琴葉「はあ。仕事帰りに野球観戦、ですか」奈緒昴ロコ「行くー!」 (78)

 9月初頭某日 13時37分 阪神甲子園球場

奈緒「おーええ席やなあ」

昴「内野も外野もバッチリ見えるな! 選手も近いぜ!」

ロコ「プロデューサーにアプリシエーションです!」

琴葉「大阪での仕事ついでに野球観戦でもして来いだなんてびっくりしたわ。なんでもグリーンシートのペアチケットをスポンサーから頂いたとか」

奈緒「さすが琴葉、説明セリフもめっちゃ自然やな、うん」

 自然です。自然。


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昴「オレ、甲子園は高校野球でしか来たことなかったからすっげー楽しみにしてたんだ」

奈緒「私も上京してからはすっかりご無沙汰やったなあ。グリーンシートも初めてや」

昴「奈緒はいっつもライト側外野席で声張り上げてそうだもんな」

奈緒「ふふん、ようわかってるやん」

琴葉「それにしても本当に凄い人ね。まだ始まってもいないのにもうこんなに席が埋まってる」

ロコ「そりゃそうです。何しろザ・クラシックですからね」

 本日のカードは伝統の一戦、阪神×巨人のデーゲームです。

昴「オレ、甲子園は高校野球でしか来たことなかったからすっげー楽しみにしてたんだ」

奈緒「私も上京してからはすっかりご無沙汰やったなあ。グリーンシートも初めてや」

昴「奈緒はいっつもライト側外野席で声張り上げてそうだもんな」

奈緒「ふふん、ようわかってるやん」

琴葉「それにしても本当に凄い人ね。まだ始まってもいないのにもうこんなに席が埋まってる」

ロコ「そりゃそうです。何しろザ・クラシックですからね」

 本日のカードは伝統の一戦、阪神×巨人のデーゲームです。

連投しちゃった

ロコ「日本のプロ野球の中でも最もエキサイティングでデンジャラスなゲームと言っても過言ではありません」

琴葉「で、デンジャラスって……」

奈緒「こらこら、野球初心者ビビらせてどないすねん。世間で言われてるほど阪神ファンは怖ないって……多分」

琴葉「今多分って言った?」

昴「そうそう。この辺はどっちかっていうと静かに観戦したい人向けの席だから大丈夫だよ……多分」

ロコ「昔ならともかくファン同士のバトルなんてそうそう起こるもんじゃありません……多分」

 多分。

琴葉「不安だわ……」

 果たして甲子園の洗礼は田中さんに降り注ぐのか。

奈緒「まま、そんなことよりお昼にしようや。私もうお腹ペコペコやねん。皆何買ったん?」

昴「へへ! オレのはメッセンジャーの豚骨ラーメン! やっぱメッセと言ったらこれだよな!」

ロコ「ロコは名物の甲子園カレーですっ!」

奈緒「なんやロコの癖にベタやなあ。どうせなら昴みたいに選手コラボにしとけばええのに」

ロコ「ロコのプライドはいつだってウィズジャイアンツなの!」

奈緒「なんかMBSのスローガンみたいになってもうてるやん」

昴「琴葉は? なんかすげーデッカイな」

琴葉「私はお弁当にしたわ。ええと、阪神の監督さんとのコラボだって」
 
 田中さん、弁当を記念撮影。

琴葉「あとポテトとナゲットとソーセージのセットも買ったから皆でつまみましょう」

ロコ「おお! サンクスです!」

昴「いいのか? さすが琴葉、こういうの女子力って言うんだよな!」

琴葉「でもしじみ汁は売ってなかったわね。探せばあるのかしら」

奈緒「甲子園どころか日本中の球場回っても見つからんのとちゃうかなあ」

ロコ「むしろ置いてあったらベリーストレンジです……」

 念の為調べたけどやはり無かった。

昴「奈緒は……見てるだけで腹一杯になるな。どんだけ買ってるんだよ」

 横山さん、ジャンボ焼き鳥とコラボ飯と牛タン弁当を前にご満悦。

奈緒「基本抑えようと思ったらこうなんねんて。それに甲子園来てジャンボ焼き鳥食べへんとかそれもう犯罪やから。あー、ビール欲しいわ」

琴葉「ちょっと! 未成年が飲酒なんて絶対に駄目だからね!」

奈緒「じょ、冗談やって! なはは……」

琴葉「もう……」

ロコ「(スタジアムのアルコール販売は年齢チェックがルーズなんて知ったらブレイズアップしちゃいそうです)」

昴「(バカ! 余計なこと言うなって!)」

 もちろんアイドルたちは未成年飲酒なんてしてません。お酒は二十歳から。

昴「ナイターもいいけど、こういう青空の下で野球観戦ってやっぱ最高だよな!」

琴葉「そうね。だいぶ涼しくなってきたし、とっても爽やかで良い気持ち」

奈緒「ここは屋根もあるから日差しも避けられてええ感じやな」

ロコ「ハイスクールプレイヤーはよくあんなスーパーホットな中でプレイできましたね。ドーム派のロコにはアンビリバボーです」

 現在気温25℃、残暑も和らぐ。

昴「今日って誰が投げるんだ?」

奈緒「えーっと、ちょい待ってや」

 スマホで確認。

奈緒「阪神はイワサダで巨人は……うわ、スガノや……」

ロコ「ふふん」

 伴田さん、会心のドヤ顔。

奈緒「何いきなり勝ち誇っとんねん。腹立つわー」

ロコ「ふっふっふ。ナオ、アナタももうアンダスタンディングなはずです。このゲーム、ジャイアンツがウィナーだと!」

奈緒「な、なにおう? そんなんやってみなわからんでっ!」

ロコ「ですがスガノは何ゲーム連続ホワイトウォッシュですか? タイガースは何ゲームホームで連敗中ですか?」

奈緒「ぐぬぬ」

琴葉「そのスガノって人はそんなに凄い選手なの?」

昴「すっげーよ。セパ合わせても最強のピッチャーの一人だと思うぜ」

琴葉「じゃあ今日は日本一の投球が見られるかもしれないのね」

昴「そういうこと。イワサダも良いピッチャーだし投手戦になるかもなー」

奈緒「そりゃ阪神は貧打かもしれへんけど巨人こそイワサダ打てるんかっちゅー話や!」

ロコ「シャラップ! イワサダにしてやられたのは去年の話ですっ!」

 虎党とG党、早くも激突。

昴「あーあ、やっぱこうなっちゃうか。シアターでもしょっちゅうやってるのにほんと、飽きないよな」

琴葉「もう二人とも、周りの迷惑になるからやめなさい」

 委員長、動く。

琴葉「今日は野球初心者の私に色々教えてくれるんじゃなかったの?」

ロコ「むむむ……」

奈緒「まあそやけど……」

昴「いいじゃん、今日くらいは純粋に野球を楽しもうぜ! オレ、琴葉にもっと野球の素晴らしさを知って欲しいんだ!」

琴葉「昴ちゃん……」

昴「それに……今年の楽天は、なんか色々ダメっぽいからさ……そういうの忘れて野球見たいんだ……」

ロコ「お、オーライです! ニュートラルでフレッシュなスタイルですね!」

奈緒「せ、せやな! しゃーないから今日は一時休戦にしといたるわ!」

琴葉「あーとっても楽しみ! 早く始まらないかしら!」

 空気を読む自由人と関西人と苦労人。

 スポンサーの社長による始球式。

琴葉「始球式かあ。765プロもちょくちょくお呼ばれしてるわよね」

奈緒「パリーグコラボの時にやったわ。京セラ。思ってたよりもマウンドからホームベースが遠くてビックリしたなあ」

ロコ「ソージェラス……。ロコも一回くらいやってみたいです」

琴葉「やったことないの? 意外」

ロコ「そうなんですっ! ロコにはもっとスータブルな仕事があるからって765プロとジャイアンツのオリジナルコラボグッズプロデュースしかやらせてもらえてません!」

奈緒「いやそっちの方がスゴない?」

昴「茜がすっげー羨ましがってたやつだな……」

 ロコナイズドコラボグッズ、東京ドームのショップ限定で好評発売中。

琴葉「でも765プロで始球式と言えばやっぱり昴ちゃんよね。AS組の先輩方よりもやってるんじゃない?」

昴「まあな! それもただの始球式じゃないんだぜ。楽天のホームゲームでは特別に三球投げさせて貰ってるんだ」

奈緒「え、三球?」

昴「そうそう、スライダーにストレートニ球の真剣勝負。名付けて「三球プロジェクト」!」

奈緒「なんやその全盛期フジカワ並の火の玉ストレートは」

ロコ「絶対タカギイズムがインフルエンサーですね」

琴葉「スライダーって確か変化球の名前よね。そんなの投げられるんだ」

奈緒「スライダー投げられるアイドル……」

ロコ「スバルのピッチング見たことありますけど、ファストボールは普通に110キロくらい出てましたね」

奈緒「ひゃくじゅっ……! あれ、イナムラさんは何キロ出してたっけ……」

琴葉「それって速いの?」

ロコ「速いも何もアイドルのファーストピッチセレモニーなんてキャッチャーミットに届けばそれだけで拍手ものですよ」

琴葉「へえー、そんなに見応えあるんならきっと昴ちゃんの始球式を楽しみにしてるファンもいるわよね。お仕事が来るわけだわ」

昴「へへっ! まだまだこんなもんじゃないぜ! 目指すは150キロ出すスーパー野球アイドルだ!」

奈緒「目指す場所はほんまにそこでええんか」

 野球アイドルの挑戦は続く。

 監督同士のメンバー表交換。球場を包む高揚感も否応なく高まる。

奈緒「どうせなら声も出していきたいな。せっかく現地に来たんやし琴葉にもその辺味わってもらわんと」

琴葉「ふうん、野球観戦なのに声を出すの? あ、応援か」

ロコ「でもこのシートってエールはいいんでしょうか」

奈緒「あー、そやな。すいません、ちょっとうるさくしてもいいですか? ……ほんまですか、どうもありがとうございます。今日は絶対勝ちましょうね!」

 臨席の方々に快諾していただき、姦し娘解禁。

奈緒「そんじゃあロコ、許可も出たし遠慮なく歌ってええで。ささ」

ロコ「はあ!? イヤですよ絶対インポッシブルですノーサンキューですっ! ここはジャイアンツのスペースじゃないんですよ!?」

昴「えー? ロコならライト側で「闘魂こめて」歌うくらい余裕だろー」

ロコ「ロコを何だと思ってるのっ!」

琴葉「別にいいじゃない応援くらい。何がそんなにダメなの?」

ロコ「……コトハは961TVにいきなりアサルトして「Thank you」を歌えるんですか?」

琴葉「……あー」

奈緒「でもそう考えると詩花ってスゴイな。ある意味大アウェーやのにウチの劇場公演でもあんなに堂々としてるし」

昴「うーん、つまり詩花みたいなすげーアイドルになるには敵地のど真ん中で贔屓のレプユニ着て応援歌歌えないとダメなのか……?」

琴葉「私たちも精進しなきゃね……」

ロコ「そのセオリーじゃロコだけトップアイドルへのハードルが高すぎませんか……?」

 明後日の方向へ話題が飛ぶ駆け出しアイドルたち。

 試合開始時刻通りにプレイボールがかかる。

昴「くうー! この瞬間はやっぱワクワクするよな!」

ロコ「プレイヤーも近いからピッチングがいつもよりパワフルに見えます! ……あっ、コトハコトハ!」

琴葉「えっ、なになに?」

ロコ「アテンション! あれがサカモトですっ! ジャイアンツのトップスタープレイヤーですよ!」

 田中さん、用意してきたオペラグラスを取り出す。

琴葉「わあ、カッコいい選手ね。そういえば名前も聞いたことあるかも」

奈緒「おっ、サカモトは知ってるんや」

昴「なあ、琴葉みたいな野球を知らない一般的な女の子でもわかる選手って誰ぐらいのラインだろ」

ロコ「ふーむ、そうですねえ。ツツゴウ」

琴葉「それ、名字? 変わった名前ね」

奈緒「オオタニ」

琴葉「あ、知ってる。二刀流?の選手よね」

昴「モギ!」

奈緒「なんでそこでモギやねん。楽天ならせめてノリモトかマツイあたりにしときいや」

琴葉「楽天のマツイ……あっ、私達のライブにビデオメッセージくれた人!」

奈緒「ああ、そやそや。あれはビックリした」

昴「じゃあ琴葉が知ってる一番すっげー選手って誰?」

琴葉「うーん、そうね。一番凄い……」

 田中さん、大真面目に考える。

琴葉「あ! ジャッキー・ロビンソン!」

ロコ「え!? そこですか!?」

奈緒「アハハハwwww一般的な女の子って何やったっけwwww」

昴「琴葉は琴葉ってことだな!」

琴葉「???」

 ジャッキー・ロビンソン 
 黒人初のメジャーリーガー。彼がメジャーデビューした四月十五日はジャッキー・ロビンソン・デーと制定され、全ての選手が彼の背番号である「42」をつけてプレイする。
 
 田中さんは映画で知ったそうです。

昴「……で、さっきのが送りバント。打者がアウトになる隙にランナーを得点圏、大きな当たりが出ればホームに帰ってこられる所まで進める作戦だよ」

琴葉「ふむふむ、なるほど……。アウトカウントと進塁のトレードオフってことね。ふう、一応予習はしてきたつもりだったけど、やっぱり実際に見ないとわからないことだらけだわ」

奈緒「球場で広げるのが名鑑じゃなくて野球規則ってところがなんかもうめっちゃ琴葉やな」

琴葉「もう、何よそれ」

 三番マギーが四球を選び、四番に回る。

ロコ「さあさあさあチャンスでオカモトですよ!」

昴「オカモトは今年ほんと化けたよな。三十本はもう確実って感じだし」

奈緒「三十本なあ。景気がええこっちゃで。阪神の若手もこれくらい打ってくれても全然ええんよ?」

昴「散々貧打貧打って言われてるけど阪神のホームラン数ってどんな感じ……あっ」

 永吉さん、スマホを見て何かを察する。

昴「ま、まあロッテより多いし全然大丈夫だよ!」

奈緒「あんたはええ子やな、ほらポテト食べ」

ロコ「いいんですかよそ見してて。バッティングカウントですよ~」

奈緒「うーん、今日のイワサダはボール先行気味やなあ」

琴葉「バッティングカウントって?」

昴「そのまんまみたいだけどバッター有利なカウントだよ。ほら、今2ボール1ストライクだろ?」

琴葉「うんうん」

昴「ピッチャー側は3ボールにしたくないからなんとかストライクを取りたい。これってバッターから見れば甘いストライクの球が来る可能性が高いから……」

琴葉「ああ、それを狙って打ちにいっちゃえってことね」

昴「そうそう! 相手はオカモトだしバッテリーは相当プレッシャーかかってるはずだよ」

琴葉「なるほど……。カウント一つとってもこんなに思惑が含まれてるのね。奥が深いわ」

昴「だろ? そういうの考えながら見るのも野球の醍醐m……」

 快音。高く上がる打球。観客総立ち。
昴「おお!?」

奈緒「ア゛ッ」

琴葉「え? え?」

ロコ「フオオオオオオオ!?」

 打球は歓喜の巨人ファンが待つレフトスタンドへと飛び込む。

ロコ「イエーースッ! カモーーーーーン!!!」

 伴田さん、阪神ファンに囲まれてることも忘れて大はしゃぎ。

奈緒「アッカーーン! アカンで、スガノに三点も援護やるのはほんまにアカンでっ!」

昴「琴葉、今のちゃんと見たか!?」

琴葉「も、もちろん! 今のがホームランよねっ!?」

昴「そうだよ! 打った瞬間って感じのすっげー打球だったな! ……あっ、今のがちょうど三十号だったんだな」

ロコ「んふふ、ジャイアンツのクリーンアップはピースフルですねっ!」

琴葉「私、ホームランって初めて見たかも。テレビでもほとんど野球なんて見ないから」

昴「そうなのか? へへ、じゃあこれが琴葉の第一号ホームランだな! しかも生だぜ、生! 超運が良いな琴葉は!」

琴葉「ふふ、そうかも」

奈緒「くっそー。なんとかここから一昨年みたいな負け運が出えへんかな」

ロコ「うーん、アンサイトリー」

 オカモト30号(1回表3ラン) 田中1号(18歳甲子園)

 阪神最初の攻撃、1、2番と凡退。

昴「スガノは立ち上がり安定してるっぽいな。ポンポンと2アウトだ」

ロコ「ふふふ、今日も安心して見ていられますね」

奈緒「まだや、まだやで。お腹いっぱいになったしそろそろ本気出すで」

 横山さん、戦闘態勢。

奈緒「次フクドメやろ? ちょうどええわ」

昴「おっ、やる気だな。よーしオレも付き合うぜ!」

 3番フクドメ、バッターボックスに。俄然盛り上がる球場。
 
 コッコマーデモッテコーイフックドメ コッコマーデモッテコーイフックドメ コッコマーデモッテコーイフックドメ
 モーッテコーイフックドメー

奈緒・昴「もってこーーーーーーーい!!」

琴葉「びっくりしたあ……」

奈緒「よっしゃノルマ達成や」

昴「オレも一回やってみたかったんだよなこれ」

 ご満悦の二人。

ロコ「ここにもってきたらファールですよ……」

 正論。

奈緒「ええやん細かいことは。大事なのは心や、ノリや」

琴葉「今のも応援の一種?」

奈緒「せやな。まあコールアンドレスポンスみたいなもんや」

琴葉「はー、なんだかまるでライブね」

昴「ロコもアベのときにやればよかったのに。シンノスケ!ってやつ」

ロコ「アンリーズナブルなことを言わないでください」

奈緒「応援歌はいきなりは無理としても今のくらいやったら琴葉もいけるやろ?」

琴葉「私もやるの? な、なんだかちょっと恥ずかしいかも」

昴「まあそう言わずにさ。次の打席が勝負だな!」

ロコ「なんて言ってる間にタイガースのオフェンスが終わりましたよ。パーフェクトなスタートです!」

奈緒「ガーン!」

ロコ「うーん」

昴「どうしたんだよ、さっきから難しい顔してさ。奈緒ならわかるけど」

奈緒「ななな何言うてんねん、私はまだまだ元気やで」

ロコ「いえね、甲子園はスコアボードの情報が少なすぎると思うんです」

奈緒「あー、確かに他の球場と比べるとな。銀傘のところのビジョンも通算打率とホームラン数くらいやし味気ないといえば味気ないかも」

ロコ「そうですよ。ですからもっとコアなファンのニーズに応えたビジブルかつソフィスティケートされたデータをディスプレイするべきなんですっ」

 伴田さんはセイバーメトリクスが大好き。

昴「うーん、何言ってるかよくわかんないけど要するに札幌ドームみたいにしろってことか?」

奈緒「うへー、あれ載ってるデータの半分も意味わからんわ」

琴葉「打率やホームラン数くらいなら私もわかるけど、そんなに色んなデータがあるんだ」

ロコ「オフコースです。データにアクセスすればプレイヤーの特徴からスタジアム別の傾向までベースボールのありとあらゆることがアナライズできるんですよ!」

琴葉「データを駆使して野球を分析、か。なんだか面白そう」

奈緒「琴葉は普段からアイドルのことめっちゃ調べてるもんな。プロデューサーかいな」

琴葉「そんな大したことはしてないわよ? 衣装や曲のトレンドを研究したりオーディションの傾向を探ったりしてるくらい。亜利沙には全然かなわないわ」

昴「ははっ! 琴葉はスコアラーとか超向いてそうだよな」

ロコ「ふっふっふ、コトハにはこれからロコがじっくりとデータの魅力を教えてあげますよ~」

 甲子園のスコアボードは2018年オフ~2019春の間に改修予定です。

 スガノは貫禄のピッチング、イワサダも立ち直り初回以降のスコアボードにはゼロが並ぶ。

琴葉「応援歌もそうだけど、選手が登場するときの曲もみんな違うのね」

奈緒「有名な選手やと曲聞いただけで「おっ、きたきた」ってなったりするで」

ロコ「テーマソングに合わせてコールするパターンもありますよ」

琴葉「イトイ選手やアベ選手みたいなのよね。ああいうのきっと選手は嬉しいだろうしファン同士の一体感も高まってとっても素敵。それぞれ個性が出てるのも面白いわ」

 田中さん、熱弁。

奈緒「おお、なんや琴葉もノッてきたな」

琴葉「自分も応援を貰ってるアイドルの端くれだからなおさらそう思うのかも」

昴「それわかるよ。初めての始球式でマウンドに上がるときに「Day After “Yesterday”」が流れたときは、オレもう感動で泣いちゃいそうだったもん」

ロコ「……ハッ! 東京ドームのセレモニーでロコの曲が使われればそれはもう実質ドーム公演なのでは……?」

 意味不明。

奈緒「琴葉は「ジレハ」でも流すか。男たちの戦いを前に球場を熱くしたるんや」

琴葉「なんなら灼熱少女の掛け声でも入れちゃう? 皆でこう、ブレイズアーップ!って」

奈緒「あはは! それええな! で、私の入場曲は」

ロコ「タケ○トピアノのCMソング」

昴「アホの○田の出囃子」

琴葉「生活笑○科の番組テーマ」

奈緒「怒る前になんであんたらそんなん知ってんねん」

 京セラドームの始球式では「Home is a coming now!」のイントロで大いに盛り上がったそうです。

4回裏 この回も阪神は無得点に終わる。

奈緒「よっしゃその調子や!」

ロコ「今のの攻撃見てたんですか。お手本のような拙攻でしたよ」

奈緒「ホウジョウのバント失敗は関係あらへん! 琴葉や琴葉!」

昴「そうだな! バッチリだったよ!」

琴葉「ふふ、みんなの真似しただけだけどね」

 田中さんはフクドメの二打席目で球場コールデビューを果たしました。

琴葉「でも、結構気持ちよかったかも」

奈緒「せやろせやろ。内野席でじっくりとっていうのもオツやけど、皆でワイワイ盛り上がるのも現地観戦の醍醐味やねん」

琴葉「ファンの皆で、か。私達もそんなライブを作っていけたらいいわね」

昴「つまり……野球を取り入れたライブってこと!?」

琴葉「え!?」

奈緒「よっしゃ、次はチャンテやな! これはもう球場が揺れるくらい盛り上がるから楽しみにしとき! ……チャンス、来るといいなあ」

ロコ「ロコが言うのもなんですがそこまでネガティブにならなくても」

 阪神打線、果たして好調スガノを脅かせるか。

5回裏終了、依然スコアは動かず。

琴葉「さっきアイス売ってる売り子さんいたわよね。こっちに来ないかしら」

奈緒「ちょうど今からグラウンド整備で時間出来るから売店行ったら?」

琴葉「そうしようかな。ちょっと体伸ばしたいし」

ロコ「あ、じゃあロコも」

昴「いってらー」

 田中さんと伴田さん、一時退席。

昴「なあ奈緒」

奈緒「うん?」

昴「琴葉、ちゃんと楽しんでくれてるかな。つまんないって思ってないかな」

奈緒「大丈夫やろ。声も出てるし色々めっちゃ食いついてるやん。なんや、心配なんか」

昴「だって琴葉、あんまり野球に良い印象持ってないっぽいからさ」

奈緒「へ? いや、別にそんなことはないんちゃう?」

昴「じゃあなんで控室で野球するの禁止するんだよ!」

奈緒「そこかいな。控室やろうがエントランスやろうがアカンやろ。この前だって壺割ったの見つかって琴葉と紬に怒られてたやん」

昴「違うよ。紬は「私もミリオンスターズを愛する者として心苦しいですが、名探偵として犯人を見逃すわけにはいかないのです」」
 
 渾身のモノマネ。

昴「ってドヤ顔で言ってただけだよ」

奈緒「紬がミリオンスターズって言うとどっちのことやねんってなるわ。っていうかびっくりするくらい似てへんな。野球モノマネはめっちゃクオリティ高いのに」


昴「とにかくオレ達は劇場で野球がしたい!」

奈緒「普段そうでもないのになんでそこだけ頑なやねん」

昴「だってエレナなんかサッカー禁止されてショックのあまり将棋のすっげー戦法開発しちゃったんだぜ!」
 
 名付けてエレナシステムver2.0。

奈緒「もうそのまま将棋界の発展に貢献しいや。ま、そんなクヨクヨせんとき。野球は解禁されへんやろうけどちゃんと琴葉は楽しんでるって。昴のおかげでな」

昴「え? オレ?」

奈緒「私とロコはまあ好き勝手にやってるだけやけど、昴はちゃんと見どころやプレイの意味を教えたってるやろ? そういうの琴葉はめっちゃ嬉しいと思うで。もともと知りたがりやし」

昴「そ、そうかな。オレ、フルタやイワモトみたいにちゃんと解説出来てるかな」

奈緒「なーにをちっさいこと言うてんねん。今日の昴はもっさん並に輝いてるで!」

昴「マジかよ世界レベルじゃん! もう立ちションも出来ないなっ!」

奈緒「アイドルが立ちションとか言うたらあかん。まあ真面目な話、今日の昴はようやっとる。だからいらんこと考えんと昴もいつもみたいに楽しんだらええねん。それが一番野球の楽しさを伝えることになるんやから」

昴「……うん、うんっ! そうだよな!」

 野球アイドル、復活。

昴「ありがとう奈緒、オレもっと琴葉に楽しんでもらえるように頑張るよ! そいでもってオレも目一杯今日の試合を楽しむ!」

奈緒「そうやその意気や! だからもっと面白くなるよう阪神打線がスガノを攻略するのを祈ってや!」

昴「……」

奈緒「なんでそこで目ぇ逸らすねん!」

琴葉・ロコ「ん~~~~♪」

 田中さんと伴田さん、アイスを堪能。

琴葉「見て見て、これすごく凝ってる。記念にもちょうど良さそう」

 ヘルメット型の容器が大層お気に召した様子。

琴葉「ロコちゃんもこっちにすればよかったのに」

ロコ「コレクションしてるならともかく、ジャイアンツファンがタイガースのロゴ入りメットなんて貰っても……」

琴葉「ふうん、そういうものかしら」

 田中さん、ちっちゃなヘルメット片手に記念撮影(カメラ:ロコ)

ロコ「初めての野球観戦はどうですか? エンジョイしてますか?」

ロコ「初めての野球観戦はどうですか? エンジョイしてますか?」

琴葉「もちろん! おかげさまでとっても楽しいわ。野球を見るだけかと思ってたけど、球場全体が賑やかだし色んな催しなんかもあって本当にお祭りみたいね」

ロコ「でしょでしょ? ベースボールはとっても楽しいんですっ!」

琴葉「でも私はどこのファンとかじゃないからいいけど、勝ち負けを気にしなきゃいけないファンの人は大変でしょうね」

ロコ「ノンノン、そうでもないですよ」

琴葉「?」

ロコ「負けたって全部がスポイルするわけじゃないんですよ。コトハの言うとおり、ベースボールはフェスティバルだから、スタジアムに来たこと自体がメモリーになるんです。いえもちろんウィナーになるに越したことはありませんがっ!」

琴葉「思い出、か……。うん、そうね。来てくれたファンの方々に楽しい思い出を。そこはプロ野球もアイドルも同じってことね」

ロコ「まあごく稀にメガホンやブーイングが飛び交うこともありますが……」

琴葉「あれー……?」

 ちょっとイイ話が台無し。

琴葉「だからってわけじゃないけど……。不良みたいな格好をしてる人も結構いるわね……」

 気合の入った特攻服仕様のレプリカユニフォームにビビる田中さん。

ロコ「刺繍入りユニフォームはスタンダードなものですから別にバッドボーイバッドガールというわけでもないと思いますよ。東京ドームでもたくさん見かけます」

琴葉「そ、そうなんだ……ほっ。ロコちゃんのユニフォームはやっぱりすっごくアレンジされてたりするわけ?」

ロコ「い、いえ、それはロコにはまだ早いとロコズマザーが……」

琴葉「あら、そうなんだ。そうそう、これもビックリしたんだけど女性向けみたいなユニフォームを着てる人がいっぱいいるのよね。ほら、あのピンクの縦縞のとか可愛くない?」

ロコ「確かタイガースは虎耳ヘアーなるヘアスタイルも推してましたね。ちょうどシホやマコトがたまに着けてる猫耳っぽくなるんです」

琴葉「猫耳……。あれ、なんだか変な汗が……」

 おっはよーですにゃん☆

ロコ「ベースボールはガールズ人気も高まってますから。ニーズですねえ」

琴葉「そういえばカープ女子って言葉はよく聞くかも。……ロコちゃん?」

ロコ「なぜ今まで気づかなかったのでしょう……」

琴葉「え?」

ロコ「ガールズ向けにアレンジしたレプユニ! これがブレイクスルーのヒントだったんです!」

 伴田さん、スイッチオン。

ロコ「アイドルコスチュームのアバンギャルドでファンシーなモチーフをミックスした全く新しい形のユニフォーム! 
   タフでマンリーなイメージとは真逆のガーリッシュ・ベースボールスタイルこそ時代の求めるモード! 
   ふっふっふ、東京に帰ったらさっそくミサキにサジェストしなければ! 
   ロコのインスピレーションとミサキのデザインセンスのユニオンは間違いなく新たなファッショントレンドを生み出すことでしょう!」


琴葉「ちょ、ちょっと! その前にちゃんとプロデューサーに企画を通さないとダメよ?」

ロコ「ノープロブレムですっ! なんならモデルはコトハにお願いしましょう! 
   プリティドリームユニフォームを着た琴葉をプロデューサーにチェックしてもらえばノータイムでコンセンサスが得られるはずです!」

琴葉「プロデューサーに……!? も、もうロコちゃんったらそんなの急に言われても困るわ。ところでプロデューサーって野球が好きなの? どこのファン? いえ参考までにね?」

 ツッコミ不在。

ロコ「ふう……。素晴らしいスーベニアが出来ました……」

琴葉「ええ……。思わぬ収穫だったわ……」

 良い顔。

ロコ「じゃあ戻りましょうか」

琴葉「あ、先に行ってて。私、ちょっと売店に寄っていくわ」

ロコ「? まだ何か買うんですか?」

琴葉「うん、これ」

ロコ「……」

奈緒「おかえり。あれ、琴葉は?」

昴「っていうか、なんでそんなに膨れてるんだよ。巨人勝ってるのに」

ロコ「……コトハにはジャイアンツプライドが足りてません」

奈緒・昴「は?」

琴葉「おまたせ」

奈緒「噂をすれば……おおっ?」

昴「へえーっ!」

琴葉「どう? 似合う?」

 田中さん、阪神のレプリカキャップを被って登場。

奈緒「あはは! 早くも猛虎魂に目覚めたか。ええこっちゃで」

ロコ「違います! むむむ、これが東京ドームなら……!」

琴葉「せっかく来たんだし、形だけでも、ね?」

昴「うんうんいいじゃんいいじゃん! グッと野球女子っぽくなったな!」

琴葉「そう? ありがとう」

ロコ「ならロコもジャイアンツのキャップをプレゼントしますよ! タイガースに抜け駆けはさせません!」

昴「じゃあオレも楽天のをあげるよ! 球団からプレゼントされた非売品だぜ!」
奈緒「なんや私も混ぜてーな。私からはウル虎の夏仕様や!」

琴葉「き、気持ちだけ受け取っておくわ」
 
 後日、所さんからも西武のキャップを貰いました。

 7回表開始前、巨人の球団歌「闘魂こめて」斉唱。

奈緒「わかってるで、ほんまは歌いたいんやろ? 私も次の回が待ち遠しいんや」

ロコ「そりゃそうですけど……」

昴「じゃあオレが一緒に歌ってやるよ。それならいいだろ?」

ロコ「ほんとですか! じゃなくてス、スバルがそこまで言うならロコだって断るわけにはいきませんね~」

奈緒「よっしゃアイドルの本気見せたれ! それ! ちゃっちゃっちゃ! それ!」

 ~♪(前奏)

ロコ・昴「とーこんこーめーてー♪」

 ~♪♪(中略)

ロコ「ジャーイアーンツ! ジャーイアーンツ! ゆーけゆけー! それーゆけ!! きょーじーんぐーん!!!」

 ~♪♪♪(後奏・拍手)

ロコ「……
昴「……」」

ロコ「……」

昴「…………ゴメン」

ロコ「ス~バ~ル~~~~!!」

昴「本ッ当にゴメン! 思ったより全然歌えなかった!」

琴葉「全然っていうか最初のワンフレーズだけだったわね……」

ロコ「もうっもうっもうっ! なんですかこのパニッシュメントゲームは!」

昴「だからゴメンってば! でもロコはちゃんと熱唱してたじゃん!」

琴葉「ほとんど自棄に見えたんだけど……」

ロコ「ロコはスーサイドがしたかったわけじゃないんですよっ! うう……早くエスケープしたいです……」

 伴田さん、半泣き。

奈緒「いーやロコ! 私は感動した!」

昴「奈緒!?」  琴葉「奈緒ちゃん!?」

奈緒「こんな虎キチしかおらん場所でよう最後までめげずに歌い切った! あんたこそ巨人ファンの鑑や、ミス・ジャイアンツや! あんたは今シアター組の、いや765プロの誰よりもトップアイドルに近い場所にいるで!」

昴「そ、そうだよロコ! 今のロコすっげー輝いてるぜ!」

琴葉「う、うん! よくわからないけどものすごい舞台度胸だったと思う!」

 周囲の阪神ファンからも拍手喝采とロココールが巻き起こる。

昴「すげーな! 阪神ファンにこんなに認められた巨人ファンなんて見たことないよ!」

奈緒「よかったなロコ! 歴史的大勝利やで!」

ロコ「え? え? ……えへへへへ♪」

琴葉「何この状況……」

 この模様はSNSや動画サイトに拡散され、765プロアイドルの小さなメークミラクルと語り草になったとかならないとか。

琴葉「なんだかそこかしこでパンパン音がしない? 何かが破裂してるみたいな音っていうか」

昴「あはは、みんなせっかちだなあ。まだ2アウトになったばっかなのに」

琴葉「え?」

奈緒「んー、でもそろそろもうええか。初めての琴葉もおるんやし。っていうか私以外初めてやったりする? はい皆の分あるでー」

 準備の良い横山さん。

琴葉「なあにこれ、風船?

奈緒「7回裏の攻撃が始まる前に皆で打ち上げるんや」

琴葉「えっ、皆って、球場にいるお客さんで? それってすごい数にならない?」

奈緒「なるで、めっちゃなる。数え切れんくらいの風船がヴァ~って空に上る瞬間はほんま見ものやで」

昴「テレビでしか見たことないけどほんとキレーだよな。生で見るの超楽しみだよ」

ロコ「うーん、ロコはジャイアンツファンとして……」

奈緒「ええやんそんなん、せっかくやし皆でやろうや。な? ミス・ジャイアンツ」

昴「そうだよやろうよ、∨9戦士ロコ」

ロコ「しょ、しょうがないですねえ。えへへ……」

奈緒・昴「(ちょろい)」

 7回表終了 タイガースラッキーセブンの攻撃前 スタンドがファンの持った風船で埋め尽くされる。

奈緒「もうこの音楽だけでテンション上がるわ~! オイオイオイオイ!」

昴「すっげー! 黄色だけかと思ったら結構カラフルなんだな!」

ロコ「ふ、ふうん、まあノットバッドですね」

琴葉「ね、ねえ!? もう始まっちゃってるみたいだけどこれいつ放せばいいの!?」

奈緒「そんなん周りに合わせたらええねん!」

琴葉「わ、わかった……えーいっ!」

 発表された観客数46518人、超満員の甲子園の空に風船が吸い込まれていく。

琴葉「わあ……」

 田中さん、感嘆のため息。

琴葉「綺麗……」

奈緒「勝利を願うファンの思いがこもってるんや。綺麗なんは当たり前やで……んっ、今のめっちゃアイドルっぽいコメントやったな」

琴葉「ふふっ、そうね。……ああ! 写真撮り忘れちゃった!」

昴「それならオレが撮っておいたから後であげるよ」

琴葉「ほんと!? ありがとう昴ちゃん!」

奈緒「良かったなあ琴葉。今日の昴はほんま出来る子やで」

昴「へへっ! 任せとけよ!」

ロコ「(ロコも撮っていたとは言い出せないアトモスフィアですねこれは)」

 今日の伴田さん、空気が読める子。

琴葉「あ、でもこれ飛ばした風船がゴミにならない? お掃除とか大丈夫なの? プレイへの影響は?」

奈緒「琴葉はブレへんなあ」

 大勢の球場スタッフの方々が猛スピードで回収していきます。感謝。

 風船飛ばしの後は阪神ファンによる「六甲おろし」の大合唱です。

奈緒「つーよいー! つーよいー! 阪神タイガースーーーー!」

 横山さん、超ゴキゲン。

琴葉「さすがに私でも聞いたことがあるわね」

昴「ロコおろし……ロコ、お前何かやらかしたのかよ……」

ロコ「何をナンセンスなこと言ってるんですか。ああ、思いっきり歌えて羨ましいですねえ」

奈緒「ろーっこ……フフフフ……wwww」

昴・ロコ・琴葉「あ」

 何かに気づく4人。

琴葉「貴音さんだわ」

 765プロの銀髪姫、四条貴音さんがバックスクリーンのビジョンに登場。

ロコ「そういえばタカネもタイガースファンでしたね……」

 ビジョンの中の四条さん、絶唱。

奈緒「アハハハハハwwwwなんやねんこれwwwwwwwwwwwww」

昴「あれ、貴音が歌ってるの奈緒は知らなかったのか?」

奈緒「いや知ってたでwww? 知ってたけどwwwwwあかんなんかツボにハマってしもたwwwwwユニフォーム全然似合ってへんやんwwwwww」

琴葉「でもやっぱり何回聞いても素敵な歌声ね。透明感があって高貴さが滲み出てて、それでいてどこか故郷に思いを馳せるときのように胸が切なくなる」

ロコ「およそ「六甲おろし」に対するインプレッションとは思えませんね……」

昴「なんにせよ歌ってる本人はすげー気持ちよさそうだな……」

 四条さん、いつになくやりきった笑みを残して大盛り上がりの観衆に別れを告げる。

奈緒「あー……笑いすぎて結局全然歌えへんかったわ。でも、あれやな。貴音はやっぱスゴイな。憧れるわ」

琴葉「もう、あれだけ笑っておいて調子いいんだから」

奈緒「だ、だってイメージとのギャップが……じゃなくてっ。阪神ファンの代表として「六甲おろし」歌うとかアイドルとして一番の名誉やん?」

琴葉「ん、んん? そう、なのかしら……?」

奈緒「決めた! 私も甲子園の視線を独り占めするようなビッグなアイドルになったるで! まずは貴音のポジションを継いで、そんでゆくゆくは甲子園でソロライブ開いて大観衆の前で「六甲おろし」歌ったるんや! ふふふなんかめっちゃ燃えてきたな! 帰ったらプロデューサーさんに相談や!」

昴「おお、なんかすげーな! オレも野球アイドルとして応援してるぜ!」

ロコ「目指すビジョンは本当にそれでいいんですか」

 大阪娘の挑戦は始まったばかりだ!

ロコ「ところでナオ、先に言っておきますが」

奈緒「なんや」

ロコ「ロコはとっくの昔に慣れっこですが、コトハの前では自重してくださいね」

奈緒「わかってるって。私だって仮にもアイドルや。「商魂こめて」もやったことあらへん」

琴葉「? なんの話?」

昴「巨人ファンと阪神ファンには色々あるって話」

琴葉「ふ、ふうん。それは大変ね」

 それ以上は触れられない空気を察した田中さん。

8回表 巨人の攻撃 

奈緒「ん、ここで杏奈出すんか」

昴「杏奈って勝ちパターンじゃないよな? まあ阪神はこの先連戦もあるしなるべくピッチャーは温存しておきたいか」

ロコ「しかしこのアンナ、ファストボールはかなりの威力ですね」

奈緒「杏奈みたいなピッチャーにとってはこういうときこそアピールのチャンスや」

昴「ここで結果出せば次はリード時、ゆくゆくは先発ローテ入り、なんてことにもなるかもしれないもんな。頑張れ、杏奈!」

ロコ「ふーむ、球が速いのはピッチャーにとってプレシャスなギフトですからね。アンナ、覚えておきましょう」

琴葉「……あ! そういうこと!」

 阪神3人目のピッチャーモチヅキ、ランナーを出しながらも無得点に抑える好投。

 8回裏 阪神、ノーアウト1・3塁のチャンス!

奈緒「さあ阪神は絶好のチャンスですが巨人の内野陣は前には来ていませんねフクモトさん」

昴「もう1点はしゃーないっちゅうことやろうね。まだ点差はあるんでね、巨人としてはとにかくゲッツーを取っていきたいところでしょうね」

奈緒「3点差ありますが阪神はどう攻めるべきでしょうか?」

昴「まず3点取らなあかん」

 後ろの席でビール飲んでたおっちゃん、むせる。

奈緒「あかん……www自分で振っといてなんやけどめっちゃおもろいwwwww」

ロコ「さすがナカイくんやトンネルズのTVショーに呼ばれるだけのことはあります」

琴葉「アイドルって何だったっけ……」

 その時、代打ハラグチがスライダーをセンター方向へ弾き返す!

ロコ「ひゃああっ!?」

奈緒「おおっ! よっしゃ抜け――へんのかいっ!?」

センター寄りに守備位置を取っていたショートサカモトが華麗にダイビングキャッチ、
すぐさまセカンドへボールをトスし、それを受けたルーキータナカも必死にファーストアベに送球。
6-4-3のダブルプレーが成立する。

ロコ「ディス・イズ・ベースボーーール!!」

奈緒「ええええええええ!? ウッソや~~~ん!」

昴「うっひゃあ! ハラグチも上手く打ったけどここへ来てとんでもないビッグプレーが出たなっ!」

奈緒「くぁ~~~、一本損したなあ。ごっつ悔しいけどあんなんされたらもう拍手するしかないやん」

ロコ「どうですコトハ! これがジャイアンツのショートストップですよ!」

琴葉「うん、うん! 素人目にも凄い守備だってわかったもの!」

 琴葉、目を輝かせて興奮。

琴葉「これが本当の、プロの野球なのね!」

昴「そうさ! これだから野球はすっげー熱くて、最ッ高に楽しいんだ!」

 9回表をフジカワキュウジが見事打者三人をピシャリと抑え、阪神最後の攻撃。

奈緒「ふ、ふふ、ふふふふふふふ!」

ロコ「あわわわわわわわ……」

スガノに代わって登板したヤマグチがまさかの乱調。
代打イトウハヤタをフォアボールで歩かせ、1番イトハラにはライトに運ばれ、
2番ホウジョウは汚名返上の送りバント成功でランナー2・3塁。

奈緒「よっしゃよっしゃよっしゃーー! 今日のヤマグチはアカン方のヤマグチや!」

琴葉「アカン方とかあるの?」

昴「うーん、ま、あるかもなあ」

ロコ「お、お願いです~。あなたはノーヒッターなんですから~100セーブなんですから~」

 3番フクドメの名前がコールされる。今日一番の大歓声。

奈緒「さあこのビッグチャンスでフクドメやで!」

昴「くうーー! 最後の最後で最高の見せ場だな! 超シビれるぜ!」

琴葉「な、なんだかこっちまで緊張してきちゃった!」

ロコ「い、1点くらいなら……いやいやいやっ! キッチリ抑えてくれなきゃイヤです!」

奈緒「当然この場面やったらあれしか無いやんな! 琴葉、いけるか!?」

琴葉「うん、大丈夫! だと思う!」

昴「オレも声ガラガラになるまで歌うぜ!」

奈緒「心意気は買うけど商売道具は大事にしいや! ほら、ロコも!」

ロコ「ふぇ!?」

昴「ロコも!」

ロコ「えええ!?」

琴葉「ロコちゃんも!」

ロコ「~~~~! ああもう! 言っときますけどロコのジャイアンツプライドはエターナルハーモニーですからねっ!!」

奈緒「あはは、全然意味わからへん! それじゃ、盛り上がっていっくでー!」

甲子園『勝利ーーーー!』

甲子園『目指せー! オーオー!』

甲子園『ターーイーーガーーースーーーーーーーーーー!!!』


奈緒・ロコ「ワッショイワッショイ!!」

昴・琴葉「ワッショイワッショイ!!」

18時06分 甲子園駅前

昴「あちゃー。やっぱりすっげー人だな。どこかで時間潰すか?」

琴葉「ダメよ。新幹線に乗り遅れちゃうわ。……奈緒ちゃんロコちゃん、置いてっちゃうわよ?」

 ニコニコの伴田さん、トボトボの横山さん。

奈緒「最後の一本がなあ。今年の阪神を象徴する試合やで」

昴「まあ元気出せよ奈緒。最後いい感じに盛り上がったじゃん」

ロコ「ふふふ、やっぱり最初にロコが言ったとおりになりましたね」

奈緒「いやでもちょっと待って。スガノから1点取ったってそれもう実質阪神の勝ちちゃう? 完封は阻止したんやし」

ロコ「いきなり何を言い出すんですかこの虎キチは」

昴「その前向きさはなんか暗黒感出てるなあ。まあオレもよそのこと言えないけどさ……。今日も負けたっぽいし」

ロコ「ジャイアンツも今日は勝てたものの依然Aクラスに入れるかはノットクリアーです……」

 なぜかお通夜ムードになる野球好きたち。

琴葉「もう、3人ともなんて顔してるの。みんな楽しくなかったの?」

 委員長、再び動く。

琴葉「私はとっても楽しかったんだけどな」

 顔を見合わせる3人。

奈緒「……ん!」

ロコ「……ふふ!」

昴「……へへっ!」

 野球好きたち、思い出す。

奈緒「せやな、楽しかったわ。負けてしもうたけど今日は特別楽しかった」

ロコ「もちろん勝ったから楽しかったですけど、きっと負けててもそんなにバッドな気分じゃなかったと思いますっ」

昴「うんうん! 超楽しかった!」

琴葉「ふふっ」

 愛おしげにキャップの鍔を持つ田中さん。

琴葉「みんな、本当にありがとう。私を、野球に連れてきてくれて」

奈緒「いうて巨人も最初の3点だけであとはしょっぱい攻撃やったやん」

ロコ「10残塁のタイガースがそれを言いますか。いえ、タイガースの責任というよりはスガノのギアチェンジがそれだけマーベラスだったということですねっ!」

奈緒「かーっ! また自慢かい! ええわ、こっちはフジナミがこの先なんかやってくれそうな気がするでっ!」

 虎党 VS G党、延長戦に突入。

昴「ほんとしょーがねーなあの二人は」

琴葉「でもそれだけ夢中になってるってことよね」

昴「はは、そうだな。……な、なあ琴葉」

琴葉「うん?」

昴「野球、ちょっとは好きになってくれたか?」

 永吉さん、乙女顔。

琴葉「うん。まだまだわからないことだらけだけど、ちょっと興味出ちゃったかも。奈緒ちゃんが盛り上げてくれて、ロコちゃんがとっても嬉しそうで。ファンをあんなに夢中にさせる野球って凄いんだなって」

昴「うんうんっ」

琴葉「それに昴ちゃんが色々教えてくれて、何よりも昴ちゃんが心の底から野球を楽しんでるのを見たら、こっちまで楽しくなっちゃった」

昴「うんう……、……へっ?」

琴葉「今日はありがとう、昴ちゃん」

昴「~~~~~っ! へへっ!」

 永吉さん、意地でも泣かない。

昴「これくらいどうってことないよ! なんせ今日のオレは、世界レベルだからな!」

琴葉「ふふっ、なあにそれ?」

どこからともかくヤケクソめいた、それでいていかにも楽しげな阪神ファンの歌声が聞こえてくる。
新しい景色を見た少女が笑う。
新しい景色を見せられた少女が笑う。
ユニフォーム姿の人たちが家路につく。もちろん話題は、さっきの試合。
今日はまだまだ終わらない。
ゲームセットにはまだ早い。

後日談。

昴「ええ!? 野球の禁止解いてくれないのかよ!」

琴葉「当たり前ですっ!」

 おしまい

野球禁止の張り紙ネタからこんなお話が思い浮かびました。
きっと琴葉も野球が嫌いなわけじゃないんだよ!

今更ですが本作は実在の人物、現実の試合とは一切関係ありません(無理のある注意書き)。
球場でダベってるアイドルたちを書くのはとても楽しかったです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

まぁ全員で野球イベしたこともあるしね、乙です

>>1
横山奈緒(17) Da/Pr
http://i.imgur.com/HdtXmNP.jpg
http://i.imgur.com/uyLqr0V.jpg

永吉昴(15) Da/Fa
http://i.imgur.com/vkU9hQM.png
http://i.imgur.com/0Jq4jpq.png

ロコ(15) Vi/Fa
http://i.imgur.com/sxPeLGy.jpg
http://i.imgur.com/XZnSY55.png

田中琴葉(18) Vo/Pr
http://i.imgur.com/gO2b7Ve.jpg
http://i.imgur.com/NGhomXO.jpg

乙やで

面白かった

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