【ミリマスR-18】初体験同士のPと莉緒が一夜を共にする話 (23)

いけるかな? スレ立ったら書きます


・童貞vs処女
・Pの年齢を23歳に設定
・莉緒さんは「知識がちょっとある」程度のパラメータ調整


 その日は、レッスン上がりの大人三人――このみさん、莉緒、歌織さん――と軽く引っかけるつもりでアイリッシュパブに立ち寄っていた。ティーンの子達がファミレスでワイワイするのを眺める平和な時間も楽しかったが、近い目線で話ができる大人達と一緒になって、アルコールに日頃の鬱憤を溶かし込めるこの一時は、業務時間外の憩いだった。だがその日は、特段ペースが早かったわけでもなかった莉緒が、一足先に店の中で潰れて大人しくなってしまっていた。家の近くまで送っていく役目は俺に任されて、いや、半ば押し付けられて、21時頃にはさっさと解散となってしまった。

 肩を貸したり手を引いたりしつつしばらく歩いていると、程なくして莉緒は落ち着きを取り戻し始め、「もう少し飲みたいんだけど、ウチに来ない?」なんてあっけらかんと言いながら、足取りがおぼつかない振りをして腕にしがみついていた。断ると翌日またアレコレ文句を言われそうだったし、途中で切り上げれば問題はなかろう、と判断した。だが、渋々応じようというポーズをとる傍らで、その提案に乗りたい自分がいたのも確かだった。しがみつかれた左腕に、男性の体にはない柔らかなものがずっと当たっていた。

 大通りから離れて人もまばらではあったが、「テレビでよく見る顔」にもなりつつあった莉緒にはコンビニの駐車場の隅で待っていてもらい、少々の酒と肴を店内で購入した。それと同時に、コンドームの箱も別会計でカバンに忍ばせた。封じ込めて名前もつけないようにした感情が、酔って緩んだ心の間隙を縫って滲み出ていた。使う機会なんて訪れるはずがない、と頭では結論を出しているのに。

 人目につき辛い、マンションの駐車場に繋がる裏口から案内してもらって、エレベーターを上がる。莉緒の住むマンションに来るのは何回目だっただろうか。仕事が終わって暇なら飲みに来い、といい大人達が酔っぱらって出来上がっている場へ呼ばれたり、外での仕事に付き添って家主を車で送ったついでで、夕飯を御馳走してもらったり。部屋の様子が変われば分かる程度には、足を運ぶ機会があった。最近押し付けられたのか、テレビの横には茜ちゃん人形が腰を下ろしていた。

 BGM代わりにつけたテレビでは、さっきまで一緒に飲んでいたこのみさんが、赤いドレスに身を包んで歌っていた。二週間前に収録した歌番組のオンエアだった。事務所で録画を見ようと思っていた所だったが、渡りに船だったかもしれない。

「この曲、大好き。素敵だわ……。ステージのこのみ姉さんって大人よねぇ」
「こういう歌がきっかけでファンになった、って声が多いんだよ、あの人。動画サイトのコメントとかファンレターとかもさ。まぁ、大抵本人の姿を目にするとルックスのギャップに驚かれちゃってて、時々複雑そうにしてるけど。内面はしっかり大人なのに、アダルティアピールが毎度毎度噛み合ってないのもちょっと不憫だよな」
「……怒られちゃうわよ、そんなこと言ってると」

 このみさんのステージが終わった。ディレクターと交渉した結果トリに入れてもらえた"dear..."。テレビの前では二人分の拍手が鳴っていた。よく冷えていたビールが喉越し良く胃の中に吸い込まれていく。

「莉緒、さっき店で潰れてたのに、飲んで大丈夫なのか」

 グラスに注いだ梅酒を、莉緒がロックで口にしていた。顔こそほんのり赤いが、酩酊しているような様子も無い。

「んー、あれね……ちょっと演技しちゃった。悪酔いはしてないわよ」
「えっ、そうだったのか……どうして?」
「だって……ああでもしないと、最近中々二人っきりになってくれないじゃない」
「……」
「プロデューサーくん。私、疑問に思っていることがあるんだけど」

 意図的に状況を避けていたのを、見抜かれていた。返す言葉が思いつかず、残り少なかった缶ビールを逆さまにしたが、ほんの僅かの雫しか入っていなかった。

「あれだけ沢山の女の子に囲まれてて、誰のことも好きにならないの?」
「好きになったらマズい要素しか無いじゃないか。立場ってものがあるだろ」
「キミを慕ってる子がいるのは認識してるんでしょう?」
「……まぁ、そういう意識が剥き出しの子もいるけど。年上に対する憧れとか……単にそういうもんだと思うようにしてるよ」
「何だか……残酷ね」
「そうやって仮面を被っていないと、身が持たないんだって。忙殺されているのが有難く感じるぐらいさ。それに、俺みたいなのと一緒になったって、幸せにはなれないよ。みんなには、将来、もっといい相手が見つかるはずだ」

 半分は嘘で、半分は本当だった。目の前の相手に対する、表に出てこようとする本心を、綺麗ごとで無理矢理踏んづけて、塗りつぶす。

 同い年で、タメ口を利き合う莉緒には、学生の頃の女友達みたいな心地良い距離感をずっと感じていた。もちろん、プロデュースする担当アイドルなんだから、気を配らなければいけないのは他の子同様だ。ただ、ともすれば下品になってしまう過激な言動やセックスアピールはいつだって、女っ気の無い自分には深々と刺さっていた。もしかしたら気があるのかも、なんて、都合の良い期待も胸に抱いていた。
 そして、純粋な存在たるアイドルとしても日に日に眩しくなっていく莉緒に心を奪われないよう、自分自身に、義務感と社会的立場という蓋を被せ続けてきたのだ。それもここ数週間では限界を迎えつつあり、劇場で姿を見かけて目が合う度に、鼓動が聞こえそうなぐらい胸が高鳴るようになる始末だった。
 それで意図的に接触する機会を減らそうとした結果の今日だ。離れなければ、と思う一方で、もっと近づきたい、と焦がれる。大義名分と内心の欲求とのせめぎ合いにくたびれている自分がいたのも確かだった。

「……あんなにみんなのことを褒めてるのに、自分自身のことになると、評価が低いのね」
「自己評価がもっと高かったら、きっと自分が表に立とうとしているよ。いいんだ、俺は裏方で、原石が宝石になっていくのを見守っていられれば、それで」

 空になった莉緒のグラスで、氷がカランコロンと音を立てた。

「原石を見つけて、丁寧に磨いてピカピカの宝石に仕上げているのは、キミじゃない。もっと自信持ってよ」
「お、俺はただ、みんなの手伝いをしているだけだよ。キラキラになっているのは、みんなの日頃の努力の賜物であって――」
「その努力ができるのも、プロデューサーくんが支えててくれるからなのよ。私だって……」

 音を立ててグラスを置き、座椅子から体を起こした莉緒が、俺の肩を掴んだ。

「キミの……キミの視線を感じるから、もっと魅力的になりたい、って思い続けていられるのに」
「……り、莉緒」
「私、一人で勘違いしてただけだった? ただの担当アイドルの一人に過ぎない? 恋しちゃったら、迷惑……?」

 俯いた顔から絞り出される声が震えていた。

 百瀬莉緒という個人の守るべき将来、百瀬莉緒というアイドルを慕う数多のファンへの裏切り、発生しうるスキャンダルがもたらす損害、保たれているアイドル達の調和の崩壊……。道理に適った判断をするのならば、ここで俺は心を鬼にして突き放さなければならないはずだった。でも、どうやって……?

「迷惑だなんて、そんなわけないだろ……」

 結局、俺は、手を差し伸べていた。できなかったのだ。今、目の前で泣き出してしまった莉緒に向き合わず、将来のための最善策をとることが。今俺がしようとしていることは正しいか間違っているかと言えば、恐らく間違っている。でも、正しい行動をとったとしても、それが、誰にとって、どう正しいのか、誰が正しさを保証してくれるのか。仮に正しさを保証してもらったところで、何を代償にすることになるのか。一瞬迷う間に考えてみたけれど、きっと何時間かけても答えを出すことはできなかっただろうと思う。

「……ぐすっ……ちっとも振り向いてくれないじゃない……それどころか、私のこと避けて……」
「悪かった。でも、違うんだ。迷惑だなんて、思ってない」

 前髪の隙間から覗く莉緒の赤い瞳と目が合った。涙で濡れている所も綺麗だった。
 いよいよ、観念する時が来てしまったのかもしれなかった。

「……莉緒からアプローチかけられるの、嬉しかったんだ。仕事帰りに気軽に飲みにいったりできるぐらいに距離が近くて、スタイル良くて、色っぽくて。そんな同い年の女と仲良くいたら、特別視だってしたくなる」

 どう言えば状況をうまく治められるか、という考えを、抑圧されていた自分の本音が押し流していく。

「だけど、自分の担当アイドルに惚れてしまったプロデューサーなんて……許されないだろう。会社の大切な財産だし、アイドル個人の人生だってある。ファンだっている。そう自分に言い聞かせていたんだが、そんな間にも莉緒はどんどん魅力的になっていって……二人きりでいようものなら、気がどうにかなりそうだったんだ」

 半ば饒舌になりながら言葉を紡ぎ出している内に、肩が少しずつ軽くなっていくのを感じていた。

「だから……最近、二人で会ってくれなかったの?」
「……すまん」
「……ううん、いいのよ。……キミの気持ちも、分かったから……。ふふっ、両想いだったのね。嬉しい……」

 決定的な告白こそお互いにしていなかったが、俺が好意かもしれないと受け止めていたのは錯覚では無かったらしい。俺の本音も打ち明けてしまった。役割を担った社会人としての自分が水を差していたが、想いが通じたことには全身が熱くなった。手を伸ばせば相手をすぐに抱き締められる距離をもっと縮めたい衝動が突き上げるが、酒が回っていてもまだ理性は生きていた。

「……でも、お互い好きだからって、めでたくカレシとカノジョ、ってわけにはいかないわよね。自分を取り巻く環境のことが分からない程、幼くはないもの」

 莉緒が溜息をついた。同感だった。

「そうだな……。少なくとも、莉緒がアイドルとして進み続ける間は、俺はプロデューサーとして背中を押し続けたい」
「そうね。アイドル、やりがいあるし、楽しいし、まだ発展途上だもの。一緒に頑張ってる仲間もいるんだから、私も、まだまだ続けたいわ」

 空になっていた莉緒のグラスと、ひっくり返されたまま使われていなかった俺の分のグラスに、梅酒の残りが注がれていった。瓶の中にはもう空気しか残っていない。莉緒のグラスに残っていたグラスから氷をお裾分けしてもらい、同じ飲み方をするよう促された。甘酸っぱい香りと共に、濃い酒特有の、ヒリつくような熱さが口内に広がる。

「色んな理由があってダメだって、頭では分かってるの。でも……ほら、私たち、もう成人してるじゃない。『お酒の勢いで』っていうズルい言い訳だって用意できてるし、共犯になって秘密の仮面を被ることだってできるわ。だから……」

 莉緒が両腕を広げて、こちらに差し出した。

「夜明けまででいい……今夜だけでいいから……キミと一緒に、夢を見たいの」
「……莉緒」
「あっ……!」

 吸い込まれるように、俺は莉緒の身体を抱きしめていた。自分が勢いをつけてしまったせいで、そのまま傾いていき、背中に回した腕で莉緒を庇った。

「悪い、勢い余って……」

 ふと背中から離した右腕は床に突っ張り、その下で、莉緒が仰向けになっている。クッションに後頭部を預けながら、俺の出方をうかがっている。視界の端にはまだ飲みかけの梅酒がグラスに残り、互いの呼吸にも、何杯も飲んだアルコールの香りが混じっていた。

「……ねえ、私って魅力的?」

 莉緒が首筋に腕を回してきた。さっきまで点いていたテレビは、いつの間にか真っ暗になっていた。静寂の中で、どちらのかも分からない鼓動の音が聞こえるようだった。

「いつだって、莉緒は魅力的だよ」
「私で、ドキドキしてる?」
「してる」
「私も、すごくドキドキしてる。キミがこんな近くにいるのなんて初めてで、き、緊張しちゃう……」

 何度も視線を逸らしながら、莉緒は白い肌を首筋まで赤らめていた。逃げるようだった視線が通じ合って数秒、こちらがしようとしていることの意図を読み取ったのか、ふさふさした睫毛を閉ざして顎を差し出してきた。

「……」

 柔らかい唇からは、自分が飲んでいたのと同じ梅酒の甘酸っぱい味がした。そのまま舌を差し入れてみると、莉緒は一瞬身を固くしたが、向こうからもゆっくりと出迎えてくれた。回されている腕とも、より密着する。お互いの唾液を交換しながら舌同士でぎこちなくイチャついていると、酔いがますます加速していくようだった。この酔いは、果たしてアルコールのもたらすものなんだろうか。

 カーディガンのボタンに手をかける。莉緒と話した時にそういう話題になったことなんて無かったし、悟られたくもないことだったが、俺が経験したことのあるポイントはもう通り過ぎてしまった。俺が童貞だと知ったら、莉緒はどんな反応をするのだろうか。こんなにセクシーで、男性の注目を集めようと熱心な莉緒のことだ。きっと経験豊かに違いない。筆下ろしを先導してくれるだろうか、という期待が無いでもなかった。それとも、女を抱いたことの無いダサい男だと、蔑まれてしまうだろうか。だが、普段から頼りにされている自覚はある。だから、そのノリで、バレずにリードできないものだろうか。

 慣れていないことを手つきで悟られてしまうかもしれない、と思いながら、どうにかピンクのカーディガンのボタンを外し終わった。赤い双眸は、何も言わずに俺を見つめている。ブラウスのボタンに手をかけて、二つほどボタンを外した時、突然、細い指が手首に絡みついてきた。

「……ま、待って」
「あ、悪い、乱暴だったか……?」
「ちっ、違うの。あっ、あのっ、あの……」

 それまで静かになっていた莉緒が、狼狽え始めた。

「落ち着け、どうしたんだ」
「……私、男の人に、はっ……ハダカ、見せたことがなくて……」

 ちょっぴり遠回しな言い方で「セックスの経験が無い」と告げた莉緒は、俺の手首を握りしめた。恥ずかしさからか、目尻が潤んでいる。

「え……マジなのか?」
「仕方無いじゃない……カレシ全然できなくて、こんな歳になってもそういう機会がなかったんだもの」

 冗談を言っているような顔では無かった。確かに、莉緒から過去の男の話なんて、それどころか浮いた話すら一度も出たことは無かったが、あれだけ露出の高い格好や自分の体を見せつける仕草をしていながら清らかな体のままでいたなんて、にわかには信じられなかった。

「そうか……俺と同じか。……あ」

 だからだったのか、俺も余計なことを口にしていた。

「え? 同じ、って」
「……えーと、その、何だ」
「あんなに女の子と上手にコミュニケーション取ってるのに……?」
「キスまでしか……したことないんだよ。一人だけいたことあったけど、そっから先に進む前にフラれちまった。つまりは童貞だよ、童貞」

 言葉にしてみると情けなくて仕方がない。惨めな思いも湧いてきたが、どうせ相手も同じ状況なのだ。それに、このまま進めばどこかでバレてしまうだろうと思った。

「……私より経験あるじゃない。こっちは、キスもしたことなかったのに。さっきのが初めてよ」
「あ……そ、そっか……ごめん、いきなりディープキスしちまって悪かった。……やり直し、するか」
「やり直し……?」
「ああ」

 ロマンチックな雰囲気なんてぶち壊しになってしまったが、口を閉じて、莉緒の瞳を覗き込む。赤く透き通ったレンズに、うっすらと自分の顔が映っている。掴まれた手首から力が抜かれた。さらっと指の間を滑っていく黄金色の髪を触らせてもらっている内に、また莉緒が目を閉じた。

 今度は、唇を重ねるだけの、愛情表現のキス。さっきよりも濃い甘味が、みずみずしい羊羹みたいにぷるぷるした唇から伝わって来た。

 唇を離した途端、腕の中にいる人への愛おしさが込み上げてくる。プロデューサーの立場なんて捨てて、このまま莉緒とずっと一緒になりたい――そんな許されざる思いが、ほんの一瞬ではあったが、脳裏をかすめた。

「……っっ!」

 お互いの顔が離れると、莉緒は両手で自分の顔を覆って隠してしまった。「男を手玉に取る女」の雰囲気すら漂わせるあの莉緒が、キスするだけでこんなに初心な、恋を初めて知った少女みたいな反応を示すなんて。そんな可愛らしい様を見せながらも、脱がしかけのブラウスからは、黒いブラと、くっきりIの字に形成された谷間が見えている。ぎゅっと押し込められていて窮屈そうだ。視線をそこに注ぎ込まずにはいられなかった。

「莉緒、ベッドに連れて行っていいか?」

 うん、と頷く返事を確認する前に、膝の裏と背中に腕を回して持ち上げた。ほんの数メートルを抱きかかえるぐらいなら、気にもならない。
 薄ピンクのシーツにグラマーな体をそっと下ろして横たえると、長い金髪がふわっと散った。暖色の視界の中で下着の黒が目立つ。ベッドからは、莉緒の香りを煮詰めたような、濃い匂いがする。ブラウスのボタンの残りを外そうとする俺の手をじっと見つめたまま莉緒は大人しくしていて、それが却って俺を緊張させた。指がもつれて、ボタンが穴から中々抜けていかない。ようやく全てを外し終わって布地の内側を見せてもらおうとすると、ぴくりと莉緒の右手が動いた。

「い……いいんだよな?」
「……あの、ホック、前だから……間違えないでね」
「あ……うん」
「だ、大丈夫? 自分で外した方がいいかしら?」
「とりあえず……とりあえず、やってみるから。無理そうだったら頼む」

 めくれたブラウスの中で下着に押さえ込まれている部分にばかり目が行ったが、なるほど確かにフロントホックだ。まず触らせてもらおうか、それとも先に中身を見せてもらおうか。少々迷ったが、まずは手を広げて輪郭を確かめさせてもらった。ここに来る前のように、しがみつかれた拍子に触れたりしてコンタクトを取ったりしたことはあったけれど、掌で触れた時の柔らかさはそういった時に感じたものの比では無かった。指が沈み込むのに、押し返してくる弾力がある。「壊れないプリン」というありがちな形容は的を射ていると思った。力を入れて思い切り揉みしだきたくなったが、自分より幾回りも細身な莉緒にそうしてはならないと自制した。

「……ぁ……っ」
「痛いか?」
「そうじゃないけど、すごく……ドキドキしちゃって」
「それは……俺も同じだよ。ホック外すぞ」

 楽でいいな、なんて言葉がつい口をついて出てしまった。ホックが外れた瞬間、所在無げに空中を漂っていた左手が、俺の手の甲に添えられた。抵抗されるかな、と思いきや、マニキュアを塗った爪が手の甲をくすぐって滑っていっただけだった。
 水着撮影の時にも隠れていた、ほんの半径数センチの領域。そこが露わになった。仰向けになっても膨らみを失わない白い丘の頂点の、少し濃い桜色。

「思ってたより……キレイだな」
「思ってた……って、想像してたの? ……えっち」
「悪いかよ。いいじゃないか、好きな女の裸を考えるぐらい。俺だって男なんだから」

 好き、という二文字を認識した瞬間、既に赤らんでいる莉緒の顔が更に紅潮した。

「そ、そう……。ねぇ、興奮、してる?」
「さっきからずっと、興奮しっぱなしだ」

 乳首に触れたらどんな反応が見られるんだろう。指を伸ばしてみたかったが、無限に柔らかいこの水風船みたいな触感をまだ楽しんでいたかった。

「……は……はっ……ん……」

 痛がる様子が無いのを観察しながら、手の中で変形する膨らみを捏ね回していると、莉緒の吐息に細い声が混ざり始めた。声を出してしまうのが恥ずかしいのか、片手で口元を塞いでいる。もっと刺激を強めたら、はっきりした声が聞けるかもしれない。そう思って、体温を感じられるぐらいに顔を素肌に近づけた。ちょっと勇気が必要だったが、美味しそうなピンク色のエリアへ舌を伸ばしてみる。

「ひゃっ……! あ、や、くすぐった……!」

 乳輪の周辺をなぞってみると、少しずつ硬さが増してきた。この辺かな、と手探りで、反対側の頂点へも指をさし伸ばす。体をよじらせてはいるようだったが、押しのけるような抵抗は無かった。

「あ……やだっ、あ……あっ……」

 頬に触れる、マシュマロのような柔らかさが、張り詰めて一回り膨らんだ乳首の硬さを強調する。何も出てくるわけがないと知りつつも吸い上げてみると、一際甲高い声がした。こんな拙い愛撫を受け入れてもらえる嬉しさが胸を熱くしていく。うまくやれる気なんてしなかったが、できるだけ莉緒に心地良くなってもらいたかった。

「んっ……ん、何だか、赤ちゃんみたい……」
「なんだよ、大昔はそっちだって同じことやってただろ」
「覚えてるわけないじゃない、そんなこ……あっ、うなじ、ゾクってする……」

 頭を抱えるように抱き締められて、こちらもそれに応じようとしたら、指先が首筋に触れていた。

「この辺か?」
「あっ……!! あは、う……うぅ、声……出ちゃう……」

 女性は男性よりも首元とか背中が敏感なんだっけ。どこかで読んだようなことをふと思い出して、うなじを撫でていた掌を背中に回していく。電気ショックでも受けたみたいに、莉緒が体を硬直させた。どこもかしこも潤いがあってすべすべしていて、莉緒の肌は触っているだけでこっちまで気持ちよくなってくる。ボリューム豊かな胸元に顔をうずめたかったし、贅肉の無い引き締まったお腹に頬ずりだってしたかったが、髭がチクチクして痛い、と文句を言われてしまったので、すぐやめざるを得なかった。こんな夜中でさえなければ……。

 丁度自分が頭を置いていた地点は腹の中心部にあって、きゅっとくびれたウエストから下はまだスカートに覆われていた。そうだ、いつまでも上半身ばかり触っていないで、こちらにも進出しないと。男のガキんちょらしく、書籍やら画像やら映像やらで無駄に仕入れた知識はあった。莉緒のスラッとした長い脚の付け根がどうなっているのか考えただけで、張り詰めたままの愚息が更に膨らむようだった。

 タイツを抜き、スカートを外す俺に、莉緒は何も抵抗しなかった。ブラとお揃いの、レースがあしらわれた黒のショーツが目の前に現れる。

「腰、ちょっとだけ浮かせてくれないか」
「……鼻息、荒いわよ」
「あっ……わ、悪い。莉緒が……その、莉緒が」
「くすっ……そんなに盛り上がっちゃってるの?」
「しょうがないだろ。こんなエッチな莉緒の姿を目の前にして、頭が焼けそうなんだよ」

 私もだけど、と小声で付け足しながら、はだけたままだったブラウスとカーディガンの袖を莉緒は腕から抜き去った。俺の言葉に従って、腰を上げて、下を脱がせるのにも協力してくれた。うっすらと陰毛が見えた辺りで莉緒は体を強張らせた。頼りない布地はそのまま足首を通り過ぎて行った。なんだか重みを感じる、と思ったら、ほんのりと下着が湿っていたようだった。
 早速見せてもらおう、と思ったが、ぴっちりと両脚が閉じられていた。さっきからずっと赤いままの顔には、うっすらと汗が滲んでいる。
 そりゃそうだよな。その気持ちはよく分かる気がする。俺だって、ギンギンに勃起したペニスを堂々と見せる勇気をまだ出せていないんだから。

「その……いい?」
「……見たいの?」
「めちゃくちゃ見たい」
「うぅ……恥ずかしい……」

 膝を撫でていると、そんなことを言いながらも莉緒は脚の力を抜いてくれた。5度、10度とコンパスを開いていくと、丁寧に処理された陰毛が見えた。その下に裂け目がある。中は、どうなっているんだろうか。手を近づけてみると、その周辺だけ明らかに湿度が高くなっていた。
 視界の中に莉緒の性器がある。手の触れない世界にあった女性の大切な所が、今は温度を感じられるぐらい近くに。クレバスの両端を指で開くと、色合いからしてひどく卑猥なピンク色の肉が見えて、触れてみたいと思った瞬間にはもう指で表面をなぞっていた。

「っっ! あぁっ……」

 指先に液体が付着したのがはっきりと分かった。

「……濡れてる」
「いっ……言わないでよぉ……」
「恥ずかしがってる姿、可愛いな」
「もー……ばかっ」

 肘をついて体を半分起こした莉緒が、一瞬だけ険しい目つきになった。照れ隠しも含まれていると分かっているからか、もっとその顔が見たくなった。

 よく潤滑油が分泌されているようで、指を滑らせていても引っかかったりすることは無かった。ぬかるみの中に指が入り込めそうな所があるのに気づいた。時折薄目を開けてこちらの様子を伺う莉緒が痛がっていないことを目視しながら、少しずつ指を中に入れさせてもらった。内部はしっとりと湿っていたが、侵入してくる異物を押し返してくるような抵抗がある。「力んでないか」と声をかけてみると「ちょっとだけ」と頼りない返事があった。

 空いた手で弾力豊かな内腿を擦っていると、脚から緊張が抜けていくのを感じ取れた。いつもあれだけエロエロ光線を撒き散らし……もとい、放出しているから、こういう行為には莉緒はもっと積極的でガツガツしているものだと思い込んでいた。ところが、実際に蓋を開けてみたら、こんなに不慣れで、恥じらい、借りてきた猫のようになっている。同い年なはずなのに、今の莉緒は自分より何歳も年下に思えた。強い抵抗もせず身を任せてくれているのだから、性知識が無いということは決して無いのだろうが、見た目に反したギャップがある、という事実がますます俺を燃え上がらせていた。それと同時に、うまくやれる自信など無かったが、この、セクシーなくせに初心で、俺に心を開いてくれている愛しい莉緒を、優しくいたわってあげたい。そんな気持ちも強くなっていった。

「……んっ!! そこ……」

 割れ目の頂点の出っ張りに親指を触れさせると、莉緒の腰が跳ねた。差し入れたままの人差し指が強く締め付けられる。

「あ……や、優しく……お願いね」
「分かってるよ。これぐらいでいいか?」

 包皮の上から、触れるぐらいに。何しろ加減が分からないから、撫でるのだっておっかなびっくりだ。

「ふぁぁっ……! あっ! あっ、あ……!」

 こんなに小さな一点なのに、莉緒の甘い声のトーンが一段高くなっている。余程刺激が強いらしい。狭い膣内の水気がじわじわと増してきた。
 親指でクリトリスを撫でながら、指を抜き差し……しようとしたが、手がもつれてしまった。欲張らず親指に意識を集中する。
 押し込みたくなるのを我慢して、なぞって往復して、くりくりと円を描くように撫でてみたり。

「あ……やだ、だめっ……! ~~~~~~っっ!」

 声にならない声をあげながら、ゆったり開かれていた両脚が勢いをつけて閉じられた。少しずつ力が抜かれていた莉緒の体が一気に強く緊張した。

「は……はぁ……はぁ……」

 数秒か、十数秒か。腕を強く挟んでいた太腿の拘束が緩くなった。運動したわけでもないのに、莉緒の呼吸が荒くなっている。差し入れていた指をゆっくり引き抜くと、粘ついたシロップのようなものが指全体を包んでいる。さっきは半ば閉じられていた花弁も、ぷっくりと充血して開いていた。今度は、洞窟の入り口が見えている。そこに自分自身を挿入していく光景を思い描いたら、何の刺激もしていないのにスーツのズボンの内側で射精してしまいそうになった。

 呼吸を静めようとしている間、一瞬だけ、俺の目を見ていた視線が下がった。誘導されるように下を見てみると、分かりきっていたことだったが、下半身の一点が不自然に隆起している。

「ねぇ、そっちも脱いでよ」
「……ああ」

 ネクタイを緩め、シャツのボタンを外す俺を、体を起こした莉緒は食い入るように見つめている。手持無沙汰なのか、股間を隠すように枕を抱えている。腕の陰になって、乳首のピンク色がくっきりと位置を主張していた。

「そんなに熱心に見るなよ」
「い、いいじゃない。さっき、私の服脱がしてたんだから、おあいこでしょ」

 アンダーシャツを脱ぎ去った瞬間、莉緒は視線を横に逸らした。かと思えば、盗み見るように、ちらりちらりと瞳が動いている。男の上半身なんてメディアで規制されることも無いんだから珍しくも無いだろうに、たったこれだけのことで恥ずかしそうにしている莉緒を見ていると、こっちの顔が熱くなってしまう。
 ベルトのバックルが妙に大きな音を立てた。スーツに染みていないかが気がかりだったが、どうにかスーツをクリーニングに出す必要はなさそうだ。グレーのボクサーパンツは、押し上げられた頂上がすっかり色濃く変色してしまっていた。薄いカーテンを下ろすと、天を仰いで先走りを滴らせたペニスが、部屋の空気をぶるんとかき混ぜる。そいつが姿を現す瞬間、莉緒は掌で咄嗟に自分の顔を覆ったが、指の隙間から覗き込んでいた。

「……ほら、これでいいか?」
「わ……わっ……」

 見せびらかすほど鍛え上げているわけでも無かったから、抵抗はあった。ただ、全裸を見せる羞恥は莉緒の方がずっと大きいはずだから、そこはなるべく気にしないように努めた。やはりガチガチに勃起している所を見られるのは恥ずかしかった。だが不思議なことに、そこに注がれる視線を思うと、興奮が高まって溢れ出しそうだった。

「さ……触っても、いい?」
「……いいのか?」
「うん、私のも、触られちゃったし……」

 ベッドの上で胡坐をかいた俺に、胸元の果実をふるふる揺らしながら莉緒が近づいてきた。正面に回ってきた。手が伸びてくる。互いの皮膚が触れそうな所で莉緒は躊躇していて、それに焦らされてしまい、意識の全てが股間に集中してしまう。そっと指が接触した瞬間、赤黒い杭が大きく震えて、臨界点を一気に振り切りそうになってしまう。三擦り半どころではない。ほんの僅かタッチされただけで噴き上げてはならないと、どう止めればいいのかも分からずに目いっぱいブレーキを踏みしめた。

「ねぇ、男の人って、いつもこうなの?」
「いつもであってたまるか。普段はもっとショボくれてるよ」
「そうなんだ……」

 細い指が幹に絡みついてきた。硬度を確かめるみたいにきゅっと握り締められると、意志とほぼ無関係に肉茎がビクンと跳ねた。自分で触るのとは大違いだ。軽く圧力がかかっただけで、射精寸前の大きな快楽が全身を走り抜けていく。
 どうする。まだこのままで我慢するか、ここで一回莉緒に手で抜いてもらうか。浮かんだ選択肢は、間髪入れずに決定された。

「なあ莉緒……そのまま、手で、してくれないか?」
「えっ? あ、わ、分かったわ。その……握って上下に擦ればいいのよね……こう?」
「あ……っ、そ、そう……」

 上手なのか、ぎこちないのか。経験の無い俺に分かるわけが無かった。劇場で会っているアイドルの莉緒に、色っぽい姿を見せびらかして俺をからかってくる莉緒に、自分の性感帯を愛撫されている。この状況の前では、技術の巧拙なんてどうだってよかった。少しひんやりしていて柔らかな掌に包まれて、血液がどんどんそこへ集中していく。親指と人差し指で形作られたリングが傘に引っかかる度に、口から情けない声が漏れた。腰が浮いてしまう。

「骨みたいにカチカチ……なのに、すごく熱い……」
「……ちょっと、止め、止めてくれ」
「どうして? あっ、痛かった?」
「いや……莉緒の手が気持ちよすぎて、その……出そうなんだ」
「えっ、もう?」

 莉緒はキョトンとしていたが、その率直な一言がざっくりと刺さる。

「……悪かったな、早くて。しょうがないだろ、さっきからずっと、ウズウズしてたん――あっ、だから、と、止めろってば……」
「遠慮しないで、出ちゃう所、見せてよ。さっき、私がイッちゃった所も見たでしょ」

 擦るペースが上がってきた。自分の分泌した粘液で滑りが良くなっていて、早く擦られるほど快感が高まった。粘膜の部分や裏筋の縫い目が特に刺激の強い所だと悟ったのか、莉緒がそこへ集中して攻撃を仕掛けてくる。いつものノリが戻って来たのかと思いきや、少し落ち着いていた顔色が、またトマトみたいな赤に、耳まで染まっている。強く扱かれるというよりは、包むような摩擦だったが、高まった興奮を爆発させるにはそれでも十分過ぎた。

「う……莉緒……出るッ……!」
「きゃっ……」

 放ったものがどこに着弾するのか、なんて考える余裕が無かった。下半身の感覚が丸ごと引っこ抜かれるような快感がほとばしる。何週間も控えた後の自慰でも遠く及ばないような勢いで、鈴口から飛び出したザーメンが、ペニスを握る手を飛び越えて、莉緒の白いお腹と胸に叩きつけられていく。一回の拍動ごとに、糊みたいなべっとりとした白濁の塊が肌に張り付いていく。綺麗な体にこんなものをぶちまけて汚してしまう背徳感に、ゾクゾクした。まだ止まない射精が促進される。

「はぁ……はぁ……ん、莉緒……ごめん、いっぱいかけちまった」
「わ……何これ、すごいニオイ……」

 劣情の跡――肌に張り付いた練乳が、ゆっくりと臍の方に向かって流れ落ちていく。その中から指先で一掬いして、莉緒はそれをしげしげとながめていた。

「……観察するなよ、恥ずかしいだろ」
「ねえ、『早くて悪かったな』って言ってたけど、そういうのってダメなの?」
「なんか、情けないだろ。男として」
「私は……早い方が嬉しいかも。だって、私でそれだけ興奮してくれたんでしょ?」
「まぁ、な。まだ治まらないし……」

 あれだけ吐き出したにも関わらず、俺の牡はまだ猛々しく反り返ったままだ。それどころか、ウォームアップは済んでこれからが本番とばかりに、はち切れそうな程に張り詰めている。尿道から押し出されてきた滴が、鈴口から玉になって排出されてきていた。
 自分の分も莉緒の体に付着した分も、一通りティッシュで拭き取った。自分の欲望をぶっかけたまま、というのは何とも扇情的な眺めだったのだが、やはり臭いがそのままなのが気になってしまったのだ。莉緒は少々不満そうな顔をしていたものだから「臭くてすまん」と謝ったが、「そうじゃないんだけど」と言葉を濁されてしまった。
 手を差し伸べて秘所をまさぐると、まだ先程の潤いは失われていないようだった。そろそろだろう、という思いは莉緒も同じだったのか、俺が何かを言う前に仰向けに寝転がってくれた。

「……あ」

 こちらが上になって見下ろして目が合った瞬間、大事な準備を忘れていたことに気が付いた。ごめんと一声かけて、鞄の中から未開封の箱を取り出す。それを前もって持ってきていたことの意味を莉緒も悟っていたらしく、所在無さげに視線を泳がせていた。少々手間取ったが、きちんと履物を身に着けることはできた。

「あの……」

 突然、名前を呼ばれた。

「今だけでいいから、キミのこと、名前で呼びたいの。プロデューサーとアイドルじゃなくて、ただの男女でいたい……いい?」
「ああ、いいよ。下の名前呼び捨てなんて、学生の頃以来だな」

 高校生の頃に出会いたかった、と莉緒はぽつりと口にした。俺もそう思った。何のしがらみも無かった頃にこうなれていればよかった、と切なくなったが、考えても意味の無いことだった。そもそも、プロデューサーとして働き、任された39プロジェクトを引き受けていなければ、出会うことすらなかったのだから。

 思考のノイズを振り払おうと思い、仰向けの膝を掴んで、ゆっくりと開かせた。

「力抜けよ」
「うん……あ、違う、もうちょっと下……」

 この辺りか、と狙いを定めてみるが、死角になっていてよく見えない。まごついていたら、莉緒が手を添えて道案内をしてくれた。

「悪い、下手糞ですまん」
「いいじゃない。お互い初めてなんだから。ねぇ、手……繋ぎましょ?」

 差し出された両手に指を絡める。握り返してくる掌が、俺が思っている以上に小さかった。
 先端に柔らかく濡れたものが当たっている。腰を進めてみると奥へ続いているのが分かった。

「……っ、ぁ……」

 入り込むというより、「押し入る」とか「こじ開ける」と言うのがふさわしいと思った。拒絶されているのではないかと思うぐらい、抵抗が強い。それでも、少しずつ、体が温かいものに包まれていく。莉緒は俺の体の下で、何度も深く息を吐いていた。眉間に皺が寄っているのを見て、続けることを一瞬ためらったが、まずは一旦入りきってしまうことが先決だと考えた。心の中で謝りながら、腰を押しつけた。

「んっ……うぐ……あぁっ……!!」

 莉緒が呻き声をあげた。行き止まりに突き当たった。自分のイチモツも、もう根元まで埋没している。

「……入ったぞ、全部」
「あ……ほ……ホント?」

 先端から根元までびっちり包まれ、周りの肉に強く握り締められている。ただ、手に感じる肌の温度よりも、薄皮のようなラバー越しに性器で感じる粘膜の温かさの方が、ぬくもりを感じられて、不思議と安心感すら覚えた。自分がいる所は単なる穴では無くて女性の体内なのだということが、蠢く壁の動きから伝わって来た。じっとしているだけでも内壁がざわつき、甘い痺れが送られてくる。このまま擦りつけたら、どんな快感を得られるのだろうか。

「……平気か?」

 うん、と口で答えはするものの、荒い呼吸に合わせて手に力がぎゅっと入っている。痛みを感じていないとは思えなかった。

「やっぱり痛いよな」
「ふふ……大丈夫よ。ジンジンするけど、痛いのなんて今はどうでもいいから……。ね、動きたいでしょ?」
「いいのか?」
「だって……求めて欲しいんだもの……」
「莉緒」

 自分の中の熱が高まるのを感じながら、腰を引いた。粘膜に張り付いてくるヒダの段差に何度も引っかかれ、ゆっくり引き出しただけで声が漏れた。また奥まで進めていくと、最も敏感な亀頭から先に内壁に触れていくせいで、思わず及び腰になって快楽から距離を置こうとしてしまうが、下半身を引く動作自体が更に大きな愉悦をもたらすだけだった。

「っ……! いっ、たぃ……! あ……はぁ……」

 こっちはじっとしているだけでも、ぬるっとした壺の奥へ引き込まれていき、今までに味わったことが無い程の快楽の波に飲み込まれそうになっているというのに、俺を受け止める莉緒の、顔にも、口から紡ぎ出される声にも、苦痛の色が混ざっている。不公平だ。その苦しさを、俺が全部引き受けてやることができたらいいのに。

「ん……! あっ、あぁ……」
「……!!」

 莉緒が切なそうに俺の名前を呼んだ。呪文のようなその声が胸の内へ染み込み、背中側へ突き抜けていく瞬間、急激に射精欲求が込み上げてきた。まだ早い。もう少し我慢しないと。互いの下腹部を密着させるぐらい奥まで入り込んで、そこに腰を下ろす。

「……少し、休んでいいか? もう……出ちゃいそうで」
「くすっ……出しちゃっていいのに」
「俺ばっかり気持ちよくなってたら、莉緒が満足できないだろ」
「私……こうして一つになってるだけでも、幸せなのよ? 満足がどうとか、そういうのは……ね?」

 莉緒が目を細めて笑った。今までに見たことが無い、ふんわり優しくて純粋な、花のような笑顔。
 その表情に包容力を感じ、さっきは年下に見えた莉緒が今は年上に見えて、甘えたい衝動が体の底から湧き上がる。

「……動いていいのよ? キミが気持ちよくなってる所、もっと見ていたいの」
「あ……莉緒っ」

 押し付けたままにしていた腰の、ギアが上がった。ほんの僅かだけのクールダウンはあっという間に無かったことになった。それどころか、落ち着かせようとしたことで却って快感が増幅されてしまい、ダイレクトに脳に響く。ブレーキから足を離したことで、押し込み引き抜きのピストンに対する後ろめたさが少しずつ無くなっていく。出していい、動いていいと許可をもらったことで、歯止めが利かなくなりそうだ。

「つけてるけど……出しちゃうからなっ!」
「うっ、うん……あっ……! はっ、はぁ、あっ、あぁ……」

 莉緒の、吐息と声の間隔が短くなっていく。俺が願望を抱いているからそう聞こえるだけかもしれないが、苦しさをこらえるような声が、徐々に甘くなってきた。
 もう我慢しろと言われても我慢はできない。今すぐ動きを止めても射精するまではほんの数秒だった。生殖行為の本能なのか、一番奥で思いのたけをぶちまけたいという欲求が頭の中で膨らんでいく。莉緒の胎内もその思いと同調するように、ぐねぐねとねじれて奥の方へと俺自身を引き込んでいく。

「あぐ……う、出る……莉緒……ぁ」
「……っ、んんっ!!」

 子宮口が控えているであろう最奥の壁に突き当たった時、噴火寸前だった男性器が絶頂を迎えた。もし引き抜くつもりだったら逃がさない、という意思表示なのか、いつの間にか莉緒の両脚は俺の腰に絡みついていた。

「は……す、すごい……中でびくびくしてる……熱い……」

 一度の白塊を吐き出す度にガクガクと腰が震えた。手による刺激の無いエクスタシーは初めてだったが、今までで一番多くの量を吐き出しているかもしれない。きちんと対策は施していたから膣内に直接体液が触れることは無いはずだが、もしもその壁が無かったら、莉緒の中は今頃自分の子種でドロドロになっているはずだ。溢れてくるぐらい出ているのではないだろうか。いやきっと、引き抜いたそばから零れ落ちてくるに違いない。男の欲望というのは単純明快なもので、そんなことを考えただけで、次々に吐き出される精液の量が増えていくようだった。

 ようやく射精が終わり、熱くなった莉緒の体内から表に出ようとすると、ラバーの表面に赤い血の跡が生々しく張り付いているのが目に飛び込んできた。酔いの醒めてきた頭がぞくりと冷える。いくつかの点はピンクのシーツも染めてしまっていた。俺の絶頂を受け止めていたゴムを処理する前に、ほどけていた手が莉緒の頬を撫でていた。

「血、出ちゃったな」
「こういうのって、私、詳しいわけじゃないけど……これが普通なんでしょう?」
「そう、らしいけど。何だか、莉緒の方が平然としてるのな」
「さっきからずっといい気分で、そういうのあんまり気にならないの。それより……」
「ん?」
「……ね?」

 体を起こした莉緒が、上目遣いになって、唇に指を添えた。

「……っ、ん……」

 鳥がついばむようなキス。身体的な快楽とは別ベクトルの心地よさに、じいんと胸の内が疼いた。顔同士を近づけるだけでは足りない、と思って腕を回して抱き締めようとしたら、俺がそうするよりも早く、莉緒の腕が首に回って来た。

「もう一回、したいわ」
「莉緒、大丈夫なのか? 血が出てたんじゃ、中に傷が……」
「夢が醒めない内に、もっとキミと繋がっていたいの……」

 そんなことを耳元で囁かれた。心臓が数cm飛び跳ねたかもしれない。

「……なんだよ莉緒、男心くすぐることも言えるんじゃないか」
「あら……ときめいちゃった?」
「ああ、すごく」
「ふふっ……嬉しい。ね、これ、私がつけてみてもいい?」

 枕元にあった空き箱からゴムの小袋を取り出し、莉緒がその小袋を口に咥えた。
 意識してかどうかは不明だったが、品の無い仕草が、今の状況にはぴったりハマっていた。

「うーん……ちょっと、元気無いのかしら?」
「二回も出してるからな……」
「じゃあ、またちょっと触らせてもらうわね」

 休憩中の愚息にそっと指が添えられた。さっきまで莉緒の中にいたそれを愛でるように撫でながら、睾丸の入った袋もくすぐられる。

「おっぱい、触りたかったら、触っていいのよ?」

 視線が胸に行っていたのをしっかり見られていた。お言葉に甘えて、若干手に余るサイズのそれをまた堪能させてもらっていると、その重さと柔らかさ、一糸まとわぬ莉緒の姿に、熱が戻ってくるまではそう時間もかからなかった。天井に向けて頭を持ち上げたそれを莉緒の手が握り締める。

「こんな風に硬くなるのね……もう元通りじゃない」
「あ……う……。おい……もう勃ってるから……それ以上は」

 さっき手でしていた時に、どこが刺激の強い所だったのかを学習していたのか、先端に責めが集中している。弱すぎず強すぎず、力加減も上手だった。このまま手コキで果ててしまいたい気持ちもあったが、絶頂を求める気持ちよりも、莉緒と再び一つになりたい気持ちの方が大きかった。

「ありがとう、莉緒。もう……」
「もういいの?」
「ああ……そろそろ莉緒の中に入れたくて」
「……うん」

 はにかんだ莉緒が、小袋を裂いて身支度を整えさせてくれた。俺よりもスムーズだったかもしれない。

「あ……ん、んうぅ……!」

 お互いが横向きに寝そべり、側位になって、硬く勃起した性器を押し込んでいく。温かさに包み込まれ、潤った内壁が俺を抱き締めてきた。

「痛みは、どうだ?」
「ん……平気……」
「じゃ、動くぞ」
「はぁ……あっ、あんっ……あぁっ……!」

 さっきの姿勢と違って動きにくい。大きく腰を前後させるような動きはできなかったが、莉緒が背中に手を回してぴったりと密着していることもあって、挿入が深い。姿勢が違うせいで、さっきとは違うポイントが当たって、慣れない刺激だからこそ大きな快感をもたらしていた。

「ふふ、この体勢……顔がすぐ近くにあって、いいわね。ぴったりくっついて、あったかいし……」
「あんまり、至近距離で見つめられるのも、恥ずかしいんだが……」
「いいじゃない。私、キミの顔、可愛くて好きよ」

 文字通り、目の前に、莉緒の眼差しがある。瞬きしたり、嬌声と共に目を閉じる瞬間こそあれど、鮮やかなルビーはずっと俺の瞳の中を覗き込もうとしていた。

「んっ、ん……あ、あの……ね。だんだん、嬉しい心地良さ、だけじゃなくて……気持ちよくなってきた……」
「慣れてきたか?」
「うん……もっとして……」

 美女にこんなおねだりをされて、カッと頭が熱くならないわけがなかった。

「悪い、大きめに動きたくなった。ちょっとだけ変えるぞ」
「あっ……!」

 莉緒のことを抱き締めたまま、正常位に移行した。制限のかかっていた下半身に活力が戻り、命令も出していないのにピストン運動を始めていた。体内で陰茎に塗り付けられた愛液が掻き出されて入り口から溢れているのか、腰を引き抜く度に泥を捏ねるような音がした。

「あうっ! んああっ、は、ちょっ……激しいっ……!」

 出血した部分のことが一瞬気にかかったが、擦れる性器から上ってくる快感と、耳から入り込んでくる莉緒の甘い嬌声が、そういった理性に基づく思考を奪い始めていた。俺が腰を打ち付ける度に、ベッドがギシギシと悲鳴をあげている。
 根元から、絶頂感が膨らみ始める。膣内の滑り気が増していて、ぬるぬるした空間の中で搾るように内壁が締めあげてくる。気持ちよさから腰を動かすのが億劫になってきているのに、生物の雄としての本能が、生殖器を備えた下半身を突き動かしていた。
 炸裂の瞬間を一秒でも先送りしたい一方で、一秒でも早く、好きな女の中で果てたかった。

「い……あっっ……ん、な、何か、きそう……!」
「……莉緒……!」
「あっ……ああっ……! はあぁーーーっっ……!!」

 ずっと狭かった莉緒のナカが収縮して、手で握り締められて扱かれるような蠕動運動に襲われた。深く息を吐き、圧縮して押しとどめられていた熱情が解放されていくのに身を任せる。精神が溶け出して、そのまま体外へ放たれるようだった。射精の最中なのに内部の蠢きが手を休めてくれず、次から次へとスペルマが飛び出していく。

 射精の拍動が終わった頃、腕を回して抱き締めた背中がじっとりと汗ばんでいるのに気が付いた。まだひくひくしている膣内から下半身を引き抜き、近くにあり過ぎてよく見ることができなかった莉緒の顔を見下ろしてみると、頬を上気させて恍惚とした表情になって、目尻に涙の雫を浮かべていた。俺よりも荒い呼吸をしている。

「莉緒?」
「なんか……すごく気持ちいい……波にさらわれたみたいになって……まだ頭がボーッとしてる……」
「そうか、よかった……俺一人だけがいい思いしたんじゃなくて」
「うん……今ね、とっても幸せ」
「……俺も、そんな気分だ」
「……このまま、ずっと夢を見ていられたらいいのに、ね」

 莉緒の目から、涙が一滴零れた。

 それが、嬉しくて流した涙だったのか、そうではない涙だったのか、俺には分からなかった。



 もうあらゆる路線で終電は過ぎており、結局その日は、莉緒の強い要望もあって、そのまま泊めてもらうことになった。仕事が終わらず劇場に泊まるハメになった時のために鞄に入れてある1回分の着替えと歯ブラシが、こんな所で役に立った。

 お互い裸になったことで開き直ってしまったのか、汗と酒のにおいを一緒に洗い流そう、とシャワーに誘われた。その日の性欲はもう出し尽くしたと思っていたが、洗うことが目的で莉緒の身体のあちこちへボディソープをつけながら触れていたら、俺の方が性懲りもなくムラムラと催してしまい、コンドームが手元にない状態でセックスに及ぶわけにもいかず、また手でスッキリさせてもらってしまった。莉緒は若干呆れていたが、扱き始めて程なく達してしまった俺を見ると、満足げに笑っていた。フェラチオを頼んだらきっとしてくれたと思うが、手で十分過ぎるほどに気持ちよかったから、そこまで考えが至らなかった。メイクを落とした莉緒の顔はどこか童顔に見えて、パッチリした目が可愛らしかった。

 数十分前に互いの初体験を捧げ合ったベッドで同衾してからの莉緒は、俺の胸に顔を埋めたまま、不思議なぐらいに大人しくしていた。甘い言葉の一つでもかけようかと考えたが、それすらも何だか無粋になってしまうような気がして、何も言わず、俺も細身の身体を腕に抱いていた。

『ずっと夢を見ていられたらいいのに』という莉緒がぽつりと漏らした一言が、何度も胸の内を去来した。

「――きて、ねえ……もう朝よ。そろそろ起きないと」

 声が聞こえて、目を覚ました。自分の部屋でも、劇場でも、起きる時はいつも無音なのに。
 目を開いて、同じ空間に人間がいることと、慣れない匂いがしたことで、自分がどんな朝を迎えたのかに気が付いた。

「おはよう、プロデューサーくん。意外と、朝弱いの?」

 まだ仰向けになっている俺の顔を、莉緒が覗き込んできた。メイクもしておらず、まだ目が眠たそうだ。

「私はオフだけど、今日もお仕事なんでしょ? 簡単なので良ければ、朝ごはん食べてく?」
「あ……うん。御馳走になるよ」

 俺の記憶が確かならば、昨日の夜は、酔い潰れたふりをした莉緒を家まで送ってきて、それから――そうだ。キッチンに立ってフライパンでバターを溶かしているあそこの女性と、想いを伝え合い、甘ったるくて濃密な一晩を過ごした。肌を重ねながら、何度も名前を呼ばれた。そのはずなのに、莉緒はそんなことがあったそぶりなんて欠片も見せない。もしかして、俺が一人で酔い潰れていただけだったのか?

「どうしたの? まだ寝ぼけてるのかしら?」
「いや……だいぶ目は覚めてきた。スクランブルエッグ、ふわふわしてて美味しいな」

 こんがり焼けたトーストと、マグに注がれたインスタントのコーンポタージュの香りも混じって、鼻腔を通り抜ける。自分の生活習慣ではまずありえない朝食だった。それに、同じ部屋で目を覚まして、同じテーブルを囲みながら食事をとって、同じ朝のニュースを聞きながら、外向けの恰好をする前の姿を互いの視界に入れている。

「……結婚したら、こんな風に朝を迎えるのかな」

 ぽつりと、そんな一言が口をついて出てきた。莉緒の目が大きく見開かれた。
 本日の東京の天候は曇りのち晴れ、という気象予報士の声が、一瞬硬直した部屋の中へ反響する。

「あっ……や、やだ、プロデューサーくんったら、ちょっと気が早過ぎない? 付き合ってもいないのに」
「そ、そうだよな。悪い、やっぱりちょっと寝ぼけてるのかも」

 テーブルの向かいで顔を赤らめた莉緒のどこかピュアな恥ずかしがり方を見て、昨晩のアレは幻だったのではないか、という思いが少しずつ形を持ったものになりつつあった。コンドームを箱で買ったはずなのだが、それも見当たらない。ゴミ箱にも、何も入っていない。
 今日は出勤時間帯を後ろにずらしていたおかげで、今からなら一度帰宅して着替え直してから劇場に向かっても十分に間に合う。昨日一日着ていたシャツを仕方なく羽織って上からスーツで覆い隠したが、早めに着替えたかった。
 一度家に戻る旨を伝えて、玄関で革靴を履き、靴ベラを引き抜いた時、莉緒に呼び止められた。

「あの、ね」

 一歩、二歩と距離を詰めてきて、広げた腕が背中に回ってきた。ふわっと漂ってきた莉緒の体の匂いを感じた時、つい数時間前の記憶がくっきりと蘇った。
 やっぱりあれは、夢なんかでは……。

「覚えておいてね。私がラブソングを歌う時はいつも……キミを想ってるって」
「莉緒……俺――」

 何を言おうとしたのか自分でも分からないまま発しようとした言葉は、つるんとした唇で塞がれてしまった。言葉を返す代わりに、腕を回して意思表示した。
 衝動が込み上げる。きっと、ここで契りを交わせば、この先もずっと、もう一歩踏み込んだ関係でいられる。
 だがそれは、俺も莉緒も、今は望んでいないはずだった。

「……幸せな夢だったわ」
「そうだな……いつになるか分からないけど、いつか……また夢の続きを見よう」
「うん……約束よ」

 そこまで言うと、莉緒はするりと腕を抜いて、玄関の段差を上った。

「じゃあ、また劇場で」
「行ってらっしゃい」
「あ……ああ、行ってきます」

 自分でも分かるぐらいの照れ笑いを返しながら、莉緒に手を振った。俺を見送ってくれた笑顔は、夢の中で見せてくれた、あの柔らかな微笑みだった。


「莉緒ちゃん、あと15分ぐらいで着くって」
「ああ、思ってたより早いですね」
「三人揃ったら投げましょ」
「俺、ダーツ苦手なんですよ。真ん中になんてロクに当たらなくて」
「大丈夫よ、お姉さんが優しく教えてあげるから」

 このみさんの行きつけらしいダーツバーの店内は、さほど広くは無かったが、居酒屋のような騒がしさも無く、今日みたいに落ち着いた気分でいたい時にはうってつけだった。

「プロデューサー、はい、お疲れ様」
「お疲れ様です」

 モヒートを注いだグラスと、カシスオレンジを注いだグラスが涼し気な音を立てた。何となく、こういう店ではビールやサワーは合わない気がした。酸味が舌をチクリと刺し、ミントの香りが口から上って鼻へ抜けていく感覚は、ちょっと馴染みが無い。薄暗い店の中の、カウンターの端。他の客から見えにくい位置だったこともあって、隣に座るこのみさんを眺めるような視線は感じられなかった。

「ねえ……あの日、莉緒を送っていってから、何かした?」
「え? いや、酔い潰れてたみたいだし、普通に送っていっただけでしたよ。多少話はしましたけど」
「本当にそれだけかしら~?」

 右隣から、疑惑の視線が刺さる。多少の話どころではなかったのだが、「莉緒と寝た」なんて流石に口にできなかった。何かを言う代わりに、皿の上にあったカシューナッツを雑に口へ放り込む。

「最近、莉緒がお酒で荒れなくなったのよね。モテないことを愚痴るような言動も減ったし。プロデューサーがガス抜きしてあげたのかな、って思ったんだけど」
「いい仕事取れたからじゃないですか? この間出演したバラエティ番組、結構芸人達からチヤホヤされてたんで」
「へー、そんなことあったんだ。うーん、果たしてそれだけで変わるものかしら……」

 ――丁度いい理由があって助かった……。

 あれから数週間。あの日から俺と莉緒の間で特別にお互いの態度が変わることは無かったし、どちらからもあの日のことを話題に出すことは無かった。控室で偶然二人きりになった時も、不思議なぐらいにフランクな雰囲気でいることができた。あの夜のことは現実だったと、少なくとも俺は、実感しているはずなのに。

 シーザーサラダが運ばれてきた時、私用のスマートフォンが何かを受信した。お手洗いに立つ、と断ってその場を離れて画面をちらりと見ると、メッセージ受信の通知だった。個人宛のメッセージの送り主は俺の名前を告げてから、鏡の前で撮影した自撮りの顔を三枚送りつけてきた。澄ましたクールな顔と、挑発的でセクシーな表情と、あの日に見せたスマイル。どの顔が一番グッとくる? と問いかけてきた送り主に、どれもいいけど、三枚目の笑顔は甘えたくなる感じがする、と回答した。あの日以来、まだ画像でしか見ていないあの顔が、時々、無性に恋しくなる。

 俺はまだまだ、夢から醒めていないようだった。



 終わり

以上になります。ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
エロいのはちょっと抑え気味に調整しました。何かしらの緊張感のようなものを読みながら感じ取ってもらえたならば、と思います。

承認欲求がかなり強いので感想とか頂けると人一倍嬉しいです。これをきっかけに渋の作品も読んでいただけるとなお嬉しい。

こういう初々しいエッチ好きだわ
乙です

百瀬莉緒(23) Da/Fa
http://i.imgur.com/Bs3RzIe.png
http://i.imgur.com/fN2dY7Z.png

>>2
馬場このみ(24) Da/An
http://i.imgur.com/ygMCoCb.png
http://i.imgur.com/MYMlnKS.jpg

桜守歌織(23) An
http://i.imgur.com/HAO7vrU.png
http://i.imgur.com/uY43y7B.png

>>3
「dear...」
http://youtu.be/Vc8Nlerv5iE?t=68

莉緒姉らしい甘ったるこさが出てて良かった
でも茜ちゃん人形でちょっと笑った

タメ特有の距離感っていいよな…。
アイドル引退して付き合い始めたらこの2人は止まらないだろうな。
オオカミ奈緒ちゃんに引き続きいいもの見られたよ。

おつ!

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