オーゼン「少し席を外すよ」ボンドルド「おやおや、素晴らしい。うんこですか?」 (18)

本作品は現在公開中の【劇場版 メイドインアビス- 深き魂の黎明- 】の内容が含まれておりますので、まだ観ておられない方はくれぐれもご注意くださいませ

それでは以下、本編です

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南海べオルスカの孤島にて発見された巨大な縦穴はアビスと呼ばれ、謎の力場に包まれたその不可思議な奈落の底を目指して遙か昔から数多の探窟家が潜り、そして命を落としていった。

未だアビスの底に辿り着いた者はおらず、文字通り底知れぬ縦穴は七つの階層に分かれており、階層をひとつ下りるごとに地上への帰還を妨げる上昇負荷という名の呪いをかける。

無論、下層へ向かうほど原生生物の脅威は増すが、何よりも探窟家の足かせとなっているのは先述した上昇負荷であり、特に深界五層以降の上昇負荷は命の危険を伴う強烈なものとなる。
端的に言うと、六層から帰還した者はいない。

必然、五層まで潜れる者も限られており、探索家のランクをわかりやすく表している笛の色で例えるならば、最高ランクの白笛の領域だ。

さて、そんな深界第五層、なきがらの海。
そこにはアビス攻略最前線の基地がある。
太古の昔、祈祷場として使われていたとされる巨大な建造物が六層の入口を取り囲んでいた。

「ざまぁないね、ボンドルド」

その基地にはひとりの白笛が居を構え、上昇負荷を克服するべく非人道的な研究と実験を繰り返していた。彼の名は、新しきボンドルド。
黎明卿と呼ばれし、白笛屈指のろくでなしだ。

「おやおや。これはこれは……素晴らしい。もう相当なご高齢でしょうに、わざわざここまで下りてくるとは思いませんでした……オーゼン」

ひび割れた仮面から感情が欠如した瞳で来訪者である白笛の不動卿、動かざるオーゼンを見据えたボンドルドは場違いな程丁寧に出迎えた。

「あんたの吠え面をひと目拝みたくてね、わざわざ来てやったのさ。くふっ。見たところ、ガキ共に盛大にしてやられたようじゃないか。日頃の行いが悪いからバチが当たったんだよ」

底意地の悪い笑みを浮かべるオーゼンの嘲笑を気にもせず、ボンドルドは朗らかな口調で。

「バチが当たっただなんてとんでもない。むしろ祝福と言えましょう。彼らは新しき光を見せてくれました。あれぞまさに私が追い求めた黎明の光に違いありません」

そんなさっぱりとして清々しさすら感じさせるボンドルドに、オーゼンはつまらなそうに。

「ふん。ガキ共に先を越されてさぞ悔しがっていると思っていたんだがね。当てが外れた」

オーゼンはただボンドルドが悔しがっている姿が見たくてわざわざ出向いたので、晴れやかな彼の姿など見たくもなかった。全く忌々しい。

「まあ、せっかく下りてきたことだし、しばらくここに滞在させて貰うよ。それにしても随分とあの奈落の秘宝に荒らされたようだが、私が泊まれる無事な部屋はあるんだろうね?」
「もちろん。では、こちらに」

恭しく指し示す先には奈落の秘宝であるレグが火葬砲で空けたすぐ下の空洞に続く穴があり。
そこに落ちればライトダイブになるのは明白。

「私に人間性を喪わせようとは良い度胸だね」
「もともと、人間だとは思っていませんので」

白笛が視線を交わす。力場がぐにゃりと歪む。

「ふん。戦闘用の身体も、ご自慢のカートリッジもないあんたと戦ってもつまらないだけさ」

バキバキと背骨を鳴らして前傾姿勢から身を起こしたオーゼンはあっさり臨戦態勢を解いた。

「部屋は私が勝手に見繕うことにするよ」
「どうぞ、ご自由に。ごゆるりと」
「ボンドルド」

レグとの戦闘の痕跡が色濃く残る基地内に入る間際、オーゼンが振り向き、肩越しに尋ねた。

「あんたの娘は無駄死にだったようだね」
「おやおや、これはこれは……」

肩を竦めたボンドルドが、予備動作無しでオーゼンの背中目掛けて『枢機に還す光」を放つ。

「ははっ……その顔が見たかった。邪魔するよ」

その奇襲を半歩横にずれ難なく躱すオーゼン。
にたりと真っ黒な満面の笑みを浮かべていた。
ひとまず目的を達して満足げに、ボンドルドの攻撃によって空いた穴から、基地内へ入った。

「ふぅ……さっぱりした」

基地内に入って真っ先にオーゼンは風呂に浸かり半裸同然の格好で半壊した建物を徘徊した。

「おや? モルモットの姿が見当たらないね」
「彼らの役目は終わったので、弔いました」
「弔い? 処分の間違いだろう?」

半壊したとはいえ広い基地内には人気がなく、ボンドルドが世界各地で拐って利用していた、実験用モルモットの姿が見当たらなかった。
オーゼンはてっきり処分したのだろうと思っていたが、ボンドルドは否定して墓を見せた。

「私なりに彼らの献身に敬意を表しました」
「ふうん? あんたが墓を建てるとはね」

ろくでなしのボンドルドにどんな心境の変化があったのかと訝しむオーゼンは、ふと気づく。

「あんたの娘の名前が見当たらないね」
「ここにプルシュカのお墓はありません」
「それは何故だい?」
「あの子は冒険へと旅立ちましたので」

ボンドルドは語る。淡々と、嬉しそうに。
娘を利用してなれ果てになろうとしたこと。
子供達を利用してその計画が成功したこと。
理想の身体となり、夜明けが近づいたこと。
しかしその矢先、レグとの戦闘に負けたこと。
白笛となったプルシュカの魂を託したこと。

「なるほど。そうして白笛を手に入れたわけか……出来過ぎた話だねぇ。子供騙しみたいだ」
「素晴らしい英雄譚とは得てしてそういうものです。見事でしたよ。本当に素晴らしかった」

何度も素晴らしいと賞賛を口にするボンドルドは、なるほどたしかに子供じみていた。

「あんたが英雄譚に憧れるとはね」
「あなたとて、かつてはそうだったのではありませんか? 不動卿、動かざるオーゼン」
「さて、忘れてしまったよ」

いずれにせよ、遠い昔の話だ。
それならばまだ最近の話をしよう。
オーゼンは語る。自分の弟子の話を。
マルルクと、そして白笛、ライザの物語を。
とはいえ、素面で口にするのは難儀だ。

「ボンドルド、あんた酒は飲めるかい?」
「生憎、私はお酒を嗜みませんので」
「大先輩の酌を断われるわけなかろ」

ゴソゴソとオーゼンは大荷物の中から酒瓶を取り出して、無理矢理ボンドルドの杯に注いだ。

「では、ひと口だけ」
「あんたの娘さんに」

献杯を捧げて、白笛2人は酒を酌み交わした。

「マルルクも可愛いが、やはりライザは別格だった。ボンドルド、お前もそう思うだろう?」
「私は殲滅卿の殲滅対象でしたのでなんとも」

グビグビ深酒をしてくだを巻くオーゼンと、対照的に最初の一杯をチビチビやるボンドルド。

「マルルクはかわいいが、ライザは美しい」
「ナナチとプルシュカも負けてはいません」

ボンドルドはしみじみと思い返す。嬉しげに。
人間性を保ったままなれ果てと成ったナナチ。
夜明けの花と名付けた、愛しいプルシュカ。
いかにオーゼンの弟子と言えど、敵うまい。

「ほう? 私のマルルクとライザに張り合うとは良い度胸じゃないか。永眠したいのかね?」
「先程から話を伺っておりますと、どうやらマルルクくんは少年で、ライザは既にあなたの手から離れて久しい。負ける要素がありません」
「言うじゃないか、ボンドルド。よかろ。そのナナチとあんたの娘の話を聞かせてみたまえ」

促されたので、ボンドルドは饒舌に語った。
如何にしてナナチが上昇負荷を克服したのか。
そして娘のプルシュカが白笛となったのかを。

「話はわかった。結論から言おう、ボンドルド。お前は心底、度し難い、ろくでなしだ」

2人について話すにはどうしてもボンドルドの悪行は避けては語れずオーゼンの不評を買った。

「いいかい、ボンドルド。あんたの愛し方じゃ、みんな娘のように死んでいくだけさね」
「しかし、ナナチは……」
「そのナナチとやらはあんたを憎んでいる」
「だからこそ、素晴らしい」
「だからこそ、度し難いと言ってるんだよ」

話は平行線のまま、交わることはない。
不毛であることは明白であり、正直飽きた。
オーゼンは椅子から腰を上げて席を外した。

「少し席を外すよ」
「おやおや、素晴らしい。うんこですか?」

尋ねると、オーゼンは黙って再び着席した。
どうしたのだろう。行動の意図が読めない。
とりあえず、同じ質問を繰り返してみよう。

「おやおや、素晴らしい。うん……」
「何度も言わなくても聞こえてるよ」

ぴしゃりと質問を遮られてしまったので。

「早くしないと、うんこが漏れますよ?」
「あのさぁ……ボンドルド」
「はい?」
「あんた、そんな奴じゃなかっただろう」
「はて、私はもともとこうですが……」
「ガキ共に負けてショックなのはわかるさ。けど、だからと言ってこういう八つ当たりはどうかと思うよ。人として、間違っているだろう」

何を今更。とうの昔に人間性など喪っている。

「私の人間性の心配よりもまず先に、あなたは自分自身の人間性の心配をされたほうがいい」
「なんだい、それは。どういう意味だね?」
「このままうんこを漏らせば、なれ果て以下の原生生物未満にまで堕ちるという意味です」
「言うじゃないか、ウンコルド」
「おやおや、これはこれは……」

ウンコルド。その響きの不快さに驚いた。

「耄碌しましたねぇ、オーゼン。私の名前さえろくに覚えておられないとは。引退しては?」
「うんこうんこと煩いあんたはウンコルドで充分さ。我ながら、素晴らしい命名だと思うよ」
「素晴らしくない」

ボンドルドは基本的に全てを受け入れてきた。
たとえそれがどんな度し難いものでも、快く。
けれど、ウンコルドだけは受け入れ難かった。

「いいからお早くうんこをしてきたらどうです? あまり老婆の括約筋を過信していると手遅れになりますよ。おっと、もう臭ってきた」
「何が臭うって? 鼻がおかしいのかい?」
「ああ、失礼。ただの加齢臭のようですね」
「ちっ……もういい。表に出な、ウンコルド」
「表で脱糞する姿を見て欲しいのですか?」

煽る、煽る、煽る。これぞ、黎明卿の真骨頂。

「はあ……わかったよ。仕方ないなぁ」
「はい?」
「望み通り、糞をするところを見せてやるよ」

どうやら煽りすぎたらしい。急展開を迎えた。

「これはこれは……不動卿は冗談が下手ですね」
「冗談だと思うかい?」

白笛同士の探り合い。
一触即発の不穏な空気が流れた。
先に動いたのは意外にも、動かざるオーゼン。

「来な。芳しきウンコルド」
「わかりました……垂れ流すオー便」

売り言葉に買い言葉で、もうあとには引けず。
基地の外へとオーゼンはボンドルドを連れ出し、おもむろにズボンを下ろしてしゃがんだ。

「ん? 何してるんだい、ウンコルド。そんなところに突っ立ってないで早く這いつくばりな」

思わず目を逸らすと、どっしり構えたオーゼンが手招いて、棒立ちボンドルドを呼び寄せた。

「這いつくばって見ないとよく見えんだろう。なんなら、その仮面の上から垂れ流そうか?」
「いえ、結構です」
「遠慮するな。同じ白笛の仲じゃないか」
「では、遠慮なく」

ボンドルドとて、白笛の端くれ。
アビスの導き手としての矜持があった。
ここで退けばプルシュカに顔向けが出来ない。

「さあ、この黎明卿がしかと見届けましょう」

ゴロンと地面に寝転んで、星空を仰いだ。

「ふん。良いザマだね、ウンコルド」
「こちらもなかなか良い眺めですよ、オオ便」

ボンドルドの顔面に跨るオーゼンの肛門は歳のわりには緩んでおらず、彼女の頭髪と同じく捻れ歪みしっかりと閉じていた。存外、美しい。
息を吹きかけるとくすぐったそうに身を捩り。

「オオ便よりも大便の方が言いやすかろ」
「ふむ。なるほど、大便ですか。素晴らしい」

上手いことを言われてボンドルドはついつい感銘を受け、賞賛を口にするとオーゼンの肛門が誇らしげにひくついた。神秘的な光景である。

「さて、そろそろぶち撒けようかね」
「いよいよ、夜明けが訪れるのですね」
「ああ、あんたが待ちに待った夜明けさ」

眼前に存在する深淵から糞という名の黎明の光が漏れ出る前に、ボンドルドは舌先を伸ばし。

ぺろんっ!

「ん? なんだい、今の快感は」
「濃い味ですな」
「ははっ。風呂で念入りに洗っとくんだった」
「動じませんか……流石は不動の大便ですね」

尻穴を舐められてもやはり動じないオーゼン。
ボンドルドは同じ白笛として素直に賞賛した。
何があってもぶれない強さを、羨ましく思う。

「大便……いえ、動かざるオーゼン」
「なんだね、新しきボンドルド」
「私は正直、怖いのですよ」

ボンドルドは率直に今の心境を伝えた。

「あなたの大便で何かが変わりそうで、怖い」
「自分を見失うなんて、あんたらしくないよ」

ボンドルドは自我が希薄である。
それは特級遺物である精神隷属機を用いて自らの複製を大量に作った副作用と言えた。
オリジナルのボンドルドは複製のボンドルドの首から下がる白笛となって既に他界している。
それでもオリジナルの精神を引き継ぎ、アビスの謎を解き明かすべく、活動を続けてきた。

「奈落の果てが、よもやこれとは」

数多の犠牲を積み重ねた果てに、糞に塗れる。
果たしてそれがオリジナルが望む結末なのか。
今となってはそれを確かめる手段はなかった。

「いいじゃないか」

落胆を隠せないボンドルドに、優しく諭す。

「あんたは今日、新しく生まれ変わるんだ」

新しく生まれ変わる。それはなんとも胸踊る。

「失礼しました、オーゼン。もう平気です」
「覚悟は決まったのかい?」
「ええ。新しい自分に会えるのが愉しみです」

彼は黎明卿、新しきボンドルド。
夜明けの光を求め彷徨う探窟家。
そしてアビスの声を届ける白笛。

「さようなら、動かざるオーゼン」
「さらばだ、今は昔のボンドルド」

ぶりゅっ!

視界が便で塞がれて、闇に包まれる。
さようなら、昔の自分。
こんにちは、新たな自分。
もっとも暗い闇の向こうに、黎明の光を見た。

「フハッ!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

アビスの深界に黎明卿の哄笑が響き渡った。
その愉悦は上昇負荷をものともせず克服し。
地上のオースの町へと福音となりて届いた。

『パパ……くちゃい』

ふと、夜明けの花の声が、聞こえた気がした。

(ああ、プルシュカ……あなたに会えたなら)

事後、新しきボンドルドは亡き娘を思う。
ここにあの心優しい娘が居てくれたならば。
きっと優しくパパ棒を宥めてくれただろうと。

「ふぅ……スッキリした」

全てを出し終えたオーゼンが、足元で糞塗れとなったボンドルドを見下してにたりと嗤う。

「また会えたね、新しきウンコルド」

汚いなぁと口にしつつもオーゼンは嬉しそうに生まれ変わった新しきボンドルドへ挨拶した。

「またお会いしましたね、出し終えた大便」

まるで憑物が落ちたかのように、穏やかに挨拶を返した彼の顔面をオーゼンは踏み潰した。

「あはは。何度生まれ変わっても、ろくでなしはろくでなしか。ほんと救いようがないねぇ」

たとえ頭を踏み潰されても。
上半身と下半身がもがれようとも。
黎明の光を追い求める探窟家はまた現れる。

「おやおや、これはこれは……手厳しい」

彼の名はボンドルド。新しき、ボンドルド。


【黎明に響きし夜明けの花の声】


FIN

何という糞SS

やっぱ白笛って糞だわ

お師さま…‥


キャラ崩壊系のギャグssかと思ったら口調の再現度が高い神ssかと思ったら糞ssだった(褒め言葉)

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