白垣根「10年目の彼女」 (149)



月日が過ぎ去るのは実に早いものなのだなあとベッドに仰向けに横たわりながらしみじみと思う。

10年という歳月は人を大きく変えるには十分過ぎる程に十分なものであると現在身を持って体感している。

貧乳に悩む奥手なビリビリ中学生だったはずの少女がついにバスト90越えの大台に乗り
未だAAの呪縛に囚われ続けている元後輩に勝ち誇った顔でその豊満な谷間を存分に見せ付けたり
ロリロリしかったシスター服の銀髪少女が大女優さながらな大人の妖艶な美しさを身に纏い
やはりかつて幼児体型とからかってきたツンツン頭の青年にドヤ顔で自らのわがままボディを存分に見せびらかしたりするようにすらなるのだ。

少女はやがて少女の殻を脱ぎ、女へと変貌する。

大人の階段を上るシンデレラ達はガラスの靴など無くとも己の人生という名の舞台の上で、キラキラと輝きながら完璧に踊ってみせる。

もちろん自分だって分かっていた。人は成長し、変わってゆくものだと。

しかしそれはあくまで頭で理解していただけであって、心ではまるで理解など出来ていなかったのである。



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例えば子煩悩な母親は既に成人した息子に未だにあれこれと世話を焼く。
ハンカチは持ったの?定期は、チリ紙は?と小学生時代とまるで変わらない扱い方をする。

対する息子はそんな母親からいつもいつも繰り返し聞かされる同じ小言と彼女の着ている謎の柄シャツに苛立つ。

いつまでも子供であって欲しいと願う親心。いつまでも子供扱いされたくないと願う子心。

そこから壮絶な親子喧嘩に発展したりする。

母親の大阪のおばちゃん的謎Tシャツに何故か「FUCK ME」とか意味不明な文字プリントがされていた日には倍返しだ。

母子の喧嘩にあのドラマのような一方の土下座など存在しない。互いにやられたらやり返すのみ。
代わりにその日の息子の夕食が水だけになったりする危険性もあるけれども。

そして何より魔神以上の破壊力を持つ「文句言うなら働けニート」の魔法の詠唱の前には
10万3000冊の魔導書の知識を持ってしても有効な対抗魔術は組み上げられない。


例えば親バカな父親は娘が何歳になるまで一緒に風呂に入っていいのか、そろそろもう入っちゃいけないのかひたすら悩み続ける。
悩み過ぎて生え際がやや怪しくなってくる。

ある日突然「お父さんと私の下着一緒に洗わないで!!」と心底嫌そうな声で娘に言われ反射的に首を吊りそうになる。
生え際はだんだんと後退してくる。

「あのね、わたしね、大きくなったらパパと結婚するの! うふふ」

そう満開の笑顔で言っていた娘の化粧が最近なんだかえらく濃くなっている。すっぴんだと眉毛が平安貴族だ。
生え際は危ういバランスでそれでも必死に頭皮に食らい付き、歯を食い縛って耐えている。

ある日、偶々娘が弄っているスマホの画面が目に入る。
どう見てもDでQでNで「ウェーイwwww」とか言ってそうな平安貴族その2の少年が写っている。
彼と娘とのラブラブなチュープリ(ディープ)に反射的に線路に飛び込みそうになる。
生え際はいよいよベジータみたいになる。……ちょっと嬉しい。


このように、往々にして大人達は子供達のあまりに急なその成長の早さについていけない。

もっとも大半の者はその健全、ところどころ不健全な自然の成長をどこかで寂しく思いながらも暖かく見守るものだ。

やんちゃでもいい、たくましく育って欲しいと。

しかし中にはそんな子供達の成長を真っ向から否定する者もいる。



「何故? 何故少年達は皆大人になってしまうの?」


そんな哲学的かつ散文的な疑問を投げかける人間がいる。

さらさらと長く赤みがかった綺麗な髪をきっちり二つ結びにし、先輩系巨乳キャリアウーマンらしい知的な雰囲気を漂わせる妖怪ショタコン乳サラシ(27歳、未婚)。

「大体、高校生以上の男の存在価値なんてクソ、クソ以下よ! 畑の肥やしにすらなりやしないわ!」

とある喫茶店の窓際一番奥の席。私の対面に座り、そう息巻きながら彼女はドンッとテーブルを叩いた。

同じ元暗部、かつ窓のないビルへの案内人だったことからひょんな成り行きで彼女と知り合い、友人となってしまったこの我が身が憎い。

「ヒゲだの脛毛だのチ○毛だの変声期だの、あのゴツゴツした肩幅も手も足も! 死ね! チン長12センチ以上の男はみんな死ね!!!」

グサッと彼女が手に持ったフォークで注文した皿の中の特大ジャンボエビフライ(直径18センチ)を突き刺す。


「平常時4センチ、勃起時9センチがベストサイズだってそんな当たり前のことがなんでみんな分からないの!?
どいつもこいつも太くて硬くて長けりゃいいと思って!!!」

彼女が特大ジャンボエビフライに半固形状のドロリとした白いモノ(つまりマヨネーズ)をたっぷりとぶっかける。

「特に剥けてるとか絶対にあり得ないわ、厚い衣という名の鎧で大事な息子を武装してこその男でしょ!?」

彼女が特大ジャンボエビフライ(この店一押しのサクサクの厚い衣が売り)をバクバクと食べながら憤慨する。
半固形状のドロリとした白いモノが彼女の口の周りにねっとりとまとわりつく。

もしかしてわざとやっているのだろうか。チョコバナナやフランクフルトやホットドッグやアメリカンドッグ程露骨じゃないだけマシなのだろうか。
彼女的にはポークビッツ以外はどうでもいいのだろうか。

「もう全ての学校でショタ達に小ささこそ正義だと教育すべきよ! 貴方もそう思うでしょう!?」

頼むからこちらに同意を求めないで欲しい。


「テストスセロンよ、全てはテストスセロンとアンドロゲンが悪いんだわ。男性ホルモンなんてあんな悪魔の分泌物、今すぐ滅びればいいのに」

テストスセロンが滅びたらそもそもショタじゃなくてロリしか生まれないんですけど、という言葉は寸でのところで飲み込んだ。

沈黙は金とはよく言ったものだ。

「私はただ少年達のさ迷える白い弾丸を私の大事なポイントに愛のままにわがままにムービングしてウルトラなソウルをラブファントムして欲しいだけなのに……」

もはやまったく意味が分からない。

流石に潰れかけの寂れた喫茶店で延々五時間コーヒー一杯でその話を聞かされ続けるのは地獄だった。

しかし止まない雨はない。この砂漠のような空間にも閉店の時間という名のオアシスがやってくる。

すみません、そろそろお帰り下さいと声をかけてきたウェイターの方がその時の私には天使に見えた。
いや、事実彼は天使だった。彼の背中に私は真っ白な六枚の翼を幻視した。

彼にせっつかれ渋々といった顔で席を立つ彼女が、しかしその時ふとこちらの顔をじっと見た。
この人と見つめ合うといつも素直にお喋り出来ないのでそっと視線を外す。
当然その感情の発露は彼女に対する恋心などではない。断じてない。


暫く黙ってこちらをマジマジと見ていた彼女が不意に口を開く。

「……そういえば貴方ってイケメンよね」

その瞬間、私の胸をとてつもなく嫌な予感が駆け巡った。

「まあ私的にはもっと背は低めで顔もイケメンよりは可愛い系のジャニーズっぽい感じが理想なんだけど」

やめて下さい。

「ちなみに貴方って今小学生時代の写真アルバムとか持ってない? 持ち歩いてない?
出来れば短パンでランドセル背負ってる姿だとベストなんだけど。
もしくは蝶ネクタイとサスペンダーのコナンくん仕様でもいいわ。ちなみに新一の方は死ね。なんなら中学生時代のでもいいから」

勘弁して下さい。

「…………ねえ。貴方と私が互いに手に手を取り合って協力すればとてもいいショタが生産出来ると思わない?」

お願いだからお家に帰して下さい。

不覚にも涙が出そうになる。男の子なのに。


舐め回すような視線でねっとりと私の全身を眺め観察していた彼女は、次の瞬間いきなり座標移動で私の両手に手錠をかけてこようとした。
そんなもの一体どこに隠し持っていたのだろう。

あまりに唐突なその行動にやむを得ず咄嗟にこちらも能力を使って反撃してしまう。
ガンゴンバギンと派手な音を立てながらL字に折れ曲がった彼女の身体がノーバウンドで轟ッ!と店の壁まで吹っ飛んだ。

正当防衛とはいえ心根は(多分)優しい女性に反射的に手を上げてしまったことに私は動揺した。

けれどそこで鼻血をダラダラ垂らしながらもむくりと起き上がり、私の未元物質を見て閃いたとばかりにカッと瞳と瞳孔を見開き


「ねえ、貴方のその能力って触手とか作れないの? ねえ作れないの? っていうかショタそのものを作り出すこととか出来ないの?
私のことをミルキーショタボイスで淡希おねえちゃんって呼びながら慕ってきてくれる従順な短小○茎タンクトップ短パンショタを量産したりとかって出来ないの?
そもそも貴方自身が今すぐショタに変形したりとか出来ないの? ねえ出来ないの???」


と食い気味に鼻息荒くこちらににじり寄りながら目を血走らせて聞いてくるのは本当にやめて欲しい。


結論から言うと答えはどれもイエスだけれどそんなことの為に使う能力などない。あってたまるか。
私の未元物質はそんな薄い本的用途に使われる為に存在しているのではない。

なんならわざわざ中国まで行って呪泉郷になど入らなくとも今すぐこの場でリアル女らんまになったり
ノンストップなひばりくんになったりすることも可能だが、私のTS展開とか女装とか一体どの層に需要があるというのか。

「男の娘ていときゅんか……それもアリね」

あ、ここにいた。

とりあえずガチな身の危険を感じたのでもう一度未元物質の羽で張り飛ばしておく。
心苦しいがもう彼女の心配をするのはやめた。

それでも彼女は諦めない。何度私に殴り倒されようが、何度私に弾き飛ばされようが。

彼女の飽くなきショタへの渇望が震えるその足を何度でも立ち上がらせる。

お願いだからもう寝てて欲しい。

「……どうして? どうして誰も分かってくれないの?」

血の混じった唾をぺっと吐き捨て、ぐいと口元を拭いながら彼女は顔を歪めて憎々しげに言う。

「昔から私の周りは白バニー義妹ロリメイドだのビリビリ女子中学生だのアホ毛幼女だの、年端もいかない子供の尻を追っかけてる変態ばかりよ!!!!」

未だかつてこれほどまでに見事なブーメランがあっただろうか。


「この世の天使だった我らが神木きゅんも今ではただのイケメンに成り果ててしまった……。
あんなにテレビ戦士として輝いていたウエンツきゅんももはやただの面白芸人になってしまったッッ!!!」

後者の方は元々そういうキャラだったと思います。

「ダニエル=ラドクリフきゅんもビョルン=アンドレセンきゅんもエドワード=ファーロングきゅんも!!
変わり果ててゆくショタ達を前に私は何を、これから何を指標にして生きてゆけばいいのよ!?!?」

「………………二次元とか」

「ふっ」

私の言葉に彼女は小さく哀れむような笑いを溢した。

「ふ、ふふふふ。そうね。確かに惨事と違って二次は私達を裏切らないものね……。でもね、違うの。違うのよ。私は気付いた、真理に気付いてしまったの」

「ハス太きゅんもカズマきゅんもブリジットきゅんもキルアきゅんも烈きゅんも豪きゅんもシンジきゅんも戸塚きゅんも所詮は――――絵なのよ」

「………………」

「私は本物のショタが、本物の愛が欲しいのよぉ!!!!」


吠える。

「こちとらもう三十路手前なのよ! アラサーなのよ! いい加減処女捨てさせてよ!!
ショタに純潔を奪われながらショタの筆を下ろしたいのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!!!!!」

吠える。彼女は吠える。

悲痛な声。咆哮。生涯の愛を一心にショタに傾けた女の心からの叫びがそこにはあった。

「……私は成人男が嫌い。私は成人男が憎い」

どっかの科学嫌いなピアスの姉ちゃんみたいな台詞を吐き出す彼女。

「――――だから全部ぶち壊して、もっと温かい法則(ショタルール)で世界を満たしてやる!!!」

そういえば彼女達にはおねショタ萌えという点において共通項があったな、というかおねショタって最初聞いた時はおねしょショタのことだと思ってたな、などとぼんやり考えている内に彼女の瞳ににわかに力強い光が宿った。

かつて手塩恵未という女性と対峙した時、仲間のショタ達を救う為にトラウマを乗り越え、更なる高みへと昇ったあの時のように。


「超える……」

「私は超えてみせる!! このクソ忌々しい傷の全てを!!!!」


どうでもいいけど名台詞の無駄遣いをするのはやめた方がいいと思う。


彼女がぐっと握り締めた軍用懐中電灯を振るうと、能力の暴走でも起きたかのように彼女を中心とした荒れ狂うサークルが生まれる。
その力の奔流は辺りの物を巻き込んでことごとく吹き飛ばした。

それは10年前、残骸(レムナント)を巡って彼女が白井黒子という風紀委員の少女と死闘を演じた時のものとよく似ている。

しかし違う。それは暴走などではなく、彼女自身の意志で生み出され、彼女自身の意志で制御されたもの。
10年という歳月は彼女をここまでの能力者にのし上げさせた。

「……悪いけど全力で行かせてもらうわ。私の夢(ショタ)の為に」

彼女が構える。それを受けてこちらも身構える。
その間にも舞い飛ぶフォークがテーブルを突き抜け、皿が窓ガラスを貫通する。

ちなみにさっきから乱闘を繰り広げまくっているがここはまだ喫茶店の店内である。

当然他の客達は既に全員退避した。店員の方々が半壊した店の隅で震えながら遠巻きにこちらの様子を窺っているのが大変申し訳ない。

何故こんなことになっているのだろう。帰りたい。本当に帰りたい。切実に帰りたい。


しかし私にも超能力者としての意地がある。

彼女が動くと同時に未元物質を展開、この世に存在しない素粒子達は今この場を異物の混じった空間に塗り替える。

彼女の飛ばした手錠や首輪や荒縄やアイマスクやギャグボールや貞操帯は全て私の能力の壁の前にあっさりと防がれた。



「……なんで…」

「なんでよ!! 何故私じゃ勝てないのよ!!!」

ついに膝をついた彼女が悔しげに唇を噛む。

「私は……私はこんなにも少年を愛しているのに……どうしてなのよ……」

そんな彼女を私は哀れみと共に見下ろし、口を開く。



「――――レベル5を、あまり甘く見るんじゃない」



……こちらまで無駄遣いをしてしまった。

結局その後もいくらやっても拘束出来ないのでやっと彼女は諦めてくれた。

よかった。本当によかった。

これ以上やられていたら流石に彼女を愉快な死体にしなければならなかったかもしれない。

そういえばそろそろ帰ってイナズマイレブンと忍たまを観ながら限定版ショタプラスをやる時間だと言う彼女に別れ際、
怖いもの聞きたさで長年疑問だった何故そんなに少年が好きなのかという質問をしてみた。

彼女は遠い目で暫し考え込むようにそっと顔を伏せ、それからゆっくりと口を開くと私の問いに真摯に答えてくれた。



「おちんちんランド」



真顔で呟かれたのが怖かった。


冒頭、人は歳月と共に変わるものだと述べたがつまりここで一つ訂正しなければならないだろう。
彼女は10年経とうが1ミリもブレてなどいない。中にはそういう例外もいるのだ。

きっと彼女はガラスの靴の代わりに少年達の純白の白ブリーフ(ゲコ太のバックプリント付き)を穿いているのだろう。
いや、もしかしたら被ったりしゃぶったり舐めたり嗅いだりしているのかもしれない。

ちなみにその帰り道にもあのツンツン頭の青年が右腕に銀髪美女(巨乳)、左腕に茶髪美人(爆乳)をそれぞれまとわりつかせ立ち尽くす姿を見たりした。

「当麻っ♪ ねえ今夜は何回出来る?」

「とうま、とうまならそれぞれ5回ずつは余裕だよね?」

「当たり前よちんちくりんシスター。当麻の絶倫っぷりはもうとっくに知ってるでしょ?」

「そうだね短髪。それに今朝はスッポン鍋も食べたしマムシジュースもたっぷり飲んできたもんね! えへっ」

「ふふ、お互いいがみ合って当麻の取り合いしてた昔が懐かしいわね~。
もっと早く今みたいな仲良く一緒に当麻をシェアする関係になってればよかったわね」

「あっ、そういえば今日はいつわもこっちに来るって言ってたんだよ!」

「ああ、そういえば食蜂と雲川センパイも来るって言ってたなー」

「じゃあ今夜は6Pだね! ええっと、そうなると5人分×5だから……」

「25発ね」

「そっか! 頑張ってね、とうま!!」

「今夜もいっぱい私達を気持ちよくさせてね、当麻っ♪」

「うふふ」

「あはは」


かつてはヒーローとして輝いていたはずのその青年は生気というか性器の精気を根こそぎ吸い尽くされた顔をして、げっそりと枯れ枝の如く痩せ細り、
一言も発さずただただ死んだ魚のような濁りきった目をして立っていた。

さらにその銀髪美女の背後では風力発電のプロペラの陰に隠れながら

「インデックスぺろぺろwwwwインデックスぺろぺろぺろwwwwインデックスたんマジ天使でござるデュフフフwwww」

と爆乳眼鏡のリアルマジ人工天使様がアヘ顔で呟いていたり、茶髪美人の背後ではマンホールの中に隠れ頭だけを覗かせながら

「ハァハァ御坂さん、ハァハァハァ御坂さん、御坂さん御坂さん御坂さん……っっ!
ああ、そんな、駄目です、そんなに激しくされたら自分のトラウィスカルパンテクウトリの槍が原典でテクパトルに月のウサギを発射して………うっ! ふぅ……」

と何やらハッスルしていた爽やか好青年が荒ぶる魔導師から賢者に華麗にジョブチェンジしているのを見たりしたがそれは些細なことだ。


ついでにピンク髪のロリロリ少女が身長2メートル超の赤毛不良青年を無理矢理近くの路地裏に引き込み

「んっ、はぁはぁ、先生もう我慢出来ないです。ほら見て下さい。先生のココ、こんなに熱くてぐちゃぐちゃで……。
全部神父ちゃんのせいなんですよ? ふふっ、先生をこんな風にしちゃった悪い生徒さんにはたっぷりお仕置きが必要ですよね?」

「ちょ、やめっ、僕にはインデックスという心に決めた人が……あ、あ、あ、待っ、らめ、らめらめらめ、らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!! アッ―――――!!!!」

という教師と生徒設定の即席イメクラプレイを繰り広げていたり
成人の聖人が堕天使になって道端で露出プレイをしているのを見たり
青い髪にピアスをした野太い男ボイスの青年がうっかり躓いて一緒に歩いていた爆乳黒髪美女の谷間にダイブしてしまうというラッキースケベイベントを起こし

「貴様っ、この変態! 変態!! 変態ッ!!!」

「ああああああありがとうございます吹寄様!! ありがとうございます!!
本当にありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! ブヒィィィィィィィィィィィーーーーーーーー!!!!!!!」

と彼女に罵られ踏まれることを恍惚の表情でダブルピースを決めながら幸せそうに受け止めていたりもしたが、それもまた些細なことだ。

この街はイカれていると顔を覆って嘆く者も中にはいるだろう。

でも学園都市生まれ、学園都市育ち、悪そうな暗部は大体友達な私から見たらこの程度はささやかな日常風景の一つに過ぎない。

ただ偶々近くを知り合いの緑ジャージの女性が通りかかったので青髪の彼のことだけは一応通報しておいた。


「アンチスキルさん、あの人です」







―――そして。

長々と語ってきたがそろそろリアルタイムに時計の針を戻そう。

私は今、ベッドに仰向けに寝ていると最初に述べた。

そう、確かに私は寝ている。しかしそれは断じて自分自身の意思で寝ているのではない。

私の身体の上には一人の少女。いや、やはりそろそろ彼女を少女と呼称するのは不適切だろうか。

緩やかにウェーブのかかった柔らかな金髪。くりくりと大きな蒼い瞳。ほっそりと形の整った両足。
私からの贔屓目を差し引いて見ても十人が十人彼女のことを美しい女性だと称するだろう。


フレメア=セイヴェルン。


かつて出会った時には若干8歳だった少女。
10年という月日の流れと共にそろそろ大人の仲間入りを果たしてもいい程にすくすくと立派に成長した彼女。

その彼女が今、私の上にいる。身体の上にいる。

何かとても既視感を覚える表情で鼻息荒く私をベッドに縫い付けている。




端的に言うと押し倒されている。


「…………あの」

「ん?」

「ええっと……あなたは何をしているのですか?」

「逆レイプ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「…………あの」

「ん?」

「何故あなたはそんなことをしているのでしょう?」

「大体カブトムシを犯したいから、にゃあ」

どうしてこうなった。


事の発端はおよそ30分程前に遡る。

その時私は彼女の部屋の掃除をしていた。
少し甘やかして育て過ぎてしまったのか、基本的に素直ないい子ではあるのだけれど彼女には少々だらしないところがある。

元々翌日の学校の支度をしている時にしっかり確認したつもりでうっかり歯磨きセットを入れ忘れてしまったりするようなことがよくあった彼女だ。

本当ならきちんと厳しく躾けておくべきだったのだろう。
だが一般的な世の父親、母親達同様、私もついついその都度口を出し世話を焼いてしまった。
そのせいか彼女自身もだんだんと何か忘れていても私を頼ればいいと思うようになってしまったのだろう。

宿題を後回しにしたり食事の後に片付けるのをサボったり、こんな風に部屋も散らかし気味になってしまったのだ。

とはいえ困ったものだと思いながらも彼女の面倒をあれこれ見ることは私にとって密かな喜びでもあった。
可愛い妹のような彼女に頼られ、懐かれることは満更じゃなかった。

そうして今日も今日とて彼女の部屋の乱雑な本棚を整理し直していた時、ついに私はそれを見つけてしまった。

本棚の奥、本の間に隠すように、いや、事実隠す為に挟んであった“それ”のパッケージに書かれていた文字。


18禁。


どう見てもエロゲーです、本当にありがとうございました。


しかしそこまでなら私も耐えられた。内心多いに動揺しつつも彼女は既にれっきとした18歳だ。
性に多感な年頃だということくらいは理解している。こういったゲームを購入していてもおかしくはない。

第一今はエロゲー好きな妹が萌えキャラとして成り立つ時代だ。
同じ金髪妹キャラの彼女がこういったゲームを好むのもおかしいことではないのだろう。多分、恐らく、きっと。

だがそう無理矢理納得して何も見なかったことにし、そっと再びそれを元の場所に戻そうとして不意にそのゲームのタイトルが目に入ってしまった。





『昆蟲姦察』





割と本気で死にたくなった。


何故。何故だろう。どうしてこんなことになってしまったのだろう。
彼女はいつからこんな風になった。いつから……

そんなドス暗い絶望が私の胸の内を渦巻き、ガラガラと足元が崩れ落ちるような感覚が背中を突き抜けた。

そしてそんなゲームケースを片手に呆然と立ち尽くす私に更なる絶望が舞い降りる。

キィ…と、背後の部屋の扉から軋む音。

いる。

彼女がいる。

ぺたぺたと足音が近付く。ぴたりとその気配は私のちょうど真後ろで止まった。私は振り向けない。


「 カ ブ ト ム シ っ ♪ 」


私は振り向けない。

「あーあ、大体ついに見つけちゃったかあ。にゃあ♪」

「………………」

ギ、ギ、ギ、と意を決してゆっくりと首を後ろに回す。


「……あはっ☆」


その瞬間、私の視界が反転した。



「ねえ、カブトムシは私のこと……キライ?」

私の両手両足に体重をかけて押さえ付けている彼女が大きな瞳を潤ませながら囁く。

「……そういう聞き方は卑怯かと」

「卑怯だろうが何だろうが勝てばよかろうなのだ!!」

「……あなたのことは好きですよもちろん。でもそれは妹や娘に対するようなものであって……」

「私はカブトムシのこと兄とか父親としては見てない。にゃあ」

「……」

「……」

「えっと、そもそもあなたは浜面仕上さんのことが好きだったのではないのですか?」

「そんなのもうとっくの昔に終わってるし」

「同級生に気になる男の子とか」

「今まで10年間もずーーーっと私のこと守ってくれる相手が常に側にいて他の男なんかに目が向くと思う? にゃあ」

「……」


そうか。思えばもっと早く気が付くべきだったのかもしれない。

確かに幼少期から今までずっとすぐ近くに異性の相手がいれば次第に彼女がそういった感情を抱くようになっていくのもおかしいことではなかったのだろう。
保護者気取りでそんな彼女の気持ちにまったく気付いてあげられなかった私はなんと愚かだったことか。

今になって思い返してみれば心当たりがいくつも浮かぶ。

中学校に上がる頃、勉強嫌いな彼女が妙に熱心に食い入るように昆虫図鑑を見ていたこと。

ある日唐突に「ねえカブトムシ知ってる?カブトムシのツノって実は頭じゃなくて胸なんだって、にゃあ」とか言ってきたこと。

本格的な飼育セットを買ってきて幼虫からカブトムシを育て始めたこと。

カブトムシに蜜をあげる時に

「ふ、ふふふ、うふふふふ。ねえ、大体そんなに私の甘くてトロトロな蜜が欲しいの? ねえ欲しいの?」

「まったくこの浅ましい虫ケラがっ! 欲しかったら這いつくばって私に上手におねだりしてみろ、にゃあ!」

「……ふふ、そうそう、そうだそれでいい。ほら、ご褒美に好きなだけいっぱい舐めるんだ、にゃあにゃあ」

とかぶつぶつ言っていたこと。

カブトムシの交尾と産卵シーンを一日中ひたすら楽しそうに眺め続けていたこと。

私のフレメアがこんなに特殊性癖持ちなわけがあった。

でもごめんなさいフレメア、お兄さん流石に虫姦はちょっとハイレベル過ぎると思うの。


「さあ、観念しておとなしく私に犯されろ、にゃあ!!」

「いやああああああ!!!」

「ふはははは、泣き叫んだところでどうせ今ここには私とカブトムシしかいないし! 大体助けなど来ない!!」

「やめて! 私に乱暴する気でしょう!」

「エロ同人みたいにな、にゃあ!!!」

まさに外道。

私はどこで間違えてしまったのだろう。どこで道を誤ってしまったのだろう。

彼女には身寄りがいない。唯一の肉親であった姉のフレンダ=セイヴェルンも当の昔に死亡している。

だから私は彼女の家族になりたかった。彼女に寂しい思いなどさせたくなかった。

しかしやはり血縁者でもなく実際に人の親になったこともない青二才の私が彼女の親代わりを務めようなどおこがましいことだったのだろうか。

今ここですげなく彼女を拒絶し、逃げ切ることそのものは容易だ。私には能力もあれば単純な身体能力の差もある。
ただしそれは彼女を多いに傷つけることになるだろう。

いや、傷つき、涙した後に誰か私以外のまっとうな男性を見つけてくれるのならばそれでいい。
けれど私は恋した相手と結ばれることが叶わなかったせいで悲しく歪んでしまった人間を一人知っている。


その時私は彼女に用事があってうっかりノックを忘れたまま部屋に入ってしまった。
そして私の知るその人は今まさに愛する男と合体せんとするところだった。


「気持ちいい? ねえ気持ちいいの?」

「嫁も子供もいるくせにこんなところ私に弄られて犬みたいに涎垂らしながらおっ勃てちゃうなんてアンタって本っ当に気持ち悪いわね」

「やっぱりキモ面はキモ面のままねえ。10年経ってもちっとも変わんねえんだから」

「あは、なに? もっとして欲しいの? そんなにアンタの××××を私の×××で××××に×××して欲しいのかにゃーん?」

「だったら言ってみろよ、大きな声で言ってみなさいよ! 滝壺なんかより私の×××に思いきりブチ撒けて気持ちよくなりたいって言ってみろよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」

「……うふ。そう、いい子ね。素直な家畜はお姉さん好きよ。んんっ……!」

「っはぁん、あっ、あっあっあっ……! いい、いいよぉ! 浜面、はまづらぁっっ! いいの、すっごく気持ちイイのぉ!! もっと突いてぇ、はまづらあっ! ……んっ!」

「……はあっ、はあっ、はあっ。ふふ。これでやっと一つになれたね、はーまづらぁ」


浜面仕上さんにそっくりな特注のリアルラブドールに跨がり、そう恍惚の表情で話しかけていた彼女がこちらに気付いて唖然としたあの瞬間、世界中の時が止まった。

むしろ出来ることならその時見たものを全部キンクリしてしまいたかった。

ちなみにその後全ての表情が消えた彼女から口止め料としてシャケ弁をもらった。
ひどくしょっぱい味がしたのはシャケの塩分が強過ぎたからだ、きっとそうだ。


フレメアだけは彼女のようにしてはいけない。絶対にいけない。

その時私はそう堅く誓ったのだ。


もしかしたらこれが私の報いなのだろうか。今まで数多くの人間を殺してきた私の罪が巡り巡ってここに結晶したのだろうか。

眼前には馬乗りでハァハァ言ってる女の子。

そういえば第一位もこの前「最近クソガキの部屋でアルビノ男優もののAV(ドS女王様によるM男調教もの)とエネマグラと極太ディルドとアナルローションを見つけた」と、かつての妹達以上のレイプ目で呆然と呟いていた。

その時には大いに彼に同情しつつも結局のところどこか他人事として聞いていた。でも今なら彼の気持ちがはっきりと分かる。

これはどうあがいても絶望だ。

10年前の10月9日、学園都市の独立記念日に当たるあの日。
思えば彼と初めて対峙し対立し、戦って敗れたあの時から、いやそれ以前から私はずっと彼との数奇な運命のような類似を感じていた。

一位と二位。破壊と生産。どこまでも正反対のようでいてコインの裏表の如くどこまでも私と似通っている彼。

何より、一人の少女の為に今なお命を懸け続けているという点において私は彼に強く共感していた。

あの彼も今頃私と同じ苦しみを味わっているのだろうか。

自分達にとっての最後の希望だった少女達が時を経て、よもや己にとっての最初の絶望(貞操的な意味で)になるとはなんという皮肉だろう。


でも彼もいるのならば怖くはない。私は決して一人じゃないのだ。

『もしもオマエが世界のどこかに証を望むなら、俺がその爪痕になってやる』

いつかの彼の言葉を反芻する。かつては憎んでいた相手にこんな救いを求めるなんておかしいだろうか。
けれどどちらにせよ私達にはいつか彼女達と別れなければならない日が来る。

あの子達は天国に、私達は地獄に。どこまで行ってもやはり私とあなたは平行線。交差することもない代わりに離れることもない。

ならば共に堕ちましょう、一方通行。

シンデレラのガラスの靴など履けない私達は、地獄の底を赤い血の色で出来た靴でイバラ刺す薔薇の道の中を脚を斬られるまでひたすら踊り狂うしかない。


『一方通行×垣根の薔薇……アリですね』


あ、やっぱ堕ちたくないです。

不意に頭の中に響いた飴玉を転がすような甘ったるい声。
頭の上に花瓶を乗せたような小柄な黒髪ショートカットの女性の幻影が私の前に現れる。

『いいですよね、互いに依存し合う男同士って。どっちかと言えば私的には一方通行たんの方が受けなんですけど、まあでも私はリバでも全然イケますし!』

お願いだから黙ってて下さい。

前門の虫姦趣味レイパー、後門の腐女子。

どちらのルートへ転んでもやはり私達に未来などなかった。

『後門っていうか肛門ですけどね(笑)』

だからお願いですから黙ってて下さい。


脳内に振り撒かれる腐った電波を必死に追い払う。

本当に私はどうすればいいのだろう。このままでは確実にフレメアにイケない道に引きずり込まれてしまう。
かといってここで彼女を拒んだら彼女もまた麦野沈利さんと同じ悲しいヤンデレの深い沼の底に沈んでしまうかもしれない。

だけどいくらなんでも[ピーーー]は駄目だ。[ピーーー]とか[ピーーー]とかあと[ピーーー]とか、それだけは駄目だ。絶対に駄目だ。

―――こんな時あなたならどうするのでしょうね。

問いかけたい一番の人は今はもういない。


『誰がいないって?』


「―――!」

声が聞こえた。

それはよく聞き馴染んだ、そしてとても懐かしい声だった。私自身と寸分違わぬ同じ声。

唐突に突然に、私の目の前に現れたその人は……


「垣根……帝督……」


鏡合わせのように私とまったく同じ姿をしたその人物。ぽつりと私の唇からその人の名が漏れた。

かつての自分。もう一人の私。私の中のもうひとつの私自身。

どうしてあなたが……

『別におかしいことでもなんでもねえだろうがよ。俺はお前だ。そしてお前は俺だ。だとしたらこうして対話出来んのも自然の道理ってやつだろうが。“あの時”だってそうだっただろう?』

あの時。

そうだ、「垣根帝督」のスレーブとして作られたはずの私が生まれて初めて壊すことに疑問を持ち、少女達を守ることを知り、それに喜びを覚え、そして“彼”からマスターとしての制御権を奪ったあの時。

『一度はこの俺から主導権奪うなんてふざけたことやりやがった野郎がなっさけねー顔しやがって』

その言葉に僅かに笑う。

……そうでしたね。元々はただのあなたのスレーブ(奴隷)でしかなかったはずの私に存在意義と命を与えてくれたのはフレメア達だった。

彼女達がいてくれたからこそ私は私になれた。あなたを押し退け、新しい「垣根帝督」になることが出来た。


そしてそのあなたが今ここで出てきたということは……

『下剋上だよ』

どこまでも不遜な態度で彼が囁く。

『今お前の精神は多大なショックで酷く脆くなっている。つまり自分だけの現実(パーソナルリアリティ)が崩壊しかかってるっつーことだ、このフレメアとかいうガキのおかげでな』

私の上に跨がっていろんなところをまさぐっているフレメアを一瞥して彼が言う。

……要するにあなたは「垣根帝督」を奪い返しに来たという訳ですね

『その通り。現在の未元物質を操る第二位の垣根帝督は無限の可能性という性能を手に入れている代わりに、あまりにその可能性を広げ過ぎれば悪感情をも引き出しかねない重いリスクを負っている』

とんとん、と自らの胸を指先で指し示しながら軽薄な笑みで彼が笑う。

『一か八かのロシアンルーレットで“この俺”を引き当てちまう一定の確率をも常に内包しているってことだ』

彼のその言に私は小さく頷く。

『それでもお前はこの10年、きっちり“垣根帝督”をやってきた。それもこれも全部このガキの為にな。それには共感はしねえが賞賛はしてやるよ』

足を組み、意地の悪い笑みを崩さないまま彼が私を見下ろす。

『だが、今のたかがガキ一人に振り回されて精神が屈しかけてる脆弱なテメェなら乗っ取って制御権を奪い返すなんざ楽勝だ。こっちにとっちゃやっと巡った千載一遇のラッキーチャンス』

そこで彼の顔付きが一転する。一見柔らかに、優しげにすら見える表情をこちらに向ける。

『……お前ももう疲れただろ? 今すぐこの辛い現実から目ぇ逸らして逃げたくて仕方ねえんだろ? 潔く譲っちまえよ。さっさと諦めてこの俺に“垣根帝督”を渡せ』


それは悪魔の誘惑。甘い囁き。抗いがたいとろける蜜のような強い響きを伴って私の耳をくすぐる。

そうだ、今ここで彼にこの身を譲ってしまえば。

私は解放される。

なんか私の胸板辺りに顔を埋め涎を垂らしながら

「ハァハァハァハァ、カブトムシぺろぺろwwwカブトムシぺろぺろぺろぺろwwwwカブトムシたんくんかくんかすーはーすーはー、んはぁぁああっっ!
カブトムシたんの真っ白な繊毛の生えた節足ぺろぺろしたいお! カブトムシたんの薄くて綺麗な羽をはむはむしたいお! カブトムシたんのつるつるな丸い光沢を放つ外格なでなでサスサスしたいお!
カブトムシたんの太くて硬くておっきいツノで私のアジテートハレーションを思いきりブチ抜かれたいよぉぉぉぉぉおおおおおおおおんはああああっああぁぁぁっああっんんんん!
カブトムシ、カブトムシカブトムシカブトムシぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!! んにゃああああああああああああああ!!!!!!!!」

とか言ってビクンビクンしてる生物から解放される。

……

………

…………


―――いいえ、それでも。


それでも私はフレメアを愛しています。心から。

彼女がハイレベルな性的趣味を持つ変態淑女になってしまった今でも。
私はこれからも彼女のことをずっとすぐ側で守り続けたい。

だからあなたにこの身体を、心を、明け渡す訳にはいきません。

きっ、と私が彼の顔を見据えそう強く宣言すると、彼はふん、とつまらなさそうに鼻を鳴らす。

『分っかんねえな。こんなガキのどこにテメェが執着する価値がある?』

あなたにはきっと一生分かりませんよ。

『はっ、分かりたいとも思わねえな』


でしょうね、と素っ気なく呟いてそれから私は一度口を閉じる。

沈黙がこの部屋を包み込んだ。暫くの間、フレメアが私のベルトをカチャカチャと外そうとする高い音だけが静寂の中に響き、私はそれを必死に阻止しながらただ彼だけを見つめる。

この子は、と長い間の後で私はゆっくり言葉を紡ぐ。

この子は、フレメアは10年前にたった一人の姉を亡くしています。
それは何故か、彼女の姉であるフレンダ=セイヴェルンが所属する組織を裏切り、麦野沈利さんに粛正されたからです。

ですが元を辿ればそのきっかけを作ったのは私。彼女が麦野さんに殺されたのはそもそもが彼女がスクールに麦野さん達のことを売ったから。

……私が、垣根帝督がフレンダを殺したんです。

『だからその罪滅ぼしをしようって?』

そうじゃありません。いいえ、確かに初めの内はそういった気持ちも少なからずありました。
それに自分の姉も、可愛がってくれ、よく懐いていた駒場利徳という男も失ったこの子の心の支えになってやらなければという勝手な義務感もありました。

けれど違うんです。私は、今の私は、ただ単純にフレメアと一緒にいたいと思っている。

確かに今まで散々この子には困らせられ、手を焼かされてきました。

夏休みの最終日まで宿題をほったらかしては私に泣きつき、すぐにうろちょろしては迷子になり、やっと見つけたと思えばジャッジメントに幼女誘拐犯と疑われて捕まり。

でもそれ以上に彼女から私はたくさんのかけがえのないものを貰ってきたんです。

授業参観の時には張り切って答えられもしない問題でも手を挙げ、大覇星祭でのかけっこで一等賞を取った時には嬉しそうに私にメダルを見せてくれた。
こんなどうしようもない人殺しの私にフレメアはいつだって笑いかけ、手を握ってくれたんです!!


ぐっと握った拳に力を込め、そう吠える私を彼は目を細めて眺めている。

『お前は俺を恨んでいるか?』

……何故ですか?

『フレンダの奴を殺したのはお前じゃねえ、この俺だ。今お前は自分のことを人殺しだと言ったが実質お前自身は誰一人手にかけちゃいねえだろうがよ』

私は「垣根帝督」です。私が私である以上、あなたに罪を擦り付けることなど出来るはずがないでしょう。

『この優等生のいい子ちゃんが』

ついぞ守る者を見つけられなかったあなたになんと言われようが何も堪えません。

『守る者、ね。そんなもん俺には必要ねえよ』

いいえ。誰かを守りたいと思う気持ちは何にも代えがたい力になる。
第一位の白翼にしても、彼の打ち止めを守りたいと感じる心が生み出したもの。

それが分からなかったからあなたは――――負けたんです。

『うるせえ!! 大体前々からずっと思ってたがムカつくんだよテメェは!!』

え、ええ~……なんかいきなり逆ギレされたんですけど……

『なんでテメェばっかり美味しい出番もらって優遇されてこっちは噛ませのバレーボールなんだ!? ああ!? おかしいだろ常識的に考えて!!!!』

常識が通用しない人に常識を語られた。

『なんなんだよ、羽人間→脳ミソクリスマスケーキ→工場長→蛹→真っ白クリーチャー人間→カブトムシ→内臓クーラーボックス→バレーボールってよぉ! 意味分かんねえよ! 俺はあと何回変身を残してんだよ!?』

私に聞かれても。

『“ドS痴女ヌスたんに鬼畜調教プレイしてもらえるとかむしろご褒美だろJK”……?
ふざけんなよ、俺はそんな趣味ねーんだよどっちかといえば弄られるより弄る派だッッ!!!!』

あなたの性癖とか聞きたくないです。


『そもそもなあ、読者的にもテメェはキャラ薄くて面白味ねえと思われてんだよ!!
冷蔵庫だなんだと言われネタキャラ扱いされながらも俺は、垣根帝督は愛されていた!!
みんなが求めているのはお前じゃねえ、“この俺”なんだよ!!!!!!』

「!」

ごっ、がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!


ただでさえ疲弊している私の精神にさらに多大なるダメージが加わる。

自己修復開始―――不可。

あ、あなたは……あなたは私が、私がもっとも気にしていることを……ッ

『はっ、テメェの立場が分かったか? そんな狼どころか牙の抜けきった犬っころみてえに腑抜けて、ただの人畜無害な当たり障りないキャラになっちまったテメェに存在価値なんざねえ』

ち、違う……私、私は……

『日本全国総草食化の現代において結局女は内心肉食男子を求めてんだよ!
少女漫画のヒーローだって大抵好青年キャラは当て馬で本命は俺様系だろうが!!』

違うッ!

中には風早くんが、風早くんみたいなヒーローだっている!!

『哀れだな。本気で言ってんなら抱き締めたくなっちまうほど哀れだよ、お前。
テメェはそうやって細い糸にしがみついて現実はDQNの方がモテるという事実から目を逸らしてるだけだ』

……でもそう言うあなたも童貞でしたよね?

『……うん』


そんないかにもホストクラブで荒稼ぎして毎日ドンペリ飲みながらラブジェンガやってそうな外見してるのに童貞な男の人って……

『……だ、だってだってあの頃は毎日毎日暗部の仕事ばっかで女と関わる機会とか全然なかったし……。
それに一回それとなく心理定規誘ってみたけど完璧にスルーされてそのトラウマで暫くEDになったし……』

どんだけメンタル弱いんですか!?私よりあなたの方がよっぽどじゃないですか!!

『これがホントのメンタルアウト、なんつって』

「……」

『……』

「……」

『……』

「……」

『……ごめん』

……あー、その、えっと

『う、うるせえうるせえバーカバーカっっ!! テメェなんかに俺の気持ちが分かってたまるかよ!!』

『俺だってなあ、俺だってなあ、気合い入れて近くのラブホネットで検索して財布にコンドームもばっちり仕込んで準備は万端にしてあったんだよ!!
なのにあっさり断られた上に、薄ら笑いすら浮かべながら若干蔑んだ目であいつに見られた俺の気持ちがテメェに分かるか!?』

分かりませんよ!!!!

『次の日も仕事で顔合わせなきゃならなかった時の気まずさが……テメェなんかに分かるかよ……』

…………

『俺を汚物みたいに扱う心理定規とそれを見てなんとなく事情を察したゴーグルが気の毒そうな目で俺を見てた時のあの気持ちを……』

…………

『しかも最近は艦これのせいで「ていとく」といえば帝督じゃなくて提督な風潮だしよぉ!!!!』

それは仕方ないでしょう……


……なんですか

『いや、違うんだよ? ホントに違うから、そういうんじゃないから。
マジで学園都市変えたいと思ってるから、このガキとヤりたいだけとかそんなんじゃないから』

あ、すいませんもう話しかけないでもらえます?

『………………』

速やかに心の扉をガシャンと閉め、しっかりと戸締りをし、さらには心の地下エレベーターを下って心の核シェルターに退避を完了させた私を彼が無言で見ている。

しかし、にわかに彼はくつくつと肩を揺らしてくぐもった笑いを漏らした。
その肩の震えは次第に大きくなり、ついには呵呵大笑に変わる。
その奇怪な姿に私は眉をひそめた。

……何がそんなにおかしいんですか

『人気投票』

ッッッ!?

唐突に彼の口から飛び出した台詞に私の瞳がカッと見開く。
形勢逆転とばかりに勢い付いた彼が横目でチラチラとこちらに視線を投げた。

『ちなみに俺は27位だったんだけどぉ~。お前は何位だったっけ?』

くっ……!

口笛を吹きながら余裕を見せつけるその姿に苛立ちながらも私は首を振る。

あ、あんな真っ黒な人気投票なんて実質無効だッ!!
認めない、火野神作が二位の人気投票なんて私は絶対に認めません!!!

『ああ!? お前火野さん馬鹿にすんなよ!? セーラーマーズと同じ名字なんだぞ!?!?』

だからなに!?

『お前はアレだろ、どうせちびうさ派なんだろ?』

ロリコンって言いたいんですか?ねえロリコンって言いたいんですか?

『ロリキャラと絡んだ時点でそいつは未来永劫ロリコン扱いされる宿命なんだよ。
お前や第一位と違って俺にはそんな不名誉なキャラ付けないしぃ~~~???』

…………


……182回。この数字が何か分かりますか

『あ……?』

私がこの10年でジャッジメントとアンチスキルに幼女誘拐、並びに未成年淫行の疑いで検挙されかけた回数です

『……』

ちなみに第一位は347回です。あなたはさっき自分の気持ちが私なんかに分かるのかと問いましたが、私もあなたに私の気持ちが分かるのかと問いたい

『……』

私は……私達はそこまで……そんな憂き目に遭ってなお、彼女達をずっとずっと守り続けてきたんです。
ロリコンだぺドだと勝手な偏見と風評被害で蔑まれ罵られても、歯を食い縛って耐え続けてきたんですよ。

『……』

私はただフレメアに、隣の席のちょっと気になる男の子と軽く指先が触れあっただけで赤面してしまうような……


「ちょ、男子ぃ~! 大体掃除の時間にふざけるのやめてよ、にゃあ!」

「へへーんだ、先生に言い付けるわよ~ってか?」

「もぉ~!」

「よっ、相変わらず仲がいいねーご両人。もう結婚しちゃえばー?」

「なっ……///」カァァ

「あーっ、フレメアの奴顔真っ赤だぜー! ヒューヒュー!!」

「~~~~っ!/// ぜ、全然そんなんじゃないもんっ! にゃあ!!」プイッ


みたいな! そんな! 清く正しく美しい甘酸っぱい青春を彼女に送って欲しかっただけなのにッ!!

『……』

何故ですか!?何故フレメアはこんなまごうことなきHEN☆TAIになってしまったんですか!?
私はどこで間違えてしまったというのですか!!!!

私は……

私はただ彼女がいつまでも健やかに純粋にあれと……そう願っていただけなのに……


『……お前には本当にその理由が分からねえのか?』

え……?

彼の静かに諭すような物言いに私は背けていた顔を起こす。

『このガキが元々潜在的な変態要素の持ち主で、今になってついにその素養を開花させただけだとお前は本気でそう思ってんのか』

どういう意味ですか……?

『違ぇだろ。こいつはただ単にお前のことがずっと好きだっただけだろうが』

何を……

『好きな奴を振り向かせる為には努力をするもんだろ。相手の好みの服を着たり、化粧を研究したり、積極的に話しかけたり』

…………

『だがそもそもお前は普通の人間ですらねえ。未元物質という能力で作り出された存在、おまけに姿形はカブトムシだ』

…………

『そんなお前に振り向いてもらうにはどうすればいいか? 普通の男にするようなアピールじゃ通用しねえ。このガキはそりゃあ随分と悩んだろうさ』

!!

ま、さか……

『ああ、そうさ。……こいつはお前に合わせて自らの性的趣味を進化させた』



『お前に振り向いてもらう為に、その純粋な想いの為に虫姦趣味に目覚めたんだよ!!!!』

「―――――ッッッッ!!!!!???」


ピシャーン!と雷に打たれたかの如く身体が硬直する。告げられた真実に頭がぐらつく。

そ、んな……つまり私が彼女をこんな風にしたと言うんですか。根本的な原因は私自身にあった……?

『ああ、その通りだ』

そんな……

目の前が真っ暗に染まる。指先が震える。私の顔から血の気が引いていく。
それでもかろうじて動く眼球を下にずらせば件の彼女の金色に輝く頭が目に映る。

いつの間にか勝手にYシャツのボタンを外して私の右乳首に吸い付いているフレメアを私は穴が開くほど見つめる。

この変態行為もすべては私から想われたいという一途な恋心ゆえだったというのか。

干上がった私の喉から渇いた笑いが溢れる。

……そう、だったん、ですね……。はは、私は本当に保護者失格だ。
彼女の気持ちにこれっぽっちも気付いてあげられなかったばかりか自身の蒔いた種であることすら……私は最低だ

『さあ、それを知ってお前はどうする?』

大きな問いを投げかける彼に私は一度目を瞑り思い出す。彼女とのこれまでの日々を。

新入生の件で、「垣根帝督」との闘いで、人的資源の件で、たった8歳の身で今まで幾度となく命の危機に晒され、けれど決して心が折れることのなかった強い少女。


『にゃあ! 私「達」の友達の間違いだぞ!!』


出会ったばかりの初めは命を狙おうとした私を友達だと言ってくれた彼女。


『今度は私がみんなを守れるような私になってやる!!』



―――おまけの後日談




「いらっしゃいませ。一名様でよろしいですか?」

「はい」

「ではお席にご案内します。こちらへどうぞ~」

あくまで営業スマイルを保って緊張を隠しつつそのお客様をテーブルに案内する。
お冷やを置いて厨房へ戻ると、バイト仲間のBちゃんが即座にキラキラ目を輝かせながらこちらに駆け寄ってきた。

「ねえねえねえ、あの人また来たね!」

「うん! はー、今日もかっこ良かったあ~」

途端にいつもの態度に戻った私はBちゃんと手を取り合い、きゃあきゃあ黄色い声を上げて騒ぐ。

私達の話題に上がっているそのお客様とはここのところよくこのファミレスにやってくる男の人のことだ。
180以上はある高い背丈にいわゆる甘いマスク。間違いなく美形の部類に入るその人はここ最近私達女の子バイターの間で密かに人気なのだ。

「来る日も時間帯もバラバラだし何してる人なんだろうね。彼女いるのかなー」

「この間Cちゃんが連絡先聞いたら付き合ってる人いるからってやんわり断られてたよ」

「あ、やっぱり? だよねー、あんなかっこいい人に恋人いない訳ないし」

「きっと美人で完璧な人なんだろうなあ。羨ましい……」


「あの人いつでも物腰柔らかいし私達にも丁寧口調で紳士的だし。
なんかさ、アンニュイっていうかいつもちょっと悲しそうな顔して遠い目しながら溜め息吐いたりしてるとこがいいよね」

「そうそう、ミステリアスだよねー」

「苦悩するイケメンは目の保養だわ~。あー私が癒やしてあげたいっ!」

「もー、だから恋人いるんだってば」

「あはははは」

そんなたわいもない軽口を交わしていると彼の席の呼び鈴が鳴って私は慌てて伝票を片手に注文を取りに走った。




「お待たせ致しました。ご注文お伺いします」

「ええと、ドリンクバーをお願いします」

「はい、ドリンクバーがお一つですね。以上でよろしいでしょうか?」ピッピッ

「はい。……ありがとうございます」ニコ

(はうぅっっ!)キュンッ

軽く頭を下げて微笑む彼に私の心臓が高鳴る。
至近距離で見る、目を細めた少し疲れたようなその表情はどことなく儚げで私は心底どぎまぎした。

(ホントに何してる人なんだろうなー。二十代みたいだけど……研究者か学校の先生かな?
でも先生ならこんな時間にファミレス来ないよね)

けれどそんなことを勝手に頭の中で想像している時に私はふと気が付いた。

(……ん?)

僅かに顔を俯け、水の入ったグラスの縁を手持ち無沙汰に指先でなぞっている彼の首筋。
そのうなじの辺りにくっきりと赤い痕が付いている。

(キ、キスマーク……!?)


蚯蚓腫れのような私の目にはどこか痛々しく映るその恋人同士の睦言の証に私は耳まで真っ赤になった。

(本当に恋人、いるんだ……)

別に付き合いたいとか大それたことは考えていなかったけれどちょっとだけ残念な気持ちになる。

それにしても一見物静かで穏やかそうに見える彼の意外な一面に驚いて、失礼だと分かりつつも私は思わずマジマジとそれに見入ってしまった。

いつも一人静かに寂しげな目でコーヒーを飲んでいる彼だけれど、実は情熱的な人なのだろうか。

彼と付き合っている女性は本当に一体どういう人なのだろう。普段どんな会話をしたり、どんなデートをしているのだろうか。
やっぱり彼女にも常に優しく紳士的なのか、それとも……

(はっ! いけないいけない。お客様でそんなはしたない妄想するんじゃない、私!)

いつの間にかトリップしてしまった。

ブンブンと首を振り、気を取り直して仕事に戻る為に踵を返す。
ちょうどその時、ドアベルが鳴って新しいお客様が入店してきた。

「あ、第一位。ここです」

「おォ」

キョロキョロと店内を見渡していたその人に彼が片手を挙げ声をかける。
にわかにこちらに気が付いたその人は杖をつきながらゆっくり近付いてきた。

「悪ィ、待ったか」

「いえ。私もつい先程来たところですから」

「注文は?」

「ええ、今」

「こっちにもドリンクバー」

「あっ、はい!」


彼とは正反対に怖そうな釣り目のどこまでもぶっきらぼうなその人は、ちらりとこちらに視線を投げただけで短くそう言うとシートにどかりと腰を下ろした。

白い髪に赤い目。肌も服まで白い。その物珍しい容姿にまた思わず不躾に全身を眺めてしまう。

もしかしたらこれがアルビノというやつなのだろうか。

ごく普通のファミレスでそこだけ浮いているその人自身の外見もさることながら、物憂げなイケメンとのアンバランスな組み合わせに私の中にムクムクと好奇心が湧く。

何よりいつもは悲しげな彼が白い人を見た途端、初めてぱっと嬉しそうに笑ったのだ。

(……って、えっ!?)

奇妙な二人を代わる代わる見遣っていた私の目にまたも驚きのものが飛び込んできた。

白い人の細い首にもうっすらと赤い痕が出来ているのだ。

「良かった、最近はなかなか家を出られないので今日は会えないかと思いました」

「あァ、俺もだ。ついさっきなンとか抜け出してきたとこだ」

「はは」

私に対しては仏頂面な白い人が彼には親しげに話しかけている。そして彼の方もそれに微かに笑って返す。
それだけでこの二人がとても親密な関係なのがよく分かった。

白い人の方はひどく痩せていて線が細く、どちらかといえば小柄なので頑張れば女性に見えないこともない。
が、その声の低さは間違いなく男だ。

(………………まさかホモップル?)

世の中には私の知らない変わった人達がたくさんいるなあ、と妙な感慨に耽りながら私は厨房へと戻っていった。







一方「で、最近そっちはどォだ?」

白垣根「ええ、まあ……相変わらずといったところでしょうか」

一方「そォか」

白垣根「ええ」

一方「……」

白垣根「……」

一方「あァ、そォいやァ昨日ヒーローが入院してな」

白垣根「えっ、どうしてですか!?」

一方「……腹上死寸前で死にかけてたところを救急車で運び込まれたらしい。今は絶対安静の面会謝絶状態だそォだ」

白垣根「……ああ」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……彼は大丈夫なんでしょうか」

一方「あいつに限っては問題ねェ。いつものことだ」

白垣根「それもそうですね」

一方「あと第四位がついに全力で浜面寝取りにかかって今能力追跡と修羅場ってる」

白垣根「そうですか」

一方「あァ……」

白垣根「……」

一方「……」

一方「ところでオマエ、首に痕付いてンぞ」

白垣根「えっ? あ、ああ……すみません。はは、見えるところには付けないようにいつもお願いしてるんですけど」

一方「……キスマークか?」

白垣根「いえ、これはあれです。…………乗馬鞭的な」

一方「……そォか」

白垣根「はい……」

一方「……」

白垣根「……」


白垣根「ちなみにあなたの首のそれは?」

一方「ン? あァー……」

白垣根「キスマークですか」

一方「いや、首輪だ」

白垣根「ですよねー」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」

白垣根「……それで、そちらは最近どうなんですか?」

一方「ビクッ」

一方「………………」カタカタカタカタ…

白垣根「……すみません、無理して言う必要はありませんから。無神経なことを聞いてしまってごめんなさい」

一方「いや……イインだ。同士であるオマエとはこォして定期的に近況報告するって約束だったからな」

白垣根「第一位……」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」カチャッ

白垣根「……」

一方「……」カチャカチャ

白垣根「……」

一方「……」ズズッ

白垣根「……」

一方「……ふゥ」カタッ

白垣根「……」

一方「……」

一方「昨日一昨日は……」

白垣根「……」ゴクリ

一方「中でぐにょンぐにょン激しく蠢く系と数珠状に繋がってるビーズ系だった」

白垣根「……ぐにょんぐにょんですか」

一方「ぐにょンぐにょンだ」

白垣根「ぐにょんぐにょんかあ」

一方「ぐにょンぐにょンだ」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」


一方「それで……それで、そのぐにょンぐにょンしたぐにょンぐにょンが、な」カタカタ…

白垣根「……」

一方「俺の……俺、の……」カタカタカタ…

白垣根「っ!」ガタッ

白垣根「もういいっ…! もういいんですっ…! 休めっ…! もう休んで下さい第一位……っ!!」ガシッ

一方「……す、すまねェ」ゼェハァ

白垣根「いえ、いいんです。私も似たようなものですから……」

一方「そォか……」

白垣根「はい……」

一方「……そォか」

白垣根「……はい」

一方「……ちなみにオマエはどンな感じだ?」

白垣根「ビクッ」

白垣根「………………」カタカタカタカタ…

一方「……悪い」

白垣根「い、いえ大丈夫です……。そうですね、こっちはあれです」






白垣根「スイカ的な」

一方「……カブトムシだからか」

白垣根「カブトムシだからです」

一方「カブトムシだからかァ」

白垣根「カブトムシだからですね」

一方「スイカはキツイな」

白垣根「スイカはキツイです」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」

白垣根「すごく……大きかったです……」

一方「そォか……」

白垣根「はい……」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」


一方「ハハッ、笑っちまうよなァ。『こっから先は一方通行だ! 侵入は禁止ってなァ!』とか言ってたこの俺が今じゃ二方通行なンだぜ?
   自分の直腸の交通整備すら出来ねェ駄目駄目な整備員だ……」

白垣根「あまり自分を責めないで下さい。あなたの気持ちは私には痛いほど分かりますから」

一方「……俺さァ、改めて思ったわ。あァ、ボラギノールさンって偉大だったンだなって」

白垣根「そうですね、私も心からそう思います」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」

白垣根「……あの子も打ち止めと同じですよ。彼女は好奇心が旺盛ですから。そこがいいところでもあるんですけどね。
    基本的に彼女の発想力には常識が通用しないので次に一体どんなダークマターが出てくるのかどれだけ演算しても予測がつきません」

一方「……ちなみに例えばどンなの出たの?」

白垣根「むしろ私の身体の至る所からいろいろ出させられてるっていうか……」

一方「あァー、そっちかァ」

白垣根「そっちです」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」

一方「そォいや樹液系は今もやってンのか?」

白垣根「やってますよ。普通に塗りたくったり舐めさせられる系から最近は目隠しして両手両足拘束された状態で床に這いつくばりながら舐めさせられる系に進化しましたけど」

一方「……そォか」

白垣根「ええ」ズズッ


一方「ところでオマエら二人で普段どンなとこ出掛けてンだ?」

白垣根「主に森……ですかね」

一方「森か」

白垣根「森です」

一方「……イイと思うぜ? 大自然に触れ合うとかすげェ健全じゃねェか」

白垣根「やってることはこの上なく不健全なんですけどね」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」

白垣根「ちなみにあなたの方はどうですか?」

一方「ン、あァ。普通に映画とか遊園地とか水族館とか……」

白垣根「いいじゃないですか。羨ましいです」

一方「まァ必ず何かしら身体に仕込まれながらだけど」

白垣根「あー、ただの羞恥プレイだったかー」

一方「悔しいでもビクンビクン系が好きなンだよなァあいつ……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……ははっ」グスッ

一方「……辛かったら正直に言ってイインだぜ?」ポン

白垣根「いえ。これもまた一つの彼女の愛ですから」

一方「愛か」

白垣根「愛です」

一方「愛なァ」

白垣根「愛です」

一方「愛って一体なンなンだろォな」

白垣根「なんなんでしょうね」

一方「……」

白垣根「……」

一方「……」

白垣根「……」


一方「……でもよォ。ここ最近はこンな風にも感じるンだよ」

白垣根「え?」

一方「あれから10年も経って、あンなにガキ臭かったあいつがここまでとンでもなく成長して、」

白垣根「……」

一方「正直……」

白垣根「……」

一方「…………今のおっぱいがたゆンたゆンでおしりがぷりンぷりーンな打ち止めに笑いながら罵られつつブチ込まれるっていうのは……意外と悪くねェかもな、って」

白垣根「……!」ガタッ


白垣根「…………奇遇ですね。実は私も最近あなたとまったく同じことを考えていました」

一方「……オマエにも分かるか」

白垣根「はい。もちろん最初は戸惑いしかありませんでした。
    情けない話ですが……深い屈辱感と絶望感と悲しみに包まれて私は毎日こっそり泣いていました」

一方「……」

白垣根「ですが……」

白垣根「顔はあんなにも無邪気に子供のように笑っているのに私に対する行為はこの上なくえげつない。
    肉体も人としての尊厳もズタズタに傷つけられ、痛みにのたうち回りつつもそんなフレメアの二面性、ギャップを無様に床に転がりながら見上げている内に……なんだか……」





白垣根「あ、アリだな……って」





一方「…………上り詰めたな」

白垣根「これがホルスの、神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く者の領域というものなんですね。足を踏み入れて初めて、私の中に真世界が広がりました」

一方「……ははっ」

白垣根「ふふっ」

一方「……俺さァ。オマエとダチになれて良かったわ」

白垣根「私もです。あなたという友人に出会えて本当に良かった」

一方「……ふ、」

白垣根「ははっ」

一方「ははははははは」

白垣根「ふふふふふふふ」








「お会計801円です。はい、ちょうどお預かり致します」チーン


テーブル越しに互いに顔を突き合わせながら時折笑い合っていたホモップル(推定)の二人が並んでレジの前に立つ。

一人座っていた時にはあんなにアンニュイだった彼が今ではどこか晴れ晴れとした明るい表情をしているのを見て、私は注文を取った時に抱いた疑問を確信に変えた。

この白い人と話している時の彼はとても嬉しそうだ。

「ありがとうございます、ごちそうさまでした」

やっぱりそう言って馬鹿丁寧に頭を下げてくれる彼にキュンとしながらも
二人の間だけにある絆のようなものを垣間見て、私は残念な気持ちより微笑ましい気持ちで頬を緩ませる。

ただ会計を済ませて店のドアに向かう仲の良い二人の会話の中から途切れ途切れに
手錠、ギャグボール、ローター、電マ、ローション、媚薬、アナルビーズ、アナルバイブ、浣腸、にんじん、きゅうり、ニガウリといった単語が耳に入ってきて私は再び真っ赤になった。

同性愛者のカップルはとても愛情細やかで情熱的だと聞いたことがあるけれど、どうやらその話は本当のようだ。


「ありがとうございました。またお越し下さいませ」


厳しい世間の目に負けず頑張って下さいね、と心の中で呟いて私は深々とお辞儀をしつつドアから出て行く彼らを見送る。

私にもいつかあんな風にお互い深く愛し合える恋人が出来たらいいな。

そんなことを考えながら、私はなんだか温かな気持ちでアルバイトの仕事に戻った。












フレメア「カブトムシ、おっかえりー! にゃあ!!」ピョンッ

白垣根「ただいま、フレメア」ポフッ

フレメア「えへへ~。ねえねえ聞いて! 大体今日は私がごはん作った、にゃあ! 鯖の味噌煮だぞ!」

白垣根「それは楽しみですね。あなたの手料理が食べられるなんて私は幸せ者です。
    ……あと久しぶりに床じゃなくてちゃんとテーブルについて食器から食べられるのも」ナデナデ

フレメア「ん? 大体なに言ってるんだ? にゃあ」

白垣根「え?」

フレメア「大体今日も床だぞ? だってカブトムシはただの絞りカスの虫ケラなんだからそんな人間様みたいな上等なことをしていいはずがないからな、にゃあ」ニッコリ

白垣根「あっ……///」ゾクッ…

フレメア「ふふ。分かったか?」

白垣根「は、はい……」ドキドキ…

フレメア「違う、にゃあ!! 大体返事はか・し・こ・ま・し・ま・し・た、だッ!!」ゲシッ

白垣根「あっ…!」ドテッ

フレメア「ほら、早く言うんだにゃあにゃあ!!」グリッ

白垣根「ひぎぃっ!? ……カっっっ、じィ、KO、まっ、ィり、まぁあ、SHI、ィだっっっ……ッ!!!???」ビクンビクン

フレメア「あは。良い子だ、にゃあ」ナデナデ

白垣根(フレメア……///)キュンッ



HAPPY END!!



本当に終わりです

こんなひどい話書いてすみませんでした

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