【シャニマス】めぐる「食べさせあいっこ」 (22)
こちらでは初投稿です。よろしくお願いいたします。
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「ねぇねぇ、プロデューサーは方舟って見たことある?」
とある日の昼下がりの午後のこと。
プロデューサーとめぐるは事務所で小休憩を取っていた。
「ノアの方舟のことか? 内容は知っているが、本や映画を観たことはないな」
プロデューサーは陶器のマグカップに口付け、唇を湿らせる。
コーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。いつも通りの落ち着く香り。
「ううん、物語じゃなくて、実物の方舟!」
横に座っているめぐるがかぶりを振る。艶やかな金髪がさらさらと揺れた。
「実物? いや、ないな????」
プロデューサーはカップを前眼のローテーブルに置いた。
ゆらゆらと漂う湯気が、室内の温かな空気に溶けてゆく。
記憶を辿るもそれらしいものを見た経験は無かった。
「この間インターネットで見つけたんだけど、方舟って、名前の通り本当に四角い船なんだって!」
めぐるがスマートフォンを顔の隣に掲げて画像を指差す。
そこでは木製で長方形の船が海上を漂っていた。
「あー??こんな感じなのか。イメージと違うな」
方舟と聞くとノアの方舟が真っ先に思い浮かぶ。
映画の広告やテレビの特集で時たま見かけるそれは、巨大なタイタニック号のような形をしていて、彼女が示した写真とは大きく異なっていた。
「でしょでしょ! わたしも最初見た時そう思ったの!」
プロデューサーが同意見だったのが嬉しかったのか、めぐるの顔が近づく。
「めぐる、近い近い。??でも、どうしてまた?」
彼女が動いたことでソファーがふわふわと揺れる。
すぐ側に感じる彼女の温かな体温と蜂蜜のように甘い香り。
プロデューサーは揺れを抑えるように、ソファーのクッション材に手を押しつけて身体を引いた。
「えっと、大した理由じゃないんだけどね?????」
急に言い淀むめぐる。
「???」
不審に思い、彼女を観察していると、視線が机上に向けられていた。
プロデューサーは理由に気づいて苦笑する。
「このティラミス、どことなく方舟に似ているな?」
「えへへ??」
彼女が恥ずかしそうに照れ笑いする。
プロデューサーとめぐるの前にはケーキが一つずつ置かれている。
プロデューサーの前にはあるのはティラミスだった。
長方形で背の低い茶色いそれは、めぐるがスマートフォンで表示した方舟を連想させなくもない。
「??人類選別の船だったか?」
世界滅亡の日、神様が選んだ者だけがノアの方舟に乗ることができ、助かったという話だった気がする。
「うーん、ちょっと違うかも?」
うろ覚えの知識を口にすると、めぐるが首を傾げた。
「あれ、そうだったか?」
「ノアの方舟のお話はね──」
彼女の語るあらすじによると、悪い行いを続ける人々に神様は怒り、大洪水で世界を滅ぼすことに決めた。
そして、正しい心を持つノアにはあらかじめ方舟をつくり逃げるよう伝えたのだ。
ノアは村人に大洪水のことを伝えたがだれも信じず、結局、ノアとその家族、動物たちだけが生き残った──という話だった。
「??人の言うことは素直に聞くべきだという教訓の話だったのか」
「そうそう!」
めぐるの話に思わず深い息が漏れる。童話のように教えが込められていることは初耳だった。
「けど、やっぱり船っていうと、こっちの形の方がしっくりくるな」
プロデューサーはめぐるの前に置かれたミルクレープを指す。
円から鋭角で切り取った形。どちらかというとそちらの方が一般的な船のイメージに近い。
「確かに……! こっちの方が船っぽいかも?」
「紙も刺さってるし、ヨットに見えなくもないな」
ミルクレープの上部にある、店のロゴの描かれた厚紙が帆に喩えられそうだ。
「風の向くまま進むんだね!」
「そのイメージが強いけど、逆風でも進めるらしいぞ。気の向くままな」
専門的なことは分からないが、帆を操作することで風の力をコントロールし、自由な方角に移動できるらしい。
「逆風でも気の向くまま……。そうなんだ……!」
めぐるが感心したように頷く。
「きっと練習が必要なんだろうけどな。でも、努力すれば自分の意思通りに進めるようになる。だから楽しいんだと思うぞ」
風を操って、自分の気持ちに正直に進めることの嬉しさ。
それがヨットの醍醐味なのだろう。
「そうだね……! 自由に海を動けると、とっても気持ち良さそう!」
めぐるはミルクレープの帆をつんつんと指で突いた。
すいません、文字化け等発生してしまったので、修正して投稿させて頂きます。
「ねぇねぇ、プロデューサーは方舟って見たことある?」
とある日の昼下がりの午後のこと。
プロデューサーとめぐるは事務所で小休憩を取っていた。
「ノアの方舟のことか? 内容は知っているが、本や映画を観たことはないな」
プロデューサーは陶器のマグカップに口付け、唇を湿らせる。
コーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。いつも通りの落ち着く香り。
「ううん、物語じゃなくて、実物の方舟!」
横に座っているめぐるがかぶりを振る。艶やかな金髪がさらさらと揺れた。
「実物? いや、ないな…………」
プロデューサーはカップを前眼のローテーブルに置いた。
ゆらゆらと漂う湯気が、室内の温かな空気に溶けてゆく。
記憶を辿るもそれらしいものを見た経験は無かった。
「この間インターネットで見つけたんだけど、方舟って、名前の通り本当に四角い船なんだって!」
めぐるがスマートフォンを顔の隣に掲げて画像を指差す。
そこでは木製で長方形の船が海上を漂っていた。
「あー……こんな感じなのか。イメージと違うな」
方舟と聞くとノアの方舟が真っ先に思い浮かぶ。
映画の広告やテレビの特集で時たま見かけるそれは、巨大なタイタニック号のような形をしていて、彼女が示した写真とは大きく異なっていた。
「でしょでしょ! わたしも最初見た時そう思ったの!」
プロデューサーが同意見だったのが嬉しかったのか、めぐるの顔が近づく。
「めぐる、近い近い。……でも、どうしてまた?」
彼女が動いたことでソファーがふわふわと揺れる。
すぐ側に感じる彼女の温かな体温と蜂蜜のように甘い香り。
プロデューサーは揺れを抑えるように、ソファーのクッション材に手を押しつけて身体を引いた。
「えっと、大した理由じゃないんだけどね…………?」
急に言い淀むめぐる。
「……?」
不審に思い、彼女を観察していると、視線が机上に向けられていた。
プロデューサーは理由に気づいて苦笑する。
「このティラミス、どことなく方舟に似ているな?」
「えへへ……」
彼女が恥ずかしそうに照れ笑いする。
プロデューサーとめぐるの前にはケーキが一つずつ置かれている。
プロデューサーの前にはあるのはティラミスだった。
長方形で背の低い茶色いそれは、めぐるがスマートフォンで表示した方舟を連想させなくもない。
「……人類選別の船だったか?」
世界滅亡の日、神様が選んだ者だけがノアの方舟に乗ることができ、助かったという話だった気がする。
「うーん、ちょっと違うかも?」
うろ覚えの知識を口にすると、めぐるが首を傾げた。
「あれ、そうだったか?」
「ノアの方舟のお話はね──」
彼女の語るあらすじによると、悪い行いを続ける人々に神様は怒り、大洪水で世界を滅ぼすことに決めた。
そして、正しい心を持つノアにはあらかじめ方舟をつくり逃げるよう伝えたのだ。
ノアは村人に大洪水のことを伝えたがだれも信じず、結局、ノアとその家族、動物たちだけが生き残った──という話だった。
「……人の言うことは素直に聞くべきだという教訓の話だったのか」
「そうそう!」
めぐるの話に思わず深い息が漏れる。童話のように教えが込められていることは初耳だった。
「けど、やっぱり船っていうと、こっちの形の方がしっくりくるな」
プロデューサーはめぐるの前に置かれたミルクレープを指す。
円から鋭角で切り取った形。どちらかというとそちらの方が一般的な船のイメージに近い。
「確かに……! こっちの方が船っぽいかも?」
「紙も刺さってるし、ヨットに見えなくもないな」
ミルクレープの上部にある、店のロゴの描かれた厚紙が帆に喩えられそうだ。
「風の向くまま進むんだね!」
「そのイメージが強いけど、逆風でも進めるらしいぞ。気の向くままな」
専門的なことは分からないが、帆を操作することで風の力をコントロールし、自由な方角に移動できるらしい。
「逆風でも気の向くまま……。そうなんだ……!」
めぐるが感心したように頷く。
「きっと練習が必要なんだろうけどな。でも、努力すれば自分の意思通りに進めるようになる。だから楽しいんだと思うぞ」
風を操って、自分の気持ちに正直に進めることの嬉しさ。
それがヨットの醍醐味なのだろう。
「そうだね……! 自由に海を動けると、とっても気持ち良さそう!」
めぐるはミルクレープの帆をつんつんと指で突いた。
「まあ、ケーキの構造や色合いは似てないけどな」
肩をすくめて冗談めかす。
ミルクレープは黄色いクレープ生地を幾重にも重ねて作られたもので、当然ながら船の構造とは異なる。
仮に船がいくつもの薄皮を重ね合わせて作られていたら、隙間から水が侵入し沈没してしまうのではないか。
「……そうだ! どっちの船が美味しいか、食べさせ合いっこしない?」
そんな益体もないことを考えていると、めぐるが期待に満ちた目で提案をしてきた。
良い考えを閃いたとばかりにテンションが上昇した彼女が視界に大きく映る。
きめ細やかな白い柔肌には興奮からか薄く紅が指しており、青い瞳が輝いてる。
コーヒーでも消せない甘い匂い。距離が曖昧だ。
「……そうだな。半分ずつでシェアするか。ナイフ持ってくるよ」
蜂蜜のように濃厚で甘美な香りにくらくらと酔いしれるも、何とか『食べさせ合い』はしないと予防線を張る。
一段低い気温に身を晒そうと、キッチンへと避難しようと立ち上がる。
「──はーい!」
ステンレス製のフォークは温かな彼女の手を離れ、机に戻された。
プロデューサーの線引きに気づいたか否かは定かではないが、彼女は笑顔で送ってくれた。
キッチンでナイフを取り出すついでに、深く長い息を吐く。
ソファーで待つめぐるに聞こえないようにゆっくりと。
肺が空になり、暖房の効いていない空気が口から流入する。
彼女の行動は意図的なものなのか、それとも無意識なのか。
だが、どちらにせよ、アイドルとプロデューサーにおける正しい距離というものがあるはずだ。
今は──近すぎる。薄皮一枚で何とか隔てられている。そんな距離だ。
「取ってきたぞ」
「ありがとう、プロデューサー!」
プロデューサーは違和感がない程度に、先ほど座っていた位置より端側に腰を降ろす。
「じゃあじゃあ、さっそく半分こしよっか! どっちのケーキから分ける?」
めぐるはミルクレープの皿を寄せて、その正面までスライドしてきた。自然と距離が縮まる。
「……そうだな、まず俺のからにするか」
再び感じる彼女の体温。
せっかくの位置取り調整も無駄となってしまい、甘い香りに意志が揺らぐ。
早くケーキを分け切って、適切な距離を保ちたい。
「…………──」
プロデューサーは自身の方舟にナイフを入れようとして、固まった。
何となく救済の方舟を切断するのが躊躇われたのだ。
もちろんこれはただのティラミス。
切ったからといってどうこうなる訳ではないのだが、先程の話の流れを思い出し、縁起が悪いような心持ちになった。
切ることが正しい選択のはずなのに、切ってしまったら取り返しがつかないような。
船がなければ陽光の届かない海底に沈んでいってしまうのではないかと。
「……どうしたの?」
硬直したのが不審に思われたらしく、めぐるが問いかけてくる。
「……いや、何でもないよ」
脳内で首をぶんぶんと振り、情け無い思考を振り払う。
しかし、ナイフを持った手が思うように動いてくれず、空に留まったままだ。
「……もしかして、さっきの話のこと……気にしちゃってる?」
「──っ」
思案顔だっためぐるが眉を下げてプロデューサーの顔を見上げてきた。
図星を突かれて思わず息を飲んでしまう。
「ごめんねプロデューサー! 食べにくくするつもりはなかったんだけど…………」
勢いよく謝った彼女の声が尻窄みに消えていく。
しゅんと身体を縮めた彼女。
「…………!」
そんな姿を見て気づく。
いくら海上にいようと、雨が降っては光は差さない。
そして、テーブル上の船は──当然だが──ケーキなのだ。
プロデューサーはナイフを方舟へと押し込んだ。
「──っ!」
めぐるがパッと顔を上げる。驚いた表情。
「……この方舟は乗った人を救うんじゃない。食べた人を救うんだ。『美味しい』って幸せな気分にしてな」
だから大丈夫と、プロデューサーは優しく語りかける。
「でも……」
戸惑ったように口籠もるめぐる。
「悪かったな。変なこと考えちゃって」
プロデューサーはティラミスの半分を、彼女のお皿に乗せてナイフを手渡す。
彼女はナイフを受け取るも、その瞳は下に向けられ、申し訳なさそうに揺れていた。
「物語では素直に言うことを聞いた人が助かったんだろ? だから──」
安心して素直に聞き入れて欲しい。
そんな思いを込めてめぐるを見つめる。
彼女の目線の先には半分に割れた方舟と、完全な状態のヨット。
「……食べさせて欲しいな…………?」
めぐるは暫しの沈黙の後、表を上げて口を開いた。
囁くような声量の、甘えた声が耳元で木霊する。
「え」
突然の要求に思考が固まり、ろくな言葉が出てこない。
「……プロデューサーに食べさせて貰ったら、もっと幸せになれると思う」
小さな声で言い訳するように発せられた彼女の我儘。
赤く染まった柔肌や、湿った青い眼差しが、強く訴えかけてくる。
「いや、しかしだな……」
親愛の証ということは理解しているが、職業倫理がプロデューサーの心を律する。
「──人の言うことを素直に聞いた人が救われたんでしょ?」
しかし、そう言われると返す言葉がない。
「……分かった」
プロデューサーはめぐるの皿に分けたティラミスを一口大に分ける。
金属製のフォークは冷たかったが、プロデューサーの手の温度で即座に温かみを帯びた。
「……ほら、めぐる」
プロデューサーはティラミスをめぐるの口元へ運んだ。
彼女の視線がちらとこちらに向けられ、一瞬目が合うも、すぐに黒茶色のケーキに戻る。
小さな口がゆっくり開かれるのに合わせて、手を気持ち前へと出す。
銀色のフォークが艶やかな薄ピンクの唇に挟まれて、僅かな振動が伝わった。
そっとフォークを引き抜く。
照明の光を反射して、先端が鈍く光った。
「…………」
「…………えへへ。……ありがとう!」
表しようもない気恥ずかしさに沈黙していると、めぐるも同じ気持ちだったのか、頬を染めて照れ臭そうに微笑んだ。
「はい、わたしからも! 幸せのおそそわけ!」
めぐるがミルクレープを一口サイズに切り取る。
彼女のフォークが幾重にも重なった薄皮を貫通した。
彼女の笑顔と、手の添えられたフォークが近づいてくる。
──甘い匂いが近づいてくる。
午後三時、二つの船はゆっくりと解体されていった。
以上になります。
ありがとうございました。
おつ
とてもよかったです
めぐるはかわいいね……Pと幸せになってほしい
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