砂塚あきら「ヒミツのステージ」 (23)
シンデレラガールズのSSです。
短め、本番まではありません。
「んじゃ、今日の配信はこれで終わりマス。おつでしたー」
いつもの挨拶をして、配信を切る。
ヘッドセットを放り出し、そのままベッドに倒れ込んだ。
今日の配信は、いつもより調子が良かった。
個人スコアもよかったし、チームの仲間がやられて自分しか残っていない状況からの逆転、なんてこともできた。
コメントも盛り上がってたし、配信的にも大成功、と言える内容だったと思う。
でも、胸にあるのは、高揚感ではなく、モヤモヤとした浮かない気分だった。
原因は何となくわかっている。
近頃始めた、『アイドル』という仕事。
『プロデューサー』を名乗る人にスカウトされて、何となくで始めたこと。
最初は飽きるまで、という適当な条件で続けていたけど、初めてのライブで不思議な達成感を味わった。
これなら、『アイドル』でなら、自分でしかできないことが、見つけられるかもしれない。
そんな期待があった。
でもそれから、何度かステージを経験したけれど、あの時の感覚に触れることはできなかった。
どうすれば、またあのステージに立てるのか。
どうすれば、あんな感覚がまた味わえるのか。
それがわからないまま、ただ時間だけが過ぎていくのがもどかしかった。
今日のゲーム配信も、そんな気分を晴らしたかった。
アイドルを始めてからは、一応、気を遣って回数を減らしていたし、久しぶりにやれば気分転換になることを期待して。
でも結局、気分は晴れるどころか、虚しさが募っただけだった。
「……しよ」
ベッドにうつ伏せになったまま、下半身に手を伸ばす。
下着の上から、割れ目に沿って擦り上げるように、指を押し当てる。
配信後の自慰。
いつからか、するようになったソレは悪癖のようなものだった。
ある時は、勝って興奮した気持ちを鎮めるため。
ある時は、負けてイライラした気持ちを晴らすため。
「……んっ、ふぅ……」
徐々に湿り気を帯びてきたソコは、下着の上から擦っているだけでは物足りなくなってきた。
汚すのも嫌なので乱暴に脱ぎ捨て、再び指を押し当てる。
強く、速く、リズミカルに、不規則に。
胸のうちに溜まった靄を振り払うように、ただ一心に指を滑らせる。
「……はっ、あっ、んん……!」
片手で口を押さえて、漏れ出る声を抑える。
くぐもった息遣いと、くちゅくちゅという水音が、静まり返った部屋に響く。
昂ってきた身体に上ってくる快感に、ただ意識を集中する。
「ふっ、ふぅっ…!んあっ!」
びくっ!と身体が大きく跳ねる。
小刻みに震えながら、その余波に身をゆだねる。
荒くなった息を整えながら、ぼんやりとした頭で考える。
「……足んない」
いつもなら、一度である程度はスッキリするはずなのに、今日に限っては全然だ。
むしろ、身体がだるくなった分、余計に気分も重くなったように感じる。
時計に目をやると、すでに深夜の3時を回っていた。
「……いいや、片づけよ」
半裸の状態で立ち上がり、机に広げっぱなしになっていた機材を片付け始める。
そこでふと、ウェブカメラが目に留まる。
……もし、さっきの配信を切り忘れていたら、今の痴態は……
ゾクリ、と背筋が震える。
「……いやいやいや、ないっしょ」
浮かんだ考えを、頭を振って追いやる。
正直、何度か考えたことがなかったわけではない。
けれども、さすがにそこまで危ない橋を渡るつもりはない。
ましてや、もうアイドルとなった身だ。
もし、特定されでもしたら、好奇心では済まなくなる。
ネットの怖さは、十分に知っているつもりだ。
……でも、バレる心配がなかったら?
少しは気分が晴れるかもしれない。
机の隅に放り出してあったスマートフォンを手に取る。
メッセージアプリの最上段には、つい最近追加された連絡先が。
熱心に誘ってくれた彼は、自分に興味があると言ってくれた。
少し考えてから、文字を打つ。
『Pサン、まだ起きてる?』
『ちょっと、相談があるんデスけど』
送信。
しばらく待ってみたものの、既読がつく様子はなかった。
当然だ、こんな時間、とっくに寝ているはず。
……これなら。
片づけていた機材を、再び設定する。
いつも顔だけしか映らないカメラの配置を変え、ベッドの方に向ける。
部屋の照明を少し暗くし、マスクをつける。
念のために新規のIDを取得して、限定公開用のパスワードもつける。
これで、準備はできた。
正直、おかしいという自覚はある。
でもだからこそ、今の気分を払うにはいい。
もう、まともに頭は回っていなかった。
配信、開始。
再びベッドに腰かけ、スマートフォンを操作する。
『ちょっとこれ、見てもらえませんか?↓』
続けて、配信URLとパスワードを送る。
反応は、やはりない。
イケる。
スマートフォンをベットに放り出し、大きく深呼吸をする。
そして、震える指でボタンを外しながら、一枚ずつ、服を脱いでいく。
呼吸はどんどん浅くなっていく。
すべてを脱ぎ捨てて、改めてカメラを見据える。
そして、ゆっくりとカメラに向けて、足を開いた。
やばい。これはやばい。
今にも心臓が口から飛び出しそうだ。
恥ずかしさのあまり、涙まで出てくる。
ちらりとスマートフォンを見る。
反応はないけれど、あまり時間はかけられない。
さっさと終わらせよう。
先ほどとは比べ物にならないほど濡れているのは、脱いでいる段階で気づいていた。
そっと、指を滑り込ませる。
「んあっ!!!」
あまりの快感に、思わず声が出た。
普通ではないこの状況に、身体もすっかり敏感になってしまっていた。
慌てて口を抑えようにも、手はまったく止まらない。
「んっ、は、ぁあっ、あぁ!!」
実際に見られているわけじゃない。
ただ「見られるかもしれない」という状況が、異様なまでに気持ちを昂らせていた。
声もまったく抑えることができない。
せめてとうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
カメラに向けて腰を突き出す格好になっていたが、そんなことを気にする余裕はなかった。
「ん、うぅ、っぐ!!」
ひたすらに、指でかき回す。
ぐちゅぐちゅと大きく水音をたて、ベッドに染みを作っていく。
もう一方の手でシーツを強く握りしめ、ただただその刺激に没頭した。
身体はどんどん敏感になり、応えるように指が激しく動く。
「ん゛ぅ!!」
引き抜いた拍子にひと際大きな波が押し寄せてきて、身体が大きく跳ねた。
ぷしっ、と音を立てて吹きだす。
目の奥で火花が散り、頭が真っ白になる。
「はっ、はっ、か、はっ……」
肺が、酸素を求めて喘ぐ。
そのままベッドに崩れ、荒くなった息を必死に整える。
「ヤバい……ちょーよかった……」
あんなに大きな絶頂は初めてだった。
あまりの快感に、胸の靄もすっかり吹き飛んでしまっていた。
「これ……クセになっちゃったらどーしよ」
さすがにまずい。
こう、色々と。
「あ~……後始末、しなきゃ」
このまま余韻に浸っていたかったが、そうもいっていられない。
立ち上がって、ベッドの片づけをする。
「うわぁ……びっちゃびちゃじゃん……どーしよ」
我ながら盛大にやったもんだと苦笑しながらシーツをはがし、丸める。
あとでバレないように洗わなきゃ。
「そうだ、こっちも……」
放り出してあったスマートフォンを拾い上げる。
先ほど送ったメッセージを消しておかなければ。
消した内容については、明日適当に言い訳すればいいやと考えながら、メッセージアプリを起動する。
「…………えっ?」
そこに映っていたのは、「既読」がついたメッセージ。
慌ててPCの配信画面を確認する。
配信視聴者 1名
たしかにそこにはそう表示されていた。
「……うそ」
一気に頭が真っ白になる。
マウスを持つ手が震える。
見られた。
観られていた。
先ほどまでの痴態を。
観られてないと高をくくって、乱れに乱れたあの姿を。
あの人に観られていた。
「……あはっ」
乾いた笑いが、漏れ出た。
胸に広がったのは、観られた羞恥でも後悔でもなく、いつか感じた高翌揚感と背徳感だった。
そう、観られていた。
あの人は、止めなかったんだ。
既読だけなら、寝相で操作した可能性もあった。
でも、そうではない。
URLを開いて、パスワードを打ち込んで、あの限定配信を見ていた。
そして、今も。
まだ配信は切っていない。
画面に映る自分の様子から、こちらが気づいたことも伝わっているはず。
「……あははっ」
つまりは、そういうことなんだろう。
気持ちが昂ってくる。
これからは、『こう』すればいいんだ。
もうあんなに悩まされることもない。
「明日からまた、ヨロシクお願いしますね、Pサン♪」
そう言って自分は、配信を切った。
以上になります。
まだ情報が少ないので、口調等はイメージです。
登場したばかりでこれから色々楽しみな子だと思います。
今後に注目ですね。
お付き合いいただきありがとうございました。
HTML化依頼出してきます。
おつおつ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません