【ミリマス】矢吹可奈「思いを歌に込めて」 (155)

―可奈ちゃんはなんでもできて凄いねえ

小さいころから、ずっとそう言われ続けてきた。

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―矢吹さん、これもできるなんて凄いわね!

お絵かきや楽器の演奏、上手にできると先生や周りの大人の人はたくさん褒めてくれた。

―可奈ちゃんこれもできるの!?すごーい!

お友達に羨ましがられることもよくあった。

―可奈ちゃんは天才だなあ


それ自体はすごくうれしかった。

だけど……

だけど、その次に言われる言葉はずっと変わらなかった。


――だから矢吹さんは歌以外のことに挑戦してみない?

――可奈ちゃん、歌よりぜったいそっちの方が伸びるって!

――可奈ちゃんはこっちの道に進んだ方が絶対にいいよ!




私の一番好きなこと―歌うことを褒めてくれる人は、誰もいなかった。




~~♪~~♪~~



「別の世界につながる電話?」

「うん、今日友達から聞いたんだけどね―」

学校が終わるといつも通り劇場へ。レッスンまではまだ時間があるからみんなのたまり場になっている控え室で時間をつぶしていた。
学校の宿題をやったり、置いてある雑誌を読んだり、発声練習をしたり……途中で怒られちゃった。

怒られた後くらいにやってきた未来ちゃんと一緒にお話をしていると、その話題になった。


「いつの間にか手元にあって、かけると別の世界の人と電話できるんだって」

「へえ~。どんな人とつながるんだろう」

もしかしたらお友達になれたり~なんて。

「馬鹿ね。そんな話あるわけないでしょう」

すると、私たちの向かいで雑誌を読んでいた志保ちゃんが話に割って入ってきた。ちなみにさっき私にうるさい!って怒った張本人だったりする。


「あ、志保いたんだ」

「さっきからいたわよ」

はあ、っと一つため息をついてから志保ちゃんは話をつづけた。

「よくあるオカルトでしょ?作り話よ」

「そんなことないよう!友だちが知り合いが見たって言ってたもん」

「作り話の常套句じゃないのそれ……だいたい、電話ってどんな電話なのよ」

「えっとね……あれ?携帯だっけ、家にかかってくるんだっけ?」


「ほら、所詮噂話なんてその程度よ」

ブーブー文句を言う未来ちゃんをよそに、言いたいことは言い切ったとでもいうように志保ちゃんは意識を雑誌に戻した。

やっぱり作り話なのかなあ。でも本当にあるといいと思うなあ。別の世界ってどんな人が住んでるのかなあ、とか。別の世界の私は何をしているのかなあ、とか。


「可奈、志保、いるか?」

突然、控え室に男の人の声が響いた。プロデューサーさんだ。

「あ!プロデューサーさんだ。お疲れ様です!」

「お疲れ様ですプロデューサーさん。何か用ですか?」

「お、未来もいたのか。ほら、この前二人でゲームイベントの仕事しただろ?評判が良かったって先方から褒められたぞ」

「本当ですか!?やったあ!」


この前、私と志保ちゃんにオファーが来た。新作ゲームのお披露目イベントで、私と志保ちゃんはイベントのMC。

「大成功だったよね!」

「ええ。お客さんも盛り上がってくれてたわ。それにしても、可奈って音ゲー上手だったのね。意外だったわ」

イベントの中で、新作タイトルの一つの音ゲーを私と志保ちゃんでデモプレイさせてもらった。志保ちゃんは何とかクリア、私はなんと満点だった。


「えへへ♪クラリネットやってたからかな?リズム感には自信があるんだ~♪」

「そういえば歩さんも可奈のリズム感がいいからリズムに合わせて踊りやすかったって言ってたわね」

歩さんと一緒にオファーを受けたときのことかな。私のカスタネットに合わせて歩さんがダンスをしたやつ。
いきなりだったけど歩さんのダンスが凄かったから私も楽しくなっちゃったな~。


「可奈って結構なんでもできるわよね」

突然志保ちゃんがそんなことを言い出した。未来ちゃんも確かに~って頷いている。

「え?そうかなあ」

「楽器できるし、運動神経も結構いいよね~。この前サーカスで綱渡りやってたよね」

「絵も結構上手いのよね、この前のライブで書いてた絵、上手だったわ」

「も、も~そんなに褒めてもなにもでないよ~♪えっへへ~♪」

褒められるのはうれしいけど、ストレートに褒められると恥ずかしくなっちゃうよね。


「まあ、歌の方はもうちょっと練習が必要みたいだけど」

「ズコー!……う、歌も少しずつ上達してるもん!」

最近はハトさんも最後まで聞いてるし上達はしてる!たぶん。……たぶん!

「さ、おしゃべりはこれくらいだ。そろそろレッスンの時間だろ?」

プロデューサーさんがパンっと手をたたいた。時計を確認するとレッスンの時間まであと10分もなかった。

「うわあ!もうこんな時間!志保、可奈、早く行こう!」

「あ!ちょっと待って、未来」

未来ちゃんが真っ先にバタバタとレッスンルームへ向かってその後を追うように志保ちゃんも控室を出ていった。
私もそのあとを追って控室を後にした。






~~♪~~♪~~




今日のお仕事はグラビア撮影!プロデューサーさんはこの前の制服のグラビア企画がとっても好評だったから第二弾だって言っていた。

だから今日は、またみんなとお揃いのあの制服に着替えての撮影。前回は給食の時間だったから、今回は放課後の時間だって言ってた。

「じゃあ可奈ちゃん、次の撮影行くよ」

「は~い!」

放課後だから、部活の風景も撮ってくれるらしい。そういうわけで、次の撮影場所は音楽室。音楽室と言えば、魅裏音の撮影を思い出すなあ。あの時は夜の音楽室で思いっきり歌ったっけ。今回も歌ってるところかな?


「えーっとそれじゃあ可奈ちゃん、好きな楽器持ってくれる?」

「はーい……えーっと、マイクでいいですか?私、マイマイク持ってきてるんです!」

「あー、今日の撮影は吹奏楽部って体だから普通に楽器を持ってほしいかな?」

「ええー!合唱部じゃないんですか!?」

「この前そらさんにマイク持ってる姿取ってもらってるからねえ。それに、ちゃんとした楽器持ってた方が写真映えするし、確か可奈ちゃんクラリネットできたよね?」

「はい、そうですけど……」

「じゃあ丁度よかった!クラリネットもあるし、それでいこう!」

「はーい……」

マイクをしまって、カメラマンさんに言われたとおりクラリネットを手に取って構える。クラリネットもいいけど、やっぱり歌う方がよかったかなあ。でも、たしかにこの前マイクを持ったところは取ってもらってるし。ちょっと複雑かな~。


「いいよ~可奈ちゃん。そのまま何か演奏してみて」

「はあ~い」

そのままクラリネットを口にくわえた。何を吹こうかな?せっかくだから私の歌とかでいいかな?

「~~~~♪」

「おっ!うまいうまい!そのまま続けて!」

私が演奏している間、カメラマンさんはシャッターを切り続けていた。他のスタッフさんは私の演奏に聞き入ってくれているみたいでちょっと嬉しい。


「うん。いい演奏だったよ!上手だね、可奈ちゃん」

「えへへ。ありがとうございます!」

やっぱり褒められると嬉しいなあ~気分ウキウキ~♪

そのあとも、美術室に図書室、いろいろな場所で写真を撮った。
可奈ちゃんほんと、なんでも似合うねとカメラマンさんは褒めてくれて、大満足で帰って行った。




~~♪~~♪~~



「矢吹さん。ちょっといい?」

おっひる~おっひる~♪今日の給食なーにっかな~♪
と言ってウキウキになるほど待ち遠しかった給食の時間も終わたある日のお昼休み、隣のクラスの子に声をかけられた。

「うん。いいよ?」

そういうと私は二人に廊下へと連れていかれた。

「この前のことだけど……」

「あー……」


この前のこと、というのは私に吹奏楽部に入ってほしいということ。この二人は吹奏楽部の子で、一人はこのまえ代替わりした新しい部長さんで、もう一人はクラリネットのパート長さん。以前から私のことをとっても熱心に吹奏楽部に勧誘してくれている。
前に劇場のみんなでマーチングのお仕事をしたときにプロデューサーさんにこのことを自慢したこともあったけど、やっぱり私の答えは決まってるいるから―。

「ごめんね。何回も誘ってくれるのは本当に嬉しいけど……」

やっぱり、アイドルをしていると時間は足りないし、もう私は合唱部に入っているし。……合唱部の方も全然参加できていないけど。
だからいつも通りやんわりと断ろうとした。


「でも、矢吹さんがウチに入ってくれると本当に助かるの」

「この前、テレビで可奈ちゃんたち合奏してたでしょ?とっても上手だったわ」

「え、えへへ♪そうかな……ありがとう、でもやっぱり、今はアイドルで忙しいし……」

「……正直、可奈ちゃんは私よりも上手いと思った」

そう言ったのはパート長の子。

「今まで一生懸命練習して、先輩からこのパートを引き継いで、私もそれなりに上手い自信はあったけど、テレビで見た可奈ちゃんも私に負けないくらい上手だった。きっと真剣にやったら負けちゃうと思う」

いつも以上に真剣な目。その目がまっすぐに私の目を射抜く。


「可奈ちゃん、たいして練習はしてなかったんだよね?」

「え、えっと……本番までに少しは……」

「それだけでできるなら十分才能だよ。可奈ちゃん絶対に才能あるって!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」

「可奈ちゃん、絶対にこっちのほうがいいよ!絶対に歌よりも才能があるって!」

「っ!?」

パート長さんは私の両肩に手を置いて言う。その言葉に胸がズキッとした。

ちょ、ちょっとそれは言い過ぎよ」

私の反応で察したのか、部長さんがパート長さんをたしなめるように言う。



―キーンコーンカーンコーン。


ちょうどそこでお昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

「……少し、考えてもいい?」

「いいよ。また聞きに来るから」

「ごめんなさい。あの子も悪気はないんだけど。でも、矢吹さん。あなたの才能を貸してほしいのは私も同じなの。だから、いい返事を待ってるわ」

そういって二人は自分のクラスへと戻った。
私も胸の奥がズキズキとしたまま、次の授業のためにクラスへ戻る。

その日、一日私の胸のズキズキが取れることはなかった。




~~♪~~♪~~



「はあ~」

ため息をつきながら、とぼとぼと帰り道を歩いていく。

『可奈ちゃん絶対こっちのほうがいいよ!歌よりも絶対に才能あるって!』

お昼休みにあの子に言われたことがまだ心の中で渦巻いて残っている。
確かに、クラリネットの方がこの前のカメラマンさんが絶賛してくれたみたいに褒められることのほうが多いけど……。
そういえば、クラリネット以外でも絵とか演技とか、いろいろなことで褒められることはあったけど歌で褒められたことって……。うぅ。
褒められるのは嬉しいしいけど、私の中ではそれ以上に上も下も考えたことがなかったから、少しショックを受けた。

「はあ~……」

夕日が私の進行方向に長い影を落とす。街灯の電気がポツリポツリと点き始めていた。見つめているとそのまま影の中からもう一人の私がでてきそうなくらい―。
 


「……でも、もっと練習して上手くなれば歌も褒めてくれるよね!」

そう思うとくよくよしてても仕方がないよねって気持ちになってきた。

「めげない~♪あきらめな~い♪いつか歌姫になるかな矢吹可奈~♪」

やっぱりこういう時は思いっきり歌って、悲しい気持ちは吹き飛ばしちゃえ!だんだんと心が晴れてきて、明日からまた頑張ろうって気持ちになる。

とりあえず、気分転換にプチシューを食べよう。志保ちゃんに食べすぎはダメだって言われているけど、今日くらいはいいよね?


「プチシュープチシュ~……ん?なんだろう、これ」

ガサゴソとカバンの中を漁ってると、カバンの底で何か固いものに手が当たった。そんなもの、何か入れてたっけ?

「これって、携帯?」

気になって中から取り出してみるとそれは携帯だった


「こんな携帯、誰か持ってたっけ?」

その携帯はカバーもストラップもついていない、丸裸の無機質な携帯だった。こんな携帯、誰か持ってたかなあ。もちろん私の携帯じゃない。

「とりあえず、明日みんなに聞けばいっか」

取り出した携帯をいったんカバンに押し込み、帰り道を急いだ




~~♪~~♪~~



「やっぱりみんな違うよねえ」

自分の机の上に置いた例の携帯を眺めながら私はそう呟いた。

次の日、劇場でみんなに聞いて回ったけど、誰もこの携帯は見覚えがないらしい。一応、プロデューサーさんや美咲さんにも聞いてみたけど、心当たりはないって言ってた。

スタッフの人の携帯が紛れ込んじゃったのかなあ。でも昨日はスタッフさんとは会ってないし……。

そういうわけで、持ち主のわからない携帯は私の手元に残ったまま、また私の家へと戻ってきた。

いうわけで、持ち主のわからない携帯は私の手元に残ったまま、また私の家へと戻ってきた。


―ブーッ!ブーッ!!


「うわっ!?」

突然机の上の携帯がブルブルと震え始めた。知らないメロディだけど、誰かがかけてきたみたい。誰からだろう。
表示された電話番号は当然、私の知らない番号だった。

「だ、誰からかな……?」

勝手に出たりしたらダメだよね?
どうしていいかわからずにただ携帯をみつめていたら、ピタッと鳴りやんだ。相手の人が切ったみたい。
もう一度携帯を手に取ると、着信メッセージが届いていた。かけ間違いかな?
やっぱり、明日プロデューサーさんに言ってスタッフさんに聞いてみたほうがいいよね……?


「……ってまた来た!?」

あれこれ考えてるとまた携帯が震えだした。また、何も表示されてないし、多分さっきと同じ人かな?かけ間違いじゃなかったら、何か急いでることでもあるのかな?

「うう~可奈は人違いかな~……」

今度は相手の人も諦めないようで、なかなか電話を切らない。だからいつまでも私の手の中で携帯は鳴り続けている。まるで「はやく電話にでて!」って言ってるみたい。やっぱり、とっても急いでるのかなあ……。

いつまで待っても携帯が鳴りやむ気配はなくて、どうすればいいかわからなくなってきた。
本当になんなんだろう、この携帯。そもそもいつ私のカバンの中に……

「……あ」


『―いつの間にか手元にあって、かけると別の世界の人と電話できるんだって!』

思い出した。この前劇場で未来ちゃんが言ってたんだ。
確かに昨日気が付いたらカバンの中に入っていたし、誰のかもわからないけど……。ということはこの携帯ってもしかして……

「別の世界につながる、携帯……?」

すごい!本当にあったんだ!じゃあ、今かけてきてるのは別の世界の人ってことかな?それじゃあ出ても大丈夫だよね。

なんだか心が軽くなった。ふう、と一呼吸おいて、私はずっと鳴っている携帯の音を止めて、耳に当てた。

「も、もしもし!あ、あああああの!別の世界の人ですか!?」

これで相手が普通の人だったらどうしよう。変な人って思われちゃうかな。その時はちゃんと謝って明日プロデューサーさんにこの携帯のことを言おう。


『…………』

「あれ?もしもーし、聞こえてますかー?」

予想に反して相手の人の声が聞こえない。……もしかして、いたずら電話?

「もしもーし。おっかしいなあ……」

『…………い』

ボソッと何か聞こえた。相手の人かな?


「あ、よかったあ。ちゃんと聞こえてるみたいだね」

『…………っそい』

「え?」

『遅いって言ってるの!なんですぐに出ないのよ!?いつまで待たせるつもりだったの!?』

「え、えーっと。ごめんなさい……?」

電話の向こうの相手は、かなり怒ってるみたいだった。




~♪~♪~♪~


『ほんっと、いつまで待たせるつもりだったわけ!?』

「ご、ごめんね?」

電話に出ていの一番に知らない人から怒られるってなかなかないと思う。
相手の人はかなり怒ってるみたいで、電話にでてからずっとガミガミ怒ってる。

『何回かけてもぜんっぜん出ないし。なんででなかったのよ?』

声と話し方的に女の人なのかな?結構気の強そうな子だけど。

「し、知らない人からだったし、誰かの携帯だったら勝手に出ちゃ悪いかなって……」

『にしてもこれだけかけてくるんだから折り返しでかけなおすぐらいしなさいよ!』

「ごめんなさい……」

『…………ふん!』

い、一応落ち着いてくれたのかな……?それっきり相手の人は黙りっぱなしになった。


「あ、あのー……」

だから私から話を切り出すことにした。

『……なに?喋るならもっとはっきりと喋りなさいよ』

ひいー!まだ怒ってるよー!

「ご、ごめんね?えっと、あなたは本当に別の世界の人、なんですか?」

『……アンタもこの携帯のことは知ってるのね』

「う、うん。気づいたら私のカバンの中に入ってて……」

『私もよ、気づいたら手元にあったわ』

「じゃあ、やっぱりこれ、別の世界につながる携帯、なのかな…?」

『まあ、たぶんそういうことでしょうね』

やっぱり、本当にあったんだ。別の世界につながる携帯。
私も志保ちゃんみたいに、心のどこかでは半信半疑だったからとても驚いている。


『でもどうかしらね?お互い、案外近くにいたりするんじゃない?』

「ええー!じゃあ、直接会えたりするのかなあ?私は港北区だけど……」

『え!?私も港北区なんだけど!』

「ええ!?」

こんな偶然ってあるんだ!

「じゃあ、私たち別の世界の同じ場所にいるってこと!?」

『かもしれないわね。そういえばアンタ、名前は?』


「え?」

『な・ま・え。まだ聞いてないでしょ』

「あ、そういえばまだ自己紹介してなかったよね」

そういえばお互いまだ名乗ってなかったんだ。いろいろあって忘れちゃってた。

「や、矢吹可奈。14歳です!アイドルやってます!」

あ、いつものオーディションとかの自己紹介みたいにやってしまった。

『………え、アンタ。アイドルなの?』

すると、相手の子は驚いたように私に聞き返してきた。

「そうだよ。765プロでアイドルやってるんだ」

あれ、でもアイドルってことは言わないほうが良かったのかな。プロデューサーさんも知らない人には気をつけろって言ってたし。この子が悪い子だとは思わないけど。


『…………』

「あれっ?おーい」

『えっ!ええっと、765プロってあの765プロよね?如月千早とか』

「うん。やっぱり千早さんたちは有名なんだ~。私もいつか千早さんや春香さんみたいにすごいアイドルになりたんだ~」

『待って、765プロでアンタの名前なんか聞いたことないけど』

「えっ!?」


どういうことだろう。確かに私たちがアイドルになる前は春香さんたち13人だけだったけど……。

「えーっと765プロライブ劇場って聞いたことないかな?」

『なにそれ、知らない』

「えっと……私たちは劇場って言ってるんだけどね―」

そのあとも私は劇場について説明してみたけど、相手の子はあまりピンと来てないみたいだった。

『聞いたことないわね。それにその場所って別の建物があった気がするんだけど』

「ええー……そんなことないんだけどなあ。結構大きな建物だよ?」

『……調べてみたけどやっぱりそんな建物ないわね』

「ってことはやっぱり……」

『……私たち、本当に別々の世界にいるみたいね』

別の世界に繋がる携帯。頭の隅ではそんなわけないよねって思ってたけど、やっぱりホンモノなんだ。
それに、向こうは劇場がない。
私たちがアイドルになっていない世界。
向こうの私は何をしているのかな。やっぱり歌は大好きなのかな。

『で、アンタは別の世界で765プロでアイドルやってるってわけね?』

「そうだよ~。歌うのが好きなんだ~」

『…………へえ』

……?どうしたんだろう。ちょっと間があったけど。

「……?どうしたの?あ!もしかして、あなたもアイドルが好きなのかな!」

765プロの先輩たちのことは知ってるみたいだったからアイドルには興味があるのかな?

『……別に、知ってるだけで興味はないわ』

「ええ~?本当かな~?あ、さっき千早さんの名前出してたけどもしかして千早さんが好き?」

『だからそういうのじゃ……まあ、如月千早はすごいと思うけど』

わあ!別の世界の子と憧れの人が被るなんて思わなかったな~。

「やっぱり~。私も千早さんに憧れてるんだ~。あっ千早さんが好きってことはもしかしてあなたも歌が好きなのかな~?」


『嫌いよ』

「えっ」

今までで一番冷たい声。吐き捨てるような言葉が耳に届いた私はただ言葉を失うしかなかった。

『嫌い。大っ嫌いよ、歌なんて』

電話の向こうから、自分に言い聞かせるように何度も嫌いという言葉が聞こえた。

「そ、そうなんだ……」

それっきり、お互いに黙り込んでしまって。しばらくの間、気まずい空気が電話越しに流れた。
なんて言葉を駆ければいいか考えていると、先に沈黙を破ったのは相手の方だった。

『……ごめん、アンタに言ってもどうしようもなかったわね。もう切るわよ』

「まっ……待って!」

電話を切ろうとしていたところを私は必死に呼び止めた。


『……なに?』

「わ、私はもっと、あなたとお話したいなあ……なんて」

『はあ?』

今電話を切ったらダメ。なんでかはわからないけどそんな気がした。

『さっきのでわかったでしょ。私と話なんかしても得することなんかないわよ』

「そんなことないよ!それに歌が嫌いなのも何か理由があるんだよね?」

『……知ってどうするのよ。どうせなんにもできないでしょ』

「うぅ……。確かに何もできないかもしれないけど……。でも!せっかくお友達になれたんだから、悩みを聞くくらいなら私でもできるよ!」

『…………』


ダメ、かな?さっきとは別の意味で、なんとも言えない空気が漂っている……。

「どう、かな……?」

『……夜ならいつも暇よ』

「えっ?」

『だから、夜なら相手できるって言ってるの!それでいいでしょ』

「……や、やったー!」

『ああもう、うるさい!耳元で騒ぐな!』

えへへ。怒られちゃった。


『とにかく、もう遅いし今日は切るわよ』

「うん、明日も絶対に電話かけるからね!」

『はいはい、わかったわよ』

「あっ、そういえばまだ名前聞いてなかったよね」

そういえば私が名乗ったっきりでまだこの子の名前を聞いてなかった。なんだか話しづらいなって思ってたけどこれのせいだったんだね。


『………………』

「あれ?おーい!」

『…………ユキよ』

「へえ~ユキちゃんかあ。よろしくね!」

『よろしく。じゃあ、切るわよ』

「うん!おやすみユキちゃん!」

そう言ってユキちゃんは電話を切った。

こうして、この日から世界をまたいだ、私とユキちゃんの奇妙な交流が始まった。
そういえば、ユキちゃんの声ってどこかで聞いた気がするんだよね。劇場のみんなじゃないと思うけど、誰だったかな。




~~♪~~♪~~



次の日から、私とユキちゃんは毎晩電話でお話をするようになった。
最初のうちはずっと私からかけていたけど、最近ではあの日みたいにユキちゃんの方からかけてきてくれることもある。少しずつお互いの距離が縮まってる気がする。


ここ数日でユキちゃんのことも少しだけわかってきた。
本名はクニベユキちゃん。年は私と同い年、性格はちょっと水桜ちゃんみたいな子。だけど、根は結構素直。この前一方的に私が話しすぎて途中で謝ったんだけど、怒るかと思いきや、楽しかったからいいってちょっと小声で言ってくれた。

「あっ!これビデオ通話できるんだ。やってみない?」

『えっ………遠慮しとくわ』

「えーっ!なんでー?」

『は、恥ずかしいからよ』

「そんなことないよー。ほらほら~」

『うわっ!ちょっと、やめなさいよ!』

「えー!なんで顔映してくれないのー?」

『だから恥ずかしいからって言ってるでしょ!』

「そんなことないのに~」

お話って言ってもこんな感じの他愛もない話だけど。


「でね、この前のテストで赤点取っちゃって、補習が大変だったんだよ~」

『赤点って……今の時期にそんなこと言ってたらヤバいんじゃないの?』

「ううっ……、勉強ももう少し頑張らないと~」

そうそう、ユキちゃんは結構なんでもできる子だった。頭もいいし、運動も結構できるほうみたいなことを言っていた。大したことないわよって言ったその時のユキちゃんはちょっとかっこよかった。

だけど、ユキちゃんが歌が嫌いな理由はまだ教えてくれなかった。



「可奈、仕事のオファーが来たぞ」

レッスンで劇場に来たある日のこと。プロデューサーさんが私に仕事のオファーを持ってきた。

「どんなお仕事ですか?」

「ドラマのちょい役だ。先方がスタエレのドラマを見て可奈の演技が気に入ったって言ってな」

そう言ってプロデューサーさんはドラマの台本を取り出した。

「今回はちょい役だが、可奈の演技がかなりお気に入りだったみたいでな、今回の演技次第で次は主役級もあり得るってさ」

「…………」

「?どうした?何か気になることでもあったか?」


プロデューサーさんは心配そうに私に声をかけた。

「あ、えっと……違うんですけどそうじゃなくて……あっ!お仕事はとっても嬉しいです!ただ……」

「ただ?」

「あのっ……私、もっと歌のお仕事がしたいです!」

私がそう言うと、プロデューサーさんは少しだけ目を細めた。

「いろんなお仕事に挑戦できるのはすごくうれしいです。けど、もっと歌うお仕事もしたいかな~って……」

「…………」

プロデューサーさんは何も言わない。ただ、私を見定めるように、じーっと私のことを見下ろしていた。

そのあと、頭の後ろをポリポリと掻くと、少しマジメなカオになった気がした。


「ま、今は我慢の時だな」

「我慢……ですか?」

「人間、思いがけないところで評価されることって結構あるんだよ。今の可奈はいろいろなところで評価されている。それはわかるな?」

「は、はい……」

そのことは嬉しい。けど……。

「だから可奈の歌が埋もれがちになってる。これは事実だ」

「そう、ですよね……」

「アイドルとして売れるなら武器は多い方がいい、それこそ色んな特技や才能があるならそれに越したことはない。だから今の可奈はとてもチャンスではある。伸ばせるものはどんどん伸ばせばいい」

「それは、そうなんですけど……」

そこで一度プロデューサーさんは俯いている私の頭の上にポンッと手を置いた。


「なあ、可奈。歌うの好きか?」

「……?はいっ!大好きです!」

顔を上げて答えると、プロデューサーさんはニヤっと微笑んだ。

「じゃあ大丈夫だ。その気持ち、忘れるなよ?」

そして、置いた手でクシャクシャと私の頭を撫でた。やっぱり、プロデューサーさんのゴツゴツとした大きな手はちょっとだけ安心する。


「……?どういうことですか?」

「ま、それはいずれわかるさ。ただ、その気持ちは可奈の歌にとって大きな武器になるはずだ。とにかく今いえるのは今が我慢の時だってことだな。」

「もっと、上手になればいいってことですか?」

「それもひとつの手ではあるな。というか評価されるならそれが一番手っ取り早い。けど何も方法は一つじゃないさ」

プロデューサーさんの言っていることは少し難しくて、私にはよくわからなかった。

「さ、そのためにもまずは練習あるのみだな。そろそろレッスンだろ?」

「あっ!本当だ!」

「まずは自分の思うようにやってみろ、ダメだったらまた別の方法を考えるしかないけどな」



「あっ!おーいプロデューサー!」

丁度その時、向こうから海美ちゃんがこっちに走ってきた。その後ろに紗代子さんもいた。

「ん?どうした海美?」

「これから、海美とランニングに行くつもりなんですけど、プロデューサーも一緒にどうですか?」

プロデューサーさんはよく海美ちゃんや紗代子さんのランニングに付き合っている。劇場ができる前から真さんのランニングにも付き合っていたらしい。

「おっ、いいぞ。どれくらい走るつもりだ?」

「うーんと、とりあえず10キロくらいかな!」

そ、そんなに!?私はさすがについていけないかなあ……。


「了解。一回着替えてくるから先に行っててくれるか?」

それに平然とついていってるプロデューサーさんも、やっぱり男の人なんだなあって感じる。
そういえば、前に海美ちゃんがプロデューサーさんの体のこと褒めてたよね。骨がガッチリしてるからガタイもいいって。

「わかった!かなりんも一緒に行かない?」

「わ、私はこれからレッスンだから……」

「そっかあ、残念。じゃあ、プロデューサー!前の広場で待ってるからねー!」

「あっ!待って海美!」


そういって海美ちゃんは走っていってしまった。紗代子さんもすぐに後を追っていった。
でも、レッスンがなくても10キロはさすがに走れないかなあ……


「さて、俺も着替えてこないとな。それじゃあレッスン頑張れよ」

「はい……」

「あ、そうだもう一つ。可奈―」

「はい?なんですか?」

一呼吸おいてプロデューサーさんは口を開いた。

「選ばれなくても、愛することはできるさ」

やっぱり、プロデューサーさんの言うことはよくわからなかった。

眠いのでいったんここまで

一旦乙です




~~♪~~♪~~



今夜もいつもの時間にユキちゃんに電話をかけた。
話の内容は、いつも通りレッスンがどうだったとか。

「ユキちゃんはどうだった?」

『そうね、いつも通りだったわ』

「む~。ユキちゃんいつもそうだよね』

『普通に暮らしていたらそんなに変わったことなんか起こらないわよ』




~~♪~~♪~~



今夜もいつもの時間にユキちゃんに電話をかけた。
話の内容は、いつも通りレッスンがどうだったとか。

「ユキちゃんはどうだった?」

『そうね、いつも通りだったわ』

「む~。ユキちゃんいつもそうだよね』

『普通に暮らしていたらそんなに変わったことなんか起こらないわよ』


「どうかしたの?」

『なんでもない………あら、もうこんな時間ね。今日はもう終わりにしない?』

「ええ~?」

『アンタだって毎日電話してるけどテスト、やばいんじゃないの?』

「うぐ、それを言われると~……」

別の世界の人からもテストの心配をされるとは……ぐぬぬ。

『てことで、テスト勉強くらいしなさいよ』


「じゃあまた明日!おやすみ、ユキちゃん」

『はいはい。おやすみなさい』

そう言って私は携帯を耳から離した。
ん~。ユキちゃんの言う通り、ちょっとだけ勉強しようかなあ。携帯を机の横に置いて、カバンの中から教科書を取り出す。

………うぐぐ。全然わからない。このままだとまた赤点を取っちゃうよー!この教科の先生、結構怖いんだよねえ。
誰かに電話して聞こうかなあ。志保ちゃんまだ起きてるかな?あ、でもこの時間はいつもりっくんが寝る時間だから一緒に布団に入ってるって言ってたっけ。だったらかけても出ないよね。他には―

「あっ!」

ユキちゃんに聞けばいいんだ。成績もいいみたいだったしさっきまで一緒に電話してたんだからまだ起きてるよね。えっと携帯携帯……

『――』


「えっ?」

横に置いていた携帯から音がした。まだ手に取ってもいないのに。もしかして、お化けとか!?

……あれ?まだ通話状態になってる。
そういえばいつもユキちゃんから切ってたっけ。ユキちゃんが切り忘れて、私も気づかなかったのかな?

とりあえず通話を切ろうと携帯を手に取った。
だけど、終了のボタンを手にかけようとしたその時―


『~~~♪』


電話の向こうから歌声が聞こえた。電話越しだし、ちょっと離れているみたいだからしっかりとは聞き取れなかったけど。
そ、それより!この声ってユキちゃんだよね!?あのユキちゃんが歌ってるの!?

頑張って耳を澄ましてユキちゃんの歌声を聞く。もうそれ以上近づけてもどうにもならないのに、携帯を耳に押し当てていた。

あのユキちゃんが歌っている。あれだけ歌は嫌いだって言っていたユキちゃんが。やっぱりユキちゃんが歌が嫌いなのって何か理由があるんだよね。

でも、少しすると歌声は止まった。そのあと、「はあ」とため息も聞こえた。なんでユキちゃんがため息をついたのかは、ここからでもわかってしまった。だって―


「……歌、歌うんだね」

『…?……はっ!?』

ドタバタという音がした。かなり慌ててるみたいだった。向こうで必死に電話を探している様子がなんとなく思い浮かぶ。でも、携帯は多分机の上にあるんだよね。

『………聞いてたの?」

「うん。……ちょっとだけ」

そういってしばらく沈黙が続いた。顔はわからないけど、なんとなく携帯を挟んで苦い顔をしている気がした。


『…………はあ、ほんっと最悪。でもこれで分かったでしょ?だから歌なんて嫌いなのよ』

そう、ユキちゃんの歌は音程は少しズレていて、リズムも所々おかしくて、お世辞にも上手とは言えなかった。まるで……まるで、私の歌みたいに―。

「わ、私はユキちゃんの歌、好きだよ?」

『お世辞なんかいらないわよ。わかってるから、ヘタクソってことくらい』

返す言葉がなかった。だって、ユキちゃんの気持ちはわかるから。でも……!

『歌うたびに気まずい顔されて、好きになれるわけないじゃない』

ユキちゃんは消えそうな声でそう呟いた。
でも、確信した。やっぱりユキちゃんは歌が好きなんだ。ちょっと強がってるだけなんだ。
こういうときは―。


『……ごめんなさい。切るわ』

「……へ、ヘタクソなんてどうってことな~い!これっぽっちも気にしな~い!私もユキちゃんもおなじさ~♪」

咄嗟に、口が動いた。だって、絶対に切ったらダメだって。そんな気がしたから。

『…………なにそれ』

「えへ。矢吹可奈14歳!特技は何でも歌にすることです!……なんちゃって」

オーディションの自己紹介みたいに。ユキちゃんが審査員さんだったらどんな反応かな?音程がダメですね。とか言われちゃうのかな。


「どうだった?」

『どうって……』

「実はね。私もあまり、歌は上手じゃないんだ。レッスンだといつも怒られてばかりだし、小鳥さんと一緒に歌おうとしても逃げられちゃうし。歌って褒められることってなかなかないんだよね」

『……』

「一生懸命練習はしてるんだけど、なかなか上達しなくって。最近はあまり歌う機会もなくって……」

『そう、アンタもそうなのね……』

「でも、私は歌が好き」

『えっ?』

「だって歌えば笑顔になるんだもん!本当は、ユキちゃんも歌が好きなんだよね?」

『べつに、私は……』


分かるよ、本当はユキちゃんも歌は好きなんだ。
だけど、みんなにヘタクソだって言われ続けちゃったんだよね?だから、キライなフリをし続けてるんだ。

「だったら、私とレッツシンギ~ング♪一緒に歌えば楽しさ100倍~♪」

『はあ?』

電話の向こうから呆れたような声が聞こえた。

「えへへ♪一緒に歌えば楽しいから、すぐに歌も好きになるよ!」

『嫌よ』

「ええっ!?」

ズコーって机に突っ伏しそうになった。今のは一緒に歌う流れじゃないの!?


「歌ってくれないの!?」

『ゴメン、やっぱりまだ歌は嫌い』

「ええ~そんなあ~」

『けど……』

「ん?けど?」

『……ちょっとだけ、あんたの話を聞いてたら私もまた歌が好きって言えるようになれる気がしたわ。だから、その時に―』

「……!うん!約束だよ!一緒に歌おうね!」

ユキちゃんと交わした約束。いつか叶えられるといいな。


「あっ、そうだ。指切りしようよ」

『は?指切り?どうやってするのよ』

「えっとね、右手は甲を上にして、左手は手のひらを上にして、そうすると小指同士を重ねられるでしょ?

『なるほど、こうね』

「小さいときに近所にいたお姉ちゃんが教えてくれたんだ~お姉ちゃんが引っ越してお別れするときに、これで離れてても約束できるねって」

『……わかったわ。約束ね』

「うん!いつか、一緒に!」




~~♪~~♪~~



あれ以降、ユキちゃんとの距離は少しだけ縮まった気がする。今までは私が一方的にかけるだけだったけど、ユキちゃんの方からかけてきてくれることもある。

「いいよユキちゃん。よーし、それじゃあ私も―ラ~ララ~♪」

『ちょっと、音程ズレてるじゃない』

「はれ?」

ユキちゃんとのヒミツの特訓も少しずつ結果が出てきていた。ときどき、とても楽しそうに口ずさむから、少しずつ自信を取り戻してきているんだと思う。
私も、あの日以来調子が良い。レッスンでも歌の先生に褒められる回数がちょっとだけ増えた気がする。


     * * *

今日も学校が終わっていつものとおり劇場へ。レッスンまではまだ時間があるから、時間を潰そうと劇場へ。そういえば、学校の宿題もやらないと。

「あっ可奈!」

控え室には未来ちゃんが先にいた。
テレビを見ているようだった。

「未来ちゃん、何見てるの?」

「この前私がでたクイズ番組だよ」

テレビのなかでは未来ちゃんと芸人さんのトークが繰り広げられていた。

「あ、私も見たよ!すっごくおもしろかった!」


画面には未来ちゃんの回答に芸人さんと、一緒に出演していた静香ちゃんがツッコミを入れているところが映っていた。

『ぶぶー未来ちゃん不正解!』

『もう未来!だから一文字下げるって言ったじゃない!』

「あはは。静香ちゃんに怒られてる」

「う~。でもさ、テレビで聞く自分残って自分の声じゃないみたいだよね」

「あ、わかる~。ちょっと違うんだよね~」

そういえば、この前理科の授業で先生がその理由を言ってたような……あれ、なんて言ってたんだっけ。
そういえばテストに出すって言ってたような……。


「あわわわわ……」

「?どうしたの、可奈?」

「また赤点取っちゃうー!」

「赤点……?あ、私も次赤点取ったらヤバいんだった!」

未来ちゃんも自分のテストのことを思い出したみたいだ。
二人でどうしようどうしようって慌てふためく。


「おーい。可奈いるか?」

未来ちゃんとあわあわしてると、控え室にプロデューサーさんがやってきた。

「はい。なんですか、プロデューサーさん?」

「おお、いたいた。レッスンまでまだ時間あるよな。ちょっといいか?話がある」

プロデューサーさんの親指は廊下を指していた。何かあるのかな?
私はプロデューサーさんの後について廊下に出た。


「それで、話しって何ですか?」

「そうそう、可奈に朗報だ」

そう言って、プロデューサーさんは冊子を私に渡してきた。

「次の公演の企画書だ。可奈をセンターにしようと思ってな」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。最近ボイスレッスン頑張ってるみたいだしな。この前言ったこと、覚えてるか?」


なんだっけ?今は我慢の時って言ってたやつかな。

「私が歌のお仕事をしたいって言った時のことですか?」

「ああ。公演には関係者の方にも来ていただける予定だから、可奈の歌が評価してもらえるかもしれないな」

「うわあ!私!いっぱい張ります」

「いい心構えだ。それじゃあまずはレッスンだな!」

「はい!頑張るぞ~♪目指すはスタ~♪お~♪」





~~♪~~♪~~



「それでね、今度の公演でセンターやるんだ!」

『へえ、すごいじゃない』

今日も私はユキちゃんと電話していた。

私も、ユキちゃんも、前よりも別段上手になったわけじゃないけど、ユキちゃんは少しずつ自信をつけてくれているみたい。
ほぼ日課になっていた二人のヒミツの特訓も終わって後は適当に駄弁るだけ。
今日あったことを伝えると、ユキちゃんは素直に驚きの声を上げてくれた。


「センター、久しぶりなんだあ。それに、プロデューサーさんがカンケイシャの人がいっぱい来るから成功すれば歌のお仕事にも繋がるかもしれないって」

『へえ、じゃあ頑張らないといけないのね』

「うん!最近レッスンも調子いいし、このまま頑張るぞー!」


『私も……』

「ん?どうかしたの?」

『私も今度、合唱コンクールがあるのよ』

「へえ~!あ、そうだ!私の学校も合唱コンクールあるんだよ。楽しみだね~」

『まあ、毎年毎年憂鬱だったんだけど』

「あっ……」

そっか、歌うことが嫌いでも絶対に歌わないといけないもんね……。


『でも、なんだか。今年は楽しめそうな気がするの』

「えっ?」

『アンタと話してて、少し自分の気持ちに向き合えるようになってきたから。だから―』

「や、やったあー!」

『うっさい!耳元で叫ぶのやめなさいよ!』

「あっ。ご、ごめんね?でも、ユキちゃんが歌に前向きになってくれたのが嬉しくって」

『……まあ、そうね。アンタと話してて楽しかったのは事実だし』

「よーし!それじゃあ、お互いがんばろうね!」

私は公演。ユキちゃんは合唱コンクール。頑張る場所も世界もそれぞれ違うけど、お互いに頑張ることを誓った。





~~♪~~♪~~



「はあ……」

深いため息を一つついた。
ここ最近ずっと気分が沈んだままだ。大切な公演のレッスンの方も全然うまくいってない。
いつも以上に歌も歌えなくて、みんなから調子が悪いのかって心配もされちゃった。

なんでもないよ。とその場では笑ってごまかしたけど、心当たりはある。あれは―


     * * *

「レッスンつかれた~……♪体はクタクタ~…♪でも成果は上々~♪この調子で本番までがんばるぞー!ユキちゃん起きてるかな……」

その日も、家に帰るといつも通りユキちゃんに電話をかけていた。

「………あっ!もしもーし!ユキちゃん、あのね、今日―」

『……………』

「あれ?ユキちゃん?おーい」

『……もうかけてこないで』

「えっ……!」

突然すぎるユキちゃんの言葉に、私はただ驚くしかなかった。


「ど、どうしたの……?」

『やっぱり駄目だった』

「ちょ、ちょっと待って!…詳しく教えて?」

それは合唱コンクールの役割決めの時にあったみたい。

『今年はピアノの伴奏しないかって言われて……』

「えっ、ユキちゃんピアノも弾けるんだ。すごいね」

『弾ける子は他にもいるのよ、毎年弾いていた子が。今年もその子が弾くと思ってたし、私は私なりに歌うほうを頑張るつもりだった。けど……』


「けど……?」

『あなたは歌うよりも演奏の方が上手なんだから伴奏しない?って』

「あっ……」

あの日のお昼休みに、私が言われたことを思い出す。


『ねえ、前にアンタも歌よりも上手にできることがあるって言ってたわよね?』

「う、うん……でも、私は―!」

『アンタもそうなんでしょ?ほかに得意なことはたくさんあるのに、自分の好きなものはちっとも評価されなくて!なんでアンタは平気なのよ!』

「っ―!」

私はすごい思い違いをしていたのかもしれない。ユキちゃんも一緒だったんだ。下手だから嫌いなんじゃなくて、別の才能に押しつぶされそうになっていたから―


『……ごめんなさい。もう切るわ』

感情的になって我に返ったのか、淡々とユキちゃんは私に告げてきた。

「ちょ、ちょっと待って!ユキちゃん!ユキちゃ―」

そして、私の言葉を待つこともなくブツッと通話は終わった。

 
     * * *

あれから、ずっと気分は沈んだままだ。
あれ以来、ユキちゃんとは話をしていない。毎日いつもの時間に電話はかけているけど、ユキちゃんが出てくれないから。ユキちゃんに謝ることも、励ますこともできないまま。

『アンタもそうなんでしょ?ほかに得意なことはたくさんあるのに、自分の好きなものはちっとも評価されなくて!なんでアンタは平気なのよ!』

あの時、ユキちゃんに言われた言葉がずっと私の心に突き刺さっている。思えばユキちゃんの言ってることはそのまま私にも当てはまってたんだ。じゃあ、なんで私は歌うんだろう。そのことを考えすぎて、この前のこともあってレッスンにも身が入らない。もうすぐ本番なのに、どうしよう……


沈んだ気持ちを少しでも紛らわそうと、私は屋上に来た。屋上で声を出して歌えば、少しはすっきりするかな。だけど、こんな気持ちじゃメロディも浮かび上がってこないよね……。
屋上へと続く階段を上って、少し重い扉を開けるとブワッと冷たい秋風が吹きこんだ。うぅ、やっぱりこの季節は冷えるなあ……。
あれ?誰かいる。私よりも先に屋上に来ている人がいた。プロデューサーさんだ。

「…………」

プロデューサーさんはフェンスに肘を置いて、タバコを吸っていた。プロデューサーさん、タバコ吸うんだ。初めて見たなあ。


『―政大学10位!今年もなんとか箱根路への切符を手にしました!』

そして、プロデューサーさんの足元にはラジオが置いていた。私にはまだ気づいてないみたいだ。

「プロデューサーさん、何してるんですか?」

「うおっ。……なんだ、可奈か」

こっちを向いたプロデューサーさんはそう言うと、ポトッと吸っていたタバコを地面に落として靴の裏でグリグリと踏みつぶした。

「プロデューサーさん、タバコ吸うんですね」

「学生時代にちょっと、な。結構前にやめたしアイドルの前で吸うのもって思ってたからもう随分吸ってなかったんだが、今日くらいはな」

プロデューサーさんは足元に置いてあるラジオに目線を移して、ばつが悪そうに、ゴツゴツとした指で無精ひげをポリポリと掻いた。


「どうしてやめちゃったんですか?」

「そりゃあ、ここに悪いからな」

そう言ってプロデューサーさんは自分の胸をトントン、と叩いておどけてみせた。タバコを吸ってるプロデューサーさんはちょっとかっこよかった。志保ちゃんは喜ぶんじゃないかな。あっ、でも静香ちゃんは怒りそう。

「可奈はどうしたんだ?」

「私はちょっと外の空気を吸いに……」

「そうか」

そう言うと、プロデューサーさんは手すりのほうに向き直り、私もプロデューサーさんの横に移っていっしょに並んで屋上からの景色を眺めた。だけど、どんよりとした雲が広がる景色は私の気分がもっと沈むだけだった。


「……」

「……」

『―それでは、次はお正月にお会いしましょう!』

私とプロデューサーさんの無言が続く中、プロデューサーさんの足元にあるラジオの音だけが屋上に響く。

「……公演の準備、上手くいってないみたいだな」

「……はい」

私が落ち込んでいる様子に気づいたのか、先に口を開いたのはプロデューサーさんだった。

「レッスンに身が入ってないみたいだって聞いたが、何か悩みでもあるのか?」

「……大好きなことが―」

そこで一呼吸おいて、俯きながら言った


「大好きなことが、どれだけがんばっても一番好きなことが、評価されないときってどうすればいいんですか……」

プロデューサーさんはしばらく何も言わなかった。俯いていた顏を上げると、私の奥底を見ているようなプロデューサーさんの目があった。

「私と同じくらい、とっても歌が好きな子がいるんです。けど、その子は歌以外のことに注目されっぱなしで大好きな歌はだれも見てくれないって言ってたんです」

「それで、自分に重ね合わせたってわけか」

「はい……」

私は弱くうなずいた。

で今度の公演がチャンスだってプロデューサーさんに言われたときから、次のライブは絶対に成功させるぞってずっと思ってたんです。けど、それでも評価されなかったらって、上手く歌えなかったら、って思うと……それに、その子に言われちゃったんです。どんなに頑張っても上達しないのに、誰も褒めてくれないのに、もう嫌だって」

「可奈」

プロデューサーさんが私の名前を呼ぶ。顔を上げると、プロデューサーさんの穏やかな顔があった。
そして、やれやれと言うように手のひらを上にして、少しおどけた感じで、プロデューサーさんは言った。

「ちょっと昔話、付き合ってくれるか?」




~~♪~~♪~~



「あるところに陸上選手がいた」

プロデューサーさんは淡々と話し始めた。

「ああ、陸上選手って一口に言っても色々いるからな。そうだな、そいつは長距離走が専門だ」

私はただ黙って、プロデューサーさんの話の続きを待った。

「そいつは走るのが大好きだったんだけどな、決して速くはなかった。というのもそいつが生まれ持ってきたものが邪魔するんだ」


「び、病気とか。ですか?」

「ああ、違う違う。そんなに重たい話じゃないぞ。ただそいつは骨が太くて脂肪がつきやすい体質だっただけだ。長距離選手ってのは余分な脂肪は徹底的に削ぎ落さないといけないからな。駅伝やマラソンは見たことあるか?あいつらみんな細いだろ?」

どうなんだろう、お正月くらいに走ってるところをテレビで時々見るくらいだからよくわかんないや。

「もちろん、そこらへんの男よりは速く走れたんだ。でも、決して上位を狙えたりするレベルではない。数字やタイムで競う以上、必ず体の適正はある。だからそれはしょうがないんだ。それでもそいつは一生懸命努力した。目標を立てて、毎日バカみたいに走りこんだ。少しでもタイムが伸びれば喜んだし、なにより走るのが好きだったんだ。風を切って走るあの感覚が」

プロデューサーさんはどこか懐かし気に話していた。


「それで、確か高二の夏だったかな、顧問に言われたんだよ。長距離は諦めて投てきに移ったらどうだって。それでその年の新人戦は投てき種目で出させられた」

「どうなったんですか……?」

「驚くなよ?県大会3位だ」

「す、すごいじゃないですか!」


「だろ?もちろんそいつ自身も驚いた。地区大会すら勝てなかったやつがいきなり県3位だぞ?当然、周りの連中も驚いた。それで口々に言うんだ。これなら来年のインターハイも目じゃない。下手したら入賞できるってさ。それで残り一年は投てきに専念した」

そこでプロデューサーさんは一呼吸置くと―

「だからそいつはキッパリとやめた」

「えっ!」


一転して顔つきが険しくなった。

「ただ、走りたかったんだ。走って上を目指したかった。でも、才能がなかった。そいつは走りでは認められなかった。上を目指すことが無理だとはっきりわかった。だから高校でキッパリと辞めた」

手すりに背中を預けて、空をあおぎながらプロデューサーさんはさらに続ける。

「ああ、顧問の先生は悪くない。ちゃんと見てたから言えることだし、なにより結果が出たがその証拠だ。ただ、そこで気持ちが切れた。走ることに情熱を見出せなくなった」

同じだ。
あの電話の向こうにいた、もう絶対に歌わないって言ったユキちゃんと。上手になろうと一生懸命頑張って、だけど全然評価されないユキちゃんと私と。だけど私は―

すっきりしたような、だけど後悔もにじませるような。空仰いだままのプロデューサーさんが、今何を考えているのか、私にはわからなかった。


「確かに、全然上手にならないし、なかなか認めてもらえないですけど……でも、私は歌が好きです!今はヘタクソでも、デタラメでも、好きなものは好きですし、いつかもっと上手になってみせます!」

「……なんだ、もう答え分かってるじゃねえか」

「えっ?」

プロデューサーさんはポンッと私の頭にゴツゴツした手を置いて、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
険しい顔つきをふっと緩ませて、やっぱり懐かしそうにプロデューサーさんは話を続ける。


「そうだな、そいつも知らなかったんだよ。タイムだけが全てじゃない、遅くても走り続ければいい、ただ風をきって進むあの感覚を求め続ければいいってことをな。世の中にはただ走るのが好きな、そういう連中だっていっぱいいる。走るのが好きならそれでよかったんだ。可奈にとっての歌だって同じことだろ?」

プロデューサーさんん口ぶりは、私に向かってっているようで、まるで自分に言い聞かせているような、そんな気がした。

「だいたいだな。可奈の歌に魅力がなかったら。今頃アイドルやれてるわけないだろ?」

「えっ?」

「おいおい、オーディションで何人見てきたと思ってるんだ。魅力がないのに合格させるわけないだろ」

そういってプロデューサーさんはおどけてみせた。


「可奈の歌には人を元気にさせる力がある。俺はそう思ってるよ」

「人を、元気にする力……」

本当に、私の歌にそんな力があるのかな。
もしあるなら、ユキちゃんを元気にしてあげることも―。


「……あれ?」

突然ポケットの中で、例の携帯が震えだした。もしかして、ユキちゃん?
慌ててポケットの中の携帯を取り出す。でも、何をはなそうか。この前のこと?それともこれからのこと?
頭の中はまだ整理できていなかったけど、急いで携帯のロックを解除する。

「えっ?うわあっ!」

ロックを解除すると、暗い所でゲーム機の電源を入れたときみたいな、激しい光がいきなり画面からあふれ出した。あまりの眩しさに、一瞬で目の前が真っ白になって、私は思わず目を閉じた。
眩しさで頭がくらくらする。あ、なんだか意識が―。


     * * *

(……ここは?)

パチッと私は目を覚ました。
さっきまで屋上にいたはずなのに、ここは学校の校舎なのかな。見覚えのあるような廊下の真ん中に立っていた。
なぜか周りにいる人たちの体は真っ黒だった。

「―さん、また入選だって」

「また?ほんと、なんでもできるわね」

喧騒につつまれているはずの廊下で、なぜかその会話だけははっきりと聞こえた。


「おめでとう。今回もトップだ」

(今度は教室……)

気が付くと今度は教室の中にいた。やっぱりみんな影みたいに体中真っ黒だった。
誰かが先生に褒められている。多分制服的には女の子。女の子は一言「ありがとうございます」と言って満点の答案用紙をもらうとそそくさと自分の机に戻っていった。というかこの声って―。


「―さん!ウチの部活に入らない?」

「―お願い!今度助っ人できてほしいの!」

また廊下だ。
向こうからさっきの女の子が歩いてくる。その周りには人だかりが、できていて熱心にその子のことを勧誘してる。表情はわからないけど、みんな断ってるんだと思う。


(わわっ!)

そのまま私の前まできたから少し驚いてしまった。あっちは私に気付いてないみたいで、ぶつかる!って思ったけどそのまますり抜けていってしまった。ここにきて私はようやくこれは夢か何かだと気づいた。

通り抜けていったあの子の後を追う。後を追っていくと、その子はある部室の前で立ち止まった。
中に入りたいのかな。でも、しばらくしてその子は教室の前から立ち去ってしまった。教室の入り口には「合唱部」という看板が立っていた。


そのあともいろんな場面が切り替わった。

お友達からすごいすごいって言われているところ。

一人でひっそり歌っているところ。

何かの賞状をもって写真を撮られているところ

合唱部の部室に入ろうとしてやっぱりやめたところ。

また部活に勧誘されているところ。

誰かの前で歌っているところ。

でも、あまりいい顔をされていないところ………


「どうして!」

聞こえてきたのは悲痛な叫び声。
次に移ったのは家の部屋の中だった。そしてあの子もいる。じゃあ、ここが―

「ヘタクソなのはわかってるわよ!ヘタクソでも好きでいいじゃない!」

誰もいない部屋で一人、心の中の鬱憤を吐き出すように叫んでいる。

「こうなるんだったら、こんな才能なんて全部いらなかった……」

そして、すすり泣く声。

「ユキちゃん……」

私がぽつっと漏らすようにいった言葉はあの子―この部屋の主、ユキちゃんには当然届かない。
今わかった。これはユキちゃんの記憶なんだ。
そっか、やっぱりユキちゃんも歌が大好きだったんだね。でも、これは……


『可奈の歌には人を元気にする力がある、俺はそう思ってるよ』

さっきプロデューサーさんに言われた言葉がふと頭に思い浮かんだ。
本当に私にそんな力があるなら―

「……怖がらないでいいんだよ」

「―!!」

ユキちゃんの手をとる。表情はわからないけど、ユキちゃんははっと顔を上げた、気がする。

「私が、一緒に歌ってあげる!待っててね!絶対にユキちゃんを元気にするから……きゃあ!」


その瞬間部屋一面がまぶしい光に包まれた。そして、また私の意識がうっすらとしていく

「――」

「えっ―」

薄れていく意識の中で一瞬影みたいに真っ黒だったユキちゃんの顔が見えた気がした。でも、あれって―。


     * * *

「―な!かな!」

「……っは!プロデューサーさん!」

目を開けると、私の肩に手をかけて心配そうに見つめるプロデューサーさんがいた。

「どうした?いきなりぼーっとして」

どうやらユキちゃんの記憶を見ているあいだ、私の意識が飛んでいたらしい。私が反応を示したことにプロデューサーさんは安心した表情を浮かべた。


今のは何だったんだろう。手の中にある携帯はいつも通りの画面を表示している。
でも、やることはわかった。

待っててね、ユキちゃん。
まだ、一緒に歌うっていう約束、果たせてないんだよ。

「あの、プロデューサーさん。お願いがあるんですけど……」

今夜で終わる予定です




~~♪~~♪~~



『―ただいま、留守にしています』

本番直前、私は何度も電話をかけ続ける。他のみんなは先に舞台袖に行っている。何度かけても相手は出てくれないけど、それでも諦めずにかけ続けた。
でも、そろそろ本番が始まっちゃう……お願い、早くでて……!

『―……なによ』


「あっ!よかったー!やっと出てくれた!」

『うっさい。耳元で大声出すな』

両手で数えきれないくらいかけなおすと、やっと電話の向こうからいつもよりさらに不機嫌そうな声が聞こえた。

「……あのね、今日私のライブなんだ」

『……だからなに?話はそれだけ?じゃあ切るわよ』

「待って!」


電話を切ろうとするユキちゃんに慌てて待ったをかける。

『……なによ』

「私も、まだ歌は全然ヘタッピかもしれない。小鳥さんはどこかに行っちゃうし、カタツムリさんは殻に閉じこもっちゃうし。歌よりもっと上手にできるものもいっぱいあるかもしれない……でもね―」

そこで私は一拍おいて深呼吸する。

「でもね、やっぱり私は歌が好き。歌うことが一番大好き!」

『……それがどうしたのよ。私には関係な―』

「だから!……ユキちゃんにも諦めてほしくない!嘘までついて嫌いなんて言ってほしくない!だから今日のライブ、ユキちゃんも見ていて!私の歌、絶対にユキちゃんの心に届けて見せるから!」

『は?どういう―』


「おーい!可奈、そろそろ時間だぞ!」

その時、ちょうどプロデューサーさんが私のことを呼びに控室に入ってきた。

「プロデューサーさん!これ、お願いします!」

「は?ちょっ!?なんだあ?おい可奈!」

そう言って私はプロデューサーさんに携帯を預けて、控室を飛び出した。
見ててねユキちゃん。絶対に届けて見せるから……!




~~♪~~♪~~



「まったく、なんなんだ。可奈のやつ」

ステージへと駆けて行った可奈から押し付けられた携帯をプロデューサーはまじまじと見つめる。
それにしても可奈の携帯ってこんなに無骨だったか、確かキーホルダーかなにかがつけられていたような……。以前志保と買い物に行ったときに買ったものだと嬉しそうに教えてくれたはずなのだが。


『―まったく、なんなのよいきなり……』

ふといきなり声がした。女性の声だ。プロデューサーは驚いてあたりを見回すが、声の主は見当たらない。当然だ、ここは控室。可奈が飛び出していった今、ここには自分しかいない。どうやらその声は自分の手の中かからしたようだ。

「ん?この携帯か?可奈のやつ、本番直前に誰と電話してたんだ?」

どうやら声の出どころは自分の握っているこの携帯だとあたりをつけたプロデューサー。そのまま携帯を耳にあてる。


「もしもし。どちらさまで?」

『……誰よアンタ?』

「その声……可奈か?」

よく聞くとその声は聞き覚えのある人物だった。しかし、その声の主はたった今、控室から飛び出していったはずだ。第一口調が違う。

『……ええ、そうよ』

一拍おいて返ってきたのは肯定の言。おいおいマジかよ、とプロデューサーは心の中で呟いた。


「えーっと……可奈、でいいんだよな?」

『だからそう言ってるじゃない。私の名前は矢吹可奈。アンタたちとは多分別の世界の、同一人物よ』

「並行世界の可奈ってことか?なんか不思議な気分だなあ、声は同じなんだが、性格がまるで違う」

『ちょっと、どういう意味よ!』

電話越しに怒鳴られてプロデューサーは思わず、携帯を耳から外した。
なんだか水桜みたいだなあ。志保の指導のおかげとは言ってたが、魔法学園といい、アイツにこういう役やらせるとなぜかハマるんだよな。その理由をプロデューサーはなんとなくわかった気がした。


『まったく、なんでアイツはいつまでたっても気づかないのかしら』

「アイツ?ああ、こっちの可奈のことか?まあ、自分の声ってわからないもんだろ?」

『……アンタは驚かないのね』

「いや、十分驚いてるさ」

正直、事態はまったく呑み込めていなかったが、とにかく今電話で話しているのは、現在ステージの上に立つ可奈とは別の、自分たちとは別の世界で生きている矢吹可奈であるとプロデューサーは無理やり理解した。どういう理屈でそうなっているのかはわからないが、事実として自分はその相手と話しているのだから。なにより、この劇場で働いていると、劇場の魂とやらの相手もしなければいけないのだ。こんなことで驚いていてもしょうがない。


「まあどういうわけかはわからないが、なんかあってこっちの可奈とつながってたんだろ?」

『……見せたいものがあるって』

「ん?」

『アイツ、見せたいものがあるって電話かけてきて、そこで見ててねって行ったきりどっか行っちゃったのよ』

なるほど、俺にこの携帯を押し付けてきたのはそういうことか。それに、こちらの可奈よりはかなりキツイ性格をしているみたいだけど、根っこの部分はやっぱりな可奈だな。


「そういや。この携帯、ビデオ通話ってできるのか?」

『は?』

携帯を操作しながらプロデューサーは続ける。あったあった。別の世界につながるという、わけのわからない機能がついている割には、そのほかの機能はどこにでもある携帯と同じようだ。

「事情はよくわかんねえが、見てくれって言われたんだろ?可奈のステージ」

プロデューサーも可奈の後を追い、控室の外に出る。もうそろそろライブが始まるのだから、自分もいつもの持ち場につかなければいけない。そして、可奈からのお願いだ。かなえてあげないわけにはいかない。

「さすがに客席ってわけにはいかないけどな。特等席へのご案内だ」




~~♪~~♪~~



『みなさんー!楽しんでますかー?』

未来がそう言うと、わああと歓声が客席にこだまする。ライブの序盤戦が終わり、MCパートに入った。
プロデューサーは、いつも通り舞台袖から可奈たちを見守る。
ただ、今日はいつもと違い胸のあたりに携帯を横向きに掲げている。

「どうだ?見えるか?」

ビデオ通話にしている関係上、必然的に通話の相手の顔が見えるのだが、やはりというか、画面越しの彼女は現在元気にMCを回している彼女と瓜二つだった。


『…………』

「どうだ?いいだろ、うちのアイドルたちは」

彼女―こっちの可奈にはユキと名乗っていたらしい―は食い入るように画面を見ているせいか、こちらの問いかけには反応しなかった。

「先輩たちにも負けちゃいないさ」

ステージ上の彼女たちに何もできないもどかしさと、特等席から彼女たちの雄姿を見ることのできる優越感を感じるこの時間が彼は好きだった。


『それじゃあ、ここからは今日の主役の可奈にバトンタッチしまーす!』

『み、みなさん!こんにちは!今日は私のセンター公演に来てくれて、ありがとうございます!』

未来からマイクを渡された可奈にMCが移る。可奈の挨拶にふたたび客席がわあと沸いた。

『突然ですけど、みなさんには好きなものはありますか……?』

可奈が話し出すと同時に歓声が鎮まった。


『私にはあります。でも、好きなものと得意なものって一緒じゃないんですよね……』

『例えどれほど好きでも、どれだけ練習しても、なかなか上手くいかなくて。でも、違うものはあっさりできてしまったり。周りからもそっちしか認めてもらえなかったり……』

可奈の台詞を観客は誰もがじっと黙って聞いていた。


『私だけじゃないと思います。この会場にも、日本中にも、そういう人はいっぱいいると思います!』

『そういえば可奈って結構なんでもできるよね~』

『えへへ~、ありがとう。でも、得意なことがいくつあっても、やっぱり私の一番は歌だなあ。いろんなことができて、それでいっぱい褒められるのもとっても嬉しいけど、やっぱり歌うことが一番大好き。今日は、そんな思いをこめて歌いたいと思います!』

そこで可奈はすうっと一拍置き、このパート最後の台詞を口にした。


『それじゃあ、聞いてください!―オリジナル声になって』





~~♪~~♪~~



『―歌が大好き♪』


可奈が歌い終わると、歓声の代わりに拍手が鳴り響いた。

「……いい歌だろ?」

『…………』

プロデューサーは電話の向こうの相手に問いかける。拍手はまだ鳴りやまない。


「今日はいつも以上に感情がこもってたな。いいパフォーマンスだ」

プロデューサーは独り言のように感想を呟く。


『……やっぱり、私は歌が好きです』

拍手が鳴りやむのを待ち、可奈はMCを続ける。

『まだまだヘタッピでも、だれかに向いてないって言われても、私は歌うことが好きです!』

『でも、そんな一歩を踏み出せない人もいると思います。怖くて前に進めない人だってきっといます。だから、私の歌がそんな人たちが一歩を踏み出す勇気になれるよう、次の曲を歌います!』、

おおっ!?というどよめきが客席から聞こえた。


「本当は一曲だけだったんだけど、本人経っての要望でな。2曲続けて歌うことにしたんだ、」

プロデューサーは胸の前で構えた携帯に向かって呟く。

「これが可奈なりの、顔も知らない、どこかの誰かへのメッセージだ。しっかり受け取ってくれよ」

『もう一曲続けて、聴いてください!―』




~~♪~~♪~~


『~~♪』

しっとりとした一曲目とは打って変わって明るく軽やかな二曲目。それでいて可奈らしさが伝わってるくる歌詞。電話越しに聞こえてくる可奈の歌声に、向こうの世界の可奈は聞き入ってしまっていた。

「楽しそうに歌うだろ?」

また、プロデューサーが電話越しに声をかけてくる。

ステージで歌う可奈は、心の底から楽しそうで、心の中のモヤモヤや恐怖もすべて吹き飛ばしてくれそうだった。

こっちの自分はなんて楽しそうに歌うんだろう。
私も、あんなふうに歌えていたら―。

画面越しに、向こうの世界の可奈はそんなことを思い始めた。

そして、歌も終盤に差し掛かるころ、可奈がいきなり舞台袖の方を向いた。

『―――約束だよ!』

右手は甲、左手は手のひらを上に向けてお互いの小指を結びながら。

「あいつ……だから舞台袖向くのはやめろって……」

プロデューサーはそう言って苦笑する。観客席の方を向いてやれ。これは後でお説教だな。という考えが頭をよぎったが、ああとひとり合点のいった様子で胸の前に構えた携帯に目線を落とした。


―可奈ちゃんはなんでもできてすごいねえ。

いつからだろうか。

―矢吹さん、これもできるなんてすごいわね。

歌うことが嫌いになったのは。

―可奈ちゃんこれもできるの!?すごーい!

褒められることは確かに嬉しかった。

―可奈ちゃんは天才だなあ。

でも、別に褒められなくてもよかった。

――だから矢吹さんは歌以外のことに挑戦してみない?

私は、歌うことが好き。

―可奈ちゃん、絶対にこっちのほうがいいって!

彼女みたいに、ただそれだけでよかったのに。


いつの間にか、嫌いと思い込んで。好きだったものにふたをして。自分の心の底にしまい込んでしまっていた。そのずっと昔にしまい込んでしまっていたものを、引っ張り出される感覚。
一緒に引っ張り出されてきたのか、可奈の頬につうっと一筋が伸びた。聞くのも野暮かとプロデューサーは考え、そっとミュートにした。

『音符と私が出会うよ♪』

可奈が歌い終わると鳴りやまない歓声が、会場中に響き渡った。




~~♪~~♪~~



『ありがとうございましたー!』

公演が終わった。たくさんの声援を背に、私たちは舞台袖へと戻っていく。

「プロデューサーさん!」

「おつかれさま。はい」

舞台袖にもどった私は真っ先にプロデューサーさんの元に向かった。プロデューサーさんは予想していたのか、私が近づくなり、すぐに携帯を手渡してくれた。
私の手の中に納まった携帯をごくりと見つめ、意を決して耳に当てる。;


「……もしもし?」

携帯を耳にあて、恐る恐る話しかける。

『……見てたわ』

「あっ!見てくれてたんだ!よかったあ……」

『アンタが見ててくれって言ったんでしょ』

奥のほうで、未来ちゃんが「あれ?可奈、誰と話してるの?」って言ってるのをプロデューサーが「あとでな」ってなだめて控室に連れて行ってるのが見えた。


『……ごめんなさい。あの時、酷いこと言って』

「い、いいよいいよ!全然気にしてないから」

『まだアンタみたいにはいかないかもしれないけど、私ももう一回頑張ってみる。そう思えた。だから……ありがとう、私』

「……うん!」

その言葉に、少し涙ぐんでしまった。

そして、お別れは唐突にやってきた。


『……そろそろお別れみたいね』

「えっ?」

『もう、バッテリーがないのよ』

「あっ本当だ」

そういえば、この携帯を拾ってから充電したことがなかったけ、どむしろなんで今まで大丈夫だったんだろう。

『私のおかげで私が立ち直れたから、もう終わりの時間ってことなのかしらね』

「そうなんだ……。じゃあ、これが本当に」

『……ええ。本当にサヨナラよ』

「そっか。なんだか寂しいね……」

本当はもっとお話したかった。まだまだ話せてないことやできてないことがたくさんあった。あれも、これも、ということがいーっぱいある。
まだまだ足りないことだらけで、ここでオシマイって言われてもなかなか理解しきれていないところもある。


『……そろそろお別れみたいね』

「えっ?」

『もう、バッテリーがないのよ』

「あっ本当だ」

そういえば、この携帯を拾ってから充電したことがなかったけ、どむしろなんで今まで大丈夫だったんだろう。

『私のおかげで私が立ち直れたから、もう終わりの時間ってことなのかしらね』

「そうなんだ……。じゃあ、これが本当に」

『……ええ。本当にサヨナラよ』

「そっか。なんだか寂しいね……」

本当はもっとお話したかった。まだまだ話せてないことやできてないことがたくさんあった。あれも、これも、ということがいーっぱいある。
まだまだ足りないことだらけで、ここでオシマイって言われてもなかなか理解しきれていないところもある。


「私、もっといっぱいお話とかしたかったな」

『ええ、私も。でも、これで本当にお別れ。ありがとう、私ももう一回、頑張ってみる』

「うん!またいつか!絶対に会おうね!」

『ええ。それじゃあ。……ありがとう』

そこで、通話は完全に終わった。
終わったのと同時に携帯のバッテリーが切れたのか、画面が真っ暗になってそれ以降点くことはなかった。


「終わったか?」

ちょうどタイミングを見計らったかのようにプロデューサーさんが舞台袖に戻ってきた。

「彼女、なんて言ってた?」

「ありがとう。って言われました。私のおかげで立ち直れたって」

「そうか。よかったな」

「プロデューサーさん。私ちゃんとやれてましたか……?ユキちゃんにしっかり届いてたと思いますか……?」

「ああ。彼女にもしっかりと可奈の思いは伝わってたと思うぞ。がんばったな」

そういうと、プロデューサーさんはまたゴツゴツとした大きな手で、私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。やっぱり安心する。


「えへ♪私、もっともーっと頑張ります!もっといっぱい練習して、世界中の人に私の歌を届けたいです!

私が語った大きな夢にプロデューサーさんはニッコリと笑った。

「よし、そのいきだ。ほら、まずは風邪ひくから早く着替えてこい。未来たちも待ってるぞ」

「はい!わかりました!」

そうして、私は控室の方へ駆けて行った。




「……そうだな。俺も片づけが終わったら走りに行ってみるか」




~~♪~~♪~~



「矢吹さん」

「うん?なあに?」

「この前のことなんだけど……」

「……ごめんなさい。やっぱり私、今はアイドルに専念したいから」

…そういうと思った」

「ずっと待ってもらってたのに、ごめんね……?」

「ううん。覚悟はしてたから。……ごめんなさい、あの時酷いこと言って」

「ぜ、全然そんな!だって本当のことだから……」

「でも私、あの時初めて可奈ちゃんの歌を聞いて、好きになった。だから、応援してる」

「……!うん、ありがとう!」

そこで、今日はレッスンだからって言って部長さんとパート長さんと別れた。
校舎から出ると、外はあいにくの雨。傘を広げて歩き出す。


あれから、ユキちゃん……じゃなかった、向こうの世界の私とお話しすることはできなかった。あのライブのあとの通話を切ってからそれ以降、完全にバッテリーが無くなったのか何をしても電源はつかないし、充電もできなかった。そして、気が付くとあの携帯自体が消えていた。まるで、最初から何もなかったかのように。

もしかしたら夢だったのかもしれない。けど、あっちの私と交わしたものは忘れられない思い出になって今も私の中に残り続けている。

あっちの私は今頃どうしているのかな。結局、あっちの私は一緒に歌おうねって約束していたのに、最後まで一緒に歌うことはできなかった。けど、前を向いて歌ってくれているといいな。


「あ、カタツムリさん!」

帰り道の途中、雨だからかカタツムリさんが道端の草むらに顔を出していた。ちょっと立ち止まってしゃがみ

込んでみる。

「でんでん~♪むしむし~♪可奈を無視~♪って無視してない!?やったあ!」

カタツムリさんありがとう!って言ってその場を後にする。


『新曲ですか?』

『ああ、それもだな―』

あの公演の後、見に来ていた作曲家さんが私のことを気に入ってくれたって言って曲を作ってくれた。しかも、歌詞は私に書いてほしいって!
「可奈ちゃんの好きなように考えてほしい」って言われてたけど、ちゃんとした歌詞を書くなんて初めてだからうんうんと悩んでたんだけど、今のこの気持ちを歌詞にすればいいんだ!


あの公演の後、見に来ていた作曲家さんが私のことを気に入ってくれたって言って曲を作ってくれた。しかも、歌詞は私に書いてほしいって!
「可奈ちゃんの好きなように考えてほしい」って言われてたけど、ちゃんとした歌詞を書くなんて初めてだからうんうんと悩んでたんだけど、今のこの気持ちを歌詞にすればいいんだ!

「あめのな~か~♪」

頭の中に思い浮かんだ歌詞をさっきのフレーズに合わせて口ずさむ。どんよりとした雨のなかでも一緒に歌ってしまいたくなるような、そして晴れ上がったころには心も晴れ晴れしているような、そんな歌。

ねえ、今そっちはどうしているのかな?合唱コンクールはどうなったのかな?もう、そっちのことを知る方法はないけど、もし今、一緒に歌ってくれていたらいいな。



「―頑張ってね、ユキちゃん」


次々に湧き上がる歌詞をくちずさみながら、帰り道を進んだ。




~~♪~~♪~~



「ふんふんふん~うたおー♪」

「え?今の歌?わからない、なんとなく頭に浮かんできたの」

「よかった?ふふっ。ありがとう!」

終わりです。
やっぱり可奈ちゃんの歌が好きです
お目汚し失礼しました。

>>148
いまさらながらミスってたので訂正です


「ふんふんふんふん~ふん♪」

うん。今日はとっても調子がいい。雨は相変わらず降ってるけど、心はとっても晴れやかで、こんな雨なんかも歌で吹き飛ばしてしまえそうで、思わず今度の新曲のフレーズを口ずさんでしまう。……そうだ!

『新曲ですか?』

『ああ、それもだな―』

あの公演の後、見に来ていた作曲家さんが私のことを気に入ってくれたって言って曲を作ってくれた。しかも、歌詞は私に書いてほしいって!
「可奈ちゃんの好きなように考えてほしい」って言われてたけど、ちゃんとした歌詞を書くなんて初めてだからうんうんと悩んでたんだけど、今のこの気持ちを歌詞にすればいいんだ!

スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています

何故一旦停止しないのですか

何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 04:24:35   ID: S:B7mBt6

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