ベルトルト「失くし物」(25)
ミカサ「(あとは見てないのはここだけ……)」
ベルトルト「……やあ、ミカサか」
ミカサ「こんばんは、ベルトルト」
ベルトルト「そうだ、ミカサはこの髪留めに見覚えない? 今さっきここで拾ったんだ」
ミカサ「それは……」
・ベルトルトとミカサ
・ネタバレと捏造あり
・一瞬ジャンミカっぽいの
書き溜めてあるんでたぶんすぐ終わる
ベルトルト「持ち主を知ってるの?」
ミカサ「知っている。というより、私の髪留め。それを探しに来た」
ベルトルト「ああ、そうなんだ。はいどうぞ」
ミカサ「……ありがとう」
ベルトルト「ミカサも髪留め使うんだ」
ミカサ「使わないこともない。最後に髪を切ってから大分経った。ので、特に入浴の時は重宝している」
ベルトルト「ミカサの黒髪によく似合いそうな赤だよね。普段から使えばいいのに」
ミカサ「それは……その」
ベルトルト「……もしかして、ジャン?」
ミカサ「!」
ベルトルト「あ、えっと……前にジャンが、それくらいの大きさの紙袋を大事そうに持ってるのを見たことがあって」
ミカサ「……そう」
ベルトルト「意外と気に入ってるんだね。これはジャンにもチャンスはあるのかな」
ミカサ「え……?」
ベルトルト「使う気がないなら、普通はしまっておくだろ? でもここで落としたってことは、普段は持ち歩いてるってことだ」
ベルトルト「人前で……エレンやジャンの前で使うのは恥ずかしいけど、つい持ち出してしまうくらいには気に入ってるってとこかな」
ミカサ「……エスパー?」
ベルトルト「大袈裟だな。アルミンやマルコも、たぶん同じことを言うよ。……ごめん、ちょっと喋りすぎた」
ミカサ「あの、ベルトルト」
ベルトルト「ん?」
ミカサ「できれば、このことは言わないでほしい」
ベルトルト「ははは、言われなくても黙ってるよ」
ミカサ「――……」
ベルトルト「……? どうかした?」
ミカサ「……いいえ。貴方の笑った顔、珍しい気がして」
ベルトルト「……。そうかな。ライナーやジャンといるときは、それなりに笑ってるつもりだけど」
ミカサ「ええ、それは知ってる。ライナーもジャンも、よく人目を引くから。それにアルミンからは、貴方とは本の話で盛り上がって、つい止まらなくなってしまうことが間々あると聞いている」
ベルトルト「ああ、つい最近もそんなことがあったばかりだよ」
ミカサ「でも、貴方は。アルミンの幼馴染みで、ライナーを兄のように慕い、ジャンと張り合ってばかりいるエレンとは、距離を置いているようだから……ベルトルトが笑っているところを近くで見るのは、おそらく今日が初めて」
ベルトルト「そ、れは」
ベルトルト「……ミカサ、怒ってる?」
ミカサ「何故?」
ベルトルト「いや、ほら……僕がエレンを避けているから」
ミカサ「? 反りが合う人もいれば、合わない人がいるのも当然のこと。エレンは小さい時、私とアルミンしか友達がいなかった。訓練兵になって友人は増えたけれど、気が強いエレンに苦手意識を持っている人はまだ多い」
ミカサ「ので、むしろ貴方の方が普通の反応に思える」
ベルトルト「……エレンは、強いね。僕は彼に近付くことはおろか……彼を見ることもできない。彼は眩しすぎる」
ミカサ「エレンが羨ましいの?」
ベルトルト「羨ましい、か……うん、そうかもね。僕もエレンぐらい強ければ、こうして迷うこともなかっただろうに」
ミカサ「エレンより上位の貴方が何を言うの」
ベルトルト「はは、それもそうだね。……でも、エレンは真っ直ぐで、何が来ても絶対にブレない芯を持ってる。僕は優柔不断だから、それが羨ましくもあり……ちょっと、恐いかな」
ミカサ「私は昔から性格を直せとずっとエレンに言ってきた。それがエレンの長所であることも分かっている」
ミカサ「けれど、現にこうしてベルトルトが怯えている。アルミンにも頼んでいい加減どうにかしないと」
ベルトルト「えっ、いいよそんな! 僕なんかのために」
ミカサ「貴方のためではない、これはエレンのため」
ベルトルト「あ、そう(ちょっとがっかり……?)」
カーンカーンカーンカーン……
ミカサ「……鐘」
ベルトルト「もうそんな時間か……ミカサ」
ミカサ「エレンのことでしょう」
ベルトルト「あ、うん」
ミカサ「私ばかり秘密を握られるのはフェアじゃない」
ベルトルト「ミカサって結構負けず嫌いだよね」
ミカサ「一番じゃないとエレンを守れないから」
ベルトルト「君もほんとブレないな」
ミカサ「羨ましい?」
ベルトルト「かもね」
ミカサ「恐い?」
ベルトルト「……さあ、主席様の意外と可愛らしい一面を知ってしまったから、どうだろう」
ミカサ「……」
ベルトルト「あっ、ごめん! ほんとごめん、冗談だよ!」
ミカサ「何故貴方が謝るの? ……まあ、いい。私も貴方の珍しい一面を見られたから」
ベルトルト「おあいこか」
ミカサ「おあいこ。でも、髪留めを拾ってもらった恩は、また別。何かお礼がしたい」
ベルトルト「え、いいのに。教官に手伝いを頼まれて、その帰りにたまたま拾っただけなんだから」
ミカサ「人に親切にしてもらったら、自分も誰かに親切しろと母から言われている。貴方は落ちている髪留めを見て見ぬ振りもできたはず」
ベルトルト「そう言われてもすぐには思い付かないな……そうだ。もしこの先、僕が困ったことになったら、その時に助けてよ」
ミカサ「分かった。その時になったら是非呼んでほしい」
ベルトルト「呼んだら何処にいてもほんとに飛んできそうだから恐いよ」
ミカサ「では、おやすみなさい。ベルトルト」
ベルトルト「うん。おやすみ、ミカサ」
――…………
ベルトルト「ねえ、ミカサ。あの時の約束、覚えてる?」
ミカサ「……髪留めの借りをここで返せと言うの?」
ベルトルト「無理かな」
ミカサ「流石に無理」
ベルトルト「それは残念だ」
ミカサ「なら、壁の上で貴方を一撃で仕留めなかったことでチャラにしてほしい」
ベルトルト「あれは『仕留めなかった』んじゃなくて『仕留められなかった』の間違いだろ。それに、僕がお願いしたらという条件だった筈だ。だから無効だよ」
ミカサ「むう……」
ベルトルト「というか、あれがアリなら今してくれよ」
ミカサ「……、……。分かった。貴方を見逃そう」
ベルトルト「えっほん……いや、やっぱいい、今の無しで。ミカサから逃げ切れる自信がない。もしそれで捕まったら、次はないんだろ?」
ミカサ「チッ」
ベルトルト「うわ、舌打ち」
ミカサ「私はベルトルトに恩を返したいだけなのに」
ベルトルト「厚意の押し付けはよくないよ」
ミカサ「……貴方は、あの時これが狙いであんなことを言ったの?」
ベルトルト「それは違う。あの時は任務を成功させるつもりでいた――というより、むしろ失敗するとは思っていなかったから、これと任務は何の関係もない」
ミカサ「じゃあ、始めから果たすつもりのない約束を?」
ベルトルト「……それも少し、違うかな。果たそうと果たされまいと、君と約束をしたという事実を僕は楽しんでいた。あの時の僕は兵士だったのかもしれない」
ミカサ「……」
ベルトルト「ああ、なんだ。これじゃあライナーのこと、とやかく言えないな」
ミカサ「……」
ベルトルト「アニにも怒られそうだ。偉そうに戦士、戦士言ってた奴が今さら何をって」
ミカサ「……」
ベルトルト「……ミカサ」
ミカサ「……何、ベルトルト」
ベルトルト「僕を殺してくれ」
ミカサ「……もとより、私はそのつもりで此処にいる。ので、それが恩返しになるとは思えない」
ベルトルト「僕にとっては十分恩返しだよ。厚意なんて受け手の解釈次第だろ、君がたまたま髪留めを拾っただけの僕に、いつまでも恩を感じているように」
ミカサ「それも……そう、だけど」
ベルトルト「どうせ任務は失敗だ。一人欠けた時点で、それは分かっていた筈なのに」
ベルトルト「一思いにやってほしい。僕は人類史上最悪の日を引き起こした大罪人、それに君の家族の仇でもある。躊躇うことなんてないだろう?」
ミカサ「――本当にそう思っているの」
ベルトルト「え?」
ミカサ「いいえ、なんでもない。……ベルトルト、少し、目を閉じていて」
ベルトルト「うん」
ミカサ「……おやすみなさい、ベルトルト」
どうか、彼が次に目を覚ました時、彼の大切な人が隣でほほ笑んでいますように。
祈りを込めて触れた彼の唇は、人のぬくもりがした。
「おはよう」
「……ん、あれ……?」
「どうかした?」
「なんか……すごい長い夢を見てた気がする。寝てたのに、なんだか疲れた気分だよ……」
「だろうね、随分とぐっすり寝入ってたようだから、起こすの躊躇っちゃったよ」
「えっ、え? 今何時?」
「もう夕飯できてるよ」
「うわ、ゴメン! たたき起こしてくれればよかったのに!」
「いいって、最近安定期に入ってきたからさ。たまには自分でやらないと腕がなまっちゃう」
「無理はしないでね……君一人の体じゃないんだから」
「ありがと。……それより、顔洗ってきなよ」
「へ?」
「アンタ、寝ながら泣いてたよ」
「あー……それで目がヒリヒリするのか。うわあ……なんか恥ずかしい……」
「昔っからよく泣くね、アンタは」
「それは君だって同じだろ……いっつも僕らの後ろにひっつい痛い痛い痛いやめて! 蹴れないからって背中グーでグリグリするのやめて!」
「……ほら、ご飯冷めちゃうから。早く顔洗ってきな」
「誰の所為だと……すみません今すぐいってきます」
パタン
「……ミカサじゃなくてごめん、ベルトルト」
「あー……こりゃ派手にやったねえ」
「申し訳ありません、ハンジ分隊長。思いの外ベルトルトの抵抗が激しく、生け捕りは厳しいと判断したため殺害してしまいました」
「……いや、いいよ。逃げられるよりはマシだ。それに、これならこれで『彼ら』とは違うアプローチを試みることもできる」
「……」
「疲れただろう、ミカサ。先に本部に帰っているといい。後のことはこちらでやっておくから、アルミン、ミカサについてやってくれ」
「ハッ。……さあ、行こう、ミカサ」
「……失礼します」
「……ミカサ。ベルトルトと何があったの」
「……何も」
「たぶん、ハンジ分隊長も気付いてるよ」
「何も……なかった……! ベルトルトは超大型巨人で! 人類の敵で! でも私たちの同期で!
物静かな性格だけど頼りになって! みんなベルトルトを信頼していたのに! ベルトルトは……ベルトルトは……」
「……」
「訓練兵として過ごした三年間を、まるで無かったことにしようとして……!」
強い彼女が泣いている。彼女の愛する『彼』以外の人のために涙を流している。
彼女と彼の間に何があったのか、僕には推測することしかできない。けれど確かに、今や人類最強の名を受け継ぎつつある彼女と、
人類史上最も凶悪な大量殺人鬼だった彼の間には、人間同士の絆があったのだ。彼女はそれを無かったことにしようとした彼に怒り、悲しみ、涙を流していた。
「……羨ましいよ」
大切な物が君にはあって。
おーわり
SS初めて書いたもんで読みづらいとことか不手際あるだろうけど読んでくれてありがと。
寝るには早いけどお前らもおやすみ
乙
雰囲気良かった
またなんか書いてほしいな
二人のやり取りが良い
この雰囲気好き 乙です
この二人珍しいけど好きだ
よかった乙
このSSまとめへのコメント
どーゆーことっすかぁぁぁ!?特に最後のベルさんとアニの会話みたいなとこぉぉぉ!!