恭介「さやかはレアなCDを見つける天才だね」
さやか「恭介が喜んでくれるならどんなCDだって探しちゃいますからねー!」
仁美「……」
さやか「おっ、もうこんな時間。仁美、帰ろうか」
仁美「……そうですね。上条君、失礼します」
恭介「さやか、CDありがとう」
さやか「いいってことよ、また何かあったらさやかちゃんにまかせなさーい!」
仁美「……」
さやか「恭介のやつ、元気そうで安心したよ」
仁美「これなら退院もそう遠くありませんわ」
さやか「退院祝いしなきゃね。仁美は何かあげたりするの?」
仁美「ええ、小澤さんの指揮するコンサートのチケットがとれたので、ご一緒できればと思ってます」
さやか「ひゃー、仁美はすごいね、さすがお嬢様!」
仁美「さやかさんは?」
さやか「お金ないからねー、いつも通りCDかな」
仁美(これでしたら勝負は私の勝ちですね)
さやか「でもね、恭介がずっと探してたっていうCDが手に入りそうなんだぁ……」
仁美「!」
さやか「CD自体は特別じゃないんだけどね、シリアルナンバー入りの、それも番号まで指定されたから苦労したよ」
仁美「……そ、そういった類のものはどうやって探されてますの?」
さやか「まずは店舗で探して、それからネット。それでどうしようもなかったら、とっておきのお店に行くの」
仁美「さやかさんのとっておき?」
さやか「ほら、ここだよ」
仁美「あら、レコードがたくさん……」
さやか「このお店、LDやらレコードが主流だった頃から続いてるから、店長の人脈も広くてね、色々探してもらえるの」
仁美「へぇ、そうでしたの……」
さやか「恭介が退院して、体調も落ち着いたら一緒に来ようと思ってるんだ。その時は仁美も一緒にどう?」
仁美「ええ、ご一緒させていただきますわ」
仁美(このお店は厄介ですわ……)
さやか「あ、そうだ。頼んでたCDのこと聞いてくるね。少し待ってて!」
仁美「はい、わかりました」
さやか「店長さーん、前頼んでたあれ……」
仁美(盗み聞きなんて、はしたないですけど仕方ないです)
さやか「うそ、もう届いたの!?おお、これだよ、すごい!」
さやか「あー、また今度取りにくるよ。今はお金がねー」
仁美(まずいですわ……)
仁美「さやかさん、次はいつ来られますの?」
さやか「ああ、来週数学のテストあるでしょ?あれが終ったら来ようかなって」
仁美「そうですの、それならまだまだ日はあるんですね」
さやか「うん。仁美も来たいの?」
仁美「いえ、ただ聞いてみただけです」
さやか「ふーん。変な仁美」
さやか「じゃあねー!」
仁美「さようなら、さやかさん」
仁美(よし、さやかさんの姿は見えなくなりましたわ)
仁美「もしもし。お父様?ちょっとお力をお借りしたいんです」
仁美「いえ、そんなに難しいことじゃありませんわ。ただ潰してほしいお店と手に入れたい品物がありますの」
仁美「一週間以内にお願いします。お父様には感謝してもしきれませんわ。はい、ではまた夕食の時間に」
仁美「……ふぅ。これで少しは安心できますわ」
まどか「おはようさやかあちゃん、なんちゃってー!」
まどか「あ、あれー……?」
さやか「まどか、まどかぁー!!」
まどか「仁美ちゃん、いったい何が……」
仁美「さやかさんの行きつけのCDショップが火災で全焼してしまいまして、上条君にお渡しする予定だったCDも灰に……」
さやか「恭介、楽しみにしててくれたのに……」
仁美「放火だったようです」
まどか「放火……そんなの絶対許せないよ……!」
さやか「うぅ……」
仁美「さやかさん。元気をお出しになって。上条君はCDよりもさやかさんが来てくれることを望んでいるはずですわ」
さやか「そ、そうかな……?」
仁美「ええ、きっとそうですわ。今日もお見舞いに行かれるんでしょう?ご一緒します」
さやか「ありがとう、仁美……!」
仁美「こんにちは、上条君」
恭介「やあ、志筑さん。さやかは?」
さやか「きょ、恭介……」
恭介「さやか!君が来るのをずっと楽しみにしてたんだ!あのCDを手に入れたんだってね!」
仁美(あら、上条君ってば。三日前にちらっと話しただけですのに、よほど楽しみだったんですね)
さやか「そ、それがね……」
さやか「……というわけなの。本当にごめん!」
恭介「それなら仕方ないよ。さやかが放火したわけでもないんだし」
さやか(恭介の表情が一瞬陰ったような……)
仁美「お二人とも落ち込まないで。上条君には私からもプレゼントがありますの」
恭介「これは……?」
仁美「小澤さんのプレミアコンサートのチケットです。よかったら二人でと思いまして」
恭介「二人?僕とさやかかい?」
仁美「えっ」
さやか「えっ」
仁美「か、上条君。どうしてそうなるんですの」
上条「僕へのプレゼントだろ?で、さやかにも落ち込まないでって言ったじゃないか」
仁美「そんなのただの施しじゃありませんか……」
上条「だって、プレゼントだろ」
さやか「恭介、仁美と行ってきなよ。小澤さんの指揮が好きだって言ってたじゃない」
上条「何で僕と志筑さんが二人で?さやかも一緒に行こうよ。志筑さん、もう一枚どうにかならない?」
さやか「恭介……」
仁美「そうですね、探してみます……」
仁美(どうしてこうなったんですの)
さやか「あちゃー、もうこんな時間か。もう帰る?」
仁美「そうですね、外も暗くなってきましたし」
さやか「ということで帰るね。バイバイ」
仁美「またうかがいますわ、上条君」
恭介「またね」
さやか「……ねぇ、仁美」
仁美「何です?」
さやか「恭介は何であのCDのこと知ってたんだろう。退院までの秘密だったはずなのに」
仁美(あら、さやかさんを絶望させようとしたのはいいものの、細かいことを考えてませんでした。私としたことが)
仁美「私が看護師さんに話したら、上条君の耳に入ってしまったらしいんですの。ごめんなさい」
さやか「何だ、そうなんだ。びっくりしちゃったよ~」
仁美(あら、これでごまかせるなんて単純ですわ)
さやか「仁美は病院の人とも仲良くしてるんだね。すごいや」
仁美「仲良くなんてとんでもありませんわ。ただたまに差し入れをしたりする程度ですもの」
さやか「差し入れ?恭介の病院にわざわざ?」
仁美「今度お菓子業界に参入することになりましたので、その試食も兼ねて、といったところです」
さやか「手広いね……。でも、お菓子の差し入れっていいかも」
仁美「さやかさんもしてみては?手作りなんかいいんじゃないですか?」
さやか「うん、やってみようかな!」
仁美(馬鹿なさやかさん。手作りなんて警戒されるに決まってます)
さやか「ひっとみー!」
仁美「あら、朝からどうなさったんです?」
さやか「病院の人に手作りのカップケーキを差し入れしたら大好評だったよ!」
仁美(なっ……)
まどか「半分はうちのパパが作ったんだけどねー」
さやか「まどか、それは言わない約束じゃんか……」
まどか「だって、上条君も見破ってたじゃない」
仁美「上条君が、カップケーキを?」
さやか「うん、看護師が特別に許してくれて」
仁美(私の時は駄目の一点張りでしたのに)
さやか「でね、恭介の体調もだんだん良くなってるみたいで、本当に退院が決まりそうなんだって!」
仁美「あら、喜ばしいことですわ」
まどか「でもさやかちゃんは追試があるからね。上条君のこと気にするのもいいけど勉強もしなくちゃ」
さやか「そうなんだよねー。お見舞いもしばらくはお休みかなあ……」
仁美(好機ですわ)
仁美「上条君」
恭介「……ああ、志筑さん。毎日来てくれてるけど、大丈夫なの?」
仁美「ええ。さやかさんがいないと不満ですか?」
恭介「いや、そういうわけじゃないよ」
仁美「それはよかった。新しいお花を持って来ましたの、花瓶にさしておきますね」
恭介「頼むよ」
看護師「今一人?ちょっといいかしら。検査結果のことなんだけど」
恭介「……はい」
恭介「本当ですか!?」
医師「ああ。おめでとう、恭介君。私たちはさみしくなるがね」
看護師「もうリハビリも必要ないわよ。よかったわね」
恭介「これでやっと学校に行けるんだ……!」
仁美「あら、こんにちは」
医師「こんにちは」
看護師「こんにちは。恭介君、三日後に退院できるのよ」
仁美「まあ、本当ですの!?」
恭介「そうなんだ。志筑さん、さやかに伝えてくれないかな」
仁美(また、さやかさん)
恭介「駄目なら僕が電話するけど……」
仁美「それにはおよびませんわ。伝えておきます」
仁美(なーんて、伝えられる程優しい人間ではありませんの)
仁美「上条君、おめでとうございます」
恭介「ああ、ありがとう。さやかは……来てくれなかったね」
仁美「そうですわね。ところで、学校にはいつから?」
さやか「ふぅー、やっと追試終わり!」
まどか「受かってるといいね」
さやか「さやかちゃんに不可能などない!あ、まどか、今日はここで」
まどか「上条君のところだよね。さみしがってると思うよ。早く行ってあげて」
さやか「うん、じゃあね!」
まどか「頑張れ、さやかちゃん」
看護師「恭介君ならついさっき退院したわよ」
さやか「えっ……」
看護師「志筑さんって言ったかしら。あの子が来てたわね」
さやか「そうですか、わかりました」
看護師「じゃあね~」
さやか「さようなら」
恭介「志筑さん、車椅子を押してくれるのは嬉しいんだけど、家に帰らなくちゃ」
仁美「少し散歩してるだけですわ」
恭介「でも、だんだん人通りも少なくなって……危ないよ」
仁美「……」
恭介「志筑さん」
仁美「……この辺でいいですかね」
仁美「キュゥべえ。お待たせしました」
QB「待ちくたびれたよ」
仁美「私、あなたと契約します」
恭介「志筑さん?誰かいるの?」
仁美「私は、上条君と二人きりの世界に行きたい」
QB「おめでとう、志筑仁美。君の願いはエントロピーを凌駕した。君もこれからは魔法……あれっ」
QB「参ったな。志筑仁美と上条恭介の二人きりの世界がまさかあの世という意味になってしまうなんて」
QB「僕はただ志筑仁美の願いを叶えただけになってしまった」
QB「ああ、この世は謎だらけだ」
さやか「……キュゥべえ!」
QB「おや、さやか。久しぶりだね。追試はどうだった?」
さやか「そんなのどうでもいいよ……。その車椅子は……」
QB「上条恭介の使用していたものだね」
さやか「あんた、恭介に何を……!!」
QB「というわけ。僕は働き損だよ」
さやか「そんな……」
QB「残念だけど、二人はもう戻らないよ。神隠しにあった、とでも囁かれるんじゃないかな」
さやか「……」
QB「おいおい、ソウルジェムがすごい勢いで濁ってるよ。大丈夫かい?」
さやか「あたしってほんとバカ……」
おわり
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