女の子とはどうなんだ?」

弟子「おかげさまで、ずいぶん進展しました……」ポッ…

師匠「のろけてんじゃねーよ!」バシッ

弟子「うぐあぁぁぁっ……!」ガクッ

師匠「ゲ、大丈夫か!?」

弟子「サッカー拳ですよ」ニヤッ

師匠(コイツめ……)

師匠「……で、なんの用だ?」

弟子「決まってるでしょう。正式に、師匠の弟子になりにきたんですよ!」

弟子「どうか、弟子にして下さい!」

師匠「いいだろう……」

師匠「いっとくが、この道場じゃサッカー拳やタンス脚なんか通用しねえからな!」

師匠「本格的な拳法を教えてやる……ビシビシいくぞ!」

弟子「はいっ!」





                                   < 完 >

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