【安価】ようこそ実力主義の教室へ (608)
【ようこそ実力主義の教室へ の世界観をもとに、オリジナルのキャラが卒業を目指します。】
注意:原作のキャラは出てきませんが、オリジナルキャラを決める段階で原作キャラのおおよそのステータス表を作成しています。微妙にネタバレがあるかもしれません。
ステータスは以下の6つの要素になります。
・学力
・身体能力
・直感・洞察力
・協調性
・成長性
・メンタル
筆記試験や特別試験、学友・ライバルとのコミュニケーションをこなし、それぞれのステータスを上げていくことが可能です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1630678454
【正確なタイトルは「ようこそ実力至上主義の教室へ」でした。早速ミスしましたが、このまま続けます。】
ステータスは以下の6つの要素になります。
・学力
・身体能力
・直感・洞察力
・協調性
・成長性
・メンタル
筆記試験や特別試験、学友・ライバルとのコミュニケーションをこなし、それぞれのステータスを上げていくことが可能です。
早速ですが、学力、身体能力、直感・洞察力、協調性、成長性、メンタルについて決めていきます。それぞれ安価のコンマ以下を反転させた数値で決定します。
例)
コンマ以下:68 → 86
成長性以外の安価においてゾロ目の場合はボーナスとして再安価をし、最低でも60~確定になります。59以下の場合は再安価をし、60以上のときステータス目安の1段階上のものになります。
例)
1回目;66(ゾロ目) → 再安価
2回目;54 → 再安価
3回目:81 → ゾロ目ボーナス → 90~確定
(勉強)基礎学力 【直感・洞察力】【成長性】補正あり
95~:綾小路 【直洞・成】プラス10
90~:坂柳 【直洞・成】プラス10
80~:堀北・幸村・王 【直洞・成】プラス5
70~:櫛田 【直洞・成】プラス3
50~:長谷部・三宅
40~:1年後半須藤
30~:佐藤
20~:池 【直洞・成】マイナス3
10~:1年初期須藤 【直洞・成】マイナス5
~9:学力低 【直洞・成】マイナス7
安価下のコンマ以下反転で決めます。
例:68→86
a
【>>4
79 → 学力97(綾小路と同レベル)】
(運動) 【メンタル(精神)】補正あり
95~:綾小路 【精】プラス10
85~:須藤 【精】プラス7
75~:平田・三宅・堀北・伊吹
60~:石崎
40~:池
20~:幸村 【精】マイナス3
6~:佐倉 【精】マイナス5
~5:強制ハンデ(坂柳) 【精】プラマイ無し
※強制ハンデは身体のどこかに障害を持ち、運動ができなくなります。
安価下のコンマ以下反転で決めます。
例:68→86
a
【>>6
99 → ゾロ目ボーナス
60以上は確定とし、再安価を行います。
59以下の場合は再安価、60以上の場合は上記ステータス目安の1段階上になります
安価下のコンマ以下反転で決めます。 】
a
【>>7
54 → 45 再安価
安価下のコンマ以下反転で決めます。
ゾロ目の場合、再安価になる可能性が高いため代替案があれば教えていただければ幸いです。】
【>>8でした。
安価はこの下にします。】
更にその下のレスを採用するとか?
【>>11
83 → 38 再安価
その下の安価採用は良いですね。
今後はその下を採用にします。
ひとまず身体能力について再安価します。下。】
はい
27引いた身で言うのもあれだけど、今回ならゾロ目の場合、そのコンマで60保証、無条件ワンランクすればいいんないかな
99なら「95~」
88ならワンランク上の「95~」
77ならワンランク上の「85~」
55なら「60」
失礼しました、>>13は途中で書き込んでしまいました、
今回ならゾロ目の場合、そのコンマで60保証、60以上ならワンランク上にすればいいんないかな
99なら最高ランクなので「95~」そのまま(もしくはおまけで何か付ける)
88ならワンランク上の「95~」
77ならワンランク上の「85~」
55なら「60~」みたいな感じで
安価下
【>>15
ありがとうございます。
再安価にするよりは良さそうですね。次以降はそうします。
安価は下でお願いします。】
へ
安価下待ちなのかしらこれ?
99と00だけゾロ目の恩恵受けてなくて草
【ちょっと決まらなすぎなので、この再安価は以下のようにします。
通常、コンマ以下を反転させたものを採用していますが、コンマそのままと反転させたもので高い方を採用という形式にします。
例:87 → 87 (反転78 < そのまま87)
どちらも60未満の場合は再安価を行います。
安化下でお願いします。】
てい
【>>21
99 :綾小路と同レベル(それ以上?) 【精】プラス10
ゾロ目を引いた場合は、いつでも1回安価を引き直しでも良いのかなと思いました。
ひとまず次に進みます。
(直感・洞察力)
95~:綾小路
90~;坂柳
80~:龍園
70~:堀北・葛城
60~:一ノ瀬
50~:幸村
30~:成績普通の生徒
~29:須藤・池
学力で補正プラス10を獲得しているため、
安価下のコンマ以下を反転後、プラス10します。】
あ
【>>23
18 → 81+10 = 91
90~;坂柳と同等
(協調性)
90~:一ノ瀬
80~:櫛田・平田
65~:軽井沢
50~:1年後半堀北
20~:思い当たりません
~19:1年前半堀北
安価下のコンマ以下反転で決めます。 ?例:68→86】
よ
【>>25
35 → 53
1年後半堀北と同等
(成長性)
ゾロ目判定はありません。
筆記試験や特別試験、月初のタイミングでステータス上昇の値を入手する割合になります。
01~29:成長性低
30~55:成長性中
56~89:成長性高
90~99:成長性超
安価下のコンマ以下反転で決めます。 ?例:68→86】
え
【>>27
47 → 74 成長性高
(メンタル)
95~:綾小路
85~:龍園
70~:1年後半軽井沢
60~:平田・堀北
40~:1年前半軽井沢・一ノ瀬
30~:思い当たりません
10~:佐倉
~09:佐倉未満
身体能力で補正プラス10を獲得しているため、
安価下のコンマ反転後、プラス10します。】
えい
【>>29
>>15の案をもとに、
66 → ワンランク上の76 → 補正プラス10で86
学力:97(綾小路)
身体能力:99(綾小路)
直感・洞察力:91(坂柳)
協調生:53(1年後半堀北)
成長性:74(高)
メンタル:86(龍園)
とんでもないスペックになりましたね。
この後、主人公の名前、性別、性格、容姿を決めていきます。下3まで募り、その後に多数決で決めたいと思います。
(名前)
(性別)
(性格)
(容姿)
私に任せる、という場合はその旨の記載をお願いします。】
(名前)春宮 天音(はるみや あまね)
(性別)女性
(性格)明るく朗らかで前向き。頑張り屋で好奇心旺盛、色々と習得しようとする。
周りから頼られることが多く、それに応えようとする反面、周りの人に頼ることがやや苦手
(容姿)平均より少しだけ低めの身長、やや童顔気味だがスタイルは良い。
髪は亜麻色のセミロング。
(名前)坂上 隼人(さかがみ はやと)
(性別)男
(性格)物静かで理知的。常に優雅であろうと心がけており、そのための努力は欠かせない。異性に興味はあるが、免疫が皆無
(容姿)長身で引き締まった体格。黒髪短髪
名前:炎 竜也(ほのお たつや)
性別:男
性格:粗暴でぶっきらぼうな言い分が目立つが内心は情や義に厚い熱血漢。自身の悪い部分を自覚しているが故に一匹狼で通していた
容姿:ボサボサの紅髪で目付きが悪いが顔つきは悪くない。喧嘩三昧を過ごしてきたので体つきは凄い
この中だと3が好みかな
【>>31 >>32 >>33 ありがとうございました。
それでは多数決を行います。
>>31の場合は1、>>32の場合は2、>>33の場合は3と書いてください。先に2票獲得したキャラで進めていきます。
この下から多数決開始です。]
1
1
【>>37、>>38
1.>>31のキャラに確定です。
(名前)春宮 天音(はるみや あまね)
(性別)女性
(性格)明るく朗らかで前向き。頑張り屋で好奇心旺盛、色々と習得しようとする。
周りから頼られることが多く、それに応えようとする反面、周りの人に頼ることがやや苦手
(容姿)平均より少しだけ低めの身長、やや童顔気味だがスタイルは良い。
髪は亜麻色のセミロング。
>>32と>>33のキャラも同じクラスか別のクラスで登場させようと思います。ありがとうございました。
それではこの後、導入部分から書いていきます。
今晩22時ごろに開始できると思います。
よろしくお願いします。】
乙です
他のキャラも募集制?
それとも>>1さんの方で既に作成してます?
【>>39
何人か考えてはいますが、40人1クラスの4クラスためキャラは常に募集中です。よろしくお願いします。】
【遅れましたが、初めていきます。
かなり大切なことを決め忘れていたので、本当に最初の部分だけになります。】
窓を一枚隔てたその先に、わたしは見惚れていた。
それほど速くもないバスは、ゆっくりと並木道を走る。道路の両脇には幾つもの桜の木。そして舞い散る無数の花びらはとても幻想的なものだと感じられた。
────次は、高度育成高等学校、高度育成高等学校…。
そのアナウンスが車内に響くと、僅かな緊張感が漂うのが分かる。見渡す限り、赤いブレザーを羽織った若者ばかり。そう、わたしも含めて、車内の生徒はみんなこの春を以って高度育成高等学校の生徒になる新入生だ。
今日のスケジュールは入学式と、教室でのオリエンテーション。お昼前には解散となり、そのまま学校から徒歩五分程度の距離にある学生寮に入寮することになる。特別緊張するようなことではない────とは、どうしても考えられない。これから初対面となるクラスメイトに対して好印象を植え付ける必要があるからだ。
地元の小学校や中学校と異なり、わたしが入学するのは東京都内に建てられた超特権的な国立高校。卒業時の『特典』を目当てに、全国から多数の入学志願者がこの高校の門を叩くようだがその合格ラインは厳しい。
一学年あたり、わずか百六十名。
そんな学校にわたしの地元の知り合いは一人も居ない。いや、正確に言うと同級生は居なかった。もしかしたら今年二年に進級した先輩や、三年の先輩に地元が同じ人が居るかもしれない。少なくとも、推薦の話を貰ったときはそんな話は聞いていませんでしたが。
ともかく、完全初対面の相手に好印象を持ってもらえるように今日は乗り切りたい────と、そんなことを考えながら、高校前の停留所でわたしは降りる。
「ふぅ……!」
わたしは暖かくなってきた風を吸い込むように息を吸い、そしてゆっくりと吐く。緊張は無くならないけど、それでも十分に落ち着くことができた。
あまり停留所で立ち止まっても仕方がない。わたしは正門を跨ぐ。見上げれば巨大な校舎が視界に入る。
今日からここで三年間、わたしは様々なことを経験して勉強して、失敗もするだろう。でも、卒業の頃には、たくさんの友人に囲まれ、そしてたくさんの後輩に見送られるような人になればいいな、と。
期待と不安。その二つが胸の奥に感じながら、『新入生はこちらです』と書かれた案内板に従って講堂へと向かう。
【春宮 天音のクラス決めを行います。
この学校では優秀な生徒はAクラス、不出来な生徒はDクラスと振り分けされます。勉強ができる一方、運動もできず協調生も低い場合はDクラスにもなります。また、成績優秀、品行方正でも中学時代に長期欠席などがあればBクラスになる可能性もあります。
天音はステータスだけ見れば十分すぎるほどにAクラスですが、安価で決めたいと思います。
安価下のコンマ1桁
1・7:Aクラス
2・9・0:Bクラス
3・5:Cクラス
4・6・8:Dクラス
また、今後ゾロ目が出た場合は、どこかで安価の引き直しができる権利をストックできるようにしていきたいと思います。】
あ
この能力と性格でDクラス
これは十中八九、学園の思惑が関わってそう
【>>45 8:Dクラス】
講堂前に置かれた巨大なディスプレイには、クラス分けの名簿が映し出されていた。ぱっと見る限り、やはりわたしの地元の同級生の名前はない。
ここで立ち止まって顔も知らないクラスメイトの名前を必死に覚えたところで仕方がないので、わたしはDクラスの案内板が置かれた辺りの座席に着く。特に指定はなかったため、両脇が空いている席にした。
しばらく待つと、続々と席が埋まっていく。当然、わたしの両隣も埋まる。
周りを見渡すと、講堂の隅の方では教師と思しき大人がやや慌ただしそうにしており、また壇上のマイク確認を行う上級生の姿も見え始める。
講堂の上部に設置された時計は、九時五分前を指していた。あと五分後には入学式が開始して、色々な挨拶を終えた後、クラスへ移動となる。
三年間、この辺りに居る人たちと切磋琢磨していくのかと想像に期待を膨らませ、わたしは待ち続けた。
何の変哲もない入学式が終了すると、新入生であるわたしたちはそれぞれ教室へと向かう。
十時三十分からオリエンテーション開始と予告されており、それまでに着けば講堂で人混みがすくのを座って待つのも可能なようだ。
しかしわたしは立ち上がり、人混みに流されるように校舎へと入り、そして一年Dクラスの教室の扉を開く。既に何人か席に着いていて、どこか落ち着きがないのは仕方がないことだと思う。
席はあらかじめ決められており、なんとわたしの席は窓側の一番後ろだった。春宮の「は」は、単純に五十音順としたとき、どうしても廊下側になることが多かかった。しかしどうやらこの学校ではそんな常識にはとらわれない席決めが行われたらしい。
この席はクラス全体が見渡せて、また窓の外も眺められる絶好のポイントだ。早くて一ヶ月後の五月頃には席替えの恐れもあるが、まぁそれはそれで楽しみだと思うようにしておこう。
わたしが教室に到着してから十分も経つと、ほとんどのクラスメイトが席に着いていた。早速仲良くなったと思しき女子グループを視界に入れ、わたしも勇気を出して混ざりに行こうと考えていると、
【イベント安価です。
コンマ1桁で判定します。
奇数:「みんな、少しいいかな」
偶数:「なぁ、あんた名前は?」
0:担任の先生登場
下の安価を採用します。】
えい
【>>49 5:奇数:「みんな、少しいいかな」】
「みんな、少しいいかな」
ちょうど真ん中辺りの席に座っていた男の子が立ち上がり、クラス中の注目を集める。彼はそのままゆっくりと教壇の方へ行き、電子黒板の前で振り向いた。
爽やかな男の子だった。何か運動をしていたのか、程よく筋肉が付いているのが制服越しに分かる。
「先生が来るまであと十五分くらいあるよね。それまで、簡単に自己紹介でもどうかな」
みんなが言い出せなかった、あるいはこの後のオリエンテーションの中で行われるであろう自己紹介を先に行おうと言い出した。
クラスの一人が「いいね。やろうよ」と言う。
その後、次々とその案に賛同する者が現れる。
「ありがとう、みんな。じゃあ早速だけど────」
直後、パン、と机を叩く音がクラス中に響く。
その音の発生源はわたしと同じく教室の一番後ろ、そしてわたしの対照的な位置にある廊下側の席だった。
「……」
派手目な髪色をした男の子が教室を出て行く。何も言わず、教壇に立つ男の子の言葉を遮って教室を出て行ったことから、とても悪い印象を持つ。
クラス内からもそんな声がぽつぽつと上がる中、教壇に立つ男の子はこう続ける。
「ごめん、もちろん強制じゃないよ。僕たちは初対面だし、こういうのが緊張するのは分かる。僕だって膝がガクガクだしね。良い高校デビューを目指して、正直今は無理してる。でも、それはほとんどのみんなが同じじゃないかな」
電子黒板と教卓の間に立つ彼の足元は、全然震えていなかった。こういうことに慣れた生徒なのだろう。しかしクラス中の全員が彼のような慣れている生徒であるはずがない。一部の緊張しがちな生徒に目線を合わせているようだ。
「自己紹介をする上で噛んじゃうとか言葉が詰まっちゃうとか、そういうのには目を瞑ってさ、温かく自己紹介が出来れば良いなって思う」
さらに一押しする発言に、続々と賛同の意見が上がる。しかしその一方で、付き合ってられないと言わんばかりに何名かの生徒が立ち上がり教室を出て行く。
そしてわたしの前の女の子も立ち上がり、振り向いて教室後方の扉から出て行く。
「────」
わたしは、選択を迫られる。
一瞬すれ違ったときに見えた前の席の女の子の表情がやけに苦しそうだった。ただ自己紹介をするのが嫌なようには見えない。後を追って自己紹介タイムを抜け出すか、ただの体調不良であると判断してこのまま自己紹介を済ませるか。
【イベント安価です。
1.後を追う
2.このまま自己紹介に参加する
下1が1か2の選択をお願いします。】
1
【>>52 1.後を追う】
放っておくことはできなかった。
そもそもこの自己紹介の場は、あくまでも生徒の提案によって作られた機会に過ぎない。この後のオリエンテーション、あるいは明日からの授業のどこかで先生が場を設けてくれるかもしれない。そんな期待を抱きながら、わたしは席を立つ。
また一人、自己紹介に参加しないことに対して教壇に立つ男の子は悲しそうな顔をした。教室の前方に固まっている女子グループからは「ノリわる~い」という声も聞こえてきたが、今はそれどころではない。
教室後方の扉を開き、左右を見渡す。自己紹介がくだらなくて抜け出した者がDクラスの教室のすぐ側で壁に寄りかかり、時間が過ぎるのを待っている。その他にも他クラスの生徒が廊下で話し込んでいるのが見えた。
前の席の子の姿は見当たらなかった。
いや、見えない場所に移動したと解釈するのが正しいか。彼女がこの扉から廊下に出てからほんの数秒。考えられるのは、Dクラス教室からかなり近い位置にある女子トイレ一択。わたしは至極当然の権利として、女子トイレの戸を引く。
彼女には申し訳ないが、さすが国公の高校というのが第一の感想だった。教室や廊下、講堂も確かに綺麗で最新の設備が整っていたが、やはりトイレもかなり清潔感があった────と、そんな場合ではなく、洗面台近くで壁に寄りかかる彼女を見る。
苦しそうな表情は見間違いではなかったようだ。今も苦しそうに、深呼吸を何度かしている。顔は真っ青で、やや髪が顔に張り付くほど汗を滲ませている。
「あの、大丈夫ですか?」
わたしは話しかけることにした。彼女が一瞬すれ違ったばかりのわたしのことを認識しているかは怪しいが、気にかけておくべきだと思ったからだ。
「ぇ……あ、は、はい。だいじょうぶ、です」
そう答える彼女は手櫛で髪を整え、わたしの方を向く。ただ、その視線はわたしの視線と交わることはない。
なるほど、と心の中で呟く。
声色、視線、表情から察するに、これは極度の緊張による体調不良のようだ。しかしそれは並大抵のものでなく結構重度のようで、その心労は計り知れない。
「わたしはDクラスの春宮天音です」
「あ、えと、はぁ。わたしは、D、クラスの…早見有紗、です。あ、その、もしかしてわたしの後を追ってきたかんじ、ですか……?」
「あ、いえっ。わたしはただ手を洗いに来ただけです!」
「……でも、ちょうど今は自己紹介の時間では?」
「自己紹介に参加するよりも、手を洗うことが重要だっただけですっ!」
ほんの少し会話をして分かった。こういった子は自分のせいで他人に迷惑をかけることに対して非常に尾を引きずるタイプだ。具合の悪そうな彼女の後を追って自己紹介を抜け出してきたと知られたときには、早見さんがかなり負担を感じることは想像に固くない。
わたしは適当に手を洗い、最後にもう一度確認を取る。
「ほんとうに大丈夫ですか?」
「あぁ、はい。わたし、昔からこんなんで…。もう少ししたら戻りますから、春宮さんは先に戻っていてください」
そう言われては、これ以上の心配は無用だと判断した。余計な存在として認識されるのも避けたい。
その後、軽く別れの挨拶をしてから教室に戻る。
案の定、窓側の先頭から始まった自己紹介は廊下側の方へと進んでいた。十時三十分を目前に控えたところで戻ってきたわたしに向けられる視線は『クラスメイトとは馴れ合わない、時間は守る優等生』と語りかけてくるようだった。
【担任教師についてです。
奇数:生徒に対して思いやりのある先生
偶数:何事に対しても無気力な先生
0:天音の血縁者
下1のコンマ以下1桁で決めます。
早見有紗:極度の緊張症を持つ少女。
天音の前の席。
信頼度:35(クラスメイト、少し好印象)
有紗「優しそうな人だったな…」
他のクラスメイトの初期信頼度が25に低下しました。】
あ
【>>56 2:何事に対しても無気力な先生
あまり進められませんでしたが、今回はここまでにします。
安価にご協力いただいた方、読んでいただいた方、ありがとうございました。】
【再開します。】
【>>57 2:何事に対しても無気力な先生】
それから数分後、教室前方の扉が開く。
出席簿を片手にした男性は、どこか覇気が欠けていた。清潔とは言い難いボサボサの髪、曲がった背中、新年度早々だというのにスーツに皺が寄っているなど、マイナス要素が散見される。
どう見ても変質者。その共通認識を一年Dクラスの生徒は持つ。
「はぁ…」
教卓に出席簿を置くなりそう発せられる言葉というか溜め息。わたしはその瞬間、この先の三年間がとても不安になった。言い方は悪いが、こんな先生で大丈夫なのか、と。
それから項垂れるように先生はもう一度大きく溜め息を吐くと、ようやく顔を上げる。
ある程度想定はできていたが無精髭が生えている。
しかし顔は悪くないと思った。きちんと髪を切り、髭を剃って眉を整えれば十分に格好良い青年になりそうだ。見た目から察するに、年齢は三十代手前といったところか。背中が曲がっているせいで年老いて見えるが、肌に年齢が出ている。
そんな風に観察をしていると、わたしは先生と目が合う。
「────」
声が出そうになるのを抑える。
睨まれた。ただ何か怨念を持って睨まれたのとは異なり、見定めるような視線。たった一瞥されただけで、わたしの全てを見透かすような目だった。
気味が悪い。その一言に尽きる存在に、わたしは先生に対する認識を要注意人物として確定させる。
「えー、はい。それでは、まず皆さん。ご入学おめでとうございます。私は一年Dクラスの担任になりました伊藤弦と申します。えー、そうですね、この学校にはクラス替えがありません。つまり三年間、私がこのクラスの担任となります。えー、はい。よろしくお願いします」
見た目通りの、覇気の無い挨拶。終いには「よろしくお願いします」と頭を下げたところで勢い余って教卓に頭をぶつける始末。ゴツン、と音を教室中に響かせると、クラスの反応は二つに分かれる。
「なに、この人…」
静かに囁く者。
「せんせー、それってボケですか? ちょっと微妙じゃないっすか?」
苦笑いを浮かべながら正直に声を上げる者。
いずれにしても、一連の流れから担任の先生イコール『変な人』というイメージが早速定着したようだ。
「失礼しました。続けます。机の上に資料を置いておきました。皆さん、ありますでしょうか」
机の上に置かれた大きめの封筒。その中には薄いパンフレットが二部入っていた。先生の合図のもと、パンフレットを取り出す。
一部目は学校に関する資料、そしてもう一部はケヤキモールという商業施設に関するパンフレットだった。
「えー、ケヤキモールに関するパンフレットは、この後各自でご覧ください。この場では学校に関することをお話します」
そのまま先生は続ける。
「まず、この学校には独自のルールがございます。皆さんもご存知の通り、全寮制で、在学中の三年間はこの敷地内から出ることができません。また、外部との連絡を一切取ることができません」
あまり聞き馴染みが無いが、全国の高校を探せばどこか全寮制の学校もあるだろう。しかし学校の敷地から出られない、外部との連絡を取れないというのはハッキリ言って異常だ。
勉強の進捗や友人のことを家族に会って話す、電話で話すことを禁じるルール。まるでこの学校で起こるあらゆる事象を口外しないようにするためのルール。
事前にその話は聞いていたが、いざ改めて説明を受けると違和感しか感じない。
「ですが、ご安心ください。学校から徒歩数分の距離にあるケヤキモールには、あらゆる施設が揃っています。スーパー、服屋、カフェ、レストラン、映画館、カラオケ……あー、クリーニング屋などもです。基本的に手に入らないものはないでしょう。どうしても手に入らないものは学校に申請の上、およそ一週間ほどで通販を利用することもできます。……無いと思いますが」
そこで「おおっ」と声が上がる。一部の生徒は早速、もう一つのケヤキモールの関するパンフレットを開き、近い席同士で勝手に盛り上がり始める。
「えー、買い物には学生証端末を使用します。皆さん、始業式の前に受け取ったと思います。電源を入れてください」
始業式の講堂に着く前、出席確認を終えた生徒に対して渡された小型端末。指示があるまでは電源を入れないようにと念押しされていたが、今ようやく電源を入れる。
数秒ほどで電源がつき、顔写真と学籍番号、氏名、生年月日、そして『100000PPt』の文字が浮かび上がる。
「この学校ではあらゆる物をポイントで買うことができます。ポイントは毎月1日に振り込まれることになっていて、1ポイント1円の価値になります。えー、入学を果たした皆さんには十万円分のポイントが振り込まれているというわけですね」
さっきまでは黙って話を聞いていた生徒も、流石にこの説明を受けて初めて動揺を見せる。
「せんせー、これ、まじですか?」
「はい、まじです。皆さんは才能のある若者。入学を果たした時点で、それだけの価値があるということです……と、学校のえらーい人が言っていました」
「……まじっすか」
ケヤキモールのパンフレットには、有名ブランドの服屋が多数出店されている。一般的な高校生では手が出せないようなブランド品も、この学校に入学を果たした生徒であれば手にする権利はあるということか。
なんとも胡散臭い。
一学年あたり百六十人、三学年で四百八十人。毎月各自に十万円分も支払っているとすれば、いくら政府の息がかかった高校とはいえ出費が底知れない。
本当に毎月一日に十万ポイントが支払われるのか。
そんな疑問を抱きながら、寮の部屋割り振りや明日以降のスケジュールについて説明を受ける。
そして十二時前に、解散となる。残念ながら、自己紹介の時間はなかった。しかしそれを幸いとばかりに、早速ケヤキモールへと向かう生徒が多数見受けられる。
さて、わたしはどうするか。
【イベント安価です。
1.ケヤキモールへ
2.寮へ
3.先生に話しかける
下1の方、1~3のいずれかを選択してください。】
1
【>>64
1.ケヤキモールへ】
わたしもケヤキモールへ向かうことにした。ポイントについて気になることはあるが、まずはこの目でポイントを使用した購入を経験したいと考えたからだ。
それに、この敷地内の唯一の娯楽施設にして、娯楽施設の究極系とも言える商業施設に興味を持ったのが大きい。寮に一般的な寝具や調理器具が揃っていると説明を受けたものの、おそらく快適な睡眠や凝った料理を作ろうとすればケヤキモール内の家具屋や家電量販店を利用することになるだろう。
帰りの支度────は、不要だった。教科書はすべてタブレット端末にインストールされたモノを利用する。原則持ち帰り禁止とされていて、寮の部屋に設置されたパソコンもしくは学生証端末にて予習と復習を推奨されている。明日以降は、ノートのみ持ち帰りすれば良いらしい。
ひとまず今日のところは、ほぼ手ぶらでケヤキモールへと向かうことができそうだ。
気が付けばクラスの半数以上が教室を出ていて、数人が未だに信じられないという表情をして学生証端末とにらめっこをしていた。
学校から徒歩数分。そんなつもりもなく桜の花を踏み、わたしはケヤキモールの入り口に到着した。入り口付近には案内板が設置されていて、各施設が何階のどのエリアにあるかを示している。
色々と興味の惹かれるお店はあったが、まずは必要最低限の必需品の購入へと行動を移そう。
まずは部屋着と外出用の服。着回しが可能なものを選択していく。今は暖かくなり始めた季節だが、今後夏や冬には相応の服を買う必要が出てくる。参考までにコートは二万ポイント近くした。買えなくはないが、そもそも冬ではないというのと、今はまだポイントを使いすぎることは無いと判断する。
服、日用品、そして入学前にパンフレットだけで見た限りは殺風景な部屋を彩るための雑貨。総じて一万ポイントと少し。学生証端末を利用した決済はイメージ通りタッチで決済のようなものだった。
一通りの買い物を終え、ケヤキモール内を歩いていると大型家具屋を見つける。
店頭に置かれたベッドは気品を感じさせ、また快適な睡眠につけそうな魅力を放っている。参考までに値段を確認すると、およそ半年分のポイントが記載されている。とてもじゃないが買えるような金額ではない。一年間節約を続けて、ようやく購入できるかどうか。
少し羨ましいと思いながら家具屋をスルーして、今度は食品売り場へと向かう。
【ステータス安価です。
下1のコンマ反転させ、自炊能力に関するステータスを決めます。
00(下手)~99(プロ並)
ゾロ目が出た場合は安価引き直しの権利をストックします。
00は下手でありながら引き直し可能なため、ここで引き直すことも可能です。
99は上手のため引き直す必要がなく、今後のコンマ判定で引き直す権利を使用することが可能です。
また、自炊能力が50以上で基本的に自炊することになり、49以下で惣菜購入や外食が続いて出費が多くなります。
食費については毎月月初に以下のようにポイントが減っていきます。
自炊する:マイナス15000
自炊しない:マイナス20000
成長性高のため、特訓を続ければ途中から自炊が可能にもなります。
現在の所持ポイント:87560ポイント
下1のコンマ反転でお願いします。】
高く
【>>67
72 → 27 (低め)】
自慢でも自虐でもないが、現状のわたしの料理の腕はお世辞にも高い方とは言えないだろう。なにせほとんど経験が無いからだ。親に甘えきった結果、こうして一人暮らしを始めると困る。
料理は今後前向きに腕を上げていくとして、まずはお昼ご飯をどうしようかと迷う。食品売り場を歩いていると、お惣菜の良い香りでお腹が空く。お惣菜を購入して寮に戻って食べるか、入学と共に大金を手にしたことに少しばかり羽目を外してレストランで食事をするのも良いだろう。ぱっと見た限り、高級そうなお店は少なく、ファミレスが幾つか入っているようだった。ファミレスであれば少しの出費で済むだろう。
少し迷った結果、ファミレスへ行くことにした。
というのも、自炊から逃げた訳でも寮へ戻るのが面倒だと思ったからでもない。他の生徒の動向を伺いたかったのだ。今日は一年から三年までが午前中で授業が終わると聞いている。つまり、他の同級生や上級生のお金の使い方が見れるかもしれないかと考えたからだ。
そうと決まれば早速食品売り場を出て、エスカレーターでレストラン街のある階へと進む。
ケヤキモールは四階層になっていて、先ほどまでわたしが買い物をしていたのは一階と二階。三階には飲食街、四階には娯楽施設が入っているらしい。
エスカレーターで登ること二階層。三階には多数の生徒が往来していた。それこそ本当に一年生から三年生までの生徒が何十人と。
比較的、一人〇〇に抵抗がないわたしだが、こんな閉鎖された学校で一人ご飯をしているところを見られればすぐに噂が広まる。できれば隅の方の席が空いているファミレスに入りたいなと考えていると、
【イベント安価です。
下1のコンマ一桁で決めます。
奇数:「あ。君、一年Dクラスの子だよね」
偶数:「あれ、もしかして一年生ちゃん?」
0:怒鳴り声】
ん
【>>69
5:奇数:「あ。君、一年Dクラスの子だよね」】
真正面から数人のグループが目についた。
そのうちの一人は、今朝Dクラスで自己紹介を提案していた男の子だった。早くも打ち解けたクラスメイトとランチのようだ。
明日以降、本格的な友達づくりを始めるとして、今はまだお互い顔と名前が一致していないはずだ。ここは目的を優先させるためスルーが定石かな。
心のどこかで少し気にしながらも通り過ぎようとしたとき────。
「あ。君、一年Dクラスの子だよね」
そう話しかけられて、わたしはドキッとする。
「……あ、気のせい、だったかな?」
頬を指でかく仕草を見せる彼。
「えっと、そうです。Dクラスの春宮です」
「あぁ、よかった。僕は一色颯。これからDクラスの人たちとご飯食べていくんだけど、もしよかったら春宮さんもどうかな」
周囲への気配り上手な一色くんの周りには、男の子が二人人、女の子が二人いた。男女比率的にはわたしが入ることで三対三となる。
……特に、断る理由もないかな。
顔と名前が一致しないって理由だけで話しかけるのは否定的だったけど、お互いに名乗った今はその必要もない。
それに集団の方がお店に入りやすいし、各自の金銭感覚も少しだけ把握できる。また、当初の目的であった上級生の懐事情に関する情報集めも出来そうだ。
【イベント安価です。
下1の安価で決めます。
1.グループに混ざってランチ
2.一人でランチ
一晩明けてしまいましたが、ここまでにします。
また今晩、続きをやりたいと思います。】
1
【再開します。】
【>>71
1.グループに混ざってランチ】
わたしは二つ返事で了承した。
幸い、日用品などはケヤキモールの入り口近くのロッカーに預けていることもあって、一人だけ荷物いっぱいで浮くなんて事態を避けることができた。
お店探しついでに、簡単に名乗り合う。
男の子は一色くん、立花くん、篠崎くん。そして女の子は清水さんと木下さん。全員の顔と名前はすぐに覚えることができた。
「あ、ここいいんじゃない?」
挨拶もそこそこに、清水さんが立ち止まる。視線の先には全国展開しているファミレスの看板があった。比較的田舎と言われるわたしの地元にも二店舗ほどあり、何度か利用したことがある。
「ここでいいかな、みんな」
「さんせー」
反対意見が無いことを確認すると、率先して一色くんが席を取るため入店し、店員さんと話す。
間もなくして案内された席は、入り口から近いところだった。少し騒がしいが、この場所ならお店の出入り口とレジが確認できる。わたしの目的を果たすのには適している席だ。
「失礼ですが、お客様は新入生の方でしょうか」
席へ案内してくれた店員さんが、わたし達に問う。
「えぇ、そうです」
一色くんが答えると、店員さんは「少々お待ちください」とい言い残して席を離れ、そして僅か五秒後にパンフレットを持って戻る。
「当店では、学生証端末にてご注文いただき、向こうのレジで学生証端末をかざしていただくことでお会計が可能です。ただ、この施設の中、すべてがこのような仕組みを導入しているわけではありませんのでご注意ください」
テーブルに開かれたパンフレットには可愛らしいイラストと文字で、いま店員さんが言った一連の流れが記載されている。さらに、パンフレット裏側にはこの仕組みが導入されている店舗と、口頭でのオーダーの店舗情報が載っていた。
店員さんにお礼を言い、学生証端末からケヤキモール専用アプリ、さらに店舗詳細情報からこのファミレスを選択する。するとメニュー表が現れる。
「ほんとハイテクってかんじだよねー」
「メニューを見せ合うのがないのはちょっと寂しい気もするけど、これはこれで便利だな。あぁ、そうだ。難癖をつけるとしたら、誰が何を頼んだのかが分からないってところか」
たしかに、その難癖には一理あった。
しかし冷静に考えると、各自の学生証端末から注文されているため何年何組の誰が注文したのかを店側が一元管理しているのではないだろうか。
もしかすると「トマトパスタをご注文の春宮様」なんて、名指しで注文品が運ばれてくるかもしれない。
それからしばらくの間、端末を片目にアレコレ言いながら各自が注文を終える。
ここで話題はみんなの中学時代の話へ。
「一色くんと篠崎くんってスポーツとかやってたかんじ? なんか体格とかしっかりしてるよね」
「そうだね、一応バスケ部だったよ」
「一色もバスケやってたのか? 俺もやってたぜ」
木下さんの問いに、一色くんが答えると、篠崎くんも同調する。残り一人の男子、立花くんはどこか居心地が悪そうにしている。
こういった共通の話題が一部で生まれると、どうしても置いてきぼりにされやすい。少し話の方向性を変える必要がありそうだ。
「そういえばこの学校って部活動とかあるのかな?」
わたしの発言に、周りは「おいおい」とつっこむ。
「春宮さん、先生の話聞いてなかったかんじ? 明日の放課後、体育館で先輩達が部活動の紹介するって言ってたじゃんよー」
「あれ、そうだっけ。ごめん、ポイントの話とかに夢中になって聞いてなかったかも」
実際のところわたしがきちんと話を聞いていたかどうかはともかく、少し話題をずらすことに成功した。しかしこのままではバスケ部の話に進展してしまう可能性がある。もう少しずらす必要がありそうだ。
【イベント安価です。
1.「みんなはどうしてこの学校に入学したの?」
2.「みんなの趣味とか教えてよ」
3.その他、聞けること
下1の方お願いします。】
1
【昨晩は続きが出来ず申し訳ありませんでした。
再開します。】
【>>76
1. 「みんなはどうしてこの学校に入学したの?」】
「ところでさ、みんなはどうしてこの学校に入学したの?」
ふと、そんなことを聞いてみた。
すると皆が皆、一瞬考え込むようにして、一つの結論を出す。
「まぁ、やっぱり『特典』目当て……だよねぇ」
清水さんの発言に、篠崎くんと木下さんが頷く。
一色くんと立花くんは「それもあるけど…」と考えていることが、表情から読み取れた。
「そっか、そうだよね。どこでも進学・就職できるっていうのは、この学校の特権だよね」
そう、この学校への進学の話を聞いたとき、わたしはとても驚いた。
それは『どんな学校でも企業でも、フリーパスで入学ないし入社ができる』というもの。例え学力が低くても有名私大に入ることは容易いと聞く。
「まぁ正直、半信半疑だったけどさ、なんか本気にしてもいいっつーか、もう疑う余地がないみたいな?」
授業料としてお金を払うどころか、お金を貰えるというのは一般的な学校とは大きくかけ離れている。
そんな常軌を逸した制度があるからこそ、裏口入学や裏口入社といった話も現実味を帯びてくる。
そんな美味い話の裏には当然、
「────」
あぁ、ダメだ。また考えすぎている。
わたしは思考を止める。
今はただ、この場を楽しんで友達を作らないと。
あらゆる状況を想定した脳内シミュレートは数ヶ月前に卒業したはずだ。考えすぎると、またああなる。
冷水で喉を潤すと同時に、熱くなった頭を冷やす。
さらに胸の内で深呼吸をすると、だいぶ視界がクリアになったのが分かる。
「てかさ、春宮さんって────」
清水さんが何かを話そうとしたタイミングで、注文した料理が運ばれてきた。案の定、名前を呼ばれて。
一通りテーブルの上に料理が置かれると、清水さんは話を戻すことなく、幸せそうに食事を始めた。それほど重要な話ではなかったのだろう。
それからしばらく、改めて中学生の頃の話に花を咲かせ、夕方前には解散となった。お会計方法は学生証端末をタッチするだけ。支払金額や残高は学生証端末の画面と、おそらく店員さん側の画面でしか分からないだろう。公の目に留まるような場所に所持ポイントなどが出るはずもなかった。
もし上級生の所持ポイントが分かるようなことがあれば、そのときはわたしの『仮説』はほぼ正しいと確証を得られただろう。
確認ができなかった以上、その仮説は仮説に過ぎない。
しかしわたしは五人と連絡先を交換した。早くもクラスチャットおよびグループチャットに参加させてもらえたことは大きな収穫だろう。素直に嬉しかった。
【所持ポイントマイナス1200
87560ppt → 86560ppt
イベント安価です。
1.本屋
ポイントを消費して料理の本などが購入できます。ただ買うだけでは意味がなく、今後の自由時間で読むと料理の腕が上がったりします。
2.寮へ
3.学校へ
下1でお願いします。
それと、文章は読みにくいでしょうか。
読みにくかった場合は書き方を変えます。】
1
【>>81
1.本屋】
目的も無しにケヤキモールを徘徊していると、本屋を見つける。店先の案内版を見る限り、一般的な書店と大差ないラインナップが揃えられている。国内と海外向けの旅行誌が用意されているのは、敷地から出られない学生に対してのせめてもの情けなのか、皮肉なのか。
ともあれ進学に伴い電子書籍へ完全シフトしなくて済むというのは助かる話だった。モノによるが、やはり紙媒体の方が本を読んでいる感がある。
お気に入りの作家さんの新作が出ていないことは承知の上だが、自然と背表紙に書かれた作家名を目で追ってしまう。
「やっぱりないかぁ」
つい独り言を吐いてしまう。
かれこれ三年ほど新作が出ていない。何の告知も無しに出版することも考えられないが、どうしても心のどこかで期待し続けてしまっている。
わたしはその後しばらく他の作家さんの小説を吟味した後、学術書や趣味に使えそうなコーナーを転々と見て回る。
【コンマ安価です。
奇数:料理本を購入して寮へ
偶数:イベント
安価下のコンマ1桁でお願いします。】
連取りありならこのコンマで
無しなら下で
ほい
【>>83
9:料理本を購入して寮へ】
一通り本を見漁って、わたしは料理の基本を学ぶためのノウハウ本を購入した。本当に基礎的な包丁の持ち方や野菜の切り方、それに簡単なレシピが幾つか載った薄い本だ。
紙袋を片手に、ケヤキモールの入り口へと戻る。
専用ロッカーに学生証端末をかざし、預けていた荷物を受け取って外に出る。寮までは五分程度。少し重たいが、ちょっとした運動程度にはなるだろう。
桜の並木路を歩き、一年生用の寮へと着く。
フロントに立っていた職員の方の指示に従い手続きを済ませる。ルームキーと寮での生活におけるルールブックを戴く。
「ありがとうございます。今日からよろしくお願いします」
わたしはお礼を言い、日用品や本が入った袋を両手に持ち直し、エレベーターへ。Dクラスの女子の半分は11階らしい。
偶然誰かと居合わせることもなく、すんなりと目的階に到着する。私の部屋は『1101号室』。エレベーターを出て廊下を一番右まで行ったところにある角部屋だ。また、近くには非常階段がある。
ルームキーを部屋の扉に通すと、胸の高鳴りを感じる。今日から一人暮らしという高揚感。部屋にどんな物を置こうか想像が膨らむ。
扉を開け、玄関からじっくりと内装を観察した後、鍵を閉めて部屋へ。荷物を置いて早速部屋の中を見て回る。
勉強机、パソコン、ベッド、冷蔵庫、ケトル、クローゼット、洗濯機、バスルーム。
一通り見て周り、不足している物を思い浮かべる。
「一通りの調理器具と、電子レンジ……は、いらないかなぁ」
寝て起きるだけならこのままでも問題なさそうだが、せっかくなら料理も出来るようになりたい。確かケヤキモールの一階にホームセンターがあったはず。明日にでも赴いて、購入を検討する必要がある。
それからわたしは買ってきたものを袋から出し、とりあえず買い立ての部屋着に着替えることにした。本来なら一度洗濯をした方が良いかもしれないが、一番最初は仕方がない。
「と、よしっ」
数分ほどでやることを終え、わたしはベッドの上で一息つく。
今日はまずまずの一日だったのではないだろうか。
色々と気になることが多く、つい考え込んでしまうところもあったが、何よりクラスメイトと連絡先を交換できたのは大きい。今もこうしているうちに、わたしの携帯は小刻みに震えている。クラスチャットがそこそこ盛り上がっているようだ。
わたしは携帯をベッドの上に置き、窓際へと移動する。真っ白なカーテンを開けると、夕焼けに染まる学校が目についた。
『高度育成高等学校』
その学校は、果たして入学できた時点で人生勝ち組を約束されるのか。
「……」
それとも、と考えたところで思考を止める。
結局、高校生となった今日も昔のわたしと似たような考えをずっとしていた。打算的な思考。それは捨てたはずなのに、無意識のうちに絡みついてきている。
「……ダメダメ、そんなの」
損得勘定なしで、わたしはわたしの人生を歩む。
欲を言えば、誰からも好かれる。
そんな生徒を目指して。
一歩一歩、確実にわたしの力をクラスへ貢献できるように頑張ろう。
【イベント安価です。
7・0:外出
その他:翌日学校
下1のコンマ1桁でお願いします。】
え
【>>87
0:外出】
改めて学校とケヤキモールのパンフレット、そして寮生活におけるルールを確認していると時刻は二十時を回っていた。
ルール上、深夜帯に男子が女子の部屋のフロアに居ることは原則禁止されているものの、コンビニなどの外出は制限されていない。
各階のエレベータードア付近、一階のフロント、寮出入り口、徒歩三分程度のコンビニ付近には監視カメラがある。学校の敷地内であることも考慮すると、まず滅多なことは起こらないだろう。深夜帯に高校生が一人で外出しても然程危険はないと思われる。
「よしっ」
わたしはコンビニへ行くことにした。
ケヤキモールは一部を除いて二十時閉館。スーパーもその内の一つだ。コンビニの方が高くつくのは想像に難くないが、今後もし部活動に所属する場合は放課後の練習などでスーパーの営業時間に間に合わない可能性がある。
そういったやむを得ない場合にコンビニを利用する機会も少なくないだろう。事前にある程度の物価を知っておけば、週末に食品を買い込むこともできる。
軽装に着替えて部屋を出る。エレベーターまで若干距離はあるものの、角部屋だったのはなんとなく得した気分だ。
程なくしてエレベーターに乗り込み、一階へ。
フロントのお姉さんはいなかった。しかしその分、至るところに設置された監視カメラが目についた。
特に気にせず外へ出るとひんやりとした風に包まれる。日中は暖かかったとはいえ、夜は冷える。コンビニついでの散歩も程々に、わたしは歩き始める。
道中、数人の同級生と思しき人とすれ違う。
特に話しかけることも話しかけられることもなく、目的地であるコンビニへと辿り着く。コンビニの前には部活動終わりの上級生が数人屯していた。
コンビニの中は内装も販売品も地元のものとほぼ変わりなかった。強いて言えば、少し日用品の幅が広いことか。ケヤキモールの営業時間に間に合わなかった生徒のため準備されているものだろう。
売られている物、値段を見て回る。
想定通りの値段に近しい。割高になることも学割が効いていることもないようだった」
「────」
しかし一点、気になるものを見つける。
コンビニの奥の方に置かれた、商品が入ったカゴ。
そこには貼り紙でこう書いてある。
『このワゴンの商品 無料 一ヶ月 3つまで』
賞味期限が近そうな食品の他、洗剤や消臭スプレーなどが置かれている。食品はともかく、洗剤や消臭スプレーはコンビニの中に普通に売られている。
わざわざ同じ商品を同じコンビニの中で有料と無料に区分けしているのは何か理由があるのか。
このことは気に留めておく程度とし、特に欲しいものも無かったためコンビニを出る。収穫品はゼロだったが、二つ知ることができた。
一つ目は、コンビニはやはりスーパーよりも高い。
二つ目は、無料配布の商品。
今後のコンビニ生活には十分に役立つ情報だろう。
【イベント安価です。
4・6:「一年Dクラスの春宮だな」
その他:翌日
安価下のコンマ一桁でお願いします。
続きは今晩にします。ありがとうございました。
文章が見づらいなどありましたら書き方を変えます。】
あ
今日はあるのかな
【かなり遅くなりましたが、再開します。
続きは今晩にしたいと考えています。】
【>>90
6:「一年Dクラスの春宮だな」 】
思いがけない収穫を頭の引き出しに詰め込んでコンビニを出ようとしたところで、わたしは立ち止まる。
先ほどまでコンビニの前で屯していた上級生の数人が店内へ視線を向けていたからだ。
それに、その内の一人は携帯で通話しているようだった。
しばらくドア越しに様子を伺っていると、コンビニのドアが開く。上級生の一人がわたしの目の前へ。
「一年Dクラスの春宮だな? 春宮だよな」
「は、はい。そうですけど…」
身長は百八十センチに届くかという男子生徒に見下ろされ、言葉が詰まる。やや上擦った声色で応答すると、彼は外で通話をしている生徒へアイコンタクトを送った。
「少しいいか? 時間は取らせない。いいよな」
独特の言い回しをする先輩に連れられて店の外へ。
店外にも監視カメラが設置されているため、大ごとにはならないだろう。ならないといいな。
少し不安な気持ちを抱えながら、聞いてみる。
「あの、なにかご用でしょうか」
「お前に会いたがってる人がいる。ここで待ってな」
状況から察するに、件の人物は上級生で間違いない。さすがにたった一日で上級生を顎でつかうような一年生は現れないだろう。
それから何度か小まめに連絡を取る先輩方を横目に、わたしは携帯を弄る。と言ってもクラスチャットに目を通すだけ。為人は文章に如実に現れる。まだ顔と名前が一致しているわけではないが、一部生徒の名前に対して、どういう人物かのイメージを持つことができた。
そんなことをして店先で待つこと十分。
学校の方から男女一組の生徒が姿を見せる。
どちらも制服で、手には茶封筒を抱えている。
わたしはその内の一人、男子生徒の方を知っていた。
「おう、待たせたな。……あ? ただ待たせてたのか?」
「は、はい。待ってろと、言われていたので…」
「馬鹿野郎。可愛い後輩ちゃんにコーヒーの一本くらい奢ってやるのが先輩ってもんだろ。なぁ?」
男性の方────半日前、入学式で生徒会長の挨拶を務めていた人物────確か名前は、錦山暁人。やや粗暴な言動のまま、わたしに声をかけてきた先輩を小突く。
一方でわたしは反応に困った。「なぁ?」と言われても、同意はしにくい。
「お前らはもう行っていいぞ。乙葉、ちょっと離れたところで待ってろ。あー、そうだ。この前、遣いに行かせたときのポイントが余ってたよな? それでコーヒー買ってきてくれ。なぁ、アイスとホットどっちが好みだ?」
「……ホットでお願いします」
「だそうだ。俺はアイスな」
マイペースに話す生徒会長の発言に、乙葉と呼ばれた女子生徒は深妙な面持ちで会長へ近付く。
「もう残ってないけど」
「……は? いや、あの時のポイントが残ってるとかどうでも良くてさ、とりあえず立て替えてくれよ。後で倍にして返すからさ」
「いや、だからもうポイント無いんだって」
その発言に、会長は額に手を当てて空を仰ぐ。
しばらく訪れる静寂の間。
それを破ったのは、呆れたような表情をする会長だった。
「お前、三年生になったらちゃんと節約するって言ったじゃん。まだ四月の一週目だぜ? 一週間も経たずに今月のポイント全部使ったのか?」
「うん、そうだけど」
「……もういいや。ほら、端末出せ」
手慣れた手つきでお互いが学生証端末を操作する。
なるほど、ああやってポイントを他人に与えることもできるのか。目の前のケースは特殊のようだが、今後何かの役に立つかもしれない。覚えておこう。
乙葉先輩は満面の笑みでコンビニへと消える。
そして数分後、ホットコーヒーとコーヒー味のアイスを買ってきた。わたしは理解が追いつかず、ホットコーヒーを受け取るのを躊躇う。
「どうしたんだよ天音。あぁこれか? アイスコーヒーつっても、俺はこのコーヒー味のアイスが好きなんだよ。あいつが間違ってるわけでも、嫌がらせをしようとしたわけでもねぇ。むしろ飲み物の方を買ってきたら叱っていたところだ」
その言葉を聞いて、安心する。
仲の良い二人だからこそ成り立つお遣いのようだ。
わたしはホットコーヒーを受け取って会長と乙葉先輩の両方にお礼を言う。乙葉先輩が「いいのいいの、コイツ、結構貯め込んでるから」と言うと、お菓子とジュースが入った袋を持ってわたし達から距離を取る。
アイスの袋を開けて早速齧り付いた会長はわたしと目を合わせることなく話し始める。
「平塚邦彦。知ってるよな?」
ドクン、とわたしの心臓が大きく跳ねるのが分かった。決して表情には出ていないと思うが、そんなことよりもどうして会長の口からその名前が出たのかが気になる。
「中三の頃、あいつが俺の中学に転校してきた。たまたま部活動で知り合って、二ヶ月程度だったがよく話をしてくれた。好きなこと、嫌いなこと、家族のこと、それから幼馴染の春宮天音という少女のことを」
「……」
わたしは俯いて話を聞く。
「神童って呼ばれていたみたいだな」
「……そんなんじゃ、ありません」
「小学生とはいえテストでは常に満点、誰よりも早くチャリンコに乗れて、逆上がりも、縄跳びも出来たそうじゃねぇか。文武両道、完全無欠の優等生って聞いたぜ」
俯いたところで会長の話が途切れることはない。
わたしの過去を穿り出すように淡々と告げる。
「ただ頭が良い奴だけならいくらでも居る。ただ身体を動かす事が得意なやつならいくらでもいる。ただお前は、随分と頭がキレるらしいな。大人が考えた謎解きを数秒で解いて学校の行事を潰したとか────」
「……」
「いや、悪りぃ。悪気はないんだ。俺は面白いと思ったぜ。難しい問題を考えられない大人が悪いってな。まぁ難しくしすぎても他の子供が解けないわけだが」
そんなこともあった。
いつしか記憶から抹消しようとしていた記憶。
「まぁ何はともあれ、お前はスゴイ奴らしいな。そんなお前がこの学校に入学するって聞いて、俺はつい一晩かけて笑っちまった。運命なんてこれっぽっちも信じていなかったが、噂の天才と会うことが出来たんだからな」
「……話はそれだけでしょうか」
「いいや、ここからが本題だ。邦彦から言伝を預かっている」
その言葉にわたしは顔を上げる。
喧嘩別れしてしまった彼からの伝言。
それはやはり、わたしを責めることだろうか。
決して逃れることのできない嫌な記憶が蘇る。
「あー、いいか? こんな風に代弁するってのは、なかなか気恥ずかしいが、仕方ねぇ。男の約束だ」
会長は頬を指で掻くようにした後、こう続ける。
「あの時はごめん。僕が間違っていた。天音ちゃんはクラスの赤点ラインを下げるためにわざとミスしてくれていたんだね。僕は実力を出さない君に対して、色々と暴言を吐いてしまった。本当にごめん────ってな。多分、一言一句間違ってねぇ」
「……っ」
胸が張り裂けそう、とはよく言ったものだ。
まさにそれを体感している。
どんな意図があるにしても実力を出さず、まずまずな点数を取り続けるのは一部からしてみれば嫌味と認識されても無理はない。
ただそれだけならまだ良かったかもしれない。
しかしわたしはその後、言い返してしまった。
そもそもこんな簡単なテストで満点を取れない方がおかしい、と。
その言葉の痛さ、重さを理解したときには、すべてが手遅れだった。程なくして邦彦くんは地元を離れた。それから何人もの友人がわたしと接することを辞め、わたしは一人ぼっちになる。
その後は、単純だった。
わたしのことを知っている人が少ない場所で、とにかく他人に好かれるよう努力をした。幸い、物事を分析することが得意だったわたしが他人を気遣い、そして好かれるようになるのは簡単なことだった。
いつしか形成された春宮天音という少女の偶像。
明るく朗らかで前向き、頑張り屋で好奇心旺盛、様々なことに興味を示して習得しようとする。周りから頼られる事が好きな少女。
それがわたしが思い描くわたしという人だった。
演じる。演じ続ける。そして。
いつしか昔の自分を思い出せなくなる。
本来のわたしとは、なんだったのか。
そんな喪失感から逃れるため、中学卒業を機に新たな自分形成のため、わたしはその考えを改めることにした。周囲を分析せず、思うように行動する。打算的じゃない、感情的な自分を作り出すために。
ところが高校生活初日にして分析を繰り返し、この学校の仕組みを汲み取ろうとし、何気ない日常の中でクラスメイトの性格を把握しようとしている。
「────」
もう変われない。
わたしが知るわたしは、打算的な思考をする人間であること。何事にも損益をもとに行動する狡いヤツ。
胸の奥で溜め息を吐く。
ともあれ、今は会長の前だ。これ以上なにも喋らず黙っているのは迷惑になる。
「ありがとうございました。邦彦くんの言伝はしっかりと聞きました」
「そうかい。ならいいんだけどよ」
話が終わりそうな気配を感じ取った乙葉先輩が近付いてくる。手に持つジュースは早くも空になりそうだった。
「おわった感じ?」
「ま、そんなとこだ。じゃあな天音。何かあったら相談に乗ってやるよ。年下ながら、邦彦には世話になったからな。その恩をお前に返してやる」
頼もしい言葉を残して立ち去る背中へ頭を下げる。深々と、五秒、十秒、三十秒、一分と続く。
ぐちゃぐちゃだった頭の中がなんとなく整理される頃にわたしが顔を上げると、そこには乙葉先輩が居た。
会長は少し遠くでこちらを伺っている。
それにしても近い。もう少しで顔と顔が触れる距離だ。
「あの、乙葉先輩?」
「んー、肌綺麗だね。化粧水なに使ってるの? いや、やっぱり年齢の問題かな。まだ十六歳だもんね。あれ、十五歳と数ヶ月だっけ? まぁいいや」
マイペースに話す乙葉先輩。
「なんであれ、天音ちゃんはまだまだ若いよ。あっくんは君のことを随分と認めているようだけど、わたしからしてみれば君なんてウチの近所に居た子供よりもずっと子供だよ。自分が分かってない。生まれたての赤ちゃんでも君よりは────ん、それは違うか」
意外と核心を突いてくる先輩にわたしは動揺する。
「新しい環境で、新しい友達と本来の自分を探してみる、あるいは形成してみるっていうのも高校生活の醍醐味なんじゃないかな。幸い、この学校は全寮制で一人暮らしだから、自分を見つめる機会は多いと思う。例えば、料理が出来ない自分をどうにかしていくとかね」
「────はい。ありがとうございます、先輩」
「お、いい顔になったね。うんうん、お姉さん的には、そっちの顔の方がずっと好きだなー」
「先輩のおかげで自分を見つけられそうです。大真面目に自分を見失っていたので助かりました」
「何かあればわたしとあっくんを頼ってねっ! わたしは相談係、あっくんはポイント係だから」
わたしは乙葉先輩と連絡先を交換する。
ついでに、乙葉先輩経由で錦山会長の連絡先も勝手に教えてもらった。
何かあれば、頼れるかもしれない。
「おやすみ、天音ちゃん」
「おやすみなさい、乙葉先輩」
こうしてわたしと錦山会長、乙葉先輩は別れる。
コンビニの前に残ったわたしは、深呼吸をする。
「……よしっ!」
わたしは寮への道を辿る。
その足に迷いはなく、春宮天音という女子生徒のイチから始まる人格形成の第一歩のように真っ直ぐだったと思う。
【長くなりましたがこれで高校生活一日が終了です。
最初から>>31で戴いた性格にしたかったのですが、ステータスが高すぎる都合上、分析しすぎる描写が増えてしまいました。
今後、様々な試験や友人と交流して>>31で戴いた性格に回帰できるよう人格形成していきたいと考えています。
この後は小刻みに行動をしていきます。
続きは今晩にします。
遅くなりすみませんでした。お疲れ様でした。
所持ポイント:86560ppt
早見有紗:信頼度35(クラスメイト、少し好印象)
一色颯 :信頼度40(クラスメイト、話しやすい)
立花 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
篠崎 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
清水 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
木下 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
錦山暁人:信頼度50(生徒会長、かなり信頼できる)
奄美乙葉:信頼度50(先輩、かなり信頼できる)】
【再開します。】
高度育成高等学校に入学して二日目。
朝のホームルームでは、今日の放課後に体育館で部活動説明会が行われる旨の連絡を受ける。
説明会そのものの参加は任意、さらに入部も任意。
つまり興味本位で立ち寄っても強制的に加入という運びにはならないようだ。
先生曰く、部活動に所属している生徒はおよそ半数。さらにその中から籍を置いているだけで練習に参加しない幽霊部員を除くと、四割程度になるらしい。
「どうする? 行ってみる?」
「まぁ行くだけならいいんじゃない?」
「でもさー、昨日行けなかったカフェ、席埋まっちゃいそうじゃない?」
「だねー。んー、じゃあ参加しない方向で」
一人の女子生徒がカフェ優先宣言をすると、次々に同意の声が上がる。
その一方で教室の隅の方、特に男子生徒が固まっているエリアでは前向きな意見が上がる。高校でもサッカー、せっかくなら弓道をやってみたい、男は黙ってバスケだろ、など。
「えー、それではホームルームを終わります。それでは皆さん、この後から授業になりますので、えー、先生の言うことを聞くようにー、お願いしますー」
やはり覇気の無い伊藤先生がホームルームの終わりを宣言すると同時に、わたしの携帯が震える。
昨日一色くんに招待を受けたグループチャットだった。内容は部活動説明会に参加するかどうか。
少し迷った後、わたしは午前中には決めるとメッセージを入れて、授業に備えて携帯の電源を切る。
【イベント安価です。
奇数:「春宮さん、食堂行かない?」
偶数:「早見さん、よかったら食堂行かない?」
0:「春宮天音はいるか?」
下1のコンマ1桁でお願いします】
あ
【>>104
5:「春宮さん、食堂行かない?」】
午前中の授業が終わった。
そのすべての授業でタブレットを利用した授業の取り進め方、また先生個人の授業方針についての説明が大半を占めていて、実際の講義は明日からになりそうだった。
一部、そんな説明だけの授業が退屈だと言わんばかりに眠そうにする生徒も見受けられた。
そんなこんなで訪れたお昼休み。
わたしはお弁当を持ってきていない。
今朝コンビニに寄ってくることもできたが、せっかくなら学校の売店か学食を利用してみたいと考えていたため、あえてそうしなかった。
昨日少しだけ話をした前の席の女の子、早見さんを誘おうと思ったが机の上に手作りのお弁当を広げていた。わざわざ学食で一緒に食べようとは言い出しづらく、素早く売店で買って戻ってこようと考えた。
席を立ち、教室の扉へと向かう途中、
「あ、春宮さんも学食いくかんじ? 一緒に行こうよ」
昨日ランチをした清水さんがそう誘ってくれた。
一瞬だけ早見さんとのランチのため断ろうとも考えたが、その誘いを無下にすることは出来なかった。
付け加えると、早見さんの席を覗くともうお弁当箱を片付け始めていた。もともと量が少なかったのか、食べるスピードが早いのか。それは明日以降、一緒にお昼ご飯を食べれば分かることだろう。
「うん、行こっか」
わたしは頷き、清水さんと教室を出る。すると昨日のメンバーが一色くん以外は揃っていた。
「一色くんは他の人とランチだってさ」
「あ、そうなんだ」
どうやら一色くんが所属しているグループは幾つかあるらしく、満遍なくクラスメイトと仲良くなりたいと考えているようだ。
わたしもそうなりたいと考えながら、清水さんたちと肩を並べて食堂への道を歩む。
◇◇◇
食堂はおよそ三百人程度が余裕を持って座ることのできる席が用意されていた。
お昼休みが始まって十分ほど。意外にも席は半分以上は空いているようだった。
食堂前の食券機周辺で昼食を吟味する。
「ねぇ、あのスーパーデラックスウルトラ定食ってやつ、すごくない?」
木下さんの視線を追うと、確かにそういった名称のメニューがあった。
写真を見る限り、とんかつ、唐揚げ、牛肉コロッケ、カニクリームコロッケ、ハムカツ、海老とかぼちゃの天ぷら、それに三人前ほどはありそうな炒飯。
とんでもない物が売られていた。
こんなものを注文する人がいるのか? と様子を伺っていると、いわゆるノリで注文する生徒が極稀にいるらしい。現に目の前で何人かが友達同士のノリで購入している姿が確認できた。
「……あれはないなぁ」
わたしが呟くと、他のみんなも同意したように頷く。
それからは頭を切り替え、自分が何を食べたいのかを探る。日替わりランチの中も数種類あり、なかなか決め手に欠ける。ここはいっそのこと前に並んだ人が注文したものと同じものを注文する手を考える。
スーパーデラックスウルトラ定食を直前で注文されたときは和食の日替わりランチBにしよう。
そう考えながら食券機に並ぶ。
食券機は全部で三台。ほんの数十秒で自分の前の番がやってくる。さて、わたしの本日の昼食は、っと。
「……」
食券機の一番右下のボタン。それは『山菜定食』。
並んでいる人を遠目に眺めていたときから薄々その存在には気付いていたが、何か裏があるんじゃないかと疑ってかかっていた。
山菜定食は無償で食べることのできる定食。
写真が無いため量の想像はつかないが、ひとつだけ確かなことがある。それは注文した人の雰囲気。
どこか悲壮なオーラを漂わせた彼らは、溜め息を吐くようにして山菜定食のボタンを押していた。
昨晩のコンビニで見つけた無償の品々、そして目の前にある無償の定食。これらから考えられることはかなり限定的となる。
ともあれわたしの昼食は決定した。
「え、春宮さん、本当にそれ?」
「うん。なんとなくこれにしようかなって」
「……まさか春宮さんが初日でポイントを使い果たすなんて思ってなかったよ」
「違うからっ。ほんの興味本位だからね?」
わたしが選んだのはスーパーデラックスウルトラ定食────もちろんそれではなく、山菜定食。
それから数分後、わたしは受付で定食を受け取り、席に着く。改めて定食を眺めるが、特に不可思議なところはない。良く炒められた山菜に、決して少なくない白米とお味噌汁、そして少量の漬物。これだけあれば十分だと思わせるほど良く出来ていた。
周りの視線はやや冷たいものだったが、わたしはポイントを消費することなくお昼を終える。
味の感想は、リピートしたいと思えるほどだった。
【イベント安価です。
奇数:部活動説明会
偶数:「春宮、少しいいか」
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>108
2:「春宮、少しいいか」】
午後の授業も授業方針に関する説明で終わった。
やや退屈だと感じながらも、タブレットを用いた授業には興味がある。明日以降の授業を楽しみにしながら迎えた帰りのホームルーム。
先生からはほんの数言だけ、簡潔に締め括られる。
「それではこの後、あそこでアレをするみたいなので、ご興味がある方は行かれてみてはいかがでしょうか。それじゃあ今日は終わります。おつかれさまでしたー。さようならー」
朝のホームルームを聞き逃していれば、今の発言の内容を一切理解することができなかっただろう。
適当な先生だなぁ。そんなことを思いながら帰り支度────ほぼ使用しなかったノートを詰めるだけの作業────をして、席を立ち上がろうとしたとき、
「春宮、少しいいか」
隣の席の男の子からそう話しかけられる。
確か名前は一之宮重孝。
黒髪の短髪に眼鏡、知的な印象の男子生徒だ。
生活態度そのものはかなり真面目で、昨日のポイント配布時や今朝のホームルームでは静観を貫き、今朝わたしが登校すると彼は一人で自習をしていた。
そんな彼が何か用があるらしく、わたしは頷く。
「うん、大丈夫だよ」
「悪いな。手短に済ます」
眼鏡の位置を直す動きを見せた後、彼は話す。
「人違いだったら申し訳ないんだが、去年の夏に全国模試を受けなかったか?」
「ん、あぁ、うん。受けたよ」
中学校の担任の先生に勧められて受験したのを覚えている。半ば強制的な空気もあり、わたしは受験した。
「……やはりそうか。あの時は見事だった。俺は数学の最後の問題だけ解けなかった」
「相似の問題、だっけ」
「そうだ。ちょうど授業で習っている最中の模試で出題された、というのは言い訳にしかならないか。現に春宮は全教科で満点を取ったんだからな」
「わたしの学校では習い終わった後だったからだよ」
一年間を通して学習する範囲こそ定められているものの、授業の進行度は学校によって、担当する教師によって異なる。中には生徒が真面目に授業を受けず、なかなか進められないというクラスもあるだろう。
そんな中であの模試の最後に出た問題は、ちょうどわたしのクラスで学習が終わった直後だった。
『もともと知っていた』というのは抜きにしても、単純に習い終わっているかどうかは試験の明暗を大きく分ける。
そして彼の存在を改めて認識する。
一之宮重孝。そうだ。
全国模試で二位が同率数名いた中の一人。
奇しくもあの試験で僅差に名前を連ねていた生徒。
「もしよければ今度一緒に勉強をしないか?」
「わたしと?」
「あぁ。他人の勉強方法を取り入れてみるのも自分のためと判断した。もちろん嫌なら構わないし、そうだな、茶を飲みながらでも良い。費用は俺が出そう」
思いがけない申し出に、わたしは一秒という短い時間の中で決断する。迷うまでもない。
「もちろんいいよ。わたしも一之宮くんの勉強方法を知りたいし。ただ、対等な関係で互いにポイントの損得を考えない上でなら、という条件だけど」
カフェでの勉強などの時、奢ることは無し。
それがわたしの提示する条件だった。
あくまでも対等な関係を持ち、互いに高め合う。その先に生まれるのは信頼関係そのものだろう。
「なるほど、了解した。それで構わない」
ふっと笑みを見せると、彼は右手を差し出す。
わたしはその手を取り、協力関係を結んだ。
【イベント安価です。
1.部活動説明会へ
2.早見有紗を誘ってケヤキモールへ
3.一之宮重孝とケヤキモール(カフェ)へ
4.寮へ
下1でお願いします。
一晩明けてしまいましたが、一旦ここまでにします。
今晩は21時頃に開始します。】
2
【再開します。】
【>>112
2.早見有紗を誘ってケヤキモールへ】
思いがけない巡り合わせを果たしたわたしは、一之宮くんの後ろ姿を目で追った後、前方の席の子の様子を伺う。
思いがけない巡り合わせを果たしたわたしたちは、今日のところは件の勉強会開催を見送る方針に定めた。その理由は、今すぐやる必要がないから。単純に入学早々、お互い身の回りを整えるため忙しいだろうと判断した。
教室を出て行く一之宮くんを見送った後、わたしは前の席に座って帰りの支度をする早見さんに話しかける。
「早見さんは部活動説明会に行くの?」
背後から声をかけても驚かせるだけだと思い、前の方へ回り込んだが結果は変わらなかった。ビクッと肩を震わせてわたしの方を恐る恐る見る。
昨日ほんの少し話しただけの関係。
undefined
【おそらく文字数超過です。】
とはいえ同じクラスで席も近く、一応同じ性別だ。そこまで警戒されていないと踏んでいたが、この様子では極度の人見知りらしい。自分以外の三十九人の前で自己紹介するのはともかく、こうやって喋ることにも抵抗感を示されると悪いことをした気持ちになる。
「ぁ……えっと、わたしは、行かない、です」
俯き気味に、かなり小さい声で話す。
「そうなんだ。わたしも行かないつもりでね、もしよかったらなんだけど────」
ここでようやく早見さんの目とわたしの目が交錯する。彼女は怯えているようだった。何に怯えているのかは分からないが、環境が大きく変わったのもその一因だろう。親元を離れての一人寮暮らし。そこまで大袈裟ではないものの、物寂しさを感じることはある。
だからこそ、ここで「なんでもない。またね」と言ってしまえば、しばらく彼女は救われない。可能であれば「一緒に帰ろう」とか「寄り道して行こう」と言ってくれると嬉しいが、今の段階でそれを求めるのは酷だろう。
「もしよかったらさ、ケヤキモールに一緒に行かない? 昨日買い忘れた物があって……あぁ、もちろん、早見さんの買い物にも付き合うから」
「……わたしと、ですか?」
「うん。ダメ、かな?」
「いえ……はい、わたしは特に買う物もないので、春宮さんのお買い物に付き添います」
多少の難色を見せるかと思ったが、思いのほか真っ直ぐに良い方向へ話が進んだ。これが大人数での買い物となればまた話は変わってくるかもしれないが、今日のところは二人で出掛けることで様子を見よう。
「うん、ありがとう。じゃあ早速、これからでも大丈夫かな? 一回、寮に戻った方がいい?」
「できればこのまま、でもよろしいですか?」
「もちろんだよ。そっちの方が楽だからね」
わたしは軽い鞄を持ち、早見さんと歩き出す。
早くも周囲ではグループが出来始めている。
高校生活最初の一週間が卒業までの三年間を左右すると言っても過言ではない。出来るだけ正攻法で彼女の心の壁を取り除く、あるいは心に刺さった針を抜かなければ手遅れになることは容易に想像がつく。
それにしても、本当にすんなりと快諾してくれた。
極度の人見知りというのは、わたしの思い込みだったのだろうか。それとも、他人すべてに怯えているわけではないのか。
それは、そう遠くない未来に分かることだろう。
【イベント安価です。
1.映画館
2.カフェ
3.ファミレス
また、コンマ一桁でも判定を行います。
4・8・0:追加イベント
下1でお願いします。】
2
【>>118
2.カフェ
コンマ1桁が8のためイベント発生です。】
買い忘れたものと言っても、学校で使用する文房具を少々。ポイントとしては七百ポイント、時間にして十五分程度で済んだ。
本屋と一体化された文房具屋を出て、人通りの少ないところで改めてお礼を言う。
「今日はありがとう。助かったよ」
「わたしは特に、何もしていませんから……」
文房具屋では常に絶妙な距離を保っていて、傍から見ればそれぞれが別の目的を持っての来店そのものだっただろう。わたしと早見さんの間には絶対的な見えない壁が存在する。それがやや厚いと言ったところか。
「もし良かったらお礼をさせて貰えないかな。何もしていくても、わたしとしてはすごく助かった訳だし、これくらいはさせて貰えると嬉しいな。あんまり高いものはアレだけど、お茶くらいなら是非」
二度目の接触としてはまずまず話せた方だと思うが、このまま手放してしまうのは少し勿体ない。
もし明日、早見さんとの時間を作れなかったら当初のスケジュールが崩れる。ここは彼女と二人きりの時間を作るべきだろうと判断した。
「そんな、お礼なんて…」
わたしと目が合うと、すぐに逸らされる。
とはいえ言葉で強く否定されたわけでもない。ここはもう少しだけ引っ張れば引き込めそうだった。
「いいからいいから。ね、どこのカフェにする?」
やや強引に手を取り、歩き始める。
一回フロアには幾つかのカフェが入っており、座席数も巨大ショッピングモールのフードコート以上にある。座って話せそうなのは大前提だとして、早見さんの好みを知るきっかけにもなる。
「……じゃ、じゃあ、あそこでも、いいですか?」
少し引き攣った表情で一つのお店を指さす。
ラインナップとしては他のカフェとも大差ないものの、独自にフルーツスムージーを売りにしているようで数人の列ができていた。
二人でその列に並び、学生証端末でメニューを確認する。今回は店頭注文の運びになるが、先に席を取って学生証端末で注文後に受け取りだけを行う手段もよく利用されているようだ。
「わたしは決めたけど、早見さんは?」
「ぁ……えと、これを…」
わたしに見せてきた端末の画面には苺のスムージーが表示されていた。苺を選んだ理由の一つとして他の果物よりも十ポイントから九十ポイントほど安かったからという理由はおそらく含まれているだろう。
その後七分程度でスムージーを受け取り、ちょうど窓際の四人席が空いたためそこに向き合う形で座る。他にもかなり四人席は空いているため、非常識とはならないと判断する。
「ありがとうございます…」
席に着くなり、彼女は頭を下げる。
わたしは「これはお礼だから、遠慮しないで」と言って、さっそく『桃のスムージー』にありつく。
口に含んだ瞬間からみずみずしい桃の果肉を味わうことができ、程良い甘さが頭をクリアにさせる。
わたしが飲んだのを確認した後、早見さんも一口。
かなり美味しかったのか、表情に出ている。
「本格的な授業は明日からだね」
「そう、ですね…。今日は説明だけでしたから、実際には明日からになるんだと思います」
「タブレットを使った授業なんて、わたしの通っていた中学校では露ほども話に上がらなかったからさ。新鮮な気持ちだよ」
「……そうですか」
一転、やや暗い空気を漂わせる。
わたしの言葉に反応してのものか。だとすれば『中学校』というワードが高確率で引っかかる。
彼女が機械に疎ければ『タブレット』そのものに対して嫌悪感を抱いている可能性もあるが、携帯と学生証端末の操作に困っているようには見えなかったため、それは除外しても良いだろう。
今は距離を縮めることが大事だ。
別の話題で話し込むことにしよう。
「そういえば早見さんはさ────」
話を切り替えようとしたとき、向こうの方からやってくる生徒に視線を取られる。
身長は百七十五センチ程度、銀色の髪色が特徴的で制服を着崩した男子生徒。公共の場を我が物顔で歩くその姿は、傲慢な態度そのものだ。事実、彼の周辺からは人が避けるように消えていく。
そんな彼が向かってくるのは、こちら側。
とてつもなく嫌な予感がした直後のことだった。
「お前が春宮か?」
「……何かご用でしょうか?」
突如として割り込んできた柄の悪い男子生徒に、早見さんは視線を逸らすため俯く。
まずい、本当に悪いことをした。
彼女との距離を縮める目的はさておき、誰だってこんな状況に巻き込まれれば嫌な思いはするだろう。
後で精いっぱい無関係である弁解をするのは当然として、明日以降の予定の見直しが必要になりそうだ。
「なに、大した用じゃねぇよ」
彼はわたしを押すように、わたし側のシート席へ入り込んできた。必然と窓側へと移動となり、彼が座ることで退路が絶たれる。
何の話をするか想像もつかないが、わたしに用があるなら、これ以上早見さんを同席させても良いことは無いだろう。
「彼女は関係ないですよね?」
「あぁ。好きにしろ」
ここで彼を無視して帰るよう促すことが悪い方向に進まないとも限らない。何がなんでも早見さんに害が及ぶことは避けたかった。
「ごめん、絶対に埋め合わせするから」
わたしがそう言うと、早見さんは心配そうな顔をしながらもコクリと頷き、スムージーが入ったカップだけを持って席を立つ。
それからすぐに彼は話を切り出す。
「俺のクラスへ来い、春宮」
「────?」
言っている意味が理解できず、わたしは返答に困る。
休み時間の度にクラスへ遊びに行く、という意味ではもちろんないだろう。
「なんだ、知らないのか? ポイントを使えばクラスの移動が出来るそうだぜ。その額は、二千万。それだけ払えばAクラスにもDクラスにも移動ができるらしい」
「二千万って、本気で言ってるんですか?」
色々とツッコミどころはあったが、特にポイントの部分には興味を惹かれる。二千万ポイントを貯めることはまず不可能。
そして貯めた先のクラス替えという制度は、何を示すのか。
なんであれこの男子生徒は、わたしよりもずっと学校のポイント制について足を踏み入れているようだ。
「あぁ、本気だとも。一人当たりに毎月振り込まれるポイントは────と、念のため確認だが、気付いているよな? この仕組みくらいは」
わたしは頷くことも首を振ることもしなかった。
コンビニに用意された無料の品、学食の無料定食。
この二つが用意されている時点で、昨日立てた『仮定』はほぼ確証へと切り替わっていた。
まず間違いなく毎月一日に全生徒へ『十万ポイント』が支給されていれば、それらを利用する生徒はほぼ皆無と言ってもいいだろう。しかし今の話を聞いて、もし二千万ポイントを貯めるための節約の一環として無料配布のモノが用意されているとすれば────いや、あるいはその両方のためか。
どちらにせよ興味深い話のため続きを聞くことに。
「続けてください」
「ふ。まぁいい。一人あたり、およそ十万ポイント支給だとしよう。一クラス四十人で四百万。二千万を目指せば最低でも半年は必要なわけだが、それは現実的じゃない。なら二クラスで協力した場合はどうだ。半年で各クラスが二千四百万。それから一千万ずつを出し合う。そうすれば二千万だ」
その理論でいけば僅か三ヶ月で二千万に届く。
あえて半年と言ったのは、裏があるのだろう。
ここでわたしは根本的な問題を提示する。
「そのクラス替えが本当に出来るのか知りませんけど、自分以外の生徒が他のクラスへ移るためにポイントを譲渡するとは思えません」
「譲渡する、じゃねぇ。搾取するんだよ。弱みを握って脅すでも、徹底的な管理体制でも方法は任せる。毎月一定以上のポイントを自分に振り込ませろ。そうすれば一千万なんてすぐだ」
頭が痛くなってくる。
そんなことできるはずがない。
「だいたい、わたしが協力するとでも?」
「するさ。お前は俺に協力する。そして一千万を貯めるために尽力する。晴れて半年後には、俺と同じクラスになれるってわけだ」
「話になりませんね。わたしに協力する意思はありません。わたしを揺すりたいなら、それ相応の対価があるべきでは? 例えば、四千万ポイントとか」
一クラス一千万ずつ貯めてわたしが彼のクラスへ移動、そして四千万ポイントを受け取れるのなら一考の余地はある。もちろんすんなりとはいかないだろうが、それだけのポイントがあればわたしは元のクラスへ戻れるからだ。
だが実際、四千万ポイントを貯めるなんてほぼ不可能な話。こんなふざけた提案に対して、雲を掴むような話を持ち出せば彼も引っ込むと考えた。
しかし彼は口元を釣り上げ、笑みを浮かべる。
「逆に聞くが、四千万でいいのか? お前には最初の一千万を含めて五千万を払っても価値があると思っている。いや、七千万か八千万か。それくらい払ってもいいだろう」
「じゃあ一億です。それ以外は自分を売れません」
「なるほどな。こうしよう。こうなるとお互いが譲らず青天井だ。一ヶ月後、改めて聞きにくる。そのときにお前が提示した額を払うことにしよう。もちろん三ヶ月やそこらじゃ不可能な話だが、きっとお前にとって悪い話じゃない」
一ヶ月後、またこの人と話すと考えると憂鬱だが、ここは大人しく従っておくべきだろう。
わたしが頷くのを確認すると、彼は身を引く。
塞がれていた席が通れるようになり、わたしは鞄と緩くなったスムージーのカップを手に取り立ち上がる。
「最後に一つ聞かせてください。どうしてわたしに声をかけたんですか?」
「価値があるって言っただろ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」
そう言って彼は立ち去る。
周りの視線を痛いほど浴びながら、わたしは早見さんの鞄を持って後を追う。
◇◇◇
寮のフロントで早見さんの部屋番号を尋ねると、割とすぐに教えてくれた。クラスメイトであることを最初に伝えたのが大きかったんだと思う。
この寮ではインターホンが二種類ある。
一つ目は、玄関である一階のインターホン。
二つ目は、部屋前のインターホン。
例えば他学年の生徒が訪れるときなどは、まず玄関のインターホンを鳴らした後、玄関に入るためのロックを解除して貰う必要がある。その後、エレベーターを使って目的の部屋の前でインターホンを再度鳴らすといった二段構えだ。
部屋番号を聞いた以上、直接部屋の前まで行ってインターホンを鳴らすことはできた。しかしそれでは驚かせてしまうだろうと考え、わたしは玄関から彼女の部屋を呼び出す。
間もなくして応答があった。
『────春宮、さん?』
「うん、さっきはごめんね」
呼び出し機に併設されたカメラからわたしのことを視認した早見さんは、安堵したような声を漏らす。
『いえ、あの、待ってていただけますか? すぐに降ります』
わたしは頷く。
それから三分ほどで、まだ制服姿の早見さんはエレベーターを使って降りてくる。
ロビーで待っていたわたしと合流すると、手に持っていた鞄に目をやる。
「あ、すみません…。鞄を持たせてしまって…」
「ううん、いいのいいの。こっちこそごめんね。ちょっと絡まれちゃって」
「大丈夫……でしたか?」
「一方的に話をされただけだから大丈夫だよ。本当にくだらない話を長々とね」
心配させないため、わたしは大して取り合わなかったと言っておく。
実際のところ、あの人には興味ないものの、クラス替えという制度やクラスメイトのポイント管理という話には興味があった。
わたしはもちろんそんなことはしない。ただ、一年Dクラスの中からそういうことをしようとする生徒が出てきても不思議じゃない。そしてそれを実行に移すとなれば、かなり早い段階で行動に移すのが定石だろう。
そう、例えば明日にでも『今後のことを考えて僕が、私がみんなのポイントの一部を管理する』などと言い出す人が現れてもおかしくない。
「あの、ごめんなさい。先生を呼ぶべきでしたよね」
「ううん、あの場所には監視カメラもあったし、あの人もそういったことはしなかったと思う。先生を読んだところで話をしているだけっていうのがオチだよ」
この学校の敷地には至るところに監視カメラが設置されている。ケヤキモールは大型ショッピングモールそのもののため、監視カメラがあるのは普通だと言える。
しかし学校はどうか。
教室や廊下など、至るところに設置されている。
もし校内で暴力沙汰を起こせば監視カメラの映像を頼りに停学、あるいは退学も免れない。
そういったことを抑止するための監視カメラだと考えれば理解できるが、一つ不可解なことはそのカメラが絶妙に隠されていること。じっくりと視認しなければ気が付かないほど微小なカメラが幾つかあった。
気になる点は無尽蔵だが、それは追々考えるとして今は早見さんのことに集中しよう。
「ほんっとうに今日はごめん。もしよかったら明日とか明後日とか、時間を作って貰うことは出来ないかな」
「……わたしでいいんですか?」
「もちろんだよ。早見さんさえ良ければ、だけどね」
逸らされていた視線が元に戻ると、早見さんは頷いた。
「明日はちょっと……。でも明後日なら、はい」
「わかった。じゃあ明後日ね」
明後日、改めてケヤキモールに出掛ける約束をして、わたしと早見さんは一緒のエレベーターで戻る。
早見さんが十階、わたしが十一階だ。
途中の階で止まることなく十階に着き、早見さんと別れる。その後すぐでわたしもエレベーターを降りて、自室へと向かった。
【イベント安価です。
3・6・8・0:錦山会長・乙葉先輩
それ以外:翌日
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>130
7:翌日】
高校生活三日目。
今日の午前中は数学、国語、化学、英語、そして昼食を挟んで体育、社会と続く。この二日間がほぼ講義らしいものがなかったからこそ、クラス内からは多少の不満が飛び交う。
わたしはつい朝の五時に起きてしまうほど楽しみだった。特に体育は、初回の授業にして早速水泳らしい。室内の温水プールを使用した授業は日本を探しても数少ないだろう。昼食後というのが少し難点だが、それは我慢をすれば済む話だろう。
今朝のホームルームでは特別連絡事項がある訳でもなく、ほんの二十秒程度で終わる。
その後は授業の準備────は不要だった。
教科ごとのノートを一冊用意して、その他教科書はタブレット端末にすべてインストールされている。そのため机の上は文房具とノート、そしてタブレット端末の三点だ。なお、タブレット端末にインストールされたメモ帳やノート機能を利用すれば紙のノートを用意する必要もない。その機能を利用しようとする生徒はちらほらと見受けられた。
程なくして担当の先生がやってくる。
ホームルーム後に席を立っていた生徒も席に着き、一時間目開始のチャイムを各々が待つ。中にはギリギリまで携帯を弄る者、予習をする者。
わたしは数学1で習うことを思い出していた。
たしか最初は単項式と多項式。随分と前に学習した内容だが、おそらく問題はないだろう。
「……」
ふと、天井を仰ぐ。
教室上部に取り付けられたプロジェクター。
電子黒板の方へ向けられており、基本的にはこのプロジェクターを映し出すことで授業を進めていく。
わたしが気になるのはプロジェクターの下に空いた小さな穴にハマるレンズ。やはり廊下同様、この教室も監視されていると見て間違いない。その真意は今の段階では分かりかねるが、居眠りや携帯を弄るなんてことをすればすぐにバレるだろう。
なんだか嫌な予感を胸の奥に感じながら、わたしは後ろの席からクラス全体のことを監視する決意をする。
優等生を演じるつもりはないが、それでも『手遅れ』にるようなことは避けたい。みんなのためにも。
【イベント安価です。
奇数:乙葉
偶数:午後の授業へ(プール)
下のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>133
0:午後の授業へ(プール)】
午後一の授業は体育。プールだった。
昼休み後半に移動を開始して、更衣室で学校指定の水着に着替える。
男子はほぼ全員が参加、女子はおよそ半分が見学という選択をした。先生はそれについて全く触れず、ただただ名簿に見学のチェックを付けるだけだった。特に水泳では顕著に現れそうな教員としての配慮か、あるいは放任主義か。
授業開始のチャイムが鳴る少し前のプールサイドへ到着すると、そこには五十メートルプールがあった。
「わ~! すごいね~!」
一年Dクラスが発足されてから早三日目。人を率いていく人物として頭角を表し始めた生徒が何人か居る。
その内の一人、宮野真依が感心したように言う。
彼女は幼い頃から水泳を習っていると、先ほど聞こえてきた。それは女性ながらにしても筋肉の付き方を見れば、なんとなく真実であることは分かる。
やけに男子の視線を感じながらも、先生の号令に従い改めて出欠を取る。
「────と、まぁ見学者が多いようだが、構わないだろう。さて早速だが、準備体操をしたら泳いでもらう。泳げない生徒もだ」
「えー!」と至るところから声があがる。
「安心しろ。俺が担当になったからには、絶対に泳げるようになる。この道二十年、俺が担当したクラスの生徒で誰一人泳げないまま卒業していった生徒はいない」
とてつもなく頼もしい発言だった。
この先生の指導方針が未知数である以上、単純に教え方が上手であることを期待しよう。
わたしは周りに合わせて準備体操に移る。
そして先生の指示のもと、全員が軽く泳ぐように指示が下る。泳げない生徒は足をついても良いらしい。
レーンごとに分けられたプールの中、右の二レーンが泳げない人用、それから左側のレーンに行くに連れて得意な生徒が入水していく。
わたしは左から三番目にした。なんとなく見ている限り、ゆったりと泳げそうだったからだ。そして経験者である宮野真依の一つ右側のレーンでもある。
「春宮さん、だっけ。ごめんね、まだ覚えられてなくて」
「ううん、いいの。宮野さん、だよね」
「そうそう。春宮さんは水泳やってたの?」
「授業で習ったくらいかな。それでも一年ぶりとかだから、手とか上がるか心配だよ」
自由形ことクロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライと様々な泳ぎ方がある中、やはり自由と名のつくだけあってクロールが授業の中では一般的だろう。運動に自信の無い人は平泳ぎを選択する傾向があり、また背泳ぎとバタフライはほとんど授業の中で扱われることがない。
前の人が泳ぎ始めたのを確認し、わたしも入水する。
水の冷たさはあまり感じない。さすが国立の高校。温水プールの準備にも怠りがなかった。
それから軽く五十メートルを泳ぎきる。前の生徒に追いつかないよう、そして後ろを追う生徒にも追いつかれぬよう、自然なペースで。
泳ぎきると、宮野さんが待っていた。
「春宮さん、センスあるんじゃない? すごくフォームが綺麗だったし、まだまだ余裕あるかんじでしょ? 本気で競泳とかやったら絶対伸びるって」
「えー、そうかなー?」
そんなやりとりをしていると、改めて先生からの号令がかかる。
「それでは早速だが、競走を行う。男女別の五十メートルだ」
右側のレーンに居た生徒からは悲鳴に似た声が、左側に居た生徒からは歓喜の声が屋内プールに響く。
「普通にやっても面白くないだろう。一位になった生徒には俺からの特別ボーナスとして、五千ポイントをやろう。男女それぞれ、一位になった生徒だけだ」
その太っ腹な発言に、左側の生徒はさらにやる気を見せる。
五千ポイント。今の所持ポイントとしては、喉から手が出るほど欲しいというほどでもない。
ただ、やるには本気でやるべきか?
「先に女子からだ。十一人だから、六人と五人に分けよう。そして一位だった生徒にボーナスだ」
八レーンと限られた中、六人と五人で分けて競走を行うのは自然な流れだった。
泳げない生徒は足をついてでもゴールを目指すことを指示した後、先生はグループ分けの名前を呼んでいく。
わたしと宮野さんは後半のグリープだった。
「五千ポイントかぁ。まぁ貰えるものは貰いたいけどねー」
宮野さんの視線は、前半グループの一人、秋山春香に向けられる。彼女も水泳の経験があるらしく、先ほどの準備運動では一番左のレーンで泳いでいた。
他の女子生徒の動きも確認していたが、おそらく先ほどまでの状況を踏まえると宮野さんか秋山さん、そしてわたしが優勝候補とされている可能性が高い。
プールサイドに移動したわたしたちは前半グループの競走を見守る。
「いちについて、よーい、」
直後、ピーと鳴る電子ホイッスル音。
やはり秋山さんが群を抜いて速い。
初速から他を大きく引き離す。
それからわずか二十六秒後にゴールした。
「おー、速いな秋山。水泳部か?」
「まぁ、はい。中学生の時は」
「高校の部活は? 水泳部はどうだ? 大会で表彰台を狙えるぞ」
「今は弓道のブームなので。また考えておきます」
ブームで部活を決めるのか、と先生は首を傾げたようだったが、すぐに切り替えて後半に移る。
どうしても経験の差というものは生まれてしまうものだが、それでも極力抑えるため飛び込みは無しとしている。入水した状態でのスタートだ。
「それじゃあ行くぞ。準備はいいか?」
この瞬間まで、わたしは考える。
今後のことも考慮して、やるか、やらないか。
【安価です。
身体能力99のため、確定で一位を取ることができます。コンマ判定をする必要もないため、今後を踏まえて選択式にしたいと思います。
1.大差をつけて一位
2.ギリギリを見極めて一位
2.2位を取る
どれもそこまで大差があるわけではありませんが、大差をつけて一位になると信望が高くなります。
また、他クラスから要注意人物として見られることになります。
下1でお願いします。】
2
【>>139
2.ギリギリを見極めて1位】
わたしは一度深呼吸をする間に、決意する。
一位を取る。ほぼ全力を出して。
先ほどの秋山さんが二十六秒と二三。宮野さんもそれくらいだと仮定して、二十五秒前半辺りが確実か。
自分の本気は自分でも理解が及ばず未知数であるが、『それくらいなら』優にタイムを出せそうだ。
「それじゃあ行くぞ。いちについて、よーい」
電子ホイッスルの音が鳴った直後から、わたしは頭の中でタイムを計測しながら泳ぎに没頭する。
三十五メートルを超えたところで隣のレーンを視認すると、ほぼ同じくらいだった。わずかにわたしがリードしているか。でも、このままだと二十五秒前半は厳しいかもしれない。
悪いけど、先に行かせて貰うね。
水を掻き分け、ゴールへと一直線に泳ぐ。
あぁ、気持ちが良い。これからもっと─────。
そんなことを思い始めるとほぼ同時に、わたしは五十メートルを泳ぎきる。
顔を水面から上げるとプールサイドから歓声が聞こえてくる。その直後、隣の宮野さんもゴールする。
「ふぅっ……はぁ。はぁ~、速いねー、春宮さん」
「実はちょっとだけ運動得意なんだ」
「ちょっとって、そんなもんじゃなくない? 全然疲れてそうなかんじもないし」
「そんなことないよ。久しぶりに泳いだからね」
「久しぶり、ねぇ。なんかショックかも」
そうは言いつつ笑みを浮かべてみせる。
わたしは先に上がり、宮野さんに手を差し出す。
「ありがと」
宮野さんをプールサイドに上げると、それから数秒して女子の後半グループ全員がゴールに到着する。
先生は前に出て結果を発表する。
「一位は春宮、二十五秒一四。二位は秋山、二十六秒と二三。三位は宮野、二十六秒四五。ということで一位は春宮だ。いずれも水泳部に欲しいくらいだ。もしよければ見学からでも来てくれると助かる」
結果発表が終わると、わたしは宮野さんと女子が固まるプールサイド脇へと移動する。
もともと水泳をやっていたのか、大会に出たことはあるのか、陸上競技などは得意なのか、様々なことを質問攻めされても、嫌な気分はしなかった。
と、競争が終わった女子グループが一息ついて盛り上がる一方で男子グループの競争が始まる。
男子グループは三グループに分けて予選を行い、上位五人で改めて決勝を行うようだった。
わたしは女子グループの会話に耳を傾け、応対しながらも男子グループの泳ぎを観察する。
優勝候補は四人。
一人目は初日から色々とお世話になっている一色くん。バスケ経験者で、昨日の部活動説明会を経て正式にバスケ部に所属した彼の実力やいかに。やはり脚の筋肉の付き方がそれっぽい。
二人目は松本くん。野球、サッカー、バスケと多数の競技を本格的に経験してきたと噂だ。全体的に筋肉が付いているようで、これもまた期待ができる。
三人目は荒垣くん。この人は少し特殊だ。まず体格が規格外だ。身長は百八十センチを超過していて、それに見合った筋肉が充分すぎるほどに付いている。毎日過酷なトレーニングをしているんだろうと見て取れる。スポーツ経験などの情報は一切ない。
そして四人目は望月くん。背も百七十センチほどと高すぎる方ではなく、ぱっと見の筋肉はあまり付いていないように見える。しかし実のところ、必要最低限な筋肉が異常と言えるほどに付いている。間違いなく今回の競走ではダークホースとなりえる。そのことに気が付いているのは、この場にそれほど居ないと思うけど。
なお、この中で一番女子人気が高いのは一色くんで、やはり優勝も期待されている。
だがこの勝負、本気を出せば望月くんの優勝が目に見えている。もし本気を出さなければ荒垣くんの勝利で終わるだろう。
さて結果はいかに─────。
◇◇◇
「一位は荒垣、二十四秒六九。二位は松本、二十五秒八三。三位は一色、二十六秒五三だ。春宮と荒垣は後でボーナスポイントを配布する」
ほぼ予想通りの結果となった。
望月くんが本気を出さず男子で九位だったことも含めて、想定通りだ。やはり彼は本気を出さなかった。
「残りの時間は自由にしていい。ただし後十分だ。授業が終わるまではまだ二十分あるが、この後の授業に遅れるといけないからな。十分したら上がって各自教室に戻れ」
その指示が出されると、生徒は自由にプールで遊び始める。
そんな姿を横目に、わたしは名指しで指示を受けた通り更衣室へ学生証端末を取りに戻る。
その間、少しの間だけ荒垣くんと二人きりになる。
男子更衣室と女子更衣室は途中まで同じ道だから仕方がない。
前を歩く荒垣くんの大きな背中を見てしばらく歩き、あとは右に行けば男子更衣室、左に行けば女子更衣室という分岐点前で荒垣くんが歩みを止める。
「本気でやったか?」
「もちろんだよ」
わたしは即答した。
事実、ほぼ本気だったのだからそれは間違いがない。しかし彼はわたしのことを疑っている様子だ。
「俺にはそうは見えなかった。特に残り十五メートル。あそこから段々と加速していくように見えた。なぜ最初から加速させなかった。それが不思議でならない」
「それは、久しぶりだったからだよ。水泳自体が久しぶりで、準備運動もそんなに出来なかった。だから、って言ったら信じてくれる?」
「……なるほど。わかった、今はそれで納得しておくことにしよう」
決してこのやり取りの中で彼は振り向くことなかったが、ここでようやく右を向いた。男子更衣室の方へ向かうようだ。
「それともう一つ聞きたい」
わたしも女子更衣室へ、と思ったところで再度声をかけられる。
「もし百メートルだったらどっちが勝ってた」
「……飛び込みありかなしかで、変わってくるかも」
「ありだ。実際の競泳百メートルをやったら、どっちが勝つ」
五十メートルのタイム差はコンマ五秒に満たない。
わたしは彼の言う通り三十五メートルから本気を出したし、これからというところでゴールしてしまった。もし最初から本気を出して、トップスピードで泳ぐことができたら。
それはおそらく…。
【安価です。
1.「もちろんわたしだよ」
2.「たぶん、わたしが勝つと思う」
3.「荒垣くんじゃないかな。さすがに」
4.「かなり良い勝負はすると思うよ。僅差で勝負は着くと思う。どちらが勝つかは分からない。
下1でお願いします。
今日はここまでにします。お昼頃か、夜頃に再開します。】
2
【再開します。】
【>>145
2.「たぶん、わたしが勝つと思う」】
自惚れるな。
そういった反応をされることを承知の上、わたしは実直に答えた。
「たぶん、わたしが勝つと思う」
「随分な自信家だな」
背を向け合った状態だが、彼の声色から笑みを浮かべていることは容易に想像がつく。
「だがその真っ直ぐな姿勢は嫌いじゃない。本当に自信があるからこそ、そう答えたんだろう。俺の負けだ。おそらくな」
教室の廊下側一番後ろに座れる荒垣くんは、一見その体格も相まって話しかけることすら躊躇われていた。
しかしこうして話してみると、意外と話しやすい。
わたしのことを『たった一回、そこそこな記録を出しただけの女に過ぎない。自惚れすぎだ』と烙印を押さなかったのも、彼自身に人を見る目が備わっていたからだろう。
その裏付けは、すぐに出来る。
「でも、クラスの中だとわたしが一番じゃないかも」
悪い言い方をすれば、わたしは吹っかける。
彼の見る目は本物か。
競泳で男女一位になったこの二人以外に実力者が潜んでいるという話は、本当に見る目がなければ一蹴するような話だろう。
荒垣くんは少しの間を置いてから話し出す。
「驚いた。そこまで分かっていたのか?」
「荒垣くんも気が付いていたんだね」
「まぁな。望月、だったか。細身だが鍛え込んでいる。奴を警戒していたが、今回の競走では九位だった。何か実力を隠す理由があったんだろう」
「今後わかるんじゃないかな。嫌でも実力を発揮する機会は貰えそうだし。今回のように授業の一環としてスポーツで競走すること、勉強の点数で競争すること。そんな中できっと望月くんの実力が分かると思うよ」
荒垣くんは少し黙り込んだ後、
「そうだな。そうかもしれない。今は様子見といこう。まだ三日目だしな」
そう言って男子更衣室の方へと向かう。
わたしは振り返り、その後ろ姿を目で追う。
運動神経が抜群に良く、望月くんの実力も正確に見抜いた彼はきっと大きな戦力になるだろう。
ここで少し関係性を持てたのは、お互いにとって非常に有意義だったかもしれない。何かあれば、彼に相談することも視野に入れよう。
◇◇◇
先生のもとに学生証端末を持っていくと、わたしは一年Dクラスの競泳で一位になった特別ボーナスとして五千ポイントを頂戴した。
入学早々に十万ポイントを支給されているだけあって、そのありがたみが若干薄れているのは嫌だなと思った。本来、高校生にとって五千円はかなりの大金のはずだからだ。
そしてちょうど受け取ったタイミングをもって、授業終了まで残り十分になった。プールで遊ぶ時間は残されておらず、遊び終わった生徒に混ざって更衣室へ戻る。
更衣室に設置されたシャワーを浴びて塩素を流す。この後の授業もあるため、しっかり流しておかないと色々と問題だろう。
シャワーを浴び終わり、タオルで身体全体の水気を取った後、制服に着替えて髪をドライヤーで乾かす。
隣では宮野さんが同じく髪を乾かしていた。
奇しくも同じくらいの髪の長さのため、ほぼ同時に髪を乾かし終わり、席を立つ。
そして荷物を置いていたロッカーが近かったこともあって話し込む。
「で、実際のところ水泳部だったかんじでしょ?」
「色々な部活をやってたんだ。結構緩い中学校だったからそういうのも容認されててね」
「へぇー。いいね、そういう学校。でさ、水泳部に一緒に入らない? 担当はさっきの先生が顧問で少し胡散臭い部分もあるけど、教える力は確かみたいだからさ」
「うーん、それなんだけどね……」
泳ぐのは楽しいと、改めて感じた。
五十メートルを泳ぎ切った直後はもっと泳ぎたいと考えたのは事実だし、おそらく水泳部に入れば二百メートルや四百メートルといった種目もあるのだろう。
かなり揺らいでいる部分はある。
このまま無所属でも評価のペナルティのようなものは無いと認識している。ただ、部活動を通して学校への貢献といったところでは無所属である限り加点されることはないだろう。
ケヤキモールで買い物をするのは楽しい。
けれど、それが三年も続くとなると流石に飽きる。
なら先輩後輩とも関係性を持てるような部活動に所属するべきか、かなり前向きに考える必要がある。
「今週いっぱいは考えてみようかなって」
とりあえず今は保留と返答しておき、放課後にでも色々な部活に顔を出して見学するのが一番だろう。自分が一番興味あって、どうせなら活躍できるような競技に没頭したい。
宮野さんは「そっかそっか、興味あったら水泳部に来てみてよ。わたしは入部するからさ」と言って、一緒に教室に戻ろうと誘ってくれた。
わたしは頷いて、一緒に戻る。
その道中、ヘアオイルを分けて貰った。
シトラスの良い香りがする。これで六時間目の授業も楽しく過ごせそうだ。
【
宮野真依:信頼度45(友人)
「いやー、すごいね、春宮さんっ。ぜひ水泳部に!」
荒垣佳正:信頼度40(相談できそうな相手)
「実力は本物だ。素直な性格は嫌いじゃない」
望月慎也:信頼度XX(警戒すべき相手)
「……」
放課後、自由行動です。
1.人と会う
1.一色颯 (クラスをまとめる男子)
2. 一之宮重孝 (全国模試二位の男子)
3.宮野真依 (水泳で競い合った女子)
4.錦山暁人・乙葉 (上級生で信頼できる男女)
2.校内を散策(特別棟・部活動を見学など)
3.ケヤキモールで買い物
4.寮へそのまま帰る
1の場合は「1-3」などで人の指定までお願いします。下1でお願いします。】
1 4
【>>151
1.人と会う
4.錦山暁人・乙葉】
プールの後の六時間目、眠そうにする生徒が見受けられる中、わたしは宮野さんに分けて貰ったヘアオイルの香りもあって随分と機嫌良く授業を受けることができた。
そうして迎えた放課後。
早見さんとの約束は明日のため、今日は何も予定がない。必要な日用品も買い揃えてしまったためケヤキモールにも用はない。となれば、誰かを誘うか。
少し考えて、わたしはとある人物へチャットを送る。返信はすぐに返ってきた。
『生徒会室に来てくれればいつでもいいよー』
そう書かれたメッセージを目に、わたしは鞄を持って席を立つ。
たしか生徒会室は一階の職員室あたりだったはず。ひとまず職員室まで行ってしまえば『生徒会室』の札を見つけることは容易だろうと踏む。
教室を出て職員室へ向かう途中、伊藤先生の背中が見える。相変わらず皺の寄ったスーツにボサボサの髪、そしてずっとお辞儀をしているかのような猫背だ。
追い抜くこともできず、一定の距離を保ち続けたままゆっくりと歩いていると、伊藤先生は足を止めて振り向く。
「あぁ、春宮さん、でしたか。刺客かと思いました」
「……先生に刺客なんて居るんですね」
「もう至るところに刺客だらけですよ」
どうやらわたしの見えない敵と戦っているらしい先生は、改めて歩き始める。どうせならと思い、わたしは並んで歩くようにする。
若干、生徒からの視線が痛いが仕方がない。
「体育では大活躍だったそうですね。大島先生が褒めていました。水泳部に誘うよう協力してくれ、とも。部活動はやられないんですか?」
「まぐれです。次やったらあのタイムは出せません。部活動は考えているところです。三年間、ずっと帰宅部というのも退屈かなと思っているので、前向きに検討しています」
「春宮さんなら色々な種目で活躍できると思います。で、そんな春宮さんはどちらに? この先は職員室くらいしかありませんよ」
「あれ、生徒会室ってこっちの方ではありませんでしたか?」
「そうですね、そうでした。生徒会室もこの先にあります。生徒会に興味があるんですか?」
「いえ、先輩と会おうって話をしたら生徒会にくるように言われました」
「先輩…?」
「乙葉先輩っていう、三年生の」
伊藤先生は「あぁ、あの人ですか」と頷く。
その表情は俯いているせいで伺えないが、どこか笑みを浮かべているように見えた。
「彼女は春宮さんに似ているタイプです。きっとたくさんのことを彼女から学べるでしょう」
多くは語らず、ただそれだけを言い残して伊藤先生は職員室へと消えて行く。
乙葉先輩がわたしに似ている、ね。
偶然、興味深い話を聞けた。
その言葉の真意を探る意味も込めて、職員室の先にある生徒会室へ歩みを進める。
◇◇◇
重厚な扉の前、わたしはノックした後に名乗る。
「一年Dクラスの春宮です」
すると中から「どうぞー」と軽い声が聞こえてきた。おそらく乙葉先輩だろう。
「失礼します」
そう言って扉を開くと、まず第一にソファに寝転がって携帯を弄る乙葉先輩が見えた。かなりスカートが危ないが、そんなヘマをするような先輩ではない。計算され尽くしたギリギリの格好をしているのだろう。
そして奥の生徒会長席に座る錦山暁人先輩。その席に相応しい会長らしい威厳を─────出していなかった。どうやら乙葉先輩と、もう一つのソファに座る少し派手目な上級生とアプリゲームで遊んでいるようだ。
「おう、天音。ちょっと座って待っててくれ」
「は、はい」
入って右側のソファは乙葉先輩が寝転んでいる。
必然と、派手目な格好をした上級生の隣にかけることになる。
「こちらよろしいでしょうか?」
「ん、あぁ、構わないよ。乙葉の上でも良かったんだけどね?」
「ひっどーい。まぁ天音ちゃんなら良いかなー」
どうやら隣に座る男性は乙葉先輩と同じ三年生の先輩のようだった。結構酷いことを言っても、冗談として受け流している。
それから一分ほど経つと、三人がほぼ同時に悲鳴に近い唸り声をあげる。どうやら負けたようだった。
「やっぱ四人じゃないとキツイな」
「ユキちゃん入れてもう一回やる?」
と、放課後の生徒会室は随分とゲームで盛り上がっているようだった。
上級生の輪に入れず肩身を狭くしていると、隣の男子生徒が近寄ってくる。ついさっきまで携帯に目をやっていたが、今はわたしの顔をジッと見つめている。
「君、可愛いね。一年だっけ。連絡先交換する?」
「あ、はぁ……」
「ほらー、困ってんじゃん。ごめんね天音ちゃん。コイツのことは基本無視でいいから」
ここでようやく携帯を閉じ、乙葉先輩はソファに座り直す。そしてぐっと身体を伸ばして一息ついてから切り出す。
「で、わたしに何かご用?」
「先日のお礼に、お茶でもどうかなって。もちろん錦山先輩もご一緒に。……迷惑でしたか?」
「ぜんっぜん迷惑じゃないよ! 行こう! 今すぐ行こう! 新作の苺のヤツ飲みに行こう! うっちー以外で! あー、二日ぶりの糖分だ! 山菜定食はどうにも食べた気がしなくてねー」
そう言って立ち上がる乙葉先輩。
そうか、浪費癖のある先輩は月初でも金欠で、必然と毎日無料で食べられる山菜定食を食べているのか。
「先輩もご一緒でも大丈夫ですよ」
「まじ? 天使じゃん、この子」
今日は臨時収入が入ったことだし、うっちーと呼ばれた先輩も込みで奢ることには全然抵抗感がない。
四人でもせいぜい三千ポイントといったところだろう。それでも余るほど大島先生からはボーナスを貰えた。
「あー、そういえば聞いたぜ。競泳で女子一位を取ったんだってな。大島先生だろ? 体育の担当。あの人はお喋りだからなー。明日には全校中に広まってるんじゃねーの?」
錦山先輩は立ち上がりながら、そう言った。
なんだか恥ずかしいな、と思いながらも、目の前の光景に少し疑問を覚える。
錦山先輩、乙葉先輩、うっちーと呼ばれた先輩。
その三人が、同時に生徒会室を出て行こうとする。
「生徒会室に誰も居ないってアリなんですか?」
「……まぁいいんじゃねーの?」
「わたし興味ないし」
「もうすぐユキが来るだろ」
誘った手前、取り止めるのは憚られるが、本当に良いのだろうか。
そんなことを考えている内に、先輩方は生徒会室を出て行く。わたしもそれを追うと、職員室の前で三人が一人の先生に止められていた。
わたしが合流した頃には先生はこめかみに手を当て、溜め息を吐いて道を譲っていた。どうやら生徒会室が不在の機会はそこそこあるようだった。
「大丈夫でしたか?」
「十五分くらいで戻ってくるって言ったら納得してくれたよ。さ、行こう行こう。今日は天音ちゃんの奢りだー」
二日ぶりの糖分を摂取しに行く軽い足取りの乙葉先輩を筆頭に、わたしは先輩方と雑談をしながらケヤキモールへの道を歩む。
ここでうっちー先輩の名前は内山和樹であることが判明した。内山先輩は学年、クラス問わずかなり交友関係が広いらしい。そして運動神経も抜群だとか。そして生徒会では庶務を担当しているらしい。
ちなみに乙葉先輩は副会長をやっているようだ。本人は「名前を置いてるだけで内心が上がるんだもん。これ以上楽なことないよねー」と言っていた。
そんな生徒会の役員の方々と楽しげに談笑するわたしの姿は、他の生徒からはどういう風に見えただろうか。
◇◇◇
ケヤキモールに向かった四人分と、ユキと呼ばれる先輩の分も含めて五人分の飲み物を持って生徒会室へ戻る。
すると長身の女子生徒が生徒会長用の机の上に座って足を組んでいた。手には文房具屋で購入したと思しきカッターナイフ。
率直に言って、怒ってそうだなぁと思った。
「おう、ユキ。とりあえず甘い物飲むか? 今話題の苺のやつだ。それに今日は後輩が居る。あんまり怖いイメージを持たれてもアレだろ? ……なぁ?」
カッターナイフはユキ先輩の手を離れる。
そのまま机の上に落とされただけだった。
「……飲む」
そう小さく答えると、錦山先輩と乙葉先輩は内山先輩の背中を強く押す。内山先輩は猛獣に餌をあげるように恐る恐る近付いて、右手に持った苺の飲み物をゆっくりと手渡す。
「ありがと」
短くお礼を言い、早速一口。
「去年より甘くなった? でも美味しい」
機嫌が良くなったのか、生徒会長の机から降りる。
そしてそのまま生徒会長の椅子に背中を預けた。
どうやら日常的な出来事らしく、わたしを含めて買い出し組はソファに座って一息つく。
「で、その子は? 一年?」
生徒会長席からジッと見る視線を感じる。
身内しか居ないこの場での異分子。それは間違いなくわたしのことだった。
「はい、一年Dクラスの春宮天音といいます。よろしくお願いします」
立ち上がり、一礼をすると「ふーん、そっか」と聞こえてきた。興味なさそうな声色だった。
ゆっくり座るわたしに乙葉先輩が顔を近付けて囁く。
「ユキちゃんはずっとあんなだから。決して嫌ってるとかじゃないからね」
それを聞いて少しホッとする。
その後、わたしの向かいに座る錦山先輩が思い出したように言う。
「ユキ、水泳の50メートル何秒だっけ」
「25秒75だったかな」
「天音は25秒14……だったか?」
「はい。確かそのくらいです」
「は、まじ? 一位ってのは聞いてたけど、ユキより早いとか超逸材じゃん」
驚いたような表情を見せる内山先輩とユキ先輩。
ユキ先輩はそこで初めてわたしに興味を持ったのか、質問をぶつけてくる。
「部活動は?」
「先生から水泳部には誘われました。あと友達からも。ですが、今週いっぱいは色々と見学してみて、それから決めようかな、と」
「じゃあウチ来なよ。生徒会に」
「え……」
生徒会長の席に座り、机に肘をついて話す先輩に、わたしは真面目に受け取るか冗談として受け取るか迷う。
「ちなみに俺は反対しないぜ?」
「わたしもー。こんな可愛い子を他の部活にあげるのは勿体無いからねー。ちょーぜつ優秀だし」
「俺もモチ賛成だ。この子には飲み物の礼もある」
錦山先輩が、乙葉先輩が、そして内山先輩までもわたしの生徒会入りを歓迎してくれるようだった。
これは流石に冗談じゃないのか、と考え始めたとき、内山先輩の言葉にユキ先輩が反応する。
「ん? 飲み物の礼? 暁人と和樹の奢りじゃないの?」
「……やべ。じゃあな、用事思い出した」
そう言って荷物をまとめて生徒会を出て行く内山先輩の後を、ユキ先輩が追う。おそらくすぐに捕まるだろう。
静かになった生徒会室で、錦山先輩は切り出す。
「悪いな、いつもこんな感じで騒がしいんだ」
「いえ、とても楽しくて良いところだと思います」
「そう言って貰えると助かる。で、さっきの話なんだが、アレは割と本気だ。生徒会と部活動の所属は両立できない。もし部活をやりたいなら、生徒会はナシだ。そこは曲げれない。まぁ暇なときに練習付き合うくらいなら構わないけどな」
錦山先輩の目は本気だった。
生徒会か…。
中学生の頃はあまり興味なかったけれど、こうして直に誘われると断りづらいという思いと同時に、興味も湧いてくる。
「仕事内容としてはそこらの学校と大差ない。ただ、この学校独自のアレに触れる機会があるくらいか。一年はまだアレをやってないから、それについては言えない。だが、きっと楽しいものではあると思う」
職務の一環として、学校独自のアレに携われる。
そう言われてもアレの実態が分からない以上、興味が惹かれるかと聞かれれば微妙なところだ。
「あと一応言っておくと、空いているのは書記と会計の二つ。さらに言うと、Aクラスの神宮くんとCクラスの立石くんは昨日ここに来たよ。生徒会に入りたいって」
「だが、二人には回答を待ってもらっている。俺たちの意思としては、天音を引き入れたいからな。ここだけの話、遅かれ早かれ誘うつもりだった。それに類稀な運動神経は全校に広まった。これでお膳立ては充分だろう?」
生徒会か。
おそらく生徒会の一員になることで、クラスメイトや他クラスの生徒がわたしを見る目が大きく変わることはよ予想される。それが羨望の眼差しか、警戒の眼差しか。どちらにせよ目立つことは避けられないだろう。
【多数決安価です。
1.生徒会に入る
2.生徒会に入らない
3.週末まで保留(土曜日まであと3日)
今後のことが大きく変わってくるため多数家とします。先に2票入ったものを採用します。】
1
2
1
【>>162 >>163 >>164
1.生徒会に入る 2票
2.生徒会に入らない 1票】
決心はついた。
わたしはこの学校で、生徒会として─────。
「ん、決まった?」
決意を口にしようとしたとき、ユキ先輩は戻ってくる。内山先輩は意識を失ったまま引き摺られている。脳震盪でも起こしたのだろうか。
そのままズルズルと引き摺った後、その辺りで手放す。元の位置に収まるように、ユキ先輩は生徒会長席に着く。
やや気圧されてしまったところはあるが、それでもわたしの決意は変わらない。
「先輩方が歓迎してくださるのなら、ぜひわたしを生徒会に入れていただけると嬉しいです」
そう言って頭を下げると、
「っし、決まりだな」
「生徒会に入ったら共通のアプリゲーム入れる決まりだからさー、早くインストールしようよ」
「待て乙葉、先に連絡先を交換だろ?」
「……」
床に寝る内山先輩以外は歓迎の意を見せてくれた。
なんだか恥ずかしくもあるが、胸の奥から嬉しいという気持ちが無尽蔵に湧き上がってくる。
早速、アプリゲームをインストールしている時間を利用してユキ先輩とも連絡先を交換する。そして『生徒会(仮)』のチャットへと招待される。
「さっき話した『アレ』の関係でな。悪いが、現段階では『生徒会』のチャットには入れられない。今は仮のチャットだが、あと一ヶ月か二ヶ月もすれば天音も入れてやることができる。決して省いている訳じゃないからな?」
「あ、はい。もちろんです。ありがとうございます」
わたしは改めて『生徒会(仮)』のチャット欄を眺める。
クラスのチャット、クラスの一部で作成されたチャットを含めて四つ目のグループチャットとなる。仮の生徒会には、この場に居る人物を除いてあと三名が入っていた。
「生徒会は生徒会長1人、副会長が3人、庶務と書記と会計がそれぞれ2人の合計10人で構成される。多分、他の学校より多い。まぁ後輩を育成って意味で枠を広く設けているらしい。で、空いているのは書記と会計の2つだ」
「書記の先輩枠はユキちゃんで、会計の先輩枠はサキちゃんだねー。名前の語感だけは似てるけど、性格的な意味では正反対かなー」
「どういう意味だ?」
「なんでもなーい」
ユキ先輩─────改め、如月深雪先輩は、ソファでぐだーっと姿勢を崩す乙葉先輩に鋭い視線を向ける。しかし乙葉先輩は個性であるマイペースをもってそれを回避したようだった。
「まぁ俺はどっちでもいいんだが、天音はユキと組ませた方が面白そうだしな。空いてる書記の枠に入ってくれ」
「はい、わかりました」
「で、あと一つの会計はAクラスの神宮に任せようと考えている。Cクラスの立石には悪いが、断らないとな」
Aクラスの神宮くんが同じく一年生として生徒会に入るようだ。まだ会ったことのない人だけど、同じ生徒会に所属するからには仲良くしていきたい。近々、一目見るくらいでも出来るといいな。
「はやる気持ちは分かるが、生徒会に入ったことは今週いっぱいは黙っててくれ。来週の全校集会で発表する」
「わかりました。内緒にしておきます」
「担任には俺から伝えておく。担任は誰だ?」
「伊藤先生です」
そう言った直後、床に寝る内山先輩以外の視線が交錯する。かなり真剣な表情で、しばらく静寂の時が流れる。
「……あぁ、そうか。伊藤先生な。オーケーだ。あとで伝えておくとしよう。伊藤先生だな」
「あれでしょ? スポーツ系の先生っ」
「いや、文系の先生じゃなかったか?」
「化学の先生だと記憶していたんだが」
正解は日本史の先生と、錦山先輩がやや掠っていたところか。わたしは苦笑いを浮かべながら、今後のことを再確認する。
今週いっぱいは生徒会に籍を置くことは他言してはいけない。それは、宮野さんに水泳部に誘われている身としては辛いものがある。あと数日の間に誘われれば一時的にでも嘘をついて断らなければならないからだ。
ひとまずはその事だけ注意していれば良いらしい。具体的な業務については来週以降に改めて説明の場を設けると話がつき、わたしは寮へ戻ることになった。
まだ明るい寮への帰り道、ひっきりなしに携帯が振動する。どうやら早速『生徒会(仮)』のチャットが動き始めたようだった。
あの場に居なかった先輩方も含めて、わたしを歓迎してくれているようで嬉しかった。
【イベント安価です。
奇数:Aクラスの神宮
偶数:翌日
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>168
5:Aクラスの神宮】
わたしが生徒会入りを決断した夜。
勧められたゲームが意外にも面白く、『生徒会(仮)』とのチャットを行き来していると、一件の個別チャットが届く。
相手は『神宮紫苑』。
わたしと同じく、生徒会に加入することになった一年Aクラスの男子生徒だ。
ゲームを中断してチャットアプリを起動する。
彼から確かに一件の通知が来ていた。
『急なご連絡ですみません。もしよろしければお話できませんか?』
挨拶もそこそこに、会えないかと送られてきた。
時刻は二十時を回ったところ。高校生にしてみればこの時間帯に会うことも不思議ではない。それに寮の中でとなれば、会える場所はいくらでもある。
わたしはすぐに返信をする。
『わかりました。ひとまず寮のロビーで待ち合わせでもよろしいですか? 時間はお任せします』
『もちろんです。それでは三十分後に』
短くそうやり取りをして、わたしたちは三十分後に落ち合う約束を取り決めた。
エレベーターが毎階止まることを想定しても二十分程度は余裕がある。とはいえ、相手を待たせるのは気が進まないため身嗜みを整え次第、すぐ移動しよう。
◇◇◇
わたしがロビーに着くと、ソファに腰をかけて携帯を弄る生徒が数名いた。その中で男子生徒に絞り込みをすると0人。
約束の時間まであと十分近くある。彼がもう到着している可能性も僅かながらあったが、さすがに早すぎたようだ。
わたしはエレベーターから近いソファに腰をかけ、人を待つ。その間、何人もの一年生がわたしの隣を通り過ぎて行った。
つい先ほどまでケヤキモールで遊んでいたと見られる制服姿の生徒、コンビニに買い出しに行くのか軽装の生徒。そのどれもがわたしに一度視線を向けてくる。どうやら水泳の授業での顛末は早速知れ渡っているみたいだった。
わたしが到着してから五分ほど経って、明確にわたしに近づいて来る者の気配があった。携帯をしまい、立ち上がって彼の姿を視認する。
一言で表すと、普通の生徒だった。
身長は百六十五センチほどで、高すぎるほどでも低すぎるほどでもない。顔は童顔、色白、そして体格は痩せ身と、服装以外では女の子と見間違えるほどだ。
「初めまして、一年Aクラスの神宮です」
「こちらこそ初めまして、一年Dクラスの春宮です」
寮の一階、ロビーで握手を交わす。
しかしここでは通行人に目立つこともあり、裏口から出た先で話し合うことになった。
人気の無い落ち着いたベンチに腰をかけ、ゆっくりと話を始める。
「錦山会長から聞いたよ。今日、春宮さんが生徒会に入ることになったって。そして同時に、僕も入ることになったって。Cクラスの立石くんには謝るとも」
「……そのようですね」
遅かれ早かれ、わたしに声をかけるつもりだったとは聞いていたが、どうにも立石くんの枠を奪ってしまった気がしてならない。ただ、そのことを訊いても明確な回答は貰えないだろう。
わたしは首を振り、そのことを忘れようとする。
「春宮さんのことは聞いているよ。去年の全国模試で一位を取ったことも、今日の体育のことも。僕なんかとは違って、才能に恵まれているようで羨ましいよ」
やや皮肉げに言う彼に、何かを言ってあげたかったがそれは叶わない。わたしは彼のことを一切知らず、彼はわたしの成績を知っている。
「わたしなんかより」という話は出来ない。
神宮くんとはどんな生徒なのか、今のところわたしに一切情報がない。錦山先輩が彼を選んだ。ただそれだけの情報しか持ち合わせていない。
「ごめん。わたし、神宮くんのことを何も知らない」
「あはは、そうだよね。まだ学力テストとかもやってないし、僕のクラスは体育もまだだから。強いて言うなら、そうだね。自己評価になってしまうけど、僕は普通だよ。勉強が得意な訳でも、運動が得意な訳でもない。かと言って苦手でもない」
普通であること。
それは、難しいらしい。
人は普通に憧れる、と本で読んだことがある。
「理解できないよね、春宮さんには。言い方は悪いけど、君は普通じゃない。良い方向に才能が上振れし過ぎている人間の代表例だ。もし君が普通であることを渇望するとき、それはその他大勢の人が望む普通とは真逆なんだろうね」
言っていることの理解はできる。
実際にわたしは普通であることを何度か望んだことがある。それは、テストで良い点数を取りすぎないこと。限りなく普通を示す平均点を取ろうと努力した経験が昨日のように思い起こされる。
その一方、点数の悪い学生は一回は考える。せめて普通くらいの点数を取れたら、と。
わたしは100点を50点に、他の人は10点を50点に。
そういう意味で、真逆の普通なんだろう。
「あぁ、気を悪くしたらごめんね? 決して悪気は無い、つもりなんだ。僕は君が憎いほど羨ましいから」
「……そう、ですか」
ここで「わたしなんて碌な人間じゃないです」と答えるのも何か違う気がする。
今はまだ神宮紫苑という男子生徒のことを理解できていない以上、肯定も否定もするべきでない。
ただただ彼の言葉に耳を傾け続けるべきだ。
「と、ごめん。こんな話をしにきたんじゃなかった。改めて来週から、僕たちは生徒会の一員となる。その挨拶をしようと思ったんだ。まずは同学年の春宮さんにね」
「こちらこそよろしくお願いします。わたしも近々、お会いする機会を探そうと思っていました」
「そう? なら良かった。あと、出来ればタメ口にしてもらえないかな? 一応、同学年なわけだしね」
「ぁ……うん、わかった」
わたしが頷くと、彼は携帯を取り出す。
「先輩たちに勧められたゲーム、やってる?」
「うん、まだ全然だけど─────」
春とはいえ、今夜は冷える。
しかしそれが気にならないほど、わたしと神宮くんは話し込む。主にゲーム、いや、ゲームの話だけで。
彼はゲームが得意なようだった。
わたしが行き詰まっているところもすぐに解決し、その先へ進むことができた。
およそ一時間。二人でゲームをして、解散となる。
結論として。
神宮紫苑は、今のところ最も警戒すべき一年生としてわたしの中で順位付ける。
彼の目に宿る憎しみ。
それは、一朝一夕で賄えるものではないだろう。
【少し早いですが、今回はここまでにします。
遅筆なこともあってなかなか進まないですが、明日以降はペースアップしていきます。
ほぼダイジェストのような形で早見有紗との放課後、生徒会に入ることが全校生徒に広まる、を行ないます。
その後は中間テストをやります。
中間テストを無事乗り越えた後は特別試験となります。
引き続きお願いします。お疲れ様でした。】
主人公がとても優秀だあ
【再開します。】
わたしが生徒会に入ることを決めた翌日。
生徒会のお仕事は週明けからということになっているため、今日は元々の予定を遂行できる。
そう、放課後に早見さんとお出掛けすることだ。
この前は白髪の男子生徒に水を差されて打ち切りとなってしまったが、今日は無事にゆっくりとお茶ができるだろう。
午前と午後の授業を乗り越え、各々が部活やケヤキモール、寮へと向かい始めたとき、わたしは早見さんに声をかける。
「早見さん、今日の予定は大丈夫かな」
「は、はい…。大丈夫、です」
未だにやや警戒されているところだが、こればかりは少しずつ距離を縮めていくしかない。
わたしは早見さんと横並びになり、教室を出る。
教室の扉を閉めるまでわたし達の背中に向けられていた視線について、今追及することは避けよう。
「今日もケヤキモールでいいかな」
「はい」
短くそう返ってくる。
とはいえ、娯楽施設がケヤキモールという一つのショッピングモールに集中しているため、寄り道をするにはケヤキモールかコンビニかの二択になる。
放課後に友達と向かう先といえば、ケヤキモール一択になるだろう。
今日は暖かく、学校を出ると暖かい空気がわたし達を包み込む。窓側の席だけあって授業中に眠気を感じなかったかと聞かれれば怪しいところだが、こうして外に出るととても気持ちが良い。
学校から徒歩数分でケヤキモールの入り口に着く。
お互いに買い物をするつもりはなかったため、そのまま幾つかのカフェが集中している場所へと向かう。
この前は無理矢理誘って、無理矢理カフェを決めさせていたため、わたしは入念に下調べをしてきた。
「ここでも良いかな?」
「はい、そちらで大丈夫です」
確認を取った後、各々が注文をする。
この前のお礼も兼ねて奢ると言ったのだが、それは拒否されてしまった。理由があるとはいえ2回連続で奢られることにはわたしも抵抗があるため、そこは受け入れることにした。
わたしはアイスティー、早見さんはアイスレモンティーが入ったカップを持って席に着く。放課後間もないこともあり、埋まっている席は疎らだ。
「あの、前から気になっていたのですが」
席に着いてすぐ、早見さんからそう切り出してきた。
わたしは頷き、質問に答える姿勢を見せる。
「変な意味ではないのですが、どうしてわたしとお茶してくれるんですか?」
お茶をしてくれる。
そう聞いて、自己評価の低い女の子だと再認識する。
対等な関係であれば「お茶をするんですか」と少し突き付けるような言葉でも良かったはずだ。彼女なりに気を遣った線も考えられるが、おそらく自己評価の低さからのものだろう。
わたしは至極当然のように、その質問に答える。
【安価です。
1.「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから」
2.「余計なお世話かもしれないけど、わたしはクラスの全員が仲良くしてほしいと思ってる。もちろん早見さんもその内の一人」
下1でお願いします。】
1
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【>>179
1. 「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから」 】
彼女が極度の人見知りでクラスに馴染みにくそうだったため、わたしが橋渡し的な役割を担おうという本質的な部分が第一に思い浮かぶ。
ただ、それは彼女からしてみれば余計なお世話かもしれないし、言葉を間違えばわたしが偽善者として映ってしまうのは避けられない。
そのため第二に思いつく運命的な出会いの旨を話すことにする。
「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから、かな」
クラス内が自己紹介をしようと話している中、彼女が気分を悪そうにして教室を出て行く姿は記憶に新しい。席が近くなければ彼女の顔色は伺えなかったし、結果として彼女が駆け込んだトイレで数言交わすこともなかった。
「ぁ……そう、なんですね。すみません変なこと聞いてしまって。他意は無いんです。春宮さんが良い人ってことは分かっていますから」
「良い人って言われると少し照れるけど、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
疑惑が晴れたためか、その後は純真な目をして色々なことを話すことが出来た。
好きなこと、好きな食べ物飲み物、春夏秋冬でどれが好きか、誕生日について。
他愛のない話。ほんの雑談程度の話。
それでも彼女は、わたしに心を開いてくれた。
この調子で席の周りの子と話せるように調整できれば、今月中には人見知りも多少緩和されるだろう。
彼女が半歩ずつでも前進できることを隣で、あるいは後ろの席からサポートしていきたいと思う。
【週末イベント安価です。
1.ケヤキモールへ
2.人と会う
1.早見有紗 (前の席の女子)
2.一色颯 (クラスをまとめる男子) ? 3.一之宮重孝 (全国模試二位の男子) ? 4.宮野真依 (水泳で競い合った女子)
5.錦山暁人 (信頼できる生徒会長)
6.花菱乙葉 (信頼できる生徒副会長)
3.寮で過ごす
勉強と運動の必要性がまったく無いため、先日購入した料理の本を読んで料理スキルアップです。
2の場合は「2-1」などでお願いします。
下1でお願いします。
春宮天音
学力:97(綾小路) ? 身体能力:99(綾小路) ? 直感・洞察力:91(坂柳) ? 協調生:53(1年後半堀北) ? 成長性:74(高) ? メンタル:86(龍園) ? 料理:27(苦手)】
1
【>>183
1.ケヤキモールへ】
高校生活6日目。
初めての週末、いつも通りの時間にわたしは目を覚ます。平日でも休日でも、こういう習慣的なところは高校生になっても変わらない。
窓を開ければ春の風が部屋中を満たし、爽やかな気持ちにさせてくれる。身体を伸ばし、深呼吸をすると頭がクリアになっていくのが分かる。
ちなみにわたしの部屋は11階であり、近い距離に高い建物は無いためカーテンを開けても部屋の中を覗かれる心配は無い。ただ、目の前に見える学校から望遠鏡を使えばその限りではないかもしれない。
下らない思考は捨て、まずケトルでお湯を沸かす。
湧き上がるまでの時間を使って顔を洗い、寝間着から部屋着に着替え、洗濯機を回すとちょうどケトルは電子音を鳴り響かせる。
お気に入りのマグカップとアソートティーバッグの中から気分で紅茶を選択してケトルをカップへ傾ける。
ベッドに腰をかけ、マグカップを軽く口元へ傾けることでようやく一日の始まりを実感する。
さて、今日はどうしたものか。
特別、連絡先を交換した人からの誘いはない。
こちらから誘うにしても、この週末を利用して平日には出来なかった買い物をする人も多くいるだろう。
ベッドの上で軽く身体を解しながら考えていると、ひとまず今日の予定が決まる。
「よし、決まった」
そう声に出して、わたしはケヤキモールが開店する10時前まではインターネットサーフィンをすることにした。
部屋に備え付けられたデスクトップパソコンは、動画を見たり調べ物をするのには最適だ。おそらく銃を使ったりするゲームは出来ないだろう。
日本国内外を問わずトレンドになっている記事を眺め、ただただ時間を潰す。
◇◇◇
9時50分に外行きの服に着替えて寮を出る。
ロビーには多数の一年生が居た。待ち合わせをしている者、ケヤキモールの開店時間までもう少し待機する者など、ざっと二十人程度。同じクラスの男子も居たが、特に話す込むようなこともなかった。
桜が散りつつある並木路を通ってケヤキモールへ。
入り口の前には学年を問わずチラホラと学生が開店待ちをしていた。わたしは少し離れた日陰でジッと待つ。
誰かと話すこともなく、邪魔にならない場所でアプリゲームを少しだけ進めて待っていると10時になる。
わいわいとモールへ入り込む学生。
あっという間に入り口付近は人が疎らとなり、その頃を見計らってわたしも入店する。
今日の目的は、特にない。
この学校に通う限りはこの敷地内でしか生活ができないため、暇つぶしといえばモールを訪れてショッピングくらいしかないのだ。
本屋で時間を潰すも良し、おそらく買う機会の無い高級家具や家電製品に触れるも良し。娯楽施設の整った4階で遊ぶのも良いだろう。ゲームセンター、カラオケ、ボウリングまで揃っている。いずれも小規模だが、順番待ちなどは携帯から確認ができる。少なくとも今は待ち時間なく遊べるはずだ。
そんなことを考えながら、わたしは徘徊する。
【安価です。
1.カラオケ(イベントなし。この後音楽センスについて安価実実施)
2.ボウリング(コンマ1桁が3・7で生徒会のメンバー)
3.本屋(コンマ1桁が1・5・8・0で荒垣)
4.食品売り場(コンマ1桁が1・4・7・0で神宮)
5.カフェ(コンマ1桁が2・5・9で宮野)
選択と同時にコンマ判定でイベントの有無も行います。
下1でお願いします。】
1
【>>186
1.カラオケ】
わたしはケヤキモール内の4階にあるカラオケへやって来た。開店から間もないこともあり、4階というフロア自体にも人の姿は少ない。そんな中でもカラオケの受付はガラッと空いていた。
受付のお兄さんと数言交わして3時間コースを取り、学生証端末を専用の装置にかざして手続きが完了する。
この後誰かと待ち合わせの予定は無かったがマイク2本を受け取り、指定された部屋へと赴く。
室内はとても綺麗で十人弱は優に入れそうだった。
そんな広い部屋に荷物を置いた後、フリードリンクを取りに行く。ジュース各種、お茶各種、コーヒー、水、さらにはコーンスープまで。
少し迷った末、わたしはボタンを押して緑茶を注ぐ。なんとなくジュースの気分でもコーヒーの気分でもなかった。
ドリンクの入ったグラスを手にして部屋へ戻る。
そこに誰かが居るわけでもなく、改めてこの広い部屋で喉を潤す。
「あ、ここにはないんだ」
ふと天井を見上げ、監視カメラが無いことを確認する。
学校では教室や廊下、ケヤキモールでは基本的に全ての店舗、通路、またカラオケの受付にも監視カメラが設置されていることを何となく把握していた。
しかしこの個室はプライバシーのためかカメラが設置されていない。大人数での密会にはうってつけの場所なんだろう。
と、そんな分析はそのくらいにして。
カラオケに来た理由はただひとつ。
そう、─────。
【天音の音楽センスについて。
歌唱センスもそうですが、楽器センスも込みです。
下1のコンマ2桁を反転でお願いします。
例: 27 → 72
ゾロ目は再安価の権利になります。
この場で再安価でも良いですし、この先のコンマ安価です再安価の権利を使用することもできます。】
あ
【>>188
41 → 14(下手)】
そう、わたしには音楽的なセンスが欠けらもない。
中学生の頃まではなんとかなっていたが、もうそれも限界だろう。何より学校の敷地内にこのカラオケ施設がある時点で今後の付き合いは免れない。
わたしは前向きに短所を克服するため、初めてのカラオケに一人で来たのだった。
「よし」
歌を歌うだけで音楽センスが光り輝くとは考えにくいが、何事も挑戦を繰り返し成功と失敗を積み重ねて学習するだけだ。
帰りに本屋で楽器や歌に関する本の購入を視野に入れて、わたしは3時間歌い続ける。
およそ人様に聴かせられるような歌声では無かったと思うが、幸い今日のわたしは一人。防音性もかなり優れたこの部屋からわたしの声がすることはなかっただろう。
3時間後、わたしは1500ポイントと高くも安くもないポイントを支払って誰にも見られることなく退出することに成功する。
実感として、ほんの少しだけ音楽というものに理解を示せた……というのは気のせいだろうか。
【安価です。
次に行く場所について(昼)
1.本屋(料理もしくは音楽に関する本の購入可能)
2.食品売り場(この後寮で料理をしてスキルアップ)
3.寮へ戻る(先日購入した料理の本を読み切る)
下1でお願いします。
また、今回カラオケを行ったことで春宮天音の音楽センスがレベルアップします。
上の安価平行してコンマ安価を行います。
コンマ2桁反転(例17 → 71)で、下記の通り音楽センスが上昇します。
01~29:2
30~49:3
50~79:4
80~89:5
90~98:7
ゾロ目:10
※成長率74(高)ボーナス込みです。】
2
趣味的技能の能力がかなり低い…真面目系かな
【>>190
音楽センス 23 → 32 :3上昇
14 → 17
今のところのステータスです。
学力:97(綾小路)
身体能力:99(綾小路)
直感・洞察力:91(坂柳)
協調生:53(2年堀北)
成長性:74(高)
メンタル:86(龍園)
料理:27(苦手)
音学:17(苦手)
続きは今晩にします。
お疲れ様でした。引き続きお願いします。】
【再開します。】
【>>190
2.食品売り場】
10時きっかりに入店してカラオケで3時間を費やす。
すると時刻は13時を回っていて、歌い続けていたことも手伝ってお腹が空いてきた。
カラオケのある階から1つ下の階まで移動すれば様々な飲食店が立ち並んでいたが、わたしはエスカレーターを降りながらそれをスルーして1階の食品売り場へと向かう。
そこは地元のスーパー顔負けな品揃え。
スーパー内で調理されたお弁当やお惣菜、パンから始まり、生鮮食品、調味料、冷凍食品、インスタントラーメン、お菓子、飲み物など。本当に全てが揃っていると言っても過言ではない。
わたしはカゴを持ち、調理済みのコーナーをスルーする。今日ばかりは自炊に挑戦しようという気構えだからだ。
生鮮食品コーナーに着くと、無意識のうちに手を顎に当てて考えこんでしまう。
さて、どうしたものかと。
「……」
周囲の人は疎らであるため長時間立ち尽くしていてもそれほど迷惑にはならない。
時間をたっぷりと使って、高確率で失敗を回避できそうなレシピを思い浮かべる。
ここでふと、先日購入した料理の本の序盤に書いてあったことを思い出す。それは初心者がまず挑戦するべき料理の系統について。
「煮込み……」
それは決まった食材を切って、鍋に入れて決まった時間加熱するだけの調理法。炒め物などとは異なり、スピード感が求められない料理は初心者向けらしい。
もちろん世間一般の初心者よりもわたしの手際が劣っている可能性もあるが、誰かに食べさせるわけでもない。第一歩として挑戦してみる価値はある。
そうと決まればわたしは本屋で立ち読みしたレシピを思い出す。
チキンのトマト煮込み、煮込みハンバーグ、ビーフシチュー、極論クラムチャウダーとかも煮込み料理なのかな。いや、ということはお味噌汁も煮込み?
煮込みという言葉がゲシュタルト崩壊を起こす中、せっかくなら挑戦してみたいという気持ちが強くなるのを実感する。
立ち尽くしていた時間は20秒ほど。
わたしは最初に思いついたチキンのトマト煮込みを作るため、レシピ本に書かれていた食材と調味料をカゴの中へと入れていった。
お会計は5020ポイント。
かなり行ったなぁ、と思ったが、今回使用する調味料以外にも普段使い用の調味料を揃えたのが大きかったと思う。あと5キロのお米も買っておいたため、それらの合計と考えれば納得だ。
寮まで持って帰るのが億劫だなと考えていると、お会計金額が5000ポイント以上を超えた場合は寮まで運んでくれるサービスもあるらしい。狙ったかのようにサービスを受けれる金額のため、わたしはお願いすることにした。
さぁて、料理、頑張るぞー!
心の中で自らを鼓舞して、軽い足取りで寮への帰路に着く。
【コンマ安価です。
現在の料理スキル:27(苦手)
ゾロ目:大大成功(8ポイントアップ)
7:大成功(5ポイントアップ)
1・5・:成功(3ポイントアップ)
2・4・8:微妙(1ポイントアップ)
3・6・0:失敗(2ポイントダウン)
下1でお願いします。】
スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています
何故一旦停止しないのですか
何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?
【>>196
0:失敗】
結果だけ簡潔に述べると、わたしは失敗したらしい。
やや酸味と塩味が強く、鶏肉の食感も合格点には程遠い。あらゆる面で劣っているソレは、失敗と称するに相応しい出来だっただろう。
自分のポテンシャルの低さを想定して少なく作っていたことが幸いして食べきることは出来た。確かに空腹は満たせたが、それは有意義な食事ではなかった。
レシピを立ち読みで覚え切った罰か。
しっかりレシピ本を購入することを視野に入れ、また料理が得意な人に教わることを前向きに検討して片付けを始める。
「わたし、料理の才能ないのかな…」
わたしはそう呟いた。
食器についた泡を水で流す音で相殺されてしまいそうなほど小さな声は、わたしが胸の内でショックを受けていることを明確に示していた。
なんだか料理の腕が落ちた気がする。
【料理スキル 27→25】
◇◇◇
週明け、高校生活も2週目に突入した。
今日は朝から全校集会が予定されている。
わたしは講堂へと向かう途中で伊藤先生に呼び止められ、本来生徒が集まる場所とは異なる場所で待機することとなる。
「天音ちゃん、おはよー。元気元気?」
「乙葉先輩、おはようございますっ。週末にちょっと嫌なことがありましたけど、元気です!」
「ん、嫌なこと? 相談してね、ユキちゃんに!」
乙葉先輩の隣に居る如月深雪先輩─────通称、ユキ先輩は生徒会におけるわたしの直属の上司というか指導役になる。
今後生徒会の仕事だけでなく、もしかしたらプライベートの相談にも乗ってくれるかもしれない。
「おい、……まぁ、私で良ければ相談には乗るが」
「もう一回挑戦してみて、挫折しそうになったら相談させてください!」
「何のことかは知らないが、自分の中で一区切りつくまで挑戦するのは良い心掛けだな。そして壁に当たったときは早めに相談するのも良いだろう」
早速ありがたいお言葉を頂戴し、わたしはユキ先輩と他愛も無い雑談を幾つか交わす。
気が付けば全校集会は始まっていて、どうしてわたし達がこんなにも私語に花を咲かせることができるのか。それは舞台袖に待機しているからだ。
周りには生徒は居らず、先生も居ない。
ただ、ほんの少し前へ踏み出せば全校生徒の注目の的となるポジションだ。当然、緊張はしている。
後ろに居る神宮くんは膝を震わせているほどだ。
「天音ちゃんは結構大丈夫そうだね。こういう場所って慣れてるの?」
「いえ、まったく。ただ緊張しすぎても意味がないって自分の中で折り合いをつけているだけです」
「お、いいねぇ。そーいうの大事だと思うよ」
「おい、そろそろだぞ」
ユキ先輩の言葉に、わたし達は口を閉じる。
向こう側の舞台袖から錦山先輩─────錦山暁人生徒会長が全校生徒の前に立つ。
息を呑む音が聞こえて来そうな緊張感だった。
淡々と進行を進めていき、今年度の生徒会メンバーを発表する場へと移る。
役職順に呼ばれていき、三年生の書記であるユキ先輩が呼ばれた。その次は─────わたし。
「書記。一年Dクラス、春宮天音」
「はい」
なるべく生徒のことは視界に入れず、ユキ先輩の隣に立つ。前を向くと、嫌でも無数の生徒が視界に入る。決してわたしを見ている訳ではないと理解していても、見られていると錯覚してしまう。
舞台上からは全校生徒の顔がハッキリと見えた。
同じクラスの生徒はとても驚いた表情をしている。
ここまで内緒だと箝口令が敷かれていたとはいえ、かなり申し訳ない気持ちになる。
副会長以下九名が錦山生徒会長の後ろに立つと、そのまま錦山生徒会長は締め括りの言葉を口にする。
これでお披露目の式は完遂された。
舞台袖に戻ると、わたしはふぅっと息を吐く。
「緊張したか?」
「そう、ですね。やっぱり緊張しました」
「まぁ、程良い緊張は、人を成長させるための良い刺激になるだろうよ」
ありふれた言葉かもしれないが、良いことを言う先輩だなと改めて実感していると、全校集会そのものが締め括られる。
ここで一旦わたしたちも解散となり、また放課後に生徒会室で集まるようにと指示を受ける。
各々が教室へ戻っていく中、わたしは同じ一年で戻る方向も同じな神宮くんに声をかける。
「一緒に戻ってもいい?」
「うん、もちろんだよ」
中性的な顔立ちをする彼がそう頷くのを確認後、わたしは彼と肩を並べて教室までの廊下を歩く。
「緊張したねー。ただ立っているだけなのに、もう膝から崩れ落ちちゃいそうだったよ」
「僕は舞台袖に居た頃からずっとそんなかんじだったよ。錦山先輩はすごいなぁ、あんなに堂々と話しているんだもん」
「そうだね。経験の差があるとはいえ、自分が全校生徒の前で話す想像はつかないよね」
そんなことを話していると、あっという間に教室前へと到着した。講堂の方からだとAクラスが近く、また放課後に合流する約束を神宮くんとして別れる。
【イベント安価です。
奇数:白髪の男子生徒
偶数:1年Dクラス
下1のコンマ1桁でお願いします。】
へい
【>>201
8:1年Dクラス】
Aクラス前の教室で神宮くんと別れ、Bクラス、Cクラスの前を通っていく。もう間も無くホームルームであるためか廊下で人とすれ違うことなく、Dクラスの教室、その後方の扉の前に立つ。
わたしの席が窓側の一番後ろであるため、登下校のときは良くこちら側の扉を利用している。全校集会後も例外でなく、自然と足が伸びてしまった。
扉の前で小さく深呼吸をする。
「……ふぅっ」
生徒会の役員になることが決定してから約五日。
クラスの人には黙ってきた。
そして先ほど集会の場で全員に知れ渡った。
この扉の先には、どんな感情が渦巻いているのか。
「よし」
扉を開けると、全員の視線を一斉に浴びる。
わたしは特に何もなかったかのように自分の席に着こうとするが、やはりそうは問屋が下さない。
まず水泳の授業を通して仲良くなった宮野さんが駆け寄ってくる。それから彼女と仲の良い女子も数名。
「春宮さんっ! すごい! 生徒会なんて!」
「そ、そうかな? たまたま声をかけて貰ってね?」
「良いと思うよ! 本当は水泳部に入って欲しかったけど、生徒会なら納得ってかんじ!」
この中に生徒会入りを希望していた人が居たとすれば、わたしは憎まれる対象になるかもしれない。
ただ、そんな人はいなかった。
おおよそ想定通りの祝福ムードといえる。
それから数言交わしていると、伊藤先生がホームルームのため教室前方の扉から入ってくる。宮野さん達が席に戻るのを見送って、わたしも席に着く。
「全校集会お疲れ様でした。ご存知の通りかと思いますが、このクラスから春宮さんが生徒会の書記となりました。色々と頼りにするのは結構ですが、頼りすぎないよう注意してください」
どうしてか今日の伊藤先生の背筋は伸びているように見える。クラスから生徒会役員が出た為か。
わたしの観察を知る由もなく、先生は続ける。
「なお、学校の歴史を見ても1年Dクラスから生徒会役員が出たことはありません」
そこでわたしは首を傾げる。
なんだか奇妙な言い回しに聞こえたからだ。
1年Dクラスから生徒会役員が出たことがない?
偶然そういうこともあり得るの……かな?
「連絡事項は以上です。1時間目の準備をするように」
そう言い残して出席簿を片手に教室を出て行く先生。それと入れ替わるように数学担当の先生が教室に入ってきた。
後を追って話を聞こうかと思ったが、それを阻まれた形となる。友達同士の雑談も出来ないまま、わたしは数学のノートを机に出し、タブレット端末から数学の教科書を起動する。
◇◇◇
放課後、わたしはAクラスの教室前まで来ていた。
お昼休みに神宮くんとチャットをして、今日の放課後は一緒に生徒会室へ行くことを約束していたからだ。
1分ほど外を眺めて待っていると、彼はやって来る。
「ごめん、お待たせ」
「ううん。大丈夫だった? お友達とか」
「先生と少し話していただけだから。さ、行こっか」
神宮くんと並ぶように生徒会室へと向かう。
わたしとしては道を引き返す形となり、Bクラス、Cクラス、そしてDクラスの教室の前の階段を使って降りる。
道中、かなり多くの人に注目されていて緊張する。
生徒会役員になったからには、あまり恥ずかしい真似はできない。1人カラオケとかしていると後ろ指を指される、なんてことも。
そんなことを考えていると生徒会室前へ到着する。
前に訪れた時と異なり、ノック等は不要らしい。ただ『生徒会(仮)』のチャットに入室する旨を書くように言われている。
内山先輩曰く、
「生徒会のメンツでノックなんて他人行儀だろ? だからと言って何の前触れも無しに扉を開けるのはノーだ。俺たちは一応ゲームしているのを後ろめたく思ってるからな。先生かと勘違いする。つまりチャットで連絡しろってコトだ」
とのこと。
今回は神宮くんがチャットを送ってくれた。
特に返事がある訳ではないため、そのまま扉を開く。
「おっつー」
この前と同じくソファで寝転がる乙葉先輩。
生徒会長である錦山先輩はユキ先輩に生徒会長席を奪われて内山先輩の隣に座っている。今日も今日とてゲームで盛り上がっているみたいだった。
「暇なのかな」
「乙葉ちゃーん、声に出てるー」
「まぁ間違ってはいない」
ハッと口元を抑えるが手遅れだった。
しかしそんなわたしを嗜めることなく、ユキ先輩が同調してくれた。この人はかなり真面目系だと思っていたが、例に漏れず混ざってゲームをしていた。
「ま、適当なところ掛けてよ。この部屋、無駄に広いし、役員分以上に椅子もあるんだしさ」
そう促されてわたしと神宮くんは端の方に座る。
さて今日は何をするんだ?と考えていると、
【イベント安価。
奇数:「水泳部が新生徒会に宣戦布告だって!」
偶数:「あと10分もしたら他の連中も来るだろ」
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>206
7:「水泳部が新生徒会に宣戦布告だって!」】
「おっと。今年は早いなぁ」
ゲームを嗜む乙葉先輩が小さく呟いて数秒後、鞄の中に入れていた携帯が通知を知らせてくる。
わたしは鞄から、神宮くんはブレザーのポケットに入れていた携帯を取り出そうとしたとき、乙葉先輩がソファの背もたれに掴まって起き上がる。同時に錦山先輩と内山先輩、生徒会長席で寛ぐユキ先輩までもが立ち上がった。
「よし、行くぞ」
錦山先輩が先導して生徒会室の扉から廊下へ出る。
ひとまずわたし達も立ち上がり、並行して携帯に届いた通知を確認する。想定通り『生徒会(仮)』のグループチャットに向けて一通の連絡事項が届いていた。
その内容は─────。
「なーにしてるの? 行くよ?」
その連絡事項の意味が分からず立ち尽くすわたし達に上機嫌な乙葉先輩が声をかけてくれる。
わたしは改めて連絡事項の一文を読み返すが、やはり理解が追いつかない。無理に考えるのは諦めて、携帯の画面を先輩に見せながら訊いてみる。
「水泳部と対決するからプール集合ってどういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ? 宣戦布告されたから、ちょっと懲らしめに行ってやろうってね」
「懲らしめる……」
「そうそう。新生徒会の力を見せてやろうじゃないかってハナシ。売られた喧嘩は買うのが生徒会だからねー」
言っている意味は理解できたが、行動に移す意味が分からない。ただそれでも先輩方が決めたのなら、下級生であるわたしが否定する権利もない。
わたしと神宮くんは顔を見合わせてお互いの動向を伺うが、それもほんの少しの間だけ。
二人揃って乙葉先輩の後を追うように生徒会室を出る。
新生徒会が発足して初日。
早速、この生徒会室は無人の部屋となった。
◇◇◇
プール前に新生徒会の全員が揃っていた。
今朝の全校集会前に軽く挨拶をしただけの先輩が四人もいる。いずれも一学年上の二年生だ。
急にプール集合となったことについて何の疑問も抱いていないようで、「またか」とか「勝てば済む話だろ」など和気藹々としている。
ここで錦山先輩が手を2回叩き、わたしを含めた新生徒会メンバー全員の注目を集める。
「さて」
そう一間置いて、話し出す。
「乙葉の連絡通り、まぁ例年通りのアレだ。水泳部に喧嘩を売られた。部費を増やせとか、生徒会が偉そうにしているのが気に入らないとか、役員に対しての私怨とか、乙葉がポイントを返さないとか、そういうのじゃねぇ」
最後のは喧嘩を売られるどころか、教師を巻き込んだ苦情になりかねない案件だと思うが、ここで口出しは出来ない。先輩の言葉は続く。
「売られた喧嘩は買う。そしてタダでは済まさない。俺たちが勝てば向こうの奢りで飯だ。神宮、十九時からケヤキモールの焼肉屋を予約しておけ」
「は、はい」
「名義は三年Bクラスの麻倉だ。人数は……」
「今朝の時点で水泳部は27名、生徒会を併せて37名です。顧問の大島先生を入れると38名になります」
「とりあえず40人分の席を取ってくれ。残りは適当なヤツを呼んでおく」
途中、副会長の1人である二年生の佐倉新汰先輩の一言もあり、予約人数が決定する。隣の神宮くんは早速携帯で予約を取り始める。
それにしても、なるほど。
水泳部との競泳対決。勝てば向こうお奢りで焼肉。
非常に魅力的だと思う反面、言及していなかったが負ければこっちの奢りになる可能性は充分にある。それを考えるとやや頭が痛いが、先輩たちの余裕そうな振る舞いからして勝機はあるんだろう。
競泳対決の時点で向こうにかなりの分がある。タイムか距離か、メンバーの選出でハンデが設けられてようやく互角といったところか。
「やるからには勝つ。いや、勝たないとヤバい。この10人で教師を除く37人分を奢りは笑えない」
「ちなみにわたしの残ポイントは0だからね!」
引きつった笑みを浮かべる乙葉先輩以外の面々に対して、本人は満面の笑みだった。よほど焼肉が楽しみと見える。それは勝つことを確信しているから…かな。
何も考えずにノーリスク・ハイリターンを望んでいるのなら、一刻も早くその認識を改めて欲しい。
「どちらにせよこの後は親睦会の予定だった。向こうの奢りになれば、この上なく最高だろ?」
その一言に、新生徒会は盛り上がる。
一方、わたしは頭の中で1人あたりの出費を算出してしまい、どうにも盛り上がれないでいた。
この対決は、今後わたしが人並みな生活を送れるかどうかが決まる重大な分岐点になる。もしわたしが選出されるようなことがあれば、その時は勝利を取りに行くしかないだろう。
◇◇◇
競泳100メートルを最大3回行い、2回勝った方が勝者として奢りの恩恵を受けられるというルールになった。
勝敗を決するには良いルールだと思う反面、水泳部との直接対決となれば飛び込みや50メートル地点でのターンなどの技術力も勝敗に大きく関わってくる。つまりハンデがそれなりに大きくなければ勝ち目は薄いだろう。
「で、ハンデについてだが─────」
水泳部の部長である麻倉舞香先輩が錦山先輩に提案しようとしたところで、
「ハンデは要らない。ウチには超絶優秀な新人が入ってきたからな。ユキとアイツで2回の勝ちは取れる」
「あのDクラスのヤツか。なかなか傾奇者だな、貴様も」
ジッと頭から爪先まで舐められるような視線で見られると、わたしは一歩後退りをしてしまう。
「噂には聞いていたが、とてもそうは見えないな」
「まぁやってみろって。お前がアイツとぶつかっても良い。なんであれ勝つのは俺たちだ」
「大した自信だな。で、選出は?」
「新汰、ユキ、天音だ」
「承知した。こちらからも男子生徒1人、女子生徒2人で対決と行こう」
以上で、生徒会長と水泳部部長の会合は終わる。
わたしが泳ぐのは確定のようだった。
数時間前の授業に続いて、まさか1日に2回も水着を着ることになるとは思わなかった。
まぁ、やるからには勝とう。数時間後にはなんの憂いもなく焼肉を食べられることを願って。
【安価で試合結果を決めます。
天音の身体能力もあるため高確率で勝利です。
4・8:水泳部勝ち
それ以外:生徒会勝ち
※ゾロ目の場合も生徒会勝ちとなります
下1のコンマ1桁でお願いします。】
は
【>>211
6:生徒会の勝利]
新汰先輩は水泳部の次期部長候補である新山先輩のタイムに僅かに届かず、ユキ先輩は去年の雪辱戦だと名乗りを挙げた倉島先輩に勝利を収める。
そして迎えた勝っても負けても最後の対決。
結果として、わたしは水泳部部長の麻倉舞香先輩に勝利した。つまり生徒会側の勝利が確定する。
「よーしっ! よくやった、天音!」
先輩方が非常に喜んでいるのを確認した後、プールに入ったまま隣のレーンの麻倉先輩を労う。
「お疲れ様でした、麻倉先輩」
「なんだか嫌味っぽいが、まぁ素直に受け取っておくことにしよう。それにしても噂の一年がここまでだとは思ってもいなかった。学年差も水泳に対しても私の方がずっと先輩だと思っていたのだがな」
「少しだけ運動には自信があるんです」
「それ、同じクラスの宮野にも言ったみたいだな」
視線を横にずらすと、宮野さんがこの対決の様子を伺っていた。もう彼女からわたしという存在については聞き取り調査済みらしい。
「負けたのは事実だ。完敗だった」
「もしよろしければ、再戦させてください」
「それは負けたヤツの台詞だ。またわたしに負けろって言いたいのか?」
「そ、そうじゃないですっ」
「はは、冗談だ。まぁとりあえず上がるか」
たった100メートルくらいで疲労感は無く、わたしはプールサイドに上がる。そこには神宮くんがタオルを持って待っていてくれた。
「お疲れ様。間近でオリンピックを見ているような気分だったよ」
「それは言い過ぎじゃない? でも、確かに勝ったよ」
「うん、ずっと見てた。瞬きを忘れるくらいに」
この対決が始まる前、わたしは神宮くんに一つ約束をしていた。
『わたしは必ず勝つ』と。
実力の測れない麻倉先輩相手では勝てるか不安な部分もあったが、自分を信じて競技に臨んだ結果、無事に約束を果たすことができた。
その後に上がってきた麻倉先輩には水泳部の女子生徒がタオルを手渡し、軽く水滴を拭き取った後で錦山先輩のもとへと寄る。
「この勝負、私たち水泳部の負けだ」
「ウチの新人は有望だろ?」
「あぁ。本気で水泳部に欲しくなった。春宮、これからの放課後、休日、暇なときはここへ来い。部員でなくともお前ならいつでも大歓迎だ」
生徒会役員である以上、水泳部に入部することはできない。しかし部長直々にお許しを戴いたとなれば、今後自由に練習に参加することは出来るのだろう。
暇なとき、ここに寄るのもありなのかもしれない。
そんな予期せぬ収穫もありながら、第一の目標であった焼肉を奢って貰える権利を獲得した。
乙葉先輩がとても喜んでいるようで何よりだ。
【休日に水泳部を訪れることが可能になりました。
ここで1年Dクラスの雰囲気を安価で決めたいと思います。
7・0:生活態度が真面目なクラス
その他:授業中の私語・遅刻欠席が頻発するクラス
下1のコンマ1桁でお願いします。】
へい
【>>214
7:生活態度が真面目なクラス
少し時間が飛びます。
四月下旬の週末。
ゴールデンウィークを目前に控えた頃。
昨日と今日の各授業で小テストが行われた。
その内容は中学三年生程度の簡単なものから昨日の授業で習ったことをそのまま出すといった、比較的難易度の低いテストだったと言える。
少し気になったのは成績には反映されないと前置きがあったこと。あくまで現時点の学力を測るため、と先生は言っていたが、その真意は汲み取れない。
各々が本気でやるにしても手を抜いてやるにしても、やや緊張感のある二日間を超えたからこそ、金曜日の放課後には緩みが生じる。
「でさ、今日の帰りはどうする?」
「来週にはさ、またポイントが振り込まれるわけだし、ちょっと良いもの食べたいよね」
食べ物、服、家具と。
週明けの1日に振り込まれるポイントをあてに、各々が財布の紐を緩めようとする。
わたしは教室を出て行く彼女らの背中を見送りながら、ひとり教室の端の席で現状を整理する。
まず、この1年Dクラスにおけるリーダー的存在について。
男子生徒では間違いなく、初日に自己紹介を提案するなど様々な場面でクラスを引っ張っていった一色颯くん。生活態度も真面目そのもので、このクラスだけでなく他のクラスの人、さらには部活動を通して上級生にも伝手が生まれているらしい。
女子生徒は幾つかの派閥に分かれていることもあり、一人に絞り込むことは難しいが、ある程度の勢力図は目に見えている。
宮野真依。水泳を通して仲良くなった彼女は気立が良く、クラスの女子のおよそ半数を率いるほどになった。聞いた話では一色くんと良い雰囲気だとか。
倉敷春香。コミュニケーション能力と分析力に優れていて、まるで相手が望む言葉・行動が分かっているように事を進めることで信頼を構築している人物だ。クラス内からの信頼度は宮野さんには一歩劣るが、クラス外の伝手はかなり有力だと見える。
その他、人を率いる力は無いものの学力や身体能力が秀でている生徒は何人も居る。実際に授業を通してその能力の片鱗が垣間見えている。
他クラスの雰囲気はあまり把握できていないが、なかなか優秀なクラスだと素直に思った。無断欠席や遅刻、もちろん暴力事件は起こっていない。
授業中に少し話したり、眠くなる程度はご愛嬌だろう。
わたしが入学間もない頃に危惧した事態は回避されたと見ても良い。これで一安心して月初を迎えることができる。
そう、思っていたとき─────。
「Bクラスのヤツが退学になったってよ!」
つい先ほどクラスを出ていったばかりの、クラスメイトの一人が慌てた様子でそう言い放った。
退学? 聞き間違い?
「なんか派手に喧嘩したみたいでさ。Cクラスのヤツがひでぇ怪我してて、それをやったのは俺だってBクラスのヤツが自白したらしくて……」
このクラスから加害者と被害者が出なかったのは幸いだが、その話は非常に居た堪れないものだった。
怪我の具合も気になるし、退学という処罰の重さ。殴って蹴って骨折程度でも停学が落とし所だと思い込んでいた。
わたしはその話を一番よく聞けそうなBクラスの前へと赴く。するとBクラスの前だけやけに人が集まっているのが遠くから見ても分かった。
その中に神宮くんが居るのを視認して近付く。
「あぁ、春宮さん。聞いた? あの話」
「うん。でも、信じられなくて─────」
その時、ガラッとBクラスの扉が開かれる。
先には一人の男子生徒が居た。
「チッ、もう馬鹿共が寄ってやがる。人の噂ってのはあっという間に広がるもんだな。なぁ、宇垣」
見覚えのある銀髪の男子生徒に続くように、体格の良い男子生徒が三名出てくる。その内の一人、おそらく宇垣くんは同調するように笑みを浮かべる。
「今日はアイツの退学祝いに─────っと」
そして偶然、銀髪の男子生徒とわたしの目が合う。
ゆっくりと人だかりに突っ込むようにわたしの方へと向かってくる。自然と彼とわたしの間には無人の道が出来上がっていた。
「なんだ、お前も来たのか。春宮」
クク、と彼は笑って見せる。
薄気味悪い笑い方は、見た者の背筋を凍らせる。
「この一件、興味があるのか?」
「退学になるって相当だと思います。何をしたのか教えて貰えますか?」
「それは生徒会としての言葉か?」
「いいえ、わたし個人のです」
わたし達から距離を取りつつも、取り囲むように人だかりが出来ていた。全員が退学になった理由を知りたいのだろう。
そんなギャラリーを全く気に留めることなく、彼はもう一度乾いた笑い声を発する。
「そうか、興味があるか。なら─────」
彼は右手の人差し指を自らの足元へ向ける。
「膝と手、そして額を床に付けてお願いしてみろ」
理解が及ばなかった。
もともと彼の素振りからまともな話を聞けるとは思ってもいなかったが、口から出たのは想像を遥かに上回る一言だった。
土下座をして頼み込め、と。
入学して間もない頃に彼がわたしに言ってきた『1億ポイント』でのクラス移動の件に通じる吹っ掛け方だ。
彼とまともに取り合うことは不可能だと判断する。
踵を返して立ち去ろうとしたとき、さらに後ろから声が掛かる。
「ひとつ教えておいてやる。コレはまだまだ序盤だ。お前にはもっと面白いもん見せてやる。だから今はせいぜい良い子ぶってるんだな。参考までに、今の二年生は149人らしいぜ?」
その言葉を聞いてわたしは何か反応することもなく、その場を立ち去る。
すぐ後ろを神宮くんが付いてくる。
「春宮さん、辻堂くんと知り合いでしたか? かなり雰囲気が悪そうなかんじでしたが……」
「前に少しだけね。ただ、そんな話すような仲ではないよ。一方的に喋られているだけ」
「そう、でしたか……。彼は危ない人ですね」
素行も悪そうな印象を受けたが、何より。
『コレはまだまだ序盤だ』
その言葉が示すものは、平和を想定した学校生活を不穏そのものにさせるものだ。
十中八九、クラスの生徒の退学騒ぎには彼が関係している。つまりこの先に待つのは、彼による退学者の続出。
ハッタリである可能性も多いにあるが、その後に言っていた二年生の人数が気になる。
149人。それは11人もの退学者が出ているということ。
この学校が暴力に対して厳罰を下しているのか?
その答えは、生徒会室へ行けば直接的なことを聞かずとも分かるだろう。
◇◇◇
生徒会室には一年BクラスとCクラスの担任の先生が顔を突き合わせていた。
錦山先輩は生徒会長の席に腰をかけ、話を聞いている。乙葉先輩や内山先輩も真剣な表情でその様子を見守っていた。
「つきましては本人が望んでいる以上、退学にするしかないというのが学校側の対応です」
「そうですね。妥当…ではないと思いますが、本人の希望であれば仕方がありません」
話は終盤だったのか、その二言だけ聞き届けて先生が立ち上がる。わたしと神宮くんは生徒会室の扉を開けて見送る。
扉を閉めた直後、緊迫していた生徒会が弛緩する。
「はぁ……。まーた面倒ごとを持ち込みやがって」
「ほんとだよねー。Bクラスって疫病神みたいな?」
Bクラスが起こした問題は今回が初めてではないらしい。わたしと神宮くんが知らない間に、何かが起きていたようだ。
「天音と紫苑は気にするな。今回は本人の希望でさっさとケリがつきそうだ」
そう言われても納得は出来ないが、頷くことしか出来ない。前回の一件すら省かれていたのだから、首を突っ込む余地はないだろう。
一年Bクラス。辻堂くんという生徒が率いるクラスは、今後わたし達Dクラスの前にも大きく立ち塞がってくるかもしれない。
【週末の自由行動です。
1.ケヤキモールへ
2.人と会う
1.早見有紗(前の席の女子生徒)
2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3.一之宮重孝(全国模試2位の男子生徒)
4.一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
5.神宮紫苑(同級生の生徒会役員)
6..花菱乙葉(信頼のできる生徒会役員)
7..如月深雪(信頼のできる生徒会役員)
3.寮で本を読む
4.学校へ
下1でお願いします。】
7
2-7です、すみません
【>>222
2-7.如月深雪】
入学して間もない一年生から退学者が出た。
そんな信じられないような出来事が起きた翌日、わたしは如月深雪先輩こと、ユキ先輩と会う約束をしていた。
こと始まりは先週に生徒会の会計という役職繋がりで、神宮くんと二年生の和泉紗希さんが遊んだという話から始まる。
それはそれは盛り上がったようで、同じ書記として前々から親睦を深める意味で休日に会いたいねという話をしていたわたし達の背中を後押しする事となる。
特別予定も無かったため日程を任せたところ、今日に至るというのが経緯だ。
「……あと30分か」
時計を見て待ち合わせの時間を確認する。
この学校の生徒である限り、遊ぶ場所はケヤキモールに限られる。都内の他の学校であれば池袋や渋谷など、遊ぶ場所は多々あっただろう。
学校の制度として毎月1日に1ポイントイコール1円の価値を持つポイントを多く配布しているため、並の学生のようにお金に困ることは少ない。ただ、それでも遊ぶ場所が限られるというのは残念だと思った。
とりあえず部屋着から外行きに服に着替えようとしたところで、
【コンマ安価です。
奇数:ユキ先輩から一通の通知が届く。制服に着替えて、体操着とジャージを持ってこい、と。
偶数:わたしはそのまま私服へと袖を通す。
下1のコンマ1桁でお願いします。】
な
【>>224
1:ユキ先輩から一通の通知が届く。制服に着替えて、体操着とジャージを持ってこい、と。】
外行きの服に着替えようとしたところで、机の上に置いていた携帯がピコンと通知音を鳴らせる。
少し早いがユキ先輩だろうかと考えながら覗き込むと、制服に着替えて体操服とジャージを持って学校の正門前集合と書かれている一文を目にする。
確かにケヤキモールでランチとか、そういった取り決めはしていなかった。
少々予想外だが、特別わたしの方でもこのお店に一緒に行きたいとか希望があったわけではないため、すぐ了承の旨をチャットで送る。
「さて」
ちょうどウォークインクローゼットから私服を取り出したところだったが、すぐにしまう。
その代わりに制服と体操着、ジャージを取り出す。
この学校は休日であっても制服でなければ学校の敷地には入れないというルールがある。職員室でもプールでもグラウンドでも、その限りではない。
やや面倒だなとか、部活やってる人は大変だなとか考えながら支度を済ませる。
「行きますかっ」
念のために水着も含めて、忘れ物がないかをチェックしてから部屋の戸締りをして部屋を出る。
エレベーターに乗ると偶然Aクラスの女子と遭遇する。彼女とは神宮くん待ちでAクラス前で佇むとき、たまに話している仲だ。
「わ、春宮さん、今日も学校に? 生徒会?」
「ううん、ちょっと先輩と約束をね」
「へぇー、暑いのに大変だねぇ」
二人揃って寮のロビーを出ると、むわっとした熱気が襲ってくる。年中ブレザーの制服を強制されている学生にとって、とても辛い時期に入っていくと改めて実感する。
寮を出たところでケヤキモールへと向かう彼女を見送り、わたしは学校の方角へ。学校までが徒歩五分圏内であることが唯一の救いだろう。
◇◇◇
わたしが到着した頃には先輩が正門近くに立っていた。
結構早めに着いたはずだったが、先に来ていたユキ先輩に驚きを─────いや、そんなことじゃない。ユキ先輩の格好にわたしは驚いた。
「おはようございます。待たせてしまいましたか? というよりその制服は……」
「おう、いきなり質問だらけだな。まず待ってない。さっき着いたところだ、本当に。で、これはこの学校の夏服だな。ポイントを払えば制服と着る権利を購入できる」
「はー、なるほど! 参考にします!」
暑さにめっぽう弱い方ではないが、これは良いことを聞けた。この制服も可愛くて気に入っていたが、夏服のデザインも良さげだ。
本格的な夏になったタイミングでアナウンスされるのだろうか。そんなことを考えながらユキ先輩の後を着いていく。
「今日は何するんですか?」
「ちょっとばかし生意気な陸上部をシメにいく」
「……乙葉先輩もですけど、物騒ですよね」
「ん、そうか? アイツが去年も一昨年もこんなかんじで殴り込みしてたからな。移ったのかもしれない」
稀に部費の相談などで生徒会室を訪れる各部の部長を乙葉先輩は幾度も追い払っている。門前払いとでも言いたそうに、生徒会長である錦山先輩まで辿り着かせようとしない。
ただその後、副部長の新汰先輩と会計の紗希先輩が生徒会室を追い出された部長らと会合の場を設けているらしい。まともな会話はそこで成立しているため、今のところは苦情が寄せられていない。
そうこうしているとグラウンドに着く。
わたしとユキ先輩の姿を見つけた一人の男子生徒が近寄ってくる。
「ユキ、そいつが例の一年か? 水泳、バスケ、サッカー、テニス、卓球、それだけに懲りず今度は陸上の道場破りか?」
「そうだ。そろそろ乙葉がゴネる頃だからな。この部活にも生徒会の糧になって貰う」
「そいつぁ良い度胸だな」
そう、わたし達をが勝利を収めたのは水泳だけでない。あの後、バスケット部とサッカー部、テニス部、そして卓球部と対決をして全てで白星を勝ち取っている。
気を良くした乙葉先輩はすべての部活にご飯奢りを掛けた試合を申し込もうとしてたところを、生徒会役員全員で止めた─────はずだったが、これはどういうこと?
側からは進んで喧嘩を売っているように見える。
「新庄、お前は長距離だったな」
「いや、そうだけど、流石にキツイだろ。1対1で単純なタイム争いは。せめて十人でリレーとかあるだろ?」
「生憎、中途半端な奴を入れる気は無い。こっちは私と天音の二人だ。そっちはお前と一年の女子生徒を出せ。距離は400メートルと600メートルだ」
「なるほど、わかった。それで決まりだ。文句は言うなよ?」
ひとまず話はまとまったようだ。
わたしとユキ先輩は体操着に着替えるため更衣室へと向かう。その道中、ルール決めの真意について問う。
「どうして400と600なんですか?」
「単純にグラウンド一周が400だからだ。400と400でも良かったが、どうせなら1キロちょうどにしたいと思ってな」
この話題はそれほど盛り上がることなく、ただ単にこのグラウンドが400メールであることを知るだけとなった。
思いがけず休日に道場破り対決となってしまったが、ユキ先輩と乙葉先輩が喜んでくれれば文句はない。それにわたしも奢りでご飯を食べられるというのは胸躍る権利だ。ご飯のためにも頑張ろう。
◇◇◇
携帯に続々と通知が届く。
『よくやった』
『陸上部は寿司にしません?』
『先日、テニス部とお寿司の約束を取り付けました』
などなど。『生徒会(仮)』のチャットは休日にも関わらず大盛り上がりを見せた。
女子更衣室に設置されたベンチに腰掛けるユキ先輩は楽しそうにそのやり取りを見ている。
「大喜びだな」
「ユキ先輩がリードを作ってくれたおかげです」
「そのリードをキープ出来ただけでも上出来だ」
前半の400メートルをユキ先輩と陸上部の1年生が走り、その後の600メートルはわたしと陸上部部長の一騎討ちとなった。
ユキ先輩が作った10メートルほどのリードをキープし続けてゴールし、対陸上部も生徒会の勝利で幕を下ろす。
「にしても、やるなぁ天音。これまで3年生を相手に連戦連勝じゃないか。これでは3年生のメンツが丸潰れだ。不得意な競技は無いのか?」
「苦手かどうかは分かりませんが、走り高跳びとかはやったことが無いですね。あと弓道とかも」
「なるほど。走り高跳びはともかく、弓道の経験者は生徒会に三人いる。弓道部との対決はアイツらでやるか」
早速、次の部活に対して宣戦布告を考えている様子。
この半月の間、部活動との対決ばかりだ。肝心の生徒会としての仕事はほとんどしていない。わたしの知らないところでBクラスのいざこざを対応していたという話は聞いたが……。
「よし、ちょっと外で動こうか。1時間くらい遊んだらケヤキモールに行こう。勝利祝いだ、多少は奢ってやる。いや、そういえば飲み物の礼がまだだったな」
ユキ先輩と最初に出会ったとき、わたしは水泳の授業で一位を取ったボーナスとして5000ポイントを貰った。その臨時収入をもとにユキ先輩達には飲み物を奢ったこともあった。
「今日は勝利祝いといこう。飲み物の礼はまた今度させてくれ」
「はい、わかりました。ご相伴に預かります」
時刻は11時前。
これから少し動いてシャワーを浴びて移動すればちょうど良い時間になるだろう。
ご飯のことを楽しみにしながら、わたしはユキ先輩の後ろを着いていくようにして外に出た。
◇◇◇
陸上部との激闘を終えたわたし達はケヤキモールへと移動する。休日に制服を着ているのは少し浮いているような気もするが、周りからの視線は特に感じなかった。
「天音、なに食べたい?」
「涼しいのが良いです。お蕎麦とか」
「よし、じゃあ蕎麦屋にしよう」
制服を着て学校からモールへ移動するだけでかなり体温が上がった実感がある。冷たいもので一息つきたいという思いが強かった。
ケヤキモールの三階にあるお蕎麦屋さんは少し混み合っていた。10分ほど外の待合席で待機して店内へ移動する。この間もわたし達の間に会話が途絶えることなく、またユキ先輩は多数の生徒に話しかけられていた。二年生、三年生からの人望が厚いと見える。
「好きなの頼め。ポイントは気にするな」
「じゃあ、ランチセットAで……いいですか?」
「また安いのを頼んだな。上でも特でも好きなの頼んでも良かったのに」
ざるそばとミニ天丼もしくはミニカツ丼のセットで700ポイント。おそらく一般的な価格、あるいは少し良心的な価格か。
ユキ先輩もわたしのと同じものを注文して待つ。
【安価です。
1.「ユキ先輩は乙葉先輩達とは長いんですか?」
2.「ユキ先輩って料理とかできますか」
3.「そういえば図書室って利用したことありますか?」
下1でお願いします。】
2
【>>232
2. 「ユキ先輩って料理とかできますか」】
料理が運ばれてくるのを待っている間、ふと思いついたことを聞いてみる。
「つかぬことをお伺いしますが、ユキ先輩って料理とかできますか?」
「急だな。まぁ、苦手ではないと自負しているよ。得意とも言えないがな。もう2年間も寮で1人暮らしをしているんだ。嫌でも覚える」
「そうなんですね!」
そっか、まだわたしは寮生活を始めて1ヶ月。
まだまだある寮生活の間に料理の技術を身に付ければいいのか。
「残念だが、この学校に調理部はない。お得意の道場破りは出来ないってわけだ」
「いえ、わたしは料理が出来ないので、もし調理部があっても勝負にもなりませんよ」
「そうなのか? 意外だな。てっきり料理も出来ると思ってた」
「……壊滅的なんですよねぇ。本屋さんに置いてあるレシピ本は暗記したんですけれど、どうにも上手くいかなくて」
「暗記するな。買えよ。というか寮に備え付けのパソコンでも携帯でもレシピが見れるだろ」
「それでやっても上手くいかないんです…」
先週に煮込み料理に挑戦して以降、平日の夜に何度か台所に立って料理に臨んだ。その結果は壊滅的。もはや才能が無いと確信するほどだった。
「そうか。なら、夏帆を頼るといい。アイツは実家が洋食屋で、何度か作って貰ったがどれも絶品だった。手際も良いし、学べることもあるだろう」
「はい、わかりました。頼ってみます」
夏帆とは、副会長の1人である四条夏帆さんのことだ。穏やかな佇まいをする方で、放課後の生徒会室ではよく乙葉先輩のお世話をしている。
かなり話しやすい人で、わたしも何度か話したことがある。頼るのは難しくなさそうだ。
「お前には運動部との対決で活躍して貰っているからな。夏帆も二つ返事で了承してくれるだろう」
上級生の一部からは道場破りキャラとして警戒されているという悪評を耳にしたが、それでも生徒会のメンバーからは好意的な目で見て貰えている。
来週か再来週、夏帆先輩に連絡してみるのもアリかもしれない。
今後の予定が決まったところで料理が運ばれてきて、少し遅めのランチを取る。
書記ペアの親睦会かつ祝勝会と称したそのランチは会話が途切れることなく盛り上がり、その後はカフェで一息ついて夕方頃に解散となる。
今日はかなり充実した一日になった。
そんな感想を抱きながら、一日を終える。
【一旦ここまでにします。今晩、続きをします。
現在の色々です。
春宮天音
学力:97(超優秀)
身体能力:99(超優秀)
直感・洞察力:91(優秀)
協調生:53(普通)
成長性:74(高)
メンタル:86(高)
料理:25(下手)
音楽:17(下手)
残ポイント:67850ポイント
1年Dクラスからの評価:話しやすく、勉強もできて運動もできるため頼り甲斐のある人物。
1年Dクラス以外からの評価:去年の全国模試で一位を取り、運動神経も抜群らしい。もし敵対するようなことがあれば要注意。
2年生からの評価:3年生の運動部部長を負かしている1年がいるらしい。
3年生からの評価:道場破りのつもりか、手当たり次第に勝負を挑んでは勝ちをさらっていく。厄介者であることは否めないが、その身体能力の高さは認めるしかない。
生徒会からの評価:超絶優秀な1年が入ってきた。
担任の先生からの評価:素行は非常に良く、クラスメイトに勉強を教えたり、体育の授業では積極的に他の生徒のフォローに回るなど状況が良く見えている生徒です。生徒会に連れられて色々な部活に顔を出しているそうですが、本人が望んで双方が納得のいくように事が収まっているのなら良いのではないでしょうか。今後もDクラスを支える人物として成長していただき、将来的には学校を支えられるようになって欲しいと思います。】
よう実度外視したなら見れるけど
正直よう実っぽくはないですね
ID変わっていますが>>1です。
>>236
現在、ちょうど4月が終わった段階になります。
5月1日に学校の制度について改めて説明、中間テストの告知が行われ、中間テスト後は特別試験を考えています。
今のところはただの学校生活ですが、この後からよう実らしさを出せればと思います。引き続き読んで頂ければ幸いです。
乙 期待
【昨日は続きが出来ず申し訳ありませんでした。
再開します。】
5月1日。
わたしは起きて真っ先に学生証端末を起動した。
顔写真、氏名、学生番号、クラス、そして保持ポイント。昨日と一箇所だけ変わっている部分に注目する。
『138850ポイント』
昨晩まで『67850ポイント』であったことを考えると、今日5月1日の振り込まれたポイントが『100000ポイント』でないことは一目瞭然だ。
覚醒しきっていない頭の中で引き算を行い、増額されたポイントを算出する。『71000ポイント』。
入学時に配布された額には至らないが、これはなかなか上出来なんじゃないだろうか。わたしの見立てでは最悪『1ヶ月0ポイント生活』もあり得た。
そんなポイントの増減についても今日話が聞けるだろう。Dクラスだけでなく、他クラスの間でもこの話題は尽きないはずだ。
身を起こし、身体を伸ばしながらカーテンを開く。
灰色の灯りが部屋に射し込む。それは真っ黒な雲が太陽の光を遮っているからだった。今日は雨らしい。なんとなく月の始まりと週の始まりが重なる今日がこんな天気だと気分も憂鬱になる。
「ふぅっ」
ため息をすると幸せが逃げる、という一文を割と信用しているわたしは、小さく深呼吸をした。
何も悪いことなんてなかった。ポイントについては最悪のケースを避けられたし、こうして雨が降る前に目を覚ましたことも幸運だった。
さて、雨が降る前に学校に行ってしまおう。少し早すぎる時間だが、本を読むなり自習するなりやることはいくらでもある。
◇◇◇
珍しく教室に一番乗りしたわたしは1日のスケジュールを確認した後、なんとなくタブレット端末を手に取って自習を始める。
とっくに学習し終えている高校一年生の範囲の教科書に真新しいことは書いていないが、それでも過去の偉人らが見つけてきた功績を眺めるのは悪くない。
特に化学は好きだ。元素とか格好良くてテンションが上がる。これを見つけた人はすごいなぁと思う。
ただ同時に『料理は化学』と世間的に言われていることを思い出す。
「……空腹か、愛か」
わたしは誰も居ない教室で独り言を呟く。
化学のことは理解しているつもりでも、料理は上手く出来ない。そこに足りないのは第二、第三の要素。つまり空腹もしくは愛というスパイスに他ならない。
空腹が最大のスパイスである訳は理解できる。お腹が空いている時に食べるご飯は美味しい。それは間違いない。
なら、愛はどうなのか。
空腹が口に入れるときに美味しく感じる要因だとすれば、愛は作っている最中だろう。わたしも大切な人に手料理を振る舞う機会があれば、自然と愛を込めることが出来るのだろうか。
その辺りも含めて、生徒会一料理上手な洋食屋の娘である四条夏帆さんに聞いてみよう。実際のところは愛情なんて不要だと一蹴されるかもしれないが─────。
と、そのときだった。
ガラッと教室前方の扉が開かれる。
「あれ、早いね、春宮さん」
「ぁ……望月くん、おはよう」
爽やかな格好良い男子生徒、望月弘人くんが姿を見せる。
思い返せば彼は、いつもわたしが登校した頃には席に着いていた。今日のように一番乗りを日常的にしているのかもしれない。
連日の一番乗り記録を阻んでしまった罪悪感を胸に、一応聞いてみる。
「望月くんはいつも早いの?」
「そうだね、この1ヶ月は毎日一番を目指していたよ。五月早々に阻まれてしまったけどね」
「う……ごめん、じゃあわたしが五月担当ということでどうかな? 四月は望月くん、五月はわたしということで」
「あはは。いいよ、そんなの。それこそ五月病ってヤツになりそうだ」
そう言いながら彼自身の席に着いてわたしの方を向き、一呼吸を置いた後に続きを話す。
「自らに何かを強いることは過ちだ。目標を掲げて突き進むのが人間─────って、僕のお世話になった人が日常的に言っていてね。こうして一番乗りを目標にして努力する分にはいいけど、朝5時とかに目覚ましをかけて無理やり来るのは違うんじゃないかって」
「……おぉ。なるほど。良いこと言うね、その方」
こうして望月くんと話す機会は初めてだったが、非常に興味深いことを聞けた。一理ある、どころか全面的にその意見には肯定したい。
そこでふと、彼という存在について思い出す。
望月くんといえば、四月上旬に行われた水泳の授業でどうにも本気を出していないように見えた。このクラスでも随一の運動神経を持っていそうなのに、彼は九位という結果に留まった。そのことが気になって仕方がなかったのに、すっかりと失念していた。
この機会に、遠回しに聞いてみよう。
「今日も水泳の授業あるね」
「そうだね。温水プールが完備されているとはいえ、四月から水泳の授業なんて珍しいよね。おかげで未だにグラウンドを使った授業をしていない訳だけど」
「珍しいよね。ところで、」
「ところでさ、聞いてもいいかな?」
ずっとこちらを向いていた望月くんが、ここで立ち上がった。わたしの言葉に被せてきたことも込みで、ややプレッシャーを感じる。
ところで、何を聞いてくるつもりなんだろうか。
カツ、カツと足音が近付いてくる。
彼は、私の前で窓の外を眺めるように佇む。
その姿は、なんだか見覚えがあるような気がした。
「いや、今のは春宮さんの言葉を遮っただけだ。特に深い意味はない。ただ本当に、僕のことはあまり詮索しないでくれって話だ。訳ありな人間なんていくらでもいるんだから」
「……うん、そうだね。わかった。望月くんが何でどんな結果を残そうと、わたしは関与しない。ただ、テストで赤点を取らない限りは」
「面倒見が良いんだね。でも大丈夫、高校生程度のレベルの低い学習はとうの昔に終えたから。まぁそれでも春宮さんには劣るのかな?」
「やめてよ、そんなことないって」
わたしの否定が届かなかったように、彼は続ける。
「そんなことあるよ。君の学力、身体能力は『僕たち』に負けず劣らず─────いや、それ以上かもしれない。一体どうやったらそうなれるのか教えて欲しいところだけど、これ以上はやめておく。君が僕のことを詮索しないと約束してくれた以上、僕も礼儀は尽くす」
「……あー、その、えっと……」
「だから僕たちは敵対し合うことはないと思うんだ」
彼はそう言った後、「ふぅ」と軽く息を吐いた。
そして改めてわたしの方を向いて笑顔を見せてくれる。
「─────ノリが良いんだね、春宮さんって。ノってくれなかったらどうしようかと思った」
「うん、でも途中のセリフ忘れちゃった。ごめんね?」
「気にしないで、僕もなんだか適当なことを口走っちゃってた気がするから。会心の出来だったよ」
そう、この一連の流れは昨晩放送されたドラマのシーンをなぞったもの。
わたしたちの入学式前日に第一話が放映された高校を舞台にしたドラマは、毎話で視聴者の期待を遥かに上をいく展開が続いて各地で話題になっている。当然、この学校の中でも話題に挙がることは多い。
望月くんが今にも雨降り出しそうな外を眺めている姿を見て、昨晩の記憶が鮮明に甦った。役者の経験は無かったが、なかなか上手くできたんじゃないだろうか。最後の方はセリフが飛んでいたけど。
「うん、まぁ、今話したのは事実だからよろしく」
気軽に言って彼は自席へと戻っていった。
確かに会話の内容はとてつもない才能を隠す男子生徒が主役のドラマと酷似している。ただ、その全てが演技というわけではない。
彼は詮索されることを嫌っているようだった。
ならわたしは詮索しないでおく。これを冗談だとは受け止めずに。彼は真面目に授業を受けてくれている。それだけで十分だ。
◇◇◇
朝のホームルームを報せるチャイムが鳴ると同時に、くたびれた背広を着た伊藤先生がやって来る。
表情、無精髭、ボサボサの髪、足取り、その全てが先週と何ひとつ変わらなかったものの、なんだかいつもと異なる雰囲気を感じた。
教壇に立ち、出席簿を教卓に置いた直後、教室前方から早速声が上がる。
「せんせー、今日のポイントなんですけどー。71000ポイントってバグっすか? いや十分ではあるけど、足りないっていうかー」
そうそう、とクラスから賛同の声が上がる。
1人暮らしのため様々な出費が嵩むとはいえ、71000円分のポイントは高校生にとって多すぎる。
寮の宿泊費や電気水道ガスなどが徴収されない以上、食費を抜いても十分すぎるほどに余る。そのため強い声こそ上がらなかったものの、多少の意見はこうやって飛び出る。
「今から説明します。えー、Cクラスの皆さんはよく聞くように」
「C? いや、せんせ─────」
先生の後ろにある電子黒板の画面が切り替わる。
Aクラス:979ポイント
Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント
Dクラス:435ポイント
わたしたちDクラス─────いや、Cクラスの隣には『710ポイント』と記載されていた。
これは今朝振り込まれた『71000ポイント』と無関係でないことはすぐに分かる。
「えー、この学校では、クラスの成績や評価が毎月一日のポイントに関わってきます。授業中の私語31回、授業中に携帯を触った回数15回と、例年のDクラスと比較するとマシな方でした」
「な、なんだよ、それ…!」
クラスの一人がそう呟く。
彼は私語と携帯を弄った者に該当しない方だろう。
連帯責任という形でポイントの減額をされるのは、決して額の問題ではなく心の負担になる。
「当初、こちらのポイントは全てのクラスで1000ポイントでした。お気づきの通り、100を掛けた数字が振り込まれるわけですが─────先ほど言ったマイナス事項を踏まえて710ポイント、ひいては71000ポイントというわけです」
クラス中からヒソヒソと声が挙がる。
その大半は『無いよりはマシだった』というものだが、そもそも告知もせずにそんな監視のような真似をされていたことに腹を立てる声も聞こえて来る。
「Sシステム─────リアルタイムで生徒の成績を査定して、数値として算出するアレですが、まぁその辺りは良いでしょう。率直に言って、上出来でした」
先生は一呼吸ついて、電子黒板に表示された数字に改めて注目する。
Aクラス:979ポイント
Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント
Dクラス:435ポイント
「四月まではBクラスにあったクラスがこの五月からはDクラスへと降格しました。見ての通り、ポイントの高い順にクラスが変わります。これからの学校生活でCクラスの皆さんが超まじめに授業を受けてテストでも良い点数を取れば、Aクラスにもなれるということですね。一方で、悪さをすればDクラスにもなります」
「……なんの意味があるんですか、AとかDとか」
「卒業後の進路に関わってきます。えー、そう、皆さんはこの学校の特典目当てで入学してきたと思います。この学校を卒業すれば良い会社、良い大学に進学できる、とかそういうアレです。全員がそんな都合の良い話にありつけるとでも? そんなわけないですよね」
「っ……」
「言い方は悪いですが、Aクラスが優秀なクラスであることに対して、Dクラスは不良品とかガラクタとか、そうやって揶揄されることがあります。先ほど言った特典はもちろんAクラスで卒業をした生徒のみです」
クラス内が静まる。
入学できた時点で勝ち組だと息巻いていたからだ。
実際はAクラスで卒業しなければ、意味がないと分かったこの段階で各々が考え込むのも無理はない。
「ただ、先ほども言った通り上出来だったのは間違いありません。多少の反省点はあるものの、もう早速Cクラスに上がっているんですから。それにBクラスとの差も9ポイント。授業中に携帯を一回触る度の減額ポイントについては教えられませんが、ほんの少し控えていればあなた達はBクラスでした」
次は「おぉ」と声が挙がる。
それでもAクラスとの差は200ポイント以上と、決して大きくも小さくもない数字の差があるが、十分に巻き返す機会は多くあると見える。
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それにBクラスから落ちてDクラスとなったクラスとも300ポイント近くの差が出来ている。これから差が縮まる、広がることを考えてもこの結果は非常に良いと言える。
「こちらの数字はいわゆるクラスポイントと呼ばれているものです。そして皆さんに振り込まれたポイントはプライベートポイント。つまり今月は710クラスポイントに、71000プライベートポイントとなります」
淡々と説明を続けていく先生に、一色くんが立ち上がって質問をする。
「先生、ポイントがマイナスされることは分かりました。逆に、増えることはあるのでしょうか。今後、ただ減る一方ということは……」
「もちろんあります。全部のクラスがただクラスポイントを減らすだけで順位を付けていくわけではありません。直近で言えば次の中間テスト。最大で100クラスポイントを獲得できます」
100クラスポイント。それはこの1年Cクラスの生徒に等しく10000円分のプライベートポイントが支給されるということ。
あくまでも最大という前提付きだが、これはBクラスに勝るため、そしてDクラスを引き離す意味でも重要な試験となる。
「つきましては、こちらをご覧ください」
先生が手元のリモコンを操作すると、画面が切り替わる。
見出しには『小テスト結果』と書かれている。
中学生レベルの問題も出されたあのテストだ。
いずれの教科でもわたしの名前が一番上に100点と付いて表れていたのは喜ばしいことだが、先生の意図は他にある。
「次回以降の中間テスト、期末テストで赤点となった生徒は退学となりますので、ご注意ください」
皆が息を呑む。
赤点を取ったら補修ではなく、退学。
それはこの学校から追放されることを意味する。
無茶だと思う反面、この学校が政府の息がかかっているということ、広大な敷地の中にはケヤキモールという巨大な施設があること、曲がりなりにも入学式当日に10万円分のポイントが支給されていたこと、そして今朝7万円分のポイントが支給されたことを考えると、そういった超特権的なことをしてもおかしくはない。
「以上でホームルームを終わります」
先生はそう言い残して締め括り、教室を出て行く。
退学というワードを聞いて呆然とする生徒を残して。
【赤点候補の人数を決めます。
0:赤点候補なし
1~3:10人
4~6:5人
7~9:3人
人数によっては勉強会を開いたりなど強制的なイベントが発生します。
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>253
2:10人】
ホームルームが終わってすぐ、わたしは電子黒板に映ったままの小テストの結果から赤点の可能性がある生徒の名前をノートに書き連ねていく。
このままいけば赤点になる生徒、赤点になる可能性のある生徒を合わせて10名。なかなか危うい。
クラスの中がまだ騒然とする中、一色くんが教壇に立って2回手を叩いて注目を集める。
「みんな、気持ちは分かるけど落ち着いて。今はとりあえず再来週の中間テストに備えよう」
その言葉は赤点候補者へと発せられた言葉。
事実を重く受け止める者、退学という単語をチラつかせて脅しているだけだと冗談のように受け止める者、興味なさそうに携帯を弄る者と反応は様々だ。
「放課後組と部活動組で2つのグループを作って勉強会を開こうと思う。この前の小テストで危ないと思った人は是非参加してほしい」
部活動をしていない生徒は17時から、部活動をしている生徒は20時からの2つに分けて勉強会を提案する。
赤点候補者のうち半数は部活動に所属している。一度に全員の面倒を見るよりは少人数ごとの勉強会を開催した方がずっと有効だろう。
ただ問題は、該当者が勉強会に参加するかどうか。
後ろの席から様子を見ている限りでは、せいぜい半数が真面目に取り組めば良い方。すんなりと全員が勉強会に参加すると手を挙げることはないだろう。
【気付きコンマ判定。
直感・洞察力:91(優秀) のためほぼ気付きます。
4:気付かない
それ以外:クラスから退学者が出た場合について
下1のコンマ1桁でお願いします。】
はい
あっ
【>>255
4:気付かない】
放課後、わたしはすぐに生徒会室へ向かうことなく一色くんの席へと近付いていた。
他でもない赤点候補者への勉強会について進言しておきたいことがあったからだ。
「一色くん、今いいかな?」
「あぁ春宮さん。生徒会はいいのかい?」
「うん、まだ大丈夫。どうせゲーム……じゃなくて、16時過ぎまではのんびりしてると思うから。で、勉強会のことなんだけど、わたしも参加してもいいかな?」
「春宮さんが? それは願ってもないことだけど、色々と忙しいんじゃないの?」
「今のところ運動部に混ざって運動くらいしかしていないからね。全然忙しくないよ」
一色くんの所属するバスケ部とは2週間ほど前に対決をして勝利を収めている。その場に居た彼なら、わたしが生徒会で何をしているのか想像がつきやすいだろう。
本当にわたしは生徒会で何をやっているのだろうか、という疑問は置いておいて、今は勉強会の予定について集中する。
「それを言うなら一色くんも練習で忙しいんじゃない? 20時からの勉強会も毎日は大変だよね?」
「そうかもしれないけど、このクラスから退学者なんて出させれないよ。僕にできることならなんだってやるさ」
彼の目には強い炎が宿っているようだった。
嘘偽りなく、彼は純粋にこのクラスを大切にしているようだった。
「それでも1人より2人居た方が良いでしょ? お邪魔でなければわたしもいいかな?」
「うん、わかった。じゃあお願いする。夕方17時からの勉強会の先生役はもう他の人にお願いしたから、僕たちは20時からで。もちろん忙しかったりする日は来なくてもいいからね」
わたしは頷く。
これで赤点候補者の進行度を近くで確認できる。
さて、とはいえ問題はここからだ。
先生役として勉強会に参加すること自体は、こうやって声をかけるだけでなんとかなると想定がついていた。しかしこの先、問題は生徒役である赤点候補者が集まってくれるかどうかが問題だ。
「で、来てくれるのかな? みんなは」
「幸い、部活動をやっている人で危なそうな人は全員了承してくれたよ。毎日は無理かもしれないけど極力参加するって」
「あ、そうなんだ。よかった」
もちろん今の言葉には裏がある。
部活動をやっている人は、と前置きをした以上、放課後組に勉強会を拒否した人間が居ることは間違いない。彼なりに気を遣って遠回しに言ってくれたんだろう。
ここで変な駆け引きをしてその正体を探ることこそが無駄だ。わたしは直接聞くことにした。
「放課後組の方はそうもいかなかったんだね」
「……うん、実はね。ただそっちは僕の方でなんとかしてみるから大丈夫だよ。春宮さんは気にしないで」
「一色くんだけに任せるなんて出来ないよ。わたしもこのクラスの一員なんだから、出来ることは協力させて」
今朝の望月くんとのやり取りを引きずっているのか、ドラマのような台詞を口にしてしまった。
ただ、これは本心そのものだ。たった1ヶ月を過ごしただけでもこのクラスの雰囲気は好きな方だ。全員と仲良くなれた訳ではなくても、欠けることは避けたい。
一色くんは指の先を頬に当て、少し掻くような仕草をして対象者の名前を口にする。
「そうか、わかった。雨宮さんだよ。彼女には僕の方から何回か伝えたんだけどね。うまく取り合ってもらえなかった」
「雨宮さん……」
廊下側の真ん中の席の女子生徒だ。
わたしが春宮であるため、少し苗字が似ているなと思っていたくらいの生徒。たったの1回も話したことがないような関係性だ。というより声を聞いたことがないというレベルで人と話している姿を見たことがない。
それでも一色くんよりは、同性であるわたしの方が話して貰える可能性は僅かに高い。アタックしてみる可能性はあるだろう。
「うん、わたしの方からも声をかけてみるよ」
「うん、そうしてもらえると助かるよ。難航するようだったら声をかけて。僕にも出来ることがあるはずだから」
協力的な言葉を戴いて、その場は別れる。彼はバスケ、わたしは生徒会の仕事をするため別々の道を歩き始める。
その移動時間の中、わたしはやるべき事を整理する。
第一に20時から行われる勉強会に参加すること。
第二に放課後組の不参加者である雨宮さんを説得すること。
雨宮さんはギリギリ赤点になる恐れがある程度のため、本番ぶっつけでもなんとかなる可能性が高い。しかしどうしても退学という自体は避けて欲しい。そのためには勉強会への勧誘は必須となる。
ふぅ、とりあえず今は生徒会だ。今日は道場破りの予定が入っていなかったため、久しぶりに本来の業務につくことが出来るだろう。
【気付き判定。
先程のとは異なります。
直感・洞察力:91(優秀) のためほぼ気付きます。
4:気が付かない
それ以外:この試験の攻略法に気付く
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ0
2連ピンポで草
【昨日は出来ませんでした。
再開します。】
【>>261
4:気が付かない】
その日の放課後、わたしはいつも通りAクラスの前で神宮くんを待つ。
半月前は外を眺めたり携帯を触ることが彼を待つことが多かったが、ほぼ毎日こうしてAクラスの前に立てば知り合いも増えてくる。色々な運動部に顔を出していることも手伝って、顔見知りの人は日に日に増して行った。
今日も先日エレベーターで一緒になった女子生徒と5分ほど話し込み、神宮くんが来たタイミングでお別れをする。
「いつもごめんね。あんまり待つようなら先に行ってくれてもいいのに」
「ううん、気にしないで」
わたし達はBクラス、Dクラス、Cクラスの教室の前を通って生徒会室へと向かう。
会話は無い。お互いが廊下を歩き、階段を降りる音だけを響かせる。
いつもは雑談が絶えないわたしたちでも、今日ばかりはそうもいかない。それは今朝の事が原因だろう。
『Aクラスで卒業しなければ志望した就職先や進学先に進むことは出来ない。ひいてはBクラス、Cクラス、Dクラスで卒業した場合の進路の保証は無い』
その事実が判明した以上、CクラスのわたしとAクラスの神宮くんは争う立場にある。卒業のとき、どちらかが望む進路を勝ち取り、もう一方は卒業は出来ても入学前に聞かされていた進路の恩恵は受けられない。
そこでふと思い出す。
入学2日目に白髪の男子生徒、辻堂くんがわたしに提案してきた2000万ポイントを支払うことでクラス移動が可能だということを。普通に考えれば現実的ではないが、不可能ではない。
その手段を用いることで神宮くんと同じクラスになることは出来る。ただ、クラス移動をするなら卒業間際の時点でAクラスの教室に潜り込むのが確実だろう。
どちらにせよ現時点では2000万ポイントは夢のまた夢で、1年生が始まって間もないこのタイミングは他クラスの状況が把握できていない。力量も測れていない現状ではクラス移動のことを考えるだけ無駄だろう。
気が付けば職員室前まで来ていた。
神宮くんはジッと前を見て歩いている。
もう間も無く生徒会室というところで、
【イベント安価です。
奇数:「春宮さんはさ、どうしてDクラスに振り分けられたか心当たりはある?」
偶数:生徒会室へ到着
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>266
6:生徒会室へ到着】
結局、その後一言も話さずに生徒会室へ到着した。
今日はわたしが生徒会室へと入る旨をチャットで送信した後、扉を開く。
既に庶務の二人以外が揃っているようで、今日もみんなでゲームをしていた。かなり良いところみたいで携帯に目を向けながら軽く挨拶を交わした後、わたしと神宮くんはいつもの席に着く。
「おう、紫苑、天音。そういえば聞いたぜ? 先月は上手く立ち回ったみたいじゃないか」
立ち回る?
その言葉の意味を汲み取れずにいると、錦山先輩は続ける。
「基本的にこの学校は生徒の自主性に任せているからな。無断欠席、無断遅刻、授業中に喋っても携帯を触っても、それが他の生徒に大きく迷惑ならない限りは注意されることもない。ただ、評価は落ちる。何年か前の1年Dクラスは0クラスポイントまで落ちたって聞いたぜ。それに比べれば天音のクラスは良くやってるよ。紫苑のクラスもな」
錦山先輩はなんてことなさそうに話す。
常識で考えれば分かることだが、授業中に携帯を触ったらクラスポイントおよびプライベートポイントに影響を及ぼすことを教えて欲しかったというのが本音だが、教えられなかった事情も理解できる。
学校側から明言されているのか、暗黙の了解的に下級生へ学校のルールを教えることを禁じられているのだろう。教えれば連帯責任としてクラスポイントが減るなど、ペナルティは想像に難くない。
それにしても何年か前には本当に『1ヶ月0ポイント生活』を強いられた年があったと聞くと、そうならずに済んで良かったと思う。
『710クラスポイント』を残して5月を迎えられたことは重畳と言える。
「ま、上出来じゃねーの? 俺たちの代のDクラスは300ポイントくらいしか残ってなかったしな」
「自分のときは250程度でしたね」
錦山先輩の2年前、そして新汰先輩の1年前のDクラスと比べれば格段に素行が良いようだ。
現状、後ろの席から傍観しているだけでも特に目立った様子はない。授業態度がポイント評価に直結すると言われれば少なかった携帯を触る行為もほぼ無くなると見ても良い。
この5月から、クラス間のポイント差が大きく離れることはないだろう。おそらく日々の積み重ねにより追い越した、抜かれたというのが時折発生すると思われる。
「まずは中間テストだな。2人なら退学は無いと思うが、まじで頼むぜ? 生徒会からテストで退学者が出たなんて笑えねぇからな」
わたしと神宮くんは頷く。
勉強会の様子次第ではクラスの赤点ラインを下げるため全ての教科で51点を取る選択肢も、頭の片隅で有効な案として思いついている。
ただ、わたしはわざとテストで手を抜いてすれ違いを起こしてしまった経験があるため、その手段は可能な限り避けたい。
テストで出そうなところを重点的に教える正攻法こそが最も有効な手段だろうか。ただ、それを3年間続けるというのはお互いに負担になる。自主的に学習して貰えるように矯正して行く必要もあるだろう。
【イベント安価です。
奇数:四条夏帆(生徒会副会長、料理上手)
偶数:生徒会の仕事を終えて勉強会へ
下1でお願いします。】
はい
【>>269
7:四条夏帆(生徒会副会長、料理上手) 】
生徒会の業務を終えたのは18時を回った頃だった。
20時からクラスメイトと勉強会の約束を控え、かなり時間がある。その間に夕食を済ませてしまうべきか。それとも適当に時間を潰すべきか。
そんなことを考えながら生徒会室の戸締りをして鍵を職員室へ返す。職員室前で乙葉先輩と夏帆先輩が待っていた。
じゃんけんをして、乙葉先輩が勝ったら夏帆先輩が手元のクッキーを与えている。これは餌付け?
その光景を少し観察していると、乙葉先輩がわたしに気が付く。
「お、きたきた。おっそーいよ、天音ちゃん」
「すみません、先生と少し話していまして。えっと、わたし待ちでしたか?」
「そーそー。夏帆ちゃんに用があるってユキちゃんから聞いてさ。このわたしじゃなくて夏帆ちゃんなのは何か理由があるのかな?」
乙葉先輩は自分が頼られなかったことに少し憤りを感じているようだった。しかしその直後に口へクッキーが放り込まれると、すぐに機嫌を直したようだ。
夏帆先輩は乙葉先輩の手懐け方を熟知しているように、口を挟む暇を与えず次々にクッキーを与える。
「天音ちゃんにはお世話になってますから、私に出来ることであればなんでもしますよ?」
先日ユキ先輩に相談した料理上達の件。
裏から手を回していてくれたようだ。
ありがたく、この機会に告白してしまおう。
「わたし、全然料理が出来なくってですね、夏帆先輩に教えていただくことは出来ないかなーって」
「そんなことでいいんですか? それくらいならお任せ下さい! 洋食屋の娘として、きっと天音ちゃんを料理上手にしてみせます。天音ちゃんには運動部の対決でお世話になっていますからね」
夏帆先輩は笑顔でそう快諾してくれた。
初めて運動部への道場破りを促されるままに行ってきて良かったと思った。
「ええと、いつがよろしいですか? この後、乙葉先輩と私の部屋でご飯を食べる予定でしたが」
「あ、そうですね…。20時から予定があるんですけど、なんとかなったりしますか?」
「簡単なものなら間に合うと思いますよ。あと1時間と少しありますからね」
左手に付けたレディース用の腕時計を見て、夏帆先輩は答えてくれる。
何をしようかと考えていたが、ちょうど有効的に自らを高めることのできる機会に遭遇できた。
ここはありがたく教えて貰うことにしよう。
「わかりました。それではよろしくお願いします!」
「はい、それじゃあ行きましょうか」
わたし達は2年生の寮へと向かう。
1年生の寮から近い距離にあるその建物は、この1ヶ月間で近付いたこともなかった。
中の造りはまったく一緒のようで、ほぼ1年生の寮と変わらない風景を目にエレベーターを上がる。13階で降りたわたしたちは、そのまま夏帆先輩の部屋にお邪魔する。
「わ、かわいいお部屋ですね」
「そうかな? あまり意識してなかったんだけどね」
カーテンとか掛け布団とか、所々にピンク色が使われている。目に痛くない程度の薄い色は、第一印象で女性らしい可愛らしさを彷彿とさせる。
未だに白一色なわたしの部屋とは大違いだ。
「乙葉先輩はテレビでも見て待ってて下さいね」
「うん、楽しみにしてるよー。頑張ってね、天音ちゃん」
「はい!」
手をふらふらと振る乙葉先輩を居間に置き、わたしと夏帆先輩は台所に立つ。
部屋の作りもまったく一緒のはずだが、調理器具や調味料の整い方はわたしの部屋とは段違いだ。特にスパイスの量が尋常ではない。おそらくスーパーで販売されているものは全て揃えているのだろう。
「参考までに、苦手なものとかありますか?」
「いいえ、特に。アレルギーも無く、なんでも食べられます」
「そうですか。えっと、時間が無いようですので、ハヤシライスでもよろしいですか? お米を炊いている時間にさっと作れる簡単なものです」
「そんな簡単に作れるんですか?」
「はい。少し裏技的なことをしますがね」
そう言って夏帆先輩はデミグラスソース缶と野菜ジュースを取り出す。それをどう使うか検討もつかなかったが、洋食屋の娘というポジションが絶対的な信頼度を誇っている。
その後、わたしは夏帆先輩の指示に従って調理を進めていく。
結果として絶品の一皿が出来上がった。
もちろん乙葉先輩にも大絶賛で、わたし自身も信じられないほど美味しいと感動する。
今回のことからわたしが得た教訓は、既製品のものを利用することは悪ではないということ。デミグラスソース缶を利用することで何時間も煮込んだかのようなハヤシライスを作ることが出来た。
そこには化学も愛もないことを知る。
早速、明日も1人でハヤシライスを作ってみようと意気込んで、夏帆先輩にお礼を言って2年生の寮を離れる。
時刻は19時45分。
勉強会まで残り15分と、ちょうど良い時間だ。
【料理スキル上昇
現在:料理:25(下手)
基本的にコンマ1桁で決めます。減少はありません。
1:プラス1
2~4:プラス3
5~8:プラス5
9・0:プラス7
2桁がゾロ目:プラス10
下1でお願いします。】
え
【>>274
9:プラス7
25 → 32(ちょっと下手)
勉強会に行く前に、人に教える能力を決めます。
コンマ反転 27 → 72
01~19:下手
20~39:ちょっと下手
40~59:普通
60~79:ちょっと上手
80~90:上手
91~98:かなり上手
ゾロ目:かなり上手
学力:学力:97(超優秀) ボーナスで
反転後の値にプラス15します。
下1のコンマ2桁反転でお願いします。】
ゾロ
普通ですね…
【>>276
85 → 58
学力ボーナス:プラス15
58+15 = 73
73:ちょっと上手】
19時55分、わたしは7階にある一色くんの部屋のインターホンを直接押す。事前に部屋番号を教えて貰っていたため、玄関から呼び出す手間は省けた。
間もなくして一色くん本人が扉を開けてくれて、わたしは一色くんの部屋に入る。
思い返せば男の子の部屋に入ったのは初めてだ。
内心ドキドキとしながらも居間まで通されると、赤点候補者の5名の男子他、宮野さんが居た。水泳部の練習終わりに合流したようだ。彼女は赤点からかなり遠い位置に居たため、わたしと同じく先生役だろう。
「あ、春宮さん。良かった、男子ばっかりで花がないって思っていたところなの」
彼女はそう出迎えてくれた。
そうだね、とも言えず、わたしは宮野さんから遠い位置に座る。先生役が一箇所に固まっていても仕方がない。
「で、どんなかんじ?」
「ひとまずテスト範囲を洗い直しているところだよ。時間はまだあるからね。少しずつ積み重ねていけば問題なさそうだ」
前回の小テストをもとに、解けていなかった箇所から教えているようだ。
確かに小テストで出題された問題が本番の試験で出されることも多い。それに中学生レベルの問題も出題されているため、個人の苦手な教科も分かりやすい。
一色くんと宮野さんの教え方も上手く、このままいけば問題なく中間テストを越えることが出来そうだった。
「つーか、退学ってマジなのかな。そこんところ、生徒会役員なら知ってるみたいなところない?」
20時30分、勉強を始めておよそ45分が経過した頃に候補者の1人である明道くんが気の抜けた声色で呟く。
ここまで拍子抜けと思わせてくれるほど真面目に勉強に取り組んでいてくれたため、私語として咎めることはない。
わたしへ向けられた質問に対して、わたしは嘘偽りなく率直に答えることにした。
「たぶん本当だね。今日みたいに多額のポイントを生徒全員に支払ってるなんて普通じゃないでしょ? だったら赤点を取っただけで退学なんてことも有り得る話なんじゃないかな」
「はー、そうだよなぁ、やっぱなぁ」
「それに生徒会長も生徒会から退学者を出したくないって話をしてた。あ、これオフレコでお願いね?」
おそらく隠すことでもないが、秘密の話っぽくしておけば信憑性も増すだろうと錦山先輩の言葉を口にする。
効果は絶大だったらしく、改めて候補者は勉強を再開する。
わたしの受け持ちは2人、一色くんも2人、臨時参加となった宮野さんは1人に対して勉強を教える。
幸いにも、わたしの教え方は下手ではなかったようだ。少しずつ理解をしてくれているようで嬉しい。
そうして21時をまわった頃、本日の勉強会がお開きとなる。進捗次第では22時を覚悟していたが、まったくそんなことはなかった。
今朝を持ってCクラスとなった女子の部屋は4階上の11階に位置する。宮野さんも11階らしく、エレベーターに乗りながら世間話をする。
ほんの短時間であったが、部活の話、今日から1ヶ月限定のカフェの新作ドリンク情報など大変有意義な話を聞けた。
【天啓
奇数:クラスから退学者が出た場合について
偶数:中間テストを乗り越える方法
下1のコンマ1桁でお願いします。】
え
【>>280
5:クラスから退学者が出た場合について 】
5月2日の午前2時、わたしは目を覚ます。
この人生で最も目覚め良く、まるでスイッチのオンオフを切り替えたかのように頭が覚醒している。
直前まで学校生活の夢を朧げに見ていた。
昼は教室で授業を受けて、夕方は生徒会室で業務をこなし、夜は夏帆先輩に料理を教わる。そして2年生の寮からの帰り道、1年Dクラスとなった辻堂くん姿を目にして目を覚ます。
こんな時間に目を覚ましたのはあの人のせいだと言っても過言ではないだろう。ついさっきまでご飯を食べて幸せな夢を見れていたのに……。
だが、その一方でひとつ気が付いたことがある。
元Bクラスは先日に退学者を1名出した。
退学者を1名出して435クラスポイント。
そのクラスが4月のうちにどれだけ不真面目に授業を受けてきたかは分からないが、それでも確実にクラスから退学者を出したペナルティが課せられていると考えるのが自然だ。
わたしたちCクラスと同じくらい授業中に私語をして携帯を触り、無断欠席などが発生したと仮定して残700クラスポイント。そこから更に退学者を出したペナルティとしてマイナス300クラスポイントされていれば計算が合う。
もちろん実際はマイナス100ポイントだったとも、マイナス500ポイントだったとも考えることも出来る。
総じて言えることは、次の中間テストで退学者を出したとき、0クラスポイントになる恐れがあるということ。
わたしの見立てでは3人退学者を出すだけでマイナスに振り切れる。なんとしてでも退学者を出す訳にはいかない。
そうと決まれば、今は寝ることにしよう。
徹夜漬け否定派のわたしは、計画を立てて赤点候補者への教育を行なっていきたい。
そのためにはまず、勉強会不参加を宣言した雨宮さんを説得しなければならない。昼休み、放課後にはすぐ席を立ってしまう彼女を逃さないように……寝よう。
【コンマ1桁判定
奇数:呼び止めること出来ず
偶数:雨宮綾香
下1でお願いします。】
偶数
【>>282
7:呼び止めることできず】
5月2日の放課後。
結論から言ってしまうと、雨宮さんと話すことは出来なかった。
ほんの一瞬だけ目を離した隙に彼女は居なくなっていた。、あるいは神隠しを疑うほど忽然と姿を消すものだから大変驚いた。
どこか喪失感を覚えながらも、すぐに切り替えて明日以降の方針を立てる。
まず授業と授業の間の休み時間を利用して彼女に話しかけること。お昼休みか放課後が良いと思っていたが、今日のように彼女が消えてしまう可能性がある。
再来週明けに実施される試験に向けて、ひとまず意思確認だけでも早めに取っておきたい。
そんなことを自席で考えていると、隣の席の一之宮くんが話しかけてくる。
「春宮、勉強会の件なんだが…」
「あ、うんうん。放課後組を担当してくれているんだよね?」
わたしがそう聞くと、彼は一度頷く。
昨年の全国模試で同率2位を取った一之宮くんは、先日の小テストでもケアレスミスで落とした1科目以外は満点を獲得していた。そのため先生役としてはこの上ない適任で、彼も教えることに抵抗は無いようだった─────が。
どうやら昨日の勉強会は上手くいかなかったようで、重苦しい表情をしている。
「正直、あそこまで理解が及んでいないとは思わなかった。具体的に言うと小学生の範囲も理解できていない。まだ初日を終えた段階だから弱音を吐くのはダサいことだが、どうしたものかと悩んでいる」
「そっか。……そうだなぁ」
正直、次の中間テストは付け焼き刃で乗り切れるとは思っている。しかしそれ以降のテストは幾度となく訪れる。その度に今回の規模で勉強会を行うのは負担になってくるだろう。
なんとか自主性に任せて勉強を促したいものだが…。
「ごめん、ちょっと考えてみるね。本当に悪いんだけど、もうしばらくは今の体制で協力して貰えないかな?」
「春宮が悪いわけじゃない。……まぁ、アイツらが悪いと決めつけるのも違うんだろうな、この場合は」
日々の学習を怠っていた彼らを責めることなく、一之宮くんは頷いた。しばらく負担をかけてしまうことに胸の奥が痛くなる。
部活動組の勉強会は滞りなく進みそうだったが、放課後組は雨宮さんの件と理解度の件が2つ重なっている。頭を抱えたい気持ちは間違っていない。
彼が自分のことだけでなく、クラスメイトのことを想える人格者であることを認識して、わたしは一之宮くんと別れる。
この件は今週中にケリをつけないと厳しそうだ。
【ここから5回(プラスα)の自由行動の間は以下を行うことができます。
1.部活動組の学力向上
現在の部活動組学力:35(今回の中間テスト範囲)
自由行動で1を選択する度に学力プラス5されます。
→55の場合は退学者0
→50の場合はコンマ判定10分の1で退学者1名
→45の場合はコンマ判定10分の2で退学者1名、10分の1で退学者2名(10分の3で退学者が出ます)
→40の場合はコンマ判定10分の2で退学者1名、10分の2で退学者2名(10分の4で退学者が出ます)
→35の場合はコンマ判定10分の3で退学者1名、10分の2で退学者2名(10分の5で退学者が出ます)
2.雨宮綾香の説得 (最低1回、最大3回会う必要あり)
3.自主的に勉強させる方法の模索(今回の安価かその次の安価で必ず選択する必要があります)
4.今回のテストの攻略法を模索(最低1回、最大2回選択する必要あり。攻略法を思いつけば学力45で退学者が出る確率が0になります。40以下は低確率で退学者あり)
5.四条夏帆に料理を教わる(優先度低)
6.誰かと遊ぶ(優先度低)
☆1つの自由行動後、コンマ判定を行い、10分の3で自由行動を1回獲得できます。
今回の安価かその次の安価で3を実施する必要があります。
1~6の行動をします。下1でお願いします。
また同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」の場合は自由行動を1回獲得します。】
4
【>>286
4:今回のテストの攻略法を模索
ゾロ目ボーナスの記載を忘れていました。
後出しで申し訳ありませんが自由行動プラス1です。
自由行動残り4 → 5】
5月2日の夜、わたしは初めて湯船にお湯を貯めた。
この1ヶ月間はずっとシャワーだけで過ごしてきたが、今日は夏帆先輩から入浴剤を譲ってもらったので使ってみることにした次第だ。
感想は、最高の一言に尽きる。
浴室に広がるジャスミンの香りは心身を癒やし、入浴剤の裏に書かれていた様々な効能は現実味を帯びる。
まさに極楽浄土。至福の瞬間とはお風呂に浸かっている瞬間だと実感する。
この寮生活において、水道代やガス代、電気代は請求されない。使い過ぎれば注意が入るかもしれないが、毎日湯船に浸かるくらいは許されるだろう。つまり日替わりで入浴剤を愉しんでも家計に響くことはない。
今度の休日は入浴剤を買い込み、夏帆先輩とその素晴らしさを共有しようと考えたところで、頭のスイッチを切り替える。
「どーしよっかなぁー」
閉鎖された浴室にわたしの声が響く。
このまま勉強会を開けば運動部組は問題なし。
しかし放課後組が危ないようだ。良くてギリギリ退学者なし、悪くて3人ほど退学の恐れがあると聞く。なんとかそちら側の勉強会に混ざって状況を把握したいところだが、生徒会の業務の手前そうもいかない。
赤点候補者の自主性に任せる。
一之宮くんを始めとした放課後組の先生役に託す。
その他に、わたしが打っておける手段と言えば…。
「……一か八か、賭けてみるか」
正攻法の道を一歩踏み外した一か八かの賭け。
失敗すればプライベートポイントの減少に止まらず、クラスから退学者を出すことになる。
しかし成功すれば退学の恐れはほとんど無くなり、またクラスメイト全員が高得点を狙える。ひいては来月のクラスポイントが80~90ほど高くなり、1人あたり8000ポイント~9000ポイント程度の収益が継続的に見込める。
賭けてみる価値は十分にある、と意気込んだわたしは明日のお昼休みに早速行動を移すことにした。
◇◇◇
入浴剤で癒された翌日のお昼休み、わたしは友達のお誘いを断って、一人で食堂を訪れていた。
ランチAセットの券を購入して、わたしは食券機近くでただその時を待つ。こうしている間にもお腹は段々と空いていくが、この機会を無駄には出来ない。
約5分ほど待つと、待ち人はやって来る。
やや肥満気味な男子生徒。確か苗字は鈴木さんといったか。名前までは思い出せない。また生徒会室に置かれている生徒名簿を読み返しておく必要がある。
ともあれ彼は重い手つきで食券機の右下にある『0ポイントの山菜定食』を選択した。ポイント振り込み日である5月1日から間も無いが、3年Dクラスのクラスポイントはかなり困窮していると見える。
わたしは先輩の後を着いていくようにして、先輩が山菜定食を食べ始めたところで声をかける。
「お食事中に申し訳ありません。わたし、1年Cクラスの春宮といいます。お食事をしながらで結構ですので、お話を聞いていただくことはできますか?」
「し、知ってるよ…。錦山くんの生徒会に入った1年だろう? それに君は、何かと噂になってる」
無視を貫かれたらどうしようかと思ったが、わたしの肩書きと道場破りの悪名は良く轟いているようだ。
先輩の向かいの席に座り、和食のDセット─────1050ポイントというお高い昼食を見せつける。
ゴクリ、と息を呑む音がハッキリと聞こえて来る。
「手短に済ませます。先輩、」
いよいよ交渉が始まる、というところで背後から聞き覚えのある声がわたしを呼び止める。
「お、天音ちゃん。なーにしてるの? 鈴木くんとお話? 知り合いだったの?」
振り向くと、そこには乙葉先輩が居た。
手元には鈴木先輩と同じ山菜定食。
この人はAクラスだったと記憶しているが、本当にもうプライベートポイントが空なのだろうか。そんな疑問を抱きながら、わたしは否定する。
「いえ、少しお話をと思って─────」
ふと乙葉先輩から鈴木先輩へ顔を向けると、鈴木先輩の顔には陰が出来ていた。視線が定食へと落ちている。
「わたしは外した方が良いかな?」
「いえ、構いません。乙葉先輩もご一緒に」
「わーい! 天音ちゃんは優しいねー、その調子で海老の天ぷらもくれると嬉しいんだけどなー」
「いいですよ。少し多いと思っていましたから」
「冗談だって。今わたしが出せる対価は無いからね。今晩も夏帆ちゃんのウチで美味しいもの食べさせて貰うから、今は我慢だよ我慢」
饒舌な乙葉先輩はわたしの隣に座り、山菜定食を食べ始める。それから口を開く様子は見られず、わたしと鈴木先輩の話を傍観するようだった。
「鈴木先輩、ご相談です。1年生の5月に行われた中間テストの問題用紙を持っていませんか? もし可能であれば4月末に行われた小テストの問題用紙も戴きたいです。もちろんポイントをお支払いします」
一瞬、鈴木先輩は顔をあげてこっちを見た。
わたしと乙葉先輩。その両方に視線を向け、そしてまた視線を定食の方へと落とす。
そんな光景を見かねたのか、隣の先輩が口を開く。
「ま、フツー持ってないよね。くしゃくしゃにしてポイだよ。過去のテストなんてさ。ね?」
「……あ、あぁ。そうだな。花菱の言う通りだ」
どうにも乙葉先輩が姿を現してから鈴木先輩の様子がおかしい。さっきまでは警戒されつつもお互いが持つ武器を見せ合うことくらいは出来そうだったのに…。
乙葉先輩の手前、わたしも強く揺することは出来ない。交渉はたった1度の掛け合いで幕を閉じる。
「そうですか。わかりました。無理を言って申し訳ありませんでした」
わたしは頭を下げながら、状況を整理する。
今回、上級生に交渉を仕掛けたのは中間テストの問題用紙を譲ってもらうため。過去の問題と全く一緒のものが出題されるとは考えにくいが、それでも参考にはなるはずだと考えた。
その対価として3万程度のポイントを失う覚悟は出来ていたが、空振りに終わる。
この一連の流れから推測できることは3つ。
1、学校から過去の問題用紙をバラまくことを禁じられている。破った場合はクラスポイントもしくはプライベートポイントにペナルティがある恐れ。
2、上級生を取りまとめる1人、あるいは数人の生徒が1年生に対して問題用紙を渡さないように規制をかけている。
3、本当に問題用紙を捨ててしまった。
可能性として濃厚なのは1か2。
状況から見ても2の可能性が高い。
しかも鈴木先輩の様子を見るに、乙葉先輩が諸悪の根源である可能性が高い。というか絶対に犯人だ。すごく無邪気にわたしのDセットの方をチラチラと見ながら山菜定食を摘んでいるが、その胸の内では何を考えているか分からない。
わたしは海老の天ぷらをひとつ乙葉先輩のお皿に乗せて、食事を始める。どちらにせよ揚げ物ランチセットは胃に悪い。食べ切れるか不安だったため、ちょうど良かった。
「ありがとー! 天音ちゃん! わたしが問題用紙持っていたら渡せたのになー。渡せたのになー」
もはや隠す気がないんじゃないかと思えるほど露骨にそんなことを口にした。
わたしの敵は案外身近に居たみたいだ。
ともあれこれでわたしの攻略は封じられる。
さてさて、どうしたものか。今のところ少し時間を無駄にしたくらいで、ほぼノーダメージと言っても過言ではない。今ならまだ正攻法の道に戻れるが…。
【コンマ判定
直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
1・3・5・6・7・9・0:最後の手段を実行(自由行動消費なし)
2・4・8:考える(自由行動を消費して実行 or 他の選択肢を実行)
ゾロ目も最後の手段を実行できます。
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>293
5:最後の手段を実行】
昼食後、わたしは乙葉先輩に連れられて特別棟の屋上を訪れた。鍵は掛かっておらず、誰でも屋上に入ることが出来る。それが出来るのは監視カメラ1台と、高いフェンスが色々な問題を解決しているからだろう。
フェンス近くで乙葉先輩は長い黒髪を靡かせ、わたしの方を振り向く。
「何がとは言わないけど、良い線は行っていたよ」
十中八九、ポイントが不足している上級生にポイントを譲渡する代わりに中間テストの問題用紙を手に入れようとしたことだ。
裏から手を回していたことを自白するように乙葉先輩は笑う。
「嫌がらせがしたい訳じゃなくってね。それこそ天音ちゃんが一人で利用する分には良かったよ。でもそれでクラスメイトの子達を助けようとしているのなら、それは反対かな」
「反対……というと?」
「なんていうか、普通なんだよね。ちょっと賢い子が機転を利かせればそれくらいのことは思いつく」
そこで一呼吸を置いて、先輩は続ける。
「あっくんから聞いていたよ。中学3年生の頃に転校してきた1年生の子が天音ちゃんの幼馴染で、彼から君に関することをたくさん教えて貰ったって。当時、小学生とは思えないほど頭が良くて、身体も動かせたこととかたくさんね」
入学式の日、錦山先輩からその事については聞かされていた。幼馴染の平塚邦彦くんが錦山先輩の居た中学校に転校して、わたしのことを話していた。
そのエピソードを錦山先輩が乙葉先輩に話していても何の不思議はない。特に話されても困るような内容でもない。
「実際、日々の生徒会の業務と運動部との試合で天音ちゃんが聞いていた以上に優秀だってことは分かった。それは生徒会の全員が認めている。だからこそ、過去の中間テストの問題用紙を手に入れてテスト対策とかして欲しくないんだよね」
ここで乙葉先輩は暗躍していたことを認めた。
表情には何の悪びれる様子もなく、それどころかわたしに対して期待の眼差しを向けて来る。
「天音ちゃんには驚かせて欲しいんだ。常人には思いつかないようなこと、常人には為し得ないことをもって、この中間テストを乗り越えてほしい」
「……買い被り過ぎですよ。わたしはそんな人間ではありません」
口では否定をするが、1つだけ策は残っている。
それは奇抜でも常軌を逸脱した策でもなく、ただ一か八かの賭けの部分が強い。しかしわたしならきっとやれると信じている1つだけの対策法。
きっとそれは他の人では精度が落ちることだろう。
そういう意味ではわたしが適任で、常人には為し得ないと言えるかもしれない。
「1つだけ約束してください」
「うん、言って言って。まずは聞くだけだけどね」
「1年生から流れてくる噂を全部無視して下さい。それがどんな噂であっても、です」
「噂かぁ。うん、過度なもので無ければおっけーかな。ユキちゃんが誰かと付き合っているとか、そういう個人に迷惑をかける根も歯もない噂でなければ無視してあげる」
「そんなことはしません。ありがとうございます」
「お礼を言われる立場じゃないって。ちょっかいを出しているのはこっちなんだからさ。3年生と2年生、その両方に噂を無視するように言っておく。あとは中間テストが終わった頃に種明かししてくれると嬉しいな」
「はい、もちろんです」
「じゃあ戻ろっか。もう少しで授業だからねー」
フェンスから離れた先輩はわたしの手を取って屋上の扉へ向かう。
足取りは軽く、心の底から楽しんでいるようだ。
ほぼ正攻法に近いこの策は、果たして有効に働くか、そして乙葉先輩を楽しませることが出来るか。
それはテストの結果が出てからのお楽しみだ。
【テスト攻略法を思い付きました。
学力による退学者を出す確率が下がります。
赤点候補組の学力 現在:35
45:必ず退学者なし
40:コンマ判定10分の1で退学者1名
35:コンマ判定10分の2で退学者2名
次の行動は強制的に『自主的に勉強させる方法の模索』になります。
自由行動残り5 → 4】
乙葉先輩と対峙してから二日後の金曜日。
週末が差し迫り、放課後組の勉強を教える一之宮くん達の限界が近づいて来た頃。
わたしは生徒会の業務を一度抜け、図書室の隅で行われている勉強会に顔を出した。
テストを目前に控えたタイミングであれば、もちろん小声の条件で私語が咎められることはない。生粋の読書好きの方々もそれは承知のようで、各所から聞こえてくる小声を聞かなかったフリしてくれている。
「春宮、生徒会は大丈夫なのか?」
「うん、少しだけならね。どう様子は?」
「不参加の雨宮を除いて、前よりはマシになった。だがこのままでは不安も残る」
そう言って問題に取り組む4人に視線を向ける。
一之宮くんの中では4人中2人がセーフラインを越える想定、そして残りの2人はギリギリ踏めないと言う。
後ろにはわたしの策も控えているが、根本的な学力向上を図らなければ今後のテストの度に躓くことになる。互いが負担を感じるような事態は避けるべきだ。
なんとか自主的に勉強に取り組むモチベーションを上げておきたい。
すっごく単純に考えて、思いついたのは2つ。
1、毎月1万ポイントを払うから勉強してとへり下る
2、無事に終わったらみんなで焼肉パーティ
どちらもポイントがかかってしまう安易な考え。特に1はパッと思いついた中でも最低な提案だろう。
仲間意識を持たせて2という選択肢はアリだ。
テストを無事乗り越える度にお疲れ様会的なことをすればモチベーションも上がるだろう。また互いに教え合うという理想のシチュエーションも作れるかもしれない。
「ね、中間テストが終わったらみんなでご飯食べに行こうよ」
候補者の4人は怪訝そうにこちらを見てくる。
急に顔を出しただけのクラスメイトに言われたことが癪に触ったのか、とも思ったが。
「え、春宮ちゃんとご飯?」
「いくいく、ぜってぇ行く」
「つかさ、テスト後なんて言わず今晩にしない?」
などと、意外にも好感触だった。
それは想定していたお疲れ様会とは異なる様子だったが、モチベーションが上がってくれるならそれでいい。
「見事だな」
「そんなことないって」
やや茶化すように言ってくる一之宮くんの言葉を否定して、生徒会室へと戻るため踵を返す。
かくして、意外と単純に放課後組のモチベーションを上げることに成功した。
部活動組も勉強に対しての姿勢は整っている。
中間テストを無事乗り越えることができれば、ちょっとした大人数で楽しくお疲れ様会ができそうだ。
【放課後組のモチベーションを上げることに成功しました。
自由行動残り4回。
1.部活動組の学力向上(現在の学力:35)
45:必ず退学者なし
40:コンマ判定10分の1で退学者1名
35:コンマ判定10分の2で退学者2名
2. 雨宮綾香の説得 (最低1回、最大3回会う必要あり)
3. 四条夏帆に料理を教わる(優先度低)
4.誰かと遊ぶ(優先度低)
下1でお願いします。
同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」もしくはゾロ目で自由行動1回獲得です。】
2
【>>301
2:雨宮綾香の説得
コンマ2桁ゾロ目のため自由行動1回獲得
自由行動残り4回】
5月6日、土曜日の朝10時。
わたしは1年生の寮の玄関で部屋番号を入力してインターホンを鳴らしていた。『1111号室』。
わたしの部屋が『1101号室』のため、雨宮さんの部屋が同じ階にあったことをコンシェルジュさんに訊いて驚いた経緯がある。
この時間はケヤキモールの開店時間ということもあり、とにかく玄関周辺の人の出入りが激しい。どうして同じ1年生がわざわざ玄関でインターホンを押しているのかと奇怪なモノを見るような目で同級生が通り過ぎていく。
鳴らしてから10秒ほどが経って、
『はい』
そんな声がした。
雨宮さんの声は初めて聞いたため、この声の主が本人であるという確証も無い。ただ、別人である可能性こそ少ないため、本人でほぼ間違いない。
凛とした声。少なくとも寝ているところを起こしてしまった訳ではなさそうで安心する。
「同じクラスの春宮です。今、大丈夫かな?」
『……どうぞ、11階へ』
そう言って玄関の扉を開けてくれた。
ありがたくそのままロビーを抜けてエレベーターへ。押し慣れた11階のボタンを押して昇って行く。
やや気の抜けた音がエレベーター内に鳴り響き、11階に到着する。扉の前で宮野さんと軽い挨拶を交わして入れ違うように11階のフロアに降り立つ。
エレベーターを出て左側がわたしの部屋がある1101号室方面、右側が雨宮さんの部屋がある1111号室方面だ。
部屋番号を確認しながら右へ歩くと、右側の角から5つ目に『1111号室』と表札が掲げられている部屋を見つけた。部屋の前のインターホンを鳴らして数秒。扉が開かれる。
眼鏡をかけた部屋着の少女が姿を見せる。
「あんまり長話はしたくないから、要点からどうぞ」
「なら率直に言うね。勉強会に─────」
「やだ。人と会いたくないの。今回だって本当は無視するつもりだったけど、この際に言っておいた方が良いって思った。学校で話しかけられても嫌だからね」
出鼻を挫かれる。
会うことを承諾してくれた以上、交渉の余地はあると思っていた。しかし実際は、ほぼ出会い頭に誘うなとノーを突き付けられる。
まともに交渉に応じてくれなさそうな雰囲気だが、ひとまず話だけはしてみよう。
「次の中間テスト、赤点を取ったら退学なんだよ?」
「そもそも、たかだか小テストの結果が微妙だったから私に声をかけてきた訳でしょ? 本番のテストで赤点を取らなければ退学にはならない。違う?」
「それはそうだけど……。一緒に勉強会をした方が点数が取れるんじゃないかなって」
「必要ない。一緒に勉強会って、あの男達とでしょ? 普通に無理だから」
放課後組の男子生徒4人のうち3人は女子から煙たがられている側面がある。口が軽いとか、いやらしい視線を向けてくるとか、そんな話が絶えない。
雨宮さんが勉強会を拒否する理由が彼らにあるのなら、わたしは別の対応をするまで。
「なら部活動組の方はどうかな? 夜8時からになるけど」
「それも嫌。汗臭いの嫌いだし」
きっぱりと断られてしまう。
実際に一色くんの部屋に集まって勉強会をしている限りでは、あまり汗臭さとか感じないけどなぁ。
なまじスポーツを齧る身には分からないだけで、実際スポーツを一切やらない人からすれば違うのか。
ややショックを受けながら、わたしは提案する。
【コンマ判定
4・9:「わかった。……でも、諦めないから」
それ以外・ゾロ目:「もし、わたしと一緒に勉強しようって言ったら……どうかな?」
下1のコンマ1桁でお願いします。】
それ!
【>>305
5:「もし、わたしと一緒に勉強しようって言ったら……どうかな?」】
今のところ、彼女の言い分としては男子と一緒に勉強をしたくないというところが強く感じられる。
ならば同性のわたしはどうか提案する。
「わたしと勉強しようって言ったら……どうかな?」
「春宮さんと二人きりで?」
「う、うん。言い方がアレだけど、そうなるね」
「なら……」
ダメ元ではあったが、かなり好感触。
真っ直ぐに伸びた艶やかな黒髪を指に絡めながら、わたしの目をじっと見つめてくる。
「……うん、春宮さんと二人ならいいよ」
「えぇっ、ほんと? いいの?」
「だからいいって。まぁ、教えて貰う立場で偉そうなことは言えないけどさ。春宮さんって頭良いし、1人でやるよりも捗るみたいな?」
「そっか、わかった。わたしも頑張るね」
意外と簡単にオーケーが出て、わたしは内心で裏があるんじゃないかと勘繰る。
しかしそんな様子は見られず、チラチラとわたしの方を見てきている。恋する乙女らしい仕草。
「申し訳ないんだけど、空いている時間が平日の18時30分から19時45分、もしくは21時以降しかないんだ。その2つだとどっちの方が都合良いかな?」
「早い時間で。あんまり遅い時間はダメだから」
「うん、わかった。じゃあ18時30分に……。わたしの部屋にする? この階の端だけど」
「そうして貰えると嬉しいかな。春宮さんの部屋は興味あるし」
「いや、何にもないけどね? まぁとりあえず了解。月曜日の18時15分には寮に戻って来れると思うから、その後に来てくれるのを待ってる」
「り」
「……? うん、ばいばい。今日はごめんね急に」
「いいって。女の子なら」
別れ際に彼女が言い残した一文字は、後になって調べてみると『りょうかい』という意味らしい。かなり短い挨拶用語だが、それすらも短縮してしまうとは…。
それも込みで、意外と話しやすい子だった。どうしてこれまで一言も話したことがなかったのか分からなくなるほどに。
ともあれ、雨宮綾香さんの退学はほぼ回避されたと言っても過言ではない。もともと彼女の学力は赤点候補組の中でもトップの学力だった。1週間も勉強すれば合格ラインには優に届くだろう。
それに加えてわたしの策もある。その策は今朝完成した。お披露目は8日後の日曜日。テスト前日となる。
あとは部活動組の勉強を見つつ、一之宮くんから放課後組の進捗を聞いて不足の事態があれば力を貸すくらいでなんとかなるだろう。
かなりスケジュールがカツカツになるかと思ったが、案外この1週間目で片がついた。
わたしはホッとしてケヤキモールへ入浴剤を買いに出かけるのだった。
【雨宮綾香との勉強は自由行動を消化する必要はありません。勉強会の約束を取り付けた時点で退学は回避です。
自由行動残り4回。
1. 部活動組の学力向上(現在の学力:35)
45:必ず退学者なし
40:コンマ判定10分の1で退学者1名
35:コンマ判定10分の2で退学者2名
2. 四条夏帆に料理を教わる(料理の腕が上がります)
3. 誰かと遊ぶ(3を選択後、人を選びます)
下1でお願いします。】
1
【>>309
自由行動残り4回 → 3回
1:部活動組の学力向上(現在の学力:35)
書いていなかったですが、コンマ1桁「0」「3」「7」以外のため自由行動のプラスはありません。
部活動組の勉強は特に描写することもないため、雨宮綾香との勉強会についてやります。】
週明けの月曜日。
生徒会の業務終了後、夏帆先輩のありがたいお誘いを断って寮へと急ぐ。幸い、時刻は18時を過ぎたところで余裕で約束の時間に間に合った。
改めて部屋が散らかっていないかを確認して15分ほど待つと、まずわたしの携帯に待ち人からチャットが届く。返事をして1分程度で部屋の前のインターホンが鳴った。
「どうぞ、入って」
「お邪魔します」
「ココアとピーチティーとアップルティーなら、どれがいいかな」
「あ、じゃあアップルティーで。ありがとう」
おとなしめの私服に身を包んだ雨宮さんを居間へ通し、わたしは予め沸かしていたケトルからマグカップへお湯を注いでアップルのティーバッグを入れる。
雨宮さんは部屋を見渡している。
そういえば人を部屋に招いたのは初めてだっけ。どこかおかしいところとかあったかな。
「……なんか、入学したときのままじゃない?」
「そうかな? そんなことないと思うけど」
確かに改めて見渡すと、最初から備え付けられていたカーテンにベッド、机など変化が無いように見える。
シンプルイズベストを信条として掲げている身だけあって、入寮時の状態を無意識に保っていた。ここ1ヶ月で購入したものといえば、部屋着や外行きの服、マグカップといった家具以外の物だった。
「なんかつまらない女ってかんじよね」
「ひっどーい……」
「ま、これはこれで悪くないんじゃない」
思ったことを率直に言う子だなぁ、と思った。
普段の口数の少なさからは考えられないほど軽々と言葉が飛び出てくる。
まだ熱々なアップルティーを一口飲んだ後、持参していた勉強用具を広げる。
「ゆっくりしてていいよ。分からないところあったら聞くから」
「そう? じゃあお言葉に甘えて」
この後の部活動組の勉強会には制服で参加する予定だ。理由はひとつ、生徒会の業務帰りだとアピールするため。なんとなく忙しいイメージを付けておきたかった。
着替え直すのも面倒だとすると、やることは限られてくる。
パソコンでネットニュースを見るにしてもタイピング音とかマウスのカチカチとした音が雨宮さんの勉強を阻害する。携帯でゲームをして時間を潰すのも…。
そう考えていると、
「あー、これ邪魔だな」
雨宮さんは眼鏡を外した。
そうすると、ガラッとイメージが変わる。
かなりおとなしそうな印象から、先ほどまでの会話通りの活気のありそうな印象へと。
眼鏡ひとつでここまで変わるんだなぁと感心する一方、彼女の姿に見覚えのあるような気が湧いて出てきた。
「ん、なに? 間違ってる?」
「ううん、大丈夫」
結局、わたしは雨宮さんの向かいに座布団を置いて勉強姿を眺めることにした。基本的には机の方を一緒に見て、たまに彼女の顔を見るを繰り返す。
「タブレットの授業って持ち運びとかが無い分、楽だけどこういう時に困るのよね」
「そうだね。小さい携帯の画面かパソコンでしか見れないっていうのはデメリットかも」
普段の授業で使われているタブレットには全教科の教科書がインストールされている。悪用や故障のリスクを下げるため教室からの持ち出しは禁止となっており、必要に応じて携帯もしくは自室のパソコンで確認することで各自勉強の姿勢を取っている。
紙媒体の教科書は各々がケヤキモール内の本屋さんで購入する必要があるようだ。もちろん自費で。
それから数言やり取りをしながらも、彼女の自習は続いていく。時折口を挟んで指摘することもあったが、概ね問題がないように見えた。
今日一日を通して、1週間後の試験は余裕だと早い段階で気付くことができた。
【自由行動残り3回。
1. 部活動組の学力向上(現在の学力:40)
45:必ず退学者なし
40:コンマ判定10分の1で退学者1名
2. 四条夏帆に料理を教わる(料理の腕が上がります)
3. 誰かと遊ぶ(3を選択後、人を選びます)
下1でお願いします。
同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」もしくはゾロ目で自由行動1回獲得です。】
1
【>>314
1. 部活動組の学力向上
学力40→45(退学のリスクなし)
自由行動残り3回→2回
今回も部活動組で描写することもないので、部活動組前の雨宮綾香との勉強をやります。】
5月10日、水曜日。
今日も引き続き雨宮さんを部屋に招き入れた。
持参してくれたフィナンシェを戴き、わたしは自室で図書室から借りてきた本を読んで過ごす。少し視線を前に向ければ上機嫌で鼻唄を口ずさみながら勉強する雨宮さんの姿がある。
鼻唄は一切邪魔だと感じなかった。彼女自身、音楽のセンスがあるんだろう。どこかで聞いたことのあるようなリズムは心地良く、時間はあっという間に過ぎていく。
勉強を開始して30分が経とうとした頃、彼女は「あ」と声を出す。
「……ごめん。うるさかった? つい癖で」
「ううん、全然。ずっとしてても良いくらい」
「そう言って貰えると嬉しいな。これ、一応私の持ち歌なんだけどね」
「へー、持ち歌かぁ……ん? 持ち歌?」
「そうそう」
何事もなかったように、自身の発言を撤回することなく肯定した。
楽器に明るい人であれば、自作で曲を作るという話は聞いたことがある。だが、先ほどから彼女が口ずさんでいた曲はわたしにも身に覚えがある。
即ち、それが示すのは─────。
「……もしかして、天才作曲家とかそういう肩書きをお持ちですか?」
「なんで敬語? まぁいいわ。私の肩書きは、強いて言うならアイドルってやつなんじゃない?」
「アイドルっ?」
少し的外れなところを突いてしまったが、それならば彼女の持ち歌という発言に理解が及ぶ。
雨宮綾香という少女はアイドルをしている。その活動のひとつとして、先ほど口ずさんでいた曲があるのだろう。
比較的俗世間の流行に疎いわたしでも知っているような曲の持ち主である以上、かなりの有名人ということになる。
わたしは改めて彼女の顔をジッと見つめる。
切り揃えられた艶やかな黒髪。ぱっちりとした目は印象強く、鼻筋や口元にもそれらしさを感じさせる。また、綺麗でもちっとしていそうな白い柔肌は念入りに手入れがされているようだ。
「そんなに驚くこと?」
「いや驚くよ! 初めて芸能人見たんだもん!」
「そんな大したことないって。ちょっとCDが売れて、ちょっとドラマとか映画に役者で出演したことある程度だって」
「……」
空いた口が塞がらないとは、この事だろう。
常人には理解の及ばない活躍の仕方。
ちょっとドラマや映画に出演した経験があるだけでも雲の上の存在であることには変わりない。
呆然と座るわたしに、彼女は訊いてくる。
「ちなみに、私が誰か分かる?」
「…………………ほんっとうにごめん。わたし、あまりテレビとか見ないんだ。でも、歌は聞いたことある! 何かで聞いたことあるよっ」
「じゃあ次会うときまでには突き止めておいてね」
「うん! そうだ、サイン! サイン欲しい!」
「アイドルのサインは高く付くよ? まぁ、そうね。勉強を教えてくれたお礼ってことで、中間テストの後ならいいけどね」
「やった」
早速、週末にサイン色紙を買いに行こう。
この閉鎖された学園の中でサイン色紙を買ってどうするのか、と何も知らない店員さんは疑問を浮かべるのだろう。しかし実際、目の前にはアイドルがいる。
このサインは大切に保管して、卒業後に家族に自慢しよう。クラスメイトに有名なアイドルが居たって。
浮き足立つわたしはココアのお代わりを淹れることを進言するが、軽くあしらわれてしまう。
「いいって、気を遣わなくて。というか、気を遣って欲しくないの。春宮さんは信用できそうだから明かしたけど、他の誰にも言ってないんだから」
「あぁ、なるほど。有名人だもんね」
「眼鏡をするとかなり印象が変わるタイプでね。多分、眼鏡を外すとすぐにバレちゃう。逆に眼鏡を付けているうちは大丈夫だと思う」
「はぁー。なるほどね」
確かに一昨日、「邪魔だな」と言って彼女は眼鏡を外した。そのワンポイントだけで随分と印象が変わり、どこか見覚えがある気がしていた。
彼女が消極的にクラスメイトと関わらないこと、ひいては勉強会に参加しない理由も正体がバレたくないという思いからなのかもしれない。
【安価です。
1.アイドル活動について
2.この学校に入学した理由
3.歌を教えてもらう(後日、一緒にカラオケで音楽スキルの向上)
下1でお願いします。】
3
【>>318
3. 歌を教えてもらう】
ペンを握る手を止め、彼女は告白を始める。
「私は幼少の頃から芸能活動一本ってかんじでさ。ろくに学校には通わなかったし、まともに勉強もしてこなかった。その結果、赤点候補者に名を連ねてるんだからダサいよね。やるなら勉強もある程度できた上で仕事をしなってね」
自虐気味に笑う雨宮さんを、わたしは笑わなかった。
正面に座り、純粋な気持ちを伝える。
「凄いと思うよ、芸能活動をしながら勉強って。確かにこの前の小テストは赤点近かったけど、この3日間雨宮さんの学力を見てきて基礎はしっかりと理解できてるなって思った。雨宮さんは十分、仕事と学業を両立できてるんじゃないかな」
そう言うと、彼女は少しの間だけ硬直した後、大袈裟に手のひらで顔を煽ぐようにする。
「……や、やめてよね。なんか泣く流れみたいじゃん。でも、ありがとう。そう言って貰えると嬉しい」
「うん。で、」
「で?」
「ここ1週間半の間、生徒会と勉強会の両立をしているわたしからのお願いなんだけど」
「おおっと? そういう流れ? 断れない流れじゃん。とりあえず聞いてあげる。なんでしょうか?」
「わたしに音楽のことを教えてください」
「…………はい?」
雨宮さんは首を傾げた。
確かに支離滅裂なことを言ってしまったなと思う。
改めて一から告白することにする。
「わたし、料理と音楽が出来ないんだよね。料理に関しては、生徒会にすっごく上手な先輩が居てね、現在進行形で教わっている途中」
「あー、なるほど。欠点の音楽を私から教わることで補おうと?」
「端的に言ってしまうと、そんなかんじ。ダメかな」
すごく率直なお願いに、雨宮さんは大きく笑ってみせた。とは言っても、さすが芸能人。品良く、貞淑に口元を隠して笑っている。
「うん、いいよいいよ。歌でもピアノでもギターでも、割となんでも出来るから。もちろんその道のベテランには及ばないかもしれないけどね。センスを磨くって話なら私でも役に立てると思う」
「ほんと? よかったぁ」
交渉材料として分かりやすいポイントを献上して講師をして貰うプランも考えていたが、彼女は快く引き受けてくれた。
「でも、どうして急に? 春宮さんって自分の弱点的なところを人に話すのはしないタイプだと思った」
「周りを頼り辛いな、っていうのはあるかも。でも、雨宮さんが先にバレたくないことを告白してくれたから、かな。これでお互いが周りにバレたくないことを知っている、みたいな?」
「なにそれ。めちゃくちゃだけど、嫌いじゃない。その案乗った。私の抱えている内容に比べたら、些か春宮さんの秘密は弱い気がするけどね」
確かに雨宮綾香という少女のアイドル人生そのものの秘密と、春宮天音という少女の出来ない事というのは釣り合っていない。
だが、目の前の芸能人はそれでも構わない、という表情をして初めて右手を差し出してきた。
わたしもその手を取り、ここにひとつの友情が出来上がる。友人関係として、時折勉強を教え、時折歌を教え合うような関係を。
【コンマ判定
7・0:将来について
その他:自由行動終了
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>322
4:自由行動終了】
あっという間に雨宮さんとの勉強会の時間は過ぎ、その後わたしは一色くんの部屋で部活動組の勉強を見る。
そんなルーティンワークをこなした後、夕食やシャワーを浴びたりと寝る前の準備をすると日付が変わる直前になっていた。
ベッドに座り、携帯を取り出す。
少し考えた後、以下のワードで検索を行う。
『黒髪 中学生 アイドル』
すると眼鏡を外した雨宮さんそっくりの人物の画像が次々に出てきた。中学生でアイドルをしている時点でかなり絞り込みが出来たのだろう。
芸名は『白石詩波』。『ウタちゃん』の愛称で幅広い年代に男女問わず人気があり、色々なサイトで絶賛されている。あの百科事典のサイトに登録までされているのだから驚きだ。
そういえば乙葉先輩が自分の名前と似ているからという理由で応援していたような。それを知れば驚いて喜ぶ姿が想像できる。ただ、少なくともわたしからそのことを仄めかすことはないだろう。彼女が隠したがっていることを勝手に語るつもりはない。
「…………………重責だなぁ」
ベッドに倒れ込み、目を閉じる。
知っている分、隠し通すことを第一に考えなければならない。もし何かの拍子にバレることがあれば、友情に亀裂が入る。
何も知らずに「雨宮さんって白石詩波ってアイドルに似てない?」とわたしから発言するリスクが事前に回避できただけ御の字とポジティブに考えるべきか。
気軽にサインが欲しいと言ったものの、部屋に飾ることはできない。誰かが部屋へ来たとき、それは決定的な証拠になりかねない。
「でも……」
秘密を打ち明けてくれたのは嬉しかった。
信頼してくれていることが心の底から嬉しかった。
公には『学業優先』と発表して休業している彼女を退学にさせるわけにはいかない。彼女のアイドル人生を守るためにも。
【週末の土曜日 自由行動
残り2回(土曜日・日曜日)
1.部活動組の学力向上(現在の学力:45)
退学者の恐れなしのため優先度超低
2.誰かと遊ぶ
1.早見有紗(前の席の女子生徒)
2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3. 一之宮重孝(全国模試2位の男子生徒)
4. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
5. 神宮紫苑(同級生の生徒会役員)
6. 花菱乙葉(信頼のできる生徒会役員?)
7. 如月深雪(信頼のできる生徒会役員)
8. 四条夏帆(信頼のできる生徒会役員 料理スキルアップ)
9.雨宮綾香(信頼のできるクラスメイト 音楽センスアップ)
3.1人でケヤキモールへ(コンマ判定で誰かと会うなどランダム要素大)
下1でお願いします。
2の場合は「2-1」のようにお願いします。】
2ー8
【>>325
2-8:四条夏帆】
週末の土曜日。
わたしはケヤキモール内のスーパーで夏帆先輩と待ち合わせしていた。予定よりも10分ほど早く着き、今は端の方で携帯を触っている。
昨晩、雨宮さんと部活動組のテスト対策は完了した。この目で直接見たわけではないが、放課後組の勉強もひとまずはひと段落がついたようだ。
明後日の試験への対策はほぼ万全。あとはわたしの限りなく正攻法に近い秘策がどれだけ通用するかだ。
そんなわけで、2週間弱に及ぶ勉強会は一時的に解散となり、各々が勉強もしくは息抜きに遊びに出掛けることが許可された。
わたしもその内の一人で、今日は料理スキルを磨く日と決めた。何を作るかは先輩任せだが、きっと美味しいものが作れると信じている。
「天音ちゃん。待ちましたか?」
「いいえ、全然。さっき来たところですから」
「うん、なら良かったです」
ほぼお決まりと言ってもいい挨拶を交わした後、カゴを持ってスーパーの中を巡る。
「今日はビーフシチューにしようかなぁって」
「いいですねっ! 自宅で作れたら最高です!」
「良い反応をありがとうございます。パンと一緒に食べるも良し、オムライスにかけて食べるのもいいですね。せっかくのお休みだから本格的に煮込もうかなって思いますが、時間は大丈夫ですか?」
「はい、もう明日の夕方くらいまでなら」
「そんなに時間は取りませんよ。超本格的に作るなら何十時間煮込みたいところですが、今日は5時間くらいを想定しています」
そう言って、次々にカゴへ食材を入れていく。
結局、先輩とスーパーをまわった時間は5分程度と、熟練者のそれを感じさせた。お肉、野菜、そのどれもが一瞬で見極められる。調味料は先輩の部屋にすべて揃っているにしても、非常に迅速な買い物だった。
「良いお肉があって良かったです」
「……そうですねっ」
わたしにはほぼ一緒と思われたお肉だが、先輩の目にはひときわ輝いている物があったらしい。
そういう目利きが出来ると料理が一層に楽しく感じるんだろうなぁと思っていると、あっという間に2年生の寮に到着し、先輩の部屋まで辿り着く。
「さて、早速ですが作りましょうか。11時なので、今から作り始めて夕方頃には出来上がります。ただその時間も微妙なので、そのまま夜ご飯にしますか? お昼は別のものを作りましょう」
「わかりました! よろしくお願いします!」
先輩の指導のもと、料理の特訓が開始する。
具体的で細かい指示。そのどれもが温かみがあり、決して手を動かす人を否定しない。
この2種間近く人に勉強を教えるということを通して感じた『指導力』。
夏帆先輩はその能力がとても強い。きっと料理だけでなく、勉強を教えることも得意なのだと想像に難くない。
良い先輩を持てたなぁとしみじみ思った。
【安価です。
1.実家の洋食屋について
2.生徒会について
3.2年生について
4.世間話
下1でお願いします。】
1
【>>328
1:実家の洋食屋について】
ビーフシチューは煮込む段階に入った。
弱火でじっくりと味に深みを出している間、自然とわたし達は居間でお茶することになった。
冷たい緑茶で喉を潤しながら先輩と世間話を始めて数分。ふと思ったことを聞いてみる。
「先輩のご実家って洋食屋さんでしたよね」
「はい、そうですよ。ご期待ほど大きいお店ではありませんけどね」
「いえ、そういうのではなく。どんなお店だったか聞いてもよろしいですか?」
「そうですねぇ……。ありふれたエピソードになりますが、それでもよろしければ」
わたしが頷くと、夏帆先輩は話し始める。
「まず両親は若い頃に2人で今の洋食屋を開いたそうです。当時はもう赤字続きだったとか。何度も何度もお店を畳もうとしましたが、それでも味を気に入ってくれる常連さんの手前、閉めれなかったそうです」
おそらく世間には同じような経験をしてきたお店も多いのだろう。どんなに味に自信があっても、最初はそういう道を辿るのが料理屋の登竜門なのかもしれない。
特に脱サラをしてラーメン屋を開く、なんて話は比較的よく聞く。
会社を辞めてラーメン屋を開く。そして1年後には赤字が続いて閉店する。
話す分には二言で済むが、その過程には強い想いがあるはずだ。しかし現実は厳しく、お店を畳んだ後は借金もしくは残高が大きく減った通帳が手に残る。すぐ会社員に戻れる訳でもない。
夏帆先輩の実家も例に漏れず同じような状況に陥りながらも、常連さんのためにお店を開け続けたという。
「私が産まれて間もない頃、実家に転機が訪れました。ドラマの撮影と雑誌のインタビューが重なったんです。それで一躍有名になったお店は、着々と事業が安定していったという訳ですね。本当によくある話だと思います」
「はい、それでも。それでも、先輩のご両親はとてもご立派だと思います。本当に。先輩の真っ直ぐなところはご両親譲りですね」
「……天音ちゃんは人をたらし込む才能もありますね。もう、私だから良いものの、クラスメイトや乙葉先輩にも同じようなことをしてるんじゃないですか?」
「そ、そんなことはっ……ないと思います!」
たらし込むだなんて、人聞きが悪い。
わたしは思ったことを素直に言っただけなのに。
わたしの否定に先輩はクスッと笑い、話を続ける。
「まぁいいでしょう。ともかく、そうして有名になったお店は現在でもそこそこ繁盛して、毎月それなりに貯金できるくらいには儲かっているということです。ちなみにお店の雰囲気もさることながら、味も絶品だと思っています。多少贔屓目かもしれませんが」
「先輩の料理はどれも素晴らしいです! ご実家の洋食屋さんもきっと美味しいはずです!」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ぜひこの学校を卒業したらいらしてください。腕によりをかけて、私の両親が作ります! 私は未熟者なのでお手伝いをしています」
思い返せば、先輩の料理を教えてもらうとき、先輩は包丁を握ることもフライパンの持ち手を握ることも無かった。ずっとわたしだけが手を動かして、先輩は口頭で指示を出すだけだった。つまり先輩の指導力は確かなものだが、その腕は未知数だ。
ただ生徒会の仕事を通して超器用な人だということは分かっているし、物事を並行に進めることも得意だと理解している。きっと口先だけではない実力を秘めているのだろう。
どんな時でも親の背中は大きく見えるもの。
それが、先輩が自分自身を未だ未熟者として思い込んでいる原因なのかもしれない。
「はい! 楽しみにしています。この学校を卒業したら、真っ先に先輩のご実家にお伺いしますね」
雨宮さんのアイドル活動のライブ、そして夏帆先輩のご実家。卒業後の楽しみがまた一つ増えた。
それから話が途絶えることなく、夜まで続いた。
約7時間煮込んだビーフシチューの味は端的にいって超絶美味しかった。レトルトや固形ルーとして売られいるものとは全く違う深みを始めて知った。
【今日はここまでにします。お疲れ様でした。
続きは今晩にします。
料理スキルアップ
現在:料理:32(ちょっと下手)
基本的にコンマ1桁で決めます。減少はありません。?
1:プラス1?
2~4:プラス3?
5~8:プラス5?
9・0:プラス7?
2桁がゾロ目:プラス10?
下1でお願いします。】
ゾロ来い!
【>>333
9:プラス7
32 → 39(まぁまぁ?)
自由行動残り1回
1. 部活動組の学力向上(現在の学力:45)
退学者の恐れなしのため優先度超低
2. 誰かと遊ぶ
1. 早見有紗(前の席の女子生徒)
2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3. 一之宮重孝(全国模試2位の男子生徒)
4. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
5. 神宮紫苑(同級生の生徒会役員)
6. 花菱乙葉(信頼のできる生徒会役員?)
7. 如月深雪(信頼のできる生徒会役員)
8. 雨宮綾香(信頼のできるクラスメイト 音楽センスアップ)
3. 1人でケヤキモールへ(コンマ判定で誰かと会うなどランダム要素大)
下1でお願いします。
2の場合は「2-1」のようにお願いします。】
2-8
【色々と立て込んで進められませんでした。
申し訳ありません。
少しだけ更新しておきます。】
【>>335
2-8:雨宮綾香】
いよいよ退学を賭けた中間テストを翌日に控えた日曜日。わたしは朝9時30分に寮のエレベーター前で雨宮さんと待ち合わせをしていた。
きっかけは十分な学力を有していると判断した金曜日。ケヤキモールまでお出掛けしようと誘ったところ快諾してくれた。
もちろん学校で悪目立ち? をしているわたしと居れば雨宮さんが人の視界に入る機会が増える。そのため短い時間、可能な限り目立たないようにすることを目標に行動することにした。
ケヤキモールの開店時間は朝の10時。よっぽどの理由がなくとも、開店待ちをする生徒は多い。しかし10時以降もまた、寮とケヤキモールを繋ぐ道には人の姿が絶えることがない。
どちらの方がリスクを抑えられるか考えた結果、開店前に寮側ではない出入り口から入ることで多少人目につかないよう立ち回る事が出来ると計画を立てた。
5分ほど待つと、雨宮さんが部屋から出てきた。それでもまだ待ち合わせ時刻の10分前だ。
「わ、早いね。待った?」
「ううん、ちょうど来たところだから。雨宮さんを待たせないように早く出てきて正解だったよ」
「そ。良い心がけね。感心感心。ありがと」
エレベーターの降りボタンを押すと、割と早く到着する。扉の先には2名の女子生徒。携帯の方を見て、こちらには目もくれていないようだ。
今日も雨宮さんは伊達眼鏡をかけている。まじまじと顔を確認しなければ正体に気付かれることはないだろう。
ちなみに帽子やマスクを付けて露出面を減らさないのかと聞いたところ、
「そういうあからさまな変装はバレやすいし、私は眼鏡で結構印象が変わるからね。髪型をおさげとかにしておけばそれっぽいでしょ?」
と、今日は物静かそうな子を演出している。
見た目だけでなく、根からそういう子なんだなと思わせるオーラまで漂っている。
よく出来た変装─────役に没頭するかのような姿勢にはつい目を奪われる。
そんなことを考えていると寮のロビーへ着く。
幸い、人はちらほらと見受けられる程度だった。足早に寮を出てケヤキモール方面へ。そして真正面の入り口を迂回して遠い出入り口へ。こちらの方はまったく人がいなかった。
「で、今日はなにするの? あんまり目立つのは勘弁だからね」
「そうだね─────」
このケヤキモールで人目につかない事といえば、もはやそれは決まっているようなもの。
そう、それは……。
【安価です。
1.カラオケ(音楽センスアップ)
2.楽器屋(音楽センスアップ)
3.映画館(主演:白石詩波 信頼度アップ)
4.個室カフェでお茶(信頼度アップ)
下1でお願いします。】
2
【>>339
2.楽器屋(音楽センスアップ)】
わたし達は2階の楽器屋を訪れていた。
ケヤキモール2階の隅の方にあるせいか、この辺りは人の姿がない。それに準じたようにお店の規模も小さいものだった。
入り口付近にはギターやベースが並び、奥の方には電子ピアノが置かれている。
やはり楽器なだけあって、お値段もそれなりだ。
「まぁ、寮でギターなんて弾いたら隣に迷惑だからね。この学校に軽音部とかあったっけ?」
「うん、あるよ。1年生は2人、2年生は4人、3年生は3人の合計9人。2年生の1人が幽霊部員気味らしくて、実際は8人みたいだね」
「すっごく正確な回答をありがとう、生徒会役員さん」
どの部活が何人構成であるかぐらいは守秘義務に該当しないと判断して気軽に話す。
新入生が部活動に入部する時期は4月中旬から下旬に掛けてが最も多い。一方、決断に至らなかった生徒もしくは乗り気でなかった生徒は、その後自由に参加可能な見学を通して入部することができる。
見学という仕組みを利用すれば構成人数を調査することくらい誰にでも出来るという訳だった。
「~♪」
上機嫌な雨宮さんはギターコーナーを抜けて電子ピアノコーナーへ。数台置かれているだけだが、値段は安いと感じるものから数ヶ月分のポイントを必要とするものまで幅が広い。
ここでふと、フルートやクラリネットは置かれていないと気が付く。あまり詳しくないけれど、あれは吹奏楽の楽器なのかな。この学校に吹奏楽が無いため、ここでは取り扱われていないのかもしれない。
軽音と吹奏楽の違いもよく分からないけれどね。
そんなことを考えていると雨宮さんがこっちを向いて聞いてくる。
「春宮さん、つまらない?」
「え、ううんっ。楽しいよ。全然わからないけどね」
「じゃあ試しにちょっと弾いてみようよ」
そう言って、雨宮さんは店員さんに一声かけて許可を取る。今はわたし達以外に人が居ないため自由に弾いてもいいようだ。
座って座って、と電子ピアノの前に設置された椅子に座ることを促され、素直に座る。
「弾いたことある?」
「ほんの少し触ったことがあるくらいかな。ここがドだよね」
「あ、そうそう。いけそうだね」
雨宮さんはわたしの後ろに周り、鍵盤に乗せた手のひらに手を重ねてくる。
「お馴染みの曲ね」
わたしの手の上に乗せられた雨宮さんの手が動く。
ゆっくり、聞いたことのある曲が奏でられる。
お店の閉店間際に流れる例の曲だ。
つい「おぉ」と感嘆が漏れてしまうほど良く弾けている。開店して間もないこの時間にこの曲は少し罪悪感があるけど。
「これくらい弾ければ話題作りにはなるでしょ?」
「うん、なるなる! 片手でも弾けるのも良いね」
この曲はマスターしたと言っても過言ではない。
今度、音楽室を訪れる機会があれば弾いてみるのも良いかもしれない。
それから誰もが一度は聞いたことがある音色を簡単に弾かせてくれる。その時間はとても楽しく、勉強になった。
音楽に対する苦手意識が若干薄れたような気がする。
【音楽センスアップ(マイナスはありません)
現在:17
1:プラス1
2~4:プラス3
5~8:プラス5
9:プラス7
下1のコンマ1桁で決めます。
2桁がゾロ目の場合はプラス10です。】
あ
【ここ数日、全然できなくて申し訳ありません。
バタバタとしていましたが、今日からは大丈夫だと思います。
再開します。】
【>>343
8:プラス5
音楽センス:17 → 22】
その後、疎らに席が埋まるカフェで甘い飲み物と軽食をテイクアウトして寮への帰路に着く。
5月も中旬に差し掛かった今日は、一段と強い陽射しがアスファルトを焦がしていた。陽炎が見えるほど気温も高く、蝉が鳴いていないのが不思議なくらいだ。
「……あっつい」
半歩後ろを歩く雨宮さんは前のめりになり、今すぐにでも倒れそうだった。
やや後方に注意を払いながらも無事に寮に到着したわたし達は1101号室、つまりわたしの部屋へと直行する。
「おじゃましまーす」
「はい、誰もないけどね」
机の上に置いてあったエアコンで空調を効かせて、手洗いうがいを済ます。
こういう時期は体調を崩しやすいため念入りに行う。もしやらずに風邪を引いたとき後悔しないようにするためだ。
わたしに続いて雨宮さんも済ますと、居間で買ってきたものを広げて寛ぐ。今頃、この寮の何処かで必死になって勉強している人も居るかもしれないが、わたし達はそれほど切羽詰まっていない。
涼しい部屋でのんびりと過ごす。
冷たいピーチティーで喉を潤したところで、雨宮さんが口を開く。
「変なこと聞いてもいい?」
「うん。答えれるどうかは保証できないけど、答えられる範囲でよければ答えるよ」
「じゃあ遠慮なく。春宮さんってさ、彼氏とか居たことある? というか現在進行形でどうなの?」
一瞬、わたしの思考が止まる。
かれし、カレシ……彼氏かぁ。彼氏ねぇ。
他の何者でもない、友人以上の関係の異性だろう。
そういった人は……。
【コンマ判定
1・7・0:彼氏居たことがある
2・3・4・5・6・8・9:居たことがない
ゾロ目:彼女が居たことがある
下1のコンマ1桁でお願いします。】
ん
【>>347
9:居たことがない】
わたし達はまだ15歳から16歳になる年。
彼氏が居ない歴イコール年齢というのは恥ずべきことではない。むしろ普通のことだと思う。たった15年で会える人の数はごく僅かだ。
それに学校という閉鎖的な身分に縛られている内は出会いも少ない。社会人になってから日本全国、あるいは海外で一生のパートナー候補を見つけ、友人から始まり恋人、そして結婚に至るのではないだろうか。
……と、わたしは考えているけれど、重いかな?
「あ、ごめん。彼氏って言い方は今どきアレだね。恋人だ。春宮さんは恋人とか居たことある?」
余計な気を遣わせてしまったかもしれない。
確かに今どきその辺りは人それぞれだからなぁ。
「居たこともないし、現在進行形で居ないよ。高校では良い出会いもありそうなものだけどね」
「へー、意外。まぁ春宮さんは真面目だもんね。恋人を作るってことは、結婚を前提に考えちゃう系でしょ?」
「そんなことは……ある、かも?」
「そういう生き方も全然アリだと思うけどね。取っ替え引っ替えで恋人を作ると軽く見られがちだし、前の彼氏に好きって言ってたのはどんな意図があってのことなのかってカンジだよね」
「そうそう、それ!」
「好き」は気軽に言うべきでない言葉のひとつ。
ライクを意味する「好き」は多用しても問題ないが、ラブを意味する「好き」は人生で一度きり。たった一人、この人と残りの人生を添い遂げると覚悟をもって発する言葉だと思う。
「私は春宮さんと同じ考えの側かな。仕事の都合で同年代の美男美女と話す機会が多くあったけど、一部は取っ替え引っ替えで恋人を作ってたね。そして私は軽い男だな、とか軽い女だなとか思ってた」
「へー、どこもそんな感じなんだね」
「芸能人でも所詮は十代だからね。普通の学生より自分がカッコいい、カワイイって自覚している分、かなりタチが悪いよ。そういう軽い男の告白は容赦なく一蹴することにしているし」
わたしのように狭い地元の中学に縛られることなく、様々な学校、幅広い年代の人と絡む機会が多い彼女が言うのだから間違いない。
「軽くない男の子の告白は断ってないの?」
「少し迷ったこともあったけど、この人とは結婚までは行けなさそうだなって思って断ったよ。顔は悪くないし性格も悪くない。でも、たったひとつだけ。私が彼に興味が持てなかったっていう理由でね」
「……そっか。確かにそれは大切だよね」
互いに相手に対して興味関心を持ち続けることは長く付き合っていく上で必須だというのは賛同できる。
興味が尽きてしまえば、刺激の無い日々が続く。
それは惰性で生きているのと何ら変わりない。
部屋で携帯を触って過ごすのと大差ないと思う。
恋人でいる必要はないと、思い至るだろう。
考えれば考えるほど奥深い。
恋とは、結婚とは。
それを考えるのは、この未熟な頭では結論が出ない。
「あ、ごめんね。なんか真面目な話になっちゃった。本当は過去の恋人のこと、今の恋人のこと聞き出そうと思ったのに」
「聞き出してどうするの?」
「高校を卒業した後に映画が決まっていてね。春宮さんのこと、居たかもしれない彼氏のことが分かれば、役の参考になるかもって」
「卒業って……まだ、学生生活ほぼ残り3年だよ?」
「5年後というか、卒業後2年先まで予定が埋まっている私にそれ言う?」
「……まじかぁ。すっごいなぁ」
彼女の経歴は歌って踊るアイドルというよりは、女優そのものだった。
子役から始まり中学生になって幅広く迫真の演技を可能とする彼女は同年代の役者の中でも頭ひとつ飛び出ていると称されている。
そんな彼女が卒業後2年先のスケジュールが決まっていると言えば、わたしは素直に信じてしまう。
「あぁ、急に話は変わるんだけど……」
雑談は続く。夕方五時になるまで。
その時間はとても楽しく、後から考えてみれば何の中身もない話だったかもしれないけれど、非常に有意義な時間の使い方だったと言えるだろう。
【コンマ判定
ゾロ目:将来について
4:家族について
それ以外:夜へ
下1のコンマ1桁でお願いします。】
え
【>>351
1:夜】
その日の夜、わたしは深く考えずクラスチャットに対して何枚かの画像を送る。
ものの5秒ほどで10件の既読、20秒も経てばクラスメイトのほぼ全員から既読がつけられる。
30秒ほど経って、ようやく1人が反応を示した。
『これ明日の試験問題?』
『三年生の先輩から貰った過去問題』
『そのまま出題されるかどうかは分からないけどね』
素早く返信すると、続々とレスポンスが返ってくる。
『うわ! まじか!』
『さっすが生徒会役員! 助かる~!』
『これ覚えれば満点いける?』
信じるか信じないかは各々の判断に任せるとして、ひとまず上手くいった。
生徒会役員という肩書きのおかげで、他の人よりも上級生との繋がりが強いことを信じ込ませることは容易い。
それからしばらく反応を見た後、わたしからは特に何も発することなくチャットのアプリを落として、ベッドに倒れ込む。
真っ白な天井を仰ぎ、目を閉じた。
「これでおっけーかな」
本当は三年生の先輩から過去問題は貰えていない。
周知した過去問題はわたしが手作りしたもの。
高校受験のとき、そして先日の小テストでの問題用紙の形式が同一であったため、その形式もとに出題されそうな問題をひたすらに打ち込んだ。
わたしが行ったのは出題されそうな問題予想と嘘をつくこと。
前者は真っ当な試験対策。
後者は許されることではないかもしれないけれど、三年生にはどんな噂が流れてきても無視するように手は回してある。
つまり嘘はわたしの中でのみ発生する罪悪感であり、他人からすれば真実そのものとなる。
問題の精度はまずまずだと思うが、所詮は過去問題。そのまま出題されるこの方が少ないだろう。
かくして、わたしの手作り試験問題は1年Cクラスの皆に実際の過去問題として知れ渡った。
前日の夜にこうして発信したのは他クラスへ流出する可能性を限りなく小さくするため……だったが、もう既に他クラスのグループチャットに回っているかもしれない。
それは仕方がないことだと割り切り、わたしは明日のため就寝の準備を進める。
クラス全員が他クラスを蹴落としてAクラスに上がるという共通の目標を持ってくれたら……。
そんな淡く、悪い思いを胸に秘めて。
【赤点候補者の学力は45のため退学者は0です。
手作りした過去問題の精度を判定で決めます。
コンマ2桁を反転して判定します。
学力:97(超優秀) 補正あり
直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
01~29:50%
30~59:75%
60~89:90%
90~98・ゾロ目:100%
学力が優れているため最低でも50%以上の精度になります。
また、学力・直感・洞察力の補正としてコンマ判定の値にプラス15されます。
下1でお願いします。】
高めもしくはゾロ
ぎゃあ
すまん
まあ見たことないテストだからしかたないね
【>>354
07 → 70(反転) → 85(学力直感洞察力補正込み)
85:90%
>>353のコンマ判定の3行目に2桁反転と書いています。
もう少し下の方に書いた方が分かりやすかったですね。
次から気をつけます。】
週明け水曜日の朝。
2日間の中間テストを終え、通常の学校であれば各教科の授業にて採点済みのテスト用紙が返却されるところだが、この学校では翌朝のホームルームで一斉に発表される。
誰もが一刻も早くテスト結果を知りたいと思い、浮き足立ったまま迎えた定刻。
ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴ると同時に伊藤先生が教室前方の扉から入ってくる。
いつもと何ら変わりのない雰囲気を纏う先生はノロノロと教卓に着くと、手元のリモコンを操作する。
間もなくして背後の電子黒板の表示が切り替わる。
『1年生 1学期初回中間テスト 結果』
至るところから息を飲む音がした。
5分後には退学が宣告されるかもしれないという状況だが、今さら気にしても仕方がない。
「え、2日間に渡る中間テスト、お疲れ様でした。色々と言いたいことはありますが、まずはこちらをご覧ください」
先生は教壇を降り、ついさっき入ってきた扉の前まで移動する。
クラスメイトの全員が教卓の奥、電子黒板の方へ注目する。
次の瞬間、画面は切り替えられる。
出席番号順ではなく、良いものから悪いものまで上から下へ名前と点数が書き連ねられている。
わたしは真っ先に各教科の一番下の点数を見て安堵する。どの教科も最低の点数が70点を超えている。この時点で退学者はゼロという重畳の結果が分かる。
「ぁ……よかったぁ」
「っし!」
クラス中からそんな声が聞こえる。
その雰囲気に喜びを感じながら、わたしは頭の中で全教科の平均点を算出した。
『91点』
それが1年Cクラスの平均点。
つまり、おそらくこの中間テストにおいて獲得のできるクラスポイントは『91』で、5月1日時点の保有クラスポイントは『710』だったため合計で『800』を超える。
授業を受ける態度などに問題がなければ、わたし達は来月には80000円分に相当するプライベートポイントを貰えることになる。この結果も含めて、この上なく上出来と言えるだろう。
ちなみに全教科満点の生徒がわたしを含めて数名いた。その他も全教科90点以上が半数を上回り、赤点組も全教科70点以上を出して勉強に対してのモチベーションを上げることが出来たのではないかと思う。
「えー、正直、驚きました。お見事でした」
先生が数回手を叩き、賞賛を送ってくれる。
クラスの大半が伊藤先生に対して好意的な意識は持っていないが、それでも褒めて貰えたことが嬉しいのかクラス中に笑顔が溢れる。
「春宮さんのおかげだね!」
「あれが無くても俺は大丈夫だったが、この結果はあれが無いと出せなかった! 良かったな!」
偽の過去問題作成については、わたしの中で反省点が残る。予想問題の約9割は実際に出題されたが、残りの1割は予想から外れていた。
次回のテストでは精度100%を目指したいと目標が定まった頃、
「みなさん、携帯を机の上に出してください」
冷たい言葉が伊藤先生から発せられる。
テスト結果に浮かれているところを釘刺される形になり、クラス中に緊迫感が漂う。
中間テストの後、結果発表の後。
このタイミングでの携帯が指し示すものは、不正行為の確認か。わたしがグリープチャットへ送った自作の問題用紙が不正に触れることはないとして、やはりカンニングが濃厚な線か。
生徒は全員、机の上に携帯を出す。
後ろの席から確認できる範囲では、誰一人としてその行為に躊躇う様子はなかった。何もやましいことはしていない、と堂々としている。
腕時計を見て少しの間を置いた後、先生は改めて教壇を登って教卓の前に着く。
「先に言っておきますが、中間テストに関することではありません。不正はありませんでした。皆さんが積み重ねてきた学力、そしてこの2週間のテスト期間で取り組んできた勉強の成果が後ろの点数です」
赤点を取ったら退学を提示してくる学校のため、不正行為は最低でも停学、あるいは退学そのものを突き付けられるかもしれないと思っていただけに、その言葉を聞いて安心する。
ただ、ならどうしてこのタイミングで携帯を出したのか。その意味は、直後に理解することになる。
全員の携帯が一斉に着信音を鳴らす。
チャットではなくメール。送り主は学校からだ。
メールの題名には短く『特別試験開始のご連絡』と書かれてた。
「これより特別試験を開始します」
特別試験?
中間テストという分かりやすい試験はともかく、特別? こんなすぐにまた試験?
疑問を抱きながら、メールは開かず先生の方を向く。
「みなさんの携帯に今、メールが届いたと思います。私の言葉を聞きながらで構いませんので、メールをご覧ください」
そう促され、改めて携帯へと視線を下ろして特別試験の案内メールを開く。
『特別試験を開始いたします。
このあと9時に特別棟の視聴覚室へお越し下さい。
所要時間は20分ほどになります。お手洗いなどを済ませた上、携帯は電源を切るかマナーモードにしてお越し下さい。
10分以上の遅刻はペナルティを科す場合がございます。
体調不良の場合は担任へ申告して下さい。
本日欠席の場合は、下記URLよりテレビ電話を繋いでください。カメラとマイクはオフで構いません。』
事務的なメールの内容が書かれていた。
9時に視聴覚室……1時間目の授業が学級活動だったのは、この説明のためか。
もう1度本文を最初から読み直そうと思ったとき、雨宮さんから特別試験に関するメールが転送されてくる。
内容は概ね同一だったが、1箇所だけ異なる。
わたしが視聴覚室集合だったのに対して、雨宮さんは理科室集合となっている点。
周囲の様子を伺うと、特別棟の空き教室や体育館、音楽室集合となっている生徒も居るようだった。
「メールを確認していただけましたでしょうか。各個人宛へメールを発信しています。各自、9時には指定の場所に到着しているようにお願いします。特別試験の概要はそちらでお話いたします」
そう言い残して伊藤先生は教室を出ていく。
出ていく前と後、どちらも生徒の間では不安という感情が蠢いていた。その本質的な部分は決定的に異なるものの、特別と名のついた試験を急に宣告されたことは生徒に大きな混乱を与える。
ひとまず9時を15分後に控えたクラスメイトは移動を開始する。わたしはその様子を後ろから見守り、人が少なくなったところで教室の扉へと向かう。
「どう思う?」
「とりあえず聞いてみないと。あとでまた話そう」
さりげなく雨宮さんと短く話す。
今の段階ではなんとも言えない。
わたしは視聴覚室へと向かう。
【コンマ判定
奇数:視聴覚室
偶数:イベント
ゾロ目は今後のコンマ判定1回やり直しストックとし、下1桁に準じて奇数・偶数判定を行います。
下1桁のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【ここ2日間できず申し訳ありませんでした。
これから特別試験の概要説明になります。】
【>>362
0:イベント】
廊下では多数の一年生が話し込んでいた。
話に耳を傾けたい気持ちもあったが、わたしは特別棟まで移動しなければならないため昇降口へと急ぐ。
その途中で気付いたこととして、おそらく『特別試験』案内のメールを受け取ったのは一年生のみであること。稀に上級生を見かけるが、ただ移動しているだけだと思われる。
一年生のみに通知された『特別試験』。
説明をするのであれば講堂などで一斉に説明した方が手間も省けるし、同じような質問が各所で発生することを避けられる。
わざわざ少人数を招集する理由は─────。
「……嫌な予感しかしないなぁ」
今にも雨が降り出しそうな空を仰ぎ、わたしは小さく呟いた。
中間テストで赤点を取ったら即退学と言い出す学校のため、今回の特別試験でも退学、あるいはクラスポイントに大きく影響を及ぼすものだと確信できる。
ひとまずはそのことだけを胸に留め、わたしは足早に特別棟への道のりを急ぐ。
◇◇◇
特別棟の視聴覚室の前には数人の生徒が居た。
Aクラス、神宮紫苑くん、東雲雪菜さん
Bクラス、立石樹くん、白城拓也くん、間宮志穂さん
Cクラス、一色颯くん、宮野真依さん
Dクラス、辻堂大和くん、西野桜さん
そしてわたしが加わると、AクラスとDクラスの生徒が2人ずつ、BクラスとCクラスの生徒が3人ずつとなる。
少し教室を出るのが遅く、もう9時1分前であることを鑑みると、わたしで最後か。
人数差に意味があるのか考えていると、例によって白髪の男子生徒─────何かとわたしに興味を抱いてくれている辻堂くんが近寄ってくる。
相変わらず、言い方は悪いけれど薄気味の悪い笑みを浮かべて。
「よう、天音。どうだった? 中間テストは」
「超上出来でした。そちらは?」
興味はないけれど、一応聞いてみる。
すると辻堂くんは壁に寄り掛かり、少し間を置いて勝ち誇ったように微笑んだ。
「こっちも上出来だ。3人も消せたんだからな」
「は……?」
消せた?
それは、退学者を出したということ?
口ぶりから察するに、赤点を取らせたようだけど…。
意味が分からない。自分のクラスから退学者を出してどうするつもりなのか。
「そんな驚くようなことじゃねぇだろ。1ヶ月も同じ教室にいれば、誰が何を出来るのか、出来ないのか。優秀なヤツと無能なヤツを見極めるのは難しいことじゃない。クラス一丸となって上を目指すには不要なヤツを切り捨てる。当然のことだろ?」
わたしの目を見て訴えかけてくるが、その意図は言葉通りの意味だったとしても理解できない。
優秀とか無能とか、たった1ヶ月で判断できるはずがない。体育の授業を取っても未だに水泳しかやっていなくて、陸上競技や球技の実力は未知数なのに。
Dクラスから合計4人の退学者が出ている。その人たちの最終学歴は中学卒業になるのか分からないけれど、かなり難しい人生を強いられることになる。
前々から好きにはなれない人だな、と思っていたけれど、今は確信を持って彼のことを敵視できる。
「クク。良い目をしているな。益々気に入いったぜ」
「辻堂くんのやり方は間違っています……!」
「それを決めるのはDクラスだ。今のお前はCクラスの生徒で外野に過ぎない。さっさとDクラスに来いよ、天音。そうすればゆっくり話し合えるし、お前なら無能なヤツを導いていけるんじゃねぇのか?」
彼の言っていることは、悔しいけど正しい。
わたしは他クラスの生徒で外野に過ぎない。
それに見方を変えれば、今回の中間テストを経てCクラスとDクラスの間には大きなクラスポイント差が生まれた。
想定ではCクラスが800ポイント、Dクラスはあっても100ポイントがせいぜいだろう。
側から見ればDクラスは自滅をしている。それは他クラスにとってプラスの話だ。もちろんCクラスにとっても後ろに控えるクラスと700ポイント差があれば安心できる。
しかし……。
本当に残念だという気持ちはある。
彼の悪行を止めるためDクラスに移動するという選択肢が僅かに存在しているのは間違いない。
「まぁ、想定よりもだいぶ少ないがな。ただ約束は変わらねぇ。お互い半々を出し合って移動しようぜ?」
「そんなつもりは……ありませんから」
クラス移動に必要なポイントは2000万。
その半分を出し合うとすれば1000万。
来月以降、Cクラスでは1人あたり8万ポイントが支給されるため、都合の良い名目で集金というシステムを構築すればたくさんのポイントを集めることは出来る。
もちろんそんなことをするつもりはないけどね。
いずれにしても、どういう手段を用いたのかは分からないけれど彼はこれまで4人の人生のレールを悪い方向に切り替えている。それは到底許せることではない。
彼と直接対決できる機会があれば、これ以上の犠牲者を増やさないよう徹底的に叩く必要が─────。
「つーかさ、もう9時過ぎてるけど? みんな仲良くペナルティくらいたいわけ?」
Bクラスの白城拓也くんがわたし達の間に割り込んで、そのやり取りを静止する。
窓から見える時計は確かに9時を回っていた。
「また後で楽しもうぜ? 天音」
辻堂くんが視聴覚室に入ると、その後を追うように続々と他クラスの生徒が部屋に入っていく。
あっという間に廊下にはCクラスのクラスメイトだけが残る。
「大丈夫? 春宮さん」
「あの人と知り合い?」
「うん、大丈夫だよ。何かと目をつけられていてね」
一色くんと宮野さんが駆け寄って心配してくれる。
わたしは胸の内側にある感情を抑え、出来るだけ笑顔を取り繕って話す。
「何かあったら─────いや、もう後戻りは出来なさそうだね。僕も協力させてくれないかな? 彼は1年生全体、そしてCクラスにとっても脅威になる。なんとなくだけど、そういう雰囲気を感じるから」
「私も! 困ったことがあったら言ってね!」
ありがたい申し出にわたしはお礼を言って、ペナルティを頂戴しないためにも視聴覚室へと入る。
部屋の中は約100人程度が収容可能な広い部屋だった。前方には巨大なスクリーンが、そして5人掛けの机と椅子が2行10列になって並んでいる。
ぱっと見、同じクラス同士の人たちで固まっているようだった。Dクラスの辻堂くんと西野桜さんは、おそらく西野さんが嫌がって遠い席に座っているけれど。
わたし達Cクラスも適当な位置の席に腰をかけたところで、スクリーンの前に立っていた先生が視聴覚室の扉を閉める。
「3分遅刻ですが、まぁいいでしょう。私は3年Bクラスの担任をしている中田庄司です。早速ですが、特別試験の概要をご説明いたします」
中田先生がリモコンを操作すると、スクリーンの表示が切り替わる。そこには大きくこう書かれていた。
『特別試験:シンキング』
そのままの意味を捉えるとすれば、シンキングとは考えることを意味する。
クイズ番組のシンキングタイムとは、本当にそのまま考える時間としてその言葉が使われている。
「これから君たちにやって貰うのは、考える力を培っていただく、あるいは存分に発揮していただく試験となります」
色々なケースを想定していたが、そのままの意味だ! と心の中で安堵しているとスクリーンの画面が切り替わる。
フリー素材のイラストで作成された一枚の可愛らしいスライドだった。
中央にネズミが居て、その周りを取り囲むように人が居る。気になったのは12時の方向に王冠を被った白い長髭を生やす『王様』っぽい人が居るのに対して、その他の人間は普通の格好をしていること。
人数は『王様』っぽい人を含めて10人。
この場に集まった生徒の数と一致している。
「社会では、常に考え続けることが求められます。状況を分析し、課題を明らかとし、問題を解決するために自分が何をするか、同僚に何をして貰うか。そのように考えることが必須となります」
中田先生の話を聞いて、すぐ中間テストでの出来事をそれに変換する。
状況:小テストの結果から赤点候補者の把握
課題:赤点候補者の赤点回避
自分:赤点候補者を対象とした勉強会の先生役になること
周囲:赤点候補者には可能な限り自習に取り組んで貰い、成績優秀者には勉強会の先生役として取り組んで貰う
学生のうちは割となんとでもなるが、社会では自分のミスひとつが同僚の生活を脅かすものとなる。
もし会社を傾けてしまうようなミスをして同僚から職を奪うようなことがあれば、その家族の人生の歯車をも大きく狂わせることになる。
特に、お医者さんや看護師さんなどの直接人の命に関わるお仕事をされている方は高いシンキング能力が求められているのかもしれない。
その力を培う試験であれば、単純に好奇心として興味は湧いてくる。
「まず、この『ねずみ組』の皆さんには、明日の朝8時に一通のメールが学校から届きます。その内容は各自の役職が記載されています。すなわち『王様』であるか、『国民』であるかの2つです。それ以外の役職はありません」
スライド中央のネズミはグループを表すもの、そしてその周囲の人間は役職を表すものだった。
その後スライドが切り替わり、向かって左側に1人の『王様』、右側に9人の『国民』が現れる。
「13日後、この場で皆さん揃って投票を行います。投票による結果については、こちらのスライドをご覧ください」
結果1:役職『王様』以外の全員の解答が正解していた場合、役職『王様』に100万プライベートポイントを支給、役職『一般人』に50万プライベートポイントを支給
結果2:役職『王様』以外の誰か一人でも解答が誤っていた場合、役職『王様』に200万プライベートポイントを支給、役職『一般人』には支給なし。
また、誤った解答をした役職『一般人』が所属するクラスのクラスポイントより“30”が役職『王様』の所属するクラスのクラスポイントへ移動する。
※役職『王様』が所属するクラスから解答の誤りが出た場合はクラスポイントの移動は無し。
※役職『王様』が所属していないクラスから複数人が解答を誤った場合は人数を問わず“30”クラスポイントのみ移動。
※役職『王様』の投票はいずれの場合でも無効。
形式上の投票を行う(投票結果に一切の影響なし)。
※投票は必ず行わなければならない。
医療機関の判断で解答可否を判断。
この説明を見ただけで『特別試験』が異常なものであることが分かる。ひいてはこれを実行しようとしている学校も普通ではないと認識させられる。
一介の学生に毎月何万円分のポイントを支給しているのに加えて、この特別試験では50万や100万、200万円分のポイントの支給を提示してきている。
例え未来ある若者のシンキング能力の向上を目的としていても、さすがにやり過ぎだろう。ちょっとしたゲームを行なって、好成績をおさめた生徒は学食券を配布程度が無難なところだと思う。
また、わたし達以外にも同じ試験内容が提示されているとなると、それはもう夢の話だと疑いたくなる。
「ここまでは理解していただけましたか?」
中田先生が視聴覚室を見渡し、生徒一人ひとりと目を合わせていく。
10人全員と目を合わせると、大きく頷いた。
「よろしい。では、次です」
次? と考える時間もなくスライドは切り替わる。
結果3:役職『王様』以外の者が投票期日よりも前に解答を行い正解した場合、解答者には50万プライベートポイントを支給し、役職『王様』が所属するクラスのクラスポイント“50”が解答者の所属するクラスのクラスポイントへ移動する。
結果4:役職『王様』以外の者が投票期日よりも前に解答を行い不正解だった場合、役職『王様』には50万プライベートポイントを支給し、解答者が所属するクラスのクラスポイント“50”が役職『王様』が所属するクラスのクラスポイントへ移動する。
※役職『王様』の投票はいずれの場合でも無効。
形式上の投票を行う(投票結果に一切の影響なし)。
※投票は必ず行わなければならない。
医療機関の判断で解答可否を判断。
※結果3・4の解答は投票日の前日19時までとする。
担任教師もしくは担当教師を通して厳正に投票を行う。
※結果3・4の解答は役職『王様』が所属するクラスと同じクラスに属していても有効。プライベートポイントの支給およびクラスポイントの移動は無し。
これで結果1~4までのパターンが出揃った。
すっごく簡単にまとめるとこういうことだ。
まずこの場に集まった10人のうち1人が『王様』。
13日後に投票を行い、『王様』以外の9人の解答結果によって結果1~4となる。
結果1:9人の解答先が『王様』であった場合は『王様』へ100万プライベートポイント、その他の9人は50万プライベートポイントを獲得
結果2:誰か1人でも解答先を誤った場合は『王様』へ200万プライベートポイントを獲得し、誤った人のクラスから“30”クラスポイントを貰える
結果3:13日後の投票日の前日、つまり12日後までに『王様』を突き止めて解答を行い正解した場合、解答者は50万プライベートポイントを獲得し、『王様』のクラスから“50”クラスポイントを貰える
結果4:13日後の投票日の前日、つまり12日後までに『王様』を突き止めて解答を行い誤った場合、『王様』は50万プライベートポイントを獲得し、解答者のクラスから“50”クラスポイントを貰える
結果3~4については19時までに担任もしくは担当の先生を通して投票を行う、また『王様』と同じクラスから解答者が出た場合はプライベートポイントの支給とクラスポイントの移動が無くなる。
ざっくりと噛み砕いて、この程度だろう。
キーとなるのは期日よりも前に同じクラスから解答者が出たとき無効試合になることか。
クラスポイントの移動を危ぶむならばクラスメイトに解答してもらうのも有りかもしれない。ただ、50万以上のプライベートポイントを捨てることになるためそれは避けたいところだ。
「以上が特別試験の主概要となりますが、質問は?」
こういう場で最初に質問するのはハードルが高いと言われていることだが、二つ前の席に座っているDクラスの西野桜さんが挙手した。
中田先生が質問を許可すると立ち上がり、話し始める。
「先生、今回の試験を通してクラスポイントがマイナスになった場合はどうなるのでしょうか」
推定100クラスポイントも無いと思われるDクラスからそういった質問が出るのは当然のことか。諸悪の根源っぽい辻堂くんは全く気にしていないようだけど。
「普段の行いであれば0クラスポイントを下回ることはありません。しかし特別試験は異なります。マイナスになった場合は、一時的に学校側が不足分を補います。今回のケースで言えば『王様』が所属するクラスに対して不足分のクラスポイントを支給する形になりますね」
「ただそれでもマイナスはマイナス。中間テストなどの結果で返済していく形になるって認識でよろしいですか?」
「はい、その通りになります」
「わかりました。ありがとうございます」
今回の特別試験において、最も最悪なケースが結果4の投票期日前日に解答を行い、誤った場合。
『王様』へ50万プライベートポイントを渡すだけでなく、自クラスのクラスポイントが“50”も移動する。
このグループが『ねずみ組』であるため、干支の名前でグループ分けされていると仮定して12グループ。結果が偏ることがあれば最大“600”クラスポイントが移動となる。
役職『王様』の振り分け次第でDクラスがBクラスになることもありえる。
「その他はありませんか?」
周囲の動向を窺ってみるが、動く様子がない。
ここで目立つことが恥ずかしいとか言っていられないため、わたしは挙手をする。
「はい、春宮さん」
名前を知られていた。
先日、先生が担当する3年Bクラスの生徒が部長を務める部活動と対決を行なったからなのか、単純に生徒会役員として目立っていたのかは分からない。
ただ気にする必要は無いと判断して立ち上がる。
「意識不明などの重篤の場合が解答不可を意味すると思いますが、その場合は無効票の認識でよろしいでしょうか」
「その通りになります。正解にも不正解にもなりません。また、その方が『王様』であっても変わりません。どちらにせよ『王様』の投票は無効ですからね」
「ありがとうございます。それともう二つ。『ねずみ組』以外のグループにおいても同じ試験を行うのか、また全部でいくつのグループがあるのか教えていただけますか」
「質問に答える意味でも、こちらをご覧ください。次のスライドになります」
スクリーンに映されたスライドが切り替わる。
想定通り『ねずみ』を含め干支のイラストが表示されている。つまり全部で12グループ。
ただそれ以上の情報は無く、どの干支のグループに誰が、そして何人体制で振り分けされているのかは分からない。
「お気付きの方も多いと思いますが、全部で12グループ、その内訳はクラスによって人数は異なります。そして行われる試験は同一のものになります。ただ、一点だけ異なることがあります」
続いてスライドが切り替わる。
本日5月17日から31日までのカレンダーだ。
5月18日のマスにネズミ、19日のマスには牛、20日のマスには虎と、30日までのマスにそれぞれの動物のイラストが収まっている。
「こちらは各グループへの通達のタイミングになります。先ほども言った通り『ねずみ組』は明日18日の朝8時に『王様』か『一般人』かの通達がされます。『うし組』は明後日19日の朝8時となります。その後はカレンダーの通りです」
「31日に『投票日』と書かれていますが、これは全グループにおいても共通でしょうか」
「はい、そうです。『ねずみ組』は明日から13日後、『うし組』は明後日から12日後、『とら組』は明明後日の11日後から試験が開始ということになりますね」
つまり、わたし達『ねずみ組』が一番試験時間が長い。『王様』を隠し通すことも、『王様』を見つけ出す機会も多くなる。
一方、干支の最後である『いのしし』組は通達の翌日に投票となる。見つけ出す機会も少なく、当てずっぽうで投票する可能性が高くなり、『王様』は高確率で100万ポイント、あるいは200万ポイントを手に入れることが出来るだろう。
「そして明日より6時間目には全クラス共通で学級活動の時間割になっていると思います。通達のあった組は、今回の概要説明と同じ場所へ集まっていただきます。『王様』であることを見つけ出すも良し、雑談をするでも、一切話さなくても良いです。ただ、1時間が経過するまではこの部屋から出ることは出来ません」
わたし達は明日以降、6時間目になる度にこの視聴覚室まで来なければならない。
そして話し合うでも、これまでしてこなかった他クラスとの交流でも、じっと窓の外を眺めているでも良いらしい。
スクリーンに映し出されたスライドには、無料でトランプやジェンガを貸し出してくれるようだ。実質、この試験は他クラスとの交流という意味合いが強いのだろうか。
「せんせー、明日の6時間目、『うし組』とかはどうするんですか? 集まるのは『ねずみ組』の俺たちだけですよね?」
「自分の教室で自習となりますが、自由にしていただいて構いません。携帯ゲームは見て見ぬふり出来ませんが、迷惑にならない範囲での雑談や睡眠は許可します」
明日は『ねずみ組』以外が教室で待機、明後日は『ねずみ組』と『うし組』以外が教室で待機と、段々と人が減っていくようだ。
やや不公平さを感じるが、この部屋ですることも自由とされているため反発も起こらないか。音楽室集合の組にピアノを弾ける人が居れば楽しくなるだろう。
「あとは……あぁ、そうそう。『王様』は“厳正なる調整”の上、きちんと決められるので、例えば偶然Aクラスの生徒12人が『王様』になることもありません」
やや気になる言い方をしていたが、つまり4クラスから等しく3人ずつが『王様』となると解釈していい。
仮に3人の『王様』が投票日前に当てられる、残り9グループにおいて投票日前に誤った『王様』を解答した場合、その合計は600クラスポイントを失う。
当てられるのは仕方がないが、こちらから先走って当てに行かない限りは150クラスポイントで済み、許容範囲か。
「それと最後に、今回の試験ではまとまったポイントが必ず誰かの手に渡ります。私や担任の先生に言ってもらえれば、ポイントを分割で支払うことも、半年の有効期限付きですが別の学生証端末を用意することも可能です。無論、期限が切れる直前で元の端末へポイントを送ればその後も利用は可能です」
今回の試験では嘘をつくことが必須になる。
素直に王様ですと白状して結果1のウィンウィンの関係になるのは難しいだろう。クラスポイントのため、おそらく誰かが投票日前に当てることは想像がつく。
そして今回の試験では多額のプライベートポイントが動く。学生証端末に表示された保有ポイントで誰が事前に言い当てたのかが分かってしまえば、その後の学校生活に影響が出る。学校側の対応は当然か。
「以上で特別試験の説明を終わります。他に質問はありませんか?」
わたしを含め、挙手した者はいなかった。
再度締め括りの言葉を口にし、2時間目からは通常通りの授業となるため、それまでには教室に戻るよう言って先生は視聴覚室を出て行った。
残された10名の生徒は残り30分程度、自由に過ごすことが許可される。この場で自己紹介をし合うも良し、教室に戻るも良しと少し困る。
「ねぇ春宮さん、理解できた?」
1席空けて隣に座っていた宮野さんが小声で話しかけてくる。わたしは少し首を傾けながら頷く。
「まぁ、なんとなくはね」
「じゃあ後でもう一回教えて? 多少間違っててもいいから」
「後で一色くんも込みで話そうね」
ひとまずこの場であえて他クラスに弱みを見せる必要もないと判断して、早めに教室に戻ろうと促す。
明日以降、12日間に渡ってこの場のメンバーとは話す機会がある。嫌というほど顔を合わせることになる。
引き上げることを決意し、席を立つ。
【コンマ判定
奇数:Aクラス 東雲雪菜
偶数:Cクラスの教室へ
下1のコンマ1桁でお願いします。
2桁がゾロ目の場合は、今後コンマ判定を1回やり直す権利を得ます。今回のコンマ判定はそのまま1桁を採用となります。
特別試験の内容は原作4巻で行われた試験とほぼ同一です。一部別のルールを追加しています。
とても分かりにくいと思いますので、分からないところがあったらレスをお願いします。わたしの方でルールの抜けがあるかもしれません。】
はい
久しぶり、おつ
【>>381
8:Cクラスの教室へ】
教室に戻ると既に半数程度の人が戻っていた。
聞こえてくる話題は、やはり特別試験について。
ルールを理解していない者も多数いるようだった。
「ほら、みんな分かってない。難しすぎだって。投票とか干支ごと発表日が違うとかさぁ」
「みんな戻って来たら再説明するよ。全員の認識合わせと、念のため全グループで同じ説明をされたかの確認ね」
「ほんと助かる! 大好き」
気軽に抱きついてくる宮野さんと戯れながら席に戻る。視線を廊下側の中央へと向けると、雨宮さんと眼鏡越しに視線が合う。
干支通り12グループに分かれているため、わたしが介入できる場面は少ない。せめて雨宮さんのグループのメンバーくらいは把握しておきたいところだ。
携帯で短くチャットを送ると、素早く返ってくる。
他クラスの生徒は接点の無い人ばかりだが、このCクラスでは望月くんと一緒のグループのようだった。
彼とは2週間前に少し話したくらいで、彼の力量と底は未だに知れていない。このクラスで唯一すべてが謎の人物だ。
頼りにしすぎるのは危険かな、と考えていると全員が戻って来たようで、一色くんが先導してルールの再説明を行ってくれる。
時折、わたしが自席から説明の補足をして一通りの説明を終える。
「~と、以上が僕たちの受けた試験概要だ。僕たちの受けた説明と違っていた、というグループはあるかな?」
反応は肯定するものだけだった。
これで全グループが同じ試験を行うことの裏付けが取れる。
あとクラスで出来ることと言えば、各グループの内訳メンバーと各クラスの人数を把握すること、そしてメリットもあればデメリットもある期日前投票を避けるように提案することか。
元よりそのつもりだったのか一色くんが2つを行ってくれる。完璧な進行で、わたしが出る幕もない。こうしてクラスを引っ張って行ってくれると本当に助かる。
「ありがとう。これでメンバーの把握は出来た」
一色くんは電子黒板に書かれたメンバー表を携帯で撮影し、その写真ををクラスチャットへと送ってくれる。
他クラスへの流出の恐れもあるが、流出して困るようなものでもない。調べようと思えばすぐに調べがつくことだ。
ぱっと見、グループ分けには法則性が無いように思える。1グループあたり2人~4人と、人数はバラバラでも1人だけということは無いらしい。
【コンマ判定
直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
4・8:気付かない
その他:気付く(本当に些細なこと)
ゾロ目:気付く+戦略を思いつく
下1のコンマ1桁、もしくは2桁でお願いします。】
あ
【>>385
8:気付かない】
……うん、特におかしいところは無いかな!
完全にランダムに決められたように見える。もちろんわたし達『ねずみ組』も、そこに集まった他クラスの生徒も含めて。
ひとまず明朝の『王様』か『一般人』かの通達を待って、それから考えることにしよう。色々と手を回すのはその後でも余裕で間に合う。
今のところ、わたしの希望としては『一般人』を希望する。
まず自分が『王様』でないと嘘をつく必要が無いし、見抜かれるかどうかでドキドキするのが嫌だという至極真っ当な理由で。
もちろん貰えるプライベートポイントはとても魅力ではあるけどね。
◇◇◇
「あ、神宮くん。待っててくれたの?」
「今日はこっちの方が早く終わったみたいだったからね。いつも待っててくれているんだから当然だよ」
帰りのホームルーム後、教室の前で神宮くんを見つける。
このまま生徒会室へ向かうのであればお礼を言うところだが、今日はとある理由で寄り道しなければならない。
そのためわたしの口から出るのは謝罪だった。
「待っていてくれたところ申し訳ないんだけど、ちょっとこの後予定があってね? 本当にごめん!」
「あぁ、そうなんだ。全然いいよ。じゃあ先に行ってるね」
「ごめんねー」
教室すぐ目の前の階段を降りていく神宮くんの背中を見送って、わたしは昇降口へと向かう。
靴を履き替えて向かった先は特別棟の屋上。
本日2度目の特別棟で、屋上に来るのも2週間近く前に続いて2回目だった。
屋上へ出ると1人の上級生がしっかりと固定されたフェンス越しに、興味津々といった表情で地面を見下ろしていた。……部活動に励む生徒を上から観察しているのかもしれない。
「先輩、危ないですよ」
「ん。だいじょうぶだいじょーぶ。ここのフェンス、去年度末に設置し直してるからさ。ちょっとやそっとじゃ壊れないよ。試してみる?」
「遠慮しておきます。カメラもありますし」
「そうだねー。ちなみに校内に設置されているカメラを壊したりするとクラスポイントがマイナス200されるって噂だよ。今の3年生と2年生でやった人は居ないと思うけど、何年か前にやらかした人がいるんだって」
「覚えておきます」
屋上へと唯一繋がる扉近くには、屋上全体を見渡すように260度ほど動き続けている監視カメラがある。
もしあのカメラの目を掻い潜って悪さをするようなことがあればクラスポイントが減らされるようだ。
先輩はフェンスに寄り掛かり、数メートルの距離まで近付いたわたしに微笑みかける。
「上手くやったみたいだね、天音ちゃん」
「はい、なんとかなりました」
「わたしは信じていたけどね? で、どうやったの? 平均91点だっけ? 超優秀じゃん」
「これです」
鞄から取り出した自作の問題用紙を手渡す。
ざっと目を通した後、乙葉先輩は首を傾げる。
「あれ、最後の問題って変わったのかな。 わたしの時と違うよ?」
「それ、わたしが作った問題用紙です。実際に出た問題はこっちです」
続いて実際の中間テストの問題用紙を手渡すと、先輩は「あー、これこれ!」と元気よく頷く。
「えーっと、あれ? 聞き間違いじゃなければ、こっちは自作? すっごくよく出来てるじゃん! っていうか凄いしズルい!」
「先輩が意地悪して過去問題を渡してくれなかったので、真っ当に試験対策しただけです」
「……いや、まじかぁ。まさかこんな精度でテスト予想するなんて思わなかったもん」
「次は100%を狙います。今回は90%くらいでした」
「ずっるーい。いいなぁ。3年生の分も作ってよー」
「それは出来ません! 出来たのは1年生の範囲だからです」
「またまたぁ。もう天音ちゃんが3年生で学習するようなことを知っていても驚かないんだからねー」
実際はその通りだけど、ここでは肯定も否定もせず話を逸らすことにする。
「ところで、1年生に特別試験の案内が出たことについて先輩はご存知ですか?」
「うん、知ってるよ。特別試験には生徒会も絡んでるからね。天音ちゃんと紫苑くんを『生徒会』のグループチャットに入れられないのはそれが理由。この試験が終わったら入れてあげられるよ。特別試験の監督も生徒会の仕事のひとつだからね」
今回の特別試験には乙葉先輩たちも携わっているらしい。
あれこれ聞いても答えて貰えるとは思っていないため、ここは何度か頷く程度で済ませておく。
ここでグループ分け理由とか教えて貰えると楽だったんだけどなぁ。
「まぁ頑張って! 天音ちゃんなら出来るよ。ちなみにわたしの代でも同じ試験をやったからね。船の上で」
「船の上?」
「おっと。聞かなかったことにして?」
「……わかりました」
と、口では言いつつ、とても気になる。
船の上でわたし達と同じ試験をやった?
いいなぁ、船かぁ。
漁船からクルーズ船、さすがにイカダは船には含まれないか。でも船そのものに興味はある。学校でやるより船の上でやりたかったというのが正直なところ。
「そうだねぇ。じゃあそのお礼と、ちょっと意地悪しちゃったお礼として、答えられることは答えてあげる。とりあえず言ってみ?」
おそらく今回の試験に関することはダメ。
無難かつ気になることで言えば……。
【安価です。
1.毎月、月初でも金欠の理由
2.3年生のクラスポイント状況・リーダー格について
3.2年生のクラスポイント状況・リーダー格について
4.乙葉先輩から見た1年生について
5.その他(質問出来る・出来ないは判断します)
6.特に聞きたいことはない
下1でお願いします。】
4
【>>391
4:乙葉先輩から見た1年生について】
2粘性や3年生のことも気になるけど、今は目の前の試験の集中するという意味でも他級生から見た我々1年生の印象を訊いておくべきかもしれない。
「乙葉先輩的に、わたしを含めた1年生ってどんな感じですか? 客観的でも主観的でも良いので、教えていただけると嬉しいです」
「お、そんなことでいいの? じゃあ主観的に感じたことをAクラスから順に。まずはAクラスだけど、ここは例年通り優秀な生徒が揃ってると思うよ。勉強も運動も、素行も悪くない。だからこそAクラス配属なんだけどね」
この学校では入学の段階で学力や身体能力を鑑みてA~Dへとクラス配属をするらしい。
必然とAクラスにはレベルの高い生徒が集まり、Dクラスには能力の低い生徒が集まるシステム。
しかし一之宮くんや一色くん、宮野さんを始めとした大半の生徒において能力の低さは見られない。少なくとも去年の全国模試で2位を取った一之宮くんがDクラスの配属される理由はミスを疑うほどだ。
考えられることは、単純に学力と身体能力以外でもクラス分けをする基準があること。乙葉先輩も言った通り、素行の悪さもその理由の一つだろう。
どうしてわたしがDクラスなのかは置いておいて、学力・身体能力・素行、その他の要素を見てAクラスが優秀であることは間違いない。
「特に気になる生徒は居ますか?」
「んー。あんまり1年生とは絡んでないからなぁ」
腕を組んで首を左右に傾げた後、先輩は「強いて挙げるとすれば……」と話し始める。
「紫苑くんはもちろんとして、東雲さんは目立つ生徒だなと思ってるよ。あとは槇原さんもね」
同じ生徒会役員でもある神宮紫苑くん、今日初めて目を合わせた東雲雪菜さん、数回寮のエレベーターで居合わせたことのある槇原由奈さん。
確かに一際目立つ生徒だとわたしも見ていた。
「どんな学校でもクラスでも、リーダー的な存在って居るじゃない? この学校には無いけど、学級委員的なやつね。今挙げたのは学級委員的な立場の人」
「神宮くん以外とはあまり接点ありませんが、そんな感じはします」
「そっかそっか。だよねー、目立つよねぇ」
うんうんと頷いた後、「次はBクラスね」と続きを話す。
「惜しくも生徒会役員になれなかった立石くん、超運動が出来ると噂の白城くん、笑顔の可愛い間宮さん」
ここで特別試験のメンバー振り分けについて気が付く。
先輩が挙げた6人の内、Aクラスの槇原さん以外が特別試験の『ねずみ組』に属していることを。
12のグループの内、自然と1つのグループに割り振られたとは考えにくい。Cクラスの一色くんや宮野さん、Dクラスの辻堂くんと西野さんもリーダー的立ち位置だ。
あまりにも露骨に固まっている。
これが故意に仕組まれたものだと認識するのにそう時間はかからなかった。
「Cクラスは一色くん、宮野さん、倉敷さん、そしてそして何を隠そう天音ちゃん。みんなコミュニケーション能力高いよねー。単純にその観点で言えば、倉敷さんが一歩抜きん出てる感じはあるね。上級生にもいっぱい彼女と連絡先交換してる生徒いるし」
「……たしかに」
倉敷春香さんは勉強も運動も出来て、かつコミュニケーション能力の高さが段違いだ。
休日のケヤキモールで彼女が上級生や同級生と一緒にいるところを良く見かける。それに見かける度に一緒にいる人が違って、かつ遊んでいる最中でも偶然通りかかった他の生徒と話し込んでいる姿もある。
6月が終わる頃には全校生徒の連絡先を集めるのでは、と思うほど交友関係を広めている。
「Dクラスは、認めたくないけど辻堂くんかな。特に勉強が凄く出来るわけでも運動が出来るわけでもないんだけど、視点が良いって言うのかな。観察する力とか発想力は学年でもトップクラスだと思う」
フェンスに寄り掛かかった先輩は、その後むしゃくしゃしたような表情をする。
「でもでも、あの子ちょーぜつ問題児だからね! 天音ちゃんの知らないところで問題を2件起こして、生徒会に持ち込んでるんだから。ほんと迷惑な話だよ」
4月末に起こした問題は少しだけ聞こえてきた。
当時Cクラスだった生徒を大怪我させたとかで、Bクラスだった生徒の一人が自主退学する形で収まったという。その一件を引き金に、元BクラスはDクラスまで堕ちた。
「と、こんなもんかな。わたしから見た1年生は」
「ありがとうございます。参考になりました」
「いいのいいの。ちょっと意地悪し過ぎた自覚はあるからね。……怒ってないよね?」
「もう怒ってないので大丈夫です!」
「ぁ、怒ってたんだ……」
ほんの冗談混じりに話す。
一方、良い話を聞けたというのは事実。
あれくらいの意地悪に対しては大きい情報を貰えた。
それにプライベートポイントを支払って問題用紙を手に入れる手段を未然に防いでくれたおかげで、お財布事情的には助かっている。むしろお礼をいうのはこちらの方だったかもしれない。
「特別試験がんばりなよー? で、勝ったら一緒にご飯食べよう! わたし予約しておきますから!」
急に謙って敬語で話す先輩と戯れながら、生徒会室へと向かう。
今回の特別試験で動向を注目するべきはAクラスの東雲さん、Dクラスの辻堂くんか。特に辻堂くんは何をしてくるか分からない。要注意人物だ。
【イベント安価
奇数:東雲雪菜
偶数:翌日
下1のコンマ1桁でお願いします。
2桁がゾロ目の場合は今後のコンマ判定やり直しのチャンスを1回獲得です。(現在0)】
あ
【>>396
3:東雲雪菜】
生徒会の業務終了後、生徒会の鍵を職員室に返したところで神宮くんが何か話したげな様子をしていた。
しばらく向こうから話してくるのを待つ心構えでいたが、昇降口で靴を履き替えたところでこちらから聞いてみることにした。
「わたしに何かお話?」
「ぁ……うん、実はね。凄いな、分かっちゃうんだ」
「結構バレバレだったよ? 『王様』になったら一発で分かっちゃうタイプだね」
「それは勘弁して欲しいな…」
この1ヶ月間で神宮紫苑くんという生徒についてはクラスメイト以上に分析することが出来た。
得意なこともなければ不得意なこともない、初対面で話した時に彼自身が言っていた通り普通を体現したような男の子だ。
一見、能力の低い子かと思いきや、何でも普通程度にこなせてしまうのはとても羨ましい。わたしが不得意な調理や音楽もそつなく平均的にこなすのだろう。
そんな彼が唯一苦手としていそうな事を見つけた。
良くも悪くも嘘をつく、隠し事をするのが苦手なようだ。
もうこの段階からわたしを欺くための演技が始まっているとすれば本当によく出来ているけど、恐らくそれは考えすぎだ。
「実はね、Aクラスの東雲さんが春宮さんに会いたいみたいなんだ。この後、19時30分からなんだけど…」
「うん、大丈夫だよ。30分後だね」
現在は19時前。今夜は夏帆先輩のお料理教室の日でなく、勉強会もひと段落着いた。
ケヤキモールで少し買い物をしてゆっくり帰ろうと思っていたところのため、このお誘いを断る理由もない。それに話してみたかったというのもある。
「場所はケヤキモールの入り口。もう居るみたいだから、出来れば早めに着いて欲しいなって」
それなら尚のこと早めに言い出して欲しかった。
集合時間まで時間があるとはいえ、このまま律儀に30分も待たせる訳にはいかない。
「じゃあ行こっか」
「あ、ううん。僕は行かない……というか、行けないんだ。春宮さん一人で来て欲しいって」
「そっか、わかった。じゃあこれから行くって伝えて貰える? 5分、10分で着くと思うから」
「もちろん。東雲さんは分かる?」
「今日会ったばかりだからね。大丈夫だよ」
クラスメイトの神宮くんを経由するにも関わらず、彼を外してわたしだけを呼んでいる。
明日から始まる特別試験の事だとすれば、一緒に行った方が良さそうなものだけど…。
とりあえず向かってみることにし、神宮くんと別れてケヤキモールの方へと向かう。
期待半分、怖さ半分といったところか。
どちらにせよ、どんな話が出来るのか楽しみだ。
◇◇◇
東雲雪菜さんは良く目立つ。
腰まで伸びた黒髪は手入れが行き届いていて、手足はスラっとガラスのように細く、儚げな雰囲気を纏っている。それでいて肌が真っ白なのだから、まるで和人形のような印象を受ける。
そんな彼女が綺麗な佇まいでケヤキモールの出入り口から少し離れたところで待っていた。特に携帯を触ることも、星を眺めることもなくジッと。
つい携帯を取り出して一枚撮影したい気持ちを抑えて近付き、声を掛ける。
「ごめんなさい、お待たせしましたか?」
「いいえ、待っておりません。本日は生徒会の業務後にも関わらずお越しいただきありがとうございます」
恭しく一礼をされ、わたしもしどろもどろにお辞儀をする。ここまで謙られるとこちらも恐縮してしまう。
「お時間は取らせません。あちらでお話できますか」
そう言って視線を向けたのはケヤキモール近くの休憩所だった。
花壇に囲まれたそこは、ケヤキモールで購入したものをあの場所で飲食する生徒が多く見られるスポットだ。しかし今は時間帯もあって利用者が見られない。少し話すだけなら絶好の場所だろう。
わたしは頷き、休憩所へと移動する。
3人掛けのベンチに1人分のスペースを開けて座ると、東雲さんが小さな口を開いて話し始める。
「春宮様とは一度お話させていただきたいと、失礼ながらずっと思っておりました。今回の特別試験にあたり、こうしてお話させていただく機会があって非常に喜ばしく思います」
「そ、そうですか。ところでその、敬語というのは……一応、同級生ですし。もう少し砕いてもよろしいのではないでしょうか」
と、言っている自分も釣られて言葉が怪しくなる。
これでは説得力がカケラも無い。
彼女は一切表情を変えることなく、淡々と話す。
感情が無いように、ただ義務的に。
「ご無理はなさらないで下さい。わたくしは、昔からこのような話し方なのです。ご不快に思われたのであれば、申し訳ありません」
「いえ、そういう訳ではありません……!」
しっかりと頭を下げる東雲さんに頭を上げるよう促し、心を落ち着けるためにも座り直す。
東雲さんってこんな感じの人なんだ…。
かなり礼儀正しい人だとは聞いていたけど、ここまでとは想像していなかった。
「春宮様、単刀直入に本題を申し上げます。もしよろしければ、わたくしとご連絡先を交換していただけますでしょうか」
「連絡先? はい、もちろんですっ」
「ありがとうございます」
携帯を取り出し、連絡先を交換する。
要した時間は30秒にも満たなかった。
「本日はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございました。要件は以上となります」
「あ、もういいんですか?」
「はい。幸い、わたくし達は『ねずみ組』あと13時間もしないうちに通達があります。お話させていただく機会はこれから存分にございます」
試験開始前から協定を結ぶよう提案があるかと身構えていただけに、連絡先を交換しただけでお開きというのはやや意表を突かれた結末だ。
それでも連絡先を交換できたのは大きい。
神宮くんに続き、東雲さんとも連絡が取れるようになった。これは『ねずみ組』における特別試験では良い方向に事を運べるだろう。
「改めまして、本日はお疲れのところありがとうございました。こうしてお話できて大変嬉しく存じます。明日より、またよしなにお願い致します」
「こちらこそありがとうございました。明日から2週間、一応敵同士ではありますが、お手柔らかにお願いします」
立ち上がり、お互い深々と頭を下げる。
内心、高校一年生でするようなことじゃないなと思いながらも、3秒、5秒と経過した頃に頭を上げる。
目の前の東雲さんはわたしが戻って1秒後に頭を上げた。
なんだかどちらが先に頭を上げるかで勝負をしていたような気もするが、おそらく彼女とは平行線の勝負になる気がする。無意識の内に頭を上げてしまった自分を責める必要は無い。
「それでは、わたくしは寮に戻ります。春宮様もどうか夜道をお気を付けて。お誘いした身で申し上げにくいのですが、学校の敷地内とはいえ淑女が夜に外出するのは褒められた行為ではありませんからね」
「ご丁寧にありがとうございます。早めに帰宅することにします」
東雲さんが受けてきた教育は、おそらく名家の子女のそれなのだろう。
言葉遣いもそうだが、特に背筋の伸び方や歩き方がそれっぽかった。映画で観たことのある、頭の上に本やティーカップを乗せて歩いた経験とかありそう。ちょっと気になるため、明日以降に機会を伺って聞いてみよう。
「……買い物して帰ろ」
まだそう遅い時間ではないけど、ああ言われてしまっては夜遊びも出来ない。するところもないけどね。
帰ってご飯食べて、食後の運動として頭の上に本を乗せて歩いてみようと決心して休憩所から移動することにした。
◇◇◇
翌朝。特別試験開始の日。
わたしは5月1日以来、早めに登校した。
時刻は7時50分と、『ねずみ組』の通達を10分前に控えた頃に自席に着く。
早めにきた理由は特に無いが、なんとなく心構えはしておきたかった。
本当に厄介なことに、こういう時の10分の1の『王様』は割と引ける。おそらく10分の3くらいはあると思っている。しかも3割なんてほぼ50%みたいなものだし、悪い方の2分の1なんて引くに決まっている。
つまり、わたしは『王様』になる自信があった。
さてさて、一体どうなるものか……。
【コンマ判定で『王様』か『一般人』か決めます。
単純に10分の1でやってもつまらないので、2分の1で『王様』とします。
奇数:一般人
偶数:王様
ゾロ目:コンマ判定やり直し権利1回獲得
当該コンマ判定は下1桁で決定
下1のコンマ1桁でお願いします。】
え
【>>405
9:一般人】
8時ちょうどに1通のメールが届く。
『厳正なる調整の結果、あなたの役職は『一般人』に決まりました。グループの一員として、自覚を持って行動し試験に臨んでください。また、ねずみ組の集合場所は特別棟の視聴覚室になります。』
どうやらわたしは『一般人』らしい。
危惧していた『王様』にはならなかった。
これで一安心して、これから2週間かけて『王様』探しに集中できる。
「……」
通達メールを再度読み返していると、教室前方の扉が開く。
望月くんだった。彼は一度わたしの方を見た後、自席に鞄を置いて、わたしの方へ向かってくる。
「おはよう、望月くん」
「うん、おはよう春宮さん。『ねずみ組』のメールは来た?」
「ついさっきね」
『王様』でない以上、隠す意味は無いと、望月くんへ携帯の画面を向ける。
メールを読み終えると、彼は微笑んだ。
「そっか。王様にはなれなかったんだね」
「額の大きいポイントは欲しいけど、追われない身っていうのは楽だからラッキーだと思ってるよ」
『王様』の場合、最大で貰えるポイントは200万。
『一般人』の場合、最大で貰えるポイントは50万。
その差は歴然で、誰もが出来ることなら200万ポイントを懐に入れたいと考えると思う。
ただバレないように立ち回るリスク、信頼し合えると思ったグループ間で解答を一致させるための労力を考えると誰もが『王様』になりたくないと考える。
わたしもその一人で、この結果には安心している。
「そうだね。特に『ねずみ組』は今日から8回も話し合う機会があるんだから、隠し通すことは他のグループよりも難しいはず。今頃、当人はヒヤヒヤしてるんじゃないかな」
「そうかもしれないねー」
『ねずみ組』の件は、宮野さんと一色くんと協力してどうにかするとして…。
ちょうど望月くんとは、望月くんのグループの件で話したいと思っていたところだ。ちょうどいい。
「望月くんは『いのしし組』だっけ」
「よく知っていたね。そうだよ、僕たちは『いのしし』だ。最後の組になるね。つまりシンキングタイムはたった1日、たったの1回ということになる」
干支における最後は『亥』。つまり『いのしし』。
本日19日より干支順で毎朝8時にこうしてメールで通達されるため、『いのしし』は11日後の30日となる。その翌日は31日は投票日のため、話し合う機会は当日の6時間目しかない。
『王様』になれば隠す機会が少なく有利に、『一般人』になれば見つけ出す機会が少なく不利となる。
このDクラスからはわたしの友人である雨宮さんと、目の前の望月くんが選ばれている。そのどちらもが『王様』になる可能性を有しているとして、何か策を考えておいた方が良いか。
と、そんなことを考えていると。
「僕たちの方は心配しないでいい」
望月くんが窓の外を覗いてそう言った。
先日、ドラマのシーンを再現するという黒歴史的な行為を行ったばかりだが、近頃放映されたドラマでこのようなシーンは無かった。完全なオリジナルか、演技では無い素か。
なまじ先日の件が頭に残っていて、口から出る言葉が引っ張られそうになる。
「信じてもいいの?」
「もちろんだよ。こんなところで躓くわけにはいかない。それにさっき見せて貰ったメールで確信した。この試験はランダムではないってね」
わたしもメールの冒頭が気になっていた。
『厳正なる調整の結果、あなたの役職は『一般人』に決まりました。』
『厳正なる抽選』ではなく『厳正なる調整』。
これは学校側が適当に選んだ場合は用いられない文言。何らかの意図があって選択をした。そう確信して相違ないはず。
「参考になったよ。ありがとう。また近々に話をさせてくれ。きっと君にとってプラスになるはずだよ」
「うん、楽しみにしてる」
手を振って、彼は自席へ戻って行く。
相変わらず普通に接しやすい男子生徒に見えて、力量を伺わせてこない。
雨宮さんを任せられる人物なのか、少し吟味する必要がある。あと10日以内には『いのしし組』の方針も定めたいところだ。
【イベント安価
奇数:食堂
偶数:視聴覚室
ゾロ目:コンマ判定やり直し権利1回獲得(現在0件)
当該コンマ判定は下1桁で決定
下1のコンマ1桁でお願いします。】
はう
【>>410
1:食堂】
お昼休み、わたしは同じ『ねずみ組』の一色くんと宮野さんに誘われて学食に来ていた。
テスト期間は教室でサンドイッチを食べる生活が続いていたため、こうして温かいご飯を食べられるのは嬉しい。
高揚感いっぱいに券売機で和食Aセットを選択して受付で食事を受け取った後、3人で空いていた席に座る。
「先輩たちは我関せずってかんじだよねー」
宮野さんの言葉通り、上級生が固まる席から『特別試験』という単語は聞こえてこない。
また休み時間に聞いた話では、それぞれ水泳部とバスケットボール部の先輩に話を聞いてみたそうだけど、有力な情報は得られなかったらしい。学校側が下級生への試験対策の告げ口を禁じているものだと想像がつく。
「ちなみに生徒会的にはどうなの?」
「頑張って、って応援はして貰えたよ。先輩たちの時はどうだったとかはノータッチ」
「だよねぇー。ま、なんとかするしかないか」
幸か不幸か、『ねずみ組』の『王様』はCクラスのメンバーから選出されている。
つまりわたし達はこの3人の中で協力をし合い、『王様』であることを隠し通せばいい。あるいは、嘘をついて『一般人』のわたしへ期日前に投票させるか。そのための作戦はいくらでも湧いて出てくる。
「とりあえず6時間目の授業で話し合いだね。誰が『王様』なのか、見つけられるように頑張ろう」
クラス内でも学食でも、『王様』であることを明かして貰った時はノーリアクションを貫いている。
クラス内で誰が『王様』なのかを周知することは、即ち話し合いの場を持たずとも敗北を意味する。そのため『王様』のメールの文面を見せて貰ったとき、内心では「おお」と思いながらも、「8回の話し合いの場で見つけれるように頑張ろう」と前向きな発言をしておいた。
今のところ『ねずみ組』の『王様』が誰かを知るのはわたし達3人のみ。なんとか隠し通して全員で投票期日を迎えたい。
【コンマ判定
奇数:Aクラス
偶数:Dクラス
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>413
0:Dクラス】
「てかさ、そろそろ久しぶりに水泳部来てよー。麻倉部長も春宮さんは大歓迎って言ってるしさー」
「試験終わったらお邪魔するね」
特別試験の話題を中断し、楽しく雑談しながらの昼食を終えようとした時、背中にぞくりとした視線を感じる。
これは、あれだね。
思い当たる節に、心の中で重い溜め息を吐いて振り向くと、例によって彼がそこに居た。今回は3人の取り巻き付きで。
「よう天音。どうだった?」
「どうもしません。わたしが『王様』でしたよ。結果3もしくは4をお望みなら、早く投票してください」
「なるほど『一般人』だったか」
ち。
生まれて初めて舌打ちをした。もちろん心の中で。
彼と関わるくらいなら早めに試験を終わらせたい。
特に今回の場合、『ねずみ組』の『王様』がCクラスに居るため、結果4の投票期日前の投票で解答が誤っていた場合が最も望ましい。
結果4:13日後の投票日の前日、つまり12日後までに『王様』を突き止めて解答を行い誤った場合、『王様』は50万プライベートポイントを獲得し、解答者のクラスから“50”クラスポイントを貰える
無事投票日を迎える結果1もしくは2よりも貰えるプライベートポイントは少ないものの、クラスポイントを貰えるのは大きい。
50クラスポイントは5000プライベートポイント相当。つまりクラス40人全員でその恩恵を受けることが出来れば、それだけで20万円プライベートポイントと大きな額になる。
「辻堂くん、春宮さんとは試験の話をしに来たのかな?」
「お前には関係ねぇよ、黙ってろ一色」
「そういうわけには─────」
向かいに座っていた一色くんが彼を退かせようとしてくれたけど、あえなく一蹴されてしまう。
これ以上の口論になる前に、わたしは一色くんと目を合わせて制止させる。
「クク。随分と手懐けてるようだな、天音。その調子で1000万頼むぜ? 少々出遅れたが、俺たちも予定通り1000万稼ぐ。今回の特別試験は稼ぎ時だからなぁ」
「その話には乗りません。で、何のご用ですか?」
「知らない仲じゃないんだ。見かけたら話しかけるのは当然だろ?」
入学して2日目、早見さんとケヤキモールでお茶していたところで割り込んで来たのは何処の誰だったか。
その話を振るとまた長くなるため、席を立つ。
「そろそろ教室に戻ろっか」
一色くんと宮野さんの方へ向かって、そう言うと彼らは頷いてくれて、済んだ食器が乗ったおぼんを手に取る。
「てめぇ、無視してんじゃねーよ」
取り巻きの一人、宇垣くんがわたしの肩を掴む。
避けるのも振り解くのも容易に出来たが、あえて掴まることでこの場を去るための正当な理由が出来た。
「一度だけ言います。はなして」
「……ッ」
視線を逸らし、肩を掴んでいた手が退く。
改めておぼんを手に取り、返却口へと向かう。
「せっかく一緒の組になったんだ。少々外野がうるさいが、じっくり楽しもうぜ?」
後ろの方からそんな声が聞こえた。
わたしがDクラスと繋がっている、と根も葉もない噂が出回る前に手を打った方が良さそうだ。
差し当たってはこの特別試験でDクラスに対して完全勝利を収めたいところ。その中でも『ねずみ組』の勝敗は譲れない。
5月1日から中間テストのため頑張ったつもりだったけど、もう少しだけ頑張る必要がありそうだなぁ。
◇◇◇
6時間目の学級活動の時間。
昨日の説明にあった通り、わたしと一色くんと宮野さんの『ねずみ組』は今日から試験開始となる。
話し合いの場である特別棟の視聴覚室へ赴き、授業開始の合図と共に周囲の様子を伺う。
昨日と同じ席にみんな座っていた。そしてみんな周りの出方を伺っているらしく、30秒が経過した頃、この張り詰めた空気に耐えきれないとばかりにBクラスの白城くんが立ち上がる。
「まずは自己紹介か? つっても学年の中でも有名人ばっかだからなぁ。お互い名前くらいは知ってるよな?」
「いいえ。わたくしは白城様のご意見に賛成です。ここは改めて自己紹介と致しましょう」
Aクラスの東雲さんが白城くんの意見に賛同する。
そしてAクラス神宮くん、Bクラス立石くんと続々賛同の声が上がり始める。当然、わたしたちCクラスも賛同した。
興味なさげにしていたDクラスの辻堂くん以外は賛同する形となり、簡単に挨拶をしていく。と言っても出身中学や趣味特技などは話さず、所属クラスと氏名を名乗るだけで淡々と進められた。
「あとは辻堂様だけになりますが」
「今更必要か? 東雲」
「わたくしのことは苗字でお呼びになるのですね。春宮様のことを下のお名前で呼んでいらっしゃるのは何か理由があるのでしょうか?」
「そいつは気に入ったからだ。だが、お前は違う」
「それは失礼いたしました。わたくし自身、思い上がっていたようです。確かに春宮様はとても優秀ですものね。手駒にしたいという気持ちは分かります」
「生憎だが、俺が先約を入れてるんだ。その後にして貰おうか?」
どうしてかAクラス東雲さんとDクラス辻堂くんがわたしのことで言い争っていた。
わたしのことで争うのはやめて、という台詞はこういう時に用いられるのだろうか。
そもそも、わたしは現在のCクラスのみんなとAクラスに上がりたいと思っているため、そのどちらの願いも承諾できないのだけどね。
しばらく他の誰も2人の間に割り込めずにいると、必然と矢は私の方へと向かってくる。
「当人の春宮様にお伺いしましょう。春宮様はAクラスとDクラス、どちらに着きますか?」
この試験はクラス間の戦いとなる。
そのため自分の所属しているCクラス以外に着くつもりはないけど……。
ただ、考え方を変えてみるとこの返答は重要になる。
もしここでAクラスに着くと言っておけば、Aクラスと協力関係が築けるかもしれない。一方、Dクラスに着くと言っておけば敵の懐に入り込めるかもしれない。
どう答えるのも抵抗感があるけど、ここは…。
【安価です。
1.「どちらかと言うと、東雲さんのAクラスかなぁ」
2.「間をとってBクラス……的な?」
3.「わたしはCクラス以外の味方にはなりません」
4.「……どうしてもって言うならDクラスに着いてもいいよ?」
下1でお願いします。】
悩みますね
3で
【>>420
3.「わたしはCクラス以外の味方にはなりません」】
……ううん、これについては最初から決まっている。
今回の特別試験はクラス対抗。どこかのクラスと協力する必要は無い。というより、下手に信用して足元を掬われる結果になったとき目も当てられない。
Cクラスの完全敗北を避けるためにも、ここはフラットな意見を貫こう。
「わたしはCクラス以外の味方にはなりません」
「……失礼いたしました。同級生になって2ヶ月も経たず、正式に顔を合わせて1日2日で信頼関係なんて築けるはずがありませんでした。ましてやクラス対抗となれば、尚更ですね」
「ま、当然だな」
「……」
Aクラスの東雲さんが丁寧に腰を折って謝罪、Bクラスの立石くんが大きく頷き、Dクラスの辻堂くんが内心で舌打ちするようにと各々反応を見せる。
ひとまずわたし関連の話は落ち着き、東雲さんと辻堂くんの言い合いも一段落ついた。
辻堂くんの自己紹介もこの一連の流れで有耶無耶となったが、自己紹介そのものの必要性が低かったため気にする必要はない。
さて、この後は……。
「正直に『王様』は手を挙げてください、と言っても挙げるはずありませんよね。メールを見せ合うというのもつまらないですし、ここはゲームで過ごすことにしましょう」
気を取り直した東雲さんが明るく提案する。
『王様』を抱えるCクラスとしても、特別試験について話し合うよりもゲームをしていた方がボロが出る心配が少ない。
辻堂くん以外の合意のもと、神宮くんが学校に対してトランプやジェンガを持ってくるようにメールで伝える。
5分後、視聴覚室へやって来た教師と思しき大人からその2つを受け取ると、早速どちらで何をして遊ぶか話し合いが始まる。
「ただ普通にやってもつまらないので、何か賭けませんか?」
「……そうだな。じゃあ1日1戦、最下位が正直に『王様』か『一般人』を言うってのはどうだ?」
「それは素晴らしいアイデアです。話し合いの場は今回も含めて8回。この場には12人いるので、毎回最下位が異なれば3分の2の正体が分かる訳ですね」
この場合『王様』を最下位以外にするため、わざと負けるという選択肢も出てくる。
しかしわざと負けるということはCクラスに『王様』が居ると安易に伝えるようなもの。そうなればわたし以外の2人の内、2分の1で『王様』を言い当てられてしまう。
かと言って、もう乗り気なみんなを引き止めることも出来ず。『王様』を抱えるクラスは何かと気を遣い過ぎなければならない。この先の2週間、胃が痛くなる日々が続きそうだった。
【今後4回の行動で以下①~③を達成する必要があります。
ゾロ目の場合は行動1回獲得です。
①『ねずみ組』の『王様』について隠匿(コンマ判定1回 暴かれる可能性あり)
②他クラスの『王様』について調査(コンマ判定 最低2回、最大3回)
③雨宮綾香・望月慎也の『いのしし組』について対策を話し合う(②完了後、1回実行の必要あり)
④試験外で人と会う(優先度低)
まず①『ねずみ組』の『王様』が暴かれないことについてコンマ判定を行います。
コンマ1桁が4・9以外で暴かれることがありません(下1桁が4もしくは9でもゾロ目の場合は隠匿成功)。
下1でお願いします。】
あ
【>>424
2:『ねずみ組』の『王様』について隠匿成功】
5月19日、特別試験初日の勝負はBクラス間宮志穂さんがババ抜きで負けたことで決着が付く。
当然、彼女は『一般人』だった。
少し誤算だった事として、口頭による自己申告と携帯に届いた通達メールの2つで念入りに確認という流れを彼女が作ってしまった。従って、次回以降も当然の流れとして通達メールを見せる事になる。
当然と言えば当然の流れだけど、これは『王様』を抱えるわたし達としては口頭での嘘で誤魔化せないというデメリットがある。なんとしてでも残り7回ある会合の場であの人を負けさせる訳にはいかなくなった。
ひとまずは今日、無事に乗り切れたことを喜ぶべきなのかもしれない。明日と明後日は休日だし、特別試験のことは忘れて遊んだり休んだりしよう。
「そうと決まれば…」
「ん、なんか言った?」
「あ、ううん。なんでも。疲れたねー」
今日はまだ生徒会の仕事も残っているけど、作業量としてはそれほどでもない。
一方、特別試験の監督役も生徒会の仕事の内だと言っていた先輩方は、今思い返してみると最近慌ただしかったように思える。この特別試験に向けて準備を進めていたのだろうか。
わたしも生徒会の一員として、今回の特別試験が終わった後でその業務に就くことになる。監督役として各学年で行われる試験内容について知れるのは役職特権として喜ぶべきことのはず。
今回はプライベートポイントやクラスポイントの変動だけだけど、中間テストで赤点を取ったら退学と言い始める学校のため、特別試験においても成績が振るわなかった生徒は退学という処置もあるかもしれない。その対策が事前に練られるのはとても良い。
明日以降の休日と得した気分を胸に、わたし達は教室に戻る。
【5月20日(土) うし組 通達の日
うし組の通達の日ではありますが、休日のため会合の場はありません。
行動回数の消化なしで自由行動を行います。
1.人と会う
1.早見有紗(前の席の女子生徒)
2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3.一之宮重孝(隣の席の勉強が出来る男子生徒)
4.一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒)
6.花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
7.如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
8.四条夏帆(信頼のできる3年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
9.雨宮春香(信頼のできるクラスメイト・選択に応じて音楽スキルアップ)
10.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
3.ケヤキモールへ(安価で出会う人を決定)
1.人と会う場合は「1-10」のようにお願いします。
下1でお願いします。】
1-8
【>>427
1-8:四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)】
5月20日、土曜日。特別試験2日目。
一色くんから『うし組』の『王様』がCクラスには居ない報告を受けたのが30分前。わたしは9時50分に私服に着替えて2年生の寮の前で夏帆先輩を待っていた。
中間テストを終え、ケヤキモールで羽を伸ばそうとする先輩方とすれ違い、目が会う度に会釈をしていると、いつ間にか手元には5つの飴玉が握られていた。
「……」
これは可愛がって貰えている認識でも良いのかな?
なんだか3年生の間ではわたしは厄介者として扱われているようなので、こうして貰えると嬉しい。
日向から日陰へと移動して携帯でネットニュースを見ていると、
「お。お前、1年の春宮だろ?」
「そう…ですけど。えっと、化野先輩、ですよね?」
身長180cmはありそうな2年生の男子生徒、化野伊吹先輩に声を掛けられる。
下ろせばやや長い黒髪をオールバックにして、背の高さが際立つお洒落な服を着ている姿はとても様になっている。
化野先輩は一度大きく頷き、
「誰かと待ち合わせか?」
「5分後に四条先輩と待ち合わせをしています」
「あー、あの女か」
先輩の顔が曇り、視線は遠いところへ向けられる。
その表情から読み取れるものは色々あるけど、少なくとも好意的な意識は欠片も存在していない。残ったのは憤りや妬みといった負の感情だった。
申し訳ないけど、この人とは長話をするだけ損だと自分の中ですぐさま折り合いを付ける。
「すみません、ついさっき連絡があって、5分後に別の場所で集合になったので失礼します」
頭を下げてその場を立ち去る。
一歩、二歩とケヤキモールとは逆の方向に進んだとき、先輩方の声が聞こえてくる。少し離れた場所で待っていた同級生と合流したようだ。
「今の、例の1年ですよね?」
「あぁ。あの裏切り者と待ち合わせしてるんだとよ」
「……チッ。あの女とですか」
「生徒会繋がりだろうよ。新汰の手駒かもなぁ」
わざとわたしに聞かせてるのか? って思うほどの声量で話す声はしっかりと聞こえて来た。
話に出て来た『裏切り者』とは、話の流れからして夏帆先輩のことで間違いない。
「……」
この学校の仕組み上、『裏切り者』と呼ばれることは少なくないと思う。
例えば今回の特別試験においても、わたしが『ねずみ組』の『王様』を他クラスに密告すれば、それはもう『裏切り者』となる。
夏帆先輩がどのような経緯でそう呼ばれることになったのかは分からないけど、ひとまず話半分で耳にしたという程度に留めておこう。
◇◇◇
化野先輩達がケヤキモールの方へ向かったことを確認して、わたしは改めて2年生の寮の前へ赴く。
すると夏帆先輩はもう待っていて、笑顔で手を振って来た。
わたしは頭を軽く下げて近付く。
「すみません、お待たせしましたか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。私も今さっき来たところですから」
柔らかく微笑んでくれる先輩と合流して、わたし達もケヤキモールへ向かう。
今日の予定はノープラン。昨日の生徒会の仕事終わりに誘って、二つ返事でオーケーを貰えたところ。
何をしようか……。
【安価です。
1.家で料理
2.映画館
3.ショッピング
4.カフェ
下1でお願いします。】
3
【>>431
3:ショッピング】
ケヤキモールへの道中でふと、夏服を所持していないことに気が付く。
ここに来てから購入した私服といえば春物ばかり。着こなしによっては夏でも使えないこともないけど、特にポイントに困っていることもないし、それに年頃の女性としても少ない衣類を年中着回し続けるのにも抵抗があった。
夏物の服を揃えたいという希望はすぐに承諾して貰えた。
「とりあえず見て回ってみましょうか」
「はい!」
ケヤキモールには何十というブランドのお店が並んでいる。店頭に置いていない物でも通販を利用すれば最短2日で届く。
本格的な夏を前に、一式揃えるのは今からでも十分に間に合う。今全てを揃える必要もなく、気に入った物だけを必要なだけ買うことにしよう。
そう意気込んでお店を次々と回る。
「落ち着いたお洋服の方がお好きですよね?」
「そうですね。派手目なのはあまり経験が無いです」
「似合うと思いますけどねぇ。演劇部に色々な衣装がありますので、利用してみては如何ですか?」
「演劇部に? でもそれって舞台用ですよね?」
「1つ上の先輩にコスプレって言うんですか? そういった衣装が好きな方が居て、卒業のときメイドさんの服とか寄贈していましたよ」
「……わたしには似合いませんっ」
「そんなことないですよ! 絶対に似合います!」
と言ったやり取りをしながら。
メイド服かぁ。演劇には興味あるけれど、少しだけ抵抗感があるのは特に変なことじゃ無いと思う。
タイミングを見つけて衣装を見るだけでもお邪魔してみようと考えていると、気になった広告を見つける。
「先輩、これ」
「あ、クイズ大会? 四半期に1回くらいやってるイベントですね」
ペアで参加、参加費は2000プライベートポイント。
全30問によって構成されるクイズで点数を競い、1位~3位まで順位に応じた額の商品券が配布される。また、参加賞としてモール内のカフェで使用可能なドリンク交換券が貰えるらしい。
「先輩は出たことありますか?」
「ううん、私こういうの得意じゃないから。雑学とかが中心に出たかな。そういうのに自信がある人なら、多分学年関係なく良い線狙えると思うよ?」
参加費は2000ポイント。
1位を取れば15000ポイント分の商品券。
2位を取れば10000ポイント分の商品券。
3位を取れば5000ポイント分の商品券。
その点だけでも十分に魅力的。
それに参加賞のドリンク交換券だけでも1000ポイント分は還元される。つまり入賞できなくてもマイナス1000ポイントほど。参加しても痛手は小さい。
……やってみようかな?
【安価です。
1.「先輩、一緒にやってみませんか?」
2.「わたしもちょっと自信ないので、やめておきましょうか」
下1でお願いします。】
1
【>>435
1.「先輩、一緒にやってみませんか?」】
「先輩、一緒にやってみませんか?」
「えぇっ?」
興味半分、夏服を購入するための資金の足しにもなりそうという理由で、わたしは提案する。
先輩は自信なさそうにしながらも、コクリと小さく頷いてくれた。
「でもでも、本当に私、力になれないよ?」
「大丈夫です。気楽にやりましょう! わたしも戦力になれるかは不安なので」
と口でいいつつ、わたしは胸の奥にギラギラとした気持ちを昂らせる。
他の参加者には申し訳ないけど、勉学はもちろんのこと、雑学に関しても自信がある。わたし達が優勝する。そして超お得に買い物をしてみせる……!
「申し込みに行きましょうか」
「天音ちゃん? ちょっと目が怖いですよ……?」
先輩の手を引いて会場へ赴く。
1000ポイントずつ支払い、受付を済ませる。
イベント開始時刻は12時。周囲の生徒の数からして、かなりの出場組数になりそう。ただ参加する人数を気にしても仕方がない。敵となる人の姿を気に留めても意味がない。
受付を済ませたわたし達は、改めて夏服の物色に出る。
◇◇◇
「あれあれ。夏帆ちゃんと天音ちゃんだー。ふふふ、何してるかは聞かないよ? でも分かるよね?」
11時50分。
改めてイベント会場を訪れたわたし達は、乙葉先輩に出会う。表面上はいつもと変わらず微笑んでいるけど、あの人は常にポイント不足に悩んでいるらしい。つまり負けろと遠回しに言ってきていることは明白だった。
優勝する気満々だったけど、その気も削がれる。
近くには錦山先輩の姿もある。おそらく乙葉先輩のペアなのだろう。
その他に気になる人と言えば、ユキ先輩と内山先輩、東雲さんと神宮くん、立石くんと白城くん、一色くんと宮野さんなど、見覚えの凄くある生徒がたくさん見受けられる。『ねずみ組』の生徒が良く目につくのは仕方がないことだと思う。
「ちなみに去年度の優勝は乙葉先輩のところですね。あの人、クイズとか凄く得意ですから」
わざわざ本人が忠告してくれたってことは、要注意の一グループとして数えて貰っている認識でも良いのだろうか。
それはともかく、手を抜くつもりはない。
偶然を装い、勝ってしまうという結果は仕方がないことだと思う。別に中間テストで意地悪されたことの意趣返しという程でもなく。
「あ、そろそろですね」
「勝ちましょう! 先輩!」
実際のところ、入賞は半分くらいの確率で出来るとして、1位を取ることはかなり難しそう。
出来れば優勝をしたいところだけど……!
【コンマ判定
学力:97(超優秀) 補正あり
5・7:1位
3・9:2位
1・8・0:3位
その他:4位
下1のコンマ1桁でお願いします。
コンマ2桁がゾロ目の場合は1位です。】
それ
7でゾロが出たんだが
【>>438
7:1位
7でゾロ目のため? 満点で優勝になります。】
「優勝は、四条夏帆・春宮天音ペアーーっ!」
司会のお姉さんの甲高い声が響く。
スタッフの方に優勝商品の商品券1000円分が14枚、500円分が2枚、そして参加賞のドリンク交換券2枚を受け取る。
「やりましたね、先輩」
「あ、うん。……私、何もしてないんだけどね?」
「そんなことないです! 力を合わせた結果です!」
「いや、でも……」
ちょっと難しい問題もあったけど、わたし達の正解数は30と、申し分のない満点を叩き出した。
2位は錦山先輩・乙葉先輩ペア。26点。
3位は東雲さん・神宮くんペア。25点。
雑学に関する問題も多かったけど、学生で勉強するような内容も出題された。全学年を通してもほぼ公平に戦えるような出題形式だったと思う。
結果発表が終わると集まっていた人も捌けていく。
残ったのは入賞した3チームと数名の生徒の他、設営スタッフの方々だった。
「天音ちゃん、ちょっといい?」
「春宮様、少しお時間よろしいでしょうか」
乙葉先輩と東雲さんの両方から声を掛けられる。
只事ではない雰囲気は嫌でも伝わってくる。
「あー、まぁいいや。東雲さん、手短に先どうぞ」
「いいえ。後輩として、先輩に先をお譲りするのは当然というもの。わたくしの用は花菱様の後で構いません」
「なら遠慮なく。天音ちゃん、よく満点取れたね。最後の方の問題とか訳分からなかったんだけど?」
最後の方の問題。
ルベーグ積分とかその辺りの問題だったはず。
確かに最終問題の方は難易度が跳ね上がっていた。高校生で学習する範囲を超えている。解けなくて普通なんだと思う。
そんな問題を学生しか参加しないイベントで出す方もどうかと思うけど、今はそんなことどうでもいい。
わたしは万全を期して優勝するために手を抜かず正しく解答を導き出した。その結果、満点という結果を出せば、こうやって詰め寄られるのも当然の事だと思う。
「理系の教科には興味があって、むかし本で読んだことがあったんです。だから解けました。自信は半々といったところです」
「……ほんっと規格外。ずるいずるい! 勉強も出来て運動も超出来るとかさー」
頬を膨らませる乙葉先輩を押し退け、錦山先輩が近付いて、わたしにしか聞こえない小さな声で囁く。
「正直、ここまでとは思ってなかった。生徒会に誘ったりした身でこんなこと言えないが、変に目立ちすぎるなよ。敵は同級生だけじゃないんだからな」
「……はい、わかっています。ご忠告ありがとうございます」
「ま、俺たちはギリギリだったが2位を取れた。余裕でプラスだからな。本当に偶然、お前が参加したことで1位という名声と5000ポイント分の商品券を逃しただけだ!」
錦山先輩も結構気にしてそうだった。
ひとまず乙葉先輩達に参加賞のドリンク交換券をプレゼントすることで気を良くしてもらう。わたし達には15000ポイント分の商品券さえあればいい。
カフェの方へと向かっていく先輩方を見送り、改めて東雲さんと目が合う。
彼女は微笑み、その冷たく綺麗な瞳を向けたまま語りかけてくる。
「改めまして、お見事でした、春宮様。ひとつお伺いしたいことが」
「ありがとうございます。なんでしょうか」
「春宮様は、わたくしや、あの人のような……こっち側の人間じゃないですよね?」
「こっち側?」
あの人、と隠された人物が判明すれば考察の余地もあったが、こっちと言われてもどっちか分からない。
わたしは首を傾げ、おそらく違うと答える。
「そう……ですよね。失礼いたしました。貴女のことは見かけた覚えがありませんでしたので、お伺いするまでもありませんでした」
掴めない話に、わたしは「はぁ」と相槌を打つことしかできない。
東雲さんは一息つくと、改めていつも通り微笑んでくれる。
「四条様、春宮様、お時間を戴き感謝いたします。それではまた」
ご機嫌よう、とくるぶしまであるロングスカートの裾を摘んで、頭を下げる。
お嬢様然とした姿につい見惚れてしまいながらも、これで身の回りは落ち着いた。東雲さんの言っていることのほとんどは分からなかったけどね。
「まずはお昼ご飯にしましょうか」
「あ、うん。そう……ですね」
イベントが始まる前と後で、先輩がわたしを見る目が少し変わっていたような気がしたけれど、……うん。
それは多分、気のせいじゃなかったと思う。
◇◇◇
昼食を経て、貰った商品券を折半して夏服の購入資金へと充てる。ほんの2着も買えば、7500ポイント分の商品券は消えて自腹の域に達する。
自腹で15000ポイントほど追加で使用して、ひとまず直感で欲しいと思った夏服は揃え終わる。
それでもなお、わたしの手元には10万を超えるプライベートポイントが残っている。
もし特別試験で何十万というポイントが懐に入ってくれば、それはもう泣いて喜ぶと思う。
「結構買えましたね」
「はい、先輩が良いお店を知ってくださっていて大変助かりました!」
「それは良かったですっ」
急遽参戦したイベント終わりの微妙な表情は消え、先輩は笑顔で喜んでくれた。
わたし達はドリンク交換券こそ先輩にあげてしまったけれど、個室の喫茶店で休憩することにした。今日付き合っていただいたお礼も兼ねて。
「天音ちゃんは来たことあるんですね、ここ」
「同じクラスの友達と来ました。何回か」
雨宮さんは眼鏡を外せば超有名人。眼鏡を外していなくても身バレするかもしれないリスクと常に隣り合わせのため、一緒にお茶する時はこの個室の喫茶店を利用する。
そのため大体の気になるメニューは頼み尽くしてしまっている。新鮮味には欠けていたけど、美味しいと分かっているメニューがあると選ぶのも早い。
ドリンクと軽食を注文して、一息つく。
【安価です。
1.「先輩、困ってることありませんか?」
今朝の化野の件を遠回しに
2.「実は……今朝、化野先輩と会いました」
今朝の化野の件を直接
3.「この後、先輩のお部屋でお料理とか……」
4.「今、わたし達1年生は特別試験をやっているんですけど……」
5.「……先輩に悪いことしちゃいましたね」
クイズ大会の件
下1でお願いします。】
1
【>>445
1:「先輩、困ってることありませんか?」】
注文していた品が届いた頃、わたしは今朝からずっと気になっていたことを遠回しに聞いてみることにした。
「先輩、困っていることありませんか……?」
「ん? 困ってること、ですか?」
首を傾げ、しばらく考える仕草を見せる。
うーん、うーん、と数秒間熟考した上で、夏帆先輩の表情が暗くなることはなかった。
「特にありませんね。強いて言えば、天音ちゃんが満点を取ってしまったせいで、少しばかりペアである私も目立ってしまったことでしょうか」
「う……それはすみませんでした」
思い返せば、最後の方の5問は大学生レベルと格段に難易度が跳ね上がっていた。乙葉先輩はその内の1問を解いて26点、東雲さんは手を付けずに25点を取ったのだと思う。
確かに満点を取るというのはやりすぎだったかもと反省はしている。
「謝ることではありません。私としても良い経験が出来ましたし、商品券も戴けましたからね。多少目立つくらいどうってことないです。……ただ、そうですね」
一転、表情を曇らせた先輩はアイスレモンティーで喉を潤した後、目を伏せて話し始める。
「天音ちゃんは今、特別試験の最中ですよね。各クラス3名程度が集まって『王様』を見つけ出すっていう、例の」
「はい。昨日から今月末まで、その試験が行われる予定です」
「……あんまりこういうことは話してはいけないのですが、特別試験というものは年に数回行われるもので、今回の試験が最後ではありません」
「乙葉先輩からそのようなことは聞いています。生徒会が特別試験の監督役もする、と」
「そうです。もちろん現在行われている特別試験にも生徒会が携わっています。と言っても、ルール説明の時にご覧になられたスライドの作成程度ですが」
視聴覚室で見たスライドを思い出す。
ねずみ、王様、一般人のイラスト。そして試験概要。
あれらの資料はわたしの知らないところで先輩方が作成していたようだった。
「今回の試験は1年生の間で行われているものですが、ものによっては全学年で競争する場合もあります。おそらく……というか、もう既に今後のスケジュールに全学年共通で競う特別試験が組み込まれています」
全学年で競う特別試験が行われる。
その予想自体はついていたけど、夏帆先輩の口ぶりからしてそう遠くはなさそう。来月か再来月か。夏休み前後あたりで実施されるかもしれない。
「試験の概要はまだご説明できませんが、その試験において天音ちゃんは……不利になるかもしれません」
「不利ですか?」
「はい。ルール上は出来る限り公平だと思います。ただ、天音ちゃんは運動部との戦い、そしてさっきのクイズ大会でも目立ち過ぎています。そのため、言い方は悪いですけど、まず第一に蹴落とす相手として認識されてしまっている可能性があります」
その可能性は考慮していなかった訳ではない。
今回の特別試験ではポイントの変動のみだけど、今後実施される試験によっては退学を賭けたクラス間の戦いになるかもしれない。
学力等で良い成績を収める他クラスの生徒を退学に追いやれば、その分だけ自クラスがAクラスとして卒業できる可能性は高まる。
今すぐとは言わないけど、秋頃にもなればその認識は全員が持つことになるかもしれない。
「それは1年生の皆さんだけに限りません。私たち2年生も、乙葉先輩たち3年生も天音ちゃんに対して攻撃的な姿勢で挑むかもしれません」
「……注意するべき人に心当たりがありますか?」
「はい。まず3年生はあまり心配が要らないと思います。あの学年はもう統治済みだと聞いていますから。1年生のことは天音ちゃん自身がよく分かっていると思いますので、私からは2年生のことを。1人だけ気をつけていただきたい人がいます」
暗い表情。
名前を聞くまでもなく、今朝の一件を経て彼の顔と名前は既に頭に浮かんでいた。
「化野伊吹くん───って言って、伝わらないですよね。2年Aクラスの男子生徒なのですが」
「いえ、分かります。全生徒の顔と名前は分かっているつもりです」
「え、あ、そ、そうなの? すごいですね…。と、そうではなく、現在2年生は1年間の戦いを経て、大きく2極化しています。1つは化野くんのグループ、そしてもう1つは新汰くんのグループです」
生徒会副会長の佐倉新汰先輩がもう1つのグループのリーダーをやっているとのことだった。
新汰先輩は端的に言って、正義感の塊のようなカッコいい男子生徒。知的な外見も込みで、おそらく女子人気は高いと思われる。わたしも例に漏れず、生徒会の仕事を手伝って貰ったりとかなり好印象を持っている。
「新汰くんは1年生の最初、Aクラスだったんです。そして化野くんはBクラスで、私もBクラスでした」
「え……あれ? 夏帆先輩って、」
「はい。1年生の末に行われた試験でAクラスとBクラスが入れ替わって、その後で私はAクラスから新汰くんの居るBクラスへ移動しています」
2000万ポイントを支払うことでクラス移動が出来る。
4月上旬に辻堂くんから聞かされていたことを半ば冗談として受け取っていたけど、実際にクラス移動をした人が目の前にいる。
その事実をもとに、化野先輩が夏帆先輩のことを『裏切り者』と言ったことについても少し理解できた気がした。
「あ、すみません。少し話が逸れてしまいましたね。化野くんは、その、手段を選ばないというか、徹底主義というか。そう言ったところがあるので、気を付けてくださいというのが本題です。私の身の上話は忘れて下さい」
夏帆先輩は良い先輩としてわたしは認識している。
何が原因でクラス移動することになったのかは知らないけど、その大きな原因は化野先輩にあるのは想像に難くない。
新汰先輩の手助けをする訳では無いけど、夏帆先輩がこのまま『裏切り者』と呼ばれ続けることには納得がいかない。
今後実施予定の全学年で行われる特別試験。
その場では、きっと化野先輩と対決する機会がやってくると思う。辻堂くんに続いて摘んでおくべき人として、わたしは化野先輩を警戒することに決める。
【安価です。
1.「ご心配とご忠告ありがとうございます。今後は、出来る限り目立たないようにしますね」
2.「もう少しだけご辛抱いただけますか。特別試験できっとやり返して見せます」
3.「わたしに力になれそうなことがあればいつでも相談して下さいね。わたしだって相談しっぱなしなので」
下1でお願いします。】
あまりにも阿呆らしいので注意喚起します。
1、あんぐら本舗について
あの動画の内容はどう見ても炎上に便乗しただけのジョーク動画です。
現時点でゆるふわアンチはあんぐら本舗に釣られ、あの便乗動画が伸びるのを助けただけって状態です。
某ちゃんねるでは「伸びてもゆるふわが困らないあの動画にアンチが広告いくら突っ込むのか」って話題になってますよ。
頭を冷やしましょうよ。
常識的にクソ動画伸びても誰も困らないし、注意喚起も意味がないと思ってます。
私はちゃんと調べた上で「変なのにたかられたからそう言って逃げた」と判断して言ってますので、あしからず。
2、ゆるふわ分子生物学研究所について
冷静に考えればあれはゆるふわ分子生物学研究所の投稿者の評判を落としたい、評判を落としたい、迷惑かけたいという「赤の他人による犯行」だと思うのが普通です。
本人がそんな事するのだろうか?←この考えを元に常識的に突き止めれば、「別人による成りすまし」が第一候補です。
あと、擁護する人間がいるのは様々な意見を持つ人間がいるだから当然でしょう。
そういう意見をなぜ「荒らし」「異常」と断定するのか、そちらの方が恐ろしいです。
「ゆるふわの複垢か」はこのスレ住人だけにしか通じないミーム(意味わからんだろ、ググレカス)なんですよ、本当に。
そもそも同一人物だという証拠・説明・反論は一つも「ありません」、同一人物だという証拠が出ない時点で語るに落ちます。
投稿者が反応してない?→迷惑行為されたら大騒ぎして被害者ですと主張しないといけない法律があるので?
いい加減このスレ住民の行動パターンが全体的に常識で考えておかしいって気付け!
ところで、便乗したジョーク動画に皆さんは便乗動画に広告でいくら支払ったんでしょうか?
あんぐらさんもあの動画でクリ奨稼げてよかったでしょうし、委員会さん達の懐のダメージを慮ると実に乙ですけど。
【再安価します。
1.「ご心配とご忠告ありがとうございます。今後は、出来る限り目立たないようにしますね」
2.「もう少しだけご辛抱いただけますか。特別試験できっとやり返して見せます」
3.「わたしに力になれそうなことがあればいつでも相談して下さいね。わたしだって相談しっぱなしなので」
下1でお願いします。】
3
【>>453
3:「わたしに力になれそうなことがあればいつでも相談して下さいね。わたしだって相談しっぱなしなので」】
化野先輩とは学年が違うこともあって関わる機会も少ないと予想できるけど、それでも全く無関係でいられる訳ではない。
特別試験終了後の6月以降は2年生の情勢についても注視する必要がありそうね。
ということを踏まえて、わたしから夏帆先輩に向けて言えることは一つ。
「わたしに力になれそうなことがあればいつでも相談して下さいね。わたしだって生徒会のお仕事やお料理で相談しっぱなしなので」
本当なら「化野先輩のことはわたしに任せて下さい」と気の利いたことを言えたら良かったのだけど、現時点で化野先輩の実力は知れず。それに対抗勢力の新汰先輩の邪魔はしたくない。
相談して下さい、と言うことが今の精一杯だった。
夏帆先輩は遠慮がちに手を振って見せる。
「え、いいよいいよっ。私だってもう十分お世話になってるんだから……! でも、うん。その気持ちは凄く嬉しい。ありがとう」
先輩後輩という隔たりがある以上、素直になんでも相談とは行かないんだと思う。けど、本当に困ったときにわたしくらいは味方になってあげたい。
どうか、相談できる相手がいることを気に留めて貰えるよう、わたしはそれ以上は言わず、心の中で強く願った。
◇◇◇
四条先輩と過ごした土曜日、そして学校の図書室で過ごした日曜日を経て迎えた月曜日。
『うさぎ組』の通達がある日であり、お昼休みが始まると同時にCクラスの加藤治孝くんが『王様』であることを一色くんから聞く。
試験開始から4日目にして、Cクラスから2名の『王様』が出た。これを幸と取るか不幸と取るかはクラスの指針にもよる。
『王様』が選択される仕組みを探りたければ早めに通達されることに越したことはない。一方、早めに通達されるということはボロが出る機会が増えるということでもある。それは投票期日前の投票が発生する可能性が高まることを意味する。
「この事、他の誰かは知ってる?」
「治孝くんと僕と、春宮さんの3人だよ。ちなみにメールも見せて貰ったから間違いはないと思う」
「うん、わかった。ありがとう」
一色くんにお礼を言って、わたしは自席で改めて試験通達メールを確認する。
『厳正なる調整の結果、あなたの役職は『一般人』に決まりました。グループの一員として、自覚を持って行動し試験に臨んでください。また、ねずみ組の集合場所は特別棟の視聴覚室になります。』
やはりキーとなるのは『厳正なる調整の結果』。
むやみやたらに「ここの組は~、この人!」と適当に『王様』を決めていることは無いと思う。
現在判明している『王様』はCクラスから2名。共通点は挙げればキリがないけど、そのどれもが確証に欠ける。
Cクラスから3名の『王様』が判明するのを待って共通点をよく考える、というのも1つの手段だけど、試験最終日の前日に通達となる『いのしし組』で判明した場合はかなり出遅れることになる。
どうしても他クラスの『王様』事情を知る必要がある。
それを探るためには6時間目の会合で集めて貰った情報を取りまとめる……くらいしかない。表情は読み取れない、なんとなくこんな事を話したという情報だけで突き止めることは可能か。
「……むりかなぁ」
つい独り言を呟いてしまう。
直接会って話せれば糸口も見つけられるかもしれないけど、人伝に聞いて判断するのは難しい。
となると、思いつくのは賄賂か。
プライベートポイントを100万ポイントあげるから貴方のクラスの『王様』を1人教えて、とか。ルール上、そういったことをダメだとは定められていない。
もちろんそれ相応の額を集めるためには他の生徒に協力をお願いしないといけない訳だけど。
【安価です。
1.「ああは言ったけど、Dクラスは論外として、AクラスかBクラスとは協力関係を築けないかな……?」
2.「そもそもグループ分けされている時点で、わたしが出来ることは少ない。他のグループのことはみんなに任せて、わたしは『ねずみ組』のことだけに集中しよう」
3.「……少し様子を見ようか」
下1でお願いします。】
か
誤爆した、2
【>>458
2:「そもそもグループ分けされている時点で、わたしが出来ることは少ない。他のグループのことはみんなに任せて、わたしは『ねずみ組』のことだけに集中しよう」】
……うん。やっぱりダメだ。
グループ分けされている時点で、わたしが出来ることは少ない。他のグループのことはみんなに任せて、わたしは『ねずみ組』のことだけに集中しよう。
そもそも生徒のシンキング能力を培うための試験だからね。わたし個人で超シンキングして『厳選な調整』を暴くことは他のみんなのためにもならない。
真っ当に試験をこなすことにしよう。
「よしっ」
そうと決まれば残り1週間半ほどの間、日々『ねずみ組』内で行われるゲームで『王様』を負けないようにしてあげることが、わたしに出来る最善の策。
そう心の中で吹っ切れさせたことで、気負っていた物の重みから解放されて軽くなる。
今日は生徒会の仕事の後、水泳部に顔を出してみようかななんて考えながら、お昼休みを過ごす。
【>>423、>>424の安価で『ねずみ組』のゲームによって『王様』が暴かれることはないと確定しているため、2回の自由行動を経て試験結果となります。
1.人と会う
1.早見有紗(前の席の女子生徒)
2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3.一之宮重孝(隣の席の勉強が出来る男子生徒)
4.一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒)
6.花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
7.如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
8.四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
9.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
10. 雨宮春香(信頼のできるクラスメイト・選択に応じて音楽スキルアップ
2.寮で1人で過ごす(料理の本を読む、自己学習など)
3.ケヤキモールへ(コンマ判定で出会う人を決定)
1.人と会う場合は「1-10」のようにお願いします。 ? 下1でお願いします。】
3
【>>460
3:ケヤキモールヘ(コンマ判定で出会う人を決定)】
5月25日、木曜日。
今朝は『うま組』の通達があり、Cクラスから最後の『王様』が出たことを一色くん経由で聞いた放課後。
生徒会の業務を終え、わたしはケヤキモールヘと赴く。
購入予定の物があった訳ではないけど、見て回るのは自由でタダだから損することはない。
注意するべきは『期間限定』のワードに惹かれないこと。つい購買意欲の低い物も購入してしまうのはわたしの悪い癖なのかもしれない。
先週末に服は一通り見たため、本屋、文房具屋、ホームセンターとそれぞれ滞在時間5分程度で徘徊する。
周囲の学生はほとんどが私服に着替え、夕食どきということもあってレストラン街の方へと向かっていく姿が多く見られる。
「……外食かぁ」
比較的最近は自炊に凝っているため、夕食としてレストランを利用したのはほぼ1ヶ月前となる。
幸いポイントには困っていないし、これからお米を炊くのは少し億劫だなと少し思っていたところ。
たまには外食をしても良いかもしれない。
踵を返して、わたしもレストランがある方へと向かう。
【コンマ判定。
1・8:乙葉
2・0:神宮・東雲
3・6:化野
4・7:夏帆・新太
5・9:雨宮
ゾロ目:先生
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>462
ゾロ目(99):先生】
レストラン街へと向かう途中、シワの寄った背広姿を見つける。他の誰でもない担任の伊藤先生だった。
校舎の中であればもう見慣れたものだけど、校舎の外で見かけると心配や不安、そして恥ずかしいという余計な感情まで湧き出てくる。
「……」
話しかけるか迷っている内にケヤキモール内のレストラン街に到着する。奇しくもここまでの道のりが一緒だったため、自然と背中を追うような形になってしまった。
一度周囲のお店を見渡して心に決める。
よし。特別先生に用がある訳でもないし、業務後にまで生徒に付き合わせるのは憚られるため先生を尾行するような真似はやめよう。
さっと外食を済ませて、部屋で勉強したりテレビを見たりしようと意気込んだとき、目の前に黒い影が現れた。
「っ、せ、先生……!」
他の誰でもない伊藤先生だった。
ずっとこちらには背中を見せていたはずだけど、振り向いた際にわたしに気が付いたのか。
なんであれ、結構驚いた。
「えっと、なにか……?」
「いえ、春宮さんの視線を感じたものですので。何か用があるのかな、と思ったのですが」
「……あぁ、すみません。つい見つけたので目で追ってしまっただけです。申し訳ありません」
見られている気がする、という感覚には覚えがあるため先生がわたしに気が付いたことに違和感はない。
わたしは素直に白状して頭を下げる。
「そうでしたか。頭を下げる必要はありません。そうだ、春宮さんは夕食の予定は決まっていますか?」
「夕食ですか? 決まっていませんけど……」
「もしよろしければご一緒にいかがですか」
この流れはもしや、と胸の奥に感じた直後、それはそっくりそのまま伊藤先生の口から提案されることになる。
先生と夕食かぁ。
全然嫌ではない。むしろ少し話してみたいなと思っていたため、この機会は絶好と言える。
断る理由もないし、わたしは頷くことにした。どうして誘っていただいたのかは不安で未知だけれど。
「はい、ご相伴にあずかります」
「よかったです。食べたいものはありますか?」
「そうですね……今晩は中華の気分です」
「ではあそこにしましょうか」
先生の視線が向かって左側の3件先にある中華料理屋に向けられる。外装からして「中華!」って雰囲気のあるお店で好印象。
入ったことはないけど、風の噂では麻婆豆腐がとても辛いという話だったような。少し興味があるため挑戦してみても良いかもしれない。
先生に着いていく形でお店に入り、奥の方の席へ案内して貰う。
席の仕切りが高く、近くには窓も無いため他のお客さんから注目されることもない。先生と生徒の逢瀬にはちょうど良い席と言える。
「お好きなものをどうぞ。私が全部出します」
「はい、ご馳走になります」
ここで断るのは厚意を無碍にするような気がしたので、素直に甘えることにした。
……1度くらいは「わたしも払います」というやり取りをしておいた方が良かったかもしれないと今になって少し後悔している。
注文を終え、お冷で喉を潤した後、少し沈黙が訪れたので気になっていたことを直接聞いてみることにした。
「えっと、どうしてわたしと夕食を? いえ、とてもありがたいのですがっ」
「普段の素行が良く、先日の中間テスト対策でも色々と動いていただけたようだったのでそのお礼です。現在Cクラスの皆さんがAクラスに上がってくれれば、私の査定も上がりますからね」
「あ、そういう……」
「それと直接お話したいこともあったので」
先生から直々にお話。
個人面談はそう珍しいものではない。進路相談を始め、学業について相談する機会は幾らでもある。その分、教師という職業は多忙のように思える。
「話したいこと、とは?」
「春宮さんはどうして自分が最初Dクラスに配属されたか見当がついていますか?」
「……」
学校側からしてみればDクラスとは、その学年における『不良品』や『ガラクタ』といった意味合いが強いらしい。従って学年の中でも成績の低い生徒が集まる傾向にある。
正直、勉強と運動は出来る方だと自覚はしているため、たびたび「どうしてわたしがDクラスに?」と考えたことはある。
その結論として、
【コンマ判定
直感・洞察力:91(優秀) 補正高
4・9:見当がついていない
その他:見当がついている
下1のコンマ1桁でお願いします。
ゾロ目の場合は見当がついています。】
う
【>>467
9:見当がついていない】
その結論として、わたしは解を出せなかった。
強いて挙げるとすれば特殊なクラス配属制度を採用している学校側のミスが考えられるけど、同時にそれは確実にあり得ない話だと断言できる。
つまり仮定すら持っていない状態。テストで言うところの空欄で提出してバツを付けられる状態にある。
わたしは頭を小さく横に振る。
「いえ、わかりません」
久しぶりに「わからない」と発言した気がする。
知らないことは罪だと教育を受けてきた身として、人一倍勉強に努めてきたつもりだけど、こうして改めて口にすると胸を圧迫する何かがあった。
そんなことを知る由もない先生は「そうですか」と何の抑揚も無い声で相槌を打って、
「……」
「……」
あれ、会話が途切れてしまった。
てっきり簡単に教えて貰えると思っていたのに。
「えと、その理由について訊いたら教えていただけるんですか?」
「えぇ構いませんよ。口止めされていることではありませんので。ただ、春宮さんは本当にそれで良いですか?」
「……意外と、意地悪なんですね」
意味ありげに言われてしまうと躊躇ってしまう。
今のわたしはこの件について仮定も持たないまま答えを訊こうとしている。言ってしまえば、答えを丸写しして宿題をやるのと同義。
果たしてそれは自分のためになるのか。せめて一度自分なりに答えを書いてから答え合わせをするべきなのではないか。
改めて訊けばすぐに教えて貰えるだけに、わたしは揺れる。
【安価です
1.「そうですね。もう少し自分で考えてみることにします。改めて、別の機会で答え合わせをさせてください」
2.「……やっぱりわからないです。答えを教えていただけますか?」
下1でお願い致します。】
1
【>>470
1:「そうですね。もう少し自分で考えてみることにします。改めて、別の機会で答え合わせをさせてください」】
それでもわたしは考えることを放棄できなかった。
昔読んだ本にこんなことが書いてあった。
『人間から知性を除けば、そこには獣性のみ残る』
当時のわたしには理解し難い一文だったけど、今ならほんの少しだけ理解できるような気がする。主に獣性という部分が本当によく分からないけれどね。
「もう少し自分で考えてみることにします。改めて、別の機会で答え合わせをさせてください」
「そうですか」
先生は短く頷くと、ちょうど運ばれてきた料理をテーブルに置くためお冷のグラスを退ける。
ひとつひとつかなりのボリュームがあり、2人にしては多かったかもしれない。
しかしいずれも美味しいことが確定している印象。特に真っ赤な麻婆豆腐は見た目通り辛そうだけど、香辛料の香りが堪らない。
「いただきます」
「……お気になさらず、お好きなだけどうぞ」
わたしは中華丼、先生は天津飯を主食とし、その他に麻婆豆腐、青椒肉絲、回鍋肉、酢豚、棒棒鶏、春巻きと、代表的な料理はそれぞれ小皿に取り分ける方式となっている。
お言葉に甘えて好きなものを好きなだけ小皿に取り、改めて先生に向かって「いただきます」と言ってから口に運び始める。
「美味しいです!」
「それは良かったです。私が学生の頃は別の中華料理屋だったんですけどね。最近、居抜きで今のお店が入ったそうです」
「へー……あれ、先生が学生の頃? 先生もこの学校の出身なんですか?」
「言ってませんでしたか?」
先生とまともに話す機会も今が初めて。
入学式当日の挨拶でもそんなことを聞いた覚えもない。
「初耳です。参考までにどのクラスで卒業したか教えていただくことは出来ますか?」
「調べれば分かることですからね。特に生徒会に入っていれば、その辺りも容易でしょう」
確かに卒業生の名簿は生徒会準備室に保管されていたはず。在校生徒名簿の隣の棚だったかな。必要性が低かったため、見るのを後回しにしていた。
「Aクラスで卒業しました。入学のときから卒業のときまで、不動でしたね」
「あ、それはすごいですね! 今の一年生でも結構肉薄しているのに…」
現在Aクラスとの差は250クラスポイント程度。
今回、もしくは今後数回の特別試験の結果次第ではすぐにでも入れ替わる可能性がある。
不動のAクラスであり続けたということは、優秀なリーダー的立ち位置の人が居たんだと思う。
「まだこれからですからね。頑張ってください」
「はい。先生の査定のためにも。奢っていただいた分は査定でお返しします」
「それは頼もしいです」
そう言って、いかにも辛そうな麻婆豆腐を口に含んで、顔色ひとつ変えずに嚥下する先生。
わたしは最初だけ数回むせてしまい、口元を手で覆ったとはいえみっともないところを見せてしまった。
それから意外にも話題は尽きることなく、無事に2人で食べきることが出来た。デザートに杏仁豆腐まで戴いて、幸せの極みに至る。
なお、この夕食以降、わたしは食事のたびに辛いものを求めるようになる。もちろんこのときのわたしはそんなことを露知らずにいるのだった。
【特別試験終了まで 自由行動 残り1回
1.人と会う
1.早見有紗(前の席の女子生徒)
2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3.一之宮重孝(隣の席の勉強が出来る男子生徒)
4.一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒)
6.花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
7.如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
8.四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
9.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
10. 雨宮春香(信頼のできるクラスメイト・選択に応じて音楽スキルアップ
2.寮で1人で過ごす(料理の本を読む、自己学習など)
3.ケヤキモールへ(コンマ判定で出会う人を決定)
1.人と会う場合は「1-10」のようにお願いします。 ? 下1でお願いします。】
2
【>>474
2:寮で1人で過ごす(料理の本を読む、自己学習など)】
特別試験もいよいよ数日と迫った休日。
わたしは午前中を部屋の掃除に費やし、午後は勉強机に備え付けられた椅子に座って外を眺めて過ごしていた。
ここから見える景色はいつ見ても変わらない。
綺麗な校舎と部活棟。あいにく、グラウンドで部活動に励む生徒の姿は校舎が邪魔をして見ることが出来なかった。
「……」
ダメだ。何かしよう。
このままでは気が付いたら夕方、夜なんてこともありえる。
ただ、なにをしたものか……。
【安価です。
学力:97(超優秀)
身体能力:99(超優秀)
直感・洞察力:91(優秀)
協調性:53(普通)
成長性:74(高)
メンタル:86(高)
料理:39(まぁまぁ?)
音楽:22(下手)
所持ポイント:112540
所持している本:料理
1.料理の本を読む
2.その他の本を購入して読む
1.学力アップ 2000ポイント
2.身体能力アップ 2500ポイント
3.直感・洞察力アップ 2000ポイント
4.音楽センスアップ 1500ポイント
それぞれ安価で1~3ポイント上昇します。
2の場合は「2-1」のようにお願いします。
下1でお願いします。】
1
【>>476
1:料理の本を読む】
引き出しの中から入学式当日に購入していた料理に関する本を取り出す。
そういえば序盤の包丁の持ち方講座あたりを読んだきり、その先を読んでいなかった。
ちょうどいい機会だし、今日はこの本を最後まで読み進めることにしよう。1日を過ごすには物足りないページ数だけど、じっくり読み進めていけば夕方頃までは楽しめそうだ。
【コンマ判定
成長性:74(高) 補正あり
1・2・3:料理1アップ
4・5・6:料理2アップ
7・8・9・0:料理3アップ
2桁ゾロ目:料理5アップ
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>478
0:料理3アップ
料理39 → 42 】
5月29日、月曜日の夜。
わたしはクラスメイトから連絡を貰ってケヤキモール内のカラオケまで来ていた。
誘い文句は内密に話をしたいとのこと。
言及はされていなかったけど、おそらく歌うことはないんだと思う。暇を見つけては雨宮さんから音楽のことは教わっていても、まだまだ歌唱力は平均を大きく下回っている自覚はある。
時刻は21時を回ったところ。明日も学校ということもあって、寮からカラオケまで人とすれ違う機会も少なかった。ただ、23時まで営業しているカラオケは全ての部屋が満室だった。
わたしは事前にチャットで聞いていた部屋番号を店員さんに話すと、数秒後にはどうぞと案内される。
「……」
どうか、変なことにはなりませんように。
心の中でそうやって気休め程度のお祈りをしてから扉を数回ノックする。
「どうぞ」とは聞こえてこない。というか、聞こえてきたら困る。防音がしっかりされていないと、以前ここを利用したときのわたしのお粗末な歌声が衆人に聞かれていることとなってしまう。
扉はすぐ、向こうの方から開かれた。
「ごめんね、わざわざ」
「ううん、いいの。でも珍しいね」
「そうかな? あ、何か頼みたいものがあったら注文して。そこのタブレットから出来るから。僕はさっき注文したから大丈夫」
そう言って、望月くんが腰を下ろしたソファの向かいにわたしも座る。
彼は数十分は前に来ていたらしく、アイスコーヒーがもう氷の溶け水でかなり薄まっていた。次の飲み物も頼んでいたようなので、わたしはアイスティーを注文してタブレットを閉じる。
ここは基本的にドリンクバー形式を取っているものの、サービス料を支払えば持ってきて貰うことも出来るらしい。1杯につき100プライベートポイントというのは、少々高額な気もする。
「僕の話はすぐに済む。せっかくだから少し歌っていってもいいけど?」
「明日も学校だから、早めに本題に入ってくれると嬉しいかな」
そこだけは譲れない、と学校を免罪符にして本題に入ることを促す。
彼は肩をすくめるような仕草をした後、薄まったコーヒー風味の水をストローで飲み干してから話し始める。
「じゃあ率直に聞くことにする。Cクラスの『王様』を教えて欲しい」
望月くんが特別試験そのものにあまり興味がないだろうな、とは思っていた。しかしそんな折、彼の属する最後の干支『いのしし組』の通達を明日に控えたこのタイミングで呼ばれたということから、もしやと予想はしていた。
わたしとしては教えることにそれほど抵抗がある訳ではない。もしかしたらCクラスの『王様』3人の共通点を見つけ出し、他クラスの『王様』を見つけてくれるかもしれない。
ただ、それは他クラスにCクラスの『王様』がバレるかもしれないという危険も同時に発生する。もし望月くんが他クラスに100万プライベートポイントで買収されていた場合など、可能性はわずかに存在している。
「ええっと、素直に聞いてくれたから、わたしも素直に訊かせて。信用してもいいの?」
「そこは理由を尋ねるところじゃないかな。ただ、その質問に答えるとすれば、信用してくれていい。僕の『いのしし組』の勝利は約束しよう」
「Cクラスの『王様』がいるグループについては勝利の約束は出来ない訳だね」
「そうなるね。ただ、条件次第では確実にCクラスを1つ昇格させることは出来る」
昇格。
それはつまり、CクラスからBクラスへと、Aクラスに近付くことを指す。
5月1日の時点でクラスポイントは拮抗していた。
Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント
日々の生活態度でクラスポイントが減算されることを知らされた今、両クラスで大きく減算されている可能性はほとんど無い。
差が縮まる、差を引き離すという意味では、先の中間テストの結果が大きく反映される。おそらく全教科の平均点でクラスポイントが上昇されると予想でき、わたしたちCクラスの平均は91点のため、800クラスポイントを越すことになる。
ただ5月はまだ終わっていない。
今日、明日、明後日のうちに生活態度が悪ければマイナスとなるし、何よりも特別試験の結果次第では大きくクラスポイントを下げることになる。結果次第ではDクラスまで陥落とはいかないまでも、現在のAクラスやBクラスと大きく引き離される可能性は十分にある。
そんな中で、彼は条件次第で確実にBクラスまで上げる算段があると言う。
「えっと、まずはその方法から教えて貰える?」
「簡単だよ。投票期日前の投票で誤った『王様』を選択させる。Bクラスの人に投票させれば100ポイントずつ離れていくだろ?」
さらりと言ったけど、結果4の難易度は高い。
結果4:役職『王様』以外の者が投票期日よりも前に解答を行い不正解だった場合、役職『王様』には50万プライベートポイントを支給し、解答者が所属するクラスのクラスポイント“50”が役職『王様』が所属するクラスのクラスポイントへ移動する。
投票期日は明後日。投票期日前の投票は明日の19時までとなっている。それまでに他クラスへ偽の『王様』情報を流し、信じ込ませて投票させる。
どう考えても今からでは間に合う気がしない。
「半日もあれば投票させることは容易い。君には無理でも、僕なら出来る。乗る気になってくれたかな?」
「……うん、そこまでは分かった。あとは条件だね」
実際、どんな手段を用いて彼が結果4に導くかは教えて貰えそうにない。今のところ半信半疑といった状況だけど、クラスメイトとして信用したいという気持ちと、確信している目を見てしまっては信用する方へ意識が傾いてしまう。
彼は運ばれてきたアイスコーヒーを飲んでから、ふぅと意を決したように深呼吸をしてから話し始める。
「雨宮さんと遊びにいけるように手を回して欲しい」
「………………………んん?」
雨宮さん?
雨宮綾香さんは、Cクラスのクラスメイトで、今は活動を停止している女優『白石詩波』その人で、今回の特別試験では望月くんと同じ『いのしし組』でもある。
と、そこまで振り返って、1つもしやと頭の隅に仮定が生まれる。
目の前の望月くんは、結構ドラマや映画といった創作物が好きらしい。5月1日に彼と2人きりの教室で猿芝居をしたのは記憶に新しいし、たまに聞こえてくる望月くんが他の男の子と話している様子ではドラマや映画に関する話が多かったと思う。
つまり彼は、雨宮さんが『白石詩波』だと気が付いて─────。
「素人の目は誤魔化せても、僕の目は誤魔化せない」
そんなドラマの中だけみたいな台詞。
なんの恥ずかし気もなく発する。
「もちろん僕と彼女2人きりという訳じゃない。それは彼女に対して恐れ多い。僕の大切な人と、春宮さんも同行して貰えればそれでいい」
これまで望月くんに対しては、実力を秘めている超実力者というイメージがあったけれど、そんなイメージは今晩で瓦解した。
まぁ確かに、売れっ子女優であり売れっ子アイドルと休日を過ごしてみたいという気持ちは分からなくもないけどね。
この事について話を詰める前に、一点だけ確認しておかなければならない。わたしがうっかり口を滑らせたという事にはならないように。
「一応だけど、確認させて貰えるかな。雨宮さんのことは─────」
「白石詩波だろう? 入学式の日から気付いてるよ」
彼がもう知っていることについては確認は取れた。
ただ厄介なことに、彼が今の時点で疑惑の段階だった場合、わたしが認めてしまった時点でそれは確信に変わってしまう。
何にしても、雨宮さんの居ない場所でこの交換条件を飲むのは憚られる。
「ごめん、その条件は飲めない」
わたし1人で解決できることや、敢えて区別するなら一般人とのデートのセッティングをする協力であればわたしも即決できた。ただ雨宮さんの場合はそうもいかず、これ以上はボロが出てしまいそうになるため話を切り上げることにする。
「わかった。君の心境、立場も理解できる。気が早かったお詫びと言ってはなんだけど、今回の試験では『いのしし組』を勝利させた上で、CクラスをBクラスに上げる。その条件で、改めて再考して欲しい」
「うん、それなら─────」
って、つい話に流されてしまっていたけど、そもそもCクラスの『王様』3人のことを話すとまでは約束していない。かなり教える方に偏ってはいるけどね?
それに、本当にBクラスに上がることが出来れば、現在のCクラス全体の士気が高まる。より一層、テスト対策などに力を入れてくれるかもしれない。
危惧するべきは望月くんがBクラスやDクラスに『王様』の情報をリークして当てられてしまうケース……だけど、もし本当に雨宮さんとのお出掛けを望んでいるのであれば一生の亀裂を生み出しかねない。彼が裏切った場合のデメリットはとても大きい。
つまり信用する、というのが正しい選択か……?
【安価です
1.正しい『王様』を教える(協力関係)
2.誤った『王様』を教える(敵対関係)
3.教えない(やや敵対関係)
下1でお願いします。】
1
【>>486
1:正しい『王様』を教える】
昔の自分らしく、自分の損益だけで物事を考える。
どうするのが一番わたし自身の利益になるのか。
どうなるのが一番わたし自身の損失になるのか。
散らかっていた思考が消え、結論だけが残る。
「わかった。その条件でいい。ただし雨宮さんの保証は出来ないからね。その場合は、また別途わたしに出来ることを考えてくれると嬉しいかな」
「もちろんそのつもりだよ」
短く答える望月くん。
雨宮さんを誘えなかったとき、わたしに振られる対価はどの程度のものか。考えられるものとして、毎月数万のプライベートポイントの要求、生徒会役員という立場を利用した悪事、今後の特別試験で無条件にわたしが彼に協力する、など。そのあたりか
悪事の片棒を担ぐのだけはしっかり拒否しないといけないとして、これで話はまとまった。
「それじゃあ改めて。まず、春宮さんが僕にCクラスの『王様』を教える。そして僕は、僕の『いのしし組』を勝たせた上で、結果的にCクラスをBクラスに上げる。もしその2つが達成された場合、春宮さんが雨宮さんを誘う。これでいいかな?」
「うん、それでいいよ。ただし、わたしに出来るのは普通に誘うまで。強制は出来ないし、強制もさせない」
おそらくわたしは数日後、雨宮さんにこの場で起こったことを素直に話すことになる。
第一声と表情で判断しよう。
少しでも嫌そうな素振りを見せれば、やんわりと誘えなかった旨を望月くんに伝えることとする。その場合、わたしが振れ幅の想像がつかない損失を被ることになるけど、結果的に良かったとは思えるはず。
「取引成立だ。早速だけど教えて貰おうかな。Cクラスの『王様』を」
ぐいっと身を寄せてくる望月くん。
わたしは─────。
【コンマ判定
直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
1・2・3・5・7・9・0:「待って」
4・8:「1人目は─────」
下1のコンマ1桁でお願いします。
2桁がゾロ目の場合は「待って」になります。
続きは今晩にします。】
今度こそ
【>>488
0:「待って」
待って、とは言いませんでした。
申し訳ありません。】
わたしは、テーブルの下から携帯を取り出して画面の方を望月くんに見せつける。
「教える前に、まずはこの事を話さないとだよね」
携帯の画面上部には『望月弘人』と、下部には『通話を切る』マークが表示されている。
この画面は他でもない、電話の画面。
5分ほど前から掛け続けているものの、テーブルに裏返しにして置かれた彼の携帯は着信音を鳴らすことも、バイブレーションで着信を報せることもしていない。
この事が指し示すのは、彼の携帯の充電が切れているか、通話中のどちらか。更に、このカラオケでは携帯の充電器の貸し出しを無料で行っていることから、自ずと答えは一つになる。
「見せなくていい。わたしが見るから」
彼はテーブルに置かれた携帯に手を伸ばそうとするが、その前にわたしが静止する。
彼と繋がっている人物を探る手間が省けた。このままわたしが彼の携帯を手に取り、画面を見れば誰と通話中であるかはその場の証拠として押さえられる。
「詰めが甘いけど、及第点だ」
携帯を手に取った瞬間、彼はそう口にした。
決定的な証拠である携帯の画面を見る、あるいはその言葉の真意を頭で理解する前に─────。
「入ってきていいよ」
彼の一言の後、間も無くしてカラオケルームの部屋が第三者によって開かれる。
「どうやら機転も効くご様子。これは益々、わたくし共と一緒に来ていただく必要性が高まったのでは?」
そう問いかける第三者。
一歩、そして二歩と踏み出して部屋に入ると、扉を閉めた上で彼女は長いスカートの裾を摘んで恭しく挨拶をして見せる。
「こんばんは、春宮さま。兄が失礼をしたようで、妹としてまず謝罪を。大変失礼いたしました。お戯れが過ぎたようですね」
情報の多さに、わたしの頭は一瞬だけ澱む。
兄? 妹? そして、この人は─────。
「……えっと、兄弟なの? 東雲さんと?」
「生憎、血は繋がっていないけどね」
望月くんが頷いて肯定したことで、段々と理解も及んでいく。
つまり、1年Cクラスの望月弘人は、1年Aクラスの東雲雪菜と血の繋がっていない兄妹ということ。
これはこの学校に入って、それこそ雨宮さんの正体を知ったことの次に衝撃を受けた。
「兄様。ここはやはり、他の者から携帯を借り受けるべきだったのでは? こうなることは予想できていたでしょうに」
「それはそれでつまらないだろう?」
望月くんの隣に腰をかけた東雲さんは兄妹で距離の近い話をし始める。
話の内容は理解できる。
わたしが電話を掛けることを予め察して、他の人から携帯を借りて東雲さんと通話中にしておく。その後、わたしは先の流れに沿って望月くんの携帯を取り上げたものの、通話の履歴は一切見つからなかった─────なんてオチの未来もあり得たということらしい。
詰めが甘いと言われたことにも納得がいく。
「というわけで、こんなかんじだ。これから先、妹共々よろしく頼むよ。で、Cクラスの『王様』の件だけど。聞かせて貰えるかな?」
1人はクラスメイトである味方。
もう1人はAクラスの、いわば敵の存在。
しかも同じ『ねずみ組』なのだから、これから話すCクラスの『王様』を語れば、それは彼女が期日前投票が出来てしまう。
やや気が乗らないけれど、どちらにせよ目の前の兄妹は両クラスの『王様』を共有していたと思う。
全12名の『王様』の内、半数の6名が分かってしまえば、『王様』として選ばれる法則も想像がつくはず。
「今さら断ることも出来ないしね。話すよ」
と言ったものの、話が違うと断ることは出来たと思う。
素直に話そうと思ったのは、やはり彼らが兄妹であると知れた情報の方が大きかった。今後の特別試験において、望月くん経由で絶対的なAクラスとの共闘が出来るかもしれない。
「まずは1人目だけど─────」
わたしは正確なCクラスの『王様』を語る。
偽の『王様』をでっち上げるという選択肢もあったけど、その場合に敵が多くなり過ぎる。それだけは避けなければならないと理解が及ぶまで一瞬だった。
【コンマ判定
奇数:その後の夜
偶数:翌朝
ゾロ目の場合は再安価の権利を獲得し、今回の安価は下1桁に準じます。
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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【>>493
8:翌日】
昨晩の衝撃は今でも鮮明に思い出せる。
いやぁ……そっかぁ。居るところには居るもんだね。
そういった第三者の視点でしか語れないところがもどかしいけれど、それ以上もそれ以下でもなく、彼らは血の繋がっていない兄妹という事実だけが確かにある。
ここでふと考えてみると、この世には兄妹同然に育ってきたから義理の兄妹なんてものから、兄妹の契りを盃で交わすこともあると言う。
最も、後者は兄妹というより、強面の叔父様が兄弟の盃を交わすイメージの方が強いけれど。
結局、気になるのは彼らの出自について。
5月1日の朝にお兄さんの方から余計な詮索はするなと釘刺されていても、気になってしまう。あの2人はどういった経緯で兄妹に至ったのか。
と、そんなことを考えながら校門を通り過ぎたところで、目の前に聳え立つ巨大な校舎の目立つところに設置されている時計が目に入る。
「……あ」
短針が8を、長針は12を指している。
5月30日の朝8時。
1年生の間でのみ実施されている特別試験の通達最終日。干支の最後、『いのしし組』の発表当日。
我らがCクラスからは雨宮さんと、話題に尽きない望月くんが該当する。
今ごろ通達のメールが届いた頃だろうか。
いずれにしても、わたしが他グループへ関与をしない(出来ない)と心に決めたことは記憶に新しい。
立ち止まって考えていても仕方がない。このまま教室へ─────その時だった。
鞄を伝って手が振動を感知する。歩いていたら気付かなかった程度の振動。他でもない、携帯がメッセージを報せてくれている。
このタイミングであること、周囲に生徒の影が少ないことから、わたしは少し逸れた場所で携帯を取り出して通知を確認する。
送り主は学校からだった。
『いのしし組の試験が終了しました。
いのしし組の方は以後試験へ参加する必要はありません。
他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください。
なお、6時間目の学級活動の時間は教室で自習となります。』
目を疑う内容だった。
『いのしし組』の特別試験は、通達より1分も経たずに強制的に幕を閉じた。
終わらせたのは、他でもない昨晩に勝利宣言をした望月くんを除いて他に居ないと思う。
◇◇◇
教室に到着すると、望月くんは自席で文庫本のページを捲っていた。
他に生徒の姿は見られず、今日も彼は一番乗りのようだ。
「おはよう。望月くん」
「おはよう、春宮さん。昨晩はありがとう。おかげで余計なリスクを取らずに試験を終えることができた」
やっぱり彼だったらしい。
通達のタイミングとほぼ同時に期日前投票を終わらせてしまうなんて……。一緒の組になった人たちは、たった一度の会話の機会も得られずに試験が終了してしまったのだから不完全燃焼だと思う。
……あ、もしかしてリスクってそういうこと?
「君としても、雨宮さんが話さなければならない機会は潰しておきたいだろう? 話すということは、その分だけ彼女の正体がバレることに繋がるからね」
「寛大なご配慮ありがとう」
ファンとして、なのか。
その殊勝な意気込みは賞賛に値する。
なまじわたしがこの試験をほぼ放棄しているだけに、とても立派なように思えてしまう。
「この試験の結果は決まった。安心していい、僕たちの完全勝利だ」
僕たち。
おそらく東雲さんの居るAクラスも含まれているのだろう。
少なくともわたしたちCクラスが大きくクラスポイントを削がれる、という事象を避けられただけ良しとするべきか。
いや、まだ結果も出ていないから分からないけどね。もしかしたら『王様』の法則を読み違えて大敗北という結果もあり得る。
改めて文庫本へ視線を落とした彼を他所に、わたしは自席に着いた。
◇◇◇
「天音、お前も一枚噛んでるのか?」
6時間目の視聴覚室。
入室してまず第一声が奥の方の席から浴びせられる。
一応まだ休み時間のため議論を行う義務はないけれど、彼を放っておくとややこしいことになるため答えておくことにした。
「わたしは知らないよ」
「……」
訝しげな視線を向けられながらも、わたしはここ2週間近く通い続けている視聴覚室の中でもお決まりになった席に着く。
結局、こうして6時間目を迎えられたのは、わたしたち『ねずみ組』と他5組の合計6組。
残りの組については各授業と授業の間の休み時間に今朝の『いのしし組』同様に通達があった。内容は寸分違わず、試験が終了した報せ。
おそらくAクラスとCクラスの『王様』がそれぞれ所属する組が残ったんだと思う。現に、Cクラスの『王様』が所属する組はまだ試験が終わっていない。
「どうやらわたくし達が最後のようですね」
昨晩ぶりに東雲さんを視認する。
相変わらずの毅然とした表情。多少の誇らしい表情を浮かべていてもおかしくないと思ったけれど、そういうところは流石だと思った。
「東雲。お前がやったのか?」
「さぁ。なんのことでしょう」
涼しい声色で答える東雲さんに、辻堂くんは何を思うのか。
いずれにしても立て続けに発生した期日前投票は、どこかのクラスが集中的に行っていると想像がついているはず。そして試験が終わっていないのは残り6クラスのため、どこかのクラスが手を取り合っていることまで分かっているかもしれない。
◇◇◇
6時間目の開始を告げるチャイムが鳴り響く。
そして6時間目の終了を告げるチャイムもまた、きっちり50分後に鳴り響いた。
本日『ねずみ組』で行われた議論は以前と変わらずトランプゲームを経て、ジェンガへと移行する。ジェンガでは悔しくもわたしが負けて2度目の『一般人』告白をして幕を下ろす。
12日間に渡って行われたゲームでは、無事にCクラスの『王様』を隠し通すことができた。唯一にして一番の難所を乗り越えられ、わたしは内心でホッとする。
「名残惜しくはありますが、これで。また特別試験でご一緒になった時は、よろしくお願い致します」
東雲さんの退室に倣い、続々と視聴覚室を出て行く『ねずみ組』の面々。最後まで窓の外を向き続ける辻堂くんが気になったけれど、今回の試験はこれまでだと思う。
立役者はともかく、AクラスとCクラスの2人勝ち。
クラスポイントもプライベートポイントも大きく加算されて万々歳。そしてわたしには一つミッションが課せられることになる。せっかくなら雨宮さんから良い返事を貰えると良いんだけどね。
【コンマ判定
奇数:夕方(生徒会室)
偶数:夜(自室)
0:夜(外)
ゾロ目:夜(学校)
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>501
5:夕方(生徒会室)】
「天音ちゃんはどう?」
「そうですね……」
無人島にひとつだけ持ち込めるとしたら何を持っていくかという話題で、生徒会室は盛り上がっていた。
サバイバルナイフ、浄水器、釣り竿、マッチ、虫眼鏡と様々なモノが挙がった末に、わたしに振られる。
無人島に持ち込めるとしたら…。
考えたことがあるようで無かった。
服は着て行くモノだから当然として、先に挙がったサバイバルナイフやマッチは必須というレベルで重宝しそう。
……でも、強いて言うなら、やっぱり。
「日焼け止めですかね」
「逆に一周半まわって面白い! そうだよね、日焼け止めは必要だよねー。特に夏だと陽射しが気になるもんね」
乙葉先輩や夏帆先輩といった女性陣が頷く中、男性陣は「そうかぁ?」といった表情。
本当に無人で鏡さえ存在しない島であれば日焼けしても気にならないのかもしれないけど、肌荒れは直接精神を削ってきそう。遠くない未来に自死を選ぶ道も用意されているほどに。
「というか、どうしてこんな話を?」
「……まぁ、なんとなく? 学生なら一回はこういう話をしておかないとね。定番の話題ってヤツだよ」
「そういうものなんですね」
挙動不審な乙葉先輩の動向からは色々読み取れる。
しかし無人島。無人島かぁ。
特別試験で50万円~200万円相当のプライベートポイントを配ろうとしている超特権的なこの学校といえど、流石に無人島は所有していない……よね?
無人島レンタルなんて素敵なビジネスがあるのならいざ知らず。流石に持ち物として保持していることは無いと思う。
「ちなみに乙葉先輩は何を持っていきたいですか? 携帯は無しで。使えませんから」
「それくらい分かるって。私的にはぁ、天音ちゃんかな。食べられる葉っぱとか知ってそうだし、猛暑日でも島とか海を駆け回って食糧探してくれそうだし」
「先輩、わたしのことそんな風に見てたんですね…」
「わ、違う! 違うって! 今のは冗談だから! いや天音ちゃんなら本当に出来そうだけど!」
実際問題、それが出来るかと言われたら……。
【コンマ判定
学力:97(超優秀) 補正あり
身体能力:99(超優秀) 補正あり
1・3・7:超余裕だと思う
2・5・9:余裕だと思う
4・8・0:……なんとか出来ると思う
6:絶対に無理。無人島とか無理ですから。
ゾロ目:超超余裕だと思う(島経験あり)
下1でお願いします。】
ふん
【>>504
3:超余裕だと思う】
うん、出来るとは思っている。
経験こそ無いものの知識だけは充分にあるし、山や海で動き回り続けられる自信もある。現実は思っているほど甘くはないんだろうけどね。
それでもわたしの取り柄を活かせることに違いはない。
ただ、その自信はこの場で高らかに発せるほどではない。ここは無難にこう言っておくことにしよう。
「そんなことないですって」
「またまたぁ」
それから数分間、無人島に関する話題が続くいた。
結局、わたしについては「さすがに天音ちゃんといえど無人島は厳しいかぁ」という評価で落ち着く。思った通り無難なところで話が済んだと思う。
「私としては宇宙の方が良いんだけどさぁ」
さっきまで無人島の話をしていた人が大きく上空の話をし始めたところで、生徒会室の扉がノックされる。
「なに? また部費の相談とか? 追い返して来る」
もはや恒例となった乙葉先輩を誰も止めることはしない。
本当に追い返した末に、ユキ先輩、夏帆先輩が話をきちんと聞きに行くからだった。各部の部長もそのことを知っての上のようなので、今さら気にする必要はない。
「はいはーい」
意気込んで扉を開けた乙葉先輩は、
「……おおっと」
扉の向こうに居た人物を想定していなかったらしく、少し大袈裟に驚いたようにして、その人物を生徒会室へ招き入れる。
「失礼いたします。1年Aクラスの東雲と申します」
入り口で綺麗にお辞儀をして見せた東雲さんは錦山会長、乙葉先輩、と視線を合わせて行く。
このことに一番驚いたのは同じクラスの神宮くんだった。
「どうしたの、東雲さん」
「少々、生徒会の皆様にご相談がありまして。神宮さまはお気になさらず、業務を行なっていて下さい」
「お前、クラスメイトに様付けで呼ばれてんの?」
「いえ、これは……!」
うっちー先輩こと内山先輩が面白そうに茶化している内に、東雲さんは錦山会長の目の前まで迫っていた。
手にはホチキス止めされた数枚の印刷物がある。
「こちらを。企画書になります」
「は、企画書?」
この学校をより良いものにしていくための嘆願書ではなく、企画書。文字やイラストが綺麗に敷き詰められた一見良さそうな資料に見える。
ただ、ここは生徒会室であって会議室ではない。
会長はパラパラと企画書とやらを捲り、
「えーっと。企画書だな、これは。で、なにこれ」
読んでも分からなかったようで、再度尋ねる。
気になったのか乙葉先輩やユキ先輩、内山先輩、新汰先輩がその企画書を覗きに行く。
「簡潔に申しますと、6月2週目の日曜日に特別棟の教室を利用したいのです。担任の教師に確認を取り、五万ポイントで貸していただくことについては承認を得ました。しかし条件として生徒会に許可を取らなければならない、と」
「へー、よく出来てるじゃん。良いんじゃない?」
乙葉先輩を始め、うんうんと頷く先輩方。
そこまでいくと断然と興味が湧いて来る。
「ありがとうございます。参加するのはわたくしを含めて四名。そうですよね、春宮さま」
「え、あぁ、うん。あの件ね」
昨晩話した望月くんとの件。
彼が言っていた同席者とは、薄々予感はしていたけど東雲さんのことだったらしい。確かに大切な人と言っていたからその通りだ。
それにしても教室を借りて何をするつもりなのだろう。わたしは会長席に近付き、覗き見る。
「わたくし共は教室をお借りして『夏祭り』なるものをやってみたく考えております。もちろん安全には最大限の注意を払うつもりですし、花火は致しません。小さな小さな文化祭とお考えいただければ」
言っていた通り、企画書には『夏祭り』の出店によくあるようなお店の名前が並んでいる。
焼きそば、たこ焼き、わたがし、スーパーボールすくい、射的、その他。
とても興味を惹かれるような内容だけど……これを雨宮さんとしたいと言うの?
「そうだな。断るつもりもない。ただし、天音以外に生徒会から一名を同席させろ。それなら俺たちから言うことは何もない」
「えー、いいじゃん。せっかくならみんなで参加しようよ! 暇な人は自由参加ってことでさー」
「申し訳ありませんが、人数が増えすぎると少々不都合があるのです。ご迷惑をおかけしますが、ご理解いただければ幸いです。ただ、一名であれば許容範囲内です」
「だそうだ。残念だったな、乙葉」
「やりたいやりたい! 参加したい!」
「春宮さま、どなたか一名を選んでいただけますか。同席させるということは、あの事を知るということ。充分にご考慮した上で、お決めいただければ」
今さらまだ雨宮さんのことを誘えていないとは言い出し辛いものの、ひとまずこの場は誰かを選ぶことにしよう。
【安価です。
まだ全然交流が無い人は省きます。
それぞれの白石詩波(雨宮春香)についてのイメージです。
1.錦山暁人「白石詩波? あぁ、乙葉が好きなアイドルだっけ? あ、女優? あんまり興味ねぇな」
2.花菱乙葉「え、ウタちゃんじゃん。すっご。私、めっちゃファンだよ! 同じ学校だったなんて!」
3.如月深雪「ん、あれ、白石詩波? 同じ学校だったのか? そうかそうか、なんて言うか、こういうこともあるもんなんだな」
3.四条夏帆「えぇ!? あの白石詩波っ? すご……なんていうか、恐れ多いですね……」
4.神宮紫苑「白石詩波……? あの? 同じ学年だったなんて驚きだな…」
下1でお願いします。
白石詩波が参加できるかどうかはコンマ判定を今後行います。高確率で参加にするつもりではいます。】
3 四条
【長く出来ず申し訳ありませんでした。
再開します。】
【>>509
3:四条夏帆
3番2つありましたね。申し訳ありません。】
すぐに結論は出る。
「夏帆先輩、お願いできますか?」
「あ、私ですか? はい、もちろん構いませんよ」
「ま、妥当なとこだな」
錦山会長が汲んでくれた通り、夏帆先輩には何と言っても調理の腕がある。もしかしたら絶品の一品を作ってくれるかもしれないという淡い期待と、万が一の防災に備えることが出来そうなところが他の人より優れていた。
表立って言えない事として、雨宮さんの秘密を守ってくれそうな人として筆頭に挙げられるのもポイント高い。
「えー、ずーるーいー、わたしもわたしもー」
「今回の企画のために購入した製品はしばらく保管予定です。もしご希望がございましたら無料でお貸ししますので、そのときはぜひ生徒会の皆様で」
「ぁ、そう? ふふふ、なら今回はいいかなー」
乙葉先輩以外の生徒会役員全員が「おぉ」と感嘆を漏らす。東雲さんは早くも乙葉先輩の扱い方を理解したようだった。
「それでは四条様、当日はよろしくお願い致します。もちろんタダでとは言いません。ここは言い値で1日を譲ってください─────と言いたいところですが、恥を承知で限度額について先にお話させてください」
「いえ、いいですいいです。私は居るだけですから」
「そう仰らずに。来たる日に備え、プライベートポイントを少しでも多く持っておくことは決して無駄ではないでしょう。佐倉様はどう思われますか?」
「ん、俺か?」
東雲さんが指名したのは2年生の佐倉新汰先輩。
ここでどうして新汰先輩が? という疑問は一瞬で自己解決に至る。
プライベートポイントの使い道は、わたしの知らない常軌を逸したカタチで多岐に渡ると考えられる。
2000万ポイントでクラス移動が良い例。
試してはいないけれど、もしかしたら筆記試験の点数さえもプライベートポイントで買うことが出来てしまうかもしれないし、1年生と2年生の教室のフロアを交換なんてことも出来てしまうかもしれない。
夏帆先輩のクラス移動に用いられたポイントの出どころは検討もつかない。しかし今、確実に言えることとして、新汰先輩のクラスは潤沢なプライベートポイントの保有はしていない。
つまり偶然にも舞い降りたプライベートポイントの入手機会は願ってもない絶好の機会。
下級生に心配されると言う恥さえ呑み込んでしまえば断る理由はひとつも見つからなかった。
「ひとつだけ確認させてくれ。どうして俺なんだ?」
「二年生は佐倉様と化野様の両局に分かれて、今もなお牽制し合っていると風の噂で耳にしました。それならば少しでも軍資金が多い方が良いのでは、と考えた次第です。余計なお世話であれば申し訳ありません」
「……なるほど。それは正しいな。悔しいが正しい」
どうやら東雲さんは夏帆先輩のクラス移動によりポイントが枯渇していることは知らない様子。まぁ、本当に出どころが不明のため、実際枯渇しているのかは分からないけれど。
「気持ちはありがたいが、下級生に心配される程じゃない。夏帆がいいと言うなら受け取るつもりはない」
「承知いたしました。元より無くなる予定のポイントですので、もし当日までにお気持ちが変わるようでしたらご遠慮なくお声掛けください」
実際、新汰先輩にポイントが必要だったかどうかは表情から読み取ることは出来ない。内心を窺わせないところは流石だと思った。
それから数言だけ錦山会長と言葉を交わした東雲さんは生徒会室を後にする。最後の最後で視線が合い、「あの件はお願いしますね」と目で訴えられる。
約束は可能な限り守るつもり。ただし、本当に今回の特別試験で望月くんの属する『いのしし組』の勝利、そして結果的にCクラスがBクラスに上がることが出来れば、の話だけれど。
◇◇◇
6月1日の朝6時前。
わたしはいつもよりほんの少しだけ早く起床する。
覚醒しきっていない頭が真っ先に命令したことは、学生証端末を手に取って起動することだった。
氏名、顔写真、学籍番号が表示されていく中、一際大きく目立つように表示される保有ポイント。昨晩と比べてどのくらい増えているかでおおよその特別試験の結果に見当がつく。
『161540ポイント』
増えたのは69000ポイント。
1ポイントにつき1円の価値があるため、一介の高校生へのお小遣いとしては充分だとしても。
先月と比べて2000ポイントほど減っているのはやっぱり特別試験による影響が大きいんだと思う。中間テストで平均91点という好成績を収めても尚、結果としてわたしたちは先月より20クラスポイントを失った。
ここでようやくわたしはこの学校における特別試験の重要性について理解する。ただ単に勉強が出来る、運動が出来るだけではダメなのだと。
はたして次の試験では何が求められるのか。
それさえ予めに分かっていればクラスで結束してその能力の底上げを図れるものだけど、それは今の段階では知り得ないこと。
幸い、生徒会では特別試験の監督も行うようなので、他学年や全学年で行われる試験を知れるのは大きい。数回かこなしていく内に法則性、あるいはわたしが2年生へ進級したときに有効活用できるかもしれない。
「よーっし」
気持ちを切り替える。
ややマイナスイメージだったマイナス20ポイントの現実を反転させて、20ポイントで済んで良かったと。Cクラスのボロ負けで500クラスポイントを切る可能性だってあり得たかもしれない。
実のところは望月くんと東雲さんにもう少しだけ便宜を図って貰いたいところだったけど、その分の対価を考えるとこの結果は重畳と言える。
「上出来、上出来っ」と気持ちを振り切って前向きに朝の支度を行う。部屋を出るには少し早すぎる時間だけど、朝のお散歩をするでも教室で自習するでも時間の使い道はいくらでもある。
◇◇◇
午前8時に学校からメールが届く。
まだ誰も登校していない教室の隅の方、自席でそのメールを開く。
題名は『特別試験 結果』。
本文には淡白にそれぞれの組の結果が並んでいる。
????-
子(鼠):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
丑(牛):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
寅(虎):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
卯(兎):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
辰(竜):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
巳(蛇):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
午(馬):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
未(羊):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
申(猿):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
酉(鳥):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
戌(犬):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
亥(猪):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
????-
これはまた、かなり結果が二分化されたと言える。
結果1~4まであったゴールの内、実現したのは半数の2つ。結果1と結果4を導き出した組は無かった。
投票日:5月31日
結果1:投票日に全員の解答先が『王様』であった場合
結果2:投票日に誰か1人でも誤った解答をした場合
結果3:投票日前に『王様』が所属していないクラスの『一般人』が『王様』を解答して正解した場合
結果4:投票日前に『王様』が所属していないクラスの『一般人』が『王様』を解答して誤っていた場合
端的にまとめるとこんなルールだった。
結果2もしくは3のどちらかで締め括られるのは分かりやすくて良い。
『いのしし組』は望月くんが言い当てて、それ以外の結果3となっている5組については東雲さんの手引きでAクラスが言い当てたと考えられる。そして、それ以外の組は無事に投票日を迎えて正解できなかった。ただそれだけのこと。
そして結果2と3には莫大な報酬も待ち構えている。
結果2:『王様』は200万プライベートポイントを獲得し、誤った人が所属するのクラスから“30”クラスポイントを貰える(クラスポイント移動の重複は無し)
結果3:解答者は50万プライベートポイントを獲得し、『王様』が所属するクラスから“50”クラスポイントを貰える
プライベートポイントは言わずもがな。特に結果2は200万円分のポイントが一括で手に入ることになる。結果3の50万プライベートポイントでも大層な額。
しかし今後のクラスの発展を考えるなら、気にするべきはクラスポイントの移動について。
クラスポイントとは、毎月1日にそのクラスに所属する全員のプライベートポイントに直結する。50クラスポイントはプライベートポイント換算で5000ポイント、1クラス40人のためそれだけで20万プライベートポイントとなる。減らさなければ継続して毎月貰えるため、単純計算で10ヶ月失わなければ200万プライベートポイントまで届く。
特に結果2のクラスポイントの移動についても気にしなければならないところだけれど、すべては後の祭り。今さら気にしても仕方がない。
今回の特別試験を経て、お題目であった『シンキング能力』を培うことが出来たのかは怪しいところ。『王様』の法則性を導き出した望月くんと東雲さんが一番よくシンキングしていたかもしれない。
◇◇◇
「それではこれより、本日時点の各クラスのポイントを発表します。こちらを」
どちらかと言えば「ずーん」とした擬音が似合うマイナス思考だったクラスメイトは電子黒板へ注目する。
伊藤先生は避けるように教壇を降りて、リモコンを数回操作すると各クラスのクラスポイントが発表される。
Aクラス:1391ポイント
Bクラス:540ポイント (Cクラスへ降格)
Cクラス:690ポイント (Bクラスへ昇格)
Dクラス:0ポイント (マイナス185ポイント
まず第一に望月くんの公約通り、CクラスはBクラスへの昇格を果たした。よかったよかった。
で、そんなことよりも。
「なんだよ、1300って……」
「1300っていうか、1400だし……。倍だよね、ウチらの」
Bクラスに上がれたことを喜ぶ気配は無い。
誰もがわたし達Bクラスと2倍の差をつけているAクラスへ注目している。今朝の結果通達メールの内容からは汲み取れなかった明確な勝敗の結果がそこには如実に表されている。
誰がどう見てもAクラスが大勝したのは明らかだった。
安堵できる点として、高校生活が始まってまだ2ヶ月目であること。今後の特別試験やテストの点数次第では逆転の余地は幾らでもある。
悲しむべき、危惧すべきこととして、圧倒的な差に向上心が失われてしまうこと。2倍の差はとてつもなく大きい。単純にAクラスは毎月14万円分のポイントを得ているというのも羨ましいと考えてしまう。
「本日より皆さんはBクラスになります。今後も頑張ってください。それではホームルームを終わります」
労いの言葉も無しに颯爽と立ち去っていく伊藤先生。
もしかしたら今後のクラスの方針を立てるための早めに退いてくれたのかもしれない。考えすぎかな?
クラスのリーダー格である一色くんが率先して教壇に立つと、ざっとクラスを見渡して発言を始める。
「みんな、ひとまずBクラスに上がれたことを喜ぶべきだ。確かにAクラスとはとても大きく引き離されてしまった。だが、まだ3ヶ月目だ。挽回─────いや、巻き返す機会は幾らでもあるだろう」
「だ、だよな? そもそもDから2ヶ月でBまで上がった訳だし……」
「そうだよね! ウチら頑張ったもん!」
一色くんの言葉に呼応するようにクラスの至るところから声が挙がる。どれも前向きな思考によるもの。非常に良い傾向だった。
しかしそんな中でひとつ。
「とは言うけどさぁ、その確証はあるの? もしかしたら特別試験なんてのはアレ1回きりだったかもしれないよね」
そう発言したのは秋山さん。
あまり率先して発言するようなタイプではなかったけど、今回ばかりは何か思うところがあったのかもしれない。
「……確かに、特別な試験は1回きりという線も捨てきれない。Aクラスがテストで点数を落とすということも考えにくい。そうなればポイント差を縮める手段は普段の素行のみ……ということになるね」
既に次の試験に向けて生徒会は動き出していることをわたしだけが知っている。
次はもっと頑張ろう! と声高らかに言いたいところだけれど、それは同時に生徒会役員という肩書きが許さない。うっかりでも口を滑らせれば生徒会を退くだけでは済まないかもしれない。
わたしの方を何人かがチラチラと見てきているだけに心苦しい。
「今は考えても仕方がない。僕たちは頑張った。それで納得するべきだ。どうかな、本来なら中間テスト終わりにやりたかったけど特別試験で延期になっていたお疲れ様会を週末に開くっていうのは」
「おぉ、いいなっ」
「さんせーっ!」
一色くんの言葉はどんよりとしていたBクラスに良く働いた。
改めて、今は喜ぶべき。先延ばしになっていたお疲れ様会を開くには絶好の機会だと思う。
わたしも都合が合えばぜひ参加したいと思う。
【コンマ判定
奇数:イベント
偶数:夜(雨宮綾香と約束の件について)
ゾロ目:「春宮天音はいるか?」
下1でお願いします。】
あ
【>>522
2:夜(雨宮綾香と約束の件について)】
6月1日の夜、雨宮さんを部屋に招き入れる。
例の件は置いておいて、中間テスト対策から一ヶ月足らずでわたしと雨宮さんの距離はかなり縮まった。今ではこうして週に数回、一緒に夜ご飯を食べる機会も自然と儲けられるほどに。
「あれ、さっき帰ってきたかんじ?」
「ちょっと生徒会の仕事がね。ほら、月初だし」
「へぇー、大変ね。作るの代わろうか?」
「ううん、いいの。また先輩に教えて貰った料理を試したいから」
本当につい3分ほど前にわたし自身も帰ってきたこともあって着替える暇も無かった。
わたしの料理スキルアップに向けて付き合って貰っているため、空腹のままお待たせする訳にはいかない。
すぐに部屋着に着替えたわたしは夏帆先輩から戴いたエプロンに袖を通して台所に立つ。雨宮さんからの視線が少し気になるけど、調理を開始しよう。
「にしてもさぁ、『いのしし組』はなんか一瞬で終わっちゃったよ。私としては喋る機会が全く無くて助かったんだけどね?」
「あぁ、特別試験のアレね」
特別試験12日目の『いのしし組』の通達があった日。
同じく『いのしし組』の望月くんが通達の時刻に合わせて期日前投票を行った結果、誰が『王様』かを話し合う機会すら貰えずに試験が終了したあの件。
思っていた通り、雨宮さんとしては助かっていたらしい。発言をすれば注目されること間違いなし。眼鏡を掛けていても有名人の風貌は隠し切れる訳ではない。
「ね、春宮さんはそれについて何か知らない? というかCクラスにも『王様』が何人か居たんでしょう? 何百万ってプライベートポイントを貰えて憎たらしいとは言わないけどさ、羨ましいって気持ちはあるよね」
夕食後にしっかりと話そうと思っていたけど、意外なことに結構早い段階でそれに触れることになった。
ここで変に誤魔化しても悪印象なだけか……。
【安価です。
1.素直に特別試験であったこと全てを話す
2.事情は話さず、6月中旬の休日を空けてもらうように話す
3.一旦、別の話題に切り替える
下1でお願いします。】
1
【>>525
1:素直に特別試験であったこと全てを話す】
調理が煮込みの段階に入ったところで雨宮さんが寛ぐ居間へ紅茶の入ったマグカップを持って移動する。
先ほどまでバラエティ番組の音が背中の方から聞こえていたけれど、今はCM中らしい。車のCMには興味が無いらしく、持ち込んでいた雑誌を捲っている。
「で、さっきの話の続きだけど」
「うん。聞かせて聞かせて」
話を切り出すと雨宮さんは雑誌を閉じて話を聞く態勢に入ってくれた。
紅茶で一息ついた後で、特別試験の裏で行われていた情報戦擬きのあらましを順を追って説明し始める。
「事態が動き始めたのは11日目の夜。『いのしし組』の通達の前日だね。わたしは望月くんに誘われてケヤキモールのカラオケに行った」
「歌えないのに?」
「そこは関係ないからっ。あそこは監視カメラとか無いからさ、そういう話をするのにちょうど良いみたいだよ」
「そういう話って? 告白されたの?」
「……わざとでしょ」
「ごめんごめん、特別試験の話だよね。その話するって言ってたもんね」
からかってくる雨宮さんは楽しそうにする。
それこそカメラを構えれば良い画になりそう。
ただわたしの私物では携帯のカメラ機能しかない。せっかくならもっと高画質なカメラで記録に残したいところなのに残念。
気を取り直して話を戻す。
「望月くんには特別試験でキーになる『王様』が誰かを見つける算段がついていたみたいでね。手始めにCクラスの『王様』を教えて欲しいって言ってきた」
「で、教えちゃったんだ」
「大きなポイントも動くからね。ここで何十万、何百万ってポイントを手に入れておくのは有効だと思った。普段の生活的にも、今後の試験対策としても」
「……うん、そうだね。ポイントは持っておいて損はないよね。でも、結局大きく勝ったのってAクラスだよね? 望月くんの算段ってのが間違ってたってコト?」
「ううん、そうでは無いみたい。わたしがCクラスの『王様』を教えたのは2人。望月くんと、Aクラスの東雲さん……って言って、わかる?」
「東雲さん? えっと、えっとぉ……あぁ、あの日本人形みたいな綺麗な子? なんか言葉遣いとか綺麗だよね。何回かすれ違ったことはあるよ。よく印象に残ってる」
「そう、その人。それでね、望月くんとその東雲さんが兄妹らしいの」
「兄妹? 兄妹って、あの? へぇー、そっかぁ。確かに言われてみれば似てるような……気もするね、うん」
実際のところは血の繋がっていない兄妹らしいけれど、それはわたしの口から話すべきではない。
ちなみにあの2人は、わたしから見ると似ていない。ただ血の繋がりについて伏せられていれば、きっとわたしも「言われてみれば似てるような」と同じ感想を抱いていたと思う。
「それで望月くんは一つの条件を出して、『いのしし組』では完全勝利を約束してくれた。その他の組については何も取り決めていなかったから、今朝のようなポイント差になったのは当然の結果だね」
「いや、そこ冷静に言うところ? 教えていなければ『いのしし組』も含めてもう少し他クラスとの差が均等になっていたんじゃない?」
「それは……うん。否定は出来ない。ごめん」
確かに『いのしし組』では完全勝利を収められたけれど、結果的にはAクラス以外がクラスポイントを落とす形になった。無論、わたしたち元Cクラスも含めて。
……うん、わたしの所為かもしれない。
あの2人の関係を知って冷静でなかったのは事実。
そして、よく思い返してみれば今回の件はわたしにとってメリットが小さかった。『いのしし組』の完全勝利の代償として、クラスポイントの均衡と雨宮さんの件を引き受けているのだから。
胸の奥にモヤモヤとした感情が滲み出る。
ただ約束は約束。こればかりは可能な限り果たす努力をしよう。
「『いのしし組』の試験についてだけどね。あの日、8時の通達からすぐに試験終了の連絡が来たでしょ? あれって望月くんが即投票したみたいなの」
「あー、そっか。そこに繋がるワケね。それで私たちだけ話し合いの場が無かったと。嬉しいような残念なような。で、当たってたんだ」
「うん。今朝に正解報酬の50万ポイントが支給されている画像が送られてきたよ」
「ふーん、そっか。ま、良かったんじゃない? 負けもせず勝てもせずってかんじだったけど、Bクラスに上がれたワケだし」
「そうだね、そこは喜ぶべきだと思う。今朝、一色くんが言っていたみたいにね。……それでね、望月くんのことなんだけど」
話が一区切りついたと思っていたためか、雨宮さんは「まだあるんだ」と相槌を打ってから、きちんと聞く態勢に戻ってくれた。
「雨宮さんのこと気付いてるっぽいの。というか、確信を持ってるみたいだった」
「─────そっか、うん。それで?」
「ええと、雨宮さんと一緒に遊びたいって」
「ふぅん。遊ぶ、ねぇ」
わたしは雨宮さんの表情で即結するつもりだった。
もし嫌そうな顔をしたら即、望月くんと企画書を持ち込んでくれた東雲さんには悪いけど、この件は断ると。
しかし実際に彼女の表情を見て、わたしは決めかねていた。
それは喜怒哀楽のどれにも属さない表情。人の表情から心理を見抜くことについては人一倍の自信があったけれど改めなければならない。あるいは、女優として活躍する彼女が表情を作ることに慣れているのか。
どちらにせよ、わたしは言葉で尋ねる手段を選ぶ。
「それで、これが企画書……」
「企画?」
東雲さんから預かった企画書を机の上に出すと、雨宮さんはパラパラとめくり始める。
たった数秒で目を通した雨宮さんは、
【コンマ判定
4:なんとも言えない表情をした。(断る)
それ以外・ゾロ目:口元を釣り上げて微笑んだ。(承諾)
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>530
8:口元を釣り上げて微笑んだ。(承諾)】
雨宮さんは、口元を釣り上げて微笑んだ。
「うん、面白そう。私からいいよって伝えればいいの?」
「あ、いいんだ? 一応、断れるよ?」
「ううん、私も夏祭り的なの体験してみたかったからちょうど良い……というか、半年くらい前の雑誌の取材で夏祭りに行ってみたいって答えたことがあってね。多分、それを見てくれたんだと思う。じゃなかったら逆に突拍子もなくて面白い人だって」
どうして6月中旬という微妙なタイミングで夏祭り?という疑問はようやく解消される。
雨宮さん自身がそうしたいと言ったことがあるのならそれが正解なんだと思う。
確かにこの閉鎖された学校では縁日に参加することは出来ない。もしかしたらケヤキモール周辺で屋台を出してくれるかもと期待する程度。ファンとして夢を叶えてあげたいという気持ちが伝わってくる。やや重たいと感じるのはさておき。
「これって私と望月くんの2人きり?」
「ううん、雨宮さんと望月くんと東雲さんと、わたしと2年の生徒会の先輩の5人。特別棟の空き教室で屋台を開くに当たって、生徒会の承認とか諸々でね。信用のできる先輩を呼ぶからそこは安心してもいいよ」
「なら安心ね。ちなみに、これはアレよね。『白石詩波』として参加しろってコトよね」
「そう……だと思う。2人とも結構好きみたいだから」
「うん、なら話が早くて助かるわ。どうせいつまでも隠し通せるなんて思ってもいなかったし、私が『白石詩波』を忘れないための練習にもなるしね」
曰く、今正体がバレるのはダサいらしい。
正体を晒すだけで校内が騒然とすることは容易に想像がつく。そんな中で赤点候補だったというのが雨宮さんとして恥辱で仕方がないみたい。どうせバレるならせめて欠点が無い学生としてバレたいと。
芸能活動休止にもあった通り、現在彼女は勉学に励んでいる。おそらくこのままいけば半年後には学年の中でも前3割には入れると思う。バレるならその辺り以降がベストかもしれない。
「じゃあ、わたしから連絡しておくね」
「おっけー、おねがーい」
手元の携帯で望月くんと東雲さんの両方に例の件で承諾を得られたことを伝える。
すると両方から返事はすぐに返ってきた。
ただ、その返事の方法が歪だった。
「ん、どうしたの? 予定変更?」
「……ううん、そうじゃなくって」
わたしはつい数分前とはガラッと一部が変わった学生証端末を雨宮さんに見せる。
『1160900ポイント』
桁が1つ増えていた。
50万と50万、合わせて100万プライベートポイントがわたしへと振り込まれる。もちろん振り込み元は例の2人。示し合わせたのか、あるいは偶然か。どちらにせよとてつもなく大きな臨時収入となった。もちろん話を聞いてから返すことを前提としている。
「いいじゃん、貰っておきなよ。私を口説いたってコトでさ」
「そういうわけには……」
せめて半々にするとか……いやいや、それでも多すぎる。わたしはただ誘ったに過ぎないのに。
「とりあえず持っておきなよ。そんな大金、なかなか手に入らないでしょ? この学校もまだ分からない部分が多いし、ポイントは持っておいて損はないって」
そのいずれもが正論で、わたしは頷く。
100万かぁ。今日は特別試験の報酬も含めて、大きなポイントが動いた日だと思う。今朝のポイント支給だけでもかなり持て余しそうだったのにこんなに貰ってしまって。何かに使える機会があればいいんだけど…。
とりあえず明日は両名に直接話を聞いてみよう。おそらく有耶無耶に流されるんだろうけど。
ということで、無事に雨宮さんを誘えた。
わたし自身も夏祭り的なものには興味津々のため、この機会はぜひ楽しませていただこう。
【今日はここまでにします。
かなり今更ですが、春宮天音の家族構成について安価で決めます。
1・8:父母、兄、天音の4人(全員存命) 暖かい家庭
2・9:父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭
3・6:血の繋がった家族は知らない。孤児院育ち
4・0:父母、妹、天音の4人(全員存命) 冷たく厳しい家庭
5・7:父母、天音の3人(母故人)冷たく厳しい家庭
ゾロ目:超高等教育特別施設育ち
下1のコンマ1桁(ゾロ目の場合は2桁)でお願いします。】
乙
【>>535
2:父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭】
翌日、1時間目の学級活動の時間では学校開発のアプリを携帯端末へインストールする機会があった。
どのようなアプリなのかはインストールをしてからということなので、各自が教科書代わりのタブレット端末へ映し出されたマニュアルを読みながら作業を進めていく。
インストールが終わると、携帯には『OAA』という名称で新しいアプリが追加されていた。マニュアルやホームページでもこの名は数回見かけている。何かの略だと想定されるが、その全貌は起動してみなければ分からない。
「ここまではよろしいですか。躓いている者は挙手を」
QRコードで読み取った学校ホームページからダウンロードのボタンをタップするだけという簡単な作業に手間取る生徒は居なかった。先生は頷くと、
「それでは『OAA』というアプリを起動して下さい。起動後、学生証端末をカメラで読み取ることでログインが完了します」
『OAA』を起動すると、先生の言った通り自動的に携帯のカメラ機能が立ち上がる。学生証端末をかざし、数秒待つとわたしの顔写真と氏名が現れる。
右下の本人認証というボタンをタップすると、すぐ1学年~3学年までのクラスが表示された画面が現れた。
「皆さんに今インストールして戴いたのは、通称『OAA』と呼ばれるアプリです。正式名称は『Over All Ability』。学生の能力を学校側が客観的に見て数値、アルファベット化したものです。手始めに『1学年』の『Bクラス』を選択して下さい」
『1学年』をタップすると『Aクラス』~『Dクラス』までのプルダウンリストが現れる。さらに『Bクラス』をタップするとクラスメイト40名分の氏名がずらっと並ぶ。
早速、自分の名前をタップしている生徒も周りには居るみたい。わたしも客観的な評価が気になったため、期待と不安を半々に抱えながら『春宮 天音』の名前を選択する。
??-
1-B 春宮 天音(はるみや あまね)
学力 95(A+)
身体能力 93(A)
機転思考力 81(A-)
社会貢献性 86(A)
総合力 89(A)
??-
4項目+4項目の総合点が表示される。
これは……いいのかな。Aの上にSとかあるのなら是非狙いたいところだけど。
「うっわ、春宮さんすっごい。全部Aじゃん」
教室前方の方からそんな一言が発せられる。
その言葉には少し恥ずかしいものがあったけれど、ひとつ「そうか」と気が付くことがあった。
このアプリには1年生~3年生までの全生徒の能力値が登録されている。生徒会の仕事を利用した生徒名簿では氏名と顔写真、所属クラスしか分からなかった。このアプリを使えば誰がどの分野を得意としているかが丸わかりとなる。
そうと決まれば早速─────。
「人の評価を見るのは自由ですが、先に説明を。早く済めば残りの時間は見ていただいて構いませんので、もう少しだけお静かに」
先生の指摘に手先の操作が止まる。
このアプリは今後ずっと携帯に残り続ける。今すぐに確認しなければならないことではない。話を聞きながら目でインプットしていくことも可能だけど、ここは聞くことだけに集中しよう。
「先ほどの学生証端末の読み込みで、携帯にアカウントが紐付けされました。そのため今後はOAAを起動する度に学生証端末をかざす必要はありません」
それはそうでないと困ると言いたいところ。
いちいち学生証端末をかざしてログインというのは数秒で事済んだとしても手間に感じてしまう。
より一層の携帯の紛失には気を付けなければならないけれど、こういった当たり前のように思える技術を組み込んでくれた開発者の方には感謝しかない。
「次に各項目の説明を。こちらをご覧ください」
電子黒板に表示された各項目の説明。
学力~総合力までの内容説明だった。
学力……主に年間を通じて行われる筆記試験での点数から算出される
身体能力……体育の授業での評価、部活動での活躍、特別試験等の評価から算出される
機転思考力……友人の多さ、その立ち位置をはじめとしたコミュニケーション能力や、機転応用が利くかどうかなど、社会への適応力を求められ算出される
社会貢献性……授業態度、遅刻欠席をはじめ、問題行動の有無、生徒会所属による学校への貢献など、様々な要素から算出される
総合力……上記4つの数値から導き出される生徒の能力だが、社会貢献性に関してのみ総合力に与える影響は半減される
※総合力の具体的な求め方(学力+身体能力+機転思考力+社会貢献性×0・5)□350×100で算出(四捨五入)
ここで改めてこの2ヶ月間、精力的に活動をしてきて良かったと思えた。
継続して予習復習を繰り返すことで中間テストでは満点を、授業や生徒会の仕事の一環として運動部と対決を、そして生徒会の仕事を通して他学年との交流の機会も人一倍多かったはず。
学校側はわたしをこの点数、このアルファベットで評価してくれている。それは十分すぎるほどに報われたと感じさせてくれる。
「学年やクラスごとに学力順、身体能力順とソートも出来るため、人によっては嬉しかったり悲しかったりすると思います。評価は1ヶ月に1度行われるため、より一層の皆さんの努力に期待します」
先月と比べて1ポイント下がったとか、1ランク上がったとかが目に見えて分かるというのは画期的。それを甘んじて受け入れるか、それを糧として成長を志すかは生徒に委ねられている。
これは、なかなか厄介でもあり情報収集には適しているアプリが登場したと考えさせられる。
ひとまず先生のお話も終わったようなので気になる生徒を順に見ていく。
真っ先に確認するのは生徒会のメンバー。
特に気になるのは3年Aクラスの花菱乙葉。
あの先輩には窺い知れないところがある。こうして客観的な学校側の評価を通して知れるというのは願ったり叶ったりだった。
このアプリの操作性は快適そのもので、すぐに『花菱乙葉』の名前を見つける。
??-
3-A 花菱 乙葉(はなびし おとは)
学力 ???
身体能力 ???
機転思考力 ???
社会貢献性 ???
総合力 ???
??-
一瞬だけ思考が停止する。
すぐ近くの別の生徒を選択すると、わたし同様に各項目が何点でランクは幾つでといった表示がされる。
乙葉先輩だけがこの謎に包まれた表示。
まだ接敵していない相手のステータスを知れない仕様のゲームじゃないんだから。ここは公平に情報を開示して欲しかった。
「先生。すべてが『?』になっている生徒が居るのですが」
「毎月1万ポイントを支払うことで情報の開示を停止できます。もちろん当人の認証が済まされた携帯からだと確認は出来ます」
……なるほど。
乙葉先輩は1万ポイントを支払って情報を隠した。
その意図は汲み取れないけど、あの人のことだから楽しんでやっていそう。
それに対して2万ポイントを支払うことで見れるようになる、といった機能は存在していないようなのでここは引き下がるしかない。
わたしはその後、生徒会のメンバーを順に見た後、2年生の中で要注意といわれている化野先輩とその周囲の人、最後に1年生の東雲さんを始めとしたライバルとなりそうな人の情報を頭に入れていく。
結果的に情報を隠していた生徒は乙葉先輩だけだった。あの人、毎月「ポイントないない」と言っていたのは、こういうところでポイントを使っていたからか。
「今後はこのアプリを使って色々なことをします。操作に慣れておくと良いと思います。それでは授業を終わります」
先生が授業終了を告げるチャイムと同時に教室を退室する。生徒のほとんどがOAAに釘付けになっていた。もちろんわたしも。
暇を見つけて全員分を覚えておいて損はない。幸い、顔と名前が既に頭に入っているため、あとは評価を紐付けるだけ。それほどの手間ではない。
【安価です。 夜
1.1人で過ごす
2.ケヤキモールへ(コンマエンカウント)
3.人と過ごす
1.雨宮綾香(Bクラス、実は白石詩波という芸能人)
2.望月弘人・東雲雪菜(B・Aクラス、実は義兄妹)
3.生徒会メンバー
4.先生達と
下1でお願いします。
3の場合は「3-1」のようにお願いします。】
1
【>>543
1:1人で過ごす
>>534、>>535で決めた家庭環境についてもう少し深く決めます。
・父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭
1・6:父母は交通事故死、姉は病院で寝たきり(意識不明)
2・7:父母は交通事故死、姉は社会人
3・8:父母はほぼ同時期に病死、姉は病院で療養中(意識あり・記憶あり)
4・9:父母はほぼ同時期に病死、姉は都内大学生
0:父母は交通事故死、姉は病院で療養中(意識あり・記憶なし)
下1のコンマ1桁でお願いします。
ゾロ目ボーナスは無しです。】
あ
【>>545
4:父母はほぼ同時期に病死、姉は都内大学生】
およそ1時間をかけてOAAに登録された全生徒の情報を記憶する。もともと全生徒の顔と名前、所属クラスは把握していたため成績の紐付けは容易だった。
成績の判定は“D-”~“A+”まであるらしく、優秀な生徒が集まると聞くAクラスは”B“以上の判定を持つ生徒が多かった。一方、わたしたち元Dクラスは”C“判定が目立つ。
欲を言ってしまえば、『学力』という項目で一括りにせず教科ごと出してくれれば苦手克服に向けて動き出せたのだけどね。まぁ、それは各クラスで聞き取り調査をしろってことなのかな。
「……」
やることを終えて、部屋の明かりを消す。
時刻は二十三時を回った。
高校生が寝るには遅くもなく早くもない、ちょうどいい時間だと思う。ややジメジメとした空気が気になるけれど、それもあと少しで気にならなくなる。
なかなか慣れないと思っていた備え付けの枕にも愛着が湧き、今宵も深い眠りへと導いてくれる。
レム睡眠とかノンレム睡眠とか……確か、ノンと付いた方が深い眠りだったような……。
◇◇◇
夢を見る。
海岸に佇むわたしと姉の姿。
2人はじっと夕日の沈む水平線を眺めている。
かくいう今のわたしは、海の方から2人を見ていた。俯瞰的な視点で、まるで映画のワンシーンのように第三者として。
砂浜の方に2つの影が見える。子供達を呼んでいる。
……顔は見えない。背格好からして大人、男の人と女の人。お父さんとお母さんなのかな。顔くらい見せてくれてもいいのに。
子供達は海、あるいは空に向かって何かを叫んだ後で大人の方に駆け寄っていく。何かに引っかかったのか子供のわたしが躓く。そして起き上がっては涙を流している。
自分のことながら恥ずかしい。何もない砂浜で転ぶだなんて。寄ってきた姉と2人の大人はわたしの手を引いて去っていく。なんとも微笑ましい光景。
ただ、わたしの記憶にはこんな経験は無い。
忘れているだけ……にしては、なんとも奇怪な思い出し方。確かにノスタルジックで良い雰囲気の記憶を掘り起こせたけれど。
わたしはほとんど意識を保ったまま海そのものの上で佇んでいた。海岸には誰も居らず、徐々に向こうが暗闇に侵食されていっている。わたしが立つ海が暗闇に呑み込まれるまでそう時間はない。
振り返って、いつの日か見たと思う夕焼けを脳に焼き付ける。
綺麗、美しい、写真に収めたい、絵に描きたい。
そんな感情が胸の奥から湧き上がってくるのを感じて、わたしは闇に呑まれた。そこで意識はプツンと途切れる。
【コンマ判定
0・ゾロ目:電話
その他:翌日
下1のコンマ1桁でお願いします。】
ほい
【>>548
2:翌日】
6月2日の夕方、生徒会室。
いつも通り神宮くんと放課後の業務をこなそうと赴くと、部屋は真っ暗になっていた。カーテンは閉められ、蛍光灯は落とされている。
そんな中でも人影は見える。わたしたち1年生以外は全員揃っていて、加えて3年生の担任の笹原先生がソファに座っていた。手元にはパソコン、プロジェクターが稼働可能な状態にあること、壁際のスクリーンが降ろされていることから、何か説明会でも行うのかなと想像が働く。
「早速で悪いが今日はゲームの時間なしだ」
「さっきまでやってたの知ってるからね、君たち」
「……席につけ、紫苑、天音」
笹原先生の鋭い指摘に生徒会長様は気まずそうに指示を出す。
わたしたちは顔を見合わせた後、いつもと同じ席に着く。
「じゃあ、ぱぱっと説明しちゃうから。あ、1年生の君たちは携帯の電源切って貰える? 回収の方が早いのは分かっているけど、面倒だからナシで」
言われた通りに携帯の電源を切る。
ここでようやく一つ思い至る。
生徒会の業務として特別試験の監督補佐がある。これから行われるのは、今後予定されている特別試験の説明会なのでは、と。
正式な試験発表の前に情報流出を防ぐため携帯の電源を落とすように促されている。他に録音機など隠し持っていれば話はまた変わってくるけれど、そんなつもりはない。事実、こうして携帯の回収をされなかっただけ一定の信頼は得ていると思い込みたい。
「はーい、じゃあスクリーンの方に注目ね」
スクリーンの方を向く。
笹原先生がノートパソコンを操作すると、暗かった部屋はプロジェクターによって明るくなる。
『特別試験 無人島サバイバル』
大きく映し出された題名に、わたしは気圧される。
この前、生徒会室で「無人島に1つだけ持って行けるなら何を持っていく?」という話をしたばかり。あれはこの事を見越してのことだったのかもしれない。
それにしても、本当に無人島サバイバルなんて……。
かなりの危険が伴う一大イベント。高校生とはいえ世間的に見れば子供の部類。一歩か二歩を踏み誤れば大事故に発展しかねない。特にその辺り、どれだけ学校側が配慮しているのかはこの後の説明で果たされると信じたい。
日時:7月19日 学校グラウンドに集合し、バスで移動、港より客船に乗り込み移動
7月20日 特別試験開始 試験の説明および物資の受け渡しなど
7月26日 特別試験終了 船内にて結果発表を行い、順位に応じて報酬を支給
7月27日 船上クルージングで終日自由行動
8月2日 港に到着 学校へと戻り解散
まず映し出されたのは特別試験の日程について。
この学校の生徒で居るうちは学校の敷地から出ることは無いと思っていたけれど、特別試験は例外らしい。バスで移動後、客船とは夢がある。ただし満喫できるのは特別試験後らしく、1週間の無人島サバイバルを乗り越えなければならない。
「コレの通り、試験は1週間ね。数年前の試験では2週間無人島サバイバルだったらしいけど、大人の色々な都合で1週間になったワケね」
まだ大雑把に無人島サバイバルとしか聞かされていないけれど、2週間もその生活を続ければ体か心のどちらかに支障を出しそう。1週間で良かったと喜ぶべきところだと思う。
「船は? 去年とか一昨年みたいなカンジ?」
「そうね。えーっと別の資料に……っと」
一度特別試験に関する資料を閉じて、別の資料を映し出す。
船の大きさ、乗船可能人数、何階にどんな施設があるかといった情報が図面に表れる。大きさや乗船可能人数についてはともかく、施設には心を惹かれるものがあった。
衣類等のショップ、安め~高めまでレストランが十軒以上、貸切プール、自由解放プール、遊戯室、映画館、カラオケ、リラクゼーションサロン、学生には馴染みの無いバーなど。試験後の1週間では遊び尽くせなそうなほど多くの施設が入っているみたい。
「あー! 中華料理のお店変わってるじゃん。去年と一昨年はあったお店! 好きだったのに!」
「あ、ほんとだ! そういえば、麻婆豆腐が辛すぎって苦情があったような。苦情を出すくらいなら頼むなってハナシよね。先生も好きだったのになぁ。ちょっとこれは先生も言っておく! 直談判するから!」
その話は聞き逃せない。
この前、担任の伊藤先生とケヤキモール内の中華料理屋さんで麻婆豆腐を食べてからというもの、わたしは辛さに魅了されてしまった。噂の麻婆豆腐は是非とも食べてみたい。先生の直談判に期待する。
「っと。話が逸れちゃったけど、こういった施設は本告知で配られる資料を見てね。さて、話は戻って1週間の無人島サバイバルね」
資料を開き直して、改めて試験の説明に戻る。
「まず、今回の特別試験は1年生から3年生まで共通で同じ試験に挑むことになります。そして同時に学年を越えてみんながライバルなワケね」
つまり全生徒、452名による試験ということ。
この場の生徒会役員も例に漏れずライバルとなる。
「で、ここからが重要なのだけれど、グループという制度があります。2年生と3年生は同学年から最大3人、1年生は最大4人のメンバーで組むことが出来ます。男女問わず、クラスも問いません。1年生の場合、AクラスからDクラスまで1人ずつでも組めちゃうってコト」
パッと思いつくのは、Bクラスの望月くんとAクラスの東雲さん。彼らは兄妹ということで、グループとしての活躍が見込めそう。その他にも同じ部活に所属するメンバーとか、気が合う友達と無人島で生活というのは絆が深まる一大イベントとなりそう。
ただわたしから見れば上級生の先輩方と組むことは出来ない。この場で言うと、神宮くんとは組めるけど、夏帆先輩や乙葉先輩とは組めない。
「実際に無人島でして貰うことだけど、こちらをご覧ください」
スクリーンの中心には島が映っていた。
そしてその島を縦と横に9等分ずつされた線が引かれている。縦はA~Iまで、横は1~9まで。左上がA1、右下がI9と線引きされた枠内に書かれている。
「試験中、朝9時~夕方5時までの8時間、2時間ごとに移動の指示が出ます。例えばB4に行け、だとか、I7に行けとかね。その指示を出すのはこの腕時計」
傍らの鞄から腕時計を取り出す。
液晶画面が付いていて、今時の腕時計らしさを思わせる。
「時計機能はもちろん、さっきの指示だったり、あと期間中のバイタルを学校側が確認できる代物ね。GPS機能が付いていて、高熱が出たとか、心拍数がとんでもないことになったりしたらアラームが鳴ります。そしてアラームが5分間鳴り止まなかった場合は先生たちが駆け付けることになってるから、その点は安心してもいいかな」
試しに先生が腕時計を操作する。
するといかにも危険を報せるようなアラームが生徒会室に響いた。
「こうして自分で鳴らすことも出来ます。たds注意して欲しいのは、駆け付けるのにも時間はかかっちゃうこと。5分か10分、遠ければ1時間はかかっちゃうかもしれない。だから、もし自分で事前に気付けたら早めに鳴らしてくれると助かるかな。お互いに」
その機能があれば無人島に放り出されても幾ばくかは安心して過ごせそう。それにアラームの音も結構大きいし、通りすがりの生徒同士で助け合うことも出来るはず。
「この時計に届いた指示通りに、例えばB4というエリアに足を踏み入れた時点で1ポイントゲット。さっき言ったグループが仮に3人だとして、3人でエリアを踏めば一気に3ポイントゲットね」
「グループのポイントは共通な訳だな」
「そう。だからグループを組んだ方が細かいポイントは稼げるね。問題は大きめのポイント。全校生徒が一斉にB4に行けって言われても困っちゃうじゃない? そこで出てくるのがテーブル制度。A~Jまであって、全部で10通りの指示が出ます。テーブルAはB4へ、テーブルBはG5へ、みたいな」
確かに全生徒が揃いも揃って同じ方向に進むだけではつまらない。このテーブルに属する人は東の方、西の方など行き先がバラついていた方が面白い。
「2時間に1度変わる行き先だけれど、テーブルごとに着順ボーナスってのがあってね。最初に着いたグループは10ポイント、2着は5ポイント、3着は3ポイントを追加で貰えるの。ただ注意事項として、グループ全員がエリアを踏まないと着順ボーナスは貰えない。その分、1人で挑むっていうのはメリットがある。自分さえとにかく早く着いちゃえばいいんだから」
仮にわたしが神宮くんと組んだとして、わたしだけがエリアを踏むだけでは1ポイントだけしかゲットできない。遅れて合流した神宮くんがエリアに足を踏み入れてようやく着順ボーナスをゲットとなる。
ただし神宮くんが到着するまでに他のグループが先に全員でエリアを踏んでいたら着順ボーナスは無しとなる。
一方、1人のメリットは大きい。正直、体力には自信があるため着順ボーナスでポイントを稼ぐのは悪くない。グループを組んでそっちに合わせるよりもポイントは格段に稼げそう。
「ポイントを稼ぐ方法はもう1つ。試験開始時、腕時計と一緒に配られるこのタブレット端末。自分が居る位置を報せてくれるのと、テスト会場の位置を報せてくれる機能がある」
続けて取り出したタブレット端末。
起動すると画面には学校の生徒会室の位置に赤いポインターがついている。腕時計と連動していることはすぐに分かった。
「テスト会場っていうのは、その名の通りテスト会場ね。数学とか英語とか、あとはビーチフラッグとかのテストを行うことになってる。学科テストは学年のレベルに合わせるから安心して。1年生は1年生の範囲のテスト、3年生は3年生の範囲だから」
「はいはい! 天音ちゃんは勉強にすっごく自信があるので、3年生の範囲でやるみたいです!」
「やりませんっ!」
中華料理の件から黙って聞いていた乙葉先輩が唐突に言い出したことに、わたしはすぐ否定しておく。
本当に3年生の範囲になったら頭を使いそう。出来るだけ頭を休めながら試験には臨みたい。
「乙葉には悪いけど、1年生は1年生の範囲って決まってるからそれはナシで。本人たっての希望なら……ギリありだと思う」
当然と言えば当然の回答。
ただわたしが希望すれば3年生のテストも受けられるらしい。これは見ようによっては、わたしたちが3年生になった時に出題される中間テストなどの予行演習を出来るということではないか。
うん、それもアリかもしれない。
「テスト会場には先生とかスタッフが居るから、その人に参加希望の旨を伝えればオッケー。テストにもよるけど、基本的に参加人数は5人~15人。ああいや、5グループから15グループかな。内容によってはグループ参加も可能だよ。グループ内で助け合ってテストをこなすのも良しだね」
勉強が得意な人は勉強系のテストでポイントを稼ぎ、運動が得意な人は運動系のテストでポイントを稼いでグループに貢献する。
それはとても合理的で良いと思う。
「テストによって貰えるポイントは異なり、基本的には1位~3位までしかポイントは貰えない。最低では5ポイントとかだったかな。最高は忘れた。また本告知で説明あると思うから、その時に聞いて」
「……あの、もし参加人数が集まらなかったらどうなるんでしょう?」
「その場合は残った人たちでテストを実施。もし1グループだけだったら1位を、2グループだけだったら1位か2位を決める勝負をして貰う。ちなみに同点の場合は貰えるポイントを半分こね。奇数ポイントを2グループで分ける場合に余った1点は捨てることになります」
参加人数が不足した場合にテストは未実施となるのが最悪なケースだった。人数不足でもポイントを貰える機会があるというのは、積極的にテストへ挑める。
「テスト中はタブレットの充電をしておくように。あとテストの参加賞や順位ボーナスで食べ物とか飲み物を貰えるようになってるから、その辺りは積極的に参加しないとアレするやつだね」
アレとはつまり、脱水症状で命のピンチということだと思う。もちろんその場合は腕時計がアラームを鳴らして先生が駆け付けることになる。
「というわけで、指示通りにエリアを踏むこと、グループ全員がエリアを踏むこと、テストで点数を得ることでグループ毎の順位を決めていきます」
ポイントを稼ぐ方法については分かった。
あとは日程にも書かれていた通り、特別試験終了後の結果発表と順位について。
「試験終了後、船内で結果発表を行います。もちろん試験中に稼いだポイントで順位を決める。詳しいことはこちらに」
スライドが切り替わる。
1位:300クラスポイント、200万プライベートポイント
2位:100クラスポイント、100万プライベートポイント
3位:50クラスポイント、50万プライベートポイント
1位が頭抜けて破格の報酬だった。
この際、プライベートポイントについては置いておくとして、300クラスポイントは大きい。
それは毎月1日に支給されるポイントが3万ずつ増えることを意味しており、1クラス40人のため120万プライベートポイントとなる。報酬の200万も破格だけれど、たった2ヶ月でそれを上回るポイントを得られる。
それに、Aクラスとの差を縮め、Cクラスとの差を広げるにはこの300クラスポイントは是非とも欲しいところ。
ただ当然のように注意しなければならない点として、3年生の乙葉先輩や2年生の新汰先輩と競い、勝たなければならないこと。せめて1年Aクラスに渡さないよう努めることで良しとするべきか。
「Aクラス~Cクラスまでが1人ずつで構成された3人グループが1位を取った場合は、全部山分けってことになるからね。それぞれのクラスが100ポイントずつ、66万プライベートポイントずつ。余ったものはジャンケンとかで決めて貰うから」
「Aクラスが2人、Bクラスが1人の場合だと?」
「それも一緒。合算してしまえばAクラスは200クラスポイントと132万プライベートポイント、Bクラスは100クラスポイントと66万プライベートって具合に山分け」
となれば、学年内で好きにグループが組めると言ってもクラスはまとまっていた方が良いかもしれない。
特に本気で表彰台を狙えるようなメンバーを固めに行く場合は尚のこと。
……考えることが多い。外の空気を吸いたくなってくる。
「はい、じゃあ最後にペナルティについて。下位8グループは退学ね。以上。質問は?」
あまりにもサラッとされた宣告。
特別試験の結果次第では『退学』という道も見えていたけれど、こんな簡単にそのワードが飛び出てくるとは思わなかった。
それに8グループ。仮に下位すべてが1年生だったとして、最大で32人も退学者を出すことになる。わたしたちBクラスも例に漏れず。
「あ、ごめん。1つ忘れてたことあった。グループは最大で3年生と2年生が6人、1年生は8人ね。7月15日までにまず3人もしくは4人のグループを決めて貰って、6人か8人のグループに合併できるのは試験中。さっき言ったテストの順位ボーナスで合併の権利を獲得できるよ」
えっと、つまり8人グループを組んだ1年生が下位に沈めば最大で64人の退学者を出すことになる、と。
これはまずい。報酬は美味しいけれど、そのぶんペナルティは不味い。この際、他のクラスを助けようとするのは不可能。せっかくなら学年から退学者を出さずに卒業したかったけれど仕方がない。
わたしが優先して守るべきはBクラスのみんなで、特に……雨宮さんになるのかな。中間テストをきっかけに一緒にいる時間が長いため親近感が湧いている。それに彼女には事情もあるし、みすみすと退学はさせられないし、他の人とグループを組ませるのも難しい。
あれこれ頭の中で模索をしていると、
「あ、ごめん。あと1つ……ああいや、あと2つ。まず1つ目。ペナルティで退学になった人は、プライベートポイントで退学を回避できます。ただし試験が開始される前にポイントは自分で持っておくこと」
「ポイントは幾ら必要?」
「グループで痛み分けってかんじかな。1人なら600万、2人なら300万ずつ、6人なら100万ずつ。差し出せた人だけが回避できる。全員が出さないと回避とはならないから安心して。最低限、自分だけが出せればオッケーだから。あ、ちなみに1年生は半額で回避ね」
つまり最低の1人なら300万、最大の8人なら37万5千プライベートポイントを差し出せば退学を回避できる。
ただしそんなポイントは先に特別試験で稼いだ大きいポイントしかアテはない。それに、そのポイントを持っている人も限られてくる。
それにそれに、試験開始前に危うそうな人全員にポイントを均等に振り分けておくのは無理がある。せめて退学が決まった後でクラス内でポイントの受け渡しが可能だったら良かったのに……。
「2つ目。試験開始の時、特別なポイントを全員に5000ポイントずつ支給します。そのポイントの使い道は、バックパックとかテントとか、食料とか水と交換することが出来ます」
「テントは1人用?」
「1つで4人入れる物もあるよ。グループを組んでテントは1つだけ、とかも戦略としてはアリだね。ただし男女で一緒のテントは使わないこと。これは口頭での注意にしかならないけど。GPSでこの2人の距離が近いってのは分かっていても確かめる術がねぇ…」
どこか遠い視線を向こうへとやる先生。
それはともかく、グループ内で上手くポイントの節約は非常に有効だと思う。テスト参加前に飲む用として水も幾つか手に入れておきたい。夏場のため、紙コップなどに移して飲む必要があるのは当然のこと。
うーん、難しい。どうしよう。
「あと言ってないことあったかな……」
「3人もしくは4人の具グループが6人もしくは8人のグループに合併したらどうなるんだ?」
「あ、その場合は足して2で割ることになってる! ありがとう、忘れてた!」
この分だと、笹原先生の話には随分と穴がありそう。
ひとまず試験の概要は分かった。この場で詰め込みすぎても良くないため、本告知にて更に理解を深めることにしよう。
「あ、ちなみにちなみに。スタート地点の砂浜には無料で利用できる給水所とかトイレとか、シャワーも設置してあるから是非使ってね!」
「─────」
その一言を聞いてわたしは、
【コンマ判定
直感・洞察力:91 補正あり
7・0・ゾロ目:この試験の方針を定める
その他:また考えることにしよう
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>561
3:また考えることにしよう】
うん、今日のところは試験概要を理解しただけで留めておこう。具体的にどう動くのかは、本告知の後でも遅くはない。この様子だと、あと1、2週間後には本予告もされそうだし。
「ちなみにグループはOAAから誰と誰が組んだのか確認できるからね。ちなみにちなみに、一度組んだらグループの解消は出来ないからよーく考えること」
「もし当日、体調不良になった場合は?」
「グループで残った人たちで試験開始。これは試験開始後に体調を崩したり怪我をした人にも共通で言えることだけど、グループの人が残っている限りはリタイアした人も即退学とはならないよ。逆に、1人で挑んで体調を崩したら退学まっしぐらだね」
「グループ全員がリタイアした場合、ポイントはどうなる」
「どれだけポイントを稼いでもグループ全員がリタイアすれば0ポイント。どんなに頑張ってもポイント没収だなんて酷いハナシだよねー。ま、さっさとポイント稼いであとは船で先に満喫なんてされても困るからさ。当然と言えば当然なんだけど」
大自然の中、いつ体調を崩すかは分からない。
いち早く「これくらい稼いでおけばいいだろう」という目測のもと稼いだポイントを持ったまま、1週間を待たずして船に戻ることは許されないらしい。
1週間、走って問題を解き続けるしかないと。
「仮に9グループがリタイアした場合は?」
「その場合は船の中で別の試験を設けるみたい。グループは引き継ぎで、何をやるかはその場で発表だって」
さっき見た日程を鑑みると、その試験は自由行動の時間に行われそう。無人島を潜り抜けた生徒がクルージングを満喫する一方で、何処かの部屋では退学を掛けた試験を行なっていると。
それはやだなぁ。せっかくなら無人島生活1週間の後、豪華クルージングの旅を1週間を満喫したい。もし1位を取れれば手元には200万プライベートポイントもあるし、クルージング中にはポイント支給日の1日が含まれている。きっと遊ぶお金には困らない。
「うん、こんなところかな。で、ここからが生徒会のみんなにやって貰いたいこと」
「えー、ぜったい面倒なやつ!」
「そう言わないの。えっと、みんなには船の中で出来る催し物を企画して欲しいの。無人島の後の1週間の内、1日か2日で全生徒が任意で参加できるやつね。こういうのは学校側が企画するより、生徒側で企画した方が生徒も参加しやすいでしょ?」
そういう話なら前向きに考えられる。
もちろん予算の都合もあるけれど、定番なところで言えばビンゴ大会などが該当しそう。大きめのホールを1つ借りることが出来れば、あとは装飾を施すだけで立派な会場となる。
「予算は生徒会の特別活動費から出してね」
時々見かけていた『特別活動費』。
これまでずっと未使用だったお金で、何に使うものか聞いてもはぐらかされていたけれど、こういう機会に使われるものなんだと理解する。
「7年前は船内で宝探しゲームをしたみたいだよ。参加費は1万ポイントで、船内の入れる場所に隠したQRコードを携帯で読み取って10万ポイントとか5000ポイントをゲット! みたいなね」
そういうのもアリなのか。
宝探しだけれど、宝くじのような夢を提供するのは良いと思う。誰でも一攫千金の夢を見れるのは公平性もある。件の宝探しの『宝』がどれくらい散らばっていたかにもよるけど。
「なるほどなるほど。つまり、生徒会 vs 生徒ってことね。こりゃあやる気を出さないとだ」
「どうしてそうなるんです?」
「特別活動費がそういうものだからだよ。このお金は何代か前の生徒会からずっと引き継がれているもの。ここでゼロにするわけにはいかないでしょ」
「はぁ……なるほどぉ」
夏帆先輩が納得……は、出来ていないみたいだけど何度か頷いてみせる。
つまり、いかに還元率を低く出来るかが勝負どころになってくる。これは悪知恵を働かせなければならないみたい。
例えばわたしが真っ先に思いついたビンゴ大会では全員無料参加とはいかない。用意する景品にもよるけど、最低でも1万ポイントずつ参加費として徴収する必要があるかもしれない。
「ま、そんな訳だから6月末には申請を出せるように資料をまとめておいて。先生が確認して、その後で偉い人の許可を幾つか取らないといけないから」
「へーい」
乙葉先輩の軽い返事に先生は特に反応することもなく、ノートパソコンを閉じて見本として見せてくれた腕時計とタブレット端末をしまって生徒会室を後にする。
3年Aクラスの担任、笹原真香は噂通り生徒と距離の近い先生らしい。実際、生徒からのタメ口を嗜めるようなこともなかった。年齢も先生の中では若く、話が合う先生かもしれない。
総合的に見て、良い先生だなぁと思った。
「っし、じゃあその件は来週の月曜日に1人1案考えてくるってことでいいな。予算は……天音」
「53万7527円です」
「ごじゅう……なんだって? あー、50万で。どうせなら増やそう。1000円、1万円増やしただけじゃあつまらねぇ。目標は100万だ。各自、ギャンブル性の高い企画を考えるように。以上、解散!」
昨日まで業務を頑張った代わりに、今日はこの説明だけで生徒会の仕事は終わる。
次の試験内容をじっくり整理したかったし、これは素直にラッキーだと喜ぼう。ついでにギャンブル性の高い企画を考えないと。
【週末
1.1人で過ごす
2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と遭遇)
3.人と会う
1. 雨宮綾香(クラスメイト 白石詩波という芸能人)
2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
4.望月弘人(ちょっと謎なクラスメイト)
5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒 生徒会役員)
6.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
7. 花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
8. 如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
9. 四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
10.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
下1でお願いします。】
3-9
【>>367
3-9:人と会う - 四条夏帆】
特別試験の結果発表に続いて、早速次の特別試験の概要を聞くなど忙しかった1週間の週末。
わたしは2年生の寮の前で携帯を触って待っていた。待ち合わせの時間まで残り10分程度。たまに通りかかった先輩と少し話していると時間はあっという間に過ぎる。
「おはようございます。毎度のことながら早いですね」
「おはようございます。夏帆先輩こそ、まだ5分前ですよ」
「ううん、これでも遅かったってことだよね」
気を使わせてしまった。
早く来すぎるのも少し考えものかもしれない。
今度からは10分前行動ではなく5分前行動を守るようにしよう。
「さて、それでは行きましょうか。と言っても、行くアテはケヤキモールしかありませんけどね」
わたしは頷いて夏帆先輩の隣を歩く。
そして今、夏帆先輩の発言でふと気になったことを聞いてみることにした。
「あの、ケヤキモールしか遊ぶ場所が無いって退屈しませんか? もちろん娯楽施設やお店の品揃えが良いのは分かりますが」
「そうですねぇ。確かに、飽きてきますよね。普通の学校に通っていれば、電車で移動とかも出来たわけですし」
東京なら原宿や渋谷など若者で溢れているようなスポットがたくさんある。ちょうど昨晩のテレビ番組でもお洒落なかき氷特集を見かけた。最近では、味勝負ではなく映えるかどうかに重きを置いているらしい。
その他、上野で美術館や博物館をまわったりするのも良いかもしれない。やや人を選ぶようなイメージが強い施設ではあるけれど、きっと楽しいはず。
「ただ、普通の学校に通っているだけでは得られなかった貴重な経験をさせて貰っているとは思いませんか? 寮で1人暮らしをして、毎月高額のお小遣いを貰って自炊したり遊んだり……自分でお金の使い道を決めるのはきっと将来の役に立つと思います」
「……そうですね。はい、その通りだと思います!」
「と、良いことを言った風ですが、天音ちゃんの『退屈』っていうのはその通りですね。私が言ったのはあくまでも過ごし方についてであって、環境のことではありませんから」
先輩の言うことはよく分かる。
ただ普通に実家から高校へ通う、ではこんな貴重な経験は出来なかったと思うし、仮に進学に伴い一人暮らしを始めていてもここまで充実した生活を送れていたとは限らない。
「この学校って季節のイベントとかあったりしますか? 夏は屋台とか花火、冬はクリスマスツリーを飾ったり……とか」
「花火はありませんが、屋台とクリスマスツリーは去年ありましたよ。小さい手持ち花火くらいなら、売っていたのでおそらく可能だと思います」
「あ、じゃあみんなでやりましょう! 花火っ」
「生徒会の終わりとかに出来たらいいですね」
とか、そんな話をしているうちにケヤキモールの入り口に到着する。
えーっと、今日の予定は……。
【安価です。
1.ショッピング
2.映画館
3.喫茶店でお話
4.買い物をして料理(料理スキルアップ)
下1でお願いします。】
4
【>>571
4:買い物をして料理(料理スキルアップ)】
そう、今日『も』になってしまうけれど、夏帆先輩と買い物をしてから料理を教えて貰うんだった。
「そろそろ1ヶ月と半月程度になりますからね。平日も自炊しているようなので、私が見た感じでは天音ちゃんの料理スキルは相当上昇していると思います」
「そう……でしょうか?」
確かに自炊可能なレパートリーは増えてきた。
ただ、お店レベルには到底及ばないし、センスのある人がなんとなく初見で作った料理と比べても勝てそうにない。
それに客観的な意見を貰うため雨宮さんに試食していただいたときは「まぁまぁ……かなぁ?」という微妙な評価だったのが記憶に新しい。
「最初は包丁の持ち方も怪しかったですからね。格段に上手になったと思いますよ。さて、今日は色々なものを少しずつ作ってみましょうか」
「はい、わかりました」
道中、そんな会話をしながら食品売り場を目指す。
お昼にはまだ早い時間だけれど、お腹が空いてきた。今日のお昼は何かな、と期待感を抱くわたしでした。
【コンマ判定
1・3・5・9:3上昇
2・6・8:2上昇
7・0:5上昇
4:1上昇
ゾロ目:8上昇
下1のコンマ1桁でお願いします。
-現在の能力値-
学力:97(超優秀)? 身体能力:99(超優秀)? 直感・洞察力:91(優秀)? 協調性:53(普通)? 成長性:74(高)? メンタル:86(高)? 料理:42(まぁまぁ?)? 音楽:22(下手)】
はい
【>>573
1:3上昇
学力:97(超優秀)
身体能力:99(超優秀)
直感・洞察力:91(優秀)
協調性:53(普通)
成長性:74(高)
メンタル:84(高)
料理:42 → 45(まぁまぁ)
音楽:22(普通)】
週明けの夕方。
生徒会室の明かりは落とされ、スクリーンには大きく『企画会議』の4文字が映し出されている。
「各自考えてきたな? じゃあ順番に会計の方から。まずは端的に話せ。話し合うのは後だ」
企画会議とは他でもない7月下旬に予定されている一週間クルージングの中で行う学生間の催し物のこと。主催は生徒会とし、他の生徒は任意での参加を募る。
錦山会長の指示のもと、生徒会室の端の方の席から意見を挙げていく。
「参加費は1万ポイント、勝ったら予算の50万ポイントを賞金として差し出すという条件で─────天音さんと任意の教科もしくは種目で勝負はいかがでしょうか。参加人数は50名を想定しています」
2年の先輩、紗希先輩は初っ端からとんでもないことを言い出す。
その条件だと、わたしが50連勝しなければ目標お額には届かないんだけれど……。とてもではないけど現実的ではない。間違ってもそんな催し物は企画されるべきではない。
今は端的に案を出す時間らしいので、色々と言い出したい気持ちをグッと堪える。何人かが「うんうん」と頷いているのを見て見ぬふりをする。
「7年前と同じ宝探しゲームで良いと思います」
神宮くんの案。
7年前に実施されたというゲームを知る生徒は居ない。そのため宝探しゲームをしても二番煎じと言われることなく進行が出来そうだし、一度やっているだけに教師陣からの承認も取りやすい。
それからわたしを含めて淡々と案を出していく。
・屋内プールで水泳大会
・ビンゴ大会
・遊戯室で大会(麻雀・ダーツ・ビリヤード・卓球など)
・遊戯室で賭け麻雀(教師の了承取れない可能性大)
・クイズ大会
・人生ゲーム大会
・天音ちゃん vs みんな
・オセロ大会
と、紗希先輩と神宮くんの後にこんな案が続く。
まともに考えていない人も居たようだけど、この中から実際の催し物が決まる。
「なんつーか、ありきたりなものばっかりだな。どれもパッとしねぇっていうか」
「公平性のあるものがいいですね。胴元の生徒会が儲けるっていうのは目に見えていても、誰にでもチャンスが無いと参加する生徒が居ないですから」
「かと言って、紗希と乙葉の天音を使ったのもなぁ。運動部との対決で勝ち目が薄いのは分かってるだろ。参加者が50人も集まらねぇ」
良かった。危惧していた案が無しの方向で話が進んでいる。正直、人数が集まる集まらない以前に、クルージング期間の全てを費やしても1日あたり7人を倒していかなければならないのは難しい。
ということを踏まえて、前向きに検討できるのはビンゴ、クイズ、人生ゲーム、オセロ、7年前と同じく宝探しゲームあたりが残る。いずれもほとんど公平に戦うことが可能ではある。
「予算50万で景品を用意してビンゴ大会、優勝者に50万のクイズ大会、50万をバラした宝探しのどれかだな。多数決で決めるか。案を出したやつ以外でやるぞ」
わたし、夏帆先輩、神宮くんの提案に絞り込まれる。あとは多数決。いずれにしても半日程度で終わるため生徒も参加しやすいと思う。
さてどうなるかな……。
【コンマ判定
1・4・7・0:ビンゴ大会(景品買い出しのイベント)
2・5・8:クイズ大会
3・6・9:宝探し
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>578
5:クイズ大会】
多数決の結果、クイズ大会に決まった。
3つの選択肢の中では最も運要素が少なく、知識という実力差が如実に現れる。また、景品を用意する必要が無いため参加者を青天井に呼び込める利点もある。
よく考えてみれば、なるべくしてなった結果と言えるかもしれない。
「よし、じゃあ決まりだな。あとはクイズの出題形式とか問題は誰が考えるとかは真香ちゃんに報告してからだな」
真香ちゃん、というのは先日試験の説明をしてくれた笹原先生のことだと思う。ちゃん付けで呼ばれていたんだ、あの先生。確かに年齢も距離も近い先生ではあったけれど。
「夏帆、行くぞ」
「あ、はいっ」
案を出した夏帆先輩が着いて生徒会室を出て行く。
残されたわたし達は部屋の明かりをつけて通常の業務に戻る。
週明けということもあって書類がたくさん。今年は早めに梅雨入りしたこともあり、外はしとしとと雨が降っている。これは……少し憂鬱だなぁ。
帰宅する頃には19時を回っているかもしれない、と考えながら筆を手に取り書類に目を通して行く。
【コンマ判定
奇数:ケヤキモールでイベント
偶数:週末
ゾロ目:「春宮さん……お願いがあるんだけど」
下1のコンマ1桁でお願いします。】
あ
【>>580
4:週末】
週末の土曜日。
わたしは寮から徒歩5分程度の学校に登校していた。
今日は数週間に1度のボランティア活動の日。
ボランティアといっても近所のお年寄りや子供と触れ合うようなイベントではなく、単純に校庭の草むしりをするだけ。誰がやってもペースの誤差こそあれ、結果に差が出ない作業のため気楽で良い。
周りを見渡すと、思いのほか参加する生徒が多かった。1年生から3年生まで合わせて51人。特に1年生の姿が目に留まる。
参加目的は大きく4つほど思い浮かぶ。
1つ、単純な慈善活動
2つ、OAAの『社会貢献生』という項目の点数稼ぎ
3つ、参加特典のケヤキモールで利用可能なミールクーポン
4つ、わたしみたいに参加を半ば強制されている人
1年生の姿が多いのは、つい先日もOAAによる客観的な評価を目にしたからだと考えられる。こういうところで評価を上げる姿勢はとても良いと思う。
わたしは生徒会役員ということで参加している。これまでも4回ほど休日に駆り出されていたけれど、そのおかげでOAAの評価に繋がったと考えると非常に報われた気持ちになる。
その他にも、ついさっきまでグラウンドで部活動に熱を入れていた野球部とサッカー部はユニフォームで全員参加らしい。
「そろそろ持ち場につけー」
野球部の顧問の先生が指示を出し、各自が持ち場につく。作業中は、他の人の迷惑にならなければ私語も許される。スポーツドリンクも自由に取れるらしいので、適度に休憩しながら程々に進めていこう。
【コンマ判定
1・5:生徒会役員 1年
2・8:生徒会役員 2年
3・7:生徒会役員 3年
4・6:一色楓・宮野真依(クラスメイト)
9・0:東雲雪菜(1-A)
ゾロ目:化野(2-A)
下1のコンマ1桁でお願いします。
続きは今晩にします。】
え
【>>582
0:東雲雪菜
遅くなってしまいました。
続きは26日の夜にします。】
「春宮様、お隣よろしいですか」
「あ、東雲さん。うん、もちろんいいよ」
艶やかな黒髪を結った女子生徒────東雲雪菜さんが話しかけてくれた。
彼女とは先の特別試験にて接点を持ち、最近では廊下ですれ違うと挨拶が出来るような友達に近い存在。はっきりと友達と言い切れない最大の理由は『様』を付けて呼ばれていること。なんとか『さん』まで持っていきたいんだけれど、なかなか難しい。
彼女はどこか絶対的な一線を引いているように感じる。おそらくこの先、本当に余程の事がないとその一線を越えることは出来ないと思う。
「春宮様は生徒会役員として参加、といったところでしょうか」
「うん、そうだよ。あ、でも別に嫌って訳ではないんだよ? ミールクーポンも貰えるし」
「高校生の貴重な3時間を使った報酬が1500円相当のミールクーポンというのは、法外な賃金ではありますけれどね」
東京都の最低賃金を鑑みると、時給にして半分以下。仮にも国立校を謳う学校がするべきではない。
「まぁ、でもボランティアだからね。校庭をまずまず綺麗に出来れば良いってレベルだし、それこそ完璧なものを求めるなら業者を呼んだ方が早いだろうし」
「そうですね。一般の学校では無償だと聞きます。学校の敷地内で利用できるミールクーポンを配布というのは、この学校らしいですね」
皮肉っぽく言う東雲さん。
学校生活を満喫していらっしゃる。
「東雲さんはどうしてボランティアに?」
「先日に発表されたOAAの点数稼ぎです。どうやら春宮様には随分と差をつけられてしまったようなので、少しでも追い着きたいと考えた次第です」
1年生のライバルの中でも東雲さんは筆頭として挙げられる。トップで独走しているAクラスのリーダーであることもそうだし、未だに未知な面が大きい。
そんな東雲さんのOAAの評価は確か……。
??????
1-A 東雲 雪菜(しののめ ゆきな)
学力 89(A)
身体能力 76(B+)
起点思考力 81(A-)
社会貢献性 72(B)
総合力 80(A-)
??????
確かに『社会貢献性』が他の項目と比べて少し弱かったと思う。それでも学年の平均55をずっと上回る値だけどね。
「ただ、こうして春宮様も参加されていると追いつこうにも追いつけませんね。引き離されないだけマシだと考えましょうか」
「あ、なんかごめんなさい」
「謝ることではありません。来年は生徒会に所属することも視野に入れておくだけです。その頃にはきちんとOAAの評価も出来ていると思いますし」
「きちんと、って?」
「聞いていませんか? 1年生の評価の約半分程度は中学校卒業時の成績を反映していると。まだ学校側も測れていない部分があるのでしょうね」
なるほど。それは聞いていなかった。
聞かないと教えてくれない、というのもこの学校らしい。知らないは一生の恥とも言うし、学校独自のルールについて疑問に思ったことがあれば聞くようにした方がいいかもしれない。
そんなことを話しながら手元の作業を進めて行く。
何の工夫も要らない草むしりのため、みるみると校庭から雑草が消えて行く。野球部とサッカー部の全員参加効果は絶大だった。
「この調子なら早めに終わりそうですね」
「そうだね。あ、東雲さん。もしよかったら、この後一緒にケヤキモールに行かない? 用事があるならまた今度でも構わないんだけど」
「シャワーを浴びた後でよろしければ、ぜひご一緒させて下さい。寮に戻って……いえ、それだと……」
「水泳部のシャワーなら使えると思うよ」
「それは助かります。どうにも暑いのは苦手で」
見た感じ、汗をかいているようには見えないけれど、ジャージの下はどうか分からない。
実際、わたしも長袖の下はやや蒸されて気分が良いとは言えない。日焼けを気にせず半袖で挑めたら良かったんだけど、なかなか色々な事情で難しい。
「急いでやっちゃおうか」
「はい。春宮様もご無理をなされぬよう」
約束を取り付けている間にも他の生徒の作業ペースは右肩上がりで、ほとんどが片付いてしまっている。ほんのあと5分くらいで終了の合図がかかると思う。
よし、もう少しだけ頑張ろうっ。
◇◇◇
ミールクーポン1500円分を貰って、わたしと東雲さんは競技プール場の方へと向かう。
水泳部にもクラスメイトの宮野さんをはじめ、知り合いが多い。部長の麻倉先輩とは結構気兼ねなく話せる関係まで仲良くなれた。
「??????はい、ではお借りします」
代わりに今度の部活動に臨時で参加することになってしまったけれど、それはわたしにとっても望むところ。喜んで快諾をさせていただき、更衣室とプール場の間のシャワー室へ。
備え付けのシャンプーやトリートメント、ボディーソープ、清潔なタオルが置いてあり、同時に8人が利用できる親切設計。
また、更衣室に戻れば化粧水や乳液まで置いてあるのだから嬉しい。もちろん個人的なお気に入りの商品は持ち込むしかない。
「……とても品のある良い香りがします」
「ん、あぁ、これかな? ヘアオイル。少しだけ持ち歩くようにしてるんだ」
以前、宮野さんに教えて貰ったシトラスのヘアオイルを出しているメーカーが夏限定として売り出したローズのオイル。試しに買ってみて気に入り、普段から少量を持ち歩くようにしていることが功を奏した。
「もしよかったら使ってみる?」
「…………わたくしは、そういうのは……」
日頃、常に余裕を感じさせる表情を絶やさない東雲さんだけれど、この瞬間だけは伏し目がちに暗い表情を見せる。
ヘアオイル自体が嫌いなのか、手に取ったことがないモノへの抵抗感か。
ライバルという関係であっても、彼女とは仲良くしたいと考えている。そこに損益は存在せず、ただひたすらに彼女とは学生として、そして人間として成長し合える何かがあると直感で感じ取れる。
「嫌い?」
「き、嫌いでは……ないんですけれど」
「じゃあ付けてみようよ。今も綺麗な髪だけど、もっと綺麗になると思うから」
わたしは東雲さんの後ろに立ち、ヘアオイルを少々ずつ手に取って長い黒髪に馴染ませていく。
普段使いしている洗髪剤の香りとローズの相性は悪くなさそう。きっと喧嘩しないで良くまとまってくれるはず。
一通り馴染ませた後、僭越ながらドライヤーで髪をしっかりと乾かしていく。ローズの香りが心地良い。東雲さんもリラックスしてくれているようで何より。
10分近くかけて乾かし、ドライヤーを置く。
「あ、ありがとうございます。良い香りがして、なんだか艶もある気もしますし、とても嬉しいです」
「うん、よかった。髪とか結んだりしない?」
「このままか、まとめたりする程度ですね。あまり編み込んだりするのは、試してみたことがなく……」
「ほんのワンポイントだけでも三つ編みにしてみるとかね。この辺りとか」
左頬付近の髪を少量だけ手に取り、軽く編み込みをする。このまま下までやって、あとはリボンなどで留めれば華が出る。
確か、夏帆先輩から戴いたのが鞄にあったような。貰い物なので譲ることは出来ないけれど、試してみる分には利用できる。
「ちょっと待ってて」
更衣室のロッカーまで戻り、鞄から白いリボンを取って東雲さんのもとへ。じっと座って待っててくれた彼女の髪を改めて編んでいく。リボンで結ぶと、予想通り可憐な少女が鏡に映った。
「他にもアレンジは色々あるけどね。東雲さんの髪なら色々と試せると思うよ」
「そ、そうですか。……今度、試してみますね。ええと、これはどうしたら」
「解散する頃に返して貰えればいいよ。せっかくならこのまま外に行こうよ」
「春宮様が、そう仰るのなら……」
照れている様子は初めて見た。
申し訳ないけれど、あんな表情は出来ない人だと心のどこかで思い込んでいたため驚く。
ただ驚いてばかりではいられない。東雲さんより髪が短い分、一足早くに髪を乾かし始めていたけれど、それも途中だった。かなり時間が経ってしまったけどきちんとやっておこう。
◇◇◇
ケヤキモールへと移動した。
ジャージや体操着はクリーニングに出し、わたし達は登校時の制服姿で飲食店を目指す。
時刻は13時に迫り、やや混んでいるけれどきっと良いお店は見つかる。
「何か食べたいものはある?」
「春宮様にお任せ致します。好き嫌い、アレルギーはございません」
さっきまでの照れた表情は何処へ。
普段通りの余裕のある笑みを浮かべたライバルの姿。その方が東雲さんらしくはあるけれど。
ただ、それでも髪のリボンと匂いは嬉しそうなのが滲み出ている。
「じゃあ和食で。結構空いてそうだったし」
「承知しました」
侍女のように半歩後ろを着いてくる彼女に隣を歩けとは言い出せないまま目的地へ。やはり空席が目立ち、すぐに奥の方の席へ案内される。
一息ついた後、ミールクーポン1500円分を堪能できるように食後のぜんざいまでを注文して待つ。
【安価です。
1.「普段はお化粧とかしないの?」
2.「雨宮さんのことだけどさ」
3.「休日って何をしているの」
下1でお願いします。】
3
【>>590
3:「休日って何をしているの」
最近更新できず申し訳ありません。】
ふと思う。
放課後や休日に東雲さんは何をしているのか、と。
ほぼ毎日のようにケヤキモールへ立ち寄っているけれど、本当に東雲さんの姿を見かけたことがない。1度目はクイズ大会にて、2度目は望月くんとの約束に現れた時に話したくらい。
何をしていても彼女の自由だけれど、とにかく気になる。ここは思い切って聞いてみよう。
「東雲さんって、休日とか何をしているのか聞いてもいい?」
「わたくしの休日ですか? 寮の部屋もしくは学校の図書室で過ごすことが多いです」
「クラスメイトの人と遊んだりは?」
「一度もありません。……あぁ 先月のクイズ大会は別です。わたくしが我が儘を言って、神宮様にはお越し頂きました」
ということは、基本的にはずっと一人ということ。
一人で過ごすことを否定するつもりはないけれど、そこまで徹底する根本的な意志が気になる。きっと誘われることも多いはずなのに。
ここは……。
「東雲さん、そろそろ『様』付けはやめない?」
「大変恐縮ですが、それは万に一つもありえません。わたくしが何方かと親密になることはないでしょう。兄様は例外ですが」
「そ、そっか。うーん。わたしは東雲さんともっと仲良くなりたいんだけどなぁ」
紛れもない本音を伝える。
ただ彼女の意志は堅いようなので……おや?
「……春宮様が、ですか」
少し気まずそうに目を逸らす東雲さん。
露骨な拒否反応、あるいは涼しい顔で「春宮様といえど、例外なく親密な関係になることはありえません」なんて言われるかもと思っていたのに。
これはもう少し押し込めばいけるのか……?
「うん、わたしが。この学校の仕組み上、とても親密というのは難しいかもしれないけれど、放課後とか休日にこうやって遊びに行く位の友達になれたらなって」
「……」
東雲さんと目が合う。
沈黙ではあるけれど、目を見て分かることはある。
弱々しい目。何かに怯えるような、臆病という2文字を訴えかける目をしていた。ちょっと触れてしまえば壊れてしまいそうな脆弱性すら垣間見える。
少し、無理をさせすぎたかもしれない。東雲さん本人が望まないのであれば、わたしたちの関係は同級生でライバル程度に留めておくべきなのだと分かる。
「ところで話は変わ────」
「……それは、はい。お誘いいただければ」
「…………いいの? 無理してない?」
「人間関係の構築も、わたくしがこの学校に進学を決めた理由の一つです。春宮様にそう言っていただける内は、ぜひお誘いいただきたく存じます」
まだ揺らいでいるようにも見えるけれど、先ほどまでの弱々しい目の中には前を向こうという強い意志が感じられた。言葉通り、人間関係の構築には彼女自身思うところがあったのかもしれない。
「うん、じゃあ是非。わたしは生徒会の業務があるから平日の放課後は少し難しいかもしれないけれど、お昼休みとか休日にお話できたら嬉しいかな」
「はい。24時間365日、携帯を握りしめてお待ちしております」
うーん、重たい。
『友達』という距離感の認識に齟齬があるのかな。
「四六時中は東雲さんも大変じゃない? 気付いたときだけで大丈夫だから。1時間くらいの未読ならわたしも気にならないし」
本当はすぐにでも返事が欲しいと思ってしまう本心は隠しておく。誰かにメッセージを送った後、少しソワソワしてしまう気持ちは誰にでもあると思いたい。
「それでは春宮様に失礼です。親しき仲にも礼儀あり、と教官は仰っていました」
「そんなことないよっ? もっとフラットというか気兼ねない関係でもいいんじゃないかな」
「……そこまで仰るのでしたら。ただ、必ず1時間に1度は確認させていただきます。早朝でも深夜でも」
「いや、まず深夜とか早朝に連絡することはないと思う。えっと、朝7時から夜10時まで。その間だけにしよう」
「はい、承知いたしました」
頷く東雲さん。
なんだか、用が無くても毎日お話くらいはしないといけない関係性まで発展してしまったような気がする。
付き合い始めたら毎日連絡を取りたいタイプなのかもしれない。わたしも若干その気があるため、それを咎めることは出来ない。
◇◇◇
こうして半ば強制的に参加させられたボランティア活動だったけれど、思いがけない関係性を構築することが出来た。
東雲さんと仲良くなれるのは良いこと。帰りにお揃いのリボンを買ったことで更にその関係は強固になったと思う。
「………」
その日の夜10時前。寝る支度を済ませてベッドの上でクラスメイトとメッセージのやり取りをしながら、改めて『東雲雪菜』という生徒のことを考える。
学校側が生徒に与える正当な評価システムOAAによると、そこには優等生そのものの成績が表れている。
----------
1-A 東雲 雪菜(しののめ ゆきな)
学力 89(A)
身体能力 76(B+)
起点思考力 81(A-)
社会貢献性 72(B)
総合力 80(A-)
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全体的にわたしの方が点数だったりランクが上という事実はひとまず置いておくとして、彼女が文武両道で品行方正という学校側が求める学生のイメージを体現している姿はきっと教師陣も一目置いているところだと思う。
誰に対しても絶対的な隔壁を置いているところは玉に瑕だけれど、それが実害に及んでいるわけではない。先の特別試験でも言葉数は多かった方だし。
そんな東雲さんは、正に人との距離感を掴むのを不得手としているらしい。と言っても、特別クラスで浮いているという話を聞いたこともない。確かな信頼を得ながら、クラスメイトと友人の間に引かれた一本線を越えないようにしていると見受けられる。
そしてそれは、故意というよりは彼女自身が自然と作り出した偶発的な隔壁であることが今日わかった。
友人との接し方が分からない彼女なりの処世術なのだと。
外見や言葉遣い、立ち振る舞いに至るまでいかにも深窓の令嬢感が出ているし、もしかしたら本当に良いところの生まれなのかもしれない。
「……そういえば」
気になっていたことを思い出す。
彼女が口にした『教官』という単語。
教官……ねぇ。小学校や中学校の先生か、塾の先生か、その他の習い事の先生……あるいは、家庭教師のような方をそう呼んでいるのか。
その姿は靄に包まれて見えない。
特別気になるという訳でもないけれど、少し言い方が気になっただけ。今時、教官なんてそうそう聞くような単語ではないから。
「ん」
と、そんなことを考えていると携帯が震える。
望月くんからのチャットだった。
内容は、
『今日は妹と遊んでくれたらしいね。
ありがとう。
話して分かったと思うけど、彼女はあんなかんじなんだ。
もしよければ今後も仲良くしてくれると嬉しい。
その代わりと言ってはなんだけど、君の知りたいことを1つだけ教えておく。』
お礼の連絡だった。
そして程なくして続けて彼からチャットが届く。
『S01T004651』
どこかで見たようなアルファベットと数字。
どこで見たっけな……。
この組み合わせ、文字数はほぼ毎日見ている気もするんだけど……思い出せない。
それに、わたしの知りたいことって?
前の特別試験の『王様』の法則性も未だに知れていないまま。ただ、コレはまた別な気がする。
ひとまず今晩は、望月くんと東雲さんの正体に迫る文字列かもと暗記しておくに留める。
【安価です。自由行動
1.1人で過ごす
2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と会う)
3.人と会う
1. 雨宮綾香(クラスメイト 白石詩波という芸能人 安価次第で音楽センスのステータスアップ)
2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
3. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
4. 望月弘人(ちょっと謎なクラスメイト)
5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒 生徒会役員)
6.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
7. 花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
8. 如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
9.四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
10.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
下1でお願いします。】
2
【>>599
2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と会う)】
生徒会主催の企画が『クイズ大会』として方向性の承認を得られたと報せを受けた日の生徒会業務終了後。
わたしはケヤキモールに来ていた。
時刻はもう19時を回っているけれど、この時間帯であってもモール内は生徒で溢れかえっている。
そういえば、本格的な夏に向けてカフェでは新作のドリンクが出たとか。やけにあちら側に人が見えるのはその効果かもしれない。
「さて」
立ち寄った明確な目的は、小説と食料品の購入。
その1つ、小説の購入は先ほど済ませた。そのためあとは食料品売り場へと行くだけなのだが……。
【コンマ判定
1・7:花菱乙葉・四条夏帆(生徒会)
2・6:佐倉新汰(生徒会)
3・9:一色楓・宮野真依(クラスメイト)
4・8:化野伊吹(2-Aの要注意人物…?)
5:「あ、あの、春宮さん」 突然声を掛けられる
0:望月弘人・早見有紗(クラスメイト
ゾロ目:笹原真中(3-A 担任教師)
下1のコンマ1桁でお願いします。
2桁ゾロ目優先です。】
あ
【>>601
6:佐倉新汰(生徒会)】
途中、わたしは方向転換をする。
さっきの通路を真っ直ぐ進んでいれば食料品売り場だったけれど、右に曲がったことで雑貨屋が並ぶ一帯へ。
風鈴や扇子、金魚や向日葵の箸置きなど季節感のある小物を視界に入れながら、手頃な曲がり角を見つける。よしよし、あそこなら人気も少ないし、あらゆる面で都合が良い。お店の人にはやや迷惑かもしれないけれど。
歩調を一切変えることなく、予定に沿って曲がり、その場で振り返って5秒ほど待つ。すると、後ろを追ってきていた人物と鉢合わせをする。
「っ、と」
「わっ、せ、先輩っ? すみません、危ないですね、この曲がり角は」
「いや、俺の不注意だ。通路も広いし、もう少し大きく回るべきだった。悪いな、天音」
「いえ、先輩が謝るようなことではありませんよ」
目の前に現れたのは、生徒会の副会長を務める2年Bクラスの佐倉新汰先輩。
好青年、という3文字がこれほど似合う人は居ないだろうなぁというのがわたしの評価。もちろん第三者的な視点の評価、OAAにおいても3学年を通してもトップクラスに総合点が高いのだから疑う余地は無い。
そんな先輩がわたしを追ってきていたことは本屋を出て少ししてから気が付いていた。流石に数多くの生徒で賑わうケヤキモールの中で誰か特定するのには骨が折れたけれど、近頃の生徒会における先輩の動向を思い出せば納得がいった。
このタイミングで接触してきたか、なんて。
「この先にご用ですか?」
「あぁ、この先に……いや、違うな。天音のことだから、全部計算尽くか? 俺が追っていることも気付いていたんだろう。思えば、何度も携帯を取り出すのも露骨すぎた」
「む、そうですか? 携帯のカメラで前髪を直す素振りをして背中の方を確認するなんて、誰でもやっていることだと思っていたのですが」
「お前なぁ……。気付いていたなら立ち止まれよ」
「目立つところで立ち止まっても良かった、と?」
「そういう話じゃない。まぁいい、お前はそれくらい好戦的な方が良い」
好戦的……というより、生意気な後輩?
いくら同じ生徒会に属していて距離が縮まっているからといって、少しやり過ぎたかもしれない。
胸の内で反省をして、本題を促す。
「わたしに何かご用ですか? 近頃、先輩がわたしの方をチラチラと見ていることと何か関係があるのでしょうか」
「気付いてたなら言えよ。でも生徒会だと乙葉先輩にドヤされるか。言わなくて正解だ、助かった」
「乙葉先輩も気付いていましたけどね。セクハラを受けてるなら相談して、とも言ってくれました」
「ぐ……。ほんとあの人は……」
こめかみに手を当てて「はぁ」と溜め息を吐く先輩。いけない、本当に意地悪をし過ぎている。
今度こそ本題へ。明日も学校だし。
「ここじゃあ人通りが全く無いわけじゃない。夜はまだか? よければ一緒にどうだ」
「ありがとうございます。ぜひ、御相伴に預からせて下さい」
「よし、じゃあ行くか」
先輩の隣を並んで歩く。
思えば、こうして男の人と並んで歩くのは……あぁ、ほぼ毎日、神宮くんと生徒会室まで行ってるっけ。それを除けば、初めてのような気がする。
先輩は目測で180cmくらいはあるし、並ぶと私の背の低さが際立つ。どうにかして背を伸ばしたいところだけれど、高校生になってしまった今ではそれも難しい。
「何がいい、奢るぞ」
「今日はお魚の気分です! お刺身、煮付け、フライもいいですね」
「じゃああそこにするか」
先輩には思い当たるお店があったようで、迷いなくお店へと向かう足が進む。
道中、学校に慣れたか、とか、生徒会に慣れたか、とかそんなことを話した。他の人に聞かれても困らないような他愛のない雑談を。
そうこうしていると高そうなお店に着く。
店構えからして1人あたり4000ポイントはしそう。既に入っている客層的にも、あまり学生向けではないかもしれない。ほとんどがこの敷地内で働く大人たちだった。
「よくいらっしゃるんですか?」
「あまり聞かれたくない話をする時とかな。見ての通り、学生は皆無だ。大人に聞かれる分には構わない」
確かに一介の高校生にディナーで4000円相当はお小遣いの日ーーーーーーつまり、この学校においては毎月1日のポイント支給日のような特別な日でなければ難しい。
わたしも覚えておくことにしよう。このお店は、今後誰かと内緒の話をするのにはちょうど良い。
「遠慮するな、好きなのを頼め」
「では、お言葉に甘えて」
と言っても、値段の書かれたメニュー表を見てわたしの食欲は削がれている。1人あたり6000ポイントは下らない。日本酒を嗜む大人はそれ以上か。
本当に大人向けのお店なんだなぁと思いながら、可能な限り安めでシェアできる料理を挙げていく。
注文を終えると、いよいよ本題に入るらしい。
「まぁ、なんだ。駆け引きとか見栄は苦手だからな。単刀直入に聞きたい。今度の試験、お前は1位を取りに行くのか?」
今度の試験。
それは、先日聞かされた7月下旬の無人島サバイバルの試験のこと。
期間は7日間。無人島で「ここへ行け」という指示に従う他、学科テストやビーチフラッグなどで得点を稼いで順位付けをするといった内容。
確か、1位を取れば300クラスポイントと200万プライベートポイントだったか。非常に魅力的で、喉から手が出るほど欲しいと感じる生徒も多いはず。
「運動部との対決、中間テスト、そしてOAAの評価を見ればお前が優勝候補だってことは誰にでも分かる。もし本気で1位を取りに行こうとするのであれば……」
「止めますか? 先輩のクラスが化野先輩の居るAクラスに勝つために」
「いや、止めない。むしろ1位を取って欲しいと思っている。あいつのクラスに1位を取らせたら、それこそどうしようもなくなる」
化野先輩が率いる2年Aクラスと新汰先輩が率いる2年Bクラスのポイント差は121ポイントだったはず。次の試験でどちらかが1位を取れば、その差は逆転するか大きく引き離されるか。
もしBクラスが勝てば逆転となるけれど、その筋を潰して欲しいと先輩は言う。
「で、どうなんだ実際のところ。前に乙葉先輩が聞いてきただろ。もし無人島生活をするとして、上手く過ごしていけるかどうか」
5月30日の生徒会室にて、確かにそう聞かれた。
あのときは謙虚な姿勢も保ちつつ、やんわりと否定していた気がするけれど、実際は自信満々だった。
試験の概要が発表された今、それはほとんど確信も同然。きっとわたしなら誰よりも早く目的地まで走れるし、学科テストでもビーチフラッグでも1位を取って、その先の総合優勝を狙えると思う。
問題は、そのやる気があるかどうか。
1人で挑んでクラスに貢献するか、誰かと一緒に7日間を過ごしてその人がペナルティを受ける可能性をほぼゼロにするか。
本当は試験の本告知があってから決めようと思っていたけれど……どうしようかな。
【安価です。次の無人島試験の方針。
1.1人で優勝を狙いに行く
2.他の誰かと一緒に試験に挑む
ここでの選択肢が最終の方針になります。
1を選んだとき、実際1位を取れるかはコンマ判定にもよりますが、そこそこの確率で1位を取れます。
下1でお願いします。】
2
エタってしまったか…
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