…………。


フライパン「じゅうじゅう」

根暗（せっかくの休日も、何かすると言えば料理くらい……）

根暗（これじゃ根暗なんて言われても仕方ないよね……）


根暗（趣味もない、友達いない、彼女なんか居たことない……）

根暗（……貯金結構貯まったろうなぁ）

根暗（使い道ないけど）ﾊｧ

根暗「別に、現状アパートでも不満はないんだよな……いただきます」

根暗（家買う気になんかならないよ）ﾓｸﾞﾓｸﾞ

…………。

根暗「ごちそうさま」


根暗（僕の母さんは大学の教授だ。学界では有名な人で、なんかこの前雑誌に載ってたな……）

根暗（父さんは一からモーターの会社を立ち上げ、家電業界に進出、メキメキと会社を成長させている）

根暗（姉さんはモデルとして成功してる。実際僕から見ても綺麗だし……この前テレビで特集組まれてたね）



祖父『根暗、この家には願いを叶える血が流れている。お前の願いは見つかったかい？』



根暗（お爺ちゃんはそう言っていた……今はもういないけど）

根暗（みんなは、そうなんだろうな。僕には何もない……関係のない話だ）

根暗「……あ、そうだ」

根暗（ゴミ置き場の清掃、僕が当番だったっけな……暗くならないうちにやらないと）

……。


根暗（……）ｼﾞｬｰ

根暗（……）ｺﾞｼｺﾞｼ

根暗（綺麗になったから、流すかな）



蚊（おっ、いやに涼しいなぁここ。湿気もあるし、夏にはたまらんわぁ）

蚊（にしてもこんな所に川なんかあったっけ？）


シャワーヘッド「」ﾇｯ


根暗「あ、蚊……」ｷｭｯ

シャワーヘッド「ビシャシャシャシャシャ！」

蚊（あかぁぁん！？ 水かっ、がぼがべがぼがべ）ﾋﾞｼｬｰ

根暗（……。巻き込んじゃった）

蚊（うえええすごい表面張力！ ウチ青ピクミンちゃうで……！）ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

根暗（蚊さん、ごめん……）

側溝「カマーン」



蚊（ああ……溺れてるなぁ……）ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ......

蚊（つまらん、一生やったなぁ……）


ｻﾞﾊﾞ

蚊（…………）ﾌﾟｶｧ

…………。

根暗（……）


根暗（なんで、こんな事したんだろうな……エゴでしかないのに）

蚊「」ｸﾞｯﾀﾘ




根暗「一応、タオルで湿気は取ったけど」

根暗「死んじゃったかな」

根暗「……」

根暗「ごめんよ、僕なんかのせいで……」

根暗（確か、赤外線ヒーターがタンスにしまってあった筈）ｶﾞｻｺﾞｿ

蚊（……）

蚊（流されたんかな）

蚊（死んだんかな）

蚊（あったけえ。お日様かな？）ﾎﾜﾎﾜ

蚊（天国かもなぁ……）ﾎﾟｶﾎﾟｶ

蚊（やわけぇ所に寝そべって、ええなぁ……）ﾎﾟｶﾎﾟｶ





蚊「……」ﾊﾟﾁ

根暗「……」ｼﾞｯ

蚊（顔、近っ！///）ﾋﾟｸﾋﾟｸ

根暗「！ 動いたっ」

蚊（え、なにこれ。ウチ、こいつに助けられたん？ 生きてるん？）ﾑｸﾘ

根暗「良かった、生きてて……」ﾆｺ

蚊（！！///）ｽﾞｷｭｰﾝ!!


蚊（なんやこいつ……あかん、んなじっと見つめんといてや……！///）

蚊（うっかり受精してまうとこやったやないか～い）

蚊（……１人ツッコミなんでやねん！）ﾋﾞｼｨ!!

……。

根暗「……まだ体調悪いのかな」

蚊（ほっといてや！///）

根暗「……よし」




根暗「僕ので、良ければ……」ｽｯ

蚊（え……手首？）

根暗「良いよ……吸って。生活は健康的だからさ」


蚊（あ、あんたという御方は……なんて優しいんや……！///）

蚊（ひとつ間違えば即潰されるが常の生き物だというに……別に卵産む気はないけど、その気持ちがありがてぇ……っ！）


根暗「おいで」ｽｯ

蚊（あぁん……ぶっとい血管やぁ……///）ﾃｸﾃｸ

蚊（別に卵産まんのに、吸いとうなってきた……///）ﾑﾗｯ

根暗「よいしょ」ｸﾞｲ

蚊（あ、顔が、すご、近い……///）


根暗「……どうぞ」ﾆｺﾘ

蚊（はぅん！！///）ﾄﾞｷ!!

何これ面白そう

蚊（据え膳食わぬは♀の恥ぃ！）ﾌﾟｽｯ
根暗「んっ」

……。

根暗「よくよく考えたら、僕何やってんだろ……」ﾊｧ

蚊「ちぅ」
蚊「ちぅ」
蚊「ちぅ」

蚊（……なんじゃこりゃ。なんじゃこりゃあ！）



蚊（こいつの血、うんめェ――――――！！！）



蚊（あ、あかん。まろやかで、爽やか。超健康体。しかも若くてピッチピチ。しかも大好きなO型）ﾁｩﾁｩ
蚊（いくらでも飲めてまうぅ！！///）ﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩ

根暗「ははは……気に入られたのかな？」ﾆｺｯ

蚊（ああ！ 最高やあんた！）

なんやこれ








もっとやれ

蚊（あかん……あかん……！）

根暗「こんなので喜んでもらえるなら、僕も捨てたもんじゃないな」ﾆｺﾆｺ

蚊（あかんよ、そんな……血吸ってるのに、そんな優しく見ないでぇ……！///）ﾄﾞｷﾄﾞｷ

蚊（あ、あんさん、息、かかって……あぁん！///）



根暗「ふふ……元気な子を産むんだよ」ﾆｺﾆｺ



蚊（★！◎※？＊＠！☆）恋に落ちる音

蚊（……決めた！！ ウチ決めた、あんな雄蚊の子供なんか産まん、あんたが好きなんや！！）ﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩ

蚊（こんな血が美味くて、優しい命の恩人、惚れるに決まってるやん……！）ﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩ

蚊（……交尾、したいっ///）ﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩ

蚊（交尾したいぃぃぃぃぃ！！！！///）ﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩﾁｩ




超神様「……それは願いを叶える血。お前の願い、叶えてしんぜよう！」ﾋﾟｶｰﾝ!!




蚊（……！？）ﾋﾟｸ

蚊（げ、げげ……げ……！」

根暗「げ……？ な、なんか今、この蚊喋った……！？」




蚊「元気になっちゃったかも―――――――――！！！！！」ドッカーン！！！

なんか手首かゆくなってきた

はよ

根暗「な、な……！」




蚊娘「シマ蚊娘、ダーリンに会いに只今、見☆参！！」ﾄﾞﾄﾞﾝ!!




蚊娘「助けてくれてあんがとなぁ、ダーリーン！！」ｶﾞﾊﾞｧ

根暗「あ、あわわわ、あ、あ、あの」ｱﾀﾌﾀ

蚊娘「ん？ なんや、どうした？ シたくなったんか……？///」


根暗「お願いだから、服、着て……」


蚊娘「wow」ﾎﾞｲｰﾝ

…………。

根暗「……正直、まだ信じられないんだけど」

蚊娘「ウチもなぁ。人間になるなんて思ってなかったわ」

根暗「自分で戻れるの？」

蚊娘「戻らんでええ！ ウチはダーリンと添い遂げるんや！」

根暗「そ、そう……」

蚊娘「人間の事はよう分からんから！ これからよろしく頼むで、ダーリン♪」



必ず、望みを叶える家系……。
僕が叶えた望みは、シマ蚊の人間になりたいという望みだった。
自分ではない誰かの望みを、しかも荒唐無稽な望みを叶えた僕は、ある意味で一番の大穴だったのかもしれない。

そんな風に、思えたんだ。