池袋晶葉と一緒なら (14)


「P、私は死ぬ前に海が見に行きたい」


事務所に来た俺の担当アイドル、池袋晶葉の開口一発目の言葉だった。

……またなにかに影響されたな。もう、ほんとこの子は影響されやすいんだから。

とりあえずデコピンを一発入れておく。


「いてっ、なにをするんだ!」

「アイドルが死ぬなんて言うんじゃない」

「アイドルじゃなかったらいいのか?」

「いや、死ぬなんて軽々しく口に出すなが正しいな。それで、何を見たんだ?」

「ふふふ、わかってしまったか。知ってるか、P。天国ではみんな、海の話をするんだぜ」




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1560176400


「ああー、ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア。また渋いもの見たな」

「TSUTAYAのおすすめコーナーにあった」


また妙に俗っぽい理由だこと。実際、俺も見たけどあの映画はよかったな。

それで最初の言葉につながるわけか。本当に影響されやすいな。


「Pも見たのか。どうだった?」

「テキーラーが欲しくなった。手元になかったからとりあえず煙草を吸ったな」

「くくく、本当にPは影響されやすいやつだ」


俺も人のこと言えないけどね。昔から特撮とかにすぐ影響される子供で階段の上からライダーキックをして怒られたことがある。


晶葉にまだ常識があって助かった、その気になればライダーキックも真っ青な必殺技を繰り出せるだろう。

え、ディーバファイト?アルティメットプラズマエクスプロージョン?

……知らない技ですね。実際にやってないからセーフ!


「でも日本だと海なんてすぐに見に行けるからな。難しいよな」

「え、でも日本でもリメイク……」

「されてたなー。興味はあるけど男二人の主人公じゃないからどうも見れなくて」

「食わず嫌いはよくないぞ」

「ごもっともで」


挑戦の代名詞のような彼女に言われてしまっては仕方がない。

別物としてみれば案外楽しめるかもしれない。今度借りてきて晶葉と見るか。




「まあ、アイドルとしてはサイリウムの海が一番だ。私の歌で踊りで波打つ、私だけの海だからな」

「綺麗にまとめたことで」


実に彼女らしいまとめだった。





「それにしても今日は来るのが早かったな。映画の話をしに来たのか?」

「いいや、そうではない。もっと大事な用事がある。今までは導入みたいなものだ」


日常会話に導入って必要なのか?

まあ、十中八九今からする話をしょっぱなから始めてしまうのに抵抗感があるのはわかる。

少しこそばゆいもんな。しかし、こそばゆいのは俺も一緒、もう少しだけ付き合ってもらうぜ。

差し出された右手。まるで犬にお手をするようで、とりあえず手を重ねてみる。


「違う!はぁ……、ヒントが必要なようだな。今日は何月何日だ?」

「6月10日」


「ということは!」

「わかってるさ、ミルクキャラメルの発売日だろ。ちゃんと買ってあるさ、お前も食うか?」

「違うっ!……がもらう」


ひったくるように奪われてしまった。相当ご立腹なようだ。

Pたんジョークなのに……。


「晶葉、お誕生日おめでとう。ちなみに今の誕生日プレゼントだから」

「なっ……、えっ……」


思わず言葉を失う晶葉。

いや、そんな泣きそうな顔をするなよ。ジョークジョーク。



「Pたんジョークだよ」

「ふぅ、息が止まるかと思った」

「死ぬなんて簡単に言ってはいけません」

「言ってないんだが!?それになんだそのPたんというのは、浮気か?!黒髪がいいのか?!」


今日一番の怒り具合、少しからかいすぎたか。ツインテールが荒ぶっている。えっ、ツインテールって動くものなの?

それに浮気って……、違います。そんなんじゃないです、敵情視察みたいなものですから。


「あー、あー、素直に出すの恥ずかしかったんだよ。はいこれ、サプライズプレゼント」

「ふふふ……この天才は、サプライズプレゼントの存在も予想済みだ。だが祝ってくれた気持ちは純粋にうれしいぞ。ありがとう……!」


「キャラメルで涙目になっていたけどな」

「お礼の言いがいがないやつだ。照れ隠しなのは知っているがな」

「うるさい」

「Pは私の助手だからな。助手の思考など、言わずともわかるさ。私とPのこれまでの仕事が、確かな信頼を育んでくれているからな」

「耳まで真っ赤だぞ」

「うるさい」


気がつかない振りをしてもよかったのだが、ここまでやられたお返しだ。

……大分俺自身の自業自得な気もするけど。

俺たちは似た者同士だったようだ。俺はあの天才、池袋晶葉の助手だからな。


「改めて、誕生日おめでとう」

「ああ、ありがとう」

「さて、そろそろ仕事に戻るか」

「なに言っているのだ?」


心底わからないといった表情だ。俺の言ったことにおかしいところでもあったのだろうか。

はぁ、最近の若い子の思考がわからない。

いかんいかん、心までおっさんになってしまう。


「いやいや、そんな首をかしげてキョトンした瞳でこちらを見てきても、俺はあなたたちを輝かせる大切な仕事がありますから」

「私は今日誕生日だぞ!」

「そんな横暴な!」



「今日ぐらい、いいじゃないか……ダメ?」

「ぐっ、無条件にお願いをきいてあげたくなる!」

「Pと私の仲じゃないか!」

「うっ、いつの間にそんなおねだり上手くなった」

「ちひろさんに教えてもらった」

「嘘でしょちっひ、確かにちひろさんはおねだり上手な所はあるけど」

「いいじゃないですか、今日くらい。せっかく晶葉ちゃんの誕生日ですよ」

「うむ、ちひろさんの許可も出たわけだし問題ないな」


遂に現れた親玉。晶葉に余計なことを吹き込まないでください。

しかし、晶葉がやるなら小悪魔だがちひろさんがやるなら悪魔だな。


「なんか失礼なこと考えませんでした?」

「いいえ、なにも」

「明日のPさんが頑張ればいいだけの話ですし」

「それが出来たら苦労しないです」

「というかいつもは私が止めても晶葉ちゃんと遊ぶくせに何で今日だけ渋るのですか!」

「遊んでないです、担当アイドルとのコミュニケーションに一環です」

「え、なんだって?」

「なんでもないです……」

「大体Pさんはいつもいつもいつもいつも」

「あー、おめでたい日なので説教はなしにしましょう!さぁ、晶葉。何でもしようじゃないか!」

「ふっふっふ、言質は取れたな」


「……やっぱりやめておこうかな」

「頑張ってくださいね」


今日一番のちひろさんの笑顔、さっきの怒った顔より怖いのだが。

あー、あー、待てないのはわかるから晶葉はそんなに袖を引っ張らないでくれ。

今行く、今行くからさ。


「Pと共に、これからも世間を驚かせる発明をしていこう。そのためにも、まずは今日一日付き合ってもらうぞ!」


満面の笑顔を浮かべる晶葉、彼女とならばどこにでも行ける気がした。

以上で短いけれど終わりです。

晶葉誕生日おめでとう!

総選挙も45位という快挙、今乗りに乗ってるアイドル池袋晶葉をこれからも末永くよろしくお願いします!

五月のあきよりが大きく遅刻していますがいつか書き上げます

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