安価でSSを書く (8)
地の文ありです。二次創作、エログロはなしの方向で
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ライダースーツの彼女
では「ライダースーツの彼女」で書いてきます。
即興なので遅いですがすみません。
今の時代にライダースーツなんてのを着ているのは、彼女くらいだ。
もうバイクなんて危ない乗り物は無くなったし、というと語弊か。
そう言うと近未来のようだけど、ただ、交通網が発達しただけだ。
それで、たまたま安全性の低いバイクが街から消えていっただけ。
僕は、バイクは嫌いだ。でも、ま、バイクに乗る彼女は好きだけど。
今日は、平成三十年の十一月二十五日。母さんが死んだ一年前だ。
母さんが亡くなって、少なくとも父さんは変わっちゃったと思う。
最近は、いつも何かを気にしてる。言ってしまえば、挙動不審だ。
「ねえ、父さん。いつも、何をそんなにきょろきょろしてるの?」
「え? ああ、別に。何でもないよ。お前も気にしなくていいよ」
そう、と僕が何でもなさげに返事をすると、いつも胸を撫で下ろす。
「何かあるな」と思っていても、どうにも父さんの考えが読めない。
早く家に入るんだ、なんて急かされて、僕までも落ち着けやしない。
そのとき、隣の家でバイクのメンテナンスをしている彼女を見た。
ああ、またやってるのか、と思う。せいぜい跨がるくらいなのにな。
でも、そんな彼女を見ていると、何だか微笑ましくなってくるんだ。
それで、母さんが死んだっていうのに、僕はこうも思っちゃうんだ。
また、誰もが普通にバイクに乗れるようにならないかな、とか。
僕の家には、いつも父さんがメンテナンスしてるバイクがまだある。
と言っても、それは父さんのじゃない。父さんはまず免許がない。
母さんのだ。僕より小さい母さんが、あんな大型に乗るなんてな。
人は見かけによらない。それに乗りそうな性格とも思えないけど。
『あなたより大きくなったわよ。すごいでしょ。乗りたくない?』
『僕はいいよ。怖いし。こけるのも怖い。母さん、傷だらけだし』
『こんなものは乗っていれば当たり前よ』と、母さんは笑っていた。
それでも楽しそうに日々乗っていたのだし、それは当たり前なのか。
バイクも傷だらけと言えばそうなんだけど、なんていうか味がある。
「ほら、どう? お前も乗らないか。父さんは跨ってれば満足だ」
「あ、もう、そろそろ時間か」なんて言って、父さんは出て行った。
僕はもう、今日の学校の帰りに墓参りに出て、花を添えてきてある。
行って、父さんは何を思うんだろうな、なんて僕は思い悩んでいた。
帰ってくるまで時間あるし、と思って、僕はテレビをつけてみた。
どのテレビをつけても最近はもっぱら同じニュースしかやってない。
もう見飽きた。それに僕にはあまり関係ない。どうにもならないし。
それに、またか、と思うほど最近は連日で事故のことも取り上げる。
「また、事故です。これで、今月に入って十件目です。場所は――」
なんだか聞き慣れた地名が出てて、僕はいつの間にか見入っていた。
隣の区じゃないか。物騒だな。家に突っ込んだりしないだろうな。
というか、まだバイクに乗ってる人もいるんだな。好きなんだな。
こういうニュースを見ていると、バイクが恐ろしいものと分かる。
そこまで考えて、僕は母さんがむかし言っていたことを思い出した。
『ルールを守れば、何も危なくないわよ。事故は、自らの責任よ』
と。実際そうなのだろうが、こうして連日、事故を目にしている。
けれど、こうも言っていたな。ええと、何だったかな。確か……。
『相手が不注意の場合もあるわよ。それか、考えたくはないけど』
ないけど、何だっただろうか。その頃の僕はよく聞いてなかった。
『わたしは――』と続くはずの母さんの言葉は、何だったっけな。
お腹の音で我に返った僕は、一応、父さんにメールを送ってみた。
> ねえ、父さん。いつ帰ってくるの? そろそろお腹すいた
> ああ、もうすぐ帰るよ。スーパーに寄るけど何かいる?
> 別になにも。とにかく今はご飯が食べたい感じなんだ
と、すぐに返信が帰ってきたようで、僕は心のどこかで安心した。
そう。父さんがどこかでこういう事故に巻き込まれてないか、と。
杞憂だったか。僕は空腹をしのぐため、しばらく眠ることにした。
「……ああ、何でいなくなっちゃったんだろうな、母さんは……」
次に僕が目を覚ましたのは、父さんがすべて料理を並べたあとだ。
「帰ってたのなら言ってよ」と僕は少し不満を漏らし、言った。
すると「最近、疲れてるみたいだから」と父さんは笑って言う。
「お前のことだから、寝てるだろうって思ったし」とも続けた。
何とも見透かされやすい性格をしているのかもしれない。残念だ。
父さんの料理は何だか味が普通の味なのだが、それでも美味だ。
家庭の味、と言うのか。どうにも、変えるつもりはないらしい。
料理を口に運びながらも「そういえば」と切り出して、言った。
「そういえばさ、父さん、疲労で倒れたとこだったはずでしょ」
「うん。ま、大丈夫だったけど。病院にはあとでお金を払うよ」
「それは当たり前だけど。大丈夫なの? 仕事も出られるの?」
「大丈夫」を繰り返すばかりの父さんは、明らかに疲れている。
あの日から。そう、あの日から、ずっと父さんは憑かれている。
今もずっと、気付かれないように窓の外をちらちらと見ている。
「ねえ。そこには誰もいないよ。ちゃんと鍵もかけてあるんだ」
「うん。そうだな、いや、ちょっと、虫が飛んでた気がしてさ」
「いるとしたら、せいぜい、この時間を邪魔するおじゃま虫だ」
そう、適当に答えを濁しておいた。
次の朝になると、父さんは眠ったせいか、活気を取り戻していた。
昨日病院を抜けだして、今日、早速仕事とは忙しすぎるだろう。
あるいは、意図的に仕事を入れているか、だとか。そうだろう。
「倒れても見舞いには行けないよ」とだけ軽く釘を刺していた。
「ま、とにかくさ、父さんは行ってくる。学校でも会うかもな」
「そうかも。ま、会うことはないんだろうけどさ。頑張ってよ」
「ああ」と父さんは元気よく手を振り、駅の方へ歩いて行った。
すると後ろから「おはよう」と声が聞こえるので、振り向いた。
やはりというか、予想通りというか、とにかくは彼女であった。
「おはよう。お父さん、退院されたそうじゃない。死ぬ気なの」
「じゃないかな。じゃなきゃさ、あんなに仕事したがらないよ」
「……まだ、忘れられないのかしら。わたしも辞めるべきかな」
暗に母さんのことを指しているのだと、僕は、すぐに理解した。
「彼女は母さんにそっくりだな」と父さんも笑って言っていた。
彼女を見るとどこか面影が重なるから、と言いたいのだろうな。
「君は君で、母さんは母さんだ。やりたいことはやるべきだよ」
「ありがとう。でも、お父さんが気にしてるようなら、言って」
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