P「美希がうざいから突き放すことにした」(204)
春香「おはようございます、プロデューサーさん!」
P「おはよう春香。今日もいい笑顔だな」
春香「もちろんです! 元気なのが取り柄ですから!」
千早「プロデューサー、おはようございます」
P「千早もおはよう。今日はお前の好きなボーカルレッスンだったな」
千早「はい。ご指導よろしくお願いします」
美希「ハニー、おはよーなの!」
P「うん」
美希「………………」
美希「ねえハニー」
P「なんだ」
美希「ミキ、今日のお仕事何だったか忘れちゃったの。教えてほしいなー」
P「ホワイトボードを見ろ」
美希「………………」
美希(いつもなら『しょうがない奴だな』って言いながら教えてくれるのに……)
P「おい、何してる」
美希「え?」
P「予定を確認したら準備しろ。ぼーっと突っ立ってる暇あるのか?」
美希「…………はい、なの」
美希「……ハニー、なんだか冷たいの」
春香「え、そう?」
千早「さっき挨拶した時はいつも通りに見えたけれど」
美希「じゃあ……ミキにだけ、冷たいの……?」
春香「だ、大丈夫だよ! たぶん、たまたまムシの居所が悪かっただけだって!」
千早「そうかもしれないわね。いくらプロデューサーが優しいとはいえ、機嫌の悪い時くらいあるでしょうし」
美希「そうかなあ……」
美希「ハニー」
P「今度はなんだ」
美希「ホワイトボード見たら、ミキ、今日はミュージックショップの売り子のお仕事が入ってたの」
P「そうだな。なんで前日に確認しておかない?」
美希「……ごめんなさい」
P「じゃあさっさと行ってこい。先方が全部準備してくれてるから」
美希「で、でもね。ミキってたまに空気読めなくて、お客さんに危ないコト言っちゃうみたいだから……」
美希「ハニーに、一緒に来てアドバイスしてほしいの」
P「断る」
美希「……えっ」
P「ランクBにもなって何言ってる。後輩や下位ランクのアイドル達に恥ずかしいと思わないのか」
美希「………………」
美希「……ひどいよ……」
P「あ?」
美希「ひどいよ、ハニー……ミキだって、ミキなりに考えて、ハニーが必要だって思ったから……」
P「必要ない。いつまでそうやって俺を頼るつもりだ」
美希「………………」
P「確かにお前が下位ランクの頃は面倒見てやったけど、今はもう違うだろ」
P「春香や千早を見ろ。Cランクだけど、簡単な営業くらいなら一人でこなしてる」
P「響ややよいはまだDランクだ。昔のお前と同じように、俺が付きっきりで見る必要がある」
P「一人でできる仕事に俺を連れていくってことは、それだけ響達の成長を妨げることになる。それでもいいんだな?」
美希「……い、いいわけないもん! ない、けど……」
P「分かったらさっさと行け」
美希「…………はい」
ガチャ....バタン
P「……やっと行ったか」
春香「プロデューサーさんっ!」
P「な、なんだ。急に大声出すなよ」
春香「さっきの、こっそり聞いてたんですけど……あんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」
P「だってあいつ、うざいから」
春香「…………え」
P「いつもハニーハニーって欝陶しいんだよ。売れ始めてから何でも自分の思い通りになって、ちょっと調子に乗ってるな」
春香「……え、えっ?」
P「俺はお前の彼氏でも何でもないっての。仕事に対するモチベーションも大概低いし、うざいことこの上ない」
春香「そんな……み、美希のこと、嫌いだったんですか?」
P「Bランクに上がったあたりから嫌いになったけど、きっかけはアレだな」
春香「……アレ、って」
P「『ハニー』って呼び始めてからしばらくして、突然美希に映画の話が来たんだが」
春香「あっ、それ覚えてます。なぜか無くなったって聞きましたけど……」
P「ああ。だって先方のお偉方との打ち合わせ中に『ハニーがいるからなんとかなるの』って腕組んできたからな」
春香「ええ!? ま、まさか……」
P「察しはつくだろうけど、恋人持ちの若手アイドルなんか出せるかって、その話は無かったことになった」
春香「……それは、確かに美希が悪いと思いますけど……」
P「アイドルとしての自覚が無さすぎなんだよ。『プロデューサー』って呼んでた頃は良かったんだけどな」
P「そういう訳で俺は美希が嫌いだ。さっきもあれだけ言ったけど……それで態度が変わらないようなら別の対策をする」
春香「た、対策……?」
P「否が応でも俺にくっついてこないようにする対策」
春香「そ、そんな! プロデューサーさん、美希の気持ち知っててそんなこと……」
P「じゃあ春香は俺に、嫌いな人間と四六時中イチャイチャしてろって言うのか。拷問だな」
春香「うう……プロデューサーさん、取り付く島もない……」
P「悪いな。でも美希が態度を改めるようなら、俺だってこれ以上どうこうするつもりはないよ」
春香「…………美希、大丈夫かなあ」
【P.M.6:00 765プロ事務所】
ガチャッ
美希「……ただいまなの」
真「おかえり美希」
美希「あっ、真くん……今日お休みじゃなかったの?」
真「うん、今日は買い物に行ってた。それで、ついでに差し入れ持ってきたんだ。美希の好きなババロアも買ってきたよ」
美希「ありがと……でも、いらない」
真「え……!?」
美希「食べる気、しないの……」
真「み、美希? どうしちゃったんだよ、興味も示さないなんて。何かあったの?」
美希「お仕事、失敗しちゃったから……」
美希「……それで、ハニーにそんな風に言われちゃったから。ミキ、全然お仕事する気になれなかったの」
真「そういうことか。それはつらいなあ……でもそれでへこたれてちゃ美希らしくないよ」
美希「……ミキらしく、ない?」
真「プロデューサーに、面と向かって嫌いって言われたわけじゃないんだよね?」
美希「う、うん……」
真「じゃあ、今度から自分一人でも仕事できるように頑張ります、って伝えるだけでもイメージ変わると思うよ」
美希「そうかな……そしたらハニー、またミキとおしゃべりしてくれるかな……」
真「もちろんだよ。そこで怯えてちゃダメだって。思い立ったら一直線なのが美希のいいところ……美希らしさじゃないか」
美希「……わかった! ちょっとハニーと話してくるの! ありがとね、真くん!」
真「健闘を祈るよー」
美希「ハニー、ただいま」
P「うん」
美希「……ごめんなさいなの。お仕事、失敗しちゃった……全然集中できなくて」
P「そうか」
美希「ハニー……怒らないの?」
P「俺が付き添って成功するよりは、お前一人で失敗した方がいい経験になる」
P「売り子を一人でやらせたのは初めてだからな。今回は色々勉強できただろ」
美希「う、うん。お店の人に挨拶したり、何度もCD並べたり大変だったの!」
P「それでいい。これでもう俺にべったりとは」
美希「だからハニー! ミキ、がんばったから……ハニーからご褒美が欲しいって思うな」
ギュッ
美希「えへへ……ハニーに抱きついちゃったの!」
P「……おい」
P「離れろ」
美希「ヤなの~」
P「離れろって言ってるだろうが!!」
美希「ひっ……ご、ごめんなさいなの。でも、そんなに怒らなくても……」
P「お前、やっぱり分かってないな。俺がなんで『俺を頼るな』って言ったか」
美希「…………え」
P「あの映画の話が来た時も注意したよな。アイドルにあるまじき行為はするなって」
美希「え、映画って…………あっ!」
P「お前がいまだにベタベタくっついてくるところを見ると、あの時から何も変わってないってことだな」
P「今回の仕事の話にしても、俺に依存する癖を治していれば起こらなかったことだ。違うか?」
美希「……ご、ごめ」
P「お前のごめんなさいには誠意がない。もう聞き飽きたよ」
P「決めてたんだ。お前が何も成長していないようなら、とことん突き放すって」
美希「えっ……!?」
P「明日から、俺はもうお前の面倒は一切見ない。後は律子に任せることにする」
美希「……じょ……冗談だよ、ね……?」
P「この雰囲気で俺が冗談を言うか、さすがのお前でも空気は読めるだろ?」
美希「そ……そんなのイヤなの! ミキ、ずっとハニーと一緒がいいの!」
P「その『ハニー』もやめろ。俺は『プロデューサー』だ。次にそう呼んだら二度と口もきかない」
美希「や、やめて……! そんなこと言わないでなの!」
P「俺も、お前は『星井さん』って呼ぶ。もう必要以上のコミュニケーションをとる必要もないからな」
美希「っ!?」
美希「……っく……」
P「どうした」
美希「ひっく……えぐっ……」
P「泣いたらなんとかなると思ってるのか?」
美希「ぐずっ……ひっ、ひどいの……あんまりなの……」
P「お前の行動が招いた結果だ。何回注意しても同じことするしな」
美希「し、しないから……ミキ、もうくっついたりしないから……!」
P「口では何とでも言える。それはこれからのお前の態度で示していくことだ」
美希「うっ……うわぁぁぁぁぁぁん!!」
真「なっ、なに!? どうしたの!?」
P「……真か」
真「な、何落ち着いてるんですかプロデューサー! 美希、泣いてますよ!?」
P「俺が泣かせたからな」
真「!?」
P「……というわけだ」
真「というわけ、じゃないです! そんなこと言われたら美希じゃなくても泣いちゃいますよ!」
P「本人の態度に改善の余地が無かったからな」
真「……プロデューサー。確かに、プロデューサーの意見は正しいと思います。僕たちは、アイドルですから」
真「でもだからって、アイドルのメンタルを無視したこんなやり方が良かったとは思えません」
P「真ならどうするんだ?」
真「もうやらない、って言ってるんだからそれでいいじゃないですか!」
P「そうやって甘やかしてきた結果、何も変わらなかった」
真「それは……そうなのかもしれませんけど。でもこのままだと美希、辞めちゃうかもしれませんよ」
P「アイドルとしての自覚をどうしても持てないなら、それもやむなしだな」
真「………………」
風呂入ってくる
【3日後 765プロ事務所】
律子「あの……プロデューサー」
P「ん? なんだ律子」
律子「美希、今日で3日連続休みなんですけど」
P「あいつの世話役は律子に引き継いだはずだろ。なんで俺に言うんだ」
律子「その引き継いだ日から来なくなってるから聞いてるんです!」
P「そうなのか……なんでだろうな」
律子「理由は明らかじゃないですか……真から話は聞いてます。美希、泣いてたって」
P「……なんだよ、俺が一方的に悪いみたいに言ってさ。俺に何かさせようってことか?」
律子「ご名答です」
夕方―――
P「……で、俺があいつの家に行くことになってしまった。面倒なことだ」
P「律子が休みの理由を電話で聞いたところ『気分が悪い』としか言わなかったらしい」
P「でも学校には毎日ちゃんと行ってるらしいから、たぶん俺に会いたくないだけなんだろう」
P「まったく、休むとどれだけスケジュールにズレが出るか分かってるのか? だからそういうところを……」
P「…………ん?」
美希「………………」
P「ちょうどいい、行く手間が省けた。しかし池の上の橋で、何やってんだあいつ。物思いにでも耽ってるのか?」
P「まさか俺に突き放されたショックで自殺とか……いや、ないな。俺がそこまで好かれていたとは思えない」
美希「………………」
P「おい、美……星井さん」
美希「え!? ハニ……プ、プロデューサー!」
P「こんなところで何してる。仕事はどうした」
美希「……考え事、なの」
P「考え事?」
美希「……プロデューサー。ミキ、もうお仕事したくないの」
P「仕事したくないって……なんでだ」
美希「プロデューサーと一緒にお仕事できないなら、もうやってても楽しくないんだもん……」
P「楽しくなくても仕事してる人間は、世の中に山ほどいるぞ」
美希「ミキは楽しくお仕事したいの!」
P「誰だってそうだよ。お前の場合は『楽しい』ってより『楽したい』って方が大きそうだけど」
美希「そんなことないもん。前は……先生みたいにぷかぷかーって楽して、トップアイドルになりたいって思ってたけど」
美希「先生もホントは頑張ってるんだって教えてもらったから、それからお仕事も真剣にするようになったの」
P「先生……ああ、カモの先生か。ってことはそれ言ったの、もしかして……」
美希「プロデューサーなの!」
P「やっぱりか……うろ覚えだけど言ったような気がする」
美希「もう、忘れちゃうなんて酷いの……ねえ、プロデューサー。ミキ、お願いしてもいい?」
P「なんだ。一応、聞くだけ聞いておく」
美希「ミキ、律子……さんのところでがんばるから。もしトップアイドルになったら、また『美希』って呼んでくれる?」
P「……それくらいならいいけど。その頃にはアイドルとはどうあるべきか、十分に分かってるだろうし」
美希「じゃあ、その後でミキがアイドルやめる日が来たら『ハニー』って呼びながら抱きついてもいい?」
P「取らぬ狸の……だな。仮にやるとしても、そういうのは人目の無いところでな」
美希「え……やっていいの!? やったのー!」
P「おい、勘違いするなよ。付き合うとは言ってないからな」
美希「いいの! どうせトップアイドルになる頃には、プロデューサーもミキの魅力にメロメロなの!」
P「ハァ……まったくしょうがないやつだな、美希は」
美希「………………」
P「ん、どうした?」
美希「……プロデューサー。今、言った……」
P「は? な、何をだよ」
美希「あはっ! 教えてあげないの!」
P「………………」
ごめん寝落ちした
三ヶ月後―――
律子「はぁ……」
P「おいおい、ずいぶんと大きな溜息だな。何かあったのか?」
律子「……最近、ちょっと上手くいってないんです。その点プロデューサー殿は凄いな、と改めて思ってたところで」
P「俺が凄いって……その眼鏡、曇ってるんじゃないのか」
律子「生憎ですけど毎日しっかり磨いてます。凄いっていうのは、美希のプロデュースの話です」
P「ああ……そういえば最近会ってないけど、どうなんだ。あいつの調子は」
律子「良かったり悪かったりです。まさか普段の生活だけじゃなくて、仕事にもあんなにムラがあるなんて」
P「おいおい……あいつ『律子さんのところでがんばる』って言ってたんだけど」
律子「ええ、美希自身のモチベーションは高いと思います。ただコンディションのブレが激しいというか」
P「コンディションか……こればっかりは人間の体質に左右されるところもあるな」
律子「ええ。それで美希の仕事が上手くいかないこともあって……」
P「だから溜息ついてたのか」
律子「はい……プロデューサーの下にいた頃はどうだったんですか?」
P「そうだなぁ。周りが見えてなかったりやる気が無かったりってことはあったけど、コンディションは悪くなかったな」
律子「それって多分、プロデューサーに甘えてたから、ですよね」
P「……さあ。そこまでは」
律子「絶対そうです。要は気の持ちようですから、きっとプロデューサーと一緒にいると調子が上がるんですよ、美希は」
P「………………」
律子「だとすると、私がプロデュースする限りは改善しないでしょうね。今はやる気だけが先走ってる状態」
P「なるほどな……分かってたことだけど、難儀な性格だ」
律子「ちょっと、美希に会っていただけませんか? このままだと何も解決しないと思いますし」
P「言われなくてもそのつもりだよ。今の話を聞いたらな……」
律子「えっ……い、意外です。嫌いだから無理、って言うと思ってましたけど」
P「俺も原因の一端ではあるみたいだし、しょうがない」
律子「とか言って……ホントは久しぶりに美希と話すのが楽しみなんじゃないですか、プロデューサー殿?」
P「違う……でも最近はちゃんと『アイドル』やってるみたいだから、どう変わってるかは見てみたい」
律子「あら。あらあらあらー?」
P「その顔をやめろ。音無さんみたいになってる」
律子「……ス、スミマセン。それだけは」
P「はぁ……しかし調子にムラがあるとなると、ランクAは当分先の話かもしれないな」
律子「あっ、言い忘れてましたけど……美希は今、ランクCです」
P「…………は?」
翌日―――
P「おはよう、星井さん」
美希「えっ?」
P「久しぶりだな」
美希「ハニっ……ぷ、プロデューサー!?」
P「お前、ずいぶん痩せたな。ちゃんと飯は食べてるのか?」
美希「え……あ、あんまり食べてないの。食欲出ないんだもん……」
P「体が資本のアイドルが何言ってるんだ。若いんだからしっかり食べないと駄目だろ」
美希「……プロデューサー、どうしたの?」
P「ん?」
美希「最近、ぜんぜんお話してくれなかったのに……もしかして、ミキのこと嫌いじゃなくなったの?」
P「お前に嫌いなんて言ったこと無いだろ?」
美希「でも、わかるもん。あの時……あんな言い方されたら」
P「ああ……ストップ。今日はそんな話をしに来たわけじゃないんだ」
美希「?」
P「俺がお前を避けてたのは事実だよ。お前が事務所にいる時間はなるべく外の仕事に出てるし」
美希「……それって、ミキがプロデューサーに会うとダメになっちゃうから?」
P「ああ。でもそうも言ってられなくなった」
美希「えっ……?」
P「お前、ランクCに落ちたらしいな」
美希「っ……う、うん……」
P「春香はトントン拍子でランクAに上がったし、千早もランクBになった。他のアイドルも順調に伸びてきてる」
美希「…………ごめんね、プロデューサー。ミキだけ……」
P「でも、これは仕方ない。お前は俺と一度離れないと、依存するだけで自分じゃ何もできないアイドルになってた」
美希「ダメドルってこと?」
P「そうだ。当時はなんとか上手くいってたけど、あのまま続けても一年もしないうちに人気は低迷してたと思う」
P「あと、スキンシップも酷かったからな……」
美希「……プロデューサーとイチャイチャしすぎて、週刊誌に載ったりしちゃうってこと?」
P「週刊誌までとは言わないけど。事実、それで映画の話は流れただろ。あの監督は二度とお前を起用しないだろう」
美希「う……」
P「でも、最近はその辺も注意できてるみたいじゃないか」
美希「そ、そうなの! 律子……さんには、もっと自覚しなさーいってよく怒られるけど……」
P「そうか。律子にプロデュースを任せたのは正解だったな」
美希「……でも」
P「?」
美希「お仕事、前みたいに楽しくないの。なんだか、やってもやっても空回りするカンジ……」
P「………………」
P「以前、『一緒に仕事できないから楽しくない』って言ってたけど……もしかして、俺がいないからか?」
美希「当たり前なの。他に理由なんかないの!」
P「……今でも、俺と一緒に仕事したいのか?」
美希「うん!」
P「でも、傍に俺がいるとまたくっついてくるだろ」
美希「もうそんなことしないの! ミキだけの問題じゃなくて、プロデューサーにも迷惑かけちゃうもん」
P「……成長したなぁ。でも仮に一緒に仕事をするとしても、前と同じとはいかない」
美希「分かってるもん。美希って呼んでくれなくても、ハニーって呼んじゃダメでも、ミキはプロデューサーと一緒がいいの!」
P「………………」
P(さて、どうしよう……こうやってしっかり改善してくれば、嫌いなところは無いんだよな)
P(律子の話も合わせると、もうアイドルとして十分に自覚はあるように見える)
P(それにこの才能を埋もれさせるのは余りにも惜しい。俺がいて、またランクが上がるならそれも問題ない)
P(……でも、有言不実行の前科が多すぎるからな。うっかり収録中にハニーとか言われた日には……)
P「……悪いけど、もうお前と一緒に仕事をする気はない」
美希「え……」
P「今は律子がプロデュースすることでいい流れを作れているわけだし、それを妨げるようなことは避けたい」
美希「……プロデューサー。やっぱりミキのこと……」
P「いや……今はもう嫌いでもない。むしろアイドルとして頑張ろうって姿勢に好感が持てるよ」
美希「ほ、ホント? じゃあ……トップアイドルになったら、約束は守ってほしいの!」
P「分かった分かった。ハグでもキスでも何でもしろ」
美希「……あはっ! だったらミキ、まだまだ頑張るの! 今の、取り消しナシだからね!」
1年後―――
春香「美希、辞めちゃうの!?」
美希「うん……ランクもEまで落ちちゃったし、もう人気が出る見込みもないだろうって社長が……」
千早「そんな……私たちは、常に一歩先を進んできたあなたを目指してここまで来たのに」
美希「ありがと、千早さん。でもミキ、もう疲れちゃったの……」
千早「………………」
律子「……ごめんなさい、美希。私ではあなたの力を引き出してあげられなかった……」
P「いや。俺があの時、美希のプロデューサーに戻っていれば……」
あれから、美希はそれまで以上に仕事に真剣に取り組んでいった。
しかしその分美希への負担は増えて、結果的に更にミスが増えるようになった。
俺も律子も頑張り過ぎだと忠告したが、そのやる気だけがひたすら空回りし続けていた。
あの時話していたように、俺がいない状態では結局仕事に楽しみなど見いだせない様だった。
そして……先月。
ついに美希は、ランクEまで落ちることとなったのである……
春香「辞めないでよ……もっと一緒に頑張ろうよ!」
美希「ダメだよ……だってミキ、ここにいても皆へ嫉妬するしかないもん」
春香「嫉妬……?」
美希「春香も千早さんもランクAだし、他のみんなもほとんどランクBだし。ミキ、もうアイドルやるの、つらいよ……」
春香「そ、そんな……」
千早「……辞めた後はどうするの? 16歳だから……普通に高校、大学に通って、就職?」
美希「ミキ的には、永久就職がいいって思うなー」チラッ
千早「……結婚するの?」チラッ
P「お前たち、なぜこっちを見る」
律子「他に誰がいるんですか?」
美希「ね、プロデューサー。ミキ、もうアイドルじゃなくなるの」
P「そうだな。今から何を言われるか想像はつくけど」
美希「それじゃ、もう『ハニー』って呼んでもいいよね?」
P「ほら来た。これだから……勝手にしろ、美希」
美希「あ……『美希』って呼んでくれたの! それじゃ、次はねー」
P「待て待て! 次に何をするかも予想できるけど、ここでやるな!」
美希「……あはっ! いいよ、ハニーのウチでする? もー、ハニーったらダイターン!」
P「たく、勘弁してくれ……」
春香「千早ちゃんどうしよう。二人のやり取りを見てるとすごくイライラするよ」
千早「奇遇ね春香、私もよ。何かしら、この感情は」
春香「壁殴りたくなっちゃった」ジー
千早「春香、何で私を見るの? 私の胸を」
美希「ハニー」
P「……今度はなんだよ」
美希「ミキ、アイドルとしては成功できなかったけど。アイドルやってたおかげでハニーに会えたの!」
美希「でも、そのミキを見捨てたせいでミキの人生台無しにしちゃったんだから……セキニン、とってね?」
P「おい待て。本当に結婚しろっていうのか」
美希「ミキ、ホンキだよ? だってハニー、言ったもん。『ハグでもキスでも何でもしろ』って」
律子「へぇ~。嫌いとか言ってたのは、実は好きの裏返しだったんですね」
P「いや違うから。あの時は本当に……」
美希「じゃあ今は? 今はミキのこと……キライ?」
P「……嫌いじゃない」
律子「ほらぁ。ご結婚おめでとうございます、プロデューサー殿」
P「もう好きにして……」
美希「うん、好きにするの! これからはずっと一緒だね、ハニー!」
P「そうですね。もうそれでいいです」
終わり。
美希「変わった毛虫拾ったのー!ほら」
雪歩「ひぃぃぃぃぃいやですぅぅぅ!!!」
真「なんでそんなもの持ってくるんだよ!!早く捨ててよ!!うわあああ」
http://i.imgur.com/QMSSa.gif
真「……美希そっくりだね」
美希「似てないと思うなー触ってみる?」
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