「起立!神樹様に、礼!」
神世紀300年、讃州中学校2年の教室。
そこでは今日一日の授業を終えた生徒たちがホームルームを終え、この世界を守る神樹へと祈りを捧げていた。
しかし、そんな中ただ一人、椅子に座ったまま腕組みをし、ふんぞり返っている女子生徒がいた。
「けっ、なぁにが神樹サマじゃい、アホらしい」
彼女の名は結城友奈。讃州中学の二年生であると同時に、暴力団・結城組の二代目組長でもある。
彼女の父親である結城組の初代組長は先月、敵対する暴力団との抗争の末、命を落とした。
その結果、彼の一人娘だった友奈が若干13歳にして二代目組長となったのである。
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蘭子「混沌電波第172幕!(ちゃおラジ第172回)」
蘭子「混沌電波第172幕!(ちゃおラジ第172回)」 - SSまとめ速報
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「友奈ちゃん、ちゃんとお祈りしないと、先生に怒られちゃうよ」
「そう堅っ苦しい事言うな東郷。わしは神頼みなんぞ大嫌いなんじゃ!」
ホームルーム終了後、友奈は彼女の親友である車椅子の少女、東郷美森と共に勇者部の部室で談話に興じていた。
勇者部。それは、友奈と東郷を含めた4人の部員で構成された部活であり、
人々のためになることを勇んで実施する事を目的としている。
部室の壁には、友奈が考えた勇者部五箇条が貼り付けられている。
勇者部五箇条
一、弾なんぞ怖いと思うから当たる!
一、ケンカは先手必勝!
一、目に見える健全さと不健全さを!
一、核が怖くて勇者は務まらず!
一、暴力は相手をブチのめしてなんぼ!
「友奈ぁ!!友奈は来てる!?」
突如、部室のドアを乱暴に開け放ち、一人の少女が姿を現した。犬吠埼風。勇者部の部長である。
呼吸は乱れ、肩と声は震え、その顔は鬼のごとき形相である。
彼女が怒り狂っていることは火を見るよりも明らかだった。
だが、そんな風の姿を見ても友奈はまったく臆することなく、あっけらかんとした態度で応える。
「おお、なんじゃい風先輩!そないな、おっそろしいツラしてどうしたんじゃ!悪いモン食って腹でも下したか?」
「どうしたもこうしたもない!あんた、昨日自分が何したか分かってるの!?」
「お、お姉ちゃん落ち着いて…」
悪びれる様子もない友奈の態度に、風はますます怒りを露わにしながら友奈に食ってかかる。
風の背後からは、彼女の妹であり、4人目の勇者部部員である犬吠埼樹がおずおずとした様子で入室してきていた。
「もちろん分かっとる!勇者部の使命に従って、学校の風紀を乱すクソガキをブチのめしてやったんじゃ!
なんの問題もないじゃろうが!」
友奈の言っている事は嘘ではない。友奈は昨日、同級生からカツアゲしている3人の1年生に制裁を加えたのである。
しかし問題は行為ではなく、程度の問題だった。
「だからって全員病院送りにする事ないでしょうが!全治4ヶ月よ!少しは手加減しなさいっての!」
「じゃあかしい!勇者部五箇条ひとつ!目に見える健全さと不健全さを!
健全さを守るためには、多少の暴力は必要なんじゃ!エンコが残ってるだけでも有難いと思わんかい!」
おたがい一歩も引かずに口論を繰り広げる友奈と風。
東郷と樹はなんとか仲裁しようと二人の様子をうかがうが、まったく入り込む余地はない。
「なにが健全さと不健全さ、よ!もっともらしい事いって、結局は自分のケンカを正当化してるだけじゃない!
勇者なら勇者らしく、仁義を通しなさい!」
「勇者もクソもあるかい!歯向かう奴はみんなブチ殺しちゃるんじゃ!それに、どこかの偉い弁護士のセンセが言っとったぞ!
英雄ってのは、なろうとした時点で失格なんじゃ!つまり、さっきから勇者勇者いっとるアンタが一番、勇者失格なんじゃ~!」
「こ…このバァタレ~~~!!」
怒りのあまり、友奈の口調がうつった風が、ビンタで友奈を張り倒す。
「もういい!樹、帰るよ!」
「ま、待ってよお姉ちゃ~ん…」
風はそのまま、肩を怒らせながら部室を後にした。
樹もその後に続いて部室を出てゆく。
「ゆ、友奈ちゃん、大丈夫?」
友奈の身を案じ、近寄る東郷。
だが、当の友奈は心身ともに傷ついている様子はまったくなかった。
「くくく…がははは!ええ、あれでええ!」
「えっと…なにがいいの?友奈ちゃん?」
「わしとケンカするからには、あれぐらい肝が据わっとらんとイカンという事じゃ!下手な極道より、よっぽど肝が据わっとるわい!
まったく、カタギにしておくには惜しい女じゃのう!」
「友奈ちゃん…」
東郷は友奈の言葉にに呆れると同時に、友奈らしい言葉だと、内心微笑ましい気分になった。
「どれ、わしらもそろそろ帰ると…ん?」
友奈がスカートをはたいて立ち上がった瞬間、スマートフォンからアラームが鳴り響いた。
取り出して画面をのぞいて見ると、そこには「樹海化警報」の文字が刻まれていた。
東郷のスマートフォンも同様であった。さらに窓から見える風景は、時が止まったかのように停止している。
「東郷、こりゃどうなっとるんじゃ?」
「私にも何がなんだか…」
次の瞬間、二人の周囲はまばゆい光に包まれ、思わずまぶたを閉じる。
二人がまぶたを開くと、そこは校舎ではなく、極彩色に包まれた異空間へと変貌していた。
「なんじゃこりゃ?わしら夢でも見とるのか?」
「友奈ー!東郷ー!二人とも無事ー!?」
遠方から聞き覚えのある声が響き、友奈と東郷はその方向に顔を向ける。
走ってくるのは、風と樹の二人だった。
風は立ち止まり、呼吸を整えると、神妙な面持ちで語りはじめた。
「いい?三人とも落ち着いて聞いて。私は大赦から派遣された人間なの」
「大赦?お姉ちゃんが…?」
風の言葉に、樹と東郷が驚きの表情を浮かべる。
一方の友奈は、無表情のまま黙って話に耳を傾けていた。
「私は、神樹様を守るメンバーを集めるために、讃州中学で勇者部を結成した。
私たちはここで、神樹様と世界を守るために、敵と戦わなきゃいけないの」
「おい、風先輩!何を言ってるのかさっぱり分からんぞ!わしに分かるように説明せんかい!」
今まで黙っていた友奈が、風の説明に理解が追いつかず、怒りを露わにしながら風の胸倉を掴む。
今にも風に殴りかかりそうな勢いの友奈だったが、突如巻き起こった爆風の衝撃により、その動きを止めた。
一斉に爆発の発生した方向を見据える四人。そこに姿を現したのは、巨大な桃色の異形だった。
「なんじゃありゃ…」
「ちょうどいい。あれが人類の敵、バーテックス。
あれに神樹様を破壊されると、この世界は消滅するの」
しばし唖然とする友奈。しかし、状況を理解すると、その顔には悪魔のごとき笑みを浮かべていた。
「なるほど、よぉく分かったぜ。ようはアイツをぶっ殺せばいいんじゃな?」
「無理だよ友奈ちゃん、あんなのと戦えるわけない…」
好戦的な友奈とは対照的に、恐怖に震える東郷。
その姿を見た風は、ひとつの決断を下す。
「樹、友奈。東郷を連れて逃げて。ここは私が引き受ける」
しかし、二人が風の指示に従うことはなかった。
「お姉ちゃんをおいて行けない。私も一緒に戦うよ」
「わしもじゃあ!クソったれな神樹を守らなきゃいかんのは気に食わんが、
こんな楽しそうなケンカができるなら大歓迎じゃ!」
「二人とも…分かった、じゃあ一緒にいくよ!」
「うん!」
「おう!」
風の動作を見よう見まねでスマートフォンの画面をタッチする友奈と樹。
その直後にスマートフォンから光が発せられ、三人は神樹を守る勇者の姿へと変身していたのだった。
「ここは私と樹で引き受ける。友奈は東郷を安全な場所まで運んでから、合流して」
「了解じゃあ!東郷、しっかり捕まってろよ!」
「えぇ!?ちょ、ちょっと友奈ちゃん!?」
友奈は東郷の車椅子をお姫さま抱っこで持ち上げると、そのままジャンプを繰り返し、500mほど離れた場所へと東郷を降ろした。
「ここで待ってるんじゃぞ、東郷。すぐ終わらせてくるからの!」
東郷を安心させるべく、ニカっと歯を見せて笑顔を見せると、友奈は戦いの場へと赴いていった。
東郷はそんな友奈の後ろ姿を、顔を赤らめながら見守るのだった。
「友奈ちゃん…」
「遅くなった!樹、風先輩、無事か?」
東郷を避難させ、樹と風の元へと駆けつけた友奈。
二人はそれぞれの精霊である木霊と犬神の協力を得て応戦しているが、苦戦しているようだった。
「友奈、いい所に来てくれたわ!いい?バーテックスは心臓部を破壊しないと、絶対に倒せない。
まずは封印の…」
「んな、まどろっこしい事、やってられるかぁ~~~!!」
「ゆ、友奈さん!?」
風の説明を無視し、バーテックスへと駆けだす友奈。
バーテックスは爆発性の弾丸を発射して攻撃するが、友奈はそれを片手で難なく跳ね返しながら突き進んでゆく。
「な、なんで攻撃が当たらないの…?」
風のつぶやきに答えるように、友奈は叫ぶ。
「勇者部五箇条ひとつ!弾なんぞ怖いと思うから当たるんじゃ~!わしが睨みつけりゃ、地雷だろうが逃げ出すわい!」
友奈は一気にバーテックスまで接近すると大ジャンプし、バーテックスの身体の上部へと取りついた。
そして、そのまま左右の拳を交互に突き出し、バーテックスへと鉄拳を叩き込む。
「要は心臓をぶっ壊せばいいんじゃろうが!」
次第にバーテックスの表皮に亀裂が入り、ついには粉々に砕け散った。
そして、その中から逆三角錐の心臓部が出現したのだった。
「これで仕舞いじゃ~~~~!!」
友奈がトドメの一撃を心臓部へと叩き込む。
その一撃で心臓部は四散し、バーテックスは光の粒子となって消滅したのだった。
呆気にとられた風が、ぼそりと呟いた。
「ふ、封印もせずにバーテックスを倒すなんて…」
当の友奈は勝ち誇り、高笑いをあげている。
「がはははは!勇者部五箇条ひとつ!ケンカは先手必勝じゃ!攻撃し続ければ、どんな奴でもいつかは、くたばる!!」
かくして、ここに史上最強の極道勇者が誕生したのである。
とりあえず今日はここまで
全6話くらいの予定です
やる内容は一期のみで、樹がかなり空気になりそうです
ファンの方はごめんなさい
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蘭子「混沌電波第168幕!(ちゃおラジ第168回)」
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蘭子「混沌電波第172幕!(ちゃおラジ第172回)」
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獅子王凱「…」
エクスカイザー「…」
火鳥勇太郎「…」
ドラン「…」
旋風寺舞人「…」
大道寺炎「…」
ダ・ガーン「…」
デッカード「…」
風パイセンがヒロインポジ(主人公を改造したり脳の一部奪ったりする人)になりそう…(期待)
どのくらいの人が見てくれてるのか分からんけど、第2話の投稿はじめます
友奈たちが最初のバーテックスを倒した翌日。
風は部室に勇者部のメンバーを集め、勇者システムやバーテックスに関する説明を行っていた。
バーテックスは全部で12体いる事。大赦がバーテックスに対抗するために勇者システムを開発した事。
風が勇者候補を集めるために勇者部を結成した事。戦いで結界である樹海が傷つけば、現実世界にも影響が出る事などである。
その説明を受ける中で、東郷が神妙な面持ちで口を開いた。
東郷は親友である友奈や、大事な後輩である樹が命の危機に晒されたにも関わらず、今までそれを黙っていた風が許せなかったのだ。
「どうして、もっと早く勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか?
そんな大事な事…ずっと黙ってたんですか…」
東郷はそう言い残すと、部室を後にした。
風も樹も、それを止める事はできない。
そんな中、友奈がやれやれといった表情で頭をかきながら立ち上がる。
「すまんの、風先輩。わし、ちょっくらヤボ用を済ませてくるわい」
「なんじゃい東郷、随分シケたツラしとるのう!」
勇者部の部室からやや離れた場所の廊下で、思いつめた表情で佇んていた東郷。
そこへ駆けつけた友奈は東郷を元気づけるべく、笑顔で語りかける。
「友奈ちゃん…ねぇ、友奈ちゃんは怖くないの?」
「ん?何がじゃ?」
「だって、あんな怖い敵と戦わなくちゃいけないんだよ?死ぬかもしれないのに…」
東郷の真っ当な質問に、友奈は呆れたように笑いながら答える。
「なにが怖いもんかい!むしろ、歯応えのあるケンカ相手が出来て嬉しいくらいじゃ!
さぁ、こっからが勇者部の本領発揮じゃぞ!」
「…友奈ちゃんは強いね。体だけじゃなくて、心も。
それに比べて、私は…」
昨日、戦う事もできずに怯えるばかりだった自分を思い出し、自己嫌悪に陥る東郷。
顔はうつむき、その身体は小刻みに震えている。
東郷の心境を察した友奈は、それまでとはうって変わり、静かな口調と穏やかな表情で語りかける。
「のう、東郷。お前はそんなに自分が弱いと思うか?」
「え?そ、それはそうだよ。だって、私はこんな体だし、記憶も曖昧だし、それに昨日だって…」
「たしかに、お前は事故の影響で足が動かんから、自由に歩く事はできん。それは紛れもない事実じゃ。
じゃが、わしはお前が弱いなどと思った事は一度もないぞ」
「ど、どうして?」
友奈からの思わぬ言葉に、東郷は歓喜と困惑が入り混じった感情で問う。
その質問に対し、友奈から返ってきた言葉は意外なものだった。
「東郷、お前はわしを一人のダチとして見てくれたじゃろ?だからじゃ」
「それが強いって…どういう事?」
東郷の質問に、友奈はそれまで見せたことのない、物憂げな表情で語り始めた。
「知っての通り、わしは極道の家の人間じゃからの。ガキの頃から周りの人間は3種類しかおらんかった。
わしの腕っぷしや地位に釣られて、機嫌をとりにやってゴマをするハエども。
極道というだけでわしの事を避け、近寄ろうともせん臆病者。
わしを倒して天下を取ろうとする、身の程知らずのバカどもじゃ。
じゃが、東郷は違った。お前は、初めてわしの事を一人の人間として、ダチとして見てくれたじゃろ?」
「そ、それは…私と違って友奈ちゃんは強いから、憧れたっていうか…」
まだ自分に自信が持てない東郷に対し、友奈はさらに言葉を投げかける。
「それにな、わしは今まで抗争でどうしようもない雑魚を腐るほど見てきた。
よほど欲求が満たされんじゃろう、そいつらは…銃を持たせると、急に強くなりよる。
その銃がでかけりゃでかいほど、人が変わったように相手につっかかっていき!自分を誇示したがりよる!!
しかし、相手が自分以上の器だともうダメじゃ! ガタガタ震え、怯え……鳴きよる。鳴いたらしまいじゃ。
本当に弱い奴っちゅうのは、自分の弱さを認めようとせず、武器を持っただけで強くなったと勘違いする奴の事じゃ。
じゃが、お前は違うじゃろ?さっき風先輩に怒ったのも、わしや樹を心配してくれたからじゃろ?」
友奈が歯を出して東郷に笑いかける。
その笑みを見た東郷は、自分の身体が熱くなるのを感じていた。
「友奈ちゃん…」
「大丈夫じゃ東郷、お前は強い。わしが保証するわい!」
「ありがとう、友奈ちゃん…!」
地震を取り戻し、表情に明るさが戻った東郷。
その直後、昨日と同様にスマートフォンからアラームが鳴り響き、樹海化警報の文字が表示される。
バーテックス出現の合図である。
「行くぞ東郷!勇者部、出撃じゃあ!」
「うん!」
樹海内部。そこには蠍、蟹、射手の3体のバーテックスが出現していた。
一度に3体が出現するという想定外の事態に、風と樹は動揺しているが、友奈と東郷の様子は違っていた。
「力では勝てんと考えて、数で攻めて来おったか!
それでええ!勝つための工夫をせえ!わしをもっと楽しませろ!」
「怖くない。友奈ちゃんと一緒なら、私も戦える」
「その意気じゃ!行くぞ東郷!」
「うん!」
3人に続いて東郷もスマートフォンの画面をタッチし、勇者の姿へと変身する。
遠距離戦闘に特化した、射撃型のスタイルだった。
東郷は精霊・青坊主から授かった狙撃銃を用い、射手座のバーテックスへと攻撃を仕掛ける。
「ほう!なかなかええ銃じゃ!気に入った!卵野郎!わしにも銃をよこさんかい!」
友奈の怒声に、青坊主が怯えながら銃を差し出す。
全長2m近くありそうな、巨大なガトリング砲である。
「ええチョイスじゃ!よう分かっとるのう!東郷、青いのは任せた!
風先輩と樹はエビを頼むぞ!わしの相手は、あのカニ野郎じゃ~!」
「まかせて友奈ちゃん!」
「エビじゃなくてサソリでしょ…」
「気にしてる場合じゃないと思うよ、お姉ちゃん」
風と樹のツッコミを気にも留めず、友奈はガトリングを乱射しながら蟹座のバーテックスへと突っ走る。
「うおおお!勇者部五箇条ひとつ!暴力は相手をブチのめしてなんぼじゃ~~!!」
戦闘開始からおよそ3分が経過した。
風と樹は蠍座のバーテックス相手に、前衛の風、後衛の樹の陣営で応戦していた。
しかし、バーテックの長い尻尾と毒針による猛攻に、決定打を打てずにいた。
「これじゃ近づけない…近づけなきゃ、封印する事もできない。どうすりゃいいのよ…」
風の表情に焦りの色が見え始めた頃、突如遠方から轟音が鳴り響いた。
轟音の正体にいち早く気付いた樹は、恐怖と驚愕が入り混じった表情で、その正体を指差す。
「お、お姉ちゃん、あれ…」
「な、何よあれ…!?」
「おりゃあ!どけどけ~~!!この夏、一番の波が来るぜ~~~~!」
轟音の正体は友奈だった。正確には、友奈とバーテックスである。
友奈がバーテックスの背中に乗り、サーフボードのように使いながら斜面を滑り降りているのだ。
そして友奈を乗せた蟹座のバーデックスは、その勢いのまま蠍座のバーテックスへと激突した。
「カニとエビの海鮮丼、一丁あがりじゃあ!」
激突した衝撃でそれぞれのバーテックスの体表が砕け散り、心臓部である御魂が飛び出した。
「ええい、こいつらチョコマカと逃げ回りおって!」
御魂を取り出すことに成功した友奈だったが、高速移動と分裂でかく乱する御魂に、トドメを刺せず手こずっていた。
「友奈、ここは任せて!」
友奈の背後から飛び出した風が、大剣を振り回す。
点や線ではなく、大剣の「面」で攻撃する事で、高速移動する御魂を破壊する事に成功する。
「こっちは私に任せてください!」
一方の樹も、分裂した御魂をワイヤーでまとめて高速することで、その全てを破壊した。
これで残るバーテックスは射手座の一体のみとなった。
「どれ、東郷の方は…!?」
友奈は思わず、驚愕で目を見開いた。
バーテックスの口から放たれた巨大な矢が、東郷へと差し迫っていたのだ。
東郷は狙撃銃を撃つために体を地面に密着させた状態であり、瞬時には回避できない。
東郷は矢を狙撃しようと試みるが、高速移動する矢には思うように狙いが定まらない。
(もうダメ…!)
東郷が死を覚悟し、目を閉じた瞬間、突如飛び出した桃色の影が矢を遮った。
「わしのダチに…何してくれてんじゃ~~~!!」
矢と東郷の間に割って入り、右腕で矢をつかみ取った友奈が、怒りで声を張り上げる。
友奈はその怒りをそのまま矢に込めて、バーテックスへと投げ返した。
矢はそのまま発射口へと突き刺さり、バーテックスは攻撃手段を封じられた。
「樹、今のうちにいくよ!」
「うん!」
その隙に風と樹がバーテックスを囲いこみ、封印の儀を行い、御魂を取り出す。
御魂は先程以上に高速で移動しつづけるが、東郷は至って冷静であった。
「東郷、やれるか?」
「大丈夫だよ、友奈ちゃん」
東郷は焦ることなく御魂に狙いを定め、その中心を正確に撃ち抜いた。
御魂を失ったバーテックスが、砂と光の粒子となって消滅してゆく。
(友奈ちゃん。私、やれたよ…)
任務を無事遂行した東郷は、心の中で誇らしげに呟いたのだった。
3体のバーテックスを倒し樹海が消滅したことで、勇者部部員は全員、後者の屋上へと戻っていた。
「ようやったのう東郷!今日は勇者揃い踏みの記念じゃ!わしが全員にうどんを奢ってやるわい!」
友奈の言葉に、風と樹が顔をほころばせる。
そんな中、東郷は顔を赤らめて友奈を見つめていた。
「友奈ちゃん、今日はありがとうね」
「別にわしは何もしとらんぞ。東郷が実力を発揮した。ただそれだけの事じゃろ?」
「うん…」
友奈のさりげない気使いに、東郷はますます顔を赤らめ、顔を手で覆い隠すのだった。
今日はここまで
今回はマジキチ分控えめでしたね
総合スレから見に来たよー
感想とか批判を……という事だけど、多少辛口でもいいの?
>>28
どうもありがとうございます
今後書き続ける気をなくさないように、心折れない程度にお願いします…
>>29
りょーかい
正直、ここまで読んだ時点ではいまいち物足りない
今回マジキチ控えめとか書いてたけど、1話含めてまだまだマジキチ足りてないと思う
もっとハジケていい
ギャグとしてやりたいのならいっその事、
●全員極道キャラで始める
●勇者部じゃなくて勇者(極道)部にして、友奈だけ正常な状態で始めさせる
●バーテックスに喋らせて、怯えさせたりドン引きさせたりツッコミ入れさせたりする
などなど、もっとハジケたものにする方法がいろいろあるはず。
ストーリーについてはここからの展開次第なのかも知れないがまだまだ薄い
誤字(誤変換)が多いのも個人的には減点ポイント
厳しいことも色々書いたが、総合スレに自ら書き込んだ勇気と根性は勇者の素質ありだと思う
頑張って欲しい
>>30
ご指摘ありがとうございます
バーテックスが喋らないので、ストーリー壊しづらいのは、自分でも感じてました
どのへんまで改変していいのか難しいですね…ラスボスは喋らせて、どんどん突っ込んでもらう予定です
ちょっと保守的になっていた面もあるので、もっとハジケさせてみようと思います
どうもありがとうございました
友奈ちゃんの改造まだー?
第3話の投稿を開始します
書いても原作と大差ない部分はどんどんカットしていくので、今回はかなり駆け足になります
友奈たちが勇者として活動を開始してから1ヶ月半。
讃州中学に一人の女子生徒が転校してきた。
彼女の名は三好夏凛。大赦から派遣された5人目の勇者である。
夏凛は昨日5体目のバーテックスが出現した際、これを一人の力のみで瞬殺した実力者である。
そんな彼女が讃州中学に転校してきたのは、勇者部の勇者4人を監視するという使命を大赦から与えられたためだ。
「私が来たからには百人力よ。大船に乗ったつもりでいなさい。
私はあんた達素人と違って、長年訓練を受けてきてるんだから」
放課後、夏凛は勇者部の部室で部員たちに自身の実力を解説していた。
それを感心しながら聞いていた勇者部部員だったが、そんな中、一人が抗議した。
「トーシロじゃと?わしゃ極道じゃぞ。
そんなわしをケンカのトーシロ呼ばわりとは、ええ度胸しとるのう」
友奈が獣のような怒気のこもった眼で夏凛を睨みつけながら立ち上がる。
一方の夏凛は、怯える様子もなく冷静に言葉を返した。
「結城友奈。あんたは確か暴力団の組長だったわね。
ヤクザが勇者だなんて、悪い冗談?
ケンカがどうこう言ってたけど、そんな認識だから素人だって言ってるのよ。
これは人間同士のケンカとはわけが違う。
人類存亡をかけた、バーテックスとの全面戦争なのよ」
「わしに言わせりゃ、ケンカも戦争も同じじゃ。どっちもタマの取り合いじゃからのう。
昨日おのれが使ってたポン刀、中々の代物じゃ。ケンカの腕も本物じゃ。それは認める。
じゃが、わしをトーシロ呼ばわりするには及ばんのう」
「へぇ、ならどうしようって言うの?」
二人の間に険悪なムードが漂い、樹と風が慌てて仲裁に入る。
「ゆ、友奈さん、落ち着いてください」
「そうだよ。せっかくの新入部員なんだから、二人とも仲良くしなって」
。
風が何の気なしに言った言葉を、夏凛が呆れた表情で否定する。
「は?私、入部するなんて一言も言ってないけど」
「へ?入部しないの?」
「当然よ。勇者は遊びじゃないの。こんな素人集団、だれが入部するもんですか」
そんな風と夏凛のやり取りを聞いていた友奈の表情に、悪魔的な笑みが浮かんだ。
「なら、こういうのはどうじゃ?今日、この後わしと夏凛がタイマンを張る。
夏凛が勝てば、今後のバーテックスとのケンカの指揮は、夏凛に一任する。
その代わりわしが勝ったら、大人しく勇者部に入部してもらうぜ。
雑用としてコキ使ってやるから、覚悟せえよ?」
「面白そうじゃない。その挑戦、受けて立つわよ」
完全に戦闘態勢に入った友奈と夏凛。
東郷は友奈に不安げな表情で語りかける。
「だ、ダメだよ友奈ちゃん。せっかく仲間が増えたんだから、仲良くしないと…」
「東郷、お前の言いたいことも分かる。じゃがの、ああいう輩は一度、痛い目に遭わせんと理解しあえんのじゃ。
拳と拳で…まぁ、あいつの場合は剣じゃが、とにかく拳と剣を交えんと分かりあえん奴もいるっちゅう事じゃ」
友奈は得意げな表情で、そう断言するのだった。
すいません、風呂いってきます
讃州中学からほど近い海岸の波打ち際。夕焼けを背にしながら、友奈が立っていた。
その足元には、木刀を握ったままの夏凛が、仰向けに倒れている。
友奈と夏凛の30分に及んだ決闘は、友奈の頭突きによって決着がついたのである。
「私の負けね…さぁ、舎弟にでも何でもしなさいよ」
倒れたままの夏凛が、自暴気味な態度で友奈に言葉を投げる。
そんな夏凛を諭すかのように、友奈は語りかける。
「そうヤケになるな。お前の木刀さばき、中々のモンじゃったぞ。
お前も、わしがタダのトーシロじゃない事くらい、分かったじゃろ?」
「そ、それは…まぁ、ね」
素直になれない夏凛が、口ごもりながら答える。
「そうか。分かり合えたんなら、これで夏凛も晴れて勇者部の仲間入りじゃあ!歓迎するぜ」
「あ、ありがとう…」
倒れている夏凛に、友奈がしゃがみ込みながら笑顔で手を差し伸べる。
そんな友奈の手を取りながら、夏凛が赤面した表情で立ち上がる。
「そうじゃのう。なら明日は子猫の捜索からやってもらおうかのう?」
「こ、子猫!?私が捜すの!?」
「なんじゃ?勇者部に入部したんじゃろ?嫌とは言わせんぞ」
「わ、分かったわよ。捜せば…」
しばし談笑に興じていた二人だったが、夏凛のスマートフォンのアラームが鳴ったことで、その会話が途切れる。
「ちょっとゴメン。メールが来たみたい」
スマートフォンのメール着信をチェックする夏凛。
先程まで明るかった表情は、一瞬にして重苦しいものへと変化した。
夏凛の変化を不審に感じた友奈が、夏凛に問いかける
「どうしたんじゃ?」
「大赦からの連絡。バーテックスの大規模攻撃が来る可能性が高いから、覚悟しろって」
その直後、二人のスマートフォンの画面に、アラームと共に樹海化警報の文字が表示された。
「噂をすれば、じゃな。どうする夏凛?怖かったら帰ってもいいんじゃぞ?」
友奈が小馬鹿にするような言葉と表情で、夏凛を挑発する。
怖気づいた夏凛を奮起させるための、友奈なりの配慮である。
「だ、誰が怖いもんですか!来なさい友奈!プロの実力ってやつを見せてあげるわ!」
「それは楽しみじゃのう!なら早速、勇者部出撃じゃあ!」
その日のバーテックスとの戦闘は、熾烈を極めた。
残り7体のバーテックスが同時に出現するという異常事態。
7体中3体は風、樹、夏凛の手によってそれぞれ撃破されたものの、残り4体が合体した巨大バーテックスに、苦戦を強いられる。
そんな中、友奈と東郷が勇者システムの切り札である「満開」を発動させ、強化形態へと進化。
死闘の末、この巨大バーテックスの撃破に成功。これにより、12体のバーテックスはすべて討滅されたのである。
「で、ここはどこじゃ?学校ではなさそうじゃの」
バーテックスとの戦闘が終了し、樹海化が解除された際、友奈と東郷は普段の校舎ではない場所へと転送されていた。
そこは倒壊した大橋の付近であった。
「結構離れた所に来ちゃったね」
「まあええ、バーテックスとのケンカは終わったんじゃ。早いとこ風先輩たちと合流して祝杯を…」
「ずっと呼んでたよ、わっしー。会いたかった~」
東郷と友奈が帰ろうとした直後、どこからか少女の声が聞こえ、二人は立ち止まる。
声の主は、ヘッドに横たわり全身に包帯を巻いた少女だった。
少女は二人の事について何か知っている様子だったが、友奈にも東郷にも見覚えはなかった。
「東郷、知り合いか?」
「ううん…」
「えっと、友奈ちゃんとは初対面だったね。わっしー…今は東郷さんか。
私は乃木園子。今はこんな体だけど、昔は勇者として活躍してたんだよ」
園子と名乗った少女は、どうやら東郷と面識があるようだったが、やはり東郷は園子の事を思い出せずにいた。
「今日は二人に大事な事を伝えるために呼んだんだ。友奈ちゃんと東郷さんは、満開したんだよね?
二人とも、体のどこかが不自由にならなかった?」
「何をわけの分からん事を…おぉっ!?」
そう言いかけた友奈が、突如身体のバランスを崩し、右膝を地に着いた。
「友奈ちゃん!?どうしたの!?」
「わ、分からん。急に右脚に力が入らなくなったんじゃ。それに左腕の調子も変じゃ…」
友奈の身を案じて声を掛ける東郷は、友奈の声の聞こえ方に違和感を感じた。
どうやら、左耳の聴力が極端に低下しているようだ。
二人の体の異常を確認した園子が、静かに話を続ける。
「それが勇者システムの満開の代償、散華。強大な力を発揮する度に、体の機能が失われていくの。
私がこんな体になったのも、その影響なんだ」
友奈はまだ冷静さを保っているが、東郷の表情は絶望一色で染め上げられている。
東郷は信じられないといった様子で、園子に問いかける。
「そんな…どうして…」
「そうだね…まずは神樹様について話そうか。
二人は、というより世間は神樹様を神様みたいに思ってるけど、違うの。本当は…」
「ようやく見つけたぞ。結城友奈、東郷美森。」
園子の言葉を遮り、一人の中年の男が姿を現した。
黒いスーツに身を包んだ、長身のその男は尋常ではない威圧感を放っており、
極道である友奈は彼が只者ではない事を一目で見抜いていた。
「なにもんじゃ、おのれは」
「私の名は赤尾虎彦。大赦の人間だ」
「大赦じゃと?そのカッコ、どう見ても大赦のモンとは思えんがのう」
友奈の言葉を無視し、虎彦は園子へと向き直り、言葉をかける。
「乃木、きさまが二人をここに召喚したんだな。こっちが捜すのにどれだけ手間取ったと思っている」
「はい、申し訳ありません」
「こいつらにどこまで話した?」
「勇者システムの満開と散華。それから、神樹様についてこれから話すつもりでした」
「もうそこまで話したのか…なら、これ以上隠しても無駄か」
園子との会話を終えた虎彦が、友奈と東郷に近寄り、声をかける。
「二人ともついて来い。まずは結城の腕と脚を治療してやる。
それから、大赦やバーテックスについての全てを放してやる。
乃木、お前にもついて来てもらうぞ」
「はい」
東郷が不安げな表情で友奈に語り掛ける。
「友奈ちゃん、どうするの?」
「行くに決まっとるじゃろうが!コイツら、わしらに何か隠とるようじゃからのう。
洗いざらい話してもらわん事には、こっちの気が済まんわい」
「それでいい。では、行くとしようか」
友奈と東郷、そして園子は、虎彦が呼んだ黒塗りの高級車に揺られ、大赦へと向かうのだった。
大赦内の医療センター。そこでは、散華の影響で不自由になった友奈の右脚と左腕の治療が行われていた。
待合室には東郷、そして東郷と同様に大赦の派遣した車によって運ばれた残りの勇者部部員が、
神妙な7面持ちで手術の成功を祈っている。
「友奈さん、大丈夫かな…」
「大丈夫だって。あいつがタフなのは私が一番知ってるもん。元気な顔して戻ってくるに決まってるよ」
不安げな表情で呟く樹を風が励ますが、樹の表情は沈んだままだ。
「それにしても、勇者システムにそんな副作用があったなんて、私でさえ知らなかった。
大赦がそんな大事な事を隠してたなんて…」
夏凛がやや苛立った表情で呟く。
すでに友奈の手術は3時間以上にわたっており、4人の精神的な疲れも溜まっていた。
夏凛がそうぼやきたくなるのも、無理のない事だった。
手術が始まって4時間が経過しようとしていた頃、待合室のドアを開け、一人の男が入室した。
赤尾虎彦その人である。虎彦の姿を確認すると、それまで黙っていた東郷がせきを切ったように言葉を投げかける。
「赤尾さん!友奈ちゃんは!?友奈ちゃんは無事なんですか!?」
「彼女なら心配ない。すべてうまく行ったよ」
「それじゃあ、元の体に戻るんですね!」
虎彦の言葉に、勇者部全員が安堵の表情を浮かべる。
だが、虎彦は不気味な笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「いや、全て元通りというわけには行かない。あとは本人次第さ…」
「どういう事ですか?」
夏凛の質問には答えず、虎彦が部屋の奥へと声をかける。
「さぁ、入ってこい。仲間に顔を見せてやれ」
虎彦の言葉に従い、彼の背後から待合室に入室してきたのは友奈だった。
その足取りはややおぼつかないものの、しっかりと自分の脚で大地を踏みしめて歩いており、見る限りでは左腕にも異常はないようだった。
「友奈ちゃん!体は大丈夫なの!?」
東郷の後に続き、勇者部全員が友奈に駆け寄る。
「ああ、なんとかな。まだ慣れてはおらんがの」
友奈の元気そうな様子に安堵し、笑みを浮かべる勇者部。
だが、そんな勇者部の空気を断ち切り、虎彦が冷酷な言葉を吐く。
「全員そいつから離れろ。あまり近寄ると危険だからな」
その言葉と共に胸ポケットからひとつの機械を取り出し、スイッチを押す虎彦。
すると友奈の左腕と右脚が自動で変形し、鋼鉄の義手と義足が現れる。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
自身の体の変化に驚愕する友奈だったが、それだけでは終らない。
義手と義足はそれぞれマシンガンとロケットランチャーに変形したのだ。
「これが勇者兵器計画。そいつの左腕と右脚は使い物にならなかった。
そこで、勇者システムの新武装の実験台となってもらったのだ。」
「だからって、こんな体に改造したんですか!?本人に断りもなく!!」
珍しく怒りを露わにした東郷が虎彦に食ってかかるが、虎彦はまったくひるむ様子はない。
それどころか、開き直って叫ぶ。
「極道なら、そして勇者なら、命を張って生きているんだろう!?
手足の一本や二本でガタガタ騒ぐな!!」
「あ、あなたって人は!!」
怒りに震える夏凛が叫ぶが、虎彦はそれをかき消すほどの大声で怒鳴り散らす。
「馬鹿者!甘ったれるんじゃない!お前達には、もっと残酷な未来が待っているんだ!」
虎彦のあまりの気迫に圧倒され、静まり返る勇者部。
そんな中ただひとり、友奈が変形したマシンガンの銃口を虎彦に突きつける。
「どうした?私が憎いか?」
「よくも…よくもこんな…」
そう口走る友奈の瞳には涙が浮かんでいた。
自分の体を断りもなく義手と義足に、しかも武器だらけのサイボーグに改造されたのだ。
友奈が錯乱するのも無理もないだろう。
「友奈ちゃん、やっちゃって!」
「そうよ!こんな奴、生かしておく事ないわ!」
友奈に賛同する東郷と夏凛。
しかし、二人の予想に反し、友奈の抱いている感情は怒りでも悲しみでもなかった。
「よくもこんなスバラシイ体にしてくれたのう!最高じゃあ!!」
友奈は嫌味で言っているのではない。
武器庫の体に改造された事を、泣いて喜んでいるのだ。
「気に入ったぜこの身体!わしにピッタシじゃあ!!」
「な、なにを言ってるんですか友奈さん!?」
「頭まで改造されちゃったの1?」
樹と風が心配して声を掛けるが、友奈はまったく動じない。
「バァタレ!そりゃ、最初見た時はビックリしたぜ~~~!しかしのぅ…」
友奈が天井へ向けてマシンガンを発泡する。
「見ろ、この威力!こいつがあれば、わしは天下無敵じゃあ!
わしは史上最強の極道じゃあ~~~~!!」
狂喜しながら友奈はマシンガンを乱射する。
「それでいい。それでこそ選ばれし者だ。では、次は東郷の番だな」
そう言って東郷に手を伸ばす虎彦。
その姿を眼にした友奈は、一瞬で冷静さを取り戻し、マシンガンを虎彦に突きつける。
「おっと、そうはいかんぜ。こいつには指一本触れさせんからの」
「友奈ちゃん…」
「安心せい東郷。お前の体を治す方法は必ず見つけちゃる。
勇者部五箇条ひとつ。目に見える健全さと不健全さを。不健全なのはわし一人で十分じゃ」
友奈は虎彦に向き直り、睨みつける。
「さあ、約束通りいままで隠してたこと、全部話してもらおうかのう?」
「…いいだろう。真実を知る勇気があるなら、ついて来るがいい。」
大赦の奥へと進んでゆく虎彦。勇者部は、黙ってうなずき合い、その後に続くのだった。
今日はここまで
今週中に終わるかなぁ
>>30
キッモ
遅くなりました
第4話の投稿はじめます
虎彦に連れられて、大赦の最深部へとたどり着いた勇者部一同。
目の前に現れたのは、大赦のイメージからはかけ離れた、重々しい金属製の扉。
長年大赦に務める夏凛でさえ、初めて見る場所だった。
虎彦はドアの脇に取り付けられたボタンを押し、マイクを通してに部屋の主へと声を掛ける。
「博士、勇者5人を連れてまいりました」
『ご苦労だったな、虎彦。入るがいい』
その声とと共に、金属のドアが自動で開け放たれる。
虎彦の後に続いて入室した勇者部が目にした光景は、中央に大きなモニターが設置させた白い部屋だった。
モニターの前には、60代から70代と思われる白髪の男が椅子に腰かけており、その隣には先程出会った少女、園子が座っている。
5人の勇者がそれぞれ用意された椅子に座ったのを確認すると、老人はその口を開いた。
「よく来たな、勇者諸君。わしの名は早乙女。
現バージョンの勇者システムの開発者であり、この研究所の所長でもある」
「研究…所?それってどういう…」
早乙女の言葉の意味を理解できず、困惑する夏凛。
無表情の友奈を除き、他の勇者部部員も同様の表情だった。
「大赦というのは仮の名だ。この施設の真の名は、早乙女研究所。
ゲッター線を研究するための施設だ。わしの一族は、代々ゲッター線の研究を続けてきたのだ」
話が読めない勇者部へと、早乙女が話を続ける。
「そうだな、まずはゲッター線とは何かについて話すとしよう。
ゲッター線。一言で言えばそれは、生物の進化を促す宇宙線だ。
地球に最初に降り注いだのは、今からおよそ6500万年前、中生代・白亜紀後期とされている。
当時地球を支配していた恐竜たちは、ゲッター線に対する適正がなかったため、絶滅した。
逆に適正のあった哺乳類はゲッター線により急激な進化を遂げ、後に人類へと進化したというわけだ」
「そ、そんな物が…でも、そのゲッター線と、勇者システムやバーテックスに、何の関係があるんですか?」
風の問いかけに、早乙女が感心したように頷く。
「ふむ。なかなかいい所に目を付けたな。では、次にゲッター線とバーテックスの関係について話すとしよう。
ゲッター線の存在が確認されたのは、西暦最後の年である2019年にして神世紀元年。
つまり、バーテックスが人類の前に姿を現した、あの日だ」
その言葉に、勇者部全員が息を呑んだ。
早乙女は一呼吸おいて、話を続ける。
「夏凛や風は、バーテックスは世界全土に蔓延した死のウィルスから誕生したと教わっただろうが、それは違う。
実際は、2019年に地球に襲来した、星々を喰う魔物の細胞から生み出されたものだ」
「星々を喰う魔物。奴はその名の通り数え切れぬ程の星を喰らい、数多の平行宇宙を滅ぼしてきた。
その魔物が、自身の細胞から生み出したおびただしい数のバーテックスを引き連れて、地球を襲撃したのだ。
その圧倒的な戦力差の前に、人類は絶体絶命の危機に追いやられたが…その時、奴らの前に赤き鋼鉄の巨人が立ちはだかったのだ。
我々は、ゲッター線の化身とでも言うべきこの巨人を、ゲッターエンペラーと呼んでいる。
激闘の末、ゲッターエンペラーの手によりバーテックスはそのほとんどが死滅し、星々を喰う魔物もダメージを受け、休眠期間に入った。
だが、ゲッターエンペラーもまた負傷し、現在休眠期間に入っている。これがゲッター線とバーテックスの真相だ」
想像を絶するスケールの内容に、勇者部は唖然とした表情となる。
そんな中、早乙女の説明にひとつの違和感を感じた樹が、早乙女に問いかける。
「あの、さっきおびただしい数のバーテックスと言っていましたけど、バーテックスって全部で12体なんじゃ…」
「それは半分正解だ。正確には『12体』ではなく『12種類』だ」
勇者部が言葉の意味を理解できず困惑する中、ただ一人、友奈のみがその顔に悪魔的な笑みを浮かべていた。
「どうやら、わしの言葉の意味が理解できたのは一人だけらしいな。
いいだろう。お前たちにも分かるように、ある映像を見せてやる。お前たちが壁と呼んでいる物の外側の世界だ」
早乙女が上着の白衣のポケットからリモコンを取り出し、部屋中央のモニターのスイッチを入れる。
そこに映し出された映像は、勇者部の想像を絶するものだった。
人ひとりいない廃墟の街。草木も生えぬ赤茶けた大地。
そこには鳥も、虫も、獣の姿もなく、ただひたすらに荒野のみが一面に広がっていた。
「ゲッターエンペラーの活躍により、辛くも絶滅を逃れた各国の人類は、人類が生存可能な居住用のドームを建造した。
それが壁と呼ばれている物の正体だ。現在の人類は政府によって記憶を操作され、人類が滅亡の危機に瀕している事を知るのは、ほんの一握りだ。
生き残った人類はゲッター線を分析し、それをエネルギーとする対バーテックス用の兵器を開発する事を決定した。
ゲッター線を最も有効活用する方法。それは、ゲッターエンペラーと同様に、ゲッター線を動力源とする巨大ロボットだ。
しかし、残念ながら現在のロボット工学はまだその域に達してはいない。そこでわしの先祖が開発したのが、勇者システムというわけだ。
お前たちが神樹と呼んでいる物も神などではなく、ゲッター線を収集するためのアンテナなのだ。
アンテナから収集したゲッター線によって張り巡らされたバリア。それが、結界と呼ばれている物の正体だ」
早乙女は再びリモコンのスイッチを押し、映像を上空を映し出したカメラのものへと切り替える。
寒々しい星空には、白い異形が無数に漂っていた。
そしてその異形が無数に集結し、今まで倒してきた乙女座や射手座のバーテックスを形作っている光景に、勇者部は絶句する。
「あの白い生物は、いわば幼体のバーテックスだ。ほとんどが死滅したとはいえ、その数は1万や2万どころではない。
そして見ての通り、無数の幼体が合体する事で、お前たちが戦ってきたバーテックスが誕生するというわけだ。
つまり、幼体が残っている限り、バーテックスは何度でも出現するのだ」
勇者部が沈黙する中、友奈は相変わらずふてぶてしい態度で早乙女に質問する。
「ジジイ、それで終わりって訳ではないんじゃろ?」
「さすがは結城友奈。ゲッター線適合率がもっとも高かっただけの事はあるな。
まず、先程いったように星々を喰う魔物は休眠状態にあるわけだが、どうやらその復活の時が近づいているようなのだ。
詳しい時期まではなんとも言えんが、少なくとも今年中なのは間違いないだろう。
当然ながら、その戦闘力はバーテックスなど比較にならん。
あえて例えるとするならば、アリとクジラ…いや、それ以上か」
室内が重苦しい雰囲気に包まれる中、早乙女が言葉を続ける。
「だが、希望がないわけではない。同じく休眠状態にあるゲッターエンペラーもまた、着実に復活の時は近づいておる。
ゲッターエンペラーとお前たち勇者が共闘すれば、十分に勝機はある。
星々を喰う魔物さえ倒してしまえば、残りのバーテックスなど物の数ではない」
あくまで早乙女の淡々とした説明に、東郷が感情を抑えきれなくなり、激昂して叫ぶ。
「ふ…ふざけないで下さい!そんな、いつ復活するかも分からない物が希望だなんて!
その巨人が復活するまで、私たちは戦わなくちゃいけないんですよ!?
満開して!散華して!体の機能を失いながら!!それに、もし魔物が先に復活したら…!」
「ごめんね東郷さん…本当にごめん…」
喚きたてる東郷の姿を目にした園子が、静かにつぶやく。
その目元からは、一筋の涙がこぼれ落ちていた。
「乃木…さん…?」
園子の姿に毒気を抜かれた東郷が、冷静さを取り戻し、静まり返る。
東郷は、なぜか園子の姿を見ていると心が落ち着き、それ以上怒鳴り散らす気にはなれなかった。
園子が知っているであろう自分の過去と何か関係があるのだろうか。
「博士、ここから先は、私に話させていただけませんか?」
「…いいだろう。話すがいい」
早乙女が静かに引き下がる。
これ以上自分が話すより、園子に話させた方が、勇者部を刺激しないだろうと判断したのだ。
「ありがとうございます…みんな、本当にごめんね。
本当はもっと早くみんなに伝えたかったんだけど、監視の目が厳しくて、なかなか召喚するチャンスがなくて…」
園子が申し訳なさそうに、深々と頭を下げる。
「勇者システムの散華について、もう少し詳しく説明するね。
本当はみんな聞くのも辛いと思うけど、大事な事だからしっかり聞いて。
博士が言っていたように、勇者システムはゲッター線をエネルギーとしているの。
ゲッター線は進化を促す以外にも、超高純度なエネルギーとしての性質もあるんだ。
ゲッター線そのものは人体には無害だし、勇者システム自体も普通に使う分には問題ない。
でも、満開は凝縮した高濃度のゲッター線を一気に人体に照射するから、何かしらの影響が出る。
それが散華という現象だよ。私は勇者時代に派手にやりすぎて、こんな体になっちゃたけどね…」
そこまで言い終えた園子が、東郷へと向き直る。
「ごめんね、東郷さん…わっしー。
あの時、私がもっとしっかりしていれば…」
園子に突然謝られた事に戸惑う東郷。
だが、今までの園子の言動から、その理由はある程度推察することはできる。
園子は明らかに東郷の過去を知っている。園子が謝罪したのは、散華の説明の最中。
そして、東郷の失われた記憶と、両脚の機能。そこから導き出される結論は。
「そんな…じゃあ、まさか私の脚と記憶は…!?」
「そう。わっしーは昔、私とミノさん…三ノ輪銀って子と一緒に三人で勇者として戦ってたんだよ。
そのリボンも私があげた物なんだけど…思い出してくれたかな?」
突如告げられた真実に気持ちの整理が追い付かず、愕然とする東郷。
顔をうつむかせ、その華奢な肩は小刻みに震えている。
「みんな、私こそゴメン…私が勇者部なんて作らなければ…
散華の事を知っていれば、みんなを勇者部に誘ったりしなかったのに…」
東郷の様子を見かねた風が立ち上がり、涙ながらに謝罪する。
だが、その場に風を責める者は一人もいなかった。
「お姉ちゃんがにする事ないよ。後遺症の事を知ってても、たぶん私たちは戦ってたと思うから」
「ほうじゃ!わしは元々極道じゃからのう。死んでなんぼの人生じゃあ!手足の一本や二本、どうって事ないわい」
「樹…友奈…」
笑顔でそう答える樹と友奈の言葉に、風は胸の奥が熱くなるのを感じていた。
続いて夏凛も、精一杯冷静を装いながら、赤面して立ち上がる。
「そうよ、あんたの責任じゃないわ。悪いのは…」
夏凛はそこで言葉を切り、怒気のこもった眼で早乙女と虎彦を睨みつける。
「どうした?何が言いたい?」
虎彦の言葉に、夏凛は毅然とした態度で返答する。
「早乙女博士、虎彦さん。私はもう、あなた達の指示には従いません。
私は大赦の勇者としてではなく、讃州中学として、バーテックスと戦います!」
反旗を翻した夏凛の言葉にも、早乙女は動揺する様子を見せない。
「別に構わん。わしらはバーテックスさえ倒してくれれば、それで…」
早乙女がそこまで言いかけた瞬間、勇者部全員のスマートフォンからアラームが鳴り響く。
その画面には、初めて目にする「特別警報」の文字が表示されていた。
「まさか、こんなに早く復活の時が来るとは…勇者部よ、頼んだぞ!人類の存亡はお前たちの手にかかっているのだ!」
早乙女のその言葉と同時に、勇者部の周囲に樹海が生成される。
だが、明らかに通常の樹海とは様子が違っていた。
その規模は、これまでの樹海とは比較にならぬほど広大であった。
無限に続いているのではないか、と錯覚する程の広大な樹海。
その遥か彼方から飛来する影があった。幼体のバーテックスである。
「すごい数ね…敵もここで決着を付けるつもりらしいわね」
覚悟を決める夏凛。だがその直後に目にした光景に、勇者部一同は圧倒される。
バーテックス達の背後に突如生じた、暗黒の空間。
その空間の中から姿を現したのは、超巨大という表現すら生温いほどに圧倒的な体躯を誇る異形。
その圧倒的スケールと、まるで脳が露出した赤ん坊ような異様な姿に気圧される勇者部。
「な、何よあれ…」
「あれが…星々を喰う魔物…」
「いくら何でもデカすぎでしょ…」
口々に言葉を漏らし、思わず後ずさる夏凛、樹、風。
東郷はうつむいたまま沈黙を保っている。
そんな中、友奈のみが悪魔のごとき笑みを浮かべながら敵を見据えていた。
「ようやくお出ましか。さすがに手強そうじゃのう…
そんじゃ、派手にケンカをおっぱしめるとしようぜ。のう…ラ=グースよぉ!!」
勇者部の最終決戦の火蓋が、ここに切って落とされた。
今日はここまで
次回で最終回となります
結城友奈が如く
時天空慶晃は出てこないのか…
お待たせしました
最終回、投稿はじめます
ついに姿を現した、星々を喰う魔物・ラ=グース。
勇者部はその全身から放たれる威圧感に圧倒され、委縮していた。
「どうしたお前ら、そんなに縮こまりおって!
勇者部五箇条ひとつ!核が怖くて勇者は務まらず!
あの程度の敵にビビってどうするんじゃ!
勇者部最後の大ゲンカじゃぞ!派手に決めて、有終の美を飾らんかい!!」
友奈は勇者部五箇条を口にし、勇者部に発破をかける。
その姿に風たちは戦意を取り戻し、たがいを見つめ合い、うなずき合った。
「まさか、勇者失格だと思ってたあんたに叱咤激励されるとはね…
勇者部部長として、これ以上引き下がるわけにはいかないわね!」
風の言葉を皮切りに、一斉にスマートフォンを取り出し、変身する勇者部。
だが、その中でただ一人変身していない者がいた。
園子に真実を告げられてから、ずっとうつむいたままの東郷である。
「東郷!何をしとる!敵がそこまで来とるんじゃぞ!」
「友奈ちゃん、このまま私たちが戦い続けるなんておかしいよ…
世界を救うために戦った私たちだけが傷付いて、それなのに誰からも労われず、感謝もされず…
こんなのってないよ…」
東郷は過去の戦いで記憶と脚の自由を失った恐怖、そして、この戦いで体の機能を失う恐怖に苛まれ、錯乱状態に陥っていた。
「東郷、しっかりせい!今はそんな事いっとる場合か!」
「友奈、マズイわよ!ヤツが仕掛けてくる!」
夏凛の言葉に、全員が一斉にラ=グースの方向へと顔を向ける。
勇者部の目に映ったのは、ラ=グースが巨大な口を開き、破壊光線を発射する瞬間だった。
あの光線が到達するまで、おそらく5秒とかからないだろう。回避する余裕はない。
勇者部全員のバリアを展開しても、とても防ぎきれそうもない。
勇者部員は死を覚悟し、思わずその目を固く閉じたのだった。
…しかし、何秒経っても光線の衝撃がくる気配はない。
不思議に感じた勇者部がその瞳をゆっくりと開く。
彼女たちの眼前に現れたのは、巨大な、馬鹿馬鹿しいほどに巨大な赤い掌だった。
その掌が、勇者部をラ=グースの光線から守ったのである。
その正体をいち早く察した友奈が、笑みを浮かべながら叫ぶ。
「随分遅かったのう、えぇ?ゲッターエンペラー!!」
その掌の主は、紛うことなき進化の皇帝、ゲッターエンペラーであった。
ゲッターエンペラーはゆっくりを顔を下げ、勇者部を見下ろすと、体にある3箇所のハッチを開いた。
勇者たちに搭乗を促しているのだ。
「風先輩!樹!夏凛!ゲッターエンペラーに乗るんじゃ!
パイロットのいないゲッターなど、カカシも同然じゃ!
三人はラ=グースどもの相手を頼む!わしは東郷を説得してから合流する!」
友奈とて、本当はラ=グースと戦いたくて仕方がなかった。
だが、この場で東郷を説得できるのは、自分しかいないのだ。
「分かったわ友奈!あいつらの相手は任せて!」
「友奈さん!私、友奈さんが東郷先輩を絶対連れてきてくれるって、信じてますから!」
「友奈!東郷!あんた達の分はしっかり残しておいてあげるから、早く来なさいよ!」
口々にそう言うと、夏凛がイーグル号に、樹がジャガー号に、風がベアー号に搭乗した。
そして、三人を乗せたゲッターエンペラーは、ラ=グースへ向けて高速で突き進んでいったのだった。
ゲッターエンペラーの背中を見送った友奈は、東郷の両肩にそっと手を乗せ、静かに語りかける。
「落ち着くんじゃ東郷。この戦いが終われば、全てが終わる。
もう勇者として戦い続ける必要もないんじゃ」
「でも、仮に勝ったとしても、体の機能を失うんだよ?
それだけじゃない、大切な気持ちや思い出も、全部忘れるかも知れないんだよ?
友奈ちゃんや皆のことだって忘れてしまう…一番大切な物をなくしてしまうくらいなら…」
「忘れたりせん!わしがずっと傍にいてやる!だから絶対に忘れさせん!」
「嘘!忘れない…私たちもそう思ってた!でも…」
東郷が涙を流しながら語る。
「怖い…きっと友奈ちゃんも私のことを忘れてしまう」
「忘れん!」
「嘘!」
「本当じゃ!」
「うs…!?」
東郷の言葉は、突如何かによって唇をふさがれた事で途切れた。
東郷の唇をふさいだ物。その正体は、友奈の唇だった。
二人の間に、甘く、濃厚な沈黙が訪れる。
友奈はゆっくりと唇を離すと、再び東郷を見据え、語り始めた。
「東郷。わしは口下手じゃから、お前が納得できるように説得する事などできん。
じゃがのう、気合だけなら誰にも負けんつもりじゃ。
どうじゃ?そんなわしの魂を込めたキスでも、まだ納得してもらえんか?」
友奈の言葉に東郷は赤面し、身悶えしながら答える。
「ううん、そ、そんな事ない…友奈ちゃんの気持ち、しっかり伝わったよ…」
「ほうか…なら、一緒に戦ってくれるか?」
「うん!でも友奈ちゃん、さっき口下手だって言ってたけど、喋るのだけじゃなくてキスの方もまだまだだね」
東郷がいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、友奈をからかう。
友奈はそんな東郷の言葉を、顔を真っ赤に染めながら否定する。
「あ…アホンダラ!今はそないな事いうとる場合じゃ…」
友奈は体の異変に気付き、言葉を止めた。
自身の体が桃色の光に包まれているのだ。
体の異変は友奈だけではない。東郷の体もまた、同様に青い光に包まれていた。
「友奈ちゃん、これって…」
「ああ、ゲッター線じゃ!」
高濃度のゲッター線が二人の体を包みこみ、桃色と青の輝きは増してゆく。
そして二つの光は螺旋を描きながら混ざり合い、ひとつの巨大な姿を形作ってゆく。
桃色と青の輝きが収束した時、そこにはラ=グースやゲッターエンペラーと同等にまで巨大化した友奈が立っていた。
友奈は驚愕し、自身の体をすみずみまで観察する。
「わ、わし!?これがわしか!?ゲッター線の影響で巨大化したんか!!」
『友奈ちゃん!!』
「東郷!どこじゃ?どこにおる!?」
友奈はどこからか東郷の声を聞き取り、周囲を見渡すが、どこにも東郷の姿はない。
すると、友奈はある事に気付いた。東郷の声は周囲ではなく、自身の体の内側から聞こえているのだ。
『友奈ちゃん、私はここだよ。友奈ちゃんの中にいるんだよ』
東郷はゲッター線によって精神体となり、友奈と融合したのである。
東郷の答えに、友奈は呆れたように額をおさえながらため息をついてつぶやいた。
「まったく、ゲッター線はなんでもアリじゃな…」
『でも、私は嬉しいよ。こうして友奈ちゃんと、文字通りひとつになって戦えるんだから。
これで負ける気なんてしない。星々を喰う魔物なんて、怖くもなんともない!』
「わしも同感じゃ!行くぞ東郷!これが最後のケンカじゃあ!!」
『うん!』
東郷とひとつになった友奈は、全ての戦いに終止符を打つため、ラ=グースの元へと駆け抜けていった。
「遅くなってすまんのう!結城友奈、東郷美森、ただいま到着じゃ!」
戦いの場へ駆けつけるなり、ゲッターエンペラーへと声を掛ける友奈。
ゲッターエンペラーと比肩するまでに巨大化した友奈の姿に、当然のごとく風たちは驚愕する。
3人を代表し、夏凛がコクピット内の拡声器を用い、友奈に声を掛ける。
『友奈ぁ!?あんた、友奈なの!?そのカッコはどうしたの!?』
「説明は後じゃ!東郷もこの中におる!とにかく奴らをぶっ倒すぞ!」
『ま、まぁいいわ。早いとこ、この戦いを終わらせるわよ!』
結城友奈とゲッターエンペラー。2体の勇者がラ=グース率いるバーテックス軍の前へと立ちはだかった。
一方のラ=グースは、手を差し出し幼体のバーテックスたちへと何かの指示を出す。
すると全ての幼体が集結を開始し、次第にひとつの異形へと姿を変えてゆく。
ゲッター線と高レベルで同化している友奈には、その龍のごとき姿に見覚えがあった。
その姿は、かつてゲッターロボGと共に百鬼帝国と戦ったアトランティス軍の最終兵器、ウザーラそのものであった。
唯一異なるのはそのサイズで、ラ=グースやゲッターエンペラーと並んでも全く見劣りしないほどに巨大化している。
全てのバーテックスの合体が完了し、誕生したウザーラは雷鳴のごとき雄叫びを上げたのち、ゲッターエンペラーを睨みつけた。
その姿に、友奈は満足げな笑みを浮かべる。
「ずいぶんと男前になったのう、バーッテクス!
今までクラゲみてぇにプカプカ浮かんどるだけだった、やる気のなさが嘘のようじゃ!
おのれとも思う存分やりあってみたいもんじゃが…残念だが遊んでるヒマはないんじゃ!!」
友奈はウザーラを無視し、ラ=グースへと向き直る。
「夏凛たちはその蛇野郎を頼む!わしらはラ=グースを殺る!!」
『任せといて!』
ゲッターエンペラーとウザーラ、そして友奈とラ=グースがそれぞれ対峙した。
ラ=グースと対峙した友奈が、静かに、ゆっくりと口を開いた。
「いいか、ラ=グース…わしだって自分の日本国(シマウチ)で大量の人間を殺させるわけにはいかねえ!!
それだけはさせねぇ!!命を張ってでもさせねぇ…なぜなら!!
それが日本国(シマ)をあずかる首領(ドン)のつとめだからじゃあ!!」
(友奈ちゃん、かっこいい…!)
東郷は、友奈の漢気溢れる雄姿に感激し、惚れ直す。
だが、当のラ=グースは無反応で口から一つの球体を取り出した。
ラ=グースと比較すれば、それはゴマ粒よりもさらに小さいが、どうやら地球の数倍の体積のある惑星のようだ。
そして、その惑星を掌の上で爆発させ、跡形もなく消滅させた。
その直後、周囲に不気味な声が響き渡った。
「ふふふ…どうだ人間?私の力を思い知ったか?」
『あいつ、喋れたの!?』
声の主はラ=グースその人であった。驚愕する東郷に対し、友奈は微動だにしない。
そんな二人へと、ラ=グースは言葉を続ける。
「私の手にかかれば、惑星のひとつやふたつ破壊する事など造作もない。
それどころか宇宙でさえ、私にとっては積み上げるのも壊すのも自由な積み木のような物だ。
きさまら人類など、その積み木の中の、さらにちっぽけな惑星にすむウジ虫だ。
これで分かったか?きさまら低能の無知共が、いくら私に向かっても、私を倒せはしない。
この私に、誰も手を出せない。神だろうと仏だろうとな。
いずれは時天空をも倒し、全ての宇宙を虚無と化すのだ」
尊大な態度で自分の力を誇示するラ=グース。
かつてのゲッターエンペラーとの戦いでは、空間支配能力はゲッターエンペラーの同能力によって相殺され、意味をなさなかった。
そのゲッターエンペラーの加護を最大限に受けている友奈対して使用しても、おそらく結果は同じだろう。
となれば、あとは単純な力と力のぶつかり合いだが、ラ=グースには絶対の自信があった。
ゲッターエンペラーでさえ倒しきれなかった自分を、ゲッターの加護を受けたとはいえ、
人類程度が勝てるはずがないと踏んだのだ。
だが、その脅しは友奈をただ逆上させただけであった。
友奈は眉間にシワを寄せ、吐き捨てるようにつぶやく。
「クソガキが…」
「ん?今、なんと言った?」
ラ=グースはあくまで外見が赤ん坊に似ているだけであり、実際は億年単位で生きているのだが、そんな事は友奈には関係ない。
左腕の義手をマシンガンに変形させ、友奈は叫ぶ。
「 ク ソ ガ キ ャ ア !! 」
BGM:HEATS(歌・影山ヒロノブ)
「うおりゃあああああああ!!」
雄叫びを上げながらマシンガンを乱射する友奈。
さらに背後には満開時の東郷の武装であるビーム砲を無数に展開し、一斉射撃を行う。
ラ=グースはそれらの射撃を回避し、回避が間に合わない分は指先から光線を発射して迎撃する。
だが、あまりの激しい攻撃に、防戦一方である。
「ま、まだ分からぬのか人間!私の手にかかれば、地球を破壊する事など容易いのだぞ!」
ラ=グースはあくまで脅しをかけ、友奈の精神的動揺をさそい、隙を作ろうとする。
しかし、当然のごとく友奈にそんな脅しは通用しない。
「まだ言うか、おのれは~!!吹っ飛ばせるなら、吹っ飛ばしてみろ~!!」
次の瞬間、友奈の口から飛び出した発言は、ラ=グースの予想をはるかに上回るものだった。
「わしは超新星爆発が見たかったんじゃ!だのに、あないな線香花火でごまかしおって!」
「ゲッ!?」
動揺するラ=グースを気にする様子もなく、友奈は叫び続ける。
「ハッタリばかりかませおって!やるなら、はようやらんかい!!」
「くるってる…」
ラ=グースの表情に、次第に焦りの色が見え始める。
「きさまのような肝の小さい男は自分で死ねん。
わしが殺しちゃるわい~~!!」
この、あまりに常軌を逸した友奈の言動に、ラ=グースは完全に恐怖していた。
2、3歩後ずさりながら、悲鳴に近い絶叫を上げる。
「あ… あ い つ は く る っ て る ! !」
(友奈ちゃん、すごい…あんな怪物を圧倒するなんて…)
東郷は心の中で、友奈の度胸に感嘆していた。
それと同時に、これほど狂人じみた友奈と戦わねばならないラ=グースに、自業自得とはいえわずかに同情したのだった。
「喰らえや~~~!!」
友奈は右脚が変形させ、ロケットランチャーをラ=グースの顔面へと発射する。
着弾した事により、爆炎と黒煙によってラ=グースの視界が遮られ、その動きが一瞬鈍る。
友奈はその隙を見逃さず、猛ダッシュしながら左腕のマシンガンを乱射し、そのまま左腕を突き出す。
「どりゃあああ!勇者パンチじゃああああ!!」
弾丸と勇者パンチが、同時にラ=グースの顔面に炸裂する。
パンチの衝撃がマシンガンの残弾に伝わり、誘爆し、友奈の左腕は粉々に爆発四散した。
それと同時に、ラ=グースの右目を含めた頭部の一部も光の粒子を発しながら吹き飛ぶ。
「ぐあああ!!」
苦痛の悲鳴を上げるラ=グース。
友奈は右脚のロケットランチャーを展開し、次の攻撃体勢へと移る。
「続けて、勇者キックじゃあああ!!」
ロケット弾を発射しながら、ラ=グースの腹部へとひざ蹴りを放つ友奈。
またしても着弾の爆発と、キックの衝撃により残弾が誘爆し、右脚が破損する。
ラ=グースはその衝撃で、腹部から大量の血液を吹き出しながら仰向けに倒れる。
右脚は辛うじて原型はとどめているものの、義足としてもロケットランチャーとしても機能しないのは明らかだった。
立っているのがやっとである。
「ちっ、しぶとい野郎じゃのう!」
左腕と右脚を失うという、リスクを負ったイチかバチかの攻撃にも耐え抜いたラ=グース。
友奈は戦意こそ失っていないものの、少々驚きを感じていた。
一方のラ=グースは、よろめきながら立ち上がった。
そして、やや冷静さを取り戻し、友奈に言葉を投げかける。
「ど、どうした人間?負傷したとはいえ、私はまだまだ戦えるぞ。
それに対し、きさまは左腕と右脚が使えん。そんな状態でこの私に勝てると…」
『うおりゃああああ!ゲッタァァァァァァァァ!スウィィィィィィィング!』
「ぬおおっ!?」
ラ=グースの言葉は、背後から巨大な物体が激突してきた事で遮られた。
物体の正体は、ゲッターエンペラーにジャイアントスイングで投げ飛ばされたウザーラである。
このウザーラは、あくまでバーテックスたちが形態を模倣したものであり、能力までコピーしたわけではない。
そんな紛い物がいくら巨大化したところで、ゲッターエンペラーに太刀打ちできるはずがなかった。
「くっ、この…」
うつ伏せに倒れたラ=グースはなんとか立ち上がろうともがくが、ウザーラの巨体が邪魔をして思うように体が動かない。
夏凜はその隙を見逃さず、ゲッターエンペラーの右腕を突き出す。
『ゲッターバインドッ!』
樹がそう叫ぶと同時に、ゲッターエンペラーの右手首の周辺に無数の百合の花が出現し、そこからワイヤーが射出される。
ワイヤーはラ=グースとウザーラをまとめて拘束し、その動きを封じた。
(う、動けん!)
『樹、ナイス!さぁ、大技いくわよ!』
ゲッターエンペラーが身体の右側に両腕を構える。その両掌には、次第に膨大なゲッター線が集まり、光球を形作ってゆく。
その光景を目の当たりにしたラ=グースは、思わず短い悲鳴を漏らした。
「うっ!」
『『『ストナァァァァァァァァァァァ!サンシャイイイイイイイイイインッ!!』』』
三人のパイロットが叫ぶと同時に、破壊の光球が発射された。
光球はラ=グースとウザーラに炸裂し、大爆発を巻き起こす。
ウザーラは光の粒子となり、完全に消滅した。
一方のラ=グースは健在ではあるが、左半身に多大なダメージを負っており、特に左腕は完全に消し飛んでいた。
『友奈!これを使って!』
夏凜はゲッターエンペラーの肩から、その身の丈に匹敵するほどの巨大な戦斧
ゲッタートマホークを出現させ、それを友奈に投げ渡す。
友奈はそれを右腕で受け止めると、トマホークをラ=グースに向けて突きつけ、叫んだ。
「感謝するぜ夏凜!さぁ、覚悟せえよラ=グース!うおおおお!」
友奈は左脚を軸にして、コマのように回転しながらトマホークを振り回す。
「勇者トマホーク!ブーーーーーメランじゃあああ!!」
そして、ハンマー投げの要領でトマホークをラ=グースに向けて投げつけた。
トマホークはラ=グースの腹部の傷口に突き刺さり、さらに傷口を広げる。
ラ=グースは右腕一本でなんとか引き抜こうと試みるが、これまでのダメージが蓄積し、腕に力が入らない。
『友奈ちゃん、チャンスだよ!』
「おおよ!くたばれラ=グース!」
東郷の声に応え、友奈が右腕を握りしめる。
その右腕には、これまで出番のなかった牛鬼が憑依し、力を与える。
その光景に恐怖しrたラ=グースが、ぼそりと呟く。
「や、やめろ…」
「これがわしの…」
「来るな…」
友奈が左脚のみとは思えないスピードて接近してくる。
「真・極道・勇者…」
友奈が右腕を弓のように引き絞る。
ラ=グースは恥も外聞もなく、恐怖一色に染まった顔で悲鳴を上げる。
「来るなああああああ!!」
「パンチじゃああああああ!!!」
友奈の右ストレートがラ=グースの顔面にクリーンヒットした。
ラ=グースはその箇所の起点に全身に亀裂か入り、大量の光の粒子をバラ撒きながら吹き飛んでゆく。
友奈は右腕でガッツポーズをとり、勇者部五箇条を口にする。
「勇者部五箇条ひとつ!ケンカは先手必勝じゃ!攻撃し続ければ、どんな奴でもいつかは、くたばる!!」
友奈のその言葉通り、ラ=グースは全身の亀裂からおびただしい量の光の粒子を放出しており、
その体は半分以上消えかかっている。
もはや、完全に消滅するのも時間の問題だった。
ラ=グースは最後の気力を振り絞り、友奈に問いかける。
「な、なぜだ…なぜ、たかが人類ごときにこの私が…」
「なぜじゃと!決まっとるじゃろうが!
わしは結城組・二代目組長にして最強の極道!そして讃州中学勇者部の、結城友奈じゃあ!
おのれが負けた理由なんぞ、それだけじゃい!!」
ラ=グースは呆れたような、それでいてどこか満足したような笑みを浮かべる。
「そうか…よく分からんが、なぜか納得できた気がする。
さらばだ人間…いや、結城友奈。最後にお前と戦えて、満足だったぞ…」
ラ=グースはそう言い残し、とうとう完全に消滅したのだった。
それと同時に友奈と東郷の一体化も解除され、通常の体躯に戻っていた。
「やったね、友奈ちゃん!」
「ああ、わしらの完全勝利じゃ」
互いに勝利を噛みしめる友奈と東郷。
その背後からは、ゲッターエンペラーから降りた風たちが駆け寄ってきていた。
「やったじゃない、友奈!こりゃ、次期部長は友奈に決定かな?」
「当然じゃ!わし以外に誰がおる!」
風が笑顔で語り掛ける。
「よかった、二人とも無事で、本当に…」
「ほれ、泣くな樹。せっかくのいい女が台無しじゃぞ」
樹が涙ながらに語り掛ける。
「まぁ、私は最初から友奈が勝つだろうと思ってたから、全然心配なんんてしてなかったけどね?」
「まったく、相変わらず素直じゃないのう、夏凜は」
夏凜が赤面しながら語り掛ける。
こうして、人類とバーテックスの全面戦争は、勇者部の活躍により、終止符が打たれたのだった。
バーテックスとの最終決戦から1ヶ月後、友奈たちは平和な日常を取り戻していた。
全てのバーテックスとラ=グースを殲滅し、役目を終えたゲッターエンペラーは、新たな使命のためにこの平行宇宙を去っていった。
役目から解放された勇者たちは、勇者としての能力を失い、それと同時にゲッター線の後遺症からも解放され、
東郷の両脚と記憶、左耳の張力も回復していた。
そんな平和な讃州中学の昼下り、友奈は東郷と中庭のベンチで談笑に興じていた。
「友奈ちゃん、新しい義手と義足の調子はどう?」
「バッチリじゃ!東郷も、体がよくなって何よりじゃわい!」
友奈が豪快な笑い声を上げた。
「実はのう、東郷。ゲッターエンペラーがこの世界を離れる時、一緒について来ないかと誘われたんじゃ」
「えっ!そうだったの?」
「ああ、なんでも時天空とかいう奴とケンカしに行ったそうじゃ。
面白そうじゃからわしも行こうかと一瞬悩んだんじゃが…やめる事にしたよ」
「ど、どうして?」
ケンカを何よりも優先する友奈の意外な言葉に、東郷は疑問を投げかける。
友奈はそんな東郷の質問に、呆れたように笑いながら答える。
「なんでって…冷たい奴じゃのう、東郷は。
その時、ずっと傍にいると約束したじゃろうが。いくらわしでも、マブダチとの約束破ってケンカなんてせんわい」
友奈の答えに、東郷は感極まり、友奈の右腕に抱きつきながら叫ぶ。
「ありがとう友奈ちゃん!大好き!」
「な、なにやっとんじゃ!離れんかい!」
友奈は赤面しながら暴れるが、東郷は一向に離れようとしない。
「もう、友奈ちゃんったら。女の子同士でなに恥ずかしがってるの?」
「アホンダラ!女同士じゃから、問題なんじゃ!」
「え~?私たち、もうキスまでした仲じゃない。
今さら恥ずかしがる事ないよ」
「あ、あの時は!あれしか方法がなかったからじゃろうが!」
そんな二人の周りへと、いつもの間にか数人が集まっていた。
勇者部の面々である。
「あんたら、本っ当に仲いいわね」
「お二人さん、昼間っからお熱いですね~~」
夏凜と風が面白がってはやしたてる。
「友奈さん、東郷さん、私、二人の事応援してますから!」
「か、勘違いするな樹!そんなんじゃないわい!」
友奈は必死に否定するが、樹は微笑ましい物を見るような笑みを浮かべるのみだった。
「あ~あ、でも私も見たかったなぁ。わっしーやゆーゆの大活躍」
そんな勇者部の中には、同様に後遺症から回復した園子の姿もあった。
勇者の役目から解放された彼女は、讃州中学に転校してきたのである。
そんな園子の何気ない一言に、友奈が反応し、立ち上がる。
「そうじゃ園子!そんなに見たかったら、見せてやるぞ!」
「え?どうやって?」
「文化祭の演劇じゃ!アステカイザーショーは中止して、あの戦いを劇にするんじゃ!」
「あ、あのスケールを劇に!?予算足りるかなぁ…」
風の心配をよそに、友奈は堂々と宣言する。
「無理なもんかい!なせば大抵なんとかなるんじゃ!
さぁ、気合いれるぞ!」
友奈は高々と握りこぶしを振り上げながら叫んだ。
ドームのバリアや勇者システムに使用されていたゲッター線が、環境回復に使われるようになった事で、
ドーム外の環境も徐々に回復しつつあるこの世界。
新たな一歩を踏み出し始めたこの世界で、勇者部もまた、新たなステージへと踏み出したのである。
巻
最後の最後で誤字やっちゃったよ…
巻じゃなくて完だよ…
とにかく、最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
次は時天空と戦わないと。
極道兵器かと思ったらいつのまにかスーパー石川賢大戦になってた件。乙
つぎは歴代勇者シリーズのロボたちとともに壮絶なブレイブサーガですね
このSSまとめへのコメント
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