なんの変哲のないただの日常のはずだった
僕たちはその日、町の外で遊んでいたんだ
「おまえ相変わらずドン臭いな。釣りはタイミングだよ、タイミング」
「そんなこと言ったって…。引いた時には逃げちゃうんだもん
「しょーがねーな。どれ、見てろよ!」
…………
クイ、ク、クイ…
「今だ!」
「わー!本当だ、すっげー!」
「な?言っただろ」
「おーい!お前らどれくらい釣れたー?俺らは全然だー」
「俺らもあんまし。こいつは全然だめだし、俺もこれっぽちしか…」
「なんだ、釣り大将だろしっかり釣れよな」
「でも今日は本当に魚がいないんだ。不思議だよ」
「確かに。あいつが全然釣れないなんて初めてだもんな」
「今日は日が悪いんだ。なんかやたらと静かだし」
「そういえば鳥の鳴き声とか聞かなかったな」
「そのせいでお前寝坊したんだよな!」
「ち、ちげーし!今日はたまたまだから」
「よく言う!」
「ほら、言い合ってないで道具を片付けろよ」
…………
「忘れもんないか?じゃ、帰るぜ」
「うん、いこう」
「あーあ。これっぽちじゃ大した小遣いにならねーよ。どーすんの?」
「明日はちょっと遠出して狩りでもするか?大物仕留めればけっこうするぜ」
「雨じゃなかったらな」
「ん?なんか暗くないか?……あ!?た、太陽が!」
「え!?太陽がく、黒い…!」
「な、な、なんだ!?太陽がなくなった?!」
「見ろ!すごい勢いで雲が覆ってくるぞ!」
「なんかやばい!町に急ごう!」
―――ド ォ ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ オ ン !
「うわッ!今度は何だ!」
「王城の方からだ」
「こ、怖いよ、なにが起こってるの?」
――グチャ、グチャ……
――グチャ……
「なんの音だ…?おい!お前らこっちに集まれ!」
「なんなんだ?なんなんだよこれ!!」
「ば、バケモノ……」
グチャグチャした不定形の物体が地上から吹き出し、見たこともない怪物に変化した
「に、逃げろ!」
「だ、ダメだ!うしろにもッ!」
「やめろ!近づくな!う、うわぁぁぁぁぁぁッ!」
「助けてくれーーーッ!」
「あいつら、人間を食うのか…!」
「何冷静にしてんだよッ!助けるぞ!」
「ダメだ!助けに行けば俺らもやられるぞ!」
「おまえ!仲間を見捨てんのかッ!!」
「…………」
「正気かよ……!」
「ならお前は残れ。俺はガキどもを連れて逃げる」
「おまえ……」
「あいつらは今俺たちが目に入っていない。走ればもしかしたら逃げられるかもしれない…
俺はそれに駆ける」
「グッ……」
「……お前ら、一、ニ、三で走るぞ。町まで一直線だ。絶対に止まるなよ?
出来るか?」
「う、うん」
「出来るよ…!」
「…………」
「俺をそんな目で見るな……。さ、行くぞ…」
「一」
「ニ」
「三!」
――ダッ!
グ、グゥ……
ゲゲィ!
「気付かれた!」
「お前ら急げ!追いつかれるぞ!」
ゲヒィィィィィ-----ッ!!
「わあああああああああああああああああああ」
「あッ!危ない!!」
「そいつに触んじゃねェェェェェェッ!!」
ガッシィッ!!
「馬鹿!お前…ッ!!」
「行けぇェェェーーーーッ!走れッ!足を止めるなァァァーーーーッ!!」
「ばっかやろうッ!!お前がガキどもを逃がすんじゃないのかよッ!
あああああああああああ!!クソォォォォーーーーーーッ!!」
背後で悲鳴とも怒号ともとれない叫びが響いた
そして化け物どもの嬉しそうな声。今でもよく覚えている
必死の身代わりのおかげで僕たちは無事に町に到着することが出来た
仲間の約半分が、化け物の餌食になった。生き残ったのは僕と、わずかだけ
番兵「お、お前らどうした!何があった!?」
「お、おっちゃん……」
番兵「他のみんなはどうした?今大変だぞ。太陽が消えて、王城の方から火柱が上がったんだ。
天変地異の前触れだよ!」
「番兵のおじさん、ば、化け物が…!」
番兵2「わ、なんだあれ!」
「バケモンだ!バケモンが仲間を殺しちまった!あいつらだ、まだ追ってきてるんだよ!」
番兵「バケ…ッ!?も、門を閉じろ!弓用意ッ!!」
太陽が隠れ、王城に異変が起こってから直ぐに、町は厳戒態勢に入ったそうだった
番兵の緊張した号令に従い、ズラズラと弓兵が準備を整えた
だけど実際には戦いというほどのものは起こらなかった
弓を射掛けると驚いたのかそれ以上近づいてこず、そのうちどこかへ消えていったんだ
番兵「い、いなくなったのか…?追い払った?」
兵士「なんなんだ、あれ…。今まで見たこともない…」
それから僕たちは事情を説明するために、村長の家へ向かった
村長「一体…一体どうしたというんじゃ……ま、孫は…?」
「じいさん……。俺達以外はみんな…、みんな喰われちまった…
あいつ、あんたの孫は……俺達を、逃がすために……」
村長「…………まさか…。みんな、喰われたのか…?」
「…………」
村長「そうか……お前たちを逃がすために……そうか…」
「勇敢な…最期だった」
村長「…分かった。事情は、理解した。現在、どのような状況にあるのも……
辛かっただろう。今日は家で休みなさい…」
「じいさん……」
僕たちは静寂に包まれた村長宅を後にして、それぞれ家路についた
両親に話が言っていたのか、無言で出迎えられ、そのまま寝床に通された
だけどその日あったことが、みんなの死に顔が浮かんできて眠ることが出来なかった
―そして、太陽は登らなかったけど、朝が来た
太陽が昇らない朝。なんとなくだけど、邪悪な気配がした
父「すまないが、今日一日家出おとなしくしてくれるか?
今すごく危険で、どの家も外に出ないように通達されたんだ」
「うん。出来るよ」
父「そうか。父さんは村長の家で話し合いがあるから行くけど、
父さんが居ない間、母さんを守ってくれるか?」
「うん」
父「そうか。お前は強い子だな。それじゃあ行ってくるよ」
ギィィ……
バタン…
それから何日か家にこもりっきりの生活が続いた
窓から見る光景はいつも兵士たちが緊張した面持ちで巡回しているだけのものだった
ある日……
コン…コン…
「窓?」
ガララッ
「よお。起きてたか。今抜けだせそうか?」
「待って…………。うん、行けるよ」
「よし、じゃあついてこい」
呼び出された先はいつもの集合場所だった
そこにはあの時生き残った仲間がいた
「一応全員集まったな」
「ここで集まって何を?」
「意思表明しようと思ってな」
「意思表明?」
「ああ。俺たち、仲間を見捨てて今生きてる。俺はそれがとても怖い…
そして怒りが湧いてくる」
「それは…僕も同じだよ…」
「だから俺は強くなる。あいつらの仇を討つために」
「でも大人たちにそんな余裕はないよ?外に出るなって言われてるし…」
「だからここで密かに特訓するんだ」
「特訓!?」
「そもそも戦ったことのないあいつらから習ったって、形だけしか真似できないだろ。
必要なのは実戦の剣だ。技術だ。そうじゃないと、あの人外の魔物はきっと殺せない…」
「………」
「それに、この天変地異だ。もしかしたらあの化け物達がこの町を襲うかもしれない。
その時生き残り戦えるようにするんだ」
一呼吸置いて続けた
「そこでお前たちに聞きたい。お前たちも特訓しないか?
あの光景を見たお前たちなら、きっと……」
「……」
「……」
「僕は、やるよ」
「僕は…ずっと夢をみるんだ。あの時死んだみんなの顔が…」
「お前……」
「だから、今ここにいる仲間を見捨てた僕が、みんなの代わりに恨みを晴らさないと行けないんだッ」
「俺も、やるよ!」
「俺もだ!アイツらいつかこの手でやっつけてやるんだ」
「決まり、だな。これから毎日だ。いつ何がどうなるか分からない。
見つからないようにここに集合だ。いいな?」
子供じみた発想だった
だけど僕たちは本気だった。本気で怒り、復讐しようとしていたんだ
子供だからこそ、ひたすら、ただひたすら鍛えに鍛えた
罪悪感に押しつぶされそうになりながら…
僕達が成長し、一人前になるまでいろいろなことが起こった
魔物から魔王が出現し、王城を攻め滅ぼし、世界に戦いを挑んだんだ
その影響を受けて、辺境にある僕達の町は孤立してしまった
魔物の脅威よりも過酷な自給自足の生活が始まった
そして幾度も魔物の襲撃を受けた
幸い守りに適した地形だったから、被害はそれ程多くはなく、毎回撃退することに成功した
数年。わずか数年で昔の活気のあった町の面影は失われてしまったんだ
毎日食料のことを考え、魔物の襲撃に怯え、死んだ家族の事を想う……
それは人間を容易くすり減らしていった
僕たちは耐えた。耐えに耐え忍んだ
胸にくすぶる怒りの炎を秘めながら
そして、ようやくその時が来た
俺達の旅立ちの時が来た
俺は剣を学んだ。ずっと強くなりたかったから剣を選んだ
仲間の一人も同じように剣を学んだ
仲間の内最も強く年上だった彼は魔術師の術を学んだ
父が持っていた書物を持ち出し、独学で魔法を会得した
もう一人は僧侶の術を学んだ。魔術師の父の蔵書にあった一冊を借り、癒やしの術を身につけた
全員が全員独学だった
執念、と言っていいかもしれない。それが俺たちを強くした
今では町の防備のを任されるほどだ
俺達には計画があった
その計画はほぼ偶然と言っていいが、しかし必然なのかもしれない
兵士の必死の情報収集の中に、王城に魔王が現れて自ら滅ぼしたというものがあった
そして、絶えず王城から魔物が飛び出し、近隣を襲っているのだそうだ
ここに俺たちは目をつけた。きっと魔王は王城にまだいるのだ、と
たとえ居なくても何かしらの痕跡は辿れるだろうと
世界に拡散した魔物を一匹ずつ倒すのではなく、頭を潰してしまおう
つまり、魔王の暗殺。それが俺たちの計画だった
幸いここは王城の喉元に位置しながら、どうやら魔物の本隊には見つかっていないようだった
だからこその暗殺計画
俺達はこの計画に賭けた。たった一度の、しかし千載一遇の好機
逃す手はなかった
今日はここまで
乙っす
こういう流れはあまり無いってのもあって期待してます
乙、楽しみにしてます!
個人的まとめ
魔術師→最初に仲間を助けようとして止められた年長者。生き残り
戦士→魔術師に守られて生還した年少者
僧侶→同上
名無し→釣り大将と一緒に居た少年。肩書はまだない
釣り大将→子供たちのリーダー。村長の孫。仲間を生かすために一時騙し、そして命を捨てた
魔王→魔物を引き連れてきた総大将
魔術師「あれから10年。もう十分かな」
戦士「そろそろか。10年……よく町が滅びなかったと思うよ」
「まったく。魔物の襲撃に食料の問題。一番こたえたのは完全に断絶されてしまったってことだったな」
魔術師「ああ。この当たりはここしか町がないし、唯一交流があった城下街も今はもう無い」
僧侶「自分たちが一体どうなって、いま世の中がどうなっているのかが分からない。これは中々辛かったですね。
幸い、勇気ある兵士の方々が決死で情報を集めてくださったので、我々も動けるわけですが」
戦士「魔術師。その話を出したってことは、いよいよか?」
魔術師「ああ。時は来た。今日村長に話をしに行こうと思ってる」
「……」
魔術師「出発は明日の夜明け……いや、太陽はもう無かったな。朝4時に出発する。
今日の内に家族と別れの挨拶をしておくといい……」
いつもの場所で解散し、魔術師は村長の家へ向かっていった
俺も明日の準備をするために、家へ帰った
…………
「ただいま。あ、お父さん。帰ってたんだ」
父「…おかえり。母さんはもう横になってるよ」
「そう。父さん、話があるんだ」
父「どうした?唐突に」
「俺、この町を離れようと思う」
父「!? それは…なぜ……?」
「父さんには隠さずに伝えておくよ。それは、一言で言うなら『あの時』の復讐。
しかるべき者に報いを受けさせに行くんだ」
父「馬鹿な。つまりお前は魔王とか言う化け物の王を殺しに行くというのか」
「流石父さん、察しがいいね。その通りだよ。俺達はそのために、今日まで毎日鍛えてきたんだ」
父「おかしいと思ったんだ。妙に戦い慣れているのはそのせいだったのだな」
「魔物の襲撃で実践訓練も何回も出来て、そこだけは感謝だな」
父「……。とにかくそれを認めるわけにはいかん。むざむざ死ににいくようなものだ。
それに、母さんも悲しむ」
「止めても無駄だよ。もう決めたんだ。俺が父さんに話したのも、承諾が欲しくて話したんじゃない」
父「お前は……ハァ…。昔から臆病なのに、妙に頑固だったな…」
「……すまないとは、思ってるよ。父さん」
父「生きて帰ってこい。必ずな」
「……明日早朝に旅立つよ。おやすみなさい。………さようなら」
ギィィ……バタン…
俺はその日、夢を見た
あの時の夢だった
仲間が目の前で喰われ、仲間を見捨てて逃げたあの時の夢
そうだ。俺は仲間のためにかたきを討つ。だがそれ以上に自分のためだ
あの時の弱い自分と決別するためだ
そして思い知らせるのだ。俺達の怒りを
世界中で苦しめられてる人達の怒りを
魔王め、復讐の時は来た
―出発の時
魔術師「お前ら準備はいいか?覚悟はしてきたか?親しい人に挨拶は出来たか?」
戦士「おいおいおい。いつまでガキ扱いすんだよ」
魔術師「あ?そんなつもりはなかったんだがな」
僧侶「はい。ちゃんとしてきましたよ。もっとも私の両親は二人共亡くなっているので、お世話になった方に、ですけど」
「俺は…父さんだけ。母さんにはしてきてない」
戦士「…チッ。ヘタレたか」
魔術師「そういうな。まあ気持ちは分かる」
「でも後悔はない。弁の立つ父さんだ、ちゃんと説得してくれるさ」
僧侶「まったく…」
魔術師「さて、行くか。これでこの町も見納めだな。ちゃんと目に焼き付けておけよ」
当初の予定通り、俺達は王城を目指した
戦士「王城までどれくらいある?」
僧侶「徒歩で行くから、だいたい4日くらいでしょうか。
道中魔物が徘徊してるから、少なくともその倍はかかると思います」
戦士「面倒だな。全部ぶっ殺していけばいいじゃねーか」
魔術師「ちっとは頭を使え。一々相手にしてたら気力体力も消耗するし、何より血が新たな魔物を呼ぶんだぞ。
相手にしてられん。寝こみを襲われるのも避けなきゃいけないしな」
「年中暗いのが幸いだな」
僧侶「あなたも何を言ってるんですか。相手は闇の住人ですよ。我々よりも暗さに強いのです。忘れたんですか?」
戦士「いやー…ハハハ…」
「頼りにしてるぜー僧侶―」
僧侶「……もう少し努力してくださいよ、二人共」
戦士「へっ。なんちゃって僧侶のくせに…」
「信仰心もないくせにー」
僧侶「~~~ッ!!」
魔術師「お前らそれくらいにしとけよ。口を動かしてねーで、足も動かせ、足も!」
戦士「うーっす」
「へーい」
僧侶「ハァ……」
警戒とは裏腹に、道中の半分を超えるまで魔物の襲撃はなかった
―シャキィンッ!
慣れた手つきで抜剣していく
戦士「ヘッ!ようやくお出ましか!」
魔術師「数は少ない。魔法で一気に片付ける」
「了解!」
僧侶「では、『風よ!』」
――ゴォォッ!
ウギャァアア!
ブォガァァアアア!
戦士「相変わらず汚ね―叫びだ、なァッ!!」
ドシュッ!ドシュッ!
「セイッ!やあぁッ!」
ドガッ!
魔術師「お前ら離れろ!」
『地よ、爆ぜよ』
―ドッガァァァァァンッ!
風で身動きをとれなくなっている所に魔法が発動した
魔物の周囲の地面が奇妙に振動し、爆裂した
戦士「ヒャッホーッ!決まったァ!」
「相変わらず派手だなぁ」
僧侶「でもいいんですか?大魔法撃ってしまって。魔物の注意を引きたくなかったんじゃないですか?」
魔術師「あ。ま、まあ予行演習だよ、予行演習!」
戦士「さすがだぜ。魔術師になってもやっぱ俺ら側だな」
「なっ」
僧侶「まったく。ちょっとはみんなも周りを見てくださいよ…」
魔術師の魔法が呼び水になったのだろう。それ以降襲撃が増えた
だけど、その全てを俺たちは返り討ちにし、堂々と目的地まで進んでいった
開き直ったとも言える
魔術師「あれが王城だ。みろ、城下町を魔物どもが徘徊してやがる」
戦士「我が物顔かよ…。許せねぇな」
「この様子を見るに、当たりかもしれないな」
戦士「ああ。今までであった魔物に比べ、動きが統制されている。
魔王じゃなくても、名のあるやつに違いない」
僧侶「どうやって城に侵入します?」
魔術師「それは問題ない。村長の家から王城の見取り図をくすねてきた」
僧侶「くすねたって…。そもそも何故そんなものが?」
魔術師「なんでも、この城を建てたのが俺たちの祖先なんだとさ。村長がそういう資料を管理してるんだ。知らなかったのか?」
戦士「全然」
「まったく」
僧侶「私もです」
魔術師「まあ、出入りしてたやつしか知らないだろうな」
中途半端ですが今日はここまで
ゆっくり進めていこう
ほ
魔術師「ここだ。おい、脳筋共。ここ開けろ」
戦士「うーっす」
「おいーっす」
ガガガ……ガコンッ
ボワッ!
戦士「エホッ!ゴホッ!な、なんだぁ!?」
魔術師「長い間封印されてたんだ。埃や何やらで空気が汚れてるんだな。
僧侶。清浄するから手伝ってくれ」
僧侶「はい」
「どのくらいかかる?」
僧侶「術式はすぐ終わりますよ。完全に清浄されるのは…1時間くらいですか」
魔術師「それまでここで休憩だ。火は使うな。警戒も怠るんじゃないぞ」
戦士「分かってるって」
「干し肉食う?」
……
ガサガサ…
魔術師「おいお前ら。終わったから乗り込む………おい…!」
戦士(上半身裸)「あっ!これは、その~…」
(戦士の装備剥奪)「あー、これは、そう。決戦前のリラックスというか……」
魔術師「………今が突入前でよかったな…。普段だったら爆殺してるところだった……」
一悶着の後(と言うよりは一方的な雷)、俺達は秘密の抜け道を通ることになった
……
戦士「あー、やっぱりかなり古いな。年季を感じるぜ」
「ここは実際に使われたことってあるのか?」
魔術師「そこまでは分からん。うちの国が列強国の仲間入りをしてから、大きな戦なんて起こってないからな。
使われてないんじゃないか?それにこの様子だと、存在すら知られてなかったかも知れん」
戦士「なんでだ?緊急脱出路じゃなかったのか?」
僧侶「魔物に襲撃された時に知っていれば、この道を通って逃げることも出来たはずです。
ですがこの様子を見れば分かる通りに、使われた形跡がないんです」
「なるほど。時代とともに忘れ去られていったんだな。……知っていればここまでいいようには…」
魔術師「仕方ないさ。前触れのない天変地異に、奇襲だ。どうしたって浮足立つものだ」
戦士「だがそれを知ってる俺達は、それを逆手に取って逆に奇襲をかけるんだ。痛快だと思わねえか?」
「魔物の驚いた顔か……。見てみたい気もするが、その前にぶった切っちまって分からんだろうな」
戦士「へっ。違いねぇ」
魔術師「しかし、今にも崩れそうで…ちょっと不安だな」
戦士「おいやめろ。そんなこと言うな!怖くなるだろ」
「お前にも怖いものがあったのか」
戦士「そりゃあるわ。……だからこそ、俺は魔王を殺すのさ。怯えたままでいたくないからな」
僧侶「戦士……」
「それは俺達も同じだ。それに、あの時俺達が味わった恐怖。その償いをさせてやるさ。
たっぷり味わわせてやる。必ずな」
魔術師「……」
それから俺達は、無言になりただひたすら秘密の抜け道を進んでいった
地図があるから迷わなかったが、巧妙に入り組んだ造りになっていて、広大な迷宮のようだった
そして抜け道に入っておよそ3時間が経過する
戦士「ここか」
魔術師「扉から離れろ。万が一がある。俺が索敵するから待ってろ」
「頼むぜ。扉を開けたら、ハイ大歓迎!ってのだけは簡便だからな」
魔術師「………よし。待ち伏せの気配はない、しかし……」
戦士「どうした?なんかあったのか」
魔術師「念の為この城全体に探知魔法をかけたんだが……魔物どころか小動物、つまりネズミ一匹の気配すらない。
何が起きてるのか分からんが、警戒するに越したことはない」
僧侶「一匹も?それは確かにおかしい……もしかしたら我々の行動が筒抜けなのかも」
「うーん、道中暴れたからな…しかしそれならばなぜ魔物を外のように配置しないんだ?」
戦士「…わからん。だが所詮魔物の考えることよ。俺達人間には理解なんぞ出来るわけがないのだ」
戦士「ここでうだうだ言ってても始まらねぇ。開けるぜ。二人共援護頼んだ」
汚れに汚れた大扉を俺と戦士で押し開けていく
錆びついた音をたて、たまった埃がパラパラと落ち、舞っていく
ギギギギギギギィ……
戦士「………。何も起こらんな」
「そのようだ」
魔術師「だが嫌な気配は増大している…。警戒は怠るな」
僧侶「了解です」
カツーン…
カツーン…
戦士「チッ。靴音が響いて反響してやがる。俺こういうの嫌いだぜ」
「突然どうした?」
戦士「綺麗過ぎるって事だよ。魔物が居るにしても、放置されてるにしても、毎日清掃されてるよりも綺麗だ。
それが不気味なんだ」
僧侶「あなたの部屋は足の置き場もないくらい汚いですからね。
まあそれはそれとして、確かに奇妙なくらい綺麗ですね。まるで時でも止まったかのように……」
魔術師「まずい!嵌められた!俺達は誘い込まれたんだッ!」
キチキチキチキチキチ……
魔術師「防御態勢をとれェェェーーーーーッ!攻撃が来るぞォーーーーッ!!」
ヒュンッ………ドドォォォォォォォォォォォンッッ!
??「空間断裂を防ぐか。優秀な術者がいたものだな。驚いたぞ」
魔術師「クッ……。テメェ、禁術を良くもこう簡単に撃てるもんだな……。
ナニモンだッ!名乗りなァッ!」
僧侶「この底なしの悪意……」
戦士「圧倒的プレッシャー…」
「分かる…。お前が何者なのかが……」
魔王「私か。私は、そうだな。魔を統べるものだ。気軽に魔王と呼びたまえ」
「!?」
ザザザザザ…ッ!
魔王「ふむ。私を囲んでどうする気だね?無意味だと感じないのか」
戦士「会いたかったぜ…魔王!」
魔王「私の方はそうでもない。出来れば来てほしくなかったのだが……。まあ、来てしまったのならしょうがない。
光栄に思いたまえ。私が丹精込めて作り上げた結界の中に招待してあげたのだから」
魔術師「結界…。やはりか。このなんの気配もしない無機質な場所は、お前がこしらえたものだったんだな」
魔王「君は本当に人間かね。天性のものなのか、人にしておくには惜しい才能だ」
魔術師「褒められたって反吐が出らぁ!おしゃべりはここまでだ、行くぞっ!」
戦士「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!」
ズバァッ!
魔王「低級どもも真っ青の原始的な攻撃だな」
僧侶「そうですか?本当に?」
『烈風よ!!』
ゴァァアァッ!
魔王「聖風爆裂か。児戯よ」
ゴアァァァァア………
僧侶「そんな…!」
魔術師「僧侶!」
『盾よッ!』
ガギィィ……ンッ!
魔王「ふむ……むっ」
スパァァァァンッ!
戦士「よ、そ、み、し、て、ん、じゃ、ねぇぇ~~!」
(ゆ、指二本で俺の渾身の打ち込みが…!)
魔王「…お前は少々うるさいな。失せよ」
ギュン……
戦士「な!?まじゅ……ッ!」
グシャァァ……
僧侶「戦士ィィィィッ!?」
ヒュンッ!
スパッ
魔王「む。貴様……」
「…………」
魔王「貴様の、眼は……」
僧侶「おおおおおおおおおおおおお!!」
『かまいたち!』
膨れ上がった空間が爆発し、無数の真空波が魔王に向かっていく
魔王「……」
スッ……
集結する真空波を片手を上げただけで消失させる
魔術師「『烈光翔破!』」
シュゥゥゥゥウ……
ボゴォォォ――――ッ!!
魔術師「これも禁術だ。さすがのお前も直撃ではひとたまりもあるまい!」
僧侶「ダメ押しにぃ!!」
『仙風将来!』
ズォォォォォオオオオオオオオオオ……
魔王を包むように球形状の暴風が発生し、周囲を切り刻みながら収縮していく
「戦士……こんな、あっけない……クソッ」
魔術師「……不安だからもう一発禁術撃っとくか」
僧侶「ハァ、ハァ……私は、もう術は撃てません…。禁忌を犯して必殺の手を撃ってしまったのがアダとなったみたいです…」
「無理はない…。戦士が、目の前で…あんな……・」
ガァァァァンッ!
「!?」
魔王「人間と見て少々甘く見ていたが……。予想外にやるものだな。少々焦ったぞ」
魔王「何を驚いている?私はこの数千年、弱肉強食の魔界を統一し、全てを統べる魔王だぞ。
この程度で私を屠れると思うほうが心外だな」
僧侶「そ、そんな…!」
魔王「それに……」
グシャァァアッ!
僧侶「う、あ、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!
足がァァァァァあああ!!」
「そ、僧侶!」
魔王「忘れてもらっては困るが、この空間は私が支配している。この結界の中では私は無敵だ。
お前たちを意のままに殺すことが出来る」
魔術師「く、空間支配……」
魔王「ここ千年ほど私に牙むくものが居なかったから戯れに相手にしてみたが…とんだ期待はずれだ。
もう飽いた。死ぬがよい」
僧侶「!?ぐおおおあああああああ!二人共逃げろぉ!!」
バグォォオオンッ!!
「そ、僧侶やめろ!!」
オオオオオオォォォォォォォ…………ン…
「く、風の壁が!僧侶やめるんだ!」
魔術師「やめるのはお前だ。俺の近くに寄れ」
「魔術師!お前何言ってんだよ!僧侶が、僧侶まで死んじまう!」
魔術師「いいからこっちにこい」
魔術師「そうだ。口を閉じてろ。今から俺がすることに異議を唱えることは絶対に許さん。
戦士と僧侶の仇を討ちたいのならならなおさらだ」
「………!」
魔術師「それでいい。そんな目で見ても無駄だ。お前の役目は今この瞬間のことを絶対に忘れない事だ」
風が止んだ
魔王「まったく驚きの連続だよ。人間にこのような力があったとはな」
魔王の左手には既に原型をとどめていない、血肉と化した僧侶がぶら下がっていた
「~~~~ッッッ!!」
魔術師「そうかい。そいつは良かったな。潤いが出来てよかったじゃねぇか」
魔王「そういう考え方はしたことがなかったな。実に人間らしい。
だがこれでそれも終わるとなると少しだけ寂しい物があるな」
魔術師「言いやがる。そんな気持ち、ちっとも持っちゃいねぇくせに」
魔王「いや、本心だよ。本心からそう思っている。が、君たちと同じものかどうかまでは知らないがね」
魔術師「ハッ、どうだかな」
魔王「時間稼ぎはやめたらどうだね?そんなことしても無駄だというのに。
君たちはここで私に殺されるのだ。大人しくしていたまえ」
魔術師「どうした?それならなぜさっさとやらない?こうしている間にも俺は逃げる算段をしているかもしれないんだぞ」
魔王「………」
魔術師「支配、出来ないんだろう?出来なかったのだろう?俺たちを」
魔王「貴様…」
魔術師「当たりか?俺もなぜだか知らないがこの空間においてお前は真に万能だったはずだ。
初手で俺たちを殺すはずだったのだろうな。だがそれが出来なかったから自ら赴いて狩りに来たのだ」
魔王「…」
魔術師「そうだ、おかしい。なぜ魔王、お前がここにいて、直々に俺たちの相手をしているんだ?
魔物どもを配置して俺達の相手をさせていれば、袋のネズミの俺達をほうっておくだけで殺せたのに…」
魔術師「そうか、理解したよ。どういうことなのか…」
「!?」
魔王「貴様、何を言っている…!」
魔術師「アッハハハハハハハ……そうか、そういうことだったのか…」
魔王「何を笑っているッ!」
魔術師「フフフ……。お前はとてつもないな。まったく勝てる気がしない。最初からわかっていれば仲間も死なずに済んだのにな…
しかし、それと引き換えに重要なことに気がついた。これはお前の失策だ。お前は焦ったんだ」
喋りながら印を結んでいく。見たこともない術の方法だった
魔術師「「今から俺が何をするのか分かるか?魔王。俺はこの時このために魔術を学んだのだ。生き残るために、生かすために!
いくらお前の結界の中とはいえ……逃げることは、可能だ」
魔王「き、貴様!その呪印は…ッ!!」
魔術師「さっきまでの余裕面はどうした?
……言っただろう。お前は焦ったんだ、と。俺達の勝ちだ。これで、俺達人間の勝利だ!」
今日はここまで
乙です
おつ
勢いで突っ走ってるな
魔王「人間ごときが空間転移術だと!?」
「魔術師!お前、一体何をやってるんだ!何をしようとしている!」
魔術師「……お前の仕事は、強固の時の事を忘れないでいることだ。
そうすれば、お前は必ず勝つ」
「説明しろッ!何一人で納得してるんだ!術を止めろ!お前の身体が……!」
術を完全に制御出来ていないのか、術が進むごとに魔術師の身体が傷ついていく
肉は裂け、骨は軋みを立てて折れていく
それでも魔術師は、術を止めることはなかった
魔術師「無駄だ魔王。既に術は起動している。この固定空間は、空間支配を封じられたお前では破ることは出来ない」
魔王は術の完成を阻止するために、矢継ぎ早に極大の魔法を唱えていった
魔王「お、おのれ…!何故だ、何故結界が作用しない!」
魔術師「…それはお前がよく分かってるんじゃないのか?魔王」
魔王「……」
術の余波で魔術師の左腕が不自然に曲がり、折れた
「やめろ!やめてくれ!お前まで失いたくない!」
魔術師「……術は発動する。これで、俺達は……」
魔王「……フフフ…。いけ、行くが良い。今は一時生きながらえるがいい。
ならばまた、策を立てるまでだ。勝つのは私だ」
魔術師「……勇者は解き放たれた。勝つのは俺たちだ」
術の完成とともに光が二人を包み、収束していく
光が収まった時、残ったのは無残な死骸と、
ただ一人立ち尽くす魔王だけだった
魔王「……予言は完遂された…。この私ですら運命に抗えないということなのか……」
魔王「いや……」
「そんなことはないはずだ……。ならば…」
運命すら屈服させてみせよう
―静寂
ここまで
今後二週間ほど、今みたいな少ない更新速度になります
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はよ
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