少年剣士「お花畑な馬鹿弟子と」竜人少女「素直になれない片腕師匠」(457)


マスター「……」

マスター「おい、小僧」

ある辺境の山村、その酒場。


?「……」

マスター「小僧、てめえだ。昼の間からそんな長槍持って、うちの店に居座って」

マスター「依頼も受けないのに、いったい何の用だってんだ……」

マスター「ほら、その薄気味悪いローブを、取れっ!」グイッ



少年「触るな」ギロ



マスター「……ちっ、薄気味悪いガキだな」


マスター「だいたい、ここは浮浪者を日中から居座らせておく場所じゃあねぇ」

マスター「飲み食いする金がねぇなら帰れ。金がねぇなら、そこのクエスト一覧でも漁れ」

少年「……」

マスター「……何も、てめえを虐めてるわけじゃねぇんだよ。依頼さえこなしゃあ、きっちり約束の金は払う」

マスター「お前さんの若さで浮浪の身、細けぇ事は知らんが苦労してんのは分かる」



少年「……マスター」

マスター「あ?」

少年「この、小ラプトルの討伐。山から降りてくるのは夜長だったな」

マスター「あ、ああ。でもそいつぁ受注済みだし、お前さんみたいな子供に任せられる奴じゃあ……」

少年「フン」


少年「……世話になった」ギィ
バタン

マスター「……なんでぇ、やっぱ薄気味悪い」


広い、ひと繋ぎの大陸。

ある日突然人はそれを領地と呼び。
竜はその半分を己の住処とした。


それから、時は流れ。

火が生まれ、稲が育ち、木の家が立ち。

やがて、文明は自然を侵し、人は竜を侵さんとした。

かつて大陸の王が起こした、竜族への侵略戦争。

そして人は思い知った、己の小ささを。

恐怖し、逃げ出し、隔絶した。

今、時は過ぎ。

剣が生まれ、養豚が育ち、石の城が立ち。



また、文明は自然を覆わんとする。


馬「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」ダダッダダッダダッ

?「……アル、もう良い。止まるんだ」

馬「ぶるるる」

剣士「アル、すぐに終わらせてくる。危なくなったら逃げるんだぞ」

馬「ぶるる」



少年「……」ガサッ

少年「フン。値打ちのありそうな刀剣だな……」

少年(……さて。宵の闇に身を隠したとはいえ、この山には獣も潜む)

少年(隙を見せたらさっさと殺して、金品だけを貰うとするか)


剣士「……」ジリ

小ラプトル「」「」「」

剣士「……」シャキン

小ラプ「……」ググッ



バッ!


剣士「!!! つぇい!」ヒュン

小ラプ「キョエエエエ!!?クキャアアアアアアア!!!」ズバン

小ラプ「キッ! シャア!」「キケッ!」ババッ

剣士「ぬおおん!」ガキン

飛びかかる3頭の小竜に対し、1頭の首を横に薙ぎ、牙と爪の襲撃を剣で受ける。
悪くない腕だ。

少年「……」チャキ


少年(……あと2頭)

酒場に貼られていたクエスト依頼書の概要には、小ラプトル3頭の首を以て依頼達成との旨があった。
定期クエストに定められているようで、あの村では生活を脅かす竜の数を減らす活動を推奨しているようだ。

剣士「ふんっ」グイッ

小ラプ「グキキッ」ドサッ

どんな生物でも、獲物を仕留め終わった瞬間は必ず気が緩む。それは、例え人間であっても。

剣士「貰った!」シュッ

小ラプ「キカッ。……」ブシュ ブチィ

少年(あと1頭)



ガサッ

少年(……?)クルッ

小ラプ「シェッ!」ビュン

少年「ちっ……!」ガキン


小ラプ「キョエエ! シャアアアブゥウ!!」ガチン! ガチン!

剣士「でああっ! くっ、まだいるか!」ガキン


少年(まずい。見つかる)ダッ

小ラプ「シャアア!」ブンッ

少年(払え、掃!)ブンッ

小ラプ「クッ、キョオウ!」ダダダダ

少年(……ちっ、最悪村へ帰る時に馬ごと殺して身包みを剥げば良い。ここで殺るのは悪手)タッタッタッタッ

小ラプトル「シュ、ギャアオ!」「キアアヤア!」ダダダダダダ

少年「増えやがったなクソ!」ブンッ

おい、臭っせぇ臭っせぇコテが外れてんぞ

>>8
コテが嫌いなのは分かるが糞しょーもない絡みかすんな

品性疑われるぞ

作品は好きだから絡むんだようぜぇな
コテだけ外してくれたら大好物なんだよ言わせんな


――――。

小ラプ「キョオエエ!」「シャー!」「クキョァオオ!!」ダダッダダダダ

小ラプ「クェイ!クェイ!クェイ!」ガチン! ガチン! ガチン!

少年(群れを引き連れてきちまったか……とんだ貧乏くじだ)


少年「きたねえ唾飛ばすんじゃねえ……! 顎砕!」ブン!!

走りながら突き出した槍の石突きがラプトルの牙をへし折る。

小ラプ「ゴキッ!?」メキョ

小ラプ「キヤオウウウウ」ゴロゴロゴロ

だいぶ剣士から離れた筈だ。すぐに片付けて暗殺に向かわないといけない。
顔を覆うローブを払い、小竜共に正対した。

小ラプ「キ、キカカ」「クシュルルル」「ギャオウ……」ノッシノッシ

少年「抜歯ならいつでもしてやんよ……かかってきやがれクソがぁ!」ジャキン

梟鳴く山林に吹く風、死の香り。




少年「死ね!」シュッ

小ラプ「プワギャ!!」「シャア!」「ハッハッ、フシュルル」

横に並んだ首をとりあえず味見。反応の遅れた1頭の頭蓋が飛んだ。
振り抜いた左腕の外側から小竜共が突進してくるが、百も承知。槍持ちに並列陣など、下策も下策だ。

振り抜いた槍を止めず姿勢を落とす。

少年「千切れろ、裂旋……!」

小ラプ「ギアオ!」「ギグッ!グギョケエエエエエ!!」「キキギ!」

頭上で回転した槍が、噛み付こうとした1頭の眼球に刺さった。
慣性で突き抜けた槍を払い、辺りにクリーム色の液体が飛び散る。



少年「オゥラ! 来いよ!」ブンッ

小ラプ「ギキャアアアア!」「ギギッ、シャアア」「……」

……。

だんだんと少年を取り囲む輪が薄くなり、広がっていく。
周囲が骨肉となるまでさほど時間は掛からなかった。


小ラプ「ギ、キ……キ……」ボタボタボタ

少年「ほれ介錯だよ」ヒュン

小ラプ「」ズバン

少年「フン」ビシャッ

少年(しかし、結構な数だった。10頭は殺ったな)



>…ヒヒイィィ---ン!!

少年(……馬の声? 近いな)

剣士「……ル! おぉい、……か!……」ガサガサガサ

少年(そうか、しまった! こっちに来る……!)ガサササッ


少年(ちっ、面倒な奴らだ……)タッタッタッタッ


馬「ヒヒン!ヒヒン!ガブルルルル」バタバタバタバタ!!

小ラプ「グ、キキ……!」ガジガジガジ

鳴き声の主を発見した時には、剣士の駆る馬は前足の付け根に噛みつかれていた。
馬はしきりに跳ねて暴れているが、小竜は牙を食い込ませたまま爪で押し倒そうとしている。

馬「ヒヒ、ヒヒンッ!」ドサッ

小ラプ「プハ、ギャウ!」ガブッ

馬「!!! ブバッ、ヒン、ヒヒ、ヒ」バタバタ

小竜の頭は馬の首。
……助かるまい。

少年(だが)ダダッ

少年「五月蝿い……!」ズバン!!

小ラプ「ギャ! ……」ゴロリ

馬「ヒ」ゴロリ


少年(哀れな)ビシャッ


ガサッ

剣士「……アル」

少年「……!!」パッ

剣士「先ほど、遠くで群れを引き付けてくれていたのは君か」ザッ

剣士「アルの首に、牙の痕があるな。……」スッ

剣士「介錯までしていただき、……感謝致す。少年よ」

少年「あ、ああ……」
少年(クソ……見つかっちまったか)

剣士「アル、すまない……!」グズッ


小ラプ(仲間の、首……3匹も!)

小ラプ「――」バッ!!


少年「……? っ!」


……。

>ガッ、グアアアアア!! クビガ!! クビガァァァァ!!

>ゲボッ、タスケテ!! タスケテクレェェエエ!!

?「……」


>シネ

>グキャアアアアア!!
>ナゼアウアアアアウアア!!


?「……」

?(1人で、小竜の群れも、狩りに来た人間も倒してしまった)

?(まだ子供なのに)

?(それに隠しているけど、あの人……)



?(右の上腕から先がない。……隻腕だ)


……。

首「……」

首「」ズロリ

少年(人間は泣いても隙を晒すのか。覚えておこう)ビシャッ

少年「さて、検品だ」ガサゴソ

少年(この剣は……当然貰っていこう。良い職人が打ったのだろう、高く売れるな)ガチャ

少年(ペンダント……いやロケットか。妻子持ちか、悪く思うな)ポイ

少年(これは……山の地図か。血で大半が滲んでいる)ポイ

少年(ポケットには……)ガサゴソ

……。

…………。


少年(現金は……まあ、ないか)ゴソ

?(……どうしよう、かな)ゴソ

少年(松明……血に濡れてはいるがまだ使えるだろう)スッ

?(よし。話し掛けてみよう)ガサッ

少年「フン……こんなものか」

少年「してお前……先程から」チャキ

?「……ぇ?」



少年「何の用だッ!!」シュン

?「きゃん!」ヒュッ

5時の方角に放たれた貫撃。木陰の生き物が小さく悲鳴を上げ、翻った。

?「……」スタッ

少年「……人間、いや。竜人族か」ジャキン

冷たく刺すような月明かりが互いの顔を照らす。それが彼らの出会いだった。


少年「……何の用だ」


竜人族。

かつて、竜族への排外思想がそこまで強くなかった頃に一定数を保っていた種族。
種族といってもその実態は単純な竜と人間のハーフであった。
即ち竜人族の存在は、心を通わせた竜と人間の存在を象徴するものでもあったのだ。

しかし、竜と人間との戦争が勃発、収束し、戦いを終えた彼らの心に生まれたのは異種族への強い排斥。
本能的嫌悪、忌避とも言っていいだろう。
竜人族は激しい生存競争に生きてきた訳でもなく、歴史の荒波に関わる事もなく、文明の発展と共に歩んできた訳でもなく。
静かにその個体数と営みを保ってきた種族なのだ。

少年「何の用かと聞いている。……三回も言わんぞ」ジャキ

目の前に降り立った竜人は、竜鱗の如く美しい翡翠色の髪を靡かせる少女であった。
色彩の薄い縦長の瞳孔と、小さく2本出ている角が、人と違う者である竜人族の証。

竜人少女「……ええと、ボクは」




竜人少女「ボクを、弟子にしてください」



少年「……」

風上に横たわる馬と小竜と剣士。靡く夜風は血の香り。

少年「竜人の女」

竜女「竜女で良いです」

少年「竜女」

竜女「はい」

少年「では何故、お前の身体は興奮しているんだ?」ジャキン


竜女「!」

竜女「……。ふはーっ」ニマ

少年「その腰の佩刀で」

少年「何を斬るつもりだッ!!」ビュンビュンビュン!!

>>19
×三回も言わんぞ
○3回も言わせるな


竜女「はわわっ」ガキンガキンガキン

少年「……見えるのか、竜女」ザッ

竜女「えへへ」

少年が神経を研ぎ澄ませ繰り出した3撃は、竜女が抜いた曲刀に容易く受け止められた。
少年は、竜人族が竜に勝るとも劣らない膂力や眼力などの身体能力を有しているという伝承を思い出していた。

力いっぱい打ったせいか、槍を持つ少年の左手がやや痺れている。


竜女「ボク、弟子にしてほしいのもそうだったんですけど、本当は一度お手合わせ願いたいな、って思ってたんです」

少年「真剣を持ち歩く者が試合か。信用できると思うのか?」ジリ

竜女「あう、そうですけど……でもでも」


シュン


竜女「っ!」スッ

少年(これも避けるか……なんて速さだ)

竜女「えへへー、師匠の特訓は実戦形式ですか?」
#あかウサギ

っべー酉変える

っべー
マジべーわ

お騒がせ多くてすまん


少年(虚を突かないと、一本も通る気がしない。相当に強い)

少年(逃げようにもこいつは殺害現場を見ているし、ひとつ気が変われば殺されかねない……)

少年(どうする)ジリッ

竜女「実はボク、いろんな所でいろんな人に弟子入りしようとしてたんですけど、皆さん嫌だって言うんです」

少年「……そうだろうな」

竜人族はが嫌われている理由は竜と人間とのハーフという観念以外にも別にある。
それは、竜人族が生物的に優性遺伝であるという事だ。竜人と人の子は竜人で、竜人と竜の子もまた竜人。
まるで独立した種族であるが如く人の肌と竜の角を持ち、その血は薄まらない。

これが人間と竜の両方から竜人が忌み子として嫌われている理由である。


竜人「でも、それ以上にボクはこれまで負けなしですから」エッヘン

竜人「お手合わせしてもらっても、みんな逃げちゃうんです。だから、本当に師匠と呼べる人には出会ってません」

少年「そうか……」

先程までの動きを見ただけでも、竜女の身体能力がずば抜けているという事は分かる。
あの刀が振るわれれば、この槍で受けきれる自信は全くない。

少年の心に、動きが生じた。



少年(これを破れぬようでは、俺に未来はない)


少年「抜け、竜女。勝負が決した時に互いの命があれば、お前の往く道は問わん」ジャキン!!

竜女「……! ありがとうございます」スラリ

夏の月、風雲に一葉が散った。


竜人「でも、それ以上にボクはこれまで負けなしですから」エッヘン

竜人「お手合わせしてもらっても、みんな逃げちゃうんです。だから、本当に師匠と呼べる人には出会ってません」

少年「そうか……」

先程までの動きを見ただけでも、竜女の身体能力がずば抜けているという事は分かる。
あの刀が振るわれれば、この槍で受けきれる自信は全くない。

少年の心に、動きが生じた。



少年(これを破れぬようでは、俺に未来はない)


少年「抜け、竜女。勝負が決した時に互いの命があれば、お前の往く道は問わん」ジャキン!!

竜女「……! ありがとうございます」スラリ

夏の月、風雲に一葉が散った。


――――――。


少年「……」ピタ

竜女「ふーっ、ふーっ」

構え、静止する両者。
息を整える少年、身体のボルテージを上げる竜女。


少年「……」

竜女「ふーっ……ふーっ……」
少年は視界を広く視ていた。
対し竜女は、少年の瞳を見つめていた。


死ぬ気で往く。殺す気で来い。
さもなくば殺す。


そんな瞳を見て、竜女は感動していたのだ。
その感動が、刃先の揺らめき、波、閃きと変わるのにそう時間は掛からなかった。

竜女「――ッ!!」シュバッ

少年「」キン


先に仕掛けたのは竜女だった。
胴を両断する致死の一閃。少年は穂先で払って身を返し、即座に左手を回した。

少年「裂旋!」ブォン

竜女「っ」

一瞬出来た下段の隙間から大振りで斬り上げようとする竜女。

少年「……」ニヤ
竜女「!!」

先の先。
速さで劣る者が唯一先手を取る術。
斬り上げようとした視界に映ったのは左方から迫る穂先。

竜女「」バッ!!

間一髪で大きく飛び退く竜女。両足が宙に浮いている。死に体だ。



ザガッ!

「――」
「――」


穂先が地に刺さる。薙がない?
竜女の違和感。最初から斬るつもりはない?
それは何故? それは布石。

視線が交錯する。思考が逡巡する。身体はまだ空中。

竜女「ぁ……」

斜めに刺さった槍を軸にし、少年の身体が回転した!



少年「裂踏ッ!!」




少年「お、おお……ッ!」グリッ

竜女「か、はっ……!」ゴリッ

少年、渾身のかかと落としが竜女の頭頂をえぐり込む。
まさに早業だった。


少年(入った)トサッ

竜女「ぃ……あ」ドシャア

槍から手を離し、翻った少年。
前後に膝を折り、崩れた竜女。

少年は止めを刺そうと、槍に手を伸ばした。



スパン。


少年「な」

竜女「いったた……」スック


少年の槍が瓜の如く両断された。
柄の部分がカラカラと落ちる。

竜女は黒い曲刀を握り、特に何ともないように、少年の前に立ち上がった。



竜女「ボクの頭皮、ウロコ付いてるんで硬いんですよ。おでこだったら危なかったけど」ペチペチ

竜女「ともかく。勝負あり、です」シャキン

少年「……!!」ギリリ

少年は、悔しさに拳を握り締めた。
負けは負け。敗北したのだ。

それをよそに竜女は刀を納め、少年に歩み寄った。


竜女「えへへ……ボクたち、まだ生きてますよね?」ニマニマ

少年「っ?」ビク



竜女「ずーっと、ついていきます、ししょー!」ガバッ!!


少年「うえ、てめえ!? ついて来るのは良いが師匠になるなんて一言も」バタバタ

竜女「えへへぇ。ダメですよ、よろしくお願いしまーす」ムギュー

少年「だあああ離れやがれクソ野郎っ、引っ付くなああああ!!」グイーッ

……。

…………。


少年「……ったく」

竜女「おでこ殴られた……」グスン

とりあえず少年は竜女をそこに直らせた。

少年「お前、何で誰かの弟子になんかなろうとするんだ?」

なんだよ、あの人のシリーズの新作かと思ったら違うじゃねーかwま、頑張れ


竜女「……強くなりたかった」

竜女「というのもあるんだけど、それは二の次で」

竜女「『寂樹の里』(じゃくじゅのさと)という場所に行きたかったんだ」

少年「聞いたことがないな」

竜女「竜人が昔から隠れ住む、山奥の秘境って聞いたんです。でも、その場所は誰も知らないんだって」

少年「……」

竜女「だから、竜人だからってボクを迫害しない人、それで強い人と旅をしたかったんだ……」

少年「それで剣士に声をかけていたのか」


竜人「……。あの、その」



竜女「し、師匠は、ボクが竜人なの、嫌ですか?」
少年「知るか」バッサリ


竜女「えー……」シュン

少年「足を崩してて良い。少し聞いていろ」

少年「俺は……」

少年は己が身よりのない孤児であった事、目的も宛てもない旅人である事、獣や竜、人間を殺して生きてきた事を話した。

少年「竜も人間もそれ以外も、俺の中で区別はねぇ。生きる為なら奪い取る。殺されない為なら殺す。そうして生きてきた」

少年「だからお前が竜人だろうと知らんと言ったんだ」

竜女「……」

竜女「やっぱり師匠が師匠で良かったです」

竜女「あんなに躊躇なく生き物を殺して、言い訳されたら幻滅する所でした」ニマ

この作品って何かに感化されて書いた?

>>37
同人のエロゲ


少年「くだらない事聞くな」ペチン

竜女「あう。そ、そですか……」

竜女「でも、それだけじゃなくて、師匠は本当に強いと思うんです。ボクに一発当てた人間なんて師匠だけですよ!」ニマニマ

少年「嫌味か?」ギロッ

竜女「ち、違います。師匠、左腕しかないのに」

竜女「……あっ! あうあうあー、ごめんなさい! そういうつもりじゃなくて」パクパク

少年「別に良いんだよ。最初から気付いていたろうに、くだらねぇな」

少年「両腕あろうが、竜人のお前に勝てたかなんて知らん。俺は片腕で強くなってきたからな」

(^q^)


竜女「えへへー、ボク強いですか?」ニマ

少年「……今度は、本当に嫌味ったらしいな」ゴン

竜女「あうっ!」ヒリヒリ

少年「破門すんぞ竜畜生が」

…………。



少年(俺は生きる以外に大した目的はない)

少年(だが竜女は俺より強いし、寝首を掻くような真似はしないだろう……)

少年(協力してくれるのなら、付き合ってやっても良い、か)

一応少年表記ってことは竜女とそんなに年が変わらないのか、あるいは竜女のほうが上なのかな?

どっちも若くて若干少年の方が年が上かな?


あれから夜が明けるまで、俺たちは自分たちの情報をぽつぽつと交換した。

…………。


少年剣士
14歳、149cm、41kg。
右腕の上腕から先を欠損している孤児の旅人。
生きる為に主に人を殺す。クエスト案内の情報を元に暗殺する事が多い。
槍術、他武術の心得があるが、左腕のみで振るう技の為、独自の技術体系を有する。小柄な身体と大きな武具を活かし身軽に戦う。
口調は荒いが、自分が認めた相手には武人のような態度を見せる事もある。普段はローブで顔と上半身を隠している。

竜人少女
15歳、153cm、42kg。
翡翠の髪、2つの角、尾てい骨に小さな尻尾を有する竜人族の少女。
身体能力が竜人の中でも高いらしい。当然人間からすればずば抜けていて、並大抵では一太刀浴びせる事はできない。
腰に黒光りする剥き身の刀を差す。名刀のようだが……。
剣の腕はほぼ初心者。刃筋を立てて正しく斬るのが精いっぱい。生活は狩猟より採取をメインにしていたようだ。
頭皮には竜鱗があり、硬いらしい。
雑食で、人懐っこい。ニマニマと笑う。


…………。

少年「ここから近いのは、『ルミエの町』か」ガサゴソ

少年「さっきの『フノ村』からだ、い、たい……3日ってとこか……?」ガサガサ

竜女「むぅ~!」プゥ

少年「……いつまでむくれてんだよ、オラ」

竜女「だって、あれはないですよ!」プンスカ

――――――。

クエストから戻らない剣士に対し、不審に思った身内を中心に捜索が行われた。剣士たちはすぐに死体として発見された。
だが、周囲に小ラプトルの死体があった事や剣士の死因が首を落とされた事であるなどの理由により、クエスト失敗による死亡ではない、他殺だと村長が断定した。

疑われたのは当然、素性の怪しい余所者である少年だった。安宿から追い出され、即刻村から追放されたのだった。

「あんたが私の夫を!夫を!!くああああッ!!」グググッ
「ミナ、やめるんじゃ……!くそ、このクソ、クソガキめ!汚い面をしおって!」ポイ
「おらっ!なんか言い返してみろよ!言い返してみろよ、クソ、クソ……ッ!!」ポイポイポイポイ
「畜生ッ!父さんを!父さんを返せええええ!!」ガッ
「触るな」ゲシッ
「し、師匠……証拠はないんですから、なんか言いましょうよう……ボクが味方しますから……」ボコボコボコ
「お前が竜人って割れたらお前殺されるぞ。黙ってろ……」ボコボコボコ
「あうっ!フライパン痛ぁい……」ボコボコボコ


…………。

少年「ここから近いのは、『ルミエの町』か」ガサゴソ

少年「さっきの『フノ村』からだ、い、たい……3日ってとこか……?」ガサガサ

竜女「むぅ~!」プゥ

少年「……いつまでむくれてんだよ、オラ」

竜女「だって、あれはないですよ!」プンスカ

――――――。

クエストから戻らない剣士に対し、不審に思った身内を中心に捜索が行われた。剣士たちはすぐに死体として発見された。
だが、周囲に小ラプトルの死体があった事や剣士の死因が首を落とされた事であるなどの理由により、クエスト失敗による死亡ではない、他殺だと村長が断定した。

疑われたのは当然、素性の怪しい余所者である少年だった。安宿から追い出され、即刻村から追放されたのだった。

「あんたが私の夫を!夫を!!くああああッ!!」グググッ
「ミナ、やめるんじゃ……!くそ、このクソ、クソガキめ!汚い面をしおって!」ポイ
「おらっ!なんか言い返してみろよ!言い返してみろよ、クソ、クソ……ッ!!」ポイポイポイポイ
「畜生ッ!父さんを!父さんを返せええええ!!」ガッ
「触るな」ゲシッ
「し、師匠……証拠はないんですから、なんか言いましょうよう……ボクが味方しますから……」ボコボコボコ
「お前が竜人って割れたらお前殺されるぞ。黙ってろ……」ボコボコボコ
「あうっ!フライパン痛ぁい……」ボコボコボコ


少年「……」ボロッ
竜女「……」ボロッ

>デテケー!! デテケー!! ニドトクルナー!!

竜女「あんまりです……」ヒリヒリ
少年「人の集落の習わしだ。仕方ねえ」


マスター「……」ザッ

少年「……?」

マスター「お前、そんな顔してたんだな」

少年「何の用だ」

マスター「しかも、隻腕……辛かったろうな」

少年「……お前の知る事じゃあねえ」

マスター「そのローブの中の子は、なくなった片腕より隠しておかなくちゃいけないもんなのか?」

竜女「……」
少年「ああ、そうだ」


マスター「……あいつの持っていた剣を見せてくれるか?」

少年「……」シャキン

マスター「稀代の名剣、『無裂』。裂かないんじゃなくて、本来無いものを裂く剣って言われている奴だ」

少年「……」ピシャ

マスター「これ、持って行け」ポイッ

少年「これは……金と、世界地図!? 良いのか……?」

マスター「酒場のマスターが持つにゃあ大きすぎらぁ」


マスター「俺は、お前を責めねえよ」

少年「……」

マスター「じゃあな」クルッ

少年「ああ」クルッ
竜女「師匠……」


――――――。

竜女「みんなして師匠が犯人だと決め付けて! 酷いです!」

少年「実際そうなんだからしゃあないだろが」

竜女「ボクにまでフライパン投げてくるし! もう!」プンスカ

少年「まだ根に持ってんのか……」



天気は快晴。踏み固められた街道の上、右腕のない少年とローブをまとった竜女。


少年の生業に竜女の目的が灯る時。
本当の旅が始まる。


0章 了

・・・もしかしてめちゃくちゃ長い?十章とか二十章ぐらいいっちゃう?


1章 裂く者


長い長い街道、その外れに小さな灯りがあった。

少年「こいつの太ももは生でも割に喰えるんだ。少し喰うか?」ブチィ

竜女「う……遠慮しまーす……」

少年「肉を喰わんと精は付かねえぞ……むぐ」ブチブチィ

道端に転がった木々の欠片を薪とし、燃え上がっている。それを挟むように師弟は1日1回の食事にありついていた。

少年「そういやお前は雑食なんだったな……。食べられる草とか分かんのか」ブチブチムシャムシャ

竜女「んー、ある程度は分かりますよ」プチプチモグモグ

少年「俺にも喰えそうなのがあったら教えろよ。覚えておきてぇ」ムシャムシャムシャ

竜女「師匠の方が獣みたいですー」ゴックン

少年「人間は人間、獣は獣、竜は竜。そんだけだ」

竜女「ねね、ボクはボクは?」ニマ

少年「……」ゴン

竜女「いたーい! なんでですかー!」


……。

少年「ごちそうさま」パチ

竜女「……んぅ? ごちそうさま」パチ

竜女「師匠みたいな人でもごちそうさまって言うんだー」

少年「ただの習慣だ……んじゃ」


少年は腰を上げると、集めておいた木々を焚き火に足し『無裂』を手に取った。

少年「腹ごなしに少し鍛えてやらぁ。オラ、お前も立て」

竜女「え!? 本当に師匠、ボクに教えてくれるの!?」

少年「まあ、な。約束だしよ。オラ、さっさと立て!」

竜女「はいぃっ!!」キラキラ

ぱちんと弾ける焚き火の傍、研鑽の香り。


少年「よし、じゃあ始めるか。」

少年「まず、俺とお前では身体能力が違うし、経験の差がある。だから、俺がするままに教えようたぁ思わねえ。いいな?」

竜女「はいっ!」

少年「まずは構えからだ。両手で握るのが普通だが、お前さんは脇を締めずに本能的に動いた方が良さそうだ、俺も教えやすい。……」

……。

少年「おう、そうだ。剣で斬ろうとするな。腕で斬ろうとするな。身体全体で斬るんだ」

竜女「たああ!」ビュン

…………。

少年「縦に斬る時は思い切りやりすぎっとバランスを崩す。きっちりと刃の筋を立てて、かっさばくように引き斬るんだ」

竜女「ええっと……せいや!」シュッ

………………。

竜女「はーっ、はーっ、はーっ」

少年「構えから横斬り。構えから縦斬り。構えながら走る。まあ、こんなもんだろ」

竜女「ふう、ふう。ありがとうございましたっ!」ペコリ


少年「こういう基礎はつまんねえだろうが、やっときゃ慌てなくて済む。ヤバいと思ったらまず構え。覚えとけ」

竜女「はいっ」

少年の方も誰かに武技を教えるのは初めての事で、多少なりとも熱が入ってしまっていたらしい。
竜女の飲み込みは実に早いもので、大人であれば3日掛かる内容を、既に少年の動きをトレースできるまでになっていた。

少年「おらよっと」シュン

振り抜いた無裂の剣先が焚き火のタネを消し、辺りは静寂に包まれる。
既に、夜空には煌々とした月が昇っていた。



少年「寝るぞ」チャキ

竜女「あ、うん」ガチャ


少年「……」ゴロリ

竜女「……師匠」ゴロリ

少年「何かの気配がしたら起きる。お前は気にしねえで寝てろ」

竜女「それはボクも大丈夫です。……そうじゃなくて」

竜女「ボク、師匠について来て良かったのかなって」

少年「構わんよ……。ついて来て協力してくれるんなら、寂樹の里やらも探してやる」

竜女「……師匠は良い人だ」

少年「悪い人だ。美化すんな」


竜女「……よしっ」フンス

竜女「ボク、できる事あったら手伝うから。師匠の右腕になれるように頑張る!」


少年「……」

少年「フン……」


少年「……」

少年(朝か)ムクリ

少年「水筒が残り少ないな……」チャプチャプ

少年(地図によると、街道の近くに清流の流れる場所があった筈だな。今日はそこに寄って行くか)


少年「……ああ、そういえば」

竜女「すぅ……すぅ……」

少年は、これからの旅は一人旅ではないという事を再確認する。
朝起きて、身体の異常がないか確認しなくてはいけないのは自分だけではないという事を反省した。

少年「……」

少年の胸に少しだけ湧いた陽光のような気持ちは、他の人が『心強い』と呼んでいるそれなのかもしれない。


少年(それにしても)

竜女「……すぅ」

少年「……」

胎児のようなポーズで無防備にと眠る竜女。
先日までは気が張っていたり辺りが暗かったりして注視していなかったが、竜女の顔立ちというのはいわゆる美少女というものであった。

ホットパンツと呼ばれている短い履き物から伸びた脚。ボロく避けたシャツから覗くへそ。
強靭そうにも、柔らかそうにも見える翡翠の髪。無垢に閉じた瞼に沿う長い睫毛。
華奢な手首。肉感的な太もも。普通よりやや大きな胸の膨らみ。

そんなところに目が行ってしまうのは少年にとって否定しがたい事であるのは違いない。
それもまた本能に由来するものだからである。


少年(……良い女、だな)ドク

少年(いや、そういう目で見るのは、良くない)ドクドク


少年「竜女。オラ、朝だぞ」ポスポス

竜女「……んにゅ、ん~?」ジーッ

竜女「えへへ、師匠だぁ」ニマニマ

少年「は、早く起きろってんだ」ドキッ

支援


……。


ほの暗い岩穴、清らかな湿気、清水の香り。

少年「飲めそうなもんかね……」

竜女「美味しそうな湧き水だー」

少年「なんだ、分かるもんなのか?」

竜女「えへへ、分かんないです……」ニマ

川の上流にあたる場所の一角に、源流と思しき地点を発見した。
水流の中で、砂が巻き返されている場所がある。少年は付近の水を片手ですくって飲もうとした。
そうすると、少年の右側に竜女がぴたりと寄り添った。

竜女「よいしょ」ピシャ

少年「……おい。何やってんだてめえ」

竜女「ええっと、師匠の右腕になろうと。ほら師匠、手を合わせて!」ズズイッ

少年「……」バシャン

竜女「ひゃう! 冷たいよう!」


少年「じゃあ竜女、ちょっと入り口見張ってろ」バシャバシャ

竜女「はいっ」

3本ある水筒に水を入れて、それを飲む少年。

竜女「あとでボクにも飲ませてもらえます?」

少年「……ぷは。ああ、余分に飲んどけ」

少年が言い終えたその時だった。

竜女「……。師匠、熊がこっち来た」ピタリ

少年「んだと?」チャキ

少年が顔を出した先には、馬車ぐらい大きい熊がいた。静かに静止し、こちらを睨んでいる。

竜女「どうしますか、師匠」

少年「大方、ここが住処だったか水飲み場だったかしたんだろうな……。竜女、今のうちに水飲んでこい」

竜女「え、え……?」

少年「早くしろ。鉄臭い水が飲みてえのか」ジャキ


竜女「ううう、あんなおっきな熊見たことない」ビクビク

竜女「……いくら師匠でも、大丈夫かなぁ」ピチャ

竜女「んくんく」ピチャピチャ

竜女「……ぷはぁ。美味しい」

――――。

少年「……」ジャキ

熊「……」ニジリニジリ

少年「……」ギロリ

熊「……!」ジリジリ

少年「……竜女。もう良いか?」

竜女「……ふえ?」


…………。

竜女「……驚きです」

少年「お前、まだ言うか」

竜女「師匠は血も涙もない人かと思ってました」

少年「……涙は知らんが血はあるぞ」

竜女「だって、まさか無傷で招き入れるとは思わないじゃないですか! 師匠なら今日の晩ご飯用にスライスしてもおかしくないのに!」

あの後少年は、竜女が岩穴から出るだけの時間を稼ぎ、熊を威嚇しながら岩穴に戻す形で退避した。
竜女が指摘するように、今まで行ってきたある種の蛮行を振り返ると今回少年がとった行動はらしくないと言える。

少年「あの熊は、別に俺たちを喰う気はなかったんだよ。空腹なら水よりそっちを優先するはずだし、真っ先に襲ってきやがる」

少年「あと、熊の肉は臭くて食べつけねえ」チッ

竜女(結局食べた事はあるんだ……)

ともかく飲み水を確保した一行は、ルミエの町に向かって歩を進めた。


……。

…………。

………………。

竜女「ごちそうさま」パチ

少年「ごちそうさま」パチ

竜女は菜食、少年は柑橘系の果実と加熱して食べられる木の実。
少年は残りの薪を焚き火にぶち込んだ。すぐに火が移り、燃え上がる。

少年は無裂を、竜女は黒刀を手に取った。


少年「じゃあ竜女、今日も特訓だ」チャキ

竜女「はいっ!」チャキ


少年「まあ、お前さんの覚えが良いから今日はひとつ剣技を教えてやる」

少年「竜女。昨日やった通りに構えてみろ」

竜女「はいっ!」シャキン


竜女「……」スッ

少年「おし、大丈夫だな。じゃあ、俺の動きを見ていろ……」ヒョイッ

少年「……」ジャキン

少年は樹から生の葉を千切ると、目の前に投げ上げた。

そして、静かに構える。



少年「……裂輪ッ!!」

真一文字の剣閃が、木の葉を美しく切り裂いた。


少年「――」ハラリ

竜女「わ……」

少年「――」パチン

少年が剣を収めた時、半分になった葉が、真下にあった焚き火の中に消えた。



竜女「し、師匠! 今のカッコいい!」ワクワク

少年「うるせえな!」


少年「良いか、昨日横斬りを教えただろ? あれの発展だが、あれとは違うとこがある。どこか分かるか?」

竜女「何か、剣の先で斬ってた」

少年「まあそんなもんだ。この裂輪って技は、刃の当たってる所を意識して相手を切り裂く。相手を両断しようとする技じゃあない」

少年「裂くところをなぞるように、一瞬刃を当てるんだ。すると、落ちる木の葉が動かないまま2つに斬れる」

竜女「???」

少年「……今から火の上に木の葉を投げる。それを動かさずに半分にしろ」

竜女「はいっ!」ジャキン


……。

竜女「えいやっ!」シュン

少年「まずはキチンと見て振れ。どこに刃を通すか、それを考えないと当たんねえぞ」

竜女「はいっ!」シュン

…………。

竜女「れ、れつりん!」ズバッ

少年「刃に威力が乗っちゃダメなんだなあ。円を描くように、刃の切れ味だけで斬るんだ」

竜女「は、はいっ」ズバッ

………………。

竜女「裂輪!」ハラリ

少年「んん。刃を振った空間に隣り合うように葉が来るようにするんだ」

竜女「裂輪!」ハラリ


少年「ほれ」ヒョイッ

竜女「……」

竜女「裂輪」


……ハラリ。

少年「まあ……合格だ」

竜女「えへへ、本当?」ニマニマ

少年は正直な所、驚愕していた。
自分がかつて3ヶ月も掛かって習得した剣技を、この竜女はたったの3時間で形を整えてしまったのだ。
もう少し時間を取って練習すれば、それで少年の振るう剣技に到達してしまいそうである。

少年は、昔の日々を思い起こす。

竜女「……師匠?」


少年「……」

竜女「師匠!」

少年「……何でもねえよ。良いか、この裂輪って技は、俺が教える技の一番基本的な技だ。原点とも言える」

少年「自分が描いた円の中に入ろうとするものを裂く。鋭い威嚇のようなもんだ。牽制とも言うな」

竜女「どういうこと???」

少年「まあ、あれだ。一歩分距離のある相手と戦いたい時に振るのが、裂輪。実戦でもあれぐらい鋭く軽い剣が振れれば困る事はないだろ」

竜女「なるほどー。ありがとうございました!」ペコ

少年「おうよ。寝支度するぞ」

竜女「はいっ!」


焚き火を消し、枕元に荷物と獲物をまとめ、草の上に寝転がる。
見上げた夜空に雲はなく、探し飽きないくらいには星が出ている。

竜女「……ねえ、師匠」

少年「なんだよ」

竜女「師匠が教えてくれる武技って、どんな名前なの?」

少年「……」


少年「『Ripper(裂人)』の技。リッパーってのは遠い国の言葉で、裂く人って意味だ」

竜女「ふうん……」

少年「どうかしたかよ」ゴロリ

竜女「師匠も、誰かお師匠さんにリッパーの技を教えてもらったんだろうなあ、って」

少年「……ああ、そうだな」


竜女「……ししょー」

少年「どうした」

竜女「……」

少年「なんだよ?」

竜女「うー……」モゾ

竜女は遠慮がちに、2メートルぐらい離れていた距離をすぐ横まで詰めた。

竜女「……」ペタ

そして少し躊躇ったあと、少年のお腹に手を伸ばしたのだった。

少年「……何なんだよ、くすぐってえ」

竜女「良い、かな……」サワサワ

少年「何がだよ」

竜女「……うう。寝てるあいだ、ししょーのこと、さわりたい、さわってたいの……」ペタペタ


少年「……好きにしろ。ったく、何でまた」

竜女「わかんない……」ニマ


竜女「……すぅ」

少年(寝たか)

竜女「うぅん……」ピト

少年のお腹に乗せられている、竜女の手はとても温かい。
少年は他人の体温を久方ぶりに感じていた。




少年(……じんわり、くるな)

少年(う……)ソワソワ

少年(フン)キュッ




少年の、たった一本の左手。それは竜女の手に重ねられていた。


……。

少年「ん」パチ

少年(朝か)クニクニ

少年(ん……?)クニクニ

竜女「んにゅ……すぴー」クニクニ



少年「!!!??!!??!!?!?」ガタン!! ビクン!! ゴロゴロロ!!


少年(おい、クソ。どういう事だ。待ちやがれ)バクバク

少年(近かった。すげえ顔近かった。なんか良く分かんねえ匂いした)バクバクバクバク

少年(というかあいつの手、お腹じゃなくて下……)


少年(~~~ッ!?///)


少年「ああああああ起きやがれこンの竜畜生があぁぁああ!!」ウガーッ!!

竜女「ひゃわわわわ!!?」


…………。

少年(今日でとりあえず野宿も終い。このまま歩けば昼にはルミエに着くだろ)スタスタ

竜女「うええ、師匠~」

少年(フノ村のマスターからもらった金もあんだわな。とりあえずは安宿で一泊して飯を食うか)スタスタ

竜女「ごめんなさいってば~、無視しないでください~!」

少年「うるせえぞこの竜畜生」スタスタ

竜女「あうう、ボクが何をしたって言うんですか……」ウルウル

少年「っ/// てめえの寝相に訊けよ緑色野郎!」スタスタ

竜女「ふ、ふええええええん!! やだやだ、今日の師匠怖いですよう!」ギューッ

少年「あああ、抱きつくんじゃねえええええ!!」ウガーッ!!

お花畑ちゃんかわいい


……。

少年「竜女、着くぞ。あれがルミエの町だ」テクテク

竜女「ううう、もう足痛い……」テクテク

少年「すぐに休める、我慢しろ。それより、俺が隻腕、お前は黒ずくめのローブ。町の奴らからは絶対目を引く。挙動と言動に気ィ付けろ」

竜女「はいっ」グッ

竜女は角と尻尾の位置をチェックし、ローブのフードを深く被り直す。

少年「ここでは、師弟じゃなくて放浪の兄妹という事にしておく。その方が何かとやりやすいし、話を合わせろよ」

竜女「んー。分かった、……お兄ちゃん!」ニマ

少年「……お、おう///」(これで良かったのか?)

こうして、少年と竜女は『ルミエの町』の門に歩いてゆくのだった。


一歩足を踏み入れた先には、石畳に覆われた小綺麗な町並みが広がっていた。
所々で台車に積まれた石材が移動し、石膏を手にした大工らしき人間の下に運ばれている。

どうやら、ルミエ近辺は建築用の石材が豊富なようだった。近くに石山や石窟でもあるのだろうか。


竜女「ほえー」キョロキョロ

少年「妹、町に入んのは初めてなのか?」

竜女「うん、今までは人目があって追い出されちゃったから」

竜女「このローブ……というかお兄ちゃんのお陰です!」

少年「気にすんな。とりあえず宿に行くぞ」

……ガヤガヤ……ザワザワ……

少年は住民の視線が自分の右腕部に集まるのを感じて、絡まれない内に先を急いだ。


少年(そこそこ大きい宿だな……ここしかないのか?)

主人「こんにちは、お二人様でよろしいでしょうか」

少年「ああ。いくらだ?」

主人「お二人様一泊で200Gになります」

少年「……んー、ルミエに宿はここしかねえのか?」

主人「そうですね、この町ではウチだけです」

少年「分かった。しばらくここに留まらせてもらう」チャリン

主人「毎度! 緑のドアの部屋を使ってください。これ、鍵です」ジャラリ

少年「世話になる。ほれ妹、早く行くぞ」ガシッ

竜女「ひゃう」

初めて見る町と建物を見渡している竜女の首を掴み、緑のドアまで引っ張っていった。


ガチャ

竜女「ふわ……。疲れたよう」

少年「ローブはまだ脱ぐなよ。ベッドに座って良いから」

竜女「ベッド?」

少年「そこの、布のかかった箱だ」

竜女「はーい」ペタン

ガチャ

主人「すいません、もうお休みでしたか?」

少年「構わんよ。何の用だ」

主人「いえ……最近この辺も物騒でしてね。あなたがたみたいな旅人への風当たりが強いものでね、ちょっと」

宿屋の主人はローブをまとった竜女を見やる。

少年「……すまないな。こいつは俺の妹なんだが、訳あってこういう格好をしている」


主人「もちろん、あなたがたみたいな旅の若い方をどうしようとは言いませんよ」

主人「ただ、他のお客様もおりますので、私だけにでもお嬢さんのお顔を一度見せて欲しいのですが……」

竜女「……」ピク


少年「……すまねえ」

主人「?」

少年「俺たちは……かつて竜に襲われた村の孤児なんだ。その時、俺は右腕を失い、妹は顔から首に、酷い、火傷を負った」サメザメ

少年「……こいつも女だ。察しちゃくれねえか」ペコリ

主人「なんと……」


少年「こいつが無害って事は、俺が保証する。すまないな」

主人「いえいえ、言いづらい事を言わせてしまってすいません。ごゆっくりどうぞ」ガチャ

主人はすっかり少年の言葉を信じたようで、すぐに戻っていった。


竜女「信じちゃったね。師匠って口も達者なんだ」

少年「浮浪の身だと何かと苦労すんだよ。それに度胸も付く」

竜女「師匠って、ボクが思ってるより荒っぽい人じゃないんだね」

少年「荒事起こしてもどうにもならないのが人の世だかんな」

竜女「でもありがとう、師匠」ニマ

少年「?」

竜女「ボクが無害じゃないって言ってくれて。その場しのぎでも、嬉しいです」ニマニマ

少年「フン。何が有害だなんて、俺にゃあ計りかねる……」

>>81
×無害じゃないって言ってくれて
○無害って言ってくれて


……。

竜女「すぴー」グデーン

少年(午後7時……微妙な時間帯だな。今は部屋に鍵を掛け、竜女をベッドで寝かせている)

少年(ああは言っても、長距離の行脚には慣れてなかったんだろうな。疲れているみたいだ)

少年(主人が6時から9時の間に夕食に来いと言っていたな……人の多い時間は避けたいし、早く起きてもらいたいもんだが)

少年「……竜女、起きろ。起きて飯を食いに行くぞ」ポンポン

竜女「寝かせてー」グデーン

少年「おい、どうせ夜寝んだろ。早くローブ着ろ」グイ

竜女「ベッド柔らかーい」グデーン

少年「破門するぞ」

竜女「はわわわわ、ごめんなさい! 行きます!」シュタッ


~食堂~

主人「今日はバケットとビーフシチュー、根菜のサラダになります」ゴトン

少年「おう。すまないな」

竜女「お兄ちゃん……ビーフシチューって、このウンk」オドオド
少年「黙れ」ゴン
竜女「ひゃう!」

主人「? どうかされましたか」

少年「何でもねえ……。いただきます」

竜女「い、いただきます……」
竜女(この丸い銀色の棒、どうやって使うんですか?)

少年(こうやって、シチューをくぼみですくうんだ)ムグムグ

竜女(え……その、ウン○みたいなのを?)
少年「黙れ」ゴン

竜女「あうっ! 痛ぁい……」


……。

竜女「お兄ちゃん、これ何か煙突みたい」

少年「それはバケットってパンだ。ビーフシチューに浸けても美味い」モグ

竜女「本当?」カチャカチャ

少年「いや、それは手掴みでかじって良いんだぞ」モグモグ

…………。

竜女「木の根っこって、洗うとこんなに美味しいの……!?」モグモグ

少年「それは木じゃなくて、ゴボウとニンジンだ。ドレッシングも掛かってるしな」

竜女「?」

少年「この、透明の酸っぱい蜜の事だ」

竜女「へー……うん、美味しい……」

………………。

少年「ごちそうさま」パチ
竜女「ごちそうさまです! 美味しかったです! こんな美味しいもの初めて食べました!」キラキラ

主人「はは、お世辞でも嬉しいよ嬢ちゃん。明日もいっぱい作ってあげるからね」


竜女「楽しみに待ってます!」キラキラキラキラ

少年(本当にお世辞じゃないんだから、世の中分からねえもんだぁな……)

少年「主人」

主人「何でしょう?」

少年「この辺が物騒だと聞いたが、何かクエストでも出てんのか?」

主人「冒険者の方でしたか。最近ルミエ近辺で盗賊団が出没していて、行商人や町人が殺され、金品を奪われてるんですよ……」

少年(横流し、内部の犯行、それとも私欲、それとも闇市、グレーゾーンの業者、商売敵……まだ絞れないな)

主人「酒場にて討伐隊を組んでおりましたので、明日にでも顔を出してみてはどうでしょう」

少年「悪いな。そうしてみらぁ」


主人「それと、沐浴場の使用は8時から11時、翌朝の5時から8時までとなっております」

主人「私に仰って頂ければ、薪も焚きますのでお気軽に申し付け下さい」

少年「あ? 沐浴場もあるのか……」

主人「ええ、お陰様で」ニコ

少年「分かった、後で使わせてもらう。ほれ妹、行くぞ」

竜女「えへへへ、ごちそうさまでした!」ニマニマ


……。

少年「さぁて」

竜女「?」

少年「……お前、沐浴って分かるか?」

竜女「???」

少年「まあ、水浴びだ」

竜女「んー。今までは汚れたら川に入ったり雨に打たれたりしてたよ」

この世界における入浴というのは、湯の入った釜を桶に汲み、硬い布で身体を洗う事を指す。

少年「あったかい湯の入った釜があって、それを桶にすくって、布を濡らして身体をこするんだよ」

竜女「釜?桶?」キョトン

少年「あー、釜はデカい水溜まりで、桶は小さい水溜まり」

竜女「うーん、良く分からないよう……」

竜女「……そーだ! 師匠!」


竜女「一緒に来てください!」ニマ

少年「あぁん!!? 一緒に風呂入れって事か!?」

竜女「……嫌ですか」シュン

少年「嫌に決まってん……!」



竜女「(´・ω・)」

少年「決まって……」

竜女「(´;ω;)」


少年「……あああ、わーったよ! わーったから泣くんじゃあねえ!」

竜女「師匠はやっぱりボクの事嫌いなんだぁ……えうぅ」グスン

少年「んなこた言ってねえだろ! 風呂くらい教えてやっから、行くぞ!」グイ


……。

少年「沸かしてもらったわけだが、さて……」

竜女「ししょーと水浴び水浴び~♪」

少年「師匠と言うなって言ったろが」
少年(こいつには、まあ……抵抗ないんだろうな)ハァ

少年(……参ったな。女の死体をかっさばいて身ぐるみを剥ぐのとは違うんだ)

少年(それに、やっぱり、竜女は可愛い、し)チラッ

少年(ああ、クソ……。こんなの、俺のガラじゃねえ)

竜女「お兄ちゃーん、脱衣場ってここだよね?」ガチャ


少年(……平静を失う前に、己の道を疾く決めよ。昔に教わった)

少年(決めた。己は>>+1の道を往く……!)ゴゴゴゴゴゴ
1.兄として竜女に風呂を教える……それが俺の務めだ!
2.竜女とて、多少はその意味が分かっている筈。俺は一切の興奮を隠さん!

お兄ちゃんがんばれ(意味深)


少年(兄として竜女に風呂を教える……それが俺の務め。心頭滅却すれば、火もまた涼し)キリリ

少年「良いか竜女よ。まず男女が一緒に入浴する事は恥ずかしい事であると知れ」

竜女「うーん?」

少年「人の世では、親しくない者や異性に肌を晒す事は恥ずべき事なのだ」

竜女「だからローブを着せたの?」キョトン

少年「少し違う。胸や股は男に見せない方が良いという事だ。だから……」ヌギヌギ

少年「こうやって長い布を巻く」

竜女「はいっ」ヌギヌギ

竜女「出来たっ!」プルーン

少年「……胸を腕で隠せ」

竜女「あっ」バッ


少年「お前は手が塞がっているから俺がやるが」イソイソ

少年「入浴する際に脱いだ着物履き物は、こうして小さく畳み一カ所にまとめておく。無意味ではあるが、しきたりだ」

竜女「このアミアミの中に入れるの?」

少年「これはカゴと呼ぶ」

少年「あとは布を持ち……。いざ、浴びるぞ」ガチャ


竜女「ほへー。すごい煙」

少年「この熱い水が入った黒いのを釜、そこに転がっている丸いのを桶と呼ぶ」

少年「見てろ。まず布を置き、桶で肩と股に湯を掛け、流す」チャプ

少年「後ろ向いてるから、同じようにやってみろ」バシャン

竜女「あ、熱そう……」チャプ

竜女「……うう」ビクビク

竜女「ひゃうっ!」パシャ


少年「平気か」バシャバシャ

竜女「だ、大丈夫。びっくりしただけ。なんか、熱いけど、そんなに熱くない」バシャン

少年「流し終わったら桶に湯を汲んで、布を浸ける。少し柔らかくなったら、腕からこすっていくんだ」ゴシゴシ

竜女「分かった」ジャブジャブ

少年「多少強くこすれ、俺たちの身体は見た目以上に汚い。少し拭いたら、またお湯でゆすぐんだ」ゴシゴシ

竜女「はーい。これ、あったかくて気持ちいいね」ゴシゴシ

竜女「えへへ」ニマ

少年「どうかしたか?」ゴシゴシ

竜女「ね、ししょー。一緒に風呂って、仲良しですか?」ゴシゴシ

少年「……普通は、しないぞ。それだけだ」

竜女「……えへへへ、ありがとー」ニマニマ


少年「俺は終わったぞ……どうした?」パチャパチャ

竜女「ん~……、背中が届かないです」グイグイ

竜女「手伝ってくだ」
少年「分かったよ……後ろ向いて座れ」ハァ

竜女「はぁい」ペタン


少年(……背中、なだらかで、肩、小さくて……腰、細くて……尻……)ドキ

少年(はっ、いかん。明日から独りでも入れるように教えるのが師匠である俺の使命!)フルフル

少年「痛くないか」ゴシゴシ

竜女「うん」

少年「ほれ、こんなもんか。後は頭に湯を掛けて、頭皮を手でわしゃわしゃ洗えば終いだ」バシャッ

竜女「うわっぷ。ありがとう師匠」ワシャワシャ

少年「……」ゴン

竜女「何すんですか!」

少年「頭、本当に硬いのな……」


竜女「ふー気持ち良かったー」ポタポタ

少年「待つがよい」グイー

竜女「あーれー」

少年「風呂から上がる時は先に多少頭の水滴を落としておけ。床がビショビショになる」フキフキ

竜女「わぷ。えへ、ししょーに頭拭いてもらっちゃった……」ニマ

少年「……良いから乳首を隠せ。丸見えだ」フキフキ

竜女「はーい」バッ

少年「あとは中で拭いて、ローブを着ろ。俺も拭いてから上がる」

竜女「ありがとー」ガチャ

……。

少年「ふー」ガチャ

竜女「師匠、ローブの着方忘れちゃった……」ハラリ

少年「あああもう!」


……。

竜女「師匠……これスースーするよう」パタパタ

少年「前をパタパタするな……。それはバスローブっていう服だ。借り物だから汚すなよ」

竜女「はーい」

少年「今は向こうの方で服を干させてもらってる。明日には乾いてんだろ」

竜女は俗に言う女の子座りをして、白いシーツの上から少年を見つめている。
部屋には鍵が掛けられ、就寝中の札が吊されていた。

ランプに照らされた部屋の中、
翡翠の髪も、
2本の角も、
小さな尻尾も、
伝承より伝わる、竜人族たる特徴は何ひとつ隠されていなかった。

竜女「……ししょー」ボソッ

石の文明、火の灯。音を遮る語らいの香り。


竜女「ありがとうございます」

少年「……急にどうしたんだ?」


竜女「ボクは物心が付いてからずっと片親だった。とある山奥の岩穴でお父さんに育てられてたんだ。ずっと一緒だった」
竜女「お父さんは人間で、罠を使った狩猟が上手だったな。けど実のなる木とかも育てていて、動物にもあげてたから懐かれてた」
竜女「自然の一部みたいな人だったよ」
竜女「剣も上手で、危ない時はボクを守ってくれた」


竜女「ある日ね、お父さんはボクに旅に出るように言ったの。竜人族が還る場所。伝承に伝わる『寂樹の里』を探せ、って。それが、2年前の事」

竜女「人の大人より強いとは言え、まだボクは若かったよ? 旅をするには」
竜女「けど、お父さんは言った。いずれ時代が動く時が来ると。この世界を目にし、自分の生きる道を探せと」
竜女「竜人族である自分が受け入れられる、居場所を探せと」

竜女「ボクは少しずつお父さんと暮らしていた場所から離れながら、2年旅をしてさまよった。時折出会う人間と竜に、色々言われながら」
竜女「穢れた血、忌まわしき子、生き物の失敗作……とか、さ」


少年「……」

竜女「世界を目にし、って言っても、やっぱり世界は人の守る橋や竜の多く住む渓谷で区切られていて、独りじゃどうしようもなかったんだぁ……」
竜女「人の事を助けたり、竜のお手伝いをしたりしたけど、うまくいかないどころか攻撃された。それに、お互いに人と竜はとても憎みあっていた……」
竜女「……それはボクの命が、世界から拒絶されてるみたいでショックだった」

竜女「すごく、ね。理解してくれる誰かが欲しかったんだよ?」

竜女「中には、ボクを騙して殺して角を奪おうなんて呆れた商人もいたな、あはは……その人はさすがに殺しちゃったけど」
竜女「それで旅の剣士に声を掛けるようになって、そっからはこの前話した通り。それで師匠に会った」

そこまで言うと俯いていた顔を上げ、竜女は少年の前に立った。

竜女「――今日はね、初めて人の住む町に入って、人の食べるご飯を食べて、人の寝るお家で寝られる記念日なんだ! えへへ」ニマニマ

竜女「だから、ありがとねっ、ししょー!」ギュッ

少年「……ああ」ポンポン


そこには生きる場所の無い生き物に根付く、静かで深い息遣いがあった……。


少年「わりぃな」

竜女「何がですか?」ギュウ

少年「片腕でしか抱けねえ」

竜女「えへへ、十分です」

少年「……しっかし。お前、本当に妹みたいだな」ポンポン

竜女「えー、恐れ多いですー」ニマ

竜女は笑うと、一旦身を離してベッドに座る。少年もその隣に座った。

竜女「えっとですね。ボクが師匠に懐いてるの、大げさだと思ってません?」

少年「……人とあまり話をしねえんだろうなとは思った」

竜女「むー、それはそうですけど」


竜女「お父さんと別れてから2年……初めて会った、ボクの事を拒絶しない人」

竜女「正直。ボクにとって居場所よりも大切なもの」

竜女「ボクが師匠に好意を抱いているのは、フリなんかじゃ、ないです」

少年「……馬鹿言うな。会ってからまだ一週間も経ってないぞ」

竜女「あはは、好意って言ってもそんな大それたものじゃなくて、師匠良いなー、好きだなーって感じかな」ニマ

少年「……///」プイ

竜女「確かにまともに誰かと話ができたのなんて久しぶりだから、感覚がマヒしちゃってるかもだけど」

竜女「……ししょー」

少年「んだよ」

竜女「ねましょ」

少年「……今日は腹を触んじゃねえぞ」

竜女「えー?」


竜女「何この袋?」ポフポフ

少年「これは枕って言って、頭の下に敷くんだ」

竜女「……柔らかい」

少年「んで布団を掛けて……」バサ

竜女「お、おおー! もふもふ!もふもふ! 雲の中みたい!」

少年「はいはい……ランプ消すぞ」フッ


竜女「……まっくら」

少年「寝るぞ」モゾ

竜女「うん……」ピト

少年「……」ナデナデ

竜女「!!///」ニマニマ

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……。

少年「……朝か」

竜女「むふー、むふー」モゾモゾ

少年(布団に潜りすぎだこの馬鹿……)
少年(頭だけ出てるな……)サラサラ

竜女「ん……」ギュー

少年の手のひらに乗った艶やかな竜女の髪が、つるんとこぼれる。少年はもう一度手に取り、その微かに甘い匂いを嗅いだ。

少年(何だこれ。胸が、鳴る……)スゥ

竜女「ぅ、ん……」ムニムニ

少年(……)ドク ドク ドク

少年(ああ、やめだ! 今日も暇じゃねえんだ……)ガバッ

竜女「ん~、ししょー……?」トローン

少年「起きろマヌケ面。すぐローブ持ってくるから、部屋出るんじゃねえぞ」

竜女「ふぁい……」ゴシゴシ


……。

竜女「ふんす。ローブ着たよっ」

少年「荷物持ったか」

竜女「ここにはもう戻らないの?」

少年「いつ戻れなくなるか分からんからな。行くぞ」

ガチャ

少年「主人、出来れば今夜も泊まろうと思う。部屋を空けておいて貰えないか」

主人「はいはい! お気をつけてどうぞー」

竜女「また来まーす」

バタム

竜女「今日はどこ行くの?」

少年「酒場だ」

竜女「ご飯!?」ジュルリ

少年「昨日の話を忘れたのか……クエストだ」


ガチャ

マスター「おぉ、いらっしゃい……ずいぶんと若ぇもんが来たんじゃねえけ?」

どうやら盗賊団の討伐隊がたむろしているようで、朝から酒場は賑やかだった。
もっと言えば、男の集団特有の下品な空気が漂っていた。

ローブを被った竜女と、少年の右腕部分に男たちの視線が集まる。

男A「おぉん? んだよガキンチョ……飯ならママの所で食えや、邪魔すんな」

男B「てゆーか、あのガキ右腕ねーじゃねえか! ギャハハハハ気持ちわりぃwww」

少年「……フン」スタスタ
竜女「あうう……」ビクビク

雑言を意に介さずクエスト掲示板に向かう少年たちに、1人の男が立ちふさがった。

男C「いつまでスカした顔してんだよ、くぉら……ここは俺たちの貸切なんだよ、分かったら出てけや」ズイ


少年「……」チラッ

マスター「わしぁ止めんよ、あやつらもお前さんも……好きにせい」

少年「忠告はしたぞ……」

男C「おう、俺たちにも何とか言ったらどうなんだよガキ共? 弱そうな剣差しやがって……」

少年がこの時点で殺気を放ち、靴のかかとを浮かせているのに気付いていたのは酒場のマスターと竜女だけであった。

男B「ヒヒヒッ、後ろのチビ、ひょっとしたら女じゃねえか? おら、剥いちまえええええ!」バッ

竜女「っ!」


メキョ。


男B「わびゅ……?」ミシミシ

男B「あば」ドシャア

少年のつま先が男の鼻骨に突き刺さる。男が伸ばした手は竜女のローブに触れる事はなかった。

少年「……妹に触るな」ギロ

場が凍る。
野次馬か討伐隊の一行か、高く投げられた酒瓶がガシャンと割れる時、男たちの緊張は一気に興奮と化した。


おおおおおおおおおお!!!!
男「何してくれんじゃこのクソガキィィ!」「一発シメたれ!シメたれええ!」「構うこたねぇ、殺っちまえコラ!こああん!」

少年「妹。動くんじゃねえぞ」
竜女「う、うん」

男「ガキが調子ぶっこいてんじゃねえぞおおおん!?」ブンッ

少年「うるせえ」ガコン

豪快に投げられた酒場の椅子を足で止め、踏み割る。自己防衛だけでない、完全なる宣戦布告。


少年「こいよゴラァ! デケェのは声だけかぁ!?」シャキン

男「あああああ抜いたなああああ? ああ殺しちまえ、お前ら殺しちまえ!!」「いいぞガキィ、やっちまえええ!」「早く女をこっちに輪姦せ!溜まってて仕方ねえんだよおうおう!」

男「片腕で勝てるわきゃねえだろおおお!!」ビュンッ


上段袈裟切り。しかし、あまりにも振りかぶり過ぎだ。刃物は人に一振りで致命傷を与えられる武器。振り回すものではない。
がら空きの首を抜いた。




ぱんっ!


首「」クルクル

男「――――」「なっ……!」「――――――」

少年「ほれ、副菜」ガッ

吹き飛んだ首、上に吹き出す赤ワイン。
争いを煽っていた席のローストビーフの皿に、少年は迷い無く男の首を蹴り入れる。

首「」ジイィ
男「ぎゃああああああ!!」ダッ


少年「殺せって言う奴が死体を見てご退店か。ちっちぇな」
少年「次は誰だ? クソ共」

男「多少腕が立つからってよぉー!!」「人殺しがああああ!」ビュンビュン

少年「はぁ?? 人でなしが人らしく死ねると思ってんのか」ガキィン!!

面白い

しえん


男「こ、このガキ……! なんで両腕の俺が片腕の野郎に……!?」ギリギリ

少年「知るか雑魚」ガキン

ズバン!

男「ああっ!? ち、血が、血がが」ズシャア

男「いいぞーガキンチョ!」「おいおい、マジかあのガキ!?」「ふざけんな、ウチの身内を殺しやがってえええ!!」


………………。


男「あびゃ!」ズバン!!

男「たすっ、ぶぅ!」ドシュ!!

少年「……俺たちに用のある奴はこれで全員か?」ビシャッ

男「……」「……飲むか」「ひょーこええ」

少年「妹。漁るぞ」

剣はとりあえず抜いたままで、少年たちは血まみれの死体の懐をまさぐった。

……。


ドヨドヨ……

付近の住民や普通の冒険者からの非難の視線を浴びながら、少年たちは主に金を集める。
ひとしきり探り終わった後、少年たちは集めたお金をカウンターに置いた。

少年「すまない。荒らした分と、足りないだろうが死んだ奴らの飲み食いした分だ。……シケてはいるが」

少年「恐らくはツケておくか元締めがまとめて払う気だったんだろう。その元締めは逃げちまってたらしい」

マスター「構わんよ。知ってたさ……」ニカッ

竜女「お兄ちゃん……どういう事?」

少年「だいたいの予測は付いた。マスター、クエスト掲示板を見せてもらうぞ」

マスター「構わんよ」


クエスト依頼書には、盗賊団からの警護及び討伐という題が大きく記されている。
登録した討伐隊は酒場に夜9時集合し、それから町の警備を行うようであった。
報酬欄には具体的な記述はなく、町人からの謝礼と記されていた。登録人数に制限がないせいだろう。
備考欄には攫われた人の救出、確保ともある。人攫いも行っているようだが……。

少年「何人くらい受けてんだ?」

マスター「下に名簿があるよ……」ニカッ

依頼書の下に名簿が貼ってある。少年との斬り合いにより死んだ者を抜いても、その数は10人以上。
少年はひとまず踵を返した。

マスター「受けないのかい?」

少年「日を改める。世話になった」

少年の歩く先の人だかりが割れていく。ある人は少年の右腕を見て、またある人は少年の険しい眼差しを見て、畏怖、忌避していた。

少年「妹。行くぞ」ガチャ

竜女「うん」バタム


竜女「はあぁ……もう、さすがに怖かったよ!」プンプン

少年「あれくらいの斬り合いは慣れてらぁ。獣や竜の方が数倍速い」

とりあえず少年たちは町の広場に赴き、木箱に腰を下ろした。周りではそこここで石工が石を切ったり削ったりしている。

竜女「まあ良いや、お兄ちゃん、これからどうするの?」

少年「夜までは暇だ。寂樹の里然り、情報を集めないと仕方がねえな」

竜女「そうだったねー。そう言えば、盗賊団と討伐隊、どっちを襲うの?」

少年「依頼書の概要を見るに、盗賊団が活動し始めたのは2ヶ月以上前の事らしい」
少年「町の構造や土地勘に詳しい地元民が突き止められない以上、俺たちで尻尾を掴むのは難しい」

少年「だから討伐隊がターゲットなんだが……場合によっちゃあ両方、だぁな」ニヤ

竜女「?」

少年「さ、情報収集だ。日没までに3つ集められればいい方か……。よし、まずは>>+1か」

1.表通りで周辺の地理や町の事について聞く
2.商店、民家を当たり盗賊団について聞く
3.宿の主人に国の情勢について聞く
4.竜女と八百屋の主人に食用草について聞く

3かなあ

三つまで複数選択するなら4か2以外で


少年「宿に行くか。ひさしぶりに国の情勢でも聞いておこう」

竜女「国の、情勢?」

少年「俺たち人間が住んでいる場所も、内部でいろいろあんだよ。穏便派と侵攻派ってのがな」

…………。

少年「……そういう経緯でよ」

主人「そうですねぇ……まあ、おかけください」

主人「お嬢さん、今の国王がどんな人については知っているかい?」

竜女「?」
少年「すまねえな。旅人は時事に疎い」

主人「いえ、気にしないでください。今よりおおよそ300年くらい前、人間と竜との間に戦争が起きたという事は知ってますね?」

少年「ああ」
竜女「そうなの?」


主人「その大戦は、結局人間側の大敗に終わります。それは侵略戦争でしたし、竜の側からもそれ以上の追撃はありませんでした」

主人「しかし指揮責任として国軍や大臣の多くは裁かれ、それ以上に国民の反感を買い内乱によって人間の国家は崩壊します」

主人「大昔に人間が平定する前の乱世に戻り、それが再び平定し王家が国家として治めたのが今よりおおよそ200年前」

主人「その時の国王、通称一世は、竜に対する攻撃を是としない穏便派と呼ばれる思想を礎に国家の王となりました」

主人「竜に対する強い恐怖、畏怖が根付いていて、生活の安定を希求していた国民にとっては当然の選択とも言えますね」

主人「その王が没したのは今より150年くらい前。二世と呼ばれる息子が王として治めます」

主人「それを繰り返し、今は七世と呼ばれる王が今の国を治めているわけです」

主人「そこに至るまでに国民の生活は安定し、多少の余裕も生まれました。戦争という惨劇の記憶も今は記録でしかありません」

主人「では国の発展の為に、竜の勢力の薄い場所から侵攻しようという動きが侵攻派と呼ばれるものです」

主人「昔から侵攻派の声はあったのですが、生活がまだまだ安定していなかった事や老人層の反対により、大きくなる事はありませんでした」

主人「しかしそれも四世までの事で、今や侵攻派の声が世の多数を占めています。事実、ここ十年で町は3つも増えました」

主人「そして今、前国王の六世から受け継がれる計画により、七世は大規模な竜の排斥に乗り出しているのです」

主人「まあ、聞き疲れたでしょう。お茶でもどうぞ」スッ


竜女「んくんく」
少年「続けてくれ」

主人「かつての大戦の時、竜族の頂点である竜王と戦い、一筋の傷を付けたと言われるものがおりました」

主人「その血筋は勇者と呼ばれ、国王と共に国のシンボルとして狼藉を働く竜族を成敗して回っています」

主人「かの血筋は竜の牙を折り、竜の鱗すら破るとされ、代が変わりなお実在する国民のヒーローなのです」

主人「察しが付いたでしょうが、今国は総力で勇者一行をバックアップし、竜王を討たんとしています」

主人「それにより竜勢力の融解を狙っているわけです。まあ、私からすれば絵空事のように思えますが、国の方針なので仕方ないですね……」

少年「ホントだよ。馬鹿馬鹿しい」
竜女「勇者って人が竜王のライバルなんだー」

主人「ああ、すいません。そう言えばまだ夕飯の仕込みの途中なんでした。今夜はラプトルのスパイス煮なんですよ、良ければまた一泊してくださいね!」

竜女「はいっ!」キラキラ
少年「ああ。邪魔して悪かったな」


少年「時間喰っちまったな。それに最新の話は聞きそびれた」

竜女「う、ごめんなさい」

少年「良いさ。知っておかなくちゃいけない事も多かったろう」

竜女「次はどこに行きますか?」

少年「どうやら朝市は終わっちまったみてえだな。八百屋がいねえ」

竜女「でも、町の各所に人が出歩いてますね」

少年「>>+1に行くか」

1.表通りで周辺の地理や町の事について聞く
2.商店、民家を当たり盗賊団について聞く
5.井戸端の婦人達に勇者について聞く
6.裏通りのごろつき達に聞きづらい事を聞く

6でお願いします

あ、ごろつきを皆殺しにするビジョンが・・・


竜女「お兄ちゃ~ん、こんな裏通りに何の用なの~?」

少年「人目があるから聞きづらい事もある」

…………。

ごろつきA「お、今朝酒場にいた兄ちゃんと妹さんじゃねえか。派手にやらかしたなぁ、かっかっか……!」

ごろB「正直あの連中には町中呆れてたから、スカッとしたぜ。さすがになます切りにしちまうたぁ思わなかったが」

少年「表の視線が痛くてな……。居づらい」

ごろC「分かるぜ、それ。ここにたむろしてる奴はだいたい前科持ちだからなあ、ひっひ」

ごろA「しっかし、腕が片方じゃ苦労する事も多いんじゃねえか? よく冒険者なんかできるなぁ」

少年「慣れだ。それより少し聞きたい事があってな」

ごろB「お、どーぞ。丁度ヒマしてんだ」

少年「さっきも言ってたが、盗賊団の討伐隊ってどうなってんだ?」

少年「人を見た目で計るつもりはねぇが、町の警備隊にしちゃ品がなさすぎねぇか」


ごろC「あんちゃん、確かクエスト依頼書見てたよな?」
ごろA「だったら、そりゃあお前さんの予想してる通りだと思うぜ」

ごろB「そもそも、ここは石工以外にも貿易地として栄えてた町なんだよ」

少年「そうなのか?」

ごろA「ああ……あまりデカい声じゃ言えないけどなぁ、盗賊団の名が上がってから数々の店、特に問屋が優先的に潰れてったな」
ごろC「ああ。ここにいる連中には、奴らに割を食ったのもいる。濡れ衣だ」

竜女「???」キョトン
ごろB「あっ、嬢ちゃんは知らなくても良いのよ……」

ごろC「既に気付いてたかもしれねえが、この町には専門の店がひとつずつしかねぇ」
ごろB「宿屋とかは分かりやすいかもなぁ。だいたい、普通のと安宿とふたつある町が多いからな」

ごろA「そったところはズブズブだ、間違いねえ。守られてんだよ、文字通り警備隊に、な」
少年「そんな所だろうと思ったよ。美味い飯に沐浴場、破格すぎる。代わりにクエスト受注を客に薦めるといった所か」

ごろC「ビンゴ」


少年「なるほどな……世話になった」

ごろA「まっ、俺たちにゃあ関係ないんだがな。何にしろ、今夜やらかすなら気を付けろよ。連中も兄ちゃんを警戒してる」

少年「長々と町を脅かす気もない。人攫いについては、売られたら取り返しが付かないだろ?」

ごろB「とりあえずは金、あわよくば謝礼か?」


少年「フン……さあな。妹、行くぞ」

竜女「ね、ねぇねぇお兄ちゃん、宿の人は悪い人だったの……?」シュン

少年「経緯は人それぞれだ。あまり深く考えない方がいいけどよ」

ごろC「……頼りになる奴に、ちゃんと守ってもらえよ。嬢ちゃん」ナデナデ

竜女「あう」

少年「……」ギロ

ごろC「おーお、怖い怖い!」


…………。

竜女「……ボクの純粋な気持ちがぁ」

少年「良くあることだ。慣れろお花畑。そんな宿でも、初めて泊まった記念の宿にしちゃあ上出来すぎらぁ」

竜女「……うん。そうかも、ね。ありがとう、お兄ちゃん」

少年「さて、次はどうするか……ん?」


老人「そうして、竜と村人は幸せになったとさ……おしまいおしまい」

子供「えー!」「竜は悪い奴なんだよー!」「お爺ちゃん怒られちゃうよー!」


竜女「あれは?」

少年「紙芝居、って奴だ。ああいう穏便派の年寄りなら伝承にも詳しいのかもな……」

竜女「なら、>>+2に行きましょう!」

1.表通りで周辺の地理や町の事について聞く
2.商店、民家を当たり盗賊団について聞く
5.井戸端の婦人達に勇者について聞く
7.老人に寂樹の里について聞く

とりあえず寝ます
反応くれた人、安価拾ってくれた人、ありがとう

7


少年「あの年寄りなら何か知ってんかね」

竜女「寂樹の里……少しでも手掛かりが欲しいです」

……。

少年「すまないが、ちょっと良いか?」

老人「お前さん、片腕……!」

少年「気にするな。それより、少し聞きたい事があってな」

老人「そうか……して、用はなんじゃ」

少年と竜女は、老人の隣に腰掛けた。


少年「寂樹の里という地名に聞き覚えはないだろうか」

老人「じゃくじゅ、とな。知らんのう」

少年「絶世の景色が見られる秘境という話なんだが」
竜女(どういう事?)
少年(竜人の里とは言えねえだろうよ)

老人「すまんねえ。かれこれ60年生きてるが、聞いた事がない」

少年「そうか……」


老人「絶世の景色、かぁ……。地に緑が溢れておれば、つまらぬ争いも起きまいて……のう、少年」

少年「……紙芝居を覗いていたんだが、あんたは穏便派なのか?」

老人「ふぅむ。あまり大きな声では言えんが、侵攻派の考えている事が気に食わんだけじゃ」

少年「どういう事だ?」

老人「獣は悪しきものではないとしながら隷属させ、喰らう輩が、竜は悪だと罰するなどのたまうのが不愉快での」
老人「着の身着のままならどちらにも殺されるのが人の立場じゃというのに……思い上がったものじゃ」

老人「これからの時代、わしみたいな老いぼれが口を挟む余地などありゃせんがな……くっく」

老人「この辺は如何せん、文明の息が多分に掛かっておるから侵攻派の声が大きい」

老人「例えば、『ヴィバルの橋』を渡った先の『ルー・パウ地方』ならまた違った声も聞けるじゃろう」


少年「そこでなら寂樹の里について何か分かるのか……?」

老人「まるで分からん。ただ、古来には竜族と関わりを持っていた部族などもあっちにはいる」
老人「伝承や秘境の話ならこの老いぼれより、穏便派の集まる場所で聞いてみるといいぞい」

竜女「ありがとう、お爺ちゃん」

少年「世話になった」

老人「道中気を付けるんじゃぞ。未だに人同士の争いも絶えないんじゃからな」

少年「重々承知だ。行くぞ、妹」

竜女「うんっ」

…………。


少年「さて、夜の9時頃になる」

竜女「町の人は誰もいないね。酒場かな」

少年「だろうな。下っ端をやっても旨味はねえから、できれば頭を狩りてぇもんだが」

少年「あと、お前は緊急時以外剣を抜くな。ローブを被ったままじゃ振るい辛いだろう」チャキ

竜女「はいっ」チャキ



少年「この、ルミエの町は門から一本大通りが伸びていて、その両側に建物の立ち並ぶ縦長の町だ」
少年「門以外はすべて塀で囲まれていて、出入り口はひとつとなっている。防犯の為だな」

少年「これをパトロールして、盗賊団を逃がしたくない場合にはどこの警備が厳重になるか分かるか?」

竜女「入り口の門ですよね」

少年「まあ当然だな」


少年「率直に言うと俺は今回の件、盗賊団と討伐隊がグル、あるいは同一組織だと思っている」
少年「そうだとして、奴らの本部はどこか分かるか?」

竜女「うーん……酒場近く?」

少年「いや、外部だ。行商を盗賊団が襲えばそのまま穴ぐらへ、町内で『盗賊を討伐隊が連行』するなら門を通せば良い」

竜女「……それって」

少年「まぁ……居ただろうな、盗賊にでっち上げられた奴が。俺たちの知る所じゃないが」


少年「じゃあ外部に穴ぐらがあるとして、それはどこか。……恐らくは討伐隊が見張っておける町の近くだ」

少年「顔の知れている町人なら町に戻せば良いし、旅人や行商なら『討伐』してしまえばいい」

少年「一番町の近くで、夜、町人に一番目立たない場所は?」

竜女「……門の反対側、塀の外」

少年「フン。行くぞ」

竜女「でもなんで最初から外に出て待ってなかったんですか?」


少年「……………………」


竜女「ねぇ、ししょー」

少年「師匠と呼ぶな! 良いからどうにかして外に出るぞ!」ゴン

竜女「いたっ、絶対ごまかしたー!」


討伐隊「――」ガヤガヤ


竜女「門の前は数が多いです」

少年「町内も見回りがいるな」

竜女「突破しますか?」

少年「声を上げられて、穴ぐらの入り口に鍵を掛けられたら終いだ。その時に討伐隊に危害を加えていたら?」

竜女「明らかな悪者ですね……塀を登ったらどうですか?」

少年「それをさせない為の見回りだ」

竜女「もー! 面倒ですー!」


少年「こうなれば見回り2人の身ぐるみを剥いで……!」チャキ

竜女「待って師匠。……ボクに、作戦がある」

少年「何だ」

竜女「本当はあまり知られたくなかったんだけど……師匠なら良いや。何か、木の棒みたいな燃えやすいもの、ある?」

少年「松明ならあるがよ……竜女、何する気だ」

竜女「まあ、任せてくださいよ! ほら、コレ……ボクのとっておき」

竜女はそう言うと、荷物から乾燥した木の実を取り出した……。


…………。

見回り「今日も見回り、か。新人はいつものように塀の外……」

見回り(またボスの気紛れで『盗賊団の犠牲』になるのかねぇ)

見回り(こんな事したくねえけどよ……無一文にされて商売やめさせられたら食ってけねぇ)

見回りはかつて自分が腕の立つ行商人であった事を思い出していた。
ボヤきながら裏通りを抜けると、遠くに門番たちの姿が見える。

見回り「おーい、門番。そっちどうだ」

門番C「大丈夫だー」

門番A「どうせ今日は仕事もねえよ。おこぼれだけ貰って帰ろうぜ」

見回り「そうだな……じゃあまた」

見回りは踵を返し、裏通りに戻る。その時、足元に見慣れない木の実が転がっているのが見えた。


見回り「……?」


その瞬間、弧を描く灯火が見回りの足元に滑り込む!







ドカァン!!

見回り「うおああっ!?」




竜女が地表を滑らせた松明が着火し、見回りの足元で爆発、炎を撒き散らす。

門番B「何だァ!?」

見回り「あちぃ!あちぃあっあっあっあっ!!」

門番A「見回りが……! おい、大丈夫か!」

門番C「やべえ、家の木材が燃えてる……! 俺、水持ってくるからまず見回りの火を消してやってくれ!」

視界の端で火に包まれる見回り。門番が一斉に散ってゆく。

少年「でかした竜女……!」ダッ

俺たちは表通りに回り込み周囲を確認する。そのまま誰にも気付かれる事なく門を突破した。


少年「やるじゃねえか、竜女……!」タッタッタッタッ

竜女「け、けひ……喉いたいよう……!」タッタッタッタッ

少年「そういや、竜との混血だもんな。ブレスだって吐けるわけだ」タッタッタッタッ

竜女「けほっ、本家の竜には及ばないよう……小規模の火しか出ないし、すごい喉痛めるし」タッタッタッタッ

少年「そんな事ねえ、助かった。見直したぜ」タッタッタッタッ

竜女「えへへ……。自分が混血だって事思い出すから、使いたくなかったけど……師匠の役に立てるなら良いかな、って」タッタッタッタッ

竜女「……ごほごほっ、うう」ピタ

少年「相当痛ぇみたいだな……無理させて悪かった。大丈夫か」ポンポン

竜女「あ、ありがとししょー……/// 1日に3回が限度かも」ダッ

少年「そうか……あの良く燃える木の実は何て言うんだ?」タッタッタッタッ

竜女「肥樹っていう木の実なんだ、ボクの切り札。あと3つはあるよ」タッタッタッタッ

少年「いざという時は頼らせてもらう」タッタッタッタッ

竜女「火種が欲しいだけなら乾燥した葉っぱも持ち歩いてるから、いつでも言ってね」タッタッタッタッ


少年「この辺か」

竜女「誰にも見つかってないよね……」

少年たちは塀の外、盗賊団のアジトと思しき場所に到着する。

少年「見張ってろ、入り口を探してくる」
少年(盗品の出入りがあっから、そう小さくない穴の筈なんだが……)

竜女「はいっ」

……。

少年(……この辺の草、柔らけえな)フミフミ

少年「竜女。行くぞ」チャキ

竜女「見つかりましたか?」

少年「ああ」

少年は土から伸びる紐に手を掛ける。鍵らしきものは掛かっていなかった。

少年「入るぞー」ガバァ

見張り「ああ良いぞー……なんだお前ら!?」

少年は梯子に手を掛けている見張りに向かい、携えていた無裂を突き下ろした。


見張り「あ?」ブシュ

少年「邪魔だ」ゲシ

見張り「あ、あ」ドシャア

額から背筋に貫通した刃を引き抜き、顔面を踏みつける。
縦穴はそう深くないようで、見える位置に死体が落ちていった。

少年「ザルな警備だ」

竜女「師匠が顔見知りみたいな声出すから……」

少年「うるさいな。あの程度のブラフに引っかかる方が悪い。気を付けて行くぞ」カツカツ

少年は新手を警戒しながら梯子を降り、底に到達する。竜女はおずおずと続き、入り口を閉めた。
穴の中には明かりが灯っているようで、木の枠により土砂から守られている。炭鉱のようになっていた。

竜女「ほえー……もっとアジトみたいになってるかと思いました」カツカツ

少年「油断すんな、ここからは挟撃される。後ろを警戒しろ」

竜女「はいっ」


少年たちは誰とも出くわす事なく進み、程なくして最深部に到着する。
岩場には盗賊3人が座っていた。

少年「邪魔するぞ」

竜女「あっ、あれ……!」

片隅には、麻の袋に入れられた子供の姿もちらほら見える。猿ぐつわをはめられており、また衰弱しているようだった。

盗賊A「何の用だ」

少年「盗賊団の討伐に来た。金品や身ぐるみを置いていくなら許してやらぁ」

盗賊B「昼間のガキか。まったく、どっちが盗賊か分からんな」

盗賊C「でも調子に乗るんじゃねえぞ。こっちには聖堂騎士のギルト様がいるんだ、分かったら死んじまいな」

ギルト「という訳で盗賊A改めギルトだ。お前らの事は聞いている、盗賊団と討伐隊の事を知られたからには死んでもらうぞ」

そう言うと、ギルトは盗賊団の覆面と討伐隊の腕章を少年たちに投げて寄越した。

竜女「……お兄ちゃん。ちょっと、腹立ってきた」

少年「下がってろ。どうせすぐに終わる」ジャキン!!

ギルト「ほざけ小僧。命乞いは聞かんぞ」ジャキン!!


少年は無裂を抜き、ギルトはショーテルを構える。

少年「騎士がショーテルか。扱いづらいものを持つな」

ギルト「罪人の首を狩るには丁度いい」

極めて殺傷力の強い曲刃が光を放つ。ギルトは独特の風切り音と共にショーテルを一振りした。




ギルト「往くぞ。片腕の少年」

少年「来いよ……屑」

ギルト「つ、ええぇぇえい!!」ヒュン



大胆な下段からの振り上げが少年を襲う。

最後の部分だけ見ると少年に対して「つえええええええ」って驚いてるギャグ場面に見えるな。
いや、展開的にも内容的にも結構シリアスっぽいんだけども

同じく


少年「こんなものか」キン

ギルト「……様子見だ」ザッ


少年はあっさりとショーテルを払うが、ギルトはそこから一歩引き間合いを取った。それなりには戦い慣れしているようである。

ギルト「右からならどうだ?」ヒュッ

少年「同じだ」キン

ギルト「そうか」ザッ

首を狙った斬撃に対し、少年はショーテルを上に払う。ギルトは再び間合いを取った。

ギルト「そんなに受けるのが怖いのか? 小僧」

少年「盾の外から斬る為の剣持って何言ってやがる」

ギルト「図星かぁ? ふはははははは、そぅれ!」ビュンビュン

少年「……」キン キン

ギルトは左右に斬り、払い、少年の脚や首、胴を何度も狙う。少年は少しずつ下がりながら、それを左手の剣一本でいなす。


ギルト「ふっ、ふははははははは!! 逃げられまい! 私の剣捌きから!逃げられまいよ!!」ヒュッヒュッヒュッヒュッ

少年「……」キンキンキンキンキンキンキンキン

竜女(違う……師匠の目はあの剣を捉えている)

竜女(何かを待っている、あるいは……)

ギルトの乱撃から一歩引いた位置で、少年は冷静に受け続ける……。
いつしか、あと一歩分の隙間を残して少年は壁に追い込まれていた。



ギルト「どうした? どうしたぁ! 後が無いぞ無いぞ無いぞ無いぞぉ!!! ふっふははははははは!!」ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ

少年「…………」キンキンキンキンキキキキキキキキン


少年の踵が壁に着く。


ギルト「ははは、お終いだよ! ああ君は!!」グオッ!!



ギルトが大きくショーテルを振りかぶった。





ビィイン!



少年「――ったく」ビシャッ

竜女「……!?」

壁に刺さったショーテル。

ギルトのつま先から出た銀の刃。


……ギルトの後ろで、剣に付いた血を払う少年。


ギルト「な、あ、あ」グシャ

ギルト「膝、ひざ、ざ」ビシャビシャビシャ

少年「フン」チャキ


ギルトの肢体が膝から両断され、滑り落ちた。


盗賊B「おい……マジ……かよ……」
盗賊C「聖堂騎士の1人、だぞ……!!?」

少年「……剣を受けられない相手に一方的に振り回し、間合いを植え付け」
少年「大振りの薙払いに見せかけて曲刀を投げつける」
少年「そしてがら空きの靴先には本命の仕込みナイフ」

少年「なるほどな」

ギルト「なぜ、分か……っ!」ズルズル

少年「済まぬ。別に読み切っていたわけではない」シャキ



少年「全て、過去に経験した手口だっただけだ」ブンッ

ズバン!!


首「」ゴロリ

少年「あえて、卑怯とは言わんよ。だがお前のやり方は古すぎた」ビシャッ

盗賊BC「ひ、ひいいいい……」

少年「……さて、残党君よぉ。この事を知られたからには死んでもらわなくちゃなぁ?」ニッコリ

はやく!(ニッコリ

いつも楽しみにしてるで~

追いついちゃった
期待

今はこのスレが一番の楽しみ


盗賊B「お、おい、ヤバくねーか……?」

盗賊C「こ、こいつらだって誰彼構わずなんて事はないだろ……」

少年「……」シャキ

盗賊B「あ、あるよバカ! う、動くな……こいつらがどうなっても良いのか!」シャキ

子供「!? ィウーッ! ウーッ!!」ジタバタ

婦人「ヴヴゥ! ヴアヴヴ……!!」グググ

盗賊の2人は麻袋の後ろに回り、それぞれ1人の民間人を人質に取った。喉元にナイフを突き当てている。
しかし少年はつまらなそうな顔さえして彼らに歩き寄った。

盗賊C「う、動くな!? こいつらを殺すと言っているだろう!!」

少年「ハァ? だからどうした」

盗賊B「!! さ、猿ぐつわ取るから早く何か言ってくれ!」シュルシュル


子供「ぷ、はぁっ!」

婦人「お、お願いします! どうか息子だけは、息子だけは!!」

盗賊C「さ、さあな……そいつが身動きしなけりゃ殺さねえでやるよ……」プルプル

少年「だとよ。諦めな、女」

盗賊B「それは普通こっちのセリフだろーが!! ほ、本当に殺すぞ! 良いのか!?」

少年「良いよ。殺れよ。お前らもすぐに殺してやっからよぉ」



婦人「やめて、助けて……!!」

子供「ママ! ママァ!! 死にたくないぃぃ!!」



竜女「――――なさい」シャキン




カキン。



少年「……!」

盗賊BC「っ!!」

人質「――――――!!!」


岩陰に舞う流水の歩。

手弱女を抱く真円の風。



竜女「ごめんなさい。師匠」パチリ



強き忌み子の三日月刃。



カラン、コロン。

竜女「……裂輪」


盗賊2人の手から、消え失せたが如くナイフが吹き飛んだ。

竜女が深く被っていたフードは脱げてしまい、その翡翠の髪と金の角を晒してしまっている。


呆気に取られる盗賊。
パニックを起こす人質。
驚きから嫌悪へと表情を変える攫われた市民。
一瞬早く平静を取り戻す少年。

少年「……」キン!!

盗賊B「な」パン!!

少年「ガキ。動くな」シャシャッ

盗賊C「ひゅ」サク


首「……」「……」ゴロリ

見てます

見てません


少年「……」ビシャッ


少年は、木こりが木を切り終えたかのような素振りで無裂を収める。

ギルト、盗賊2人、全員首を破断されて絶命している事から、辺りはいつしか血の臭いで充満していた。
頭側の断面からは多少、身体側の断面からは排水管のように血が流れ出ている……。

市民たちが尻込みする壁際まで赤い表面張力は浸食していて、未だ拘束を外されていない彼らは自分の麻袋が赤黒く染まってゆくのをただただ見ていた。

少年「…………」

竜女「し、しょう。あの、その、あの人達の縄とか、ほどいてきます」

少年「……フン」チャキ

少年は出口を向いて剣を抜いた。一部身を震わせた者もいたが、外に対する警戒だと知ると皆の拘束を解く竜女に目を向けた。

もっともっと

小出しで投下せずに三日に一回とかまとめて投下して欲しい

見てくれてる人いつもありがとう

>>163
仕事不定期+夜勤日勤不安定+行き帰りや休憩時間くらいしか書いて投下する時間ない
=ゆるしてください

本当はそうしたいけど家に帰ると書くものも多いし早く寝ないと明日死ぬ
ageるペース落とせばそれで良い?

いやどす(AA略

即興じゃなかったのですね

ある程度場面展開する量をまとめて投下した方がレスは付けやすいから
自分の手間、モチベーションを考慮して好きにやってくれ

あ、でも、不定期投下+出来た分だけ取り合えずで話が全然進まないと
見ている方がモチベ保てなくなって、貯まってからでいいやと読まなくなって忘れたりレス付けなくなるから
更新頻度が減るならある程度貯めた方がいいよ

>>164
いろいろ事情があるようですし好きなようにやってください

乙、楽しみなスレに出会えた

待ってる


竜女「皆さん、大丈夫ですか? ボクがほどきますから、ちょっとだけ待っててください」グイグイ

市民A「けほっ。……」

市民B「う、く……助かったのか」


子供「……!」ブルブル

竜女「え、えと、ほどくからジッとしててくれるかなー……?」

子供「ウ、ウーッ!!」ブンブン

竜女「……あうう。ごめんなさい、誰かほどいてあげてくれませんか」

市民B「……」グイグイ

子供「あ、ありがとうおじさん……!」ギュッ


…………。


竜女「え、ええっと。これで全員、助かりましたか?」


婦人「…………」

市民A「……もう売られた奴も沢山いるよ」

市民C「働けそうな男から、舌の根切られて……」

青年「……身なりの良い人に散々乱暴されて買われた女の子もいました」

市民B「1人、餓死した奴もいた……」

竜女「そんな、そう、ですか……。ごめんなさい、あの、その……」


市民A「お前らは、本物の討伐隊か……?」

少年「いや、本物の強盗だ。もっとも、お前らに興味はねえ」

市民B「……チッ」


竜女「し、師匠。もう少し穏やかに……」

婦人「……しい」

竜女「え? えと、何か言いました?」ヒョコ


婦人「汚らわしいって言ってるのよッ!!」


竜女「!」ビクッ

婦人「殺される所だったのに私達を見殺しにして、助けるのが当たり前でしょう!?」
婦人「しかも息子の前で二度も剣を振り回して、取り返しのつかない事になったらどうするつもりだったのよ!」
婦人「とんだ野蛮人よ、片腕のない気持ち悪いのと、竜の血なんかが混じってる人間の出来損ない!」

婦人「気持ち悪いのよ、竜みたいな人間なんて! あんたらが人質に代わって死ねば良かったのよ!!」

竜女「……。あ、の。ここにいる人は全員無事でしたし、許してくだ」

市民B「うるせえよ!! お前の同族がどれだけ人を虐げてきたか知らねえのか……!」
市民B「血は争えないって本当らしいなァ!? 竜はどこまで行っても人を見下しやがって、平気で殺そうとする! そうだろう!!」

竜女「…………」


少年「竜女。用は済んだか」

竜女「…………はい」

少年「ほれ。こいつ、ギルトがボスなら、この首でも吊して歩けば残党も手を出さねえだろう」ポイ

婦人「イヤっ!!? なんてもの寄越すのよっ!!」ゲシッ
市民A「……行こう。早く、帰ろう」ヒョイ

首「」ポタポタ

市民C「う、うっぷ……!」

…………。

少年「漁るぞ。手伝え」

竜女「…………はい」


あれから捕らわれていた市民達は無事に町に帰り、夜中とはいえ手厚く保護された。
少年達は少し離れた場所でそれを確認し、いずれ埋め立てられる盗賊団のアジトで夜を明かす。

少年「……くくっ」

竜女「……どうしたんですか?」

少年「誰のものとも知らぬ盗賊のアジトが似合いか、と思ってな」

竜女「宿屋、せっかく空けておいてもらったのに、悪い事しちゃいましたね」

少年「良いんだよ。もうこの町には居れない」


竜女「……師匠、本当にごめんなさい。ボクのせいで、師匠まで悪く言われて、町を出る羽目になって」

少年「……」

竜女「……ごめんなさい」


竜女「ボク、母親の事を知らないんです」

婦人『やめて、助けて……!!』
子供『ママ! ママァ!! 死にたくないぃぃ!!』

竜女「だから、ちょっとダブっちゃって、さ。お母さんいなくなっちゃったらあの子、ボクと同じだって」
竜女「お母さんと会った事ないの、何ともない筈だったけど……まだどっかで引っかかってますね! えへへ」


???『少年、逃げろ!!』

少年『ダメだ、僕もたたか……ああああああっ!』
???『お兄ちゃんッ!? 腕が、お兄ちゃんの腕がああああああ!!!』


……。

少年「……」

竜女「……えへへ」

少年「良い太刀筋だった」ポンポン


竜女「えへへ……」

竜女「……えへへ」グズッ


盗賊団のアジトからは様々な物が出てきた。少年達は手荷物に関しての情報を交換した。

…………。

少年剣士
・名剣無裂(刃渡り0.9mほどの剣。切れ味抜群)
・所持金628G(100G:約2000円=1G:約20円)
・ナイフ
・火打ち石(焚き火に使用)
・その辺の布切れ(刃物の手入れ他)
・ベルト(現在無裂の携帯に使用)
・水筒3本
・地図
・紐付き袋(これに入れる)
・ランプ(盗賊団のもの)
・縫い針と糸(盗賊団にて糸を補充)


竜人少女
・黒刀(刃渡り1.2mほどの曲刀。細く、やや厚身)
・肥樹の実3コ(リンゴほどの大きさ)
・むしった葉っぱ(枯れていて良く燃える火種。食べられない草はこのように保管する)
・良く分からない草の実(保存食。良く入れ替わる)
・髪留め(気分でしたりしなかったり)
・ローブ(少年剣士から貸与されている。黒色で、顔を隠せる大きなフード付き。元は大人用)
・干し肉(盗賊団のもの。ごちそう)
・リュックサック(小さめ。ベージュ色)


…………。

少年「あの爺さんが言ってた『ヴィパルの橋』ってのはこれの事だな……」

竜女「ルミエから1日くらい?」

少年「ああ。この大陸から出た事がないんなら、その方が良い手掛かりが見つかりそうだ」


竜女は、後ろを振り返る。そこには、石工が景気良く鎚を打ち鳴らすルミエの町があった。

竜女「……うん。ししょー、行きましょ!///」ムギュー

少年「ひっつくな」ゴン

竜女「ひゃう!」


激しさに優しさを携え、片腕の少年は往く。
明るさに哀しさを湛え、竜人の少女は往く。

悪意に歩み奪われし石の町。
今その暦、静かにめくり果たされたり。


1章 裂く者 了

いいね
続きが楽しみ

もう少し待ってて

はあく

終わりまで書いてくれるならいつまでも待つさ

2、3人ぶっ殺して欲しかったけど、少年丸くなるの早いな


2章 ヴィパル攻防戦


ルミエの町を出立してしばらく、時は正午。空模様はやや怪しく、白く厚みのある雲が街道の先に見える。
時々地図を開きながら歩く少年の後ろを、ローブを被った竜女がひょこひょこと追う。

竜女「しかし、あのギルトって人はなんだったのかな?」

少年「聖堂騎士と言ってたな。階級(クラス)なのか役職なのかは分からんが、それなりに名の売れた奴だろう」

少年「町で話を聞けりゃあ、なんかしか分かったかもな……」

竜女「そですねー、でも後悔しても仕方ないです」


竜女「ん? あ、ししょー! 待って待って!」タタタッ

少年「んだよ」

竜女は脇の茂みに飛び込むと、何やら草を摘んでいるようだった。

少年「置いてくぞ」

竜女「ごめんなさい、でも、これ美味しいんですよ!」タタタッ

少年「?」

戻ってきた竜女は、小さな黒色の実を少年に見せる。草の種子にも見えるそれは陽光を受け青紫に光っていた。

少年「草の種?」

竜女「違います、草の実です。これ美味しいんですよー!」パク

少年「お前が雑食だからじゃねぇのか……」

竜女「ボ、ボクはそうですけど! でもでも、絶対美味しいですから!」ズズイ


少年「なんか色が毒々しいぞ……本当に大丈夫なのか?」

竜女「多分! ほらししょー、あーんして!」ヒョイッ


少年「…………」


少年「やめだ。腹壊したらかなわねぇ」スッ

竜女「あ、えぇ……そんなぁ……」シュン

少年「人が食べられるかどうかは詳しい奴に聞かねえと分からねえ。てめーで食え」

竜女「美味しいから、ししょーに食べて欲しかったのに……」ポリポリ

……。

少年「聞き込みの成果については、まずまずだな」
少年「まあ、ヴィパルの橋を越えた先の話を聞けたなら良しとするか」


パチ、パチ……

竜女「ア、アライグマって食べられるんだ」

少年「火さえあるなら大体は食えらあ、よっと」ブチブチブチ

既に絶命しているアライグマの皮を素手で引き剥がし、各所の関節や筋繊維をナイフで切り離していく。
ちょうど4本の脚の筋肉が剥がされ、メラメラと燃える焚き火のそばに添えられた。

竜女「生き物はみんな肉で出来てますからね」ムシャムシャ

少年「ああ。少し喰うかよ?」

竜女「えへへ、ちょっといただきます」ニマ

湿った大気が草むらに流れ、いまひとつ焚き火の勢いを弱らせる。
少年たちは火元にアライグマの各所を押し付け、血肉を貪った。

…………。


竜女「やっぱりお肉も美味しいですね」ニマ

少年「ああ、ごちそうさま」パチ

竜女「ごちそうさま」パチ

血に汚れた口と手を拭い、少年は立ち上がる。少し顔を引き締め、竜女も黒刀を取った。


竜女「今日もお願いします、師匠!」チャキ

少年「おう。今日は少し体術を教えっから、しばらく剣は抑えとけ」

竜女「は、はい」カチャ


少年「お前は竜と殺りあった事はあるか?」

竜女「う、ううん。襲われた事はあったけど、竜を殺した事は一度もないよ」

少年「リッパーの技は、元々竜族の打倒の為に作られたものでもある。固い鱗に覆われた竜にダメージを与える為の技だ」

少年「今から教えるこれも、その一つ……」ザッ

少年は後ろの巨木に向き直り、大きく腰を落とす。微かに息を整えた後、脇を締め左腕を引き絞った。


……。

少年「ふーっ……ふーっ……」グググ

竜女「……?」



少年「――――鎧打・半掌!!(がいだ・はんしょう)」




ドフン…………!!


少年「お、雄雄雄雄雄雄ッ……」ミシ ミシ

渾身の掌底が、太い太い幹に少しずつめり込む。

少年「破ァッ!!」ググッ



ミシャッ!!


そして、怒気を含んだ気合と共に、巨木は大きく陥没した。


少年「……フン」ピタリ

残心。

竜女「す、すごい……」


竜女「木の肌が手の形にへこんでる……」サワサワ

少年「鎧打という体術だ。かつて兵法にも鎧を着た兵に掌底を叩き込む技があって、これはそれを強めたもんだ」

竜女「師匠の手、痛くないの?」

少年「迷いがあれば掌を痛めるが、真っ直ぐ打たねえと手首や肩を痛める。思い切りと落ち着きが大事だぁな」

竜女「ほへー……」

少年「最初からここまで打ち込めとは言わねえよ。でも、お前の腕力ならすぐに強い一撃が打てるようになんだろ」

竜女「はいっ、頑張ります!」


……。

竜女「えーいっ!」ベン

少年「叩くんじゃねえ。短く、強く、押し込むんだ」

竜女「はいやーっ!」ベン

…………。

竜女「てえぃ、いたたっ!」グニ

少年「おっ……大丈夫か。構えは、こうだ。身体の芯を両足の底に沈めろ」ザッ

竜女「はいっ」ザッ

少年「打つ時、手が触れている部分を強く意識して、コントロールすんだ。裂輪の時と同じように」

竜女「や、やってみます」ドム

………………。

竜女「鎧打っ」ドフッ!!

少年「深く柔らかく、力強く。決して急くな、そして怯むな。その型、全身に不動の心を持て」

竜女「鎧打っ!」ドフン!!


竜女「はーっ、はーっ、はーっ、……」


竜女「鎧打ッ!!」

ドフン!!

少年「……」

竜女「うっ、ぁぁああああ」



竜女「……あああああああああッ!!」グググッ



ベキ、ベキベキィ!!



竜女「あう、うわわっ! わ、割れたっ」ヨタヨタ

少年「もう会得したか……流石だな」


竜女「はあっ、はあっ、ホントですか!?」

少年「本当は木を折る事なく打ち込めて満点なんだが……てめぇの金剛力ならもう実戦で力不足にはならねえだろ」

竜女「むう。金剛力って何ですか」

少年「褒めてるんだよ。正直、お前の身体能力とその身体を動かすセンスは特筆に値する」

少年「もし実戦で鎧打を打つとしたら、破壊力が欲しい時だ。その時は相手の胸部や腹部に打ち込みゃあいい」

竜女「はいっ、ありがとうございました!」ペコリ

…………。


夜に昇る焚き火が消え、曇天の夜にふたりは寝転ぶ。隣の森林では遠くから猿の鳴き声が響いていた。

竜女「……明日、いつ頃橋に着くんですか?」

少年「多分、昼過ぎだ」

竜女「通してもらえるのかな……」

少年「さあな」

竜女「また、斬り合うような事になるんですかね……別に、生きるために必要な事じゃ、ないのに」


少し湿った風が、さああと草原を揺らした。竜女の髪も同じく風に吹かれ、その横顔を撫ぜる。

竜女「あはは、昨日からあまり笑えてなくて、何かボクらしくないなぁ……」ポリポリ

竜女「ね、ししょー」

少年「あ?」

竜女「隣、いいですか」

少年「……好きにしろ」

おれも隣、いいですか

おめーはだめだ

俺の隣なら空いてるで

せっかくいい雰囲気だったのに吹いたじゃねーかwww

待ってる


竜女「それじゃ、お言葉に甘えて」ゴロゴロ

竜女は腕を伸ばし、少年の下にゴロゴロ転がっていった。3回転くらいして少年に衝突する。

竜女「あう。ごめん」

少年「痛ぇよバカ。あと、うつ伏せで寝るな。身体に悪い」

竜女「はーい」ゴロリ


竜女「…………」ジーッ

竜女(ししょーの顔だ)ニマ

竜女は少し首を動かすと、少年の左肩にそっと頭を預けた。
そのまま少年の顔を見つめると、竜女はなぜだか幸せな気分になって笑みが浮かぶのである。

竜女(えへへ、ししょーっていいなぁ……///)ニマニマ


少年「何笑ってんだ」

竜女「えへへ……///」スリスリ

少し遠慮がちに頬ずりする竜女を、決して少年は拒絶しない。
生きている者に直接肌で触れ合うその時間が、今この世界でとても貴重な時間だと分かっていたからである。

竜女「……笑っちゃったぁ」ニマニマ

少年「気は済んだかよ」

竜女「うんっ。元気ふっかつ!」

少年「そうかよ。明日は何があるか分からん、早く寝るぞ」

竜女「はーい、んふふ~///」スリスリ

少年「……頬ずりしながら寝れんのかよ」

竜女「寝れません」コテン

…………。


少年「ん……」パチ

竜女「すー……すー……」グッスリ

少年はまだ太陽が現れる前に目が覚めた。微かに肩にかかる寝息を感じ、慎重に身を引いて起き上がる。
竜女を起こさぬよう慎重に起き上がり、とりあえず立ち上がって伸びをした。辺りはまだ薄暗い。

少年は少し鍛錬をしようかと思ったが、気合いを入れる為に声を出すのでやめた。

一度辺りの安全を確認すると、そのまま竜女の枕元に胡座をかいて座る。その左手で竜女の頭を優しく撫でた。

少年「……」ナデ

竜女「ん……」

少年「…………」ナデナデ


竜女「う、ん……ししょー……?」パチ

少年「あ、すまん……もう少し寝てていいぞ、竜女」ナデナデ

竜女「え……? あ、はい……」

少年「……」ナデナデ

竜女「ん……♪」ニマ


……。

竜女「んにゅ~、ししょ~……♪」ムニャムニャ

少年「……おい、いい加減起きろ。とっくに日昇ってんぞ」ユサユサ

竜女「はぁい……」スヤスヤ

少年「起・き・ろ!」ゴロン

竜女「ぎゃう!」ビタン

……。

少年「ローブ被ったか。行くぞ」

竜女「ううう、師匠……ボク、師匠がものすごく優しい目でボクをナデナデしてくれてる夢見たんですよぅ……」

少年「そうか。それは夢だ」テクテク

竜女「ゆ、夢って言ったけど夢じゃないかもとか、とかとかないですか、師匠?」クルリ


竜女「……あわっ、ちょっ、置いてかないでー!」

とりあえず書けた分だけ
最近せわしいから更新遅くて申し訳ない
あとひと月もすればもう少し時間が取れる筈なので待ってくれ

かわいい

かわええ(*´∀`)

乙、気長に待ってるよ


竜女「ちょっと天気が怪しいですね……いつ頃着きますか?」

少年「昼には着くだろう。にしても、雨は勘弁してくれねぇかな」

厚く空を覆う雲が次第に黒くなっていく。日中だというのに辺りは薄暗く、下手なにわか雨よりも大きな雨が降る予兆のように見えた。


竜女「別に、濡れるのは良いんですけどね……」

少年「それ以上に体力を消耗すっからな……」

竜女「あっ、地図濡れたら大変じゃないですか!」

少年「……これ布製だぞ」バラリ

竜女「おおー、高級品だー」


…………。

商人「ほれ、キビキビ行けー」ペシペシ
馬「ブルル」テクテク

同じくヴィパルに向かうであろう人影が目立ってくる。商人、旅人、兵士、傭兵、皆が皆折々の格好折々のスピードで向かってゆく。

少年「見えてきたな」

なだらかな丘を登ると、そこからヴィパルの橋が見えた。
その左右には太い運河が広がっており、詰の部分には関所のような大きな詰め所が控えている。

竜女「はじっこの方に、いっぱい人が集まってるね。団体さんかな」

少年「いや、あれは……兵隊だな。行軍中なんだろ」

竜女「こうぐん?」

少年「移動中って事だ」


程なくして少年たちはヴィパルの橋、詰の付近に到着していた。
やはり門番らしき人間が橋を通る人間を一人一人チェックしているようで、少年たちは立ち止まり顔を見合わせる。


少年「黒いローブに」

竜女「片腕の師匠」

少年「怪しすぎんな……」

竜女「ですね……ボクは竜人族だし」

少年「先の悪行が割れてたとしたら、俺も前科者だかんな」

少年は少し離れ、辺りを見渡す。周囲で集合、編成されている兵士や傭兵たちはいずれも武具や甲冑などを身に着けていた。
中隊規模の隊がぞろぞろと整列している。

少年「……こうも兵の数が多いのが気になるな。哨戒や警護の為じゃねぇ。武装も万全みてぇだし、騎兵、弓兵までいる」

竜人「しょーかい?」

少年「この兵士たちは、どこか戦いに行く為に集まった奴らだって事だ」


竜女「どこに行くんでしょう」

少年「前に聞いただろうが、人間の国は既に統一されている。大方、領土を拡大する為に竜に攻撃を加えるんじゃないか?」

竜女「…………」

少年「おい、テメェ。バカな事考えんじゃねぇぞ。いくら何でも多勢に無勢すぎる」

竜女「……分かってます」


ガヤガヤ……


少年「しっかし、関所がすっトロいせいか通りたい奴がだいぶ並んでるな」

竜女「今から侵攻するんじゃ、きっとみんな敏感でしょうね……ボクたち、ますます通れませんよ!」

少年「だろうな。討ち漏らしが旅人や商人を襲わないとも限らねえし、護身に関する能力についても聞かれるだろう」


石造りの巨大な門、ひいてはその向こうの橋を見上げる。

竜女「……」

少年「……よし、関所についての情報を集めっぞ。あと、国の情勢にも何かヒントがあるかもしれねぇ」

竜女「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」

少年「やってみなけりゃ分からねえ。天気も怪しいし、立ち止まるわけにはいかん」

少年が見やる先には、関所から並ぶ2本の列があった。いずれもほとんど停滞しており、立ち話をするくらいなら十分な時間が取れそうである。

少年「妹、付いて来い。>>+1について聞きに行くぞ」

右.野菜を積んだ荷車を引く農民に関所について聞く
左.朱塗りの甲冑を着けた傭兵に国の情勢について聞く


少年「もし国に雇われた傭兵ならこの行軍についても何か知ってんだろ」

竜女「行きますか」

……。

少年「なあ、ちょっと聞きたい事があるんだが、良いか?」

傭兵「あ? んだよガキか。今、順番待ちなんだよ。後にしろ」

少年「その甲冑……ずいぶんカッコいいな。どこで手に入れたか教えてくれないか?」

傭兵「おっ! これの良さが分かるたぁ、ひっひっひ、生意気だねぇ! これは西の『王都』の金物市で安く手に入れたんよ!」

少年「なる程な、良い買い物じゃねえか。ひょっとして、中は青銅じゃねぇか?」

傭兵「馬鹿言うんじゃねぇ坊主! こいつは鉄製だし、胸当て肩当ては鋼だぜ! ちっと重いがお墨付きよ!」

そう言うと傭兵は籠手で自分の胸板をガン!と叩いた。


少年「羨ましいな」

傭兵「はっはっは、坊主には大きいだろう!」

少年「ふふ、それもそうか。ところで、そんな良いもん着けてこれからどこに行くんだ?」

傭兵「ああ、俺は見ての通り傭兵だからな。これから国に雇われていっちょ戦ってくるのさ」

少年「そうなのか……場所はどこだ?」

傭兵「なんだ、知らねえのか? 国の方から、大々的に竜族との開戦が発表されたんだぜ?」

竜女「え、そんなっ……!」
少年「っ、本当なのか」

傭兵「ああ。今から俺たちが向かう『ブエル渓谷』と、その近くの『ウィノース台地』、同時刻に進軍する手筈なんだ」

傭兵「もっとも王都がやたら騒いでる感はあるから、『ルー・パウ地方の一部ではこの事を知らない』かもな」

竜女「…………」


少年「ヴィパルから戦場はそう近くないよな?」

傭兵「……ハァ。お前旅人か? 通行止めとは言わないが、多分明日あさってから通行規制が掛かるぜ」
傭兵「この辺は主戦場から一番近い拠点だから、軍事拠点でもあり、唯一の退路でもある」
傭兵「駐留の兵も増えるだろうし、物資や人員の行き来で一般人の通行は指定された時間内でしかできなくなるな」

少年「そうか……」

傭兵「ま、なんか後ろのてるてる坊主はワケありっぽいしな、行くならさっさと言った方が良いぜ。巻き込まれたくねえだろ?」

少年「ああ……」


兵士「第2鎚兵隊、南詰に~、集合!!」


傭兵「おっと、呼ばれちまったから行かなくちゃな。俺が軽くぶっ叩いてくっから、坊主たちも気を付けろよ!」

少年「ああ……武運を祈る」

傭兵「おうよ!」ガシャガシャ


朱い甲冑を誇らしげに鳴らし、鎚を持った傭兵は整列しに行った。

竜女「そんな……戦争……」

少年「……過ぎた事を嘆いてもしゃあねぇ。お前は寂樹の里を探すんだろ?」

竜女「ボク、は……」

少年「それに、マズい事も聞いた。明日からは検問も厳しくなるっつうし、出来るだけ今日中に通りてえな」

竜女「竜と……人……」

少年(……ダメだな、こりゃ。>>+1のところに行こう)

右.普通の町人らしき人に国の情勢について聞く
左.退屈そうな兵士の雑談に混ざり関所について聞く

少年の判断がかなりぬるくなってるな
とにかく通ろうとして 左

戦争の軍事拠点付近なんかにいたら危険だらけじゃね?
常駐の兵が増えるか竜が近づいて来るかだから早く通りたくもなるだろう


少年「何だあいつら……暇してんのか? 元から駐留してる兵かもな、少し話掛けてみるか」

……。

少年「悪い、ちょっと良いか」

兵士A「君、右腕……」

少年「気にするな。それより少し聞きたい事があってな」

兵士B「おう、どうしたんだい少年?」

少年「あんまり国を疑ってるわけじゃないんだが、本当にここの関所は大丈夫なのかってな」

兵士C「まあ、疑うのも無理はないですよね。未だに竜が人に遺した爪痕というのは語り継がれていますし」

兵士B「あまりデカい声じゃ言えないが、こっちの部隊は勇者がいない以上あくまで陽動だからな。兵は少な目なんだ」

少年「そうか……ウィノースは安泰だな。例えば、この関所と橋自体に兵装やバリケードなんかは付いてるのか?」

兵士A「うん、付いてるよ。地面に固定された槍の壁が出せるようになってる」

兵士C「詰め所には一応網も置いてあります。君はここの近辺の方でしょうか?」

少年「ルミエから来た。兄貴が兵士だから、見送りに来たんだ」

兵士A「ふふ、お兄さんが無事なように僕もお祈りしておくよ」

すまない
筆が進まないから今日は寝かして……

>>220-221
確かに今の彼にはそのきらいはあります
ただ少年は基本的に自分が押し通る事を是とする人であるので
竜と兵士に関所を塞がれてしまうという別のリスクを冒して引き返す事は考えなかったようです

おつおつ


兵士C「ところで、そちらの子はどうして顔を隠しているのでしょうか? 刀も剥き身で持っていますし」

竜女(……時代が、動く時)

少年「ああ、こいつは幼い頃に顔を火傷しちまってな……。妹なんだ。勘弁してやってくれ」

兵士B「おう……そいつは可哀想になぁ。お前ら2人とも武器持ってるけど、ちゃんと使えるのか?」ニヤニヤ

少年「ははは。いっちょ、兄貴を追って、こいつと一緒に兵隊にでもなろうかと思ってな」ガシッ

少年(竜女! 怪しまれてるぞ、しゃんとしろ……!)

竜女(ボクは)

兵士A「顔を出せない少女に、片腕のない剣士かぁ。うん、楽しみに待ってるよ」


竜女「……ボクの、生きる道は」



……ジャキン。

まだか?
おれは待ってるぞ

はよ

また酉付けっ放しやっちまった……
すまない……orz


曇天に差す光、それを標とするが如く光る黒刀。

竜女は静かにそれを突き付けていた。



少年「りゅっ、妹……!? 馬鹿、何やって」
竜女「馬鹿じゃないです」



兵士B「嬢ちゃん……何の冗談だい?」チャキ

兵士A「ぼ、僕、人を呼んでくる……!」ザッ

兵士C「お二方、抑えて。どうかあなた方も剣を収めていただけませんか」

それでも、竜女が一度突き付けた刃が下を向く事は無い。



竜女「お願いがあります」

少年「おい竜女、よせ……!!」グイ






竜女「戦争をやめてください」




兵士「――――――。」

それは、制止に入った少年に抱かれながら放った、哀しい一声だった。
少年は瞬時に辺りを見渡し、周囲の状況と兵士の人数を確認する。


少年(まだ間に合う、わざわざ危ねぇ橋を渡る必要はっ)
少年「テメエっ、何言ってんだ馬鹿! ごめんなさいこいつ、ちょっと竜にトラウマがっ」グイグイ

少年(竜にトラ、ウマ……)

兵士B「……それではい分かりました、なんて言うわけないだろうが。腰抜けの穏便派ヤロウ」


竜女「……」

少年(あの時、確かに竜女は)

『お父さんは言った。いずれ時代が動く時が来ると。この世界を目にし、自分の生きる道を探せと』
『竜人族である自分が受け入れられる、居場所を探せと』

『お父さんと別れてから2年……初めて会った、ボクの事を拒絶しない人』
『正直。ボクにとって居場所よりも大切なもの』

少年(どうしても居場所を…………拓くというのか。竜女)

『ボクの命が、世界から拒絶されてるみたいでショックだった』

少年(いや。なあ俺はなんて言った?)
少年(過ぎた事を嘆いても仕方がない、お前は寂樹の里を探せ、だと……!?)

少年「ふざけるんじゃねえ…………!!」



兵士B「あくまで退かねえか」


兵士C「よ、よせ、相手は子供だし一般人だ……!」
兵士A「僕みんなを呼んでくる……!」

兵士の1人が、片手斧を振り上げる。

兵士B「一般人じゃねぇ……こいつは人にしか牙を剥けねえ臆病者の国賊だッ!! 俺たちがどういう覚悟でここに居るかも知らずッ!!!」ブンッ!!


竜女「ししょー」バッ

竜女の肩に掛けていた少年の手が落ちる。

竜女「ごめんなさい。……」

兵士B「殺しはしねぇ!! 病院で指咥えて見てやがれ……!!」



竜女「やっぱり、独りで、いきます、ね」ニマ…


振り向いた竜女の瞳は強い決意を固めていながら、どこか虚ろで。

諦観、とも呼ぶのかもしれないそれは、背後から迫る斧の刃を見ずともいずれ往く全ての結末を悟っているようであった。



少年「――――――」

喉が乾く。
息が止まる。
胸が苦しくなる。
失った筈の右腕が疼く。
それが心の臓を掻き毟っている。

一度は止まる足。迷い。戸惑い。
背は安寧。唯一の退路。日常。いつ死ぬとも知れぬ旅に、いつか捨てた筈のものがちらつく。


少年「」シャキン



それでも、己が身に巡る血流が声高く勇を叫ぶのだ!






少年「止めろォォオオオ!!!」

ガキィィイイイン!!!




兵士B「なっ……」ビィイイン

兵士C「っ」

兵士A「な、何だぁ……?」




竜女「し、しょー……?」

少年「………………死に方なんざ、教えてねぇだろうが」




兵士B「ちっ、斧が……!?」ミシリ

兵士C「や、やめなさい! 騒ぎになればまずあなた達が……!」
兵士D「どうした、何の騒ぎだっ!」


竜女「ししょー、そんな、どうして……」

少年「分かんねぇ」

本当に分からなかった。少年は自分を上手く分かっていなかった。

ただ、燃えたぎるような覚悟が胸の内に根を張っている。
それが確かだった。

少年「おい、馬鹿弟子。行くぞ」ジャキン

竜女「信じて、いいんですか……?」

少年「ああ。俺を信じろ」



竜女「……はいっ、師匠!!」ジャキン

筆が詰まって遅くなったすいません……

安価に連動する内容は話の大筋に関わりませんが、あちこちに絡みます
あちらを立てればこちらが立たずなのはしょうがないですね

おつおつ

乙乙


兵士B「てめぇら、やる気か……!」

兵士D「おい、穏便派が暴れてるぞ! 順番待ちの奴、止めるんだッ!」

小隊長らしき人間が声を掛け、鎧を着た兵士たちが少年たちを取り囲んでいく。
こちらを見ている兵士がざっと見積もってその数は10人程、臨戦態勢に入っている者は0人程。

言い出した手前があると言えども、奥に控える兵士の数を想像して竜女の足が鈍る。

竜女「師匠……」

少年「今は何も考えなくて良い。駆けるぞ」

いなす事、取り押さえる事しか頭に無い国の人間。
命の尊厳を守る事しか頭にない野生の人間。

どちらが善と悪であるわけでもなく、

少年「続けッ!!」ダッ
竜女「はいッ!!」ダッ

ただ、彼らは強いのだ。


前方に兵士が3人。少年は自らの間合いまで駆け込み、その身を沈める。

少年「まかり通るッ!」ガン

兵士「が、っ……」グラリ

逆刃で振り抜いた剣がこめかみに直撃し、中央の兵士が昏倒する。その横を少年たちは一瞬ですり抜けていった。



兵士「おい逃げたぞ、追えええええ!!」「くそっ、本隊に行かせるかよっ」「あいつら穏便派らしいぞ、早く捕らえるんだ!」

ヴィパルの橋、南詰。少年たちは小さな石段を登り、今は開いている関所の門に肉迫する。
4列横隊にてずらりと並んだ重槍兵隊がずらりとこちらを向いた。

少年「……」タッタッタッタッ
少年はまだ心の奥で戸惑っていた。自らの現実を悟った1つの命に、何故まだ手を差し伸べようという強い激情が沸き起こったのかと。

竜女「……」タッタッタッタッ
竜女もまた、心の戸惑いを拭い去れないまま駆ける。生物は動物として生きる限り決して分かり合う事はないと一度は諦め、しかし何故目の前の背中はあれほど真っ直ぐ輝いて見えるのかと。

少年「あいつらを踏め。飛び越えっぞ」
竜女「うんっ」

兵士「し、侵入者だっ、迎撃をっ……!」「いや門を閉めるんだっ」「バ、バカ、進軍はどうすん、うあわああっ!?」
門番「ど、どっちですか……!?」


ガキャン……!

兵士「なっ」「飛ん……!?」「ぁ……」

それでも不思議でしょうがないのは、



竜女「……ふふ」ニマ

少年「フン」ニヤ



互いに視線を交わした瞬間、その戸惑いがもう失せてしまった事だった。

少年「……突破すっぞ、オラ!」スタッ

竜女「ボクはどうしたら良いっ」スタッ

少年「へばるな! ついて来い! 以上!」ダッ

竜女「はいっ!」ダッ

兵士「……し、しまっ、追えっ」「バカお前らっ、なんで逃がしたっ!」「こっちは重槍兵だよお前らが追え!」「2人如きに何をやっているんだ貴様等は……!」


ポツ……

少年「チッ……雨か」タッタッタッタッ
<マチヤガレェエエ
<ダレカァアア
<ワァァアアアア

サァアア…………

長い長い石橋の中央を怒涛の勢いで突っ走る少年たち。左右に流れる茶色の運河に、次第に飛沫が上がり始めた。

兵士「な、向こうで何が……?」

少年「邪魔だ、どけクラァアア!!」バキャッ!!

兵士「ぎっ! ……くぁ、あ」ドサッ

もはや剣も抜かず鞘を額に叩き付ける少年。

竜女「わー師匠、荒っぽい……」タッタッタッタッ

少年「ひっひっ、何でだろうなぁ?」タッタッタッタッ

竜女「でも、ボクも正直……興奮してます」タッタッタッタッ

少年「ああ本当、何でだろうなぁ」タッタッタッタッ

性的な意味で

ふう

ワクワク


一方、北詰め所。

兵士「さて、もうそろそろ次の隊が到着する筈なんだが……雨中の戦かぁ」

兵士「……ん、おい? ちょっと待て! 軍旗が昇ってるぞ?」

兵士「どうしたんだ? 何かあったなら伝声管を使えば良いものを……おい、見張り」

見張り役の兵士が、南の関所に繋がる伝声管に張り付いた。

兵士「はっ、只今。こちら北詰、北詰。南関所応答せよ」

伝声管『こ、こちら南関所! 緊急です、穏便派を名乗る武装した子供が……!』


兵士「お、おい。何だあの子供。なんか、剣持ってないか……?」

兵士「突っ込んでくるぞ、なんかヤバくないか……? おい、あれ一般人なんだろうな!?」

兵士「き、緊急報告ですっ! 南の関所よりブエル侵攻の阻止を目論む穏便派の子供がたった2人で……!!」

…………。


少年「ちっ、軍旗が昇ってやがる……!」タッタッタッタッ

竜女「師匠、早く行きましょう!」タッタッタッタッ

少年「テメェの足が速すぎんじゃ竜畜生……!」タッタッタッタッ

竜女「だって門、閉じられたら……!」タッタッタッタッ

少年「進攻を中断してまで門を閉じるとは思えねえ、が」タッタッタッタッ

少年たちの遠くに見えていた行軍中の隊が振り向く。

少年「……もう話が行ってるみてぇだな。簡単には通してもらえねえぞ」


少年たちの視界に映るのは、上方より飛来する矢と鈍色にきらめく直刃の剣だった。


少年(さすがに劣勢か……! 弓兵隊と歩兵隊、抜けられるか……!?)

竜女「な、何ですかあれ……!?」

少年「あれは矢だ、一本刺さったら命は無いと思え! マズい、後ろからも来てるんだった、走るぞっ!!」ダッ

竜女「だ、だって、前が……!」ダッ

少年「向こうの剣士まで突っ込めば、仲間に当たるから撃てなくなる! 避けろ、避けろ!」タッタッタッタッ


ガラァン!

竜女「ひぃっ!? は、はぃい!」タッタッタッタッ

ガラァン!ガラァン!
ガラァン!ガラァン!ガラァン!

少年(当たりめぇだよな、対竜族用の矢なんつったら、人の肌なんか真っ二つだ……曲射に不向きとはいえ短弓の強弓、ふざけた矢速してやがる……!)

少年「……おぁ、竜女ッ!!」タッタッタッタッ
竜女「! くうっ」ズザッ!!

ガラァン!! ガァンガァン!

少年「た、立てるかっ!?」タッタッタッタッ

竜女「あ、あああ、あぶな、今のあぶなぁ!!」ダッ


ガラァン!

竜女「ひ、ひぃぃいいい!」タッタッタッタッ

少年「おい、落ち着け竜女! 竜女っ!」タッタッタッタッ

竜女「師匠、や、やだ怖い、いああ……っ!!」タッタッタッタッ

少年(マズい、ここは……!)タッタッタッタッ
少年「――不恐。不驕。不謀。不溺。不凝。不惑。不驚。」タッタッタッタッ

ガキャァン!!

竜女「ひっ、師匠……!? いやああああ!!」タッタッタッタッ


少年「七つの制約を以て浮世の理塵と化す! 己が生に悟れ、不動心ッ!!!」


竜女「っ!」ビクッ

竜女「……は、はあっ。落ち着いたっ」タッタッタッタッ

兵士「な、なんだあいつら……!?」ビクッ

少年の呪文じみた渾身の喝が竜女のパニックを静める。剣を取る歩兵隊も、一瞬と鬼と見紛う程の気迫にたじろいだ。

少年「……っし、矢の雨抜けたァ!!」タッタッタッタッ


(おそれず、おごらず、はからず、おぼれず、こらず、まどわず、おどろかず)

(ななつのせいやくをもって、うきよのことわり、ちりとかす。おのがせいにさとれ、ふどうしん)

※これからも出る言葉なのでここに置いておきます


少年「竜女っ、行けるか!」タッタッタッタッ

竜女「はいっ、もう、大丈夫です!」タッタッタッタッ

少年「斬るぞ!」ジャキン!!

竜女「でも、それじゃまた死人が……!」タッタッタッタッ

竜女「……」タッタッタッタッ

竜女「……いや、倒しますっ」ジャキン!!


ドドドドドドドドドドド……!!!

兵士「くそ、先輩の下には行かせんぞぉおお!」「油断するなっ、全力で掛かれぇあ!!」「うおおおおああああ!!」

前方から30人余りの兵士が、今まさに迫り来る。

少年「少し、斬る。……離れていろ」


少年(片腕で繰り出すのは初めてだな……!)タッタッタッタッ

兵士「ここは通さぁああんずぁあ!」ブンッ
兵士「ちっ、どうして抜けてきやがったクラァ!?」グオッ
兵士「こんなガキ如きに全力で掛かれたぁどうなってやがる!」シャキン

少年「天裂閃、六之太刀……!」


少年の両腕が消える。


 兵士「は……? 」
兵 士「ぬあっ ……!?」
兵士 「んだ よ、それ……」

少年「……死ぬ気で来ない奴が誰を殺せる」タッタッタッタッ

竜女「そんな、一撃……」タッタッタッタッ

一陣の風が抜けたあと、戦場には3人分のゴロ肉と血飛沫が舞うのであった。
流れるが如く運ばれる歩に抜かれた者たちは、同様に四肢の繋がりを失っていく。
竜女は身に掛かる血をフードに浴びながら少年の背を追った。

寝ます
読みにくかったら言ってください

おつん


兵士「くっ、ガキ如きに……!!」ブンッ

少年「精肉店でも開くかぁ!?」ビュン

首「もらったああああ!」パンッ

首「……へ?」
腕「」ボト
右脚「」ベシャ

首「……なああああぅおぁ!!」ゴロゴロ

兵士「ひっ、ひぃい! しむっ、死ぬぅ!!」ダッ

兵士「うわああああ、なんでこっちの攻撃が当たんねえんだよお……!!」ジリジリ

少年「除け除け除け除け退け退け退け退けぇああ!」タッタッタッタッ

竜女「これが……」

兵士「お、おええっ……!!」ビシャ

兵士「いてぇ、イテェヨオオオオオ!! ガギャアアアアアア!!」バタバタバタバタ

竜女「……戦、争」ブルッ

煙る液体、踊る肉。正気蝕む戦の香り。


…………。

巨漢(何なのだあの少年は……。隻腕にも関わらず、我が騎士団の尖兵がこうも、こうも)プルプル

巨漢「落ち着くのだ……。これ以上仲間を散らせる訳にはいかん。だが、新たなる歴史を刻むこの進攻を中止する訳にも……」

兵士「……エトーン様、歩兵隊、歯が立ちません。弓兵隊に接敵してしまいます」

エトーン「……弓兵隊を南側に撤退させろ。奴らも後ろに去ってゆく兵を追う余力はあるまい。北詰は、儂が何としてでも食い止める」ガシャン

エトーン「お前も詰め所に撤退しバリケードを張って周囲の兵と非難せい。南と連絡を取って早急に隊を再編成するのだっ」

エトーン「騎兵を2人ほどウィノースの本隊へ送れ、この事態を報告するんじゃ! 大至急!」

兵士「は、はっ……」

エトーン「……今までお前は副隊長として良くやってくれたの。儂は誇りに思う」

兵士「エ、エトーン様、滅多な事を……」

エトーン「死ぬでないぞ。往けぃ!!」ジャコン!!

兵士「……御武運を!!」ダッ


エトーンと呼ばれた隊長らしき巨漢の騎士が槍斧、ハルバードと呼ばれる武具を取る。

その時彼を呼び止めたのは、甲冑が砕けあちこちから血が滲み出ている騎兵であった。馬から崩れ落ちる。

兵士「エ、エトーン様……ご、報告が……がふ」ズルッ

エトーン「しっかりせい! 何じゃ、どうした!」



兵士「――ブエル渓谷、部隊、大型の竜により壊滅……至急、援軍、を」



エトーン「なっ……!?」

兵士「が、ふ……赤色の竜が、ものすご、げぼっ、ごほっ! 向かって、ます……から!」

兵士「ヴィパルにて、迎撃を、と、シン様は、独り……ぅ……」グズッ

兵士「う、……うぅ」ガシャリ


エトーン「…………ぬぅぅうううおう!!」プルプルプルプル…!!

エトーン「――総員に、告ぐ!南詰に撤退、撤退せよ! 門番、急ぎ北門を閉じるんじゃあ!! 繰り返す、全兵撤退せよ!!」

…………。

戦争やん

更新まだかなー

なんか嫌な予感


竜女「し、師匠の後ろはボクが……!」シャッ

兵士「ヒッ、俺ェ!? や、嫌だ! 死にたくない! 見逃してくれぇええ!!」ズザッ

少年「待て竜女。隊の動きがおかしい」


兵士「クッソ、エトーン様の命令だからって」「黙って行けっ! 見ただろうお前も……!」「血、が……ありえないありえないありえないありえない」
兵士「撤退だ!撤退だ!命あっての物種だ!」「カーチャン……」「みんな、ごめんよぉ……オレだけ生き残っちまったぁ……!」
兵士「全隊退却!ボサッとするなお前らぁ!!」「お、おい!今戦ってる先遣隊への援護はどうなるんだよおい!おい、おい!?」「命令だ!!繰り返す、……」


竜女「向こうに兵が逃げて、いく……?」カシャ

兵士「ひあっ、ありがとうございますありがとうございます……!!」ザッ

少年「……撤退令が出たか」
少年(中隊にして1つぐらいしか潰してないが、それほどの被害に至ったのか? それとも……)


竜女「ボ、ボクは……」ヨタッ

肢体「」ドロドロドロドロ
兵士「かひゅ……ひゅー……」
上半身「う゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!」ズルズル

少年の周りに立つ人はいない。
すべては人体の部品と分解されたか、機能を果たさないスクラップと化し、地に伏している。
彼の髪や肌は瞳や鼻を除いて赤黒い色が滴っていて、そのような生き物のようである。

竜女「こんな、こんなの……」グニュッ

死体「」ビクン

竜女「あ、ああああ! ごめんなさい、ごめんなさい!!」パシャッ

少年「……おい。まだ終わってねぇぞ」

竜女「師匠……なん、ですか……?」ビクッ

少年「何言ってやがる……ああ、血か」グイッ
少年「俺だ、竜女。……っと、雨中は視界が悪くていけねえな」ゴシゴシ

竜女「師匠……」


竜女「そういう意味じゃなくて、ボク、どうしたら……」

初めて戦争なるものを目の当たりにし、壊れこそしなくても竜女の心は真っ白になっていた。
いくら覚悟があろうと、生き物の本能、心臓が受ける衝撃として、初陣の彼女に大きすぎたのは明白である。

竜女「どうしよう……どうしたら……戦争が……」

少年「ルー・パウに出るにしろ、ブエル渓谷に向かうにしろ、ここは越えなきゃなんねえ」ビシャッ

竜女「――――」ハッ

少年「走れるか」スッ

血にまみれたその左手を拭き、少年は竜女に差し出す。
その手をおずおずと取る竜女の仕草は、まるで社会の中に生きる町娘のようにしか見えなかった。

第三者から見ていたとしても。

竜女「」キュッ

竜女「……」フルフルフル…

竜女「はい……行けます。付いていきます」


少年は彼女の視線を受け止めると、頷いて前を向いた。

少年「奴さんだ。行くぞ」

竜女「はい」

巨大な甲冑を纏い、重厚な槍斧を担いだ騎士が、前方に鎮座している。
少年は、その騎士がこの一帯の隊を取り仕切っている者であると察していた。

誰もいない橋の上、少年たちはその騎士の顔が見える位置まで駆け寄る。
騎士は静かに顔を上げると兜の顔当てを跳ね上げ、対峙した。

騎士「……我、王国聖堂騎士団、償いのエトーン」

少年「……俺は少年。こいつは俺の弟子、竜女」

騎士「穏便派の少年よ。何ゆえ、人を殺める」


少年「……」ポン
竜女「戦争を、やめてほしいからです」

エトーン「それは、その娘の意志か」

少年「ああ」

エトーン「……人が竜に膝を着く時代は、終わりを告げた。人類にとって真の平和、悠久の偃武を勝ち取る時が今なのだ」
エトーン「それが野心でもある事は……否定せぬ。我らの力が至らず、民に苦痛を強いている事もあるだろう」
エトーン「だが! 例え己らが慄こうと、剣を振るうのは我ら軍隊……それほどの腕を持ちながら、なぜ我らに牙を剥く!?」

少年「そんなこと、知ったこっちゃねえ……」

エトーン「何だと……」

少年「竜女」
竜女「……」バサッ!!

ところどころ血を浴びたコートを、竜女は脱ぎ捨てた。
曇天に雫舞う中、麗しき翡翠の髪と小さな一対の角が晒される。

エトーン「!! 貴様、竜人族か……!」

竜女「……うん。竜人の少女です」


エトーン「……人の身でありながら竜の肩を持つ、と。ならば」ガシャン

少年「話を最後まで聞けや堅物じじい。あのなぁ」
竜女「待って、ボクが言いますっ」
少年「良いんだ。俺から言った方が良いだろう」


少年「おっさん、竜人族の存在が何を意味するのかは考えた事あっかよ?」

エトーン「……。人の身でありながら、忌まわしき竜と禁忌を犯した罪人が生んだ、竜の血に堕ちた汚れの子。そう習った」

少年「そうじゃねえだろダホ。忌まわしかろうが禁忌だろうがそんなの関係なく、心を通わせた竜と人がいる証だ」

エトーン「強姦より生まれたとしてもおかしくはあるまい」

少年「お前は嫌いな嫁さんとの赤子を育て上げるかよ?」

エトーン「ぬ……」

少年「竜人族ってのは竜族からも忌み嫌われていて、お前たちが言うのと同じように汚れだの何だの言われてるらしいよ。分かるか?」

少年「……単なる一嫌われ者の童話じゃねえんだよ。両親の愛から生まれた生き物が、誰からもその愛を否定され続ける気持ちが分かるかよオラ!?」

竜人「師匠……」


エトーン「……」
少年「……俺には分からねえよ。俺の両親は人と人だから、気にした事すらなかった。けど、竜と人が憎み合い滅ぼし合うってこたぁ」



少年「竜女は『生まれてこなければ良かった』って言われ続けるのと同じなんだよ!!」



エトーン「……っ」

少年「だーかーらこのお花畑は、生き物としての誇りを掛けて戦争を止めるなんてバカバカしい事言ってやがる」ガシッ

竜女「あう……」キュッ

少年「それがそんなに可笑しな事か。おっさん」


エトーン「…………」

少年「その事に、穏便派や侵攻派の括りが関係あるのかよ」

エトーン「……ひとつ聞かせてくれ。人である少年はなぜ、その竜人に与するのだ」

少年「剣士として、こいつの師であると。そう約束したからだ」



エトーン「……分かった。かように幼くとも、お主が義の者であれば、致し方無し。しかし儂も義により立つ者」

エトーン「この身に掛け、王に忠義を誓った騎士。退く事も倒れる事も出来ぬ」

エトーン「南の門は既に閉まった……このヴィパル橋より逃げ場はない。お主らの首を以て散った仲間への手向けとさせて貰おう!!」ガション!!

ここまで
お休みなさい

おつおやつ

熱い展開だな


竜女「師匠……」チャキ

少年「……剣は左手で良い。どうせあの甲冑に剣は通らねえよ」

エトーン「賢明だな。誇示する気はないが、お主が斬り捨ててきた同胞の鎧とは違いこの甲冑に刃の通る隙はない」

エトーン「諦めろ」ブン

兜の顔当てを落とし、エトーンは杖を振り回すが如く槍斧を一振り。雨粒が風に斬られ散る。

少年「急ぐぜ、竜女。ここは通過点だ」

竜女「はい」スッ

竜女は額に張り付く髪の毛を拭い、少年の左側に回った。



少年「……フン、分かってんじゃねえか」ニヤ

竜女「えへへ」ニマ



エトーン「此方から往くぞおおおおお!!」ブォン!!


少年「」タッ

竜女「」タッ

右からの薙ぎ払い。槍斧の単純にて強力な攻撃手段。その分厚い刃、竜の爪撃に等しい。

腰の高さに迫る斧の刃、走り出した少年たち。

エトーン(もらった……!)

その騎士は、刃が彼の肌に触れるより前に必殺を確信した。距離にして三身ほど。

竜女「」ドクン
少年(まだだ)

二身。

竜女「」ド クン
少年(まだ)


一身。


竜女「」ドッ クン
少年「」キン



――――――。


エトーン「」

少年「」

竜女「」



説明は不要だろう。

一瞬の居合い。
頭上を過ぎる槍斧。

それが戦いというものの全てである。



竜女「――――鎧打ッ!!」ザッ

少年「双掌ぉぉお!!」グオッ




ドフン……!!!



エトーン「ゴ、ガ……ッ」

少年「ぬ、う、あ」ギシリ

竜女「つ、く、う」ミシリ


軋む鉄。歪むプレート。



少年「ぁぁぁぁあああああぁぁああぁあああああ」ギシ!ギシ!メキッ!
竜女「ぅぅぅぅううううぅうぅうぅうぅぅううう」ミシミシミシミシ……!


少年「どぅああああああああああ!!!」ベキャァ!!
竜女「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!」グシャァ!!



エトーン「……オ、オッ」ゴプッ


バキャアン!!


エトーン「ッ!!ヌ、ォ、ア」ベキベキベキベキ


背中を留めている鎧のパーツが破断した音に気付いた時、その巨躯はくの字に折れていた。


少年「……」スッ
女「……」ピタリ


エトーン「み、ごと」


ズゥウン…………


騎士、地に墜つ。

眠かった
×女「……」ピタリ
○竜女「……」ピタリ


少年「命を奪る時間はない。許せ」タッ

エトーン「ぐ……待てぃ」ググッ

少年「……勝負は付いたんだよ、じじい。死ぬ事は忠義じゃねえぞ」

エトーン「ぐほっ、違うのだ……話を聞けぃ……!」

エトーンは握り締めていた槍斧を手放し、脇を通ろうとする少年の足にしがみつく。

エトーン「……頼み、が、ある。ごふ」

少年「あ?」

エトーン「ブエル渓、谷の部隊は、既に……竜に……ぐふ。壊、滅、して、しまった」

竜女「え……」

エトーン「こちらに、その、ごほっ。竜が……向かって、きてお、……ぅう」ガシャリ


少年「だいたい分かった……もう喋らなくて良い」バチン

エトーン「かたじけ……ない」

少年はもうエトーンに戦意はないと判断し、顔当てを上げてその傍らにしゃがみ込んだ。

少年「兵士が早くに撤退したのは俺のせいじゃなくて竜のせいだろう?」

エトーン「……」コクリ

少年「本隊が潰されたっつやぁ、相手は相当数と見て良いんだな?」

エトーン「ぐ、ふ……。赤色の、竜、と……だけ」

少年「そうか……」


少年「……テメェの部下、預かっても良いんだな?」


エトーン「っ、すまない……!!」


少年「おい、出て来い。そこで見てんだろ」


少年は立ち上がり北詰の駐留所に向き直る。窓からこちらの様子を窺っていた兵が、すぐにゾロゾロと出てきた。

兵士「……」ジャキン
兵士「……」ガシャン
兵士「……」ギギッ

エトーン「お前、ら……抑えるん、じゃ」

竜女「ダメ、聞こえないよ……」


少年「じきに竜が来る」

兵士「!」「やはり……」「く……」

少年「こいつを連れて、ヴィパルを封鎖しろ。……竜女、退け」ザッ

竜女「は、はい」タタタ

兵士「エトーン様ッ!!」「ご無事ですかッ!!」「ああ、エトーン様……!!」ガシャンガシャンガシャン

エトーンへの道を空けると兵士たちは素直に剣を収め、横たわるエトーンの下に駆け寄った。

エトーン「お前、たち……うう……」


少年「殿は俺が務める。行け」(しんがり:撤退時に敵を食い止める最後尾の部隊)

兵士「……許したわけではないからな」

エトーン「よせ……良いのだ……。竜、女と、言ったか……近う、寄れ」

兵士「な、なりません」「……良いんだ。空けろ、お前ら!」

竜女「ん……」テクテク



エトーン「――戦にて血が流れる事に、理由はない。弱い者が、必ず血を流す」

死体「」「」「」「」「」

エトーン「お主にも、竜にも、同じ赤き血が通っているのだろう……?」

竜女「……うん。みんな、赤いよ」

エトーン「血を見るのは、哀しいな……当たり前の、事であった」


エトーン「儂を……許してくれ。竜人の娘よ……」

竜女「そんなっ、ボク、何も……! むしろ、ボクたちがみんなを……」

エトーン「戦に臨んだ時より、兵という者はいつ力尽きても文句は言えぬ……お主らも死ぬ気で向かってきたのだ」

エトーン「ただ、血族に凝り固まってお主を傷付けていた儂を……許してくれ……」

兵士「エトーン様……」


竜女「……ありがとう、エトーンさん」ニマッ


エトーン「ふふ……生き物というのは、笑顔が何より、美しい……そうは思わんか」

兵士「は、はい」「はい」「ええ……」

エトーンは天を仰ぐ。

エトーン「雨が、流れた血を洗い流し……ああ、儂の中の血だまりも、綺麗に流れていくようだ」


エトーン「……往け。好きに往くが良い。未来のある若者達よ」ニコッ

少年「フン」
竜女「エトーンさん……」

兵士「……おい、エトーン様を南詰めまで!」「特注の甲冑がこうも……早く脱がせて手当てしろ!」「北詰に担架があった筈だ、取ってきます!」


竜女「エトーンさん……」

少年「竜女、兵士の邪魔になる。往くぞ」

竜女「うん」

兵士「……おい! これ、お前のだろ?」バサッ

竜女「あっ、ローブ! ありがとう!」

兵士「ビショビショだが、お前にとっちゃ大事なもんなんだろ。竜人のガキンチョ」

少年「だよなぁ借り物だもんなぁ……」グリグリグリグリ

竜女「あっ、いたたいたた! ごめんなさい、ごめんなさいってば~!」

飯食って顔洗ってくる

飯と顔洗い代行してやるからはよ

飯なげーよ

まだ顔洗ってるんだよ

顔食って飯洗ってくる

掃除したら寝てしまった
眠い
すまねえ
おっしゃ書くぞ


少年「脱いだものは?」

竜女「ああぅ、畳みます……ごめんなさい……」ズキズキ

少年「ったく」

兵士「許せねえのに……これじゃバカみたいじゃねえか……」「あんなに返り血浴びてるのによ。なんか、負けたな……」「な……」

エトーンの乗った大きな担架が運ばれていき、北詰の門も閉まる。
門から多少の距離を進むと、微かに迫り来る地響きが少年たちの足に感じ取れた。



少年「来るぞ。……コートは?」

竜女「畳んで置いときます!」イソイソ

少年「リュックの中だバカタレ!」ジャキン


竜女「……よしっ」ゴソゴソ

灰色の地平に赤い竜の頭部が見える。静かに上下しながら、その陰は近付いてくる。

竜女「あれ、一匹……?」

少年(中規模の部隊を容易く壊滅させる赤色の竜……)

少年(もしその存在が確認出来ていれば、軍は勇者をそちらにあてがった筈……すなわち神出鬼没)

少年(文献の通り、か)



竜「グゥオオオアアアアアアア!!!」



竜女「」ビリビリビリ…!

少年「出たな、紅竜……!」ビリビリビリ…!


少年たちの前に現れたのは艶やかな赤色の鱗を纏った細身の竜だった。
背丈は大の大人を優に越す高さで、一階建ての家屋ほどはある巨大さ。

口から煙る息。大きく伸ばされた爪。力の塊である体躯。


紅竜「グゥオオオ……」ズン

少年「ちっ……腹ァくくるか……!」ザッ

竜女「待って、師匠! グェウ、ギョオアアアア!」

竜「……ウェウ、ヴォウアアアア!!」

少年「りゅ、竜女っ、テメェ言葉が通じんのか」ビリビリビリ…!

竜女「は、話をさせて師匠! 兵が引いたのにボクたちが争う理由なんてない!」


少年「そうったってお前、いきり立って……! うおぁ!?」ズザァ

グシャア!

紅竜「フシュルルルルルルルルルゥ……!」

少年が咄嗟に飛び退いて瞬きをする間に、彼の足元には3本の亀裂。

竜女「師匠、剣を収めてッ! 絶対説得するから……!」

少年「死んでも知らんぞ花畑……!」チャキ

竜女「ガァウ、キョエエ……!」『お願い、やめて……!』

竜女『ボクたちに戦う意志はないの、お願い、話を聞いてッ!』

紅竜『そんなに血の香りを漂わせる人間が信用できると思ってるのか……!』ビュオッ!


ドグォ!!

竜女「いや、あっ!?」ドサッ

竜「ヴェエエエエエエエイィ!!」グオッ!

少年「あぶね……竜女ッ!?」ジャキン



ガキャアン!!


竜「ッ、ギョウアアアアアアア!!!」グググッ!

少年「ん、ぐぅ! 片手じゃ……ぐ、ぎ、ぎ……!」ギリ!ギシ!ギシィ!

少年「裂毘八功、秘剛力……!」ググググ……ッ

ギシギシギシギシギシギシ……!

竜女「し、ししょぉ……!」ブルブルブル

少年「陸と結びて歎願尽くすッ!!」

集う剛力、武の香り。



……ギシ!


紅竜「!?」ググ……

刃の峰を右肩に押し付け、軋むほど左膝を着き、渾身の形相で剛爪を止めていた少年。
その表情に不敵なものが混じった時、ぶるぶると震える刃が浮き始めた。

少年「ふっ、う、人類ナメんなよ……!」グググッ!

紅竜「ヴォ、ヴォアアアアアアアアア!!!」グググ……ッ

その決して太くない腕のどこにそんな力があるのか。枝のような少年の腕が、大樹のような紅竜の腕をみるみる押し返す。
更に両足で立ち上がり、顔を上げて紅竜を圧倒してゆく。


少年「そぉら……!!」ギシッ!


紅竜「……!」カクン!

筋繊維の緊張が抜けた一瞬、遂に紅竜の肘が曲がった。崩れる胴体を庇い体勢を直す間に、少年たちは間合いを取っていた。


竜女「師匠って、一体……」

少年「言わんこっちゃねぇ、この能天気ッ! 俺が止めなかったら死んでたぞテメェ!!」

竜女「ご、ごめん、なさい……」

少年「んあぁ、どうすんだよっ。言葉が通じても話の通じる相手じゃねえだろ……!」

竜女「う、ううっ……」



紅竜『……おい、なんなんだその男は』


竜女「どうしたら……」

紅竜『おい、竜人! 聞こえてるだろう……! 返事くらいしたらどうだ!』

少年「おい、何か言ってるぞ。呼ばれてるんじゃねえのか」

竜女「へっ、ボク?」ビクッ

少年「他に誰がいるんだよ」

竜女『あ、あの、えっと……』



竜女『……呼ん、だ?』



紅竜『……』ブチ

竜女『かな? えへへ』ニマ

紅竜『……どぅあああ!! 許さねえ今すぐ潰してやるぅぅううう』ドドドドドド!!

………………。


紅竜『なんなんだ、その男の、馬鹿力は……!』ハァハァ

竜女「ボク何で殴られたのか意味分かんないよぅ……!」ズキズキ

少年「おめぇが粗相をしたって事だけは、よーく分かるんだよ……!」ゼェゼェ


酷使しすぎた腕を痛そうに抑える少年と紅竜、剛力のげんこつをもらった頭を抱えてうずくまる竜女。
三者三様、異種族間の実に不毛な争い。

紅竜『お前ら、種族が違うのに仲間なのか』

竜女『うん……頭ぐるぐる痛い……』ズキズキ

紅竜『はぁ。おい、片腕の……いや、聞こえないんだっけな。竜人の娘、そいつの馬鹿力は一体なんなのか聞いてくれないか?』

竜女「うん、師匠! ボクも気になります。教えてください!」

少年「いきなり何の話だか分かるわきゃねえだろ!?」バキィ!!

竜女「ふぎっ!?」

ここまで
お休みなさい



続き期待してます

竜女……少年と竜のゲンコツをくらったのか……?
硬いな

金剛石頭か


竜女「……というわけなんだけど、師匠は何であんな力が使えるの?」ペタン

紅竜『聞かせてくれ』ペタン

少年(敵意をこうもすぐに失うものか……?)

サイズが違えど同じように腰を下ろす竜女と紅竜に対し、少年は座らない。
少年の足は地に着いているようでわずかに踵が浮いており、左手の指は腰の帯刀から片時も離れていない。
どんな殺気も見逃すまいと、また己の殺気を気取られまいとしているわけだが、この場においては残念ながら取り越し苦労であった事を補足しておく。

少年(…………)

少年(今はまだ、その時ではない)

少年「竜女。その竜にこう言ってくれ。『解ってるんだろ、言うな』、と」

竜女「え? うーん?」
竜女『えーっと、ボクの師匠は「解ってるんだろ、言うな」と言いました』

紅竜「……そうか」


それから竜女の通訳を交え、少年と紅竜は話す事のできる情報だけを交換した。


紅竜が少年たちに教えた事
・純粋な力比べで打ち負かされた時、その場は譲るというのが竜族同士の慣習である
・掟という程ではないので、誇りのない者は後ろから虎視眈々と牙を剥く
・弱肉強食でもあれば組織を尊重する事もあり、それは人間とさして変わらない
・紅竜が竜族において高位の幹部、三竜であるという事(少年は知っていた)
・三竜とは、紅竜・蒼竜・閃竜の三匹からなる組織。種族や部落ごとにマイペースになりがちな竜族全体を、腰の重い竜王族に代わり纏めている
・紅竜はブレスは吐かない種族の竜だが純粋な筋肉量ではトップクラスらしい。片腕で自身の力に張り合った少年を尊重し、紅竜も片腕のみで全力を尽くしたという
・普段人間に対しては自衛しかせずあまり関与しない竜族だが、紅竜が単身で追撃に来た事には理由がある
・これまた理由があって、一部の竜以外には人間が戦争に踏み切った事を知らせていない。つまり、現在全面戦争を行う気はない

少年たちが紅竜に教えた事
・竜女が掲げた行動原理、及び無用な殺戮を行わない限りは今のところ竜族に関与する気はないという事
・ヴィパル橋で起きた一連の軍の動きと、ウィノース台地に勇者がいるらしいという事
・人間と竜人で旅をする事になった大体の馴れ初め


…………。


少年・竜女「ひとつ聞きたいんだが、どうしてお前はブエルの部隊を壊滅させ、ただの一匹でこっちの追撃に来たんだ?」

紅竜・竜女『理由は2つある』
紅竜・竜女『1つはブエルへ来るであろう奴らの援軍を先んじて攻撃し、戦線を遠ざける為。どうやらお前たちのおかげでそれは一時的に解決したようだ』

紅竜・竜女『もう1つは、私情の為』

少年・竜女「私情?」

紅竜・竜女『このところ各所にて、人間に竜が殺されずにさらわれているという案件が増加していた』
紅竜・竜女『そんな中ブエルが襲われ、私の孫にあたるまだ幼い竜がさらわれていたのだ……』

少年「………………」
竜女『そんな……』

紅竜・竜女『私たちの竜の営みとして、いつ他の種族に殺されようとも、それが摂理。血縁であろうとそう弔う気も起きん』
紅竜・竜女『しかし、さらうとは流石に気に食わない。虐殺の為か武具に使う為かは知らんさ』
紅竜・竜女『だがいずれにせよ。私欲の為に同族の命を踏みにじられて黙っていられる程、三竜の誇りは安くない』
紅竜・竜女『人間の軍を怒りに任せて潰した中に、私の孫はもう居なかったよ……連れ去られた先を突き止めるのは難しいだろう』
紅竜・竜女『下手に深追いして人間をより刺激するわけにもいかないしな……』


紅竜・竜女『……恥を承知で頼みたい。もし人間の軍に触れる機会があって、竜攫いの行いを認めたならそれを止めてくれないか』

紅竜・竜女『お前たちの志に反する事ではない筈だ……頼む』

竜女「ですって、師匠……ボクも、どうにかしてあげたいです」

少年「……」

少年・竜女「……大体犯人の見当はついてんだよ。んな下らない事をする馬鹿はそう多くねぇ」

少年・竜女「覚えておいてやる」

紅竜・竜女『……すまない。まさか、人間に頼み事をする時が来るなんてな……竜は嫌いではないのか、少年よ』

少年・竜女「コイツのせいで竜臭さには慣れてきたかもな……ってちょっと、ししょー! ひどい!』

紅竜『ふふっ……』

少年「ったく、ぎゃうぎゃう言われても分かんねーよ……」

…………。


兵士「エトーン様だけでも、生きていてくれて良かった……」ガシャガシャ
兵士「しかし、片腕の少年と竜人族の少女……あいつらさえ居なければ……」ギリッ

エトーン「よせ……彼らにも立場があり、信ずる物がある……譲れぬ道がぶつかった、それだけなのだ……」


エトーン「……ごふっ」

兵士「い、いけませんエトーン様……お身体に障ります」ガシャガシャ

エトーン「すまぬ……。ぬ? 何だ、あれは……?」ゴロ

兵士「エトーン様?」



弓兵「ナガ……マの、ガ、ダギ……」キリキリキリキリ…



エトーン「……!? い、いかん、よせ……っ、そんな事をしても……!」


…………。


少年・竜女「これからお前はどうすんだ、紅竜」

紅竜・竜女『お前にもらった情報を元に勇者の進軍を阻止しに向かう。俺以上に神出鬼没だからな』

紅竜・竜女『再びまみえる時は、敵か味方か……楽しみにしている』

少年・竜女「ケッ。楽しくなんかありゃしねえ」

紅竜『……では』ダッ

ビシュ。

がう。と一言だけ残し走り去ってゆく紅竜を、少年たちは橋に背を向け見送る。
初めて交わす事が出来た竜との会話、そして少しでも分かり合えた事。やっぱり少年はそれをちょっと嬉しく思っていた。

だから、ちょっと

ヒュオオオ

反応が

少年「ぁ」


遅れた。


少年「竜女ッ!!」ガバッ


ドザァッ!!


竜女「きゃっ、師匠!?」ズザァッ

少年「………………ぐ」



竜女「し……しょー……?」



少年の脇腹を、銀色の矢が貫通していた。


竜女「あ、あ……」

少年『あれは矢だ、一本刺さったら命は無いと思え! ……』

竜女「あああ…………!」

少年『一本刺さったら命は無いと思え!』


      『命 は 無 い と 思 え』



竜女「い、いやああああああああああああッ!!? ししょー、しっかり、しっかりしてえええッ!!」


少年(ち……っ、毒矢、かよ)

少年「大袈裟、だってんだ……落ち着き、やがれ……」ドクドクドク

竜女「だっ、だって、血が……! いっぱい……!」


腹部がすぐに朱く染まる。突き抜けた矢先から、今日浴びるほど目の当たりにした血液が垂れてゆく。
竜女は、何気なく知ってきた命が尽きるという事、その本当の意味を知る。

彼が生きる脈の速さで、彼の命は消えてゆく。
彼が、その左腕で屠ってきた数多の生き物と何ら変わらぬように。

少年「う……ぐ……」グシャア
少年(腹が……熱い…………今日は、もう……力……が…………)

竜女「や、や、やだ……そんな、血が……あああ……あああ……止まって…止まって…止まって、止まってぇ……!!」


竜女「ししょー……死なないで、しじょぉぉお……!!」ポロポロポロポロ



……。

>シショー、シショォォォ…

紅竜『……』

紅竜(なぜ)

紅竜(捨て置けば良いのに、なぜあの姿を見ると足が動かないのだ……)

紅竜『……エルフ』

エルフ「はい」

紅竜『その灯火、絶やしてはならん』

エルフ「……はっ」ダッ


紅竜『運は、彼を生かすか……?』


エルフ「どいてください!」

竜女「な、なに、だれ……!? し、ししょーに何するの……!!」

エルフ「っ」


エルフ「……私はあなた達の味方です!! この人を助けます!!」グルグルグルグルギュッ

竜女「!!」

少年「ぁ……! ぅ……」

突如現れた耳の長い少女が、彼の腹部に、堅く堅く布を巻いていく。
多少の失血は収まるが、既に少年からは相当量の血液が失われている。

エルフ「これ、毒矢……? 処置をしないと、これじゃ……!」


エルフ「お願い、その人を担いで、私のあとについてきて下さい!!」


竜女「え……う、う……?」グズッ

エルフ「早くッ!! この人が死んでしまっても良いんですか!!?」タッ

竜女「や、やだ……絶対死んじゃやだぁ……!!」ガシッ
少年「…………………………」

エルフ「こっちです、早く!」タッタッタ

竜女「ししょー。ししょう……っ」ダダダダダダ

竜女「助けるから、絶対助けるからっ、まだ死なないでぇ……!!」ダダダダダダダダダ


……………………。

時代は駆け出した。

いつか生じた小さな波はやがて巨大なうねりとなり、すべてを飲み込み潰してゆく。
どんなに澄んだ涙も、その大海の前には飛沫に過ぎない。
それでも彼女は心より泣く。

その命は、心に触れた命だから。


2章 ヴィパル攻防戦 了



このSS最初の書き込みからもうすぐ3ヶ月になるんだな


3章 翡翠の風



竜女「…………」

暗い板張りの部屋で、竜女はただ膝を抱えていた。

辺りは既に暗く、雨粒がそこかしこを叩く音だけが響く。



竜女「…………」ギシ

カラン……

痛くなってきたお尻。軽く座り直した際に、無造作に投げ置かれた彼女の刀が転げた。


物悲しく、小さい背中。


竜女は自身の五感が辛くなって、膝の間に頭を挟む。そうして目を閉じた。

…………。


竜女はあの後、エルフに連れられて『エルフの隠れ里』へと少年を担ぎ込んだ。

その時には既に彼の顔は青白く、呼吸すらようやく認められる状態で、竜女が抱え込んだ腰からは絶望ばかりが染み込んできて。


彼女自身、その時の記憶は曖昧だ。
最後に少年を見たのは、複数人のエルフに担がれて建屋に消えていく下半身。
腰から矢羽根が突き出た哀れな下半身。

それでも彼が奪われてしまう焦り、失われてしまう恐怖から少年を離すまいとし、複数のエルフに四肢を取り押さえられていた事は記憶には残っていない。



……理性がようやく働き出したのを自身で認めたのは、とある建物内で両脇に腕を回され、2人のエルフに廊下を歩かされていた時であった。

もっとも、自分を認識する為の五感が戻っただけであって、現状を掘り返す思考力は凍ったままだった。


半ば引きずられるようにしてしばらく歩くと、竜女は厚めの布が敷かれた部屋へと通された。
客用の寝室である。


『……今はどうかお休みください』

『先ほども話した通り、彼の処置については私達が最善を尽くします』

『翌朝迎えに来ますので……出歩かれませんよう』

蘇った視力で虚空を見つめる事しか出来なかった竜女だが、辺りに人の気配がない事に気付き、
先ほど耳に保留しておいたエルフ達の言葉を、ようやく飲み込んだ。


自分が担ぎ込んだ少年は保護され、治療を受けている。
自分は今日のところはこの場所で一夜を明かす。

それだけ頭に入ってきた。逆に言うと、頭の中で思考してはいけない事については鍵が掛かっていた。


竜女はふらふらと部屋を漂い、両膝を着いた。持ち物がそこらにこぼれているが、非常にどうでも良かった。



竜女『…………』



鍵を掛けていた記憶が、少しずつ染み込んでくる。



『竜女ッ!!』ガバッ



事実とは、少年が弓に狙われた自分の身代わりになってくれたという事で。
少年はそれにより力尽きようとしているという事だけだ。


竜女『……あああ…ぁあ………っく、あぁあぁぁ……』グズッ

………………。


そうして、夜分遅い今に至る。

竜女「…………」

涙はとうに枯れ、筋肉は疲れにより弛緩して動かない。

自身への激しい怒り、少年を傷つけたという深い悲しみ、絶対的な無力感、その他負の感情。
それを拭うには生来備わった防御機構では不十分であった。


よって活動を停止している。


未来、すなわち少年の様態についても冷静に考えられるような状態でもなく、彼女の脳内は未だに過去の時間を巡り歩いていた……。







……………………。

ここまで。
悲しいけど、いつか必ず風は吹きます。

風が泣いてるな


エルフA「これっ、薬草っ」ダッ

エルフB「治癒促進術の触媒を……術士、始めて!」

エルフC「もう始めてます……!」フォォォン…


少年「………………」


エルフC「……っ」フォォォン…

エルフA「大丈夫ですか」

エルフB「強心の薬を。まだ脈が弱くて、なんとも……」

エルフC「長丁場になりそうですね……っ!」フォォォン…

エルフB「……A。濡らした布と、飲み水をCに」

エルフA「は、はいっ。ただいま」ダッ


…………。




竜女「スー……スー……」グッタリ

エルフ(……せっかく布団があるのに、床に座ったまま寝るなんて)ソーッ

エルフ(荷物もぐちゃぐちゃ……まとめておかなきゃ)カチャカチャ


竜女「し……しょう……あ、うぅ……」


エルフ(……)パサッ

竜女「むにゃ……」

エルフ「お休みなさい……」ガチャ


エルフ(……クイーンエルフ様)


エルフ(人の血とは、かようにも恐ろしいものなのですか……?)

ミてます


……。
…………。
………………。


竜女「……」

竜女「ん……」パチ

竜女「……」キョロキョロ


竜女(いない)


竜女は座ったまま目を覚ますと、昨日まで隣に居た少年の姿を探し、昨日の出来事が幻でない事を改めて突きつけられた。


竜女(師匠……無事だよね……)

竜女(無事だよ、ね……?)スクッ

ただ一晩分の悲しみを吐き出したからか、幾分感情は落ち着いたようである。
それよりも少年の身を案じる気持ちが強くなってきたようで、痛む腰を伸ばして立ち上がった。


竜女(とにかく、師匠を探しにいかないと……まだ何も……死んだとは、決まってないんだから)

竜女(えっと、荷物荷物……あった)チャキ

竜女(あ、そういえば昨日の人から、ここから出るなって言われたっけ……?)

竜女(ししょーとあの人、ししょーとあの人……)

竜女(……うん、ししょーの方が大事)ガチャ
エルフD「お待ちしておりました」

竜女「ひゃっ!?」ビクッ

扉を開けた眼前に昨夜のエルフが佇んでいた。その眼光は冷たい。

エルフD「我らが長からお話が御座います。御一緒下さい」ツカツカ

竜女「ま、待って! 師匠は大丈夫なの!? 師匠は!?」

エルフD「……煩いですね。黙って付いてくるように。あと、その物騒な刃物は置いていきなさい」

竜女「ちょ、ちょっと待ってよ、師匠は無事なの!?」


エルフD「……御霊を止め置け留め置け」フォォォン…

突如、エルフの掌から深緑の光が発せられる。それを頭に浴びた竜女の思考が不意に鈍り、鎮められた。

エルフD「その下賤な刀を置きなさい」

竜女「う、ん……」カチャリ

エルフD「貴女は招かれざる客人である事をお忘れなく。では、こちらへ」ツカツカ

竜女「うん……」テクテク

…………。


エルフD「クイーン様。連れて参りました」スッ

竜女「……」キョロキョロ

エルフの背に付いて回ると、竜女は医務室らしき場所に案内された。

エルフD「クイーン様の御前よ。座りなさい」

エルフA「すぅ……すぅ……」
エルフB「ご苦労様」
エルフC「うう、ん……」ゴシゴシ

少年「………………」


3人のエルフが取り囲むように座っているその中央に、白い布を掛けられて眠る少年の姿が認められた。

竜女「!!!」ガタン!!

竜女「師匠ッ!! 大丈夫、師匠ッ!?」ダッ
エルフD「騒がしい! 控えなさい!」
エルフB「落ち着きなさい、竜人の子」

竜女「だ、だって、師匠!! 師匠は生きてるんですか!?」

……。

エルフB「ええ。様態は幾分安定したわ」


竜女「え……」


竜女「ほ、本当……? 本当に生きてるの……?」

エルフB「生きているわ」

少年「………………」

微かに、彼の胸は上下していた。


竜女「…………ぁ」

エルフD「?」






竜女「ぁぁあ、うぐぁぁっ……!! 良かったぁ、ふぐっ、ぁぁっ……!!」ポロポロポロポロ…
顔を押さえ、床に膝を着き、竜女はただ泣きじゃくった。昨晩枯れ果てた筈の涙が嘘のように泣きじゃくった。

エルフD「おい、クイーン様の御前だ、控えろ! ……チッ」

エルフB「仕方ありません。しばらくは私達に見向きもしないでしょう……D、AとCを部屋に連れて行きなさい」

支援

エルフBがクイーン様?

記号無しエルフも入れて5人なのか、クイーンは更に別に居るのか


エルフD「ほら、起きてください」ユサユサ

エルフA「あ、ゆ……?」ムニャ
エルフC「はぁ、い……」ゴシゴシ

エルフD「お疲れさま。部屋に戻ってゆっくり休みなさい」

エルフAC「ふぁい……」「失礼しまふ……」テクテク

エルフD「……それでは、失礼致しました」



竜女「……ひぅっ、うっく……へぐっ、うあああ……!」ガバッ

竜女「ししょー……あっだかぃ、あったかいよぉ……」ギュッ

エルフB「……どうか安静に。あまり動かさないよう」

竜女「はぃ、ううう……」キュウ

…………。


竜女「ぐずっ。ししょー、ごめんね……」

エルフB「落ち着きましたか?」

竜女「はい……師匠を助けてもらって、本当にありがとうございました」

竜女は少年から身体を離すと、静かに座するエルフに正対した。

エルフB「礼には及びません……まあ、こちらでそれなりに手を尽くす事になりましたが」



Qエルフ「遅ればせながら、初めまして。私は『エルフの隠れ里』の長、クイーンエルフと申します」

竜女「えと、初めまして。竜人少女と言います。竜女でいいです」

Qエルフ「竜女さん。お伝えしたい事はたくさんありますが、必要な事から簡潔に説明しますので崩してお聞きください」

竜女「崩す?」

Qエルフ「脚を楽な格好にして頂いて結構です」

竜女「うん」ペタン


Qエルフ「……まず、貴女には5日程この里に滞在していただきます。こちらで衣食住は用意致しますわ」

Qエルフ「ですが。滞在中はもちろん、その後もこの里については他言せぬよう」

竜女「黙ってれば良いんだよね、分かった」
竜女「でも、なんで5日も? 師匠の怪我、そんな酷いの……?」

Qエルフ「彼が受けた矢には毒が塗られていたわ。神経毒というものよ」

竜女「神経、毒?」

Qエルフ「身体の働きを止めてしまう毒と考えてくださいな。彼はそれに加え結構な量の血を失ってしまっていた……」

Qエルフ「そこで私たちは彼を解毒し、さらに彼の体力の消耗を最小限にする魔法を掛けました」

竜女「まほー……?」

Qエルフ「知らなくても無理はないわ。魔法とは不思議な力の事よ……機会があったら話してあげる」

Qエルフ「話を戻すわね。私たちが彼に掛けた魔法の効力で、彼が消耗してゆく力より彼が自然に回復する力が上回ったの」

Qエルフ「その代わりに、彼は回復するまで目が覚めないわ。少なくとも3日、長ければ一週間は」

魔法はエルフしか使えない世界なのか


Qエルフ「では竜女さん。ここで貴女に質問があります」

竜女「なんですか?」

Qエルフ「……貴女はこれからどうするおつもりで?」

竜女「えっ?」

Qエルフ「彼は貴女の師、でしたね。ですが、貴女達はもっと違う目的があって旅をしてきた筈。違いますか?」

竜女「なんで、それを……?」

Qエルフ「目的もなく国軍に挑むわけがないですわよね?」
Qエルフ「さらに紅竜様にも接触……気が確かであれば、あのような猛者に接触する理由などどこにもありません」

竜女「それは……その」

Qエルフ「言い淀むような信念で戦に身を投じたのかしら? 貴女を庇った彼が不憫ですわね」

竜女「っ、師匠……」

竜女「クイーンエルフさん……ボクの話、聞いてくれますか?」


竜女は今までの出来事を包み隠さず、クイーンエルフに伝える。
にこやかな顔でそれを聞くクイーンの瞳は冷たいものであった。

…………。


竜女「……それで、紅竜さんとお別れしたあとに師匠は、ボクを庇って……」


Qエルフ「えぇ。もう良いですわ。だいたい分かりました。よろしゅう御座います。お腹いっっぱい……」
Qエルフ「つーまーり、貴女はあらゆる戦地に赴きその争いを仲裁、仲介するつもりでしたのね?」

竜女「うん。これからもそうして旅を続けようと思ってます」


Qエルフ「……」

Qエルフ「なら、早くここを出たら良いじゃない。独りで戦争を止めてきなさい」

竜女「え……?」

Qエルフ「偉そうなのは口だけなのかしら。貴女の意志は従順な召使いがいないと消えてしまう程度のものなの?」

竜女「で、でも師匠を置いていくわけには……」

Qエルフ「関係ないでしょう。貴女がそうしたいだけであって、彼の意思は聞いたのかしら?」

竜女「……」
竜女「…………。聞いてない、かも」


Qエルフ「貴女の大切なものは何? 自分の命? 師弟の関係? それとも、そのご立派な志?」

竜女「それは……それ。どれも大事……」

Qエルフ「我が儘」ピシャリ

Qエルフ「ごめんなさい、苛々するの貴女。本当にお花畑なのね」

竜女「あ、ぅ……でも……」

Qエルフ「生き物として当然の事……選択肢を選び取る事。それすらできない貴女の戯れ言に付き合う暇はないの」

Qエルフ「それと。貴女は知らないし聞いていないでしょうけれど、エルフ族……亜人種は皆、人間や人間の血を嫌っているわ」

Qエルフ「彼はもちろん……貴女もよ」ニッコリ


Qエルフ「まあ、それでも助けたという事はそれなりに意味があるのだけど……先ほどの話と合わせて貴女に用は無いわ」

Qエルフ「選びなさい。そして、選ぶ為に捨てなさい」



Qエルフ「命が大切なら、この里から『逃がして』あげる。その代わり、この彼と、私たちの里に関する記憶は消させてもらうわ」

竜女「え、そ、そんな事……」


Qエルフ「彼が大事というなら、目が覚めた所でほっぽり出すわ。この里と、戦争に関する記憶を消してね」

竜女「なんで……?」

Qエルフ「私たちにとってもこの戦争、他人事ではないの。戦に臨む命を貴女が好きにできるなんて自惚れないで頂戴」


Qエルフ「それで、自分の血がどうとか命がどうとか、くだらない志が大事でしたら今からウィノースの勇者でも止めてきましたら?」

Qエルフ「紅竜様が心を許そうと私たちが力を貸すつもりはありませんが……どうぞご自由に」


竜女「だって……師匠が、居ないと……」

Qエルフ「半ば無理矢理に付き合わせた彼を、どの面を下げて再び死地に連れ歩くのでしょう? 恥ずかしい」

Qエルフ「そして、選べないというなら……あるいは、生きては帰しませんので。そのおつもりで」


竜女「………………」


Qエルフ「あらあら……だんまりですか? まあ、どうせ選べないとは思っていましたが」

Qエルフ「今の貴女に話す事も聞く事もありません。元の部屋に戻りなさい、朝食を出すわ」

竜女「でも……ボクは……」

Qエルフ「……うるさいわね、半人!」
Qエルフ「初めに言ったでしょう、貴女には彼が起きるまでの間滞在してもらうと。それまで時間はあるのだから、精々考えなさい」

竜女「はい……」テクテク

ここまで
最近寝落ちがひどかった
ごめんなさい

乙!
ペースはゆっくりでも楽しみに待ってるから無理すんな。

おつ
厳しいな


早く出てけと言ったり起きるまでゆっくり考えろと言ったり忙しい人だな

Qエルフきっついなぁ

>>352
まあ出ていけはQエルフの心情、目が覚めるまでは紅竜の命令だからね


少年「…………」

竜女(また、来ますね。師匠)

パタン

少年の療養する部屋をあとにすると、竜女はとりあえず言われた通り自分に与えられた部屋に戻る事にする。

その間彼女は、存外冷静に今後の事を考えていた。

竜女(……エルフさんたちが師匠を助けたって事は、エルフさんにも師匠は必要なんだって事だよね?)

竜女(それとも、何か頼みたかったのかな……?)

竜女(師匠、強いもんね)

Qエルフ『今の貴女に話す事も聞く事もありません。……』

竜女(……ボクは、何もかも弱いなぁ)

ガチャ …バタン

竜女(やっぱり、ボクの居場所なんてないんだ……)ペタン

竜女(ボク、どうして師匠に勝てたんだろう)ジワ…


「おはようございます、朝食をお持ちいたしましたー」

竜女「あ、はい」ゴシゴシ

「失礼しますね」

ガチャ

嫌みのない声と共に開いたドアの先には、お盆を持った見覚えのあるエルフがいた。

竜女「あれ、どこかで見た……?」

エルフ「えっと、あの時、あなたのお師匠さんに包帯を巻いたエルフです」

竜女「あっ、そうだった! あの時は本当にありがとうございましたっ! ボク、本当にあたふたしてて、何もできなくて……」

竜女「できなくて……」ジワ

エルフ「あ、そんな……気にしないでください……」

竜女「ごめんなさい……」グシグシ

エルフ「お師匠さんの事、大好きなんですね」

竜女「……。うん、大好き……」ニマ


エルフ(綺麗な瞳……異種族なのに、本当に人間が好きなんだ……)


竜女「……ぅ、なんか恥ずかしいですね、えへへ」

エルフ「あ、ごめんなさい。ジロジロ見ちゃって」

あどけない顔のエルフは一度咳払いのようなものをすると、正座したまま竜女に向き直った。

エル「改めまして、私はエルフのエルと言います。よろしくお願いします!」

竜女「えーと、ボクは竜人少女です。竜女って呼んでください」

エル「エルフだからエルって安直ですよね。遠い東の島で言う、太郎とか花子とか、それぐらい安直な名前なんですよ!」

竜女「東の島?」

エル「竜女さんが持ってる、その刀。そういった刃物の発祥の地なんですよー」


エル「あっと、いけない。ご飯届けに来たんだった」コトリ


エル「おめめ、真っ赤っかですよ。昨日から色々疲れてるでしょうし、今日は安心してお部屋でゆっくり休んでください」

竜女「うん、いただきます。ありがとね、エルさん」ニマ

エル「エル、で良いですよ。困った事があったら、周りの人に私を呼ぶように言ってくださいね。クイーン様からもそう仰せつかってますから」

竜女「うん、ありがと、エル。エルも呼び捨てで良いよー」

エル「あ、良いんですか? んじゃ竜女、元気にしててね!」ガチャ

おつ
はよ


パタン

戸が閉まると竜女はお盆を手に取り、とりあえず部屋の中央にあるお膳に乗せた。

竜女「このトゲトゲは、確かフォークだっけ。こっちが、えーと、えーと……スポーンだっけ? あれぇ、違うっけ?」

竜女「あー、師匠と食べた人間のご飯、美味しかったなぁぁ……///」ニマニマニマ

竜女「……」

竜女「師匠……また食べに行きたいです……」

竜女「……いただきますっ」パチリ


…………。

竜女「……ごちそうさまでした」パチリ

竜女「うーん、なんというか、うーん……」

コンコン ガチャ

エル「竜女、食べ終わりましたー? うん、全部食べれてるね、良かった良かった」

竜女「あっ、エル。ごちそうさま……」

エル「クイーン様に言われて私が作ったんだけど……どうかな? 美味しかった? どうかな?」

エル「ね、どうかなっ!?」キラキラ

竜女「ボ、ボクが普段食べてる味にそっくりだったよ……」

エル「え、本当に!? お口に合わなかったらどうしようかと思ってたんだー!」カチャカチャ

竜女「あの、あ、味付け……」

エル「昼も夜も頑張っちゃうから、期待して待っててね! じゃっ!」テクテク ガチャ

…パタン。

竜女「だから、味が、ないんだってばぁ……」


竜女「行っちゃった……」

竜女(エルは、ボクの事がそんなに嫌じゃないのかな……?)

竜女(でも、エルと仲良くしてエルがみんなから嫌われたら悲しいし……きっとあるよね、そういう事)


竜女(うん。今日は言われた通りにここに居よう……ボクもクイーンエルフさんから言われた事、落ち着いて答えを出さなくちゃ)



竜女「……今日は何しよ。おとなしく>>+2をしてよっかな……」

1.少し刀を握る
2.物思いに耽る

22時まで来ないなら寝て明日書こうと思います
皆さんスムーズな進行になる安価を踏んでくれるのが嬉しいです
けれど、どの選択肢もハズレはないように話を練ってありますので冒険心を出して好きな安価を踏んで良いですよ、と

なら 1 で

いち


竜女(少し、刀でも握ろうかな……ちょっと狭いけど、お父さんとか師匠の事とか、嫌な事ばかり考えないで済みそうだから……)チャキ

竜女「それに復習もしないとね……んしょ」ヒョイッ


竜女はお膳と荷物を布団の方に寄せ、部屋を偏らせた安全スペースを確保する。
元は客間なので部屋は広く、縦に振り回す事こそ出来ないが横向きに振り回す事は余裕を持って出来そうだった。


竜女「確か師匠は言ってたなー……これが原点だって」ジャキン

やや広角に開く、少年直伝の構えを取る。刀を右手だけで軽く握り、同じ足を少しだけ前に出す。
竜女の元の構えグセと、類い希なる身体能力を考慮して少年が手心を加えた竜女専用の構えだ。

そして、その右手を逆手に引き絞り。


竜女「裂輪」シュッ


静かに払う。



竜女「……」シュッ


何度も払う。


竜女「……」シュッ


ずっと同じ動きで払う。


竜女「……」シュン


枝木が静かにしなるように。


竜女「――」シュン


自然な動きで払う。


彼女の呼吸は自然と深く、長くなり、やがて脈動と呼気と刃が少しずつ重なってゆく。

それはとても確かなリズムながら軽やかで、竜女は段々と自分が刃の中にいるような気分になってくるのだった。



竜女「――」ヒュン

竜女「――」ヒュン

竜女「―…」ヒュッ

竜女「…」ヒュッ

竜女「」ヒュ

竜女「」ヒュ



いつしか竜女は自分の思考、普段であれば雑念と呼ばれるものを、その斬撃の中に落とし込む事ができるようになっていた。


竜女(……分かる)ヒュ


竜女(分かる気がする)ヒュ


竜女(師匠はこの技を原点と言っていた……)ヒュ


竜女(確かに剣って、こういうものなのかもしれない)ヒュ


竜女(今、ボクはすごい状態なんだなぁ、誰にも負ける気がしないなぁって思うけど)ヒュ


竜女(なんでだろう、すごい静かで、身体の感覚が遠のいていくみたい……)ヒュ


竜女(本当に大事なものって、この先にあるんじゃないかなぁ……)ヒュ


竜女(でも、追いかけても近付かないだろうなぁ……いつか、自然に大事な事が分かる気がする……)ヒュ


竜女(本当に……遠のいていく……)ヒュ


竜女(ボクはモノ……? 刃は、生き物……?)ヒュ


………………。



クイーンエルフさんは、ボクの事をお花畑って言ってたけど……


ボクがあの時確かに感じた、師匠や他の誰かとも必ず通じ合えるって気持ち……


あれは絶対に嘘じゃない……まやかしでもない……


いつか、必ず分かり合える日が来るだなんて事は言わないけど……


でもボクの頭の中では、生き物は必ずどこかが繋がってる……そんな気がするんだ……



言葉が違う……環境も違う……


一秒で潰されちゃうアリさんも……力強くて雄々しい竜族の方も……


血の通った人も……血も涙もないって言われる人も……血の通ってないクラゲさんも……


「生き物」って、どこかで、もっと奥深い所で……


みんな、生きているんだな、ボクも、一個のちっぽけな命なんだな、って……


そんな気持ち……


刀を振り回してて命の事考えてたなんて、ふふ、師匠に言ったら怒られちゃうかもなー……


今日は寝ます、安価狙ってくれた方々感謝です

剣豪系天然哲学少女という謎ジャンルを勝ち取りつつある竜女の明日はどっちなんだ……(自問自答)

乙!
良いじゃん禅問答系竜女

おつ


…………


もう、振らなくても良いかな……


竜女(……)ヒュ…

竜女「……」ピタリ


竜女「ふう」カチャ

竜女はややしばらく刀を振ると、姿勢を直して動きを止めた。
息は整っていて、心音も落ち着いている。

竜女「師匠と会う前まで、危なそうな時はいっぱい息を早くしてたけど……」

竜女「興奮しない方が良いのかな?」ガタゴト

竜女はとりあえず刀を隅に置き、部屋を元のように戻した。


竜女「……」

竜女「うん」ペタン

部屋を片付け終わって布団に座り込む。

竜女「まだ落ち着いてるやー」

竜女「……今なら、落ち着いて今後の事を考えられそうかなー、うん」

ひとり竜女は頷き、柄にもなく脚と腕を組んでうんうん唸りだした。

竜女「まず、師匠が起きた時ボクの力じゃ……」


……。

…………。

………………。


…………。


竜女「ご、ごちそうさま……あのね、エルー」カチャカチャ

エル「どうだったかな、お昼ご飯! お野菜の水煮、美味しかったでしょ?」カチャカチャ

竜女「う、うーん、あの……」

エル「良かったぁ、夕飯も頑張っちゃうからね!」ガチャ

竜女「あのっ、味付けっ、もっと濃くてい」

…パタン。


竜女「……濃くて良いからぁぁ」ガクリ

…………。


竜女「でも」ゴロン

竜女「1日に3回もご飯食べるのなんか、いつぶりかなぁ」

竜女「師匠と会う前、くるみの山を見つけてついついいっぱい食べちゃった時だっけ……」

竜女「その後なんだか知らないけど鼻から血が出て、ボク死んじゃうのかーとか焦っててー、すぐに止まってー」

竜女「面白かったなぁ」ニマ


竜女「げふ」グデーン

竜女「お腹いっぱい食べなくてもいいけど、お腹いっぱいは幸せだなー。えへへー」

竜女「あとでエルにお礼言っとかなくちゃ」

竜女「ん……」ウトウト



竜女「おふとん……」モゾモゾ


竜女は布団に潜り込み頭を置くと、すぐに静かな寝息を立て始める。

精神的なストレスはまだまだ完全に癒えるには遠く、昨晩無理な体勢で休んだ事から筋肉疲労もずいぶん溜まっているようだった。


…………。

竜女(……)

竜女(う、ん……)

竜女(夢、かな……?)

竜女(周りが、騒がし……)パチ




死体「ぁ、あ」グシャ
死体「お前、が、殺した」ズル…
死体「うげ、こぺぇ……」ドロドロドロドロ
死体「きひ、ひひ、はははははは……!」ビクン ビクン ビクン
死体「家族が……故郷に残した、家族がぁぁぁあ」
死体「……」ジィィ

……

竜女「ぅ、うわぁぁぁぁああああッ!!?」ガバッ!


竜女「あぁ、あ、あ」ダラダラダラ

竜女「ああ……」ダラ



竜女(ボクは命を奪うような事をしてしまったんだ……やっぱり、まだ、忘れられるもんなんかじゃない……)

竜女(心に、たくさんの命が一瞬で散る感じが、染み付いて、離れないんだ……)ブルッ


竜女(いや、でも直接は……でもでも、ボクが無理を言わなければ師匠が戦う事なんかなかった……)

竜女(今までも、人を殺したり、生きる為にそのお肉を食べてたりしたけど、これは、こんなのは、違う……違ったんだ……)

竜女(国の、兵士さん……いたずらに命を奪って、ごめんなさい……)


竜女(師匠の、隣で、眠りたい……)モゾッ

竜女(ボクは弱くて、怖いよ、ししょー……)モゾモゾ…


竜女は怯えながらも、もう一度眠りにつく……今度は夢を見る事はなかった。

昨日のショックの名残として、竜女の心は自己防衛の為にヴィパル橋で起きた事を思い出さないようにしていたらしい。

それが何故夢見に現れたかといえば、死者の何か超神秘的な力か、あるいは自身が背負ってしまった業か。


とはいえ、疲れた肉体自体は栄養と休息を得て、竜女の脈動の中で回復していった。


…………。

今日はここまで。
戦争から帰ってきた兵隊さんの中には夢見がとても悪くなって発狂してしまう人もいるみたいですね。
皆さん後ろめたい事をしないようにしましょう。私も。


竜女「夕飯、ごちそうさまエル! あのさ、料理についてなんだけど!」ズイッ

エル「ん、どうしたの」カチャカチャ

竜女「味付け濃くしてください!」ズザァ

夕食後、竜女は土下座して味付けの改善を欲求していた。

エル「えー気にいらなかったー?」

竜女「薄いです。うっすいです。ごめんなさい」

エル「はーい。明日からは気をつけて作ってみるね」

竜女「あぁ……ありがとう……!」ガシッ


存外嫌な顔もせずに快諾してくれたエルに、竜女は内心ホッとした。
同時に、エルが竜女に対して敵意を持っていない事への確信を深めていた。

エル「それじゃ、おやす……竜女、どうしたの腕掴んで」ガチャ


竜女「エル、ちょっと付き合ってもらってもいいかな……?」


…………。


エル「そっか……」テクテク

竜女「……」テクテク

昨夜の雨は上がり、しかし露の残る隠れ里の山林。竜女は生活圏の傍らにある清流に案内してもらっていた。
空には星が出ていて、上弦の三日月が彼女たちを照らしている。

竜女「……ごめん、こんな、急に」

エル「ううん。そもそも竜女が頼んだでしょー」

エルは岩肌を撫で、そっと腰掛けた。竜女も遠慮がちに体重を預ける。

エル「……」

ザァァァ…… ゲーコ ゲーコ……

竜女「……」

ホー、ホー……

竜女はヴィパル橋の事を中心に、今までの事を話していたのだった。


…………。


エル「そっか……」テクテク

竜女「……」テクテク

昨夜の雨は上がり、しかし露の残る隠れ里の山林。竜女は生活圏の傍らにある清流に案内してもらっていた。
空には星が出ていて、上弦の三日月が彼女たちを照らしている。

竜女「……ごめん、こんな、急に」

エル「ううん。そもそも竜女が頼んだでしょー」

エルは岩肌を撫で、そっと腰掛けた。竜女も遠慮がちに体重を預ける。

エル「……」

ザァァァ…… ゲーコ ゲーコ……

竜女「……」

ホー、ホー……

竜女はヴィパル橋の事を中心に、今までの事を話していたのだった。


それを聞いたエルが気分転換に外の空気を吸おうと連れ出し、今に至る。

ホー、ホー……

清水流るる音の中、静かに反響する梟の鳴き声。
竜女の経験にとってこのような自然的な場所は特に珍しくないのだが、今においては隠れ里の夜風が心に沁みた。

エル「私、クイーン様に頼まれてヴィパル橋の偵察に行ってたの」

竜女「……」

エル「少年剣士さんは、傍目には鬼みたいで……」



エル「怖かった」

エル「竜女は、もっと怖かったよね?」

竜女「……」

エル「矢の雨を抜けたって、鎧のおじさんを吹っ飛ばしたって、どんな立派な志を持っていたって……」

エル「女の子、だもんね……」

竜女「……ぐすっ」ゴシゴシ


エル「泣け泣け……」ポンポン

竜女「っく……うぅ……!」グシッ

エル「本当、女の子にしか見えなかったよ……」


嗚咽は、樹と闇と水に吸い込まれていく。

エル「寝るの、怖い? 夢、見ちゃいそう?」

竜女「ひっく……」コクコク

エル「大丈夫だよ……大丈夫……」ギュッ




竜女「う、ぅええ……!」ギュウウ

エル「っ……///」

おつおつ


やや低い身長、自身より頼りない体躯にすがりつく竜女。

一生願っても得る事叶わぬ程の肉体を優しく抱き止めるエル。

お互いの心に何か凝り固まっていた通説が、驚き半分にほどけようとしていた。
触れた存在から感じる親しみ深い体温や感情が、同胞以上の距離に近付ける。

竜女「ぐす……」ニマ

エル「もう……」ニコッ



…………。

しばらく胸を借りたあと、竜女は涙が乾く前に顔を上げた。

エル「もう、大丈夫?」

竜女「……ありがとー、エル」ゴシゴシ

竜女「でもね、大丈夫とか、そういう問題じゃないんだ。きっと」

竜女「生き物は命の上に立っている。けどボクは、ボクが行く道の命を蹴散らした」

竜女「ボクや誰かが何て言おうと、それが正義でも悪でも、その事は消えない。ボクの来た道」


竜女「師匠がいなくなっちゃうかも、どうしようってなって、改めて分かった……ボクが奪ってきた命も、誰かの大切な命だったのかもって」

竜女「だから、怨まれても仕方ない、そういう事をしたんだよね……」

エル「……うん。そう、だね」

竜女「あと、あの鎧のおじさん。エトーンさんって言うんだけど、あの人は言ってた」

竜女「人にもボクにも竜にも、もちろんエルにも同じ血が流れていて、そして血を見るのは哀しいって」


竜女「何でかって、きっとみんな生きているからだよね」






竜女「哀しい事、イヤだね……」

エル「そうだね……」

ザァァァ……


竜女「哀しい事は、いっぱいあるし、なくならないと思う」

竜女「何か大事な物があったり、大事な誰かがいたり、譲れない気持ちがあったり」

竜女「嬉しかったり、素敵だったり、強くなれたり……でも、哀しい思いも一緒でなきゃいけないんだと思う」

竜女「……違う、の、かな? エル」

エル「……」フルフル

竜女「それは……我慢しなくちゃいけない事なのかな……?」

エル「そんな事ない」フルフル



竜女「じゃあ哀しい事は、イヤって言って良いの、かな……?」

エル「――うん。絶対そう」



エル「……」

竜女「……」

竜女は静かに月夜を見上げる。ほうと出た溜め息は、追憶か先見か。彼女のみが知る……。


エル「竜女は、強いね……」

竜女「ううん……」

エル「……頑張れ。一個一個、進もう。私も一緒だから」

竜女「ありがとう、エル……良いのかな、こんなに……知り合ったばかりなのに……」

エル「良いんじゃない? なんでだろね、私も不思議に思ってたけどさ……」

竜女「まあ、いっかぁ」ニヘラ

エル「そだね。……あ、竜女。寒いから、そろそろ戻ろう」


…………。

エル『きっと今日は夢、見ないんじゃない?』

エル『お師匠さんずっと寝てるんだし、多分、夢の中でも竜女の事守ってくれるよー』ケラケラ



竜女「んなことあるのかなぁ……」モゾモゾ

竜女「でも」

竜女「守ってくれなくても良いから、師匠が夢に出てきてくれないかな……♪」ウトウト

…………。


……その晩竜女は特に夢を見る事はなく、彼女らしい安らかな眠りについた。

ここまで


…………。

竜女「…………」

竜女「ぅん、ししょー……」ムニャムニャ



竜女「……いないんだった」モゾモゾ

竜女「うん」ゴシゴシ

竜女「おはようボク!」ガバァ

ガチャ


エルフD「……騒々しい。野蛮人は睡眠も静かに取れませんか」

竜女「あっ、ごめんなさい……あれ、どうして朝から部屋の前に居るんですか?」

エルフD「昨夜、エルと共に外へ出て行ったのを見たもので。私の方から一応監視させて頂きました」


竜女「あれはっ、その……エルは悪くないです、だから……」

エルフD「承知しております。あなたが悪いに決まっているではありませんか」

竜女「う、うぇ……? すいません」

エルフD「ふぁ……彼女は純真な娘です……外界の者から変な事を吹き込まれては困るのです……」

竜女「ごめんなさい……。あの、ちょっと良いですか」

エルフD「いいえ……ふぁあ、失礼、致します……」テクテク

竜女「あのっ。ボクが逃げ出さないか、一晩中見張ってたんですよね?」

エルフD「……ぁふ」ピタリ

竜女「面倒掛けて、ごめんなさい! あの、改めて……ボクは竜女です。出来るだけ迷惑掛けないようにするんで、これからもよろしくお願いします!」ペコリ

フレイ「……エルフD改め、フレイと申します。話は、また後ほど……」テクテク


竜女「行っちゃった」

竜女「フレイさん怖いけど、それだけすごい人なんだろうな……」

竜女「昨日ボクを落ち着かせたアレ、クイーンさんの言ってた魔法ってものなのかな?」


……。


竜女「今日はどうしよっかな。うん、考えて動かなきゃ」

竜女「とりあえず疲れも無いし、昼寝しないでも良いし……」

竜女「>>+1」

1.部屋の外に出ないとしょうがないよね
2.クイーンさんに今の戦況を聞こう
3.エルともう少し話したいなー
4.フレイさんのお手伝い、出来る事あるかな?

1


竜女「とりあえず部屋の外に出ないとしょうがないか。里から出なければ出歩いても良いだろうし」

ガチャ

エル「おはよ、竜女! 良い夢見れた?」カチャカチャ

竜女「んー、ぐっすり」

エル「そっか。これ、朝ご飯ねー」

竜女「ね、今日は味濃くしてくれた?」カチャカチャ

エル「……あ」

竜女「……」

エル「忘れてた」

竜女「いただきます……」パチリ

エル「い、嫌なら食べないで大丈夫だから」

竜女「食べます……」


竜女「むぐむぐ……」

エル「竜女、今日はどうするの?」

竜女「……っくん。とりあえず出歩こうかなって」

エル「そっか。みんな日中は自分の作業してるし、竜女の事知らない人も多いから気を付けてね。私が付いてこっか?」

竜女「ううん、ひとりで考えたい事もあるから。ありがとね」

エル「お昼ご飯の頃には戻ってきてね。今度は、今度はちゃんと味付けするから!」

竜女「……むぐむぐ」

まだかな

面白い
追い付いちゃった

支援age


……。

竜女「こんなところだったんだ」

明るい日の下で見渡す隠れ里は、人の町で言うとおおよそ半分程の広さであった。
あちこちに木が生い茂っていて、畑があったり、干物が干されていたりする。

家財や道具などは、木や竹、あるいは拾い物のような金属で出来ていて、人の文化とは離れた生活をしている事が竜女にも推測できた。


竜女「ここが昨日の川かー」ニマ

里の出口付近に昨夜訪れた清流があり、洗濯かごと、水くみ用の桶らしきものが置いてある。

しばらく透明な水の流れを見ていると、不意に後ろから呼ぶ声がした。

?「おーい、あんたー!!」

竜女「?? ボクですか?」クルリ


彼女を呼ぶのは、背に竹かごを背負ったしわの深いお婆さんだった。

婆「あんた、それでちぃと水汲んできてくれー!」チョイチョイ

竜女「え、え? えっと、これで良いの?」カラン

婆「それだよ! はよ!」チョイチョイ

竜女「すいませーん、ちょっと待っててー!」ザバァ

……。

竜女「どこ入れれば良いんですか?」タッタッタ

婆「ちげぇよ、ここ!」クイッ

竜女「畑?」

婆「ぶんまいてくんろ」ニコニコ

竜女「あ、はいっ」バシャア

婆「ここ全部濡れるまで、頼んでいいけぇ?」

竜女「わ、分かりましたっ」タッタッタ

…………。


建て屋2屋ぐらいはありそうな広さの畑に、竜女は繰り返し水を撒いていく。
しばらくすると薄茶の畑が焦げ茶に染まった。

竜女「終わりましたー!」タッタッタ

婆「したら、川でそっちの服洗ってきてくれー!」クイッ

竜女「は、はーい!」タッタッタ

…………。

大きなざるで、衣類を水に浸し洗う。ちょっと溜まったら絞り、お婆さんの下で干してもらう。
恐らくこの里全体の洗濯物、その大量の衣類の中に、良く見覚えのあるものがあった。

竜女「! これ師匠のローブだ」

元から黒いローブだったが、全体に付いた返り血のせいでどす黒い色になってしまっている。

ヴィパル橋での出来事が思い出された。

竜女「……」

婆「はよしてくんろーっ!」

竜女「はっ、はーい!」ジャバジャバ


……。

婆「こっちがリアちゃんの、それフレイちゃんのね。あっちのカゴ」テキパキ

竜女「は、はい、えっと」パタパタ

…………。

婆「ほれ、そっちの森にあかーい葉っぱが生えてっから、このカゴに頼んでいいけぇ?」

竜女「い、行ってきます!」タッタッタ

………………。

婆「すまんねぇ、これ、麦。束になってっから引っ張ってもらっていいかぇ?」

竜女「んっ、よいしょ!」ゴリゴリゴリゴリ


日が昇りきる頃、竜女はお婆さんに頼まれた事をひとしきりやり遂げた。

竜女「終わりましたっ、はぁっ、他にやる事ありますか!?」タッタッタ

婆「ありがとねぇ、もう大丈夫だよぉ」ニッコリ

竜女「……!」ニマ

このお婆さんからも、竜女に対する悪意は感じられなかった。



メル「改めて、孫が世話になってるね。あたしゃ、エルのばぁさん、メルだよ」

メル「メル婆で、いいよ」ニッコリ

竜女「あっ、はい。こちらこそお世話になってます、竜女です!」ペコリ


エルからどことなく感じられる包容力や暖かい雰囲気というのは、この叔母の存在から来ているのかと竜女は考えていた。

メル「あんたかい、クイーンの姉ちゃんに怒られちったってのは」ニッコリ

竜女「ぅ……」

メル「かっか、アレはちょっと色々あって、人の血が苦手だからねぇ。しょうがねえと思って勘弁してやってくんな」

竜女「え、うん……」

メル「この里で何か困ったら、おばぁに言いなさい」ニッコリ

メル「さぁさ、飯だ! エルも帰ってくっから、部屋で待っててくんな!」カチャカチャ

竜女「うん、ありがとうメル婆!」


……。

エル「ウチのおばぁ、何か迷惑掛けなかった……?」

竜女「んーん。良いお婆ちゃんだね」モグモグ


竜女「毎日ああやって里全部のご飯とかお洗濯とかひとりでやってるの?」モグモグ

エル「だいたいはねー。みんなからもういい加減若い人に任せてって言われてるんだけど、聞かなくて」

エル「ごめんね、竜女も急に。色々大変だったでしょー」

竜女「竜人だから頑丈だし、大丈夫。ボクに出来る事なら頼んでよ」モグモグ

エル「そーだっけね。良いなー私も竜人なら、体力あって色々出来るのに」



竜女「竜人で、良い事なんてないよ……」


エル「え……」

竜女「……あ」

エル「そ、そだっけ、ごめんね……」

竜女「ご、ごめん、そんなつもりじゃなかったよね、ごめんごめん、あはは……」


竜女「……」
エル「……」

竜女「あの、ごちそうさま……美味しかったよ」

エル「う、うん。お粗末さま」

竜女「あの、ごめんね。やっぱり味付け、薄くていいや」

エル「う、やっぱ美味しくなかったかな……」

竜女「う、ううん。ちがくて、その、この里も大変なのにボクばかり味濃くしてもらってたらいけないかなって。調味料ってここじゃ多分貴重でしょ?」

エル「竜女……」

竜女「ご飯も1日1回で大丈夫、今までずっとそうだったから。足りなければ、雑食だから葉っぱ食うし!」

エル「そ、そっか、ごめんねー」


…………。

エル「遠慮して欲しくないのに、気遣わせちゃった……」トボトボ

エル「優しすぎるんだよね、竜女……」トボトボ

…………。

竜女「うぅ……」ポフッ

竜女「どうしてああいう言い方しかできないんだよぅ……」ポフポフ

竜女「ボクの馬鹿……あとで謝んなくちゃ……」ポフ…

ここまで

乙 ④

終わってなかったよかった

やっと追い付いた 乙です!


竜女「今日からは夕飯もあれだからエル来ないだろうし……」

竜女「明日謝ろう、うん」

竜女「それより……」

顔を引き締めていつものリュックサックを背負うと、竜女は黒刀を手に取りドアを開ける。

竜女「クイーンさんと話をしないと。今なら少しでも話出来る事があるはず」




動き出した勇者、全面戦争を行わないという紅竜の言葉、戦争におけるエルフ族の立ち位置、少年が反応を見せた竜攫い。


今後の指針、指標を決めるのに圧倒的に不足しているのは情報であるという自覚は彼女にもあった。


フレイ「……」ムスッ


竜女「あの、眠くないですかフレイさん」

フレイ「その物騒なものを置きなさい」

クイーンが、日夜少年の様態を観察している診療所、その前に緊張した空気が流れていた。

フレイ「どういうつもりかしら。待たずにいれば診療所に入れたものを」

竜女は、クイーンの側近であろうフレイが駆け付けてくるまで彼女を待っていたのだ。

竜女「あとで怒られそうだから、先に納得してもらおうと思って」

フレイ「調子に乗らないで」フォォォン…


フレイ「御霊を止め置け留め置け」フォォォン…

竜女の頭に、あの深緑の光が発せられる。それはたちまち彼女の頭を覆い、彼女の心を落ち着け……。

フレイ「分かったかしら、自分の立場が。分かったら早くそれを置いて部屋に」

竜女「裂輪」ヒュッ





フレイ「……」

竜女「……」カシャリ

フレイ「…………」

竜女「通して」

フレイ「貴方――!」プルプルプル

prpr可愛いのう

まだかのう

年末だし忙しいのかな?
ほす

年が明けてしまった

一月ぐらいみてなかったから楽しみにみたら、、、

支援

がんばれー

楽しみに待ってます

もうダメなのかな?

ほしゅ

ほしゅ

ほしゅ

はよ

今追い付いた!
続きが楽しみすぎる

えたっちまうのか…

ほしゅ~♪

続き見たい期待(^-^;

ほsでゅ

ほしゅー

もう駄目か

まっておるぞ

ほしゅで

保守る

またかな

えたるのか…

待ってる

江田?

だめか
面白かったのに

2014年になって一度も来てないしもう駄目だな

期待保守

まだ、待ってます

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