とある甜瓜の寝室童話(ベッドサイドストーリー) (24)

禁書SSです。文字数は4000程
特定のヒロインを軽んじている様な描写が在るので、ご注意を

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382712026

上条当麻の手に因り第三次大戦と、それに伴う危機は去り、世界は急速に日常を取り戻していった

それは学園都市、そして上条自身にも例外では無く
上条がロシアの海から発見され病院に入退院する二月程の間に彼と、関係する人間にも変化が起きる

日常の回帰と上条当麻の一時退場を機に、上条に想いを寄せる者達は気付き始めたのだ
自分が右手〈幻想殺し〉を通してでしか上条を見れていなかった事に
自分が上条当麻の一面に過ぎないヒーロー性に惹かれ憧れていた事に
それはこの思慕の想いが、非日常と幻想殺しが見せた幻想でしかなった事を意味する事を

その事実は彼女等自身にとって意外なものであった

彼女等は、上条と闘い、或いは上条と共に闘い、上条に護られ、或いは上条を護る中で
少なからず上条当麻を理解していったつもりだったのだから

しかし、それは理解していると思い込んでいただけでしかなく
彼女等は全てが幻想殺しを起点に上条を知り、幻想殺しを介してでしか上条に触れる事が無く
幻想殺しを要としない、即ち日常にいる上条と接点を持った事は殆ど無かった

何より彼女等は少年の英雄譚を誰よりも近くで観ていた観客で在り、同時に英雄譚のキャストでも在った
そんな彼女等が上条当麻を正しく捉え、判断し、理解出来る筈がなかったのだ

科学と魔術が交差し幕を開けた、遠大で、凄絶で、幻想的な物語に彼女等は誘い込まれ
誰もが気付かぬまま、上条当麻の幻想<ヒーロー>を相手に、夢中でヒロインを、舞台を演じ続けていたのだから

もしかしたら彼女等は此処
上条当麻がヒーローを演じる必要が無くなった世界 ――則ちヒーローで無くなった上条当麻――
に到って『上条当麻』という人間に、初めての逢着を果たしたのかもしれない

そして彼女等は理解する
もう醒める時なのだと
もうあの非日常はやって来ない
もうヒーローが最強や神の如き者達を打ち倒す事は無い
もうヒーローが世界を救い、新たなる叙事詩を打ち立てる事も無い
もうヒーローとヒロインが絵本の様な、映画の様な、小説の様な、そんな物語に身を投じる事も出来はしない

そして、自分の恋したヒーロー<幻想>は、もう、いない事を

そう
ヒーローの活躍に因り
悪の親玉の野望は費え
世界は平穏を取り戻し
ヒーローは役目を終え少年に、『上条当麻』に還った

劇的に始まった、遠大で、凄絶で、幻想的な物語は、円満なる終わりを迎えた
万雷の拍手も総立ちの歓声も何も無い、静かな終わりだが、一つの物語は確かに終わりを迎えたのだ

だから

ヒロインも役を終え、恋から、幻想から、非日常から、醒め、少女に、『   』に還る時が来たのだと、理解した

魔術側である禁書目録は本来の所属先で在るイギリス清教の元に戻り
必要悪・天草式一同は彼女の世話と護衛の任に就き
ランベス寮の修道女達は修道女としての本分を自覚し勤めを果たす

一方、科学側である御坂美琴は筋ジストロフィの治療法解明と、自己の可能性の追求
"姉妹達"は一個の人間として歩む道を探し始め
姫神秋沙は原石と向き合い、本当の意味で、自らの足で立ち上がるの道を探し始める


確かに少年への罪悪や己への羞恥は、誰の胸にも在るだろう
それでも彼女等は笑顔を浮かべ、少年に別れを告げた

あの日々は確かに幸せだったから、確かに意外な終わりだが、
あの日々は確かに在って、確かに幸せで、決してそれは幻想なんかじゃなかったから
だから、ありったけの感謝と笑顔を少年に贈り、ヒーローから、幻想から、決別を果たした

かくして少年の英雄譚、少女等の恋奇譚、二つの物語は終幕を迎えた

少し意外で呆気無く、ほろ苦い終わりかもしれない、それでも彼女等が俯く事は無い
少年の稀有なるパーソナリティとその高潔な行為は、彼女等の運命を変え
それは彼女等のパーソナリティにも宿り、彼女等を変えた

だから下を向かず前を見据え、彼女等は歩き出す それぞれの道を、それぞれの未来へ

自らの信念を曲げる事無く、傷を負い倒れたとしても、誰かの為何度でも立上り
誰かの幸せを守り、誰かに笑顔を創る、あの少年の様に、あの少年の様に成る為に

彼女等は歩き出す

いつか、彼女等の中には真に愛した相手と子を授かる者もいるかもしれない

我が子の枕元で絵本の代わりに話すかもしれない

映画の様な、自分とヒーローとの英雄譚を

小説の様な、あの日々を

甘く青かった、あの幻想を

自分を変えてくれた、あの少年との物語を

追憶と、少しの苦笑いを最後に浮かべながら

少年との非日常はきっと、子供の目を輝かせる、そんなベッドサイドストーリーの一つだったのかもしれない

とは言え、彼女等にとっては様々な意味と決意が篭った別れとなったが、人の感情
特に色恋の機微に疎い上条が気づく筈も無く
あの別れは、友人達が新たな道を歩み出した喜ばしい別れそのものであり、又
自身をヒーローとは認識していない上条にとって、あの非日常は楽しくも医療費(と食費)が嵩んだ日々に過ぎなかったのだが

他方、多くの女性が勝手に幻想に罹り喚き騒ぎ盛り上がり、最後には独りでに幻想から醒め決然と歩き出す中で
変わらぬ者も又いた

彼女は対カミジョー属性を持つ唯一の人間、当然上条当麻の幻想などに罹る筈も無い
言い換えれば、上条に付属する特殊性や英雄性といった上辺や、或いは過去すらも排し
『上条当麻』を、その本質だけを見て触れる事が出来る唯一の人間と言えるのだろう

えーと…… それは当麻との馴れ初め…… という事かしら? どうしてそんな事を?


彼女は生まれてこの方日常の中で暮らして来た
一方、上条当麻は生まれながらに特殊な右手を持ち非日常に塗れて来た


だってお父さんて世界を救ったり色んな人を助けたりしたヒーローだったんでしょ?


彼女と上条は人生も性格も対極に位置する反面、極めて似た性質も併せ持つ


……まあ、そうらしいわね


そんな二人が交差し交じり逢うのは、酷く当然の帰結だったのかもしれない


だからお母さんとも映画みたいな事が有ったのかなって


彼女等はまだ知らなかったのだ
絵本の様に、映画の様に、小説の様に、ヒーローとヒロインが出逢い、結ばれる、そんな恋だけが恋ではないと

オートミールを掻き混ぜる様な、そんな平凡で、平淡で、ありふれた日常の様な、恋も又、恋なのだと
ただ知らなかっただけ

そして愛に至る恋も又
ヒーローと呼ばれた少年が選んだ恋も又

……うーん、普通だった
高校で出逢って付き合って
同じ大学に入って結婚して、そんなトコロかしらね

……え?! それだけっ?!

それだけって言われても……

えーと、じゃあ、お母さんを狙う敵をお父さんが倒したり、攫われたお母さんを助け出したりとかは?

無かったわね、全く

じゃ、じゃあ苛酷な運命にほんろーされるお母さんを救い出したり、お母さんの為に強大な敵に立ち向かったりは?!

うん、無かった。母さん生まれも育ちも普通だったから
そもそも当麻が本当にヒーローの真似事してたなんて、大学の時知った位だからね

……えー、つまんなーい
じゃあヒーローとヒロインみたいな事は無かったんだぁ……

あー…… そういうのかぁ…… うーん、何かあったかしら…… 

あ! そうそう! 高校時代、お母さんが倒れた時真っ先に駆けつけてくれた事はあったわ!

……うーん

……ダメ?

ステキとは思うけど…… でもちょっとスケールが小さいかなー?

あー、スケールかぁ

まぁ、でも、お母さん以外とはなんか凄いスケールの番外編<英雄譚>も在ったらしいわよ

バンガイヘン??

それにあの馬鹿者は今でもヒーローの真似事してるのかもしれないもの、私達の為に…… 私達が知らない処で……

え?

でもね、麻理<マリ>

本当に好きな人をといれば、どんなに平凡で、平淡で、ありふれた日常だって、心躍り光輝いて見える

その世界はきっと

ヒーローとヒロインが大立ち回りする、劇的で、刺激的で、幻想的な世界なんかより
遥に得難くて、遥に愛しくて、遥に幸せだと…… 母さんはそう思うなぁ……

うーん…… お母さんがそう云うのならそうなの…… かなぁ?
でもでもヒロインになれる方も面白そうだけどなぁ……

そうね…… いつか分かる日が来るわ…… そう、いつか…… ね
はい、お話はここまでしましょう。 もう寝る時間よ、夜更かしは――

"健康"に悪い! でしょう? えへへぇおやすみ、おかーさん

ふふ…… おやすみなさい


            chu!

確かに、彼女の物語はベッドサイドで語るには、退屈な物に見えるのかもしれない
絵本の様な、映画の様な、小説の様な、そんな物語とは縁遠い、彼女の物語
それでも彼女の物語は、他の誰よりもベッドサイドストーリーには相応しい物だ

だって、彼女等の華々しい恋物語<英雄譚>はヒロインの途中降板でまさかの打切り
終幕を創る事無く物語を終わらせて、新章第一幕へ歩き出していった

彼女等は語らないだろう、ヒーローとヒロインの終幕は
その終わり方は、子供部屋のベッドサイドに相応しい物じゃあないから
グラスを片手に語る物だろうから

彼女と上条当麻との物語には、ヒーローもヒロインも存在せず、非日常は出番すら無い
ただただ平凡で、平淡で、ありふれた日常の様な物語

それでも彼女は抱締めた、ありふれた日常を、ヒーローでは無い上条当麻を、彼女だけが触れられる本質を
ただ只管に、己の全てで、抱き締めた

だって、彼女はヒロインなんかに興味は無い、ヒーローの隣を歩き叙事詩を創る、そんなモノには興味が無い

変わり往く日々の中でも、変わること無く手と手を繋ぎ、寄り添い歩く
それを彼女は望んだから、共に物語を創るヒロインではなく、共に連理を制<つくる>ブライドを望んだから

だからこそ、手に出来た、日常すらも幸せで、寄添うだけで幸せで、それはきっといつまでも続いていく

そんな、誰もが羨む本当の最高なハッピーエンドってやつを


だから相応しい

何故なら、ベッドサイドストーリーの終り方は、ハッピーエンドでなければならないのだから


おわり

ガールミーツボーイや英雄譚の幕が下りた先に在る物語を妄想してたら、こんなのが出来ました
ヒロイン達の扱いに納得いかない方もいらっしゃるでしょうが、平にご容赦を

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom