「西片って、猫派? 犬派?」
「えっ?」
隣りの席の女の子にそんな他愛もない世間話を振られて若干心拍数が上昇するのを自覚しながら、オレは質問に対する答えを返した。
「どちらかと言えば、猫派かなぁ」
「ふうん。そうなんだ」
「ちなみに高木さんはどっち派?」
隣りの席の高木さんは、少しも迷うことなく微笑みを浮かべて、きっぱりとこう答えた。
「わたしは犬派だよ」
「そうなんだ……なんで?」
「さて、なんででしょう?」
さっきの清らかな微笑とは一変して意地悪な笑みを浮かべた高木さんが意地悪な質問をしてきた。オレはたじろぎつつ持論を述べた。
「し、躾るのが、好きだから?」
すると、キョトンと目を丸くして、頷いた。
「へえ。よくわかったね、西片」
「そりゃあ、まあ……そのくらいわかるよ」
これまで幾度も高木さんに躾けられた身としては、身を以って、その性質が身に染みていた。隣りの席の高木さんは、からかい上手。
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「じゃあ、正解したご褒美に西片が大好きな子猫ちゃんになってあげる"にゃん"」
「は……?」
聞き捨てならない発言とその語尾に耳を疑ったオレは思わず辺りをキョロキョロ見渡して親猫が居ないことを確認してから改めて高木さんに視線を戻すと、可愛い仕草で鳴いた。
「にゃんにゃん♪」
「っ……!?」
か、かわいい。なんだこれ。なんだ、これ!
「どうしたのかにゃ、西片? さっきから固まってるけど、もしかして気に入らにゃい?」
「そんなことないよ! 全然! ちっとも!!」
「そう? にゃはは褒められて嬉しいにゃん♪」
「げほっ! がはっ!?」
やばい。思わずえずく程、どストライクだ。
「た、高木さん」
「んー? にゃに?」
「その喋りかた、すごくいいんだけど、ちょっと刺激が強すぎるというかなんというか」
「じゃあ、やめよっかにゃ」
「い、いや! もうちょっと、耐えてみるよ」
果たしてオレは耐えられるか。甚だ疑問だ。
「ちなみに西片は猫のどんなところが好きにゃのかにゃ? 教えて欲しいにゃん♪」
「それは、その……かわいいところだよ」
「わたし、かわいくできてるかにゃあ?」
「そ、それはもちろん! ……かわいいよ」
何言ってるんだオレは。駄目だ。抗えない。
「こほん。あー……えーっと……ちなみに高木さんは、犬のどんなところが好きなの?」
「わたしは犬の従順なところが好きにゃ」
「なるほど。たしかに忠誠心があるよね」
「そうそう。まるで西片みたいだにゃん」
「えっ?」
それってもしかしてオレのことが好きって。
「わたし、犬みたいな男の子が好きにゃん」
「そ、そっか……オレみたいに犬のような」
「そうそう。西片みたいにうんちを食べちゃうかわいい犬っころが大好きにゃん♪」
「お?」
聞き間違いかな。オレはうんちを食べない。
「あーごめんにゃさい。今のはナシにゃん」
「あ、うん。大丈夫。聞こえなかったから」
「それはそうと、犬と大って漢字が似てるとは思わなにゃない? つまり犬好きと大好きの差は、点があるかないかしかないのにゃん」
「たしかに。高木さんは着眼点がすごいね」
「犬の点はにゃにか西片はわかるかにゃ?」
わからないふりをしたい。でもオレは犬だ。
「もしかして、犬の糞……とか?」
「大便正解にゃん!」
「フハッ!」
「はい、西片の負けにゃん♪」
大便正解ときたか。高木さんには敵わない。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「よしよし。西片の糞は持って帰るにゃん」
隣りの席の高木さんは家畜の面倒見が良い。
【躾け上手な高木さん】
FIN
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